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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1303348
審判番号 不服2014-6048  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-03 
確定日 2015-07-15 
事件の表示 特願2009-503209「バッテリ充電表示方法、バッテリ充電モニタ装置、充電式バッテリおよび製品」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月18日国際公開、WO2007/117986、平成21年 9月10日国内公表、特表2009-532678〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年3月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年3月31日(以下、「優先日」という。)、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月26日付けで拒絶理由が通知され、平成25年4月8日付けで特許請求の範囲についての補正がなされ(以下、「補正1」という。)、平成25年4月24日付けで拒絶理由が通知され、平成25年11月25日付け(送達:同年12月3日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年4月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を次のとおり補正するものである(なお、下線は請求人が付した。)。

(本件補正前)
「 【請求項1】
第1の方法を使用して第1の時間的瞬間にバッテリの充電状態を決定するための第1の決定を行なうステップと、
前記第1の方法とは異なる第2の方法を使用して第2の時間的瞬間に前記バッテリの充電状態を決定するための第2の決定を行なうステップと、
第1および第2の決定ステップにおいて決定した情報を使用して第1および第2の時間的瞬間に前記バッテリの充電状態に関する情報を得るステップと、
得られた前記バッテリの充電状態に関する情報に応じて、前記第1の方法と前記第2の方法を選択使用するステップと、
第3の時間的瞬間に第1および第2の方法の情報を組み合わせることにより、第3の時間的瞬間に前記バッテリの充電状態に関する情報の第3の決定を行なうステップと、を含むバッテリ充電表示方法。
【請求項2】
前記第1および第2の決定ステップは、第1および第2の決定のそれぞれの決定中に前記バッテリの異なる電気パラメータを監視することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の決定ステップは、前記バッテリの電流のクーロンを計数することを含み、前記第2の決定ステップは、前記バッテリのセルの電圧を監視することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1の充電状態から該第1の充電状態よりも大きい第2の充電状態へと前記バッテリを再充電するとともに、再充電の前後に前記バッテリの充電状態を表示するステップを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1および第2の決定ステップのうちの少なくとも一方は、前記バッテリの減少された容量に対応することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1および第2の決定ステップのうちの少なくとも一方は、前記バッテリのセルの放電電圧プロファイルを使用して決定することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
