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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1304595
審判番号 不服2014-14226  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-22 
確定日 2015-08-20 
事件の表示 特願2010-279977「燃料電池システムの運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月 5日出願公開、特開2012-129081〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年12月16日の出願であって、平成25年12月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成26年3月10日に手続補正がなされると共に意見書が提出されたが、同年4月17日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月22日に拒絶査定不服審判がされるとともに、同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.平成26年7月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年7月22日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正前の
「【請求項1】
電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、負荷に電力を供給する燃料電池と、
前記負荷に電力を供給する蓄電装置と、
を備える燃料電池システムの運転方法であって、
前記電解質膜の保有水分量を検出する工程と、
前記保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程と、
前記保有水分量が所定範囲以下であると判断された際、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させ、生成水量を増加させる一方、前記保有水分量が所定範囲を超えていると判断された際、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を減少させ、生成水量を減少させることにより、前記保有水分量を所定範囲内に維持する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。」
から、
「【請求項1】
電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、負荷に電力を供給する燃料電池と、
前記負荷に電力を供給する蓄電装置と、
を備える燃料電池システムの運転方法であって、
前記電解質膜の保有水分量を検出する工程と、
前記保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程と、
前記保有水分量が所定範囲以下であると判断された際、前記燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させ、生成水量を増加させる一方、前記保有水分量が所定範囲を超えていると判断された際、前記燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を減少させ、生成水量を減少させることにより、前記保有水分量を所定範囲内に維持するように、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を変化させる工程と、
を有することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。」(下線は当審にて付与した。)
とする補正を含むものである。
上記本件補正は、請求項1に記載した発明を「保有水分量が所定範囲以下であると判断された際」に本件補正前の請求項1に係る発明では、「前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させ、生成水量を増加させる」と特定していたものをさらに限定して、「前記燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させ、生成水量を増加させる」として、「前記燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら」との限定を付加するものであり、同じく「保有水分量が所定範囲を超えていると判断された際」にも「前記燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら」との限定を付加するものである。
さらに上記本件補正は本件補正前の請求項1に係る発明が「保有水分量を所定範囲内に維持する工程」と特定していた点を、「前記保有水分量を所定範囲内に維持するように、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を変化させる工程」と限定するものである。
