• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1304006
審判番号 不服2014-12146  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-25 
確定日 2015-08-05 
事件の表示 特願2010-538626「過給直接噴射式燃焼機関の燃焼室」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月25日国際公開、WO2009/077493、平成23年 3月 3日国内公表、特表2011-506846〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年12月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年12月19日 フランス国)を国際出願日とする出願であって、平成22年6月21日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成22年8月6日に明細書、特許請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成24年10月18日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月11日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年7月12日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成25年9月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年3月19日付けで拒絶査定がされた。
これに対し、平成26年6月25日に拒絶査定不服の審判請求がされると同時に手続補正書が提出され、さらに平成26年9月18日に上申書が提出されたものである。


第2 平成26年6月25日付け手続補正についての補正の却下の決定
<補正の却下の決定の結論>
平成26年6月25日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

<理由>
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年9月26日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)の特許請求の範囲の請求項1の記載を、下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
シリンダ(1)の往復動軸C上で燃焼室に向かって開口する先端を有する燃料インジェクタを備える内燃機関用の、ピストン(3)であって、
当該ピストン(3)はスカート部(31)によって横方向に画成される本体を備え、前記スカート部(31)が前記シリンダ(1)の壁と協働することによって、前記シリンダ(1)内で、ピストン(3)が、前記シリンダ(1)の前記往復動軸Cに沿って摺動することができ、
前記ピストン(3)は上面に窪みを有し、前記ピストン(3)の上側部分の横断面部(32)は、前記窪みの底面中央に位置する中央突起部(321)と、前記窪みの内側の空間であり、往復動軸Bを中心とするボウル(323)と、前記ボウル(323)の側面、前記ピストン(3)の上面及び前記スカート部(31)によって画成される外周クラウンリング(322)と、を含み、
前記ボウル(323)の底面は前記中央突起部(321)から、側面は輪環面(3230)と唇状部(3220)から各々画成され、前記唇状部(3220)は前記ボウル(323)の前記往復動軸Bの方向に平行であり、前記方向にEpの長さを持ち、前記外周クラウンリング(322)の上面に接続され、前記輪環面(3230)は上端が前記唇状部(3220)に、下端は前記中央突起部(321)に各々接続される、前記外周クラウンリング(322)を外周方向にえぐる最大半径Rtの半ドーム状の形状を有し、これにより前記輪環面(3230)は、内曲ゾーンRの前記唇状部(3220)の下に噴射される燃料を前記中央突起部(321)に向けて誘導することができ、
前記中央突起部(321)のうち、前記ボウル(323)の前記往復動軸B上に位置する頂部は、前記ピストン(3)の上面よりも、5.4mm?8mmの範囲にあるか、または7.2mmに等しい距離Dtだけ低い高さまで隆起していること、
前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記唇状部(3220)との距離De/2と、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記輪環面(3230)との最大距離Db/2との差が、2mmに等しいこと、及び、
前記シリンダ(1)の前記往復動軸Cと、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bは、互いからずれていること
を特徴とする、ピストン(3)。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
シリンダ(1)の往復動軸C上で燃焼室に向かって開口する先端を有する燃料インジェクタを備える内燃機関用の、ピストン(3)であって、
当該ピストン(3)はスカート部(31)によって横方向に画成される本体を備え、前記スカート部(31)が前記シリンダ(1)の壁と協働することによって、前記シリンダ(1)内で、ピストン(3)が、前記シリンダ(1)の前記往復動軸Cに沿って摺動することができ、
前記ピストン(3)は上面に窪みを有し、前記ピストン(3)の上側部分の横断面部(32)は、前記窪みの底面中央に位置する中央突起部(321)と、前記窪みの内側の空間であり、往復動軸Bを中心とするボウル(323)と、前記ボウル(323)の側面、前記ピストン(3)の上面及び前記スカート部(31)によって画成される外周クラウンリング(322)と、を含み、
前記ボウル(323)の底面は前記中央突起部(321)から、側面は輪環面(3230)と唇状部(3220)から各々画成され、前記唇状部(3220)は前記ボウル(323)の前記往復動軸Bの方向に平行であり、前記方向にEpの長さを持ち、前記外周クラウンリング(322)の上面に接続され、前記輪環面(3230)は上端が前記唇状部(3220)に、下端は前記中央突起部(321)に各々接続される、前記外周クラウンリング(322)を外周方向にえぐる最大半径Rtの半ドーム状の形状を有し、これにより前記輪環面(3230)は、内曲ゾーンRの前記唇状部(3220)の下に噴射される燃料を前記中央突起部(321)に向けて誘導することができ、
前記中央突起部(321)のうち、前記ボウル(323)の前記往復動軸B上に位置する頂部は、前記ピストン(3)の上面よりも、5.4mm?8mmの範囲にあるか、または7.2mmに等しい距離Dtだけ低い高さまで隆起していること、
前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記唇状部(3220)との距離De/2と、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記輪環面(3230)との最大距離Db/2との差が、2mmに等しく、
距離Deは、49.6mm?51.5mmの範囲にあるか、50mmに等しく、
距離Dbは、53.8mm?55.4mmの範囲にあるか、54mmに等しく、及び、
前記シリンダ(1)の前記往復動軸Cと、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bは、互いからずれていること
を特徴とする、ピストン(3)。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、補正前の発明特定事項である「距離De」について、「距離Deは、49.6mm?51.5mmの範囲にあるか、50mmに等しく」する旨を限定し、さらに、補正前の発明特定事項である「距離Db」について、「距離Dbは、53.8mm?55.4mmの範囲にあるか、54mmに等しく」する旨を限定したものといえいる。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。) が、特許出願の際独立して特許を受けられるものかどうかを検討する。