温度を監視するステップを更に含み、前記第1および第2の決定ステップのうちの少なくとも一方は、温度を使用して決定することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記バッテリの充電情報に関する情報をユーザへ知らせるステップを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1および第2の時間的瞬間は、充電式バッテリを備える前記バッテリの第1および第2の放電サイクルのそれぞれの最中に起こり、前記第2の決定ステップは、第1の放電サイクル中に得られる情報を使用して決定することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
バッテリと結合するように構成されるインタフェースと、
前記インタフェースと結合され且つ複数の異なる時間的瞬間に前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路であって、第1の方法を使用して第1の時間的瞬間に充電状態に関する情報を決定するとともに、第1の方法と異なる第2の方法を使用して第2の時間的瞬間に充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路と、を備え、
前記処理回路は、第1および第2の方法と異なる第3の方法を使用して第3の時間的瞬間に前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成され、第3の方法は、第3の時間的瞬間に第1および第2の方法を使用して得られる情報を使用する、バッテリ充電モニタ装置。
【請求項11】
前記処理回路は、前記第1の方法および第2の方法の使用中に前記バッテリの複数の異なる電気パラメータのそれぞれを監視するように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記処理回路は、前記第1の方法の使用中に前記バッテリの電流を監視し且つ前記第2の方法の使用中に前記バッテリのセルの電圧を監視するように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記処理回路は、セルの電圧とセルの放電電圧プロファイルとを比較して、第2の時間的瞬間に充電状態に関する情報を決定するように構成される請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記処理回路は、前記バッテリの充電状態に応じて前記第1の方法の使用から第2の方法の使用へと切り換えるように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項15】
前記処理回路は、前記バッテリの充電状態が閾値に達することに応じて前記第1の方法の使用から第2の方法の使用へと切り換えるように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項16】
前記処理回路は、温度を監視し且つ温度にしたがって充電状態に関する情報を調整するように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項17】
電気エネルギを蓄え、放電動作モード中に電気的に放電されるとともに、充電動作モード中に電気的に充電されるように構成される少なくとも1つの再充電可能セルと、
少なくとも1つの再充電可能セルと結合されるとともに、第1の方法を実施して第1の時間的瞬間に再充電可能セルの充電状態に関する情報を与え且つ第1の方法とは異なる第2の方法を実施して第2の時間的瞬間に再充電可能セルの充電状態に関する情報を得るように構成されるモニタ装置と、を備え、
前記モニタ装置は、充電状態に関する情報を得るために第1および第2の方法のうちの少なくとも1つの実施中に再充電可能セルの容量の減少に対応するように構成され、
前記モニタ装置は、前記第1および第2の方法と異なる第3の方法を実施して第3の時間的瞬間に再充電可能セルの充電状態に関する情報を得るように構成され、第3の方法は、第3の時間的瞬間に前記第1および第2の方法によって与えられる情報を使用する、充電式バッテリ。
【請求項18】
前記モニタ装置は、前記第1の方法および第2の方法のそれぞれの実施中に再充電可能セルの異なる電気パラメータを監視するように構成される請求項17に記載のバッテリ。
【請求項19】
前記モニタ装置は、前記再充電可能セルの充電状態を使用して前記第1の方法の実施から第2の方法の実施へ切り換えるように構成される請求項17に記載のバッテリ。」

