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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09G
管理番号 1306841
審判番号 不服2014-4182  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-04 
確定日 2015-10-14 
事件の表示 特願2009-525901「適応的なビデオ呈示のための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月10日国際公開,WO2008/040150,平成22年 1月28日国内公表,特表2010-503006〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
本件出願は,特許法184条の3第1項の規定により,平成19年9月3日(パリ条約による優先権 平成18年9月1日 中華人民共和国)にされたとみなされる特許出願であって,その後の手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成21年 3月 3日:手続補正書(以下「補正書1」という。)
平成24年 8月21日:拒絶理由通知(同年同月28日発送)
平成24年11月15日:意見書
平成24年11月15日:手続補正書(以下「補正書2」という。)
平成24年12月11日:拒絶理由通知(同年同月18日発送)
平成25年 2月26日:意見書
平成25年 2月26日:手続補正書
平成25年10月28日:拒絶査定(同年11月5日送達)
平成26年 3月 4日:手続補正書
平成26年 3月 4日:審判請求
平成26年 5月14日:前置報告
平成27年 1月 9日:拒絶理由通知(同年同月13日発送)
平成27年 4月13日:手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成27年 4月13日:意見書

2 本願発明1及び13
本件出願の特許請求の範囲の請求項1及び13に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」及び「本願発明13」という。)は,本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
第一のサイズのビデオを前記第一のサイズより小さな第二のサイズのディスプレイ上で呈示する適応ビデオ呈示方法であって,
前記ビデオのシーンの各フレームについて少なくとも一つの顕著なオブジェクトを含む顕著オブジェクト・グループを決定するステップと,
決定された顕著オブジェクト・グループ内の前記少なくとも一つの顕著なオブジェクトを前記第二のサイズのディスプレイ上で,前記決定された顕著オブジェクト・グループに関係するサイズと前記第二のサイズとに応じて,かつそのフレーム内のすべてのマクロブロックの動きベクトルに応じて表示するステップを有しており,
あるフレームについて,前記顕著オブジェクト・グループに関係するサイズは,そのフレームにおいて前記顕著オブジェクト・グループをカバーする長方形のサイズであり,
前記顕著オブジェクト・グループは,前記フレーム内のマクロブロックの動きベクトルの平均長さが第一の閾値未満である場合に採用される低動きモードと,前記平均長さが第一の閾値以上である場合に採用される,前記低動きモードとは異なる高動きモードとのいずれか一方のモードで,前記第二のサイズのディスプレイ上に表示され,
前記少なくとも一つの顕著なオブジェクトを前記第二のサイズのディスプレイ上で表示するステップは,
高動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示することを含み,
低動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示することを含む,
方法。

【請求項13】
第一のサイズのビデオを前記第一のサイズより小さな第二のサイズのディスプレイ上で呈示する装置であって,
前記ビデオのシーンの各フレームについて少なくとも一つの顕著なオブジェクトを含む顕著オブジェクト・グループを決定するオブジェクト・グループ分類モジュールと,
前記第二のサイズのディスプレイ上で,決定された顕著オブジェクト・グループに関係するサイズと前記第二のサイズとに応じて,かつそのフレーム内のすべてのマクロブロックの動きベクトルに応じて該顕著オブジェクト・グループを表示する手段とを有しており,
あるフレームについて,前記顕著オブジェクト・グループに関係するサイズは,そのフレームにおいて前記顕著オブジェクト・グループをカバーする長方形のサイズであり,
前記顕著オブジェクト・グループは,前記フレーム内のマクロブロックの動きベクトルの平均長さが第一の閾値未満である場合に採用される低動きモードと,前記平均長さが第一の閾値以上である場合に採用される,前記低動きモードとは異なる高動きモードとのいずれか一方のモードで,前記第二のサイズのディスプレイ上に表示され,
前記顕著オブジェクト・グループを表示する前記手段は,
高動きモードでは,前記顕著オブジェクト・グループを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示し,
低動きモードでは,前記顕著なオブジェクト・グループを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示するよう構成されている,
装置。」

なお,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び13は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項3及び14に対応するものである。

3 当審判体の拒絶の理由
当審判体の拒絶の理由は,概略,以下の理由1及び2を含むものである。
(理由1)本件出願の請求項1ないし3,6及び14ないし17に係る発明は,その優先権主張の日前に日本国内または外国において頒布された以下の引用例1に記載された発明に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1:特開2005-269016号公報

(理由2) 本件出願は,特許請求の範囲の記載が以下(1)の点で不備のため,特許法36条6項1号及び36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1ないし17について
特許請求の範囲において,「低動きモード」と「高動きモード」の具体的な表示処理の内容の違いが明らかではなく,したがって,理由1において示した周知慣用技術も本願発明1でいう「低動きモード」及び「高動きモード」に該当するところ,発明の詳細な説明には,そのような技術的事項は開示されていない。
したがって,請求項1ないし17に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず,また,明確であるともいえない。
(例えば,請求項4及び5に係る発明は,「高動きモードの間」の具体的な表示処理の内容が特定されているものの,「低動きモードの間」の具体的な表示処理の内容が特定されていないから,「低動きモード」と「高動きモード」の具体的な表示処理の内容の違いが明らかではない。また,例えば,請求項6ないし13に係る発明は,「低動きモードの間」の具体的な表示処理の内容が(明確か否かは措くとして)特定されているものの,「高動きモードの間」の具体的な表示処理の内容が特定されていないから,「低動きモード」と「高動きモード」の具体的な表示処理の内容の違いが明らかではない。)