(1)引用文献に記載された発明及び技術
(a-1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-236016号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。 なお、下線は、理解の一助とするため当審で付したものである。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、直噴式ディーゼルエンジンの燃焼室に関するものである。
【0002】
【従来の技術】本出願人は先に、スモーク低減が図れる直噴式ディーゼルエンジンの燃焼室を提案した(実開平4-116631号公報)。この燃焼室は、ピストン頂部のキャビティ側壁に曲線状にえぐられた窪み部を設けると共に、その窪み部から滑らかに接続する台形状の底部を設けて、窪み部及び底部の形状を適宜選択することで、側壁近傍の適切な位置に、吸入空気の乱れが強い部分を生じさせるものである。すなわちこの乱れの中心に向けて燃料を噴射することにより、燃料と空気との混合が促進され、良好な燃焼を得ることができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところでこの種の燃焼室においては、混合をより促進させるために、燃料噴霧とキャビティ壁面との衝突角度を、壁面に対してできるかぎり垂直に近いものとすることが好ましい。すなわち図6に示すように、燃料噴霧1の軸線2と壁面3の垂線4との角度θ_(1) が大きいと、衝突後の反射厚さT_(1) が小さくなるが(a)、噴口5の位置を下げて角度θ_(2) を小さくすると、反射厚さT_(2) が大きくなり、その燃料噴霧1の体積が大きくなる。同一燃料で噴霧体積が大きいということは、燃料稀薄の状態になることであり、キャビティ内における良好な空気混合につながるものである。
【0004】しかしながら図4(b)に示したように噴口5の位置を下げると、燃料噴霧1が底部傾斜面に近づき過ぎ、壁面3に到達するまで過程における空気導入が困難になってしまう。すなわち良好な燃料噴霧1が得られず、混合促進が妨げられるという課題が生じる。この対策として、底部傾斜面を削って燃料噴霧1との距離を確保することが考えられるが、その削減分だけ圧縮比が下がるので、キャビティの他の箇所にその体積を盛らなければならない。例えば側壁に盛り込むとすれば、燃焼室の空気流動性能低下、或いはキャビティ縮径によるHCの悪化等をひきおこすおそれがある。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決すべく本発明は、燃料噴霧が吹き付けられるキャビティ側壁に、その側壁上端よりも所定高さだけ下方の位置から下端に至るまで径方向外方に曲線状にえぐられた窪み部を設け、キャビティ底壁に窪み部から滑らかに接続する傾斜面を有した台形状の底部を設けると共に、底部の傾斜面のうち、燃料噴霧の下方位置に、その噴霧軸線に沿う凹溝を形成したものである。この構成によって、キャビティ内の空気流動機能を損なうことなく、燃料噴霧の空気導入が改善でき、スモーク,HCが低減された良好な燃焼が得られる。上記凹溝は、キャビティ側壁に向かうに従って拡幅するように形成されたものであることが好ましい。また凹溝間に位置する傾斜面は、キャビティ中心側においてその両側の凹溝が滑らかに連なる曲線部を有したものであることが好ましい。」(段落【0001】ないし【0005】)