(本件補正後)
「 【請求項1】
第1の方法を使用して第1の時間的瞬間にバッテリの充電状態を決定するための第1の決定を行なうステップと、
前記第1の方法とは異なる第2の方法を使用して、前記第1の時間的瞬間とは異なる第2の時間的瞬間に、前記バッテリの充電状態を決定するための第2の決定を行なうステップと、
第1および第2の決定ステップにおいて決定した情報を使用して第1および第2の時間的瞬間に前記バッテリの充電状態に関する情報を得るステップと、
得られた前記バッテリの充電状態に関する情報に応じて、前記第1の方法と前記第2の方法を選択使用するステップと、
前記第1の時間的瞬間と前記第2の時間的瞬間とは異なる第3の時間的瞬間に、第1および第2の方法の情報を組み合わせることにより、第3の時間的瞬間に前記バッテリの充電状態に関する情報の第3の決定を行なうステップと、を含むバッテリ充電表示方法。
【請求項2】
前記第1および第2の決定ステップは、第1および第2の決定のそれぞれの決定中に前記バッテリの異なる電気パラメータを監視することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の決定ステップは、前記バッテリの電流のクーロンを計数することを含み、前記第2の決定ステップは、前記バッテリのセルの電圧を監視することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1の充電状態から該第1の充電状態よりも大きい第2の充電状態へと前記バッテリを再充電するとともに、再充電の前後に前記バッテリの充電状態を表示するステップを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1および第2の決定ステップのうちの少なくとも一方は、前記バッテリの減少された容量に対応することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1および第2の決定ステップのうちの少なくとも一方は、前記バッテリのセルの放電電圧プロファイルを使用して決定することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
温度を監視するステップを更に含み、前記第1および第2の決定ステップのうちの少なくとも一方は、温度を使用して決定することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記バッテリの充電情報に関する情報をユーザへ知らせるステップを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1および第2の時間的瞬間は、充電式バッテリを備える前記バッテリの第1および第2の放電サイクルのそれぞれの最中に起こり、前記第2の決定ステップは、第1の放電サイクル中に得られる情報を使用して決定することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
バッテリと結合するように構成されるインタフェースと、
前記インタフェースと結合され且つ複数の異なる時間的瞬間に前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路であって、第1の方法を使用して第1の時間的瞬間に充電状態に関する情報を決定するとともに、第1の方法と異なる第2の方法を使用して第1の時間的瞬間と異なる第2の時間的瞬間に充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路と、を備え、
前記処理回路は、第1および第2の方法と異なる第3の方法を使用して、前記第1の時間的瞬間と前記第2の時間的瞬間とは異なる第3の時間的瞬間に、前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成され、第3の方法は、第3の時間的瞬間に第1および第2の方法を使用して得られる情報を使用する、バッテリ充電モニタ装置。
【請求項11】
前記処理回路は、前記第1の方法および第2の方法の使用中に前記バッテリの複数の異なる電気パラメータのそれぞれを監視するように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記処理回路は、前記第1の方法の使用中に前記バッテリの電流を監視し且つ前記第2の方法の使用中に前記バッテリのセルの電圧を監視するように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記処理回路は、セルの電圧とセルの放電電圧プロファイルとを比較して、第2の時間的瞬間に充電状態に関する情報を決定するように構成される請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記処理回路は、前記バッテリの充電状態に応じて前記第1の方法の使用から第2の方法の使用へと切り換えるように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項15】
前記処理回路は、前記バッテリの充電状態が閾値に達することに応じて前記第1の方法の使用から第2の方法の使用へと切り換えるように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項16】
前記処理回路は、温度を監視し且つ温度にしたがって充電状態に関する情報を調整するように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項17】
電気エネルギを蓄え、放電動作モード中に電気的に放電されるとともに、充電動作モード中に電気的に充電されるように構成される少なくとも1つの再充電可能セルと、
少なくとも1つの再充電可能セルと結合されるとともに、第1の方法を実施して第1の時間的瞬間に再充電可能セルの充電状態に関する情報を与え且つ第1の方法とは異なる第2の方法を実施して第1の時間的瞬間とは異なる第2の時間的瞬間に再充電可能セルの充電状態に関する情報を得るように構成されるモニタ装置と、を備え、
前記モニタ装置は、充電状態に関する情報を得るために第1および第2の方法のうちの少なくとも1つの実施中に再充電可能セルの容量の減少に対応するように構成され、
前記モニタ装置は、前記第1および第2の方法と異なる第3の方法を実施して、前記第1の時間的瞬間と前記第2の時間的瞬間とは異なる第3の時間的瞬間に、再充電可能セルの充電状態に関する情報を得るように構成され、第3の方法は、第3の時間的瞬間に前記第1および第2の方法によって与えられる情報を使用する、充電式バッテリ。
【請求項18】
前記モニタ装置は、前記第1の方法および第2の方法のそれぞれの実施中に再充電可能セルの異なる電気パラメータを監視するように構成される請求項17に記載のバッテリ。
【請求項19】
前記モニタ装置は、前記再充電可能セルの充電状態を使用して前記第1の方法の実施から第2の方法の実施へ切り換えるように構成される請求項17に記載のバッテリ。」

