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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J |
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管理番号 | 1304586 |
審判番号 | 不服2014-8696 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-05-12 |
確定日 | 2015-08-20 |
事件の表示 | 特願2009- 3008「ハードコートフィルム、ハードコートフィルムの製造方法、光学素子および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月20日出願公開、特開2009-185282〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本願は,平成21年1月9日(先の出願に基づく優先権主張 平成20年1月11日)にされた特許出願であって,平成25年4月24日付けで拒絶理由が通知され,同年6月7日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され,平成26年2月13日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,同年5月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同月30日付けで同法164条3項の規定による報告がされたものである。 第2 補正の却下の決定 [結論] 平成26年5月12日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 平成26年5月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容 本件補正は特許請求の範囲の全文を変更する補正事項からなるものであるところ,本件補正前後の特許請求の範囲の記載を掲記すると(なお,請求項1以外の請求項の記載を省略する。),それぞれ以下のとおりである。 ・ 本件補正前(平成25年6月7日付け手続補正書) 「透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に,ハードコート層を有するハードコートフィルムであって, 前記透明プラスチックフィルム基材が,ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂の少なくとも一方を含み, 前記ハードコート層が,下記の(A)成分,(B)成分および(C)成分を含むハードコート層形成材料を用いて形成されたものであり, 前記(A)成分が,ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含み, 前記(A)成分,前記(B)成分および前記(C)成分の合計100重量部に対し,前記ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方が,15?50重量部の範囲で配合されていることを特徴とするハードコートフィルム。 (A)成分:ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方 (B)成分:ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートの少なくとも一方 (C)成分:下記(C1)および下記(C2)の少なくとも一方から形成されたポリマー若しくはコポリマーまたは前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー (C1):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート (C2):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレート」 ・ 本件補正後 「透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に,ハードコート層を有するハードコートフィルムであって, 前記透明プラスチックフィルム基材が,ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂の少なくとも一方を含み, 前記ハードコート層が,下記の(A)成分,(B)成分,(C)成分およびシクロペンタノンを含むハードコート層形成材料を用いて形成されたものであり, 前記(A)成分が,ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含み, 前記(A)成分,前記(B)成分および前記(C)成分の合計100重量部に対し,前記ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方が,15?50重量部の範囲で配合されていることを特徴とするハードコートフィルム。 (A)成分:ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方 (B)成分:ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートの少なくとも一方 (C)成分:下記(C1)および下記(C2)の少なくとも一方から形成されたポリマー若しくはコポリマーまたは前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー (C1):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート (C2):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレート」 2 本件補正の目的 まず,本件補正が,特許法17条の2第5項各号に掲げるいずれかの事項を目的とするものであるかについて検討する。 本件補正は,「ハードコート層形成材料」の構成成分について,本件補正前の請求項1に記載の無かった溶媒成分として「シクロペンタノン」を付加的に新たに追加する補正事項を含むものである。 