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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B66B
管理番号 1303781
審判番号 不服2014-8713  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-12 
確定日 2015-07-30 
事件の表示 特願2011-538157「エレベータの主索固定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月 5日国際公開、WO2011/052057〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、2009年10月29日を国際出願日とする出願であって、平成23年10月4日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成25年5月2日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成25年7月12日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年10月29日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対して平成26年1月9日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年2月6日付けで平成26年1月9日に提出された手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定がされるとともに、同日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成26年5月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、さらに平成26年9月19日に上申書が提出され、平成27年1月7日付けで平成26年5月12日に提出された手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定がされ、その後、平成27年1月22日付けで当審における拒絶理由が通知され、これに対し、平成27年3月30日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。


2.本願発明
本件出願の請求項1ないし10に係る発明は、平成27年3月30日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
昇降体を吊り下げる主索が接続され、凸部がソケット側嵌合部として外周部に設けられたソケット、及び
上記ソケットの外周部を被覆し、上記ソケットの外周部を被覆している状態で上記ソケット側嵌合部に嵌る被覆体側嵌合部が内周部に形成される弾性被覆体
を備え、
上記ソケットに設けられた主索通し孔の径方向断面積は、上記ソケットの先端部で最も小さく、上記ソケットの中間部に向かって連続的に大きくなっており、
上記ソケットの径方向頂部を含む中間部から上記ソケットの先端部までの部分のみを上記弾性被覆体が被覆し、
上記ソケットに取り付けられたロッドの中心軸線から上記ソケット側嵌合部の突出端部までの距離が、上記ロッドの中心軸線から上記ソケットの径方向頂部までの距離よりも小さくなっていることを特徴とするエレベータの主索固定装置。」


3.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1
ア 刊行物1の記載事項
当審において平成27年1月22日付けで通知した拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である実願昭51-151102号(実開昭53-70056号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

a)「実用新案登録請求の範囲
1. 機械室に設置される巻上機、この巻上機に巻掛けられる複数本のロープ、このロープの端部をロープ保持装置を介して乗かご及び釣り合い錘に連結し前記巻上機により昇降するエレベータにおいて、前記ロープ保持装置の最外径部を弾性体で覆つたことを特徴とするエレベータ装置。」(明細書1ページ3ないし10行)

b)「本考案は一端に乗かご、他端に釣り合い錘を懸吊するロープを巻上機により巻上、乗かご及び釣り合い錘を昇降するエレベータ装置、特に高速のエレベータ装置に関するものである。
近年、建築技術の著しい進歩により各地に高層建築物が急増すると共に、その建築物に備えられるエレベータ装置は乗客及び荷物の運搬効率を高める為高速化されるなど、今日ではエレベータ装置の利用度、重要度が急速に高まり、もはや必要不可欠のものとなつている。ここでそれらの高層建築物をみると、耐震設計上柔構造である為地震或いは強風に対して非常に横振れが発生しその振れによりロープ端末を乗かご及び釣り合い錘に保持する複数個の装置が干渉しあつて音を発生し、時には、乗り物付近にいる人及び乗客に異常な不安感を与えることがある。
本考案の目的は、建屋の横振れによりロープが横振れしても、エレベータ乗物付近にいる人及び乗客に不安感を持たせるような異常音を発生しないエレベータ装置を提供することにある。
本考案は上記目的を達成すべく、乗かご及び釣り合い錘にその一端を固定するロープの端末部に設けるロープ保持装置を吸音構造としたエレベータ装置を提案するものである。」(明細書1ページ12行ないし2ページ16行)

c)「以下本考案の一実施例を図面に基づいて説明する。
第1図はかご1、かご枠2とロープ5との関係を示すものであるが、釣り合い錘の場合も同様である。
第2図においてかご枠2上部にロープ5を固定する複数個のロープ保持装置6を適度な間隙bをもつて設けるが、巻上機8のロープ溝間隔cは電気エネルギー、及び資材の節約から、またかご枠2上部と巻上機8下部との間隔aは建築資材の節約から一般的には最小限にとられる。
従つてロープ5が巻上機8のロープ溝から外れないようにするための寸法bの最大寸法が限定されることになる。ロープ保持装置6は、通常の運転時は最大径部分においても互いに干渉することはないが、前記の如く強風時地震時などに建築物が以上に横振れした場合にはロープ保持装置6が互いに干渉し音を発生することが考えられる。
第3図は本考案の一実施例を示すものでありロープ保持装置6の詳細を示す。ロープ保持装置6における最大径部分、すなわち従来のソケツト12を本考案になる弾性体15で覆うことにより前記のように建築物が異常に横振れした場合でも、乗物にいる人や、乗かご内の乗客に不安感をもたせるような音を発することなく良好なエレベータ装置が得られるものである。」(明細書2ページ17行ないし4ページ2行)

