• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1302685
審判番号 不服2014-10902  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-10 
確定日 2015-07-02 
事件の表示 特願2012- 89512「シリコン系薄膜光電変換装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 9日出願公開、特開2012-151506〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成18年9月29日(優先権主張平成17年10月3日)を国際出願日とする特願2007-538747号(以下「原出願」という。)の一部を平成24年4月10日に新たな特許出願したものであって、平成25年7月11日付けで拒絶理由が通知され、同年9月17日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、平成26年3月3日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して同年6月10日に審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成26年6月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成6月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲
平成26年6月10日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲を以下のとおり補正することを含むものである(下線部は請求人が付与した。)。
「 【請求項1】
基板上に形成された透明導電膜上に、第1のp型半導体層、i型非晶質シリコン系光電変換層、第1のn型半導体層、第2のp型半導体層、i型微結晶シリコン系光電変換層および第2のn型半導体層を、同一のプラズマCVD成膜室内で、順次連続して形成することにより、二重pin構造積層体を形成し、
前記第1のp型半導体層、前記i型非晶質シリコン系光電変換層および前記第1のn型半導体層は、前記プラズマCVD成膜室における成膜圧力が200Pa以上3000Pa以下および電極単位面積当たりの電力密度が0.01W/cm^(2)以上0.3W/cm^(2)以下で形成されることを特徴とするシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲は、平成25年9月17日付け手続補正の特許請求の範囲の請求項1により、下記のとおりのものとなっていた。
「 【請求項1】
基板上に形成された透明導電膜上に、第1のp型半導体層、i型非晶質シリコン系光電変換層、第1のn型半導体層、第2のp型半導体層、i型微結晶シリコン系光電変換層および第2のn型半導体層を、同一のプラズマCVD成膜室内で、順次形成して二重pin構造積層体を形成し、
前記第1のp型半導体層、前記i型非晶質シリコン系光電変換層および前記第1のn型半導体層は、前記プラズマCVD成膜室における成膜圧力が200Pa以上3000Pa以下および電極単位面積当たりの電力密度が0.01W/cm^(2)以上0.3W/cm^(2)以下で形成されることを特徴とするシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法。」

2 本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1の「順次形成して二重pin構造積層体を形成し」を「順次連続して形成することにより、二重pin構造積層体を形成し」と限定するものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件違反
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記1において、補正後の特許請求の範囲の請求項1として記載したとおりのもの(上記「第2 1(2)」参照。)と認める。

(2)刊行物、各刊行物の記載事項及び引用発明の認定
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2002-280584号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審でした。)。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は薄膜光電変換装置に関し、特に、ハイブリッド型薄膜光電変換装置とその製造方法の改善に関するものである。」
【0002】
【従来の技術】従来から非晶質シリコン薄膜をプラズマCVDで形成する場合にはシランおよび適宜の希釈水素と133Pa(1Torr)以下のガス圧とが採用されていたが、特開平11-330520においては、50倍以上の大きな水素希釈率と667Pa(5Torr)以上の高いガス圧を利用したプラズマCVDによって、比較的低温で良質の結晶質シリコン薄膜を迅速に形成し得ることが述べられている。
【0003】そして近年では、薄膜光電変換装置の典型例である薄膜太陽電池も多様化し、従来の非晶質薄膜太陽電池の他に結晶質薄膜太陽電池も開発され、これらを積層したハイブリッド型薄膜太陽電池も実用化されつつある。なお、本願明細書において、「結晶質」の用語は、薄膜光電変換装置の技術分野において通常用いられているように部分的に非晶質を含むものをも意味し、少なくとも50%を超える体積結晶化分率を有するものを意味するものとする。」

