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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 1項2号公然実施  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1303206
審判番号 無効2008-800055  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-03-27 
確定日 2015-07-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3737801号発明「プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム、並びにそれを含む組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

(1)本件特許第3737801号の請求項1?9に係る発明についての出願は,2001年10月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年10月5日,米国)を国際出願日として出願され,平成17年11月4日にその発明について特許の設定登録がされたものである。

(2)これに対して,請求人は,「特許第3737801号の請求項1?9に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めた。請求の理由として,請求人は甲第1号証を提出し,本件特許の請求項1?9に係る発明は,本件特許の出願前に公然実施された発明であるか,甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第2号又は第3号に規定する発明に該当し特許を受けることができないものであり,また,本件特許の請求項1?9に係る発明は,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張した。さらに,請求人は,本件特許の請求項1?9の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないと主張した。

(3)被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め,上記請求人の主張する無効理由は,いずれも理由がない旨主張して,平成20年7月22日に答弁書,及び乙第1?7号証を提出するとともに,同日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。

(4)これに対し,請求人は,平成20年10月31日付け口頭審理陳述要領書及び証拠方法として甲第2?9号証を提出し,同陳述要領書の6-2,6-3において,訂正後の請求項1?9に係る発明は,特許法第29条第1項第2号又は第3号に規定する発明に該当し,また,請求項1?9に係る発明は,同条第2項の規定により特許を受けられないものである旨の無効理由を追加する請求の理由の補正を行った。そして,この補正は平成20年11月14日に行われた第1回口頭審理において許可された。なお,口頭審理陳述要領書の6-3の記載は,同第8頁末行?第9頁第1行,第9頁第5行の「甲第4号証(甲第5及び6号証)に記載された発明から」を「公然実施された発明であるプラバスタチンナトリウムの原末のサンプルの発明(甲第5号証参照)及び甲第6号証に記載された発明から」と補正された。(第1回口頭審理調書参照)。

(5)被請求人は,平成20年10月31日付け口頭審理陳述要領書及び乙第8?12号証,平成20年11月14日付け上申書を提出した。そして,平成21年1月5日付け答弁書(2)及び乙第13?23号証,平成21年1月29日付け上申書(2)及び乙第23,24号証,平成21年2月27日付け上申書(3),平成21年3月13日付け上申書(4)及び平成21年7月24日付け上申書(5)を提出した。

(6)請求人は平成20年10月10日付け上申書,平成21年1月15日付け上申書,平成21年2月16日付け弁駁書及び証拠方法として甲第10?19号証,平成21年6月1日付け上申書及び証拠方法として甲第21号証を提出した。

2.訂正請求について
(1)訂正の内容
平成20年7月22日に提出された訂正請求の内容は,本件特許の設定登録時の特許明細書を前記訂正請求書に添付した明細書のとおりに訂正しようとするものである。
すなわち,明細書の特許請求の範囲を
「【請求項1】
次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
e)プラバスタチンナトリウム単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。
【請求項2】
水性の培養液を第一の有機溶媒で抽出し,8.0?9.5のpHの水溶液でプラバスタチンを逆抽出し,塩基性溶液を2.0?3.7のpHに酸性化し,そして酸性化した水溶液を第二の有機溶媒で抽出してプラバスタチンの濃縮有機溶液を形成する,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項3】
第一と第二の有機溶媒が酢酸イソブチルである,請求項2に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項4】
アンモニウム塩が少なくとも1回の結晶化によって,水と逆溶媒の混合物から精製される,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項5】
逆溶媒が酢酸イソブチル及びアセトンから成る群から選択される,請求項4に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項6】
塩化アンモニウム塩が水と逆溶媒の混合物に添加され,アンモニウム塩の結晶化を誘導する,請求項4に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項7】
アンモニウム塩が,酸性又はキレート型のイオン交換樹脂を用いて置き換えられる,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項8】
プラバスタチンナトリウムが再結晶化によって単離される,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項9】
プラバスタチンナトリウムが凍結乾燥によって単離される,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。」
から
下記のとおりに訂正することを求めるものである。
「【請求項1】
次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
e)プラバスタチンナトリウムを単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。
【請求項2】
水性の培養液を第一の有機溶媒で抽出し,8.0?9.5のpHの水溶液でプラバスタチンを逆抽出し,塩基性溶液を2.0?3.7のpHに酸性化し,そして酸性化した水溶液を第二の有機溶媒で抽出してプラバスタチンの濃縮有機溶液を形成する,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項3】
第一と第二の有機溶媒が酢酸イソブチルである,請求項2に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項4】
アンモニウム塩が少なくとも1回の結晶化によって,水と逆溶媒の混合物から精製され
る,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項5】
逆溶媒が酢酸イソブチル及びアセトンから成る群から選択される,請求項4に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項6】
塩化アンモニウム塩が水と逆溶媒の混合物に添加され,アンモニウム塩の結晶化を誘導する,請求項4に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項7】
アンモニウム塩が,酸性又はキレート型のイオン交換樹脂を用いて置き換えられる,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項8】
プラバスタチンナトリウムが再結晶化によって単離される,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項9】
プラバスタチンナトリウムが凍結乾燥によって単離される,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。」

この訂正は,
ア.「e)プラバスタチンナトリウム単離すること」を「e)プラバスタチンナトリウムを単離すること」と,
イ.「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満である」を「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満である」と
することを求めるものである。

(2)訂正の可否
ア.について
「e)プラバスタチンナトリウム単離すること」を「e)プラバスタチンナトリウムを単離すること」とする訂正は,脱字を記載するものであり,誤記の訂正を目的とするものである。そして,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
イ.について
「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満である」を「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満である」とする訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,本件特許明細書には,プラバスタチンラクトン,エピプラバの混入量について,段落【0031】には,「・・・以下の例で示すように,プラバスタチンナトリウムは,プラバスタチンラクトンの混入が0.5%(w/w)未満で且つエピプラバの混入が0.2%(w/w)未満で単離されうる。プラバスタチンナトリウムは更に,2つが例1及び3で例示される,本発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる。」と記載されており,この訂正は,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。また,実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。
(3)むすび
したがって,平成20年7月22日に訂正請求書を提出して求めた訂正は,特許法第134条の2第1項第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とし,かつ,同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので,当該訂正を認める。

3.請求人の主張
請求人が主張する無効理由,及び証拠方法は以下のとおりである。(上記1(4)参照)
なお,以下,上記訂正後の明細書を「本件特許明細書」,上記訂正後の明細書の請求項1?9に係る発明を,各々「本件特許発明1」?「本件特許発明9」という。

<無効理由>
A-1 本件特許発明1?9は,甲第1号証に記載された発明であるか,又は,本件特許の出願前に公然実施されていた発明であるから,当該特許は,特許法第29条第1項第3号又は第2号の規定により特許を受けることができないものである。
A-2 本件特許発明1?9は,甲第2号証に記載された発明であるか,又は,本件特許の出願前に公然実施されていた発明であるから,当該特許は,特許法第29条第1項第3号又は第2号の規定により特許を受けることができないものである。
B-1 本件特許発明1?9は,甲第1号証に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,当該特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
B-2 本件特許発明1?9は,甲第2号証に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,当該特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
B-3 本件特許発明1?9は,公然実施された発明であるプラバスタチンナトリウムの原末のサンプルの発明(甲第5号証参照)及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,当該特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
B-4 本件特許発明1?9は,甲第1号証に記載された発明又は本件特許の出願前に公然実施されていた発明であるプラバスタチンナトリウムの製剤の発明(甲第1号証参照),及び,甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,当該特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
B-5 本件特許発明1?9は,甲第2号証に記載された発明又は本件特許の出願前に公然実施されていた発明であるプラバスタチンナトリウムの原末のサンプルの発明(甲第2号証参照),及び,甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,当該特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
C-1 特許請求の範囲に規定される不純物の含有量について特許請求の範囲に記載された「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満である」は,発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に具体例を開示せず,本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことから,本件特許は特許法第36条第6項第1号に違反してなされたものであり,また,特許法第36条第4項に違反してなされたものである。

<請求人が提出した証拠方法>
甲第1号証:三共株式会社発行「医薬品インタビューフォーム(メバロチン錠)1997年10月改定版」
甲第2号証:「PRODUCT SPECICATIONS AND CERCIFICATE OF ANALYSIS」(写し)
作成者 被請求人(被請求人の前身であるビオガル社)
甲第3号証:平成20年9月10日付書簡(写し)
作成者 多田 與志一
甲第4号証:プラバスタチンの精製試験(写し)
作成者 株式会社東レリサーチセンター 生物科学第2研究室長 川口 謙
甲第4の2号証:平成20年10月29日付けの東京地方裁判所民事第29部宛ての書面
作成者 株式会社東レリサーチセンター 生物科学第2研究室長 川口 謙
甲第5号証:平成20年5月30日付書簡(写し)
作成者 豊田 弘
甲第6号証:PHARMEUROPA VOL.12,No.1January 2000 114?116頁(写し)
作成者 欧州評議会(Council of Europe)
甲第7号証:平成16年9月24日付「意見書」(参考資料3)
甲第8号証:PCT(WO 2002/030415 A1)公報
甲第9号証:第十四改正 日本薬局方 通則(3?5頁)
甲第10号証:平成18年(行ケ)第10316号審決取消請求事件の知的財産高等裁判所判決
甲第11号証:平成21年2月9日付陳述書
作成者 亀田 修
甲第12号証:平成21年2月9日付陳述書
作成者 杉山 元成
甲第13号証:平成21年2月13日付書簡
作成者 加藤 英之
甲第14号証:平成21年2月12日付陳述書
作成者 深浦 洋
甲第15号証:平成21年2月13日付陳述書
作成者 秦 敏巳
甲第16号証:平成21年2月13日付書簡
作成者 八久 義雄
甲第17号証:平成21年2月10日付書簡
作成者 多田 興志一
甲第18号証:平成21年2月13日付陳述書
作成者 河部 秀男
甲第19号証:平成21年2月10日付陳述書
作成者 城野 光隆
甲第20号証:特開昭59-48418号公報
甲第21号証:平成11年(行ケ)第437号異議決定取消請求事件の東京高等裁判所判決

