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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1304298
審判番号 不服2013-20764  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-25 
確定日 2015-08-12 
事件の表示 特願2009-243908「安定性タウロリジン電解質溶液」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月18日出願公開、特開2010- 59166〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年9月26日(パリ条約による優先権主張 2001年9月26日 (US)アメリカ合衆国)に出願した特願2002-280476号の一部を平成21年10月22日に新たな特許出願としたものであって、平成24年6月5日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成24年10月10日付けで手続補正書および意見書が提出され、平成24年12月5日付けで拒絶理由が通知され、これに対し平成25年4月8日付けで意見書が提出されたところ、平成25年6月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年10月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

2.平成25年10月25日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年10月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
補正前の
「【請求項1】
1.5?3重量%のタウロリジンを含有する水溶液を含有するボトルの内側の液滴から形成される結晶に対して、該溶液を安定化するための少なくとも1つの生理的許容可能な電解質の使用であって、少なくとも1つの該電解質が安定化される該溶液内で該溶液を等張性にするのに充分な濃度で存在する、該使用。」
から、
補正後の
「【請求項1】
1.5?3重量%のタウロリジンを含有する水溶液を含有するボトルの内側の液滴から形成される結晶に対して、該溶液を安定化するための少なくとも1つの生理的許容可能な電解質の使用であって、少なくとも1つの該電解質が安定化される該溶液内で該溶液を等張性にするのに充分な濃度で存在し、該電解質がNa^(+)、K^(+)、Mg^(++)、Cl^(-)、H_(2)PO_(4)^(-)、酢酸塩^(-)、HCO_(3)^(-)およびそれらの混合物からなる群より選択されるイオンを提供する、該使用。」
へ補正された。

そこで、本件補正前後の特許請求の範囲を対比すると、本件補正は、本件補正前の請求項1において、電解質が「Na^(+)、K^(+)、Mg^(++)、Cl^(-)、H_(2)PO_(4)^(-)、酢酸塩^(-)、HCO_(3)^(-)およびそれらの混合物からなる群より選択されるイオンを提供する」ことを特定する補正をするものである。

(2)本件補正の適否
a.本件補正の目的について
本件補正は、本件補正前の請求項1における電解質を「Na^(+)、K^(+)、Mg^(++)、Cl^(-)、H_(2)PO_(4)^(-)、酢酸塩^(-)、HCO_(3)^(-)およびそれらの混合物からなる群より選択されるイオンを提供する」ものに限定するものであり、かつ、本件補正後の請求項1に記載された発明と本件補正前の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」という)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

b.独立特許要件違反について
そこで進んで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か、について検討する。

(b-1)特許法第36条第6項1号(いわゆるサポート要件)について
特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである、または、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることが必要であり、本願明細書のいわゆるサポート要件については、本願出願人、即ち、審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。

ここで、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

(ア)「高濃度で既知のタウロリジン溶液、例えば既知の2%タウロリジン溶液は、従来から時として安定性の問題をかかえていた。例えば、2%タウロリジン溶液のボトルの内側に粘りつく液滴が、時として乾燥し、結晶を形成して、溶液中に望ましくない粒子を生ずる結果となる。・・・より高い安定性を有するタウロリジン溶液に対する要請は、当業界において依然として残ったままである。」(【0003】)

(イ)「本発明によれば、タウロリジン組成物は、約1.5?3重量%のタウロリジンを含有する水溶液を含み、前記溶液が、安定性増大有効量の少なくとも1つの生理的許容可能な電解質を含み、これは、前記溶液を実質的に等張性にするのに充分な濃度で存在する。」(【0004】)

(ウ)「本発明は、約1.5?3重量%の範囲内の濃度でタウロリジンを含む安定した水溶液を提供することにより、従来の高濃度のタウロリジン溶液の安定性問題を解決する。該溶液は、安定性増大有効量の少なくとも1つの生理的許容可能な電解質を含むことにより安定性になり、結果として得られた溶液は、実質的に等張性である。」(【0005】)

(エ)「 本発明による1つの好ましい溶液は、注射用の水中に重量%の以下のものを含む:
2% タウロリジン
5% コリドン
0.4% NaCl
0.005% KCl
0.0066% CaCl_(2)
0.005% NaHCO_(3)」(【0010】)

