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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1304314
審判番号 不服2014-14082  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-18 
確定日 2015-08-12 
事件の表示 特願2012-543588「機能パラメータを設定する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日国際公開、WO2011/073036、平成25年 4月22日国内公表、特表2013-513757〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年12月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年12月17日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成24年6月15日に特許法第184条の5第1項に規定する書面、同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文(以下、順に、「明細書」、「特許請求の範囲」及び「要約書」という。)並びに手続補正書が提出され、平成25年3月7日付けで拒絶理由が通知され、同年9月12日に意見書が提出されたが、平成26年3月11日付けで拒絶査定がされ、同年7月18日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

第2 請求項1ないし9に係る発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明は、平成24年6月15日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認められる(以下、順に、「請求項1に係る発明」ないし「請求項9に係る発明」という。)。

「【請求項1】
車両のための制御装置(200)の機能パラメータを設定する方法であって、少なくとも1つの重み特性マップ(40、204)では、少なくとも1つの目標変数が予め設定され、前記少なくとも1つの目標変数は前記車両の挙動を表し、前記少なくとも1つの重み特性マップ(40、204)では、最適パラメータのモデル(32、64、206)への対応付けが行われ、従って、機能パラメータとして設定される最適パラメータの集合に対する、少なくとも1つの予め設定された目標変数の割り当てが行われ、前記少なくとも1つの重み特性マップ(40、204)では、少なくとも2つの目標変数が設定され、前記最適パラメータのモデルは、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における前記目標変数の全てのトレードオフを含む、方法。
【請求項2】
閉ループ制御が、前記少なくとも1つの目標変数の重み付けの継続的なシフトにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記閉ループ制御は、操作量を介して行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
最適パラメータのモデル(32、64、206)が格納されたメモリユニットを有し、前記最適パラメータのモデルは、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における前記目標変数の全てのトレードオフを含む、車両のための制御装置。
【請求項5】
人間・機械インタフェースが設けられ、前記人間・機械インタフェースを介して、重み特性マップ(40、204)を用いて、前記最適パラメータのモデル(32、64、206)からの最適パラメータが設定される、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
最適パラメータのモデル(32、64、206)を計算する方法であって、目標変数を満たすパラメータ集合への前記目標変数の対応づけが行われ、前記最適パラメータのモデルは、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における前記目標変数の全てのトレードオフを含む、方法。
【請求項7】
前記最適パラメータのモデル(32、64、206)は、制御装置ソフトウェア内で計算される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記最適パラメータのモデル(32、64、206)は、制御装置ソフトウェア外で計算される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記計算は、最適化プログラム(14)を用いて行われる、請求項6?8のいずれか1項に記載の方法。」

第3 原査定の拒絶の理由等
1 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

「この出願については、平成25年 3月 7日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-3によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
【理由1について】
出願人は意見書において、「基準」とは要求の一例であり、「機能特性マップ」とはマップのことであり、「最適パラメータ」とは最適化の処理により得られたパラメータであり、「モデル」とは物理モデルのことであると説明しているが技術的内容の説明になっていない。また、「重み特性マップ」や「対応付け」「割当」等についての説明は、本願請求項や明細書中の記載の抜粋に過ぎず、依然として技術内容を理解し難い。
そして、これらのパラメータやモデルの内容、対応付けや割当は当業者にとって自明といえるものではなく、これらの定義によって全く別の制御となってしまうことは技術常識である。
よって、請求項1-9に係る発明は明確でない。
【理由2について】
上述したとおり、発明の詳細な説明に記載されている、機能パラメータ、基準、重み特性マップ、最適化プログラム、重み特性マップ、機能特性マップとはどのようなものであるのか、最適パラメータのモデルとはどのようなモデルであるのか依然として不明である。そして、例えば「制御装置内で利用可能な最適パラメータのモデルが目標変数についての重み特性マップと共に提供される」等の記載では、どのようなモデルがどのよに提供されるのか理解困難であることが技術常識であり、出願時の技術常識を考慮すると、請求項1-9に係る発明はどうすれば実施できるのか当業者が理解できない。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1-9に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
【理由3について】
出願人は意見書において「本願請求項1に係る発明は、自動車の動作を記述する、少なくとも2つの目標変数の入力を許す重み特性マップ及び最適パラメータのモデルを用いて車両のための制御装置の機能パラメータを設定する点で、上記各引用文献で開示された発明と相違しています。」「上記各引用文献には、最適パラメータのモデルが、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における目標変数の全てのトレードオフを含む点は、何らの記載も示唆もされておりません。」と主張している。
理由1、2で検討したとおり本願発明は不明瞭な点が多いが、出願人の上記主張を参酌すると本願のポイントは、複数のパラメータを制御する場合に二律背反となる場合であっても妥当な制御に落ち着かせることと思われる。
しかし、そのような技術事項は制御の調停等と呼ばれる周知技術であるから、本願請求項1-9に係る発明は、先の拒絶理由通知書で引用した引用例記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものというべきである。」

2 平成25年3月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由
平成25年3月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、次のとおりである。