4.被請求人の主張
一方,被請求人は,請求人が主張する無効理由は成り立たない旨主張し,以下の証拠方法を提出した。

<被請求人が提出した証拠方法>
乙第1号証:特許無効審判事件(審判番号;無効2004‐80024)の審決
乙第2号証:平成17年(行ケ)第l0781号審決取消請求事件の知的財産高等裁判所判決
乙第3号証:詳細な精製表(乙第4号証にプリントアウトされた数値を表にまとめたもの)
乙第4号証:サンプル情報(本件特許公報に記載の実施例の基礎となった実験ノートの抜粋(HPLCチャート及びHPLC機によりプリントアウトされた数値データ))
乙第5号証:平成19年(行ケ)第10l20号審決取消請求事件の知的財産高等裁判所判決
乙第6号証:国際公開92/16276号(WO92/16276)
乙第7号証:WO92/16276に基づく実験報告書 2008年7月
作成者 ビルモッシュ・ケリ博士
乙第8号証:第十五改正 日本薬局方解説書 2006(唐川書店)
乙第9号証:実験報告及び訳文
乙第10号証:特許第3463875号に係る拒絶査定に対する査定不服審判(不服2003‐4030)の理由補充書の写し
乙第11号証:従来技術の精製方法
乙第12号証:実験成績証明書の写し
乙第13号証:マイケル・ピーターソン氏陳述書及びその訳文
乙第14号証:欠番
乙第15号証:大平原孝氏陳述書
乙第16号証:谷口恵氏陳述書
乙第17号証:“Pravastatin Development Report - Reproduction of experiments made by Toray”及びその訳文(「プラバスタチン開発レポート 東レによる実験の再現」)(平成21年1月29日付け上申書(2)に添付)
乙第18号証:ビルモッシュ・ケリ博士の陳述書及びその訳文
乙第19号証:第十五改正日本薬局方の「プラバスタチンナトリウム」の項目
乙第20号証:第十四改正日本薬局方の一般試験法に関する項目のうち,液体クロマトグラフ法に関する項目
乙第21-1?21-42号証:特許公開公報の抜粋
乙第22-1?22-7号証:英文特許公報及び英文特許公開公報の抜粋
乙第23-1号証:平成11年(行ケ)第368号審決取消請求事件の東京高等裁判所判決
乙第23-2号証:平成19年(行ケ)第10430号審決取消請求事件の知的財産高等裁判所判決
乙第24号証:ビルモッシュ・ケリ博士の履歴書

5.本件特許発明に対する判断

(1)本件特許発明
本件特許発明1?9は,本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
e)プラバスタチンナトリウムを単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。
【請求項2】
水性の培養液を第一の有機溶媒で抽出し,8.0?9.5のpHの水溶液でプラバスタチンを逆抽出し,塩基性溶液を2.0?3.7のpHに酸性化し,そして酸性化した水溶液を第二の有機溶媒で抽出してプラバスタチンの濃縮有機溶液を形成する,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項3】
第一と第二の有機溶媒が酢酸イソブチルである,請求項2に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項4】
アンモニウム塩が少なくとも1回の結晶化によって,水と逆溶媒の混合物から精製され
る,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項5】
逆溶媒が酢酸イソブチル及びアセトンから成る群から選択される,請求項4に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項6】
塩化アンモニウム塩が水と逆溶媒の混合物に添加され,アンモニウム塩の結晶化を誘導する,請求項4に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項7】
アンモニウム塩が,酸性又はキレート型のイオン交換樹脂を用いて置き換えられる,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項8】
プラバスタチンナトリウムが再結晶化によって単離される,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項9】
プラバスタチンナトリウムが凍結乾燥によって単離される,請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。」

(新規性について)
(2)<無効理由>A-1について
(2)-1 特許法第29条第1項第3号
ア.甲第1号証
甲第1号証「医薬品インタビューフォーム(メバロチン錠)1997年10月改定版」記載のメバロチン錠はプラバスタチンナトリウム製剤であって,同号証には,「IV.製剤に関する項目 6.混入する可能性のある夾雑物」の項に,「本品は99%前後の含量を有する高純度品であるため,本品中に含まれる類縁物質は微量である。本品をHPLCで測定した時の結果を次に示す。」と記載され,続いて示された表中には,RMS-414(審決注:プラバスタチンラクトン)の面積百分率が0.02?0.06%,RMS-418(審決注:エピプラバ)の面積百分率が0.19?0.65%であることが示されている。

イ.対比・判断
甲第1号証のメバロチン錠は,HPLCで測定した時の面積百分率で,類縁物質としてプラバスタチンラクトンを0.02?0.06%,エピプラバを0.19?0.65%含有するプラバスタチンナトリウム製剤である。ここで,面積百分率の値は,いずれもプラバスタチンの類縁体でありほぼ同じ分子量をもつものであるから,重量%で表示した値とほとんど同じである。
これに対して,本件特許発明1は,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムであるから,エピプラバの混入量の点で甲第1号証に記載された発明と異なる。
また,本件特許発明1を引用し,さらに特定事項を付する本件特許発明2?9についても同様である。
よって,本件特許発明1?9は,甲第1号証に記載された発明とすることはできない。
(2)-2 特許法第29条第1項第2号
上記(2)-1と同様の理由により,本件特許発明1は,甲第1号証にその説明が記載されている本出願前に販売されていたメバロチン錠の発明とすることはできない。
また,本件特許発明1を引用し,さらに特定事項を付する本件特許発明2?9についても同様である。
よって,本件特許発明1?9は,本件特許の優先日前に公然実施をされた発明とすることはできない。

(3)<無効理由>A-2について
(3)-1 特許法第29条第1項第3号
ア.甲2号証の書面及びその分析対象のサンプルの公知性・公然性
請求人は,甲第2号証の「PRODUCT SPECIFICATIONS AND CERTIFICATE OF ANALYSIS 」及びその分析対象のサンプルが,本件特許の優先日前に誰でも入手可能であったと主張し,甲第3号証,甲第11?16号証を提出している。
これに対して,被請求人は,医薬品業界における商習慣及び信義則上,提供された原薬や試験成績書の情報について提供を受けた者は秘密保持義務を負うのは当然であり,甲第2号証の書面及びその分析対象のサンプルの提供に当たり,特に,秘密保持契約は締結していないが,直接面談し,秘密保持義務があるという了解のもとに提供したものであると主張している。
そこで,請求人の提出した証拠について検討するに,甲第3号証の「平成20年9月10日付書簡」は,本件無効審判請求後の平成20年9月10日に甲第2号証の書面及び分析対象のサンプルを配布されたとされる製薬企業の購買部長が請求人企業の従業員である知的財産部長に宛てて個人として作成した書簡であり,その「当該サンプル及び成績証明書は誰でも入手できるものでした。」との個人的見解を示すだけの文面をもって甲第2号証の書面及びその分析対象のサンプルが誰にでも入手可能であったとすることはできない。甲第11号証?15号証の平成21年2月12日付けあるいは平成21年2月13日付けの陳述書は,いずれも各企業の役員の,各社において提供を受けた原薬のサンプル及び仕様書については秘密保持契約が締結されていない場合は秘密保持義務はないと考えているとの各個人の見解を示すものであり,これらの証拠をもって秘密保持契約が締結されていなければ秘密保持義務はないとするのが医薬品業界における常識であるとすることはできず,秘密保持契約書が提出されていないことをもって,甲第2号証の書面及びその分析対象のサンプルが誰でも入手可能であったとすることはできない。
甲16号証の「平成21年2月13日付書簡」は本件無効審判請求後の平成21年2月13日に甲第2号証の書面及びサンプルを配布されたとされる製薬企業の法務部長が請求人企業の従業員である知的財産部長に宛てて個人として作成した書簡であり,その「弊社では,・・・秘密保持の要請に合意しない場合もしくは秘密保持契約を結ばない場合は,サンプルおよびその資料等に対して関して保護義務はないものとして扱っております。」との個人的見解を示すものである。
さらに,甲第16号証には「秘密保持に関する契約がないことおよび秘密保持の要請を受けていないことを,弊社の社内調査で確認し,かつ・・・株式会社(審決注:サンプル等を提供した代理店)からの公式見解として書面で確認しております。」とも記載されているが,社内調査の内容については何ら説明がなく,また,添付された資料は,本件無効審判請求後の平成21年2月12日に甲第2号証の書面及びサンプルを仲介した有機ファイン部の部統括が甲第2号証の書面及びサンプルを配布されたとされる製薬企業の法務部長に宛てて個人として作成した書簡であり(添付資料には作成者の認め印とともに角印が押されているが会社の一部署の印であり法人としての会社の印ではない。),その内容も「残っている当時の記録を調べた限りでは・・・秘密保持義務を要求していた事実は御座いませんでした。弊社としても,・・・御社に対して秘密保持の義務を要求した事実はないと考えております。」というものであり,提供者と代理店の間の関係については,残っている当時の記録を調べた限りの結論であり,代理店と提供先の製薬企業の間の関係については個人的見解を示しているだけである。
したがって,甲第16号証をもって,甲2号証の書面及びその分析対象のサンプルが誰にでも入手可能であったとすることはできない。
甲第17号証の「平成21年2月10日付書簡」は,本件無効審判請求後の平成21年2月10日に甲第2号証の書面及び分析対象のサンプルを配布されたとされる製薬企業の購買部長が請求人企業の従業員である知的財産部長に宛てて個人として作成した書簡であり,その「当該サンプル及び成績証明書は誰でも入手できるものでした。・・・秘密事項であるとの契約・説明は受けておりません。」との個人的見解を示す文面をもって甲第2号証の書面及びその分析対象のサンプルが誰でも入手可能であったとすることはできない。
以上のとおり,請求人の提出した証拠からは,甲第2号証の「PRODUCT SPECIFICATIONS AND CERTIFICATE OF ANALYSIS 」及びその分析対象のサンプルが,本件特許の優先日前に誰でも入手可能であったとすることはできない。
なお,上記当審の判断は,甲第2号証の書面に押された「Sample for experimental purposes only」なる記載に基づくものではなく,同記載が秘密保持義務を示すものであるとすることができるかどうかにより影響を受けるものではない。

イ.甲第2号証
甲第2号証は,プラバスタチンナトリウム製品 バッチNo.PR-00100の仕様および分析結果の証明に関する書面であって,その関連物質の項に,エピプラバスタチンが0.11%,プラバスタチンラクトンが0.03%であることが記載されている。

ウ.対比・判断
本件特許発明1は,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムである。ここで,エピプラバとは,本件特許明細書の段落【0006】に,「プラバスタチンC-6エピマー(「エピプラバ(epiprava)」)と記載があるとおり,エピプラバスタチンと同義であることは明らかである。他方,甲第2号証記載のプラバスタチンナトリウム製品中のプラバスタチンラクトン量は0.03%,エピプラバスタチン量は0.11%である。
したがって,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムである本件特許発明1は,エピプラバの混入量の点で甲第2号証に記載された発明とは異なる。
前記エピプラバの混入量の数値の差異について,請求人は,本件特許発明においては,小数点以下1桁までの単位までしか規定しておらず,本件特許発明は小数点以下2桁までの数値の正確性を問題としていないことを意味するものであるのに対し,甲2号証によるおける小数点以下2桁までの数値と本件特許発明の数値の差異は「0.01」であり,この差異はせいぜい測定誤差程度にすぎず,実質的な相違点とはいえないので,甲第2号証にも,実質的に訂正発明の「0.1重量%未満」に相当する値が示されているとみるべきである,と主張する。
本件特許発明1は,「エピプラバの混入量が0.1重量%未満である」プラバスタチンナトリウムであり,「0.1重量%未満」という数値範囲については本件特許明細書には特に説明や定義はない。そうすれば,「0.1重量%未満」という数値範囲は,文理解釈によれば0.1を含まずそれより小さい値であるから,0.11重量%を含まないことは明らかである。
そして,甲第2号証のエピプラバスタチン量の「0.11%」という数値は誤差を含んだ値であり,真の値は「0.1重量%未満」であった旨の主張についても、何ら立証を行っておらず,請求人の主張するように「甲第2号証にも,実質的に訂正発明の「0.1重量%未満」に相当する値が示されている」とはいえない。

