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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1305980
審判番号 不服2013-12426  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-01 
確定日 2015-10-08 
事件の表示 特願2010-178350「検査用プローブの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年2月23日出願公開,特開2012-37401〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成22年 8月 9日:特許出願
平成24年 6月14日:拒絶理由通知(同年同月19日発送)
平成24年 8月14日:意見書
平成24年 8月14日:手続補正書(以下「手続補正1」という。)
平成24年10月29日:拒絶理由通知(同年11月6日発送)
平成24年12月27日:意見書
平成24年12月27日:手続補正書(以下「手続補正2」という。)
平成25年 3月27日:拒絶査定(同年4月2日送達)
平成25年 3月27日:補正却下の決定(手続補正2の補正却下)
平成25年 7月 1日:手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成25年 7月 1日:審判請求

第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。なお,手続補正2は却下されている。
「 【請求項1】
少なくとも一方の先端部に検査用接触部が形成される第1の線材及び第2の線材を接合して構成される検査用プローブの製造方法であって,
前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態で前記第1の線材及び前記第2の線材を中心軸回りに回転させながら接合箇所の外周面にパルス状のレーザ光を照射することによってレーザ溶接するとともに,前記レーザ光により前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくしたこと
を特徴とする検査用プローブの製造方法。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。下線は,補正箇所を示すために当審判体が付したものである。
「 【請求項1】
少なくとも一方の先端部に検査用接触部が形成される第1の線材及び第2の線材を接合して構成される検査用プローブの製造方法であって,
前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態で前記第1の線材及び前記第2の線材を中心軸回りに回転させながら接合箇所の前記第1の線材及び前記第2の線材の外周面にパルス状のレーザ光を照射することによってレーザ溶接するとともに,前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量を,融点が低い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量よりも大きくしたこと
を特徴とする検査用プローブの製造方法。」

2 判断(目的要件)
本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)における,「前記レーザ光により前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくした」の構成を,「前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量を,融点が低い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量よりも大きくした」の構成にする補正(以下「補正事項1」という。)を含む。
そこで,補正事項1が,特許法17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とする補正に該当するかについて検討すると,以下のとおりである。
(1) 2号について
本件出願の明細書の段落【0006】には,以下のとおり記載されている。
「第1の線材と第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくしたことによって,融点の異なる材料からなる線材を接合する場合であっても,高融点材料の融合不良や低融点材料の溶け過ぎを防止し,両者の溶融するタイミングを合わせて良好な溶接品質を得ることができる。なお,ここでいうエネルギ量とは,レーザ光の照射により各線材に直接的あるいは間接的(例えば他方の線材からの熱伝導など)に与えられる熱量を,加熱開始から終了までの時間で積分したものを意味するものとする。」
すなわち,本件出願において,「線材に与えられるレーザ光のエネルギ量」と「線材に照射されるレーザ光の(単位時間あたりの)エネルギ量」は,同一ではない。本件出願において,「線材に与えられるレーザ光のエネルギ量」は,「線材に照射されるレーザ光の(単位時間あたりの)エネルギ量」から「線材に照射されるけれども反射・散乱等により線材に吸収されないレーザ光の(単位時間あたりの)エネルギ量」を除き,さらに,「他方の線材からの熱伝導など間接的に与えられる(単位時間あたりの)熱量」も加味して時間積分した量のことである。したがって,線材のレーザ光の吸収率の差等によっては,一方の線材に照射されるレーザ光のエネルギ量が他方のそれよりも大きいとしても,一方の線材に与えられるレーザ光のエネルギ量が他方のそれよりも小さくなる。例えば,照射されるレーザ光のエネルギ量が10%多いとしても,レーザ光の吸収率が10%少なければ,与えられるレーザ光のエネルギ量は1%少なくなる。
そうしてみると,補正事項1は,発明を特定するために必要な事項を変更する補正であり,限定する補正に該当しない。
補正事項1は,特許法17条の2第5項2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当しない。

(2) 4号について
補正事項1の補正の根拠に関して,審判請求人は,審判請求書の(3)(3.1)において,「もとの請求項1の「融点が高い側に与えられるエネルギ量」,「融点が低い側に与えられるエネルギ量」が意味するものが「照射される前記レーザ光のエネルギ量」により与えられるエネルギ量であることを明確にした」と主張している。
しかしながら,本件出願において,「融点が高い側に与えられるエネルギ量」及び「融点が低い側に与えられるエネルギ量」が意味するものが明確でない旨の拒絶理由は通知されていない。補正事項1は,同4号に掲げる,明瞭でない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とする補正に該当しない。
そもそも,本件補正後の特許請求の範囲には,「照射される前記レーザ光のエネルギ量」と記載され,「照射される前記レーザ光のエネルギ量により与えられるエネルギ量」とは記載されていない。
補正事項1により,発明の構成が,かえって明確でないものになっている。

