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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない C09K
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない C09K
管理番号 1303419
審判番号 訂正2013-390154  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2013-10-11 
確定日 2015-08-12 
事件の表示 特許第4699758号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 本件訂正審判の審理経緯及び要旨

1.本件審判の審理の経緯
本件訂正審判に係る特許第4699758号は、2003年10月27日(パリ条約による優先権主張:2002年10月25日、アメリカ合衆国、2件)の国際出願日に特許出願(特願2004-547148号)されたものであって、平成23年3月11日に設定登録され、同年6月15日に特許掲載公報が発行されたものである。
これに対し、平成23年6月3日(無効2011-800092号:請求項1?8)、同年9月2日(無効2011-800156号:請求項1?8)及び平成24年2月9日(無効2012-800009号:請求項1?9)にそれぞれ特許無効審判が請求され、いずれの事件においても平成25年3月19日付けで請求項1?8に係る特許については無効とする旨の審決がなされ、さらに、同年7月31日に当該3件の特許無効審判の審決に対する訴えが提起され、現在、知的財産高等裁判所に係属中である(平成25年(行ケ)第10217号、同第10218号及び同第10216号)。なお、請求項9に係る特許については、審判請求が成り立たない旨の審決が既に確定している。
本件訂正審判は、特許法等の一部を改正する法律(平成23年法律第63号)附則第2条第19項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「特許法」という場合、この「改正前の特許法」をいう。)第126条第2項ただし書の規定に基づき、上記3件の特許無効審判の審決に対する訴えの提起があった日から起算して90日の期間内である平成25年10月11日に請求されたものであって、その請求以降の経緯については、以下のとおりである。
平成25年11月14日付け 手続中止通知
平成25年11月21日 上申書(審理再開申立)
平成25年11月26日付け 審理再開通知
平成25年11月27日付け 手続補正指令(方式)
平成25年12月 4日 手続補正書(方式)
平成25年12月25日付け 訂正拒絶理由通知
平成26年 2月14日 意見書・手続補正書

2.本件訂正審判の基礎
本件特許の設定登録後に、上記3件の特許無効審判事件が請求され、それらの審理の過程において、明細書に係る同一の訂正事項を内容とする訂正請求がされ、そして、3件の特許無効審判のいずれにおいても「訂正を認める」旨の審決がされたものの、上記したとおり、これら3件の審決に対する訴えがいずれも知的財産高等裁判所に係属中のため、当該訂正は未だ確定していない。
したがって、本件訂正審判請求の審理において、基礎となる明細書は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲(以下「本件特許に係る特許請求の範囲」という。)である。
(なお、両者を併せて以下「本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲」ということがある。)

3.本件訂正審判請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲を平成26年2月14日付け手続補正書により補正された審判請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、すなわち、下記訂正事項1ないし6のとおり訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものである。

(1)訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1に
「ポリオールエステル及びポリアルキレングリコールから選択される少なくとも1つの潤滑剤」とあるのを、
「ポリオールエステルの潤滑剤」と訂正する。
(2)訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項1に
「熱移動組成物」とあるのを、
「蒸気圧縮システム用の熱移動組成物であって、」と訂正する。
(3)訂正事項3
本件特許請求の範囲の請求項1の末尾に
「前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)である、熱移動組成物」を追加する。この訂正に伴い、請求項2及び3の「前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物」を「前記HFO-1234ze」にそれぞれ訂正する。
(4)訂正事項4
本件特許請求の範囲の請求項5?8を削除する。
(5)訂正事項5
本件特許請求の範囲の請求項9を以下の訂正後の請求項5?10に差し替える(下線部は訂正箇所)。
「【請求項5】
化学式(II)
【化2】


(式中、各々のRは独立にF,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCF_(3)であり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の少なくとも1つの化合物と、ポリオールエステル及びポリアルキレングリコールから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む熱移動組成物であって、
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)である、熱移動組成物。
【請求項6】
前記HFO-1225yeが、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも50%の量で存在する、請求項5記載の熱移動組成物。
【請求項7】
前記HFO-1225yeが、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも70%の量で存在する、請求項6記載の熱移動組成物。
【請求項8】
前記潤滑剤が、前記熱移動組成物に対して重量で30%?50%の量で存在する、請求項5記載の熱移動組成物。
【請求項9】
前記潤滑剤が、ポリアルキレングリコールを含む、請求項5?8のいずれか1項に記載の熱移動組成物。
【請求項10】
前記潤滑剤が、ポリオールエステルを含む、請求項5?8のいずれか1項に記載の熱移動組成物。」
(6)訂正事項6
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0061】に
「b)HFC-1234zfおよびGMグッドレンチ油PAG油」、
「d)HFC-1234zfおよびMOPAR-56PAG油」とあるのを、
「b)HFC-1243zfおよびGMグッドレンチ油PAG油」、
「d)HFC-1243zfおよびMOPAR-56PAG油」に、それぞれ訂正する(下線部は訂正箇所)。

第2 当審の判断

I.訂正の目的の適否
まず、上記第1の2.の(1)ないし(6)で示した訂正事項1ないし6の各訂正事項に係る本件訂正が、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。

1.訂正事項1ないし訂正事項5について
上記訂正事項1ないし訂正事項5に係る訂正は、いずれも本件特許に係る特許請求の範囲についてするものである。(以下、本件訂正前の各請求項につき「旧請求項1」ないし「旧請求項9」といい、本件訂正後の各請求項につき「新請求項1」ないし「新請求項10」という。)

(1)訂正事項1ないし3は、旧請求項1において、旧請求項1を引用する旧請求項7に記載された事項を付加して「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)」なる化合物を含む態様に限定するとともに、潤滑剤に係る複数の並列的選択肢につき、旧請求項1を引用する旧請求項6に基づいて、その1つ(ポリオールエステル)に限定し、さらに本件特許に係る明細書の記載に基づいて「熱移動組成物」につき「蒸気圧縮システム用」との用途限定を加えることにより、新請求項1とするものである。
また、新請求項2ないし4は、旧請求項1を引用する旧請求項2ないし4について本件訂正の前後における引用関係の変化はなく、旧請求項1が新請求項1に訂正されることに伴い、同様に限定されたものと認められる。
なお、訂正事項4に係る訂正は、旧請求項5ないし8を削除するものであるが、旧請求項1が限定されて新請求項1に訂正されることにおいて、当該限定に関する事項が記載された請求項(旧請求項6及び7)及び新請求項1に記載された事項と相反する事項が記載された請求項(旧請求項5及び8)を単に削除したものと認められる。
してみると、訂正事項1ないし4に係る訂正は、旧請求項1ないし8に記載された事項で特定される特許請求の範囲を、新請求項1ないし4に記載された事項で特定される範囲に減縮することが明らかである。

(2)訂正事項5は、旧請求項1を引用し「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)」なる化合物を含む態様に限定してなる旧請求項9につき、単に独立形式に記載を改め、項番を繰上げて新請求項5とするとともに、旧請求項2、旧請求項3、旧請求項4、旧請求項5及び旧請求項6をそれぞれ引用する旧請求項9(の部分)につき、新請求項5(又は新請求項5を引用する新請求項6)を引用する形式でそれぞれ新請求項6、新請求項7、新請求項8、新請求項9及び新請求項10とするものである。
してみると、訂正事項5による訂正は、旧請求項9に記載された事項で特定される限定的な特許請求の範囲を単に項分け記載して新請求項5ないし10としたものであり、当該限定的な特許請求の範囲を実質的に変化させるものではないことから、訂正事項5による訂正が、訂正事項1ないし4による訂正とを含めた全体として、実質的に特許請求の範囲を減縮することは明らかである。

(3)なお、下記2.で示すとおり、訂正事項6は、明細書の誤訳を単に訂正するものであり、特許請求の範囲を実質的に変化させるものでないことが明らかである。

(4)以上を総合すると、訂正事項1ないし5に係る訂正は、旧請求項1ないし9に記載された事項で特定される特許請求の範囲を、新請求項1ないし10に記載された事項で特定される範囲に実質的に減縮することが明らかであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当することが明らかである。

2.訂正事項6について
訂正事項6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載につき、本邦に対する明細書翻訳文提出時における誤訳を国際出願時における明細書の記載に基づいて単に正そうとするものであることが明らかであるから、明細書の誤訳の訂正を目的とするものということができる。

