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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1307047
審判番号 不服2014-3242  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-21 
確定日 2015-10-21 
事件の表示 特願2010-508326「過分極^(13)C-ピルビン酸塩を含むMR造影剤を用いて腫瘍のグレーディングを行うMR方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月27日国際公開,WO2008/143519,平成22年 9月 2日国内公表,特表2010-529868〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年5月16日(パリ条約による優先権主張日 平成19年5月17日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成25年3月7日付けで拒絶理由が通知され,同年9月12日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年10月17日付けで拒絶査定されたのに対し,平成26年2月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,補正前の請求項2を引用する請求項6を請求項1とし,補正前の請求項2を引用する請求項3を引用する請求項6を請求項2とし,補正前の請求項7を引用する請求項9を請求項3とし,補正前のその余の請求項を削除した上で,その請求項3について,補正前の「^(13)C-ピルビン酸塩並びにその^(13)C含有代謝産物であるアラニン、乳酸塩及び任意には重炭酸塩の信号」「前記信号及び任意には総炭素信号を用いて腫瘍の代謝プロファイルを生成する」における下線部を「乳酸塩の信号及び/又は総炭素信号」とする補正である。

2 本件補正の適否
本件補正後の請求項3に対する補正について検討するに,補正前の「前記信号」とは「^(13)C-ピルビン酸塩並びにその^(13)C含有代謝産物であるアラニン、乳酸塩及び任意には重炭酸塩の信号」(下線は当審において付与した)であるから,^(13)C-ピルビン酸塩の信号,アラニンの信号及び乳酸塩の信号ことであり,こららの信号を必須とするものである。これに対し,補正後の「乳酸塩の信号及び/又は総炭素信号」では,これらの信号が必須とされておらず,さらに「総炭素信号」のみ用いる場合は補正前には特定されていないことから,上記補正前の下線部を「乳酸塩の信号及び/又は総炭素信号」とする補正は,いわゆる限定的減縮を目的とするものには該当しない。さらに,この補正が,明りょうでない記載の釈明,誤記の訂正,請求項の削除を目的とする補正にも該当しないことは明らかであり,請求人も審判請求書において,この補正について特許法17条の2第5項に掲げるどの目的とする補正であるのか明確に説明していない。
してみれば,本件補正後の請求項3において「乳酸塩の信号及び/又は総炭素信号」とする補正事項を含む本件補正は,特許法17条の2第5項各号のいずれにも該当しない補正事項を含むといえる。

3 小括
本件補正は,上記2のとおり,特許法17条の2第5項各号のいずれにも該当しない補正事項を含むことから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本件補正は上記のとおり却下されることから,本願の請求項1ないし9に係る発明は,平成25年9月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ,そのうち請求項2を引用する請求項6に係る発明は,上記第2の1で述べたとおり,本件補正後の請求項1に係る発明である。
してみれば,本件補正前の請求項2を引用する請求項6に係る発明について検討することは,本件補正後の請求項1に係る発明について検討することと同じであることから,同発明について検討することとする。

2 本願発明
本願の請求項2を引用する請求項6に係る発明は,平成25年9月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,2及び6の,
「【請求項1】
腫瘍のグレードを決定するための磁気共鳴(MR)撮像装置の作動方法であって、
a)過分極^(13)C-ピルビン酸塩を含む造影剤が予め投与された被験体における腫瘍のMR検出を行う段階であって、^(13)C-ピルビン酸塩並びにその^(13)C含有代謝産物であるアラニン、乳酸塩及び任意には重炭酸塩の信号を検出する段階と、
b)前記信号及び任意には総炭素信号を用いて腫瘍の代謝プロファイルを生成する段階と、
c)段階b)で生成した腫瘍の代謝プロファイルを特定グレードの腫瘍の既知代謝プロファイルと比較する段階と、
d)腫瘍の前記代謝プロファイルと前記既知代謝プロファイルとの類似点及び相違点に基づいて腫瘍のグレードを決定する段階と
を含んでなる方法。
【請求項2】
段階b)において乳酸塩の信号及び/又は総炭素信号が使用される、請求項1記載の方法。」
「【請求項6】
当該方法が前立腺腫瘍のグレードを決定するための磁気共鳴(MR)撮像装置の作動方法である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。」の記載からみて,
「腫瘍のグレードを決定するための磁気共鳴(MR)撮像装置の作動方法であって、
a)過分極^(13)C-ピルビン酸塩を含む造影剤が予め投与された被験体における腫瘍のMR検出を行う段階であって、^(13)C-ピルビン酸塩並びにその^(13)C含有代謝産物であるアラニン、乳酸塩及び任意には重炭酸塩の信号を検出する段階と、
b)乳酸塩の信号及び/又は総炭素信号を用いて腫瘍の代謝プロファイルを生成する段階と、
c)段階b)で生成した腫瘍の代謝プロファイルを特定グレードの腫瘍の既知代謝プロファイルと比較する段階と、
d)腫瘍の前記代謝プロファイルと前記既知代謝プロファイルとの類似点及び相違点に基づいて腫瘍のグレードを決定する段階と
を含んでおり、当該方法が前立腺腫瘍のグレードを決定するための磁気共鳴(MR)撮像装置の作動方法である、方法。」(以下「本願発明」という。)であると認める。