「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
【理由1について】
請求項1に記載されている「機能パラメータ」「重み特性マップ」「最適パラメータ」「モデル」とは、如何なるパラメータやマップやモデルであるのか不明であると共に、「対応付けが行われ」「割当が行われ」とは、如何なる対応付けや割当であるのか不明である。そして、これらのパラメータやモデルの内容、対応付けや割当如何により全く別の制御となってしまうことが技術常識である。これは、請求項2-9においても同様である。
よって、請求項1-9に係る発明は明確でない。
【理由2について】
発明の詳細な説明に記載されている、機能パラメータ、基準、重み特性マップ、最適化プログラム、重み特性マップ、機能特性マップとはどのようなものであるのか、最適パラメータのモデルとはどのようなモデルであるのか不明である。そして、例えば「制御装置内で利用可能な最適パラメータのモデルが目標変数についての重み特性マップと共に提供される」との記載では、どのようなモデルがどのよに提供されるのか理解困難であることが技術常識であり、出願時の技術常識を考慮すると、請求項1-9に係る発明について、どのように実施するかを当業者が理解できない。
したがって、発明の詳細な説明は、請求項1-9に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
【理由3について】
・請求項 1-9
・引用文献等 1-2
・備考
特性マップにより制御プログラムを適合させて内燃機関を制御する方法及び制御装置は、引用例1(特に【0018】-【0027】参照)に記載されている。また、引用例2にも同様の発明が記載されている。
本願請求項1-9に係る発明は、引用例1、引用例2に記載されている発明に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものである。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2007-48294号公報
2.米国特許出願公開第2002/0111719号明細書」