3.小括
以上のとおりであるから、上記訂正事項1ないし6の各訂正事項に係る訂正は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第1号又は第2号に掲げるいずれかの事項を目的とするものである。

II.新規事項の追加の有無
上記訂正事項1ないし訂正事項5及び訂正事項6の各訂正事項は、それぞれ本件特許に係る願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項及び本件特許に係る国際出願日における国際出願の明細書に記載した事項のみであることが明らかであるから、上記訂正事項1ないし6の各訂正事項に係る訂正は、いずれも本件特許に係る願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項若しくは本件特許に係る国際出願日における国際出願の明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第3項の規定を満たすものである。

III.特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
上記訂正事項1ないし6の各訂正事項に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものか否か、すなわち特許法第126条第4項の規定を満たすものかにつき検討する。
上記I.の1.及び2.でそれぞれ説示したとおり、訂正事項1ないし5に係る訂正は、特許請求の範囲を実質的に減縮するものであって、また、訂正事項6に係る訂正は、特許請求の範囲を実質的に変化させるものではないから、訂正事項1ないし6において、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更させる事項が存するものでもない。
したがって、上記訂正事項1ないし6の各訂正事項に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第126条第4項の規定を満たすものである。

IV.独立特許要件について
上記I.で説示したとおり、上記訂正事項1ないし6は、特許請求の範囲の減縮又は明細書の誤訳の訂正(特許法第126条第1項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項)を目的とするものであるから、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第126条第5項に規定された要件を満たすものか否かにつき、以下検討する。

1.本件訂正後の本件特許に係る発明
本件審判請求による訂正後の本件特許に係る発明は、特許請求の範囲の新請求項1ないし10に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
化学式(II)
【化1】


(式中、各々のRは独立にF,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCF_(3)であり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の少なくとも1つの化合物と、ポリオールエステルの潤滑剤とを含む蒸気圧縮システム用の熱移動組成物であって、
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)である、熱移動組成物。
【請求項2】
前記HFO-1234zeが、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも50%の量で存在する、請求項1記載の熱移動組成物。
【請求項3】
前記HFO-1234zeが、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも70%の量で存在する、請求項2記載の熱移動組成物。
【請求項4】
前記潤滑剤が、前記熱移動組成物に対して重量で30%?50%の量で存在する、請求項1記載の熱移動組成物。
【請求項5】
化学式(II)
【化2】


(式中、各々のRは独立にF,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCF_(3)であり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の少なくとも1つの化合物と、ポリオールエステル及びポリアルキレングリコールから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む熱移動組成物であって、
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)である、熱移動組成物。
【請求項6】
前記HFO-1225yeが、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも50%の量で存在する、請求項5記載の熱移動組成物。
【請求項7】
前記HFO-1225yeが、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも70%の量で存在する、請求項6記載の熱移動組成物。
【請求項8】
前記潤滑剤が、前記熱移動組成物に対して重量で30%?50%の量で存在する、請求項5記載の熱移動組成物。
【請求項9】
前記潤滑剤が、ポリアルキレングリコールを含む、請求項5?8のいずれか1項に記載の熱移動組成物。
【請求項10】
前記潤滑剤が、ポリオールエステルを含む、請求項5?8のいずれか1項に記載の熱移動組成物。」
(以下、項番に従い「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明10」といい、併せて「本件訂正発明」と総称することがある。)

2.検討
本件訂正発明に係る進歩性について以下検討する。

引用刊行物等:
1.特開平4-110388号公報(本件審判請求書添付の参考資料1)
2.特開平5-85970号公報(本件審判請求書添付の参考資料5)
3.日本冷凍空調学会論文集,Transactions of the Japan Society of Refrigerating and Air Conditioning Engineers,2001,18(3),p.203-216(本件審判請求書添付の参考資料3)
4.日本冷凍協会論文集,Transaction of the Japanese Association of Refrigeration,1993,10(3),p.453-460(本件審判請求書添付の参考資料4)
(以下、上記「1.」ないし「4.」の各刊行物を、それぞれ「引用例1」ないし「引用例4」という。)

(1)各引用例に記載された事項

ア.引用例1
上記引用例1には、以下の事項が記載されている。

(1a)「1.分子式:C_(3)H_(m)F_(n)
(但し、m=1?5,n=1?5且つm+n=6)
で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体。」(1頁、特許請求の範囲)

(1b)「産業上の利用分野
本発明は、冷凍機、ヒートポンプなどで使用される熱伝達用流体に関する。」(1頁左下欄9?11行)

(1c)「従来技術とその問題点
従来、ヒートポンプの熱媒体(冷媒)としては、クロロフルオロ炭化水素、フルオロ炭化水素、これらの共沸組成物ならびにその近辺の組成物が知られている。これらは、一般にフロンと称されており、現在R-11(トリクロロモノフルオロメタン)、R-22(モノクロロジフルオロメタン)、R-502(R-22+クロロペンタフルオロエタン)などが主に使用されている。
しかしながら、近年、大気中に放出された場合に、ある種のフロンが成層圏のオゾン層を破壊し、その結果、人類を含む地球上(審決注:「地球状」と記載されているが「地球上」の誤記と認める。)の生態系に重大な悪影響を及ぼすことが指摘されている。従って、オゾン層破壊の危険性の高いフロンについては、国際的な取決めにより、使用および生産が規制されるに至っている。規制の対象になっているフロンには、R-11とR-12とが含まれており、またR-22については、オゾン層破壊への影響が小さいため、現在規制の対象とはなっていないが、将来的には、より影響の少ない冷媒の出現が望まれている。冷凍・空調設備の普及に伴って、需要が毎年増大しつつあるフロンの使用および生産の規制は、居住環境をはじめとして、現在の社会機構全般に与える影響が極めて大きい。従って、オゾン層破壊問題を生じる危険性のない或いはその危険性の極めて小さい新たなヒートポンプ用の熱媒体(冷媒)の開発が緊急の課題となっている。」(1頁左下欄14行?2頁左上欄4行)

(1d)「問題点を解決するための手段
本発明者は、ヒートポンプ或いは熱機関に適した熱伝達用流体であって、且つ当然のことながら、大気中に放出された場合にもオゾン層に及ぼす影響が小さいか或いは影響のない新たな熱伝達用流体を得るべく種々研究を重ねてきた。その結果、特定の構造を有する有機化合物がその目的に適合する要件を具備していることを見出した。
すなわち、本発明は、下記の熱伝達用流体を提供するものである:
「分子式:C_(3)H_(m)F_(n)
(但し、m=1?5,n=1?5且つm+n=5)
で示され且つ分子中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱伝達用流体。」」(2頁左上欄5行?末行)

(1e)「本発明で使用する代表的な化合物の主な物性は、以下の通りである。
I.F_(3)C-CH=CH_(2)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン)
沸点 -17.0℃
臨界温度 126℃
臨界圧力 41kg/cm^(2)
分子量 ・・・(審決注:省略する。「96.05」と記載されているのは誤記と認める。)
II.F_(3)C-CH=CHF(審決注:「F3C」と記載されているが「F_(3)C」の誤記と認める。)(1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン)
沸点 -16.0℃
臨界温度 121℃
臨界圧力 39.1kg/cm^(2)
分子量 114.04」(2頁右上欄1行?右上欄14行)

(1f)「本発明において熱伝達用流体として使用するC_(3)H_(m)F_(n)で示される化合物は、オゾン層に影響を与える塩素原子および臭素原子を全く含まないので、オゾン層の破壊問題を生じる危険性はない。」(2頁左下欄9?13行)

(1g)「また、一方では、C_(3)H_(m)F_(n)で示される化合物は、ヒートポンプ用熱媒体としての特性にも優れており、成績係数、冷凍能力、凝縮圧力、吐出温度などの性能において、バランスが取れている。さらに、この化合物の沸点は、現在広く使用されているR-12,R-22、R-114およびR-502のそれに近いため、これら公知の熱媒体の使用条件下、即ち蒸発温度-20から10℃および凝縮温度30から60℃での使用に適している。」(2頁左下欄14行?右下欄5行)

