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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  F16C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  F16C
審判 全部無効 2項進歩性  F16C
管理番号 1306698
審判番号 無効2014-800199  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-11-28 
確定日 2015-09-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5267756号発明「摺動部材及び軸受」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5267756号に係る出願は、2011年12月22日を国際出願日とする出願であって、平成25年5月17日に特許権の設定の登録(請求項の数4)がなされたものである。

以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
1 平成26年11月28日 本件無効審判の請求
2 平成27年 3月 9日 訂正請求書
3 平成27年 3月 9日 審判事件答弁書
4 平成27年 4月28日 審理事項通知書
5 平成27年 6月16日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
6 平成27年 6月17日 口頭審理陳述要領書(請求人)
7 平成27年 6月25日 上申書(被請求人)
8 平成27年 6月26日 上申書(請求人)
9 平成27年 6月30日 口頭審理

第2 平成27年3月9日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について

1 本件訂正請求の内容(当審注:下線部分が訂正箇所である。)
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めるもので、その訂正の内容は次のとおりである。

(1)請求項1及び2からなる一群の請求項について
請求項1の「ことを特徴とする摺動部材。」を「ことを特徴とする摺動部材(ただし、前記樹脂材料がPbを含まない。)。」と訂正する(以下、「訂正事項1」という。)。

(2)請求項3及び4からなる一群の請求項について
請求項3の「ことを特徴とする軸受。」を「ことを特徴とする軸受(ただし、前記樹脂材料がPbを含まない。)。」と訂正する(以下、「訂正事項2」という)。

2 本件訂正請求についての当事者の主張

(1)請求人の主張の概要
訂正事項1及び2に共通する訂正箇所「(ただし、前記樹脂材料がPbを含まない。)」(以下、単に「訂正箇所」という。)は、本件特許の出願当初の明細書に記載されていない事項に基いた訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に違反するものであって認められない。
(口頭審理陳述要領書第4ページ第6行?第5ページ第8行)

(2)被請求人の主張の概要
訂正箇所は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許の出願当初の明細書の記載に基いて導き出されるものであり、新たな技術的事項を導入するものではない。
( 訂正請求書第3ページ第2行?第4ページ第11行及び上申書第2ページ第1?13行)

3 本件訂正請求についての判断
3-1 新規事項の追加の有無の検討
上記訂正箇所が、願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内かどうかについて検討する。

願書に最初に添付した明細書には、以下の事項(1)ないし(3)が記載されている。

(1)「【0003】
一方、Pbの人体に対する有害性から、近年Pbの使用が様々な分野で規制されており、摺動部材でも、Pbを使用しない材料が提案されている。このようなPbを使用しない摺動材料として、樹脂材料を使用した摺動部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。」

(2)「【0018】
<本実施の形態の摺動部材の構成例>
図1は、本実施の形態の摺動部材の一例を示す断面組織図である。本実施の形態の摺動部材1は、金属基材2の一の面である表面に、合金材料で多孔質層3が形成され、この多孔質層3が樹脂材料4で被覆されて摺動層5が形成される。」

(3)「【0032】
上述したように、軸受10では、油膜が一時的に切れても、ドライタッチを起こす多孔質層3の露出が抑制されることで、摺動層を樹脂材料で構成した従来の軸受と比較して、耐焼付性が向上し、Pbを含まない構成で、Pbを含む摺動材料を用いた軸受と同程度の耐焼付性が得られる。」

(4)記載事項(1)から、Pbを使用しないことは、摺動部材及び摺動部材を持つ軸受に関する技術分野で、従来から知られている課題であるといえる。

(5)記載事項(2)から、多孔質層と樹脂材料とから摺動層ができていることが把握できる。

(6)記載事項(3)の「Pbを含まない構成」とは、その直後の「Pbを含む摺動材料を用いた軸受と同程度の耐焼付性が得られる。」という記載からみて、「Pbを含まない摺動材料を用いた軸受の構成」という意味であると解することができる。
そして、Pbを含まない摺動材料を実現するためには、記載事項(2)及び認定事項(5)に照らせば、Pbを含まない多孔質層のみならず、Pbを含まない樹脂材料が必要であるといえる。そうすると、本件訂正前の請求項1及び請求項3に記載された「樹脂材料」には、「Pbを含む樹脂材料」と「Pbを含まない樹脂材料」の双方が含まれていると解される。

以上(1)ないし(6)の記載事項及び認定事項を総合すれば、上記訂正箇所は、従来から知られている課題を踏まえ「Pbを含む樹脂材料」を除外し、「Pbを含まない樹脂材料」に限定するものであって、願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであるといえる。

3-2 訂正事項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、請求項1及び2からなる一群の請求項について行われた訂正であり、前記「3-1」のとおり願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3-3 訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、請求項3及び4からなる一群の請求項について行われた訂正であり、前記「3-1」のとおり願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3-4 訂正事項1ないし2についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項1ないし2は、特許法134条の2第1項第1号に該当し、同条第9項で準用する特許法126条第4ないし6項の規定に適合するので、適法な訂正である。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたように、本件訂正請求による訂正は適法な訂正であるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
金属基材の一の面に、金属粉末を焼結させて多孔質層が形成され、前記多孔質層に含浸させた樹脂材料を焼成させて摺動層が形成される摺動部材において、
前記金属粉末の粒径を、15?60μmとし、
前記摺動層の厚さを、0.08?0.16mmとし、
前記多孔質層の厚さを、0.06?0.1mmの範囲で、平均して前記摺動層の厚さより薄く構成した
ことを特徴とする摺動部材(ただし、前記樹脂材料がPbを含まない。)。
【請求項2】
前記金属粉末の粒径を、25?45μmとした
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
金属基材の一の面に、金属粉末を焼結させて多孔質層が形成され、前記多孔質層に含浸させた樹脂材料を焼成させて摺動層が形成される軸受部材を、前記摺動層を内側として環状とし、円筒状の内周面を前記摺動層で構成した軸受において、
前記金属粉末の粒径を、15?60μmとし、
前記摺動層の厚さを、0.08?0.16mmとし、
前記多孔質層の厚さを、0.06?0.1mmの範囲で、平均して前記摺動層の厚さより薄く構成した
ことを特徴とする軸受(ただし、前記樹脂材料がPbを含まない。)。
【請求項4】
前記金属粉末の粒径を、25?45μmとした
ことを特徴とする請求項3に記載の軸受。」

第4 当事者の主張

1 請求人
請求人は、審判請求書、口頭審理陳述要領書及び上申書において、「特許第5267756号の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、甲第1?12号証を提出して、次の無効理由を主張する。

無効理由の概要

(1)本件発明は、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由1」という。)。

(2)本件発明は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第12号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由2」という。)。

(3)本件発明の物の発明について、明細書の発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由3」という。)。

(4)本件発明は、物の発明として明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由4」という。)。

(5)証拠方法

<審判請求書に添付>
甲第1号証:特開2001-140893号公報 平成13年5月22日公開
甲第2号証:特開2007-92551号公報 平成19年4月12日公開

甲第3号証:特開2003-278742号公報 平成15年10月2日公開
甲第4号証:特開2002-20568号公報 平成14年1月23日公開
甲第5号証:特開2003-269459号公報 平成15年9月25日公開
甲第6号証:特開昭64-16842号公報 昭和64年1月20日公開
甲第7号証:特開2006-200024号公報 平成18年8月3日公開

<口頭審理陳述要領書に添付、上申書で差し替え>
甲第8号証:社団法人 日本機械学会、機械工学便覧、新版、昭和62年4月15日発行 第7章 焼結金属材料(B4-91?B4-96)

<口頭審理陳述要領書に添付>
甲第9号証:特開昭50-21906号公報 昭和50年3月8日公開
甲第10号証:特開2002-20568号公報 平成14年1月23日公開
甲第11号証:特開2002-53673号公報 平成14年2月19日公開
甲第12号証:特開2004-270760号公報 平成16年9月30日公開

