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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1303508
審判番号 不服2014-6877  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-14 
確定日 2015-07-23 
事件の表示 特願2009- 96615「光信号検出方法、光信号検出装置、光信号検出用試料セルおよび光信号検出用キット」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月 2日出願公開、特開2010-190880〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年4月13日を出願日とする出願(国内優先権主張平成20年4月18日、平成21年1月23日)であって、平成25年10月8日付けで拒絶理由が通知され、同年12月16日に意見書、手続補正書が提出されたが、平成26年1月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年4月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年4月14日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年4月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正について
平成26年4月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成25年12月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下のとおり、補正前のものから補正後のものに補正する事項を含むものである。

(補正前)
「【請求項1】
誘電体プレートおよび、該プレートの一面の所定領域に設けられた金属層を備えたセンサ部を有するセンサチップを用意し、
該センサチップの前記センサ部に試料を接触させることにより、該センサ部に、前記試料に含有される被検出物質の量に応じた量の、光応答性標識物質が付与された結合物質を結合させ、
前記所定領域に対して励起光を照射し、該励起光の照射により前記金属層上に生じた電場増強場内において生じる前記光応答性標識物質からの光を検出することにより、前記被検出物質の量を求める光信号検出方法において、
前記光応答性標識物質として、複数の光応答物質が、該光応答物質から生じる光を透過する光透過材料により、該光応答物質が前記金属層に近接した場合に生じる金属消光を防止するように、包含されてなる、粒径が70nm?900nmであるものを用いたことを特徴とする光信号検出方法。」
が、
(補正後)
「【請求項1】
誘電体プレートおよび、該プレートの一面の所定領域に設けられた金属層を備えたセンサ部を有するセンサチップを用意し、
該センサチップの前記センサ部に試料を接触させることにより、該センサ部に、前記試料に含有される被検出物質の量に応じた量の、光応答性標識物質が付与された結合物質を結合させ、
前記所定領域に対して励起光を照射し、該励起光の照射により前記金属層上に生じた、表面プラズモンによる電場増強場内において生じる前記光応答性標識物質からの光を検出することにより、前記被検出物質の量を求める光信号検出方法において、
前記光応答性標識物質として、複数の光応答物質が、該光応答物質から生じる光を透過する光透過材料により、該光応答物質が前記金属層に近接した場合に生じる金属消光を防止するように、包含されてなる、粒径が70nm?900nmであるものを用いたことを特徴とする光信号検出方法。」
と補正された。(下線は、補正箇所を示す。)

そして、上記の本件補正による請求項1の補正は、本件補正前の「前記所定領域に対して励起光を照射し、該励起光の照射により前記金属層上に生じた電場増強場内において生じる前記光応答性標識物質からの光を検出すること」における「電場増強場」を、「表面プラズモンによる電場増強場」とすることにより、限定を付加するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(1) 引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の最先の優先日前である平成13年1月26日に頒布された「特開2001-21565号公報」(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審において付加したものである。)

(ア)「【0009】
【作用】表面プラズモンは、Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Al等の金属薄膜を蒸着した三角形ガラスプリズムに、プリズム側から所定の共鳴角θ_(R) で光を入射するとき金属薄膜表面に形成される強い局所電場である。共鳴角θ_(R) 付近では、入射光のほとんどが表面プラズモンに変換される。表面プラズモンの電場が入射光とほぼ同様な性質をもつため、電場中に置かれた蛍光標識試薬は、直接光の吸収で励起する従来法と同様に励起され、蛍光を発する。表面プラズモンによる励起は、電場増強効果を呈することが最大の特徴である。すなわち、表面プラズモンの電場強度が入射光の電場強度よりも増強され、特に近赤外領域では数百倍に達する。この電場増強効果により、光を表面プラズモンに一旦変換すると、同じ光源を用いた直接光励起に比較して極めて高い電場強度が得られ、従来の直接光励起では困難であった二光子励起が可能になる。」

