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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1304927
審判番号 不服2014-12526  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-30 
確定日 2015-09-03 
事件の表示 特願2010-213848「半導体基板の洗浄方法および洗浄装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年5月19日出願公開、特開2011-100978〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年9月24日(国内優先権主張 平成21年10月7日)を出願日とする出願であって、平成25年12月2日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年3月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年6月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正書が提出され、平成26年10月24日に上申書が提出された。
その後、当審から平成27年1月19日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成27年3月18日に意見書が提出された。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、平成26年6月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は次のとおり記載されている。

「半導体基板の表面に洗浄液を供給し、該洗浄液を半導体基板との間に挟むように疎水性部材を配置し、該洗浄液を前記半導体基板に広く接触させ、前記半導体基板の内部に含まれる金属不純物を前記洗浄液中へ溶解させ、その後前記疎水性部材を取り外し、
前記疎水性部材は、フッ素樹脂、フッ素樹脂をコーティングした部材であることを特徴とする半導体基板の洗浄方法。」

第3 引用文献とその記載事項
1.引用文献1
当審が通知した平成27年1月19日付け拒絶理由に引用文献1として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-208743号公報(以下「引用文献1」という)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0002】【従来の技術】近年の半導体デバイスの微細化、高集積化に伴い、シリコンウエーハ中の金属がデバイス特性を劣化させ、デバイス製造の歩留まりに大きな影響を与えることが知られている。特にシリコンウエーハの内部に固溶しているCu(以下、バルクCuということがある)が原因となり、デバイス特性に悪影響を及ぼす事は数多く知られている。そこで、これらの金属不純物を除去するためのゲッタリング方法や洗浄方法などが数多く検討されている。一方、研磨工程や洗浄工程等のウエーハ製造プロセスにおける金属汚染の管理のために、このような金属不純物、特にバルクCu濃度を精度良く且つ高感度に分析する方法が要望されている。」

(イ)「【0009】しかし、シリコンバルク中の金属を評価するには、分析装置自体の感度を向上させる他に、いかにシリコン内部に含まれている金属を表面に抽出し、それを回収するかが問題である。」

(ウ)「【0014】【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、この発明は、シリコンウエーハ中の金属不純物を評価する方法において、シリコンウエーハ表面に濃硫酸を滴下し、シリコンウエーハ内部に固溶している金属不純物を該濃硫酸中に抽出し、該濃硫酸中の金属不純物を化学分析する事を特徴とするシリコンウエーハ中の金属不純物濃度評価方法である。このように濃硫酸を用い、バルク中の金属を回収すると、一旦濃硫酸中に回収された金属はバルク内部に再度拡散して行く事が少なく、効率的にウエーハ表面に金属を抽出する事ができる。また、ウエーハ表面の荒れなどを起こしづらく好適なウエーハ評価が行なえる。また、数滴の濃硫酸の使用で評価できる事から、分析感度の低下など、硫酸による影響を少なくする事ができる。」

(エ)「【0015】具体的には、前記シリコンウエーハ内部に固溶している金属不純物を濃硫酸中に抽出する方法は、前記シリコンウエーハ表面に任意の量の濃硫酸を滴下した後、前記シリコンウエーハ上の濃硫酸を汚染のない別のウエーハで挟み込み、この状態でウエーハ全体を熱処理することにより行なう。このように汚染のないウエーハで挟み込むのは、滴下した濃硫酸がウエーハ全面に均一に広がりやすくするためである。また、熱処理時に濃硫酸が急激に蒸発または飛散するのを防ぎ、安全性を確保するためでもある。」

(オ)「【0016】従って、このような濃硫酸の飛散等を防止するために用いられる汚染のないウエーハ(保護用のウエーハということがある)の材料は、特に限定されるものではなく石英ガラス等を用いても可能である。しかし、濃硫酸の広がりなどを考慮するとシリコンウエーハ、特にエッチング処理された面を持つウエーハ(CWウエーハということがある)を用いると、ウエーハ全面に均一に濃硫酸が広がり好ましく、さらに処理後の剥離も用意であった。またCWウエーハを用いる事により、予め濃硫酸による処理を施しておく事でCWウエーハ中の金属不純物を無くす事ができ、このCWウエーハから評価対象のウエーハへの汚染(またはCWウエーハから濃硫酸への汚染)を極力押さえる事ができ、評価精度を上げる事ができる。また、n型のウエーハはそもそも汚染されづらく、この保護用のウエーハには特に好適である。」

(カ)「【0021】シリコンウエーハ中の金属評価でも、特にCuを分析するのに、本発明の分析方法が好ましい。基本的に金属不純物、例えば、Cu、Ni,Ag等は、濃硫酸中に回収されるが、特にCuが、バルク中に残りやすく、これを効率よく回収できないことが現状特に問題となっており、本発明は、このCuを高収率で回収できる評価である。」