2 被請求人
被請求人は、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書において、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」ことを答弁の趣旨とし、次のように反論する。

答弁の概要

(1)無効理由1について
本件発明と甲1発明とは、その構成が異なり、かつ、作用・効果の面でも異なるものであって、全く異なる技術思想であるといえ、本件訂正発明は、甲1号証に記載されたものではないから、特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当しない。

(2)無効理由2について
本件発明は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第12号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(3)無効理由3について
本件発明の物の発明について、明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

(4)無効理由4について
本件発明は、物の発明として明確であって、特許法第36条第6項第2号に適合する。

第5 甲第1ないし12号証に記載された事項と、甲第1号証に記載された発明

1 甲第1号証には、「複層樹脂摺動材」に関し、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア 「【要約】
【課題】樹脂層の接着力が十分に確保しつつ、摺動抵抗値をより小さくした複層摺動材とする。
【解決手段】裏金1の表面に、Cu合金粉末を焼結して多孔質の合金層2を形成する。合金層2に樹脂層3を含浸被覆する。この合金層2は複数の合金粒子2aを積層して、樹脂層の接着力を十分に確保する。また、合金粒子2aを25?100μmの平均粒子径とすることにより、摺動抵抗値がより小さくなる。」

イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】近年、摺動抵抗値のさらに小さな複層樹脂摺動材も要求されるようになってきている。ここで、摺動抵抗値の大きさは、負荷により樹脂層が沈み込む変形量に関係していることに着目し、硬質な材料からなる樹脂層により摺動用材料を検討したが、硬質な材料を使用すると、相手材に対するアタック性が高くなってしまう。また、樹脂層を薄くして、樹脂層の沈み込む変形量を小さくすることができるが、僅かな摩耗によって合金層が露出しやすくなり、耐久性に課題を生じてしまう。一方、負荷による樹脂層の沈み込み量は、合金層の弾性変形にも大きく関係することを試行錯誤の結果、見出したが、合金層を構成する合金粒子の積層する数を減らすと、裏金に対する樹脂層の接着力が低下し、剥離するおそれがある。
【0004】そこで、この発明では、合金層を構成する合金粒子の粒子径を小さくすることにより、樹脂層の接着力を十分に確保しつつ、摺動抵抗値をより小さくした複層摺動材とすることを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明では、裏金と、該裏金の表面にCu合金粉末を焼結した多孔質の合金層と、合金層に含浸被覆された樹脂層を含む複層樹脂摺動材において、合金層を形成する合金粒子は25?100μmの平均粒子径であり、かつ複数の粒に積層されている。」

ウ 「【0007】合金層を形成するCu合金の合金成分としては、Sn、P、Pbなどが代表例である。Snの含有量が多くなると合金層が硬くなるため、6?15重量%程度とされ、特に8?12重量%が望ましい。また、Pは、焼結性を良好にするために添加することが望ましいが、含有量が多くなると、合金層が硬くなり、相手材に対するアタック性が高くなるため0.6重量%未満とする。また、湿式条件下で使用する場合には、3?12重量%のPbを含有すると摺動特性の向上が望める。このように、目的に応じて合金成分を適宜変更して選択することができる。
【0008】合金層は、Cu合金粉末を焼結して多孔質に形成されるが、多孔度が小さくなると、樹脂の含浸量が少なくなり、樹脂層が剥離しやすくなる。このため、多孔度は20%以上が望ましい。
【0009】合金層を形成するCu合金粒子は、その平均粒子径が小さい程、摺動抵抗値が小さくなる。このため、平均粒子径を25?100μmとするが、25μm未満では、樹脂層の接着力が低下するため、25μm以上にする。」

エ 「【0011】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1の発明では、裏金と、裏金の表面にCu合金粉末を焼結した多孔質の合金層と、合金層に含浸被覆された樹脂層を含む複層樹脂摺動材において、合金層を形成する合金粒子は25?100μmの平均粒子径であり、かつ複数の粒が積層されていることによって、相手材への損傷が少なく、摺動抵抗値の小さい複層樹脂摺動材とすることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、この発明を詳細に説明する。最初に、試験1として、合金層の厚さが摺動抵抗値に及ぼす影響を検討するために、平均粒子径75μmに整粒したCu合金粉末を、銅メッキを施した鋼板からなる裏金1上に、表1に示す量を散布した。これを還元雰囲気中で750°C?900°Cに10?30分間加熱焼結して、多孔質の合金層2を形成した。」

【表1】


オ 段落【0013】のCu合金粉末の平均粒子径75μmの【表1】
の試験試料2の欄には、Cu合金粉末の散布量100mg/cm^(2)、合金層の粒子数3個、合金層の厚さ185μm、樹脂層組成PTFE-Pb、摺動抵抗78Nが記載されている。また、同じ表の試験試料5の欄には、Cu合金粉末の散布量100mg/cm^(2)、合金層の粒子数3個、合金層の厚さ185μm、樹脂層組成PTFE-Gr、摺動抵抗値60Nが記載されている。

カ 「【0014】ここで、Cu合金粉末としては、表1に示すCuーSn合金は、Sn10重量%、P0.2重量%、残部Cu、CuーSnーPb合金は、Sn10重量%、Pb5重量%、P0.2重量%、残部Cuを使用した。これにより、試験試料1では、図1に示すように裏金上にCu合金粉末の粒が1粒の合金層となり、試験試料2、5、6では3粒(図2参照)、試験試料3では4粒、試験試料4では5粒が積層された焼結体を得た。
【0015】焼結後、樹脂層3として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)にPb20容量%の混合物を含浸被覆し、350?400°Cで焼成後、圧延して、全厚を2.0mmの複層板とした。なお、合金層2の厚さに対応して、樹脂層3の厚さ3aを20μmの一定厚さに整えるために、予め裏金1はその厚さを調整している。これを切断して変形量の各試験試料とした。なお、試験試料5については、樹脂層3をPTFEにグラファイト(Gr)5容量%の混合物として、樹脂層3の成分による影響を検討した。」

【図2】


キ 「【0017】また、摺動抵抗値測定用の試料として、複層板を切断した後、内径が41mm、幅20mm、厚さ2.0mmの円筒形に湾曲成形し、各試験試料とした。これらの試験試料について、表2の条件の下で往復摺動試験機を使用して、摺動抵抗値の測定を行い、表1に示す測定結果が得られた。」

ク 段落【0018】の【表2】には、往復摺動試験条件が記載されている。

ケ 「【0019】これらの結果から、合金層の厚さ(粒子数)は摺動抵抗値と相関関係を有し、厚くなるに従って、荷重に対する変形量が増加し、その摺動抵抗値も大きくなることが判明した。また、Cu合金層がCu粒子1粒の厚さとした試験試料1では、樹脂層の接着力が小さく、剥離していた。また、合金層にPbを添加して合金層を軟らかくした試験試料6では、試験試料2との対比において変形量も摺動抵抗値も大きくなっていた。
【0020】次に、試験2では、Cu合金層のCu粒子の大きさが摺動抵抗値に及ぼす影響を検討するために、試験1と同じ合金組成のCu合金粉末を使用し、平均粒子径が25,50,75,100,125μmとなるように調整した。この各合金粉末を、合金層の積層する粒子数が試験試料2と同様に3粒になるように調整した量を、表3に示すように、試験1と同様に裏金1上に散布した。なお、試験試料11では、CuーSnーPb合金粉末を使用して、合金層2の成分による影響を検討した。」

【表3】



コ 段落【0021】の合金層粒子数:3、樹脂層PTFE-Pb【表3】の試験試料2の欄には、散布量100mg/cm^(2)、平均粒子径75、摺動抵抗82Nが記載されている。また、同じ表の試験試料7の欄には、散布量35mg/cm^(2)、平均粒子径25μm、摺動抵抗74Nが記載されている。