(イ)「【0011】
【実施の形態】本発明に従った蛍光免疫分析装置は、たとえば図1に示すように三角形ガラスプリズム10を回転テーブル1に載置している。三角形ガラスプリズム10の一面には抗体を固定化した金属薄膜11が設けられており、試料溶液が金属薄膜11に接触しながら流れるようにフローパイプ12及びフローセル13で流路を構成する。フローパイプ12に替えて固定セルを使用することも勿論可能である。金属薄膜11は、三角形ガラスプリズム10の一面に直接形成し、或いは金属薄膜11を形成したガラス基板17(図3)を三角形ガラスプリズム10に貼り合せることにより設けられる。金属薄膜11が設けられる三角形ガラスプリズム10又はガラス基板17としては、近紫外線又は近赤外線の透過率が高い高屈折率である限り材質に制約を受けるものではなく、光学用ガラスBK-7,LaSF-N30,SF-10(ドイツSchott社製)等が使用される。金属薄膜11としては、Au,Ag,Cu,Pt,Ni,Al等が使用可能である。
【0012】フローパイプ12及びフローセル13には、試料溶液と反応せず透明度の高いアクリル樹脂が好適に使用される。フローパイプ12は、図2に示すようにフローセル13に挿し込まれ、同質の三角形ガラスプリズム10とガラス板14との間に挟持され、樹脂接着剤を用いて全体が圧着Pされる。フローパイプ12は一部が開放されており、試料溶液が金属薄膜11に接する接液部15となる。励起光源2としては、図1では二光子発生源として半導体レーザ誘起ピコ秒Nd-YAGレーザ(波長532nm,パルス幅800ピコ秒,エネルギ1μJ)を図示しているが、これに拘束されることなく、対象となる蛍光標識試薬に応じた波長をもつレーザが適宜選択される。
【0013】励起光源2から出射されたレーザ光は、ビームスプリッタ3aで透過光及び反射光に分割される。透過光は、更にビームスプリッタ3bで透過光及び反射光に分割され、透過光が三角形ガラスプリズム10のプリズム面に導かれる。プリズム側から三角形ガラスプリズム10に入射した透過光は、屈折して金属薄膜11に投影され、金属薄膜11で反射した後、三角形ガラスプリズム10の他のプリズム面から出射される。三角形ガラスプリズム10に対する入射角は、回転テーブル1 の回転角度を調整することにより設定・変更される。
【0014】三角形ガラスプリズム10から出射された光を光検出器4aで検出し、反射光強度Iを測定する。また、ビームスプリッタ3bで分割された反射光を光検出器4bで検出し、入射光強度I_(0) を測定する。反射光強度I及び入射光強度I_(0) は、それぞれ光検出器4a及び光検出器4bからI/I_(0) 回路5に出力される。I/I_(0) 回路5で反射率I/I_(0) が求められ、コンピュータ6に出力され記録される。三角形ガラスプリズム10を載せた回転テーブル1を回転させながら反射率I/I_(0) の測定するとき、反射率I/I_(0) が最小になる入射角、すなわち共鳴角θ_(R) が求められる。
【0015】ビームスプリッタ3aからの反射光は、光検出器4cに入力され、光検出器4dのゲート開閉に利用される。光検出器4a?4cには、たとえばPINフォトダイオードが使用される。光検出器4dには、たとえばイメージを増強する機能をもつゲート付きCCD分光検出器が使用される。金属薄膜11に固定されている抗体は、フローパイプ12から注入された試料溶液中の抗原と結合する。抗体に結合した抗原に更に蛍光標識抗体を結合させる。蛍光標識抗体は、三角形ガラスプリズム10に入射した光で励起され、蛍光FLを発する。
【0016】蛍光標識抗体を含む試薬としては、近紫外又は近赤外に吸収をもつ限り多数の有機蛍光標識試薬や希土類蛍光標識試薬が使用される。希土類蛍光標識試薬には、Eu,Tb,Yb,Sm,Tm,Nd,Er,Ho,Pr,Gd等の希土類イオンを含む試薬がある。発光寿命の短い通常の有機系蛍光標識試薬を使用する場合、レーザ照射直後に光検出器4dのゲートを開けて蛍光FLを検出するように、光検出器4cからゲートパルサ7に検知信号を送り、ゲートパルサ7から光検出器4dにゲート開閉信号を出力する。これにより、金属薄膜11から発せられた蛍光FLが分光器8を透過して光検出器4dで検出される。発生した蛍光FLは、抗体の選択励起によるものであり、二光子励起により背景光が抑えられている。発光寿命が極めて長い希土類系標識試薬を使用する場合、数百ナノ秒が経過した後で光検出器4dのゲートを開き、金属薄膜11からの蛍光FLを検出する。ゲート開放のタイミングをこのように調整するとき、妨害物質に起因する背景光が大幅に低下し、蛍光FLが一層高感度で測定される。」