(オ)「この実施形態による組成物の1つの具体例は、注射用の水中に重量%の以下のものを含む:
【0012】
2% タウロリジン
5% コリドン
0.5% タウリン
0.26% NaCl
0.0033% KCl
0.004% CaCl_(2)
0.003% NaHCO_(3)」(【0011】?【0012】)

記載事項(ア)、および、本願補正発明における「1.5?3重量%のタウロリジンを含有する水溶液を含有するボトルの内側の液滴から形成される結晶に対して、該溶液を安定化するための少なくとも1つの生理的許容可能な電解質の使用」との規定を総合すると、本願補正発明は、1.5?3%という高濃度のタウロリジン溶液において、タウロリジン溶液のボトルの内側に粘りつく液滴から、結晶が形成され、溶液中に望ましくない粒子を生じることから該溶液を安定化することを課題としていると認められる。

本願明細書の発明の詳細な説明における、上記課題の解決手段に関連する記載としては、記載事項(イ)、(ウ)に、「安定性増大有効量の・・・電解質を含み」「安定性増大有効量の・・・電解質を含む」との記載があり、記載事項(エ)、(オ)に処方例が記載されているものの、少なくとも1つの生理的許容可能な電解質を含むタウロリジン水溶液の安定性について実証されているわけでも、生理的許容可能な電解質による安定化の機序が記載されているわけでもない。
そうすると、本願補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、当業者が出願時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

ところで、平成26年10月15日付けで提出された回答書には、「参考資料1」として、「2%タウロリジン溶液への電解質としてのリンガー溶液の添加が、当該溶液をこれらのバッチの製造日から少なくとも5年以上の間安定なままにしておくことができることを示す署名及び証明された3連の分析証明書」が添付されており、それらの分析証明書には日付及び署名とともに、下記記載がある。
「製品:タウロリン Rの囲み文字 2%リンガー
(当審注:「Rの囲み文字」とはRを○で囲んだ字体をいう)
装填:91002203
製造日:2009年4月
分析日:2014年9月24日
パラメータ 仕様 結果
外見 透明で、ほとんど無色な 適合
溶液
可視の粒子 可視の粒子なし 適合
pH値 7.0-7.6 7.10
タウロリジン濃度 1.90-2.10g/100mL 1.91g/100mL」

「製品:タウロリン Rの囲み文字 2%リンガー
(当審注:「Rの囲み文字」とはRを○で囲んだ字体をいう)
装填:91001203
製造日:2009年4月
分析日:2014年9月24日
パラメータ 仕様 結果
外見 透明で、ほとんど無色な 適合
溶液
可視の粒子 可視の粒子なし 適合
pH値 7.0-7.6 7.08
タウロリジン濃度 1.90-2.10g/100mL 1.90g/100mL」

「製品:タウロリン Rの囲み文字 2%リンガー
(当審注:「Rの囲み文字」とはRを○で囲んだ字体をいう)
装填:91003203
製造日:2009年4月
分析日:2014年9月24日
パラメータ 仕様 結果
外見 透明で、ほとんど無色な 適合
溶液
可視の粒子 可視の粒子なし 適合
pH値 7.0-7.6 7.09
タウロリジン濃度 1.90-2.10g/100mL 1.90g/100mL」

