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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A62B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A62B
管理番号 1305342
審判番号 不服2014-15211  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-01 
確定日 2015-09-09 
事件の表示 特願2010-534073「空気流の方向制御を備えた呼吸装置組立品」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月22日国際公開、WO2009/064555、平成23年 1月27日国内公表、特表2011-502704〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年10月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年11月12日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成22年5月12日付けで特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成22年7月5日付けで特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成23年10月4日に手続補正書が提出され、平成25年1月17日付けで拒絶理由が通知され、これに対し平成25年4月22日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年6月12日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対し平成25年9月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年3月5日付けで、上記平成25年9月18日付け手続補正書でした補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がされ、平成26年8月1日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、さらに、平成27年1月16日に上申書が提出されたものである。

第2 平成26年8月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年8月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1)本件補正の内容
平成26年8月1日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年4月22日提出の手続補正書により補正された)請求項1の記載の下記アを、下記イへと補正するものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
呼吸装置組立品であって、
ユーザーの頭部の少なくとも一部分を被覆するように成形された保護用シェルと、
空気入口導管および空気送達導管を備える空気マニホールドであって、前記空気入口導管は、前記ユーザーの頭部の後側に隣接して配置されるように、かつ保護用シェルの外に延びるように構成されており、前記空気送達導管は、前記空気入口導管と流体連通しており、前記空気送達導管は、前記シェルの内部にあり、前記保護用シェルと前記ユーザーの頭部との間に画定される空間の中に空気流を送達するための出口を有している、空気マニホールドと、
前記出口からの前記空気流が第1の方向に誘導される第1の位置と、前記出口からの前記空気流が第2の異なる方向に誘導される第2の位置との間で調節可能である、前記出口に枢動可能に装着された羽根と、を含む、呼吸装置組立品。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
呼吸装置組立品であって、
ユーザーの頭部の少なくとも一部分を被覆するように成形された保護用シェルであって、ハードシェル部分を有する保護用シェルと、
空気入口導管および空気送達導管を備える空気マニホールドであって、前記空気入口導管は、前記ユーザーの頭部の後側に隣接して配置されるように、かつ保護用シェルの外に延びるように構成されており、前記空気送達導管は、前記空気入口導管と流体連通しており、前記空気送達導管は、前記シェルの内部にあり、前記保護用シェルと前記ユーザーの頭部との間に画定される空間の中に空気流を送達するための出口を有している、空気マニホールドと、
前記出口からの前記空気流が第1の方向に誘導される第1の位置と、前記出口からの前記空気流が第2の異なる方向に誘導される第2の位置との間で調節可能である、前記出口に枢動可能に装着された羽根と、を含み、
ユーザーが呼吸装置組立品を着用している間、上記枢動可能に装着された羽根は、機械的コントローラーにより、調節できるようになっている、呼吸装置組立品。」
(なお、下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

2 本件補正の目的及び本件補正の適否についての判断
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「保護用シェル」について、「ハードシェル部分を有する保護用シェル」という事項を付加して限定するとともに、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「羽根」について、「ユーザーが呼吸装置組立品を着用している間、上記枢動可能に装着された羽根は、機械的コントローラーにより、調節できるようになっている」という事項を付加して限定することにより、本件補正後の請求項1とするものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

3 引用文献
3-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である米国特許出願公開第2005/0010992号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、次のような記載がある。なお、下線は理解の一助のため、当審で付したものである。

ア 「The present invention is directed to a head gear apparatus that incorporates a face shield and apparatus that incorporates a ventilation system. (後略)」(段落[0001])
{当審仮訳:「本発明は、フェイスシールド及び換気システムを組み込んだ装置を組み込んだヘッドギア装置に向けられる。(後略)」}