(ウ)「【0017】
【実施例】抗体が固定された金属薄膜11を次の手順でガラス基板17上に設けた。図3に示すように、ガラス基板17上にAuを蒸着して金属薄膜11を形成した後、γ-アミノプロピルトリエトキシシランの2%アセトン溶液に浸漬し、メタノール及び蒸留水で洗浄した。次いで、グルタールアルデヒドの5%水溶液にガラス基板17を3時間浸漬し、蒸留水で洗浄することにより、抗体固定用の有機層21を金属薄膜11の上に形成した。次いで、血清中の代表的な腫瘍マーカーであるα-フェトプロテイン(AFP)に対する抗体を含む燐酸緩衝溶液にガラス基板17を16時間浸漬し、抗AFP抗体22を有機層21に結合させた。更に、抗AFP抗体22が関与しない非特異的な吸着を防止するため、有機層21の活性部位を0.1Mエタノールアミン水溶液及び血清アルブミン溶液でブロッキングした。
【0018】ブロッキング層23の形成後、ガラス基板17にアクリル樹脂製のフローセル13を粘着性パッキングで接着し、回転テーブル1上の三角形ガラスプリズム10にガラス基板17のガラス側をマッチングオイルで接着した。300μg/mlのAFPを含むリン酸緩衝液をフローセル13に注入し、抗AFP抗体22と接触する状態で2時間放置した後、リン酸緩衝溶液で洗浄し、ガラス基板17上の抗AFP抗体22にAFP24を結合させた。次いで、蛍光標識抗体として代表的な希土類蛍光標識試薬であるN^(1)-P-isothiosyanatobenzyl)-diethylenetriamine-N^(1), N^(2), N^(3), N^(3)-tetraaceteic acid europi um(DTTA-Eu)を100μg/ml含む燐酸緩衝溶液をフローセル13に注入し、AFP24と接触する状態で2時間放置した後、リン酸緩衝溶液で洗浄した。これにより、ガラス基板17上の抗AFP抗体22で固定されたAFP24にDTTA-Eu25を結合させた。
【0019】以上の操作によって、試料溶液に含まれるAFP24(抗原)の濃度に比例した量のDTTA-Eu25(蛍光標識抗体)がガラス基板17に固定された。AFP24(抗原)及びDTTA-Eu25(蛍光標識抗体)が固定されたガラス基板17を備えた三角形ガラスプリズム10を回転テーブル1上で回転させながら、半導体レーザ励起Nd-YAGレーザ(励起光源2)を用いて波長532nmのp-偏光をプリズム側から照射し、各入射角ごとに反射率を測定した。その結果、入射角がほぼ75度のときに反射率が最少になった。
【0020】反射率が最少になる条件下で発光スペクトルを測定したところ、図4に示すように3価ユウロピウムイオンに特徴的な発光スペクトルが観測された。更に、種々のAFP濃度を有する試料溶液を用いて検量線を作成し定量したところ、AFP濃度と発光強度との間に密接な直線関係が成立していることが判った。このことから、本発明によるとき、抗原の濃度を十分に定量できることが確認された。」