(3) 1及び3号について
補正事項1が,請求項の削除(1号)又は誤記の訂正(3号)を目的とする補正に該当しないことは明らかである。

(4) 小括
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に適合しないものであり,特許法159条1項で準用する特許法53条1項の規定により却下すべきものである。

3 判断(独立特許要件)
事案に鑑みて,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについても,以下,検討する。

(1) 引用例1に記載の事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-187043号公報(発明の名称:「異種金属接合プローブ,その製造方法及び異種金属接合プローブを用いたプローブカード」,出願人:「日本電子材料株式会社」,公開日:平成12年7月4日,以下「引用例1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,LSIチップ等の半導体集積回路の電気的諸特性を測定する際に用いられるプローブ,特に異なる金属を接合してなる異種金属接合プローブと,その製造方法と,さらにはこの異種金属接合プローブを用いたプローブカードとに関する。
【0002】
【従来の技術】従来のプローブカードに用いられるプローブは,硬くて弾性の高い金属,例えばタングステンやベリリウム銅等が多く用いられる。特に,耐摩耗性に優れており,直径が数十μmの線材も安価に入手可能なタングステンが用いられることが多く,現在では90%以上のプローブがタングステンから構成されている。
【0003】このプローブは,後端の接続部がプローブカードを構成するプリント基板に形成された配線パターンに接続される。この接続は,半田付けで行われるのが一般的である。」

イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,プローブ900の後端の接続部を配線パターン910に接続する銅線920を半田付けで接続部に接続すると,図5に示すように,半田930はプローブ900の径の1.8倍程度の大きさになってしまう。このため,プリント基板950に形成される配線パターン910は,プローブ900が接続される部分における間隔をプローブ900の径の2倍程度にしなければならなかった。
【図5】

【0005】現代のLSIチップでは,プローブが接触すべき電極パッドが狭小ピッチ化しているため,プローブも狭小ピッチ化に対応する必要があるが,半田がプローブの径の1.8倍程度になるため,その狭小ピッチ化にも一定の限度があった。
【0006】本発明は上記事情に鑑みて創案されたもので,プリント基板の配線パターンの狭小ピッチ化に対応することができる異種金属接合プローブ,その製造方法及び前記異種金属接合プローブを用いたプローブカードを提供することを目的としている。」

ウ 「【0013】本発明の第1の実施の形態に係る異種金属接合プローブ100は,タングステンからなる略L字形状のプローブ部110と,このプローブ部110の後端に突き合わせ接合された銅線120とを有している。
【0014】このプローブ部110は,図1に示すように,その一端は先端部の接触部111として研磨されて先鋭化されている。この接触部111は,図示しないLSIチップの電極パッドに接触する部分である。なお,このプローブ部110は,直径が0.08mmのタングステン或いは3%程度のレニウムを含むタングステン合金の線材(以下,タングステンの線材Wと称する)から構成される。
【図1】

