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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1304677
審判番号 不服2013-22673  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-20 
確定日 2015-08-19 
事件の表示 特願2008-550371「EPSPS変異体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月26日国際公開、WO2007/084294、平成21年 6月25日国内公表、特表2009-523418〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2007年1月10日(パリ条約による優先権主張 2006年1月12日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年2月6日付で特許請求の範囲の補正がされ、平成25年7月12日付で拒絶査定がされたところ、平成25年11月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付で手続補正書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成25年11月20日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成25年11月20日付の手続補正(以下、「本件補正」という)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであって、補正前の請求項1と補正後の請求項1の記載は次のとおりである。

補正前:
「【請求項1】
除草剤抵抗性又は耐性のノントランスジェニック植物を製造するための方法であって:
EPSPS遺伝子中に標的化された変異をもつリコンビナジェニックオリゴ核酸塩基を植物細胞内へ導入して、シロイヌナズナのEPSPSタンパク質(AF360224)のThr_(179)とPro_(183)のアミノ酸位置、又は他の種類のEPSPSの類似アミノ酸残基において変異されているEPSPSタンパク質を発現する、変異EPSPS遺伝子をもつ植物細胞を製造すること、但し、Thr_(179)はIIeに変化され、Pro_(183)はAlaに変化されている;
対応する野生型植物細胞に比較して、グリホサートに対し改善された耐性を示す植物細胞を選択すること;及び
前記選択された植物細胞から、変異EPSPS遺伝子を有する除草剤抵抗性又は耐性のノントランスジェニック植物を再生すること、
を含んでなる方法。」

補正後:
「【請求項1】
除草剤抵抗性又は耐性のノントランスジェニック植物を製造するための方法であって:
EPSPS遺伝子中に標的化された変異をもつリコンビナジェニックオリゴ核酸塩基を植物細胞内へ導入して、シロイヌナズナのEPSPSタンパク質の下記アミノ酸配列のThr_(179)とPro_(183)のアミノ酸位置、又は他の種類のEPSPSタンパク質の該アミノ酸位置に対応するアミノ酸残基において変異されているEPSPSタンパク質を発現する、変異EPSPS遺伝子をもつ植物細胞を製造すること、但し、Thr_(179)はIIeに変化され、Pro_(183)はAlaに変化されている;

対応する野生型植物細胞に比較して、グリホサートに対し改善された耐性を示す植物細胞を選択すること;及び
前記選択された植物細胞から、変異EPSPS遺伝子を有する除草剤抵抗性又は耐性のノントランスジェニック植物を再生すること、
を含んでなり、
前記植物細胞が、トウモロコシ、コムギ、コメ、オオムギ、ダイズ、ワタ、テンサイ、セイヨウナタネ、ナタネ、アマ、ヒマワリ、ジャガイモ、タバコ、トマト、アルファルファ、ポプラ、マツ、ユーカリ、リンゴ、レタス、エンドウ、レンズマメ、ブドウ、芝草、及びブラシカ種からなる群より選択される、
方法。」

2.補正の適否

(1)補正前の請求項1における「EPSPSタンパク質(AF360224)」という記載を「EPSPSタンパク質の下記のアミノ酸配列・・・(具体的なアミノ酸配列。配列は省略)」と補正する補正事項は、平成25年7月12日付拒絶査定において、「なお、この出願には以下の拒絶理由が存在する。」として示された、拒絶の理由に示す事項C.(1)についてするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第4号に規定された明りょうでない記載の釈明を目的とする補正に該当する。

(2) 補正前の請求項1における「EPSPSの類似アミノ酸残基」という記載を「EPSPSタンパク質の該アミノ酸位置に対応するアミノ酸残基」と補正する補正事項は、平成25年7月12日付拒絶査定において、「なお、この出願には以下の拒絶理由が存在する。」として示された、拒絶の理由に示す事項C.(2)についてするものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号に規定された明りょうでない記載の釈明を目的とする補正に該当する。