サ 「【0022】これら試験試料7?11について変形量および摺動抵抗値を試験1と同じ条件で測定し、表3に示す結果が得られた。
【0023】これらの結果から、Cu合金層を構成するCu粒子の粒度が摺動抵抗値と相関関係を有し、大きくなるに従って、荷重に対する変形量が増加し、その摺動抵抗値も大きくなることが判明した。また、合金層2にPbを添加して合金層2を軟らかくした試験試料11では、試験試料10との対比において変形量も摺動抵抗値も僅かに大きな値を示していた。」

シ ケ及びサの記載事項から、試験1と試験2とは、同じ条件で行われることが把握できるので、試験2の試験試料7には、試験1及び試験2の試験試料2と同様に、20μmの一定厚さとした樹脂層3が備わると解される。

ア?シの記載事項、認定事項及び図示内容を総合して、本件発明1に則って整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「銅メッキを施した鋼板からなる裏金1の表面に、銅合金粉末を焼結させて多孔質の合金層2が形成され、前記合金層2に含浸被覆された、ポリテトラフルオロエチレンに鉛20容量%を混合した樹脂材料を焼成させて樹脂層3とし、前記合金層2及び樹脂層3からなる摺動層5が形成される複層樹脂摺動材において、
前記銅合金粉末の粒径を平均粒子径25μmとし、
前記銅合金粉末を、Sn10重量%、P0.2重量%、残部CuとしたCu-Sn合金とし、焼成前の散布量35mg/cm^(2)とし、
前記合金層2の厚さが、20μmの一定厚さで前記摺動層5の厚さより薄く構成した
複層樹脂摺動材」

なお、請求人の口頭審理陳述要領書の第7ページ第18-20行に「平均粒径25μmのCu-Sn合金粉末を銅メッキ鋼板からなる金属基板上に30mg/cm^(2)の散布量で3粒子数の積層となるように散布して焼結を行い、20μmの厚さの樹脂PTFE-Pbを焼成した複層樹脂摺動体。」とあり、この中に「30mg/cm^(2)」との記載があるが、甲第1号証の記載事項コから、正しくは「35mg/cm^(2)」であると解される。

2 甲第2号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ス 「【0034】
斜板3の基材の例は、機械構造用炭素鋼S45Cからなり、シュー4は高炭素クロム軸受鋼SUJ2で形成されている。また、シュー4が摺動する斜板3の両側面には銅合金からなる多孔質の金属焼結層7が形成されており、その表面には樹脂被膜が形成されている。
【0035】
樹脂被膜は、焼成する前に多孔質の金属焼結層7に対してプレス機などで押圧され、この圧力によって焼結した金属粒子間の空隙に固体潤滑剤を含有する樹脂組成物を加圧充填したものになる。
【0036】
金属焼結層7は、焼結金属を特に限定して採用するものではないが、例えば銅99?80重量%、錫1?20重量%を含む銅合金は、適当な空隙率の多孔質になりやすくて好ましく、また金属焼結層7の焼結粒子径は、平均粒径で50?200μmであり、粒径は可及的にバラツキがなく揃っていることが好ましい。」

セ 「【0043】
図1に示す形態の斜板式圧縮機の斜板基材を機械構造用炭素鋼S45C製で作製し、そのシュー接触面となる円板状部分の片面側へ錫5重量%を含んだ鋼合金の焼結層を形成し、その焼結粒子間隙である空孔にPTFE100重量部に対してバインダー樹脂のポリアミドイミド樹脂100重量部、酸化第二鉄粉末8重量部を配合し調製した塗料を、塗布および乾燥させた後、表面をプレス機にて50トン/m2で押圧した。次いで、この斜板全体を250℃で焼成し、表面の樹脂被膜の厚さが50μm、樹脂が加圧充填された金属焼結層の厚さ300μmの斜板を得た。」

3 甲第3号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ソ 「【0014】図1乃至図3に示す第1実施形態乃至第3実施形態に係る両面摺動スラスト軸受1は、鉄系,銅系,アルミ系の金属単体又は合金等により形成される板状の基材2と、基材2の両面に熱硬化性樹脂によりそれぞれ形成される厚さ30μm以上の摺動層10とから構成されている。この摺動層10の厚さは、30μm以上であるが、500μm以下であることが望ましく、これは、500μmを超えると熱伝導率が低下し、放熱効果が期待できず、摺動面が温度上昇し易くなるためである。」

4 甲第4号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

タ「【0011】本発明の摺動材料は、基材上に摺動層が形成されて摺動部材が製造される。摺動部材の基材としては鋼板上へ銅合金、例えば銅錫、銅鉛錫、リン青銅または鉄、銅、錫の混合粉末を多孔質に焼結したものが使用される。そして、摺動材料を構成する各成分の混合物を多孔質焼結層へ含侵した後、乾燥により水分を除去し、350?400℃で焼成せしめることにより、基材上に摺動層が形成される。鋼板上の摺動層厚さは、80?400μm、好ましくは120?350μmである。また、摺動層最表面は多孔質焼結層が露出していないことが好ましいが、露出していてもよい。他の摺動部材の基材としては鋼板だけでもよく、その場合、鋼板上へショットブラスト等の粗面化処理を行い、その粗面化部分へ直接摺動材料を塗布してもよい。塗布法としては、スプレー、タンブリング、ロール転写、印刷等の手段が用いられる。塗布面の厚さは、好ましくは10?50μm、より好ましくは20?30μmである。また、基材として鋼板を使用せず、金網を使用してもよい。金網の場合は、基本的に上記多孔質焼結層へ含侵する方法と同様である。」

チ「【0013】実施例1
表面をサンディング処理した後、脱脂した裏金鋼板上へりん青銅粉末を散布し、その後、920?950℃で焼結を行い、厚さ0.2?0.25mmの焼結多孔質層を形成した。一方、摺動面材として硫酸バリウム(堺化学社製のBMH-100(商品名)、平均粒径:10μm)5vol%、固体潤滑剤としてグラファイト(日本黒鉛社製のCSSP(商品名)、平均粒径:1μm)10vol%、二硫化モリブデン(住鉱潤滑剤社製のPAパウダー(商品名)、平均粒径:1μm)10vol%および残部PTFE樹脂(三井デュポンフロロケミカル社製のPTFE316J(商品名))とを混合させた混合物を前記多孔質層上にロールで含浸被覆し、その後、370?420℃まで温度を上げて試料を得た。これらの試料の被覆の厚さ(多孔質層のより上の部分)は、0.02?0.03mmであった。」

5 甲第号5証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ツ 「【0017】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は、一実施形態の製造方法によって得られた円筒状の焼結軸受を示している。この焼結軸受1には、径方向に沿った平面からなる環状の段部11が形成されており、この段部11を境に、軸受1の外周面は大径部12と小径部13とに分かれている。また、軸心に形成されて図示せぬ回転軸が挿入される軸孔14は均一径であって、その内周面14aが回転軸の軸受面である。この焼結軸受1の表面全面、すなわち段部11、大径部12および小径部13の各外周面12a,13a、軸受面14a、大径部12側の端面15、小径部13側の端面16は、図2に示すように(図2は軸受面14aの表層を示している)、一定厚さの樹脂膜20によって被覆されている。樹脂膜20の厚さは、要求特性によってそれぞれ適正値に決められる。以下、この焼結軸受1の製造方法を説明する。」