【0015】また,このプローブ部110の後端部には,銅線120となる銅の線材Cuが突き合わせ接合されている。この銅の線材Cuの突き合わせ接合は,例えば一般にスーパーウェルダーといわれる低電圧,高電流の電気抵抗溶接機を用いて行われる。
【0016】タングステンの線材Wと銅の線材Cuとの間に,両者を接合させる金属材料としての例えばプラチナPtを介在させる。この場合,プラチナPtは,コスト的な面も考慮して5mm程度の長さにしておく。なお,前記銅の線材Cu及びプラチナPtは,タングステンの線材Wと同等の直径を有するものを使用することが望ましい。
【0017】この状態において,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとに電気抵抗溶接機の電極をそれぞれ接触させ,5V-1500Aという低電圧,大電流を印加する。すると,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとは,一瞬にして溶着してプラチナPtを介在させた状態で接合される。
【0018】タングステンの線材Wと銅の線材Cuとが接合したならば,銅線120を適当な位置で切断する。さらに,タングステンの線材Wの先端を研磨して先鋭化し,異種金属接合プローブ100の接触部120とする。また,タングステンの線材Wも異種金属接合プローブ100のプローブ部110として必要な加工(この場合は略90°の屈曲)を行なう。これで,異種金属接合プローブ100が完成する。
【0019】このように,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとの間にプラチナPtを介在させて突き合わせ接合して得られた異種金属接合プローブ100は,タングステンの線材Wからなるプローブ部110と銅の線材Cuからなる銅線120とのつなぎめの径の増大は約10%となる。すなわち,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとの径が0.08mmであれば,つなぎめの径は0.0808mmとなる。従って,つなぎめの径に約80%の増大,すなわち0.144mmになった従来の半田付けに比較すると,より高密度に異種金属接合プローブ100を配置することが可能となる。
【0020】また,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとの間にプラチナPtを介在させて突き合わせ接合して得られたプローブ部110の接合強度は,実験の結果,20kg/mm^(2)であることが確認されたので,通常のプローブとして用いるにはまったく支障がないことが判明している。
【0021】なお,上述した実施の形態では,プローブ部110を構成するタングステンの線材Wと銅の線材Cuとの間に,融点がタングステンより低く,かつ銅より高い金属材料として,プラチナPtを介在させたが,ニッケルであってもよい。上述の実施の形態と同一の条件下でニッケルを用いてタングステンの線材Wと銅の線材Cuとを接合した場合,つなぎめの径の増大は約5%となり,より高密度に配置することができる。しかも,接合強度は30kg/mm^(2)とより強力になっている。
【0022】また,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとの接合は,電気抵抗溶接以外にレーザ溶接で行うことが可能である。レーザ溶接でタングステンの線材Wと銅の線材Cuとを接合した場合には,電気抵抗溶接より加熱熱量の制御の点で優れている。
【0023】さらに,上記実施の形態では,プローブ部110と銅線120との間に挟み込まれて,両者を接合する金属材料としてプラチナPtとニッケルとを挙げたが,前記金属材料としては,コバルト,パラジウム,クロム又はこれらの合金であってもよい。要するに,金属材料としては,融点がタングステンより低く,かつ銅より高いものであることが重要である。」

エ 「【0036】また,上述した実施の形態では,異種金属接合プローブ100は,タングステンの線材Wと銅の線材Cuとの間にプラチナPtを介在させて突き合わせ接合して得ていたが,本発明がこれに限定されるわけではない。例えば,プラチナPtを用いることなく,銅の線材Cuではなく,リン青銅又はベリリウム銅の線材をタングステンの線材Wに直接突き合わせ接合することに構成してもよい。リン青銅又はベリリウム銅の線材を用いると,リン青銅又はベリリウム銅は,より低抵抗であるので,測定の安定化に寄与するという利点がある。」

オ 「【0044】一方,本発明に係る異種金属接合プローブの製造方法は,タングステンからなるプローブ部と,このプローブ部の後端に突き合わせ接合される銅線との間に金属材料を挟み込み,レーザ溶接又は電気抵抗溶接で両者を接合するようになっている。
【0045】従って,この方法によると,接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する異種金属接合プローブとすることができる。」

そうしてみると,引用例1には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 タングステンからなるプローブ部と,このプローブ部の後端に突き合わせ接合される銅線との間に金属材料を挟み込み,レーザ溶接又は電気抵抗溶接で両者を接合し,レーザ溶接でタングステンの線材Wと銅の線材Cuとを接合した場合には,電気抵抗溶接より加熱熱量の制御の点で優れ,
タングステンの線材Wと銅の線材Cuとが接合したならば,銅線120を適当な位置で切断し,さらに,タングステンの線材Wの先端を研磨して先鋭化し,異種金属接合プローブ100の接触部120とし,
金属材料は,融点がタングステンより低く,かつ銅より高い,プラチナ,ニッケル,コバルト,パラジウム,クロム又はこれらの合金であって,銅の線材Cuではなく,リン青銅又はベリリウム銅の線材をタングステンの線材Wに直接突き合わせ接合してもよく,
接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する,LSIチップ等の半導体集積回路の電気的諸特性を測定する際に用いられる,異なる金属を接合してなる異種金属接合プローブの製造方法。」