(3)補正後の請求項1において、「前記植物細胞が、トウモロコシ、コムギ、コメ、オオムギ、ダイズ、ワタ、テンサイ、セイヨウナタネ、ナタネ、アマ、ヒマワリ、ジャガイモ、タバコ、トマト、アルファルファ、ポプラ、マツ、ユーカリ、リンゴ、レタス、エンドウ、レンズマメ、ブドウ、芝草、及びブラシカ種からなる群より選択される」を付加する補正は、補正前の請求項1における「植物細胞」を限定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項1に係る発明が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

ア 本願補正発明

補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、前記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。

イ 引用例の記載事項
原査定の拒絶理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2003-513618号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、強調のため当審で付与した。)

(ア)「本発明は、ホスホノメチルグリシンファミリーのメンバー(例えばグリホサート)に対して耐性または抵抗性のある、非トランスジェニック植物の作製に関するものである。本発明はまた、5-エノールピルビルシキメート-3-リン酸合成酵素(EPSPS)をコードする遺伝子内の植物染色体または染色体外の配列に所望の突然変異をもたらすためのオリゴ核酸塩基の使用にも関する。該突然変異型タンパク質は、野生型タンパク質と比較して触媒活性を実質的に維持しており、ホスホノメチルグリシンファミリーの除草剤に対する植物の耐性または抵抗性を増大させ、かつ、該植物、その期間、組織もしくは細胞の野生型植物と比較して、除草剤が存在するか否かに関係なく、正常な成長または発達をもたらす。本発明はまた、突然変異を導入したEPSPS遺伝子を有する非トランスジェニック植物細胞、そこから再生された該非トランスジェニック植物、ならびに突然変異型EPSPS遺伝子を有する再生非トランスジェニック植物を交配して得られる植物にも関するものである。」(【要約】)

(イ)「【請求項14】 非トランスジェニック除草剤耐性または抵抗性植物を作製する方法であって、
a. 組換え原性オリゴ核酸塩基を植物細胞に導入して、突然変異型EPSPS遺伝子を作製すること;および
b. 突然変異EPSPS遺伝子を有し、かつ対応する野生型植物細胞と比較して実質的に正常な成長を示す細胞を特定すること;
を含む、上記方法。」(請求項14)

(ウ)「植物は、たとえば、カノラ、ヒマワリ、タバコ、サトウダイコン、ワタ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、コメ、モロコシ、トマト、マンゴ、モモ、リンゴ、ナシ、イチゴ、バナナ、メロン、ジャガイモ、ニンジン、レタス、タマネギ、ダイズ、エンドウ、インゲンマメ(field bean)、ポプラ、ブドウ、柑橘類、アルファルファ、ライ、オートムギ、芝生および牧草、アマ、アブラナ、キュウリ、アサガオ、バルサム、コショウ、ナス、マリーゴールド、ハス、キャベツ、デイジー、カーネーション、チューリップ、アイリス、ユリ、ならびにすでに挙げたものを除く木の実を生じる植物より成る群の中の植物の種から選択することができる。」(【0013】段落)

(エ)「5.2 EPSPS遺伝子に導入した変異の部位および型
本発明の1つの実施形態において、シロイヌナズナEPSPS遺伝子(図1A参照)およびそれに対応するEPSPS酵素(図1B参照)は、Leu_(173)、Gly_(177)、Thr_(178)、Ala_(179)、Met_(180)、Arg_(181)、Pro_(182)、Ser_(98)、Ser_(255)およびLeu_(198)から構成されるグループより選択された1もしくはそれ以上のアミノ酸残基、または、EPSPSパラログにおける相同な位置における変異を含み、そしてこの変異により野生型の配列と比較してEPSPS酵素において1つ以上の下記のアミノ酸置換がもたらされる:
(i)Leu_(173)-Phe
(ii)Gly_(177)-AlaあるいはIle
(iii)Thr_(178)-IleあるいはValあるいはLeu
(iv)Ala_(179)-Gly
(v)Met_(180)-Cys
(vi)Arg_(181)-LeuあるいはSer
(vii)Pro_(182)-LeuあるいはSer
(viii)Ser_(98)-Asp
(ix)Ser_(255)-Ala
(x)Leu_(198)-Lys。
」(【0048】段落)

(オ)「

」(【図1B】)

