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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) H01B
管理番号 1302940
判定請求番号 判定2015-600014  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2015-08-28 
種別 判定 
判定請求日 2015-04-16 
確定日 2015-07-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第5088917号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号写真に示す「低圧引込用電線」は、特許第5088917号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は,イ号写真に示す低圧引込用電線(以下「イ号物件」という。)は,特許第5088917号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する,との判定を求めるものである。

第2 本件特許発明について
(1)本件特許の特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載によれば,本件特許発明は,以下のとおりである。(当審注.当審において,構成要件毎に分説し,記号AないしGを付した。以下「構成要件A」などという。)
「A 複数の絶縁電線を撚り合わせてなる低圧引込用電線において,
B 前記絶縁電線の全て,もしくは,導体周囲に黒色又は灰色材質製の絶縁体のみ備える一本を除く残りの絶縁電線が,導体周囲に各々所定材質からなる内層と外層との二層の絶縁体を備えてなり,
C 前記外層の絶縁体が,各絶縁電線ごとに異ならせた色及び/又は配置形態とされる線心識別用の色帯部を,表面の一部に外層厚さより薄い厚みで一又は複数本長手方向に連続させて配設される一方,残り部分を耐候性材質部とされてなり,
D 前記色帯部及び耐候性材質部は,いずれも耐トラッキング性に優れた材質製とされ,且つ,耐候性材質部は,前記色帯部と異なる黒色又は灰色とされて耐候性に優れたものとされ,
E 前記色帯部と重なる状態で色帯部内側に位置する部分における耐候性材質部の厚さを,色帯部の劣化する屋外使用期間が経過しても屋外使用に必要な耐候性を確保できる厚さとされ,
F 前記内層の絶縁体が,前記外層の絶縁体における前記色帯部以外の部分とは少なくとも異なる色で,且つ他の絶縁電線の内層絶縁体とも互いに異なる所定色とされてなることを
G 特徴とする低圧引込用電線。」

(2)本件特許の明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明の課題,その解決手段,請求項1記載の「耐トラッキング性(に優れた)」及び「耐候性(に優れた)」の文言の意義に関連して,以下の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。)
「【0002】
電力供給のために用いられる電線やケーブルのうち,低圧配電線と需要者の建物間に架設又は布設されて使用される屋外用の低圧引込用電線としては,二線以上の撚り合わせ型又は各線並行配置の平型のDV電線があり,絶縁体として塩化ビニル樹脂を使用したものが一般的である。
【0003】
従来,こうした低圧引込用電線の撚り合わせられた各絶縁電線は,それぞれを識別できるように導体を被覆する絶縁体がそれぞれ異なった色彩の樹脂とされていた。これらの絶縁体に黒色以外の樹脂,すなわち,カーボンを含有していない樹脂を用いていると,こうした絶縁体はカーボンを含有している黒色の絶縁体に比べて紫外線の遮断効果が小さく,酸化劣化が起こりやすく,太陽光の下で劣化による亀裂が生じやすくなっていた。この絶縁体に生じた亀裂や傷が進行すると,部分的に導体が露出するようになる。
【0004】
一方,こうした絶縁電線では,絶縁体表面が湿潤又は汚損すると,絶縁体表面に沿って漏れ電流が流れ,発生したジュール熱による水分の蒸発に伴って表面が局部的に乾燥し,電気抵抗の高い部分が生成する結果,電界の不整が生じ,シンチレーションと呼ばれる微小発光を伴う局部的な微小放電が発生し,この放電に伴う熱により絶縁材料の一部が分解されて炭化物が生成するというトラッキング現象が生じることもあった。この現象は,電線表面に塩分を含んだ塵埃が堆積するとさらに発生しやすくなる。」
・・・
【0007】
このような低圧引込用電線の劣化の問題に対して,導体を被覆する所定色の絶縁体外側に,カーボンが含まれた黒色樹脂製の絶縁層を配設して絶縁体の劣化を防ぐと共に,切断面における絶縁層の色によって電線の識別を行うことができる低圧引込用電線の例が,特開2002-324443号公報に開示されている。
・・・
【0010】
従来の電線は以上のように構成されており,前記特許文献1に示される従来前者の低圧引込用電線の場合,紫外線による劣化に対しては強くなるものの,紫外線以外の各種要因でも絶縁体に傷や亀裂が生じる場合があり,さらにこれらの進行により,部分的に導体が露出するようになることがある。・・・
【0011】
前記従来前者の低圧引込用電線に用いられているポリ塩化ビニル製絶縁体は,口出し等の作業性は優れているものの,傷が入りやすく摩耗しやすい性質を有しており,また,耐トラッキング性能が著しく劣っているため,撚り合わされた各電線の互いに近付いている部分に,傷による導体露出部が生じた場合,湿潤状態で発生するトラッキング現象で絶縁体の劣化がさらに進行し,導体露出部分間にアーク放電が生じて断線に至る割合が著しく高くなるという課題を有していた。
加えて,従来前者の低圧引込用電線では,撚り合わされた各電線の最外層がいずれも耐候性を備えた同色の絶縁体となるため,外観での各電線の識別が難しいという課題も有していた。
・・・
【0013】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので,耐トラッキング性を向上させて各絶縁電線間での放電現象による発火や断線事故を防止できると共に,目視による色等の認識で容易に各絶縁電線を識別できる低圧引込用電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る低圧引込用電線は,複数の絶縁電線を撚り合わせてなる低圧引込用電線において,前記絶縁電線の全て,もしくは,導体周囲に黒色又は灰色材質製の絶縁体のみ備える一本を除く残りの絶縁電線が,導体周囲に各々所定材質からなる内層と外層との二層の絶縁体を備えてなり,前記外層の絶縁体が,耐トラッキング性に優れ,且つ各絶縁電線ごとに異ならせた色及び/又は配置形態とされる線心識別用の色帯部を,表面の一部に外層厚さより薄い厚みで一又は複数本長手方向に連続させて配設される一方,残り部分を前記色帯部と異なる黒色又は灰色で耐候性及び耐トラッキング性に優れた材質製とされてなり,前記内層の絶縁体が,前記外層の絶縁体における前記色帯部以外の部分とは少なくとも異なる色で,且つ他の絶縁電線の内層絶縁体とも互いに異なる所定色とされてなるものである。」