イ.「【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を添付図面に従って説明する。
【0007】図1及び図2は、本発明に係わる直噴式ディーゼルエンジンの燃焼室の第一の実施の形態を示したものである。この燃焼室は、ピストン頂部に形成される短円柱形状の基本キャビティの側壁21及び底壁23のそれぞれに、径方向外方に曲線状にえぐられた窪み部22と、台形状(円錐台状)の底部24とが設けられて構成されている。そして底部24の傾斜面28のうち、燃料噴霧12の下方位置にのみ、その噴霧軸線Qに沿う凹溝13が形成されている。
【0008】窪み部22は、側壁上端25よりも所定高さAだけ下方の位置から燃焼室下端26となる位置まで形成され、その縦断面が略半円形の曲面を以て形成されている。そしてキャビティ側壁21のうち、窪み部22の上方に残された部分に相当する側壁垂直部27は、その深さ(高さA)が燃焼室深さHの1/6 になるように形成されている。すなわち燃焼室深さHが24mmであれば、A=4mm になるように形成されている。また底部24は、窪み部22から滑らかに接続する傾斜面28と、軸心3の位置を中心にした平坦面14とで成る。傾斜面28の水平(キャビティ底壁23)からの角度αは、例えば約25度とする。平坦面14は、ピストン上面11からの深さhが燃焼室深さHの約1/2 となるように形成されている。すなわち燃焼室深さHが24mmであれば、h=約12mmになるように形成されている。これら窪み部22及び底部24の形状は、吸入空気の乱れ、スモーク発生テスト(シミュレーション)の結果を考慮して設定されたものである。すなわち強い空気の乱れの中心が、側壁垂直部27及び窪み部22の内側近傍で、且つ側壁上端25よりも下方に位置されて、燃料噴霧12の噴霧軸線Qが貫通するように選択されている。このほかのキャビティ寸法は、圧縮比などによって適宜設定されており、燃焼室径Dcはピストン外径との比で例えば0.65、側壁垂直部27の径方向の突出長さBは燃焼室径Dcの0.05程度とすることができる。
【0009】一方燃料噴射ノズル(図示せず)の噴口15の位置は、噴射時期においてピストン上面11よりも下方に突き出すように形成されている。この燃料噴射は、燃料粒径が小さくなるように高圧でなされ、その噴霧角度が約20度になるように形成されている。そして側壁垂直部27及び窪み部22に到達したときの燃料噴霧12の広がりが、側壁上端25の位置を0 に、燃焼室下端26の位置を1 としたときに、燃焼室全高(深さ)Hに対して、その1/8 から3/4 程度の位置範囲となるように形成されている。また噴口15の周方向位置(噴口割角)は、図2に示したように、燃料噴霧12が互いに60度の角度を隔てて放射状になるように、等間隔に六個配置されている。なお図2においては、二個の噴口15と、その噴霧軸線Q、及びそれに対応する凹溝13のみを示している。また噴口の数としては六個に限るものではなく、噴射圧力、スワール(旋回速度)、過給等の条件により最適な個数を選択すべきものであり、例えば八個の噴口を設けるものとしてよい。そしてこれら噴口は互いに等角度で配置されることが望ましい。
【0010】そして凹溝13は、平面でみて、平坦面14の周縁箇所を底辺とし燃焼室下端26の位置を頂点とした三角形の切欠溝として形成されている。各凹溝13は、平坦面周縁の位置で互いに接しており、平坦面14の平面視形状は、基本形状(円錐台)の上面円16に内接する正六角形となっている。なおこの平面視形状は噴口数に等しい多角形とすることが望ましく、例えば噴口数が八個であれば、正八角形とする。また凹溝13の深さは、図3にも示すように、平坦面14の位置において最大で、窪み部22に達した位置では0 となるように、径方向外方へ行くに従って単調に減じられている。すなわち凹溝の底面17と燃料噴霧12の下限18とが略平行になるように形成されている。
【0011】この構成により、図3に示したように、噴口15から噴射された燃料は、凹溝13に存在する空気aを取り込んで良好な燃料噴霧12となり、側壁垂直部27及び窪み部22に向かう。そして壁面に対して垂直に近い角度で衝突して、反射厚さ(T)が大きい稀薄な状態となる。すなわち空気導入が適切になされると共に、衝突直後における燃料と空気との混合が促進される。また凹溝13は、底部24の傾斜面28のうち噴霧軸線Qに沿う必要最少限の箇所に形成されているものであり、底部24における空気流動の機能を損なうことがない。そして凹溝13の切欠体積は、底部24の全体を掘り下げる場合に比べて小さなものであり、圧縮比を合わせるために側壁垂直部27及び窪み部22を大幅に盛る必要がない。従って、切欠体積に相当する盛り込みを側壁全周に亘って行えば、キャビティ径の縮み代は極めて少なくなり、空気流動機能が損なわれたり、径縮小によるHCへの悪影響が生じることがない。
【0012】また本実施の形態においては、窪み部22及び底部24を燃焼室深さHに対して所定の比率となるように選択形成したので、燃料噴霧12がキャビティ外に流出するのを防止でき、吸入空気を有効に利用することができると共に、側壁近傍の適切な位置に吸入空気の乱れの中心を生じさせることができ、この中心に燃料噴霧12の中心(Q)を当てることができ、燃料と空気の混合が促進されて、スモークの低減が達成される。
【0013】なお本発明に対比すべき従来技術として、キャビティ内の隆起部の頂面に溝を形成したもの(特開昭50-13706号公報、特開昭63-198720号公報)がある。ただしこれらは、燃料噴射ノズル近傍の低スワール領域における中途半端な空気導入を抑制するためのものである。これに対して本発明の凹溝13は、燃料噴射ノズル近傍において積極的に空気導入を図るためのものである。この相違は、前記従来技術が適用される噴射圧に比べて、本発明が適用されるディーゼルエンジンの噴射圧は高圧と想定していることに起因する。すなわち低圧噴射では、噴霧の燃料粒径が比較的大きいため、スワールの活発な領域(キャビティ外側)で空気導入を図らないと不完全燃焼を起こしてしまうので、空気導入抑制用の溝が必要となるが、高圧噴射では噴霧の燃料粒径が小であるので、低スワール領域(キャビティ中心側)であっても、ある程度の空気導入が可能である。このことを考慮して本発明では、燃料噴射ノズル近傍の位置から積極的に空気導入を図って、理想的な噴霧及び空気混合を達成するものである。」(段落【0006】ないし【0013】)