請求項10についての本件補正は、請求項10に係る発明を特定するために必要な事項である「第2の時間的瞬間」及び「第3の時間的瞬間」について、それぞれ、「第1の時間的瞬間と異なる」及び「前記第1の時間的瞬間と前記第2の時間的瞬間とは異なる」と限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項10に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)について、以下に検討する。

2 引用例記載の事項及び引用発明
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-315730号公報(発明の名称:「二次電池の残容量率算出方法および電池パック」、出願人:ソニー株式会社、公開日:2005年11月10日、以下「引用例」という。)には、次の事項aないしeが図面とともに記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

a
「【技術分野】
【0001】
この発明は、二次電池の残容量率算出方法および電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、充電池を用いて使用される電気、電子機器が増え、合わせて使用頻度も高くなっている。これらの機器は、ランプや液晶などを用いて電池容量が表されており、おおよその使用可能時間がユーザーにわかるようになっている。」

b
「【0018】
このバッテリパックは、電気機器使用時には+端子1と-端子2が機器の+端子、-端子に接続され、放電が行われる。また、充電時には充電器に装着され、電気機器使用時と同様に+端子1と-端子2がそれぞれ充電器の+端子、-端子に接続され、充電が行われる。
【0019】
バッテリパックは主に、電池セル7、マイクロコンピュータ10、測定回路11、保護回路12、スイッチ回路4、通信端子3a,3bで構成されている。
【0020】
電池セル7は、リチウムイオン電池等の二次電池で、4個の二次電池を直列に接続したものである。
【0021】
マイクロコンピュータ10は、測定回路11から入力された電圧値、電流値を使用して電圧値の測定や電流値の積算を行うようになされている。また、参照符号8で示される温度検出素子(例えばサーミスタ)で測定した電池温度を取り込む。さらに、測定値等が参照符号13で示される不揮発性メモリEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)に保存される。さらに、マイクロコンピュータ10は電圧法信頼度の検出も随時行っている。
【0022】
測定回路11は、バッテリパック内の電池セル7の各セルの電圧を測定し、マイクロコンピュータ10に測定値を供給する。また、電流検出抵抗9を使用して電流の大きさおよび向きを測定し、マイクロコンピュータ10に測定値を送るものである。さらに、測定回路11は、電池セル7の電圧を安定化して電源電圧を発生するレギュレータとしての機能も有する。」

c
「【0045】
この発明では、放電開始時には積算法による残容量率を用い、徐々に電圧法による残容量率に変化させていく。また、放電終止付近では電圧法による残容量検出を行い、放電終止時には確実にカットオフ電圧と残容量率0%が一致するようにするため、完全に電圧法に切り替わるようになされている。」

d
「【0062】
上述の方法によって得られた電圧法残容量率(%)と電圧法信頼度(%)の関係を図9に示す。図9中の各グラフは、温度別に表示されている。電圧法信頼度を算出する式は、電圧法を用いた場合、中間電位での残容量測定精度が悪いことと、電力積算法を用いた場合、放電末期の測定精度が悪いという2点の特性を加味した上で、電圧法信頼度の特性が以下のようになるようになされている。なお、電圧法信頼度は0?100%の範囲で算出し、信頼度が高いほど電圧法の残容量率を高い割合で使用するものである。
【0063】
1.残容量率100?30%付近までは、電力積算法での残容量率検出結果を使用
2.残容量率30?5%付近では、電力積算法での残容量と電圧法での残容量率を、電圧法信頼度に基づく割合に応じて足し合わせた値を使用
3.残容量率5%以下では、電圧法での残容量率検出結果を使用
【0064】
この発明では、図10に示すように、放電開始時には積算法、放電末期には電圧法を用い、中間電位の区間では、上述の式から求められた電圧法信頼度に応じて、電圧法残容量率と積算法残容量率とを重み付け加算して、最終的な残容量率(%)を算出する。このような電圧法残容量率を使用した重み付け加算により、積算法から電圧法に徐々に移行する。」

e
「【0066】
残容量算出処理が開始されると、図2の電池セル7では放電電圧を、電流測定抵抗9では放電電流を、サーミスタ8では電池温度を測定し、各測定値をマイクロコンピュータ10に供給する(ステップS11)。
【0067】
マイクロコンピュータ10では、供給された電圧値を元に電圧法による残容量検出を行う(ステップS12)。供給された測定電圧に(電流×インピーダンス)にて算出したドロップ電圧を加算することにより無負荷時の測定電圧を算出し、電圧と二次電池の残容量比率との関係を示す特性曲線のデータから二次電池の残容量を求める。電圧と二次電池の残容量比率との関係を表すデータは、事前に試験データから関係を導き出しておき、電圧と容量が対応したデータテーブルを用意し、電圧から対応した容量を算出する。
【0068】
次に、マイクロコンピュータ10内では、測定した電流、電圧から放電電力を算出する(電力=電流×電圧)。算出した放電電力は一定時間毎に積算処理を行い、放電開始からの積算電力量を求める(ステップS13)。ステップS14では、ステップS13で得られた積算電力量と、事前に試験データから得られた二次電池の放電可能電力に対しての割合から残容量率を算出する。具体的には、以下の式より、残容量率を得る。
【0069】
残容量率(%)=積算電力/放電可能電力×100」