イ 上記ア及び図面の記載から分かること
a)上記アa)ないしc)及び第1ないし3図の記載によれば、刊行物1には、かご1及びかご枠2からなる乗かごを吊り下げるロープ5が接続されたソケット12、及び上記ソケット12の外周部を被覆する弾性体15を備えたエレベータ装置のロープ保持装置が開示されていることが分かる。

b)上記アc)及び第3図の記載によれば、ソケット12が、弾性体15によって被覆された部分と、ロッド9にピン10によって接続された部分とで構成されており、弾性体15によって被覆された部分における最大径部分はソケット12の中間部に含まれていることが分かる。
そして、第3図の記載によれば、ソケット12に設けられたロープ5の通し孔の径方向断面積は、ソケット12の先端部(第3図におけるソケット12の最上部であるロープ5側の先端部)で最も小さく、ソケット12の中間部に向かって連続的に大きくなっていることが分かる。

c)上記アc)及び第3図の記載を上記b)とあわせてみると、エレベータ装置のロープ保持装置において、ソケット12の最大径部分を含む中間部からソケット12の先端部までの部分のみを弾性体15が被覆していることが分かる。

ウ 引用発明
上記ア及びイを総合して、本願発明の表現にならって整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「かご1及びかご枠2からなる乗かごを吊り下げるロープ5が接続されたソケット12、及び
上記ソケット12の外周部を被覆する弾性体15
を備え、
上記ソケット12に設けられたロープ5の通し孔の径方向断面積は、上記ソケット12の先端部で最も小さく、上記ソケット12の中間部に向かって連続的に大きくなっており、
上記ソケット12の最大径部分を含む中間部から上記ソケット12の先端部までの部分のみを上記弾性体15が被覆しているエレベータ装置のロープ保持装置。」

(2)刊行物2
ア 刊行物2の記載事項
当審において平成27年1月22日付けで通知した拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である実願平5-980号(実開平6-56081号)のCD-ROM(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

a)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、クレーンにより吊り下げられるフックに付属のウェイトが周囲に及ぼす損害を軽減するようにしたクレーンのフック構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
クレーン付きの車両いわゆるクレーン車は、単段又は複数段に伸縮可能なクレーンの先端から、先端にフックを結び付けたワイヤを昇降自在に懸垂させる構造であり、建設現場等で用いられる大型のものから、ジェットスキーなどを積載搬送する小型トラックまで様々な種類がある。鉤型形状をもつフックは、無負荷時に弛まないようワイヤに適当な張力を与え、またある程度の重力加速度をもってワイヤとともに降下させることができるよう、適当な重量を与えるのが望ましく、このため用途的にさほど大きなフックを必要としない比較的小型のクレーン車などでは、フックとワイヤの間にウェイトと呼ばれる重量物を連結し、フックの懸垂安定性を確保することが多い。しかし、ウェイト自体は相当の重量をもった鉄塊などで出来ているため、フックを昇降させたときに操作ミスからクレーン車の一部にウェイトが衝突したりすると、往々にして衝突箇所が凹んだり傷ついたりすることがある。
【0003】
そこで、こうしたウェイトが周囲に及ぼす損害を軽減するため、例えば実開昭62-2586号「衝撃緩和材付きクレーン用フック」に見られる図5に示すクレーンのフック構造1のように、フック2の基部に連なるウェイト3の表面に衝撃緩和材4,5を加硫接着により固着し、フック2が揺れて何かに当たりそうになったときに、ウェイト3に固着した衝撃緩和材4,5がまず衝突するよう構成し、衝撃緩和を企図した提案がなされるに至った。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
しかし、上記従来の衝撃緩和材付きクレーン用フックに適用されたクレーンのフック構造1は、加硫接着によりフック2の表面に衝撃緩和材4,5を固着する構成であるため、例えばあらかじめ所定形状に成型された衝撃緩和材4,5を機械的に組み付けるのと異なり、特殊な接着工程が必要であり、従ってそれだけ製造コストも高くつき、また衝撃緩和材4,5が衝突時の衝撃でフックから脱落してしまったような場合は、その場で衝撃緩和材4,5を元の位置に取り付けるわけにいかず、復元作業は専門の業者によらねばならないだけに、再取り付けに日数とコストがかかるといった欠点があった。」(段落【0001】ないし【0004】)