(カ)「本発明における他の特定の実施形態として、178番目のアミノ酸位におけるThrをIleに置換する変異に加え、さらに182番目のアミノ酸位においてProをSerへ置換する変異が示されている。」(【0051】段落)

(キ)「6.1.4 EPSPS遺伝子における新規の点変異
シロイヌナズナEPSPS遺伝子の異なる10の変異型を設計した(図2参照)変異誘発実験のため、PCRプライマーに1、2あるいは3つの変異が含まれるように設計した。」(【0073】段落)

(ク)「

」(【図2】

(ケ)「6.2 結果
EPSPS遺伝子内の変異を有する細胞は、除草剤グリホサートに耐性であり、野生型細胞と比較して、グリホサートの存在に関わりなくグリホサート非存在下あるいは存在下において、実質的に同じ増殖速度を有する細胞を作成した(図6参照)。」(【0079】段落)

(コ)「【図6】
17mMのグリホサート存在下(+)および不在下(-)においてシロイヌナズナクローンの600nmの光学密度で測定した成長の図である。

」(【図面の簡単な説明】、【図6】)

記載事項(ア)には、「EPSPSをコードする遺伝子内の植物染色体または染色体外の配列に所望の突然変異をもたらすためのオリゴ核酸塩基」と記載されていることから、記載事項(イ)における「組換え原性オリゴ核酸塩基」は、「EPSPSをコードする遺伝子内の植物染色体または染色体外の配列に所望の突然変異をもたらす」ものであるといえる。

記載事項(ア)に、EPSPS突然変異タンパク質が、「ホスホノメチルグリシンファミリーの除草剤に対する植物の耐性または抵抗性を増大させ、かつ、該植物、その期間(器官の誤記と認められる)、組織もしくは細胞の野生型植物と比較して、除草剤が存在するか否かに関係なく、正常な成長または発達をもたらす。」と記載されていることから、記載事項(イ)のbの「突然変異EPSPS遺伝子を有し、かつ対応する野生型植物細胞と比較して実質的に正常な成長を示す細胞」は、グリホサートに対する耐性または抵抗性が増大したものであるといえる。

また、記載事項(ア)には、「突然変異を導入したEPSPS遺伝子を有する非トランスジェニック植物細胞、そこから再生された該非トランスジェニック植物」が記載されることから、記載事項(イ)の「非トランスジェニック除草剤耐性または抵抗性植物を作製する方法」として「植物細胞から、突然変異を導入したEPSPS遺伝子を有する非トランスジェニックグリホサート耐性植物を再生すること」を含むといえる。

植物は、「カノラ、ヒマワリ、タバコ、サトウダイコン、ワタ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、コメ、トマト、リンゴ、ジャガイモ、レタス、ダイズ、エンドウ、ポプラ、ブドウ、アルファルファ、芝生、アマ、アブラナ、・・より成る群の中の植物の種から選択することができる」(記載事項(ウ))ことから、除草剤耐性または抵抗性植物を作製する方法に用いる植物細胞としても、上記植物種から選択できるといえる。

突然変異EPSPS遺伝子について、記載事項(エ)には、シロイヌナズナEPSPS遺伝子(図1A参照)およびそれに対応するEPSPS酵素(図1B参照)においてアミノ酸置換がもたらされることが記載され、記載事項(エ)、記載事項(カ)にアミノ酸置換の実施形態として、Thr_(178)をIleに、Pro_(182)をSerに置換する変異が記載されている。そして、記載事項(コ)の【図6】のグラフにおいて、シロイヌナズナ変異EPSPSタンパク質をコードするプラスミドを導入したSalmonella typhi SA4247株として、「IS」が記載され、当該「IS」のグラフ及び記載事項(ケ)から、「IS」はグリホサート存在下(+)においてもOD値が検出されており、グリホサート耐性であることが理解できる。ここで、記載事項(ク)の【図2】に記載される10個の変異型のうち、「I_(178)S_(182)」が、「I」と「S」のアミノ酸残基を有するものとして唯一記載されていることから、【図6】の「IS」は、「I_(178)S_(182)」変異体、つまり、「図1Bに記載されるアミノ酸配列において、Thr_(178)がIleに、Pro_(182)がSerに置換されている、シロイヌナズナ変異EPSPSタンパク質」をコードするプラスミドを導入したSalmonella typhi SA4247株であると理解できる。
そうすると、引用例1には、「図1Bに記載されるシロイヌナズナのアミノ酸配列において、Thr_(178)がIleに、Pro_(182)がSerに置換されている、変異EPSPSタンパク質」をコードする遺伝子が記載されているといえる。