第4 審判請求書の概要
審判請求書の概要は、次のとおりである。

「【請求の趣旨】 原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求める。
【請求の理由】
【手続の経緯】
・・・(略)・・・
【拒絶査定の要点】
・・・(略)・・・
【本願発明が特許されるべき理由】
しかしながら、この出願にかかる発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないため、今般、原査定を取り消す、本願発明は特許すべきものである、との審決を求める審判請求に及んだ次第である。
(1)この出願が特許されるべき理由
(1-1) 理由1、2について
原査定において、
「出願人は意見書において、「基準」とは要求の一例であり、「機能特性マップ」とはマップのことであり、「最適パラメータ」とは最適化の処理により得られたパラメータであり、「モデル」とは物理モデルのことであると説明しているが技術的内容の説明になっていない。また、「重み特性マップ」や「対応付け」「割当」等についての説明は、本願請求項や明細書中の記載の抜粋に過ぎず、依然として技術内容を理解し難い。」
「上述したとおり、発明の詳細な説明に記載されている、機能パラメータ、基準、重み特性マップ、最適化プログラム、重み特性マップ、機能特性マップとはどのようなものであるのか、最適パラメータのモデルとはどのようなモデルであるのか依然として不明である。そして、例えば「制御装置内で利用可能な最適パラメータのモデルが目標変数についての重み特性マップと共に提供される」等の記載では、どのようなモデルがどのように提供されるのか理解困難であることが技術常識であり、出願時の技術常識を考慮すると、請求項1-9に係る発明はどうすれば実施できるのか当業者が理解できない。」
と指摘された。
原査定におけるこれらの指摘に対して回答する。
まず本願発明は、車両内の内燃機関の噴射システムを制御するための制御装置及びその制御装置の機能パラメータを設定する方法の発明である(段落0001、0002等参照)。
「基準」とは、目標変数と関係しており、例えば、出願当初の明細書には、自動車の性質または特性についての特性データであり、製造業者又はエンドユーザの要求の一例であることが示されている(段落0002)。
「機能特性マップ」は、機能パラメータを決定するためのマップのことである(段落0004)参照。なお「機能パラメータ」は、請求項1の記載から「車両のための制御装置」のパラメータを指していることが明らかであり、「機能パラメータ」の例として、出願当初の明細書には、「機能パラメータ」の例として出願当初の明細書には、「時定数」「増幅率」「作動閾値」が挙げられており、排出量、エンジン出力、及び、消費に関する挙動について、機能パラメータとして、それぞれ噴射圧力、レール圧力、排気再循環、及び、弁の位置が用いられており、またはこれらから導出されるものである(段落0002)。
「最適パラメータ」は、最適化の処理により得られたパラメータであり、例えば出願当初の明細書には、「特性マップ、多次元データモデル、又は、最適パラメータのリストの形態により作成される」ものであることが記載されている(段落0026)。そして本願発明では、「最適パラメータの集合」を「機能パラメータ」として設定しているものである。
「モデル」とは、いわゆる数理モデルである。従って「最適パラメータのモデル」は、測定されるべき物理的システムを記述した、数学的なモデルの使用により生成され得るモデルである。
本願発明では、この数学的なモデルと共に、複数の基準の最適化アルゴリズムが、2つ以上の競合している目標変数または基準の間の最適なトレードオフを探すために使用される。競合している目標変数または基準では1つも解が存在しない(理論上は、いわゆるパレート最適解の無限の数が存在する)。1つの目標変数または基準が、他の基準の低下なしに改善させることが出来ないそれぞれの解はパレート最適と呼ばれる。
「最適パラメータのモデル」は、重み付けられてないパレート最適の基準値を、制御装置機能により設定された実際のパラメータに結びつけるデータセットのことである。
本願の明細書には、設定値(56)から制御偏差(58)が得られ、制御偏差(58)からレギュレータ(60)を介して重み(62)が得られ、重み(62)を「最適パラメータのモデル」(64)に入力することで最適パラメータの集合(66)が得られる例が記載されている(段落0036、図2)。
「重み特性マップ」は、請求項1の記載から「少なくとも1つの目標変数が設定される」マップであるとともに、「最適パラメータへのモデル」への対応付けが行われているマップであり、かつ「機能パラメータとして設定される最適パラメータの集合に対する、少なくとも1つの予め設定された目標変数の割り当てが行われる」マップであることが分かる。
ユーザは、例えば、自動車の動作が記述される目標変数を、重み特性マップへ入力することが出来る。なお、重み特性マップの最適パラメータへのモデルへの対応付けについては、出願当初の明細書の段落0027に例が記載されている。
重み特性マップに関連して、最適パラメータのモデルを使用し、様々な機能特性ダイアグラムやマップを使用する替わりに1つまたは少数の重み特性マップを使用することで、自動車の動作の制御が可能になる。重み特性マップには最適パラメータへのモデルが対応付けられており、すなわち、機能パラメータとして設定される最適パラメータの集合に対する、少なくとも1つの予め設定された目標変数の割り当てが行われていることで、機能の設計が簡素化されるという効果をもたらす(段落0031参照)。
「最適化プログラム」は、例えば、「全ての必要な目標変数及び/又は基準(矢印16)に対する多目的最適化を、利用可能な機能パラメータ(矢印18)を用いて実行するもの」である(段落0024)。
以上から、機能パラメータ、基準、重み特性マップ、最適化プログラム、重み特性マップ、機能特性マップとはどのようなものであるのか、最適パラメータのモデルとはどのようなモデルであるのかが、明らかであると確信する次第である。
従って、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものである、
(1-2) 理由3について
(1-2-1) 本願発明の特徴
本願の請求項1は、
車両のための制御装置(200)の機能パラメータを設定する方法であって、
少なくとも1つの重み特性マップ(40、204)では、少なくとも1つの目標変数が予め設定され、
前記少なくとも1つの目標変数は前記車両の挙動を表し、
前記少なくとも1つの重み特性マップ(40、204)では、最適パラメータのモデル(32、64、206)への対応付けが行われ、
従って、機能パラメータとして設定される最適パラメータの集合に対する、少なくとも1つの予め設定された目標変数の割り当てが行われ、
前記少なくとも1つの重み特性マップ(40、204)では、少なくとも2つの目標変数が設定され、
前記最適パラメータのモデルは、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における前記目標変数の全てのトレードオフを含む、方法についての発明である。
また本願の請求項4は、
最適パラメータのモデル(32、64、206)が格納されたメモリユニットを有し、前記最適パラメータのモデルは、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における前記目標変数の全てのトレードオフを含む、車両のための制御装置についての発明である。
また本願の請求項6は、
最適パラメータのモデル(32、64、206)を計算する方法であって、目標変数を満たすパラメータ集合への前記目標変数の対応づけが行われ、前記最適パラメータのモデルは、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における前記目標変数の全てのトレードオフを含む、方法についての発明である。
(1-2-2) 引用発明の説明
引用文献1は、技術的な過程を制御する装置を開示している。
引用文献2は、複数の異なる車両のバージョンのために設計され、車両のための多くの制御パラメータへのアクセスを有する、車両のコントローラ及び制御方法を開示している。
(1-2-3) 本願発明と引用発明との対比
引用文献1には、特性構造を用いて、内燃機関を制御する方法及び制御する装置の発明が記載されている。
引用文献2には、自動車のコントローラをカスタマイズするための自動車のバージョンをバージョンコーディングするステップと、バージョンコーディングの複数のビット位置のアルゴリズム的処理により、自動車のバージョンの制御パラメータを選択するステップとを備える制御方法が記載されている。
しかし、上記各引用文献1、2には、自動車の動作を記述する、少なくとも2つの目標変数の入力を許す重み特性マップ及び最適パラメータのモデルについて、何らの記載も示唆もされていない。
これに対して本願発明は、自動車の動作を記述する、少なくとも2つの目標変数の入力を許す重み特性マップ及び最適パラメータのモデルを用いて車両のための制御装置の機能パラメータを設定する点で、上記各引用文献で開示された発明と相違している。
この特徴は、様々なコントローラのパラメータをチューニングする替わりに、最適パラメータのモデルにリンクされた重み特性マップの中の目標変数を与えることで、自動車の動作を制御するための便利な方法を可能にするという、上記各引用文献で開示された発明にはない格別な効果を奏する。
また上記各引用文献には、最適パラメータのモデルが、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における目標変数の全てのトレードオフを含む点は、何らの記載も示唆もされていない。
これに対して本願発明は、最適パラメータのモデルが、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における目標変数の全てのトレードオフを含む点で、上記各引用文献で開示された発明と相違している。
本願に係る発明は、最適パラメータのモデルが、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における目標変数の全てのトレードオフを含むことで、以下の様な効果をもたらす。
例えば、自動車の運転のし易さの機能の測定プロセスでは、「ダイナミクス(力強さ)」と「走行快適性」という基準の競合が存在する場合、たった1つの重み要素を変更することで、「非常にダイナミック」から「非常に快適」へ、自動車の動作をシームレスに変更することが可能になる。運転動作の結果は、「ダイナミクス」と「走行快適性」の基準の間のトレードオフに関するパレート最適である。なぜならば、最適パラメータのモデルは、制御装置の、運転のしやすさの機能の一連のパラメータが使用されるからである。
本願に係る発明は、車の制御ユニットの完全な最適パラメータのモデルが保存され、また、基準/オブジェクトの間の重みを変更する制御ループの追加による、オペレーションの間の車の動作のシームレスな変更も可能になる。
原査定において、
「理由1、2で検討したとおり本願発明は不明瞭な点が多いが、出願人の上記主張を参酌すると本願のポイントは、複数のパラメータを制御する場合に二律背反となる場合であっても妥当な制御に落ち着かせることと思われる。しかし、そのような技術事項は制御の調停等と呼ばれる周知技術である。」
と指摘された。
しかし上述したように、上記引用文献には少なくとも2つの目標変数の入力を許す重み特性マップ及び最適パラメータのモデルについて、何らの記載も示唆もされていない。仮に制御の調停が周知技術であったとしても、その制御の調停には様々な手法が考えられるのは明らかである。従って、単に制御の調停が周知技術であるからといって、上記引用文献に記載された発明から本願発明へ想到することが容易であると言えるものではない。
上記引用文献に記載された発明から本願発明へ想到することが容易であるとするには、発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく、本願発明の特徴点に到達できる試みをしたはずであるという示唆等の存在が当該引用文献において、必要であるというべきものである。本願の各請求項にかかる発明は、上記引用文献に記載の発明とは上述のような相違点を有しており、これら相違点は上記引用文献には何らの記載も示唆もされていない。従って、本願の各請求項にかかる発明は上記引用文献に記載された発明から容易に想到し得るものではないものと確信する次第である。
(2)むすび
従ってこの出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。よって、原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求める。」