6 甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

テ 「裏金には、通常鋼板が使用されるが、鋼板以外にもアルミニウム合金もしくは銅系合金も使用することができる。
裏金の表面部には樹脂とグラファイトを主成分とする摺動層の接合強度を高めるための粗面化部を設ける。裏金の表面に形成される粗面化部は、銅もしくは銅系合金の粉末焼結層、鉄または鉄系合金の粉末焼結層、金属もしくはセラミックの溶射層などを裏金表面に設ける方法によってもよく、またショットブラスト、エッチングなどにより裏金自体の表面に微細な凹凸を形成する方法によってもよい。」(第2ページ右上欄第12行?左下欄第3行)

ト 「この段階で摺動層の厚さは20?100μmとなる、続いて、上下のロール間を裏金を通過せしめることにより摺動層成分を裏金に強固に保持せしめる。」(第3ページ右下欄第14?16行)


7 甲第7号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ナ 「【0019】
多孔質合金層と樹脂との体積割合は、多孔質合金層が50?80体積%、残部樹脂が適当であり、好適には多孔質合金層が60?70体積%である。多孔質合金層の占める割合が50体積%よりも少ないと鋼板との接合面積も小さくなって多孔質合金層と鋼板との接合強度が弱くなってしまう。しかるに多孔質合金層の占める割合が80体積%よりも多くなると樹脂の含浸性が悪くなるばかりでなく、樹脂の占める割合が少なくなるため摺動時の摩擦抵抗が増加し早期に焼き付きを起こすようになる。
【0020】
多孔質合金粉と樹脂の体積割合を調整するには焼結温度、Cu-Sn合金粉の粒度選択、Cu-Sn合金粉の形状選択等で行う。つまり多孔質合金の占める割合を高くするためには、多孔質合金の多孔質部分を少なくすればよいわけである。焼結温度を高めで行うと、固相部分よりも液相部分が多くなって空隙に侵入し、多孔質部分が少なくなる。またCu-Sn合金粉の粒度が小さいほど、Cu-Sn合金粉末間の空隙が少なくなって多孔質部分が少なくなる。しかるにCu-Sn合金粉の粒度が大きくても、この中に小さなCu-Sn合金粉が混じっていると、小さな合金粉末が大きな合金粉間の空隙を埋めて多孔質部分が少なくなる。さらにCu-Sn合金粉が不定形であると該合金粉は滑りにくいため空隙ができやすくなるが、球状であると、球状粉は滑りやすいため、空隙間に侵入して多孔質部が少なくなり、樹脂の含浸性が悪くなる。本発明に使用して好適なCu-Sn合金粉は、粒度が150μmアンダーの不定形粉である。
【0021】
本発明の摺動材料の製造方法において、Sn含有量が相違する二種のCu-Sn合金粉とは、一種がCuにSnを8?12質量%添加した合金粉であり、もう一種がCuにSnを13?18質量%添加した合金粉である。このように同じ成分のCu-Sn合金で組成比率を異にすると、焼結時に加熱温度をコントロールすることにより、多孔質合金層の多孔率を調整できるとともに、多孔質を保ったまま粉末同士、および粉末と鋼板との接合強度を充分に強くすることができるようになる。つまり二種のCu-Sn合金のうち、融点の高いCu-Sn合金の固相線温度よりも僅かに低い温度で焼結すると、もう一種の融点の低いCu-Sn合金は、例え完全に液状となっていなくとも、液体部分が多くなっており、この液体部分が融点の高いCu-Sn合金粉や鋼板と金属的に接合するため、合金粉同士および合金粉と鋼板との接合力が強くなる。」

8 甲第8号証には、以下の事項が記載されている。

ニ 「a.粉末の性質と測定法 粉末粒子の性質を表すものとしては,粒子形態および表面組織,内部組織があり,いずれも顕微鏡によって観察される.
粉体としての性質を表すものとしては,粒度及び粒度分布,比表面積,密度(粒子の気孔率,見掛け密度,流動度),ぬれ性,吸着および科学反応性,安息角などがある.粒度(particle size)の測定は約20μmよりあらい粉末に対してはふるい分けにより、これより細かい粉末に対しては顕微鏡法,沈殿法により行われる.標準ふるいのふるい目の開きとメッシュの関係を表107に示す.工業的には隣接する大小二種類のふるいを用いて一定量の粉末をふるい分けし,第一のふるいを通過して第二のふるいに残る粉末量の全体に対する比率を求める.ふるい目の間隔を選択することで粒度分布(particle size distribution)が表せる.粒子の形態とともに粒度および粒度分布は混合,圧粉,焼結の各過程に影響を与える.微粉末は一般に見掛け密度が低いうえに流動性が悪いので生産性,作業性が低下するが,焼結性が優れているという特性がある.実用にあたっては成形に適した粒度分布となるような粒度調整が行われる.」
(B4-92ページ右欄第4-21行)

ヌ 標準網ふるいの呼び寸法とメッシュの関係の表107には、呼び寸法の欄に、22、26、32、37、38、44、45、53及び63μmが記載されている。

9 甲第9号証には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

ネ 「第1図において巻ブツシユの裏金となる鉄板1は送りローラー2と押さえローラ3とに挟持されて矢印方向へ移動され、この間にこの鉄板1上にその移動の始端側でホツパ4から散布された焼結用の合金粉末は散布均らし装置Aのゲートaにて一定の厚さに均らされてから鉄板1と共に図示してない焼結装置の焼結炉内へ連続的に送られ、ここで合金粉末は鉄板1上に焼結溶着されて巻きブツシユの帯状素材が構成される。」
(第1ページ右欄第5-13行)

ノ 「かくすることにより、送りローラ2および押さえローラ3にて矢印方向に移動する鉄板1上にホツパ4から散布された合金粉末は、転動ローラ11,11とゲート12の間を通過する際にゲート12の下端縁で所定厚さに均らされる。」(第2ページ左下欄大20行-右下欄第4行)

10 甲第10号証には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

ハ 「【0002】
【従来の技術】従来より、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下「PTFE樹脂」と略称することもある)は、自己潤滑性に優れ、摩擦係数が低く、更には、耐薬品性および耐熱性を有することから、軸受などの摺動材料として広く使用されている。PTFE樹脂からなる摺動材料を無潤滑下で使用する場合、PTFE樹脂を相手材へ移着させPTFE樹脂同士による摺動が必要である。従来はこれを鉛を添加することにより可能にしていた(例えば特公昭39-16950号公報、特開昭62-98028号公報等参照)。
【0003】しかし、鉛は環境負荷物であるため、今後使用が制限される。従って、鉛を使用しなくとも、同等の摩擦特性及び耐摩耗性を有するPTFE樹脂を用いた摺動材料の出現が求められている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、PTFE樹脂を主たる樹脂成分として用い、鉛を使用せずに、無潤滑下であっても摩擦特性及び耐摩耗性に優れた摺動材料およびそれを用いたすべり軸受を提供することにある。」

11 甲第11号証には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

ヒ 「【0002】
【従来の技術】例えばすべり軸受材料として、鋼裏金の表面側に多孔質青銅層を有し、その多孔質青銅層に、合成樹脂を主成分とした摺動材料を含浸させたものがある。この種の摺動材料としては、例えば特公昭39-16950公報に示されるように、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下「PTFE」と略す)に、20体積%程度の鉛(Pb)粒子を配合したものが知られている。この摺動材料は、Pb粒子の配合により、低摩擦係数が得られて摺動特性に優れたものとなる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、近年、環境問題への配慮から、上記のようなPTFEを主成分とした摺動材料にあっても、Pbを含有しないものが要望されるようになった。そこで、本出願人は、PTFEを主成分とし、従来のPbに代えて、ビスマス(Bi)あるいはビスマス合金粒子を配合した摺動材料を開発し、先に出願している(特願2000-26671)。」

12 甲第12号証には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

フ 「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、PTFEに鉛粒子を含有する摺動材料に代わる摺動材料を開発するために、試行錯誤を繰り返した結果、PTFEに、固体潤滑剤と、リン酸塩又は/及び炭酸塩とを含有する摺動材料では、摩擦係数や耐摩耗性などの特性において、鉛粒子を含有するものに代わる摺動材料になることを見出して、本発明を完成した。」


