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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1304607
審判番号 不服2014-24094  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-26 
確定日 2015-08-20 
事件の表示 特願2011-217837「インクジェット装置用のインクタンクおよびインクジェット装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月 5日出願公開、特開2012- 1001〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成19年4月12日(優先日、平成18年4月27日)に特許出願した特願2007-105265号の一部を平成23年9月30日に新たな特許出願としたものであって、平成25年11月5日付けで手続補正書が提出され、平成26年8月27日付けで拒絶の査定がなされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同年9月2日)、同年11月26日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、上記の平成25年11月5日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。) 。
「【請求項1】
インクを流入する第1のインクポートと、
前記第1のインクポートを含む第1のインク領域と、
インクを流出する第2のインクポートと、
前記第2のインクポートを含み、前記第1のインク領域からインクが流入する第2のインク領域と、
インクと気体とが接する液面と、
を有し、
前記第1のインク領域と前記第2のインク領域とを分け、前記第1のインクポートから前記第1のインク領域へ流入するインクの流速に対して前記第1のインク領域から前記第2のインク領域へ流出するインクの流速を減速する減速手段を設けた、
ことを特徴とするインクジェット装置用のインクタンク。」

3.引用例
原査定に係る平成25年8月26日付けの拒絶理由通知(2回目の拒絶理由通知)で引用された本願の優先日前の平成14年6月18日に頒布された刊行物である特開2002-172801号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(なお、下線は、審決で付した。)。
ア.「【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述したエアトラップ19は直方体であるため上面と側面との連結部分は直角に交わり、特に、上部の4つの角19b?19e付近においては内壁面と気泡との接触面積が他の内壁面と気泡との接触面積に比べ大きくなる。従って、かかるエアトラップ19の内壁面が抵抗となりパージ処理時の吸引力では気泡を完全には排除できず、パージ処理後においても依然として気泡が貯溜されているという問題点があった。
【0010】本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、気泡貯溜室に貯溜された気泡を恒久的に留めることなく、効率的に排出することができるインクジェットプリンタを提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために請求項1記載のインクジェットプリンタは、1又は複数個のインク吐出口からインクを吐出して印字媒体に対して印字を行う印字ヘッドを搭載したキャリッジを備え、前記印字ヘッドに供給されるインクを貯えるインクタンクと、そのインクタンクから前記印字ヘッドにインクを供給するインク流路とを備えており、前記キャリッジに搭載され、前記インク流路内で発生する気泡を貯溜する気泡貯溜室と、その気泡貯溜室内の下方部分を前記インクタンク側の第1室と前記印字ヘッドの第2室とに画設すると共に、その第1室と第2室とがそれぞれの上部において相互に連通するように、前記気泡貯溜室の上部を残して前記気泡貯溜室内に配置された画設部材と、前記印字ヘッドの吐出状態を回復させる回復処理時に、前記画設部材を越えて前記気泡貯溜室の上部を通ってその上部に貯溜している気泡と共にインクを流動させる回復手段とを備え、前記第1室の上部内壁は、上方へ向かって内容積が狭まるテーパー状をなすと共に、その頂部をほぼその高さの位置で前記第2室に接続したものである。」
