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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A47J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47J
管理番号 1307128
審判番号 不服2014-4959  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-14 
確定日 2015-10-30 
事件の表示 特願2010-515421号「キッチンスライサー」拒絶査定不服審判事件〔2009年 1月15日国際公開、WO2009/007125、平成22年10月14日国内公表、特表2010-532695号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年7月10日 (パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年7月10日、ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、平成25年10月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年3月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年3月14日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年3月14日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1に、
「果物、野菜などの品物を切断するためのキッチンスライサー(10)であって、
断片を前記品物から切り取るために刃(14)が固定された基体(12)と、
前記刃(14)に対してオフセットされ、その上で前記切断される品物を前後に移動させて、前記切断される品物を前記刃(14)に対して供給することができるガイド面(16)であって、前記刃(14)と当該ガイド面(16)との間のオフセットが、切断されることになる前記断片の切断厚みを決定するガイド面(16)と、
その上面が前記ガイド面(16)を形成し、全体を移動させて前記基体(12)上の異なる位置に固定することができ、それにより異なる切断厚みを実現する挿入部材(18)と、
前記挿入部材(18)を前記基体(12)に対して固定する固定手段(19)とを備え、
前記固定手段(19)は、前記基体(12)および前記挿入部材(18)と別体に製造された少なくとも1つの部品(24;32;62)を有しており、その部品が前記挿入部材(18)を解放しかつ前記挿入部材(18)を異なる切断厚みを実現する位置に固定するために前記基体(12)に対して移動することができるように取り付けられており、
前記別体に製造された部品(24;32;62)はレバー(24;40;62)を備え、前記レバー(24;40;62)は、前記挿入部材(18)を固定し及び解放するために、前記ガイド面(16)に垂直に配置された軸(81)を中心に回転し若しくはヒンジ(43)を中心に偏向できるように取り付けられている、キッチンスライサー。」
とあるのを、
「果物、野菜などの品物を切断するためのキッチンスライサー(10)であって、
断片を前記品物から切り取るために刃(14)が固定された基体(12)と、
前記刃(14)に対してオフセットされ、その上で前記切断される品物を前後に移動させて、前記切断される品物を前記刃(14)に対して供給することができるガイド面(16)であって、前記刃(14)と当該ガイド面(16)との間のオフセットが、切断されることになる前記断片の切断厚みを決定するガイド面(16)と、
その上面が前記ガイド面(16)を形成し、全体を移動させて前記基体(12)上の異なる位置に固定することができ、それにより異なる切断厚みを実現する挿入部材(18)と、
前記挿入部材(18)を前記基体(12)に対して固定する固定手段(19)とを備え、
前記固定手段(19)は、前記基体(12)および前記挿入部材(18)と別体に製造された少なくとも1つの部品を有しており、その部品が前記挿入部材(18)を解放しかつ前記挿入部材(18)を異なる切断厚みを実現する位置に固定するために前記基体(12)に対して移動することができるように取り付けられており、
前記別体に製造された部品はレバー(24;40;62)を備え、前記レバー(24;40;62)は、前記挿入部材(18)を固定し及び解放するために、前記ガイド面(16)に垂直に配置された軸(81)を中心に回転し若しくはヒンジ(43)を中心に偏向できるように取り付けられており、
前記刃(14)の方向への前記挿入部材(18)の変位が、同時に、前記挿入部材(18)をそれに対して垂直な方向にオフセットさせるよう前記挿入部材(18)の摺動要素(54、56)が摺動する傾斜面ガイド(50、52)が設けられている、キッチンスライサー。」
とする補正を含むものである。