以上のことから、本件補正は、本願の請求項1に係る発明について、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-265862号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は、当審にて付与した。)。
「【請求項1】
水素を含む燃料ガスと酸素を含む酸化ガスとの化学反応により電力を発生する燃料電池(10)と、
前記燃料電池(10)の発電電流を制御する電流制御手段(40)と、
前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料供給手段(31)と、
前記燃料電池に酸化ガスを供給する酸化ガス供給手段(21)と、
電気エネルギーを蓄える電力貯蔵手段(12)と、
前記電力貯蔵手段(12)の充・放電を制御する充・放電制御手段(40)とを備え、
前記電流制御手段(40)は、前記燃料電池(10)の発電電流を制御して前記燃料電池(10)内部の水分量を制御するとともに、
前記充・放電制御手段(40)は、前記燃料電池(10)に対する要求発電電力と、前記電流制御手段により制御された前記燃料電池(10)の発電電流における前記燃料電池(10)の発電電力との差に基づいて、前記電力貯蔵手段(12)の充・放電を制御することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料電池(10)内部の水分状態を診断する診断手段(40)を有し、
前記電流制御手段(40)は、前記診断手段(40)による水分状態の診断結果に応じて前記燃料電池(10)の発電電流を制御することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記診断手段(40)により前記燃料電池(10)内部の水分量が不足していると診断された場合には、前記電流制御手段(40)は前記燃料電池(10)の発電電流を増加させることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記診断手段(40)により前記燃料電池(10)内部の水分量が過剰であると診断された場合には、前記電流制御手段(40)は前記燃料電池(10)の発電電流を減少させることを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池システム。」

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素との化学反応により電力を発生させる燃料電池を備える燃料電池システムに関するもので、車両、船舶及びポータブル発電機等の移動体発電機、あるいは家庭用小型発電機に好適である。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を運転する際に、燃料電池内部の固体電解質膜の含水量が不足すると固体電解質膜の導電率が低下し、固体電解質膜の電気抵抗が増加して電池出力が低下する。また、逆にアノード・カソード電極に過剰な水が存在する場合には、電極表面における電気化学反応が阻害されるため、電池出力が低下する。そのため、電解質膜内の含水量を最適に維持しつつ、アノード・カソード電極上の水分量を適正に保つ必要がある。
【0003】
これに対し、燃料電池の発電電流を制御することにより燃料電池の生成水量を制御して燃料電池内部の水分量を制御する燃料電池システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001-256988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の制御方法では、燃料電池内が水分不足の場合には発電電流を増加させ、逆に燃料電池内が水分過剰となる場合は発電電流を減少させることで、燃料電池内の水分量が適正値となるように制御している。しかしながら、この制御方法を実際の燃料電池車両に適用する場合には、水分状態に応じて燃料電池の発電電力を制御することにより、走行に必要な電力に対して燃料電池の発電電力が不足する場合が発生したり、逆に過剰となる場合が発生する。これにより、走行中に発電電流を制御しようとすると走行に影響をきたすという問題がある。
【0005】
本発明は上記の点に鑑み、発電電流を制御して燃料電池内の水分量を制御するとともに、燃料電池車両に適用した場合に、車両走行に影響をあたえることを抑制することができる燃料電池システムを提供することを目的とする。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明を適用した第1実施形態を図1?図5に基づいて説明する。本実施形態の燃料電池システムは、燃料電池を電源として走行する電気自動車(燃料電池車両)に適用したものである。
【0018】
図1は、本実施形態の燃料電池システムの全体構成を示している。図1に示すように、本実施形態の燃料電池システムは、燃料電池10を備えている。この燃料電池(FCスタック)10は、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生するものである。本実施形態では燃料電池10として固体高分子電解質型燃料電池を用いており、基本単位となるセルが複数積層されて構成されている。各セルは、電解質膜が一対の電極で挟まれた構成となっている。燃料電池10では、水素および空気(酸素)が供給されることにより、以下の水素と酸素の電気化学反応が起こり電気エネルギが発生する。