(イ)「【0011】
【発明が解決しようとする課題】以上述べられたように、単一の非晶質ユニットのみを含む非晶質薄膜光電変換装置に比べて、ハイブリッド型薄膜光電変換装置は高い光電変換効率を有し得ることが明らかである。しかし、そのようなハイブリッド型薄膜光電変換装置においても、更なる性能改善が望まれている。
【0012】また、ハイブリッド型薄膜光電変換装置において、非晶質ユニットを形成する際に最適なプラズマCVD条件と結晶質ユニットを形成するのに最適なプラズマCVD条件とは互いに異なるので、互いに別々のプラズマCVD装置でそれぞれの最適条件のもとで形成することが好ましい。また、結晶質ユニットは非晶質ユニットに比べて長い形成時間を要するので、単一の製造ラインで形成された非晶質ユニット上に、結晶質ユニットを複数の製造ラインで迅速に形成することが望まれる場合もある。
【0013】しかし、たとえば基板上に非晶質ユニットを形成した後に、その基板をプラズマCVD装置から一旦大気中に取出して他のプラズマCVD装置に移して結晶質ユニットをさらに形成した場合、得られるハイブリッド型薄膜光電変換装置の変換特性は基板を大気中に取出すことなく両ユニットを連続的に形成した場合に比べて低下するという事実を本発明者は経験している。」

(ウ)「【0020】(比較例1)比較例1として、図1に示されているようなハイブリッド型薄膜太陽電池が作製された。まず、ガラス基板1上に、酸化錫の透明電極層2が熱CVDで形成された。その後、基板1はプラズマCVD装置内に導入され、基板温度は200℃に設定された。
【0021】そして、非晶質光電変換ユニット3に含まれる厚さ15nmの非晶質p型シリコンカーバイド層3p、厚さ250nmのノンドープ非晶質i型シリコン光電変換層3i、および厚さ15nmのn型シリコン層3nが、プラズマCVDによって順次に堆積された。
【0022】その際に、n型シリコン層3nのプラズマCVD条件において、反応ガス流量として、シランが20sccm、水素が1700sccm、そして5000ppmに水素希釈されたホスフィンが100sccmに設定された。また、反応ガス圧は333Pa(2.5Torr)に設定され、プラズマ励起用高周波電力が100mW/cm^(2)の密度で印加された。
【0023】次に、結晶質光電変換ユニット4に含まれる厚さ12nmのp型シリコン層4p、厚さ2.0μmの結晶質i型シリコン光電変換層4i、および厚さ15nmのn型シリコン層4nが、プラズマCVDによって順次に堆積された。
【0024】その際に、p型シリコン層4pのプラズマCVD条件において、反応ガス流量として、シランが20sccm、水素が1700sccm、そして5000ppmに水素希釈されたジボランが75sccmに設定された。また、反応ガス圧は333Paに設定され、プラズマ励起用高周波電力が100mW/cm^(2)の密度で印加された。
【0025】すなわち、非晶質光電変換ユニット3のn型シリコン層3nとその上の結晶質光電変換ユニット4のp型シリコン層4pとは、同じ反応ガス圧と同じ水素希釈率によるプラズマCVDで堆積された。
【0026】結晶質光電変換ユニット4が形成された後には、裏面電極層5として、厚さ90nmの酸化亜鉛膜5aと厚さ240nmの銀膜がスパッタリングによって順次に堆積された。
【0027】以上のようにして得られた比較例1のハイブリッド型薄膜太陽電池に関して、ソーラシミュレータを用いてAM1.5に近いスペクトル分布を有する擬似太陽光を100mW/cm^(2)のエネルギ密度で照射して出力特性を測定したところ、開放端電圧が1.32V、短絡電流密度が11.50mA/cm^(2)、曲線因子が71.5%、そして変換効率が10.85%であった。
【0028】(実施例1)実施例1においても、比較例1の場合と同様にして図1に示されているようなハイブリッド型薄膜太陽電池が作製された。ただし、実施例1は、結晶質光電変換ユニット4のp型シリコン層4pを堆積する際に希釈水素流量が4500sccmに高められるとともに反応ガス圧が667Pa(5Torr)に高められたことのみにおいて比較例1と異なっていた。
【0029】こうして得られた実施例1のハイブリッド型薄膜太陽電池に関して、比較例1の場合と同一の条件で擬似太陽光を照射して出力特性を測定したところ、開放端電圧が1.36V、短絡電流密度が11.61mA/cm^(2)、曲線因子が73.0%、そして変換効率が11.53%であった。
【0030】以上の比較例1と実施例1との比較から、実施例1のハイブリッド型薄膜太陽電池は比較例1に比べて明らかに改善された出力特性を有していることがわかる。この理由としては、以下のことが考えられる。
【0031】一般に、n型シリコン層とp型シリコン層を同一の反応ガス圧と同一のシランに対する水素希釈率とのもとでプラズマCVDによって堆積させた場合、p型シリコン層はn型シリコン層に比べて結晶化しにくく、その体積結晶化分率が低くなる。このような状況のもとにおいて、比較例1に比べて、実施例1では結晶質光電変換ユニット4のp型シリコン層4pを堆積する際に水素希釈率が2倍以上に高められるとともに反応ガス圧も2倍に高められている。したがって、比較例1に比べて、実施例1では結晶質光電変換ユニット4のp型シリコン層4pにおける体積結晶化分率が向上していると考えられる。そして、実施例1では体積結晶化分率の向上したp型シリコン層4pを下地層としてその上に良質の結晶質i型シリコン光電変換層4iが形成され、ハイブリッド型薄膜太陽電池の性能が改善されたものと考えられる。」

