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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1302742
審判番号 不服2014-3408  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-24 
確定日 2015-07-10 
事件の表示 特願2008-526575「パーソナルヘルスケア環境のためのユーザインタフェースシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月22日国際公開、WO2007/020551、平成21年 2月 5日国内公表、特表2009-505264〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年(2006年)8月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年8月15日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成23年9月5日付けで拒絶理由通知がなされ、平成24年3月6日付けで手続補正がなされ、同年12月19日付けで最後の拒絶理由通知がなされ、平成25年7月5日付けで手続補正がなされ、同年10月17日付けで、平成25年7月5日付けの手続補正についての補正却下の決定がなされるとともに拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成26年2月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔結論〕
平成26年2月24日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正内容
平成26年2月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を、補正後の請求項1に変更する補正事項を含むものである。
そして、補正前の請求項1に係る発明及び補正後の請求項1に係る発明は、それぞれ、以下のとおりである。
なお、<補正後の請求項1>における下線は補正箇所を表している。

<補正前の請求項1>
「 【請求項1】
パーソナルヘルスケア環境のためのユーザインタフェースシステムであって、
複数のユーザインタフェース要素と、
個別のユーザの障害のタイプ及び程度に基づいて、前記要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される適応モジュールと、
前記少なくとも1つの要素によりユーザに提供されるインタラクション要素に対するユーザの操作性能を測定し、前記適応モジュールに前記測定の結果を供給する性能モジュールと、
を有し、前記適応モジュールは、前記測定の結果に応じて、前記インタラクション要素のユーザにとっての困難さ又は複雑さのレベルを調整し、調整された前記インタラクション要素をユーザに提供するようにして前記自動的な適応を行う、ユーザインタフェースシステム。」

<補正後の請求項1>
「 【請求項1】
パーソナルヘルスケア環境のためのユーザインタフェースシステムであって、
複数のユーザインタフェース要素と、
個別のユーザの障害のタイプ及び程度に基づいて、前記要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される適応モジュールと、
前記少なくとも1つの要素によりユーザに提供されるインタラクション要素に対するユーザの操作性能を測定し、前記適応モジュールに前記測定の結果を供給する性能モジュールと、
を有し、前記適応モジュールは、前記測定の結果に応じて、前記インタラクション要素のユーザにとっての困難さ又は複雑さのレベルを調整し、調整された前記インタラクション要素をユーザに提供するようにして前記自動的な適応を行い、前記自動的な適応は、測定される前記ユーザの操作性能の変化に応じて動的に行われ、前記適応モジュールは、或る困難さ又は複雑さのレベルのインタラクション要素について測定されるユーザの操作性能が上昇する場合、インタラクション要素の該困難さ又は複雑さのレベルを高めるように調整し、該高められた困難さ又は複雑さのレベルのインタラクション要素について測定されるユーザの操作性能が低下する場合、インタラクション要素の該高められた困難さ又は複雑さのレベルを逆戻しするように調整する、ユーザインタフェースシステム。」

2.本件補正に対する判断
本件補正の内の上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」と呼ぶ。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(上記改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

2-1.本願補正発明
本願補正発明は、上記「1.」の<補正後の請求項1>の欄に記載したとおりのものである。

2-2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2004-13736号公報(以下、「引用例」と呼ぶ。)には、次の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、操作表示装置に関し、さらに詳しくは、操作者の習熟度に応じた操作方法を提供する操作表示装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、家電機器・OA機器等の高機能化が進み、その操作方法はますます複雑化している。特に、操作パネル画面は機能が高機能になればなるほど、操作すべき対象が増加して複雑さを助長している。それを回避する方法として、画面をスクロールしたり、複数画面に切替えて使用する方法などが採られている。しかし、操作に慣れた(習熟度の高い)ユーザであれば、特に苦にはならないが、操作に不慣れな(習熟度の低い)ユーザにとっては、操作そのものが苦になり誤操作の原因を作っている。また、障害者の社会進出といった社会構造の変化に伴い、公共機関・職場等に設置される機器において、あるゆるユーザに対応したユーザインタフェース設計が求められている。