そうすると,この補正事項を含む本件補正は,補正前の特許請求の範囲に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。 よって,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものであるということはできない。また,同項各号掲記の他の事項を目的とするものであるということもできない。 3 独立特許要件違反の有無について 上記2で述べたことを理由として本件補正は却下すべきものであると判断されるが,仮に請求項1についての補正が限定的減縮を目的とするものであるといえるとしたときには,本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)についての検討がなされるべきところ,以下述べるように,本件補正は当該要件に違反するといわざるを得ない。 すなわち,本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)は,本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献3に記載された発明,同引用文献1に記載の技術事項及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(なお,引用文献3及び1は,それぞれ原査定の理由で引用された「引用文献3」及び「引用文献1」と同じである。)。 ・ 引用文献3: 特開2007-290341号公報 ・ 引用文献1: 特開2007-293272号公報 4 本願補正発明 本願補正発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。 「透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に,ハードコート層を有するハードコートフィルムであって, 前記透明プラスチックフィルム基材が,ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂の少なくとも一方を含み, 前記ハードコート層が,下記の(A)成分,(B)成分,(C)成分およびシクロペンタノンを含むハードコート層形成材料を用いて形成されたものであり, 前記(A)成分が,ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含み, 前記(A)成分,前記(B)成分および前記(C)成分の合計100重量部に対し,前記ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方が,15?50重量部の範囲で配合されていることを特徴とするハードコートフィルム。 (A)成分:ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方 (B)成分:ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートの少なくとも一方 (C)成分:下記(C1)および下記(C2)の少なくとも一方から形成されたポリマー若しくはコポリマーまたは前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー (C1):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート (C2):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレート」 5 本願補正発明が特許を受けることができない理由 (1) 引用発明 ア 引用文献3には,次の記載がある。(下線は当合議体による。以下同じ。) ・「【請求項1】 透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に,ハードコート層を有するハードコートフィルムであって,前記ハードコート層が,下記の(A)成分,(B)成分および(C)成分を含むハードコート層形成材料を用いて形成されたものであることを特徴とするハードコートフィルム。 (A)成分:ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートの少なくとも一方 (B)成分:ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方 (C)成分:下記(C1)および下記(C2)の少なくとも一方から形成されたポリマー若しくはコポリマー又は前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー (C1):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート (C2):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレート 【請求項2】 前記(B)成分が,ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含む請求項1記載のハードコートフィルム。… 【請求項9】 透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に,ハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法であって,下記の(A)成分,(B)成分および(C)成分を溶媒に溶解若しくは分散したハードコート層形成材料を準備する工程と,前記透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に,前記ハードコート層形成材料を塗工して塗膜を形成する工程と,前記塗膜を硬化させてハードコート層を形成する工程とを有することを特徴とするハードコートフィルムの製造方法。 (A)成分:ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートの少なくとも一方 (B)成分:ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方 (C)成分:下記(C1)および下記(C2)の少なくとも一方から形成されたポリマー若しくはコポリマー又は前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー (C1):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート (C2):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレート …」(【特許請求の範囲】) ・「本発明は,ハードコートフィルム,ハードコートフィルムの製造方法,光学素子および画像表示装置に関する。」(【0001】) ・「そこで,本発明の目的は,十分な硬度を有し,ハードコート層の割れが防止され,ハードコート層の硬化収縮に起因するカールが防止され,かつ容易に製造することが可能なハードコートフィルム,その製造方法,それを用いた光学素子および画像表示装置を提供することである。」(【0011】) ・「本発明のハードコートフィルムは,前記三つの成分の機能が相俟って,十分な硬度を有し,ハードコート層の割れが防止され,ハードコート層の硬化収縮に起因するカールが防止され,かつ容易に製造することが可能である。すなわち,前記ハードコート層形成材料が,前記(A)成分を含むことにより,例えば,形成されるハードコート層に弾性および可撓性を付与され,前記(B)成分を含むことにより,例えば,形成されるハードコート層の硬度を十分に向上させることができ,かつ耐擦傷性にも優れるようになり,前記(C)成分を含むことにより,例えば,ハードコート層形成の際の硬化収縮を緩和してカールの発生を防止することができる。このように,本発明のハードコートフィルムでは,単層のハードコート層であっても,十分な硬度を有し,ハードコート層の割れが防止され,ハードコート層の硬化収縮に起因するカールが防止されるため,製造工程数を低減することが可能となり,その製造が容易となる。… 本発明のハードコートフィルムおよびその製造方法において,前記(B)成分が,ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含むことが好ましい。これは,十分な硬度および可撓性を維持しつつ,かつカールの発生をより効果的に防止できるからである。」(【0016】?【0017】) ・「前記透明プラスチックフィルム基材は,特に制限されないが,可視光の光線透過率に優れ(好ましくは光線透過率90%以上),透明性に優れるもの(好ましくはヘイズ値1%以下)のものが好ましい。前記透明プラスチックフィルム基材の形成材料としては,例えば,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー,ジアセチルセルロース,トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー,ポリカーボネート系ポリマー,ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー等があげられる。…これらのなかで,光学的に複屈折の少ないものが好適に用いられる。本発明のハードコートフィルムは,例えば,保護フィルムとして偏光板に使用することもでき,この場合には,前記透明プラスチックフィルム基材としては,トリアセチルセルロース,ポリカーボネート,アクリル系ポリマー,環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン等から形成されたフィルムが好ましい。また,本発明において,前記透明プラスチックフィルム基材は,偏光子自体であってもよい。このような構成であると,TAC等からなる保護層を不要とし偏光板の構造を単純化できるので,偏光板若しくは画像表示装置の製造工程数を減少させ,生産効率の向上が図れる。また,このような構成であれば,偏光板を,より薄層化することができる。…」(【0027】) ・「前記(A)成分の配合割合は,特に制限されない。前記(A)成分の使用により,形成されるハードコート層の柔軟性および透明プラスチックフィルム基材に対する密着性を向上させることができる。これらの点およびハードコート層の硬度の観点等から,前記(A)成分の配合割合は,前記ハードコート層形成材料中の樹脂成分全体に対し,例えば,15?55重量%の範囲であり,好ましくは,25?45重量%の範囲である。前記樹脂成分全体とは,(A)成分,(B)成分および(C)成分の合計量,若しくは,その他の樹脂成分を用いる場合は,前記三成分の合計量と前記樹脂成分の合計量とを合わせた量を意味し,以下,同様である。 前記(B)成分としては,例えば,ペンタエリスリトールジアクリレート,ペンタエリスリトールトリアクリレート,ペンタエリスリトールテトラアクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート,1,6-ヘキサンジオールアクリレート,ペンタエリスリトールジメタクリレート,ペンタエリスリトールトリメタクリレート,ペンタエリスリトールテトラメタクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート,1,6-ヘキサンジオールメタクリレート等があげられ,これらは単独でもよいし二種類以上を併用してもよい。例えば,前記ポリオールアクリレートとしては,ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートとの重合物からなるモノマー成分およびペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートとを含む混合成分が,好ましい。 前記(B)の配合割合は,特に制限されない。例えば,前記(B)成分の配合割合は,前記(A)成分に対し70?180重量%の範囲であることが好ましく,より好ましくは100?150重量%の範囲である。前記(B)成分の配合割合が前記(B)成分に対し180重量%以下であると,形成されるハードコート層の硬化収縮を有効に防止でき,その結果,防眩性ハードコートフィルムのカールを防止でき,屈曲性の低下を防止できる。また,前記(B)成分の配合割合が前記(A)成分の70重量%以上であれば,形成されるハードコート層の硬度をより向上させることができ,耐擦傷性を向上させることが可能となる。…」(【0035】?