(エ)「【0021】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明においては、表面プラズモン共鳴を利用して蛍光標識抗体を二光子励起又は多光子励起させ、このときに発生する蛍光をスペクトル分析することにより、金属薄膜に固定した抗体に結合している抗原を定量している。この方法によるとき、試料溶液に含まれている妨害物質が励起されず、吸着固定されている蛍光標識抗体のみを選択的に且つ効率よく励起させることができるため、抗原濃度を高感度で定量できる。」

イ 引用例に記載された発明の認定

引用例の記載事項を総合すると、引用例には、
「三角形ガラスプリズム10の一面には抗体を固定化した金属薄膜11が設けられ、金属薄膜11は、金属薄膜11を形成したガラス基板17を三角形ガラスプリズム10に貼り合せることにより設けられており、
金属薄膜11に固定されている抗体は、注入された試料溶液中の抗原と結合し、抗体に結合した抗原に更に蛍光標識抗体を結合させ、蛍光標識抗体は、三角形ガラスプリズム10に入射した光で励起され、蛍光FLを発し、金属薄膜11からの蛍光FLを検出する、蛍光免疫分析装置に用いる方法であって、
表面プラズモン共鳴を利用して蛍光標識抗体を励起させ、このときに発生する蛍光をスペクトル分析することにより、金属薄膜に固定した抗体に結合している抗原を定量している、方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2) 本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)
a 引用発明の「ガラス基板17」及び「金属薄膜11」が、本願補正発明の「誘電体プレート」及び「金属層」に相当する。
b また、引用発明においては、「金属薄膜11からの蛍光FLを検出する」ので、引用発明の「金属薄膜11」は、センサ部といえ、本願補正発明の「センサ部」に相当する。
c 引用発明の「金属薄膜11を形成したガラス基板17」が、本願補正発明の「センサチップ」に相当する。
d そして、引用発明の「金属薄膜11を形成したガラス基板17を三角形ガラスプリズム10に貼り合せる」ことは、本願補正発明の「センサチップを用意」することに含まれる。
e したがって、上記a?dを踏まえると、引用発明の「三角形ガラスプリズム10の一面には抗体を固定化した金属薄膜11が設けられ、金属薄膜11は、金属薄膜11を形成したガラス基板17を三角形ガラスプリズム10に貼り合せることにより設けられており」は、本願補正発明の「誘電体プレートおよび、該プレートの一面の所定領域に設けられた金属層を備えたセンサ部を有するセンサチップを用意し」に相当する。

(イ)
a 引用発明の「試料溶液中の抗原」及び「蛍光標識抗体」が、本願補正発明の「試料に含有される被検出物質」及び「光応答性標識物質が付与された結合物質」に相当する。
b また、引用発明においては、「金属薄膜11に固定されている抗体は、注入された試料溶液中の抗原と結合し、抗体に結合した抗原に更に蛍光標識抗体を結合させ」ており、上記「(1) 引用例 ア(ウ)」の下線部の記載の「【0019】・・・試料溶液に含まれるAFP24(抗原)の濃度に比例した量のDTTA-Eu25(蛍光標識抗体)がガラス基板17に固定された。」という点を踏まえると、引用発明は、「金属薄膜11に固定されている抗体は、注入された試料溶液中の」抗原の濃度に比例した量の「抗原と結合し、抗体に結合した抗原に更に蛍光標識抗体を結合させ」ていることは、明らかである。
c したがって、上記(ア)及び上記a、bを踏まえると、引用発明の「金属薄膜11に固定されている抗体は、注入された試料溶液中の抗原と結合し、抗体に結合した抗原に更に蛍光標識抗体を結合させ」は、本願補正発明の「該センサチップの前記センサ部に試料を接触させることにより、該センサ部に、前記試料に含有される被検出物質の量に応じた量の、光応答性標識物質が付与された結合物質を結合させ」に相当する。