(3)上記(2)より,以下のとおりと認められる。
ア 本件特許発明が解決しようとする課題について
(ア)絶縁電線では,湿潤又は汚損した絶縁体表面に流れる漏れ電流によって放電現象が発生するトラッキング現象が生じていたところ,低圧引込用電線として使用されていたポリ塩化ビニル製絶縁体では,耐トラッキング性能が著しく劣っている。

(イ)黒色以外の樹脂,すなわち,カーボンを含有していない樹脂を用いた絶縁体は,カーボンを含有している黒色の絶縁体に比べて紫外線の遮断効果が小さく,酸化劣化が起こりやすく,太陽光の下で劣化による亀裂が生じやすいため,従来の低圧引込用電線では,導体を被覆する所定色の絶縁体外側に,カーボンが含まれた黒色樹脂製の絶縁層を配設して絶縁体の劣化を防いでいたところ,同色の絶縁体となるため,外観での各電線の識別が難しい。

イ 本件特許発明における課題の解決手段について
(ア)従来技術における上記の課題を解決することを目的とし,複数の絶縁電線を撚り合わせてなる低圧引込用電線において,導体周囲に各々所定材質からなる内層と外層との二層の絶縁体を備えてなり,上記外層の絶縁体が,耐トラッキング性に優れているとの構成とする。

(イ)各絶縁電線において線心識別用の色帯部を,表面の一部に外層厚さより薄い厚みで一又は複数本長手方向に連続させて配設される一方,残り部分を上記色帯部と異なる黒色又は灰色で耐候性及び耐トラッキング性に優れた材質製とする。

ウ 本件特許発明における「耐トラッキング性に優れた」の意義について
「耐トラッキング性」とは,絶縁電線におけるトラッキング現象,すなわち絶縁電線の湿潤又は汚損した絶縁体表面に流れる漏れ電流より起きる放電現象の発生し難さであるところ,「耐トラッキング性に優れた」とは,本件特許発明が解決しようとする課題に照らせば,従来,低圧引込用電線として使用されていたポリ塩化ビニル製絶縁体における「耐トラッキング性」よりも優れたものと解するのが相当といえる。

エ 本件特許発明における「耐候性に優れた」の意義について
「耐候性」とは,紫外線の遮断効果の大きさ,酸化劣化の起こり難さ,及び太陽光の下で劣化による亀裂の生じ難さであるところ,「耐候性に優れた」とは,該課題に照らせば,従来の低圧引込用電線において導体を被覆する絶縁体外側に使用されていた,カーボンが含まれた黒色樹脂における「耐候性」と同程度のものと解するのが相当といえる。

第3 イ号物件について
(1)当審では,イ号物件を,以下のとおりのものであると特定し認定する。
(当審注.a?d,f,gは,イ号物件を本件特許発明に対応するように分説し,各分説に付した符号であり,以下「構成a」などという。)

