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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1306055
審判番号 不服2014-9772  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-26 
確定日 2015-10-01 
事件の表示 特願2007-519093「溶液の反応装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月 7日国際公開、WO2006/129807〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成18年6月2日を国際出願日にする出願であって、平成24年4月6日付けの拒絶理由の通知に対して、同年6月11日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成25年3月12日付けの拒絶理由の通知に対して、同年5月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成26年2月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年5月26日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年5月26日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成26年5月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 補正事項

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正するものであり、補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。

(補正前)

「【請求項1】
溶液(L)と反応ガス(G)とを接触させて、反応ガス(G)でもって溶液(L)の含有成分を化学変化させる反応装置において、
溶液(L)をミスト(M)に噴霧するノズル(41)と、このノズル(41)に加圧された反応ガス(G)を供給する加圧供給部(42)とを備え、
加圧供給部(42)が加圧された反応ガス(G)をノズル(41)に供給して高速流動させ、ノズル(41)が高速流動する反応ガス(G)と溶液(L)を接触させて溶液(L)をミスト(M)に粉砕して噴射して、反応ガス(G)で溶液(L)の含有成分を化学変化させると共に、
前記ノズル(41)が、ふたつの円柱状リング(57)、(58)の先端面に、テーパー状であってふたつの円柱状リング(57)、(58)の先端面を同一平面とする平滑面(60)を設けて、ふたつの円柱状リング(57)、(58)の間に、溶液(L)を噴射する所定の幅のリング状の溶液路(47)を設け、さらに前記平滑面(60)の先端にはエッジ(63)を設けており、
さらにまた、前記ノズル(41)が、前記平滑面(60)に沿って、前記エッジ(63)に向かって反応ガス(G)を噴射する噴射路(46)を設けており、
前記ふたつの円柱状リングの間であって、前記平滑面(60)の途中に設けてなる溶液路(47)から噴射される溶液(L)が、前記噴射路(46)から平滑面(60)に沿って前記エッジ(63)に向かって噴射される反応ガス(G)でもって、平滑面(60)を流動して流動方向に引き延ばされて薄膜流(T)となって、平滑面(60)の先端のエッジ(63)からミスト(M)に噴霧されるようにしてなることを特徴とする溶液の反応装置。」

(補正後)

「【請求項1】
溶液(L)と反応ガス(G)とを接触させて、反応ガス(G)でもって溶液(L)の含有成分を化学変化させる反応装置において、
溶液(L)をミスト(M)に噴霧するノズル(41)と、このノズル(41)に加圧された反応ガス(G)を供給する加圧供給部(42)とを備え、
加圧供給部(42)が加圧された反応ガス(G)をノズル(41)に供給して高速流動させ、ノズル(41)が高速流動する反応ガス(G)と溶液(L)を接触させて溶液(L)をミスト(M)に粉砕して噴射して、反応ガス(G)で溶液(L)の含有成分を化学変化させると共に、
前記ノズル(41)が、ふたつの円柱状リング(57)、(58)の先端面に、開口部に向かって開口面積を次第に大きくするテーパー状であってふたつの円柱状リング(57)、(58)の先端面を同一平面とする平滑面(60)を設けて、ふたつの円柱状リング(57)、(58)の間に、溶液(L)を噴射する所定の幅のリング状の溶液路(47)を設け、さらに前記平滑面(60)の先端にはエッジ(63)を設けており、
さらにまた、前記ノズル(41)が、前記平滑面(60)に沿って、前記エッジ(63)に向かって反応ガス(G)を噴射する噴射路(46)を設けており、
前記ふたつの円柱状リングの間であって、前記平滑面(60)の途中に設けてなる溶液路(47)から噴射される溶液(L)が、前記噴射路(46)から平滑面(60)に沿って前記エッジ(63)に向かって噴射される反応ガス(G)でもって、平滑面(60)を流動して流動方向に引き延ばされて薄膜流(T)となり、前記平滑面(60)で流動する反応ガス(G)と溶液(L)を接触させて、平滑面(60)の先端のエッジ(63)からミスト(M)に噴霧されるようにしてなることを特徴とする溶液の反応装置。」(当審注:下線は補正箇所である。)

