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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1305330 |
審判番号 | 不服2014-6029 |
総通号数 | 191 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-04-03 |
確定日 | 2015-09-09 |
事件の表示 | 特願2006- 90464「電気機器のロータを製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日出願公開、特開2006-288193〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成18年3月29日(パリ条約による優先権主張2005年3月31日、米国)の出願であって、平成25年11月28日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成25年12月3日)、これに対し、平成26年4月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 平成26年4月3日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、 「【請求項1】 電気機器(10)のロータ(16)を製造する方法であって、 ロータスピンドル(24)の周りに永久磁石セグメント(28)のアレイを組立てる段階と、 前記永久磁石セグメント(28)の所望の磁気配向方向(29)を決定する段階と、 前記永久磁石セグメント(28)の所望の磁気配向方向(29)が磁化用固定具(44)の対応する磁束方向(74)と整列するように前記組立永久磁石セグメント(28)を該磁化用固定具内に配置する段階と、を含み、 前記永久磁石セグメント(28)の所望の磁気配向方向(29)が、連続する磁気配向方向(29)がロータ磁極D軸(76)における前記ロータ(16)の回転方向に対するほぼ垂直方向からロータ磁極Q軸(78)における該ロータ(16)の回転方向に対するほぼ接線方向に変化するように構成され、 前記永久磁石セグメント(28)の所望の磁気配向方向(29)が、有限要素法による磁気解析によって決定され、 前記永久磁石セグメント(28)の所望の磁気配向方向(29)が、前記磁化用固定具(44)によって発生した磁束の方向とほぼ一致し、 前記磁化用固定具(44)が、磁気コアの周りに巻いた複数のコイル(48、50、52、54)を含み、前記磁化用固定具(44)のコイル(48、50、52、54)が、前記ロータ(16)の磁極(30、32、34、36)の数とその数が等しく、 ロータ磁極Q軸(78)を前記磁化用固定具(44)のコイル(48、50、52、54)と整列させかつロータ磁極D軸(76)を前記磁化用固定具(44)の磁化器磁極(66、68、70、72)の中心部と整列させる段階をさらに含む ことを特徴とする製造方法。 【請求項2】 パルス直流電流(DC)によって前記磁化用固定具(44)を励磁する段階をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記電気機器(10)が、多相同期機械を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。 【請求項4】 前記永久磁石セグメント(28)を組立てる段階が、該永久磁石セグメント(28)を互いにかつ前記ロータスピンドル(24)に接着接合する段階を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。 【請求項5】 前記組立永久磁石セグメント(28)上に保持リングを配置する段階をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。 【請求項6】 前記電気機器(10)用ロータ(16)が、 ロータスピンドル(24)と、 前記ロータスピンドル(24)上に組立てられた複数の永久磁石セグメント(28)であって、該永久磁石セグメント(28)の所望の磁気配向方向(29)とほぼ整列した磁束(74)を印加することによって得られた徐々に方向変化した磁気配向を含む永久磁石セグメント(28)と、 前記永久磁石セグメント(28)の組立体上に配置された保持リングと、 を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。 