「a 3本の絶縁電線(11,12,13)を撚り合わせてなる低圧引込用電線(1)において,
b 前記絶縁電線(11)の導体(14)周囲に黒色材質製の絶縁体(15)のみ備える一本(11)を除く残りの前記絶縁電線(12,13)が,前記導体(14)周囲に各々所定材質からなる内層の絶縁体(18,19)と外層の絶縁体(16,17)との二層の絶縁体を備えており,
c 前記外層の絶縁体(16,17)が,各前記絶縁電線(12,13)ごとに異ならせた色とされる線心識別用の色帯部(16a,17a)を,表面の一部に前記外層の絶縁体(16,17)の厚さより薄い厚みで2本長手方向に連続させて配設されており,
d 前記外層の絶縁体(16,17)のうち前記色帯部(16a,17a)以外の部分(16b,17b)は,前記色帯部(16a,17a)と異なる黒色とされており,
f 前記内層の絶縁体(18)が,前記外層の絶縁体(16)における前記色帯部(16a)以外の前記部分(16b)とは少なくとも異なる色で,且つ他の前記絶縁電線(13)の前記内層の絶縁体(19)とも互いに異なる所定色(緑色)とされている
g 低圧引込用電線(1)。」

(2)イ号物件の特定に係る請求人の主張について
ア 請求人は,判定請求書に添付された甲第2号証の1(イ号低圧引込用電線を撮影した写真),甲第2号証の2(イ号低圧引込用電線の断面を撮影した写真),甲第3号証の1(イ号低圧引込用電線の絶縁電線(11)の断面を撮影した写真),甲第3号証の2(イ号低圧引込用電線の絶縁電線(12)の断面を撮影した写真)及び甲第3号証の3(イ号低圧引込用電線の絶縁電線(13)の断面を撮影した写真)(以下,前記甲各号証をまとめて「イ号写真」という。)において,符号16a,17aを「色帯部」,符号16b,17bを「耐候性材質部」とした上で,
(ア)イ号低圧引込用電線は,国内の電力会社の規格に適合して採用され,当該電力会社管内で敷設されていることにより,色帯部(16a,17a)及び耐候性材質部(16b,17b)は,いずれも耐トラッキング性に優れていないとする特段の根拠がない限り,いずれも耐トラッキング性に優れた材質製とされると解することが社会通念上妥当である,
(イ)耐候性材質部(16b,17b)は,カーボンを含有している黒色の絶縁体であることより,カーボンを含有していない黒色以外の絶縁体に比べて紫外線の遮断効果が大きく,耐候性に優れていないとする特段の根拠がない限り,耐候性に優れたものとされると解することが社会通念上妥当である,
(ウ)イ号低圧引込用電線は,国内の電力会社の規格に適合して採用され,当該電力会社管内で敷設されていることより,色帯部(16a,17a)と重なる状態で色帯部内側に位置する部分における耐候性材質部(16b,17b)の厚さを,色帯部(16a,17a)の劣化する屋外使用期間が経過しても屋外使用に必要な耐候性を確保できる厚さとされると解することが社会通念上妥当である,
として,イ号物件は以下のとおりであると主張している。
「a. 3本の絶縁電線(11,12,13)を撚り合わせてなる低圧引込用電線(1)において,
b. 絶縁電線(11)の導体(14)周囲に黒色材質製の絶縁体(15)のみ備える一本(11)を除く残りの絶縁電線(12,13)が,導体(14)周囲に各々所定材質からなる内層(18,19)と外層(16,17)との二層の絶縁体を備えてなり,
c. 外層の絶縁体(16,17)が,各絶縁電線(12,13)ごとに異ならせた色とされる線心識別用の色帯部(16a,17a)を,表面の一部に外層(16,17)厚さより薄い厚みで2本長手方向に連続させて配設される一方,残り部分を耐候性材質部(16b,17b)とされてなり,
d. 色帯部(16a,17a)及び耐候性材質部(16b,17b)は,いずれも耐トラッキング性に優れた材質製とされ,且つ,
e. 耐候性材質部(16b,17b)は,色帯部(16a,17a)と異なる黒色とされて耐候性に優れたものとされ,
f. 色帯部(16a,17a)と重なる状態で色帯部内側に位置する部分における耐候性材質部(16b,17b)の厚さを,色帯部(16a,17)の劣化する屋外使用期間が経過しても屋外使用に必要な耐候性を確保できる厚さとされ,
g. 内層の絶縁体(18)が,外層の絶縁体(16)における色帯部(16a)以外の部分(16b)とは少なくとも異なる色で,且つ他の絶縁電線(13)の内層絶縁体(19)とも互いに異なる所定色(緑色)とされてなる」