(水素極側)H_(2)→2H^(+)+2e^(-)
(酸素極側)2H^(+)+1/2O_(2)+2e^(-)→H_(2)O
燃料電池10により発生させた電力は、電気エネルギーを消費する電気負荷11や、電気エネルギーを蓄える二次電池12に供給される。二次電池12の充放電量は、電力分配制御器13により制御される。因みに、電気自動車の場合、車両走行駆動源としての電動モータが電気負荷11に相当する。また、二次電池12は本発明の電力貯蔵手段に相当する。なお、電力貯蔵手段としては二次電池12に代えて、キャパシタ等を用いることができる。
【0019】
燃料電池システムには、燃料電池10の酸素極(正極)側に空気(酸素)を供給するための空気経路(酸素経路)20と、燃料電池10の水素極(負極)側に水素を供給するための水素経路30が設けられている。」

「【0022】
燃料電池システムは、燃料電池10内部の水分量を検出するための水分量センサ50を備えており、水分量センサ50は燃料電池10の空気出口部に配置されている。」

「【0024】
次に、本実施形態の燃料電池システムにおける水分量制御について図2に基づいて説明する。図2は水分制御の手順を示すフローチャートである。以下の水分制御は、所定の制御間隔で繰り返し行われる。
【0025】
まず、アクセル開度等から車両走行に必要な電力を算出し、燃料電池10の要求電力を決定する(S101)。続いて二次電池12の充電・放電可能な電力を計測する(S102)。続いて、水分量センサ50により燃料電池10の出口部の水分量を測定する(S103)。
【0026】
次に、S103で測定した水分量が下限値を下回っているか否かを判定する(S104)。下限値は、水分量不足を診断するために予め設定された値である。測定水分量が下限値を下回っていると判定された場合、すなわち水分量が不足している場合には、補正電流値=K1×(目標水分量-測定水分量)で補正電流値を求める(S105)。K1は補正電流値を求める際の正の値を持つ係数であり、適正値である目標水分量よりも測定水分量が少ないため(目標水分量-測定水分量)は正の値となることにより、補正電流値は正の値となる。これにより燃料電池10の運転電流を増加させて生成水を増加させ、燃料電池10内部の水分量を増加させることができる。
【0027】
一方、測定水分量が下限値を下回っていないと判定された場合には、S103で測定した水分量が上限値を上回っているか否かを判定する(S106)。上限値は、水分過剰を診断するために予め設定された値である。測定水分量が上限値を上回っていると判定された場合、すなわち水分量が過剰である場合には、補正電流値=K2×(目標水分量-測定水分量)で補正電流値を求める(S107)。K2は補正電流値を求める際の負の値を持つ係数であり、適正値をである目標水分量よりも測定水分量が多いため(目標水分量-測定水分量)は負の値となることにより、補正電流値は負の値となる。これにより燃料電池10の運転電流を減少させて生成水を減少させ、燃料電池10内部の水分量を減少させることができる。
【0028】
次に、S104で測定水分量が下限値を下回っていると判定された場合と、S106で測定水分量が上限値を上回っていると判定された場合には、燃料電池目標発電量と二次電池充放電量を決定する(S108)。この燃料電池目標発電量、二次電池充放電量の決定処理については、後で詳細に説明する。
【0029】
一方、S106で測定水分量が上限値を上回っていないと判定された場合、すなわち水分量が適正である場合には、水分制御を行う必要がないので、補正電流値を0とする(S109)。この場合、要求電力を燃料電池目標発電量とし、二次電池充放電量を0とする(S110)。
【0030】
次に、S108、S110で求めた燃料電池目標発電量に基づいて、コンプレッサ21の回転数を調整して燃料電池10への空気供給量を制御するとともに、流量調整弁32により燃料電池10への水素供給量を制御して燃料電池10の発電量を制御する(S111)。次に、S108で求めた二次電池充放電量に基づいて二次電池12の充放電量を電力分配器13によって制御する(S112)。」

「【0031】
次に、本実施形態の燃料電池システムにおける燃料電池目標発電量・二次電池充放電量決定処理について図3?図5に基づいて説明する。図3は燃料電池目標発電量・二次電池充放電量決定の手順を示すフローチャートであり、図2のS108のサブルーチンに相当する。図4、図5は燃料電池10の電流Iと電力Pとの関係を示す特性図であり、図4は水分不足の場合、図5は水分過剰の場合を示している。図4、図5に示すI-P特性のマップは、制御部40のROM等の記憶装置に格納されている。
【0032】
まず、図4、図5のI-P特性を読み込み(S201)、S101で求めた要求電力を出力するために必要な要求電流をI-P特性から演算する(S202)。次に、燃料電池10の補正発電量を演算する(S203)。具体的には、S202で求めた要求電流にS105、S107で求めた補正電流値を加えて目標電流値を算出し、I-P特性から目標電流値で発電する際の燃料電池目標発電量を求め、要求発電量と燃料電池目標発電量との差を補正発電量とする。水分不足の場合、補正発電量は正の値となり、水分過剰の場合、補正発電量は負の値となる。