ア 上記bの記載から、
「マイクロコンピュータ10、測定回路11」で構成されるとの技術的事項が読み取れる。
また、上記bの記載から、
「測定回路11は、電池セル7の各セルの電圧を測定し、マイクロコンピュータ10に測定値を供給」し、また、「電流の大きさおよび向きを測定し、マイクロコンピュータ10に測定値を送」るとの技術的事項が読み取れるから、上記bの記載から、
「マイクロコンピュータ10、測定回路11で構成され、測定回路11は、電池セル7の各セルの電圧を測定し、マイクロコンピュータ10に測定値を供給し、また、電流の大きさおよび向きを測定し、マイクロコンピュータ10に測定値を送」るとの技術的事項が読み取れる。

イ 上記eの記載から、
「マイクロコンピュータ10では」「残容量検出を行」うとの技術的事項が読み取れる。

ウ 上記dの記載から、
「残容量率100?30%付近までは、電力積算法での残容量率検出結果を使用」し、「残容量率5%以下では、電圧法での残容量率検出結果を使用」するとの技術的事項が読みとれる。

エ 上記dの記載から、「残容量率30?5%付近では、電力積算法での残容量と電圧法での残容量率を、電圧法信頼度に基づく割合に応じて足し合わせた値を使用」するとの技術的事項が読み取れる。

オ 上記b及びeの記載から、
マイクロコンピュータ10と測定回路11とが、「二次電池」である「電池セル7」の「残容量」を「検出」する装置との技術的事項が読み取れる。

(2)引用発明
以上の技術的事項アないしオを総合勘案すると、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「二次電池である電池セル7の残容量を検出する装置であって、マイクロコンピュータ10、測定回路11で構成され、測定回路11は、電池セル7の各セルの電圧を測定し、マイクロコンピュータ10に測定値を供給し、また、電流の大きさおよび向きを測定し、マイクロコンピュータ10に測定値を送り、マイクロコンピュータ10では残容量検出を行い、残容量率100?30%付近までは、電力積算法での残容量率検出結果を使用し、残容量率5%以下では、電圧法での残容量率検出結果を使用し、
残容量率30?5%付近では、電力積算法での残容量と電圧法での残容量率を、電圧法信頼度に基づく割合に応じて足し合わせた値を使用する、電池セル7の残容量を検出する装置。」(以下、「引用発明」という。)

3 対比
本願補正発明と引用発明とを、主たる構成要件毎に順次対比する。

(1)引用発明の「二次電池」である「電池セル7」は、本願補正発明の「バッテリ」に相当する。
また、引用発明において、「マイクロコンピュータ10では残容量検出を行」うことは、本願補正発明の「前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路」を備えることに相当する。
そして、引用発明では、「測定回路11」により「電池セル7」の電圧や電流が測定されて「マイクロコンピュータ10」に測定値を送っているから、これは「電池セル7」と「マイクロコンピュータ10」とが「結合」されているといえる。

引用発明では、「残容量率100?30%付近までは、電力積算法での残容量率検出結果を使用し、残容量率5%以下では、電圧法での残容量率検出結果を使用し」ており、「残容量率」が「100?30%付近」である時が本願補正発明の「第1の時間的瞬間」に相当し、「残容量率」が「5%以下」である時が、本願補正発明の「第1の時間的瞬間と異なる第2の時間的瞬間」に相当する。
また、「残容量率100?30%付近」の時に使用される、「電力積算法」が、本願補正発明の「第1の方法」に相当し、「残容量率5%以下」の時に使用される「電圧法」が、本願補正発明の「第1の方法と異なる第2の方法」に相当する。
そして、「マイクロコンピュータ10」は、「複数の異なる時間的瞬間に」「残容量検出を行」っているといえる。

