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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) H04M
管理番号 1304015
判定請求番号 判定2014-600050  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2015-09-25 
種別 判定 
判定請求日 2014-10-23 
確定日 2015-07-31 
事件の表示 上記当事者間の特許第4357175号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「実時間対話型コンテンツを無線交信ネットワーク及びインターネット上に形成及び分配する方法及び装置」は,特許第4357175号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
本件判定請求の趣旨は,平成27年2月20日付けの審尋に対する回答書(1)によれば,イ号物件説明書に示す「Galaxy S5(型番SC04F)」(以下,「イ号物件」という。)は,特許第4357175号の請求項1に係る特許発明(以下,「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する,との判定を求めるものである。

また,本件に係る手続の経緯は,以下のとおりである。
平成14年 5月13日 本件特許に係る特許出願(国際出願)
平成21年 7月17日 特許査定
平成21年 8月14日 本件特許登録
平成26年10月23日 本件判定請求
平成26年11月13日 手続補正書
平成26年12月 5日 却下理由通知書,審尋
平成26年12月18日 弁明書(請求人)
平成27年 1月27日 手続却下の決定
平成27年 2月20日 審尋に対する回答書(1)(請求人)
平成27年 3月 5日 審尋に対する回答書(2)(請求人)
平成27年 4月24日 上申書(被請求人)
平成27年 5月11日 答弁書に代わる上申書(被請求人)



第2 本件特許発明
本件特許発明は,特許明細書の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
A ハンドヘルド装置を使用する方法であり,そのハンドヘルド装置は,操作者へ出力を提示する可視的ラスター・ディスプレイを含む少なくとも1つの出力デバイスと,操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む少なくとも1つの入力デバイスと,無線トランスミッタと,これら少なくとも1つの出力デバイス,前記少なくとも1つの入力デバイス及び前記無線トランスミッタの動作を制御する処理回路とを含み,前記方法は,
B 前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,その操作に関する情報を前記ディスプレイを通じて表示する段階と,
C 前記少なくとも1つの出力デバイスを通じて操作者へ,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバー又は(b)取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる第1のコンテンツの表現を提示する段階と,
D 操作者により調節された時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なり,且つ第1のコンテンツの形式とは同一又は異なる形式である第2のコンテンツと,少なくとも1つの受信者の識別子とを前記少なくとも1つの入力デバイスを通じて与える段階と,
E 前記無線トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーに対して,第1のコンテンツの表現を送らずに,第2のコンテンツの表現と少なくとも1人の受信者の識別子とを送る段階と,
F 第1のコンテンツの識別子と前記操作者により調節された時間的関係の指標とを前記遠隔サーバーに記憶させると共に,この遠隔サーバーが,前記記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも1人の受信者が受信するように,当該メッセージを送信する段階とを含む方法。」(以下,「本件特許発明1」という。)

「A」?「F」の符号は,分説のために請求人が付した記号であるが,便宜上そのままこれを利用する。なお,判定請求書及びイ号物件説明書における「本発明1」の記載は,特許請求の範囲の記載のとおりのものではないため,分説は特許請求の範囲の記載に対応するものとした。