第2 当審判体の判断
1 理由2(36条6項1号及び2号)について
本願発明1の「高動きモード」及び「低動きモード」に関して,特許請求の範囲には,「前記フレーム内のマクロブロックの動きベクトルの平均長さが第一の閾値未満である場合に採用される低動きモードと,前記平均長さが第一の閾値以上である場合に採用される,前記低動きモードとは異なる高動きモードとのいずれか一方のモード」,「高動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示することを含み,」,「低動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示することを含む,」と記載されている。
そこで,本願発明1の「高動きモード」及び「低動きモード」が,発明の詳細な説明(補正書1及び補正書2による補正後のもの,以下同じ。)に記載されたものであるか(36条6項1号),並びに,両者の具体的な表示処理の内容の違いが明らかといえるか(36条6項2号)について,検討する。

まず,本願発明1の「高動きモード」について,特許請求の範囲には,「前記平均長さが第一の閾値以上である場合に採用される」こと,「前記低動きモードとは異なる」ことが記載されている。しかし,これらは,いずれも,本願発明1の「高動きモード」の具体的な表示処理の内容を表さない。
ただし,本願発明1の「高動きモード」について,特許請求の範囲には,「高動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示する」と記載されている。そうしてみると,本願発明1は,「高動きモード」において,「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になる」ように表示するため,「表示領域を調整」する構成を具備すると理解できる。したがって,本願発明1の「高動きモード」は,「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になる」ように表示するための,具体的な表示処理の内容が明確なものであるかは措くとして,一応,表示処理の内容が,表示の態様によって,間接的に,特定されている。
また,発明の詳細な説明の段落【0055】には,「本発明によれば,適応ビデオ呈示動作は,二つのカテゴリーに分類できる:それぞれ低動きモードおよび高動きモードに対応する低動き展示および真の動き展示である。」と記載され,さらに,段落【0057】には,「高動きモードでは,顕著なオブジェクトまたは顕著オブジェクト・グループを表示するために真の動き展示が導入される。閲覧者はより小さなディスプレイのウィンドウ上でOGが前後に動くのを見ることができる。ビデオのシーンの場合,シーン内の各フレームの重点は早く動き,その際,ビデオのシーン内の全フレームの重み付けされた平均重点がより小さなディスプレイの静止フォーカス中心として決定されることになる。こうして,閲覧者はOGがより小さなディスプレイのウィンドウの一方の側から他方の側に動くのを見ることができる。たとえば,シーン内の全フレームの重点の座標が(x1,y1),(x2,y2),…として記録される場合,これらの重点の平均(average)はx=average(x1,x2,...),y=average(y1,y2,...)となるべきである。」と記載されている。したがって,「顕著なオブジェクト」,「小さなディスプレイの静止フォーカス中心」及び「重点」がどのように求められるものかは措くとしても,発明の詳細な説明には,フレーム毎に「重点」の座標を取得し,その単純平均の座標を,小さなディスプレイの静止フォーカス中心とする表示処理が,一応,記載されている。

次に,本願発明1の「低動きモード」について,特許請求の範囲には,「前記フレーム内のマクロブロックの動きベクトルの平均長さが第一の閾値未満である場合に採用される」ことが記載されている。また,特許請求の範囲には,「前記低動きモードとは異なる高動きモード」と記載されているから,本願発明1の「低動きモード」が「前記高動きモードとは異なる」ことが,実質的に記載されている。しかし,これらはいずれも,本願発明1の「低動きモード」の具体的な表示処理の内容を表さない。また,特許請求の範囲には,「低動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示する」ことが記載されているが,この記載も,本願発明1の「低動きモード」の具体的な表示処理の内容を表さない。
本願発明1の「低動きモード」の具体的な表示処理の内容は,明確であるとはいえない。
また,発明の詳細な説明の段落【0055】には,「本発明によれば,適応ビデオ呈示動作は,二つのカテゴリーに分類できる:それぞれ低動きモードおよび高動きモードに対応する低動き展示および真の動き展示である。」と記載され,さらに,段落【0056】には,「低動きモードでは,少なくとも三つの異なる展示動作が使用できる。すなわち,直接表示,重点流れ表示および顕著性駆動パンである。これら三つの動作のうち,直接表示は顕著なオブジェクトまたは顕著オブジェクト・グループをより小さなディスプレイ上に直接表示するものである。重点流れ表示は,より小さなディスプレイの表示領域の動きを,顕著オブジェクト・グループの重点の動きに追随させることによって制御し,通例,なめらかな表示方針を保つために重点変化の許容差(TGC)パラメータが使用される。顕著性駆動パンは基本的には,大きな顕著なオブジェクトまたは複数の顕著なオブジェクトが存在する場合に特に,顕著なオブジェクトをより小さな表示ウィンドウ上に表示するために顕著性分布を考慮したパン動作である。」と記載されている。そうしてみると,「低動きモード」について,発明の詳細な説明には,直接表示,重点流れ表示及び顕著性駆動パンが使用できると記載されているにとどまる。
「低動きモード」について,発明の詳細な説明には,「前記顕著なオブジェクトを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示する」もの,すなわち,「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示する」ことを除く調整により表示するものとしては記載されていない。
なお,発明の詳細な説明の段落【0055】の【表4】を参照しても,そこには,「低動きモード」に対応する低動き展示として,直接表示,重点流れ表示及び顕著性駆動パンの3つが使用できること,並びに,「高動きモード」に対応する真の動きの展示として,「ビデオのあるシーンについての顕著オブジェクト・グループすべてを,重み付けされた平均重点をより小さなディスプレイの静止フォーカス中心として,呈示」することが記載されているにとどまり,本願発明1の「低動きモード」が,「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示する」ことを除く調整により表示するモードであることは記載されていない。同様に,【図6】及びその説明(段落【0065】?【0066】)を参照しても,そこには,動きモードの判定結果が「No」の場合には,「真の動き展示」,「真の動き展示+ズームイン」及び「真の動き展示+ズームアウト」のいずれかの表示がされ,動きモードの判定結果が「Yes」の場合には,「ズームイン+直接表示」,「直接表示」,「重点流れ表示+ズームアウト」,「直接表示(パンは禁止)」,「重点流れ表示+顕著性駆動パン+ズームアウト」及び「重点流れ表示+顕著性駆動パン」のいずれかの表示がされることが例示として記載されているにとどまり,本願発明1の「低動きモード」が,「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示する」ことを除く調整により表示するモードであることは記載されていない。