(a-2)ここで、上記(a-1)のア.及びイ.並びに図面から、次のことが分かる。

カ.上記ア.及びイ.の段落【0006】ないし【0009】並びに【図1】ないし【図3】の記載から、引用文献1に記載されたディーゼルエンジンは、軸を有するシリンダ(引用文献1に用語としては、記載されていない。)を備えていることは明らかであるので、引用文献1には、シリンダの軸上で燃焼室に向かって噴口15を有する燃料噴射ノズルを備えるディーゼルエンジン用の、ピストンが記載されていることが分かる。

キ.上記イ.の段落【0006】ないし【0009】並びに【図1】ないし【図3】の記載と上記カ.をあわせてみると、引用文献1に記載されたピストンは、スカート部(引用文献1に用語としては、記載されていない。)を備えていることは明らかであるので、当該ピストンはスカート部によって横方向に画成される本体を備え、スカート部がシリンダの壁と協働することによって、シリンダ内で、ピストンが、シリンダの軸に沿って摺動することができることが分かる。

ク.上記イ.の段落【0006】ないし【0009】並びに【図1】ないし【図3】の記載を上記カ.及びキ.とあわせてみると、引用文献1に記載されたピストンは、外周クラウンリング(引用文献1に用語としては、記載されていない。)を備えていることは明らかであるので、ピストンは上面にキャビティを有し、ピストンの上側部分の横断面部は、キャビティの底面中央に位置する底部24と、キャビティの内側の空間であり、軸心3を中心とする燃焼室と、燃焼室の側面、ピストンの上面及びスカート部によって画成される外周クラウンリングと、を含むことが分かる。

ケ.上記イ.の段落【0006】ないし【0009】並びに【図1】ないし【図3】の記載を上記カ.ないしク.とあわせてみると、燃焼室の底面は底部24から、側面は窪み部22と側壁垂直部27から各々画成され、側壁垂直部27は燃焼室の軸心3の方向に平行であり、前記方向に高さAを持ち、外周クラウンリングの上面に接続され、窪み部22は上端が側壁垂直部27に、下端は底部24に各々接続される、外周クラウンリングを外周方向にえぐる略半円形の形状を有していることが分かる。
さらに、上記ア.の段落【0003】及びイ.段落【0011】並びに【図1】ないし【図3】及び【図6】の記載から、窪み部22は、窪み部22の上部の側壁垂直部27の下に噴射される燃料を底部24に向けて誘導していることは明らかである。

コ.上記イ.の段落【0006】ないし【0009】並びに【図1】ないし【図3】の記載を上記カ.ないしケ.とあわせてみると、燃焼室径がDcで、側壁垂直部27の径方向の突出長さはBであるので、燃焼室の軸心3と側壁垂直部27との距離はDc/2-Bとなり、燃焼室の軸心3と窪み部22との距離はDc/2であることは明らかであるので、底部24のうち、燃焼室の軸心3上に位置する頂部は、ピストンの上面よりも、深さhだけ低い高さまで隆起していること、燃焼室の軸心3と側壁垂直部27との距離Dc/2-Bと、燃焼室の軸心3と窪み部22との距離Dc/2との差が、側壁垂直部27の径方向の突出長さBであり、燃焼室径Dcから両側の側壁垂直部27の径方向の突出長さBを除く距離が距離Dc-2B、燃焼室径がDcであることが分かる。