(ウ)
a 引用発明の「三角形ガラスプリズム10に入射した光」は、「蛍光標識抗体を励起させ」るので、本願補正発明の「励起光」に相当する。
b 引用発明の「表面プラズモン共鳴を利用して蛍光標識抗体を励起させ」るとは、上記「(1) 引用例 ア(ア)」の下線部の記載の「【0009】【作用】表面プラズモンは、・・・金属薄膜を蒸着した三角形ガラスプリズムに、プリズム側から所定の共鳴角θ_(R )で光を入射するとき金属薄膜表面に形成される強い局所電場である。」という点を踏まえると、「表面プラズモン共鳴」により金属薄膜表面に形成される強い局所電場「を利用して蛍光標識抗体を励起させ」るという意味であることは明らかである。
c したがって、上記(ア)、(イ)及び上記a、bを踏まえると、引用発明の「蛍光標識抗体は、三角形ガラスプリズム10に入射した光で励起され、蛍光FLを発し、金属薄膜11からの蛍光FLを検出」し、「表面プラズモン共鳴を利用して蛍光標識抗体を励起させ、このときに発生する蛍光をスペクトル分析することにより、金属薄膜に固定した抗体に結合している抗原を定量している」ことは、本願補正発明の「前記所定領域に対して励起光を照射し、該励起光の照射により前記金属層上に生じた、表面プラズモンによる電場増強場内において生じる前記光応答性標識物質からの光を検出することにより、前記被検出物質の量を求める光信号検出方法」に相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「誘電体プレートおよび、該プレートの一面の所定領域に設けられた金属層を備えたセンサ部を有するセンサチップを用意し、
該センサチップの前記センサ部に試料を接触させることにより、該センサ部に、前記試料に含有される被検出物質の量に応じた量の、光応答性標識物質が付与された結合物質を結合させ、
前記所定領域に対して励起光を照射し、該励起光の照射により前記金属層上に生じた、表面プラズモンによる電場増強場内において生じる前記光応答性標識物質からの光を検出することにより、前記被検出物質の量を求める光信号検出方法。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
光応答性標識物質に関し、本願補正発明は、「前記光応答性標識物質として、複数の光応答物質が、該光応答物質から生じる光を透過する光透過材料により、該光応答物質が前記金属層に近接した場合に生じる金属消光を防止するように、包含されてなる、粒径が70nm?900nmであるものを用いた」のに対し、引用発明においてはその特定がない点。

(3) 当審の判断
ア 上記の相違点について検討する。

センサ部に試料を接触させることにより、該センサ部に、前記試料に含有される抗原の量に応じた量の、蛍光標識抗体を結合させ、該センサ部に対して励起光を照射し、該励起光の照射により生じる前記蛍光標識抗体からの蛍光を検出することにより、前記抗原の量を求める光信号検出方法において、
前記蛍光標識抗体を構成する蛍光標識として、複数の蛍光物質が、その含有量を調整可能に、該蛍光物質から生じる光を透過する光透過材料により包含されてなる、粒径が70nm?900nmの範囲のものを用いることは、例えば、特開2007-240361号公報(段落【0018】?【0053】等)、特開2005-172546号公報(段落【0015】、【0023】、【0025】、【0046】、【0047】、【0052】等)、原査定の拒絶の理由で周知例として引用した特開2000-345052号公報(【請求項1】、【請求項3】、【請求項4】、【請求項12】、段落【0001】、【0012】?【0044】等)、原査定の拒絶の理由で周知例として引用した特開平5-52848号公報(【請求項1】?【請求項3】、段落【0008】?【0021】等)等に記載されているように周知の技術である。

