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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1303235
審判番号 不服2014-7615  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-24 
確定日 2015-07-16 
事件の表示 特願2008-119272「EL素子、EL素子を用いた液晶ディスプレイ用バックライト装置、EL素子を用いた照明装置、EL素子を用いた電子看板装置、及びEL素子を用いたディスプレイ装置、光取り出しフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月19日出願公開、特開2009-272063〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年4月30日に出願された特許出願であって、平成24年8月21日付けの拒絶理由の通知に対し、同年9月27日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成25年4月9日付けの最後の拒絶理由の通知に対し、同年5月29日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成26年1月30日付けで平成25年5月29日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対して平成26年4月24日に審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年4月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年4月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年4月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は、請求項1を、
「透光性の基材と、
前記基材の一方の面に形成された透明な陽極と、
前記陽極の前記基板と反対の面に形成された発光層と、
前記発光層の前記陽極と反対の面に形成された陰極と、
前記基材の前記陽極と反対の面に粘着層を介して接着されたレンズシートとを備え、
前記レンズシートは、前記基材と反対の前記レンズシートの面に該面に沿い配列され前記発光層で発生した光を前記基材と反対の前記レンズシートの面から取り出す前記基材側に凹状の複数の凹状レンズ素子を有し、
前記基材と反対の複数の前記凹状レンズ素子の端部間を接続し前記各凹状レンズ素子全体を覆う光拡散部材が設けられ、
前記光拡散部材は、前記各凹状レンズ素子の前記端部に接着層で接着されており、
前記凹状レンズ素子の屈折率は前記レンズシート及び前記光拡散部材の屈折率よりも小さいことを特徴とするEL素子。」
に補正することを含むものである(下線は、審判請求人が付したもの。)ところ、当該補正は、補正前の請求項1に、「前記凹状レンズ素子の屈折率は前記レンズシート及び前記光拡散部材の屈折率よりも小さい」との事項(以下「本件補正事項」という。)を追加することを含むものである。

2 本件補正の新規事項追加の有無
そこで、本件補正事項が本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下それぞれ「当初明細書」、「当初特許請求の範囲」又は「当初図面」といい、これらを総称して「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものかどうかについて以下に検討する。