2 補正の目的
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明の発明特定事項である「全体を移動させて前記基体(12)上の異なる位置に固定することができ、それにより異なる切断厚みを実現する挿入部材(18)」について、「挿入部材(18)」を「移動」させるための構成として、補正前の請求項1を引用する補正前の請求項22に記載された発明特定事項である「前記刃(14)の方向への前記挿入部材(18)の変位が、同時に、前記挿入部材(18)をそれに対して垂直な方向にオフセットさせるよう前記挿入部材(18)の摺動要素(54、56)が摺動する傾斜面ガイド(50、52)が設けられている」ことの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 独立特許要件
3-1 本願補正発明
本願補正発明は、本件補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、平成26年3月14日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記「第2 1 補正の内容」の補正後の請求項1参照。)により特定されたとおりのものと認める。

3-2 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2003-135294号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】野菜、果物等の切断可能な材料を切断する為の台所用器具(10; 40; 60; 80;150)であって、
本体部(12; 42; 81; 152; 152'; 210)と、
その上を切断可能な材料が前後に移動することができるガイド面(20; 194)と、
切断の為のブレード(14; 86; 160)であって、ガイド面(20; 194)上をガイド方向(36)にあるブレード(14; 86; 160)に向かって移動させられる切断可能な材料から一片を切り離すようにガイド面(20; 194)に対して偏位して配置され、ブレード(14; 86; 160)とガイド面(20; 194)との間の偏位が切断厚さ(98)を決定するブレード(14; 86; 160)と、切断厚さを変更する為の交換可能なインサート(24; 48; 62; 88; 190)とを具備し、
前記インサート(24; 48; 62; 88; 190)は、挿入状態において、インサート全体が本体部(12; 42; 81; 152; 152'; 210)上を移動できるように装着され、切断厚さ(98)を変更する為に本体部(12; 42; 81; 152; 152'; 210)上の異なる位置に固定できることを特徴とする台所用器具。」(下線は当審で付与。以下、同様。)

(1b)「【請求項2】請求項1に記載の台所用器具において、前記インサート(24; 48; 88; 190)は、挿入状態において、ガイド方向(36)に略平行に変位できるように装着され、切断厚さを変更する為に本体部(12; 42; 81; 152; 152'; 210)上の異なる平行移動位置に固定できることを特徴とする台所用器具。)」

(1c)「【請求項3】請求項2に記載の台所用器具において、本体部(81; 152; 152'; 210)とインサート(88; 190)間の平行ガイド(90; 130)が、インサート(88; 190)の第1方向(36)の変位が必ず第1方向に垂直な方向の移動を生じるように配置された少なくとも二つの傾斜ガイド(92, 102; 132, 134; 166, 168, 170, 200)を有することを特徴とする台所用器具。」

(1d)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、野菜や果物等の切断可能な材料を切断する為の台所用器具であって、本体部と、その上を切断可能な材料が前後移動することができるガイド面と、切断の為のブレードで、ガイド面上をガイド方向にブレードに向かって移動させられる切断可能な材料から一片を切り離すようにガイド面に対して偏位(オフセット)して配置され、ブレードとガイド面間の偏位が切断厚さを決定するブレードと、切断厚さを変更する為の交換可能なインサートとを具備する台所用器具に関する。」

(1e)「【0002】
【関連技術の説明】この種の台所用器具は、例えばDE 298 21 132 U1、EP 306 017、DE 89 09 068U1等の公報により知られている。このような台所用器具類は一般に、キッチンスライサとも称される。例えば胡瓜を切断する場合、一般にスライサをボールに架け渡すように保持し、胡瓜を前後に移動させることにより次々とスライス片を切断する。スライス片はブレードとガイド面との間のスリットから落下し、ボール内に溜る。」

(1f)「【0041】図4及び5において、本発明による台所用器具の好適な実施形態を参照番号80で示す。台所用器具80は、基本的設計においては、図1の台所用器具10と一致する。従って、同一部分は同じ参照番号で示し、台所用器具10との相違点だけを説明する。台所用器具80は、二本の長手ウェブ82及び、これら長手ウェブ82を連結する横方向支持体84を有する本体部81を有する。
【0042】横方向支持体84の上面は、ランアウト面22を形成する。横方向支持体84のガイド面20側の縁部には、V字形のブレード86が一体形成される。V字形ブレードは、二枚のブレード片を有し、このブレード片はそれぞれ、一方の横方向支持体84から長手軸線18に対して約10°から70°、特に約15°から30°の角度で延びる。つまり、これらのブレード片は両者の間に、30°から100°、好ましくは30°から60°の範囲の角度を形成する。」