(エ)図1


(オ)上記(ア)ないし(エ)より、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガラス基板1上に、酸化錫の透明電極層2が熱CVDで形成され、その後、基板1はプラズマCVD装置内に導入され、基板温度は200℃に設定され、そして、非晶質光電変換ユニット3に含まれる厚さ15nmの非晶質p型シリコンカーバイド層3p、厚さ250nmのノンドープ非晶質i型シリコン光電変換層3i、および厚さ15nmのn型シリコン層3nが、プラズマCVDによって順次に堆積され、
前記n型シリコン層3nのプラズマCVD条件において、反応ガス流量として、シランが20sccm、水素が1700sccm、そして5000ppmに水素希釈されたホスフィンが100sccmに設定され、反応ガス圧は333Paに設定され、プラズマ励起用高周波電力が100mW/cm^(2)の密度で印加され、次に、結晶質光電変換ユニット4に含まれる厚さ12nmのp型シリコン層4p、厚さ2.0μmの結晶質i型シリコン光電変換層4i、および厚さ15nmのn型シリコン層4nが、プラズマCVDによって順次に堆積され、
前記p型シリコン層4pのプラズマCVD条件において、反応ガス流量として、シランが20sccm、水素が4500sccm、そして5000ppmに水素希釈されたジボランが75sccmに設定され、反応ガス圧は667Paに設定され、プラズマ励起用高周波電力が100mW/cm^(2)の密度で印加された、ハイブリッド型薄膜光電変換装置の製造方法。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2005-123466号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある(下線は当審でした。)。

(ア)「【0013】
本発明のシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法は、次工程において予定されているpin層の形成時における、n型残留不純物による影響を除去する工程を有することを特徴とする。かかる工程により、シングルチャンバ方式で光電変換装置を製造しても、n型残留不純物による影響を除去することができ、p型半導体層およびi型光電変換層中へのn型不純物原子の混入を大幅に抑制できる。このため、良好な品質および性能を有するpin層を繰返し形成できるようになり、シングルチャンバ方式で製造できるため、インライン方式やマルチチャンバ方式よりも設備を簡略化し、低コスト化を図ることができる。」