【請求項7】 前記永久磁石セグメント(28)の所望の磁気配向方向(29)が、連続する磁気配向方向(29)がロータ磁極D軸(76)における前記ロータ(16)の回転方向に対するほぼ垂直方向からロータ磁極Q軸(78)における該ロータ(16)の回転方向に対するほぼ接線方向に変化するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の方法。」 と補正された。 本件補正は、本件補正前の請求項3を本件補正後の請求項1とし、本件補正前の請求項1、2を削除するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)が特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。 3.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-72820号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。 a「回転軸と該回転軸の周囲に設けられた回転子鉄心と、該回転子鉄心の外周面に固定され未着磁の状態でHalbach磁石配列に沿って磁化容易方向を合わせて成る複数の未着磁磁石と、を備えて成るACモータの回転子を、請求項1記載の着磁治具の前記空間に配置し、該着磁治具によって一括着磁させてすべての磁石を磁化容易方向に合わせて着磁することにより、磁極が1極当り複数個の永久磁石に分割されていて、各永久磁石の磁化方向が磁極中心に集中するように配置された磁石配列であるいわゆるHalbach磁石配列を形成することを特徴とするACモータの回転子の製造方法。」(【請求項2】) b「以下、本発明のACモータの回転子の製造方法及びその着磁治具の実施の形態について図に基づいて説明する。 図1はHalbach磁石配列のACモータの回転子を得る本発明に係るフローチャートである。 (1)ステップ1では、まず、Halbach磁石配列を構成する各永久磁石を、未着磁の状態で、磁化容易方向が磁極中心に集中するように配列させて、固定をしていく。このようにすれば未着磁の状態であるため、各永久磁石間には何ら力は発生しないので固定作業は極めて容易となる。 (2)ステップ2で、永久磁石をすべて固定した後、回転子全体を後述する本発明に係る着磁治具に挿入する。 (3)ステップ3で、この状態において一度に全永久磁石を各永久磁石の磁化容易方向に合わせて着磁する。 以上のフローによれば、未着磁の状態での永久磁石の配列であるので、磁石間には何ら力は発生しないので固定作業は極めて容易となり、固定作業に多大の手間と時間を省くことができるようになると共に、図10のフローのような永久磁石で手を挟み怪我をする危険性もなくなる。 次に本発明による着磁治具について、以下に図を用いて詳細に説明する。 図2は、本発明に係るACモータの回転子の着磁治具の1例の横断面図である。図2において、45は着磁鉄心、46は着磁コイル、47は着磁鉄心のティースである。45の着磁鉄心は、通常、けい素鋼板などの薄板材を多数枚積層して形成する。46の着磁コイルは、通常、ガラス繊維を含有する絶縁被覆電線を用いる。46の着磁コイルは隣接する着磁鉄心のティースには、逆向きに巻装し、各着磁コイルは直列に接続される。図2の着磁治具の内部に、ACモータの回転子を挿入し、46の着磁コイルに大電流を流すことにより、内部に強力な磁場が発生し、回転子鉄心の表面に固定された永久磁石が着磁される。 ここで、着磁鉄心のティースの幅Tと、隣接する着磁鉄心のティース間の開口部の幅Hから求められる値K=T/(T+H)が、0.45?0.55になる着磁治具を考えると、その内部に発生する磁場の磁束線の方向は、ほぼHalbach磁石配列の磁化方向と一致する。 したがって、K=0.45?0.55となる着磁治具を用いて、前記の末着磁の状態でHalbach磁石配列にて固定した回転子を着磁すれば、各永久磁石の磁化容易方向にほぼ合わせて着磁をすることができる。 図3は着磁治具40の内部にACモータの回転子20を挿入した状態を示しており、(a)は永久磁石24が着磁される前の状態、(b)は永久磁石24が着磁された後の状態を示している。永久磁石24の矢印は着磁方向を指している。 (a)の未着磁の状態での永久磁石は配列は、磁石間に何ら力は発生しないので固定作業は極めて容易である。 (b)では(a)の状態で着磁コイル46に大電流を流すことにより、内部に強力な磁場が発生し、回転子鉄心22の表面に固定された全ての永久磁石24が一度に着磁される。その場合の上述のように各磁石の磁化方向がHalbach磁石配列となる方向になるように、予め各ティースの幅と開口幅を決めてあるので、図示矢印のようなHalbach磁石配列となる。 図4は磁界解析の結果であり、図で24’は図3に示す永久磁石24の1/2極分を示している。図4より、着磁電流により発生する磁束線は、ほぼHalbach磁石配列の磁化方向と一致していることがわかる。」(【0010】-【0013】) c「【図4】本発明の着磁治具による着磁の磁界解析結果である。」 上記記載及び図面を参照すると、複数の未着磁磁石が着磁することにより所望の磁石配列であるHalbach磁石配列を形成するよう構成されている。 上記記載及び図面を参照すると、複数の未着磁磁石の磁石配列が、着磁前にHalbach磁石配列であることが決定されている。 上記記載及び図面を参照すると、着磁治具が、着磁鉄心のティースの周りに巻いた複数の着磁コイルを含み、当該着磁コイルは、回転子の磁極の数とその数が等しい。 上記記載及び図面を参照すると、回転子磁極Q軸を着磁コイルと整列させかつ回転子磁極D軸を着磁治具の着磁鉄心のティースの中心部と整列させている。 上記記載事項からみて、引用例1には、 「ACモータの回転子の製造方法であって、 回転子鉄心の外周面に複数の未着磁磁石を固定する段階と、 前記複数の未着磁磁石が所望の磁石配列であるHalbach磁石配列を形成するよう着磁治具の空間に配置する段階と、を含み、 前記複数の未着磁磁石が着磁することにより所望の磁石配列であるHalbach磁石配列を形成するよう構成され、 前記複数の未着磁磁石の所望の磁石配列が、着磁前にHalbach磁石配列であることが決定され、 前記着磁治具の着磁電流による磁束線は、ほぼHalbach磁石配列の磁化方向と一致し、 前記着磁治具が、着磁鉄心のティースの周りに巻いた複数の着磁コイルを含み、前記着磁コイルが、前記回転子の磁極の数とその数が等しく、 回転子磁極Q軸を前記着磁コイルと整列させかつ回転子磁極D軸を前記着磁治具の着磁鉄心のティースの中心部と整列させる段階をさらに含む製造方法。」 との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「ACモータ」、「回転子」、「製造方法」、「回転子鉄心」、「外周面」、「複数の未着磁磁石を固定する段階」、「着磁治具」、「複数の未着磁磁石」、「着磁鉄心のティースの周りに巻いた複数の着磁コイル」、「着磁コイル」、「着磁治具の着磁鉄心のティース」は、それぞれ本願発明の「電気機器(10)」、「ロータ(16)」、「製造する方法」、「ロータスピンドル(24)」、「周り」、「永久磁石セグメント(28)のアレイを組立てる段階」、「磁化用固定具」、「永久磁石セグメント(28)」、「磁気コアの周りに巻いた複数のコイル(48、50、52、54)」、「磁化用固定具(44)のコイル(48、50、52、54)」、「磁化用固定具(44)の磁化器磁極(66、68、70、72)」に相当する。 所望の磁気配向方向(29)はHalbach磁石配列のことであるから、引用発明の「前記複数の未着磁磁石が所望の磁石配列であるHalbach磁石配列を形成するよう着磁治具の空間に配置する段階」は、本願発明の「前記永久磁石セグメント(28)の所望の磁気配向方向(29)が磁化用固定具(44)の対応する磁束方向(74)と整列するように前記組立永久磁石セグメント(28)を該磁化用固定具内に配置する段階」に相当する。 引用発明の回転子の永久磁石がHalbach磁石配列されると、その結果として、回転子磁極D軸における前記回転子の回転方向に対するほぼ垂直方向から回転子磁極Q軸における該回転子の回転方向に対するほぼ接線方向に変化するように連続する磁気配向方向が構成されるから、引用発明の「前記複数の未着磁磁石が着磁することにより所望の磁石配列であるHalbach磁石配列を形成するよう構成され」は、本願発明の「前記永久磁石セグメント(28)の所望の磁気配向方向(29)が、連続する磁気配向方向(29)がロータ磁極D軸(76)における前記ロータ(16)の回転方向に対するほぼ垂直方向からロータ磁極Q軸(78)における該ロータ(16)の回転方向に対するほぼ接線方向に変化するように構成され」に相当する。 