2 補正の適否

請求項1の補正事項は、
補正前の「前記ノズル(41)が、ふたつの円柱状リング(57)、(58)の先端面に、テーパー状であってふたつの円柱状リング(57)、(58)の先端面を同一平面とする平滑面(60)を設けて、」を、補正後の「前記ノズル(41)が、ふたつの円柱状リング(57)、(58)の先端面に、開口部に向かって開口面積を次第に大きくするテーパー状であってふたつの円柱状リング(57)、(58)の先端面を同一平面とする平滑面(60)を設けて、」(以下、「補正事項(1)」という。)とするもの、
補正前の「前記ふたつの円柱状リングの間であって、前記平滑面(60)の途中に設けてなる溶液路(47)から噴射される溶液(L)が、前記噴射路(46)から平滑面(60)に沿って前記エッジ(63)に向かって噴射される反応ガス(G)でもって、平滑面(60)を流動して流動方向に引き延ばされて薄膜流(T)となり、」を、補正後の「前記ふたつの円柱状リングの間であって、前記平滑面(60)の途中に設けてなる溶液路(47)から噴射される溶液(L)が、前記噴射路(46)から平滑面(60)に沿って前記エッジ(63)に向かって噴射される反応ガス(G)でもって、平滑面(60)を流動して流動方向に引き延ばされて薄膜流(T)となり、前記平滑面(60)で流動する反応ガス(G)と溶液(L)を接触させて、」(以下、「補正事項(2)」という。)とするもの、
を含むところ、上記補正事項(1)については、テーパー状の平滑面(60)の形状を具体的に限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正事項(1)は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的にするものであり、また、上記補正事項(2)については、溶液(L)が反応ガス(G)でもって引き延ばされて薄膜流(T)となるのは、「平滑面(60)で流動する反応ガス(G)と溶液(L)を接触させて」が起因であることを明確にするものであるので、上記補正事項(2)は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

そして、これらは、出願時明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満足するものである。

3 独立特許要件について

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1) 引用例の記載事項

ア 原査定の拒絶の理由において引用文献4として引用された特開平8-281155号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の記載及び表示がある。

(ア) 「【0023】
【作用】本発明は、独特の状態で液体を微粒子にして噴射する。すなわち、本発明の液体を微粒子に噴射する方法は、図5に示すように、傾斜面7に沿って高速流動する空気流で、傾斜面7に送り出された液体を薄く引き伸ばして薄膜流8とする。傾斜面7に沿って流動する薄膜流8は、傾斜面7を離れるときに薄すぎて膜状態ではいられなくなり、表面張力で粉々にちぎれて微粒子の液滴9となる。本発明は、空気流で液体を薄膜流8として微粒子の液体にして噴射する。このため、従来のように、液体を薄膜状態で噴射することなく、液体を超微粒子にできる特長がある。このことは、液体の供給口5の詰まりを有効に防止でき、さらに、供給口5の加工を簡単にする。
【0024】さらに、図5に示すように、傾斜面7の先端に尖鋭なエッジ7Aを設け、このエッジ7Aでアトマイズエアーとスプレッディングエアーとを衝突させると、空気を激しく振動できる。空気振動は液体をさらに微粒子にする作用がある。
【0025】さらに、本発明のノズルは、傾斜面7の先端にリング状のエッジ7Aを設け、このエッジ7Aから液体を噴射させる構造として、ホロコーン状態で液滴を微粒子に噴射できる。ホロコーンで噴射される液滴は、効率よく乾燥、あるいは気化できる。」