(1)当初明細書等の記載
当初明細書等には、本件補正事項に関連して、次の記載がある。

ア 「透光性の基材と、
前記基材の一方の面に形成された透明な陽極と、
前記陽極の前記基板と反対の面に形成された発光層と、
前記発光層の前記陽極と反対の面に形成された陰極と、
前記基材の前記陽極と反対の面に設けられたレンズシートとを備え、
前記レンズシートは、前記基材と反対の前記レンズシートの面に該面に沿い配列され前記発光層で発生した光を前記基材と反対の前記レンズシートの面から取り出す複数の凹状レンズ素子を有する、
ことを特徴とするEL素子。」(【請求項1】)、
「前記レンズシートの前記凹状レンズ素子側の面に光拡散部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のEL素子。」(【請求項8】)、
「前記光拡散部材は粘着層を介して前記レンズシートの前記凹状レンズ素子側の面に接着されていることを特徴とする請求項8に記載のEL素子。」(【請求項9】)、
「上記の目的を達成するために請求項1の発明は、EL素子であって、透光性の基材と、前記基材の一方の面に形成された透明な陽極と、前記陽極の前記基板と反対の面に形成された発光層と、前記発光層の前記陽極と反対の面に形成された陰極と、前記基材の前記陽極と反対の面に設けられたレンズシートとを備え、前記レンズシートは、前記基材と反対の前記レンズシートの面に該面に沿い配列され前記発光層で発生した光を前記基材と反対の前記レンズシートの面から取り出す複数の凹状レンズ素子を有することを特徴とする。」(段落【0007】)、
「請求項8の発明は、請求項1乃至7の何れか1項に記載のEL素子において、前記レンズシートの前記凹状レンズ素子側の面に光拡散部材が設けられていることを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項8に記載のEL素子において、前記光拡散部材は粘着層を介して前記レンズシートの前記凹状レンズ素子側の面に接着されていることを特徴とする。」(段落【0009】)、
「レンズシート17は、図4及び図5に示すように、透光性の基材フィルム17aと、この基材フィルム17aの接着層16と反対の面に、該面に沿い二次元方向に一定のピッチで形成された一定深さの凹型の四角錐形状を呈する複数の凹状レンズ素子17bとからなる。・・・」(段落【0014】)、
「このような凹型の四角錐形状を呈する複数の凹状レンズ素子17bを配列してなるレンズシート17を備えるEL素子10においては、視野角にサイドローブのような急激な輝度変化が起こりにくくなる。・・・」(段落【0015】)、
「・・・また、基材フィルム17a及び凹状レンズ素子17bからなるレンズシート17は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、アクリルニトリルスチレン共重合体、アクリロニトリルポリスチレン共重合体などを用いて、射出成型法、あるいは熱プレス成型法によって光偏向要素を形成することもできる。」(段落【0018】)、
「・・・この図6に示すEL素子10は、図4に示す場合と同様に、透光性基材11と、この透光性基材11の一方の面に形成された透明な陽極13と、この陽極13の光性基材11と反対の面に形成された発光層12と、この発光層12の陽極13と反対の面に形成された陰極14と、透光性基材11の陽極13と反対の面に接着層16を介して接着された光取り出し用のレンズシート17とを備え、さらに、レンズシート17の凹状レンズ素子17b側の面に設けられた光拡散部材18を備えて構成されたものである。」(段落【0019】)、
「このような本実施の形態2に示すEL素子10においては、発光層12で発生した光線12aは、図11に矢印で示すようにレンズシート17の微細な凹状レンズ素子17bによって光はランダムに拡散され、レンズシート17の表面である光出射面から出射される。
したがって、このような本実施の形態2に示すEL素子10によれば、上記実施の形態1と同様な効果が得られるほか、光拡散部材18を設けることにより、視野角の拡大、色味等の均一化等のメリットがあり、さらに、EL素子10の光出射面に凹状レンズ素子17aが露出されないため、光出射面に汚れ等が付着しにくくなる効果がする。さらに、EL素子10の光出射面がフラットになるため、ハードコートを設けたり、あるいは平坦な面と接合することも可能になる。・・・」(段落【0020】)、
「・・・この図7に示すEL素子10は、図4に示す場合と同様に、透光性基材11と、この透光性基材11の一方の面に形成された透明な陽極13と、この陽極13の光性基材11と反対の面に形成された発光層12と、この発光層12の陽極13と反対の面に形成された陰極14と、透光性基材11の陽極13と反対の面に接着層16を介して接着された光取り出し用のレンズシート17とを備え、さらに、レンズシート17の凹状レンズ素子17b側の面には接着層19を介して光拡散部材18が接着されている。」(段落【0021】)、
「このような本実施の形態3に示すEL素子10においては、上記実施の形態2と同様な効果が得られるほか、光拡散部材18を接着層19を介してレンズシート17の凹状レンズ素子17b側の面に接着することにより、両者の密着強度を上げることができる。これにより、図8に示すように、サイドローブの出現を抑え、均一な視野角を確保することができる。・・・」(段落【0022】)、
「レンズシート21は、図9及び図10に示すように、透光性の基材フィルム21aと、この基材フィルム21aの接着層16と反対の面に、該面に沿い二次元方向にランダムなピッチで形成され、かつ平面視表面積及び深さがランダムな凹型の球面形状を呈する複数の微細な凹状レンズ素子(凹状マイクロレンズ)21bとからなる。・・・」(段落【0024】)、
「このような平面視表面積及び深さがランダムな凹型の球面形状を呈する複数の凹状レンズ素子21bをランダムなピッチで配列してなるレンズシート21を備えるEL素子10においては、発光層12で発生した光線12aは、図11に矢印で示すようにレンズシート17の凹状レンズ素子21bによって光はランダムに拡散され、レンズシート17の表面である光出射面から出射される。
したがって、このようなEL素子10においては、視野角にサイドローブのような急激な輝度変化が起こりにくくなり、これに伴い、レンズシートが観察者側にあっても視野角のサイドローブを低減させることができ、かつ光取り出し効率を向上することができる。・・・」(段落【0025】)、
「・・・この図6に示すEL素子10は、図9に示す場合と同様に、透光性基材11と、この透光性基材11の一方の面に形成された透明な陽極13と、この陽極13の光性基材11と反対の面に形成された発光層12と、この発光層12の陽極13と反対の面に形成された陰極14と、透光性基材11の陽極13と反対の面に接着層16を介して接着された光取り出し用のレンズシート21とを備え、さらに、レンズシート21の凹状レンズ素子21b側の面に設けられた光拡散部材22を備えて構成されたものである。」(段落【0026】)、
「このような本実施の形態5に示すEL素子10においては、発光層12で発生した光線12aは、図13に矢印で示すようにレンズシート21の微細な凹状レンズ素子21bによってランダムに拡散されるとともに、この拡散された光は光拡散部材22によって矢印12bで示すように更に拡散され、レンズシート17の表面である光出射面から出射される。