・・・(中略)・・・

【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる課題に鑑み、ユーザの操作習熟度に応じた操作環境を与えて、あらゆるユーザが使い易く誤操作の少ない機器操作方法を提供することを目的とする。
また、他の目的は視覚障害者に対するインターフェースを備えた操作環境を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、ユーザ特有の識別情報を取得するユーザ情報取得手段と、該ユーザ情報取得手段から取得されたユーザ情報に基づいて特定のユーザを認証するユーザ認証手段と、機器の操作メニューを表示する操作パネル部と、音声ガイダンスを出力する音声出力手段と、視覚障害者により操作可能な構成を有する入力手段と、前記各手段を制御する操作部制御手段と、を備えた操作表示装置であって、該操作表示装置は、ネットワークを介して前記各ユーザの個人情報を管理する個人情報管理サーバと接続され、前記ユーザ情報取得手段から取得されるユーザ識別信号と前記個人情報管理サーバで管理する個人情報データベースとを照合し、当該機器操作の習熟度の認識及び視覚障害者であるか否かの判別を可能とするように前記操作部制御手段により制御されることを特徴とする。
本発明の操作表示装置は、基本的に予め登録されたユーザを対象に、そのユーザの操作習熟度に応じた操作環境を提供するものである。そのためにインターネット上にユーザの個人情報を管理するサーバを備えている。まず、操作を行うユーザがユーザ情報取得手段からユーザ特有の情報、例えば、指紋、声紋、パスワード等を入力する。その情報はユーザIDに変換されて操作部制御手段に入力され、操作部制御手段ではサーバに記憶されたユーザ個人情報とユーザIDとを照合してユーザの習熟度を認識する。このユーザの習熟度は学習機能を有しており、ユーザが機器を操作した回数により習熟度が増していくように構成されている。従って、操作部制御手段はユーザ習熟度に応じた操作環境を与えるために、操作パネル部に表示するメニューを選択する。また、ユーザの中には視覚障害者が含まれているので、そのようなユーザの場合は、音声ガイダンスにより操作が可能なように制御される。
かかる発明によれば、ユーザの操作習熟度や障害の有無を認識して、そのユーザに最適な操作環境を選択して与えるので、ユーザが操作し易くして、誤操作の確率を減少したユーザフレンドリな操作環境を与えることができる。また、ユーザ個人情報がインターネット上のサーバにより管理されているので、クライアントがユーザ個人情報を共通に使用することができ、管理の一元化を図ることができる。

・・・(中略)・・・

請求項3は、前記操作部制御手段は、前記ユーザ情報取得手段から取得されるユーザ識別信号と前記記憶装置、若しくは個人情報管理サーバで管理する個人情報データベースとを照合することにより、当該機器操作の習熟度を認識し、該習熟度に応じた操作メニューをユーザが理解可能と推測される用語を用いて前記操作パネル部に表示するように制御することを特徴とする。
ユーザ個人情報とユーザIDとを照合してユーザの習熟度を認識した結果、例えば、習熟度が低いユーザの場合は、操作パネル上に表示する用語そのものが理解できない場合がある。そのために、習熟度に応じた用語を選択して表示することは、ユーザの操作理解を早める上で有効である。また、逆に習熟度が高いユーザの場合は、用語は高度の専門用語を使用しても差し支えない。このように習熟度に応じた用語を選択することにより、操作の誤りを減らし、さらに、習熟度の向上を図ることができる。
かかる発明によれば、ユーザの習熟度に応じてユーザが理解できる用語で表示するので、ユーザは表示部に表示された用語を正しく理解することができ、それにより誤操作を減少して習熟度の向上をより早めることができる。
【0006】
請求項4は、前記操作部制御手段は、前記ユーザ情報取得手段から取得されるユーザ識別信号と前記記憶装置、若しくは個人情報管理サーバで管理する個人情報データベースとを照合した結果、当該機器操作のユーザが視覚障害者であると判断した場合、当該機器操作に関する習熟度に準じた操作メニューを当該ユーザが理解可能と推測される用語を用いて前記音声出力手段より音声ガイダンスにて出力し、該音声ガイダンスに従いながら前記入力手段により機器操作を行うように制御することを特徴とする。
ユーザ識別信号と記憶装置、若しくは個人情報管理サーバで管理する個人情報データベースとを照合した結果、ユーザが視覚障害者であると認識された場合、操作の方法は健常者と大きく異なる。つまり、表示部による操作は不可能なため音声または触覚により操作する方法を採らざるを得ない。そこで、キーボード上のあるキーを触った場合、音声によりそのキーの番号を出力して視覚障害者にデータを入力してもらう。当然、ユーザの操作習熟度に応じた用語で音声ガイダンスが流れて、それにより操作を進めていく方法である。
かかる発明によれば、ユーザが視覚障害者の場合、その操作習熟度に応じた用語を用いて音声ガイダンスし、ユーザはガイダンスに従ってキーを操作するので、視覚障害者でも操作が容易に、しかも確実に操作することができる。