エ.まとめ
以上のとおりであるから,甲第2号証は,本件特許の優先日前に頒布された刊行物にはあたらない。
また,本件特許発明1は,甲第2号証に記載された発明であるとすることはできず,本件特許発明1を引用し,さらに特定事項を付する本件特許発明2?9も同様の理由により甲第2号証に記載された発明であるとすることはできない。

(3)-2 特許法第29条第1項第2号
上記(3)-1と同様の理由により,甲第2号証の分析対象のサンプルは,本件特許の優先日前に公然実施をされた発明にはあたらない。
また,本件特許発明1は,甲第2号証の分析対象のサンプルの発明であるとすることはできず,本件特許発明1を引用し,さらに特定事項を付する本件特許発明2?9も同様の理由により甲第2号証の分析対象のサンプルの発明であるとすることはできない。

(3)-3 小括
甲第2号証の「PRODUCT SPECIFICATIONS AND CERTIFICATE OF ANALYSIS 」及びその分析対象のサンプルをもって,本件特許発明1?9は,本件特許の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるとすることはできないし,本件特許の優先日前に公然実施をされた発明であるとすることもできない。

(進歩性)
(4)<無効理由>B-1について
ア.甲第1号証
甲第1号証には,上記(2)-1 ア.において指摘した事項が記載されている。

イ.対比・判断
本件特許発明1はプラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムであるのに対し,甲第1号証に記載された発明はプラバスタチンラクトンを0.02?0.06%,エビプラバを0.19?0.65 %を含有するプラバスタチンナトリウムであるから,両発明は,エビプラバの混入量の点で異なる。
請求人は,一般に,医薬品等に用いられる有機化学物質の純度を高め,不純物である有機化学物質の混入量を低減させようとすることは当業者が普通におこなうことであるから有機化学物質自体の発明の進歩性の判断に際しては,純度や混入不純物量で特定された有機化学物質に係る発明が,公知の高純度の有機化学物質に係る発明に対して進歩性が認められるのは,公知の発明から予測できない技術的な効果を奏する場合に限られると解せられるとした上で,本件特許発明はいずれも当業者の予測を超えた技術的効果(例えば,優れた治療効果)を奏するものではなく進歩性を有しないと主張している。
医薬品に関する技術分野において,その有効成分である化学物質をできるだけ高純度で得ることは当然の課題であるとしても,有効成分である化学物質をある純度以上に高純度とする手段を当業者が容易に想到し得ない場合は,そのような高純度の有効成分である化学物質の発明は,当業者が容易に発明をすることができるものではない。
そこで,上記相違点について,エビプラバの混入量を0.1重量%未満とする手段を当業者が容易に想到し得るかどうかを以下検討する。
エピプラバは,本件特許明細書の段落【0006】に,「プラバスタチンC-6エピマー(「エピプラバ(epiprava)」)と記載があるとおり,プラバスタチンC-6エピマーであって,プラバスタチンと6位の置換基の立体配置が異なるのみの化学構造がきわめて類似した化合物であり,エビプラバをプラバスタチンと分離することは困難である。さらに,プラバスタチンラクトンは,プラバスタチンの分子内反応により生成し,この反応は精製工程においても生ずる(乙第3号証の第2頁目(例3))ものであり,エビプラバの混入量を減少させるために,精製を繰り返すとプラバスタチンラクトンの混入量が増大するおそれがある。
そうすると,本件特許発明1のプラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムは,単に精製工程を繰り返せば得られるというものではない。
そして,本件特許明発明1は,プラバスタチンをアンモニウム塩の形態で「塩析結晶化」するという甲第1号証には記載されていない工程を採用することにより,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムを得ることができるものである。
したがって,甲第1号証に基づいて,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムを得るための手段を当業者が容易に想到することはできない。
また,本件特許発明1を引用し,さらに特定事項を付する本件特許発明2?9についても同様である。
よって,本件特許発明1?9は,甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
なお,同様の理由により,本件特許発明1?9は,甲第1号証にその説明が記載されている本出願前に販売されていたメバロチン錠の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできないことを念のために記す。

(5)<無効理由>B-2について
ア.甲2号証の書面及びその分析対象のサンプルの公知性・公然性
上記(3)-1 ア.のとおり,請求人の提出した証拠からは,甲第2号証の書面及びその分析対象のサンプルが,本件特許の優先日前に誰でも入手可能であったとすることはできない。

イ.甲第2号証
甲第2号証は,プラバスタチンナトリウム製品 バッチNo.PR-00100の仕様および分析結果の証明に関する書面であって,その関連物質の項に,エピプラバスタチンが0.11%,プラバスタチンラクトンが0.03%であることが記載されている。

ウ.対比・判断
上記(3)-1 ウ.のとおり,「甲第2号証にも,実質的に訂正発明の「0.1重量%未満」に相当する値が示されている」とはいえない。
したがって,本件特許発明1はプラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムであるのに対し,甲第2号証に記載された発明はエピプラバスタチンが0.11%,プラバスタチンラクトンが0.03%であるから,両発明は,エビプラバの混入量の点で異なる。
そして甲第2号証には,プラバスタチンをアンモニウム塩の形態で「塩析結晶化」するという精製工程は記載されておらず,上記(4)イ.のとおり,甲第2号証に基づいて,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムを得るための手段を当業者が容易に想到することはできない。

エ.まとめ
以上のとおりであるから,甲第2号証は,本件特許の優先日前に頒布された刊行物にはあたらない。
また,本件特許発明1は,甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。本件特許発明1を引用し,さらに特定事項を付する本件特許発明2?9も同様の理由により甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
なお,同様の理由により,本件特許発明1?9は,甲2号証の書面の分析対象のサンプルの発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできないことを念のために記す。

(6)<無効理由>B-3について
ア.原末のサンプル(甲第5号証参照)
甲第5号証の「平成20年5月30日付書簡」は,本件無効審判請求後の平成20年5月30日に,原末のサンプルを入荷したとされる製薬企業の物性分析研究部長が請求人企業の従業員である知的財産部長に宛てて個人として作成した書簡であり,原末の小瓶「プラバスタチンNa Biogal 81100100100」を請求人の要請により提供すること,当該小瓶は,2000年7月10日に入荷した原末(Lot.81100100100)を小分けしたものであること,2000年8月21日に当該製薬企業で純度等を試験した結果を示す文書である「原末試験成績結果」を添付したこと,2000年7月当時,当該原末は誰でも入手できるものであり,秘密事項であるとの契約・説明等はなかったことが記載されている。
しかし,本件無効審判請求後に個人として作成した書簡である甲第5号証の,「2000年7月10日に入荷した」,「2000年7月当時,当該原末は誰でも入手できるものであり,・・・秘密事項であるとの契約・説明等は・・・ありませんでした」との個人的見解を示した文面をもって原末のサンプルが本願の優先日前に入荷されたものであり,誰でも入手可能であったとすることはできない。
また,請求人が甲第18号証として提出した「平成21年2月13日付陳述書」は,請求人企業から会社分割により分割された企業の従業員である技術開発部マネジャーが本件無効審判請求後の平成20年12月18日に行ったとするサンプル受領企業のサンプル受領に関する資料についての調査の結果について述べた陳述書である。原末のサンプル(Lot.81100100100)の受領日(入荷日)については,同陳述書に添付された資料から本件特許の優先日前と推測されるが,原末のサンプル(Lot.81100100100)についての秘密保持に関しては,何ら資料は添付されておらず,「秘密保持の要請は全く受けていないとのことでした。」との伝聞が記載されているだけである。以上のとおりであるから,甲第18号証をもって,原末のサンプルが本願の優先日前に,誰でも入手可能であったとすることはできない。

イ.甲第6号証
甲第6号証の「PHARMEUROPA VOL.12,No.1January 2000 114?116頁」は,本件特許の優先日前の2000年1月に欧州評議会により作成された「PHARMEUROPA」の「プラバスタチンナトリウム」の項であって,当該刊行物には,液体クロマトグラフィによりプラバスタチンナトリウム(C_(23)H_(35)NaO_(7))の百分含有量(percentage content)を検査する方法が記載されている。同号証には,検査溶液の調製方法,クロマトグラフィ工程の操作条件,プラバスタチンナトリウムの百分含有量の計算式等が記載され,さらに,不純物Aとプラバスタチンのピーク間の分離度が7.0以下の場合は検査は無効であることが記載されている。そして,上記不純物として,不純物A 6’-エピプラバスタチンナトリウム(審決注:エピプラバ),不純物B (3R,5R)-3,5-ジヒドロキシ-7-[1S,2S,6S,8S,-8aR)]6-ヒドロキシ-8-[[(2S,3R)-3-ヒドロキシ-2-メトキシブタノイル]オキシ]-2-メチル-1,2,6,7,8,8a-ヘキサヒドロナフタレン-1-イル]ヘプタン酸ナトリウム(3’’-ヒドロキシ-プラバスタチンナトリウム),不純物C (3S,5S)-3,5-ジヒドロキシ-7-[1S,2S,6S,8S,-8aR)]6-ヒドロキシ-2-メチル-8-[[(2S)2-メチル-ペンタノイル]オキシ]-2-メチル-1,2,6,7,8,8a-ヘキサヒドロナフタレン-1-イル]ヘプタン酸ナトリウムが記載されている。

ウ.甲第4号証
甲第4号証は,請求人の依頼により当事者外の研究所の研究室長が本件無効審判請求後の平成20年10月16日に作成した「プラバスタチンの精製試験」という表題の試験結果報告書であり,プラバスタチンナトリウムの原末のサンプル(甲第5号証参照)の分析結果,及び該サンプルを出発物質とし,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法による分取実験により分取されたプラバスタチンナトリウムの分析結果が記載されている。同号証には,原末のサンプルはプラバスタチンラクトンを0.35%,エピプラバを0.10%含むプラバスタチンナトリウムであり,分取後のプラバスタチンナトリウムは,プラバスタチンラクトンを0.14%含み,エピプラバは検出されなかったことが記載されている。

