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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1304773
審判番号 不服2014-5324  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-20 
確定日 2015-08-28 
事件の表示 特願2009-512487「生体適合性ブロック-コポリマーを含む多孔質膜」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日国際公開、WO2007/140910、平成21年11月12日国内公表、特表2009-538940〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,国際出願日である平成19年5月30日(パリ条約による優先権主張 平成18年6月2日,欧州特許庁(EP))にされたとみなされる特許出願であって,平成24年7月25日付けで拒絶理由が通知され,平成25年2月1日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され,同年11月18日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,平成26年3月20日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同年6月17日付けで同法164条3項の規定による報告がされたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成26年3月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年3月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は特許請求の範囲の全文を変更する補正事項からなるものであるところ,特許請求の範囲全体の記載のうち,本件補正前の請求項1並びに当該請求項に対応する本件補正後の請求項1の記載を掲記すると,それぞれ以下のとおりである。
・ 本件補正前(平成25年2月1日付け手続補正書)
「ジオール(I)及びα,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)からなる群より選ばれた第一のブロック単位と,同様のジオール(I),α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II),α,ω-ジヒドロキシ-ポリエーテル(III)及び同様のα,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)からなる群より選ばれた第二のブロック単位との,ジイソシアネート,二酸ハロゲン化物又はホスゲンの存在下における,直線的重縮合により得られる,少なくとも2種のブロック単位を有する,生体適合性ブロックコポリマーを含む膜であって,
前記ジオール(I)は,ポリ-[(R)-(3)-ヒドロキシ酪酸]又はその3-ヒドロキシ吉草酸とのコポリマーとエチレングリコールとのエステル交換により得られ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II)は,(L,L)-ジラクチド,(D,D)-ジラクチド,(D,L)-ジラクチド,ジグリコリド又はその混合物からなる群より選ばれた環状エステル,又はβ-(R)-ブチロラクトン,β-(S)-ブチロラクトン,β-(rac)-ブチロラクトン及びε-カプロラクトン又はその混合物からなる群より選ばれたラクトン,の開環重合により得られ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエーテル(III)は,α,ω-ジヒドロキシ-ポリ(オキシテトラメチレン),α,ω-ジヒドロキシ-ポリ(オキシエチレン)及びエチレングリコールとポリエチレングリコールのコポリマーからなる群より選ばれ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)は,ジオール(I)とジグリコリド及び/又はジラクチド及び/又はカプロラクトン又はその混合物とのエステル交換により得られ,そして
該膜が均一に分布した微細孔を含む膜であり,
該微細孔が0.2乃至20μmの範囲のサイズを有することを特徴とする,膜。」
・ 本件補正後
「ジオール(I)及びα,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)からなる群より選ばれた第一のブロック単位と,同様のジオール(I),α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II),α,ω-ジヒドロキシ-ポリエーテル(III)及び同様のα,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)からなる群より選ばれた第二のブロック単位との,ジイソシアネート,二酸ハロゲン化物又はホスゲンの存在下における,直線的重縮合により得られる,少なくとも2種のブロック単位を有する,生体適合性ブロックコポリマーを含む膜であって,