(イ)「【0033】
本実施例では、図1のフローチャートに示す工程に従い、シリコン系光電変換装置を製造した。光電変換装置を構成する各pin層は、RFプラズマCVD法により以下の条件で、同一の成膜室において形成した。成膜ガスにはシランと水素とを用い、さらにドーピングガスとしてp型シリコン層形成時にはジボランをシランに対して0.5原子%、n型シリコン層形成時にはホスフィンをシランに対して0.3原子%加えた。また、p型シリコン層の形成時には、基板の下地温度を200℃とし、シランガスと水素ガスとの流量比を1:150とした。一方、i型光電変換層の形成時には、基板の下地温度を200℃、シランガスと水素ガスとの流量比を1:70とした。一方、n型シリコン層の形成時には、基板の下地温度を200℃とし、シランガスと水素ガスとの流量比を1:50とした。
【0034】
このようにして作製したシリコン系薄膜光電変換装置に、擬似太陽光シミュレータによりAM1.5、100mW/cm^(2)を照射したときの光電変換効率は8.3%であった。続いて、この基板を搬出した後の成膜室に、エッチングガスと希釈ガスに、濃度20容積%で3フッ化窒素とアルゴンガスを導入し、67Paの圧力で成膜室内のエッチングを行なった結果、10nm/s以上のエッチング速度が得られ、n層と、厚さ50nmのi層がエッチングされた。その後、つぎの基板を成膜室に搬入し、1回目のpin形成と同様に、ボロンドープのp型シリコン層を厚さ10nm、ノンドープのi型微結晶シリコン光電変換層を厚さ3μm、さらに、リンドープのn型シリコン層を20nmの厚さで、それぞれRFプラズマCVD法により形成した。これにより、pin接合の薄膜シリコン光電変換装置が得られた。
【0035】
光電変換装置におけるpinの各シリコン層は、RFプラズマCVD法により同一の成膜室にて形成した。原料ガスにはシランと水素とを用い、さらにドーピングガスとしてp型半導体層の形成時には、ジボランをシランに対して0.5原子%、n型半導体層形成時にはホスフィンをシランに対して0.3原子%加えた。また、p型半導体層の形成時には、基板の下地温度を200℃とし、シランガスと水素ガスとの流量比を1:150とした。一方、i型光電変換層の形成時には、基板の下地温度を200℃とし、シランガスと水素ガスとの流量比を1:70とした。一方、n型半導体層の形成時には、基板の下地温度を200℃とし、シランガスと水素ガスとの流量比を1:50とした。さらに、裏面電極部として、ZnOからなる導電膜を厚さ50nm、Agからなる金属電極を厚さ300nm、それぞれスパッタ法により形成した。」

(ウ)「【0039】
実施例3
非晶質シリコン系光電変換層を含む光電変換装置に、実施例1と同様の方法で形成した第1回目の微結晶シリコン系光電変換層を含む光電変換装置を積層し、図5に示す構成の積層型光電変換装置を得た。得られた積層型光電変換装置について、実施例1と同様に、光電変換効率を測定した結果、12.5%であった。その後、実施例1と同様の方法で、n型残留不純物を除去するクリーニングプロセスを経た後、第2回目の微結晶シリコン系光電変換層を含む光電変換装置を得、得られた光電変換装置を、非晶質シリコン系光電変換層を含む光電変換装置に積層し、図5に示すような、積層型光電変換装置を得た。得られた積層型光電変換装置について、実施例1と同様に、光電変換効率を測定した結果、12.4%であり、第1回目の微結晶シリコン系光電変換層を含む光電変換装置を積層した積層型光電変換装置とほぼ同等の特性であった。その後、実施例1と同様に、成長室内のn型残留不純物による影響を除去しながら、同一の成長室内で繰り返しpin層を形成した。図4に、成膜回数と光電変換効率との関係を示す。図4からも明らかなとおり、成膜回数が10回目になっても、顕著な特性の変化は現れなかった。また、歩留まりは、いずれの成膜回数においても100%であり、良好であった。」

(エ)上記(ア)ないし(ウ)より、引用文献2には以下の事項が記載されていると認められる(以下「引用文献2に記載された事項」という。)。
「シングルチャンバ方式で製造するシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法。」

ウ 原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2000-252495号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある(下線は当審でした。)。