エ.判断
(イ)上記ア.のとおり,プラバスタチンナトリウムの原末のサンプルの発明(甲第5号証参照)は,本件特許の優先日前に公然実施された発明ということはできない。
(ロ)本件特許発明1は,エピプラバの混入量,プラバスタチンラクトンの混入量をともに一定量以下に抑えるプラバスタチンナトリウムに係る発明である。これに対して,プラバスタチンナトリウムの百分含有量を検査する方法に関する甲第6号証には,同号証記載の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で,プラバスタチンナトリウムと不純物A,B,Cが分離されること,プラバスタチンナトリウムと不純物Aとのピーク分離率度が7.0以下の場合は検査は無効である,すなわち,記載された方法に正確に従えば7.0より大きくなることが記載されている。ここで,不純物Aはエピプラバであるから,甲第6号証には,プラバスタチンナトリウムとエピプラバとのピーク分離率度が7.0より大きくなるように分離できることが記載されている。
しかしながら,不純物B,Cはいずれもプラバスタチンラクトンではなく,甲第6号証記載の検査方法においては,プラバスタチンラクトンは検査対象不純物として認識されておらず,プラバスタチンラクトンについては何ら言及がなされていない。
そうすると,甲第6号証の記載からは,同号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法が,プラバスタチンラクトンとプラバスタチンナトリウムを分離できるものであるかどうかは不明であり,エピプラバの混入量,プラバスタチンラクトンの混入量をともに一定量以下に抑えるために,甲第6号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を採用することを当業者が容易に想到し得るということはできない。
なお,請求人は「分析方法」を「精製方法」に転用することは通常行われていることであると主張しているが,仮にそうであるとしても,上記のとおり甲第6号証の記載からはプラバスタチンラクトンとプラバスタチンナトリウムを分離できるものであるかどうかは不明であり,エピプラバの混入量,プラバスタチンラクトンの混入量をともに一定量以下に抑えるために,甲第6号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を採用することを当業者が容易に想到し得るということはできないとの判断に変わりはない。
(ハ)以上のとおり,プラバスタチンナトリウムの原末のサンプルの発明(甲第5号証参照)は,本件特許の優先日前に公然実施された発明ということはできない。さらに,プラバスタチンナトリウムの原末のサンプルの発明(甲第5号証参照)に対して,エピプラバの混入量,プラバスタチンラクトンの混入量をともに一定量以下に抑えるために,プラバスタチンナトリウムの精製方法として,甲第6号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を採用することを当業者が容易に想到し得るということはできない。
(ニ)なお,請求人は,甲第4号証は,プラバスタチンナトリウムの原末のサンプル(甲第5号証参照)を出発物質とし,甲第6号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を適用して得られた実験結果であり,甲第6号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を採用することにより分取されるプラバスタチンナトリウムは,プラバスタチンラクトンを0.14%含み,エピプラバは検出されないものである,すなわち,本件特許発明の「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム」を製造することができる旨主張しているので,この主張について検討する。
甲第4号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法は,甲第6号証記載の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法とは,少なくとも,サンプル濃度,カラム温度,流量(流速)の点で異なり,仮に請求人が甲第19号証において主張するようにサンプル濃度の変化は分離の程度に影響しないとしても,カラム温度,流量(流速)の条件の変更は,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によるプラバスタチン,プラバスタチンラクトン,及びエピプラバの分離の程度に影響を与えるものである。請求人は,この条件の変更について,プラバスタチンの保持時間を甲第6号証記載の方法と同じ約21分にするために行った最小限の変更でありごく普通に行われることであると主張する。しかし,保持時間をそろえれば,各成分の分離比が常に一定であるか否かは不明であり,甲第4号証において採用された実験方法は,甲第6号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を実質的に忠実に再現したものといえるか否か不明である。
したがって,甲第4号証記載の実験結果をみても,プラバスタチンナトリウムの原末のサンプル(甲第5号証参照)に甲第6号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を適用することにより,本件特許発明のプラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムを製造することができるとはいえない。
また,請求人は,被請求人の「甲第4号証でHPLC精製により得られた分取濃縮液のプラバスタチンラクトン含量の値も,サンプルをいったん乾燥させて固体としてから再度HPLCで分析すれば,より高い値となるはずである。」との主張に対して,仮に「分散液をいったん乾燥させて固体とした場合にプラバスタチンラクトンが上昇したとしても,例えば甲第20号証に記載された方法を用いて,固化したプラバスタチンナトリウムにおけるプラバスタチンラクトン含量を0.2重量%未満に低減させることが極めて容易であることは明らかである」(平成21年2月26日付け弁駁書第9頁下から4行?第10頁1行)と主張するが,そもそも,上記のとおり,エピプラバの混入量,プラバスタチンラクトンの混入量をともに一定量以下に抑えるために,プラバスタチンナトリウムの精製方法として,甲第6号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を採用することを当業者が容易に想到し得るということはできない。さらに,甲第20号証には,プラバスタチンラクトンからプラバスタチンナトリウムを製造する方法が記載されているだけであり,甲第20号証をもって,プラバスタチンナトリウム中の不純物であるプラバスタチンラクトンの混入量を0.2重量%未満に低減させることが容易であるとはいえないし,まして,プラバスタチンナトリウム中の不純物であるエピプラバの混入量を0.1重量%未満としたまま,同じく不純物であるプラバスタチンラクトンの混入量を0.2重量%未満とすることが容易であるとはいえない。
(ホ)以上のとおり,本件特許発明1は,公然実施された発明であるプラバスタチンナトリウムの原末のサンプルの発明(甲第5号証参照)及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また,本件特許発明1を引用し,さらに特定事項を付する本件特許発明2?9についても同様の理由により,公然実施された発明であるプラバスタチンナトリウムの原末のサンプルの発明(甲第5号証参照)及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(7)<無効理由>B-4について
上記(6)エ.(ロ)に述べたとおり,プラバスタチンナトリウムに含まれるエピプラバの混入量,プラバスタチンラクトンの混入量をともに一定量以下に抑えるために,甲第6号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を採用することを当業者が容易に想到し得るということはできない。
したがって,甲第1号証及び甲第6号証をもって,本件特許発明1は,プラバスタチンナトリウムに関する本件特許の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明あるいは本件特許の優先日前に公然実施された発明とプラバスタチンナトリウムの検査方法に関する甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また,本件特許発明1を引用し,さらに特定事項を付する本件特許発明2?9も同様の理由により,甲第1号証及び甲第6号証をもって,プラバスタチンナトリウムに関する本件特許の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明あるいは本件特許の優先日前に公然実施された発明とプラバスタチンナトリウムの検査方法に関する甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(8)<無効理由>B-5について
上記(3)-1 ア.で述べたとおり,請求人の提出した証拠からは,甲第2号証の「PRODUCT SPECIFICATIONS AND CERTIFICATE OF ANALYSIS 」及びその分析対象のサンプルが,本件特許の優先日前に誰でも入手可能であったとすることはできない。さらに,上記(6)エ.(ロ)に述べたとおり,エピプラバの混入量,プラバスタチンラクトンの混入量をともに一定量以下に抑えるために,甲第6号証に記載された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を採用することを当業者が容易に想到し得るということはできない。
したがって,甲第2号証及び甲第6号証をもって,本件特許発明1は,プラバスタチンナトリウムに関する本件特許の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明あるいは本件特許の優先日前に公然実施された発明とプラバスタチンナトリウムの百分含有量を検査する方法に関する甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また,本件特許発明1を引用し,さらに特定事項を付する本件特許発明2?9も同様の理由により,甲第1号証及び甲第6号証をもって,プラバスタチンナトリウムに関する本件特許の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明あるいは本件特許の優先日前に公然実施された発明とプラバスタチンナトリウムの百分含有量を検査する方法に関する甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(9)<無効理由>C-1について
請求人は,特許請求の範囲に規定される不純物の含有量について特許請求の範囲に記載された「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満である」は,発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に具体例を開示せず,本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことから,本件特許は特許法第36条第6項第1号に違反してなされたものであり,また,特許法第36条第4項に違反してなされたものであると主張し,具体的には,本件特許明細書には,プラバスタチンラクトン及びエピプラバの混入量を実際に測定した数値は記載されていないことを挙げている。
そこで,本件特許明細書の記載について検討する。
本件特許発明1?9は,特許請求の範囲に記載されているとおり「a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
e)プラバスタチンナトリウムを単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,」プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムに関する発明である。