前記ジオール(I)は,ポリ-[(R)-(3)-ヒドロキシ酪酸]又はその3-ヒドロキシ吉草酸とのコポリマーとエチレングリコールとのエステル交換により得られ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II)は,(L,L)-ジラクチド,(D,D)-ジラクチド,(D,L)-ジラクチド,ジグリコリド又はその混合物からなる群より選ばれた環状エステル,又はβ-(R)-ブチロラクトン,β-(S)-ブチロラクトン,β-(rac)-ブチロラクトン及びε-カプロラクトン又はその混合物からなる群より選ばれたラクトン,の開環重合により得られ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエーテル(III)は,α,ω-ジヒドロキシ-ポリ(オキシテトラメチレン),α,ω-ジヒドロキシ-ポリ(オキシエチレン)及びエチレングリコールとポリエチレングリコールのコポリマーからなる群より選ばれ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)は,ジオール(I)とジグリコリド及び/又はジラクチド及び/又はカプロラクトン又はその混合物とのエステル交換により得られ,そして
該膜が均一に分布した微細孔を含む単層のみを含む膜であり,
該微細孔が0.2乃至20μmの範囲のサイズを有することを特徴とする,膜。」

2 本件補正の目的
本件補正は,請求項1の記載に係る発明を特定するために必要な事項である膜の構成について,補正前において「膜が均一に分布した微細孔を含む膜」と特定していたものを「膜が均一に分布した微細孔を含む単層のみを含む膜」と特定することで,補正前の発明特定事項を限定するものである。そして,本件補正の前後で,請求項1の記載に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。
よって,本件補正は,請求項1についてする補正については,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。
なお,本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。

3 独立特許要件違反の有無について
上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ,以下説示のとおり,本件補正は当該要件に違反すると判断される。
すなわち,本願補正発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(なお,引用文献2は,原査定の理由で引用された「引用文献2」と同じである。)。
・ 引用文献2: 特開平8-59811号公報

4 本願補正発明
本願補正発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。
「ジオール(I)及びα,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)からなる群より選ばれた第一のブロック単位と,同様のジオール(I),α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II),α,ω-ジヒドロキシ-ポリエーテル(III)及び同様のα,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)からなる群より選ばれた第二のブロック単位との,ジイソシアネート,二酸ハロゲン化物又はホスゲンの存在下における,直線的重縮合により得られる,少なくとも2種のブロック単位を有する,生体適合性ブロックコポリマーを含む膜であって,
前記ジオール(I)は,ポリ-[(R)-(3)-ヒドロキシ酪酸]又はその3-ヒドロキシ吉草酸とのコポリマーとエチレングリコールとのエステル交換により得られ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II)は,(L,L)-ジラクチド,(D,D)-ジラクチド,(D,L)-ジラクチド,ジグリコリド又はその混合物からなる群より選ばれた環状エステル,又はβ-(R)-ブチロラクトン,β-(S)-ブチロラクトン,β-(rac)-ブチロラクトン及びε-カプロラクトン又はその混合物からなる群より選ばれたラクトン,の開環重合により得られ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエーテル(III)は,α,ω-ジヒドロキシ-ポリ(オキシテトラメチレン),α,ω-ジヒドロキシ-ポリ(オキシエチレン)及びエチレングリコールとポリエチレングリコールのコポリマーからなる群より選ばれ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)は,ジオール(I)とジグリコリド及び/又はジラクチド及び/又はカプロラクトン又はその混合物とのエステル交換により得られ,そして