また,「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示する」ことを除く調整により表示するモードで表示する構成が,「本発明は,ユーザーのための最適なビデオ閲覧経験を提供するために,内容解析に基づくメタデータ情報に従って,小さなサイズのディスプレイ装置上でビデオを全自動で表現するための適応ビデオ呈示ソリューションを提供する。」という発明が解決しようとする課題(段落【0010】)を解決するための手段になるとはいえない。少なくとも,本願発明1の「低動きモード」は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。

加えて,「高動きモード」及び「低動きモード」に関して,【請求項13】には,「前記顕著オブジェクト・グループを表示する前記手段は,高動きモードでは,前記顕著オブジェクト・グループを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示し,低動きモードでは,前記顕著なオブジェクト・グループを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示するよう構成されている」と記載されているのに対し,【請求項1】には,「前記少なくとも一つの顕著なオブジェクトを前記第二のサイズのディスプレイ上で表示するステップは,高動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示することを含み,低動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示することを含む,」と記載されている。
すなわち,本願発明1の「高動きモード」は,「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示すること」のみからなる表示態様ではなく,「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示すること」以外の表示態様を含むモードである。また,本願発明1の「低動きモード」は,「低動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示することを含む」のであるから,「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示すること」以外の表示態様を含むモードである。
したがって,本願発明1の「高動きモード」及び「低動きモード」は,前者が「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示すること」を含み,後者がこれを含まないという側面においては違うとしても,その余の表示態様については,具体的な表示処理の内容の違いが明確とはいえない。また,発明の詳細な説明には,このような技術的事項は開示されていないし,このような「高動きモード」及び「低動きモード」が,段落【0010】記載の発明が解決しようとする課題を解決する手段になるとはいえない。

さらに加えて,本願発明1の「顕著なオブジェクト」に関して,発明の詳細な説明の段落【0060】には,「ビデオのシーンについて,顕著なオブジェクトがまず抽出されるべきである。この作業を行う方法は従来技術に多数あるが,ここでは記述しない。」と記載されているから,本願発明1の「顕著なオブジェクト」は,視聴者が関心を向けると思われる領域を抽出する適宜の手段で良い。また,「重点」は,通常,「重んずべき点。大切な所。」(広辞苑6版)を意味するから,本願発明1の「重点」は,視聴者が関心を向けると思われる領域中の適宜の代表点を選択すれば良い。そうしてみると,本願発明1の「高動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示することを含み」との表示態様は,視聴者にとって関心の高い領域が,表示画面の中心点を一方から他方に通り過ぎるように調整して表示する表示態様が含まれることを意味するとしても,それを実現する具体的な表示処理の内容が明確であるとはいえない。また,「低動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示することを含む」との表示態様も,同様である。

以上のとおり,本願発明1の「高動きモード」及び「低動きモード」の具体的な表示処理の内容は,明確でなく,そして,本願発明1の「高動きモード」及び「低動きモード」の具体的な表示処理の内容の違いも明確であるとはいえないから,本願発明1は明確であるとはいえず,また,少なくとも,本願発明1の「低動きモード」は,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
したがって,本件出願は,特許法36条6項1号及び36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

2 理由1(29条2項)について
(1) 引用例1の記載
引用例1には,以下の事項が記載されている(下線は当審判体が付した,以下同じ。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,ディジタル化されたHDTVの如き高精細な品質を有する画像放送を,携帯電話機などの低解像度の画面を有する端末装置で受信表示する技術に関する。」