2 引用例及びその記載事項
(1)本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である国際公開2006/011810号(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。日本語訳としては,国際公開2006/011810号に対応する特表2008-508023号公報を参照した。なお,引用発明の認定に特に関連する箇所の訳の部分に下線を付した。
(1-ア)
「We have now surprisingly found a method for MR tumour imaging which allows the discrimination between tumour tissue and healthy tissue in which hyperpolarised ^(13)C-pyruvate is used as an imaging agent.
Thus, the present invention provides a method for the discrimination between healthy and tumour tissue, said method comprising
(a) acquiring direct ^(13)C-MR images of ^(13)C-pyruvate and its ^(13)C-containing metabolites alanine, lactate and optionally bicarbonate from a subject pre-administered with a composition comprising hyperpolarised ^(13)C- pyruvate,
(b) optionally correcting the lactate signal for the amount of pyruvate and/or alanine to obtain a weighted lactate over pyruvate and/or lactate over alanine image,
wherein tumour tissue in said ^(13)C-images is indicated by the highest lactate signal and/or, if the correction in step (b) has been carried out, by a high weighted lactate over pyruvate and/or lactate over alanine signal.」(3頁1?16行)
(訳:発明者らは、過分極^(13)C-ピルビン酸を造影剤として用いて腫瘍組織と健常組織とを識別できるMR腫瘍イメージングの方法を見い出した。
従って、本発明は、健常組織と腫瘍組織とを識別する方法であって、当該方法が、
(a)過分極^(13)C-ピルビン酸塩を含む組成物が予め投与された被験者から、^(13)C-ピルビン酸塩と、その^(13)C-含有代謝物質であるアラニン、乳酸塩及び任意の炭酸水素塩との^(13)C-MR直接画像を得ることと、
(b)ピルビン酸塩及び/又はアラニンの量に関する乳酸塩の信号を任意に補正して、ピルビン酸塩及び/又はアラニンに対して存在比率が高い乳酸塩の画像を得ることと、を含み、
^(13)C-MR直接画像の腫瘍組織が、最も高い強度の乳酸塩の信号及び/又は、工程(b)で補正が行なわれる場合には、ピルビン酸塩及び/又はアラニンに対して存在比率が高い乳酸塩の信号によって示される方法が提供される。)

(1-イ)
「^(13)C1 -pyruvate has a T1 relaxation in human full blood at 37℃ of about 42s, however, the conversion of hyperpolarised ^(13)C-pyruvate to hyperpolarised ^(13)C-lactate, hyperpolarised ^(13)C- bicarbonate and hyperpolarised ^(13)C-alanine has been found to be fast enough to allow signal detection from the ^(13)C-pyruvate parent compound and its metabolites. The amount of alanine, bicarbonate and lactate is dependent on the metabolic status of the tissue under investigation. The MR signal intensity of hyperpolarised ^(13)C-lactate, hyperpolarised ^(13)C-bicarbonate and hyperpolarised ^(13)C-alanine is related to the amount of these compounds and the degree of polarisation left at the time of detection, hence by monitoring the conversion of hyperpolarised ^(13)C-pyruvate to hyperpolarised ^(13)C-lactate, hyperpolarised ^(13)C-bicarbonate and hyperpolarised ^(13)C-alanine it is possible to study metabolic processes in vivo in the human or non-human animal body by using non-invasive MR imaging.」(12頁9?23行)
(訳:ヒトの全血中37℃で、^(13)C1-ピルビン酸塩のT1緩和時間は約42秒であるが、過分極^(13)C-ピルビン酸塩から過分極^(13)C-乳酸塩、過分極^(13)C-炭酸水素塩及び過分極^(13)C-アラニンへの変換は速く、^(13)C-ピルビン酸塩及びその代謝産物に由来する信号の検出は十分可能である。アラニン、炭酸水素塩及び乳酸塩の量は、研究対象である組織の代謝状態に依存する。^(13)C-乳酸塩、過分極^(13)C-炭酸水素塩及び過分極^(13)C-アラニンのMR信号強度は、これらの化合物の量及び検出時における分極の残存率に関連しているため、過分極^(13)C-ピルビン酸塩の^(13)C-乳酸塩、過分極^(13)C-炭酸水素塩及び過分極^(13)C-アラニンへの変換を観測することにより、非侵襲的なMRイメージングを用いた、ヒト又はヒト以外の動物体内における生体内での代謝プロセスの検討を行うことができる。)