(1h)「また、本発明においては、C_(3)H_(m)F_(n)で示される化合物を少なくとも含み、R-22(CHClF_(2)),R-32(CH_(2)F_(2)),R-124(CF_(3)CHClF),R-125(CF_(3)CF_(2)H),R134a(CF_(3)CFH_(2)),R-142b(CH_(3)CClF_(2))、143a(CF_(3)CH_(3))およびR-152(CHF_(2)CH_(3))からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む混合物を熱伝達用流体として使用しても良い。この混合物を使用する場合には、低沸点の冷媒を混合することにより、更に冷凍能力を向上させたり、蒸発潜熱の大きな冷媒を混合することにより、成績係数を向上させたり、或いは冷凍機油との溶解性を改善したりすることができる。
本発明で使用するC_(3)H_(m)F_(n)で示される化合物或いはC_(3)H_(m)F_(n)で示される化合物とR-22,R-32,R-124,R-125,R-134a,R-142b,R-143aおよびR-152aの少なくとも一種との混合物は、ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている。」(2頁右下欄6行?3頁左上欄11行)

(1i)「発明の効果
本発明による熱伝達用流体によれば、下記の様な顕著な効果が達成される。
(1)従来からR-12,R-22或いはR-502を熱媒体として使用してきたヒートポンプと同等以上のサイクル性能が得られる。
(2)熱媒体としての優れた性能のゆえに、機器設計上も有利である。
(3)仮に本発明による熱伝達用流体が大気中に放出された場合にも、オゾン層破壊の危険性はない。」(3頁左上欄12行?右上欄4行)

(1j)「実施例1
熱媒体としてF_(3)C-CH=CH_(2)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン)を使用する1馬力のヒートポンプにおいて、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を-10℃,-5℃,5℃および10℃とし、凝縮器における凝縮温度を50℃とし、過熱度および過冷却度をそれぞれ5℃および3℃として、運転を行なった。
また、比較例として、R-12(比較例1)、R-22(比較例2)およびR-502(比較例3)を熱媒体として使用して、上記と同1条件下にヒートポンプの運転を行なった。
これらの結果から、成績係数(COP)および冷凍効果を次式により、求めた(第1図に示すモリエル線図参照)。
COP=(h_(1)-h_(4))/(h_(2)-h_(1))
冷凍効果=h_(1)-h_(4)
h_(1)・・・蒸発器出口の作動流体のエンタルピー
h_(2)・・・凝縮器入口の作動流体のエンタルピー
h_(4)・・・蒸発器入口の作動流体のエンタルピー
本実施例ならびに比較例で使用した冷凍サイクルの回路図を第2図に示す。」(3頁右上欄8行?左下欄11行)

(1k)「実施例2
熱媒体としてF_(3)C-CH=CHF(1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン)を使用するとともに、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を5℃とする以外は実施例1と同様にしてヒートポンプの運転を行なった。
成績係数および冷凍能力を下記第2表に示す。何れの数値も、R-22を熱媒体とした場合の蒸発温度5℃における測定値(COP_(B)および冷凍能力_(B))により本発明熱媒体の測定値(COP_(A)および冷凍能力_(A))を除した数値で示してある。
第 2 表
実施例2 R-12 R-502
COP_(A)/COP_(B) 1.01 1.02 0.92
能力_(A)/能力B 0.43 0.61 1.03
」(4頁左上欄17行?右上欄13行)

(1l)「実施例5
熱媒体としてF_(3)C-CF=CH_(2)を使用する以外は実施例1と同様にして、ヒートポンプの運転を行なったところ、実施例1とほぼ同様の結果が得られた。」(4頁右下欄8?12行)

(1m)「第1図は、実施例において成績係数(COP)および冷凍効果求めるために使用したモリエル線図である。
第2図は、本実施例ならびに比較例で使用した冷凍サイクルの回路図である。
第3図は、実施例1および比較例1?3によるCOPを示すグラフである。
第4図は、実施例1および比較例1?3による冷凍能力を示すグラフである。」(4頁右下欄14行?5頁左上欄4行)

(1n)「


」(6頁)
(1o)「


」(6頁)

イ.引用例2
上記引用例2には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペンからなる冷媒。」(2頁、特許請求の範囲)

(2b)「【0002】
【従来技術とその問題点】従来、作動流体乃至冷媒としては、クロロフルオロアルカン類、これらの共沸組成物並びにその近辺の組成の組成物が知られている。これらのうち、現在冷凍機用の作動流体としては、CFC11(トリクロロフルオロメタン)、CFC12(ジクロロジフルオロメタン)、CFC114(1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン),HCFC22(クロロジフルオロメタン)などが主に使用されている。しかしながら、近年、大気中に放出された場合に、これらのクロロフルオロアルカンが、分解するまでに長時間を要するために成層圏まで上昇して、そこで分解生成した塩素ラジカルが成層圏のオゾン層を破壊し、その結果、人類を含む地球上の生態系に重大な悪影響を及ぼすことが指摘されている。従って、オゾン層破壊の可能性の高いこれらクロロフルオロアルカンについては、国際的な取り決めにより、使用及び生産が制限されるに至っている。現在制限の対象となっているクロロフルオロアルカンとしては、上記のR11、R12、R114などがある。
【0003】前記のクロロフルオロアルカンのうちHCFC22は、オゾン破壊係数(以下ODPという)が前記の規制対象化合物に比してかなり低いので(例えば、CFC11の約1/20)、規制の対象とはなっていないが、将来的にはODPがゼロの化合物により代替されることが望ましい。
【0004】空調・冷凍設備の普及に伴い、需要が毎年増大しているこれら冷媒の使用及び生産の制限は、居住環境をはじめとして、食料品の貯蔵・輸送などの点で、現在の社会機構全般に与える影響が大きいので、オゾン破壊問題を生じる危険性の無い或いはその危険性の極めて低い新たな冷媒の開発が緊急の課題となっている。
【0005】上記の様なクロロフルオロアルカンに代替し得る有望な化合物(以下代替候補化合物という)としては、水素原子を含むクロロフルオロアルカンまたはフルオロアルカン、例えば、HCFC21(ジクロロモノフルオロメタン)、HFC23(トリフルオロメタン)、HFC32(ジフルオロメタン)、HCFC124(モノクロロテトラフルオロメタン)、HFC125(ペンタフルオロエタン)、HCFC133a(モノクロロトリフルオロエタン)、HFC134a(テトラフルオロエタン)、HCFC142b(モノクロロジフルオロエタン)、HFC143a(トリフルオロエタン)などが挙げられる。
【0006】しかしながら、これらの代替候補化合物は、単独では、ODP、不燃性ならびにその他の冷媒として要求される各種性能を全て満足するものではない。従って、これらの2種以上を混合物として使用することも考えられる。しかしながら、混合物を冷媒として使用する場合には、単なる混合状態では、熱交換器内で蒸発或いは凝縮という相変化を生ずる際に、組成変化を伴うので、機器の運転上信頼性が保たれ難い。
【0007】また、共沸混合組成物として、CFC12/HFC152a=78.3/26.2重量%のもの(R500)、HCFC22/CFC115=48.8/51.2重量%のもの(R502)、CFC13/HFC23=59.9/40.1重量%のもの(R503)、HFC32/CFC115=48.2/51.8重量%のもの(R504)などが知られているが、これらの冷媒は塩素原子を含んでいるので、今後その使用が制限される方向にある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、ODPがゼロであり、冷媒としての性能に優れ、機器運転時に相変化に際しての組成変化を実質的に伴わない冷媒を提供することを主な目的とする。」

(2c)「【0011】本発明で使用する2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペンの主な物性は、以下の表1に示す通りである。
表 1
分子量 140
沸点(℃) 13
臨界温度(℃) 152
臨界圧力(kg/cm^(2)・a) 31.9
蒸発潜熱(kcal/kg:0℃) 36.9
オゾン分解能 0 」

(2d)「【0014】
【発明の効果】本発明で使用する2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペンは、易分解性であり、オゾン層に影響を与える塩素原子を含まないので、ODPはゼロであり、オゾン層の破壊問題を生じる危険性はない。本発明による冷媒は、冷凍能力が高く、成績係数も比較的良好である。例えば、CFC11に比して、冷凍能力において約1.25倍であり、成績係数においては同等であるという総合的に優れた性能を発揮する。従って、ターボ用などの冷媒として現在使用されているCFC11に代替し得る。本発明による冷媒は、単一化合物からなるので、液管理、回収後の再利用などを有利に行ない得る。本発明による冷媒は、高分子化合物に対する溶解性が低いので、既存の冷凍機における材料変更などを行なうことなく、そのまま使用可能である。本発明による冷媒は、PAG(ポリアルキレングリコール)系油、ポリエステル系油などとの相溶性に優れている。本発明による冷媒は、熱安定性に比較的優れている。」