イ 「【背景技術】
【0002】
従来,ハイビジョン放送などの高品位テレビ放送(HDTV)は,その高解像度(通常1920画素×1280ライン)に対応する表示機能を有する専用の受信装置を用いて視聴が行われてきた。最近地上波ディジタル放送による映像と情報の提供が開始されるに伴い,携帯電話に代表される携帯端末によってこの放送を受信,利用したいとする需要が高まっている。これはディジタル化により受信機の消費電力の低減と小型化が可能となり,また情報源としての価値が高くなっているためと考えられる。
【0003】
しかしながら,携帯端末の多くは限定された表示画面(例えば240×320画素)しか有していないために,この種の端末装置では送信されてくる高解像度画面をそのまま表示することは不可能であり,何らかの変換処理を施すことが必要となる。
【0004】
この問題の解決のために従来行われてきた方法の一つは高解像度画像を低解像度に変換して表示することで,その変換手法の代表的な例は画素の間引き表示によるものである。
【0005】
非特許文献1の166ページには各種の解像度の変換例が開示されている。その一つに,ダウンサンプリング法もしくはサブサンプリング法と呼ばれる高解像度画像を低解像度に変換する手法があり,これは一定の規則により領域の代表値を選択して取り出す方法である。例えば図1に示すように,水平方向,垂直方向の画素を1つ,あるいは2つ置きに取り出すことによって,低解像度に対応する画面を構成する手法である。
【図1】

【0006】
図1の例は,水平方向に1個置き,垂直方向に1行置きの画素を選択する方法であり,選択された画素を黒色で表示している。この方法の適用によって選択される画素数は,水平方向で1/2,垂直方向で1/2となり,合わせて1/4への解像度変換が行われる。これと同様の手続きを行うことで,より低い解像度に変換することも可能である一方,より画質を向上させる目的で,画素の選択時にその周囲の画素の情報も併用して代表値を決定する平均操作法を用いることもある。しかしこの方法では,特に変換による縮小比が大きな場合に,表示する画質が著しく低下するために,高い解像度による視聴を想定して送信される小さな人物像の表情や小さな文字等を判読することは困難である。」

ウ 「【0007】
低解像度の端末装置で視聴する他の方法としては,限られた画面に全画像の一部だけを表示して視聴者がその表示位置を手動で移動,または自動的に順次表示する方法がある。この方法は携帯端末でインターネットのWebページを表示する場合には有効である。しかし,動画像であるテレビ画面でこの種の処理を行うことは,操作が煩雑である上に目的の画像を得ることが困難であり,有用な情報を見逃す可能性が高い。
【0008】
この種の目的のために,予め映像データから自分の見たいシーンを簡単かつ適切に抽出する技術が特許文献1に開示されている。この方法は,関心のある動きのパターンを予め登録することで,全画面中から関心のある画像の部分を自動的に選択して表示する手段を提供している。しかしこの技術は予め登録したシーンを用いた検索が前提とされており,一般的な動画像からの有用情報の表示の目的に適用することはできない。
【0009】
【特許文献1】
特開2003-244628号公報
【非特許文献1】
貴家仁志著「よくわかるディジタル画像処理」CQ出版社」

エ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は,高解像度映像情報を低解像度の端末装置で表示する際に,受信画像から有用と想定される領域を自動的に選択して,その領域のみを端末装置の限定された表示画面に表示することで,重要な情報のみを高画質で表示することである。」

オ 「【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は,テレビ映像画面を複数のブロックに分割する手段と,各ブロックの動き量を計算・比較する手段と,動き量が極大となるブロックを有意ブロックとして選択する手段と,該有意ブロックを表示装置の画素数に合せて表示する手段とを備える選択的解像度変換装置により解決することができる。
【0012】
まず,受信された高解像度映像画面を,それぞれが高々数百個の連続した画素からなる複数個のブロックに分割する。高解像度映像画面は非常に多くの画素からなるが,その一々を処理するのでは計算量が膨大になるからである。次に,連続するフレーム間での各ブロック内画像の差分を求めることにより,当該ブロック内画像の動きベクトルを求める。一つのブロック内画像の動きベクトルの値を周辺のブロックの動きベクトルの値を比較して,その値が他に比較して極大になるものを求める。このようなブロックは他に較べて有意な情報を含んでいる可能性が高いからである。最終的に,この有意なブロックを中心とする或る限られた画面領域を高解像度映像画面の中から選択することで,低解像度端末装置の限られた大きさの画面に有意な情報を表示しようとする。これが本発明の課題解決原理である。」

カ 「【発明の効果】
【0013】
本発明により,高解像度映像画面全体の中から重要な情報が存在する領域を自動的に抽出し,重要性の低い背景等を割愛することにより,低解像度端末装置の限られた表示画面の中に効率的な表示を行うことが可能になる。その結果,例えば携帯電話機のような限られた表示機能しか持たない端末装置でも,HDTVのような高解像度映像を効果的に受信することが可能になる。また同様の処理によって,視力の衰えた視聴者のために,画像の一部を拡大した映像を提供することも可能になる。」

キ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明を実施するための最良の形態を,以下の実施例を用いて実説明する。この実施例は,HDTVの映像を携帯電話機で受信・表示する例である。
【実施例1】
【0015】
以下に,HDTV放送を例として,MPEG2を用いる本発明の処理について説明する。
【0016】
図2は,本発明の実施例としての,携帯端末によるHDTV画像受信における画像処理のブロック図を示している。
【図2】