【0033】
次に、補正発電量が正であるか否かを判定する(S204)。補正発電量が正であると判定された場合、すなわち水分量が不足している場合には、S102で求めた二次電池12の充電可能電力が補正発電量を上回っているか否かを判定する(S205)。二次電池充電可能電力が補正発電量を上回っていない場合、すなわち余剰発電量である補正発電量を二次電池12の充電で吸収しきれない場合には、補正発電量を二次電池充電可能電力とする(S206)。
【0034】
次に、燃料電池目標発電量を要求発電量に補正発電量を加えた値とし(S207)、二次電池12の充電量を補正発電量とする(S208)。
【0035】
S204で補正発電量が正でないと判定された場合、すなわち水分量が過剰である場合には、S102で求めた二次電池12の放電可能電力が補正発電量の絶対値を上回っているか否かを判定する(S209)。二次電池放電可能電力が補正発電量の絶対値を上回っていない場合、すなわち不足発電量である補正発電量を二次電池12の放電で補えない場合には、補正発電量の絶対値を二次電池放電可能電力とする(S210)。
【0036】
次に、燃料電池目標発電量を要求発電量から補正発電量の絶対値を引いた値とし(S211)、二次電池12の放電量を補正発電量の絶対値とする(S212)。
【0037】
以上、本実施形態のように、燃料電池10の発電電流に応じて生成水量が増減することを利用して燃料電池10内部の水分量を制御することにより、燃料電池10内部の水分状態を最適に制御することが可能になるとともに、燃料ガスや酸化ガスを加湿するための加湿器を不要にすることができる。
【0038】
また、燃料電池10の水分状態の制御のために発電電流を制御すると、燃料電池10の発電電力が要求電力に対して過剰もしくは不足する可能性がある。これに対し、本実施形態では、燃料電池10の発電が要求電力に対して過剰である場合には二次電池12に充電し、燃料電池10の発電が要求電力に対して不足する場合には二次電池12から不足電力を電気負荷11に供給するようにしている。
【0039】
このように、燃料電池10に対する要求電力と、水分状態を調整するために制御された電流値(目標電流値)における燃料電池10の発電電力(目標発電量)との差に基づいて、二次電池12の充・放電を制御することで、燃料電池10内部の水分状態を最適に制御しつつ、燃料電池10の発電電力の過不足を吸収することができる。これにより、燃料電池システムを燃料電池車両に適用した場合、燃料電池車両に適用した場合に、車両走行に影響をあたえることを抑制することができる。」

これらの事項及び図面の記載からみて、引用文献1には次の事項が記載されている。
(1)燃料電池10として固体高分子電解質型燃料電池を用いており、基本単位となるセルが複数積層されて構成され、各セルは、電解質膜が一対の電極で挟まれた構成となっている。燃料電池10の酸素極(正極)側に空気(酸素)を供給し、燃料電池10の水素極(負極)側に水素を供給することから、一対の電極とは、酸素極と水素極であることが明らかであり、電解質膜の両側に酸素極及び水素極が設けられる構造体を備えているといえる。
(2)燃料電池10の酸素極(正極)側に空気(酸素)を供給するための空気経路(酸素経路)20と、燃料電池10の水素極(負極)側に水素を供給するための水素経路30が設けられていることから、酸素極側に空気が供給され、水素極側に水素が供給されることがわかる。燃料電池10では、水素および空気(酸素)が供給されることにより、水素と酸素の電気化学反応が起こり電気エネルギが発生するから、この供給される空気及び供給される水素の電気化学反応により電気エネルギを発生するといえる。
(3)燃料電池10により発生させた電力は、電気エネルギーを消費する電気負荷11や、電気エネルギーを蓄える二次電池12に供給されると共に二次電池12の充放電量は、電力分配制御器13により制御されることから、引用文献1に記載された燃料電池システムは電気負荷11に電力を供給する二次電池12を備えるといえる。
(4)燃料電池システムは、燃料電池10内部の水分量を検出するための水分量センサ50を備え、水分量センサ50により燃料電池10の空気出口部の水分量を測定する(S103)。
(5)この測定した水分量が下限値を下回っているか否かを判定する(S104)行程と、この測定した水分量が上限値を上回っているか否かを判定する(S106)行程とを有する。
(6)測定水分量が下限値を下回っていると判定された場合、正の値となる補正電流値を求め、生成水を増加させる。補正発電量が正であると判定された場合、燃料電池目標発電量を要求発電量に補正発電量を加えた値とし、二次電池12の充電量を補正発電量とする。燃料電池10の発電が要求電力に対して過剰である場合には二次電池12に充電する。これらのことから、測定した水分量が下限値を下回っていると判定された際、燃料電池10から発電電力を取り出し二次電池12に充電し、燃料電池10から取り出される燃料電池目標発電量を要求発電量に補正発電量を加えた値とし、生成水を増加させているといえる。