したがって、このような本実施の形態5に示すEL素子10によれば、上記実施の形態4と同様な効果が得られるほか、光拡散部材22を設けることにより、上記図11に示す場合よりも光の拡散度合いが均一化され、この拡散度合いによって光拡散具合をコントロールする事が可能となり、所望の拡散効果を得ることができるとともに、視野角の拡大、色味等の均一化等のメリットがあり、EL素子10の光出射面に凹状レンズ素子21bが露出されないため、光出射面に汚れ等が付着しにくくなる効果がする。さらに、EL素子10の光出射面がフラットになるため、ハードコートを設けたり、あるいは平坦な面と接合することも可能になる。・・・」(段落【0027】)、
「・・・この図14に示すEL素子10は、図9に示す場合と同様に、透光性基材11と、この透光性基材11の一方の面に形成された透明な陽極13と、この陽極13の光性基材11と反対の面に形成された発光層12と、この発光層12の陽極13と反対の面に形成された陰極14と、透光性基材11の陽極13と反対の面に接着層16を介して接着された光取り出し用のレンズシート21とを備え、さらに、レンズシート21の凹状レンズ素子21b側の面には接着層23を介して光拡散部材22が接着されている。」(段落【0028】)、
「このような本実施の形態6に示すEL素子10においては、上記実施の形態5と同様な効果が得られるほか、光拡散部材22を接着層23を介してレンズシート21の凹状レンズ素子21b側の面に接着することにより、両者の密着強度を上げることができる。これにより、サイドローブの出現を抑え、均一な視野角を確保することができる。・・・」(段落【0029】)、
「・・・本実施の形態7におけるレンズシート24は、図15に示すように、透光性の基材フィルム24aの表面に、平面視表面積及び深さが同一の凹型の球面形状を呈する複数の凹状レンズ素子(マイクロレンズ)24bを一定のピッチでマトリクス状に配列してなるものである。・・・」(段落【0030】)、
「・・・本実施の形態8におけるレンズシート25は、図16に示すように、透光性の基材フィルム25aの表面に、平面視表面積及び深さが同一の凹型の球面形状を呈する複数の凹状レンズ素子(マイクロレンズ)25bを一定のピッチでハニカム状に配列してなるものである。・・・」(段落【0031】)、
「図6及び図7に示す光拡散部材18または図12及び図14に示す光拡散部材22は、ヘイズ値が20%以上であることが好ましい。ヘイズ値が20%未満の場合は、拡散性能が不十分となり、面内輝度の均一性が悪化するため好ましくない。また、光拡散部材10は、透明樹脂に光拡散領域が分散されて形成されている。
透明樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができ、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、アクリルニトリルスチレン共重合体、アクリロニトリルポリスチレン共重合体などを用いることができる。」(段落【0032】)、
「光拡散領域は、光拡散粒子からなることが好ましい。好適な拡散性能を容易に得ることができるためである。
光拡散粒子としては、無機酸化物または樹脂からなる透明粒子を用いることができる。無機酸化物からなる透明粒子としては、例えば、シリカ、アルミナなどを用いることができる。また、樹脂からなる透明粒子としては、アクリル粒子、スチレン粒子、スチレンアクリル粒子及びその架橋体、メラミン・ホルマリン縮合物の粒子、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(ペルフルオロアルコキシ樹脂)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリフルオロビニリデン)、及びETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)等のフッ素ポリマー粒子、シリコーン樹脂粒子などを用いることができる。
また、上述した透明粒子から2種類以上の透明粒子を組み合わせて使用してもよい。さらにまた、透明粒子の大きさ、形状は、特に規定されない。」(段落【0033】)、
「光拡散領域として光拡散粒子を用いた場合には、光拡散部材の厚さが0.05?5mmであることが好ましい。
光拡散部材の厚みが0.05?5mmである場合には、最適な拡散性能と輝度を得ることができる。逆に、0.05mm未満の場合には、拡散性能が足りず、5mmを超える場合には、樹脂量が多いため吸収による輝度低下が生じる。
なお、透明樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合には、光拡散領域として気泡を用いても良い。
すなわち、熱可塑性樹脂の内部に形成された気泡の内部表面が光の乱反射を生じさせ、光拡散粒子を分散させた場合と同等以上の光拡散機能を発現させることができる。そのため、光拡散部材の膜厚をより薄くすることが可能となる。
このような光拡散部材として、白色PETや白色PPなどを挙げることができる。白色PETは、PETと相溶性のない樹脂や酸化チタン(TiO_(2))、硫酸化バリウム(BaSO_(4))、炭酸カルシウムのようなフィラーをPETに分散させた後、該PETを2軸延伸法で延伸することにより、該フィラーの周りに気泡を発生させて形成する。
なお、熱可塑性樹脂からなる光拡散部材は、少なくとも1軸方向に延伸されてなればよい。少なくとも1軸方向に延伸させれば、フィラーの周りに気泡を発生させることができるためである。」(段落【0034】)、
「熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2、6-ナフレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエステル樹脂、イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂、スポログリコール共重合ポリエステル樹脂、フルオレン共重合ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、脂環式オレフィン共重合樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステル、ポリ塩化ビニル、シクロオレフィンポリマー、およびこれらを成分とする共重合体、またこれら樹脂の混合物などを用いることができ、特に制限されることはない。
光拡散領域として気泡を用いた場合には、光拡散部材の厚さが25?500μmであることが好ましい。
光拡散部材の厚さが25μm未満の場合には、シートのこしが不足し、製造工程やディスプレイ内でしわを発生しやすくなるので好ましくない。また、拡散基材の厚さが500μmを超える場合には、光学性能についてはとくに問題ないが、剛性が増すためロール状に加工しにくい、スリットが容易にできないなど、従来の拡散板と比較して得られる薄さの利点が少なくなるので好ましくない。」(段落【0035】)、
「(実施の形態9)
図17は、図6に示す光拡散部材18付きEL素子10を照明用光源とし、この照明用光源をバックライトとして用いることで、その光拡散部材18の光出射面側に液晶パネル(特許請求の範囲に記載の画像表示素子に相当する)26を対向配置し、これにより、液晶ディプレイ装置27を構成するようにしたものである。・・・」(段落【0036】)