(ア)「【0014】本願発明者らは、同一反応室内でp、i、n層の順に形成し、かつp型半導体層形成時における反応室内の圧力を5Torr以上と高くすることによって、良好な品質および性能を有する光電変換装置の得られることを見出した。以下、そのことを説明する。
【0015】p、i、n層の順に成膜することにより、n、i、p層の順に成膜する場合よりも、i型光電変換層中への導電型決定不純物原子の混入が少なくなる。これは、p型不純物原子(たとえばボロン原子)の方が、n型不純物原子(たとえばリン原子)よりも拡散しにくいためである。つまり、p型半導体層形成時に反応室の内壁面やプラズマ放電電極などに付着したp型不純物原子が、i型光電変換層形成時にi型光電変換層側へ拡散してくるが、その拡散の程度がn型不純物原子よりも小さいため、i型光電変換層中への混入が抑制される。
【0016】また、p型半導体層が5Torr以上の高圧力条件下で形成されるため、p型半導体層の成膜の速度を高速にでき、p型半導体層の成膜を短時間で完了することができる。これにより、p型半導体層形成用の原料ガスを反応室内へ導入する時間も短くできるため、反応室内の電極などに付着するp型不純物原子の蓄積が抑制される。したがって、これによってもi型光電変換層中へのp型不純物原子の混入が抑制される。
【0017】上記より、シングルチャンバ方式で光電変換装置を製造しても、i型光電変換層中への導電型決定不純物原子の混入を大幅に抑制できるため、インライン方式やマルチチャンバ方式で得た光電変換装置と同等の良好な品質および性能を有する光電変換装置を得ることができる。
【0018】また、シングルチャンバ方式で製造できるため、インライン方式やマルチチャンバ方式よりも設備を簡略化することができる。」

(イ)「【0045】一方、本実施の形態のようにp、i、n層の順で成膜する場合にも、p型半導体層111形成時に堆積室の内壁面やプラズマ放電電極などにp型不純物原子が付着し残存する。しかし、このp型不純物原子はn型不純物原子に比べて拡散し難い。このため、i型光電変換層112へ拡散してくる量については、n型の場合よりもp型不純物原子の方を格段に少なくでき、i型光電変換層111中へのp型不純物原子の混入を抑制することができる。
【0046】また、p型半導体層111が5Torr以上の高圧力条件下で形成されるため、p型半導体層111の成膜速度を高速にでき、p型半導体層111の成膜を短時間で完了することができる。これにより、p型半導体層111形成用の原料ガスを堆積室2pin内へ導入する時間も短くできるため、堆積室2pinの内壁面やプラズマ放電電極などに付着するp型不純物原子の蓄積を抑制することができる。したがって、これによっても後工程で形成されるi型光電変換層112中へのp型不純物の混入を抑制することが可能となる。」

(ウ)「【0055】(実施例1)図1に示す構成の薄膜多結晶シリコン太陽電池を作製した。基板1にはガラスを用い、透明導電膜2にはSnO_(2) を用いた。この上に、ボロンドープのp型シリコン層111を15nm、ノンドープのi型多結晶シリコン光電変換層112を3μm、リンドープのn型シリコン層113を15nmの膜厚で、それぞれRFプラズマCVD法により成膜した。これにより、p-i-n接合の薄膜多結晶シリコン光電変換ユニット11を形成した。さらに、裏面電極部12として、ZnO膜121を100nm、Ag膜112を300nmの膜厚で、それぞれスパッタ法により形成した。
【0056】光電変換ユニット11を構成するp、i、n型の各シリコン薄膜111、112、113を、RFプラズマCVD法により同一反応室にて堆積した。反応ガスにはシランと水素とを用い、さらにドーピングガスとしてp型シリコン層111堆積時にはジボランを、n型シリコン層113堆積時にはホスフィンを加えた。p型シリコン層111の成膜条件については、下地温度を200℃、シランガスと水素ガスとの流量比を1:150、反応室圧力を5.0Torr、成膜速度を12nm/分(成膜時間75秒)とした。一方、i型光電変換層112およびn型シリコン層113の成膜条件については、下地温度を200℃、シランガスと水素ガスとの流量比を1:100、反応室圧力を5.0Torr、成膜速度を15nm/分とした。」

(エ)「【0062】(実施例2)図3に示す構成の非晶質シリコン太陽電池ユニット21に実施例1に示す方法で形成した薄膜多結晶シリコン太陽電池ユニット22を積層した、タンデム型太陽電池を作製した。この太陽電池についても実施例1と同様に光電変換効率を測定した結果、13.0%の値が得られた。」

(オ)上記(ア)ないし(エ)より、引用文献3には以下の事項が記載されていると認められる(以下「引用文献3に記載された事項」という。)。
「シングルチャンバ方式で製造する光電変換装置の製造方法。」