図中の参照符号21はディジタルテレビの受信回路であり,受信電波から画像符号情報を抽出して,それをMPEG復号回路22に与える。MPEG2復号回路22は,受け取ったテレビ映像画面を複数のブロックに分割する。すなわち受け取った,例えば(1920×1280)画素で構成される全画面のデータを,縦横がそれぞれ(16×16)の画素からなるブロック(マクロブロック:以下「MB」と略記))を単位として分割する。
【0017】
この処理過程で,各MBの動きベクトルから動き量が計算され,MPEG2復号回路22によって復号した結果は,画面メモリ23に更新した画像として復元される。各ブロックの動き量を計算・比較する手段としての,動き量演算回路24は各MBの動き量を,例えば画素数が(16×16)であれば,動きベクトルを計算する下記数1の値を最小とするMB内座標(a,b)により算出したスカラー値を,一定画面数時間毎に積算する。
【0018】
【数1】

【0019】
数1においてXは画素の値(例えば明るさ),添え字i及びa,j及びbはそれぞれMB内の垂直,水平座標位置,kはフレーム番号を表す。数1の式は,フレーム番号がkであるMB内の座標位置がi,jである画素の値と,フレーム番号がk-1であるMB内の座標位置が(i±a,j±b)である画素の値との差分を全ての(a,b)について求め,その絶対値を全て座標位置について合計し,動きベクトルの量(大きさ)を与える。
【0020】
動きベクトルはMPEG2のデータとして例えば(1920×1280)画素の画面を(16×16)画素のMB(マクロブロック)で構成するとすれば,MBの数は横方向に120,縦方向に80であり9600個の動きベクトルが得られる。そのX軸,Y軸の自乗和の平方根を動きベクトルのスカラー的大きさとする。
【0021】
ここで表示装置の解像度として(240×320)画素のものが用いられるとすると,有意ブロックとしては,これに見合うものとして横方向に15個,縦方向に20個から成る300個のMBで構成される矩形状のものを用いることが考えられる。従って全画面の(1920×1280)画素中から,表示すべき有意ブロックを切り出す位置を決定するための有意ブロック決定操作が必要になる。」

ク 「【0022】
図3は,有意ブロックを切り出す位置を決定するための有意ブロック決定回路25の作用を説明する概念図である。
【図3】

有意ブロック決定回路25は,動き量が極大となるブロックを有意ブロックとして選択し,併せて,当該有意ブロックの上下・左右に隣接する一定個数のMBを連結してできる矩形領域を,表示ブロックとして選定する。
【0023】
表示ブロックの選定に際しては,想定される各種の区切り位置を用いて表示ブロックとする場合の,動き量の積算値を一定の画面数毎に仮に累積し,その各区切り毎の仮積算値を比較して,それが最大となるものを有意な表示ブロックとする。これは全画像中の動きの大きい部分に一般に視聴者にとって関心の高い部分が含まれている可能性が高く,動きの少ない部分は背景などの関心の少ない部分である可能性が高いとの推定に基づいている。
【0024】
ここでは有意ブロックの最大値を厳密に求める例を示したが,決定方法はこの手段に限るものではなく,例えば画面を複数個のブロックに分割し,それぞれのブロックの動き量積算値の重心を求める手法でも高い確率で最大位置を推定することができる。
【0025】
また表示画像転送回路26は,図3に示すように,有意ブロック決定回路25によって決定された画像メモリ23内の領域を実際に表示すべき表示ブロックとして選択し,それを表示装置の表示メモリ27に転送して表示を行う。この転送動作は積算時間の次の周期がきて有意ブロック決定回路25で新たな有意表示ブロックの領域が決定されるまで,毎画面受信ごとに同じ表示ブロックの領域から行われる。
【0026】
表示画像転送回路26により,有意ブロックを表示装置の表示メモリ27へ転送する際は,表示ブロックの大きさを表示画面の画素数に合わせる調整が以下のように行われる。表示ブロックは一般に表示画面の画素数に合わせて選ばれるが,より広い範囲を表示したい場合にば,例えば縦横を表示画面の画素数の各2倍の大きさに設定して,図1に示した例の如く1/4に縮小表示しても良い。また表示ブロックが表示画面の画素数より若干大きいときは画像の周囲をトリミングし,若干小さいときは表示画面の内側に表示するように調整する。表示ブロックの候補としての動きの積算値に複数の極大値があるときには,それらを交互に選択表示しても良い。」

ケ 「【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の利用により,携帯電話もしくは携帯型個人情報端末等の限定された大きさの画面にでも,HDTVの画像を有効に表示する機能を実装することが可能になる。」