b)「【0007】
本考案は、これらの点に鑑みてなされたものであり、フックに付属するウェイトに、その表面の一部又は全体を覆って緩衝体を着脱自在に嵌合させることにより、ウェイトが周囲に及ぼす損害を軽減するようにしたクレーンのフック構造を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本考案は、クレーンからワイヤにより吊り下げられるフックの近傍に設けられ、前記ワイヤに対して自重による張力を及ぼすウェイトと、このウェイトの表面に一部又は全体を覆って着脱可能に嵌合させた緩衝体とを具備することを特徴とする。
【0009】
【作用】
上記の構成に基づき、クレーンからワイヤにより吊り下げられるフックの近傍に、ワイヤに対して自重による張力を及ぼすウェイトを設け、このウェイトの表面に一部又は全体を覆って着脱可能に緩衝体を嵌合させることにより、障害物に接触したさいのウェイトの保護並びにウェイトが周囲に及ぼす損害を、安価にしかも確実に軽減する。」(段落【0007】ないし【0009】)

c)「【0010】
【実施例】
以下、本考案の実施例について、図1ないし図5を参照して説明する。図1は、本考案のクレーンのフック構造を適用した小型トラックの一実施例を示す斜視図、図2は、図1に示したクレーンのフック構造の一実施例を示す正面図、図3は、図2に示したクレーンのフック構造を分解して示す正面図である。
【0011】
図1に示す小型トラック1は、運転者と同乗者が搭乗するキャブ12と車両の半分以上を占める平坦な荷台13とを有しており、テールゲート14を荷台13の床面の延長上に引き倒すことにより、荷の積み降ろしができるようになっている。荷台13は、テールゲート14と左右のサイドパネル15,16により囲まれており、荷揚げ作業の邪魔にならないよう荷台13の隅にクレーン17が搭載してある。クレーン17は、アウタブーム17a内にインナブーム17bを伸縮自在に格納した構造であり、アウタブーム17aの基端部は荷台13の左サイドパネル15前方の隅の部分に立設されている。また、荷台13の右サイドパネル16前方の隅には、非使用時にクレーン17を保持させておくためのレスト装置18が立設されている。クレーン17の先端からは、図示のジェットスキーやその他の吊荷19を下げるためのフック20の付いたワイヤ21が垂れ下がっている。
【0012】
フック20は、図2,3に示したように、逆釣り鐘形のウェイト22を介してワイヤ21の先端に連結されており、実施例に示したクレーンのフック構造23は、ワイヤ21の先端をウェイト22の上側ピン24に連結し、さらにウェイト22の下側ピン25にフック20を連結するとともに、ウェイト22の外周に緩衝リング26,27を嵌合させて構成してある。ウェイト22には、上部外周面と中間部外周面の2箇所に半円形断面をもつ環状溝22aが形成してあり、これら2箇所の環状溝22aに緩衝体としてそれぞれ緩衝リング26,27が嵌め込まれる。緩衝リング26,27は、緩衝溝22aの底面の径と同じか望ましくはそれよりは若干小さな内径と、ウェイト22の外径よりもある程度大きな外径とを有する拡径が可能なゴムリング等から構成されるが、軟質塩化ビニールのリングや或いはゴムと塩化ビニールの合成リング等を用いて構成することもできる。緩衝リング26,27は、緩衝溝22aの外径よりも小さな内径をもったものが適しており、しかも多少拡径された状態で緩衝溝22aに密着するため、環状溝22a内に緊密に嵌合させることができ、そのときに一部外周がウェイト22の外周面から環状に突き出る。このため、緩衝リング26,27を装着したウェイト22は、最外周径が2個の緩衝リング26,27によって与えられることになり、2個の緩衝リング26,27が出っ張ることで、ウェイト22が直接何かを傷つけるといった事故が防止される。
【0013】
このように、上記クレーンのフック構造23は、クレーン17からワイヤ21により吊り下げられるフック20の近傍に設けられ、ワイヤ21に対して自重による張力を及ぼすウェイト22と、このウェイト22の表面に一部又は全体を覆って着脱可能に嵌合させた緩衝リング26,27とから構成したから、加硫接着により衝撃緩和材をウェイトに接着する従来のものと異なり、きわめて安いコストで製造でき、しかも仮に緩衝リング26,27が障害物に衝突して損傷を受けたとしても、緩衝リング26,27はウェイト22に対して着脱可能であるため、補充用に用意された緩衝リング26,27をその場でウェイト22に嵌合させることで、簡単に元どおりに復元することができる。また、ウェイト22は、外周に環状溝22aが形成してあり、緩衝リング26,27を環状溝22aに嵌合させただけであるため、ウェイト22の表面全体を緩衝体で覆うのではなく、ウェイト22の表面の一部を必要最小限の範囲で緩衝体で覆うことができ、従って非常に低コストの保護対策が可能である。
【0014】
なお、緩衝リング26,27は、素材自体の色を残すのではなく、特別に目を引くような色、例えば赤、黄、青、白といった色に着色することもでき、その場合にウェイト22の表面には二筋の線が巻かれて見えるため、日中の作業は勿論のこと、早朝や薄暮のクレーン作業においても、ウェイト22やフック20の視認性が高まり、これによりクレーン作業中の衝突事故を効果的に防止することができる。さらに、緩衝リング26,27に夜光塗料を塗布することにより、夜間のクレーン作業においてもウェイト22の視認性を高めることができる。
【0015】
また、ウェイト22の表面に嵌合する緩衝リング26,27の数は、2本に限定されず、1本でもよく、或いは3本以上でもよい。さらに、緩衝リング26,27は、ウェイト22の赤道面に平行に嵌合させる構成としたが、ウェイト22の赤道面にほぼ垂直に緩衝リング26,27を嵌合させるよう構成することもできる。
【0016】
なお、上記実施例では、ウェイト22の外周に嵌合する緩衝リング26,27により、ウェイト22の外周を環状に被覆する構成としたが、図4に示すクレーンのフック構造31のごとく、緩衝体を、環状溝22aに係合するリング状突起32aを内周に有する筒状の緩衝カバー32で構成してもよい。この実施例では、ウェイト22の全外周が緩衝カバー32により覆われるため、ウェイト22のどの部分が衝突しても緩衝作用があり、また緩衝カバー32を着色しておけば、緩衝カバー32全体が大きいだけに視認性を大幅に向上させることができる。
【0017】
さらにまた、上記実施例において、互いに嵌合するウェイト22と緩衝カバー32の凹凸関係を逆転させることもでき、その場合にウェイトの外周に形成したリング状の突起に、緩衝カバーの内周に穿設した環状溝を係合させることで、ウェイトに緩衝カバーを嵌合させることができる。」(段落【0010】及び【0017】)