第3 イ号物件
平成27年2月20日付けの審尋に対する回答書(1)によれば,請求の趣旨欄の「Galaxy S」は,製品名:Galaxy S5,型番SC04Fとして特定し,Galaxy S4については請求を取り下げ,本判定請求において請求項1の方法の発明について審判を求め,システムの発明,記録媒体の発明については請求を取り下げるとのことであるから,イ号物件は,イ号物件説明書の「Galaxy S」に係る記載を「Galaxy S5」に係るものとして読み替える。
したがって,イ号物件説明書に示された「Galaxy S5」は,以下のとおりである。
「a Galaxy S5は,
i その大きさは高さ142ミリメートル,幅72.5ミリメートル,厚さ8.1ミリメートル及び重さは145グラムであり,手にとって使用することが念頭に置かれたハンドヘルド装置であって,
ii 出力デバイスであるディスプレイ,スピーカと,
iii 入力デバイスであるディスプレイ兼タッチパネル,マイク,ビデオカメラ等と,
iv WiFi及び/または3G回線/あるいはLTE回線等の利用を可能とする無線チップ(無線トランスミッタ)と,
v (これらの出力デバイス,前記入力デバイス及び前記無線トランスミッタの動作を制御する)Snapdragon variant等と呼ばれるCPU(処理回路)を含むものである。
b ハングアウトが予めインストールされているGalaxy S5のディスプレイ上に,例えば●というアイコンで表示され,このアイコンを指で触れて選択すると,ハングアウトが起動する。◎のアイコンに触れるとマイクのオン・オフが切り替えられるようになっている。また,■というアイコンに指で触れるとハングアウトを終了させる。これらは,当該アイコンが操作ガイドの役割を果たしていることを示している。
c (そのGalaxy S5は)Galaxy S5のディスプレイやスピーカを通じてアキラ(操作者)へ,
(a)Galaxy S5から空間的に離間して遠隔サーバーであるGoogleサーバーから与えられる,動画コンテンツがディスプレイに表示されたり,音楽コンテンツがスピーカから聞こえる{例えばハングアウトでアキラ(操作者)が保持するGalaxy S5のディスプレイにGoogleサーバ経由でマリ(受信者)の顔と体の動き(動画)が表示され,スピーカからマリの掛け声,マリのボーカルが聞こえることによって表示(第1のコンテンツの表現の提示)される}段階と,
d 例えば,アキラ(操作者)が(Galaxy S5から聞こえる)マリの身振り手振りの動画及びボーカル(第1のコンテンツ)を聞きながら(第1のコンテンツの提示)それに合わせて(操作者により調節された時間的関係に従って),(第1のコンテンツの提示に対してインタラクティブに)ギターを弾いてGalaxy S5に音楽や動画をマイク及びビデオカメラに入力する(入力デバイスを通じて)とともに,受信者(マリ)のGoogleアカウントのような当該受信者を特定する識別情報とを(受信者に届くように)与える段階
e (そのGalaxy S5は)無線チップ経由で(前記無線トランスミッタを通じて),Galaxy S5からGoogleサーバに対して,例えばGalaxy S5によって視聴されるマリの音楽メッセージや動画メッセージを送らずに,第2のコンテンツの表現(アキラのギター音楽ないし動画メッセージ)が,その音楽や動画を共有する相手であるマリやケン(グーグルアカウント名という識別子によって特定)に送られる段階と
f 例えば,Galaxy S5及びハングアウトを使用してアキラがGalaxy S5のディスプレーやスピーカから聞こえるマリの掛け声やボーカル(第1のコンテンツの表現・メッセージ)に合わせて(操作者により調節された時間的関係)ギターを弾きその音楽(第2のコンテンツ)をGalaxy S5のマイクやビデオカメラを通じて入力し,時間のタイミングを保ったままの,マリのボーカルメッセージとアキラのギターメッセージ(第1のコンテンツ及び第2のコンテンツのメッセージ並びに操作者により調節された時間的関係の指標)がケン(受信者)にGoogleサーバー(遠隔サーバー)を通じて送られるように,アキラのGalaxy S5及びハングアウトが当該メッセージをGoogleサーバーに送信する段階とを含む方法である。
また,アキラ(Galaxy S5及びハングアウトを使用)とマリがGoogleサーバーから与えられるYouTubeの動画(例えばミュージックビデオ)を共有し,アキラとマリがその動画を見ながら,ミュージックビデオの音楽に合わせてアキラがギター,マリはボーカルをそれぞれ演奏し,ミュージックビデオ及びお互いに相手の状況を視聴覚する場合も同様に本願発明を実施している。
([当審注]:表記上の理由で,上記bにおいて,ハングアウトのアイコン,マイクのアイコン,受話器のアイコンを,それぞれ「●」,「◎」,「■」と表した。)



第4 当事者の主張
1 請求人の主張
(1)請求人は,本件特許発明1に関し,「本発明1はいわゆる方法特許であり,イ号物件(ハングアウトがプリインストールされたGalaxy S5)のユーザーが,イ号物件を使用して遠隔地の他者とメッセージなどの情報をやりとりする際に,本発明1の特許を実施しているというべきである。すなわち,本発明1の方法を,ユーザーはイ号物件(ハングアウトがプリインストールされたGalaxy S5)を操作・使用することによって実施している。」(判定請求書5ページ10?15行)と主張している。