(イ) 「【0033】図5に示す液体を微粒子に噴射するノズルは、液体をリング状に噴射する供給口5と、この供給口5から噴射される液体を流動させる傾斜面7と、この傾斜面7に加圧空気を噴射する空気口10とを備えている。
【0034】この図に示すノズルは、内側リング11と、中間リング12と、外側リング13を備える。内側リング11と中間リング12の間に供給口5を設け、内側リング11の中心にアトマイズエアーの空気路14を設け、中間リング12と外側リング13の間にスプレッディングエアーの供給路15を設けている。
【0035】内側リング11は外形を円柱状とし、中間リング12は内形を円柱状に加工し、内側リング11と中間リング12の間に、所定の幅のスリット状の供給口5を設けている。供給口5は、リング状に形成されており、スリット幅は、液体が詰まらない幅に設計される。本発明のノズルは、供給口5から液体を薄膜にして送り出す必要がない。液体は傾斜面7で薄く引き伸ばされて微粒子となって噴射されるからである。したがって、供給口5のスリット幅は、送り出される液体の流量、傾斜面7の長さ、傾斜面7に噴射されるアトマイズエアーの流速、供給口5の内径等を考慮して最適値に設計される。たとえば、供給口5のスリット幅は、0.2?1.5mm、好ましくは0.4?1mm、最適には約0.8mmに設計される。
【0036】供給口5の直径は、噴射する液体の流量、スリット幅の寸法等を考慮して最適値に設計される。供給口5の直径は、たとえば、1000g/分の液体を噴射するノズルにおいて、約50mmφに設計される。流量が大きくなると、供給口5は直径を大きく、流量が少なくなると直径を小さく設計する。
【0037】内側リング11の外周部と、中間リング12の先端面は、テーパー状に切削加工されて、傾斜面7となっている。内側リング11と中間リング12の傾斜面7は、内側リング11の傾斜面7に沿って噴射される流動する空気が、内側リング11と中間リング12の境界で乱流とならないように、同一平面に形成されている。内側リング11と中間リング12の傾斜面7が同一平面となるとは、内側リング11と中間リング12の傾斜面7に段差ができず、内側リング11の傾斜面7から中間リング12の傾斜面7に直線的に空気が流動される状態を意味する。このように、内側リング11と中間リング12の傾斜面7を同一平面のテーパー状に加工するには、内側リング11と中間リング12を連結してテーパー加工すればよい。さらに、傾斜面7は、ここに沿って流動する液体が乱流とならないように、液体の流動方向に沿って平滑面となっている。図に示すノズルの傾斜面7は、円錐状で全体を平滑面に仕上げている。
【0038】内側リング11と中間リング12に傾斜面7を設けることによって、傾斜面7の中間に供給口5が開口される。内側リング11と中間リング12に設けられる傾斜面7の傾斜角αは、供給口5の傾斜面7に対する角度が鈍角となるように、たとえば、100?170度、好ましくは120?160度、さらに好ましくは130?160度、最適には約150度に設計される。傾斜角αは大きい方が液の流出が安定する。しかしスリット幅により傾斜角αは最適値が変わる。傾斜角αは、好ましくは、傾斜面7における供給口5の開口幅が2mmを越えないように設計される。
【0039】内側リング11の先端には中心リング16が配設され、この中心リング16と内側リング11との間に空気口10が開口されている。中心リング16は、図示しないが内側リング11に固定して所定の位置に配設されている。中心リング16は、外周面を内側リング11の傾斜面7に沿うテーパー状に加工している。中心リング16と内側リング11の間に形成される空気口10はスリット状で、ここから加圧空気を層流状態に噴射して、傾斜面7に沿って高速流動させる。
【0040】内側リング11の空気路14は加圧空気源Fに連結されている。空気口10は傾斜面7に沿って流動するアトマイズエアーを噴射する。空気源Fは、たとえば3?20kg/cm^(2)、好ましくは4?15kg/cm^(2)、さらに好ましくは4?10kg/cm^(2)、最適には約6.5kg/cm^(2)の空気を空気口10に供給する。アトマイズエアーの空気圧を高くすると、傾斜面7に沿って高速流動する空気の流速が速くなって、液体をより効果的に薄く引き伸ばして液体を小さい微粒子の液滴9にできる。ただ、空気圧を高くすると特殊なコンプレッサーを必要とし、さらに消費エネルギーも大きくなるので、要求される液滴の粒子径と、消費エネルギーとを考慮して最適値に設計される。