してみると、引用発明の「マイクロコンピュータ10、測定回路11で構成され、測定回路11は、電池セル7の各セルの電圧を測定し、マイクロコンピュータ10に測定値を供給し、また、電流の大きさおよび向きを測定し、マイクロコンピュータ10に測定値を送り、マイクロコンピュータ10では残容量検出を行い、残容量率100?30%付近までは、電力積算法での残容量率検出結果を使用し、残容量率5%以下では、電圧法での残容量率検出結果を使用」することと、本願補正発明の「バッテリと結合するように構成されるインタフェースと、前記インタフェースと結合され且つ複数の異なる時間的瞬間に前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路であって、第1の方法を使用して第1の時間的瞬間に充電状態に関する情報を決定するとともに、第1の方法と異なる第2の方法を使用して第1の時間的瞬間と異なる第2の時間的瞬間に充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路と、を備え」ることとは、「バッテリと結合され且つ複数の異なる時間的瞬間に前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路であって、第1の方法を使用して第1の時間的瞬間に充電状態に関する情報を決定するとともに、第1の方法と異なる第2の方法を使用して第1の時間的瞬間と異なる第2の時間的瞬間に充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路と、を備え」ることで共通する。

(2)引用発明では、「残容量率30?5%付近では、電力積算法での残容量と電圧法での残容量率を、電圧法信頼度に基づく割合に応じて足し合わせた値を使用」しており、「残容量率」が「30?5%付近」である時が、本願補正発明の「前記第1の時間的瞬間と前記第2の時間的瞬間とは異なる第3の時間的瞬間」に相当する。
また、「残容量率30?5%付近」の時に、「電力積算法での残容量と電圧法での残容量率を、電圧法信頼度に基づく割合に応じて足し合わせた値を使用する」方法は、本願補正発明の「第1および第2の方法を使用して得られる情報を使用する」「第3の方法」に相当する。
してみると、引用発明の「残容量率30?5%付近では、電力積算法での残容量と電圧法での残容量率を、電圧法信頼度に基づく割合に応じて足し合わせた値を使用する」ことと、本願補正発明の「前記処理回路は、第1および第2の方法と異なる第3の方法を使用して、前記第1の時間的瞬間と前記第2の時間的瞬間とは異なる第3の時間的瞬間に、前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成され、第3の方法は、第3の時間的瞬間に第1および第2の方法を使用して得られる情報を使用する」こととは、「前記処理回路は、第3の方法を使用して、前記第1の時間的瞬間と前記第2の時間的瞬間とは異なる第3の時間的瞬間に、前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成され、第3の方法は、第3の時間的瞬間に第1および第2の方法を使用して得られる情報を使用する」ことで共通する。

(3)引用発明の電池セル7は二次電池であるから、引用発明の「電池セル7の残容量を検出する装置」は、本願補正発明の「バッテリ充電モニタ装置」に相当するといえる。

(4)以上の関係を整理すると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「バッテリと結合され且つ複数の異なる時間的瞬間に前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路であって、第1の方法を使用して第1の時間的瞬間に充電状態に関する情報を決定するとともに、第1の方法と異なる第2の方法を使用して第1の時間的瞬間と異なる第2の時間的瞬間に充電状態に関する情報を得るように構成される処理回路と、を備え、
前記処理回路は、第3の方法を使用して、前記第1の時間的瞬間と前記第2の時間的瞬間とは異なる第3の時間的瞬間に、前記バッテリの充電状態に関する情報を得るように構成され、第3の方法は、第3の時間的瞬間に第1および第2の方法を使用して得られる情報を使用する、バッテリ充電モニタ装置。」

<相違点1>
本願補正発明が、「バッテリと結合するように構成されるインタフェース」を設け、処理回路が「前記インタフェースと結合」されているのに対し、引用発明では、マイクロコンピュータ10と電池セル7とを結合するための手段が特定されていない点。

<相違点2>
本願補正発明が、「第1および第2の方法と異なる」「第3の方法」を使用しているのに対し、引用発明では、残容量率30?5%付近で使用される方法が、残容量率100?30%付近で使用される方法及び残容量率5%以下で使用される方法と異なるか否か、特定されていない点、即ち、残容量率100?30%付近及び残容量率5%以下の時にそれぞれ電力積算法のみ、電圧法のみを使用して残容量率を検出しているのか、残容量率100?30%付近及び残容量率5%以下の時にも電力積算法及び電圧法の両方を使用して残容量率を検出しているのか、明示的に特定されていない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
電気信号伝送のための結合手段として、インタフェースは例を挙げるまでもなく周知技術であり、引用発明において当該周知技術を適用し、マイクロコンピュータ10と電池セル7とを結合するための手段として、電池セル7と結合する「インタフェース」を設け、マイクロコンピュータ10と当該「インタフェース」とを結合するようにすることは、当業者が容易になし得るものである。