(2e)「【0016】実施例1
本発明による冷媒を使用する1馬力の冷凍機において、凝縮器における冷媒の蒸発温度を5℃とし、凝縮温度を40℃とし、圧縮機入り口の過熱温度を9℃とし、凝縮器出口の過冷却度を5℃として、運転を行なった。冷凍機油としては、ポリアルキレングリコールを使用した。表2に成績係数(COP)、冷凍能力[kcal/m^(3)]および圧縮機ガス吐出温度(℃)を示す。また、表2には、比較としてCFC11についての結果を併せて示す。
表 2
COP 冷凍能力 圧縮機ガス吐出
(kcal/m^(3)) 温度(℃)
本発明 7.1 157 40
(CFC11)7.3 125 51
表2に示す結果から、CFC11に比して、本発明による冷媒が冷凍能力に特に優れ、且つ成績係数も同等であり、総合的にバランスの取れた特性を具備していることが明らかである。」

ウ.引用例3
上記引用例3には、以下の事項が記載されている。

(3a)「ハイドロフルオロカーボン(HFC)系およびその他の純粋冷媒に関する最新物性情報」(203頁、標題)

(3b)「1994年に,日本冷凍空調学会から「HFCs and HCFCs」と題する熱力学表第1巻^(1))を出版した.当時は1996年1月1日までにCFCの生産および消費を全廃すると約束したモントリオール議定書の要請もあり,代替フロンの物性値情報が切望されていた.・・(中略)・・
本論文では,多くの実測値情報が蓄積されているR32,R125,R134a,R143a,そしてR152aの5種類のHFC系冷媒を中心に,その物性値情報に関してまとめる.・・(中略)・・さらに,最新の材料適合性および潤滑油との相溶性を紹介する.」(203頁左欄2行?右欄3行及び204頁右欄18?26行)

(3c)「4.1 潤滑油との相溶性
HFC系冷媒は分子中に塩素原子をもたないために潤滑油との相溶性が低下することが知られている.従来冷凍機油として広く使用されてきたナフテン系鉱油はHFC系冷媒と相溶性をもたない.相溶性の観点からHFC系冷媒に適合する潤滑油としては,ポリアルキレングリコール(PAG)油(審決注:「アリキレン」と記載されているが「アルキレン」の誤記と認める。),エステル(POEなど)系油,ポリエーテル油,フッ素系油,カーボネート油などの合成油が開発されている^(1-3)).一方,HFC系冷媒との相溶性はないが,潤滑性を重視して,あえてナフテン系鉱油などを用いることを推奨する報告もある^(4)).
冷媒と潤滑油の相溶性に関して溶液論等を駆使して理論的に取り扱うことが試みられているが^(5-11)),これらはいずれも実測値に基づいた半経験的な解析にとどまっている.したがって,HFC系冷媒とそれらに適合するように新たに開発された潤滑油との相溶性を明らかにするためには,HFC系冷媒と潤滑油の個々の組み合わせに対して相挙動を実測する実験的研究に拠らざるを得ないのが現状となっている.
本報で取上げた主要なHFC系冷媒,R32,R125,R134a,R143a,R152aについては,代表的な潤滑油との相溶性に関する一部のデータが冷媒および潤滑油メーカーなどから公表されている^(12-14,21)).その一例^(14))を表4.1.1に示した.ここでは,密封ガラス容器を用い,温度233-363K,油濃度20-80mass%の範囲で測定された5種のHFC系冷媒と4種の潤滑油との相溶性の概要がまとめられている.
HFC系冷媒/潤滑油系の相溶性に関連して,その蒸気圧の組成依存性および溶解度データが詳しく測定され,その実測値が公表されている混合系として,R32/エステル油^(15)),R32/POE^(16)),R134a/PAG^(17)),R134a/POE^(18)),R125/POE^(19))などが挙げられる.さらに,HFC系冷媒/潤滑油系の蒸気圧,密度,熱伝導率,粘性などに関する相関式を中心に調査した最近の報告例^(20))がある.」(207頁右欄下から5行?208頁右欄2行)

(3d)「


(審決注:潤滑油の欄は、上から順に、鉱油であるナフテン系油、合成油であるPAG油、同エステル油、同パーフルオロエーテル油である。「Miscible」は混和、「Immiscible」は非混和である。)」(208頁、表4.1.1)

(3e)「4.2 材料適合性
HFC系冷媒を実際の冷凍機およびヒートポンプシステムで使用する際には,機器および装置に用いられる各種材料との適合性が問題となる.考慮すべき代表的な材料として,乾燥剤および高分子材料がある.とくに,高分子材料は多様であり,ゴムのようなエラストマー,各種プラスチック,およびモーター材料などとの適合性が重要となる.しかし,これらの実用上とくに不可欠となるデータは研究論文として公表される例は皆無に近い.したがって,HFC系冷媒の材料適合性は,ある温度および圧力の条件下で各種材料と共存させて相互の影響を直接,調べることが必要になる.ただし,HFC系冷媒とエラストマーおよびプラスチックなどの一般的な各種材料との適合性データについては,冷媒メーカーの技術資料等^(14,21-23))として入手できる.」(208頁右欄3?20行)

エ.引用例4
上記引用例4には、以下の事項が記載されている。

(4a)「HFC系の冷媒の実用化に向けての評価」(453頁、標題)

(4b)「冷蔵庫や空調機に使用されているCFC系冷媒の生産規制がモントリオール議定書によって承認された国際相互協定によって実施されている。オゾン層破壊を少なくするため、CFC系冷媒の代替としてHCFC-123、HCFC-22、HFC-134aがある。しかしながら、HCFC系冷媒であるHCFC-123、HCFC-22は、分子中に塩素を含んでいるためODP(オゾン破壊係数)は0ではなく、完全にはオゾン層破壊を防ぐことができない。本研究では、CFC系、HCFC系冷媒の将来的な代替候補で分子中に塩素をまったく含まずオゾン層を破壊しないHFC系冷媒としてHFC-125、HFC-143a、HFC-152a、HFC-32を選び熱力学特性、冷凍機油との相溶性、熱安定性、材料への攻撃性、冷媒性能について基礎データを取得し、実用化のための課題抽出を目的とした。」(453頁左欄2行?454頁左欄2行)

(4c)「表1 HFC系冷媒の熱力学特性^(1))
冷媒 分子式 沸点 臨界温度 臨界圧力
(℃) (℃) (kPa)
HFC-152a CH_(3)CHF_(2) -24.2 113.3 4520
HFC-143a CH_(3)CF_(3) -47.7 73.1 3811
HFC-125 CHF_(2)CF_(3) -48.6 66.3 3631
HFC-32 CH_(2)F_(2) -51.8 78.4 5830
HFC-134a CH_(2)FCF_(3) -26.2 101.15 4065
CFC-12 CCl_(2)F_(2) -29.8 111.80 4125
HCFC-22 CHClF_(2) -40.8 96.15 4988
(審決注:抜粋であり、分子量、オゾン破壊係数(ODP))、地球温暖化係数(GWP)は省略した。)」(454頁)