上記の各工程について,本件特許明細書の発明の詳細な説明には「a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成」する工程については段落【0010】から段落【0015】に,「b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿」する工程については段落【0016】から段落【0019】に,「c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製」する工程については,段落【0020】から段落【0022】に,「d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え」る工程については段落【0023】から段落【0026】に,そして,「e)プラバスタチンナトリウムを単離する」工程については段落【0027】から段落【0030】に,それぞれ操作条件等に関する説明が詳細に記載されており,操作条件について好ましい態様が記載されている。
そして,段落【0031】には,「プラバスタチンナトリウムは更に,2つが例1及び3で例示される,本発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる。」と記載されている。
この記載は,本件特許明細書の工程a)?工程e)に関する段落【0010】?段落【0030】において記載されている「本発明の好ましい態様」を採用し,その態様を遵守することにより,プラバスタチンナトリウムが,プラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうること,及び,このことは,例1及び例3の2つの例で例示されることを意味するものであると解せられる。
そして,例1及び例3において採用されている各工程の条件を検討するに,a)工程においては段落【0012】に最も好ましい抽出溶剤として記載されている酢酸i-ブチルを採用し,b)工程においては段落【0017】に特に好ましい態様として記載されている気体のアンモニア(アンモニアガス)の導入によるアンモニウム塩の生成,NH_(4)Clの添加による結晶化を採用し,段落【0019】に好ましい洗浄法として唯一記載されている酢酸i-ブチル及びアセトンによる洗浄を採用し,c)工程においては,再結晶化による精製方法は段落【0021】に記載されているNH_(4)Clの導入による再結晶化を採用し,d)工程においては,水性溶媒中で溶解されたプロバスタチンアンモニウム塩の酸性化のためのプロトン性の酸として,段落【0023】に好ましいプロトン性の酸として唯一記載されている硫酸,抽出用の有機溶剤として,段落【0023】に好ましい有機溶剤として唯一記載されている酢酸i-ブチル,逆抽出用に段落【0023】に唯一記載されている水酸化ナトリウム(NaOH)を採用し,過剰なナトリウムカチオンを補足するための水不溶性のイオン交換樹脂として,段落【0026】に最も好ましいものとして記載されているIRC(50)を選択し,e)工程においては,結晶化溶媒系として,段落【0029】に最も好ましい溶媒系の1つとして唯一記載されている1/3/12の水/アセトン/アセトニトリル混合物を採用するものである。そして,温度やpH等の値も,好ましいとして記載されている範囲のものである。なお,例3は例1において,さらにプラバスタチンナトリウムの結晶化を1回繰り返すというものである。
そして,例1及び例3は,例1では,「プラバスタチンナトリウムは,・・・65%の全収率,約99.8%の純度で得られた。」,例3では「プラバスタチンナトリウムが,・・・約99.8%の純度及び68.4%の収率で得られた。」と記載されているとおりプラバスタチンナトリウムの製造実験例である。
してみれば,本発明の好ましい態様を遵守するプラバスタチンナトリウムの製造実験例であり,かつ,段落【0031】に,「本発明の好ましい態様を遵守することによりプラバスタチンナトリウムが,プラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる」ことを例示する2つの例であると記載されている,例1及び例3は,いずれもプラバスタチンナトリウムが,プラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されたプラバスタチンナトリウムの製造実験例であると理解するのが自然である。
そうすると,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムを製造するための,工程a)?工程e)おける具体的な条件が,工程a)?工程e)に関する段落【0010】?【0030】に,「好ましい態様」として具体的に記載されている。そして,その製造実施例が例1,例3として記載され,混入量の具体的な数値は記載されていないが,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2%(w/w)未満で且つエピプラバがの混入量が0.1%(w/w)未満であったことが記載されているといえる。
以上のとおりであるから,本件特許明細書には,本件特許発明1?9が,具体的な製造のための条件及び実施例による裏付けとともに記載されており特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足するものである。そして,特許法第36条第4項に規定する要件を満足するものである。
請求人は,本件特許明細書には,例1,3?6の純度の記載が,「面積百分率法」を用いて測定したものであるとは記載されていない点を指摘し,本件特許はサポート要件を満たさないと主張するが,当審の上記判断は上記のとおりであり,例5において純度が99.9%であることを含め,例1,3?6の純度に基づくものではなく,この点は当審の上記判断に影響を及ぼすものではない。
また,請求人は,「平成16年9月24日付け「意見書」(甲第7号証)の4.(4)において,出願人(被請求人)は,「本願発明の研究を通じて,プラバスタチンラクトンとエピプラバの比率はおおよそ2:1であることが知られています。したがって,プラバスタチンナトリウムの純度が99.9%の場合,プラバスタチンラクトンの混入量が0.06%程度であり,エピプラバの混入量がおよそ0.03%程度です」と述べ,続いて「いずれにしても,審査官殿のご指摘のとおり,これらの不純物が0%かそれに近い場合が実験によりサポートされていないことは事実です。」と述べ,出願人自ら訂正後の請求項が実験によりサポートされていないことを認めており,これら被請求人の主張は,乙第4号証の存在や内容と大きく矛盾する。加えて,答弁書(2)における上記主張は,一般原則としての信義誠実の原則ないしは禁反言の原則に照らして許されるものではない。」と主張している(平成21年2月16日付け弁駁書第16頁末行?第17頁10行)。
乙第4号証に記載されているプラバスタチンラクトンとエピプラバの比率はおおよそ2:1であるとはいえないものであるが,当審の判断は上記のとおりであり,プラバスタチンラクトンとエピプラバの比率に基づいてなされたものではないので,この点をもって本件特許明細書がサポート要件を満たさないものとすることはできない。また,出願人(被請求人)の「いずれにしても,審査官殿のご指摘のとおり,これらの不純物が0%かそれに近い場合が実験によりサポートされていないことは事実です。」という言及は,「訂正後の請求項が実験によりサポートされていないことを認める」ものではなく,プラバスタチンラクトン,エピプラバの混入量が0%である場合や,0.06%あるいは0.03%程度よりもさらに0%に近い場合の実験例がないということを述べるものであり,請求人の「答弁書(2)における上記主張は,一般原則としての信義誠実の原則ないしは禁反言の原則に照らして許されるものではない。」との主張を採用することはできない。
また,請求人は,本件特許明細書の段落【0031】には「プラバスタチンナトリウムは更に,2つが例1及び3で例示される,本発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる。」と「単離されうる」と記載されており,これに対して例1及び3では「得られた」と記載されている。「単離されうる」との記載は実施例と同等の具体的な記載と解すべきものであるとは到底いえない旨主張している(平成20年10月31日付け口頭審理陳述要領書第11頁下から14?2行)。段落【0031】には「単離されうる」と記載されているが,上記の当審の判断のとおり,各工程に関する段落【0010】?段落【0030】の記載,この段落【0031】の記及び「得られた」と記載されている例1,例3の製造実験例の記載とから,本件特許明細書はサポート要件を満たすものといえるのであるから,段落【0031】が「単離されうる」と記載されていることをもって本件特許明細書がサポート要件を満たさないとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許発明1?9の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム、並びにそれを含む組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し、
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し、
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し、
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え、そして
e)プラバスタチンナトリウムを単離すること、
を含んで成る方法によって製造される、プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり、エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。
【請求項2】 水性の培養液を第一の有機溶媒で抽出し、8.0?9.5のpHの水溶液でプラバスタチンを逆抽出し、塩基性溶液を2.0?3.7のpHに酸性化し、そして酸性化した水溶液を第二の有機溶媒で抽出してプラバスタチンの濃縮有機溶液を形成する、請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項3】 第一と第二の有機溶媒が酢酸イソブチルである、請求項2に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項4】 アンモニウム塩が少なくとも1回の結晶化によって、水と逆溶媒の混合物から精製される、請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項5】 逆溶媒が酢酸イソブチル及びアセトンから成る群から選択される、請求項4に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項6】 塩化アンモニウム塩が水と逆溶媒の混合物に添加され、アンモニウム塩の結晶化を誘導する、請求項4に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項7】 アンモニウム塩が、酸性又はキレート型のイオン交換樹脂を用いて置き換えられる、請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項8】 プラバスタチンナトリウムが再結晶化によって単離される、請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【請求項9】 プラバスタチンナトリウムが凍結乾燥によって単離される、請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
本出願は、引用によって本明細書に組み入れられる、2000年10月5日に出願された、米国仮特許出願番号第60/238,276号に対し優先権を主張するものである。
【0002】
本発明の分野
本発明は、スタチン及び更に詳細にはプラバスタチンナトリウム、並びに培養液からのコンパクチンの酵素的ヒドロキシル化産物としてそれを単離するための方法、に関する。
【0003】
本発明の背景
スタチン系薬は、心血管疾患の危険性がある患者の血流中のLDLレベルを低下させるのに利用可能な、現在最も治療的に有効な薬物である。この薬物のクラスは、特にコンパクチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン及びアトルバスタチンを含む。
【0004】
プラバスタチンは、化合物[1S-[1α(β^(*),δ^(*))2α,6α、8β(R^(*)),8aα]]-1,2,6,7,8,8a-ヘキサヒドロ-β,δ,6-トリヒドロキシ-2-メチル-8-(2-メチル-1-オキソブトキシ)-1-ナフタレン-ヘプタン酸(CAS登録番号81093-370)の一般的医薬名である。プラバスタチンの分子構造は、式(Ia)(ここで、R=OH)によって表される。ラクトンの形態は、式(Ib)(原子の順番を示すために標識された原子を有する)によって表される。
【化1】