該膜が均一に分布した微細孔を含む単層のみを含む膜であり,
該微細孔が0.2乃至20μmの範囲のサイズを有することを特徴とする,膜。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由
(1) 引用発明
ア 引用文献2には,次の記載がある。
・「【請求項1】 少なくとも2種の化学的に異なるブロック単位を有し,かつ,ポリ-(R)-3- ヒドロキシ酪酸,又は該酪酸と3-ヒドロキシ吉草酸のコポリマーと,エチレングリコールとのエステル交換反応によって得られる,α,ω- ジヒドロキシポリエステル及び,さらなるα,ω- ジヒドロキシポリエステル又はα,ω- ジヒドロキシポリエーテルのいずれか,並びにジイソシアネート,二酸ハロゲン化物又はホスゲンとを,線状重縮合することによって得られることを特徴とする,生体適合性多ブロックコポリマー。

【請求項5】 前記α,ω- ジヒドロキシポリエステルが,脂肪族ジオール,ポリエーテルジオール又はポリエステルジオールの存在下における,環状エステル並びにラクトン,特に(L,L)-ジラクチド,(D,D)-ジラクチド,(D,L)-ジラクチド,ジグリコリド,β-(R)- ブチロラクトン,β-(S)- ブチロラクトン,β-rac- ブチロラクトン,ε- カプロラクトン及びそれらの混合物との,開環重合によって得られる,請求項1?4のいずれか1項記載のブロックコポリマー。…
【請求項17】 請求項1 ?16のいずれか1項記載のブロックコポリマーで実質的に形成された,医療用移植片。…
【請求項19】 前記移植片が,特に単純及び複合の生体組織を形成するための,多孔質構造を有する,請求項17又は18記載の移植片。…」(【特許請求の範囲】)
・「【発明の属する技術分野】本発明は,生体適合性ブロックコポリマー,該ブロックコポリマーによって製造されている医療用移植片,医療用移植片の製造のための該ブロックコポリマーの使用法,並びに該ブロックコポリマー調製のための新規のα,ω-ジヒドロキシポリエステル類に関する。医薬品という用語が使用される場合は,ヒト及び動物用の医薬品を意味する。」(【0001】)
・「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,改善された生物学的特性及び加工特性を有する新規ポリマーを提供することである。本目的は,請求項1記載の特徴によって達成される。請求項2?24は,本発明の好ましい実施態様に関する。」(【0004】)
・「【課題を解決するための手段】前述の新規生体適合性多ブロックコポリマーは,少なくとも3成分から形成され,かつ請求項1で定義された型の,少なくとも2種の化学的に異なるブロック単位を有し,これらは線状重縮合によって,ジイソシアネート,二酸ハロゲン化物又はホスゲンを介して,互いに結合している。前記ブロック単位,すなわちα,ω-ジヒドロキシポリエステル及びα,ω-ジヒドロキシポリエーテルを,以下において,マクロジオール及びオリゴマーと呼ぶこともある。これらのマクロジオール類を,ジイソシアネートで結合することでポリウレタン類が,二酸ハロゲン化物で結合することでポリエステル類が,かつホスゲンで結合することでポリカーボネート類が得られる。前述のブロック単位の1種は,ポリ-(R)-3- ヒドロキシ酪酸,又はこれと3-ヒドロキシ吉草酸のコポリマーの,エチレングリコールとのエステル交換反応によって得ることができる,α,ω- ジヒドロキシポリエステルである。
本発明の多ブロックコポリマーの調製に適した他のマクロジオール類は,特に,α-,β-,γ-及びω-ヒドロキシカルボン酸のオリゴマー類,並びにそれらのコオリゴマー類を基にした,α,ω-ジヒドロキシポリエステル類の新規グループであり,環状エステル又はラクトンの開環重合によって得られる。好ましいこの型の環状エステルは,(L,L)-ジラクチド,(D,D)-ジラクチド,(D,L)-ジラクチド,ジグリコリドであり,好ましいラクトンは,β-(R)- ブチロラクトン,β-(S)- ブチロラクトン,β-rac- ブチロラクトン及びε- カプロラクトン,もしくはそれらの混合物である。開環重合は,エチレングリコール,又はより長鎖状ジオールである脂肪族ジオールによって行われる。得られるマクロジオールの分子量は,ジオールの量によって決定される。」(【0005】?【0006】)
・「本発明のブロックコポリマーは,有機溶媒に溶解することができ,かつその物理的,化学的及び生物学的特性は,該構成単位を変化することによって,広範なスペクトルに適合できるという具体的な利点がある。従って本発明のブロックコポリマーは,特定の具体的な用途に適している。例えば本発明の実施態様に示されている本発明のブロックコポリマーは,ヒト又は動物の生体内であっても,生分解性であることができる。この特性は,本発明のブロックコポリマーを医療用移植片として使用する場合に,特に重要である。…」(【0045】)