(2) 引用例2に記載の事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-254282号公報(発明の名称:「レーザーによる突合せ溶接金属板の製造方法」,出願人:「新日本製鐵株式会社」,公開日:平成17年9月22日,以下「引用例2」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,自動車,船舶,建材等に用いられる構造材の製造方法にかかるもので,特に,金属板を突き合わせてレーザー溶接した溶接金属板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,レーザー溶接により複数の金属板を事前に突き合わせ接合し,その金属板をプレス成形等の組成加工による二次加工にて所望の形状に成形する技術の適用が自動車等の構造材で一般化しつつある。融点の異なる異種の金属板をプレス成形以前に接合し,一板の金属板としてプレスを行えば,製品の部分的な補強や軽量化を促す効果がある。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで,本発明は互いに融点の異なる金属板をレーザー突合せ溶接する際に,良好な溶接ビードを形成することができるレーザー突合せ溶接方法を提供することを課題とするものである。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0013】
通常レーザービームによる突合せ接合プロセスでは,突合わされた2枚の金属板のエッジ近傍をレーザービームにより溶融し,その溶融した金属同士が溶け合い,冷えて凝固することにより溶接ビードが形成される。
【0014】
ところが,従来レーザー接合にて,融点の異なる鋼板とアルミ合金板とを突合せ溶接をしようとした場合,溶接ビード付近で大きな穴が貫通し,接合不可能であった。
【0015】
溶接ビード付近で大きな穴が貫通し,良好な溶接ビードが形成できない原因は,レーザービームにより,突合せ部分にレーザービームを照射した場合,即ち,両方の金属板に均等なレーザービームを投入した場合,融点の高い材料が十分溶融するようなエネルギーを照射されるので,融点の低い方の材料への投入熱量が過多となり融け落ちて,結果として穴があいてしまう。また,逆に融点の低い方の材料が適度に溶融するようなレーザービームを照射した場合,融点の高い方の材料のエッジ部が十分に溶融せずに,うまく接合できないことに原因がある。
【0016】
本発明者は,融点の高い材料にレーザービームを照射し,融点の高い方の材料を溶融し,その溶融金属からの伝熱でもう片方の融点の低い材料に間接的に熱を加え,双方を適度に溶融すれば,穴空きのないスムースな溶接ビードを得ることができることを見出して本発明を完成した。
【0017】
本発明の要旨は,次のとおりである。
【0018】
(1) 融点の異なる金属板をレーザーによる突き合わせ溶接で溶接して溶接金属板を製造する方法において,レーザービームを融点の高い金属板のみに照射することを特徴とするレーザーによる突合せ溶接金属板の製造方法。
【0019】
(2) 融点の異なる金属板をレーザーによる突合せ溶接で溶接して溶接金属板を製造する方法において,融点の高い方の金属板に照射するレーザーエネルギーを融点の低い方の金属板に照射するエネルギーより大きくすることを特徴とするレーザーによる突合せ溶接金属板の製造方法。」

エ 「【0024】
図3は,本発明の融点の異なる板をレーザー突合せ溶接する方法を説明する図で,図3(a)は溶接前の溶接断面図,図3(b)は溶接後の溶接断面図を示している。
【図3】

【0025】
互いに融点の異なる金属板をレーザー突合せ溶接するには,図3(a)に示すように,融点の高い板1(例えば1.4mm厚鋼板)と融点の低い板2(例えば1.4mm厚アルミニウム合金板)とを突合せ状態で配置する。レーザービーム7の焦点が融点の高い板の上面に位置するようにレーザーヘッドを移動させて調整する。
【0026】
レーザービームの焦点位置は,板1及び板2の融点の差に応じて突合せ部6から,融点の高い板の方向に移動できるようになっている。
【0027】
図4は,レーザー突合せ溶接時の焦点位置を制御する方法を示す概要図である。
【図4】

【0028】
レーザービームの焦点位置を決めるには,溶接板の突合せ位置を画像処理により検出できる突合せ位置検出装置11で検出し,その位置検出情報及び突合せ部から融点の高い板の方向へビーム焦点位置をずらすシフト量情報を演算装置を有するレーザー溶接装置に入力し,その溶接装置からの出力でレーザーヘッド駆動装置13を駆動し,レーザーヘッド13を移動させレーザービーム焦点位置を設定したシフト量だけ突合せ部から融点の高い板のほうにシフトさせる。なお,シフト量は板厚,溶接速度,レーザー出力等の溶接条件によって決められる。また,溶接装置に溶接すべき板の融点,板厚,溶接速度,レーザー出力等の溶接条件を入力することにより,シフト量を自動設定することも可能である。
【0029】
レーザービームは,通常照射位置でのレーザービーム有効直径は0.2?0.3mm程度であるが,ビームの有効径外にも拡散し,そこにビームの10分の数%のエネルギーが存在する。
【0030】
接合する材料の融点の差の大きさによって,ビーム焦点位置のシフト量は異なるが,例えばレーザービーム焦点の有効直径部分を融点の高い板のみに照射し,有効直径外の拡散ビームを融点の低い板に照射するようにする。
【0031】
図3(b)の溶接後の溶接断面図に示すように,融点の高い板1は,レーザービーム照射により溶融し,溶融した金属からの伝熱及び拡散ビームの熱エネルギーによって融点の低い方の板2が溶融する。突合せ部で両方の板を適度に溶融させることができるので,穴明きのない10滑らかな溶接ビード5を得ることができる。
【0032】
レーザービームの焦点を突合せ部から融点の高い板のほうにずらすシフト量は,ビーム焦点の有効直径の大きさによって異なるが,通常その大きさは0.2?0.3mmであるから,シフト量は0.1?0.5mmとすることが好ましい。シフト量が少ないと,融点の低い板にレーザービームの高いエネルギーが照射されて融点の低い板の溶融が過多となり,融け落ちて,溶接部の穴明きの原因となる。一方,シフト量が多すぎると,融点の高い板の突合せ部の溶融が不充分となり,溶接ビードを形成することができなくなる。したがって,滑らかで良好な溶接ビードを得るためのシフト量を選定して,溶接を行うことが必要である。
【0033】
即ち,レーザービームを照射したときのエネルギー密度の分布に基づき,融点の高い板に照射されるレーザービームのエネルギーを融点の低い板に照射されるレーザーエネルギーよりも大きくして,両方の板が突合せ部で等しく溶融できる大きさのシフト量に設定すればよい。」