イ 上記ア及び図面の記載から分かること
a)上記アc)及び図1ないし4の記載によれば、刊行物2には、フック20を吊り下げるワイヤ21が連結されるウェイト22、及びウェイト22の外周部を被覆する緩衝カバー32を備えたクレーン17のワイヤ21が連結される装置が開示されていることが分かる。

b)上記アc)(特に、段落【0016】及び【0017】)及び図4の記載によれば、クレーン17のワイヤ21が連結される装置において、ウェイト22には、リング状の突起が外周部に形成される一方、緩衝カバー32には、ウェイト22の外周部を被覆している状態でリング状の突起に係合する環状溝が内周部に穿設され、ウェイト22に緩衝カバー32を嵌合させることが分かる。

ウ 刊行物2に記載された発明
上記ア及びイを総合して、本願発明の表現にならって整理すると、刊行物2には、次の事項からなる発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認める。
「フック20を吊り下げるワイヤ21が連結されるウェイト22、及びウェイト22の外周部を被覆する緩衝カバー32を備えたクレーン17のワイヤ21が連結される装置において、ウェイト22には、リング状の突起が外周部に形成される一方、緩衝カバー32には、ウェイト22の外周部を被覆している状態でリング状の突起に係合する環状溝が内周部に穿設され、ウェイト22に緩衝カバー32を嵌合させるようにした発明。」


4.対比
そこで、本願発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。

・後者における「かご1及びかご枠2からなる乗かご」は前者における「昇降体」に相当し、以下同様に、「ロープ5」は「主索」に、「ソケット12」は「ソケット」に、「弾性体15」は「弾性被覆体」に、「ロープ5の通し孔」は「主索通し孔」に、「エレベータ装置のロープ保持装置」は「エレベータの主索固定装置」に、それぞれ相当する。