(2) 引用発明
引用例1には,実施例1とともに,段落【0012】に記載の課題解決原理に対応する,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,引用発明の認定に際して参考にした箇所を明示するため,引用例1の段落番号を併記する。また,必要に応じて用語を統一してある。
「 【0012】受信された高解像度映像画面を,それぞれが高々数百個の連続した画素からなる複数個のブロックに分割し,連続するフレーム間での各ブロック内画像の差分を求めることにより,当該ブロック内画像の動きベクトルを求め,一つのブロック内画像の動きベクトルの値を周辺のブロックの動きベクトルの値を比較して,その値が他に比較して極大になるものを求め,このようなブロックは他に較べて有意な情報を含んでいる可能性が高く,この有意なブロックを中心とする或る限られた画面領域を高解像度映像画面の中から選択し,低解像度端末装置の限られた大きさの画面に有意な情報を表示する方法であって,
【0016】全画面のデータを,16×16の画素からなるブロックを単位として分割し,
【0017】各ブロックの動きベクトルから動き量を計算し,
【0022】動き量が極大となるブロックを有意ブロックとして選択し,有意ブロックの上下・左右に隣接する一定個数のブロックを連結してできる矩形領域を,表示ブロックとして選定し,【0023】表示ブロックの選定に際しては,想定される各種の区切り位置を用いて表示ブロックとする場合の,動き量の積算値を一定の画面数毎に仮に累積し,その各区切りの仮積算値を比較して,それが最大となるものを有意な表示ブロックとし,【0026】表示ブロックは一般に表示画面の画素数に合わせて選ばれ,より広い範囲を表示したい場合には,縦横を表示画面の画素数の各2倍の大きさに設定して1/4に縮小表示し,表示ブロックが表示画面の画素数より若干大きいときは画像の周囲をトリミングし,若干小さいときは表示画面の内側に表示するように調整し,
【0025】決定された画像メモリ23内の領域を実際に表示すべき表示ブロックとして選択し,それを表示装置の表示メモリ27に転送して表示を行い,転送動作は積算時間の次の周期がきて新たな有意表示ブロックの領域が決定されるまで,毎画面受信ごとに同じ表示ブロックの領域から行われ,
【0013】高解像度映像画面全体の中から重要な情報が存在する領域を自動的に抽出し,重要性の低い背景等を割愛することにより,低解像度端末装置の限られた表示画面の中に効率的な表示を行うことが可能になる,
方法。」

(3) 対比
ア 適応ビデオ提示方法
引用発明は,「高解像度映像画面全体の中から重要な情報が存在する領域を自動的に抽出し,重要性の低い背景等を割愛することにより,低解像度端末装置の限られた表示画面の中に効率的な表示を行うことが可能になる」方法であるから,本願発明1の「第一のサイズのビデオを前記第一のサイズより小さな第二のサイズのディスプレイ上で呈示する適応ビデオ呈示方法」に相当する。

イ 顕著オブジェクト・グループを決定するステップ
引用発明は,「連続するフレーム間での各ブロック内画像の差分を求めることにより,当該ブロック内画像の動きベクトルを求め,一つのブロック内画像の動きベクトルの値を周辺のブロックの動きベクトルの値を比較して,その値が他に比較して極大になるものを求め」る構成,すなわち,「動き量が極大となるブロックを有意ブロックとして選択」する構成を具備するところ,「このようなブロックは他に較べて有意な情報を含んでいる可能性が高い」とされている。したがって,引用発明の「有意ブロック」は,本願発明1の「顕著なオブジェクト」に相当し,また,本願発明1の「顕著オブジェクト・グループ」は一つの顕著なオブジェクトを含むものであっても良いから,結局,引用発明の「有意ブロック」は,本願発明1の「顕著オブジェクト・グループ」にも相当する。
また,引用発明の高解像度映像はHDTVの映像(MPEG2)であるところ(段落【0015】),このような映像が,「シーン」毎に分けられ,「シーン」が複数のフレームからなることは,当然のことである。
そうしてみると,引用発明の「連続するフレーム間での各ブロック内画像の差分を求めることにより,当該ブロック内画像の動きベクトルを求め,一つのブロック内画像の動きベクトルの値を周辺のブロックの動きベクトルの値を比較して,その値が他に比較して極大になるものを求め」る構成は,本願発明1の「前記ビデオのシーンの各フレームについて少なくとも一つの顕著なオブジェクトを含む顕著オブジェクト・グループを決定するステップ」に相当する。
また,引用発明のブロックは16×16であるところ,「長方形」は,「四つの内角がすべて直角である4辺形。」(広辞苑第6版)を意味するから,引用発明の「有意ブロック」は,本願発明1の「あるフレームについて,前記顕著オブジェクト・グループに関係するサイズは,そのフレームにおいて前記顕著オブジェクト・グループをカバーする長方形のサイズであり」の要件を満たす。

なお,本件出願の図4及びその説明を参照すると,本願発明1の「少なくとも一つの顕著なオブジェクトを含む顕著オブジェクト・グループ」は,ブロックの集まりであるのに対して,引用発明の有意ブロックは,MPEG2のマクロブロック(1個)である。しかしながら,ブロックの集まりを一つの領域とすることはMPEG等の画像処理において周知慣用されており(必要ならば,特開2006-93784号公報(以下「周知例1」という。)の図6及びその説明,特開2003-284071号公報(以下「周知例2」という。)の図15及びその説明,特開2006-99404号公報(以下「周知例3」という。)のROI領域(段落【0016】),特開2000-106661号公報(以下「周知例4」という。)の図2を参照。),単なる領域の決め方にすぎない。

