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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J |
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管理番号 | 1306010 |
審判番号 | 不服2014-11310 |
総通号数 | 191 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-06-16 |
確定日 | 2015-10-02 |
事件の表示 | 特願2009-273108「表面保護シート」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月16日出願公開、特開2011-116809〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本願は、平成21年12月1日にされた特許出願であって、平成25年6月13日付けで拒絶理由が通知され、同年8月21日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され、平成26年3月20日付けで拒絶査定がされたところ、これに対して、平成26年6月16日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので、特許法162条所定の審査がされた結果、同年8月7日付けで同法164条3項の規定による報告がされたものである。 第2 補正の却下の決定 [結論] 平成26年6月16日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 平成26年6月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容 本件補正は、特許請求の範囲の全文を変更するものであるところ、本件補正前後の特許請求の範囲の記載を掲記すると、それぞれ以下のとおりである。 ・本件補正前(平成25年8月21日付け手続補正書) 「【請求項1】 支持基材の最外層の一方である表面層(I)上に粘着剤層を備える表面保護シートであって、 該粘着剤層が熱可塑性エラストマーを含み、 該粘着剤層がSEBSを50重量%?100重量%含み、 該表面層(I)が直鎖状低密度ポリエチレンを50重量%を超えて含む、 表面保護シート。 【請求項2】 前記表面層(I)の算術平均表面粗さRa1が0.5μm以下である、請求項1に記載の表面保護シート。 【請求項3】 前記支持基材が2層以上の構造からなり、前記表面層(I)の反対側の最外層として算術平均表面粗さRa2が0.5μm?2.0μmである表面層(II)を有する、請求項1または2に記載の表面保護シート。 【請求項4】 前記支持基材が3層以上の構造からなり、中間層の1つとして機械物性コントロール層を有する、請求項1から3までのいずれかに記載の表面保護シート。 【請求項5】 前記表面層(I)の厚みが2μm?20μmである、請求項1から4までのいずれかに記載の表面保護シート。 【請求項6】 前記表面層(II)の厚みが2μm?20μmである、請求項3から5までのいずれかに記載の表面保護シート。 【請求項7】 前記粘着剤層中の熱可塑性エラストマーの含有割合が50重量以上である、請求項1から6までのいずれかに記載の表面保護シート。 【請求項8】 前記表面層(I)中の直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.942g/cm^(3)以下である、請求項1から7までのいずれかに記載の表面保護シート。 【請求項9】 ヘイズ値が20%?80%である、請求項1から8までのいずれかに記載の表面保護シート。」 ・本件補正後 「【請求項1】 支持基材の最外層の一方である表面層(I)上に粘着剤層を備える表面保護シートであって、 該粘着剤層が熱可塑性エラストマーを含み、 該粘着剤層がSEBSを50重量%?100重量%含み、 該表面層(I)がメタロセン触媒を用いて製造される直鎖状低密度ポリエチレンを50重量%を超えて含む、 表面保護シート。 【請求項2】 前記表面層(I)の算術平均表面粗さRa1が0.5μm以下である、請求項1に記載の表面保護シート。 【請求項3】 前記支持基材が2層以上の構造からなり、前記表面層(I)の反対側の最外層として算術平均表面粗さRa2が0.5μm?2.0μmである表面層(II)を有する、請求項1または2に記載の表面保護シート。 【請求項4】 前記支持基材が3層以上の構造からなり、中間層の1つとして機械物性コントロール層を有する、請求項1から3までのいずれかに記載の表面保護シート。 【請求項5】 前記表面層(I)の厚みが2μm?20μmである、請求項1から4までのいずれかに記載の表面保護シート。 【請求項6】 前記表面層(II)の厚みが2μm?20μmである、請求項3から5までのいずれかに記載の表面保護シート。 【請求項7】 前記粘着剤層中の熱可塑性エラストマーの含有割合が50重量以上である、請求項1から6までのいずれかに記載の表面保護シート。 【請求項8】 前記表面層(I)中の直鎖状低密度ポリエチレンの密度が0.942g/cm^(3)以下である、請求項1から7までのいずれかに記載の表面保護シート。 【請求項9】 ヘイズ値が20%?80%である、請求項1から8までのいずれかに記載の表面保護シート。」 2 本件補正の目的 本件補正は、補正前の請求項1に記載された「直鎖状低密度ポリエチレン」について、「メタロセン触媒を用いて製造される」との特定を付加する補正事項を含むものである。 