(キ)「【0030】C)次にサンプルウエーハWのPW面に高純度濃硫酸1をウエーハの中央付近に数滴を滴下する。その後、その上に汚染のない同径のCWウエーハ(保護用のウエーハ)2を乗せ、サンプルウエーハWとCWウエーハ2で濃硫酸を挟み込むように保持し、ウエーハを貼り合せる。この状態で任意の時間加熱する。この時、濃硫酸1を滴下した直後、すぐに白煙をあげはじめるのですばやくCWウエーハ2を乗せる。」

(ク)「【0031】この時貼り合せるウエーハ2は、シリコンに限ったものではないが、汚染等の事を考慮するとシリコンウエーハ特に、エッチング処理されたn型のウエーハが好ましい。n型のウエーハは、p型ウエーハに比べ金属汚染が少ないためである。また、上記のようにエッチング処理された面を持つウエーハ(CWウエーハ)を用いると、ウエーハ全面に均一に濃硫酸が広がり好ましく、さらに処理後の剥離も容易である。」

(ケ)「【0032】このように挟んだ状態で加熱すると、CWウエーハ2の自重や加熱による濃硫酸1の粘度の低下によりサンプルウエーハWとCWウエーハ2のつくる隙間を伝わって濃硫酸1がウエーハ全面に広がり、均一な硫酸膜が形成される。」

(コ)「【0033】なお、上記方法では、サンプルウエーハWを昇温後、濃硫酸1を滴下しているが、サンプルウエーハWに濃硫酸1を滴下した後、CWウエーハ2を乗せ、挟んだ状態にした後、加熱処理装置10に設置し昇温してもよい。」

(サ)「【0034】D)加熱終了後、ホットプレート11から貼り合せたサンプルウエーハW及びCWウエーハ2を取り出し、室温にて冷却する。冷却後、2枚のウエーハを注意深く剥離させる。この時、濃硫酸1がウエーハ全面に広がっていることを確認する。」

(シ)上記摘記事項(ア)?(サ)から、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「サンプルウエーハWの表面に濃硫酸1を供給し、該濃硫酸1をサンプルウエーハWとの間に挟むようにCWウエーハ2を配置し、該濃硫酸1を前記サンプルウエーハWに広く接触させ、前記サンプルウエーハWの内部に含まれる金属不純物を前記濃硫酸1中へ溶解させ、その後前記CWウエーハ2を取り外し、該濃硫酸中の金属不純物を化学分析する、サンプルウエーハWからの金属不純物の回収、評価方法。」

第4 対比・検討
1.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、その機能及び作用からみて、引用発明の「サンプルウエーハW」、「濃硫酸1」は、それぞれ本願発明の「半導体基板」、「洗浄液」に相当する。
また、引用発明の「CWウエーハ2」と本願発明の「疎水性部材」とは、「部材」である点で共通している。

そうすると、本願発明と引用発明は以下の点で一致しかつ相違する。

[一致点]
「半導体基板の表面に洗浄液を供給し、該洗浄液を半導体基板との間に挟むように部材を配置し、該洗浄液を前記半導体基板に広く接触させ、前記半導体基板の内部に含まれる金属不純物を前記洗浄液中へ溶解させ、その後前記部材を取り外す、方法。」

[相違点]
(1)相違点1
本願発明の方法は、「洗浄方法」であるのに対して、引用発明の方法は、金属不純物の回収・評価方法である点。

(2)相違点2
前記部材が、本願発明では、「フッ素樹脂、フッ素樹脂をコーティングした疎水性部材」であるのに対して、引用発明では、サンプルウエーハWである点。

2.検討
(1)相違点1について
引用発明においては、金属不純物の評価のために、それらの回収を行っているものである。さらに、上記第3の1.(ア)の「・・・特にシリコンウエーハの内部に固溶しているCu(以下、バルクCuということがある)が原因となり、デバイス特性に悪影響を及ぼす事は数多く知られている。そこで、これらの金属不純物を除去するためのゲッタリング方法や洗浄方法などが数多く検討されている。・・・」なる記載、同(イ)の「・・・いかにシリコン内部に含まれている金属を表面に抽出し、それを回収するかが問題である。」なる記載、同(カ)の「・・・基本的に金属不純物、例えば、Cu、Ni,Ag等は、濃硫酸中に回収されるが、特にCuが、バルク中に残りやすく、これを効率よく回収できないことが現状特に問題となっており、本発明は、このCuを高収率で回収できる評価である。」なる記載がなされており、望ましくない存在であるシリコン内部の金属を抽出し減少させることは実質的に洗浄と同じことであるから、引用発明において、半導体基板からの金属不純物を回収、評価方法を、半導体基板の洗浄方法として上記相違点1に係る発明特定事項のようにすることに、格別の困難性はない。