なお、上記周知技術として例示の特開2007-240361号公報においては、誘電体表面に形成された金属層を備えたセンサ部に試料を接触させることにより、該センサ部に、前記試料に含有される抗原の量に応じた量の、蛍光標識抗体を結合させ、前記金属層に対して励起光を照射し、該励起光の照射により前記金属層上に生じた、表面プラズモンによる電場増強場内において生じる前記蛍光標識抗体からの光を検出することにより、前記被検出物質の量を求める光信号検出方法が開示されているので、上記周知の技術を、表面プラズモンによる電場増強場内において生じる蛍光標識抗体からの光を検出する光信号検出方法に用いることに格別の適用困難性があるとはいえない。

一方、誘電体表面に形成された金属層を備えたセンサ部に試料を接触させることにより、該センサ部に、前記試料に含有される抗原の量に応じた量の、蛍光標識抗体を結合させ、該金属層に対して励起光を照射し、該励起光の照射により生じた、表面プラズモンによる電場増強場内において生じる前記蛍光標識抗体からの蛍光を検出することにより、前記抗原の量を求める光信号検出方法において、前記金属層にごく近い距離(例えば20nm程度以下)にある蛍光標識からの蛍光は、前記金属層により消光する現象が起きることは、優先権主張当時の技術常識(例えば、田和圭子、表面プラズモン励起増強蛍光分光(SPFS:Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy)法によるバイオ界面計測、表面科学、2007年12月10日、第28巻第12号、724?727ページ(特に、2.3 表面プラズモン励起増強蛍光分光(SPFS)の欄)を参照。)である。

また、引用発明は、「センサ部に試料を接触させることにより、該センサ部に、前記試料に含有される抗原の量に応じた量の、蛍光標識抗体を結合させ、該センサ部に対して励起光を照射し、該励起光の照射により生じる前記蛍光標識抗体からの蛍光を検出することにより、前記抗原の量を求める光信号検出方法」という点で上記周知技術と同様の技術分野に属するものであり、また、引用発明は、「誘電体表面に形成された金属層を備えたセンサ部に試料を接触させることにより、該センサ部に、前記試料に含有される抗原の量に応じた量の、蛍光標識抗体を結合させ、該金属層に対して励起光を照射し、該励起光の照射により生じた、表面プラズモンによる電場増強場内において生じる前記蛍光標識抗体からの蛍光を検出することにより、前記抗原の量を求める光信号検出方法」という点で上記優先権主張当時の技術常識と同様の技術分野であるといえる。

そして、引用発明においても、蛍光標識からの蛍光量を高精度に調整及び把握しておくことは、抗原濃度を高感度に定量するための当然の課題要請であるところ、引用発明において、蛍光標識からの蛍光量を高精度に調整及び把握するために、上記周知技術を適用し、蛍光標識抗体を構成する蛍光標識として、複数の蛍光物質が、その含有量を調整可能に、該蛍光物質から生じる光を透過する光透過材料により包含されてなる、粒径が70nm?900nmの範囲のものを用いることは、当業者が容易になし得ることである。

ここで、引用発明に上記周知技術を適用した際の蛍光標識抗体を構成する蛍光標識は、上記優先権主張当時の技術常識を踏まえると、金属消光を防止する範囲の粒径であるから、蛍光標識抗体を構成する蛍光標識は、複数の蛍光物質が、その含有量を調整可能に、該蛍光物質から生じる光を透過する光透過材料により、該蛍光物質が前記金属層に近接した場合に生じる金属消光を防止するように、包含されてなる、粒径が70nm?900nmの範囲のものである。