【0037】) ・「本発明のハードコートフィルムは,例えば,前記三成分を溶剤に溶解若しくは分散させたハードコート層形成材料を準備し,前記ハードコート層形成材料を前記透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工して塗膜を形成し,前記塗膜を硬化させて前記ハードコート層を形成することにより,製造できる。 前記溶媒は,特に制限されず,種々の溶媒を使用可能であり,例えば,ジブチルエーテル,ジメトキシメタン,ジメトキシエタン,ジエトキシエタン,プロピレンオキシド,1,4-ジオキサン,1,3-ジオキソラン,1,3,5-トリオキサン,テトラヒドロフラン,アセトン,メチルエチルケトン,ジエチルケトン,ジプロピルケトン,ジイソブチルケトン,シクロペンタノン,シクロヘキサノン,メチルシクロヘキサノン,蟻酸エチル,蟻酸プロピル,蟻酸n-ペンチル,酢酸メチル,酢酸エチル,プロピオン酸メチル,プロピオン酸エチル,酢酸n-ペンチル,アセチルアセトン,ジアセトンアルコール,アセト酢酸メチル,アセト酢酸エチル,メタノール,エタノール,1-プロパノール,2-プロパノール,1-ブタノール,2-ブタノール,1-ペンタノール,2-メチル-2-ブタノール,シクロヘキサノール,酢酸イソブチル,メチルイソブチルケトン(MIBK),2-オクタノン,2-ペンタノン,2-ヘキサノン,2-ヘプタノン,3-ヘプタノン,エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート,エチレングリコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノブチルエーテル,エチレングリコールモノメチルエーテル,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート,プロピレングリコールモノメチルエーテル等があげられる。これらは,一種類を単独で使用してもよいし,二種類以上を併用してもよい。また,前記溶剤は,前記透明プラスチックフィルム基材と前記ハードコート層の密着性を向上させるという観点から,全体の20重量%以上の割合で酢酸エチルを含有することが好ましく,より好ましくは全体の25重量%以上の割合で酢酸エチルを含有することであり,最適には全体の30?70重量%の割合で酢酸エチルを含有することである。70重量%以下であれば,溶媒の揮発速度を適当なものにすることができ,塗工ムラや乾燥ムラを効果的に防止することが可能となる。酢酸エチルと併用する溶剤の種類は,特に制限されず,例えば,酢酸ブチル,メチルエチルケトン,エチレングリコールモノブチルエーテル,プロピレングリコールモノメチルエーテルがあげられる。」(【0046】?【0047】) ・「(密着性) ハードコート層の透明プラスチックフィルム基材に対する密着性は,JIS K 5400記載の碁盤目剥離試験を行うことにより評価した。即ち,100回の剥離試験を行い,ハードコート層がフィルム基材から剥離した数をカウントし,剥離数/100で表した。」(【0092】) ・「(実施例1) 下記に示す(A)成分,(B)成分,(C)成分および光重合開始剤を含む樹脂成分を,酢酸エチルおよび酢酸ブチルの混合溶媒に固形分濃度66重量%で含む樹脂原料(大日本インキ社製,商品名GRANDIC PC1071)を準備した。この樹脂原料に,レベリング剤0.5重量%を加え,さらに,酢酸ブチル:酢酸エチル(重量比)=46:54(全溶媒に対する酢酸エチル比率54重量%)であり,固形分濃度が50重量%となるように,酢酸エチルを用いて希釈することにより,ハードコート層形成材料を調製した。なお,前記レベリング剤は,ジメチルシロキサン:ヒドロキシプロピルシロキサン:6-イソシアネートヘキシルイソシアヌル酸:脂肪族ポリエステル=6.3:1.0:2.2:1.0のモル比で共重合させた共重合物である。 (A)成分:ペンタエリスリトール系アクリレートと水添キシレンジイソシアネートとからなるウレタンアクリレート(100重量部) (B成分):ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(以下,B1成分(モノマー))49重量部,ペンタエリスリトールテトラアクリレート(以下,B4成分(モノマー))41部およびペンタエリスリトールトリアクリレート(以下,B5成分(モノマー))24重量部 (C)成分:前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー,コポリマー又は前記ポリマーおよびコポリマーの混合物(59重量部) 光重合開始剤:商品名イルガキュア184(チバ・スペシャリティケミカルズ社製)3重量部 混合溶剤:酢酸ブチル:酢酸エチル(重量比)=89:11 前記ハードコート層形成材料を,透明プラスチックフィルム基材(厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(屈折率:1.48))上に,バーコーターを用いて塗工し,100℃で1分間加熱することにより塗膜を乾燥させた。その後,メタルハライドランプにて積算光量300mJ/cm^(2)の紫外線を照射し,硬化処理して厚み20μmのハードコート層を形成し,本実施例に係るハードコートフィルムを作製した。」(【0093】?【0095】) イ 上記アでの摘記,特に特許請求の範囲の記載並びに透明プラスチックフィルム基材の形成材料として「アクリル系ポリマー」の例示がある(【0027】)ことなどを総合すると,引用文献3には次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。 「透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を有するハードコートフィルムであって, 透明プラスチックフィルム基材がアクリル系ポリマーであり, 前記ハードコート層が,下記の(A)成分,(B)成分及び(C)成分を溶媒に溶解若しくは分散したハードコート層形成材料を用いて形成されたものであるハードコートフィルム。 (A)成分:ウレタンアクリレート及びウレタンメタクリレートの少なくとも一方 (B)成分:ペンタエリスリトールトリアクリレート及びペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含むポリオールアクリレート及びポリオールメタクリレートの少なくとも一方 (C)成分:下記(C1)及び下記(C2)の少なくとも一方から形成されたポリマー若しくはコポリマー又は前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー (C1):水酸基及びアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート (C2):水酸基及びアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレート」 (2) 対比 本願補正発明と引用発明を対比すると,両発明の一致点,相違点(相違点1?3)は,それぞれ次のとおりのものと認めることができる。 ・ 一致点 「透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を有するハードコートフィルムであって,前記透明プラスチックフィルム基材がアクリル系樹脂であり,前記ハードコート層が下記の(A)成分,(B)成分,(C)成分を含むハードコート層形成材料を用いて形成されたものであり,前記(A)成分がペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含むハードコートフィルム。 (A)成分:ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方 (B)成分:ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートの少なくとも一方 (C)成分:下記(C1)および下記(C2)の少なくとも一方から形成されたポリマー若しくはコポリマーまたは前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー (C1):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート (C2):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレート」である点。 ・ 相違点1 アクリル系樹脂(アクリル系ポリマー)である透明プラスチックフィルム基材について,本願補正発明は「ラクトン環構造を有する」と特定するのに対し,引用発明はそのような特定事項を有しない点。 ・ 相違点2 「ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方」の配合量について,本願補正発明はペンタエリスリトールトリアクリレート及びペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含むA成分(ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方),B成分(ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートの少なくとも一方)及びC成分(水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート及び水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレートの少なくとも一方から形成されたポリマー若しくはコポリマー又は前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー)の合計100重量部に対し「15?50重量部」の範囲で配合されていると特定するのに対し,引用発明は上記配合量についての特定事項を有しない点。 ・ 相違点3 ハードコート層形成材料について,本願補正発明は「シクロペンタノンを含む」と特定するのに対し,引用発明はそのような特定事項を有しない点。 (3) 相違点についての判断 ア 相違点1について アクリル系樹脂からなる透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を有するハードコートフィルムにおいて,前記アクリル系樹脂としてラクトン環構造を有するアクリル系樹脂を用いることで,透明性,耐熱性,機械的強度に優れたハードコートフィルムを提供できることは,上記引用文献1(例えば,【0008】参照)に開示があるとおり,本願の優先日前に当業者に公知の技術事項である。 とすると,引用発明において,さらに透明性や耐熱性などに優れたハードコートフィルムを得ようとする当業者が,引用発明の透明プラスチックフィルム基材として引用文献1に記載の技術事項を採用することは,想到容易であるといえる。 そして,本願の明細書(【0035】など)によれば,本願補正発明は,相違点1に係る構成すなわち透明プラスチックフィルム基材としてラクトン環構造を有するアクリル系樹脂を用いることで,当該透明プラスチックフィルム基材が耐熱性,透明性及び機械的強度に優れたものとなるとのことであるが,このような作用効果は,引用文献1の記載から予測しうる程度のことである。 イ 相違点2について 本願の明細書によれば(【0015】,【0016】など),本願補正発明は,相違点2に係る構成すなわちハードコート層形成材料として「ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方」を含むことで,透明プラスチックフィルム基材とハードコート層との密着性により優れたハードコートフィルムを提供するものである。 ところで,アクリル系樹脂などから形成されたプラスチックフィルム基材の表面にハードコート層を有するハードコートフィルムにおいて,当該ハードコート層の形成材料としてペンタエリスリトールトリアクリレートやペンタエリスリトールテトラアクリレートを特定量含有させることで,上記プラスチックフィルム基材とハードコート層との密着性が高まることは,当業者に周知の技術事項である(要すれば,特開2001-278924号公報を参照願いたい(【特許請求の範囲】,【0005】,【0007】など)。)。 さすれば,引用文献3には具体的記述はみあたらないが,当業者は,引用発明がハードコート層形成材料として「ペンタエリスリトールトリアクリレート及びペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含むポリオールアクリレート及びポリオールメタクリレートの少なくとも一方」を含有してなることで,透明プラスチックフィルム基材とハードコート層との密着性が高まることを容易に理解するといえる。 