・「さらにこの移植片は,管状であることもできる。管は,ホースの意味も持つ。この管は,円形,楕円及び多角形の断面を有することができ,さらに数本の溝を管内に配置することが可能である。機能できる血管壁又は神経の再生は,本発明の移植片によって実現できる。長期使用で生じる血栓性閉塞は,機能的血管壁を被覆することによって避けることができる。ある用途のために,該移植片の材料,すなわち前述のブロックコポリマーは,多孔質構造であることができる。これはさらに,粒子状の医薬活性化合物又は診断薬を内蔵するカプセルの形状であることができる。」(【0046】)
・「医療部門における本発明のブロックコポリマーの使用法の一部を,下記に示す。…固形,らせん形で,軟質で,引張ることができ,自己膨張性で,編組及びトリコット編みされた,管状構造物(人工血管,人工気管,他の生体の管状構造物の代用品) の製造で,これらは,生体及び機能の必要性に応じて内側又は外側を,生理的かつ医薬的に十分であるように,構成される,もしくは被覆されることがある。医薬物質は,吸着又は共有結合のいずれかによって,該ブロックコポリマー上に保持されている。血管又は他の生体の管状構造物(食道,胆管,尿管) のための,ステント(硬質で,引張ることができ,自己膨張性)の製造である。フィルム様構造物(創傷の保護,人工肺の膜,角膜代用基材など) の製造である。糸状構造物(手術用縫合材料,織物状基材,編組又はトリコット編みされた構造物) の製造である。鉗子による閉塞用器具のクリップ様又はクランプ様構造物,細い血管の結紮用鉗子の製造,並びに閉塞のための熱可塑性の利用法である。in vitro(組織工学) 又は in vivo(人工皮膚,脂肪組織,腱,軟骨及び骨,神経など用の前もって調整されたスペーサー)における,単純又は複合の生体組織製造用の,マトリックスであるゼラチン状又は多孔質構造の固形物の製造である。創傷治療のために局所的に使用することもある。」(【0047】)
・「物理的又は生物学的帯電特性,並びに物理的構造(泡,ゲル,微小球) 及び表面構造の点から,体内の解剖学的構造もしくは皮膚を介した,治療(ホルモン,薬剤) 又は化粧(リポソーム,タンパク質,ビタミンなど) を目的に放出することができる,高分子構造物の製造である。精索静脈瘤,脚静脈瘤(食道静脈瘤) 又は胃腸管からの出血の(内視鏡的又は経血管的) 硬化のための使用法である。結紮(輸卵管,輸精管) によって可逆的又は非可逆的に避妊ができる,適した形状で,かつ生物活性化合物を適当に充填した,高分子構造物の製造である。人工耳小骨の製造である。人工角膜として移植するための,フィルム上の角膜小体の組織培養用基剤としての,該ブロックコポリマーの使用である。医科用,歯科用,ミクロ技術又はナノ技術における,物理的及び/又は生物学的に適切な形状での,該ブロックコポリマーの使用である。造影法(X線,CT,NMR ,薬物塞栓療法,PET ,顕微鏡検査)において,治療用及び/又は診断用に用いることができる形態での使用である。本発明のブロックコポリマーは,公知の方法によって,押出又は射出成形によって,加工することができる。同様にフィルム類は,圧縮成形によって加工することができる。開放孔を有する構造物は,様々な公知の方法,例えば浸漬被覆,転相,該ブロックコポリマー溶液への塩の添加,もしくは該ポリマーの沈殿によって加工することができる。」(【0048】)
イ 上記アでの摘記,特に特許請求の範囲には医療用移植片の記載があり(【請求項19】),また,発明の詳細な説明には医療用移植片の例として人工血管,角膜代用基材,人工皮膚といったフィルム様構造物の記載がある(【0047】)ことなどを総合すると,引用文献2には次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「少なくとも2種の化学的に異なるブロック単位を有し,かつ,ポリ-(R)-3- ヒドロキシ酪酸,又は該酪酸と3-ヒドロキシ吉草酸のコポリマーとエチレングリコールとのエステル交換反応によって得られるα,ω- ジヒドロキシポリエステルと,脂肪族ジオール,ポリエーテルジオール又はポリエステルジオールの存在下における,環状エステル並びにラクトン,特に(L,L)-ジラクチド,(D,D)-ジラクチド,(D,L)-ジラクチド,ジグリコリド,β-(R)- ブチロラクトン,β-(S)- ブチロラクトン,β-rac- ブチロラクトン,ε- カプロラクトン及びそれらの混合物との開環重合によって得られるα,ω- ジヒドロキシポリエステルと,ジイソシアネート,二酸ハロゲン化物又はホスゲンとを,線状重縮合することによって得られる,生体適合性多ブロックコポリマーで実質的に形成された,単純及び複合の生体組織を形成するための多孔質構造を有するフィルム状の医療用移植片。」

(2) 対比