したがって、引用発明において、上記周知技術及び上記優先権主張当時の技術常識を適用することにより、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる作用効果は、引用発明、上記周知技術及び上記優先権主張当時の技術常識から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、
「すなわち、金膜上に高屈折率を有するポリスチレンなどの誘電体粒子が存在すると、金膜のみの場合に生じていた増強電場を大きく乱す(プラズモン共鳴角が金膜上に誘電体粒子が付着することにより変化してしまう)ことは当業者にとって出願時の技術常識と言えます。
表面プラズモン共鳴を用いた蛍光検出の際に、標識としてポリスチレンなどの誘電体粒子を用いると、抗原抗体反応等の反応に伴いビーズが金膜上に徐々に付着することになり、反応が進むにつれてその共鳴角のずれにより増強電場が減衰して増強電場による効果が得られなくなる、あるいは増強電場が生じなくなるために光応答性物質の励起さえできなくなる、と当業者であれば直感的に考えます。
それ故、引用文献1に記載の増強電場による蛍光検出、引用文献2、3に記載の蛍光検出において蛍光標識として蛍光色素が分散したポリスチレンビーズを用いるという技術があっても、当業者は、両者を組み合わせた場合に蛍光検出ができなくなる、という弊害が生じると考え、敢えて両者を組み合わせようとはしないものと思料します。」と主張し、
また、平成27年5月1日付けで上申書を提出し、上申書において、
「したがって、当業者であれば、引用文献1に記載の増強電場による蛍光検出、引用文献2、3に記載の蛍光検出において蛍光標識として蛍光色素が分散したポリスチレンビーズを用いるという技術があっても、両者を組み合わせた場合に共鳴角の大幅なシフトに伴う蛍光信号の急激な減衰により蛍光検出ができなくなる、という弊害が生じると考え、敢えて両者を組み合わせようとはしなかったものと思料します。」と主張している。(下線は、当審において付加したものである。)

上記主張について検討する。
まず、本願補正発明においては、誘電体プレート、金属層、試料、及び光応答性物質がいずれも特定されていないため、抗原抗体反応等の反応前後の金属層上の屈折率がどのように変化するのかは、優先権主張当時の技術常識を踏まえても特定できず、また、仮に本願補正発明において、抗原抗体等の反応前後において金属膜表面上の屈折率が変化する場合に、屈折率の変化に対応して共鳴角(金属膜への入射角)を変化させて測定を行うかも特定できないため、請求人の上記主張は、本願補正発明に基づくものでなく、その前提を欠くものであるといえる。
また、引用発明においては、上記「(1) 引用例 ア(ウ)」の【0019】に記載されているように、抗原抗体反応の後に、反射率が最少となる入射角(共鳴角)を測定し、その入射角での蛍光を検出しているので、請求人が主張するとおり「金膜上に高屈折率を有するポリスチレンなどの誘電体粒子が存在すると、金膜のみの場合に生じていた増強電場を大きく乱す(プラズモン共鳴角が金膜上に誘電体粒子が付着することにより変化してしまう)ことは当業者にとって出願時の技術常識」であったとして、引用発明において、抗原抗体反応の前と後で共鳴角の大幅なシフトを伴うような蛍光標識抗体を用いたしても、測定原理からして蛍光検出ができなくなるほどの弊害を生じるとは考えにくい。
したがって、当業者であれば、引用文献1に記載の増強電場による蛍光検出に、引用文献2、3に記載の蛍光検出において蛍光標識として蛍光色素が分散したポリスチレンビーズを用いるという技術を敢えて組み合わせることはしないとする上記主張を採用することはできない。

エ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、上記周知技術及び上記優先権主張当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年12月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記第2 「1 本件補正について」(補正前)の請求項1の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に示された引用例の記載事項及び引用発明については、上記第2 2「(1) 引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2 2「(2) 本願補正発明と引用発明との対比」及び「(3) 当審の判断」で検討した本願補正発明から、「前記所定領域に対して励起光を照射し、該励起光の照射により前記金属層上に生じた、表面プラズモンによる電場増強場内において生じる前記光応答性標識物質からの光を検出すること」の「表面プラズモンによる」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「(3) 当審の判断」に記載したとおり、引用発明、上記周知技術及び上記優先権主張当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、上記周知技術及び上記優先権主張当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-21 
結審通知日 2015-05-26 
審決日 2015-06-11 
出願番号 特願2009-96615(P2009-96615)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋介  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
平田 佳規
発明の名称 光信号検出方法、光信号検出装置、光信号検出用試料セルおよび光信号検出用キット  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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