本件補正後の請求項1に係る発明がメタロセン触媒を用いて製造される直鎖状低密度ポリエチレンを用いることの意義について、本願の当初明細書(【0040】参照)には、品質や物性等の点で、メタロセン触媒を用いて製造される直鎖状低密度ポリエチレンが好ましいことが記載されているにとどまるが、他方で、審判請求書の請求の理由には、メタロセン触媒を用いて製造される直鎖状低密度ポリエチレンでは低分子量成分が副生し難いため、メタロセン触媒を用いて製造される直鎖状低密度ポリエチレンが採用された表面保護フィルムを被着体に貼着して剥離しても、被着体表面が汚染されない旨の記載がある。 そうしてみると、本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正前の発明の解決しようとする課題である「粘着剤層が支持基材に対して高い投錨力を有し、被着体に貼り付けた後に剥離した際に糊残りが発生しない、新規な 表面保護シートを提供する」(【0008】参照)ことに加え、直鎖状低密度ポリエチレンが「メタロセン触媒を用いて製造される」との特定を有することで、「表面保護フィルムを被着体に貼着して剥離しても、被着体表面が汚染されない新規な表面保護シートを提供する」との新たな課題を解決するものであるといえる。 よって、本件補正の前後で、請求項1に係る発明の解決しようとする課題は同一であるということはできない。 したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものであるということはできない。また、同項各号掲記の他の事項を目的とするものであるということもできない。 3 独立特許要件違反の有無について 上記2で述べたことを理由として本件補正は却下すべきものであると判断されるが、仮に本件補正が限定的減縮を目的とするものであるといえるとしたときには、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、要するに、本件補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)についての検討がなされるべきところ、以下に述べるように、本件補正は当該要件に違反するといわざるを得ない。 すなわち、本願補正発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(なお、引用文献1は、原査定の理由で引用された「引用文献1」と同じである。)。 ・引用文献1:特開平4-53884号公報 4 本願補正発明 本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。 「支持基材の最外層の一方である表面層(I)上に粘着剤層を備える表面保護シートであって、 該粘着剤層が熱可塑性エラストマーを含み、 該粘着剤層がSEBSを50重量%?100重量%含み、 該表面層(I)がメタロセン触媒を用いて製造される直鎖状低密度ポリエチレンを50重量%を超えて含む、 表面保護シート。」 5 本願補正発明が特許を受けることができない理由 (1)引用発明 引用文献1には、次の記載がある。 ア.「【特許請求の範囲】 (1)n-ペンタン抽出による抽出物の量が1重量%以上のポリエチレンからなる最外層、該抽出物の量が1重量%未満のポリエチレンからなる中間層、および粘着剤層がこの順に積層されていることを特徴とする表面保護フィルム。」 イ.「発明が解決しようとする課題 本発明の目的は、前記の如き従来の技術の欠点を解消し、簡単な工程で製造でき、巻戻し性にも優れ、かつ、経時による初期接着力の低下が少なく、被着材料の表面汚染を生じない表面保護フィルムを提供することにある。 本発明者は、先ず、基材層のポリエチレンの溶剤抽出物量に着目し、この抽出物量を少なくすることにより、基材層に含有されているオリゴマー等の低分子量物の粘着剤層への移行に起因する初期接着力の低下や被着体表面の汚染が防止されることを見出した。」(2頁右上欄3-14行) ウ.「粘着剤層に隣接する中間層には、n-ペンタン抽出による抽出量が1重量%未満、好ましくば0.7重量%以下、さらに好ましくは0.6重量%以下のポリエチレンを使用する。 中間層に用いるポリエチレンの抽出量が1重量%以上であると、経時により低分子量物の粘着剤層表面への移行があり、初期接着力の低下と被着材料の表面汚染が発生する。」(2頁右下欄5-12行) エ.「[実施例1] 低密度ポリエチレン(商品名「LK30」三菱油化社製:n-ヘキサンに対する抽出量2.1重量%)を最外層、直鎖状低密度ポリエチレン(商品名「UF8400」三菱油化社製;n-ヘキサンに対する抽出量0.4重量%)を中間層、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(商品名「クレントンG1657」シェル化学社製)100重量部と粘着性付与樹脂(商品名「アルコンP100」荒川化学工業社製)40重量部からなる粘着剤を粘着剤層として、3層Tダイ共押出法により表面保護フィルムを得た。」 オ.上記ウ及びエからみて、引用文献1には次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「最外層に積層された中間層上に粘着剤層を備える表面保護フィルムであって、 該粘着剤層がスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(商品名「クレントンG1657」)100重量部と粘着性付与樹脂40重量部を含み、 該中間層が直鎖状低密度ポリエチレンからなる、 表面保護フィルム。」 (2)対比 ア.本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「最外層」と「中間層」をあわせたものが、本願補正発明の「支持基材」に相当し、引用発明の「中間層」、「粘着剤層」、「表面保護フィルム」が、それぞれ、本願補正発明の「表面層(I)」、「粘着剤層」、「表面保護シート」に相当することは明らかである。 