第5 当審の判断
そこで、原査定の拒絶の理由が解消しているかどうかについて、検討する。

1 理由1(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求項1ないし3について
請求項1には、上記第2の【請求項1】のとおり記載されているが、該記載では、「重み特性マップ(40、204)」は「少なくとも1つの目標変数」がどのように設定されるマップなのか、「重み特性マップ(40、204)」では「最適パラメータのモデル(32、64、206)」への「対応付け」がどのように行われるのか、「機能パラメータとして設定される最適パラメータの集合」に対する「少なくとも1つの予め設定された目標変数」の「割り当て」がどのように行われるのか及び「重み特性マップ(40、204)」は「少なくとも2つの目標変数」がどのように設定されるマップなのかが明確でないし、発明の詳細な説明の記載をみても明確でない。また、これらが、本願出願時に当業者にとって技術常識であったともいえない。
これに対し、請求人は、審判請求書において、「「最適パラメータのモデル」は、重み付けられてないパレート最適の基準値を、制御装置機能により設定された実際のパラメータに結びつけるデータセットのことである。
本願の明細書には、設定値(56)から制御偏差(58)が得られ、制御偏差(58)からレギュレータ(60)を介して重み(62)が得られ、重み(62)を「最適パラメータのモデル」(64)に入力することで最適パラメータの集合(66)が得られる例が記載されている(段落0036、図2)。「重み特性マップ」は、請求項1の記載から「少なくとも1つの目標変数が設定される」マップであるとともに、「最適パラメータへのモデル」への対応付けが行われているマップであり、かつ「機能パラメータとして設定される最適パラメータの集合に対する、少なくとも1つの予め設定された目標変数の割り当てが行われる」マップであることが分かる。
ユーザは、例えば、自動車の動作が記述される目標変数を、重み特性マップへ入力することが出来る。なお、重み特性マップの最適パラメータへのモデルへの対応付けについては、出願当初の明細書の段落0027に例が記載されている。
重み特性マップに関連して、最適パラメータのモデルを使用し、様々な機能特性ダイアグラムやマップを使用する替わりに1つまたは少数の重み特性マップを使用することで、自動車の動作の制御が可能になる。重み特性マップには最適パラメータへのモデルが対応付けられており、すなわち、機能パラメータとして設定される最適パラメータの集合に対する、少なくとも1つの予め設定された目標変数の割り当てが行われていることで、機能の設計が簡素化されるという効果をもたらす(段落0031参照)。」と述べているが、「重み特性マップ(40、204)」、「対応付け」及び「割り当て」がどのようなものかを具体的に説明しておらず、「重み特性マップ(40、204)」は「少なくとも1つの目標変数」がどのように設定されるマップなのか、「重み特性マップ(40、204)」では「最適パラメータのモデル(32、64、206)」への「対応付け」がどのように行われるのか、「機能パラメータとして設定される最適パラメータの集合」に対する「少なくとも1つの予め設定された目標変数」の「割り当て」がどのように行われるのか及び「重み特性マップ(40、204)」は「少なくとも2つの目標変数」がどのように設定されるマップなのかも具体的に説明していない。また、明細書の段落【0036】及び図2に記載されているとする「設定値(56)から制御偏差(58)が得られ、制御偏差(58)からレギュレータ(60)を介して重み(62)が得られ、重み(62)を「最適パラメータのモデル」(64)に入力することで最適パラメータの集合(66)が得られる例」における「設定値(56)」、「制御偏差(58)」、「レギュレータ(60)」及び「重み(62)」等の事項と請求項1に記載された個々の発明特定事項との対応関係も説明しておらず、請求項1に記載された発明特定事項を明確にしているとはいえない。さらに、「重み特性マップの最適パラメータへのモデルへの対応付け」の例が記載されているとする明細書の段落【0027】には、「この最適パラメータのモデル32を制御装置内に格納する場合には、動作点に依存した特性マップを介して、目標変数の所望の重み付けが設定され、この目標変数は、最適パラメータのモデル32の入力として、この動作点に最適パラメータ自体を出力し、後に制御装置機能において利用される。重み特性マップは例えば、動作点ごとに、全ての目標変数及び/又は基準の重みのフィールド(Feld)又は配列(Array)を含むことが可能であり、場合によっては、動作点に依存した1?2つの重み特性マップ40が存在する。さらに、重み特性マップは目標変数ごとに利用されうる。その場合、動作点に依存したn個の機能特性マップ42が存在する。」と記載され、「目標変数は、最適パラメータのモデル32の入力として、この動作点に最適パラメータ自体を出力」されること、「動作点に依存した1?2つの重み特性マップ40が存在する」こと及び「重み特性マップは目標変数ごとに利用されうる」こと等が記載されているが、「重み特性マップ」の「最適パラメータへのモデル」への「対応付け」がどのように行われるのかについては記載されているとはいえない。
したがって、請求項1の記載は、依然として、明確でなく、請求項1に係る発明並びに請求項1を引用する請求項2及び3に係る発明は明確でない。