そうしてみると,引用例2には,以下の技術が記載されている(以下「引用例2記載技術」という。)。
「 融点の高い材料にレーザービームを照射し,融点の高い方の材料を溶融し,その溶融金属からの伝熱でもう片方の融点の低い材料に間接的に熱を加え,双方を適度に溶融すれば,穴空きのないスムースな溶接ビードを得ることができ,
互いに融点の異なる金属板をレーザー突合せ溶接するには,融点の高い板1(例えば1.4mm厚鋼板)と融点の低い板2(例えば1.4mm厚アルミニウム合金板)とを突合せ状態で配置し,レーザービーム7の焦点が融点の高い板の上面に位置するようにレーザーヘッドを移動させて調整し,接合する材料の融点の差の大きさによって,ビーム焦点位置のシフト量は異なるが,レーザービームを照射したときのエネルギー密度の分布に基づき,融点の高い板に照射されるレーザービームのエネルギーを融点の低い板に照射されるレーザーエネルギーよりも大きくして,両方の板が突合せ部で等しく溶融できる大きさのシフト量に設定すればよい,
レーザー突合せ溶接方法。」

(3) 引用例3及び4に記載の事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開昭63-140788号公報(発明の名称:「CO_(2)レーザ溶接のクレータ処理方法」,出願人:「日本ニユクリア・フユエル株式会社」,公開日:昭和63年6月13日,以下「引用例3」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
「(産業上の利用分野)
本発明はCO_(2)レーザ光を集光照射させて行なう溶接において終端部にクレータを生じさせないうにした溶接法に関する。
(従来の技術)
一般に円筒または円柱材料のCO_(2)レーザ溶接法においては,第1図に示すように,レーザ光1を集光レンズ2によって集光し,集光したレーザ光を被溶接物3に照射しながら,被溶接物3を回転治具4によって,一定あるいは,可変速度で回転させながら溶接が行なわれる。そして,溶接はレーザ光を被溶接物に一回転以上照射させた後,シャッタ等により,レーザ光を遮断し終了させる。」(1頁左下欄下から2行ないし右下欄上から11行,なお,「生じさせないうにした」は,「生じさせないようにした」の誤記である。)
【第1図】


また,本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開平1-162590号公報(発明の名称:「手術用アイレス針の製造方法」,出願人:「株式会社松谷製作所」,公開日:平成1年6月27日,以下「引用例4」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
「実施例1
針本体1とパイプ2とを突き合わせ,120 r.p.m(2 r.p.s)でこれ等を夫々回転させて,パルスYAGレーザービームを前記突き合わせ部に繰り返しスピード100p.p.s(1秒間に100パルス)で60パルス照射してストップした。
即ち,ビーム照射のスタート地点から1 1/5回転照射してストップした処,前記第4図に示す如く,スタート時の最初の溶接部分Aの溶接の乱れが完全に無くなって,この重ねてビームを照射した最初の溶接部分Aはそれに続く溶接部分Bと全く同様に外観に於いてもきれいな均一な溶接痕Xとなり,更にこのビームを重ねて照射した最初の溶接部分Aの断面を観察しても溶け込み深さ,巾とも夫々溶接部分Bと同一であった。」(3頁右下欄2ないし16行)
【第4図】


(4) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。

ア 検査用プローブの製造方法
引用発明は,「LSIチップ等の半導体集積回路の電気的諸特性を測定する際に用いられる,異なる金属を接合してなる異種金属接合プローブの製造方法」であり,また,「タングステンの線材Wと銅の線材Cuとが接合したならば,銅線120を適当な位置で切断し,さらに,タングステンの線材Wの先端を研磨して先鋭化し,異種金属接合プローブ100の接触部120とし」の構成を具備する。
したがって,引用発明の「異種金属接合プローブの製造方法」は,本件補正後発明の「少なくとも一方の先端部に検査用接触部が形成される第1の線材及び第2の線材を接合して構成される検査用プローブの製造方法」に相当する構成を具備する。