・後者における「ソケット12の最大径部分」は、刊行物1の第3図の記載からも分かるように、ロープ5とロッド9とを結んだ中心軸線に対して、径方向にみて頂部となるのであるから、前者における「ソケットの径方向頂部」に相当する。

・後者における「かご1及びかご枠2からなる乗かごを吊り下げるロープ5が接続されたソケット12」は、前者における「昇降体を吊り下げる主索が接続され、凸部がソケット側嵌合部として外周部に設けられたソケット」に、「昇降体を吊り下げる主索が接続されたソケット」という限りにおいて、相当する。

・後者における「上記ソケット12の外周部を被覆する弾性体15」は、前者における「上記ソケットの外周部を被覆し、上記ソケットの外周部を被覆している状態で上記ソケット側嵌合部に嵌る被覆体側嵌合部が内周部に形成される弾性被覆体」に、「ソケットの外周部を被覆する弾性被覆体」という限りにおいて、相当する。

したがって、両者は、
「昇降体を吊り下げる主索が接続されたソケット、及び
上記ソケットの外周部を被覆する弾性被覆体
を備え、
上記ソケットに設けられた主索通し孔の径方向断面積は、上記ソケットの先端部で最も小さく、上記ソケットの中間部に向かって連続的に大きくなっており、
上記ソケットの径方向頂部を含む中間部から上記ソケットの先端部までの部分のみを上記弾性被覆体が被覆しているエレベータの主索固定装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
昇降体を吊り下げる主索が接続されたソケット、及びソケットの外周部を被覆する弾性被覆体に関し、本願発明においては、「昇降体を吊り下げる主索が接続され、凸部がソケット側嵌合部として外周部に設けられたソケット、及び上記ソケットの外周部を被覆し、上記ソケットの外周部を被覆している状態で上記ソケット側嵌合部に嵌る被覆体側嵌合部が内周部に形成される弾性被覆体」であって、「上記ソケットに取り付けられたロッドの中心軸線から上記ソケット側嵌合部の突出端部までの距離が、上記ロッドの中心軸線から上記ソケットの径方向頂部までの距離よりも小さくなっている」のに対して、引用発明においては、「かご1及びかご枠2からなる乗かごを吊り下げるロープ5が接続されたソケット12、及び上記ソケット12の外周部を被覆する弾性体15」であるものの、ソケットにおいて、凸部がソケット側嵌合部として外周部に設けられるとともに、弾性被覆体において、ソケット側嵌合部に嵌る被覆体側嵌合部が内周部に形成され、ソケットに取り付けられたロッドの中心軸線からソケット側嵌合部の突出端部までの距離が、ロッドの中心軸線からソケットの径方向頂部までの距離よりも小さくなっているか否か明らかでない点。


5.判断
[相違点について]
引用発明と刊行物2に記載された発明とは、主索(ワイヤ)を用いて昇降部材を昇降させるものにおいて、主索(ワイヤ)と昇降部材とを接続する部分であって、他部材と接触するおそれがある部分に弾性体(緩衝体)を設け、他部材との接触により生じる問題を解決する点で軌を一にするものである。
そこで、相違点の検討に先立ち、刊行物2に記載された発明を本願発明の用語を用いて表現するために、本願発明と刊行物2に記載された発明(以下、「後者2」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者2における「フック20」は前者における「昇降体」に相当し、以下同様に、「ワイヤ21」は「主索」に、「連結」は「接続」に、「リング状の突起」は「凸部」に、「形成され」は「設けられ」に、「係合する」は「嵌る」に、「環状溝」は「被覆体側嵌合部」に、「穿設され」は「形成され」に、それぞれ相当する。
・後者2における「緩衝カバー32」は、刊行物2の段落【0016】の記載によれば、緩衝体であって、技術常識に照らせば、弾性を有することは明らかであるから、前者における「弾性被覆体」に相当する。
・後者2における「クレーン17のワイヤ21が連結される装置」は、前者における「エレベータの主索固定装置」に、「昇降体を昇降させる装置の主索が接続される装置」という限りにおいて、相当する。
・後者2における「ウェイト22」は、前者における「ソケット」に、「接続部材」という限りにおいて、相当する。
・後者2における「リング状の突起が外周部に形成され」は、リング状の突起は、ウェイト22側、すなわち、接続部材側の嵌合部を構成するから、前者における「凸部がソケット側嵌合部として外周部に設けられ」に、「凸部が接続部材側嵌合部として外周部に設けられ」という限りにおいて、相当する。
・後者2における「ウェイト22の外周部を被覆している状態でリング状の突起に係合する環状溝が内周部に穿設され」は、前者における「上記ソケットの外周部を被覆している状態で上記ソケット側嵌合部に嵌る被覆体側嵌合部が内周部に形成され」に、「接続部材の外周部を被覆している状態で接続部材側嵌合部に嵌る被覆体側嵌合部を内周部に形成され」という限りにおいて、相当する。
そうすると、刊行物2に記載された発明は、本願発明の用語で表現すると、次のとおりの技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)ということができる。
「昇降体を吊り下げる主索が接続された接続部材、及び接続部材の外周部を被覆する弾性被覆体を備えた昇降体を昇降させる装置の主索が接続される装置において、接続部材には、凸部が接続部材側嵌合部として外周部に設けられる一方、弾性被覆体には、接続部材の外周部を被覆している状態で接続部材側嵌合部に嵌る被覆体側嵌合部を内周部に形成され、弾性被覆体が接続部材に嵌合されるようにした技術。」
ここで、刊行物2に記載された技術は、「接続部材には、凸部が接続部材側嵌合部として外周部に設けられる一方、弾性被覆体には、接続部材の外周部を被覆している状態で接続部材側嵌合部に嵌る被覆体側嵌合部を内周部に形成され、弾性被覆体が接続部材に嵌合される」ことにより、弾性被覆体が接続部材から外れ難くなる作用効果を奏することが明らかである。