そして,「ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方」の配合量は,所望の上記密着性を実現できる範囲で当業者が適宜設定できる程度のことである。A成分?C成分の合計100重量部に対し「15?50重量部」の範囲で配合させることは,単なる設計事項にすぎない。(なお,引用文献3の実施例1のものは,透明プラスチックフィルム基材がトリアセチルセルロースフィルムからなるものではあるが,そのペンタエリスリトールトリアクリレート(B4成分)及びペンタエリスリトールテトラアクリレート(B5成分)のハードコート層形成材料に占める配合量は,A成分?C成分の合計273(=100+[49+41+24]+59)重量部に対し65(=[41+24])重量部であって,本願補正発明の数値範囲を満たすものであるところ,このような事実からも,上記数値範囲の設定は当業者が適宜なし得ることといえる。) ウ 相違点3について 引用発明のハードコート層形成材料の一成分である「溶媒」について,引用文献3には「シクロペンタノン」の例示がある(【0047】)。 さすれば,引用発明の「溶媒」について,その具体的例示のあるシクロペンタノンを採用することは,当業者であれば想到容易である。 (4) 小括 よって,本願補正発明は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないといえる。 6 まとめ 以上のとおりであるから,本件補正は,特許法17条の2第5項各号掲記のいずれかの事項を目的とするものであるということができないか,または,同条6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項1?15に係る発明は,平成25年6月7日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。 「透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に,ハードコート層を有するハードコートフィルムであって, 前記透明プラスチックフィルム基材が,ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂の少なくとも一方を含み, 前記ハードコート層が,下記の(A)成分,(B)成分および(C)成分を含むハードコート層形成材料を用いて形成されたものであり, 前記(A)成分が,ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方を含み, 前記(A)成分,前記(B)成分および前記(C)成分の合計100重量部に対し,前記ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの少なくとも一方が,15?50重量部の範囲で配合されていることを特徴とするハードコートフィルム。 (A)成分:ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方 (B)成分:ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートの少なくとも一方 (C)成分:下記(C1)および下記(C2)の少なくとも一方から形成されたポリマー若しくはコポリマーまたは前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー (C1):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート (C2):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレート」 2 原査定の理由 原査定の理由は,要するに,本願発明は,引用文献3に記載された発明(引用発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。 3 引用発明 引用発明は,上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。 4 対比・判断 本願発明は,本願補正発明との比較において,本願補正発明の「前記ハードコート層が,下記の(A)成分,(B)成分,(C)成分およびシクロペンタノンを含むハードコート層形成材料を用いて形成されたものであり」との特定から,「シクロペンタノン」を含むことを削除したものである(上記第2_1参照)。すなわち,本願補正発明は,本願発明の構成を包含するものであるといえる。 そして,本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が,上述のとおり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明も,同様の理由により,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断される。 原査定の理由は妥当なものである。 そうすると,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-06-24 |
結審通知日 | 2015-06-25 |
審決日 | 2015-07-08 |
出願番号 | 特願2009-3008(P2009-3008) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08J)
P 1 8・ 575- Z (C08J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大熊 幸治、芦原 ゆりか |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
須藤 康洋 大島 祥吾 |
発明の名称 | ハードコートフィルム、ハードコートフィルムの製造方法、光学素子および画像表示装置 |
代理人 | 辻丸 光一郎 |
代理人 | 伊佐治 創 |
代理人 | 辻丸 光一郎 |
代理人 | 伊佐治 創 |
代理人 | 中山 ゆみ |
代理人 | 中山 ゆみ |