(2)請求項6ないし9について
請求項6には、上記第2の【請求項6】のとおり記載されているが、該記載では、「目標変数を満たすパラメータ集合」への「前記目標変数」の「対応づけ」がどのように行われるのかが明確でないし、発明の詳細な説明の記載をみても明確でない。また、これが、本願出願時に当業者にとって技術常識であったともいえない。
なお、請求人は、審判請求書において、「目標変数を満たすパラメータ集合」への「前記目標変数」の「対応づけ」がどのようなものかについては、説明していない。
したがって、請求項6の記載は、依然として、明確でなく、請求項6に係る発明及び請求項6を引用する請求項7ないし9に係る発明は明確でない。

(3)むすび
以上のとおり、特許請求の範囲の記載は、請求項1ないし3及び6ないし9に係る発明が明確であるとはいえず、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 理由2(特許法第36条第4項第1号)について
(1)請求項1ないし3について
請求項1には、上記第2の【請求項1】のとおり記載されているが、発明の詳細な説明に、「重み特性マップ(40、204)」は「少なくとも1つの目標変数」がどのように設定されるマップなのか、「重み特性マップ(40、204)」では「最適パラメータのモデル(32、64、206)」への「対応付け」がどのように行われるのか、「機能パラメータとして設定される最適パラメータの集合」に対する「少なくとも1つの予め設定された目標変数」の「割り当て」がどのように行われるのか及び「重み特性マップ(40、204)」は「少なくとも2つの目標変数」がどのように設定されるマップなのかについて、何ら具体的に記載されていないし、本願出願時に当業者にとって技術常識であったともいえない。
また、上記第5 1(1)のとおり、審判請求書においても、具体的に説明されていない
したがって、発明の詳細な説明の記載は、依然として、当業者が請求項1に係る発明並びに請求項1を引用する請求項2及び3に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(2)請求項6ないし9について
請求項6には、上記第2の【請求項6】のとおり記載されているが、発明の詳細な説明に、「目標変数を満たすパラメータ集合」への「前記目標変数」の「対応づけ」がどのように行われるのかについて、何ら具体的に記載されていないし、本願出願時に当業者にとって技術常識であったともいえない。
また、上記第5 1(2)のとおり、審判請求書においても、具体的に説明されていない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、依然として、当業者が請求項6に係る発明及び請求項6を引用する請求項7ないし9に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(3)むすび
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1ないし3及び6ないし9に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 理由3(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献の記載等
ア 引用文献の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2007-48294号公報(以下、「引用文献」という。)には、「技術的な過程を制御する装置および技術的な過程を制御するためのデータを作成する方法ならびに当該データを作成する装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、「記載1a」という。)。