(a-3)上記(a-1)及び(a-2)より、引用文献1には、次の発明が記載されている。

「シリンダの軸上で燃焼室に向かって噴口15を有する燃料噴射ノズルを備えるディーゼルエンジン用の、ピストンであって、
当該ピストンはスカート部によって横方向に画成される本体を備え、スカート部がシリンダの壁と協働することによって、シリンダ内で、ピストンが、シリンダの軸に沿って摺動することができ、
ピストンは上面にキャビティを有し、ピストンの上側部分の横断面部は、キャビティの底面中央に位置する底部24と、キャビティの内側の空間であり、軸心3を中心とする燃焼室と、燃焼室の側面、ピストンの上面及びスカート部によって画成される外周クラウンリングと、を含み、
燃焼室の底面は底部24から、側面は窪み部22と側壁垂直部27から各々画成され、側壁垂直部27は燃焼室の軸心3の方向に平行であり、前記方向に高さAを持ち、外周クラウンリングの上面に接続され、窪み部22は上端が側壁垂直部27に、下端は底部24に各々接続される、外周クラウンリングを外周方向にえぐる略半円形の形状を有し、これにより窪み部22は、窪み部22の上部の側壁垂直部27の下に噴射される燃料を底部24に向けて誘導することができ、
底部24のうち、燃焼室の軸心3上に位置する頂部は、ピストンの上面よりも、深さhだけ低い高さまで隆起していること、
燃焼室の軸心3と側壁垂直部27との距離Dc/2-Bと、燃焼室の軸心3と窪み部22との距離Dc/2との差が、側壁垂直部27の径方向の突出長さBであり、
燃焼室径Dcから両側の側壁垂直部27の径方向の突出長さBを除く距離が距離Dc-2B、燃焼室径がDcである
ピストン。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

(b-1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-217626号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある。

サ.「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。図1及び図2は請求項1に記載の発明に係る直接噴射式4バルブディーゼルエンジンの一実施形態を示すものである。1はシリンダ、2はシリンダ1内を往復動するピストン、3はシリンダ1の上部に固定されたシリンダヘッド、4は燃焼室である。燃焼室4はピストン2が上死点にあるときのシリンダ1の内周壁とシリンダヘッド3とピストン2の頭部とで囲まれた部屋である。
【0010】シリンダヘッド3には図2に示すように、一対の吸気バルブ5と一対の排気バルブ6とが設けられている。これら4つの吸気バルブ5と排気バルブ6とは燃焼室4の軸線Yを中心とする円周上に90゜の角度をおいてほぼ等間隔に配列されている。7は燃焼室4内に燃料を噴射する燃料噴射ノズルで、その軸線Xはシリンダヘッド3の下面に対して垂直になっている。この燃料噴射ノズル7の位置であるが、これは燃焼室4の軸線Yからオフセットした位置に設定されている。
【0011】このように燃料噴射ノズル7の位置を、燃焼室4の軸線Yからオフセットさせるのは次の理由による。すなわち、図3に示すように、ピストン2の上死点付近におけるスワールの速度Vは、燃焼室4の軸線Yから半径方向に遠ざかるにつれ軸線Yからの距離に比例して大きくなる特性を有している。また、空気の密度は、燃焼室4の内周側よりも外周側の方が大きい。
【0012】したがって、燃料噴射ノズル7が燃焼室4の軸線Yからオフセットされていると、燃料噴射ノズル7付近のスワールアシストが大きくかつ空気密度も大であることから、アイドル時又は軽負荷時において、燃料噴射ノズル7の噴射圧が低く、着火が燃料噴射ノズル7の近傍で発生する場合でも噴霧と空気とのミキシングが促進されるからである。
【0013】ただし、燃料噴射ノズル7の位置が燃焼室4の軸線Yからあまりに離れていると、燃焼ムラが生じ燃焼が遅くなって全負荷時の性能が確保されないことから、燃料噴射ノズル7の設定位置は次式で表される領域内にあることが好ましい。
20%≧l/L×100 (1)
ここに、lは燃料噴射ノズル7のオフセットの量、Lは燃焼室4の直径を表す。
【0014】上記においては、燃料噴射ノズル7の位置を移動させて燃焼室4の中心からオフセットさせた例について述べたが、これに限らず図4に示すように、燃焼室4の軸線Yを移動させて燃料噴射ノズル7からオフセットさせても上記と同様の作用効果が得られる。次に本実施形態の作用について説明する。
【0015】アイドル時又は軽負荷時において、燃料噴射ノズル7からの噴射圧が低い場合、着火は燃料噴射ノズル7の噴孔近傍で発生する。いま、仮に燃料噴射ノズル7が燃焼室4の中心に位置するとなると、燃焼室4の中心ではスワールアシストが弱くかつ空気密度も小さいため、噴霧と空気とのミクシングが不良となる。しかし、本実施形態では、燃料噴射ノズル7は燃焼室4の中心からオフセットしているので、着火発生位置ではスワールアシストが強くかつ空気密度も大であるため、噴霧と空気とのミクシングが促進される。
【0016】また、図4に示すように、燃焼室4の軸線Yが燃料噴射ノズル7からオフセットしている場合にも上記と同一の作用効果が得られる。上述のように、燃料噴射ノズル7が燃焼室4の軸線Yからオフセットしていると燃焼ムラが生ずることがあることから、4バルブディーゼルエンジンでは、燃料噴射ノズル7は燃焼室4の中心に位置することが望ましいと言える。
【0017】しかし、本実施形態のように、燃料噴射ノズル7の設定位置が(1)式で示される領域内であれば、燃焼ムラはそれほど大きくないため、燃料噴射ノズル7をオフセットさせても燃焼速度をそれほど遅らせることにはならず、全負荷時の性能確保という観点からは別段の支障は生じない。
【0018】以上のように、本実施形態では、燃料噴射ノズル7と燃焼室4とのいずれか一方を他方からオフセットさせるので、アイドル時及び軽負荷時に噴霧と空気のミクシングが促進され、排気ガス中における白煙や黒煙の発生が抑制される。ちなみに、実開平5-19526号公報に記載されているように、直接噴射式2バルブディーゼルエンジンでは燃料噴射ノズルを燃焼室の中心から偏心させることは通常に行われている。
【0019】
【発明の効果】請求項1に記載の発明では、アイドル時及び軽負荷時に噴霧と空気のミクシングが促進されるため、空気不足による不完全燃焼に起因する排気ガス中における白煙や黒煙の発生が抑制される。」(段落【0009】ないし【0019】)