・・・(中略)・・・

【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る操作表示装置の構成を示すブロック図である。本実施形態の操作表示装置100は、ユーザの識別を指紋1の形を識別する指紋認証装置2と、操作メニュー表示フロー等を記憶するフラッシュROM4と、機器の操作メニューを表示する液晶タッチパネル5と、音声ガイダンスを出力するスピーカ6と、キー表面に指の接触を検知する反射型センサを備えたテンキー7と、それら操作部の全体制御を行うCPU及びプログラムROMを備えた操作部制御装置8から構成される。また本操作部制御装置8はネットワークを介して各ユーザの個人情報を管理する個人情報管理サーバ9と接続されている。尚、ユーザ識別の手段を指紋により行う方法について記載しているが、他の方法でも構わない。
【0010】
次に、図1を参照して操作表示装置100の動作について説明する。まず、指紋認証装置2がユーザの指紋データ1を認識してその結果をユーザID3に変換し、それを操作部制御装置8に入力する。操作部制御装置8はこのユーザID3をユーザID10として図示しないネットワークを介して個人情報管理サーバ9に転送する。個人情報管理サーバ9では、ユーザID10とデータベースに記憶された個人情報を照合して、そこから一致する個人情報11を得る。この個人情報11には例えば、ユーザID、使用言語、その機器操作に関する習熟レベル、及び視覚障害の有無から構成される。前記で得られた個人情報11は操作部制御装置8に入力される。
次に、操作部制御装置8は、その個人情報11からユーザの当該機器操作に関する習熟レベルを認識し、習熟度、障害の有無15に基づいてフラッシュROM4からその習熟レベルに応じた操作メニュー12を、ユーザが理解可能と推測される用語を用いて液晶タッチパネル5に表示する。ここでいう習熟レベルとは、各ユーザの使用履歴(使用回数、入力ミスの発生回数等)から操作部制御装置8がレベル判定し、ユーザの操作終了毎に操作部制御装置8は、そのユーザの習熟レベルの更新を行う。また習熟レベルと、それに応じた操作メニューの表現レベルは1対1で対応しており、この表現レベルが下がるほど、操作メニューはより丁寧な、より簡単な表現を用いる。
【0011】

・・・(中略)・・・

また、操作部制御装置8は、個人情報管理サーバ9が認識した個人情報11から視覚障害を持つユーザと認識した場合、ユーザの当該機器に関する習熟レベルに応じた操作メニュー12をフラッシュROM4から読み出し、ユーザが理解可能と推測される用語を用いてスピーカ6より音声ガイダンス13として出力し、ユーザはその音声ガイダンスに従いながらテンキー7のみを用いて操作メニューを選択し機器操作を行う。このテンキー7の夫々のキー表面には図示しない反射型センサを内蔵しており、ユーザがキー表面に指で触れた時、操作部制御装置8には反射型センサから検知信号が入力される。操作部制御装置8はその検知信号により、ユーザがどのキーに触れたかを認識し、そのキー番号をユーザにスピーカ6より音声にて通知する。これにより視覚障害を持つユーザは、テンキーを押す前にキー番号を確認することが可能となる。