1a 「【0018】
図1には技術的な過程を制御する装置1が概略的に示されており、これを以下では制御装置1と記す。制御装置1により、制御信号が形成され、この制御信号により、出力線路2を介して技術的な過程ないしは別の技術的な装置が制御される。このような技術的な過程の典型的な例は、例えば自動車の原動機の制御である。制御装置1は、ここに図示しない入力線路によって多数の信号を読み込み、例えばドライバによって操作されるアクセルペダルの位置なども読み込まれる。これらの入力量に依存して制御装置1は、相応する制御信号を計算し、これらの制御信号は出力線路2を介して、例えばスロットルバルブ、噴射バルブ、燃料ポンプ、点火プラグなどに出力されて、内燃機関が相応に駆動制御される。計算のために制御装置1には計算機3が設けられており、これはバスシステム4を介して記憶装置10に接続されている。記憶装置10には、図1に図示していない制御のための実際のプログラムの他にデータセット5,6,7が記憶されており、これらには制御情報が含まれている。基本的には上記の制御プログラムにより、入力データから技術的な過程に対する制御データをどのように形成するかという計算手法が設定される。ここでデータセット5,6,7は、具体的に制御すべき技術的な過程の固有の諸状況に上記の制御プログラムを適合させるために使用される。
【0019】
内燃機関の場合、このことが意味するのは、上記のプログラムにより、入力量と出力量との間の所定の基本的な依存関係を設定することである。データセット5,6,7により、上記の制御プログラムは具体的な内燃機関に適合される。データセット5,6,7は有利にはいわゆる特性構造として記憶され、これら特性構造により、所定の入力データに所定の出力データが対応付けられるのである。
【0020】
このような特性構造の最も簡単なケースは特性曲線である。すなわち入力量の1つの値に1つの出力量が対応付けられるのである。ここではいわゆるグリッド点(Stuetzstelle)において、入力量に対する点状の値に、出力量に対する点状の値が対応付けられる。実際の入力量が、2つのグリッド点の間の値をとる場合、補間により、これらの2つのグリッド点の間で出力量に対する値が補間される。上記のような特性構造の別の例はいわゆる特性マップであり、ここでは2つの入力量に1つの出力量が対応付けられる。グリッド点では2つの入力量からなる値の対毎に、出力量に対する値が1つ対応付けられる。グリッド点の間にある入力量においては、出力量はここでも補間により、周囲のグリッド点の出力値から求められる。別の特性構造は特性空間であり、ここでは3つにの入力量が1つの出力量に対応付けられる。ここでグリッド点は、入力量に対する3つの値からなり、これらに出力量に対する値が1つ対応付けられる。特性曲線、特性マップおよび特性空間はそれぞれ1,2または3次元の特性構造とも称される。
【0021】
したがって特性構造は、1つまたは複数の入力量に1つの出力量が対応付けられるデータセットから構成される。グリッド点間の間隔がどの程度細かく設計されているか、ないしは入力次元(Eingangsdimension)の数に応じて、相応する特性構造は、格段に大きな記憶装置を必要とすることがある。しかしながら少なくとも内燃機関における適用に対して判明したのは、制御装置1を、制御すべきである具体的な内燃機関に適合させる際には再三再四つぎのような状況が発生することである。すなわち、個々の特性構造は比較的簡単に構成されるため、特性構造が大きな記憶装置必要量にならないという状況が発生することが判明したのである。この場合、このような特性構造は、簡単な数学的な関数により、またはより次元の低い特性構造によって格段に簡単に表すことができるのである。
【0022】
本発明において提案されるのは、このような状況を利用し、またデータセットを都度の状況に適合させることである。したがって本発明では各データセット5,6,7にタイプスイッチ(Typschalter)を割り当て、このスイッチによって、データセット5,6,7にどのような形態でデータを記憶するかを示すのである。
【0023】
ここでは特性構造として記憶する代わりに、簡単な関数のパラメタを記憶する。出力量Aと入力量Eとの関係は、例えば
A = c+b*E または
A = c+b*E+d*E^(2) または
A = c+b*E+d*E^(0.5)
または別の関係式によって示すことができる。
【0024】
したがってタイプ指示子(Typzeiger)によって示すことができるのは、どの形態の関数であるかであり、またこの場合にデータセット5,6,7において関数パラメタに対する値、すなわち定数b,c,d等が示されるのである。
【0025】
さらに上記の関数を
A = c+Eb+Ed+…
の形態の多項式として示すことも可能である。この場合、上記のデータセットにおいて係数b,c,d,…に対する値が示される。
【0026】
相応に多次元の関数を示すことも可能であり、ここではこれらの関数により、入力量E1およびE2に
A = c+b*E1+d*E2
の形態の出力量Aが対応付けられる。
【0027】
さらに上記のタイプスイッチを使用して、特性構造がどのようになっているかを示すことができる。例えば、1次元、2次元、3次元または場合によってより一層高い次元の特性構造であるかを示すことができるのである。さらに上記のタイプスイッチにより、複数の入力次元のうちのいずれを使用したかを示すことができる。例えば、1特性構造は基本的に3つの次元、すなわち温度、エンジン回転数および負荷を入力次元として有することができる。この場合、タイプスイッチによって、温度および回転数だけを使用することを示すことができる。さらにタイプスイッチによって、グリッド点の数を示すことできる。
【0028】
この方法において最初から必要であり、ただ1つ決まっているのは、いずれの入力量に出力量が依存し得るかということである。例えば、噴射すべき燃料量は、エンジン回転数、アクセルペダル位置および燃料温度に依存し得る。しかしながら、上記のタイプスイッチを介して、これらのすべての量に実際には依存しない特性構造を選択するか、または選択した関数の個々のパラメタをゼロに設定して、個々の入力量に対する依存性を停止することができる。
【0029】
さらに、上記のタイプスイッチによって混合形態が示されるようにすることも可能である。すなわち情報が、所定のデータ領域に対しては関数として、また別のデータ領域に対しては特性構造の形態で示されるようにすることも可能である。例えば、原動機の空気量の制御を1500の回転数までは特性構造として、またより高い回転数において関数として示すことができるのである。計算は基本的に関数であるが、関係の一部分が特性構造によって示される場合、別の混合形態が得られる。このような例として考えられるのは、出力値が温度および回転数に依存しており、温度への依存性が多項式として、また回転数への依存性が特性曲線として記憶されている状況である。」(段落【0018】ないし【0029】)

イ 引用文献の記載事項
記載1a及び図面から、引用文献には、次の事項が記載されていると認める(以下、順に、「記載事項1b」及び「記載事項1c」という。)。

1b 記載1aの「制御装置1により、制御信号が形成され、この制御信号により、出力線路2を介して技術的な過程ないしは別の技術的な装置が制御される。このような技術的な過程の典型的な例は、例えば自動車の原動機の制御である。制御装置1は、ここに図示しない入力線路によって多数の信号を読み込み、例えばドライバによって操作されるアクセルペダルの位置なども読み込まれる。これらの入力量に依存して制御装置1は、相応する制御信号を計算し、これらの制御信号は出力線路2を介して、例えばスロットルバルブ、噴射バルブ、燃料ポンプ、点火プラグなどに出力されて、内燃機関が相応に駆動制御される。」(段落【0018】)及び図面によると、引用文献には、自動車のための制御装置1が記載されている。