(2)請求人は,「イ号物件のハングアウトがプリインストールされたGalaxy S5は,以上の方法(本発明1)の使用にのみ用いる物(特許法101条4号),又はこの方法(本発明1)の使用に用いる物のうち本発明による課題の解決に不可欠なもの(特許法101条5号)である。したがって,被請求人は,イ号物件(ハングアウトがプリインストールされたGalaxy S5)が,上記発明1の方法の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき,その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら,業として,その生産,譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をしたものである(特許法101条5号所定のみなし侵害の対象)。」(判定請求書5ページ16?25行)と主張している。当該主張は間接侵害に関するものであることは明らかである。

(3)請求人は,均等に関し,「別紙イ号物件説明書に示すとおり,イ号物件である「ハングアウトがプリインストールされたGalaxy S5」は,特許第4357175号発明(以下「本件特許発明」という。)に即して対比するとき,本件特許請求の範囲に記載の構成と同一か少なくとも均等であることから,本件特許発明の技術的範囲に属する。イ号物件である「ハングアウトがプリインストールされたGalaxy S5」によって実施されている本件特許発明の技術的範囲と抵触するアイデアは,本件特許発明の特許出願時における公的技術と同一のものとはいえないし,また被請求人が公知技術から本件特許発明の特許出願時に容易に推考できたものではない。そもそも,イ号物件である「ハングアウトがプリインストールされたGalaxy S5」によって実施されている本件特許発明の技術的範囲と抵触するアイデアが,仮に,本件特許発明の特許出願時における公的技術と同一であり,または被請求人が公知技術から本件特許発明の特許出願時に容易に推考できたものであるとするならば,本件特許発明は特許として認可されるはずがない。」(判定請求書5ページ下から2行?6ページ15行)と主張している。


2 被請求人の主張
被請求人は,答弁書に代わる上申書にて,概略以下の主張をしている。

(1)受信者の識別子を入力することはない(構成要件D)(答弁書に代わる上申書3ページ16行?5ページ4行)
ハングアウトでのビデオ会議において,イ号物件で入力されるのは操作者の画像/音声のみであって,受信者を示す情報(識別子)は入力されない。このことは,甲12の動画像にいずれにも,第2のコンテンツ(画像/音声)が入力される際に,操作者が受信者の情報を入力していないことからも明らかである。仮に,ハングアウトでのビデオ会議において,コンテンツ(画像/音声)とともに当該コンテンツの受信者の情報を入力する必要がある場合,操作者において当該コンテンツの受信者の情報を入力するのに一定の時間が必要となり,会話を行うたびに大幅なタイムラグが生じてしまうため,ビデオ会議システムとしては成立しないことは自明である。よって,イ号物件では,第2のコンテンツと受信者の識別子を入力デバイスを通じて与えていないから,本件発明の構成要件Dを充足しない。

(2)受信者の識別子を遠隔サーバーに送らない(構成要件E)(答弁書に代わる上申書5ページ5行?6ページ10行)
ハングアウトでビデオ会議が行われる際,イ号物件では,第2のコンテンツに相当するデータを,Googleサーバーを宛先として送信するが,この際に,受信者の識別子に相当する情報を送信することはない。ハングアウトにおいて,ビデオ参加者の情報は,当該ビデオ会議のセットアップ時に既にGoogleサーバーに保存されている。ビデオ会議の各参加者の端末は,Googleサーバーに対して音声・映像のコンテンツを送信し,当該コンテンツを受けたGoogleサーバーは,保存済みの参加者の情報を参照して,当該参加者へのコンテンツを一斉に送信する。このように,イ号物件では,第2のコンテンツに相当する情報を送信する際に,受信者の識別子を遠隔サーバーに送ることはないから,構成要件Eを充足することはない。