【0041】さらに、図5に示すノズルは、アトマイズエアーに加えて、傾斜面7の外周にスプレッディングエアーを噴射している。ただ、スプレッディングエアーは必ずしも噴射する必要はない。スプレッディングエアーを噴射しないで、アトマイズエアーで液体を微粒子の液滴にして噴射できるからである。アトマイズエアーとスプレッディングエアーを噴射するノズルは、アトマイズエアーとスプレッディングエアーとを傾斜面7のエッジ7Aで衝突させて、液滴9をより小さい微粒子の液体にできる特長がある。さらに、スプレッディングエアーでもってホロコーンの角度を調整することもできる。また液体の性質によっては、エッジ7Aでの離れが悪く、スプレッディングエアー側に液逆流を起こす場合があり、スプレッディングエアーでもってこれを防ぐこともできる。
【0042】スプレッディングエアーは、中間リング12と外側リング13の間に設けられるスプレッディングエアー噴射口17から噴射される。スプレッディングエアーはアトマイズエアーに比較して低圧空気である。たとえば、アトマイズエアーを約6.5kg/cm^(2)とするとき、スプレッディングエアーは約1kg/cm^(2)とすることができる。スプレッディングエアーは、アトマイズエアーのように液体を強制的に薄く引き伸ばす必要がないので、たとえば、0.5?3kg/cm^(2)の範囲に設定できる。
【0043】アトマイズエアーとスプレッディングエアーの両方を噴射するノズルは、傾斜面7の先端を尖鋭なエッジ7Aとしている。中間リング12は先端面に傾斜面7を設け、先端の外周を円筒状に加工して、傾斜面7の先端にエッジ7Aを設けている。この形状の中間リング12は、傾斜面7の先端に(180度-傾斜角α)の尖鋭なエッジ7Aを形成できる。ただ、ノズルは、図示しないが、中間リング12の外周をテーパー状に加工して、エッジ7Aの角度を調整することもできる。
【0044】図5に示すノズルは、下記の状態で液体を微粒子の液体にして噴射する。
(丸1) 内側リング11の中心に設けた空気路14に加圧したアトマイズエアーを供給し、中間リング12と外側リング13の間のスプレッディングエアー噴射口17にスプレッディングエアーを供給して、供給口5から液体を傾斜面7に送り出す。
(丸2) 傾斜面7に供給された液体は、傾斜面7に沿って高速流動するアトマイズエアーで薄く引き伸ばされて薄膜流8となる。たとえば、傾斜面7に沿ってアトマイズエアーをマッハ1.5の流速で流動させて供給口5に液体を送り出し、薄膜流8の先端部での流速をアトマイズエアーの1/20とすれば、25.5m/sとなる。傾斜面7の先端に設けたエッジ7Aの直径を50mmとすれば、液体を1リットル/分で供給して薄膜流8の膜圧は4μmとなる。
【0045】(丸3) 4μmの薄膜流8は、傾斜面7のエッジ7Aを過ぎると薄すぎて膜状態でいられなくなり、表面張力で粉々にちぎられて微粒子の液滴9となる。
【0046】(丸4) 微粒子の液滴9は、エッジ7Aでアトマイズエアーとスプレッディングエアーが衝突し、摩擦して振動して液滴9をさらに小さい微粒子とする。
【0047】(丸5) 微粒子の液滴9は、アトマイズエアーとスプレッディングエアーによって放射状に運ばれる。この状態をホロコーンという。ホロコーンのコーン角度は傾斜面7の角度で決定されるが、アトマイズエアーとスプレッディングエアーの噴射圧でも調整できる。
【0048】ホロコーンの状態で噴射された液滴9は、乾燥されて微粒子の微粉末となり、あるいは、空気中に気化される。液滴を微粉末にするか、あるいは気化させるかは、噴射する液体の種類で特定する。たとえば、液体に乾燥させると固体になる薬液を使用すると、微粒子の粉末となる。液体に水のように気化させると気体になるものを使用すると、噴霧された液体は気化される。」(当審注:丸数字の1?5を、(丸1)?(丸5)と表記した。)