イ 「In one embodiment of the invention, a head gear apparatus comprises a helmet configured to be supported on the head of a wearer, with at least two airflow passageways defined by the helmet. A first one of the passageways is arranged to direct airflow across the back of the wearer and a second one of the passageways is arranged to direct airflow across the face of the wearer when the helmet is supported on the head of the wearer. The head gear apparatus includes a fan supported by the helmet to direct airflow through the two airflow passageways.
In one feature of this embodiment, at least one of the airflow passageways includes means for adjusting the airflow through the passageway. In a preferred embodiment, both the forward and rear passageways include means for adjusting the airflow through the corresponding passageway. The second or rear airflow passageway can includes a plurality of portals defined in the helmet adjacent the fan. The portals are arranged to direct airflow across the back of the wearer. In a most preferred embodiment, each portal includes a baffle that is arranged to specifically direct the airflow to the neck of the wearer.
The means for adjusting the airflow through the rear airflow passageway can include a louver plate disposed within the helmet between the plurality of portals and the fan. The louver plate defines a plurality of louver openings corresponding to the plurality of portals, with walls between the portals. The louver plate is slidable within the helmet to adjustably overlap at least a portion of the portals. The louver plate can preferably move from a first position in which the louver openings are aligned with the portals to permit full airflow through the portals, to a second position in which the walls completely overlap the portals, thereby effectively stopping airflow through the portals across the wearer's back. 」(段落[0011]ないし[0013])
{当審仮訳:「本発明の一実施形態では、ヘッドギア装置は、ヘルメットにより画定された少なくとも二つの空気流通路を有する、着用者の頭部に支持されるように構成されたヘルメットを含む。ヘルメットが着用者の頭部に支持されているときに、第1の通路は、空気流を着用者の背中に向けるように配置され、第2の通路は、空気流を着用者の顔面に向けるように配置される。ヘッドギア装置は、ヘルメットに支持されて空気流を2つの空気流通路に向けるためのファンを含む。
この実施形態の一つの特徴では、空気流通路の少なくとも一つは、通路を通る空気流を調整するための手段を含む。好ましい実施形態では、前方及び後方の通路の両方は、対応する通路を通る空気流を調節するための手段を含む。第二または後方の気流通路は、ファンに隣接してヘルメット中に画定された複数の入口を含む。入口は、空気流を着用者の背中に導くように配置される。最も好ましい実施形態では、各入口は、特に空気流を着用者の首に向けるように配置されたバッフルを含む。
後方空気流通路を通る空気流を調節するための手段は、複数の入口とファンの間でヘルメット内に配置されたルーバー板を含みうる。ルーバー板は、複数のポータルに対応する複数のルーバー開口を、入口間の壁で画定する。ルーバー板は、入口の少なくとも一部に調整可能に重なるように、ヘルメット内で摺動可能である。ルーバー板は、好ましくは、ルーバーの開口部が全空気流が入口を通るように調整される第1の位置から、壁が完全に入口に重なり、それによって着用者の背中への入口を通る空気流を効果的に停止する第2の位置に移動することができる。」}

ウ 「Referring now to FIG. 2 , a head gear apparatus is illustrated which includes a helmet 30 in accordance with a preferred embodiment of the present invention. The helmet 30 includes a rear portion 32 , a forward ventilation duct 34 , a chin bar 36 and a pair of support struts 38 . Preferably the helmet 30 is formed by an inner shell 30 a and an outer shell 30 b that are affixed together once the interior components have been installed. The shells are preferably formed of a high impact but lightweight plastic as is known in the art. The shells 30 a and 30 b can be affixed in a conventional manner, such as through sonic welding. Alternatively, the helmet can be a single molded piece, with the interior components added through openings in the molded helmet. 」(段落[0046])
{当審仮訳:「図2を参照すると、ヘッドギア装置は、本発明の好ましい実施形態によるヘルメット30を含んで例示されている。ヘルメット30は、後部32、前方通気ダクト34、あごバー36及び一対の支持ストラット38を含む。好ましくは、ヘルメット30は、内部のコンポーネントがインストールされた後に一緒に固定されるインナーシェル30a及びアウターシェル30bにより形成されている。それらのシェルは、好ましくは、当技術分野で知られているような、耐衝撃性であるが軽量のプラスチックから形成されている。シェル30a及び30bは、超音波接合のような従来の方法で固定することができる。代替的に、ヘルメットは、成形ヘルメットの開口部から追加される内装部品を使用して一体の成形品とすることができる。」}