(3)対比・判断
ア 本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「ガラス基板1」、「酸化錫の透明電極層2」、「厚さ15nmの非晶質p型シリコンカーバイド層3p」、「厚さ250nmのノンドープ非晶質i型シリコン光電変換層3i」、「厚さ15nmのn型シリコン層3n」、「厚さ12nmのp型シリコン層4p」、「厚さ15nmのn型シリコン層4n」、「プラズマCVD装置」及び「反応ガス圧」は、本願補正発明の「基板」、「透明導電膜」、「第1のp型半導体層」、「i型非晶質シリコン系光電変換層」、「第1のn型半導体層」、「第2のp型半導体層」、「第2のn型半導体層」、「プラズマ成膜室」及び「成膜圧力」に、それぞれ相当する。
(イ)引用文献1の【0003】の「本願明細書において、「結晶質」の用語は、薄膜光電変換装置の技術分野において通常用いられているように部分的に非晶質を含むものをも意味し、少なくとも50%を超える体積結晶化分率を有するものを意味するものとする。」との記載事項により、引用発明の「厚さ2.0μmの結晶質i型シリコン光電変換層4i」は本願補正発明の「i型微結晶シリコン系光電変換層」に相当する。
(ウ)引用発明は「非晶質光電変換ユニット3に含まれる厚さ15nmの非晶質p型シリコンカーバイド層3p、厚さ250nmのノンドープ非晶質i型シリコン光電変換層3iおよび厚さ15nmのn型シリコン層3n」が、「プラズマCVDによって順次に堆積され」、「次に、結晶質光電変換ユニット4に含まれる厚さ12nmのp型シリコン層4p、厚さ2.0μmの結晶質i型シリコン光電変換層4iおよび厚さ15nmのn型シリコン層4n」が、「プラズマCVDによって順次に堆積され」るものであるから、引用発明の「ハイブリッド型薄膜光電変換装置の製造方法」は、本願補正発明の「二重pin構造積層体を形成」する「シリコン系薄膜光電変換装置の製造方法」に相当する。
そうすると、引用発明の「ガラス基板1上に、酸化錫の透明電極層2が熱CVDで形成され、その後、基板1はプラズマCVD装置内に導入され、基板温度は200℃に設定され、そして、非晶質光電変換ユニット3に含まれる厚さ15nmの非晶質p型シリコンカーバイド層3p、厚さ250nmのノンドープ非晶質i型シリコン光電変換層3i、および厚さ15nmのn型シリコン層3nが、プラズマCVDによって順次に堆積され」、「次に、結晶質光電変換ユニット4に含まれる厚さ12nmのp型シリコン層4p、厚さ2.0μmの結晶質i型シリコン光電変換層4i、および厚さ15nmのn型シリコン層4nが、プラズマCVDによって順次に堆積され」る「ハイブリッド型薄膜光電変換装置の製造方法」と、本願補正発明の「基板上に形成された透明導電膜上に、第1のp型半導体層、i型非晶質シリコン系光電変換層、第1のn型半導体層、第2のp型半導体層、i型微結晶シリコン系光電変換層および第2のn型半導体層を、同一のプラズマCVD成膜室内で、順次連続して形成することにより、二重pin構造積層体を形成される、シリコン系薄膜光電変換装置の製造方法」は、「基板上に形成された透明導電膜上に、第1のp型半導体層、i型非晶質シリコン系光電変換層、第1のn型半導体層、第2のp型半導体層、i型微結晶シリコン系光電変換層および第2のn型半導体層を、プラズマCVD成膜室内で、順次形成することにより、二重pin構造積層体を形成される、シリコン系薄膜光電変換装置の製造方法」の点で一致する。
(エ)引用発明の「n型シリコン層3nのプラズマCVD条件において」、「反応ガス圧は333Paに設定され、プラズマ励起用高周波電力が100mW/cm^(2)の密度で印加され」るところ、「333Pa」は「200Pa以上3000Pa以下」の数値範囲に包含され、「100mW/cm^(2)」は「0.01W/cm^(2)以上0.3W/cm^(2)以下」の数値範囲に包含されるので、引用発明の「n型シリコン層3nのプラズマCVD条件において、反応ガス流量として、シランが20sccm、水素が1700sccm、そして5000ppmに水素希釈されたホスフィンが100sccmに設定され、反応ガス圧は333Paに設定され、プラズマ励起用高周波電力が100mW/cm^(2)の密度で印加され」ることと、本願補正発明の「第1のp型半導体層、i型非晶質シリコン系光電変換層および第1のn型半導体層は、プラズマCVD成膜室における成膜圧力が200Pa以上3000Pa以下および電極単位面積当たりの電力密度が0.01W/cm^(2)以上0.3W/cm^(2)以下で形成されること」は、「第1のn型半導体層は、プラズマCVD成膜室における成膜圧力が200Pa以上3000Pa以下および電極単位面積当たりの電力密度が0.01W/cm^(2)以上0.3W/cm^(2)以下で形成されること」の点で一致する。
(オ)上記(ア)ないし(エ)より、本願補正発明と引用発明は、
「基板上に形成された透明導電膜上に、第1のp型半導体層、i型非晶質シリコン系光電変換層、第1のn型半導体層、第2のp型半導体層、i型微結晶シリコン系光電変換層および第2のn型半導体層を、プラズマCVD成膜室内で、順次形成することにより、二重pin構造積層体を形成し、
前記第1のn型半導体層は、前記プラズマCVD成膜室における成膜圧力が200Pa以上3000Pa以下および電極単位面積当たりの電力密度が0.01W/cm^(2)以上0.3W/cm^(2)以下で形成されるシリコン系薄膜光電変換装置の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