ア 本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明の「ポリ-(R)-3- ヒドロキシ酪酸,又は該酪酸と3-ヒドロキシ吉草酸のコポリマーとエチレングリコールとのエステル交換反応によって得られるα,ω- ジヒドロキシポリエステル」は本願補正発明の「ポリ-[(R)-(3)-ヒドロキシ酪酸]又はその3-ヒドロキシ吉草酸とのコポリマーとエチレングリコールとのエステル交換により得られ」るとされる「ジオール(I)」に,「脂肪族ジオール,ポリエーテルジオール又はポリエステルジオールの存在下における,環状エステル並びにラクトン,特に(L,L)-ジラクチド,(D,D)-ジラクチド,(D,L)-ジラクチド,ジグリコリド,β-(R)- ブチロラクトン,β-(S)- ブチロラクトン,β-rac- ブチロラクトン,ε- カプロラクトン及びそれらの混合物との開環重合によって得られるα,ω- ジヒドロキシポリエステル」は「(L,L)-ジラクチド,(D,D)-ジラクチド,(D,L)-ジラクチド,ジグリコリド又はその混合物からなる群より選ばれた環状エステル,又はβ-(R)-ブチロラクトン,β-(S)-ブチロラクトン,β-(rac)-ブチロラクトン及びε-カプロラクトン又はその混合物からなる群より選ばれたラクトン,の開環重合により得られ」るとされる「α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II)」にそれぞれ相当する。
また,引用発明の「単純及び複合の生体組織を形成するための多孔質構造を有するフィルム状の医療用移植片」は,本願補正発明の「生体適合性ブロックコポリマーを含む膜」ないしは「微細孔を含む」ところの「膜」に相当するといえる。
イ したがって,本願補正発明と引用発明との一致点,相違点(相違点1及び2)は,それぞれ次のとおりのものと認めることができる。
・ 一致点
「ジオール(I)の第一のブロック単位と,α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II)の第二のブロック単位との,ジイソシアネート,二酸ハロゲン化物又はホスゲンの存在下における,直線的重縮合により得られる,少なくとも2種のブロック単位を有する,生体適合性ブロックコポリマーを含む膜であって,
前記ジオール(I)は,ポリ-[(R)-(3)-ヒドロキシ酪酸]又はその3-ヒドロキシ吉草酸とのコポリマーとエチレングリコールとのエステル交換により得られ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II)は,(L,L)-ジラクチド,(D,D)-ジラクチド,(D,L)-ジラクチド,ジグリコリド又はその混合物からなる群より選ばれた環状エステル,又はβ-(R)-ブチロラクトン,β-(S)-ブチロラクトン,β-(rac)-ブチロラクトン及びε-カプロラクトン又はその混合物からなる群より選ばれたラクトン,の開環重合により得られ,そして
微細孔を含む膜。」である点。
・ 相違点1
膜(フィルム状の医療用移植片)に設けられてなる微細孔(多孔質構造)について,本願補正発明は「均一に分布した微細孔を含む」と特定し,さらに「0.2乃至20μmの範囲のサイズを有する」と特定するのに対し,引用発明はそのような特定事項を有しない点。
・ 相違点2
膜の構成について,本願補正発明は「単層のみを含む膜」と特定するのに対し,引用発明はそのような特定事項を有しない点。

(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア) 本願補正発明における「均一に分布」の定量的な意義は明らかではないが,引用発明のフィルム状医療用移植片(膜)が有する多孔質構造(微細孔)について,当該多孔質構造をフィルム状医療用移植片に均一に分布するように設けることは当業者であれば想到容易である。この点,引用文献2(特に【0048】参照)には,引用発明の多孔質構造を形成する手段について,転相などが例示されているところ,このような手段により形成される多孔質構造はフィルム状医療用移植片に均一に分布するものといえる。
(イ) また,生体組織を形成するための多孔質構造を有するフィルム状の医療用移植片において,当該多孔質構造のサイズが「0.2乃至20μm」を含む範囲のものは,本願の優先日当時,周知である(例えば,特開2002-20523号公報の【請求項1】,【請求項12】,【0002】,【0018】及び【0037】,特開平9-291162号公報の【請求項1】,【0004】及び【0028】,特開2005-232238号公報の【請求項1】,【請求項12】及び【0002】並びに特表平5-504704号公報の請求項1,請求項3及び3頁右上欄を参照。)。
そして,相違点1に係る構成である微細孔のサイズ「0.2乃至20μmの範囲」は,引用発明において,具体的数値限定についての特定のない多孔質構造(微細孔)のサイズを設定するにあたり,上記周知の数値範囲から当業者が適宜選択したにすぎないものであるし,上記範囲を選択したことによって本願補正発明が予期し得ぬ効果を奏するともいえない。
イ 相違点2について
引用発明は,上記認定のとおり「単純及び複合の生体組織を形成するための多孔質構造を有するフィルム状の医療用移植片」であるところ,このような「単純」な生体組織を形成するための医療用移植片(膜)は「単層のみを含む」ものといえる。すなわち,相違点1は,実質的な相違点ではない。