エ 「In accordance with one feature of the present invention, the fan assembly 18 provides air flow to both the forward and rear portions of the helmet. In one embodiment of the invention, the fan 74 directs air through a forward ventilation channel 80 and through rear ventilation portals 82 . The forward channel 80 is formed within the ventilation duct 34 that extends from the rear portion 32 over the top of the wearer's head toward the forehead, as shown in FIG. 10 . The forward channel 80 occupies most of the interior of the duct 34 . Preferably, the duct 34 , and therefore the channel 80 , flares out adjacent the fan 74 , as represented by the dashed lines 80 shown in FIG. 8 , to maximize the air flow into the channel 80 . 」(段落[0060])
{当審仮訳:「本発明の一つの特徴によれば、ファン組立体18は、ヘルメットの前方および後部の両方に空気の流れを供給する。本発明の一実施形態では、ファン74は、前方通風導管80を通り、後部通風入口82を通って空気を導く。前方通風導管80は、図10に示されるように、後部32から着用者の頭上を越え前額部に向かって延びる通風ダクト34内に形成される。前方通風導管80は、ダクト34の内部の大部分を占める。好ましくは、ダクト34、したがって導管80は、図8に破線80によって示されるように、導管80への空気流を最大にするように、ファン74に隣接して張り出す。」}

オ 「The forward air flow passes through the channel 80 in the duct 34 and exits at the forward discharge opening 85 . The direction of this discharged airflow can be modified using the mechanism depicted in the detail view of FIG. 11 . In particular, a deflector plate 87 is slidably disposed within the channel 80 adjacent the discharge opening. The plate 87 is connected to an adjustment knob 89 which extends through an adjustment slot 91 formed in the outer shell 30 b. The knob can be loosened to allow the deflector plate 87 to be moved in and out of the discharge opening 85 , as depicted by the bi-directional arrows. The deflector plate 87 is preferably curved so that when the plate is fully extended beyond the discharge opening 85 the plate can direct the air flow toward the face of the wearer.」(段落[0061])
{当審仮訳:「ダクト34内の導管80を通る前方空気流は、前方吐出口85で終了する。この吐出空気流の方向は、図11の詳細図に図示されているメカニズムを使用して変更することができる。具体的には、偏向板87が、吐出口に隣接する導管80内に摺動可能に配置されている。板87は、アウターシェル30bに形成される調整スロット91を通って延びる調整ノブ89に接続される。双方向矢印によって示されるように、ノブは、偏向板87が吐出口85の内外に移動するために緩めることができる。板が吐出口85を超えて完全に延びたときに、板が着用者の顔に向かって空気の流れを導くことができるように、偏向板87は、好ましくは湾曲している。」}

(2)引用文献1の記載から分かること
上記(1)アないしオ及び図面の記載から、次の事項が分かる。

カ 上記(1)アないしオ及び図面から、引用文献1には、ヘルメット30内に空気流通路を組み込んだヘッドギア装置が記載されていることが分かる。

キ 上記(1)イ及び図面から、引用文献1に記載されたヘッドギア装置において、空気流通路のうち1つは、空気流を着用者の顔に向けるように配置されることが分かる。

ク 上記(1)ウ及び図面から、引用文献1に記載されたヘッドギア装置において、ヘルメット30は、インナーシェル30a及びアウターシェル30bにより形成され、それらのシェルは、好ましくは、当技術分野で知られているような、耐衝撃性であるが軽量のプラスチックから形成されていることが分かる。

ケ 上記(1)エ及び図10から、引用文献1に記載されたヘッドギア装置において、空気流は、後部通風入口82から、後部32から着用者の頭上を越え前額部に向かって延びる通風ダクト34内に形成される前方通風導管80を通って流れることが分かる。

コ 上記(1)オ及び図11から、引用文献1に記載されたヘッドギア装置において、偏向板87が導管80内に摺動可能に設けられ、偏向板87を移動させることにより、着用者に向かう空気の方向を変更できることが分かる。