・・・(中略)・・・

【0012】

・・・(中略)・・・

図3は、図1及び図2の動作をさらに詳細に説明するフローチャートである。特に正常に動作している場合のフローチャートであり、個人情報が管理サーバ内で管理されている場合について図1を参照して説明する。まず、指紋認証装置2がユーザの指紋データ1を認識してその結果をユーザID3に変換する(S1)。次に、それを操作部制御装置8に入力してユーザID3をユーザID10として図示しないネットワークを介して個人情報管理サーバ9に転送する。個人情報管理サーバ9では、ユーザID10とデータベースに記憶された個人情報を照合して、そこから一致する個人情報11を得る(S2)。この個人情報には例えば、ユーザID、使用言語、その機器操作に関する習熟レベル、及び視覚障害の有無から構成される。前記で得られた個人情報11は操作部制御装置8に入力され、習熟レベルに応じた使用言語を決定し(S3)、更に、視覚障害の有無を調べ(S4)、視覚障害がなければ(S4でNO)、次に、操作部制御装置8は、その個人情報11からユーザの当該機器操作に関する習熟レベルを認識し、習熟度、障害の有無15に基づいてフラッシュROM4からその習熟レベルに応じた操作メニュー12を、ユーザが理解可能と推測される用語を用いて液晶タッチパネル5に表示する(S5)。ここでいう習熟レベルとは、各ユーザの使用履歴(使用回数、入力ミスの発生回数等)から操作部制御装置8がレベル判定し、ユーザの操作終了毎に操作部制御装置8は、そのユーザの習熟レベルの更新を行う。また習熟レベルと、それに応じた操作メニューの表現レベルは1対1で対応しており、この表現レベルが下がるほど、操作メニューはより丁寧な、より簡単な表現を用いる。そして、ユーザは表示部の操作メニューから所望のメニューを選択する(S6)。ここで、ステップS4で視覚障害者であると判定されると(S4でYES)習熟レベルに応じた操作メニューをスピーカ6から音声ガイダンスしてユーザに知らせ(S7)、ステップS6に進む。

・・・(中略)・・・

【0014】
【発明の効果】
以上記載のごとく請求項1の発明によれば、ユーザの操作習熟度や障害の有無を認識して、そのユーザに最適な操作環境を選択して与えるので、ユーザにとって操作し易く、しかも誤操作の確率を減少したユーザフレンドリな操作環境を与えることができる。また、ユーザ個人情報がインターネット上のサーバにより管理されているので、クライアントがユーザ個人情報を共通に使用することができ、管理の一元化を図ることができる。

・・・(中略)・・・

また請求項3では、ユーザの習熟度に応じてユーザが理解できる用語を選択して表示するので、ユーザは表示部に表示された用語を容易に正しく理解することができ、それにより誤操作を減少して習熟度の向上をより早めることができる。
また請求項4では、ユーザが視覚障害者の場合、その操作習熟度に応じた用語を用いて音声ガイダンスし、ユーザはガイダンスに従ってキーを操作することができるので、視覚障害者でも容易に、しかも確実に操作することができる。

・・・(後略)・・・」

ここで、上記記載事項を引用例の関連図面と技術常識に照らせば、以下のことがいえる。

(1)引用例の図1等に示される「操作表示装置100」は、「機器の操作メニュー12を表示する液晶タッチパネル5」と、「音声ガイダンス13を出力するスピーカ6」と、「反射型センサを備えたテンキー7」と、「操作部制御装置8」を有している。

(2)段落【0012】、図3等の記載によれば、上記「操作部制御装置8」は、「個人情報11中のユーザの習熟レベルと視覚障害の有無に基づいて、前記液晶タッチパネル5に表示する操作メニュー、またはスピーカ6に出力する音声ガイダンス13の自動的な適応を行うように構成された部分」といい得る部分(以下、「部分A」という。)を有している。

(3)同段落【0012】(段落【0010】にも同旨の記載がある)の「ここでいう習熟レベルとは、各ユーザの使用履歴(使用回数、入力ミスの発生回数等)から操作部制御装置8がレベル判定し、ユーザの操作終了毎に操作部制御装置8は、そのユーザの習熟レベルの更新を行う。また習熟レベルと、それに応じた操作メニューの表現レベルは1対1で対応しており、この表現レベルが下がるほど、操作メニューはより丁寧な、より簡単な表現を用いる。」という記載(以下、「記載A」という。)を特に参照すば、上記「操作部制御装置8」は、「液晶タッチパネル5またはスピーカ6によってユーザに提供される操作メニューに対するユーザの操作状況からユーザの習熟レベルを測定し、個人情報11中のユーザの習熟レベルを更新することを通じて上記部分Aに上記測定の結果を供給する部分」といい得る部分(以下、「部分B」という。)も有している。
また、上記記載Aによれば、上記「部分A」は、「部分Bによる測定の結果に応じて、操作メニューの表現レベルを調整し、調整された前記操作メニューをユーザに提供するようにして上記自動的な適応を行う」ものということもでき、そこでいう「部分Bによる測定の結果」は、当然に測定毎に変化し得るものである。
したがって、上記「自動的な適応」は、「部分Bによる測定の結果の変化」、すなわち、「測定されるユーザの習熟レベルの変化」に応じて「動的に行われる」ものということもできる。