イ 図11及び図13は次のとおりである。


(2)本件補正事項のうち、「凹状レンズ素子の屈折率」が「レンズシート」の「屈折率よりも小さい」との技術的事項について

ア 上記技術的事項は、凹状レンズ素子とレンズシートとが異なる部材であることを前提とするものと認められる。
しかしながら、上記(1)アの各記載によれば、当初明細書には、凹状レンズ素子はレンズシートに含まれることのみが記載してあったものと認められ、当初図面の記載もこの認定に特段反するものではない。
そして、当初明細書等に記載された発明では、発明の効果として、「本発明によれば、発光層で発生した光を基板の一方の面と反対の面から出射するように取り出す複数の凹状レンズ素子を配列してなる光取り出し用のレンズシートを基材の陽極と反対の面に設ける構成にしたので、レンズシートが観察者側にあっても視野角のサイドローブを低減させることができ、かつ光取り出し効率を向上することができるEL素子及びこれを用いた液晶用バックライトユニットなどの照明装置、電子看板装置並びにディスプレイ装置、光取り出しフィルムを提供することができる。」(段落【0012】)と記載されており、光取り出し効率の向上との作用効果が挙げられているところ、上記技術的事項が、当該作用効果に影響することは明らかである。
そうすると、上記技術的事項を追加する補正は、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

イ なお、本件補正後の請求項1(上記1)には、「前記レンズシートは、・・・複数の凹状レンズ素子を有し、」とも記載されているところ、当該記載からは、凹状レンズ素子がレンズシートに含まれることが前提となっているとも解される。そうすると、本件補正事項の「前記レンズシート」は、「レンズシート」それ自体ではなく、「レンズシート」のうちの透光性の基材フィルム(17a・21a)を意味し、その結果、「凹状レンズ素子の屈折率」が「レンズシート」の「屈折率よりも小さい」との上記技術的事項は、「凹状レンズ素子の屈折率」が「透光性の基材フィルム」の「屈折率よりも小さい」との技術的事項を意味するものと解する余地がある。
しかしながら、そのように解することができたとしても、当該技術的事項を追加する補正は、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。
すなわち、第1に、上記(1)アの各記載によれば、当初明細書には、凹状レンズ素子の屈折率と透光性の基材フィルムの屈折率との関係について何ら記載されていないことが明らかであり、第2に、当初明細書の段落【0018】(上記(1)ア)には、凹状レンズ素子の材料と基材フィルムの材料が記載されているものの、単に羅列されているにとどまり、両者の材料が異なることすら示唆されておらず、第3に、図11及び図13(上記(1)イ)からは、透光性の基材フィルム(17a・21a)と複数の凹状レンズ素子(17b・21b)との界面において、光線が屈折していること(すなわち両者の材料が異なること)は見て取れず、第4に、上記アと同様に、当該技術的事項は発明の効果に影響することが明らかであることに照らせば、上記のとおり解すべきである。

ウ 以上によれば、上記技術的事項を追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(3)本件補正事項のうち、「凹状レンズ素子の屈折率」が「光拡散部材の屈折率よりも小さい」との技術的事項について

上記(1)アの各記載によれば、当初明細書には、凹状レンズ素子の屈折率と光拡散部材の屈折率との関係について何ら記載されていないことが明らかである。
また、図13(上記(1)イ)には、複数の光線12a及び12bが記載されているところ、当初明細書の段落【0027】(上記(1)ア)によれば、光線12bは、発光層12で発生した光線12aが凹状レンズ素子21bによってランダムに拡散された光が、光拡散部材22によって更に拡散された光を意味している。
そして、光拡散は屈折のみを物理的原因とするものとはいえない(このことは、上記図13において、光拡散部材22の下側の界面に入射した光線12bの進路が、一方向ではなく、複数方向に変更されていることからも明らかである。)から、光線12bの軌跡からは、光拡散部材の屈折率と凹状レンズ素子の屈折率との関係は明らかにならないというべきである。なお、当初明細書の段落【0032】(上記(1)ア)に「・・・光拡散部材10は、透明樹脂に光拡散領域が分散されて形成されている。」と記載されているとおり、光拡散部材は単一の屈折率を有するものではないから、「光拡散部材の屈折率」の定義すら当初明細書等からは明らかではない。
さらに、上記図13では、光拡散部材22の下側の界面において光線12bの進路が変更されていることが見て取れるものの、上記図13において光線12bが描かれている箇所における当該界面には凹状レンズ素子が存在していない。そうすると、この意味からも、光線12bの軌跡からは、光拡散部材の屈折率と凹状レンズ素子の屈折率との関係は明らかにならない。
そして、上記技術的事項が、上記(2)アと同様に、光取り出し効率の向上との発明の効果に影響することは明らかである。
したがって、上記技術的事項を追加する補正は、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。