(3)第1のコンテンツの識別子と時間的関係の指標を遠隔サーバーに記憶させることはない(構成要件F)(答弁書に代わる上申書6ページ11行?9ページ6行)
ハングアウトを管理するGoogleサーバーは,ある参加者から(映像・音声の)コンテンツ(第1のコンテンツ)を受信すると,そのまま他の参加者(受信者)にコンテンツを送信しており,他の参加者から受信される別のコンテンツ(第2のコンテンツ)に合わせて,当該1のコンテンツの送信タイミングを調整していない。すなわち,ハングアウトにおいては,Googleサーバーと各参加者の端末との間の伝送遅延に起因して,操作者における第1コンテンツの提示と第2コンテンツの入力の時間的間隔と,受信者における第1コンテンツの第2コンテンツの受信との時間的間隔は異なる。このようにハングアウトを管理するGoogleサーバーにおいて,第1のコンテンツと第2のコンテンツとの時間的関係の指標に相当する情報は存在せず,当該情報は記憶されることはない。よって,イ号物件は,遠隔サーバーに対して,時間的関係の指標を記憶させることはなく,構成要件Fを充足しない。
また,本件明細書の【0037】?【0040】によれば,本件発明において,「時間的関係の指標」を遠隔サーバーに保存するには,サーバーと端末との間の伝送遅延に基づいて「時間的関係の指標」を求める必要がある。しかしながら,請求人の主張からは,このような伝送遅延に基づいて「時間的関係の指標」を求めることについては何ら示されていない。現に,ハングアウトでのビデオ会議において,伝送遅延に基づいてコンテンツ間の時間的関係を求める処理は行われていない(Googleサーバーは,受信したコンテンツをそのまま受信者に流すだけであり,よって伝送遅延によるずれが生じる。)。したがって,イ号物件が「時間的関係の指標とを前記遠隔サーバーに記憶」させていないことは,この点からも明らかである。

(4)「時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージ」が送信されない(構成要件F)(答弁書に代わる上申書9ページ7?15行)
前記(3)で述べたとおり,ハングアウトを用いたビデオ会議においては,サーバーと端末との間の伝送遅延が生じるため,操作者における第1のコンテンツ(Tonyのリードの音楽・音声)と第2のコンテンツ(Joeの音楽・音声)のタイミングやテンポが保たれたまま,受信者に送られることはないから,「時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージ」が受信者に送信されることはない。よって,イ号物件は構成要件Fを充足することはない。

(5)イ号物件は遠隔サーバーの動作制御を行っていない(構成要件F)(答弁書に代わる上申書9ページ16行?10ページ8行)
構成要件Fは,ハンドヘルド装置ではなく遠隔サーバーの動作が規定されていることは,その文言から明らかである。しかるに,イ号物件はハンドヘルド装置であって,遠隔サーバーであるGoogleサーバーの動作制御は行っておらず,「第1のコンテンツの識別子と前記操作者により調節された時間的関係の指標とを前記遠隔サーバーに記憶させる」制御,及び,Googleサーバーにおいて「前記記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも1人の受信者が受信するように,当該メッセージを送信する」制御は行っておらず,また,請求人もこの点を何ら明らかにしていない。よって,Googleサーバーにおいて「第1のコンテンツの識別子」及び「時間的関係の指標」が記憶されるか否かにかかわらず,イ号物件は本件発明の構成要件Fを充足していないことは明らかである。



第5 対比及び判断
1 各構成要件の充足性について
(1)構成要件Aについて
本件判定請求にかかるイ号物件の「Galaxy S5(型番SC04F)」は「ハンドヘルド装置」に該当するが,本件特許発明は,「ハンドヘルド装置」なる物の発明ではなく,「ハンドヘルド装置を使用する方法」であるから,発明のカテゴリーは方法の発明である。
そして,「Galaxy S5(型番SC04F)」は,ハンドヘルド装置自体であって「ハンドヘルド装置を使用する方法」ではないことは明らかである。
したがって,イ号物件である「Galaxy S5(型番SC04F)」は構成要件Aを充足しない。

(2)構成要件Bについて
本件特許明細書の【0030】,【0048】の記載によれば,ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,ディスプレイを通じて表示される,その操作に関する情報は,「操作者により入力された電話番号の通常の表示」や処理中に操作者を案内するプロンプトや他の情報を含むものと認められるところ,Galaxy S5は少なくとも操作者により入力された電話番号を表示することは行われているといえるから,イ号物件である「Galaxy S5(型番SC04F)」は構成要件Bを充足する。

(3)構成要件Cについて
イ号物件説明書及び甲12によると,ハングアウトがプリインストールされたGalaxy S5では,操作者であるアキラが保持するGalaxy S5のディスプレイにハングアウトでGoogleサーバ経由でマリの顔と体の動きの動画が表示され,スピーカからマリの掛け声,マリのボーカルが聞こえることによって提示されることが認められる。すなわち,Galaxy S5は,少なくとも1つの出力デバイス(ディスプレイ,スピーカ)を通じて操作者(アキラ)へ,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバー(Googleサーバー)から与えられる第1のコンテンツ(マリの顔と体の動きの動画,マリの掛け声,ボーカル)の表現を提示するといえる。
したがって,イ号物件である「Galaxy S5(型番SC04F)」は構成要件Cを充足する。