(4d)「3.1 冷凍機油と冷媒の相溶性
高温では冷凍機油は冷媒と比較的良く溶解するが、低温になると冷媒の種類によっては、冷凍機油と2層分離することがある。冷凍機油と冷媒が2層分離すると、圧縮機起動時に焼き付きを起こしたり、泡立ちによる潤滑不良、異常振動の原因となったりする。また、蒸発器の型式によっては、油戻りが悪くなるなど種々の問題がでてくるので、冷凍機油と冷媒の相溶性は重要視されている。そこで本研究では、CFC系、HCFC系冷媒の将来的な代替候補であるHFC系冷媒と各種冷凍機油の相溶性について試験をおこなった。
供試油は、市販のポリアルキレングリコール油(PAG)、エステル油、パーフルオロエーテル油(PFE)及び、一般にCFC-12、HCFC-22に使用されている鉱油(ナフテン系)の4種を選んだ。表2に、供試油の物理特性を示す。相溶性の評価は、冷媒と冷凍機油をシールドガラスチューブ(13φ×200mm)に充填し、温度を-70℃から臨界温度付近まで変化させる。このとき、シールドガラスチューブ内の冷媒と冷凍機油が2層分離すると白濁するので、この現象を目視確認し、そのときの温度を2層分離温度とする。冷媒と冷凍機油の混合比は20、50、80wt%と変化させた。
従来から使用されている鉱油は、これらのHFC系冷媒と2層分離してしまい、相溶性は認められなかった。図1?3にPAG油、PFE油、エステル油の相溶性試験結果を示す。図中の棒線の下限の温度以下で2層分離が起こる。また高温側は臨界温度付近までは2層分離は認められなかった。HFC-143aはPFEとだけ相溶性が認められた。HFC-32、HFC-152aはPAGとエステル油に溶解した。HFC-125、HFC-134aはどの合成油とも相溶性が認められた。」(454頁右欄4行?455頁左欄20行)

(4e)「表2 供試油の物理特性
鉱油 PAG PFE エステル油
(ナフテン系)
粘度[cSt] 40℃ 55.5 30.8 65 29.3
粘度[cSt]100℃ 5.9 6.3 15 5.0
流動点[℃] -40 -50 -75 <-50
密度[g/cm^(3)]15℃ 0.922 1.019 1.889 0.979
PAG:ポリアルキレン-グリコール
PFE:パーフルオロ-エーテル
」(454頁)

(4f)「


(審決注:縦軸は温度である。グラフの各棒はそれぞれ3本の棒からなり、左の白棒が冷凍機油20wt%、中央の黒棒が同50wt%、右の斜線入り棒が同80wt%である。以下の図2及び図3も同じ。)」(455頁、図1 潤滑油の相溶性(PAG))

(4g)「


」(455頁、図2 潤滑油の相溶性(PFE))

(4h)「


」(455頁、図3 潤滑油の相溶性(エステル油))

(4i)「3.2 熱安定性
フロン冷媒は単体では化学的に安定であり、CFC-12、HCFC-22共に、鉄触媒存在下で200℃に加熱した場合、1年間の分解率は1%以下である。しかし、冷媒と冷凍機油の混合物が金属触媒存在下で加熱されると、比較的低温で両者は徐々に反応しあう。反応の機構自体は明らかではないが油の着色、スラッジの生成に結びつく。実際の反応は単純なものではなく、冷凍サイクル内に存在する微量な酸素、水分も反応に関与するし、フロン自体の分解による塩酸の生成もある。生成した塩酸は2次的に炭化水素と反応し、金属の腐食あるいは銅メッキ現象(Copper Plating:油中に溶出した銅がシリンダ、ピストン軸受部などに沈着する現象)の原因ともなる。このような冷媒と冷凍機油の反応の起き易さを評価する方法として熱安定性試験(シールドチューブ試験)が広く採用されている。^(3)) 熱安定性の評価は、供試冷媒(0.5g)、供試油(0.05g)、触媒金属(Fe、Al、Cu:2φ×50mm、供試前にエメリー紙320番研磨)をシールドガラスチューブに充填し、120℃で30日間加熱した後、冷媒の分解度を調べるため、冷媒ガスを純水約15gに吸収させ、水溶液中のフッ素イオンをイオンクロマトグラフで分析した。また、水分の影響も調べるため、水を0.2%添加したサンプルについても同様な試験を行った。・・(中略)・・試験に使用した油は各冷媒と相溶性のあるものを選んだ。
・・(中略)・・熱安定性試験結果を示す。供試したHFC系冷媒はCFC-12、HCFC-22と同程度のフッ素イオン生成量を示しており熱安定性の面では実用上、問題のないレベルと考えられる。しかし、金属による分解促進効果は各冷媒ごとに異っており、さらに詳細な研究が必要である。また、水分の影響は今回の試験では認められなかった。」(455頁左欄21行?456頁左欄16行)

(4j)「3.3 材料への攻撃性
材料への攻撃性は冷凍システムの信頼性評価にとって重要な要因である。それゆえに、一般に空調機や冷蔵庫に使用されている樹脂やゴム等の高分子材料への攻撃性について試験を行った。材料への攻撃性は材料を50℃の飽和液冷媒中に2週間浸漬し、その後の材料の重量変化率(膨潤率)及び、大気圧下で冷媒を蒸発させた後の材料の重量変化率(抽出率)で評価した。・・(中略)・・試験結果を示す。各冷媒によって材料への攻撃性は異っているが、今回供試したエポキシ系ワニスはCFC-12、HCFC-22に比べてHFC系冷媒の中では比較的強い溶解性を示した。したがって今後、これらのHFC系冷媒の実用化を進めるにあたっては、エポキシ系ワニスの劣化に注意が必要と考えている。」(456頁左欄17行?右欄末行)

(4k)「本予備試験結果から、HFC-125、HFC-143a、HFC-32、HFC-152aのようなオゾン層を破壊しないHFC系冷媒をCFC、HCFC系の代替候補冷媒として検討を進める上でのいくつかの課題が明らかになった。
一般にCFC、HCFC系冷媒に使用されている鉱油はこれらのHFC系冷媒の潤滑油として使用することはできないが、供試油であるPAG、PFE、エステル油のような合成油は相溶性が認められ、潤滑油として期待される。熱安定性はCFC-12、HCFC-22と同程度であり、実用上問題のないレベルとみられる。材料への攻撃性は、エポキシ系ワニスを除く他の高分子材料とはよい適合性を示した。冷媒の性能は、COPが最も高いのはHFC-152aであるが、能力は低い。一方能力が最も高いのはHFC-32であるが、凝縮圧力吐出温度が他の冷媒と比べて高くなり、実用化に向けては対策が必要である。
さらに、冷媒としての可能性を評価するためには毒性や燃焼性についての安全性確認等の試験が必要である。一方、不燃化やシステム性能の面からHFC-32系混合冷媒等の適用についても検討が必要である。」(460頁左欄20行?右欄17行)

(2)検討

ア.引用例1に記載された発明
引用例1には、特許請求の範囲第1項に「分子式:C_(3)H_(m)F_(n)(但し、m=1?5,n=1?5且つm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体」の発明が記載されている(摘示(1a))。該熱媒体は、「冷凍機、ヒートポンプなどで使用される熱伝達用流体」である(摘示(1b))。上記発明で使用する「代表的な化合物の主な物性」として以下のIIの化合物の沸点、臨界温度、臨界圧力が示されている(摘示(1e))。なお、IIの化合物は、立体異性体2種が存在するが、引用例1では区別されていない。
II.F_(3)C-CH=CHF(1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン)
また、「本発明で使用するC_(3)H_(m)F_(n)で示される化合物・・・は、ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」と記載されている(摘示(1h))。
更に、実施例2において、上記IIの化合物及び実施例5において
F_(3)C-CF=CH_(2)
(審決注:上記IIの化合物と同様に表記すると、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンである。「-1-」は省略しても疑義が生じないから、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと同じである。「-1-」を省略できるのは上記IIの化合物も同様であり、以下、適宜省略することがある。)
について、COP及び冷凍能力が測定され、R22のCOP及び冷凍能力と比較されている(摘示(1j)?(1o))。その測定条件は、「1馬力のヒートポンプにおいて、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を・・・5℃・・・とし、凝縮器における凝縮温度を50℃とし、過熱度および過冷却度をそれぞれ5℃および3℃として、運転を行なった」とのものである。実施例2では上記のR22のCOP及び冷凍能力との比(以下「相対COP」及び「相対能力」という。)が、数値で示され、実施例5では「実施例1とほぼ同様の結果が得られた」と記載されている。
これらの記載を総合すると、引用例1には、
「分子式:C_(3)H_(m)F_(n)(ただし、m=1?5,n=1?5かつm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体であって、該有機化合物は1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンに代表されるものである熱媒体と、ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油とからなる、ヒートポンプ熱伝達用組成物」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

イ.本件訂正発明1についての対比・検討

(ア)対比
本件訂正発明1と上記引用発明とを対比すると、引用発明において「熱媒体」を代表するものである1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンは、引用例1における実施例2においてCOP及び冷凍能力が測定されたものであるから、引用発明は、その実質的な態様として、当該化合物の熱媒体を用いる態様を包含することが明らかであり、引用発明における「分子式:C_(3)H_(m)F_(n)(ただし、m=1?5,n=1?5かつm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体であって、該有機化合物は1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンに代表されるものである熱媒体」は、本件訂正発明1における「化学式(II)
【化1】