以上によれば、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」と呼ぶ。)が記載されているといえる。
「操作表示装置100であって、
機器の操作メニュー12を表示する液晶タッチパネル5と、音声ガイダンス13を出力するスピーカ6と、反射型センサを備えたテンキー7と、
操作部制御装置8であって、個人情報11中のユーザの習熟レベルと視覚障害の有無に基づいて、前記液晶タッチパネル5に表示する操作メニュー、またはスピーカ6に出力する音声ガイダンス13の自動的な適応を行うように構成される部分(部分A)と、前記液晶タッチパネル5またはスピーカ6によってユーザに提供される操作メニューに対するユーザの操作状況からユーザの習熟レベルを測定し、前記個人情報11中のユーザの習熟レベルを更新することを通じて前記部分Aに前記測定の結果を供給する部分(部分B)とを有する操作部制御装置8と、
を有し、前記部分Aは、前記測定の結果に応じて、前記操作メニューの表現レベルを調整し、調整された前記操作メニューをユーザに提供するようにして前記自動的な適応を行い、前記自動的な適応は、測定される前記ユーザの習熟レベルの変化に応じて動的に行われる、操作表示装置100」

2-3.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(1)引用発明の「操作表示装置100」は、本願補正発明と同様に「ユーザインタフェースシステム」ともいい得る。
(2)引用発明の「機器の操作メニュー12を表示する液晶タッチパネル5と、音声ガイダンス13を出力するスピーカ6と、反射型センサを備えたテンキー7」は、本願補正発明の「複数のユーザインタフェース要素」に相当する。
(3)引用発明でいう「個人情報11中の習熟レベルと視覚障害の有無」と本願補正発明でいう「個別のユーザの障害のタイプ及び程度」は、ともに「個別のユーザの特性」ともいい得、引用発明の「操作部制御装置8の部分A」は、その機能から「適応モジュール」ともいい得るから、引用発明の「操作部制御装置8の部分A」と本願補正発明の「適応モジュール」は、「個別のユーザの特性に基づいて、前記要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される適応モジュール」といい得るものである点で共通する。
(4)引用発明でいう「液晶タッチパネル5またはスピーカ6によってユーザに提供される操作メニュー」、は、本願補正発明でいう「前記少なくとも1つの要素によりユーザに提供されるインタラクション要素」に相当し、引用発明でいう「習熟レベル」は本願補正発明でいう「操作性能」に相当し、引用発明の「操作部制御装置8の部分B」が「ユーザに提供される操作メニューに対するユーザの操作状況からユーザの習熟レベルを測定し、個人情報11中のユーザの習熟レベルを更新することを通じて部分Aに前記測定の結果を供給する」することは、本願補正発明の「性能モジュール」が「ユーザに提供されるインタラクション要素に対するユーザの操作性能を測定し、前記適応モジュールに前記測定の結果を供給する」ことに相当する。
したがって、引用発明の「操作部制御装置8の部分B」は、本願補正発明の「性能モジュール」に相当する。
(5)引用発明でいう「操作メニューの表現レベル」は、本願補正発明でいう「インタラクション要素のユーザにとっての困難さ又は複雑さのレベル」に相当する。
したがって、引用発明において、「操作部制御装置8の部分A」が「前記測定の結果に応じて、前記操作メニューの表現レベルを調整し、調整された前記操作メニューをユーザに提供するようにして前記自動的な適応を行う」こと、及び「前記自動的な適応」が「測定される前記ユーザの習熟レベルの変化に応じて動的に行われる」ことは、それぞれ、本願補正発明において、「適応モジュール」が「前記測定の結果に応じて、前記インタラクション要素のユーザにとっての困難さ又は複雑さのレベルを調整し、調整された前記インタラクション要素をユーザに提供するようにして前記自動的な適応を行う」こと、及び「前記自動的な適応」が「測定される前記ユーザの操作性能の変化に応じて動的に行われる」ことに相当する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明の間には次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ユーザインタフェースシステムであって、
複数のユーザインタフェース要素と、
個別のユーザの特性に基づいて、前記要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される適応モジュールと、
前記少なくとも1つの要素によりユーザに提供されるインタラクション要素に対するユーザの操作性能を測定し、前記適応モジュールに前記測定の結果を供給する性能モジュールと、
を有し、前記適応モジュールは、前記測定の結果に応じて、前記インタラクション要素のユーザにとっての困難さ又は複雑さのレベルを調整し、調整された前記インタラクション要素をユーザに提供するようにして前記自動的な適応を行い、前記自動的な適応は、測定される前記ユーザの操作性能の変化に応じて動的に行われる、ユーザインタフェースシステム。」である点。