(1g)「【0044】その上面がガイド面20として機能するインサート88は、このように形成された開口部に挿入することができる。インサート88は全体としては平板状であり、前部が、つまりV字形ブレード86に向かって、同様に略V字形になっている。インサート88の先端部は、平坦にすることも可能である。挿入状態において、インサート88は、対向する長手ウェブ82に設けられた二本の平行ガイド90を介しアウトレット面22(或はV字形ブレード86)と略平行に変位可能に装着される。
【0045】この方法で得られる平行偏位は、図5において概略的に矢印91により示される。平行ガイド90はそれぞれ、長手方向に間隔をおいて設けられた二つのガイド溝100を有する。各ガイド溝100は、略垂直状の溝インレット部93と溝傾斜部92を有する。溝傾斜部92は、溝インレット部93の下端に隣接し、ガイド面20と共に10°から50°の範囲、好ましくは15°から30°の範囲の角度94を形成する。
【0046】インサート88の側縁にはそれぞれ、二本のガイドピン96が設けられる。これらのガイドピンは、長手方向に間隔をおいて設けられ、その外径がガイド溝100の幅と適合するようになっている。インサート88を本体部81に嵌め込むには、上方に開口したガイド溝100内にガイドピン96を上方から挿入し、溝インレット部93の底まで下げる。この状態において、インサート88はブレード86に対する最大偏位を有する。
【0047】この状態を起点として、それぞれ溝傾斜部92に沿って変位するガイドピン96を介して、インサート88を平行に移動させることができる。この溝傾斜部92の為、インサートの長手軸線18の方向又はガイド方向36の変位は必ず、それに対する垂直方向、即ち図5の上方向の移動を生じる。この方法により、インサート88とブレード86との間の偏位、つまり結果的には切断厚さが減少する。」

(1h)「【0051】固定手段108は、インサート88の後方側部において長手方向に間隔をおいて設けられる多数の溝110と、長手ウェブ82の一方に設けられた弾性変形可能なキャッチ112とを含む。応力を加えられていない状態において、キャッチ112はこれらの溝110の一つに係合することで、インサート88を本体部81に対する長手方向の位置に固定し、図5に概略して示される切断厚さ98を固定する。
【0052】切断高を調整するには、図4の矢印114で概略して示すように、キャッチ112を外側にたわませて、インサート88を解放し、インサートが長手方向に自由に移動できるようにする。適切な切断厚さに設定されると同時にキャッチ112を再び解放すると、キャッチは溝110の一つにはまり、インサート88は本体部81に固定される。係合による固定が可能なのは、ガイドピン96が溝傾斜部92内に位置する時に限られる。」

(1i)図4には、長手ウェブ(82)の一方に設けられたキャッチ(112)が矢印114で示されるように変形可能な片持ち部材として構成されていることが図示されている。