【0005】
プラバスタチン、コンパクチン(式Ia,R=H)、ロバスタチン(式Ia,R=CH_(3))、シンバスタチン、フルバスタチン及びアトルバスタチンは、それぞれカルボン酸によって終了し、且つカルボン酸に関してβ及びδ位に2つのヒドロキシル基を持つアルキル鎖を有する。δ位にあるカルボン酸基とヒドロキシル基は、式(Ib)に示すようにラクトン化する傾向にある。スタチンの様なラクトン化する化合物は、遊離酸型又はラクトン型で、あるいはその両方の型の平衡混合物として存在することがある。ラクトン化がスタチン系薬の製造が困難であることをもたらすのは、当該化合物の遊離酸及びラクトン型が異なる極性を有するためである。一方の型を生成する方法は、不純物と一緒に他方の型を除去しやすく、これが低収率をもたらす。従って、それらを高収率で単離するためには、ラクトン化する化合物を扱う際に、一般的に非常に慎重に実行されなければならない。
【0006】
現在、プラバスタチンを製造するのに最も経済的に利用可能な方法は、コンパクチンのC-6位の微生物によるヒドロキシル化である。酵素的方法は非常に立体選択的であるが、有意な量のプラバスタチンC-6エピマー(「エピプラバ(epiprava)」)を混入することがある培養液からの単離後に得られるプラバスタチンナトリウムにとって一般的である。C-6位はビス-アリル位であるので、C-6原子はエピマー化しやすい。プラバスタチンの単離の間のpHの慎重な調節及び他の条件が、エピマー化を最小にするために必要とされる。培養液からプラバスタチンを単離する既知の方法のいずれもがそのナトリウム塩としてプラバスタチンを単離するのに不向きであるか、あるいはかなりの量のプラバスタチンラクトン及び/又はエピプラバが混入したプラバスタチンナトリウムを製造する。本発明は、高純度、高収率で、予備的な規模で且つクロマトグラフィーによる精製無しに、培養液からプラバスタチンナトリウムを単離する効率的な方法についての当業界での必要性を満たす。
【0007】
本発明の要約
本発明は、プラバスタチンラクトン及び、プラバスタチンのC-6エピマーであるエピプラバ、を実質的に含まないプラバスタチンナトリウムを提供する。本発明は更に、その様な実質的に純粋なプラバスタチンナトリウムを製造するための、工業的な規模で実施され得る方法を提供する。
【0008】
本方法の好ましい態様は、水性培養液から有機溶媒へのプラバスタチンの抽出、塩基性水性溶液へのプラバスタチンの逆抽出及び有機溶媒への再抽出を含み、その結果培養液中のプラバスタチンの初濃度と比較してプラバスタチンに富む有機溶液をもたらす。プラバスタチンは、そのアンモニウム塩としての沈殿及びそれに続く当該アンモニウム塩の再結晶による精製によって豊富となった溶液から得ることができる。再結晶化した塩は、続いてプラバスタチンナトリウム塩を形成するために置き換え(transpose)られ、そして過剰なナトリウムイオンがイオン交換樹脂によって捕捉される。プラバスタチンのナトリウム塩が、続いて再結晶化、凍結乾燥又は他の手段によって溶液から高度に純粋な状態で単離されうる。
【0009】
本発明の詳細な説明
本発明は、プラバスタチンラクトン及びエピプラバを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム、並びにプラバスタチンナトリウム塩を高純度で培養液から単離するための方法を提供する。
【0010】
コンパクチンの酵素的ヒドロキシル化
プラバスタチンが単離される酵素的ヒドロキシル化培養液は、コンパクチンの工業的な規模での培養について知られている任意な水性の培養液であってもよく、そのような方法は米国特許第5,942,423号及び第4,346,227号に記載されている。好ましくは、酵素的ヒドロキシル化は、コンパクチン及びデキストロースの栄養混合物を含む、生きているステプトミセス(Steptomyces)の培養液を用いて実施される。培養液が醗酵の完了時に中性又は塩基性である場合、培養液を約1?6、好ましくは1?5.5,そして更に好ましくは2?4ののpHにするために酸がそれに加えられる。使用され得る酸は、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸又は任意な他のプロトン性の酸、好ましくは水中での1M溶液として1未満のpHを有するものを含む。培養液の酸性化は、培養液中の任意なプラバスタチンカルボン酸塩を遊離酸及び/又はラクトンへと変換する。
【0011】
実質的に純水なプラバスタチンナトリウムの単離
プラバスタチンは、一連の抽出及び逆抽出段階によって、比較的高度に濃縮された有機溶液中での水性培養液から最初に単離される。
【0012】
第一段階において、プラバスタチンが培養液から抽出される。C_(2)-C_(4)アルキルのギ酸塩及びC_(2)-C_(4)カルボン酸のC_(1)-C_(4)アルキルエステルは、水性溶媒液からプラバスタチンの効率的な抽出を行うことができる。アルキル基は直鎖、分枝鎖又は環状であってもよい。好ましいエステルはギ酸エチル、ギ酸n-プロピル、ギ酸i-プロピル、ギ酸n-ブチル、ギ酸s-ブチル、ギ酸i-ブチル、ギ酸t-ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸i-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸s-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸t-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n-プロピル、プロピオン酸i-プロピル、プロピオン酸i-プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸n-プロピル、酪酸i-プロピル、酪酸ブチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル及びイソ酪酸ブチルを含む。これらの好ましい有機溶媒の中でも、我々は酢酸エチル、酢酸i-ブチル、酢酸プロピル及びギ酸エチルが特によく適していることを発見した。最も好ましい抽出溶媒は酢酸i-ブチルである。他の有機溶媒も当該エステルと交換されてもよい。ハロゲン化ハロカーボン、芳香族化合物、ケトン及びエーテル、例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、ベンゼン、ブチルメチルケトン、ジエチルエーテル及びメチルt-ブチルエーテルも使用され得る。
【0013】
プラバスタチンは、約8.0?約9.5のpHの塩基性溶液中に任意に逆抽出される。塩基は、好ましくはNaOH、NH_(4)OH又はKOHであり、最も好ましくはNaOHである。抽出溶媒は、好ましくは、有機層中のプラバスタチンの量が、薄層クロマトグラフィー又は、完全な抽出のために十分な接触が起こったという主観的な判断を含む任意な他の方法、によって決定した場合に実質的に枯渇するまで、塩基性水溶液と接触される。複数回の逆抽出は、至適な回収のために実施され得る。しかしながら、有機層が酢酸i-ブチルである場合、一回の逆抽出で十分である。逆抽出は、有機性の抽出液の量未満の量の水性塩基を用いることによってプラバスタチンを濃縮するために使用され得る。好ましくは、逆抽出は、有機性抽出液の量の1/3未満、更に好ましくは有機性抽出液の1/4未満、最も好ましくは約1/5の量未満の量の塩基性水溶液と接触される。
【0014】
水溶液は、好ましくは酸、好ましくはトリフルオロ酢酸、塩酸、硫酸、酢酸、又はリン酸、更に好ましくは硫酸、を用いて、約1.0?約6.5、更に好ましくは約2.0?約3.7のpHに酸性化される。
【0015】
プラバスタチンは、好ましくは、培養液からプラバスタチンを抽出するのに適しているとして既に記載した有機溶媒の1つへ再抽出される。有機溶媒は、必ずしもではないが、培養液からプラバスタチンを抽出するのに使用した、同一の溶媒であってもよい。この再抽出において、プラバスタチンの更なる濃縮は、好ましくは水性抽出液の約50%(v/v)、更に好ましくは約33%(v/v)?約20%(v/v)、そしてより更に好ましくは約25%(v/v)の量の水性抽出液よりも少ない量の有機溶媒に再抽出することによって達成されうる。プラバスタチンは、最初の有機抽出液から89%の収率で、100Lの培養液から8Lの濃縮有機溶液へと濃縮されうる。当業者には、本発明の実施にとっての好ましい態様においてわずかに1回の抽出を記載した高収率の精製プラバスタチンが、複数回の抽出を実施することによって達成されうることが理解される。この好ましい態様は、溶媒の経済性と高い生成物の収率との平衡をもたらす。本明細書ではわずかに一回と記載した、繰り返しの抽出によって収率を更に増強するこの好ましい形態からの逸脱は、必ずしも本発明の精神からは逸脱しない。「塩折」によって濃縮した有機溶液からプラバスタチンを得る手順の前に、濃縮した有機溶液は好ましくは乾燥され、これは常用の乾燥剤、例えばMgSO_(4)、Na_(2)SO_(4)CaSO_(4)、シリカ、パーライト等を用いることによって行われることがあり、そして任意に活性炭を用いて脱色される。乾燥し、そして/あるいは脱色した濃縮有機溶液は、好ましくは、続いて常用の方法で、例えば濾過又はデカンテーションによって分離される。
【0016】
次の段階において、プラバスタチンは、アンモニア又はアミンを用いて濃縮有機溶液から塩折され得る。アミンは、第1級、第2級又は第4級アミンであってもよい。アミンの窒素とプラバスタチンのカルボキシル基との間でのイオン性の相互作用を防ぐほど妨害されない任意なアルキル又はアミンが使用され得る。当該アミンは、限定しないが、メチル、ジメチル、トリメチル、エチル、ジエチル、トリエチル及び他のC_(1)-C_(6)第1級、第2級、及び第4級アミンを含み;そして更にモルホリノ、N-メチルモルホリン、イソプロピルシクロヘキシルアミン、ピペリジン等を含む。窒素上の置換の有無又はそれが多数であるか否かに関わらず、アンモニア又はアミンの反応によって形成される塩は、以降アンモニウム塩として言及する。この意味は、アミンの塩及びアンモニアの塩を包含することを意図する。
【0017】
プラバスタチンのアンモニウム塩の沈澱も、アンモニウム塩単独の、又はアンモニア若しくはアミンと組み合わせた添加によって誘導され得る。好ましいアンモニウム塩は以下のアンモニアの塩:NH_(4)Cl、NH_(4)Br、NH_(4)I、(NH_(4))_(2)SO_(4)、NH_(4)NO_(3)、(NH_(4))_(3)PO_(4)、(NH_(4))_(2)S_(2)O_(4)及びNH_(4)OAcであり、最も好ましいものはNH_(4)Clである。アンモニウム塩並びに高沸点の液体及び固体のアミンが、常用の手段によって、好ましくはよく換気された領域で、固体、ニートな液体又は水性若しくは有機性溶媒中の溶液として加えられ得る。気体のアンモニアの添加は、苛性の気体を扱うための特別な設備を必要とする。その様な設備、例えば圧力容器、調節弁、バルブ及びラインは広く入手可能である。特に好ましい態様において、プラバスタチンは、濃縮有機溶液への気体のアンモニア及びNH_(4)Clの添加によって、アンモニアのプラバスタチン塩として、濃縮有機溶液から得られる。
【0018】
アンモニア、アミン及び/又はアンモニウム塩が添加されるべき温度は、小規模の実験を行い、そして反応の発熱性をモニタリングすることによる慣用の実験によって決定され得る。好ましくは、溶液の温度は40℃を超えることは認められない。80℃程度の温度が、プラバスタチンの重大な分解無しに経験され得るが、本発明の多くの有機溶媒はより低い温度で沸騰する。アンモニアを使用する場合、好ましい温度は約-10℃?約40℃である。
【0019】