イ レーザ溶接
引用発明は,「タングステンからなるプローブ部と,このプローブ部の後端に突き合わせ接合される銅線との間に金属材料を挟み込み,レーザ溶接又は電気抵抗溶接で両者を接合し」及び「銅の線材Cuではなく,リン青銅又はベリリウム銅の線材をタングステンの線材Wに直接突き合わせ接合してもよく」の構成を具備する。そして,引用発明の,「プローブ部」と「金属材料」の突き合わせ,「金属材料」と「銅線」の突き合わせ,「プローブ部」と「リン青銅」の突き合わせ,及び,「プローブ部」と「ベリリウム銅」の突き合わせは,いずれも,本件補正後発明の「第1の線材」及び「第2の線材」の突き合わせに相当する。
したがって,レーザ溶接に関する技術常識を勘案すると,引用発明は,本件補正後発明の「前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態でレーザ光を照射することによってレーザ溶接する」に相当する構成を具備する。

そうしてみると,本件補正後発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
(一致点)
「 少なくとも一方の先端部に検査用接触部が形成される第1の線材及び第2の線材を接合して構成される検査用プローブの製造方法であって,
前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態でレーザ光を照射することによってレーザ溶接する
検査用プローブの製造方法。」

(相違点1)
本件補正後発明は,前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態で「前記第1の線材及び前記第2の線材を中心軸回りに回転させながら接合箇所の前記第1の線材及び前記第2の線材の外周面にパルス状の」レーザ光を照射することによってレーザ溶接するのに際し,引用発明は,この点が明らかではない点。

(相違点2)
本件補正後発明は,「前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量を,融点が低い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量よりも大きくした」構成を具備するのに対し,引用発明は,この点が明らかではない点。

(5) 判断
引用例1の「レーザ溶接でタングステンの線材Wと銅の線材Cuとを接合した場合には,電気抵抗溶接より加熱熱量の制御の点で優れている」(段落【0022】)という記載に接した検査用プローブの当業者は,引用発明をレーザ溶接で実現しようとする。しかし,レーザ溶接機は専門性の高い工作機械であるから,検査用プローブの当業者が自力で機種選定し使いこなすことは困難であり,レーザ溶接機メーカーに仕様を伝えて設備導入するのが近道である。

ア 相違点1について
引用例3及び4の記載内容によると,遅くとも本件出願時点において,円筒又は円柱材料を突き合わせレーザ溶接するに際し,両者を中心軸周りに回転させながら外周面にパルス状のレーザ光を照射する技術は,原子力関係の企業や,手術用針を製造する企業等,各方面で採用される程に一般的な周知技術であった。
引用発明の異種金属接合プローブは,「接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する」必要がある。周知技術に関するレーザ溶接機メーカの提案を受けた検査用プローブの当業者が,周知技術を採用して相違点1を克服することは,引用発明の具体化に伴う,格段とはいえない創意工夫の範囲内である。

イ 相違点2について
引用発明の異種金属接合プローブは,異種金属を「接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する」という程度にまでうまく接合する必要がある。引用例2記載技術に関するレーザ溶接機メーカーの提案を受けた検査用プローブの当業者が,引用例2記載技術を採用することは容易である。また,引用例2記載技術の「接合する材料の融点の差の大きさによって,ビーム焦点位置のシフト量は異なるが,レーザービームを照射したときのエネルギー密度の分布に基づき,融点の高い板に照射されるレーザービームのエネルギーを融点の低い板に照射されるレーザーエネルギーよりも大きくして,両方の板が突合せ部で等しく溶融できる大きさのシフト量に設定すればよい」の構成によれば,レーザ光照射位置は,試行錯誤の結果にすぎない。
引用発明において引用例2記載技術を採用し,相違点2を克服することは,引用発明の具体化に伴う,格段とはいえない創意工夫の範囲内である。