イ.「【0023】次に、印字ヘッドユニット3について図2及び図3を参照して詳細に説明する。図2は、印字ヘッドユニット3の断面図であり、図1の紙面奥側から見た図である。図2に示すように、キャリッジ3aには、エアトラップユニット11とジョイント部材12とを収納した筐体3bが連設されている。この筐体3b内部に収納されているエアトラップユニット11は、インク流路内で発生した気泡を貯溜するためのものであり、インクタンク4から供給されたインクは、エアトラップユニット11を経由して各印字ヘッド15に供給されるようになっている。このエアトラップユニット11は、4つのインクタンク4a?4dに対応する4つのインク流路内で発生する気泡を貯溜できるように、4つのインク流路に対応する4つのエアトラップ30?33が設けられている。また、この4つの室30?33の天井面内壁の形状は上方に凸設したかまぼこ形状で構成され、各インク流路内で発生する気泡はかまぼこ形の有する曲線に沿ってその頂部に集合するようになっている。
【0024】このエアトラップユニット11の下方は、各エアトラップ30?33とインクの供給経路であるチューブ5a?5dとを仲介して連通するジョイント部材12に結合されており、インクタンク4a?4dから供給されてチューブ5a?5dを流動する各インクは、ジョイント部材12を介して、各エアトラップ30?33に底部のインク流入口23から導入される。」
ウ.「【0025】図3は、図1における断面線III-IIIにおける断面図であり、印字ヘッドユニット3を含む断面図である。図3において(B)方向は重力方向となっており、紙面の奥側と手前側を結ぶ線が、印字ヘッドユニット3の移動方向(A)方向となっている。尚、画設部材として第1フィルタ13aを用いる。」
エ.「【0028】各印字ヘッド15は公知のものと同様に、印字用紙PPに対向する側に閉口する複数個のインク吐出口を備え、対応するエアトラップ30?33から供給されたインクをインク吐出口ごとのインク室に分配し、圧電素子等のアクチュエータ15aの変位によりインク内のインクをインク吐出口から吐出する。この印字ヘッド15は、印字ヘッドユニット3の筐体3bに支持され、対応するエアトラップ30?33と連通路14を介して連通されている。各エアトラップ30?33は、第1フィルタ13aにより2室11a,11bに画設され、印字ヘッドユニット3の筐体3bと平行に、鉛直方向の向きを上下として設けられている。
【0029】第1室11aは、第1フィルタ13aにより画設され、インクタンク4側(インク流路の上流側)に位置する室である。この第1室11aと第2室11bとは、第1フィルタ13aにより完全に画設されておらず、その上方部分13eが連通している構成となっている。また、天井面の内壁とインクタンク側の側面の内壁とは曲線状に連結されている。更に、第1室11aと第2室11bとの頂部は同じ高さで連結されている構成となっている。インクタンク4からチューブ5a?5dを介して供給されるインクは、第1室11aの底部のインク流入口23から、この第1室11aに供給される。この第1室11aに流入されたインクは、後述する図5で説明するように第1フィルタ13a及びその上方の連通する部分13eを流れて第2室11bへ供給される。一方、インクと共に搬送されてきた気泡は、浮力によりこの第1室11aの上方へと移動し、曲線部分に沿って第1室11aの頂部に貯溜され、インクの流動に伴って第2室11bへも広がりエアトラップ30?33の天井面の全面に貯溜されることになる。」
オ.「【0031】第2室11bは、第1フィルタ13aにより画設され、印字ヘッド15側(第1室11aに対しインク流路の下流側)に位置する室である。第2室11bには、その下方にガイドノズル11cが連設されており、このガイドノズル11cは上記した連通路14を介して印字ヘッド15に連通している。これにより、第2室11bから印字ヘッド15に、インクが供給されるようになっている。また、その頂部は第1室11aの頂部と同じ高さで連結され、その側面はテーパ状に構成され、曲線状にその頂部と一体になっている。このため、第1室11bから第2室11bへのインク及び気泡の流動が円滑に行われると共に、パージ処理による気泡の排出時には、第2室の上方のコーナに気泡がよどむことなく円滑に排出される。
【0032】また、この第2室11bの容量は、第1室11aの容量より小(約1/2)になるように構成されている。エアトラップ30?33に貯溜される気泡をパージ処理により吸引する際には、この第2室11bに残存するインクは全て排出されるが、この第2室11bの容量を小さくすることでその排出量を少なくして無駄になるインク量を少なくし、更に、小さな吸引圧力でインクの吸引、即ち、気泡の吸引を実行することができるようになっている。更に、第2室11bの内壁はインクに対して濡れ性の良い結晶性の樹脂で構成され、あるいは濡れ性を良くする表面処理がされている。このため、壁面にインクが濡れやすく、パージ処理の実行時に第2室11bを通過して排出される気泡を壁面に溜まり難くして、迅速に気泡を排出することができるようになっている。」