(b-2)ここで、上記(b-1)サ.及び図面から、次のことが分かる。

タ.上記サ.の段落【0014】ないし【0016】及び【図4】の記載から、燃料噴射ノズルの軸線Xと、燃焼室の軸線Yは、互いからオフセットしていることが分かる。

(b-3)上記(b-1)及び(b-2)より、引用文献2には、次の技術が記載されている。

「燃料噴射ノズルの軸線Xと、燃焼室の軸線Yは、互いからオフセットしている技術。」(以下、「引用文献2記載の技術」という。)

(2)対比
本願補正発明と引用文献1記載の発明を対比する。
引用文献1記載の発明における「シリンダ」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願補正発明における「シリンダ(1)」に相当し、以下同様に、「軸」は「往復動軸C」に、「燃焼室」は「燃焼室」及び「ボウル(323)」に、「噴口15」は「開口する先端」に、「燃料噴射ノズル」は「燃料インジェクタ」に、「ディーゼルエンジン」は「内燃機関」に、「ピストン」は「ピストン(3)」に、「スカート部」は「スカート部(31)」に、「キャビティ」は「窪み」に、「底部24」は「中央突起部(321)」に、「軸心3」は「往復動軸B」に、「外周クラウンリング」は「外周クラウンリング(322)」に、「窪み部22」は「輪環面(3230)」に、「側壁垂直部27」は「唇状部(3220)」に、「高さA」は「Epの長さ」に、「略半円形」は「最大半径Rtの半ドーム状」に、「窪み部22の上部」は「内曲ゾーンR」に、「距離Dc/2-B」は「距離De/2」に、「距離Dc/2」は「最大距離Db/2」に、「燃焼室径Dcから両側の側壁垂直部27の径方向の突出長さBを除く距離が距離Dc-2B」は「距離De」に、「燃焼室径がDc」は「距離Db」に、それぞれ相当する。