ウ 表示するステップ
引用発明は,「有意なブロックを中心とする或る限られた画面領域を高解像度映像画面の中から選択し,低解像度端末装置の限られた大きさの画面に有意な情報を表示する」構成を具備するところ,「有意なブロックを中心とする或る限られた画面領域を高解像度映像画面の中から選択」するに際して,「有意ブロックの上下・左右に隣接する一定個数のブロックを連結してできる矩形領域を,表示ブロックとして選定」し,また,「想定される各種の区切り位置を用いて表示ブロックとする場合の,動き量の積算値を一定の画面数毎に仮に累積し,その各区切りの仮積算値を比較して,それが最大となるものを有意な表示ブロックとし」ている。
したがって,引用発明の「有意なブロックを中心とする或る限られた画面領域を高解像度映像画面の中から選択し,低解像度端末装置の限られた大きさの画面に有意な情報を表示する」構成と,本願発明1の「決定された顕著オブジェクト・グループ内の前記少なくとも一つの顕著なオブジェクトを前記第二のサイズのディスプレイ上で,前記決定された顕著オブジェクト・グループに関係するサイズと前記第二のサイズとに応じて,かつそのフレーム内のすべてのマクロブロックの動きベクトルに応じて表示するステップ」は,「決定された顕著オブジェクト・グループ内の前記少なくとも一つの顕著なオブジェクトを前記第二のサイズのディスプレイ上で,前記第二のサイズに応じて,かつそのフレーム内のすべてのマクロブロックの動きベクトルに応じて表示するステップ」の点で共通する。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は,以下の構成において一致する。
「 第一のサイズのビデオを前記第一のサイズより小さな第二のサイズのディスプレイ上で呈示する適応ビデオ呈示方法であって,
前記ビデオのシーンの各フレームについて少なくとも一つの顕著なオブジェクトを含む顕著オブジェクト・グループを決定するステップと,
決定された顕著オブジェクト・グループ内の前記少なくとも一つの顕著なオブジェクトを前記第二のサイズのディスプレイ上で,前記第二のサイズとに応じて,かつそのフレーム内のすべてのマクロブロックの動きベクトルに応じて表示するステップを有しており,
あるフレームについて,前記顕著オブジェクト・グループに関係するサイズは,そのフレームにおいて前記顕著オブジェクト・グループをカバーする長方形のサイズである,方法。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1は,「前記顕著オブジェクト・グループは,前記フレーム内のマクロブロックの動きベクトルの平均長さが第一の閾値未満である場合に採用される低動きモードと,前記平均長さが第一の閾値以上である場合に採用される,前記低動きモードとは異なる高動きモードとのいずれか一方のモードで,前記第二のサイズのディスプレイ上に表示され,前記少なくとも一つの顕著なオブジェクトを前記第二のサイズのディスプレイ上で表示するステップは,高動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示することを含み,低動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示する」構成を具備するのに対し,引用発明は,構成が異なる点。

(相違点2)
本願発明1の表示するステップは,「決定された顕著オブジェクト・グループ内の前記少なくとも一つの顕著なオブジェクトを前記第二のサイズのディスプレイ上で,前記決定された顕著オブジェクト・グループに関係するサイズと前記第二のサイズとに応じて,かつそのフレーム内のすべてのマクロブロックの動きベクトルに応じて表示するステップであるのに対して,引用発明は,前記下線部について,これが明らかではない点。

(5) 判断

ア 相違点1について
引用発明は,「有意なブロックを中心とする或る限られた画面領域」を表示ブロックとしているから,その表示は,視聴者が視たとき,有意ブロックが表示画面の中心において視認されるように有意ブロックの表示位置を調整して表示する態様といえる。したがって,引用発明の表示態様は,「前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示することを含」むといえる。
さらにすすんで検討すると,上記のとおり,引用発明は,「有意なブロックを中心とする或る限られた画面領域」を表示ブロックとしているから,有意なブロックは,表示ブロックの中心にある。そして,表示ブロックの中心を通って一方から他方へ有意ブロック(動き量が極大となるブロック)が動くとき,仮積算値が最大になる蓋然性が高く,しかも,「他に較べて有意な情報を含んでいる可能性が高い」有意ブロックが表示ブロックの中心を通って一方から他方へ動く表示態様とした方が,「高解像度映像情報を低解像度の端末装置で表示する際に,受信画像から有用と想定される領域を自動的に選択して,その領域のみを端末装置の限定された表示画面に表示することで,重要な情報のみを高画質で表示する」(段落【0010】)という発明が解決しようとする課題の解決に適している。
したがって,引用発明において,有意ブロックが表示ブロックの中心を通って一方から他方へ動く表示態様を採用することは,当業者が容易にできたことである。

また,シーンを単位として画像を処理することは,画像処理における常套手段にすぎない(例えば,特開2005-292691号公報(以下「周知例5」という。)の請求項1,特開2003-244628号公報(以下「周知例6」という。)の段落【0009】,【0010】及び【0022】を参照。)ところ,引用発明の「有意ブロック」は,シーンが変わると不連続になると思われる。
したがって,引用発明において,所定の期間(積算時間の周期)毎に表示ブロックの領域を決定することに替えて,シーン毎に表示ブロックの領域を決定する構成を採用することは,当業者が容易にできたことである。