(式中、各々のRは独立にF,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCF_(3)であり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)の少なくとも1つの化合物」及び「前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)である」に相当する。
また、引用発明の「潤滑油」は、本件訂正発明1の「潤滑剤」に相当する。
さらに、引用発明における「ヒートポンプ熱伝達用組成物」は、引用例1の記載(摘示(1g)?(1i))からみて、ヒートポンプ用熱媒体としての特性に係る成績係数、冷凍能力、凝縮圧力、吐出温度などの性能及び冷凍機油との溶解性などに着目していることが明らかであり、冷凍機は、熱媒体の蒸気圧縮サイクルシステムの代表的なものであることは当業者に自明であるから、本件訂正発明1の「蒸気圧縮システム用の熱移動組成物」に相当する。
してみると、本件訂正発明1と引用発明とは、
「化学式(II)


(式中、各々のRは独立にF,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCF_(3)であり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の少なくとも1つの化合物と、潤滑剤とを含む蒸気圧縮システム用の熱移動組成物であって、前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)である、熱移動組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1: 「潤滑剤」につき、本件訂正発明1では、「ポリオールエステルの潤滑剤」であるのに対し、引用発明においては「ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油」である点

(イ)相違点に係る検討
上記相違点1につき検討する。
a.上記引用例2には、いわゆる冷媒化合物として2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペン(審決注:CH_(2)=C(CF_(3))_(2)、冷媒番号はR1336である。)なるハイドロフルオロオレフィン(以下「HFO」と略す。)を使用した場合について、「本発明による冷媒は、PAG(ポリアルキレングリコール)系油、ポリエステル系油などとの相溶性に優れている」(摘示(2d))と、本件訂正発明における「ポリオールエステル」(以下、「POE」と略す。)に相当することが当業者に自明なポリエステル系油などの潤滑油を併用する態様が、当然の考慮の対象として記載されている。
また、CFC系冷媒の代替冷媒としてのHFC系冷媒(R32、R125、R134a、R143a及びR152a)について記載した論文である引用例3及び4も、同様である。
上記引用例3には、「4.1 潤滑油との相溶性」の項目で、ナフテン系鉱油、PAG油、エステル(POEなど)系油及びPFE油との温度233-363K(審決注:-40?90℃)、油濃度20-80mass%で測定された混和性の情報が紹介され、混和性のある範囲が示されており(摘示(3c)及び(3d))、「4.2 材料適合性」の項目で、冷凍機及びヒートポンプシステムの機器及び装置に用いられるエラストマー及びプラスチックのような高分子材料との適合性データの情報が紹介されている(摘示(3e))。
そして、引用例4には、「3.1 冷凍機油と冷媒の相溶性」の項目で、PAG、PFE(パーフルオロエーテル)、POEを含むことが当業者に自明なエステル油及び鉱油との温度-70℃?臨界温度付近(審決注:摘示(4c)のとおり冷媒化合物ごとに66.3?113.3℃の範囲である。)、冷凍機油の混合比20、50、80wt%での溶解性が測定され、溶解性のある範囲が温度及び濃度ごとにグラフに示されており(摘示(4d)?(4h))、「3.2 熱安定性」の項目で、冷媒と冷凍機油の反応の起き易さを評価する方法として広く採用されている熱安定性試験(シールドチューブ試験)により、冷媒0.5gと冷凍機油0.05gと金属(鉄、アルミニウム、銅:直径2mm、長さ50mm)をシールドガラスチューブに充填し120℃で30日間加熱した後の冷媒の分解度が評価されており(摘示(4i))、「3.3 材料への攻撃性」の項目で、一般に空調機や冷蔵庫に使用されている樹脂やゴム等の高分子材料への攻撃性について、50℃、2週間浸漬した後の材料の膨潤率と抽出率が評価されている(摘示(4j))。そして、PAG、PFE、エステル油のような合成油は相溶性(審決注:溶解性、混和性と同じである。)が認められ、熱安定性はR12、R22と同程度で実用上問題のないレベルで、材料への攻撃性はエポキシ系ワニスを除く他の高分子材料と良い適合性を示したと結論されている(摘示(4k))。

b.してみると、上記a.の各引用例の記載からみて、HFC又はHFOなどの熱媒体(冷媒)によりヒートポンプ用又は蒸気圧縮システム用などの熱移動組成物を構成するにあたり、鉱油、PAG油、POEを包含することが当業者に自明なエステル油、PFEなどの熱移動組成物における当業界慣用の潤滑剤から相溶性、金属腐食性などに鑑み試行錯誤的に適宜選択することは、当業者の技術常識であるものと認められる。
そして、当該当業者の技術常識を踏まえると、当業者は、引用例1における「ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」(摘示(1h))との記載は、引用発明において、当業界慣用の上記潤滑油の中からいずれかを単に選択しても、混和性や材料への浸蝕性などに問題がない冷媒組成物とすることができることを意味していると理解するのが自然である。

c.さらに、引用例2には、2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペン(審決注:CH_(2)=C(CF_(3))_(2)、冷媒番号はR1336)はPAGやPOEに相当するポリエステル系油との相溶性に優れているとされており、このR1336は、引用発明の代表的なR-1234zeなる冷媒化合物とはヒドロフルオロオレフィンである点で共通するものであるから、上記当業界慣用の潤滑剤の中からPOEを特に選択することは、当業者が適宜なし得ることである。

d.したがって、引用発明における潤滑剤として、上記当業者の技術常識に基づき、当業界で慣用の潤滑剤の中から、(ポリ)エステル系油とも称呼されるPOEを選択することは、当業者が通常の創作能力を発揮することにより適宜なし得ることであり、何ら困難性はない。

e.上記a.?d.によれば、引用発明において、潤滑剤としてPOEを用いることとして、相違点1に係る本件訂正発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)本件訂正発明1の効果について
本件訂正発明1の効果は、本件訂正後の明細書の記載からみて、本件発明の課題に対応して、
「熱移動組成物であって、
(i)従来技術の塩素を含有する冷媒(審決注:冷媒化合物又は冷媒組成物、後者は「熱移動組成物」に相当する。)におけるオゾン破壊性の欠点を回避し、
(ii)蒸気圧縮サイクルによる加熱及び冷却用途に必要な特性である熱移動特性、化学的安定性、低毒性又は無毒性、不燃性、及び潤滑剤相溶性などを備え、
(iii)従来技術の塩素を含有しない代替冷媒における欠点である潤滑剤に不溶又は非混和であること、可燃性、プラスチックを冒す傾向、毒性などのうちの1つ以上を回避する、
熱移動組成物の提供」にあると認められる。
しかし、(i)は、冷媒化合物の性質に基づく効果であり、(ii)と(iii)は、冷媒化合物の性質に基づく効果であるか、適当な潤滑剤との組成物にしたことに基づく効果であるところ、冷媒化合物は本件訂正発明1と引用発明との一致点であるし、引用例1には「ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」と記載され(摘示(1h))、当業界慣用の潤滑油の中に問題のない適当なものがあることが示唆されており、更に上記引用例2ないし4によればPOEは有力な選択肢であると当業者が認識できるから、このような効果は、引用発明において潤滑油としてPOEを用いる場合に、当然に奏される効果であるか、当業者が予測し得る効果であり、格別の効果であるとはいえない。

(エ)小括
したがって、本件訂正発明1は、引用発明及び当業者の技術常識又は慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.本件訂正発明2ないし10についての検討
念のため本件訂正発明2ないし10についても検討を行う。