また,本件補正後発明が奏する効果は,引用発明,引用例2記載技術及び周知技術から予測できる範囲内のものである。

(6) 備考
審判請求人は,審判請求書の(4.3.1)において,以下のとおり主張する。
「引用文献1には,確かに「一方の先端部に検査用接触部が形成される第1の線材及び第2の線材を接合して構成される検査用プローブの製造方法」が記載されているものと認められ,さらに,電気抵抗溶接及びレーザ溶接が適用可能であると記載されています。
しかし,レーザ溶接を行う場合の具体的な照射方法は何ら記載も示唆もされておりません。後述するように,レーザ溶接によって良好な溶接品質を有する異種材料接合検査用プローブを製造するには,本願発明のように当業者の通常の創作能力の発揮では想到し得ない技術が必要となりますので,本願出願時における技術水準を考慮した場合,引用文献1の記載に基づいて当業者が検査用プローブをレーザ溶接によって製造することは到底不可能です。
さらに,本願の出願人が知る限り,引用文献1の出願人がこのような異種材料接合の検査用プローブを製品化したことはありませんので,引用文献1に記載された発明は単に願望を表明したにすぎない,いわゆる未完成発明であって引用発明としての適格性を欠いている可能性が高いと考えます。」
しかしながら,引用例1には「レーザ溶接でタングステンの線材Wと銅の線材Cuとを接合した場合には,電気抵抗溶接より加熱熱量の制御の点で優れている」(段落【0022】)と記載されているから,検査用プローブの当業者は,引用発明をレーザ溶接により実現しようとする。すなわち,引用例1には,容易推考の出発点としての発明が十分に開示されており,また,相違点1及び2に係る構成も知られている。
なお,発明を実際に製品化したか否かが容易推考と別論であることは,言うまでもない。

審判請求人は,審判請求書の(4.3.2)において,以下のとおり主張する。
「異種材料を溶接する際に,高融点側に与えられるエネルギが高くなるようにレーザ光を照射することが記載された引用文献は引用文献2のみです。
引用文献2に記載された技術は,融点の異なる板材どうしを突き合わせてレーザ溶接する際に,不可避的に照射されるビームの有効径外の微小なエネルギを除いて,実質的に全エネルギが高融点側に照射されるようにビーム照射位置を設定し,連続的にレーザ溶接するものです。
このような溶接手法が適用可能なのは,引用文献2が自動車や船舶等に利用される比較的板厚の大きい板材の溶接に係るものであるためです。この溶接手法を,微細な検査用プローブの製造に適用した場合,線材が溶損するなどして溶接が不可能となります。この点,後述する実験報告書を参照いただければ明らかです。
引用文献2に記載された技術は,本願発明の特徴(b),(c)のように,レーザ光をパルス状とし,高融点側及び低融点側の線材のいずれの外周面も照射し,かつ,高融点側に照射によって与えられるエネルギ量を低融点側に照射によって与えられるエネルギ量よりも大きくすることを,何ら記載も示唆もしておりません。」
(当審注:特徴(b)は,「前記第1の線材と前記第2の線材とを突き合わせた状態で前記第1の線材及び前記第2の線材を中心軸回りに回転させながら接合箇所の前記第1の線材及び前記第2の線材の外周面にパルス状のレーザ光を照射することによってレーザ溶接するとともに」の構成であり,特徴(c)は,「前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量を,融点が低い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量よりも大きくしたこと」の構成である。)
しかしながら,公知文献の数は,容易推考できるか否かを左右しない。また,引用例2記載の技術は,金属板と金属板の突き合わせ溶接を念頭に置いたものであるとしても,引用例2には,「融点の高い材料にレーザービームを照射し,融点の高い方の材料を溶融し,その溶融金属からの伝熱でもう片方の融点の低い材料に間接的に熱を加え,双方を適度に溶融すれば,穴空きのないスムースな溶接ビードを得ることができる」(段落【0016】)ことに加えて,「接合する材料の融点の差の大きさによって,ビーム焦点位置のシフト量は異なる」(段落【0030】)との溶接ノウハウまでもが原理に遡って開示されており,その原理は,「自動車や船舶等に利用される比較的板厚の大きい板材」特有のものではない。
なお,レーザ光の照射位置は融点の差を勘案して決定すべきであるところ,照射位置は精密制御可能であるから,レーザ光の照射位置を調節することに何ら困難性はなく,試行錯誤すれば足りる。