上記記載事項(1a)?(1h)、図示内容(1i)及び図面を総合し、請求項3に記載の発明に着目して整理すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「野菜、果物等の切断可能な材料を切断する為の台所用具(80)であって、
二本の長手ウェブ(82)及び、これら長手ウェブ(82)を連結する横方向支持体(84)を有する本体部(81)と、
その上を切断可能な材料が前後に移動することができるガイド面(20)と、
切断の為のブレード(86)であって、ガイド面(20)上をガイド方向(36)にあるブレード(86)に向かって移動させられる切断可能な材料から一片を切り離すようにガイド面(20)に対して偏位して配置され、ブレード(86)とガイド面(20)との間の偏位が切断厚さ(98)を決定する、横方向支持体(84)のガイド面(20)側の縁部に一体形成されたV字形のブレード(86)と、
切断厚さ(98)を変更する為の交換可能なインサート(88)と、
インサート(88)の後方側部において長手方向に間隔をおいて設けられる多数の溝(110)と、長手ウェブ(82)の一方に設けられた弾性変形可能な片持ち部材であるキャッチ(112)とを含む固定手段(108)と、
を具備し、
前記インサート(88)は、挿入状態において、ガイド方向(36)に略平行に変位できるように装着され、切断厚さを変更する為に本体部(81)上の異なる平行移動位置に固定でき、
切断高を調整するには、片持ち部材であるキャッチ(112)を外側にたわませて、インサート(88)を解放し、インサート(88)が長手方向に自由に移動できるようにし、適切な切断厚さ(98)に設定されると同時にキャッチ(112)を再び解放すると、キャッチ(112)は溝(110)の一つにはまり、インサート(88)は本体部(81)に固定され、
インサート(88)の側縁にはそれぞれ、二本のガイドピン(96)が設けられ、それぞれ溝傾斜部(92)に沿って変位するガイドピン(96)を介して、インサート(88)を平行に移動させ、この溝傾斜部(92)の為、インサートの長手軸線(18)の方向又はガイド方向(36)の変位は必ず、それに対する垂直方向の移動を生じる、台所用具。」