以上によれば、上記技術的事項を追加する補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(4)したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成24年9月27日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものであると認められる。
「透光性の基材と、
前記基材の一方の面に形成された透明な陽極と、
前記陽極の前記基材と反対の面に形成された発光層と、
前記発光層の前記陽極と反対の面に形成された陰極と、
前記基材の前記陽極と反対の面に設けられたレンズシートとを備え、
前記レンズシートは、前記基材と反対の前記レンズシートの面に該面に沿い配列され前記発光層で発生した光を前記基材と反対の前記レンズシートの面から取り出す前記基材側に凹状の複数の凹状レンズ素子を有し、
前記基材と反対の複数の前記凹状レンズ素子の端部間を接続し前記各凹状レンズ素子全体を覆う光拡散部材が設けられ、
前記光拡散部材は、前記各凹状レンズ素子の前記端部に接着層で接着されている、
ことを特徴とするEL素子。」

なお、平成24年9月27日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1には「前記陽極の前記基板と反対の面に形成された発光層と、」と記載されているが、「前記基板」の「基板」との用語が前記されておらず、「基材」との用語が前記されていることに照らして、「前記基板」は「前記基材」の誤記と認め、本願発明を上記のとおり認定した。

2 引用例
(1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2003-59641号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。

ア 「【特許請求の範囲】」、
「扁平な透光性材料から成る基材と、この基材の下面に配設された一対の陽極及び陰極から成る電極間に少なくとも発光層を有するエレクトロルミネセント素子であって、
上記基材のエレクトロルミネセント素子側と反対側の表面に、微小レンズアレイ素子を備えており、
この微小レンズアレイ素子が、エレクトロルミネセント素子側に凸状または凹状に、そして頂角が20度乃至120度の範囲であるように形成され、上記発光層とほぼ平行に配設された複数個の錐状のレンズ素子から構成されており、
上記発光層から出射する光が、基材を透過し、さらに上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子を通って、上方に出射することを特徴とする、エレクトロルミネセント素子。」(【請求項1】)、
「上記基材がほぼ長方形に形成されており、
上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子が、上記基材の長辺方向及び短辺方向に沿って並んで配設されていることを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロルミネセント素子。」(【請求項2】)、
「上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子が、四角錐状のレンズであって、その底面の各辺が、基材の長辺方向及び短辺方向に沿って延びていると共に、互いに接触していることを特徴とする、請求項2に記載のエレクトロルミネセント素子。」(【請求項3】)

イ 「【発明の属する技術分野】(段落【0001】)」、
「本発明は、例えば液晶表示装置等の表示装置をバック照明するためのバックライト装置として使用される扁平なエレクトロルミネセント素子、そしてこのようなエレクトロルミネセント素子をバックライト装置として備えた表示装置に関するものである。」(段落【0001】)

ウ 「【課題を解決するための手段】」(段落【0008】)、
「上記目的は、本発明の第一の構成によれば、扁平な透光性材料から成る基材と、この基材の下面に配設された一対の陽極及び陰極から成る電極間に少なくとも発光層を有するエレクトロルミネセント素子であって、上記基材のエレクトロルミネセント素子側と反対側の表面に、微小レンズアレイ素子を備えており、この微小レンズアレイ素子が、エレクトロルミネセント素子側に凸状または凹状に、そして頂角が20度乃至120度の範囲であるように形成され、上記発光層とほぼ平行に配設された複数個の錐状のレンズ素子から構成されており、上記発光層から出射する光が、基材を透過し、さらに上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子を通って、上方に出射することを特徴とする、エレクトロルミネセント素子により、達成される。」(段落【0008】)、
「上記第一の構成によれば、発光層から出射した光は、発光層から基材を通って、基材の表面に備えられた微小レンズアレイ素子の各レンズ素子を通って、上方に出射し、例えばその上方に配設された表示素子をバック照明することになる。その際、基材の表面から上方に向かって出射しようとする光は、微小レンズアレイ素子の各レンズ素子に入射することになるので、従来の基材の平坦な表面に入射する場合と比較して、入射角が変化するため、各レンズ素子の内面にて全反射されるようなことなく、上方に向かって出射することになる。」(段落【0018】)、
「従って、基材表面にて基材内部から上方空間への入射光の反射率が低下し、基材からの光の取出し効率が上昇することになるので、例えばエレクトロルミネセント素子を表示装置のバック照明として使用する場合に、表示装置の高輝度化や省電力化に対応することができる。」(段落【0019】)、
「上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子が、四角錐状のレンズであって、その底面の各辺が、基材の長辺方向及び短辺方向に沿って延びていると共に、互いに接触している場合には、各レンズ素子が四角錐状のレンズであることから、基材の長辺方向及び短辺方向に関して特に集光されると共に、各レンズ素子の間に、基材の表面に平坦な部分が残らないので、微小レンズアレイ素子による光の取出し効率がより一層向上することになる。」(段落【0021】)