(7)測定水分量が上限値を上回っていると判定された場合、負の値となる補正電流値を求め、燃料電池10内部の水分量を減少させる。補正発電量が正でないと判定された場合、燃料電池目標発電量を要求発電量から補正発電量の絶対値を引いた値とし、二次電池12の放電量を補正発電量の絶対値とする。燃料電池10の発電が要求電力に対して不足する場合には二次電池12から不足電力を電気負荷11に供給する。これらのことから、測定した水分量が上限値を上回っていると判定された際、燃料電池10及び二次電池12から電力を取り出しながら、前記燃料電池10から取り出される電力を要求発電量から補正発電量の絶対値を引いた値とし、二次電池12の放電量を補正発電量の絶対値とし、生成水を減少させているといえる。
(8)燃料電池10の発電電流に応じて生成水量が増減することを利用して燃料電池10内部の水分量を制御することにより、燃料電池10内部の水分状態を最適に制御している。燃料電池の発電電流は、燃料電池目標発電量を要求発電量に補正発電量を加えた値とするか、燃料電池目標発電量を要求発電量から補正発電量の絶対値を引いた値とするかにより増減し、この増減に応じて二次電池12の充電量を補正発電量とし、また二次電池12の放電量を補正発電量の絶対値としているから、燃料電池10内部の水分状態を最適に制御するように、燃料電池から取り出される燃料電池目標発電量を増減させ、この増減に応じて二次電池12の充放電量を変化させるといえる。

以上のことから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電解質膜の両側に酸素極及び水素極が設けられる構造体を備え、酸素極側に供給される空気及び水素極側に供給される水素の電気化学反応により電気エネルギを発生し、電気負荷11に電力を供給する燃料電池10と、
前記電気負荷11に電力を供給する二次電池12と、
を備える燃料電池システムの運転方法であって、
燃料電池10内部の水分量を検出するための水分量センサ50により燃料電池10の空気出口部の水分量を測定する行程と、
前記水分量が下限値を下回っているか否かを判定する行程及び上限値を上回っているか否かを判定する行程と、
前記水分量が下限値を下回っていると判定された際、前記燃料電池10から発電電力を取り出し二次電池12に充電し、前記燃料電池から取り出される燃料電池目標発電量を要求発電量に補正発電量を加えた値とし、二次電池12の充電量を補正発電量とし、生成水を増加させる一方、前記水分量が上限値を上回っていると判定された際、前記燃料電池10及び前記二次電池12から電力を取り出しながら、前記燃料電池10から取り出される電力を要求発電量から補正発電量の絶対値を引いた値とし、前記二次電池12の放電量を補正発電量の絶対値とし、生成水を減少させることにより、燃料電池10内部の水分状態を最適に制御するように、前記燃料電池から取り出される燃料電池目標発電量を増減させ、この増減に応じて二次電池12の充放電量を変化させる工程と、
を有する燃料電池システムの運転方法。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「酸素極」、「水素極」、「構造体」、「酸素極側」、「空気」、「水素極側」、「水素」、「電気エネルギを発生」、「電気負荷11」、「二次電池12」は、それぞれ、本願補正発明の「カソード電極」、「アノード電極」、「電解質膜・電極構造体」、「カソード側」、「酸化剤ガス」、「アノード側」、「燃料ガス」、「発電」、「負荷」、「蓄電装置」に相当する。
引用発明の「水分量センサ50」は燃料電池10の空気出口部の水分量を測定するものであるが、この値から燃料電池10内部の水分量を検出するために水分量を測定するセンサであるので、引用発明の「燃料電池10内部の水分量を検出するための水分量センサ50により燃料電池10の空気出口部の水分量を測定する工程」と本願補正発明の「前記電解質膜の保有水分量を検出する工程」とは、「燃料電池内部の保有水分量を測定する工程」で共通する。
引用発明の「前記水分量が下限値を下回っているか否かを判定する行程及び上限値を上回っているか否かを判定する行程」は、本願補正発明の「前記保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程」に相当する。
引用発明の「水分量が下限値を下回っていると判定された際」は、本願補正発明の「保有水分量が所定範囲以下であると判断された際」に相当する。さらに引用発明の「燃料電池10から発電電力を取り出し二次電池12に充電し、前記燃料電池から取り出される燃料電池目標発電量を要求発電量に補正発電量を加えた値とし、二次電池12の充電量を補正発電量と」することと、本願補正発明の「前記燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させ」ることとは、「燃料電池から取り出される電力を増加させ」ることで共通する。また、引用発明の「生成水」は、本願補正発明の「生成水量」に相当する。
引用発明の「水分量が上限値を上回っていると判定された際」は、本願補正発明の「保有水分量が所定範囲を超えていると判断された際」に相当する。さらに引用発明の「前記燃料電池10及び前記二次電池12から電力を取り出しながら、前記燃料電池10から取り出される電力を要求発電量から補正発電量の絶対値を引いた値とし、二次電池12の放電量を補正発電量の絶対値と」することは、前述のように引用発明の「二次電池12」が本願補正発明の「蓄電装置」に相当し、さらに燃料電池10から取り出される電力を要求発電量から補正発電量の絶対値を引いた値とし、二次電池12の放電量を補正発電量の絶対値とすれば、燃料電池から取り出される電力は減少し、二次電池から取り出される電力は増加することが明らかであるので、本願補正発明の「前記燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を減少させ」ることに相当する。