(1-ウ)
「In a preferred embodiment, imaging sequences are used that will make use of multi- echoes to code for the frequency information. ・・・. Since the metabolites to be detected and as such their MR frequencies are known, the approach discussed in the references above can be applied to acquire direct images of ^(13)C-pyruvate, ^(13)C-alanine and ^(13)C-lactate and preferably ^(13)C-pyruvate, ^(13)C-alanine, ^(13)C-lactate and ^(13)C-bicarbonate. This procedure makes more efficient use of the hyperpolarised ^(13)C-MR signal, giving a better signal quality compared to the classical spectroscopic imaging technique, a higher spatial resolution and faster acquisition times.」(14頁13?23行)
(訳:好ましい実施形態では、周波数をコードするために多重エコーを用いたイメージングシークエンスが用いられる。・・・。測定する代謝産物及びそのMR周波数は既知であるため、上記参考文献に記載の方法を、^(13)C-ピルビン酸塩、^(13)C-アラニン及び^(13)C-乳酸塩、好ましくは^(13)C-ピルビン酸塩、^(13)C-アラニン、^(13)C-乳酸塩及び^(13)C-炭酸水素塩の画像化に直接適用すると、古典的なスペクトル画像化技法よりも高品質な信号、空間分解能がより高い信号及び短い取り込み時間が与えられ、過分極^(13)C-MR信号をより有効に使用することができる。)

(1-エ)
「Tumour tissue is often characterised by an increased perfusion and higher metabolic activity. The process of increasing the vascular bed, angiogenesis, is induced by cells that due to their higher metabolic needs and/or their larger distance from a capillary are not able to get enough substrates that can provide the energy needed to sustain energy homeostasis. It is in this area, where cells have problems in producing enough energy a marked change in metabolic pattern is expected. Tissue with problems sustaining energy homeostasis will alter its energy metabolism which in particular results in an increased lactate production. Surprisingly, it is possible to make this change in metabolism visible using hyperpolarised ^(13)C-pyruvate within the short MR imaging time window available, i.e. using the high ^(13)C-lactate signal in the tumour area to discriminate the tumour from healthy tissue.」(14頁25?36行)
(訳:腫瘍組織は、灌流が増大し代謝活性が向上するという特徴を示すことが多い。代謝の要求が高く、かつ/又は毛細血管からより離れた細胞によって誘導される血管床の増加、血管新生という過程によっても、エネルギーの恒常性を維持するために必要とされるエネルギーを供給するに足るだけの物質の確保は不可能である。このような領域内では、細胞が十分なエネルギーを産生する点で問題が生じており、代謝パターンに顕著な変化が生じていることが期待される。問題が生じているがエネルギーの恒常性を維持している組織は、特に乳酸の産生量が増加しているという点でエネルギー代謝が変化する。驚くべきことに、過分極^(13)C-ピルビン酸塩を用いると、MRイメージングで用いることのできる短い時間窓内で、この代謝の変化を可視化でき、すなわち、腫瘍領域内で強度が高い^(13)C-乳酸塩の信号を用いて腫瘍を健常組織と識別することが可能である。)

(1-オ)
「The method according to the invention can further be used for in vivo MR tumour staging. The same metabolic images and/or metabolic weighted images as described in the preceding paragraphs may be used for this purpose with appropriate cut off categories defined dependent on tumour size and metabolic activity. 」(15頁33?37行)
(訳:本発明の方法は、生体内でのMRによる腫瘍のステージ判定のためにさらに用いられてもよい。上の段落で述べたような代謝画像及び/又は代謝比の高い存在率の画像は、腫瘍のサイズや代謝活性によって定義された、適切に区分された分類を用いれば、この目的に用いることができる。)