第6 対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「銅メッキを施した鋼板からなる裏金1」は、その技術的意義及び機能からみて本件発明1の「金属基材」に相当し、以下同様に、「表面」は「一の面」に、「銅合金粉末」は「金属粉末」に、「多孔質の合金層2」は「多孔質層」に、「含浸被覆」は「含浸」に、「摺動層5」は「摺動層」に、「複層樹脂摺動材」は「摺動部材」に、それぞれ相当する。

また、本件発明1では、多孔質層の厚さを「平均して」摺動層の厚さより薄く構成しており、これは、多孔質層が露出しないように、どの断面をとっても摺動層の厚さが多孔質層の厚さとより厚いと解されるから、甲1発明の「前記合金層の厚さが、20μmの一定厚さで前記摺動層5の厚さより薄く構成した」ことは、本件発明1の「前記多孔質層の厚さを、平均して前記摺動層の厚さより薄く構成した」ことに相当すると解される。
したがって、被請求人の口頭審理陳述要領書の「第7 陳述の要領」の「4 相違点の容易想到性について」の「(4)通知書では指摘されていない相違点(相違点3)について」の主張は、採用できない。

よって、本件発明1と甲1発明は、
「金属基材の一の面に、金属粉末を焼結させて多孔質層が形成され、前記多孔質層に含浸させた樹脂材料を焼成させて摺動層が形成される摺動部材において、
前記多孔質層の厚さを、平均して前記摺動層の厚さより薄く構成した
摺動部材」
である点で一致し、以下の[相違点1]ないし[相違点3]で相違する

[相違点1]
金属粉末の粒径について、本件発明1では「粒径」が15?60μmであるのに対し、甲1発明では「平均粒子径」が25μmである点。

[相違点2]
摺動層の厚さ及び多孔質層の厚さが、本件発明1では、それぞれ「0.08?0.16mm」と「0.06?0.1mm」であるのに対し、甲1発明では、それぞれの厚さが明らかでない点。

[相違点3]
樹脂材料について、本件発明1では「(ただし、前記樹脂材料がPbを含まない。)」のに対し、甲1発明では、ポリテトラフルオロエチレンに鉛20容量%を混合した樹脂材料である点。

第7 無効理由1について
以下、[相違点1]ないし[相違点3]について検討する。

1 [相違点1]について
本件発明1では、「金属粉末の粒径を、15?60μm」と限定するものであって、15μm未満及び60μmを超える粒径の金属粉末を排除する(以下、「粒径の上下限を画する」という。)ものである。かかる限定の理由は、本件明細書の段落【0025】の記載からみて、多孔質層3が露出するまでの、許容される摺動層5の摩耗量を増加させるためと解される。
ところで、日本工業規格のJIS Z 8101-1:1999「統計-用語と記号-」の「第1部:確率及び一般統計用語」の「2.一般統計用語」の「2.13 (算術)平均,平均値」に「観測値の総和を観測値の個数で割ったもの」とあることから、甲1発明における「平均粒子径」は、金属粉末を構成する各々の粒子の粒径の観測値の総和を、観測値の個数で割ったものであると解される。そうすると、平均粒子径で金属粉末の粒径を規定した場合、金属粉末の中には、様々な粒径の粒子が観測され得る。そうであれば、ある粒径より小さい粒子や、ある粒径を超える粒子は、この「平均粒子径」による規定では排除されない。すなわち、平均粒子径で粒径を規定することと、粒径の上下限を画することが同義であると解することは相当でない。
確かに、甲第2号証の段落【0036】には、「また金属焼結層7の焼結粒子径は、平均粒径で50?200μmであり、粒径は可及的にバラツキがなく揃っていることが好ましい。」という記載はある。しかし、「粒径は可及的にバラツキがなく揃っていること」から直ちに全ての粒子が必ず一定の粒径の範囲内にあるとまではいえない。したがって、同号証に記載された事項に照らして甲1発明の「平均粒子径25μm」を解釈したとしても、甲1発明の「銅合金粉末」の粒径が必ず15?60μmであるとはいえない。
また、甲第8号証の記載事項ニには、「工業的には隣接する大小二種類のふるいを用いて一定量の粉末をふるい分けし,第一のふるいを通過して第二のふるいに残る粉末量の全体に対する比率を求める.ふるい目の間隔を選択することで粒度分布(particle size distribution)が表せる.」との記載及び同号証の記載事項ヌには、標準網ふるいの呼び寸法の記載がある。しかし、甲第1号証には、ふるい分けに関する記載が一切なく、仮に、ふるい分けすることが技術常識であるとしても、甲1発明の「銅合金粉末」が特定の呼び寸法の標準網ふるいでふるい分けされたとの証拠はない。したがって、甲第8号証に記載された事項に照らして甲1発明の「平均粒子径25μm」を解釈したとしても、甲1発明の「銅合金粉末」の粒径が必ず15?60μmであるとはいえない。
なお、甲第1号証の段落【0023】(記載事項サ)には、「粒度」との記載があるが、「Cu合金層を構成するCu粒子の粒度が摺動抵抗値と相関関係を有し、大きくなるに従って、荷重に対する変形量が増加し、その摺動抵抗値も大きくなることが判明した。」との記載及びその余の段落には終始「平均粒子径」の記載しかないことから、当該「粒度」との記載は、表1ないし表3に記載された「平均粒子径」と摺動抵抗値との関係を説明するために用いられた用語にとどまると解される。
したがって、相違点1に係る構成要件について、甲1発明と本件発明1とが実質的に同一であるとはいえない。

2 [相違点2]について
確かに、甲1発明と重複する技術分野に属する甲7号証の段落【0019】(記載事項ナ)には、「好適には多孔質合金層が60?70体積%」という記載があり、当該記載から甲1発明の多孔質の合金層2の気孔率は、60?70の補数である30?40(体積%)になるとも考えられるが、甲第7号証の上記記載のみをもって、直ちに甲1発明の多孔質の合金層2の気孔率が必ず30?40(体積%)になるとはいえない。
したがって、甲1発明の多孔質の合金層2の厚さが0.06?0.1mmを充足するとはいえないし、摺動層5の厚さが0.08?0.16mmを充足するともいえない。
よって、相違点2に係る構成要件について、甲1発明と本件発明1とが実質的に同一であるとはいえない。

3 [相違点3]について
甲1発明のポリテトラフルオロエチレンに鉛20容量%を混合した樹脂材料は、Pbを含まない樹脂材料とは明らかに異なる。よって、相違点3に係る構成要件について、甲1発明と本件発明1とが実質的に同一であるとはいえない。

4 結論
相違点1ないし3に係る構成要件について、甲1発明と本件発明1とが実質的に同一であるとはいえない。
そして、本件発明2は、本件発明1の「15?60μm」を「25?45μm」と、さらに限定した発明であり、本件発明3及び4は、本件発明1及び2の「摺動部材」を「軸受」に限定した発明である。したがって、本件発明2なし4は、本件発明1と同様に、甲1発明と同一でない。
以上のとおり、無効理由1によって、本件発明についての特許を無効とすることはできない。