サ 上記(1)オ及び図11から、引用文献1に記載されたヘッドギア装置において、偏向板87には調整ノブ89が接続され、調整ノブ89を図11の矢印方向に移動させることにより、偏向板87を矢印方向に移動させることができるものであることが分かる。また、調整ノブ89の操作部分は外側シェル30bの外側に設けられていることから、着用者がヘッドギア装置を着用した状態で調整できるようになっていることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ヘッドギア装置であって、
着用者の頭部の少なくとも一部分を被覆するように成形されたヘルメット30であって、耐衝撃性シェルを有するヘルメット30と、
入口82および導管80を備えるダクト34であって、前記入口82は、前記ユーザーの頭部の後側に隣接して配置されるように、かつ保護用シェルの外に延びるように構成されており、前記導管80は、前記入口82と流体連通しており、前記導管80は、前記ヘルメットの内部にあり、前記ヘルメットと前記ユーザーの頭部との間に画定される空間の中に空気流を送達するための吐出口85を有している、ダクト34と、
前記吐出口85からの前記空気流が第1の方向に向けられる第1の位置と、前記出口からの前記空気流が第2の異なる方向に向けられる第2の位置との間で調節可能である、前記出口に摺動可能に装着された偏向板87と、を含み、
着用者がヘッドギア装置を着用している間、上記摺動可能に装着された偏向板87は、調整ノブ89により、調節できるようになっている、呼吸装置組立品。」

3-2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-9181号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、次のような記載がある。なお、下線は理解の一助のため、当審で付したものである。

ア 「【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態における温度調整機能付きヘルメットの縦断面図である。
【0026】
図1において、温度調整機能付きヘルメットは概略においてヘルメット1と熱電ユニット2、電源ケーブル3、制御装置付き電源4によって構成されている。
【0027】
ヘルメット1は、外殻5の内面に衝撃吸収部材6を接着して頭部を保護し、ヘルメット1の前面に透明な樹脂製のウィンドシールド7を取り付けて構成されている。衝撃吸収部材6には通常発泡スチロールが用いられることが多い。また、衝撃吸収部材6の内側面には図示されていない内装材が設けられ、事故時の脱帽防止のための顎ひもも取り付けられている。
【0028】
衝撃吸収部材6には段差および穴が設けられ、外殻5と衝撃吸収部材6によってそれぞれ独立した第1の空気流路8および第2の空気流路9が形成されている。」(段落【0025】ないし【0028】)

イ 「【0033】
外殻5の前面にはそれぞれ独立した第1の空気流路8の第1の外気導入口14と第2の空気流路9の第2の外気導入口15とが穿設され、外殻5の後面には図1に示す第1の空気流路8の外部排出口16が穿設されている。衝撃吸収部材6の前方には第2の空気流路9の出口である前面送風口17と頭部送風口18が設けられ、前面送風口17には流量調節弁19が取り付けられている。
【0034】
本実施の形態では流量調節弁19にバタフライバルブを用いているが、空気の流量および開閉機能、風向調節機能の備えられたものが快適性の観点からは理想的である。」(段落【0033】及び【0034】)

ウ 「【0044】
一方、停車時には図4に示すような空気の流れが生じる。
【0045】
走行状態から停車すると、車に装備された速度計やヘルメット1に別途取り付けられた速度計、風速計、送風ファン24に設けられた電圧計等、走行状態と停止状態を判別可能なセンサーによって停止状態を感知し、送風ファン24に電源が投入され送風ファン24が駆動して第2の空気流路9の前方向きの流れが生じる。
【0046】
開閉装置23は翼断面の形状であるため、この空気の流れによって揚力が発生し第2の外気導入口15を閉塞する向きへ開閉装置23が移動後、流れによる抗力によって外気導入口15を遮断する。
【0047】
このようにして形成された停止時の第2の空気流路9において、送風ファン24によってヘルメット内部空間22内の空気が頭部送風口18から第2の空気流路9へ引き込まれ、第2の熱交換器11にて冷却された後、風向調整機能の付加された流量調節弁19の設けられた前面送風口17から再び内部空間22内へ送風されて循環する。
【0048】
したがって、停止時においても冷却された空気を送風することができ、循環流を形成することで温度の高い外気を冷却する必要がないため冷却効率の向上が可能となる。また、流量調節弁19には風向調整機能が付加されているため、夏場の冷房時には装着者顔面へ向けて送風することで快適性を向上させることができ、冬場の暖房時にはウィンドシールド7へ向けて送風することで装着者の呼気によるウィンドシールド7の結露を防止し、視界確保による安全性を向上させることが可能である。
【0049】
このとき、第1の熱交換器10には送風されないため、放熱効率は低下する可能性があるが、第1の熱交換器10を外殻5の外側へ露出させたり、第1の熱交換器10と外殻5とを熱的に接続することで外殻5前面によって放熱を促進させることで放熱効率の低下を抑制することができるし、第2の空気流路9と同様に第1の熱交換器10用の送風ファンを設けてもよい。
【0050】
なお、本実施例では前面送風口17に流量調節弁19を設けているが、第2の空気流路9の位置や長さを最適化することによって開閉装置23と流量調節弁19とを一体化構成とすることもできる。」(段落【0044】ないし【0050】)