(ウ) 「【図5】



イ 原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用された特開2001-2405号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の記載及び図示がある。

(エ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、オゾンガスの発生装置と、この装置を用いたオゾンガスの溶解装置に関し、特に、上水、下水及び産業排水等に含まれる有害物質の除去、脱色及び脱臭に用いるオゾン水、あるいは、食品等の殺菌、脱色及び脱臭に用いるオゾンガス発生装置とその装置を用いた溶解装置に関する。」

(オ) 「【0007】オゾンガス発生装置を溶解槽に組み込んだオゾンガス溶解装置にあっては、上記オゾンガス発生装置で生成されたオゾンガスが送気管に移送され、オゾンガスがエジェクターを通過する時に、吸水管から溶解槽の貯留水がエジェクターのベンチュリーに吸引されてオゾンガスに噴霧される。そして、噴霧された被処理水は微細粒となり、オゾンガスと混合することによりオゾン水が生成され、送気管の先端から溶解槽中に放水される。一方、溶解槽中に送水する被処理水の通水管は、その通水管のエジェクターに吸水管から溶解槽の貯留水が吸引され、同時に、送気管から水中に放水されたオゾン水の一部が吸引されて被処理水と混合される。そして、通水管の先端部からその混合水が、送気管のエジェクターに連結した吸水管の開口端の近傍に放水され、再び、吸入管から送気管に吸引されてオゾンガスと混合され、この循環操作を繰り返して高濃度のオゾン水となり、やがて処理水の取出管からオゾン水がとりだされ、反応塔等に移送される。また、排オゾンガスは排出管から抜出され、排オゾン処理塔等に移送される。」

(カ) 「【0010】次に、オゾンガス溶解装置について図3及び図4に基づき詳述すると、符号13はオゾンガス発生装置1を組み込んだ溶解槽13であって、溶解槽13の側壁に被処理水の通水管14と処理水管15が連結してあり、オゾンガス発生装置1が水没する水位に処理水管15の流入口16が設けてあり、ケーシング2の外周面に設けた放熱板12…が液面上に露出しないようにしてある。このオゾンガス発生装置1のケーシング2に連結した送気管11の中間部にはエジェクター17が介装してあり、図5に示すように、一端を水中に開口させた吸水管19がエジェクター17のベンチュリー18に連結してある。そして、オゾンガス発生装置1から送出されたオゾンガスがエジェクター17のベンチュリー18を通過する時に吸水管19に負圧が発生し、溶解槽13の貯溜水が吸引されてオゾンガスと溶解槽13の水が混合されてオゾン水を生成するようにしてある。オゾンガスの送気管11の先端部には一端が水没し他端が水面上に開口させた気液分離器20が連結してあり、オゾン水を水中に放出し、オゾンガス含有空気を液面上に排出するようにしてある。そして、気液分離器20で分離した排オゾンガスは溶解槽13の水面上に連結した排出管21から抜出すようにしてある。」

(キ) 「【0011】上記被処理水の通水管14はその中間部にエジェクター22を介装して溶解槽13の内部に延設してあり、図6に示すように、一端を水中に開口させた吸水管24がエジェクター22のベンチュリー23に連結してある。この吸水管24の近傍にはオゾンガスの送気管11の先端部が開口してあり、送気管11から放出したオゾン水を通水管14に吸引させエジェクター22で被処理水と混合させるようにしてある。また、被処理水の通水管14の先端部が、送気管11に配設したエジェクター22の吸水管19の開口先端部近傍に開口させてあり、通水管14から放出した被処理水とオゾンの混合水を、送気管11に設けたエジェクター17の吸水管19から溶解槽13の貯溜水と一緒に吸引させるようにしてある。即ち、オゾン水の循環を良好に保つものであり、溶解槽13の水が混合されて溶解槽13内のオゾン水を濃縮するようにしてある。そして、溶解槽13内で数分?20分滞留させ処理された後、溶解槽13の処理水管15からオゾン水が取出される。溶解槽13はオゾンガスの溶解の目的のみに限定するものではなく、反応槽としても使用できるものである。なお、符号25は電極帯5に電源ケーブル6を通じて電圧を印加する制御装置である。」