<相違点1>
「基板上に形成された透明導電膜上に、第1のp型半導体層、i型非晶質シリコン系光電変換層、第1のn型半導体層、第2のp型半導体層、i型微結晶シリコン系光電変換層および第2のn型半導体層を、」本願発明は「同一のプラズマCVD成膜室内で、順次連続して形成する」のに対し、引用発明は、「プラズマCVDによって順次に堆積され」ることにとどまり、同一のプラズマ成膜室内で、順次連続して形成されるかどうか明らかでない点。

<相違点2>
本願補正発明の「第1のp型半導体層」及び「i型非晶質シリコン系光電変換層」は、「プラズマCVD成膜室における成膜圧力が200Pa以上3000Pa以下および電極単位面積当たりの電力密度が0.01W/cm^(2)以上0.3W/cm^(2)以下で形成される」のに対し、引用発明の「厚さ15nmの非晶質p型シリコンカーバイド層3p」及び「厚さ250nmのノンドープ非晶質i型シリコン光電変換層3i」のプラズマCVD成膜室における成膜圧力及び電極単位面積当たりの電力密度が明らかでない点。

相違点の判断
(ア)上記相違点1について
引用文献1には、「【0013】しかし、たとえば基板上に非晶質ユニットを形成した後に、その基板をプラズマCVD装置から一旦大気中に取出して他のプラズマCVD装置に移して結晶質ユニットをさらに形成した場合、得られるハイブリッド型薄膜光電変換装置の変換特性は基板を大気中に取出すことなく両ユニットを連続的に形成した場合に比べて低下するという事実を本発明者は経験している。」と記載されているので、引用文献1には非晶質ユニットを形成した後に、その基板をプラズマCVD装置から大気中に取出すことなくハイブリッド型薄膜光電変換装置を形成するとの技術思想が開示されている。そして、基板をプラズマCVD装置から大気中に取出すことなく光電変換装置を形成する方法として、シングルチャンバ方式を用いることは、引用文献2及び引用文献3のとおり周知技術である。
してみると、引用発明において、非晶質ユニットを形成した後に、その基板をプラズマCVD装置から大気中に取出すことなくハイブリッド型薄膜光電変換装置を形成するために、周知技術を適用して相違点1にかかる構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)上記相違点2について
プラズマCVDによる成膜の条件は、成膜の組成、成膜の結晶状態(非晶質か結晶質であるか、非晶質と結晶質の割合等)、成膜の導電性(n型、i型、p型)、成膜の膜厚等に応じて決定されるところ、プラズマCVD成膜室における成膜圧力及び電力密度は、当業者が当然考慮に入れるべき条件である。
引用発明においては「n型シリコン層3nのプラズマCVD条件において、反応ガス圧は333Paに設定され、プラズマ励起用高周波電力が100mW/cm^(2)の密度」である。引用文献3には「p型シリコン層111の成膜条件については・・・(中略)・・・反応室圧力を5.0Torr」と記載されている。特開2003-197536号公報には「【0013】【発明の実施の形態】まず、本発明において、a-Si系薄膜は、アモルファス状態のSiを含む限り特に限定されない。具体的な、a-Si系薄膜には、a-Si:(H、n型不純物又はp型不純物)薄膜、a-SiC薄膜、a-SiGe薄膜等が挙げられる。更に、本発明のa-Si系薄膜には、少量のシリコン系結晶を含んでいてもよい。」、「【0015】・・・(前略)・・・高周波電力のパワー密度は、100mW/cm^(2)以上であることが好ましく、100?500mW/cm^(2)であることがより好ましい。・・・(後略)・・・」、「【0016】・・・(前略)・・・圧力は3?20Torrであることが好ましく・・・(後略)・・・」と記載されている。特開2003-135987号公報には「【0058】このような非晶質酸素化シリコンは、反応ガスとして、SiH_(4)、CO_(2)、H_(2)、PH_(3)(またはB_(2)H_(6)を用い、プラズマCVDで作製できる(製法としてプラズマCVD法が好ましいが、各種形成方法も使用可能である)。このとき、製膜条件は、容量結合型の平行平板電極を用いて、電源周波数10?100MHz、パワー密度50?500mW/cm^(2)、圧力30?1500Pa、基板温度130?250℃である。・・・(後略)・・・」と記載されている。