(2)引用文献2の記載から分かること
上記(1)アないしウ及び図面の記載から、次の事項が分かる。

カ 上記(1)アないしウ及び図面の記載から、引用文献2には、温度調整機能付きヘルメットが記載されていることが分かる。

キ 上記(1)イ及びウ並びに図面の記載から、引用文献2に記載された温度調整機能付きヘルメットの前面送風口には、風向調整機能のついた流量調節弁19が取り付けられていることが分かる。

ク 上記(1)イ及び図面の記載から、引用文献2に記載された流量調節弁19は、例えばバタフライバルブが用いられることが分かる。ここで、バタフライバルブは、軸を中心に枢動可能であることは技術常識である。

(3)引用文献2記載の技術
上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「温度調整機能付きヘルメットの前面送風口に取り付けられる、風向調整機能のついた流量調節弁19を、枢動可能とする技術。」

4 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ヘッドギア装置」は、内部に呼吸装置を組み込んだものであるから、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「呼吸装置組立品」に相当し、以下同様に、「着用者」は「ユーザー」に、「ヘルメット30」は「保護用シェル」及び「シェル」に、「耐衝撃性シェル」は「ハードシェル部分」に、「導管80」は「空気送達導管」に、「ダクト34」は「空気マニホールド」に、「吐出口85」は「出口」に、「向けられる」は「誘導される」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「入口82」は、本願補正発明における「空気入口導管」に、「空気入口」という限りにおいて相当する。
また、引用発明における「偏向板87」は、吐出口における空気流の方向を変更するものであるから、本願補正発明における「羽根」に相当する。
また、引用発明における「摺動可能」は、本願補正発明における「枢動可能」に、「操作可能」という限りにおいて相当する。
また、本願補正発明における「機械的コントローラー」とは、本願の図1ないし3に記載されたパドル60、図4及び5に記載されたパドル160、並びに、図6に記載されたノブ180のようなものであるから、引用発明における「調整ノブ89」は、本願補正発明における「機械的コントローラー」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明は、
「呼吸装置組立品であって、
ユーザーの頭部の少なくとも一部分を被覆するように成形された保護用シェルであって、ハードシェル部分を有する保護用シェルと、
空気入口および空気送達導管を備える空気マニホールドであって、前記空気入口は、前記ユーザーの頭部の後側に隣接して配置されるように構成されており、前記空気送達導管は、前記空気入口と流体連通しており、前記空気送達導管は、前記シェルの内部にあり、前記保護用シェルと前記ユーザーの頭部との間に画定される空間の中に空気流を送達するための出口を有している、空気マニホールドと、
前記出口からの前記空気流が第1の方向に誘導される第1の位置と、前記出口からの前記空気流が第2の異なる方向に誘導される第2の位置との間で調節可能である、前記出口に操作可能に装着された羽根と、を含む、呼吸装置組立品。」
である点で一致し、次の点において相違する。