(ア)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1において、「前記HFO-1234zeが、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも50%の量で存在する」ことを特定したものである。
しかし、冷媒化合物と潤滑剤を含む冷媒組成物において、潤滑剤の量は所望の潤滑性能が得られる量であるところ、引用例3及び4にもそれぞれ記載されるように、冷媒化合物と潤滑剤からなる冷媒組成物についての潤滑剤との相溶性の試験が、潤滑剤の濃度20?80重量%においてされることからすると、潤滑剤の濃度を20?80重量%の範囲又は20重量%以下の有効最小量?80重量%の範囲とするのは、当業者の想定の範囲である。その場合の冷媒化合物の濃度は、80重量%超?20重量%になる。
してみると、本件訂正発明2の「HFO-1234ze」は、冷媒化合物に相当することは明らかであるから、これの量を「重量で少なくとも50%の量」と更に特定することも、当業者が所望に応じて適宜なし得ることというほかはない。
したがって、本件訂正発明2は、引用発明及び当業者の技術常識又は慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明2において、「HFO-1234zeが、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも70%の量で存在する」ことを特定したものである。
しかし、上記(ア)で検討したように、冷媒組成物についての潤滑剤との相溶性の試験が潤滑剤の濃度20?80重量%(冷媒化合物の濃度80?20重量%)においてされるのが普通のことであることからすると、冷媒化合物に相当する化学式(II)の化合物の濃度をこのように更に特定することも、当業者が所望に応じて適宜なし得ることというほかはない。
したがって、本件訂正発明3は、引用発明及び当業者の技術常識又は慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ウ)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明1において、「前記潤滑剤が、前記熱移動組成物に対して重量で30%?50%の量で存在する」ことを特定したものである。
しかし、上記(ア)で検討したように、冷媒組成物についての潤滑剤との相溶性の試験が潤滑剤の濃度20?80重量%においてされるのが通常のことであることからすると、潤滑剤の濃度をこのように更に特定することも、当業者が所望に応じて適宜なし得ることというほかはない。
したがって、本件訂正発明4は、引用発明及び当業者の技術常識又は慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(エ)本件訂正発明5ないし10について
本件訂正発明5ないし10は、いずれも「化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)である」ことを発明特定事項とするものであり、当該化合物は、引用発明における「分子式」で表されるものではあるものの、引用例1において具体的に記載されているものではなく、その物性(熱力学特性、ヒートサイクル特性など)についても記載されていない。
してみると、本件訂正発明5ないし10について、引用発明及び当業者の技術常識又は慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(オ)小括
以上のとおり、本件訂正発明2ないし4については、引用発明及び当業者の技術常識又は慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正発明5ないし10については、引用発明及び当業者の技術常識又は慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

エ.まとめ
よって、本件訂正発明1ないし4については、引用発明及び当業者の技術常識又は慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3.審判請求人の主張について
なお、審判請求人は、上記平成26年2月14日付け意見書において、以下の(a)ないし(e)の概略5点をもって、本件訂正発明が進歩性を有するものであると主張している(意見書3頁1行?18頁8行)。
(a)引用例1(甲第1号証)の記載は誤っていること
(b)引用例1で潤滑剤が使用されたとすれば、その潤滑剤は鉱油であること
(c)本件特許によりHFOと潤滑剤の混和性及び安定性が初めて実験的に研究され、報告されたこと
(d)引用例1と引用例2?4とを組み合わせる動機付けは存在しないこと
(e)毒性及び反応性の阻害事由が存在すること
そこで、上記主張につき以下検討する。

(1)上記(a)の点に係る主張について
請求人は、上記意見書において上記(a)の点につき、追試実験結果を含む参考資料27の宣誓書を提示した上で、引用例1におけるHFO-1243zfなるHFOを使用した実施例1の結果(特に比能力)につき明らかな誤りがあり、引用例1で行われた科学的な調査についての全ての記載の信頼性が失われているから、引用例1の記載は信用性を欠く旨をもって、当業者は(引用例1が本件訂正発明と)関連するものとは考えなかったと主張している(意見書5頁4行?7頁下から6行)。
しかるに、引用例1において、本件訂正発明1ないし4に係るHFO-1234zeを使用した場合につき誤りがあるならばともかく、異なる化合物であるHFO-1243zfの実験例の結果につき誤りがあるからといって、引用例1に記載された事項全てに係る信用性がないとすべき技術的根拠が存するものとは認められない。
また、引用例1には、F_(3)C-CH=CHF(1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン)、すなわちHFO-1234zeを使用した場合につき、「R-12」(CFC-12)の場合と対比した実験例(実施例2)につき具体的に記載されている(上記摘示(1k)参照)から、客観的にみて上記「引用発明」を認定できるものとするのが自然である。
なお、上記第1の1.で指摘したとおり、本件特許に対して3件の特許無効審判が請求されたところ、そのいずれの事件においても、引用例1が進歩性欠如の無効理由を主張する際に引用されていることからみても、当業者は引用例1につき本件(訂正)発明と関連するものとは考えなかったとすることができるものではない。
してみると、請求人の上記(a)の点に係る主張は、当を得ないものである。

(2)上記(b)の点に係る主張について
請求人は、上記意見書において上記(b)の点につき、「(ア)引用例1には具体的な潤滑剤が全く記載されていない」こと、「(イ)(引用例1の)第2図の油分離器」が図示されていること及び「(ウ)PAG及びPOEは引用例1が公開された当時の「汎用の潤滑剤」ではない」ことの3点を指摘し、もって、引用例1には潤滑剤が使用されることにつき、記載されていないか、記載されているとしても使用される潤滑剤は鉱油である旨主張している(意見書7頁下から5行?10頁6行)。
しかるに、上記2.(2)ア.で行ったとおり、引用例1に記載された事項に基づいて、1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンに代表される特定の分子式で示されかつ分子構造中に二重結合を1個有する含フッ素有機化合物からなる熱媒体と、ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油とからなるヒートポンプ熱伝達用組成物に係る「引用発明」を客観的に認定したのみであって、当該認定を行うにあたり、引用例1において、使用される潤滑剤の種別及びヒートポンプ装置における油分離器の有無などに係る具体的記載を要するとすべき技術的根拠が存するものとは認められない。
なお、冷媒(化合物)と潤滑剤の相溶性は、空調又は冷凍システムなどの蒸気圧縮システムの圧縮部における良好な潤滑を行うために必要な物性ではあるが、当該システムにおけるその他の部位(例えば凝縮部、蒸発部など)においては、潤滑剤の存在は熱伝導を阻害する要因となり、その防止のために圧縮機の排出部(アウトレット)に油分離器を設け、潤滑剤を冷媒から少なくとも一部分離し、分離した潤滑剤を圧縮機の送入部(インレット)に戻すようなシステム構成にする場合があることが当業者の技術常識である(必要ならば引用例4の「Fig.12」及び下記参考文献1並びに2参照)から、油分離器の有無が冷媒と潤滑剤との相溶性に直接関係する事項であるとは理解することができない。
してみると、請求人の上記「(ア)引用例1には具体的な潤滑剤が全く記載されていない」こと及び「(イ)(引用例1の)第2図の油分離器」が図示されていることに基づく主張は、いずれも根拠を欠くものであり、当を得ないものである。
また、上記2.(2)イ.で説示したとおり、本件訂正発明1と引用発明との対比判断において、潤滑剤の種別の点は相違点1としており、当該相違点1について、本件特許に係る出願の日(優先日)の時点における公知公用の発明又は刊行物に記載された発明に基づき、当業者がその技術常識及び周知(慣用)技術に照らして、その相違点に係る事項につき容易に想到することができたか否かにつき検討しているのみであって、刊行物に記載された発明に係る出願の出願日時点又は公開日時点の技術常識を加味して検討・判断を行うべき事情が存するものではない。
してみると、請求人の上記「(ウ)PAG及びPOEは引用例1が公開された当時の「汎用の潤滑剤」ではない」ことに基づく主張も当を得ないものである。
したがって、請求人の上記(b)の点に係る主張は、いずれも当を得ないものである。

参考文献1:日本冷凍協会編,「上級標準テキスト 冷凍空調技術」,初版,日本冷凍協会,昭和63年1月20日,p.121-123(特にp.122)(無効2011-800092号における甲第6号証)
参考文献2:カーエアコン研究会編著,「カーエアコン」,第2版1刷,山海堂,2003年1月15日,p.124-125(無効2011-800092号における乙第11号証)