好ましくは、一度沈澱が終了した様に見え、又は一部プラバスタチンの消費が他の手段によって実質的に完了していると決定されると、前記添加は終了されるべきである。アンモニア又は揮発性のアミンが使用される場合、容器は好ましくは過剰な臭気を分散させるために換気される。濾過、溶媒のデカンテーション、溶媒の蒸発又は他のその様な方法、好ましくは濾過によって、続いて結晶が単離され得る。結晶は次に、好ましくは酢酸i-ブチル及びアセトンで洗浄され得る。
【0020】
沈澱した結晶を任意に洗浄した後、プラバスタチンアンモニウム塩は、好ましくは、1又は複数回の、最も好ましくは3回の再結晶によって精製される。プラバスタチンアンモニウム塩を精製するために、当該塩は好ましくは水の中で溶解する。溶液の極性は、好ましくは逆溶媒の添加によって低下される。逆溶媒は、好ましくは、プラバスタチン塩がほとんど溶解しない水溶性の有機溶媒又は溶媒の混合物であり、酢酸i-ブチルとアセトンが好ましい。
【0021】
プラバスタチン塩は自然に再結晶化する様に放置されることがあり、又は一般的なイオンを添加する更なる段階の実施によって再結晶化が導入されることがある。プラバスタチンがそのアンモニア塩として精製される好ましい方法に従い、NH_(4)Clが、アンモニウム塩の再結晶化を誘導するために添加される。
【0022】
再結晶化は、約-10℃?約40℃、好ましくは約0℃?約40℃で実施され得る。プラバスタチン塩が溶液から実質的に再結晶化された後に、結晶が単離され、そして、例えば酢酸i-ブチルとアセトンの1:1混合物を用いて洗浄されることがあり、そして乾燥される。乾燥は、周囲温度で実施され得るが、好ましくは45℃未満、好ましくは約40℃の温度におだやかに上昇させて実証される。再結晶化は、任意に、例3及び4に示す様に良好な結果を生むまで繰り返されることがある。それぞれの繰り返しは約92%の収率で起こる。
【0023】
プラバスタチンアンモニウム塩の精製後、プラバスタチンアンモニウム塩は、好ましくはプラバスタチンナトリウムに置き換えられる。プラバスタチンは、好ましくは水性溶媒中で溶解し、任意なプロトン性の酸、しかし、好ましくは硫酸を用いて、約2?約4、更に好ましくは約3.1のpHに酸性化し、そして有機溶媒を用いてプラバスタチンを抽出することによって、アンモニウム塩から遊離される。上文で列記した有機溶媒のいずれでもよいが、好ましくは酢酸i-ブチルである有機溶媒が、プラバスタチンが実質的に完全に有機層へと移るまで、酸性化した溶液と任意に接触される。有機層は、好ましくは水層から分離され、そしてアンモニウムの残査を除去するために水で任意に洗浄した後、プラバスタチンは、好ましくは約7.4?約13.0のpHの水性水酸化ナトリウム溶液を用いて逆抽出される。逆抽出は、好ましくは約8?約10℃の低温で実施される。
【0024】
水酸化ナトリウム水溶液に抽出した後、過剰なナトリウムカチオンが、水不溶性のイオン交換樹脂を用いてほぼ1:1のナトリウムカチオンとプラバスタチンの平衡を達成するために捕捉される。適当なイオン交換樹脂は陽イオン性及びキレート型の樹脂であり、好ましいものは強酸及び弱酸の交換樹脂である。
【0025】
強酸の陽イオン交換樹脂の中でも特にスルホン酸(SO_(3)・H^(+))基を有するものが使用され得る。これらは市販のAmberlite(商標)IR-118、IR-120 252H;Amberlyst(商標)15、36;Amberjet 1200(H)(Rohm and Haas)、Dowex(商標)50WXシリーズ、Dowex HCR-W2、Dowex 650C、Dowex Marathon C、Dowex DR-2030、及びDowex HCR-S、イオン交換樹脂(Dow Chemical Co.);DIAION SK 102?DIAION SK 116樹脂シリーズ及びLewatit SP 120(Bayer)を含む。好ましい強酸の陽イオン交換樹脂はAmberlite(商標)120、Dowex 50WX及びDIAION SKシリーズである。
【0026】
弱酸の陽イオン交換樹脂は、ペンダントのカルボン酸基を有するものを含む。弱酸の陽イオン交換樹脂は、市販のAmberlite CG-50、IRP-64、IRC50及びC67、Dowex CCRシリーズ、Lewatit CNPシリーズ(Bayer)及びDIAION WKシリーズ(Mitsubishi)を含み、これらのうち、最も好ましいのはAmberlite(商標)IRC50、Lewatit CNP 80及びDIAION WK 10である。あまり好ましくないのは、キレート型の交換樹脂である。利用可能な市販の多くのもののうちのいくつかはAmberlite(商標)IRC-718、及びIRC-467を含む。
【0027】
プラバスタチンナトリウム塩及び過剰なナトリウムカチオンを含む溶液は、当業者にとって知られている任意な方法、例えばカラム又は樹脂のベッドを介する溶液の通過によって、又は溶液を含むフラスコ中で充分な量の樹脂を撹拌することによって、イオン交換樹脂と接触され得る。接触の形態は必須ではない。過剰なナトリウムイオンの捕捉の後、プラバスタチンナトリウム溶液のpHは、希釈によって変わるが、約7?約10、好ましくは約7.4?約7.8の範囲にあるべきである。プラバスタチンナトリウム溶液のpHの、より高いpHからなり低いpHへの低下、そしてそれに続くより低レベルのpHの安定は、過剰なNa^(+)イオンの捕捉の実質的な完了を示すものである。捕捉が実質的に完了した後、プラバスタチンナトリウム溶液は、好ましくは常用の方法で樹脂から分離される。それはカラム又はベッドから溶出液として回収されてもよく、あるいは濾過、デカンテーション等によって分離されてもよい。
【0028】
プラバスタチンナトリウムは、結晶化によってプラバスタチンナトリウム溶液から単離されることもある。効率的な結晶化は最初に、真空での蒸留又はナノ濾過によって実施され得る、水の部分的な除去を必要とすることがある。好ましくは、プラバスタチンナトリウムの水溶液は、結晶化の前に約20?約50w/v%に濃縮される。必要ならば、濃縮後にプラバスタチンナトリウム水溶液は、H^(+)型のイオン交換樹脂を用いて約7?約10のpHに調節され得る。
【0029】
プラバスタチンナトリウム溶液に対する水溶性の有機溶媒又は有機溶媒の混合物の添加は結晶化を補助する。特に、アセトン及びアセトン/アセトニトリル、エタノール/アセトニトリル及びエタノール/酢酸エチルの混合物が言及されうる。プラバスタチンナトリウムを結晶化するための最も好ましい溶媒系の1つは、プラバスタチンナトリウム溶液を約30w/v%に濃縮し、そして次に適当な量の1/4アセトン/アセトニトリル混合物の添加によって形成される1/3/12水/アセトン/アセトニトリル混合物である。最も好ましい結晶化溶媒混合物は水-アセトン(1:15)である。
【0030】
プラバスタチンナトリウムはまた、プラバスタチンナトリウムの水溶液の凍結乾燥によって単離されうる。
【0031】
凍結乾燥又は結晶化あるいは生成物の純度を損なわない他の手段によって単離されようとなかろうと、本発明の方法の実施で単離されるプラバスタチンナトリウムは、プラバスタチンラクトン及びエピプラバを実質的に含まない。以下の例で示すように、プラバスタチンナトリウムは、プラバスタチンラクトンの混入が0.5%(w/w)未満で且つエピプラバの混入が0.2%(w/w)未満で単離されうる。プラバスタチンナトリウムは更に、2つが例1及び3で例示される、本発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる。
【0032】
本発明の方法によって製造される高度に純粋なプラバスタチンナトリウムは、好ましくは高コレステロール血症の治療に有用であり、そしてこの目的のために、任意な投与経路で哺乳類の患者に投与されうる。毎日経口から投与する養生法が、最も好ましい投与の処方方法である。正常な肝機能及び中程度の体重を有するヒトの患者において、血清コレステロール値の低下は、典型的に10mg以上のプラバスタチンナトリウムの経口からの1日量で観察される。投与される高度に純粋なプラバスタチンナトリウムは任意に有効量であってもよい。本発明の好ましい経口の剤形は、約10mg?約40mgのプラバスタチンナトリウムを含む。経口の剤形は、錠剤、丸剤、カプセル、トローチ、サチェット、懸濁液、粉末、ロゼンジ、エリキシル等を含む。実質的に純粋なプラバスタチンナトリウムが任意な経路によって投与されうるが、最も好ましい投与経路は経口である。
【0033】
高度に純粋なプラバスタチンは、単独で又は医薬賦形剤と組み合わせて、そのいずれかで投与されうる。単独又は組成物、そのいずれで与されようとも、本発明の高度に純粋なプラバスタチンナトリウムは、溶液又は固体、例えば粉末、顆粒、凝集物又は任意な他の固体の形態であってもよい。
【0034】
本発明の組成物は、錠剤化のための組成物を含む。錠剤化組成物は、使用される錠剤化方法、所望の放出速度及び他の要因に依存して、少数又は多数の賦形剤を有することがある。例えば、本発明の組成物は希釈剤、例えばセルロース由来の材料、例えば粉末状のセルロース、微小質セルロース、極微小(microfine)セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩及び他の置換型及び非置換型セルロース;デンプン;あらかじめゼラチン化したデンプン;無機性の希釈剤、例えば炭酸カルシウム及び二リン酸カルシウム並びに当業者に知られている他の希釈剤を含んでもよい。更に他の適当な希釈剤は、ワックス、糖及び糖アルコール、例えばマンニトール及びソルビトール、アクリラートポリマー及びコポリマー、並びにペクチン、デキストリン及びゼラチンを含む。
【0035】
他の錠剤化用の賦形剤は、結合剤、例えばアカシアゴム、あらかじめゼラチン化したデンプン、アルギン酸ナトリウム、グルコース及び湿式顆粒化及び乾式顆粒化並びに直接圧縮錠剤化法で使用される他の結合剤を含む。プラバスタチンナトリウムの新規形態の固体組成物中に存在することがある賦形剤は更に、崩壊剤、例えばデンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及び他のもの;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム及びナトリウム並びにステアリルフマル酸ナトリウム;芳香剤;甘味剤;保存剤;医薬として許容される色素及び流動促進剤(glidant)、例えば二酸化珪素を含む。
【0036】
カプセル剤形は、ゼラチン又は他のカプセル封入材料から作成されることがあるカプセル内に、固体の組成物を含む。錠剤及び粉末はコーティングされ得る。錠剤及び粉末は腸溶性コーティングでコーティングされ得る。腸溶性コーティングされた粉末形態は、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸ポリビニルアルコール、カルボキシメチルエチルセルロース、スチレンとマレイン酸のコポリマー、メタクリル酸とメタクリル酸メチルのコポリマー、及び、所望により適当な可塑剤及び/又は増量剤に利用され得る材料を含んで成るコーティングを有する。コーティングされた錠剤は錠剤上にコーティングを有することがあり、あるいは腸溶性コーティングを有する粉末又は顆粒を含んで成る錠剤であってもよい。
【0037】
高度に純粋なプラバスタチンナトリウムはまた、滅菌溶液又は懸濁液中の溶質又は懸濁された固体として、注射可能な剤形で投与されうる。滅菌注射剤形に適した担体は、水及び油を含む。
【0038】
以下の例は、本発明の態様のいくつかにおけるその実施を例示するが、当該例は本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。他の態様は、明細書及び実施例を考慮することによって当業者に理解される。実施例を含む明細書は単に模範であることを考慮しており、本発明の精神及び範囲は特許請求の範囲によって示唆されることを意図する。
【0039】