(相違点1)
本願補正発明のユーザインタフェースシステムは、「パーソナルヘルスケア環境のため」のものとされているのに対し、引用発明のユーザインタフェースシステム(操作表示装置100)は、「パーソナルヘルスケア環境のため」のものとはされていない点。

(相違点2)
本願補正発明の「適応モジュール」は、「個別のユーザの障害のタイプ及び程度に基づいて、複数のユーザインタフェース要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される」ものとされているのに対し、引用発明の「適応モジュール」(操作部制御装置8の部分A)は、「個別のユーザの特性に基づいて、複数のユーザインタフェース要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される」ものとはされているものの、「個別のユーザの障害のタイプ及び程度に基づいて、複数のユーザインタフェース要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される」ものとはされていない点。

(相違点3)
本願補正発明の「適応モジュール」は、「或る困難さ又は複雑さのレベルのインタラクション要素について測定されるユーザの操作性能が上昇する場合、インタラクション要素の該困難さ又は複雑さのレベルを高めるように調整し、該高められた困難さ又は複雑さのレベルのインタラクション要素について測定されるユーザの操作性能が低下する場合、インタラクション要素の該高められた困難さ又は複雑さのレベルを逆戻しするように調整する」ものであるのに対し、引用発明の「適応モジュール」(操作部制御装置8の部分A)は、「或る困難さ又は複雑さのレベルのインタラクション要素について測定されるユーザの操作性能が上昇する場合、インタラクション要素の該困難さ又は複雑さのレベルを高めるように調整し、該高められた困難さ又は複雑さのレベルのインタラクション要素について測定されるユーザの操作性能が低下する場合、インタラクション要素の該高められた困難さ又は複雑さのレベルを逆戻しするように調整する」ものであるとは限らない(引用例には、ユーザの操作性能(習熟レベル)が上下する場合の具体的的動作内容についての記載がない。)点。

2-4.判断

(1)(相違点1)について
以下の事情を総合すると、引用発明において上記相違点1に係る本願補正発明の構成を採用すること、換言すれば、引用発明のユーザインタフェースシステム(操作表示装置100)を、「パーソナルヘルスケア環境のため」のものとすることは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。
ア.引用例には、その全体を通じて、引用発明として抽出した「操作表示装置100」の用途が特定の用途に限定される旨の記載はないし、引用発明の構成からみても、その用途が特定の用途に限定されると解すべき理由はない。したがって、引用発明は、操作表示が有用なあらゆる用途に適用可能なユーザインタフェースシステムであるといえる。
イ.一方、「パーソナルヘルスケア環境」といい得る環境において操作表示が有用な用途は、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-117149号公報にも示されるように周知であり、引用発明を該周知の用途に適用できない理由はない。
ウ.してみれば、引用発明を上記周知の用途に適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そしてそのことは、引用発明のユーザインタフェースシステム(操作表示装置100)を、「パーソナルヘルスケア環境のため」のものとすることが当業者にとって容易であったことを意味している。

(2)(相違点2)について
以下の事情を総合すると、引用発明において上記相違点2に係る本願補正発明の構成を採用すること、換言すれば、引用発明の「適応モジュール」(操作部制御装置8の部分A)を「個別のユーザの障害のタイプ及び程度に基づいて、複数のユーザインタフェース要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される」ものとすることも、当業者が容易に推考し得たことというべきである。
ア.引用例の段落【0002】、【0003】の記載からも明らかなように、「あらゆるユーザが使い易く誤操作の少ない機器操作方法」を提供することは、ユーザインタフェースシステムといわれるもの一般において求めらる事項であり、引用発明の「操作表示装置100」においても当然に求めらる事項である。
イ.一方、引用発明の「操作表示装置100」のユーザとして、障害のタイプや程度が相互に異なる複数のユーザは当然に想定されるから、該「操作表示装置100」をそのような障害のタイプや程度が相互に異なる複数のユーザの誰にとっても使い易く誤操作の少ないものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
ウ.そして、引用発明は、「個別のユーザの特性に基づいて、前記要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される適応モジュール」といい得る「操作部制御装置8の部分A」を既に有しているのであるから、引用発明において上記イ.で言及したこと(「操作表示装置100」を障害のタイプや程度が相互に異なる複数のユーザの誰にとっても使い易く誤操作の少ないものとすること)を実現しようとする場合に、上記「操作部制御装置8の部分A」を、「個別のユーザの障害のタイプ及び程度に基づいて、複数のユーザインタフェース要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される」ものとするのは、ごく自然なことである。
エ.してみれば、引用発明の「適応モジュール」(操作部制御装置8の部分A)を「個別のユーザの障害のタイプ及び程度に基づいて、複数のユーザインタフェース要素の少なくとも1つの自動的な適応を行うように構成される」ものとすることは、当業者が容易に推考し得たことである。