(1-カ)
「In a preferred embodiment, the method according to the invention is used for in vivo MR tumour imaging, tumour therapy monitoring and/or tumour staging of brain tumours, breast tumours, colon tumours, lung tumours, kidney tumours, head and neck tumours, muscle tumours, ovarian tumours, gastric tumours, pancreatic tumours, esophageal tumours and prostate tumours. It has further been found that the method according to the invention is especially useful for in vivo MR prostate tumour imaging, i.e. prostate tumour diagnosis and/or prostate tumour staging and/or prostate tumour therapy monitoring.
」(16頁15?22行)
(訳:好ましい実施形態では、本発明の方法は、脳腫瘍、乳ガン、大腸/結腸直腸ガン、肺ガン、腎ガン、頭部及び頚部腫瘍、筋腫、胃ガン、食道ガン、卵巣腫瘍、膵臓ガン及び前立腺ガンに対する、生体内におけるMR腫瘍イメージング、腫瘍の治療効果のモニタリング及び腫瘍のステージの判定に使用できる。さらに、本発明の方法は、特に生体内における前立腺ガンのMRイメージング、すなわち、生体内での前立腺ガンの診断及び/又は前立腺ガンのステージの判定及び/又は前立腺ガンの治療効果のモニタリングのためのMR造影剤として特に有用であることが見出された。)

してみれば,上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「前立腺ガンのステージの判定のためのMR腫瘍イメージングの方法において,
過分極^(13)C-ピルビン酸塩を含む組成物が予め投与された被験者から,^(13)C-ピルビン酸塩と,その^(13)C-含有代謝物質であるアラニン,乳酸塩及び任意の炭酸水素塩との信号を検出し,^(13)C-MR直接画像を得ること,を含み,
^(13)C-MR直接画像の腫瘍組織が,最も高い強度の乳酸塩の信号によって示される方法。」(以下「引用発明」という。)

(2)本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2005-319305号公報(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記においては,引用発明の認定に特に関連する箇所に下線を付与した。
(2-ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)データ収集技法に関し、また具体的にはこのMRS技法を使用した神経変性疾患の検出及び監視に関する。」
(2-イ)「【0011】
図1の工程14では、疾患群からと正常対照群からとでスペクトル・データが比較される。スペクトル・データを比較するための例示的な工程については図2を参照しながらより詳細に説明することにする。一例では本技法の態様を使用することによって、神経変性疾患を有する対象から収集されたデータには、正常かつ年齢一致の対照からのデータと比較するとかなりの差が観測された。疾患群と正常対照群の間で比較したスペクトル・データに基づいて、例えば代表的な代謝産物濃度などの特性データが、特定の神経変性疾患の指標として、またさらには疾患段階の指標として選択される。
【0012】
引き続いて、神経変性疾患を有すると疑われる(例えば、アルツハイマー病の疑いの)追加的な患者が選択されることがある。当業者であれば、上述した工程12及び14は、特性データを取得するために1回実施するだけでよいことを十分に理解されよう。工程16では、被疑対象(神経変性疾患患者であると疑われるもの)についてスペクトル・データが収集されることがある。このスペクトル・データは、同じPRESS-Jシーケンスを用いて収集されることがある。この実現形態では、図2で説明するようなデータ定量化技法が使用されると共に、工程18において、被疑対象からのスペクトル・データが特性データと比較される。工程20では、特性データ(代表的な関心対象代謝産物の代謝産物濃度)との比較に基づいて診断が実施される。
【0013】
本技法の態様は、工程22に示すように神経変性疾患が検出された場合にスペクトル・データを監視する工程を含む。ある人が治療を受けているケースでは、本技法の態様は工程24に示すように、治療の有効性(例えば、ある具体的な薬剤や患者に対して施されるその他の任意の別の治療によるその疾患に対する効果)を判定するために使用されることがある。したがって、病気の展開(すなわち、進行と抑制のいずれか)は本技法の態様を用いることによって有効に分析することができる。」

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「過分極^(13)C-ピルビン酸塩を含む組成物が予め投与された被験者」は,本願発明の「過分極^(13)C-ピルビン酸塩を含む造影剤が予め投与された被験体」に相当する。