引用発明の「燃料電池10内部の水分状態を最適に制御する」は、本願補正発明の「前記保有水分量を所定範囲内に維持する」に相当し、引用発明の「燃料電池から取り出される燃料電池目標発電量を増減させ、この増減に応じて二次電池12の充放電量を変化させる」は、燃料電池目標発電量が増減し、これに応じて二次電池12の充放電量が変化すれば、燃料電池の目標発電量、すなわち燃料電池から取り出される電力の二次電池から取り出される電力に対する割合が変化することは自明であるから、本願補正発明の「前記保有水分量を所定範囲内に維持するように、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を変化させる」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明は、
「電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、負荷に電力を供給する燃料電池と、
前記負荷に電力を供給する蓄電装置と、
を備える燃料電池システムの運転方法であって、
前記燃料電池内部の保有水分量を測定する工程と、
前記保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程と、
前記保有水分量が所定範囲以下であると判断された際、前記燃料電池から取り出される電力を増加させ、生成水量を増加させる一方、前記保有水分量が所定範囲を超えていると判断された際、前記燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を減少させ、生成水量を減少させることにより、前記保有水分量を所定範囲内に維持するように、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を変化させる工程と、
を有する燃料電池システムの運転方法。」
である点で一致し、以下の[相違点1]及び[相違点2]で相違している。

[相違点1]
保有水分量を測定する工程が、本願補正発明では「電解質膜の保有水分量を検出する工程」であるのに対し、引用発明では、「燃料電池内部の水分量を検出するための水分量センサにより燃料電池の空気出口部の水分量を測定する行程」である点。

[相違点2]
保有水分量が所定範囲以下であると判断された際、燃料電池から取り出される電力を増加させる点に関して、本願補正発明では、燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させるのに対し、引用発明では、燃料電池から発電電力を取り出し二次電池に充電し、前記燃料電池から取り出される燃料電池目標発電量を要求発電量に補正発電量を加えた値とし、二次電池の充電量を補正発電量としている点。

(4)判断
次に、上記[相違点1]及び[相違点2]について検討する。
[相違点1]について
引用文献1には、「燃料電池を運転する際に、燃料電池内部の固体電解質膜の含水量が不足すると固体電解質膜の導電率が低下し、固体電解質膜の電気抵抗が増加して電池出力が低下する。また、逆にアノード・カソード電極に過剰な水が存在する場合には、電極表面における電気化学反応が阻害されるため、電池出力が低下する。そのため、電解質膜内の含水量を最適に維持しつつ、アノード・カソード電極上の水分量を適正に保つ必要がある。」(【0002】)と記載されており、これより、引用発明において、燃料電池10内部の水分量を検出するための水分量センサ50により燃料電池10の空気出口部の水分量を測定することが、電解質膜内の含水量を最適に維持するためであることがわかる。したがって、引用発明の「燃料電池10内部の水分量」とは、実質的に燃料電池内部にある電解質膜内の含水量であるといえるから、相違点1は実質的な相違点ではない。
また、仮に引用発明が燃料電池10の空気出口部の水分量を測定するものであることをもって、上記相違点が実質的な相違点であると扱ったとしても、本願の出願前において、燃料電池の電解質膜の保有水分量を検出することは、周知技術(周知例として特開2009-16056号公報(特に【0020】参照。)、特開2010-86716号公報(特に【0038】ないし【0062】参照)がある。)であり、燃料電池内部の水分量を測定している引用発明において、この周知技術を適用し、電解質膜の保有水分量を検出するようにすることは、燃料電池内部の水分量の測定手段として周知技術を考慮して、当業者が適宜採用する程度の事項である。

[相違点2]について
燃料電池と蓄電装置からの電力を合わせて負荷に供給できるようにした燃料電池システムにおいて、負荷の大きさに対して燃料電池の発電電力をどの程度のものとするかは、当業者が適宜決定すべき事項である。
燃料電池からの電力を増大させたときに、蓄電装置から負荷に電力供給を行うか、蓄電装置へ電力を充電させるかは、燃料電池の発電量と負荷の要求電力量との大小関係により定まるものであり、負荷の大きさに対して燃料電池の発電量が大きくなるようにすれば、蓄電装置は充電される状態となり、逆に燃料電池の発電量が小さくなるようにすれば、蓄電装置は放電される状態となる。