第8 無効理由2について
以下、[相違点1]ないし[相違点3]について検討する。

1 [相違点1]について
甲第1号証には、粒径の上下限を画することの動機づけになる記載があるとはいえない。
また、甲第2号証の段落【0036】には、「また金属焼結層7の焼結粒子径は、平均粒径で50?200μmであり、粒径は可及的にバラツキがなく揃っていることが好ましい。」という記載はあるものの、甲第8号証の「粉体としての性質を表すものとしては,粒度及び粒度分布,比表面積,密度(粒子の気孔率,見掛け密度,流動度),ぬれ性,吸着および科学反応性,安息角などがある.」との記載(記載事項ニ)に照らせば、「バラツキがない」とは、「粒度分布」の分散が少ないことと解することができ、粒子径について特定の範囲を定めた際、その範囲外の観測値の個数が少ないことを意味するにとどまり、その範囲外の観測値の数が、必ず0になることまでは意味しない。
さらに、甲第9号証に記載された「ゲートa」(記載事項ネ)のような仕組みが利用できるのだから、焼結前の金属粉末の厚さを一定にするだけであれば、ふるいによって金属粉末の粒径の上限を規定する必要性がない。
この他にも、粒径の上下限を画することについての証拠は示されていない。
そうすると、「平均粒子径」を前提とする甲1発明において、甲第2ないし12号証の記載を総合しても、粒径の上下限を画することを当業者といえども、容易に想到できたとはいえない。
したがって、相違点1は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第12号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

2 [相違点2]について
甲1発明において、銅合金粉末の平均粒子径が変化した際に、多孔質の合金層3の構造が相似的関係(審判請求書第35ページ第1行)を保つという証拠は示されていない。また、銅合金粉末の平均粒子径が25μmであっても、銅合金粉末の中には粒子径が25μmを超えるものも含まれ得ることから、平均粒子径25μmの粒子が3粒集まった際、75μmを超えることもあり得る。
また、甲第1号証には、空孔率を30?40%に維持することの動機づけになる記載があるとはいえない。
そうすると、「摺動層5」の厚さも「多孔質の合金層2」の厚さも不明な甲1発明において、甲第1ないし12号証の記載を総合しても、「摺動層5」の厚さを「0.08?0.16mm」とし、かつ「多孔質の合金層2」の厚さを「0.06?0.1mm」とすることは、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、相違点2は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第12号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

3 [相違点3]について
摺動部材にPbを含まない樹脂材料を使うことは、甲10?12号証の記載事項ト?ニにみられるように、本願出願前に周知の技術手段と認められる。それゆえ、甲1発明のポリテトラフルオロエチレンに鉛20容量%を混合した樹脂材料を、Pbを含まない樹脂材料に置き換える事は、甲1発明及び周知の技術手段に基いて、当業者が容易に成し得たことである。

4 結論
金属粉末の粒径を15?60μmとすること、摺動層5の厚さを0.08?0.16mmとし、かつ多孔質の合金層2の厚さを0.06?0.1mmとすることは、当業者が容易に成し得たことでない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第1ないし12号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件発明2は、本件発明1の「15?60μm」を「25?45μm」と、さらに限定した発明であり、本件発明3及び4は、本件発明1及び2の「摺動部材」を「軸受」に限定した発明である。したがって、本件発明2なし4は、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲第1ないし12号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上のとおり、無効理由2によって、本件発明についての特許を無効とすることはできない。

第9 無効理由3について

1 実施可能要件
物の発明における発明の実施とは、その物を生産することができることをいうから、その物を生産することができるような記載が発明の詳細な説明に必要であり、そのような記載がない場合は、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を生産することができることが、実施可能要件を満たすために必要であると解する。
これを、本件について検討する。
本件の明細書の段落【0019】-【0020】には、
「【0019】
多孔質層3は、金属基材2の表面に所定の厚さで金属粉末30が焼結されて形成される。本例では、金属粉末30として、Cu-Sn系合金粉が金属基材2である銅メッキ鋼板上に散布され、Cu-Sn系合金粉が散布された銅メッキ鋼板が焼結炉で焼結されて、銅メッキ鋼板上にCu-Sn系合金の多孔質層3が形成される。
【0020】
摺動層5は、金属基材2の表面に形成された多孔質層3に、樹脂材料4が所定の厚さで含浸され、多孔質層3に含浸された樹脂材料4が焼成されて形成される。本例では、樹脂主剤として、PTFEのディスパージョンと、樹脂添加剤として、二硫化モリブデン、黒鉛、炭素繊維等のフィラーが混合され、有機溶剤が加えられ攪拌されて樹脂材料4が生成される。樹脂材料4は、金属基材2の表面の多孔質層3上に載置されて押圧され、多孔質層3に含浸される。そして、焼成炉でPTFEの融点以上に加熱されて焼成される。」
と記載されている。
また、【図1】には、焼結及び焼成後の摺動部材の断面組織図であって、当該図中の「R」は、焼結前の「金属粉末30の粒径」であるから(段落【0022】,【0025】等参照。)、焼結前の「金属粉末30の粒径」が焼結及び焼成後、小さくなったことが記載されている。
上記記載に照らせば、多孔質層3は、金属基材2の表面に所定の厚さで金属粉末30が焼結されて形成されること、摺動層5は、樹脂材料4が金属基材2の表面の多孔質層3上に載置されて押圧され、多孔質層3に含浸され、焼成炉でPTFEの融点以上に加熱されて焼成されて形成されることが記載されているといえる。したがって、本件発明に係る摺動部材及び軸受の構造や製造方法の骨格は本件明細書及び図面に記載されている。
加えて、Cu-Sn系合金粉(青銅粉)を用いた焼結合金の多孔質層に樹脂材料を含浸させた摺動部材及び軸受の構造や製造方法については、甲第1、2、4及び7号証に種々記載されており、これらが出願当時の技術常識になっていたと解される。そうすると、当業者であれば、本件明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、本件発明に係る摺動部材及び軸受を生産することができるといえる。

2 結論
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、無効理由3によって、本件発明についての特許を無効とすることはできない。

第10 無効理由4について

1 明確性
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、明細書の記載及び図面を考慮し、また、出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断するべきである。
これを本件について検討する。
特許請求の範囲には「金属粉末の粒径を、15?60μm」、「摺動層の厚さをが0.08?0.16mm」、「多孔質層の厚さが0.06?0.1mmの範囲で、平均して前記摺動層の厚さより薄く」及び「金属粉末の粒径を、25?45μm」との明確な記載があり、これらに対応して本件明細書には「本発明は、金属基材の一の面に、金属粉末を焼結させて多孔質層が形成され、多孔質層に含浸させた樹脂材料を焼成させて摺動層が形成される摺動部材において、金属粉末の粒径を、15?60μmとし、摺動層の厚さを、0.08?0.16mmとし、多孔質層の厚さを、0.06?0.1mmの範囲で、平均して摺動層の厚さより薄く構成した摺動部材である。」、「本発明は、金属基材の一の面に、金属粉末を焼結させて多孔質層が形成され、多孔質層に含浸させた樹脂材料を焼成させて摺動層が形成される軸受部材を、摺動層を内側として環状とし、円筒状の内周面を摺動層で構成した軸受において、金属粉末の粒径を、15?60μmとし、摺動層の厚さを、0.08?0.16mmとし、多孔質層の厚さを、0.06?0.1mmの範囲で、平均して摺動層の厚さより薄く構成した軸受である。」、「金属粉末の粒径は、25?45μmの範囲であることが好ましい。」及び「本実施の形態の摺動部材1は、金属基材2の一の面である表面に、合金材料で多孔質層3が形成され、この多孔質層3が樹脂材料4で被覆されて摺動層5が形成される。」(【0011】ないし【0013】及び【0018】)との記載がある。そして【図1】には、焼結及び焼成後の摺動部材の断面組織図が記載され、焼結前の金属粉末の粒径が15?60μmであれば、同図に示されるような断面組織図を有する摺動部材が形成されることも看てとれる。
また、甲第1、2、4及び7号証には、金属粉末を焼結させて多孔質層が形成され、多孔質層に含浸させた樹脂材料を焼成させて摺動層が形成される摺動部材について、金属粉末の粒径、摺動層の厚さ、多孔質層の厚さ等を特定した摺動部材の組織、構造が記載されており、このような摺動部材の組織、構造が出願当時の技術常識になっていたと解される。
そうすると、第三者は、特許請求の範囲の記載、明細書の記載及び図面を考慮し、出願当時における技術常識を基礎とすると、特許請求の範囲の「金属粉末の粒径」、「多孔質層の厚さ」及び「摺動層の厚さ」がいかなるものか理解できる。
したがって、特許請求の範囲の記載だけでなく、明細書の記載及び図面を考慮し、また、出願当時における技術常識を基礎とすると、本件特許の特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確でないといえる。