以上のことを総合すると、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「非トランスジェニック除草剤耐性または抵抗性植物を作製する方法であって、
EPSPSをコードする遺伝子内の植物染色体または染色体外の配列に所望の突然変異をもたらす組換え原性オリゴ核酸塩基を植物細胞に導入して、突然変異型EPSPS遺伝子を作製すること;および
突然変異EPSPS遺伝子を有し、かつ対応する野生型植物細胞と比較して実質的に正常な成長を示し、グリホサートに対する耐性または抵抗性が増大した植物細胞を特定すること;
植物細胞から、突然変異を導入したEPSPS遺伝子を有する非トランスジェニックグリホサート耐性植物を再生すること;
を含んでなり、
前記植物細胞が、カノラ、ヒマワリ、タバコ、サトウダイコン、ワタ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、コメ、トマト、リンゴ、ジャガイモ、レタス、ダイズ、エンドウ、ポプラ、ブドウ、アルファルファ、芝生、アマ、アブラナ等より成る群の中の植物の種から選択することができ、
前記突然変異EPSPS遺伝子が、図1Bに記載されるシロイヌナズナのアミノ酸配列において、Thr_(178)がIleに、Pro_(182)がSerに置換されている、変異EPSPSタンパク質をコードする遺伝子である、
上記方法。

」(以下、「引用発明」という。)

また、原査定の拒絶理由で引用文献2として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2003/013226号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(サ)「FIG.1は、シロイヌナズナEPSPS遺伝子のcDNA配列とアミノ酸配列である。アンダーラインをひいた核酸とアミノ酸残基はターゲット残基である(GenBank accession number AY040065)。」(第11頁第7行?第9行)
(シ)「

」(FIGURE1)

(ス)「

」(第14頁FIGURE3 Page10)

(セ)「本発明は、ホスホノメチルグリシンファミリーのメンバー、例えグリホサートに対して耐性または抵抗性のある、非トランスジェニック植物の作製に関するものである。本発明はまた、5-エノールピルビルシキメート-3-リン酸合成酵素(EPSPS)をコードする遺伝子内の植物染色体または染色体外の配列に所望の突然変異をもたらすためのリコンビナジェニックオリゴ核酸塩基の使用にも関する。該突然変異型タンパク質は、野生型タンパク質と比較して触媒活性を実質的に維持しており、ホスホノメチルグリシンファミリーの除草剤に対する植物の耐性または抵抗性を増大させ、かつ、該植物、その器官、組織もしくは細胞の野生型植物と比較して、除草剤が存在するか否かに関係なく、正常な成長または発達をもたらす。本発明はまた、突然変異を導入したEPSPS遺伝子を有する非トランスジェニック植物細胞、そこから再生された該非トランスジェニック植物、ならびに突然変異型EPSPS遺伝子を有する再生非トランスジェニック植物を交配して得られる植物にも関するものである。」(Abstract)

(シ)に記載されるFIGURE1のアミノ酸配列(AY040065)は、FIGURE3(ス)の7行目に記載されているArabidopsis thaliana AroA cDNA - AF360224と同一のアミノ酸配列である。