(2)相違点2について
半導体基板から金属不純物を腐食性の高い溶液にて回収する場合において、溶液を半導体部材との間に挟む部材としてフッ素樹脂を用いることは、当審が通知した平成27年1月19日付け拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-14618号公報(以下「引用文献2」という)の【0013】(「溶解溶液塗布治具」参照)に示されるように従来周知の技術事項である。そして、引用発明の濃硫酸が腐食性の高い溶液であること、及び、フッ素樹脂が濃硫酸に対して耐食性を有することは明らかであるし、さらに、引用発明の上記第3の1.(ク)には「・・・さらに処理後の剥離も容易である。」との記載があることから処理後の剥離の容易化の課題についての示唆があり、また、引用文献2におけるフッ素樹脂が疎水性を有し溶液からの剥離を容易化することは当業者にとってよく知られた事項であることを鑑みれば、引用発明において上記課題の解決のため上記従来周知の技術事項を適用し上記相違点2に係る発明特定事項のようにすることは、当業者にとって容易に想到し得る事項である。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び従来周知の技術事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別のものとはいえない。

なお、審判請求人は、平成27年3月18日付け意見書において「しかし、本願の出願当時、特開2011-140147号公報の段落[0006]に記載されているように、フッ素樹脂は、焼成後の成形品表面の凹凸以外に、成形品内部に微細な空間を有しているため、その空間に閉じ込められた金属汚染の影響で、平滑化を行った場合でも、洗浄後の成形品表面から金属不純物の溶出が起こることがあり、微量金属元素の分析にあたり、バックグラウンドレベルの変動の要因になるという問題があることが認識されており、これは、本願の出願当時、当業者の技術常識である。よって、当業者が、出願当時、バルク中の金属、特にCu等を精度良く測定するために、外部からの汚染を極力防止することが肝要である引用発明1において、微量金属元素の分析に悪影響を与える引用文献2に記載されたフッ素樹脂を適用するとは到底考えられない。
この点、本願発明は半導体基板の洗浄方法であり、また、引用文献1の段落[0014]に記載されているように、フッ素樹脂から洗浄液に金属不純物が多少混入しても、これらの金属不純物が半導体基板に拡散することは少ないため、フッ素樹脂を用いることが問題とはならない。
このように、バルク中の金属、特にCu等を精度良く測定することを課題とする引用発明1において、引用文献2に記載されたフッ素樹脂を適用する明確な阻害要因が存在する。」旨主張している。
しかし、まず、上記の特開2011-140147号公報(以下「公報1」という)においては、本願の出願当時に公知となっておらず、他に当該事項を記載した公知文献等も見当たらないことから、請求人の上記主張は採用しがたい。
そして、仮に、上記事項が当業者の技術常識であったとしても、上記公報1の【請求項6】、【0014】、【図3】等の記載から公報1が射程とする金属不純物のレベルは10^(9)atoms/cm^(3) のオーダーであり、これに対して、引用発明における金属不純物のレベルは引用文献1の【0047】等に示されるように少なくとも10^(11)atoms/cm^(3) のオーダーであり、公報1に比べて引用発明の方が100倍ほど量の多い汚染を対象としており、公報1でいう金属汚染が引用発明に対して影響を及ぼすほどの外的要因であるということはできず、阻害要因が存在するとの請求人の主張は採用し得ないものである。

さらに、審判請求人は同意見書において「また、審判官殿は、「引用文献1には、「・・・さらに処理後の剥離も容易である。」との記載があることから処理後の剥離の容易化の課題についての開示があ」る旨認定された(認定3)。
この認定3について、引用文献1の段落[0031]には、貼り合わせるウエーハ2として、汚染等を考慮すると、エッチング処理されたn型ウエーハが好ましく、その理由としては、n型ウエーハはp型ウエーハに比べて金属汚染が少なく、また、エッチング処理されていると、ウエーハ全面に均一に濃硫酸が拡がること、処理後の剥離が容易であることが記載されている。
上記段落[0031]から、エッチング処理により処理後の剥離が「より」容易になることは読み取れるものの、「エッチング処理されたn型ウエーハが好ましい」と記載されていることから、エッチング処理を行わなければ処理後の剥離が困難であったとまでは読み取れない。よって、上記記載のみを以て、引用文献1には処理後の剥離が困難であった課題が開示されていたとの審判官殿の認定にはあまりに無理がある。」旨主張している。
しかし、上記段落【0031】の記載からみて、少なくともエッチング処理されたものはエッチング処理されていないものより剥離が容易であったことは理解できる上、そもそもエッチング処理されていないものが容易に剥離するならば、段落【0031】に「・・・さらに処理後の剥離も容易である。」と記載する必要性がないことを鑑みれば、少なくとも剥離に関して何らかの課題の示唆があるとみるのが相当であると解されるため、上記主張は採用できない。

第5 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでも無く、本願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-01 
結審通知日 2015-07-07 
審決日 2015-07-21 
出願番号 特願2010-213848(P2010-213848)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小田 浩伊藤 秀行  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 刈間 宏信
原 泰造
発明の名称 半導体基板の洗浄方法および洗浄装置  
代理人 杉村 憲司  

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