イ 引用発明の「MR腫瘍イメージング」を行うことは,本願発明の「腫瘍のMR検出を行う段階」に相当し,引用発明の「^(13)C-ピルビン酸塩と,その^(13)C-含有代謝物質であるアラニン,乳酸塩及び任意の炭酸水素塩との信号を検出」することは,炭酸水素塩は重炭酸塩であるから,本願発明の「^(13)C-ピルビン酸塩並びにその^(13)C含有代謝産物であるアラニン,乳酸塩及び任意には重炭酸塩の信号を検出する段階」に相当する。

ウ 本願発明の「腫瘍の代謝プロファイル」について,本願発明の詳細な説明に,
「本発明の文脈中における『腫瘍の代謝プロファイル』という用語は、^(13)C-ピルビン酸塩及び/又はその^(13)C含有代謝産物であるアラニン及び/又はその^(13)C含有代謝産物である乳酸塩及び任意にはその^(13)C含有代謝産物である重炭酸塩の信号の特有なパターンを意味する。」「多重MR検出の信号パターン(即ち、スペクトル又は画像)」(【0035】)と記載されていることから,「腫瘍の代謝プロファイル」とは,多重MR検出による画像といえる。
一方,引用発明の「^(13)C-MR直接画像」は,上記摘記(1-ウ)に記載されているとおり,多重エコーを用いたイメージングシークエンスすなわち多重MRにおける信号検出による画像である。
してみれば,引用発明の「腫瘍組織」の「^(13)C-MR直接画像」を「乳酸塩の信号」「によって示される」ことと,本願発明の「乳酸塩の信号及び/又は総炭素信号を用いて腫瘍の代謝プロファイルを生成する段階」とは,「乳酸塩の信号を用いて腫瘍の代謝プロファイルを生成する段階」の点において共通する。

エ 本願発明の「腫瘍のグレード」とは,本願発明の詳細な説明に「本発明の文脈中における『腫瘍のグレード』という用語は、前記腫瘍の攻撃性及び/又は悪性度の認知される程度をいう。」と記載されており,一方,引用発明の「前立腺ガン」すなわち腫瘍の「ステージの判定」について,上記摘記(1-オ)に「腫瘍のサイズや代謝活性によって定義された、適切に区分された分類」と記載されている。
してみれば,引用発明の「前立腺ガンのステージの判定」することは,本願発明の「腫瘍のグレードを決定する」こと及び「 前立腺腫瘍のグレードを決定する」ことに相当する。

オ 引用発明の「MR腫瘍イメージングの方法」は,磁気共鳴(MR)撮像装置を作動させて行う方法であるから,本願発明の「磁気共鳴(MR)撮像装置の作動方法」に相当する。

してみれば,本願発明と引用発明とは,
(一致点)
「腫瘍のグレードを決定するための磁気共鳴(MR)撮像装置の作動方法であって,
a)過分極^(13)C-ピルビン酸塩を含む造影剤が予め投与された被験体における腫瘍のMR検出を行う段階であって,^(13)C-ピルビン酸塩並びにその^(13)C含有代謝産物であるアラニン,乳酸塩及び任意には重炭酸塩の信号を検出する段階と,
b)乳酸塩の信号を用いて腫瘍の代謝プロファイルを生成する段階と,
を含んでおり,当該方法が前立腺腫瘍のグレードを決定するための磁気共鳴(MR)撮像装置の作動方法である,方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
腫瘍のグレードを決定するために,段階b)で生成した腫瘍の代謝プロファイルに対して,本願発明では,「c)段階b)で生成した腫瘍の代謝プロファイルを特定グレードの腫瘍の既知代謝プロファイルと比較する段階と,d)腫瘍の前記代謝プロファイルと前記既知代謝プロファイルとの類似点及び相違点に基づいて腫瘍のグレードを決定する段階と」をさらに含んでいるのに対し,引用発明では,そのような手順を実行するか否かが不明である点。