仮に,上記医療用移植片(膜)が「単層のみを含む」ものとはいえないとしても,フィルム状の医療用移植片を「単層のみ」の膜とすることは,格別困難でない。

(4) 小括
よって,本願補正発明は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないといえる。

6 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成25年2月1日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「ジオール(I)及びα,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)からなる群より選ばれた第一のブロック単位と,同様のジオール(I),α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II),α,ω-ジヒドロキシ-ポリエーテル(III)及び同様のα,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)からなる群より選ばれた第二のブロック単位との,ジイソシアネート,二酸ハロゲン化物又はホスゲンの存在下における,直線的重縮合により得られる,少なくとも2種のブロック単位を有する,生体適合性ブロックコポリマーを含む膜であって,
前記ジオール(I)は,ポリ-[(R)-(3)-ヒドロキシ酪酸]又はその3-ヒドロキシ吉草酸とのコポリマーとエチレングリコールとのエステル交換により得られ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(II)は,(L,L)-ジラクチド,(D,D)-ジラクチド,(D,L)-ジラクチド,ジグリコリド又はその混合物からなる群より選ばれた環状エステル,又はβ-(R)-ブチロラクトン,β-(S)-ブチロラクトン,β-(rac)-ブチロラクトン及びε-カプロラクトン又はその混合物からなる群より選ばれたラクトン,の開環重合により得られ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエーテル(III)は,α,ω-ジヒドロキシ-ポリ(オキシテトラメチレン),α,ω-ジヒドロキシ-ポリ(オキシエチレン)及びエチレングリコールとポリエチレングリコールのコポリマーからなる群より選ばれ,
前記α,ω-ジヒドロキシ-ポリエステル(IV)は,ジオール(I)とジグリコリド及び/又はジラクチド及び/又はカプロラクトン又はその混合物とのエステル交換により得られ,そして
該膜が均一に分布した微細孔を含む膜であり,
該微細孔が0.2乃至20μmの範囲のサイズを有することを特徴とする,膜。」

2 原査定の理由
原査定の理由は,要するに,本願発明は,引用文献2に記載された発明(引用発明)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。

3 引用発明
引用発明は,上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,本願補正発明との比較において,本願補正発明の「均一に分布した微細孔を含む単層のみを含む膜」を,その上位概念である「均一に分布した微細孔を含む膜」と特定するものである(上記第2_1参照)。すなわち,本願補正発明は,本願発明の構成を包含するものであるといえる。
そして,本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が,上述のとおり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明も,同様の理由により,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断される。
原査定の理由は妥当なものである。
そうすると,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-30 
結審通知日 2015-04-01 
審決日 2015-04-14 
出願番号 特願2009-512487(P2009-512487)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08J)
P 1 8・ 121- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横田 晃一平井 裕彰  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 田口 昌浩
須藤 康洋
発明の名称 生体適合性ブロック-コポリマーを含む多孔質膜  
代理人 萼 経夫  
代理人 伴 知篤  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 加藤 勉  
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