審判請求人は,審判請求書の(4.3.4)において,以下のとおり主張する。
「審査官が請求項1に関して引用された引用文献1乃至4のうち,検査用プローブの技術に関する文献は,わずかに引用文献1のみであり,他は全て検査用プローブとはかけ離れた技術分野に関するものです。
具体的には,引用文献2は,自動車,船舶,建材等に用いられる構造材の製造方法,引用文献4は,手術用アイレス針の製造方法,引用文献3に至っては,上述したように適用される技術分野すら不明です。
・・・
上述した鉄道,自動車,船舶,ゴルフクラブ,手術用アイレス針等の製造技術が,「検査用プローブが属する技術分野の出願時の技術常識,技術水準」ということは到底できませんし,このような本願発明からかけ離れた技術分野における技術に精通した当業者を想定して審査を行った場合,出願人にとってあまりにも過酷であり,発明の保護という特許法の法目的に悖ることになります。
・・・
ここで,小学館デジタル大辞泉国語辞典によると,「周知」とは「世間一般に広く知れ渡っていること」と定義されております。
しかし,引用文献4は,手術用アイレス針の製造というきわめて特殊な技術分野に属するものであり,引用文献3は,どの技術分野に属するかすら不明なものです。このような技術が「世間一般に広く知れ渡っている」という認定には無理があります。
仮に上述した技術的事項が周知であるというのであれば,検査用プローブの製造に関する技術ではないにしても,関連する技術分野か,あるいは,一般的な技術分野の文献に記載されている必要があると考えます。」
しかしながら,検査用プローブの製造に携わる者が,レーザ溶接を採用するに際し,レーザ溶接機メーカーの知識を活用することは当然である。そもそも,レーザ溶接機は種々の用途で利用される工作機械であるから,一方の用途で公知である技術を他方の用途に流用することは,予定されている事項である。また,周知技術が円柱材料に,引用例2記載技術が融点の異なる材料に,それぞれ流用できることは,その原理からみて明らかである。

審判請求人は,審判請求書の(4.3.5)において,実験成績証明書とともに,本件補正後発明の効果の顕著性を主張する。
しかしながら,引用例2記載技術は,「穴空きのないスムースな溶接ビードを得る」ことを目的とする。また,引用例3及び4には,それぞれ,「クレータを生じさせない」(引用例3の1頁右下欄1行),「スタート時の最初の溶接部分Aの溶接の乱れが完全に無くなって,この重ねてビームを照射した最初の溶接部分Aはそれに続く溶接部分Bと全く同様に外観に於いてもきれいな均一な溶接痕Xとなり,更にこのビームを重ねて照射した最初の溶接部分Aの断面を観察しても溶け込み深さ,巾とも夫々溶接部分Bと同一であった」(引用例4の3頁右下欄10ないし16行)と記載されている。引用発明は「接合部の径の増大を抑えつつ,しかも高い接合強度を有する」異種金属接合プローブを目指すものであり,また,引用例1には「レーザ溶接でタングステンの線材Wと銅の線材Cuとを接合した場合には,電気抵抗溶接より加熱熱量の制御の点で優れている」(段落【0022】)と記載されているから,引用発明に対して引用例2記載技術及び周知技術を組み合わせてなるものが,強度,歩留り,外観に優れたものとなることは,当業者が期待する効果に過ぎない。

(7) 小括
本件補正後発明は,引用発明,引用例2記載技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下についてのまとめ
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明(本願発明)は,明細書,図面及び特許請求の範囲の記載からみて,前記「第2」1(1)に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
請求項1に関する原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項1に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術,並びに,周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用例等に記載の事項及び引用発明等
引用例1ないし4に記載の事項,並びに,引用発明,引用例2記載技術及び周知技術は,前記「第2」3(1)ないし(3)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,(a)本件補正後発明を特定するために必要な事項である「外周面」の構成において,「前記第1の線材及び前記第2の線材の」という発明特定事項を省くとともに,(b)本件補正後発明の「前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量を,融点が低い側に照射される前記レーザ光のエネルギ量よりも大きくした」の構成を「前記レーザ光により前記第1の線材と前記第2の線材のうち材料の融点が高い側に与えられるエネルギ量を,融点が低い側に与えられるエネルギ量よりも大きくした」の構成に変更したものである。
そして,本件補正後発明が,前記「第2」3で述べたとおり,引用発明,引用例2記載技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるところ,引用例2記載技術において「両方の板が突合せ部で等しく溶融できる」のは,レーザビーム焦点位置のシフト量が「レーザビームにより融点の高い板に与えられるエネルギーを融点の低い側に与えられるエネルギーよりも大きく」なるように設定されたからにほかならないから,結局,本願発明も同様に,引用発明,引用例2記載技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
また,本件補正後発明が奏する効果は,引用発明,引用例2記載技術及び周知技術から予測できる範囲内のものである。

第4 まとめ
以上のとおり,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用例1に記載された発明,引用例2に記載された技術及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-11 
結審通知日 2014-07-15 
審決日 2014-07-29 
出願番号 特願2010-178350(P2010-178350)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01R)
P 1 8・ 572- Z (G01R)
P 1 8・ 574- Z (G01R)
P 1 8・ 575- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒井 誠  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 小林 紀史
樋口 信宏
発明の名称 検査用プローブの製造方法  
代理人 稲田 弘明  
代理人 稲田 弘明  

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