(2)当審の判断
上記引用例2の摘記事項(2-ア)及び(2-イ)には,被疑対象からのスペクトル・データ(本願発明の「代謝プロファイル」に対応)を,疾患段階の指標となる特性データ(本願発明の「特定グレードの既知代謝プロファイル」に対応)と比較して,病気の展開(すなわち進行)を分析する技術が記載されており,疾患段階の指標となる特性データと比較して病気の展開(すなわち進行)を分析することは,疾患のグレードを決定しているといえることから,引用例2には,代謝プロファイルを特定グレードの既知代謝プロファイルと比較して,疾患のグレードを決定する技術が記載されているといえる。
一方,引用発明の「乳酸塩の信号」について,引用例1の上記摘記(1-エ)には,
「腫瘍組織は、灌流が増大し代謝活性が向上するという特徴を示すことが多い。・・・このような領域内では、細胞が十分なエネルギーを産生する点で問題が生じており、代謝パターンに顕著な変化が生じていることが期待される。問題が生じているがエネルギーの恒常性を維持している組織は、特に乳酸の産生量が増加しているという点でエネルギー代謝が変化する。・・・すなわち、腫瘍領域内で強度が高い^(13)C-乳酸塩の信号」と記載されており,乳酸塩の信号により,腫瘍組織の代謝パターンすなわち腫瘍組織のステージ判定ができることが示されている。
そうすると,引用発明において,「乳酸塩の信号」「によって示される」「腫瘍組織」の「^(13)C-MR直接画像」(本願発明の「腫瘍の代謝プロファイル」に相当)の状態によって腫瘍のステージ判定を行っていることになるから,そのステージ判定を行う際に,上記引用例2記載の技術に鑑みて,乳酸塩の信号によって示される特定グレードの既知の腫瘍組織の^(13)C-MR直接画画像(本願発明の「特定グレードの既知代謝プロファイル」)と比較して,腫瘍のステージ判定すなわちグレードを決定することは当業者が容易になし得ることであり,その際,比較を類似点及び相違点に基づいて行うことは通常の比較手法である。
したがって,引用発明において,上記相違点となるc)段階及びd)段階となる段階により前立腺ガンのステージの判定を行うことは,当業者が容易になし得たことといわざるを得ない。

(3)請求人の主張について
請求人は,審判請求書の請求の理由で,
「しかしながら、引用文献1には、前立腺腫瘍のグレードと、乳酸塩の信号及び総炭素信号(ピルビン酸塩、乳酸塩、アラニン及び任意には重炭酸塩の信号の和)との間に、前立腺腫瘍のグレーディングが行えるほどの強い相関関係が存在することを示唆する記載を見出すことはできない。」(当審付記:引用文献1は上記引用例1である。)と主張している。
まず,本願発明は「乳酸塩の信号及び/又は総炭素信号を用いて腫瘍の代謝プロファイルを生成する」(下線は当審において付与した。)と特定されており,上記請求人の主張における「乳酸塩の信号及び総炭素信号」との記載は本願発明の記載に基づかないものである。仮に,上記請求の理由の記載が「前立腺腫瘍のグレードと、乳酸塩の信号との間に・・・」と解しても,上記引用例1の摘記(1-エ)には,乳酸塩信号と腫瘍の状態とは強い相関関係が存在することが示されているといえることから,上記主張は当を得たものではない。
なお,上記記載のとおり「前立腺腫瘍のグレードと、乳酸塩の信号及び総炭素信号(ピルビン酸塩、乳酸塩、アラニン及び任意には重炭酸塩の信号の和)との間・・・」としても,本願に添付している図8は「正常組織、初期腫瘍及び後期腫瘍の最良の分離は、過分極乳酸塩を総過分極炭素に対してプロットすることで得られた(図8)。」というものであり,過分極乳酸塩を総過分極炭素に対してプロットしたものから,「前立腺腫瘍のグレード」と、「乳酸塩の信号及び総炭素信号(ピルビン酸塩、乳酸塩、アラニン及び任意には重炭酸塩の信号の和)」との間に,どのような関係があるといえるのか明確でもない。

(4)まとめ
よって,本願発明は,引用発明及び引用例2の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
なお,上記で述べたとおり,上記却下とされた本件補正後の請求項1に係る発明も特許を受けることができないものであるから,本件補正を却下しないとしても,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2015-05-22 
結審通知日 2015-05-26 
審決日 2015-06-09 
出願番号 特願2010-508326(P2010-508326)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 57- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 姫島 あや乃宮澤 浩  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤田 年彦
三崎 仁
発明の名称 過分極13C-ピルビン酸塩を含むMR造影剤を用いて腫瘍のグレーディングを行うMR方法  
代理人 荒川 聡志  
代理人 荒川 聡志  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  
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