ここで、「タウロリン Rの囲み文字 2%リンガー」とは、タウロリジンの2%溶液で、タウロリジンの他に、ポビドン、NaCl、KCl、CaCl_(2)、NaHCO_(3)を含むものである(必要であればhttp://www.promedicare.ie/pdf/Taurolin.pdfの左上欄参照)。そうすると、この分析証明書記載のタウロリジン溶液は、ポビドンを含むものである。そして、ポビドンはタウロリジンの可溶化剤として働き、結晶化を防止する成分であることが知られている(必要であれば特開昭63-72626号公報3頁左上欄5-10行目、特開昭60-105618号公報請求項1,請求項2,2頁右下欄下から5-3行目、特開2000-300661号公報 請求項1,0023段落参照)。そうすると、結晶化を防止する成分であるポビドンを含有する水溶液において、5年保存後に、可視の粒子がない、即ち溶液中に結晶がないという結果が得られたということが示されたところで、水溶液中に含有されていたNaCl、KCl、CaCl_(2)、NaHCO_(3)のいずれかの働きによって結晶がないという結果が得られたのであると認めることはできない。むしろ、ポビドンが結晶化防止剤であるという技術常識からすると、当業者は、ポビドンの働きによって溶液中に結晶がないという結果となったと考えるのが自然である。また、本願補正発明においては電解質が「Na^(+)、K^(+)、Mg^(++)、Cl^(-)、H_(2)PO_(4)^(-)、酢酸塩^(-)、HCO_(3)^(-)およびそれらの混合物からなる群より選択されるイオンを提供する」ものであると記載されているところ、分析証明書で分析されているのは電解質がNaCl、KCl、CaCl_(2)、NaHCO_(3)からなるもののみである。そうすると「Na^(+)、K^(+)、Mg^(++)、Cl^(-)、H_(2)PO_(4)^(-)、酢酸塩^(-)、HCO_(3)^(-)およびそれらの混合物からなる群より選択されるイオンを提供する」ものを含有する水溶液全体において分析結果が示されているものでもない。さらに、本願補正発明は「1.5?3重量%」のタウロリジンを含むものであるが、タウロリジン2%溶液は従来から知られていたところ(必要であれば特開昭63-72626号公報左上欄5-8行参照)、分析証明書において検討されているのは、2%タウロリジンの溶液のみであり、そうすると、その結果のみから、2%を超える範囲を含む、1.5?3%のタウロリジン溶液について結晶ができないことまで示されているとはいえない。
したがって、回答書の分析証明書によって「Na^(+)、K^(+)、Mg^(++)、Cl^(-)、H_(2)PO_(4)^(-)、酢酸塩^(-)、HCO_(3)^(-)およびそれらの混合物からなる群より選択されるイオンを提供する」電解質を「1.5?3%という高濃度のタウロリジン溶液において、タウロリジン溶液のボトルの内側に粘りつく液滴から、結晶が形成され、溶液中に望ましくない粒子を生じることから安定化するために」使用することが示されているとは認められず、本願補正発明を、当業者が出願時の技術常識に照らし上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるとすることはできない。
よって、本願補正発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件補正後の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(b-3)むすび
よって、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成24年10月10日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
1.5?3重量%のタウロリジンを含有する水溶液を含有するボトルの内側の液滴から形成される結晶に対して、該溶液を安定化するための少なくとも1つの生理的許容可能な電解質の使用であって、少なくとも1つの該電解質が安定化される該溶液内で該溶液を等張性にするのに充分な濃度で存在する、該使用。」

4.原査定の理由
一方、原査定の拒絶の理由Bは下記のものである。
「B.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(中略)
本願請求項1には、「1.5?3重量%のタウロリジンを含有する水溶液を含有するボトルの内側の液滴から形成される結晶に対して、該溶液を安定化するための少なくとも1つの生理的許容可能な電解質の使用であって、少なくとも1つの該電解質が安定化される該溶液内で該溶液を等張性にするのに充分な濃度で存在する、該使用。」と記載されており、本願明細書の段落番号【0003】-【0005】には、電解質の添加で溶液が安定化されたとの記載はある。
しかしながら、本願明細書には、実際に電解質の添加によりボトルの内側の液滴から形成される結晶に対し溶液を安定化させることを裏付ける試験データは開示されていないし、本願出願時において電解質を添加すればタウロリジンの結晶化を防止できることが具体的に実証するまでもなく明らかであったとも認められない。
・・・
同様の理由により、本願請求項1-19に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められるから、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとはいえない。」

5.当審の判断
本願発明の発明特定事項は、本願補正発明の発明特定事項のうち、電解質についての発明特定事項を除いたものである。
本願補正発明は、上記にて説示したとおり、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないのであるから、本願発明も、同様の理由で、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

6.むすび
したがって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-09 
結審通知日 2015-03-17 
審決日 2015-03-31 
出願番号 特願2009-243908(P2009-243908)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 増山 淳子
渕野 留香
発明の名称 安定性タウロリジン電解質溶液  
代理人 曾我 道治  
代理人 梶並 順  
代理人 大宅 一宏  

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