一方、引用発明において、乗りかご内の乗客に不安感をもたせるような音を発生しないようにするために設けられた弾性体15(弾性被覆体)が、ソケット12(ソケット)から外れないようにすることは、その機能を維持するために当然に考慮されるべきことであるから、それを可能とする刊行物2に記載された技術を引用発明において適用し、昇降体(かご1及びかご枠2からなる乗かご)を吊り下げるロープ5(主索)が接続され、凸部がソケット側嵌合部として外周部に設けられたソケット12(ソケット)、及びソケット12の外周部を被覆し、ソケット12の外周部を被覆している状態でソケット側嵌合部に嵌る被覆体側嵌合部が内周部に形成される弾性体15(弾性被覆体)を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ところで、本願発明において、「上記ソケットに取り付けられたロッドの中心軸線から上記ソケット側嵌合部の突出端部までの距離が、上記ロッドの中心軸線から上記ソケットの径方向頂部までの距離よりも小さくなっていること」について、明細書中の関連する段落【0020】の記載をみても、その技術的意義について説明する記載はなく、格別な技術的意義を認めることができない。
そして、引用発明において、刊行物2に記載された技術を適用して、ソケット側嵌合部としての凸部をソケット12の外周部に設けるとともに、被覆体側嵌合部を弾性体15の内周部に形成する際、複数のソケット12同士の衝突による音の発生を防止するために、ソケット12における最大径部分の寸法をできる限り小さくする必要があることは、当業者であれば当然に考慮することであるから、ソケット側嵌合部としての凸部を、ロープ5とロッド9とを結んだ中心軸線(ロッドの中心軸線)から径方向にみて、ソケット12の既存の最大径部分(ソケットの径方向頂部)より外側に出ないように設けること、すなわち、ソケットに取り付けられたロッドの中心軸線からソケット側嵌合部の突出端部までの距離が、ロッドの中心軸線からソケットの径方向頂部までの距離よりも小さくなるようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。
そうすると、引用発明において、刊行物2に記載された技術を適用し、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、本願発明において、ソケットの先端部の上下位置関係については特定されていないところ、仮に、本件出願の各図面に記載されているように、ソケットの先端部が下方に位置するものであると解釈するとしても、エレベータの主索固定装置において、ソケットの先端部が上方に位置するものは本件出願前に周知(必要であれば、実願昭57-95708号(実開昭59-2763号)のマイクロフィルムを参照。)であるとともに、ソケットの先端部が下方に位置するものも本件出願前に周知(必要であれば、本件出願の明細書において先行技術文献として示された、特開2006-143435号公報を参照。)であり、何れを採用するかは当業者が適宜選択する事項であるから、引用発明において、刊行物2に記載された技術を適用し、本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び刊行物2に記載された技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-28 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-16 
出願番号 特願2011-538157(P2011-538157)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 杏子藤村 聖子  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 佐々木 訓
槙原 進
発明の名称 エレベータの主索固定装置  
代理人 曾我 道治  
代理人 梶並 順  
代理人 大宅 一宏  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 上田 俊一  
代理人 飯野 智史  

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