また、引用文献1記載の発明における「底部24のうち、燃焼室の軸心3上に位置する頂部は、ピストンの上面よりも、深さhだけ低い高さまで隆起していること、燃焼室の軸心3と側壁垂直部27との距離Dc/2-Bと、燃焼室の軸心3と窪み部22との距離Dc/2との差が、側壁垂直部27の径方向の突出長さBであり、燃焼室径Dcから両側の側壁垂直部27の径方向の突出長さBを除く距離が距離Dc-2B、燃焼室径がDcである」と、本願補正発明における「前記中央突起部(321)のうち、前記ボウル(323)の前記往復動軸B上に位置する頂部は、前記ピストン(3)の上面よりも、5.4mm?8mmの範囲にあるか、または7.2mmに等しい距離Dtだけ低い高さまで隆起していること、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記唇状部(3220)との距離De/2と、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記輪環面(3230)との最大距離Db/2との差が、2mmに等しく、距離Deは、49.6mm?51.5mmの範囲にあるか、50mmに等しく、距離Dbは、53.8mm?55.4mmの範囲にあるか、54mmに等しく」は、「前記中央突起部(321)のうち、前記ボウル(323)の前記往復動軸B上に位置する頂部は、前記ピストン(3)の上面よりも、距離Dtだけ低い高さまで隆起していること、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記唇状部(3220)との距離De/2と、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記輪環面(3230)との最大距離Db/2との差があり、距離De、距離Dbを有する」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「 シリンダ(1)の往復動軸C上で燃焼室に向かって開口する先端を有する燃料インジェクタを備える内燃機関用の、ピストン(3)であって、
当該ピストン(3)はスカート部(31)によって横方向に画成される本体を備え、前記スカート部(31)が前記シリンダ(1)の壁と協働することによって、前記シリンダ(1)内で、ピストン(3)が、前記シリンダ(1)の前記往復動軸Cに沿って摺動することができ、
前記ピストン(3)は上面に窪みを有し、前記ピストン(3)の上側部分の横断面部(32)は、前記窪みの底面中央に位置する中央突起部(321)と、前記窪みの内側の空間であり、往復動軸Bを中心とするボウル(323)と、前記ボウル(323)の側面、前記ピストン(3)の上面及び前記スカート部(31)によって画成される外周クラウンリング(322)と、を含み、
前記ボウル(323)の底面は前記中央突起部(321)から、側面は輪環面(3230)と唇状部(3220)から各々画成され、前記唇状部(3220)は前記ボウル(323)の前記往復動軸Bの方向に平行であり、前記方向にEpの長さを持ち、前記外周クラウンリング(322)の上面に接続され、前記輪環面(3230)は上端が前記唇状部(3220)に、下端は前記中央突起部(321)に各々接続される、前記外周クラウンリング(322)を外周方向にえぐる最大半径Rtの半ドーム状の形状を有し、これにより前記輪環面(3230)は、内曲ゾーンRの前記唇状部(3220)の下に噴射される燃料を前記中央突起部(321)に向けて誘導することができ、
前記中央突起部(321)のうち、前記ボウル(323)の前記往復動軸B上に位置する頂部は、前記ピストン(3)の上面よりも、距離Dtだけ低い高さまで隆起していること、
前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記唇状部(3220)との距離De/2と、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記輪環面(3230)との最大距離Db/2との差があり、
距離De、距離Dbを有する
ピストン(3)。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
「前記中央突起部(321)のうち、前記ボウル(323)の前記往復動軸B上に位置する頂部は、前記ピストン(3)の上面よりも、距離Dtだけ低い高さまで隆起していること、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記唇状部(3220)との距離De/2と、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記輪環面(3230)との最大距離Db/2との差があり、距離De、距離Dbを有する」に関して、本願補正発明においては、「前記中央突起部(321)のうち、前記ボウル(323)の前記往復動軸B上に位置する頂部は、前記ピストン(3)の上面よりも、5.4mm?8mmの範囲にあるか、または7.2mmに等しい距離Dtだけ低い高さまで隆起していること、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記唇状部(3220)との距離De/2と、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bと前記輪環面(3230)との最大距離Db/2との差が、2mmに等しく、距離Deは、49.6mm?51.5mmの範囲にあるか、50mmに等しく、距離Dbは、53.8mm?55.4mmの範囲にあるか、54mmに等し」いのに対して、引用文献1記載の発明においては、「底部24のうち、燃焼室の軸心3上に位置する頂部は、ピストンの上面よりも、深さhだけ低い高さまで隆起していること、燃焼室の軸心3と側壁垂直部27との距離Dc/2-Bと、燃焼室の軸心3と窪み部22との距離Dc/2との差が、側壁垂直部27の径方向の突出長さBであり、燃焼室径Dcから両側の側壁垂直部27の径方向の突出長さBを除く距離が距離Dc-2B、燃焼室径がDcである」ところ、本願補正発明のような具体的な数値限定がない点(以下、「相違点1」という。)。

本願補正発明においては、「前記シリンダ(1)の前記往復動軸Cと、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bは、互いからずれている」のに対して、引用文献1記載の発明においては、互いからずれているか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