引用発明は、燃料電池内部の水分量が上限値を上回る状態が続けば、燃料電池及び二次電池から電力を取り出す状態が続くこととなる。そして、引用文献1には、水分量センサで測定された水分量である測定水分量が上限値を上回っている場合に、目標水分量と測定水分量との差を求め、この差が大きいほど燃料電池の運転電流(発電電流)を減少させ(引用文献1の【0027】参照。)、その結果、目標水分量と測定水分量との差が大きいほど燃料電池目標発電量が小さくなり、要求発電量に対する不足分を二次電池からの放電量で補う(引用文献1の【0035】参照。)ことが記載されている。これによれば、測定水分量が上限値及び目標水分量に対して大きく過剰であるときと比較して、測定水分量が上限値をわずかに上回る状態では、燃料電池から取り出される電力の二次電池から取り出される電力に対する割合が増加することとなる。すなわち、引用発明においても燃料電池から取り出される電力の二次電池から取り出される電力に対する割合を増加させた場合に燃料電池及び二次電池の双方から電力を取り出す状態が存在することがわかる。
一方、本願補正発明においては、保有水分量が所定範囲以下であると判断された際に、燃料電池及び蓄電装置から電力を取り出しながら、燃料電池から取り出される電力電力の蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させるものであるが、引用発明においても、上記のように燃料電池から取り出すことができる電力が負荷に供給する電力より小さければ、燃料電池及び蓄電装置から電力を取り出しながら、燃料電池から取り出される電力電力の蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させるものとなる。そして、引用発明において、燃料電池から取り出すことができる電力が負荷が必要とする電力より小さいものとすることは、当業者が適宜採用し得る事項である。すなわち、負荷に対する目標発電量が小さい燃料電池とすることは、燃料電池の発電量を要求負荷に対し小さく定めることにすぎない(周知例として、原査定の理由で示された特開2006-202695号公報(特に【0018】、【0021】参照。)があり、また特開2002-289238号公報(特に【0024】、【0025】及び図4参照。)がある。)。この場合、燃料電池から出力される電力を増加させて、燃料電池から取り出される電力の二次電池から取り出される電力に対する割合が増加させても、燃料電池及び二次電池から電力を取り出すこととなるから、本願補正発明の上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が適宜なし得た事項である。

請求人は、上記特開2006-202695号公報には、電解質膜の保有水分量を所定範囲内に維持するように、燃料電池から取り出される電力の蓄電装置から取り出される電力に対する割合を変化させるという技術思想は開示されておらず、燃料電池内部の水分量を制御することを課題とする引用発明とは異なる課題を有しているから、引用発明に上記特開2006-202695号公報記載の事項を適用することはできない旨を主張する。
しかし、上記周知例は、燃料電池の発電電力の設定の仕方に関する周知技術の例として示されたものであり、引用発明においても、燃料電池の発電電力は当然設定されるべき性格のものであるところ、両者は燃料電池の発電電力に関する点で共通するから、見かけ上の課題に相違するところがあるからといって、引用発明に適用できないものではない。
そして、引用発明において、燃料電池の発電電力を小さく設定することも当業者は採用できるのであって、そのようにすれば、燃料電池から取り出される電力を増加させたときに、燃料電池と二次電池(蓄電装置)から電力を取り出しながら、燃料電池から取り出される電力の二次電池(蓄電装置)から取り出される電力に対する割合を増加させることとなる。
よって、相違点2に係る本願補正発明の構成は、引用発明において当業者が周知技術を考慮することによっても、容易に採用し得たものである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成26年7月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年3月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、負荷に電力を供給する燃料電池と、
前記負荷に電力を供給する蓄電装置と、
を備える燃料電池システムの運転方法であって、
前記電解質膜の保有水分量を検出する工程と、
前記保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程と、
前記保有水分量が所定範囲以下であると判断された際、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させ、生成水量を増加させる一方、前記保有水分量が所定範囲を超えていると判断された際、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を減少させ、生成水量を減少させることにより、前記保有水分量を所定範囲内に維持する工程と、