引用発明の着磁治具の着磁電流による磁束線は、ほぼHalbach磁石配列の磁化方向と一致するから、引用発明の「前記着磁治具の着磁電流による磁束線は、ほぼHalbach磁石配列の磁化方向と一致し」は、本願発明の「前記永久磁石セグメント(28)の所望の磁気配向方向(29)が、前記磁化用固定具(44)によって発生した磁束の方向とほぼ一致し」に相当する。 したがって、両者は、 「電気機器のロータを製造する方法であって、 ロータスピンドルの周りに永久磁石セグメントのアレイを組立てる段階と、 前記永久磁石セグメントの所望の磁気配向方向が磁化用固定具の対応する磁束方向と整列するように前記組立永久磁石セグメントを該磁化用固定具内に配置する段階と、を含み、 前記永久磁石セグメントの所望の磁気配向方向が、連続する磁気配向方向がロータ磁極D軸における前記ロータの回転方向に対するほぼ垂直方向からロータ磁極Q軸における該ロータの回転方向に対するほぼ接線方向に変化するように構成され、 前記永久磁石セグメントの所望の磁気配向方向が、前記磁化用固定具によって発生した磁束の方向とほぼ一致し、 前記磁化用固定具が、磁気コアの周りに巻いた複数のコイルを含み、前記磁化用固定具のコイルが、前記ロータの磁極の数とその数が等しく、 ロータ磁極Q軸を前記磁化用固定具のコイルと整列させかつロータ磁極D軸を前記磁化用固定具の磁化器磁極の中心部と整列させる段階をさらに含む製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点〕 本願発明は、永久磁石セグメントの所望の磁気配向方向を決定する段階を有し、前記永久磁石セグメントの所望の磁気配向方向が、有限要素法による磁気解析によって決定されるのに対し、引用発明は、複数の未着磁磁石の所望の磁石配列が、着磁前にHalbach磁石配列であることが決定されてはいるが、ACモータの回転子の製造方法において、永久磁石セグメントの所望の磁気配向方向を決定する段階を有し、前記永久磁石セグメントの所望の磁気配向方向が、有限要素法による磁気解析によって決定されているか特定されていない点。 5.判断 回転電機の分野において、磁路の設計・解析のために、有限要素法等の解析手段を用いて解析し、その後磁路を製造することは慣用手段(必要があれば、原査定の拒絶の理由で示した、特開平7-212995号公報、特開昭62-52913号公報等参照。)である。また、この様な解析手段を用いずに、闇雲に磁化用固定具を製造することは一般的ではない。 また、請求人は、平成27年2月26日付ファクシミリにおいて、量産品を製造する場合、本願発明の永久磁石セグメントの所望の磁気配向方向を決定する段階を常には有しないと、説明している。 引用発明がHalbach磁石配列のために用いるのは着磁治具であり、治具とは、製品のバラツキを最小限に抑え、迅速に大量生産することを可能にするために用いるものであるから、引用発明によって製造されるのは量産品である。量産品を製造するには、それ以前に設計・開発段階が存在するから、ACモータの回転子の磁路の設計・開発のために、慣用手段である有限要素法等の解析手段を用いて解析し、その後磁路を製造することは、当業者であれば適宜採用する手段であると認められる。 そうであれば、引用発明において、本願発明と同等の意味で、永久磁石セグメントの所望の磁気配向方向であるHalbach磁石配列を決定する段階を設け、前記永久磁石セグメントの所望の磁気配向方向であるHalbach磁石配列を、有限要素法による磁気解析によって決定することは、当業者であれば容易に考えられることと認められる。 そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-04-09 |
結審通知日 | 2015-04-14 |
審決日 | 2015-04-30 |
出願番号 | 特願2006-90464(P2006-90464) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高橋 祐介 |
特許庁審判長 |
新海 岳 |
特許庁審判官 |
堀川 一郎 矢島 伸一 |
発明の名称 | 電気機器のロータを製造する方法 |
代理人 | 田中 拓人 |
代理人 | 黒川 俊久 |
代理人 | 荒川 聡志 |
代理人 | 小倉 博 |