(4)構成要件Dについて
構成要件Dの「操作者により調節された時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なり,且つ第1のコンテンツの形式とは同一又は異なる形式である第2のコンテンツ」,「を前記少なくとも1つの入力デバイスを通じて与える」ことに関して,本件特許明細書の図3に関する説明(特に【0034】,【0035】参照。)に,「ステップ116は操作者がバックグラウンド・ミュージックを聞きながら,例えば歌うことを可能とする。これは操作者に,操作者コンテンツをバックグラウンド・ミュージックの呈示に時間的に重畳させ,この重畳の一時的な関係を制御させることを可能にする。」,「ステップ115及び116は,ステップ117が操作者コンテンツの形成が終了したことを判断するまで繰り返される。」と記載されている。また,【0015】等の記載によれば,「第1のコンテンツ」には,「例えば予め録音された音楽又は動画」が含まれるから,予め録音されたバックグラウンド・ミュージックを聞きながら歌う場合は「第2のコンテンツ」は「同一形式」といえ,予め録画された動画を見ながら歌う場合は「第2のコンテンツ」は「異なる形式」といえる。
そして,イ号物件説明書及び甲12によると,操作者であるアキラがGalaxy S5からディスプレイやスピーカから出力されるマリの身振り手振りの動画やボーカルを見たり聞きながら,それに合わせてギターを弾いて,Galaxy S5に音楽や動画をマイク及びビデオカメラから入力することが認められる。したがって,イ号物件は,「操作者により調節された時間的関係に従って第1のコンテンツ(マリの顔と体の動きの動画,マリの掛け声,ボーカル)の提示に時間的に重なり,且つ第1のコンテンツの形式(音楽又は動画)とは同一又は異なる形式である第2のコンテンツ(操作者が歌った歌)」,「を前記少なくとも1つの入力デバイス(マイクロフォン)を通じて与える」といえる。

また,構成要件Dの「少なくとも1つの受信者の識別子とを前記少なくとも1つの入力デバイスを通じて与える」ことに関して,本件特許明細書の図3に関する説明(特に【0043】参照。)には,ステップ103において,(1)新たなメッセージを形成の機能を選択してメッセージの形成を完了した後,(4)既に形成されたメッセージを送信の機能を選択し,ステップ144において送信すべき既に形成されたメッセージが選択され,ステップ145において操作者は電話機上の少なくとも1つのボタンを押して1つの電話番号を特定するか,サーバー30により記憶デバイス33に記憶された電話番号又はeメール・アドレスのリストから1つの受信者を選択する等により,少なくとも1つの受信者を識別することが記載されている。また,【0035】には,「代替的に,方法は,操作者が少なくとも1つの受信者を特定して,その受信先へ,メッセージと共に,形成したばかりの操作者コンテンツを送信することを可能とするステップへ続けてもよい。」と記載され,【0055】には「代替的実施において,ステップ201は操作者に対し,直ぐに形成されるメッセージについての少なくとも1つの受信者を特定させる。」と記載され,図4及び【0055】の記載によれば,当該ステップ201はデータ通信経路がSongMail又はMusicDIYのような操作者の選択を搬送するのに未だ利用及び使用可能でないならばデータ通信経路を開始することによりアプリケーション「セッション」が確立されるものである。これらの記載を総合すると,SongMail又はMusicDIYのための通信経路の開始時に受信者を特定する情報を入力し,第2のコンテンツを形成し,形成したばかりの操作者コンテンツを含むメッセージが直ぐに受信者に送信されることが記載されていると認められる。
一方,イ号物件説明書には,「受信者(マリ)のGoogleアカウントのような当該受信者を特定する識別情報とを(受信者に届くように)与える」と述べられ,甲10の10ページには「黒四角2 ハングアウトの画面を表示する」,「黒四角3 ユーザーを招待する」,「黒丸1に招待したいユーザーの名前を入力します。下に表示されるプロフィール写真をタップしても構いません。追加したら黒丸2[ハングアウト開始]をタップします。」([当審注]:表記上の理由で,黒い四角に白抜きで表示された「2」,「3」を「黒四角2」,「黒四角3」と表し,黒丸に白抜きで表示された「1」,「2」を「黒丸1」,「黒丸2」と表す。)と記載されているから,ハングアウトの使用に際して,受信者の識別子を入力し,その後,ハングアウトが開始されると認められる。
してみると,イ号物件の操作は,本件特許明細書の上記「代替的実施」に対応しており,イ号物件は,ハングアウトによるコンテンツが入力される際に操作者が受信者の情報を入力しているといえる。したがって,イ号物件は,「・・・第2のコンテンツ(操作者が歌った歌)と,少なくとも1つの受信者の識別子とを前記少なくとも1つの入力デバイス(マイクロフォン,キーパッド)を通じて与える」といえる。
よって,イ号物件である「Galaxy S5(型番SC04F)」は構成要件Dを充足する。