ウ 対比

引用発明の「組換え原性オリゴ核酸」は、引用例1のファミリーである2001年に国際公開された国際公開第2001/24615号においては、「recombinagenic oligonucleobase」と記載されており(請求項14)、本願補正発明の「リコンビナジェニックオリゴ核酸」に相当する。
引用発明において「EPSPSをコードする遺伝子内の植物染色体または染色体外の配列に所望の突然変異をもたらす組換え原性オリゴ核酸塩基を植物細胞に導入」すれば「変異されているEPSPSタンパク質を発現する、変異EPSPS遺伝子をもつ植物細胞を製造」できることは明らかである。
引用発明において「対応する野生型植物細胞と比較して実質的に正常な成長を示し、グリホサートに対する耐性または抵抗性が増大した植物細胞を特定」は、本願補正発明における「対応する野生型植物細胞に比較して、グリホサートに対し改善された耐性を示す植物細胞を選択」に相当する。
引用発明の「サトウダイコン」、「カノラ」、「アブラナ」、「芝生」は、引用例1のファミリーである国際公開第2001/24615号においては、それぞれ「sugar beet」、「canola」、「oilseed rape」、「turf and forage grasses」と記載されており(第5頁)、本願補正発明の「テンサイ」、「セイヨウナタネ」、「ナタネ」、「芝草」は、本願発明のファミリーである国際公開第2007/084294号において、 それぞれ「sugar beet」、「canola」、「oilseed rape」、「turf grasses」と記載されることから(請求項9)、引用発明の「サトウダイコン」、「カノラ」、「アブラナ」、「芝生」は本願補正発明の「テンサイ」、「セイヨウナタネ」、「ナタネ」、「芝草」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点、相違点は以下のようになる。

一致点:「除草剤抵抗性又は耐性のノントランスジェニック植物を製造するための方法であって:
EPSPS遺伝子中に標的化された変異をもつリコンビナジェニックオリゴ核酸塩基を植物細胞内へ導入して、シロイヌナズナの変異されているEPSPSタンパク質を発現する、変異EPSPS遺伝子をもつ植物細胞を製造すること、
対応する野生型植物細胞に比較して、グリホサートに対し改善された耐性を示す植物細胞を選択すること;及び
前記選択された植物細胞から、変異EPSPS遺伝子を有する除草剤抵抗性又は耐性のノントランスジェニック植物を再生すること、
を含んでなり、
前記植物細胞が、トウモロコシ、コムギ、コメ、オオムギ、ダイズ、ワタ、テンサイ、セイヨウナタネ、ナタネ、アマ、ヒマワリ、ジャガイモ、タバコ、トマト、アルファルファ、ポプラ、リンゴ、レタス、エンドウ、ブドウ、芝草等からなる群より選択される、方法。」

相違点:「シロイヌナズナの変異されているEPSPSタンパク質」が、前者においては、本願補正発明に示されるアミノ酸配列(配列は省略)のThr_(179)とPro_(183)のアミノ酸位置において、Thr_(179)はIIeに変化され、Pro_(183)はAlaに変化されたものであるのに対し、後者においては、引用例1の図1Bに示されるアミノ酸配列の、Thr_(178)とPro_(182)のアミノ酸位置において、Thr_(178)はIIeに変化され、Pro_(182)はSerに変化されたものである点。

エ 相違点についての検討

本願補正発明に示されるアミノ酸配列は、平成25年2月6日付手続補正書の請求項1の「シロイヌナズナのEPSPSタンパク質(AF360224)」におけるアクセッション番号AF360224による特定を、平成25年11月20日付手続補正書により、具体的なアミノ酸配列による特定に補正したものである。