を有することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の発明特定事項から「保有水分量が所定範囲以下であると判断された際」の発明特定事項の1つである「前記燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら」との構成を省き、同様に、「保有水分量が所定範囲を超えていると判断された際」の特定事項の1つである「前記燃料電池及び前記蓄電装置から電力を取り出しながら」との構成を省いたものであり、さらに、本願補正発明が「前記保有水分量を所定範囲内に維持するように、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を変化させる工程」と特定する事項を、本願発明は、単に「保有水分量を所定範囲内に維持する工程」とするものである。
よって、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「電解質膜の両側にカソード電極及びアノード電極が設けられる電解質膜・電極構造体を備え、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電し、負荷に電力を供給する燃料電池と、
前記負荷に電力を供給する蓄電装置と、
を備える燃料電池システムの運転方法であって、
前記燃料電池内部の保有水分量を測定する工程と、
前記保有水分量が所定範囲内にあるか否かを判断する工程と、
前記保有水分量が所定範囲以下であると判断された際、前記燃料電池から取り出される電力を増加させ、生成水量を増加させる一方、前記保有水分量が所定範囲を超えていると判断された際、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を減少させ、生成水量を減少させることにより、前記保有水分量を所定範囲内に維持する工程と、
を有する燃料電池システムの運転方法。」
である点で一致し、次の[相違点1’]及び[相違点2’]で相違する。
[相違点1’]
保有水分量を測定する工程が、本願発明では「電解質膜の保有水分量を検出する工程」であるのに対し、引用発明では、「燃料電池10内部の水分量を検出するための水分量センサ50により燃料電池10の空気出口部の水分量を測定する行程」である点。
[相違点2’]
保有水分量が所定範囲以下であると判断された際、燃料電池から取り出される電力を増加させる点に関して、本願発明では、前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させるのに対し、引用発明では、燃料電池10から発電電力を取り出し二次電池12に充電し、前記燃料電池から取り出される燃料電池目標発電量を要求発電量に補正発電量を加えた値とし、二次電池12の充電量を補正発電量としている点。

そして、上記[相違点1’]は本願補正発明と引用発明との相違点である[相違点1]と同様であるから、上記[相違点1]について検討したのと同様の理由により、相違点1は実質的な相違点ではない、あるいは、当業者が適宜採用する程度の事項である。
また、上記[相違点2’]についてみると、[相違点2’]に係る本願発明の発明特定事項は、「保有水分量が所定範囲以下であると判断された際」、「前記燃料電池から取り出される電力の前記蓄電装置から取り出される電力に対する割合を増加させる」である。そして、本願補正発明と引用発明との相違点である[相違点2]に係る本願補正発明の発明特定事項は、この[相違点2’]に係る本願発明の発明特定事項をすべて含んだ上でさらに限定を加えたものである。そして、このような[相違点2]が上記のように引用発明に基づいて当業者が適宜定める設計的事項であり、また周知技術を適用することで、当業者が容易に想到し得たものであるから、上記[相違点2]について検討したのと同様の理由により、[相違点2’]に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明に基づいて当業者が適宜定める設計的事項であり、また周知技術を適用することで、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-28 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-26 
出願番号 特願2010-279977(P2010-279977)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 哲生  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 長馬 望
藤井 昇
発明の名称 燃料電池システムの運転方法  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 坂井 志郎  
代理人 大内 秀治  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 仲宗根 康晴  
代理人 山野 明  
復代理人 千馬 隆之  

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