例1
プラバスタチンの精製
培養液(100L)を硫酸の添加によって約2.5?約5.0に酸性化した。酸性化した培養液を酢酸i-ブチル(3×50L)で抽出した。酢酸i-ブチル抽出物の収率は、培養液の内部標準に対して校正したHPLC解析によって95%であることが明らかとなった。一緒にした酢酸i-ブチル層を、続いて濃水酸化アンモニウムの添加によって約pH7.5?約pH11.0となった水(35L)を用いて抽出した。生じたプラバスタチン水溶液は、続いて5M硫酸の添加によって約2.0?約4.0のpHに再酸性化され、そして酢酸i-ブチル(8L)で逆抽出された。生じたプラバスタチンの酢酸i-ブチル溶液は、パーライト及びNa_(2)SO_(4)上で部分的に乾燥された。プラバスタチン溶液をデカンテーションし、そして次に乾燥剤から濾過され、そして活性炭(1.7g)で脱色された。溶液を続いて濾過し、活性炭を除いてガス注入口を備えたフラスコに移した。
【0040】
アンモニアガスを、素速く撹拌した前記溶液の上のヘッドスペースに導入した。プラバスタチンの炭酸アンモニウム塩の沈澱した結晶を濾過によって回収し、そして酢酸i-ブチル、次にアセトンで洗浄し、それにより、λ=238nmで測定するUV吸光度計を備えたHPLCによって決定した場合、約94%の純度のプラバスタチンアンモニウム塩が生成された。
【0041】
プラバスタチンアンモニウム塩は、以下の様に飽和塩化アンモニウム溶液から結晶によって更に精製された。162gの活性物質を含むプラバスタチン塩を水(960ml)に溶解し、そしてアセトン(96ml)及び酢酸i-ブチル(96ml)を用いて35?40℃で希釈した。この溶液を約30?32℃に冷却し、そしてプラバスタチンアンモニウムは、固体のNH_(4)Clの添加によって結晶化する様に誘導され、これは更なる添加が結晶の形成の見かけ上の増大が生じなくなるまで続けられた。塩化アンモニウムの添加の後、この溶液を約0?26℃に冷却した。プラバスタチンアンモニウムの結晶を濾過によって回収し、そして酢酸i-ブチル及びアセトンで洗浄し、以前のとおり、続いて約40℃で乾燥した。生じたプラバスタチンアンモニウム塩の結晶(155.5g)が、前述の条件を適用するHPLCによって決定した場合に、約98%の純度で得られた。
【0042】
プラバスタチンアンモニウム塩を、以下の別の結晶によって更に精製した。プラバスタチンアンモニウム塩(155.5gの活性物質)を水(900ml)に溶解した。イソブタノール(2ml)を加え、そしてpHを濃水酸化ナトリウム溶液の添加によって約pH10?約pH13.7に上げ、そしてこの溶液を周囲温度で30分間撹拌した。この溶液を硫酸の添加によって約7のpHへと中性化し、プラバスタチンアンモニウムの結晶化を固体のNH_(4)Clの添加によって誘導した。結晶(150g)は濾過によって回収され、そしてアセトンで洗浄した。プラバスタチンアンモニウムは、上述した条件を用いるHPLCの決定によって約99.3%であることが明らかとなった。
【0043】
プラバスタチンアンモニウムは、続いて、以下の様にナトリウム塩へと置き換えられた。プラバスタチンアンモニウム塩の結晶を水(1800ml)に溶解した。酢酸i-ブチル(10.5L)を添加した。この溶液を硫酸の添加によって約pH2?約pH4の間のpHに酸性化し、これにより、プラバスタチンをその遊離酸へと戻した。プラバスタチンを含む酢酸i-ブチル層を水(5×10ml)で洗浄した。プラバスタチンは、続いてそのナトリウム塩へと変換され、そして約pH7.4?約pH13のpHに達するまで8MのNaOHを途中添加しながら、約900?2700mlの水の中で酢酸i-ブチル溶液を撹拌することによって別の水層の中に逆抽出した。
【0044】
プラバスタチンナトリウム塩溶液は、続いて過剰なナトリウムカチオンを捕捉するために、イオン交換樹脂で処理された。分離後、水層をH^(+)イオン交換樹脂のIRC上で30分間撹拌した。撹拌は、約pH7.4?約pH7.8のpHに達するまで続けられた。
【0045】
この溶液は、樹脂を除くために続いて濾過され、そして減圧下で508gの重さに部分的に濃縮された。アセトニトリル(480ml)を加え、そしてこの溶液を脱色するために活性炭(5g)上で撹拌した。プラバスタチンナトリウムが、約-10?約0℃に冷却しながら、1/3/12の水/アセトン/アセトニトリル混合物(5.9L)を形成するためにアセトン及びアセトニトリルを添加した後に、結晶化によって90%の収率で結晶として得られた。プラバスタチンナトリウムは、上述した条件を用いるHPLCによって測定した場合に、出発時の培養によって生成した活性物質から、65%の全収率、約99.8%の純度で得られた。
【0046】
例2
水/アセトン/アセトニトリル混合物からの再結晶化を省略したことを除き、例1の手順に従い、プラバスタチンナトリウムは、プラバスタチンナトリウムの濃縮水溶液の凍結乾燥によって約99%の純度及び約72%の収率で得られた。
【0047】
例3
プラバスタチンアンモニウム塩の結晶化を1回繰り返すことによってプラバスタチンアンモニウム塩を更に精製したことを除き、例1の手順に従い、プラバスタチンナトリウムが約99.8%の純度及び68.4%の収率で得られた。
【0048】
例4
プラバスタチンアンモニウム塩の結晶化を2回繰り返すことによってプラバスタチンアンモニウム塩を更に精製したことを除き、例1の手順に従い、プラバスタチンナトリウムは約99.6%の純度及び53%の収率で得られた。
【0049】
例5
例1の手順に従い、培養液(100L)を硫酸の添加によって約2.5?約5.0のpHに酸性化した。酸性化した培養液を酢酸i-ブチル(3×50L)で抽出した。一緒にした酢酸i-ブチル層を、濃水酸化アンモニウムの添加によって約pH7.5?約pH11.0のpHに塩基性化した水(35L)で抽出した。
【0050】
水性抽出物を再び酸性化し、そして例1で行った様に更に濃縮された溶液を得るために酢酸i-ブチルで抽出する代わりに、水性の抽出物を減圧下で140g/Lに濃縮した。生じた濃縮溶液は、続いて1M HClの添加によって約pH4.0?約pH7.5のpHに酸性化された。
【0051】
塩化アンモニウムの結晶(405g)を続いて濃縮溶液に加え、そしてプラバスタチンアンモニウム塩が周囲温度で放置されて結晶化した。結晶は続いて濾過によって単離され、そして塩化アンモニウムの飽和溶液を用いて洗浄された。続いて結晶を40℃の水(1L)に加えた。溶解後、温度を30℃に下げ、そして塩化アンモニウム(330g)を溶液に加えた。続いてこの溶液を周囲温度で15時間撹拌し、そしてプラバスタチンアンモニウム塩の結晶を濾過によって回収し、そして酢酸i-ブチル、その後アセトンで洗浄し、そして乾燥した。生じた結晶は、続いてナトリウム塩に置き換えられる再結晶化によって更に精製され、そして例1に記載の様に単離された。プラバスタチンナトリウムは、約99.9%の純度及び67.7%の収率で得られた。
【0052】
例6
例1の手順に従い、プラバスタチンナトリウム塩は、HPLCによって測定した場合に、64%の、出発時の培養によって生成された活性物質からの全収率及び99.8%の純度で、1/15の水/アセトン混合物から結晶化された。
【0053】
例7
例5の最初の2つの段落の方法に従い、濃縮された水性の抽出物(140g/L)が得られた。濃縮された水性の抽出物は等分に分割された。
【0054】
例8
例1の手順に従い、プラバスタチンアンモニウム塩が培養液から単離されたが、活性物質は溶解され、そしてアンモニアガスで沈澱した後に結晶化された。
【0055】
濃縮した、プラバスタチンの酢酸i-ブチル溶液(6500L)を活性炭(6.5kg)で脱色した。続いて、この溶液を濾過して活性炭を除去し、そしてガス注入口を備えた容器に移した。
【0056】
溶液は183.2kgの活性物質を含んでいた。
【0057】
プラバスタチンアンモニウム塩は、例1の手順に従いアンモニアガスを用いて沈澱した。
【0058】
沈澱したプラバスタチンアンモニウム塩は、酢酸i-ブチルの母液の存在下、容器に水(1099L)を加えることにより溶解した。
【0059】
プラバスタチンアンモニウム塩は、塩化アンモニウム(412kg)を容器に加えることにより結晶化した。塩化アンモニウムは、30?32℃で、31部で5時間加えられた。懸濁液は24?26℃で1時間撹拌された。結晶を濾過し、酢酸i-ブチル中で懸濁し、そして濾過して、次に酢酸i-ブチル:アセトン(2:1)中で懸濁し、そして濾過し、続いてアセトン中で懸濁して濾過した。結晶は、アセトンで洗浄した後に減圧下で乾燥された。
【0060】
当該方法により、I=238nmでUV検出するHPLCによって決定した場合に約93%の純度であるプラバスタチンアンモニウム塩が生成した。
【0061】
例9
例1の手順に従い、プラバスタチンアンモニウム塩を培養液から単離したが、結晶化が、アンモニアガスによる沈澱の代わりに使用された。
【0062】
濃縮した、プラバスタチンの酢酸i-ブチル溶液(4150ml)を活性炭(4.15g)で脱色した。この溶液を濾過して活性炭を除去し、そしてフラスコに移した。
【0063】
水(300ml)を酢酸i-ブチル溶液に加えた。pHを濃アンモニア溶液(27ml)を用いて9.36に調節した。
【0064】
プラバスタチンアンモニウム塩は、塩化アンモニウム(121.5g)をフラスコに加えることにより結晶化した。塩化アンモニウムは、30?32℃で、更に量を増し5時間加えられた。懸濁液を24?26℃で15時間撹拌した。結晶を濾過し、複数回懸濁し、洗浄し、そして乾燥させた。
【0065】
本方法により、HPLCによって決定した場合に約95%の純度のプラバスタチンアンモニウム塩が生成した。結晶化された活性物質は42.7gであった。
【0066】
例8の手順に従い、プラバスタチンアンモニウム塩は約93%の純度で生成された。
【0067】
活性物質(10g)は、水(60ml):アセトン(6ml):酢酸イソブチル(6ml)の混合物中に35?40℃で溶解した。この溶液を30?32℃に冷却した。塩化アンモニウム(22g)が、この溶液中に更に量を増して5時間加えられた。
【0068】
懸濁物を24?36℃に冷却し、そしてそれを1時間撹拌し、続いてプラバスタチンアンモニウム塩を濾過し、酢酸イソブチル、続いてアセトンで洗浄した。
【0069】
プラバスタチンアンモニウム塩を40℃で乾燥した。収率は96%であった。純度は97%であった。
【0070】
例11
例8の手順に従い、プラバスタチンアンモニウム塩を約93%の純度で生成した。
【0071】
活性物質(10g)を水(60ml):アセトン(6ml)、酢酸イソブチル(6ml)混合物中に35?40℃で溶解した。この溶液を30?32℃に冷却した。塩化ナトリウム(11.4g)をこの溶液中に更に量を増して3時間加えた。
【0072】
プラバスタチンナトリウム塩を濾過し、酢酸イソブチル、次にアセトンで洗浄し、続いてそれを40℃で乾燥した。
【0073】
収率は77%であった。純度は97%であった。
【0074】
例12
例8の手順に従い、プラバスタチンアンモニウム塩を約93%の純度で生成した。
【0075】
活性物質(10g)を水(60ml):アセトン(6ml):酢酸イソブチル(6ml)混合物中で35?40℃で溶解した。この溶液を30?32℃に冷却した。塩化リチウム(9.3g)を結晶化の塩折のために使用した。
【0076】
濾過したプラバスタチンリチウム塩を酢酸イソブチルで洗浄し、そして乾燥させた。
【0077】
プラバスタチンリチウム塩は96%の純度において、89%の収率で得られた。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-07-24 
結審通知日 2009-07-31 
審決日 2009-08-25 
出願番号 特願2002-533858(P2002-533858)
審決分類 P 1 113・ 536- YA (A61K)
P 1 113・ 113- YA (A61K)
P 1 113・ 121- YA (A61K)
P 1 113・ 537- YA (A61K)
P 1 113・ 112- YA (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田名部 拓也渕野 留香  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 穴吹 智子
弘實 謙二
登録日 2005-11-04 
登録番号 特許第3737801号(P3737801)
発明の名称 プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム、並びにそれを含む組成物  
代理人 青木 篤  
代理人 萩尾 保繁  
代理人 田坂 一朗  
代理人 渡邉 陽一  
代理人 笹本 摂  
代理人 石田 敬  
代理人 高柳 昌生  
代理人 笹本 摂  
代理人 杉村 純子  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 和広  
代理人 古賀 哲次  
代理人 中村 和広  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 古賀 哲次  
代理人 中島 勝  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 牧野 知彦  
代理人 渡邉 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 田坂 一朗  
代理人 福本 積  
代理人 福本 積  
代理人 永坂 友康  
代理人 永坂 友康  
代理人 中島 勝  
代理人 萩尾 保繁  

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