2 結論
よって、本件発明は、物の発明として明確であるから、無効理由4によって、本件発明についての特許を無効とすることはできない。


第11 まとめ
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、前記結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
摺動部材及び軸受
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸を摺動可能に支持する軸受に使用される摺動部材及び軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材としては、鋼板上にCu-Sn系合金を貼り合せた摺動材料が多く使用されてきた。従来使用されてきたCu-Sn系合金は、Cu-Sn-Pb合金で、Pb(鉛)の添加により良好な摺動性を確保していた。
【0003】
一方、Pbの人体に対する有害性から、近年Pbの使用が様々な分野で規制されており、摺動部材でも、Pbを使用しない材料が提案されている。このようなPbを使用しない摺動材料として、樹脂材料を使用した摺動部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来の樹脂材料を用いた摺動部材は、鋼板上にCu-Sn系合金の多孔質層を形成し、この多孔質層に、樹脂材料としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含浸させて被覆した構成である。多孔質層は、鋼板上にCu-Sn系合金粉が散布され、Cu-Sn系合金粉が散布された鋼板が焼結炉で焼結されて、鋼板上にCu-Sn系合金の多孔質層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-226299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、多孔質層を形成する金属粉末の粒径は、75?150μm程度である。これに対して摺動層の厚さは、0.2?0.4mm程度であるが、摺動層の厚さに対して多孔質層を形成する金属粉末の粒径が大きく、粒径のばらつきも大きいので、摺動層に対して多孔質層が厚くなり、摺動層の表面に多孔質層が露出するまでの、許容される摺動層の摩耗量が少なかった。
【0007】
摺動層が樹脂材料で形成される摺動部材は、オイル潤滑環境下で使用される軸受に適用されるが、一時的に油膜が切れることがある。摺動層が樹脂材料で形成される摺動部材が適用された軸受では、摺動層の表面の油膜が一時的に切れても、摺動層を形成する樹脂材料が潤滑材としての役割を担う。
【0008】
しかし、摺動層の表面に多孔質層が露出するまでの、許容される摺動層の摩耗量が少ないと、油膜が切れた状態で摺動対象物である軸等が多孔質層に接触するドライタッチと呼ばれる現象が起こる。ドライタッチが起こると、軸受と軸との焼き付き、軸の損傷等が発生する可能性があった。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、多孔質層の露出を抑制して耐焼付性を向上させると共に、耐摩耗性及び耐荷重性を向上させた摺動部材、及びこの摺動部材を使用した軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、多孔質層を形成する金属粉末の粒径を小さくすることで、多孔質層の露出が抑制され、耐焼付性が向上すると共に、耐荷重性が向上することを見出した。また、摺動層の厚さを薄くすることで、耐摩耗性が向上することを見出した。
【0011】
そこで、本発明は、金属基材の一の面に、金属粉末を焼結させて多孔質層が形成され、多孔質層に含浸させた樹脂材料を焼成させて摺動層が形成される摺動部材において、金属粉末の粒径を、15?60μmとし、摺動層の厚さを、0.08?0.16mmとし、多孔質層の厚さを、0.06?0.1mmの範囲で、平均して摺動層の厚さより薄く構成した摺動部材である。
【0012】
また、本発明は、金属基材の一の面に、金属粉末を焼結させて多孔質層が形成され、多孔質層に含浸させた樹脂材料を焼成させて摺動層が形成される軸受部材を、摺動層を内側として環状とし、円筒状の内周面を摺動層で構成した軸受において、金属粉末の粒径を、15?60μmとし、摺動層の厚さを、0.08?0.16mmとし、多孔質層の厚さを、0.06?0.1mmの範囲で、平均して摺動層の厚さより薄く構成した軸受である。
【0013】
金属粉末の粒径は、25?45μmの範囲であることが好ましい。また、多孔質層の厚さは、0.06?0.1mmの範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、多孔質層を形成する金属粉末の粒径を微細化することで、多孔質層の露出が抑制され耐焼付性を向上させることができる。また、多孔質層の強度が向上して多孔質層の変形が抑制されると共に、多孔質層に入り込む樹脂材料の変形が抑制され、耐荷重性を向上させることができる。
【0015】
更に、多孔質層を形成する金属粉末の粒径を微細化することで、摺動層の厚さを薄くしても、多孔質層の露出が抑制され、摺動層の厚さを薄くすることで、摺動層の変形が抑制され、摺動層の変形に伴う摩耗を抑制することができ、耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態の摺動部材の一例を示す断面組織図である。
【図2】本実施の形態の軸受の一例を示す斜視図である。
【図3】負荷荷重と圧縮変形量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の摺動部材の実施の形態、及び、本発明の摺動部材が適用された軸受の実施の形態について説明する。
【0018】
<本実施の形態の摺動部材の構成例>
図1は、本実施の形態の摺動部材の一例を示す断面組織図である。本実施の形態の摺動部材1は、金属基材2の一の面である表面に、合金材料で多孔質層3が形成され、この多孔質層3が樹脂材料4で被覆されて摺動層5が形成される。
【0019】
多孔質層3は、金属基材2の表面に所定の厚さで金属粉末30が焼結されて形成される。本例では、金属粉末30として、Cu-Sn系合金粉が金属基材2である銅メッキ鋼板上に散布され、Cu-Sn系合金粉が散布された銅メッキ鋼板が焼結炉で焼結されて、銅メッキ鋼板上にCu-Sn系合金の多孔質層3が形成される。
【0020】
摺動層5は、金属基材2の表面に形成された多孔質層3に、樹脂材料4が所定の厚さで含浸され、多孔質層3に含浸された樹脂材料4が焼成されて形成される。本例では、樹脂主剤として、PTFEのディスパージョンと、樹脂添加剤として、二硫化モリブデン、黒鉛、炭素繊維等のフィラーが混合され、有機溶剤が加えられ攪拌されて樹脂材料4が生成される。樹脂材料4は、金属基材2の表面の多孔質層3上に載置されて押圧され、多孔質層3に含浸される。そして、焼成炉でPTFEの融点以上に加熱されて焼成される。
【0021】
摺動部材1は、多孔質層3を形成する金属粉末30の粒径を、従来と比較して微細化することで、多孔質層3の厚さを従来より薄くして、ドライタッチを起こす多孔質層3の露出を抑制すると共に、摺動層5の厚さを従来より薄くして、耐摩耗性の向上を図る。
【0022】
摺動部材1は、金属粉末30の粒径Rを、15?60μm、好ましくは、25?45μm程度とする。従来、金属粉末の粒径は、75?150μm程度で、粒径が大きく、かつ、粒径のばらつきが大きいものであった。これに対して、本実施の形態では、金属粉末30の粒径が小さく、かつ、粒径のばらつきが小さく抑えられている。
【0023】
摺動部材1は、多孔質層3の厚さT1を、0.06?0.1mmの範囲とした。多孔質層3の厚さは、金属粉末30が少なくとも2個以上重なる程度の厚さに設定される。
【0024】
摺動部材1は、摺動層5の厚さT2を、0.08?0.16mmとした。摺動層5の厚さは、多孔質層3が露出しないように、多孔質層3の厚さより平均して厚く設定される。従来、摺動層の厚さは、0.2?0.4mm程度であるが、多孔質層を形成する金属粉末の粒径が75?150μm程度であり、粒径のばらつきも大きいので、摺動層に対して多孔質層が厚くなり、摺動層の表面に多孔質層が露出するまでの、許容される摺動層の摩耗量が少なかった。