また、本願明細書中の実施例1?5では、粘着剤層の形成材料としてスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)(クレイトンポリマー社製、G1657)を用いているところ、引用発明のスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(商品名「クレントンG1657」)は、その商品名からみて、本願補正発明の熱可塑性エラストマーのSEBSに相当すると認められる。 さらに、引用発明の粘着剤層のSEBSの重量%は、100重量部/(100重量部+40重量部)×100重量%=71重量%であると認められる。 イ.よって、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点は、それぞれ次のとおりのものと認めることができる。 ・一致点 「支持基材の最外層の一方である表面層(I)上に粘着剤層を備える表面保護シートであって、 該粘着剤層が熱可塑性エラストマーを含み、 該粘着剤層がSEBSを71重量%含み、 該表面層(I)が直鎖状低密度ポリエチレンを100重量%含む、 表面保護シート。」 ・相違点 直鎖状低密度ポリエチレンが、本願補正発明では、メタロセン触媒を用いて製造されたものであるのに対して、引用発明では、そのような特定がなされていない点。 (3)相違点についての判断 当該技術分野において、メタロセン触媒を用いて重合した直鎖状低密度ポリエチレンは分子量分布が狭く、成形されたフィルムから低分子量成分のブリードアウトが少ないことは周知である(例えば、特開平9-314642号公報:【0014】、特開平10-110146号公報:【0014】参照)。また、メタロセン触媒を用いて重合したポリエチレン系重合体は低分子量成分が少なくフィルムのブリードアウトが発生せず被着体を汚染しないことも周知である(例えば、特開平10-95959号公報:【請求項3】、【0024】、【0031】、特開2009-83110号公報:【0073】?【0080】、特開2009-185239号公報:【請求項1】、【請求項2】、【0019】、特開2007-270064号公報:【請求項1】、【請求項2】、【0004】、【0014】参照)。 そうしてみると、上記(1)イにあるように、基材層に含有されているオリゴマー等の低分子量物の粘着剤層への移行に起因する初期接着力の低下や被着体表面の汚染を防止することを解決課題としている引用発明において、基材層の低分子量物を少なくし被着体表面の汚染を防止するために、中間層の直鎖状低密度ポリエチレンをメタロセン触媒を用いて製造することは、当業者が容易になし得たことであるといえる。 そして、本願補正発明において、直鎖状低密度ポリエチレンをメタロセン触媒を用いて製造することにより、当業者が予測できない格別顕著な効果が奏されるとは認められない。 (4)小括 よって、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 6 まとめ 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第5項各号掲記のいずれかの事項を目的とするものであるということができないか、同条6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成25年8月21日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。 「支持基材の最外層の一方である表面層(I)上に粘着剤層を備える表面保護シートであって、 該粘着剤層が熱可塑性エラストマーを含み、 該粘着剤層がSEBSを50重量%?100重量%含み、 該表面層(I)が直鎖状低密度ポリエチレンを50重量%を超えて含む、 表面保護シート。」 2 原査定の理由 原査定の理由は、要するに、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、あるいは、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 3 引用発明 引用発明は、上記第2_5(1)オにおいて認定のとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、本願補正発明との比較において、本願補正発明の「メタロセン触媒を用いて製造される直鎖状低密度ポリエチレン」との特定から、「メタロセン触媒を用いて製造される」を削除した「直鎖状低密度ポリエチレン」との特定事項を有するものである(上記第2_1参照)。すなわち、本願補正発明は、本願発明の構成を包含するものであるといえる。 そして、本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が、上述のとおり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明も、同様の理由により、同法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断される。 原査定の理由は妥当なものである。 そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-08-04 |
結審通知日 | 2015-08-05 |
審決日 | 2015-08-19 |
出願番号 | 特願2009-273108(P2009-273108) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C09J)
P 1 8・ 575- Z (C09J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安積 高靖、▲吉▼澤 英一 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
前田 寛之 田口 昌浩 |
発明の名称 | 表面保護シート |
代理人 | 籾井 孝文 |