なお,上述のとおり,イ号物件は,ハングアウトによるコンテンツが入力される際に操作者が受信者の情報を入力しているといえるから,被請求人の主張(上記「第4 当事者の主張」の項の「2 被請求人の主張」の項の「(1)」参照。)は採用できない。

(5)構成要件Eについて
イ号物件説明書及び甲12によると,Galaxy S5は無線トランスミッタを通じて,Galaxy S5からGoogleサーバに対して,例えばGalaxy S5によって視聴されるマリの音楽メッセージや動画メッセージを送らずに,アキラのギター音楽ないし動画メッセージが,その音楽や動画を共有する相手であるマリやケンに送られることが認められる。
そして,被請求人も,「ビデオ会議の各参加者の端末は,Googleサーバーに対して音声・映像のコンテンツを送信し,当該コンテンツを受けたGoogleサーバーは,保存済みの参加者の情報を参照して,当該参加者へのコンテンツを一斉に送信する。」(答弁書に代わる上申書5ページ12?15行)と述べており,答弁書に代わる上申書7ページの図もユーザ1(操作者)からGoogleサーバ(遠隔サーバ)へは第2のコンテンツのみが送信されることが描かれている。
また,上記(4)で述べたとおり,甲10によれば,ハングアウトの使用に際して,受信者の識別子を入力し,その後,ハングアウトが開始されると認められ,第2のコンテンツに相当する情報を送信する際に受信者の識別子を遠隔サーバーに送るといえる。
したがって,イ号物件は,「前記無線トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバー(Googleサーバー)に対して,第1のコンテンツの表現(Galaxy S5によって視聴されるマリの音楽メッセージや動画メッセージ)を送らずに,第2のコンテンツの表現(アキラのギター音楽ないし動画メッセージ)と少なくとも1人の受信者の識別子とを送る」といえる。
よって,イ号物件である「Galaxy S5(型番SC04F)」は構成要件Eを充足する。

なお,上述のとおり,イ号物件は,ハングアウトの使用に際して,受信者の識別子を入力し,その後,ハングアウトが開始されると認められ,第2のコンテンツに相当する情報を送信する際に受信者の識別子を遠隔サーバーに送るといえるから,被請求人の主張(上記「第4 当事者の主張」の項の「2 被請求人の主張」の項の「(2)」参照。)は採用できない。

(6)構成要件Fについて
構成要件Fの「第1のコンテンツの識別子と前記操作者により調節された時間的関係の指標とを前記遠隔サーバーに記憶させる」は,「させる」なる記載から,サーバーに対する使役(制御)をなしていることは明らかである。
また,構成要件Fの「この遠隔サーバーが,前記記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも1人の受信者が受信するように,当該メッセージを送信する」は,明らかにハンドヘルド装置ではなくサーバーの動作を規定するものである。