引用例2のFIGURE1、FIGURE3の7行目(AF360224)、8行目(AtEPSPS)には、シロイヌナズナのEPSPS蛋白質をコードするアミノ酸配列が記載されており(前記(シ)、(ス))、FIGURE3の様々なEPSPシンターゼのアミノ酸配列アライメント(前記(ス))によれば、AF360224の第179番目のThr残基や、第183位のPro残基が、もう一つのシロイヌナズナのEPSPS(AtEPSPS)の178番目のThr残基、182番目のPro残基や、イネ、トウモロコシ、タバコ、トマト、S.セレヴィシエ、チフス菌、大腸菌等に由来するEPSPSで広く保存されていることが記載されている。
引用例1には、EPSPSパラログにおける相同な位置における変異を含むことが記載されている(前記(エ))ことから、引用発明の「図1Bに記載されるシロイヌナズナのアミノ酸配列において、Thr_(178)がIleに、Pro_(182)がSerに置換されている、変異EPSPSタンパク質」(以下、「【図1B】T178I;P182S変異体」という。)の記載に接した当業者であれば、シロイヌナズナ由来のEPSPSパラログである、AF360224のアミノ酸配列においては、上記178番目、192番目がそれぞれ179番目、183番目に相当するから、179番目のThrがIleに、183番目のProがSerに置換されている変異EPSPSタンパク質(以下、「【AF360224】T179I;P183S変異体」という。)が得られることを当然に理解する。
そして、蛋白質を構成するアミノ酸の一部を別のアミノ酸に置換して、蛋白質の構造活性相関を検討することは一般的に行われることであり、EPSPS蛋白質をコードするアミノ酸配列において、アミノ酸残基の置換をすることによって、グリホサート耐性を有するEPSPS蛋白質を得ることも引用例1、2(前記(ア)、(セ))に記載され、引用例1の記載(エ)においてEPSPSのPro_(182)を置換するアミノ酸残基としてSerと共にLeuも記載されることから、【AF360224】T179I;P183S変異体のPro_(183)を、Serへの置換に代えて、Leuと同じ疎水性アミノ酸残基であるAlaに置換した変異体、すなわち、AF360224のアミノ酸配列において、Thr_(179)はIIeに変化され、Pro_(183)はAlaに変化されている変異EPSPSタンパク質(以下、「【AF360224】T179I;P183A変異体」という。)を作成することは、当業者が容易に想到することである。

そして、本願明細書をみても、本願補正発明の引用発明との相違点に係る「本願補正発明に示されるアミノ酸配列(配列は省略)のThr_(179)とPro_(183)のアミノ酸位置において、Thr_(179)はIIeに変化され、Pro_(183)はAlaに変化されている変異EPSPSタンパク質」について、【実施例3】において、大腸菌(Area)及びシロイヌナズナNM130093におけるEPSPS変異リスト【表2】(【0078】)に、大腸菌T_(97);P_(101)→I_(97);A_(101)、シロイヌナズナNM130093 T178I;P182A、変異(T->I)ACA→ATA;(P->A)CCA→GCA と記載され、【表3-1】d.T178I;P182Aにおいて、変異されたEPSPS遺伝子として、「CCTCGGTAATGCAGGAAtAGCAATGCGTgCACTTAC」という記載があるにとどまり、本願補正発明に相当する「【AF360224】T179I;P183A変異体」の、引用発明の「【図1B】T178I;P182S変異体」と対比した効果は示されていない。
また、審尋において、引用発明と比較した効果が不明であることが指摘されたところ、審判請求人は、回答書において、本願実施例3の表2の4段目、表3-1のdにTIPA変異を具体的に開示するものであり、本願明細書【0064】?【0073】にグリホサート抵抗性植物を選択する方法が詳細に説明されていること、平成25年2月6日付意見書及び発明者宣誓書においてTIPA変異体が奏する予期しない顕著なグリホサート抵抗性に関して説明をおこなっていると主張しているが、発明者宣誓書には、本願補正発明「【AF360224】T179I;P183A変異体」を発現する植物と、引用発明の「【図1B】T178I;P182S変異体」を発現する植物との、グリホサート耐性や野生型植物との成長の比較を行った結果は記載されていない。
したがって、本願補正発明が、引用発明と対比して、当業者の予想を超える顕著な効果を奏するとは認められない。

オ 小括
以上検討したところによれば、本願補正発明は、引用例1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成25年11月20日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成25年2月6日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1.に「補正前」として記載したとおりのものである。

2.本願発明の進歩性について

上記第2 2.(3)で述べたとおり、本願補正発明は本願発明を限定したものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものであることが明らかである。

そして、上記第2 2.(3)で述べたとおり、本願補正発明は引用例1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も、同様に、引用例1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ

以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-12 
結審通知日 2015-03-17 
審決日 2015-04-06 
出願番号 特願2008-550371(P2008-550371)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水落 登希子山本 匡子  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 中島 庸子
▲高▼ 美葉子
発明の名称 EPSPS変異体  
代理人 田中 玲子  
代理人 松任谷 優子  
代理人 松任谷 優子  
代理人 北野 健  
代理人 伊藤 奈月  
代理人 大野 聖二  
代理人 北野 健  
代理人 伊藤 奈月  
代理人 大野 聖二  
代理人 田中 玲子  

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