さらにまた,映像が低動きであるか高動きであるかといった映像の特徴に応じて,異なる表示モードを採用することは,表示装置における周知慣用技術である(例えば,特開2004-198479号公報(以下「周知例7」という。)の【0070】?【0086】,特開2006-133384号公報(以下「周知例8」という。)の【0033】?【0038】,【0061】?【0074】,特開2005-277916号公報(以下「周知例9」という。)の【0072】から【0088】を参照。)ところ,引用発明において,例えば,画面全体に動きが全くなく,有意ブロックが検出できないか誤差レベルでしか検出できない場合には,「このようなブロックは他に較べて有意な情報を含んでいる可能性が高い」(段落【0012】)という引用発明の課題解決原理が成立しない。
したがって,引用発明の課題及び解決原理の趣旨に鑑みると,画面全体のブロックの動きベクトルの平均長さがごく小さい場合には,例えば,引用例1の段落【0004】に開示された従来の間引き処理の構成を採用し,有意な情報を含んでいる可能性が高いとはいえない領域のみが表示画面に表示されることを避けることは,当業者が当然行うべきことである。

よって,引用発明において,有意ブロックが表示ブロックの中心を通って一方から他方へ動く表示態様を採用するとともにシーン毎に表示ブロックの領域を決定する構成を採用し,また,画面全体のブロックの動きベクトルの平均長さがごく小さい場合には引用発明の表示方法を採用しないこととして,「前記顕著オブジェクト・グループは,前記フレーム内のマクロブロックの動きベクトルの平均長さが第一の閾値未満である場合に採用される低動きモードと,前記平均長さが第一の閾値以上である場合に採用される,前記低動きモードとは異なる高動きモードとのいずれか一方のモードで,前記第二のサイズのディスプレイ上に表示され,前記少なくとも一つの顕著なオブジェクトを前記第二のサイズのディスプレイ上で表示するステップは,高動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,シーン内の全フレームの重点の平均点がそのシーンの間,前記第二のサイズのディスプレイの中心点になるよう表示領域を調整して表示することを含み,低動きモードでは,前記顕著なオブジェクトを,表示領域の前記調整を行なうことなく表示する」構成とすることは,格別なことではなく,少なくとも,当業者ならば容易に想到し得たものである。

イ 相違点2について
前記(3)イのとおり,ブロックの集まりを一つの領域(顕著オブジェクト・グループ)として決定する構成とすることは,単なる領域の決め方にすぎない。また,このように選択された領域(例えば,周知例2の図15の領域)は,必ずしも表示画面の画素数の範囲に収まるとは限らないところ,引用発明は,「より広い範囲を表示したい場合には,縦横を表示画面の画素数の各2倍の大きさに設定して1/4に縮小表示」する構成を具備する。
引用発明において,決定された顕著オブジェクト・グループに関係するサイズに応じて表示することは,引用発明が予定している事項に過ぎないから,相違点2は,実質的な相違点ではない。

ウ その他
すでに述べたとおり,本件出願の図4及びその説明を参照すると,本願発明1の「少なくとも一つの顕著なオブジェクトを含む顕著オブジェクト・グループ」は,ブロックの集まりであるのに対して,引用発明の有意ブロックは,MPEG2のマクロブロック(1個)である。そこで,念のため,以下の相違点3を仮定する。

(相違点3)
本願発明1は,「前記ビデオのシーンの各フレームについて少なくとも一つの顕著なオブジェクトを含む顕著オブジェクト・グループを決定するステップ」の構成を具備するのに対し,引用発明は,MPEG2のマクロブロック(1個)である点。

(判断)
ブロックの集まりを一つの領域とすることは,前記(3)イのとおり,MPEG等の画像処理において周知慣用されているから,当業者ならば,優劣付けがたい複数の有意ブロックが比較的近くに検出された場合の処理として,周知慣用技術の構成を採用することは,単なる領域の決め方の問題にすぎないといえる。
あるいは,引用発明は,MPEG2を例示とした発明であるところ,少なくとも本件出願の優先権主張の日においては,前記周知慣用技術のように,MPEG4等において,フレームを領域毎に分けて符号化等することが行われていた。そうしてみると,引用発明の,マクロブロックに基づいて有意ブロックを選択する構成に替えて,前記周知慣用技術の領域に基づいて有意ブロックを選択する(例:ビデオのシーンの各フレームについて高画質で符号化された領域を有意ブロックとして決定する)構成とすることは,当業者が容易にできたことといえる。

また,本願発明1の効果は,引用発明及び周知慣用技術等から予想される効果の範囲内であり,少なくとも顕著なものとはいえない。

(6) 本願発明13について
引用例1の段落【0012】の記載からは,前記(2)に記載したとおり,方法としての発明が十分に把握できるところであるが,引用例1の【請求項1】や【実施例1】に記載された発明は,装置である。
しかしながら,本件出願の特許請求の範囲の【請求項13】には装置の発明(本願発明13)が記載されているから,仮に,引用例1に記載の発明として装置の発明を認定するとしても,前記(1)?(5)と同様の理由によって,本願発明13は,当業者が容易に発明できたものである。

(7) 小括
以上のとおりであるから,本件出願の請求項1及び13に係る発明は,その優先権主張の日前に日本国内または外国において頒布された引用例1に記載された発明に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 まとめ
以上のとおりであるから,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-14 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-02 
出願番号 特願2009-525901(P2009-525901)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G09G)
P 1 8・ 121- WZ (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福永 健司小川 浩史  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 樋口 信宏
中塚 直樹
発明の名称 適応的なビデオ呈示のための方法および装置  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  

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