ここで,「時間的指標」については,本件特許明細書に以下の記載がある。
「【0036】
好ましくはサーバー30は記憶デバイス30に,操作者コンテンツを含むが,操作者により選択されたバックグラウンド・ミュージックを含まないメッセージの表現を記憶する。サーバー30は,選択されたバックグラウンド・ミュージックの識別と,これら2つのコンテンツの間の一時的な関係の指標とのみを記憶する。バックグラウンド・ミュージックそれ自身は,他の場合にはコンテンツ・データベースに記憶される。メッセージは受信先へ或いは操作者へ校閲するために送信され,バックグラウンド・ミュージックと操作者コンテンツとの表現は,これら操作者コンテンツが与えられたときに操作者により観察された2つのコンテンツの間の一時的関係を実質的に保存する方式で組み合わせられる。
【0037】
セルラーフォン・システムのような特定の技術が,選択された音楽を操作者へ呈示するために装置10へ送信し,且つ装置10から操作者コンテンツを受信するのに用いられた際には,一般に,その伝達における無視できない遅延が生じる。これらの遅延を判定できなければ,サーバー10は操作者コンテンツとバックグラウンド・ミュージックの呈示との間の一時的な関係を判定できないので,メッセージを受信先へ送信するときに,この関係を保存できない。これらの遅延を判定し得る幾つかの手法を以下に説明する。原理的には,これらの遅延を判定する手法は本発明に対しては重要なものではない。
【0038】
操作者が,セルラーフォンサービスのような送信サービスと,そのサービスのプロバイダとを用いるならば,伝達遅延の見積もりを与えることができ,この見積もられたラウンド・トリップ遅延を,操作者コンテンツが与えられたときに,操作者が知覚する一時的な関係を見積もるのに使用できる。
【0039】
サービス・プロバイダが伝達遅延の見積もりを与えることができないならば,サーバー30は,何らかの認識可能な事象をサーバー30へ交信して戻す信号を装置10へ送ることにより,遅延を測定できる。装置10は特定の信号に対して自動的に応答する幾つかの特徴を含むので,サーバー30は,操作者が関与することなく,この遅延を測定できる。別の手法では,サーバー30は,操作者が何らかの動作(例えばボタンを押す動作)をなすように装置10への指示の伝達と,操作者が行為をなす装置10からの受信との間の時間間隔を観察することにより遅延を測定し得る。
【0040】
遅延が正確に解らないのであれば,サーバー30は操作者により知覚された一時的関係を正確には判定できないので,メッセージが受信先又は校閲のために操作者へ送信された際に,この一時的な関係をシステムが正確に保存することを妨げ得る。しかしながら,サーバー30が遅延を正確な度合いで判定できるならば,操作者コンテンツが与えられたときに,操作者により観察された一時的関係を実質的に保存できる。」
([当審注]:「一時的な関係」は,「temporal relationship」(「時間的関係」)の誤訳と認められる。)
上記【0036】の記載によれば,「時間的関係の指標」はサーバー30が記憶デバイスに記憶するものであり,【0037】の記載によれば,装置10とサーバ30との間の伝送において無視できない遅延が生じることから,メッセージが受信先又は校閲のために操作者へ送信される際に,第1のコンテンツと第2のコンテンツとの時間的な関係が保たれるように,サーバーは時間的関係を把握するものと理解され,【0038】?【0040】の記載によれば,「時間的関係」は,サービス・プロバイダが伝達遅延の見積もりを(サーバー30に)与えるか,あるいはサーバー30がラウンド・トリップ遅延を測定することにより得るものと理解される。そして,装置10からサーバー30には第2のコンテンツと受信者の識別子しか送られないことから,受信者へメッセージを送る際には,サーバー30に記憶されていた第1のコンテンツと装置から受信されサーバーに記憶された第2のコンテンツとが,サーバー30に記憶された時間的関係の指標に基づいて,操作者が第2のコンテンツを作成した際の第1のコンテンツと第2のコンテンツとの時間的関係を保つように,サーバー30の記憶デバイスから読み出されて送信されると解するのが自然である。
すなわち,時間的関係の指標は,サーバーが取得し,サーバーが記憶し,サーバーが使用するものと認められる。

一方,イ号物件説明書によると,構成要件Fに対応するイ号物件の内容は,「例えば,Galaxy S5及びハングアウトを使用してアキラがGalaxy S5のディスプレーやスピーカから聞こえるマリの掛け声やボーカル(第1のコンテンツの表現・メッセージ)に合わせて(操作者により調節された時間的関係)ギターを弾きその音楽(第2のコンテンツ)をGalaxy S5のマイクやビデオカメラを通じて入力し,時間のタイミングを保ったままの,マリのボーカルメッセージとアキラのギターメッセージ(第1のコンテンツ及び第2のコンテンツのメッセージ並びに操作者により調節された時間的関係の指標)がケン(受信者)にGoogleサーバー(遠隔サーバー)を通じて送られるように,アキラのGalaxy S5及びハングアウトが当該メッセージをGoogleサーバーに送信する」こととされている。(なお,構成要件Fは「時間的関係の指標」は「遠隔サーバーに記憶させる」ものであり,受信者に送られるものではないから,イ号物件説明書による構成要件Fに対応するイ号物件の上記内容は,構成要件Fと対応していない。)