(ク) 「【図3】


【図4】


【図5】


【図6】



(2) 引用例に記載された発明

ア 引用例4に記載の発明

(ケ) 上記(イ)、(ウ)より、内側リング11の外周部と、中間リング12の先端面は、開口部に向かって開口面積を次第に大きくするテーパー状に切削加工されて、傾斜面7となっており、内側リング11と中間リング12の傾斜面7は、同一平面に形成されていることが記載されているといえる。

(コ) 上記(イ)より、円柱状の内側リング11と円柱状の中間リング12の間に、所定の幅のスリット状(リング状)の供給口5が設けられており、供給口5より液体が送り出されるものであるところ、当該円柱状の内側リング11と円柱状の中間リング12の間の液体が送り出される通路を『内側リング11と中間リング12の間の通路』と定義すると(上記(ウ)の【図5】の太い矢印参照。)、引用例4には、所定の幅のリング状の『内側リング11と中間リング12の間の通路』が記載されているといえる。

(サ) 上記(ア)より、傾斜面7に沿って高速流動する空気流で、傾斜面7に送り出された液体を薄く引き伸ばして薄膜流8としていることから、引用例4には、「傾斜面7で流動する空気と液体を接触させ」ることが記載されているといえる。

(シ) 上記(ア)?(ウ)及び上記検討事項(ケ)?(サ)より、引用例4には、「液体と空気とを接触させる装置において、
液体を微粒子の液滴9に噴霧するノズルと、このノズルに加圧された空気を供給する加圧空気源Fとを備え、
加圧空気源Fが加圧された空気をノズルに供給して高速流動させ、ノズルが高速流動する空気と液体を接触させて液体を微粒子の液滴9に粉々にちぎれるように噴射して、
前記ノズルが、『円柱状の内側リング11、中間リング12』の先端面に、開口部に向かって開口面積を次第に大きくするテーパー状であって『円柱状の内側リング11、中間リング12』の先端面を同一平面とする傾斜面7を設けて、『円柱状の内側リング11、中間リング12』の間に、液体を送り出す所定の幅のリング状の『内側リング11と中間リング12の間の通路』を設け、さらに前記傾斜面7の先端にはエッジ7Aを設けており、
さらにまた、前記ノズルが、前記傾斜面7に沿って、前記エッジ7Aに向かって空気を噴射する『スプレッディングエアーの供給路15、スプレッディングエアー噴射口17』を設けており、
前記『円柱状の内側リング11、中間リング12』の間であって、前記傾斜面7の途中に設けてなる『内側リング11と中間リング12の間の通路』から噴射される液体が、前記『スプレッディングエアーの供給路15、スプレッディングエアー噴射口17』から傾斜面7に沿って前記エッジ7Aに向かって噴射される空気でもって、傾斜面7を流動して流動方向に引き延ばされて薄膜流8となり、前記傾斜面7で流動する空気と液体を接触させて、傾斜面7の先端のエッジ7Aから微粒子の液滴9に噴霧されるようにしてなる装置。」(以下、「引用発明4」という。)が記載されているものと認める。

イ 引用例3に記載の発明

(ス) 上記(エ)?(キ)、(ク)の記載事項及び図面によれば、「オゾンガスを加圧してエジェクター22に導き、該エジェクター22で被処理水である溶解槽13の貯留水が混合され、溶解槽13の貯溜水がオゾンガスに噴霧され微細粒として噴射されるとともに、オゾンガス(気体)と溶解槽13の貯溜水(液体)とが反応する溶解槽13。」(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認める。