エ 「【発明の実施の形態】」(段落【0031】)、
「図1は、本発明によるエレクトロルミネセント素子の第一の実施形態の構成を示している。図1において、エレクトロルミネセント素子10は、透明基板11と、透明基板11の下面に形成された透明電極12と、透明電極12の下面に形成されたエレクトロルミネセント発光層13と、エレクトロルミネセント発光層13の下面に形成された裏面電極14と、から構成されている。」(段落【0032】)、
「上記透明基板11は、扁平なほぼ長方形状の透光性材料から構成されている。上記透明電極12は、例えばITO等から構成されている。上記エレクトロルミネセント発光層13は、例えばZnS等の無機化合物やAlq3等の有機化合物の単層もしくは複数の層を積層して構成され、発光層として作用し、光を発生させる。上記裏面電極14は、例えばアルミニウム蒸着膜等から構成されており、透明電極12と共に、エレクトロルミネセント発光層13に対して電圧を印加するようになっている。」(段落【0033】)、
「上述した実施形態においては、基材である透明基板の表面に設けられた微小レンズアレイ素子の各レンズ素子として、上方に突出した円錐状のレンズ素子15b,下方に突出した円錐状のレンズ素子21bそして上方に突出した四角錐状のレンズ素子31bを使用した場合について説明したが、これに限らず、各レンズ素子は、上方または下方に突出した凸状または凹状の円錐または多角錐状に形成されていてもよい。また、上述した実施形態においては、微小レンズアレイ素子15,21,31は、透明基板11と一体に構成されているが、透明基板11と別体に形成され、例えば接着剤等により貼着されるようにしてもよい。さらに、上述した実施形態においては、微小レンズアレイ素子15,21,31の各配置枠15a,21a,31aは、エレクトロルミネセント素子10,20または30の長辺方向及び短辺方向に整列して配設されているが、一方向のみに整列し、他方向に関しては互いに所定距離づつずれて配設されてもよい。」(段落【0056】)

オ 請求項1には、「扁平な透光性材料から成る基材と、この基材の下面に配設された一対の陽極及び陰極から成る電極間に少なくとも発光層を有するエレクトロルミネセント素子」との記載がある。
そして、段落【0033】(上記エ)を踏まえると、請求項1の「発光層」に、Alq3等の有機化合物の単層もしくは複数の層を積層して構成された層が含まれることが理解できるので、引用例には、請求項1の「発光層」として、Alq3等の有機化合物の単層もしくは複数の層を積層して構成された層が記載されていると認められる。
また、段落【0032】・【0033】(上記エ)を踏まえると、請求項1の「一対の陽極及び陰極」に、ITOから構成されている透明電極と、アルミニウム蒸着膜から構成されている裏面電極とが含まれることが理解できる。そして、有機EL素子の技術分野において、ITOから構成されている電極が陽極であり、アルミニウム蒸着膜から構成されている電極が陰極であることは、明らかである。そうすると、引用例には、請求項1の「一対の陽極及び陰極」として、それぞれ、ITOから構成されている透明電極及びアルミニウム蒸着膜から構成されている裏面電極が記載されていると認められる。

カ 請求項1には、「この微小レンズアレイ素子が、エレクトロルミネセント素子側に凸状または凹状に・・・形成され、上記発光層とほぼ平行に配設された複数個の錐状のレンズ素子から構成されており」との記載があるところ、段落【0056】(上記エ)の「上述した実施形態においては、基材である透明基板の表面に設けられた微小レンズアレイ素子の各レンズ素子として、上方に突出した円錐状のレンズ素子15b,下方に突出した円錐状のレンズ素子21bそして上方に突出した四角錐状のレンズ素子31bを使用した場合について説明したが、これに限らず、各レンズ素子は、上方または下方に突出した凸状または凹状の円錐または多角錐状に形成されていてもよい。」との記載に照らせば、請求項1の「微小レンズアレイ素子」の各「レンズ素子」に、下方に凹んだ多角錐状のものが含まれることが理解できる。
そして、請求項3には、「上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子が、四角錐状のレンズ」であることが記載されている。
そうすると、引用例には、請求項1の「凸状または凹状に」「形成され」た「微小レンズアレイ素子」の「各レンズ素子」として、下方に凹んだ四角錐状のレンズが記載されていると認められる。