(3)上記(c)の点に係る主張について
請求人は、上記意見書において上記(c)の点につき、「(冷媒(化合物)と潤滑剤との)混和性及び(冷媒組成物の)安定性の性質は、実験無しに予測することは不可能であった」のに対して、「本件特許の発明者は、HFO、とりわけHFO-1234zeの潤滑剤との混和性及び安定性について、初めて実験的な研究を行い(本件特許において)報告した旨主張している(意見書10頁7行?28行)。
しかるに、本件訂正後の明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、冷媒(化合物)と潤滑剤との混和性については、
「本発明による冷媒組成物、特に蒸気圧縮システムで用いられる冷媒組成物は、一般に組成物の重量の約30%?約50%の量で潤滑剤を含有する。・・ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒と共に冷却機に用いられるポリオールエステル(POE)およびポリアルキレングリコール(PAG)など、一般的に用いられる冷却潤滑剤が、本発明の冷媒組成物と共に用いられてもよい。」(【0029】)及び
「実施例2:
種々の冷却潤滑剤とHFO-1225yeおよびHFO-1234zeとの混和性が試験されている。試験された潤滑剤は、鉱物油(炭素数3)、アルキルベンゼン(・・)、エステル油(モービル(・・)EAL22ccおよびソレスト(・・)120)、ポリアルキレングリコール(PAG)油(グッドレンチ(・・)冷却油、134aシステム用)、およびポリ(アルファ-オレフィン)油(CP-6005-100)である。各々の冷媒/油の組合せにおいて、3つの組成物、すなわち、試験される本発明の化合物を、潤滑剤に対して、5,20,および50重量パーセントの比率で各々有する組成物が試験されている。
・・(中略)・・
ポリアルキレングリコール油およびエステル油の潤滑剤は、全温度範囲に渡り全ての試験比率で混和性と判定されたが、ポリアルキレングリコール油とHFO-1225yeとの混合物は例外であり、この冷媒混合物は、-50℃?-30℃の温度範囲に渡って非混和性であり、-20℃?50℃の温度範囲に渡って部分的に混和性であることが見出された。60°においては、冷媒に対して50重量%濃度のPAGでは、冷媒/PAG混合物は混和性であった。70℃では、冷媒に対して5重量%?50重量%の潤滑剤は混和性であった。」(【0056】?【0058】)
と記載されているのみであり、当該記載からみて、HFO-1234zeとPOEとの混和性が良好であったことは理解できるものの、HFO-1234zeと他の潤滑剤との混和性と同等であるものとも理解するほかなく、HFO-1234zeとPOEとの混和性がHFO-1234zeと他の潤滑剤との混和性に比して優れるものと理解できるものではない。
また、(熱移動組成物の)安定性について本件訂正後の明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、HFO-1234zeとPAG油との組成物については、金属浸漬物の外観が変化しない、すなわち安定性を有することが理解できるものの(実施例3、【0059】?【0061】)、本件訂正発明1に係るHFO-1234zeとPOEとの組成物に係る安定性につき理解できる程度の記載又は示唆がない。
してみると、請求人の上記(c)の点に係る主張は、本件訂正後の明細書に基づかないものであり、当を得ないものである。

(4)上記(d)の点に係る主張について
請求人は、上記意見書において上記(d)の点につき、先の訂正拒絶理由通知で引用した引用例1ないし4の記載を摘示し、引用例1と引用例2?4とを組み合わせる動機付けは存在しない旨るる主張している(意見書10頁29行?16頁8行)。
しかるに、上記2.でも説示したとおり、上記引用例2には、R1336なるHFO冷媒化合物に対してポリエステル油なる本件訂正発明1でいうポリオールエステル油(POE)が良好な相溶性を示すことが記載されているのであるから、本件訂正発明1との間で潤滑剤の種別の点でのみ相違する引用例1に記載された引用発明に対して、引用例2の上記記載に基づき、相溶性(混和性)が良好な潤滑剤としてPOEを使用すべき動機が存することは明らかである。
なお、蒸気圧縮システム用の冷媒組成物の技術分野において、冷媒化合物と潤滑剤との相溶性(混和性)が良好であるべきことは、上記(2)で示したとおり、当業者の技術常識であり、当該冷媒組成物を使用する上での一般的な解決課題であるものと認めざるを得ない。
また、上記(3)でも示したとおり、本件訂正後の明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、HFO-1234zeとPOEとの混和性が良好であったことは理解できるものの、HFO-1234zeとPAG油を含めた他の潤滑剤との混和性に比して優れるものと理解できるものではないから、引用発明における潤滑剤として、POEを選択使用することについて、特段に積極的な動機付けを要するものでもない。
してみると、引用例1に記載された引用発明に対して、引用例2に記載された技術を組み合わせるべき動機付けが存するのであるから、請求人の上記(d)の点に係る主張は当を得ないものである。

(5)上記(e)の点に係る主張について
請求人は、上記意見書において上記(e)の点につき、本件優先日当時、当業者は、フルオロオレフィンについて、毒性が高く反応性も高いとの懸念を有し、HFO-1234zeを冷媒化合物として開発し実用化するために研究する動機付け、例えばHFO-1234zeと潤滑剤との組合せを研究する動機付けが欠けていたという阻害要因があるにもかかわらず、本件発明の発明者は、HFO-1234zeの毒性が例外的に低いことを見いだし、本件訂正発明に至った旨を主張している(意見書16頁9行?18頁4行)。
しかるに、上記2.(1)ア.で摘示したとおり、本件特許に係る優先日前に頒布されたものと認められる引用例1には、HFO-1234zeを使用してヒートポンプの運転を行い、その成績係数(COP)の比及び冷凍能力の比を測定した実験例(実施例2)につき具体的に記載されているから、本件優先日前にHFO-1234zeを冷媒化合物として開発し実用化するために研究が行われていたものと理解するのが自然である。
また、冷媒化合物の毒性に関しては、取扱い性などの点で低い方が好適であることが明らかであるが、蒸気圧縮システム用の冷媒(組成物)においては、当該システムが閉鎖型の冷媒循環システムであるから、システム運転中の冷媒化合物の漏洩防止などが当然に図られるものであって、冷媒化合物の毒性が冷媒の冷却性能及び対環境性能(オゾン破壊係数、GWPなど)などに比して重視されるものとは認められず、冷媒化合物の毒性の有無が、冷却性能及び対環境性能などに優れた冷媒化合物を蒸気圧縮システム用の冷媒(組成物)として使用することを妨げる要因になるものとは認められない。
なお、上記「フルオロオレフィンの反応性」とはいかなる物性をいうのか本件訂正後の明細書の記載を参酌しても不明である。
しかるに、仮に、当該「反応性」が、金属部材などとの反応性(侵食性)を意味するとすれば、フルオロオレフィンは、侵食性が低いヒドロフルオロカーボン類と同様に塩素原子を有するものではないから、侵食性は低いものと理解するのが自然である。
また、仮に、当該「反応性」が、化合物の燃焼性を意味するのであれば、HFO-1234zeなどのHFO-1234化合物は、HFC-152a及びHFO-1243zf(並びにHFC-32など)と略同等の「微燃性」なる燃焼性を有するものと認められる(必要ならば下記参考文献3参照)から、「反応性」の大小についての技術的意義がなく、阻害要因となるものではない。
してみると、請求人の上記(e)の点に係る主張は、上記引用例1の記載事項を正解しないものであるか、本件訂正後の明細書の記載に基づかないものであるから、いずれにしても当を得ないものである。

参考文献3:公益社団法人日本冷凍空調学会編「微燃性冷媒リスク評価研究会 平成24年度プログレスレポート」平成25年3月発行、(特に38頁?57頁参照)

(6)請求人の意見書における主張についてのまとめ
以上のとおり、請求人の上記意見書における主張は、いずれも当を得ないものであるから、採用する余地がなく、上記2.の検討結果を左右するものではない。

4.独立特許要件に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1ないし4については、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないので、本件訂正は、特許法第126条第5項に規定された要件を満たしているものではない。

第3 結び
結局、本件訂正は不適法なものであり、本件審判請求は成り立たない。
 
審理終結日 2014-03-11 
結審通知日 2014-03-13 
審決日 2014-03-25 
出願番号 特願2004-547148(P2004-547148)
審決分類 P 1 41・ 856- Z (C09K)
P 1 41・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小石 真弓  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 菅野 芳男
橋本 栄和
登録日 2011-03-11 
登録番号 特許第4699758号(P4699758)
発明の名称 フッ素置換オレフィンを含有する組成物  
代理人 小野 新次郎  
代理人 牧野 利秋  
代理人 沖本 一暁  
代理人 松田 豊治  
代理人 末吉 剛  
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