1c 記載1aの「計算のために制御装置1には計算機3が設けられており、これはバスシステム4を介して記憶装置10に接続されている。記憶装置10には、図1に図示していない制御のための実際のプログラムの他にデータセット5,6,7が記憶されており、これらには制御情報が含まれている。基本的には上記の制御プログラムにより、入力データから技術的な過程に対する制御データをどのように形成するかという計算手法が設定される。ここでデータセット5,6,7は、具体的に制御すべき技術的な過程の固有の諸状況に上記の制御プログラムを適合させるために使用される。」(段落【0018】)及び「【0022】
本発明において提案されるのは、このような状況を利用し、またデータセットを都度の状況に適合させることである。したがって本発明では各データセット5,6,7にタイプスイッチ(Typschalter)を割り当て、このスイッチによって、データセット5,6,7にどのような形態でデータを記憶するかを示すのである。
【0023】
ここでは特性構造として記憶する代わりに、簡単な関数のパラメタを記憶する。出力量Aと入力量Eとの関係は、例えば
A = c+b*E または
A = c+b*E+d*E^(2) または
A = c+b*E+d*E^(0.5)
または別の関係式によって示すことができる。
【0024】
したがってタイプ指示子(Typzeiger)によって示すことができるのは、どの形態の関数であるかであり、またこの場合にデータセット5,6,7において関数パラメタに対する値、すなわち定数b,c,d等が示されるのである。
【0025】
さらに上記の関数を
A = c+Eb+Ed+…
の形態の多項式として示すことも可能である。この場合、上記のデータセットにおいて係数b,c,d,…に対する値が示される。
【0026】
相応に多次元の関数を示すことも可能であり、ここではこれらの関数により、入力量E1およびE2に
A = c+b*E1+d*E2
の形態の出力量Aが対応付けられる。」(段落【0022】ないし【0026】)並びに図面によると、引用文献には、出力量Aと入力量Eとの関係を示す関係式の関数パラメタに対する値、すなわち定数b,c,d等が示されるデータセット5,6,7が記憶された記憶装置10を有した制御装置1が記載されている。

ウ 引用発明
記載1a、記載事項1b及び1c並びに図面を整理すると、引用文献には、次の発明が記載されていると認める(以下、「引用発明」という。)。

「出力量Aと入力量Eとの関係を示す関係式の関数パラメタに対する値、すなわち定数b,c,d等が示されるデータセット5,6,7が記憶された記憶装置10を有した自動車のための制御装置1。」

(2)対比
請求項4に係る発明と引用発明を対比する。

引用発明における「出力量Aと入力量Eとの関係を示す関係式の関数パラメタに対する値、すなわち定数b,c,d等が示されるデータセット5,6,7」は、記載1aの「ここでデータセット5,6,7は、具体的に制御すべき技術的な過程の固有の諸状況に上記の制御プログラムを適合させるために使用される。」(段落【0018】)によると、具体的に制御すべき技術的な過程の固有の諸状況に制御プログラムを適合させるために使用される出力量Aと入力量Eとの関係を示す関係式の関数パラメタに対する定数b,c,d等が示されるデータセットであるから、具体的に制御すべき技術的な過程の固有の諸状況に最適なものであるといえるので、請求項4に係る発明における「最適パラメータのモデル(32、64、206)」と、「最適パラメータのモデル」という限りにおいて一致する。
また、引用発明における「記憶された」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、請求項4に係る発明における「格納された」に相当し、以下、同様に、「記憶装置10」は「メモリユニット」に、「自動車のための制御装置1」は「車両のための制御装置」に、それぞれ、相当する。

したがって、両者は、
「最適パラメータのモデルが格納されたメモリユニットを有した車両のための制御装置。」
である点で、一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
「最適パラメータのモデル」に関して、請求項4に係る発明においては、「最適パラメータのモデル(32、64、206)」であって、「前記最適パラメータのモデルは、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における前記目標変数の全てのトレードオフを含む」であるのに対して、引用発明においては、「出力量Aと入力量Eとの関係を示す関係式の関数パラメタに対する値、すなわち定数b,c,d等が示されるデータセット5,6,7」であるところ、請求項4に係る発明のようなものであるか明らかではない点(以下、「相違点」という。)。

(3)相違点についての判断
引用発明において、「出力量Aと入力量Eとの関係を示す関係式の関数パラメタに対する値、すなわち定数b,c,d等が示されるデータセット5,6,7」に、具体的に制御すべき技術的な過程の固有の諸状況の全てに適合できるように、全てのデータセットを含むようにすることは、当業者であれば当然試みることである。
また、車両のための制御装置において、パラメータのモデルを用いて、トレードオフの関係にある複数の目標変数を制御することは周知である(必要であれば、下記アを参照。以下、「周知技術」という。)。
さらに、記載1aの「このような技術的な過程の典型的な例は、例えば自動車の原動機の制御である。制御装置1は、ここに図示しない入力線路によって多数の信号を読み込み、例えばドライバによって操作されるアクセルペダルの位置なども読み込まれる。これらの入力量に依存して制御装置1は、相応する制御信号を計算し、これらの制御信号は出力線路2を介して、例えばスロットルバルブ、噴射バルブ、燃料ポンプ、点火プラグなどに出力されて、内燃機関が相応に駆動制御される。」(段落【0018】)によると、引用発明は、スロットルバルブ、噴射バルブ、燃料ポンプ、点火プラグなど
を制御する原動機の制御に関するものであるから、引用発明において、全ての必要な動作点(明細書の段落【0017】によると、「動作点」は、例えば、選択されたギア、エンジン回転数及び負荷である。)で制御を行うようにすることは、当然である。
したがって、引用発明において、具体的に制御すべき技術的な過程の固有の諸状況の全てに適合できるように、全てのデータセットを含むようにし、その際に、周知技術を適用して、全ての最適パラメータ、全ての必要な動作点における目標変数の全てのトレードオフを含むようにして、相違点に係る請求項4に係る発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、請求項4に係る発明を全体としてみても、請求項4に係る発明が、引用発明及び周知技術からみて格別顕著な効果を奏するともいえない。