(2)相違点2について
引用例の段落【0045】には、「この発明では、放電開始時には積算法による残容量率を用い、徐々に電圧法による残容量率に変化させていく。また、放電終止付近では電圧法による残容量検出を行」うことが記載されており(上記「2 (1) c」の記載事項を参照)、段落【0063】には、「1.残容量率100?30%付近までは、電力積算法での残容量率検出結果を使用、2.残容量率30?5%付近では、電力積算法での残容量と電圧法での残容量率を、電圧法信頼度に基づく割合に応じて足し合わせた値を使用、3.残容量率5%以下では、電圧法での残容量率検出結果を使用」することが記載されている。
また、引用例の段落【0064】には、「この発明では、図10に示すように、放電開始時には積算法、放電末期には電圧法を用い、中間電位の区間では、上述の式から求められた電圧法信頼度に応じて、電圧法残容量率と積算法残容量率とを重み付け加算して、最終的な残容量率(%)を算出する。」と記載されており(上記「2 (1) d」の記載事項を参照)、図10には、「積算法」を用いる区間、「電圧法」を用いる区間、「積算法+電圧法」を用いる区間が矢印により明確に区分されている。
してみれば、これらの記載から引用例には、残容量率100?30%付近(本願補正発明の「第1の時間的瞬間」に相当)では電力積算法(本願補正発明の「第1の方法」に相当)のみ、残容量率5%以下(本願補正発明の「第2の時間的瞬間」に相当)では、電圧法(本願補正発明の「第2の方法」に相当)のみを使用して残容量率を検出する態様も示唆されているといえる。
また、平成25年11月25日付け拒絶査定に周知例として挙げられ、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2005-269824号公報(発明の名称:「ハイブリッドシステム」、出願人:ヤンマー株式会社、公開日:2005年9月29日)の段落【0032】?【0033】に「…ニッケル水素電池27のSOCが前記定電圧SOC範囲内にある場合、充放電電流の積算値に基づいてSOC1を推定する…ニッケル水素電池27のSOCが、前記定電圧SOC範囲(約80%?60%)を下回った場合は、ニッケル水素電池27の電池電圧V_(NI)に基づいてSOCを推定する。…」と記載されているように、各方法を切り替えて電池容量を計測することは周知技術である。
以上の点に鑑みれば、引用発明において、残容量率100?30%付近(本願補正発明の「第1の時間的瞬間」に相当)では電力積算法(本願補正発明の「第1の方法」に相当)のみ、残容量率5%以下(本願補正発明の「第2の時間的瞬間」に相当)では電圧法(本願補正発明の「第2の方法」に相当)のみを使用し、残容量率30?5%付近(本願補正発明の「第3の時間的瞬間」に相当)では電力積算法及び電圧法の両方を使用して残容量率を検出するようにすることに格別の困難性はない。
そうしてみると、引用発明に対して周知技術を適用し、本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。

5 むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし19に係る発明は、補正1によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 [理由] 1」の(本件補正前)の「請求項10」として記載したとおりのものである。

1 引用例記載の事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 [理由] 2」に記載したとおりである。

2 対比及び判断
本願発明は、前記「第2 [理由] 1」で検討した本願補正発明から、請求項10に記載された発明特定事項である「第2の時間的瞬間」及び「第3の時間的瞬間」について、それぞれ、「第1の時間的瞬間と異なる」及び「前記第1の時間的瞬間と前記第2の時間的瞬間とは異なる」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、前記「第2 [理由] 3」、「第2 [理由] 4」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-16 
結審通知日 2015-02-17 
審決日 2015-03-02 
出願番号 特願2009-503209(P2009-503209)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01R)
P 1 8・ 121- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉岡 一也  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 酒井 伸芳
武田 知晋
発明の名称 バッテリ充電表示方法、バッテリ充電モニタ装置、充電式バッテリおよび製品  
代理人 清水 智  

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