しかしながら,イ号物件説明書及び各甲号証を見ても,Googleサーバーが,サービス・プロバイダから伝達遅延の見積もりを与えられたり,ラウンド・トリップ遅延を測定して,時間点関係を判定していることを示す証拠はない。また,Googleサーバーが,受信者へメッセージを送る際には,サーバー30に記憶されていた第1のコンテンツと装置から受信されサーバーに記憶された第2のコンテンツとが,時間的関係の指標に基づいて,操作者が第2のコンテンツを作成した際の第1のコンテンツと第2のコンテンツとの時間的関係を保つように,記憶デバイスから読み出して送信していることを示す証拠はない。さらに,イ号物件である「Galaxy S5(型番SC04F)」が,遠隔サーバーに対して,時間的関係の指標を遠隔サーバーに記憶させるなる使役(制御)を行っていることを示す証拠もない。
また,「Galaxy S5(型番SC04F)」は,単に操作者の画像/音声(「第2のコンテンツ」に相当。)をGoogleサーバーに送っているだけであり,操作者が画像/音声を入力した際の第1のコンテンツと第2のコンテンツとの時間的関係が保たれるように何らかの機能をなしているとは認められない。
さらに,本件特許発明である「ハンドヘルド装置を使用する方法」なる方法発明は,「この遠隔サーバーが,前記記憶された時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージを前記少なくとも1人の受信者が受信するように,当該メッセージを送信する」なる,遠隔サーバーの動作を構成要件とするものであるが,「Galaxy S5(型番SC04F)」はハンドヘルド装置であって遠隔サーバーではないから,このような遠隔サーバーの構成を含み得ないことは明らかである。

したがって,イ号物件である「Galaxy S5(型番SC04F)」は構成要件Fを充足しない。

以上のとおりであるから,イ号物件である「Galaxy S5(型番SC04F)」は本件特許の請求項1に係る特許発明の技術的範囲に属しない。


2 均等に関して
均等と判断するには,以下(i)?(v)の5要件を全て満たすことが必要である。
(i) 特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が発明の本質的な部分ではない(発明の本質的な部分)。
(ii) 前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏する(置換可能性)。
(iii) 前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが,イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである(置換容易性)。
(iv) イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に遂行できたものではない(自由技術の除外)。
(v) イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない(禁反言:出願等の経緯の参酌)。
しかしながら,上記1のとおり,イ号物件である「Galaxy S5(型番SC04F)」は構成要件A,Fを充足しないところ,構成要件A,Fは,本件特許の請求項1に係る特許発明の本質的な部分であるから,上記(i) の要件を満たさない。
また,「Galaxy S5(型番SC04F)」は,ハンドヘルド装置自体であって「ハンドヘルド装置を使用する方法」ではないから,構成要件Aをイ号のものと置き換えることはできない。また,「Galaxy S5(型番SC04F)」は,ハンドヘルド装置自体であって遠隔サーバではないから,サーバの動作を含む方法発明の段階である構成要件Fをイ号のものと置き換えることはできない。したがって,上記(ii)の要件を満たさない。
更にいえば,本願発明の目的は,本件特許明細書の【0004】,【0005】の記載から見て,音楽及び動画のような聴覚的及び視覚的コンテンツを形成及び分配することであり,構成要件Fは当該目的を達成するための中核的構成であるところ,仮に特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分をイ号のものと置き換えるとすると,遠隔サーバの動作に係る構成が失われることとなり,上記「音楽及び動画のような聴覚的及び視覚的コンテンツ」に該当する「時間的関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表すメッセージ」を形成及び分配し得ないから,「異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏する」とはいえない。
したがって,少なくとも上記(i),(ii)の要件を満たさないことが明らかであるから,他の要件を判断するまでもなく,均等とはいえない。


3 間接侵害に関して
間接侵害に関しては,本判定の対象外であるので,判断しない。



第6 むすび
以上のとおりであるから,イ号物件説明書に示されるイ号物件である「Galaxy S5(型番SC04F)」は,本件特許の請求項1に係る発明の構成要件を具備しないから,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
 
判定日 2015-07-23 
出願番号 特願2002-590620(P2002-590620)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸次 一夫  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 山本 章裕
菅原 道晴
登録日 2009-08-14 
登録番号 特許第4357175号(P4357175)
発明の名称 実時間対話型コンテンツを無線交信ネットワーク及びインターネット上に形成及び分配する方法及び装置  
代理人 野村 吉太郎  
代理人 大野 聖二  
代理人 木村 広行  
代理人 小林 英了  

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