イ しかしながら,被請求人もいうように,イ号物件の外層(16,17)の構成部分16a,16b及び17a,17bについて,前記第2(3)のとおり,本件特許発明における「耐トラッキング性に優れた」又は「耐候性に優れたもの」であることを特定するに足りる具体的な主張立証がなされていない。また,イ号写真のみからは,「外層の絶縁体」における「色帯部」以外の部分の厚さが「色帯部の劣化する屋外使用期間が経過しても屋外使用に必要な耐候性を確保できる厚さ」であることを特定することはできず,他にこの厚さを特定し認定するために必要な主張立証もなされていない。
よって,イ号物件は,(1)のとおりであると認定することとし,これと相容れない範囲で,請求人の主張を採用しない。

第4 本件特許発明の各構成要件の充足について
(1)構成要件A,F,Gについて
イ号物件の構成a,f,gは,本件特許発明の構成要件A,F,Gを充足すると認められる。

(2)構成要件Bについて
イ号物件の構成bにおける「前記絶縁電線(11)の導体(14)周囲に黒色材質製の絶縁体(15)のみ備える一本(11)」は,本件特許発明の「前記絶縁電線の」「導体周囲に黒色又は灰色材質製の絶縁体のみ備える一本」に相当するといえる。また,イ号物件の構成bにおける「前記導体(14)周囲に各々所定材質からなる内層の絶縁体(18,19)と外層の絶縁体(16,17)との二層の絶縁体を備えて」なる「残りの前記絶縁電線(12,13)」は,本件特許発明の「導体周囲に各々所定材質からなる内層と外層との二層の絶縁体を備えてな」る「残りの絶縁電線」に相当するといえる。
したがって,イ号物件の構成bは,本件特許発明の構成要件Bを充足すると認められる。

(3)構成要件Cについて
ア イ号物件の構成cにおける「前記外層の絶縁体(16,17)が,各前記絶縁電線(12,13)ごとに異ならせた色とされる線心識別用の色帯部(16a,17a)を,表面の一部に前記外層の絶縁体(16,17)の厚さより薄い厚みで2本長手方向に連続させて配設されており」は,本件特許発明の構成要件Cの「前記外層の絶縁体が,各絶縁電線ごとに異ならせた色及び/又は配置形態とされる線心識別用の色帯部を,表面の一部に外層厚さより薄い厚みで一又は複数本長手方向に連続させて配設される」に相当するといえる。
そして,イ号物件において,「前記外層の絶縁体(16,17)」のうち,「各前記絶縁電線(12,13)ごとに異ならせた色とされる線心識別用の色帯部(16a,17a)を,表面の一部に前記外層の絶縁体(16,17)の厚さより薄い厚みで2本長手方向に連続させて配設され」た部分の残り部分(16b,17b)は,本件特許発明の「前記外層の絶縁体」のうち,「各絶縁電線ごとに異ならせた色及び/又は配置形態とされる線心識別用の色帯部を,表面の一部に外層厚さより薄い厚みで一又は複数本長手方向に連続させて配設され」た部分の「残り部分」に相当するといえる。

イ 次に,イ号物件における前記残り部分(16b,17b)が,本件特許発明の構成要件Cにおける「耐候性材質部」に相当するといえるか否かについて検討する。
上記第2(3)のとおり,本件特許発明における「耐候性」との用語は,紫外線の遮断効果の大きさ,酸化劣化の起こり難さ,及び太陽光の下で劣化による亀裂の生じ難さを示すものと解される。
そして,低圧引き込み用電線は,屋外使用を前提とし,その外層部に太陽光等による劣化の生じ難さ,すなわち本件特許発明における「耐候性」が求められることは,当該技術分野では技術常識といえるから,当該技術常識に照らせば,イ号物件において「外層絶縁体(16,17)」を構成する前記残り部分(16b,17b)は,屋外使用に必要な程度の耐候性を有する材質からなると認められる。また,被請求人もイ号物件において,前記残り部分について,耐候性を有することを前提とした主張をしていることから,この点について積極的に争うものではない。
そうすると,イ号物件における前記残り部分は,本件特許発明の構成要件Cにおける「耐候性材質部」に相当するといえる。