(2)上記(1)の各事項によれば、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「扁平な透光性材料から成る基材と、この基材の下面に配設された一対の陽極及び陰極から成る電極間に少なくとも発光層を有するエレクトロルミネセント素子であって、
上記基材のエレクトロルミネセント素子側と反対側の表面に、微小レンズアレイ素子を備えており、
この微小レンズアレイ素子が、エレクトロルミネセント素子側に凸状または凹状に、そして頂角が20度乃至120度の範囲であるように形成され、上記発光層とほぼ平行に配設された複数個の錐状のレンズ素子から構成されており、
上記発光層から出射する光が、基材を透過し、さらに上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子を通って、上方に出射するエレクトロルミネセント素子であって、
上記基材がほぼ長方形に形成されており、
上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子が、上記基材の長辺方向及び短辺方向に沿って並んで配設されており、
上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子が、下方に凹んだ四角錐状のレンズであって、その底面の各辺が、基材の長辺方向及び短辺方向に沿って延びていると共に、互いに接触しており、
上記発光層は、Alq3等の有機化合物の単層もしくは複数の層を積層して構成された層であり、
上記一対の陽極及び陰極は、それぞれ、ITOから構成されている透明電極及びアルミニウム蒸着膜から構成されている裏面電極であり、
微小レンズアレイ素子は、上記基材と別体に形成され、例えば接着剤等により貼着されており、
基材の表面から上方に向かって出射しようとする光は、微小レンズアレイ素子の各レンズ素子に入射することになるので、従来の基材の平坦な表面に入射する場合と比較して、入射角が変化するため、各レンズ素子の内面にて全反射されるようなことなく、上方に向かって出射することになり、従って、基材表面にて基材内部から上方空間への入射光の反射率が低下し、基材からの光の取出し効率が上昇することになる、
エレクトロルミネセント素子。」

3 対比
(1)本願発明と引用発明とを以下に対比する。
ア 引用発明の「扁平な透光性材料から成る基材」は、本願発明の「透光性の基材」に相当する。

イ 引用発明の「発光層」は、本願発明の「発光層」に相当する。

ウ 引用発明の「この基材の下面に配設された一対の陽極及び陰極」は、「それぞれ、ITOから構成されている透明電極及びアルミニウム蒸着膜から構成されている裏面電極であ」る。
そうすると、引用発明の「陽極」である「ITOから構成されている透明電極」及び「陰極」である「アルミニウム蒸着膜から構成されている裏面電極」は、それぞれ、本願発明の「前記基材の一方の面に形成された透明な陽極」及び「前記発光層の前記陽極と反対の面に形成された陰極」に相当する。
そして、引用発明の「発光層」は、本願発明の「前記陽極の前記基材と反対の面に形成された」との特定事項を備えているといえる。

エ 引用発明の「上記発光層とほぼ平行に配設された複数個の錐状のレンズ素子から構成されて」いる「微小レンズアレイ素子」は、本願発明の「レンズシート」に相当する。
そして、引用発明は「上記発光層から出射する光が、基材を透過し、さらに上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子を通って、上方に出射する」ものであり、「微小レンズアレイ素子は、上記基材と別体に形成され、例えば接着剤等により貼着されて」いるから、引用発明の「微小レンズアレイ素子」は、本願発明の「前記基材の前記陽極と反対の面に設けられた」との特定事項を備えているといえる。

オ 引用発明は「上記発光層から出射する光が、基材を透過し、さらに上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子を通って、上方に出射する」ものであって、また、引用発明の「微小レンズアレイ素子」は、「上記発光層とほぼ平行に配設された複数個の錐状のレンズ素子から構成されて」おり、「各レンズ素子が、下方に凹んだ四角錐状のレンズであ」る。
さらに、引用発明は、「基材の表面から上方に向かって出射しようとする光は、微小レンズアレイ素子の各レンズ素子に入射することになるので、従来の基材の平坦な表面に入射する場合と比較して、入射角が変化するため、各レンズ素子の内面にて全反射されるようなことなく、上方に向かって出射することになり、従って、基材表面にて基材内部から上方空間への入射光の反射率が低下し、基材からの光の取出し効率が上昇することになる」ものである。
そうすると、引用発明の「微小レンズアレイ素子」は、本願発明の「前記基材と反対の前記レンズシートの面に該面に沿い配列され前記発光層で発生した光を前記基材と反対の前記レンズシートの面から取り出す前記基材側に凹状の複数の凹状レンズ素子を有」するとの特定事項を備えているといえる。

カ 引用発明の「上記発光層は、Alq3等の有機化合物の単層もしくは複数の層を積層して構成された層であ」る「エレクトロルミネセント素子」は、本願発明の「EL素子」に相当する。