ア 特表2009-504988号公報の記載
本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特表2009-504988号公報(公表日:2009年(平成21年)2月5日))には、「エミッションセンサによるエンジンの燃料制御」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(なお、下線は当審で付したものである。)。

・「【0010】
NOx及びPM両方の低減が好ましいであろう。ディーゼルエンジンに対し行われる大部分の変化について、エンジン出口のPMの低減が一般にエンジン出口のNOxの増加を伴い、またその逆もあるように、NOxとPMとの間に基本的なトレードオフ(tradeoff;関係)があり得る。図1では、横座標はPMの大きさを示し、縦座標はエンジン排気ガス内のNOxの大きさを示している。エンジンのPMとNOxのエミッションは、曲線11で示すことができる。面積12は、エンジン排気ガスの最大エミッションを表している。PMセンサは、曲線11のPM部分を特徴づけるのに適しているであろう(一般にリッチな燃焼、高い排気ガス再循環(EGR)レートその他と関連して)。
・・・(略)・・・
【0013】
図3は、エンジン排気14のエミッションに少なくとも部分的に基づくエンジン13の燃料制御システム10を示している。ペダル入力15は、車両又は他のある機構を駆動するために使用し得るエンジン13の出力のスピードを制御するためのスピードマップ16に接続可能である。エンジン出力17のスピードは、スピードセンサ18によって検出し得る。センサ18は、スピードの指標19をスピードマップ16に提供し得る。スピードマップ16は、ペダル信号15とスピード信号19とを組み合わせて、燃料制御信号21を燃料レートリミッタ、燃料コントローラ又は他のコントローラ22に提供し得る。
【0014】
排気14内に配置されたNOxセンサ23は、排気14内で感知されたNOxの量を示す信号25を提供し得る。PMセンサ24は、排気14内に配置されて、排気14内で感知されるPMの量を示す信号26を提供し得る。コントローラ22は、信号21、25と26を処理して、エンジン13の燃料噴射器及び/又は他のアクチュエータ等のアクチュエータ28への出力信号27にすることができる。信号27は、燃料提供のタイミング、燃料量、多噴射イベント(event;事象)等のエンジン13の制御に関係する情報を含んでもよい。信号27は、エンジン制御ユニット26に行くことが可能であり、エンジン制御ユニットは、次に、適切な操作のためにエンジン11の様々なパラメータを感知して、制御することが可能である。燃料制御、エミッション制御、エンジン制御等のために、SOxセンサ等の他のエミッションセンサを本発明のシステム10に利用してもよい。
・・・(略)・・・
【0016】
図3では、信号25と26は、燃料レートリミッタ、燃料コントローラ又はコントローラ22に排気14内のNOxとPMの量を示すことができる。コントローラ22は、排気14内のNOxとPMのエミッションを制御するか又は制限するように、エンジン13への燃料噴射又は供給、及び/又は他のパラメータを調節又は制御するためのものであり得る。エミッションは、図1の曲線11の部分31によって表されるように維持し得る。NOxとPMとの間のトレードオフは、一般に、PMの低減がNOxの増加を伴い、その逆もあり得ることを意味する。PMセンサ24は、曲線11の部分32の情報に依存し得る。NOxセンサ23は、曲線11の部分33の検知情報に依存し得る。両方のセンサ23と24は、曲線11の部分31の排気14内のエミッション出力を達成するために、情報を組み合わせて提供し得る。
・・・(略)・・・
【0018】
場合によっては、コントローラ22は、多変数モデル予測コントローラ(MPC)であってもよい。MPCは、エンジン動作の動的プロセスのモデルを含み、制御変数及び測定出力変数の制約を受けるエンジンに予測制御信号を提供することができる。モデルは、用途に応じて、静的及び/又は動的であり得る。場合によっては、モデルは、1つ以上の入力信号u(t)から1つ以上の出力信号y(t)を生成してもよい。動的モデルは、一般に、システムの時間応答に関する情報を加えた静的モデルを含む。したがって、動的モデルは、静的モデルよりも忠実度が高いことが多い。
・・・(略)・・・
【0022】
一例では、MPCは、1つ以上のパラメータ(例えば、エンジンスピード19、NOx26、PM25)のそれぞれに対するエンジンの1つ以上のアクチュエータ(例えば、燃焼供給レート等)の変化の影響をモデル化する多変数モデルを含んでもよく、多変数コントローラは、2つ以上のパラメータの所望の応答を生成するようにアクチュエータを制御してもよい。同様に、モデルは、場合によっては、1つ以上のエンジンパラメータのそれぞれに対する2つ以上のアクチュエータの同時変化の影響をモデル化してもよく、多変数コントローラは、1つ以上のパラメータのそれぞれの所望の応答を生成するようにアクチュエータを制御することが可能である。」(段落【0010】ないし【0022】)

(4)むすび
したがって、請求項4に係る発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
上記第5 1及び2のとおり、本願は特許法第36条第6項第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、本願は拒絶すべきものである。
また、上記第5 3のとおり、請求項4に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-16 
結審通知日 2015-03-17 
審決日 2015-03-31 
出願番号 特願2012-543588(P2012-543588)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 536- Z (F02D)
P 1 8・ 537- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 恭司  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 加藤 友也
佐々木 訓
発明の名称 機能パラメータを設定する方法  
代理人 亀谷 美明  

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