ウ したがって,イ号物件の構成cは,本件特許発明の構成要件Cを充足すると認められる。

(4)構成要件Dについて
ア 本件特許発明における「耐候性に優れた」との文言は,上記第2(3)のとおり,従来の低圧引込用電線において導体を被覆する絶縁体外側に使用されていた,カーボンが含まれた樹脂における「耐候性」と同程度のものと解される。
また,同様に,本件特許発明における「耐トラッキング性」との用語は,絶縁電線におけるトラッキング現象,すなわち絶縁電線の湿潤又は汚損した絶縁体表面に流れる漏れ電流より起きる放電現象の発生し難さを示すものと解され,また,本件特許発明における「耐トラッキング性に優れた」との文言は,従来,低圧引込用電線として使用されていたポリ塩化ビニル製絶縁体における「耐トラッキング性」よりも優れたものと解される。

イ 他方,上記(3)より,本件特許発明の構成要件Cにおける「耐候性材質部」に相当すると認められる,イ号物件の構成dにおける「前記外層の絶縁体(16,17)のうち前記色帯部(16a,17a)以外の部分(16b,17b)」は,「前記色帯部(16a,17a)と異なる黒色とされて」いることから,当該技術分野において,黒色の絶縁体としてカーボンが含まれた樹脂を用いることは技術常識であって,カーボンが含まれた樹脂における「耐候性」と同程度の耐候性を備えたものと認められる。
してみれば,イ号写真より,イ号物件の構成dにおける「前記外層の絶縁体(16,17)のうち前記色帯部(16a,17a)以外の部分(16b,17b)」が,本件特許発明の構成要件Dにおける「耐候性に優れたもの」に相当するということはできる。
しかし,イ号物件の「外層の絶縁体(16,17)」における「色帯部(16a,17a)」,及び「前記外層の絶縁体(16,17)のうち前記色帯部(16a,17a)以外の部分(16b,17b)」が,いずれも,ポリ塩化ビニル製絶縁体よりも優れた「耐トラッキング性」を備えた材質からなるとの構成は,イ号写真に示されているとは認められず,イ号物件が上記の構成を備えているということはできない。
そうすると,イ号物件の「外層の絶縁体(16,17)」における「色帯部(16a,17a)」,及び「前記外層の絶縁体(16,17)のうち前記色帯部(16a,17a)以外の部分(16b,17b)」が,いずれも,本件特許発明の構成要件Dにおける「耐トラッキング性に優れた」ものであるとは認められない。

ウ したがって,イ号物件は,本件特許発明の構成要件Dを充足するとは認められない。

(5)構成要件Eについて
ア イ号写真から認められるイ号物件の構成c及びd,すなわち,「前記外層の絶縁体(16,17)が,各前記絶縁電線(12,13)ごとに異ならせた色とされる線心識別用の色帯部(16a,17a)を,表面の一部に前記外層の絶縁体(16,17)の厚さより薄い厚みで2本長手方向に連続させて配設されており」,「前記外層の絶縁体(16,17)のうち前記色帯部(16a,17a)以外の部分(16b,17b)は,前記色帯部(16a,17a)と異なる黒色とされており」との構成より,イ号物件における「前記外層の絶縁体(16,17)のうち前記色帯部(16a,17a)以外の部分(16b,17b)」の一部が,「外層の絶縁体(16,17)」における「色帯部(16a,17a)」と重なる状態で,前記「色帯部(16a,17a)」内側に位置し,一定の厚さを有することは認められる。
しかし,イ号写真からは,イ号物件の「前記外層の絶縁体(16,17)のうち前記色帯部(16a,17a)以外の部分(16b,17b)」における,前記「色帯部(16a,17a)」内側に位置する部分の厚さが,前記「色帯部(16a,17a)」の劣化する屋外使用期間経過後における屋外使用に必要な耐候性を確保できる厚さとされていることまでは認められない。
そうすると,イ号物件は,本件特許発明の構成要件Eに相当する構成を備えているとはいえない。

イ したがって,イ号物件は,本件特許発明の構成要件Eを充足するとは認められない。

第5 むすび
以上のとおり,イ号物件は,本件特許発明の構成要件D及びEを充足しないから,本件特許発明の技術的範囲に属さない。

よって,結論のとおり判定する。
 
別掲 (イ号写真)

 
判定日 2015-07-10 
出願番号 特願2006-9782(P2006-9782)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (H01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 敬士前田 寛之  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 小野田 誠
加藤 浩一
登録日 2012-09-21 
登録番号 特許第5088917号(P5088917)
発明の名称 低圧引込用電線  
代理人 豊岡 静男  
代理人 平井 安雄  
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