〈相違点〉
(1)本願補正発明においては、「空気入口導管および空気送達導管を備える空気マニホールドであって、前記空気入口導管は、前記ユーザーの頭部の後側に隣接して配置されるように、かつ保護用シェルの外に延びるように構成されており、前記空気送達導管は、前記空気入口導管と流体連通して」いるのに対し、引用発明においては、空気入口に「空気入口導管」が備えられているかどうか明らかでなく、「前記ユーザーの頭部の後側に隣接して配置されるように、かつ保護用シェルの外に延びるように構成されて」いるかどうか明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)本願補正発明においては、「出口に枢動可能に装着された羽根と、を含み」、「ユーザーが呼吸装置組立品を着用している間、上記枢動可能に装着された羽根は、機械的コントローラーにより、調節できるようになっている」のに対し、引用発明においては、出口に操作可能に装着された偏向板87を含み、着用者がヘッドギア装置を着用している間、上記摺動可能に装着された偏向板87は、調整ノブ89により、調節できるようになっているものの、「枢動可能」ではない点(以下、「相違点2」という。)。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
ユーザーに対して空気を供給する呼吸装置組立品において、空気マニホールドに空気入口導管を備えるようにした技術は周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、平成25年6月12日付け拒絶理由通知書において引用された実願昭52-64869号(実開昭53-159197号)のマイクロフィルム[例えば、明細書第2ページ第17行ないし第3ページ第7行及び図面を参照。]及び実願昭62-80938号(実開昭63-189266号)のマイクロフィルム[例えば、明細書第5ページ第14行ないし第6ページ第9行及び図面を参照。]等を参照。)である。
そして、引用発明と、周知技術1とは、共に、ユーザーに対して空気を供給する呼吸装置組立品に関する発明(又は技術)であるから、引用発明において、周知技術1を適用することにより、相違点1に係る本願補正発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
本願補正発明においては、羽根が「枢動可能」に装着され、引用発明においては、偏向板87が「摺動可能」に装着されているが、両者は、ともに、空気流の方向を調節するために設けられたものである。
そして、本願補正発明の実施例を参照すると、例えば、図2ないし5の実施例においては、「羽根」は枢動するが、操作の方向は、図3の矢印64又は図5の矢印164で示されるように、直線的な方向である。
それに対し、引用発明においては、偏向板87は「摺動」するが、操作の方向は、図11に矢印で示されるように、直線的な方向である。
つまり、両者は、「枢動可能」と「摺動可能」という違いはあるが、操作の方向としては格別相違しない。

次に、引用文献2には、「温度調整機能付きヘルメットの前面送風口に取り付けられる、風向調整機能のついた流量調節弁19を、枢動可能とする技術。」(「引用文献2記載の技術」)が記載されている。

また、空気調和の技術分野において、空気流の方向を調節する羽根を枢動可能とする技術は、周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、実願平1-77848号(実開平3-16509号)のマイクロフィルム[例えば、実用新案登録請求の範囲及び図面を参照。]、実願昭61-27171号(実開昭62-141151号)のマイクロフィルム[例えば、明細書第2ページ第1行ないし第5ページ第9行及び第4図ないし第6図を参照。]及び実願昭57-19046号(実開昭58-121709号)のマイクロフィルム[例えば、実用新案登録請求の範囲及び図面を参照。]等を参照。)である。

してみれば、引用発明において、引用文献2記載の技術及び周知技術2を参照して、空気流を調節するための偏向板(羽根)を、枢動可能とすることにより、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願補正発明は、全体として検討しても、引用発明、引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。

以上により、本願補正発明は、引用発明、引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
平成26年8月1日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1アに示した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

1 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献1及び2に関しては、上記第2[理由]3 3-1及び3-2に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明において、上記第2[理由]2に記載した、「ハードシェル部分を有する保護用シェル」及び「ユーザーが呼吸装置組立品を着用している間、上記枢動可能に装着された羽根は、機械的コントローラーにより、調節できるようになっている」という限定事項を省いて、上位概念化したものに実質的に相当するものである。
そうすると、本願発明における発明特定事項をさらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]4及び5で述べたとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-27 
結審通知日 2015-03-31 
審決日 2015-04-14 
出願番号 特願2010-534073(P2010-534073)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A62B)
P 1 8・ 575- Z (A62B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鹿角 剛二  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 佐々木 訓
金澤 俊郎
発明の名称 空気流の方向制御を備えた呼吸装置組立品  
代理人 田中 光雄  
代理人 山崎 宏  
代理人 大畠 康  

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