【0025】
これに対して、本実施の形態では、摺動層5の厚さT2が0.08?0.16mm程度に設定され、従来と比較して薄く構成されるが、金属粉末30の粒径Rを15?60μm、好ましくは、25?45μm程度とすることで、多孔質層3の厚さT1を0.06?0.1mm程度に薄くでき、多孔質層3が露出するまでの、許容される摺動層5の摩耗量が増加する。
【0026】
<本実施の形態の軸受の構成例>
図2は、本実施の形態の軸受の一例を示す斜視図である。本実施の形態の軸受10は、図1で説明した摺動部材1を、摺動層5を内側として環状に構成される。軸受10は、円筒状の内周面を形成する摺動層5で軸11を支持する。軸受10は、軸11が回転運動する形態、あるいは直線運動する形態の何れであっても適用可能である。
【0027】
本実施の形態の軸受10は、例えば、自動車等のショックアブソーバ等、直線運動する形態で油が用いられる摺動部に使用される。また、歯車状の部材が回転することで、油を送出するギアポンプ等、回転運動する形態で油が用いられる摺動部に使用される。
【0028】
<本実施の形態の摺動部材及び軸受の作用効果例>
軸受10は、軸11が回転運動、あるいは直線運動を行うことで、摺動層5の表面の一部と軸11が接触した状態で、軸11が摺動する。軸受10を構成する摺動部材1は、上述したように、多孔質層3を形成する金属粉末30の粒径Rを25?45μm程度とし、従来と比較して微細化した。
【0029】
これにより、多孔質層3の厚さT1を0.06?0.1mm程度に薄くでき、摺動層5の厚さT2を0.08?0.16mm程度と、従来と比較して薄く構成しても、摺動層5の表面に多孔質層3が露出するまでの、許容される摺動層5の摩耗量が増加させることができる。
【0030】
よって、摺動層5に軸11が摺動することで、摺動層5を構成する樹脂材料4が摩耗しても、多孔質層3の露出が抑制され、多孔質層3と軸11が直接接して焼き付き等の要因となるドライタッチを抑制することができる。
【0031】
軸受10は、オイル潤滑環境下で使用されるが、一時的に油膜が切れることがある。軸受10では、摺動層5の表面の油膜が一時的に切れても、摺動層5を形成する樹脂材料4が潤滑材としての役割を担う。
【0032】
上述したように、軸受10では、油膜が一時的に切れても、ドライタッチを起こす多孔質層3の露出が抑制されることで、摺動層を樹脂材料で構成した従来の軸受と比較して、耐焼付性が向上し、Pbを含まない構成で、Pbを含む摺動材料を用いた軸受と同程度の耐焼付性が得られる。
【0033】
また、摺動層5の厚さを薄くすることで、摺動層5に軸11が摺動することによる摺動層5の変形が抑制され、摺動層5の変形に伴う摩耗を抑制することができ、摺動層5の厚さを薄くしても、摺動層を樹脂材料で構成した従来の軸受と比較して、同程度の耐摩耗性が得られる。
【0034】
更に、金属粉末30の粒径が、平均して25μmより小さくなると、多孔質層3を形成した際に、金属粉末間の隙間が小さくなり、樹脂材料4が多孔質層3に入り込みにくくなる。これに対して、金属粉末30の粒径Rが25?45μm程度であれば、この金属粉末30で形成された多孔質層3に含浸されて焼成された樹脂材料4は、多孔質層3の間に入り込み、所謂アンカー効果が得られ、従来の粒径の金属粉末で多孔質層を構成した従来の軸受と比較して、同程度の樹脂密着性が得られ、摺動層5の金属基材2からの剥離が抑制される。
【0035】
また、多孔質層3を形成する金属粉末30の粒径Rを、25?45μm程度にすることで、摺動層5の厚さT2を0.08?0.16mm程度に薄くしても、耐荷重性が向上する。図3は、負荷荷重と圧縮変形量の関係を示すグラフである。
【0036】
図3のグラフにおいて、実線で示す実施例1は、本発明を適用した摺動部材であり、多孔質層3を形成する金属粉末30の粒径Rを25?45μmとし、摺動層5の厚さT2が0.08?0.16mm程度となるように、摺動部材1全体の厚さを1mm、金属基材2の厚さを0.9mmとした。
【0037】
破線で示す比較例1は、多孔質層を形成する金属粉末の粒径を75?150μmとし、摺動層の厚さが0.2?0.4mm程度となるように、摺動部材全体の厚さを1.0mm、金属基材の厚さを0.75mmとした。一点鎖線で示す比較例2は、金属基材の厚さによる差異を測定するため、比較例1と同じ条件で、摺動部材全体の厚さを2.0mm、金属基材の厚さを1.8mmとした。
【0038】
図3のグラフに示すように、実施例1では、比較例1及び比較例2との対比で、荷重に対する摺動層の圧縮変形量が少ないことがわかる。比較例1と比較例2の対比で、金属基材の厚さが薄い方が、摺動層の圧縮変形量が少ない傾向にある。
【0039】
そして、多孔質層3を形成する金属粉末30の粒径Rを25?45μmとすることで、各比較例との対比で、多孔質層3において金属粉末30の密度が高くなり、多孔質層3の変形及び多孔質層3に入り込む樹脂材料4の変形が抑えられ、耐荷重性が向上する。よって、高負荷環境での使用も可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、油が供給される環境で使用される摺動部材及び軸受に適用される。
【符号の説明】
【0041】
1・・・摺動部材、10・・・軸受、2・・・金属基材、3・・・多孔質層、30・・・金属粉末、4・・・樹脂材料、5・・・摺動層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の一の面に、金属粉末を焼結させて多孔質層が形成され、前記多孔質層に含浸させた樹脂材料を焼成させて摺動層が形成される摺動部材において、
前記金属粉末の粒径を、15?60μmとし、
前記摺動層の厚さを、0.08?0.16mmとし、
前記多孔質層の厚さを、0.06?0.1mmの範囲で、平均して前記摺動層の厚さより薄く構成した
ことを特徴とする摺動部材(ただし、前記樹脂材料がPbを含まない。)。
【請求項2】
前記金属粉末の粒径を、25?45μmとした
ことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
金属基材の一の面に、金属粉末を焼結させて多孔質層が形成され、前記多孔質層に含浸させた樹脂材料を焼成させて摺動層が形成される軸受部材を、前記摺動層を内側として環状とし、円筒状の内周面を前記摺動層で構成した軸受において、
前記金属粉末の粒径を、15?60μmとし、
前記摺動層の厚さを、0.08?0.16mmとし、
前記多孔質層の厚さを、0.06?0.1mmの範囲で、平均して前記摺動層の厚さより薄く構成した
ことを特徴とする軸受(ただし、前記樹脂材料がPbを含まない。)。
【請求項4】
前記金属粉末の粒径を、25?45μmとした
ことを特徴とする請求項3に記載の軸受。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-07-22 
結審通知日 2015-07-24 
審決日 2015-07-30 
出願番号 特願2013-510383(P2013-510383)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (F16C)
P 1 113・ 113- YAA (F16C)
P 1 113・ 121- YAA (F16C)
P 1 113・ 536- YAA (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 森川 元嗣
内田 博之
登録日 2013-05-17 
登録番号 特許第5267756号(P5267756)
発明の名称 摺動部材及び軸受  
復代理人 畑中 孝之  
復代理人 安武 洋一郎  
代理人 篠田 淳郎  
復代理人 浅村 昌弘  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
復代理人 白江 克則  
代理人 高見 憲  
代理人 篠田 淳郎  
代理人 高見 憲  
代理人 鮫島 正洋  
復代理人 松川 直樹  
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