(2)上記(1)によれば、本願発明と引用発明とは、
「透光性の基材と、
前記基材の一方の面に形成された透明な陽極と、
前記陽極の前記基材と反対の面に形成された発光層と、
前記発光層の前記陽極と反対の面に形成された陰極と、
前記基材の前記陽極と反対の面に設けられたレンズシートとを備え、
前記レンズシートは、前記基材と反対の前記レンズシートの面に該面に沿い配列され前記発光層で発生した光を前記基材と反対の前記レンズシートの面から取り出す前記基材側に凹状の複数の凹状レンズ素子を有する、
EL素子。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願発明は、「前記基材と反対の複数の前記凹状レンズ素子の端部間を接続し前記各凹状レンズ素子全体を覆う光拡散部材が設けられ、前記光拡散部材は、前記各凹状レンズ素子の前記端部に接着層で接着されている」のに対し、引用発明ではそうなっていない点。

4 相違点の判断
(1)上記[相違点]について検討する。

ア 引用発明は、「上記発光層から出射する光が、基材を透過し、さらに上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子を通って、上方に出射する」ものであって、「上記微小レンズアレイ素子の各レンズ素子が、下方に凹んだ四角錐状のレンズであって、その底面の各辺が、基材の長辺方向及び短辺方向に沿って延びていると共に、互いに接触して」いる。
そうすると、引用発明の「微小レンズアレイ素子」は、本願発明の「前記基材と反対の複数の凹状レンズ素子の端部」に相当する構成を備えていると解される。

イ 引用発明は、液晶表示装置等の表示装置をバック照明するためのバックライト装置として使用されるものであり(上記2(1)イの段落【0001】)、これは、本願発明と用途を同じくするものである(本願の明細書の段落【0001】に「本発明は、・・・液晶用バックライトユニットなどの照明用光源・・・に用いられる有機EL・・・素子に・・・関する。」との記載がある。)。
そして、引用発明は、「基材の表面から上方に向かって出射しようとする光は、微小レンズアレイ素子の各レンズ素子に入射することになるので、従来の基材の平坦な表面に入射する場合と比較して、入射角が変化するため、各レンズ素子の内面にて全反射されるようなことなく、上方に向かって出射することになり、従って、基材表面にて基材内部から上方空間への入射光の反射率が低下し、基材からの光の取出し効率が上昇することになる」ものであるから、引用発明の「微小レンズアレイ素子」は光線の方向を制御する素子であるということができる。

ウ 他方、液晶表示装置のバックライト装置の技術分野において、EL素子に集光シートを組み合わせることにより、特定方向の輝度を高めるとともに、発光素子からの光放射角を制御するために、光拡散板・フィルムを、集光シートと併用することは周知技術である(例えば、特開2006-237306号公報の段落【0139】?【0142】・【0151】、特開2007-19070号公報の段落【0149】?【0153】を参照。)
さらに、液晶表示装置のバックライト装置の技術分野において、レンズフィルムの上に拡散フィルムを積層することは周知技術であり(例えば、特開2007-286280号公報の段落【0046】、特開2007-155938号公報の請求項1・段落【0062】?【0064】・図6、特開2008-3233号公報の段落【0060】・図1を参照。)、また、一般に、マイクロレンズ基板と平板状の拡散部とを接着により接合することも周知技術である(例えば、特開2005-128351号公報の段落【0064】?【0065】・図5、前掲の特開2007-155938号公報の請求項1・段落【0062】?【0064】・図6、前掲の特開2008-3233号公報の段落【0060】・図1を参照。)。
なお、集光シート、レンズフィルム及びマイクロレンズ基板などは、いずれも、光線の方向を制御する素子であるということができる。

エ 上記イのとおり、引用発明は、液晶表示装置等のバックライト装置として使用されるものであるから、出射される光線分布を適宜制御することは例示するまでもなく周知の課題である。
そうすると、当業者であれば、引用発明において、上記課題を解決するために、上記各周知技術に照らし、光拡散板・フィルムを、光線の方向を制御する素子であるところの微小レンズアレイ素子と併用するとともに、当該光拡散板・フィルムを、微小レンズアレイ素子が備える「前記基材と反対の複数の凹状レンズ素子の端部」に相当する構成(上記ア)に接着するようにして、上記[相違点]に係る構成となすことは、容易に想到し得たことである。

(2)本願発明のようにしたことによる作用効果は、引用発明、引用例に記載された事項及び上記各周知技術に比して格別顕著なものとはいえない。

(3)したがって、本願発明は、引用発明、引用例に記載された事項及び上記各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-18 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2008-119272(P2008-119272)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
P 1 8・ 561- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越河 勉  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 西村 仁志
山村 浩
発明の名称 EL素子、EL素子を用いた液晶ディスプレイ用バックライト装置、EL素子を用いた照明装置、EL素子を用いた電子看板装置、及びEL素子を用いたディスプレイ装置、光取り出しフィルム  

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