(3) 対比・判断

本願補正発明と引用発明4とを対比する。

ア 引用発明4の「微粒子の液滴9」、「ノズル」、「加圧空気源F」、「粉々にちぎれるように」、『円柱状の内側リング11、中間リング12』、「傾斜面7」、「送り出す」、『内側リング11と中間リング12の間の通路』、「エッジ7A」、『スプレッディングエアーの供給路15、スプレッディングエアー噴射口17』、「薄膜流8」は、それぞれ本願補正発明の「ミスト(M)」、「ノズル」、「加圧供給部」、「粉砕して」、「ふたつの円柱状リング」、「平滑面」、「噴射する」、「溶液路」、「エッジ」、「噴射路」、「薄膜流(T)」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明4の「液体」、「空気」と本願補正発明の「溶液(L)」、「反応ガス(G)」とは、それぞれ「液体」、「気体」である点で共通する。

ウ 上記より、本願補正発明と引用発明4とは、
「液体と気体とを接触させる装置において、
液体をミスト(M)に噴霧するノズルと、このノズルに加圧された気体を供給する加圧供給部とを備え、
加圧供給部が加圧された気体をノズルに供給して高速流動させ、ノズルが高速流動する気体と液体を接触させて液体をミスト(M)に粉砕して噴射して、
前記ノズルが、ふたつの円柱状リングの先端面に、開口部に向かって開口面積を次第に大きくするテーパー状であってふたつの円柱状リングの先端面を同一平面とする平滑面を設けて、ふたつの円柱状リングの間に、液体を噴射する所定の幅のリング状の溶液路を設け、さらに前記平滑面の先端にはエッジを設けており、
さらにまた、前記ノズルが、前記平滑面に沿って、前記エッジに向かって気体を噴射する噴射路を設けており、
前記ふたつの円柱状リングの間であって、前記平滑面の途中に設けてなる溶液路から噴射される液体が、前記噴射路から平滑面に沿って前記エッジに向かって噴射される気体でもって、平滑面を流動して流動方向に引き延ばされて薄膜流(T)となり、前記平滑面で流動する気体と液体を接触させて、平滑面の先端のエッジからミスト(M)に噴霧される装置。」という点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>

本願補正発明では、「反応ガス(G)でもって溶液(L)の含有成分を化学変化させる反応装置」であるのに対して、引用発明4ではそのような特定をしていない点。

エ <相違点>について検討する。

上記(ス)によれば、引用発明3の「オゾンガス」は、被処理水である溶解槽13の貯留水を噴霧して微細粒として噴射するとともに、被処理水と反応するものであるから、本願補正発明の「反応ガス(G)」に相当するものであり、また、引用発明3の「被処理水である溶解槽13の貯留水」、「微細流」は、それぞれ本願補正発明の「溶液(L)」、「ミスト(M)」に相当するものであり、したがって、引用発明3は、「反応ガス(G)でもって溶液(L)の含有成分を化学変化させる反応装置」であるともいえる。
してみれば、「反応ガス(G)でもって溶液(L)の含有成分を化学変化させる反応装置」は公知技術に過ぎず、引用発明4の装置において、当該公知技術を適用して本願補正発明のように構成することは、当業者が容易になし得るものである。
また、本願補正発明の「溶液と反応ガスとの気液界面において、溶液と反応ガスとを激しく撹拌する理想的な状態で接触させて、溶液に含まれる含有成分を反応ガスで速やかに効率よく化学変化できる。」等の作用効果も、引用発明4、3から当業者であれば十分に予測し得るものである。
よって、本願補正発明は、引用発明4、3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4) まとめ

本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年5月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2[理由]1」の(補正前)で示したものである。

2 引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例4、3の記載事項は、上記「第2[理由]3の(1)、(2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断

上記「第2[理由]2」で示したように、本件補正における請求項1の補正事項は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであることから、本願発明は、本願補正発明を包含している。
そして、上記「第2[理由]2の(3)」で示したように、本願補正発明は、引用発明4、3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願補正発明を包含する本願発明も同じく、引用発明4、3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

4 むすび

したがって、本願発明は、引用発明4、3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

それゆえ、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-21 
結審通知日 2015-07-28 
審決日 2015-08-17 
出願番号 特願2007-519093(P2007-519093)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B01J)
P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 吾一  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 國島 明弘
菅野 芳男
発明の名称 溶液の反応装置  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 豊栖 康司  

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