(3)相違点1及び2についての判断
そこで、上記各相違点1及び2について、以下に検討する。

・相違点1について
一般に、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮というべきであるから、公知技術に対して数値限定を加えることにより、特許を受けようとする発明が進歩性を有するというためには、当該数値範囲を選択することが当業者に容易であったとはいえないことが必要であり、これを基礎付ける事情として、当該数値範囲に臨界的意義があることが明細書に記載され、当該数値限定の技術的意義が明細書上明確にされていなければならないものと解するのが相当である。
一方、本願明細書及び図面を検討しても、本願補正発明のように「5.4mm?8mmの範囲にあるか、または7.2mmに等しい距離Dt」、「距離De/2と、・・・最大距離Db/2との差が、2mmに等しく」及び「距離Deは、49.6mm?51.5mmの範囲にあるか、50mmに等しく、距離Dbは、53.8mm?55.4mmの範囲にあるか、54mmに等しく」と限定した数値範囲の臨界的意義が明らかにされているとは認められない。
ところで、引用文献1の段落【0005】に記載されているように、「燃料噴霧が吹き付けられるキャビティ側壁に、その側壁上端よりも所定高さだけ下方の位置から下端に至るまで径方向外方に曲線状にえぐられた窪み部を設け、キャビティ底壁に窪み部から滑らかに接続する傾斜面を有した台形状の底部を設けると共に、底部の傾斜面のうち、燃料噴霧の下方位置に、その噴霧軸線に沿う凹溝を形成したものである」という燃焼室の形状によって、「キャビティ内の空気流動機能を損なうことなく、燃料噴霧の空気導入が改善でき、スモーク,HCが低減された良好な燃焼が得られる」のであるから、引用文献1記載の発明は、本願補正発明と同様の効果を奏するものであることが分かる。
してみると、引用文献1記載の発明における「深さh(本件補正発明における「距離Dt」に相当する。)」、「距離Dc/2-Bと、距離Dc/2との差(本件補正発明における「距離De/2と、最大距離Db/2との差」に相当する。)」、「距離Dc-2B(本件補正発明における「距離De」に相当する。)」及び「燃焼室径Dc(本件補正発明における「距離Db」に相当する。)」については、前述の効果等を考慮して、当業者が適宜設定しうるものであるから、引用文献1に記載された発明に基づいて上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易になしえたことである。
なお、本願補正発明において、「距離Deは、49.6mm?51.5mmの範囲にあるか、50mmに等しく」という範囲に含まれているDe=49.6mm以上、49.8mm未満の範囲において、「De/2とDb/2との差が2mmに等しく」という条件を満たすようなDbが、「Dbは、53.8mm?55.4mmの範囲にあるか、54mmに等しく」という範囲に存在しない。このことからも、このような数値限定に臨界的意義が存在しないことは明らかである。

・相違点2について
本願補正発明の「前記シリンダ(1)の前記往復動軸Cと、前記ボウル(323)の前記往復動軸Bは、互いからずれている」という発明特定事項は、本願明細書の段落【0019】の「燃料インジェクタ7はシリンダヘッド2に取り付けられ、シリンダ1の往復動軸Cにほぼ沿って燃焼室に臨むように開口される。」という記載からみて、「燃料インジェクタの軸と、ボウルの往復動軸Bは、互いからずれている」と解することができる。
ここで、本願補正発明と引用文献2記載の技術を対比すると、引用文献2記載の技術における「燃料噴射ノズルの軸線X」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願補正発明の「前記シリンダ(1)の前記往復動軸C」に相当し、以下同様に、「燃焼室の軸線Y」は「前記ボウル(323)の前記往復動軸B」に、「互いからオフセットしている」は「互いからずれている」に、それぞれ相当し、引用文献2記載の技術を本願補正発明の用語で表現すると、「前記シリンダの前記往復動軸Cと、前記ボウルの前記往復動軸Bは、互いからずれている技術。」ということできる。
してみると、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術は、いずれも、直接噴射式のディーゼルエンジンという共通の技術分野に属するものであるので、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の技術を適用して、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易になしえたことである。

そして、本願補正発明が、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術からは予想しえない格別の効果を奏するものとも認められない。

2-3 むすび
したがって、本願補正発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記<補正の却下の決定の結論>のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成25年9月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 <理由>1(1)」のとおりである。

2 引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由で引用した本願の優先日前に日本国内において、頒布された特開平9-236016号公報(以下、上記「第2<理由>2 2-2(1)(a-1)と同様に「引用文献1」という。)には、上記「第2<理由>2 2-2(1)(a-1)」のとおりの記載があり、該記載及び図面から、上記「第2<理由>2 2-2(1)(a-2)」のとおりのことが分かる。
そして、引用文献1には、上記「第2<理由>2 2-2(1)(a-3)」のとおりの発明(以下、上記「第2<理由>2 2-2(1)(a-3)と同様に「引用文献1記載の発明」という。)が記載されていると認める。
さらに、原査定の拒絶の理由で引用した本願の優先日前に日本国内において、頒布された特開平9-217626号公報以下、上記「第2<理由>2 2-2(1)(b-1)と同様に「引用文献2」という。)には、上記「第2<理由>2 2-2(1)(b-1)」のとおりの記載があり、該記載及び図面から、上記「第2<理由>2 2-2(1)(b-2)」のとおりのことが分かる。
そして、引用文献2には、上記「第2<理由>2 2-2(1)(b-3)」のとおりの技術(以下、上記「第2<理由>2 2-2(1)(b-3)と同様に「引用文献2記載の技術」という。)が記載されていると認める。

3 対比・判断
上記「第2<理由>2 2-1」で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明が、上記「第2<理由>2 2-2(2)及び(3)」のとおり、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-05 
結審通知日 2015-03-10 
審決日 2015-03-23 
出願番号 特願2010-538626(P2010-538626)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02B)
P 1 8・ 575- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 由希子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 林 茂樹
金澤 俊郎
発明の名称 過給直接噴射式燃焼機関の燃焼室  
代理人 園田 吉隆  
代理人 小林 義教  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