カ.「【0033】第1フィルタ13aは、上記したようにエアトラップ30?33の下方を第1室11aと第2室11bとに画設するものであり、第2室11bの容量を第1室11aの容量より小さく(約1/2)分割する位置において、印字ヘッドユニット3の筐体3bと平行に、鉛直方向の向きを上下として設けられている。この第1フィルタ13aには、ステンレス製の金属を網目状に編んだメッシュが用いられおり、本実施例では目開き、即ち、開口径16μmのものが使用され、インク流路内で発生した気泡を通過させないようになっている。」
キ.「【0039】図4は、エアトラップユニット11とジョイント部材12との分解斜視図である。このエアトラップユニット11は、上記したように、その製作を容易にするために、部材11d?11fの3つの部材によって形成されている。各部材11d?11fは、4つのインク流路(チューブ5a?5d)に対応する4つのエアトラップ30?33が連なった形状に加工されており、成型性、耐溶剤性、耐汚染性、耐衝撃性、インクに対する濡れ性などの物性を考慮して選択される熱可塑性の樹脂が用いられている。
【0040】部材11dは4つの第1室11aを形成するための部材であり、予め、4つの第1室11aが仕切壁11h(図2)で区画され、かつ、4つ連なった形状に加工されている部材である。各第1室11aは、第1フィルタ13aの配設される側が開口されている箱状をなし、各第1室11aの下方にはジョイント部材12との結合部11gを備えている。かかる結合部11gは、4つのインク流路(チューブ5a?5d)に対応する中空の円筒状の突起構造をなしている。ジョイント部材12は各チューブ5a?5dと個々に連通する4つの連通路12a?12dを有し、各連通路12a?12dが各結合部11gと嵌合されることにより、インクタンク4からチューブ5a?5dを介して供給されるインクを各エアトラップ30?33の第1室11aへ導入することができるのである。」
ク.「【0052】インクタンクから供給されるインクはインク流入口23から、エアトラップ30?33の第1室11aに導かれる。第1室11aに導かれたインクはフィルタ13によりその流れを堰止められ、フィルタ13の上方の設けられた第1室11aと第2室11bとの連通部分13eにより第2室11bへと導かれ、インク流出口24から印字ヘッドへと導かれる。一方、第1室11aに導かれるインクはインクタンクからチューブを介して搬送されるため、そのインク内には搬送過程においてチューブから侵入した空気が気泡となって存在している。第1室11aに導かれたインク内の気泡は、破線の矢印で示すようにその浮力によりエアトラップ内の上部に移動され、かまぼこ形状の有する曲線に沿って左右の側面側からかまぼこ形状の頂部へと順に貯溜されると共に、インクの流動に伴って第1室11aの頂部と同じ高さに設けられた第2室11bの頂部へと貯溜されていく。」
ケ.図2?4から、エアトラップの第1室11a下方に備えられた、中空の円筒状の結合部11gの上端に位置するインク流入口23の径(中空の円筒状の結合部11gの上端の内径)は、各エアトラップ(30、31、32、33)それぞれの左右方向(印字ヘッド3の移動方向)の幅よりも小さいことが看取できる。
また図3、5から、インク流入口23の径は、第1フィルタ13a上端部の高さにおける、第2室11bの側面と第1フィルタ13aとの間の距離よりも、小さいことが看取できる。

上記の記載事項を総合すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「インクジェットプリンタは、キャリッジ3aを備え、キャリッジ3aに連設されている筐体3bに収納されているエアトラップユニット11のエアトラップ30?33であって、
エアトラップユニット11は、インク流路内で発生した気泡を貯溜するためのもので、インクタンク4から供給されたインクは、エアトラップユニット11を経由して各印字ヘッド15に供給されるようになっており、
各エアトラップ30?33の下方は、第1フィルタ13aにより2室11a,11bに画設され、第1室11aと第2室11bとの頂部は同じ高さで連結されて、第2室11bの側面はテーパ状に構成され、曲線状にその頂部と一体になり、第1フィルタ13aは、第2室11bの容量を第1室11aの容量より小さく(約1/2)分割する位置において、鉛直方向の向きを上下として設けられており、
インクタンク4から供給されるインクは、エアトラップの第1室11a下方に備えられた、中空の円筒状の結合部11gの上端に位置するインク流入口23から第1室11aに導かれ、第1室11aに導かれたインクはフィルタ13によりその流れを堰止められて、フィルタ13の上方に設けられた第1室11aと第2室11bとの連通部分13eにより第2室11bへと導かれ、第2室11bのインク流出口から印字ヘッドへと導かれ、