上記のとおり、シリコンを成膜するためのプラズマCVD成膜室における成膜圧力は及び電力密度は、それぞれ数百?数千Pa程度、0.1?0.5W/cm^(2)程度のものであることが普通に用いられている。
そして、本願明細書においては「第1のp型半導体層」及び「i型非晶質シリコン系光電変換層」のプラズマCVD成膜室における成膜圧力及び電極単位面積当たりの電力密度は、それぞれ「500Pa」、「0.05W/cm^(2)」(【0147】)、「500Pa」、「0.07W/cm^(2)」(【0148】)のみであって、比較例についての記載はなく、プラズマCVD成膜室における成膜圧力及び電極単位面積当たりの電力密度の数値範囲の臨界的意義は認められない。
してみると、引用発明の「厚さ15nmの非晶質p型シリコンカーバイド層3p」及び「厚さ250nmのノンドープ非晶質i型シリコン光電変換層3i」がプラズマCVD成膜室における成膜圧力及び電極単位面積当たりの電力密度をそれぞれ200Pa以上3000Pa以下および電極単位面積当たりの電力密度が0.01W/cm^(2)以上0.3W/cm^(2)以下で形成されるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(4)相違点の検討・判断の小括
以上のとおり、相違点1及び2は、引用発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願補正発明が奏する作用効果も、当業者が予測できる域を超えるものではない。
よって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)独立特許要件についての小括
以上検討のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものである。

4 本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成25年9月17日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項によって特定されると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(2)」において、補正前の特許請求の範囲の請求項1として示したとおりのものである。

2 刊行物、各刊行物の記載事項及び引用発明の認定
上記「第2 3(2)」のとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 2 本件補正の目的」のとおり、本願発明は、本願補正発明の「順次連続して形成することにより、二重pin構造積層体を形成し」を「順次形成して二重pin構造積層体を形成し」としたものである。
そして、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加した本願補正発明が、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、上記「第2 3(3)」での検討と同様の理由により、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 結び
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり結審する。
 
審理終結日 2015-04-27 
結審通知日 2015-05-07 
審決日 2015-05-19 
出願番号 特願2012-89512(P2012-89512)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀部 修平  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 井口 猶二
土屋 知久
発明の名称 シリコン系薄膜光電変換装置の製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