(3)(相違点3)について
以下の事情を総合すると、引用発明において上記相違点3に係る本願補正発明の構成を採用すること、換言すれば、引用発明の「適応モジュール」(操作部制御装置8の部分A)を「或る困難さ又は複雑さのレベルのインタラクション要素について測定されるユーザの操作性能が上昇する場合、インタラクション要素の該困難さ又は複雑さのレベルを高めるように調整し、該高められた困難さ又は複雑さのレベルのインタラクション要素について測定されるユーザの操作性能が低下する場合、インタラクション要素の該高められた困難さ又は複雑さのレベルを逆戻しするように調整する」ものとすることも、当業者が容易に推考し得たことというべきである。
ア.引用発明の部分Aは、「ユーザの習熟レベルの変化に応じて操作メニューの表現レベルを動的に調整する機能」を有するということができるが、そこでいう「ユーザの習熟レベル」は、引用例の段落【0012】の上記記載Aに示されるように、「入力ミスの発生回数等」に基づいて測定されることが想定されているものである。そして、該「入力ミスの発生回数等」は、一般に、増加方向にも減少方向にも変化するのが普通である。
したがって、引用発明でいう「ユーザの習熟レベル」が、上昇方向にも下降方向にも変化し得ることは、当業者に容易に想定される。
イ.また、上記(1)で述べたように、引用発明は、操作表示が有用なあらゆる用途に適用可能なものといえるが、そのような用途の中には、1人のユーザによる使用頻度がそれ程高くない用途も容易に想定される。そして、そのような使用頻度が高くない用途においては、ある回における「ユーザの習熟レベル」がその前の回の「ユーザの習熟レベル」よりも低下しているということは容易に想定される。
したがって、この点からも、引用発明でいう「ユーザの習熟レベル」が、上昇方向にも下降方向にも変化し得ることは、当業者に容易に想定される。
ウ.そして、「ユーザの習熟レベル」が上昇方向にも下降方向にも変化し得ることが想定される場合に、上記部分Aを、「ユーザの習熟レベル」の上昇方向の変化にも下降方向の変化にも対応できるように構成することは、ごく自然なことである。
また、そのように構成することを妨げる事情はない。
エ.引用発明の上記部分Aを、「ユーザの習熟レベル」の上昇方向の変化にも下降方向の変化にも対応できるように構成することは、引用発明の「適応モジュール」(操作部制御装置8の部分A)を「或る困難さ又は複雑さのレベルのインタラクション要素について測定されるユーザの操作性能が上昇する場合、インタラクション要素の該困難さ又は複雑さのレベルを高めるように調整し、該高められた困難さ又は複雑さのレベルのインタラクション要素について測定されるユーザの操作性能が低下する場合、インタラクション要素の該高められた困難さ又は複雑さのレベルを逆戻しするように調整する」ものとすることにほかならない。

(4)本願補正発明の効果について
本願補正発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明から当業者が容易に想到し得た構成のものが奏するであろうと当業者が予測し得る範囲を超えるものではなく、本願補正発明の進歩性を肯定する根拠となり得るものではない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」と呼ぶ。)は、平成24年3月6日付けの手続補正書の請求項1に記載されたとおりのものであり、上記「第2」の「1.」の<補正前の請求項1>の欄に転記したとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、およびその記載事項は、上記「第2」の「2.」の「2-2.」の欄に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から、限定事項の一部を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに特定の限定を施したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」の「2.」の欄に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-13 
結審通知日 2015-02-17 
審決日 2015-03-02 
出願番号 特願2008-526575(P2008-526575)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森田 充功  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 千葉 輝久
小曳 満昭
発明の名称 パーソナルヘルスケア環境のためのユーザインタフェースシステム  
代理人 津軽 進  
代理人 笛田 秀仙  

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