インク流入口23の径(中空の円筒状の結合部11gの上端の内径)は、各エアトラップ(30、31、32、33)それぞれの左右方向の幅よりも小さく、第1フィルタ13a上端部の高さにおける、第2室11bの側面と第1フィルタ13aとの間の距離よりも小さいものとした、
エアトラップ30?33。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
後者の「エアトラップ(30、31、32、33)」は、容量(「第1室11aの容量」に、「第2室11bの容量」と「連通部分13eの容量」を加えた容量)をもつもので、「インク流路内で発生した気泡」と共に、インクを貯溜するものであって、エアトラップ中のインクをインクジェットプリンタの「各印字ヘッド15に供給」することから、前者における「インクジェット装置用のインクタンク」に相当するものといえる。
そして、後者の「インク流入口23」は、前者の「インクを流入する第1のインクポート」に相当し、以下同様に、「第1室11a」は「前記第1のインクポートを含む第1のインク領域」に、「インク流出口」は「インクを流出する第2のインクポート」に、「(第1室11aに導かれたインクが流入する)第2室11b」は「前記第2のインクポートを含み、前記第1のインク領域からインクが流入する第2のインク領域」に、それぞれ相当している。
また、各エアトラップ30?33の下方を、第1室11aと第2室11bに画設する「第1フィルタ13a」は、前者でいう「前記第1のインク領域と前記第2のインク領域とを分け」ることといえる。
また、後者のエアトラップは、上記のとおり、「インク流路内で発生した気泡」と共にインクを貯溜するためのものであって、各エアトラップ内で、インクと貯溜された気泡との間に、前者と同様に「インクと気体とが接する液面」が生じることになる。
さらに、後者における、インク流入口23(第1のインクポート)から第1室11a(第1のインク領域)へ流入するインクの流速と、第1室11a(第1のインク領域)から第2室11b(第2のインク領域)へ流出するインクの流速とについてみると、一定時間あたりで、インク流入口23を通過するインクの量と、第2室11bの上端開口部(第1フィルタ13aの上端部の高さに位置する開口部)を通過するインクの量とは等しいから、上記のそれぞれの流速は、インク流入口23の断面積と、第2室11bの上端開口部の断面積との大小関係によって規定され、第2室11bの上端開口部の断面積がインク流入口23の断面積よりも大きければ、第1室11a(第1のインク領域)から第2室11b(第2のインク領域)へ流出するインクの流速は減速することになる。そして、後者では、「インク流入口23の径(中空の円筒状の結合部11gの上端の内径)は、エアトラップ(30、31、32、33)の左右方向の幅よりも小さく、第1フィルタ13a上端部の高さにおける、第2室11bの側面と第1フィルタ13aとの間の距離よりも小さい」のであるから、第2室11bの上端開口部の断面積(エアトラップの左右方向の幅×第1フィルタ13a上端部の高さにおける、第2室11bの側面と第1フィルタ13aとの間の距離)は、インク流入口23の断面積よりも大きなものとなる。したがって、後者も前者と同様に、インク流入口23(第1のインクポート)から第1室11a(第1のインク領域)へ流入するインクの流速に対して前記第1室11a(第1のインク領域)から前記第2室11b(第2のインク領域)へ流出するインクの流速を減速する減速手段を設けているといえる。

してみると、両者に実質的な差異はなく、本願発明の発明特定事項は、すべて引用発明が備えているから、本願発明は、引用発明と同一である。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-19 
結審通知日 2015-06-23 
審決日 2015-07-07 
出願番号 特願2011-217837(P2011-217837)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 真介  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 畑井 順一
黒瀬 雅一
発明の名称 インクジェット装置用のインクタンクおよびインクジェット装置  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 岡田 貴志  
代理人 砂川 克  
代理人 峰 隆司  
代理人 佐藤 立志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 野河 信久  
代理人 河野 直樹  

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