3-3 対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、後者の「材料」、「二本の長手ウェブ(82)及び、これら長手ウェブ(82)を連結する横方向支持体(84)を有する本体部(81)」、「ブレード(86)」、「偏位」、「切断厚さ(98)」及び「切断高」、「インサート(88)」、「ガイドピン(96)」並びに「溝傾斜部(92)」は、それぞれ前者の「品物」、「基体(12)」、「刃(14)」、「オフセット」、「切断厚み」、「挿入部材(18)」、「摺動要素(54、56)」及び「傾斜面ガイド(50、52)」に相当する。
後者の「野菜、果物等の切断可能な材料を切断する為の台所用具(80)」は、摘示(1e)に「このような台所用器具類は一般に、キッチンスライサとも称される。」と記載されていることから、前者の「果物、野菜などの品物を切断するためのキッチンスライサー(10)」に相当する。
後者の「その上を切断可能な材料が前後に移動することができるガイド面(20)」は、「切断可能な材料」が「ガイド面(20)上をガイド方向(36)にあるブレード(86)に向かって移動させられる」から、前者の「その上面が前記ガイド面(16)を形成し」、「その上で前記切断される品物を前後に移動させて、前記切断される品物を前記刃(14)に対して供給することができるガイド面(16)」に相当する。
後者の「切断可能な材料から一片を切り離す」、「切断の為のブレード(86)」は、前者の「断片を前記品物から切り取るため」の「刃(14)」に相当する。
後者の「V字形のブレード(86)」が「横方向支持体(84)のガイド面(20)側の縁部に一体形成され」ていることは、前者の「基体(12)」に「刃(14)が固定され」ていることに相当する。
後者の「ブレード(86)」が「ガイド面(20)に対して偏位して配置され」ていることは、前者の「ガイド面(16)」が「前記刃(14)に対してオフセットされ」ていることに相当する。
後者の「ブレード(86)とガイド面(20)との間の偏位が切断厚さ(98)を決定する」ことは、切断させる断片の切断厚さを決定することが明らかであるから、前者の「前記刃(14)と当該ガイド面(16)との間のオフセットが、切断されることになる前記断片の切断厚みを決定する」ことに相当する。
後者の「切断厚さを変更する為の交換可能なインサート(88)」は、「挿入状態において、ガイド方向(36)に略平行に変位できるように装着され、切断厚さを変更する為に本体部(81)上の異なる平行移動位置に固定でき」、その際、その全体が移動するので、前者の「全体を移動させて前記基体(12)上の異なる位置に固定することができ、それにより異なる切断厚みを実現する挿入部材(18)」に相当する。
後者の「インサート(88)の後方側部において長手方向に間隔をおいて設けられる多数の溝(110)と、長手ウェブ(82)の一方に設けられた弾性変形可能な片持ち部材であるキャッチ(112)とを含む固定手段(108)」は、「キャッチ(112)」が「長手ウェブ(82)」を有する「本体部(81)」に設けられた1つの部品をなしているといえ、また、「切断高を調整するには、片持ち部材であるキャッチ(112)を外側にたわませて、インサート(88)を解放し、インサート(88)が長手方向に自由に移動できるようにし、適切な切断厚さ(98)に設定されると同時にキャッチ(112)を再び解放すると、キャッチ(112)は溝(110)の一つにはまり、インサート(88)は本体部(81)に固定」されているので、前者の「前記挿入部材(18)を前記基体(12)に対して固定する固定手段(19)」に相当すると共に、「前記固定手段(19)は、前記基体(12)および前記挿入部材(18)と別体に製造された少なくとも1つの部品を有しており、その部品が前記挿入部材(18)を解放しかつ前記挿入部材(18)を異なる切断厚みを実現する位置に固定するために前記基体(12)に対して移動することができるように取り付けられて」いることと、「前記固定手段は、少なくとも1つの部品を有しており、その部品が前記挿入部材を解放しかつ前記挿入部材を異なる切断厚みを実現する位置に固定するために前記基体に対して移動することができるように取り付けられて」いるという限りにおいて、一致する。
また、後者の「片持ち部材であるキャッチ(112)を外側にたわませて、インサート(88)を解放し、インサート(88)が長手方向に自由に移動できるようにし、適切な切断厚さに設定されると同時にキャッチ(112)を再び解放すると、キャッチは溝(110)の一つにはまり、インサート(88)は本体部(81)に固定される」ことは、前者の「前記別体に製造された部品はレバー(24;40;62)を備え、前記レバー(24;40;62)は、前記挿入部材(18)を固定し及び解放するために、前記ガイド面(16)に垂直に配置された軸(81)を中心に回転し若しくはヒンジ(43)を中心に偏向できるように取り付けられて」いることと、「部品は、前記挿入部材を固定し及び解放するために、偏向できるように取り付けられて」いる限りにおいて、一致する。
後者の「インサート(88)の側縁にはそれぞれ、二本のガイドピン(96)が設けられ、それぞれ溝傾斜部(92)に沿って変位するガイドピン(96)を介して、インサート(88)を平行に移動させ、この溝傾斜部(92)の為、インサートの長手軸線(18)の方向又はガイド方向(36)の変位は必ず、それに対する垂直方向の移動を生じる」ことは、インサート(88)を平行に移動する際、同時に、溝傾斜部(92)に沿ってガイドピン(96)が摺動して変位することが明らかだから、前者の「前記刃(14)の方向への前記挿入部材(18)の変位が、同時に、前記挿入部材(18)をそれに対して垂直な方向にオフセットさせるよう前記挿入部材(18)の摺動要素(54、56)が摺動する傾斜面ガイド(50、52)が設けられている」ことに相当する。

したがって、本願補正発明は、引用発明と次の点で一致する。

(一致点)
「果物、野菜などの品物を切断するためのキッチンスライサーであって、
断片を前記品物から切り取るために刃が固定された基体と、
前記刃に対してオフセットされ、その上で前記切断される品物を前後に移動させて、前記切断される品物を前記刃に対して供給することができるガイド面であって、前記刃と当該ガイド面との間のオフセットが、切断されることになる前記断片の切断厚みを決定するガイド面と、
その上面が前記ガイド面を形成し、全体を移動させて前記基体上の異なる位置に固定することができ、それにより異なる切断厚みを実現する挿入部材と、
前記挿入部材を前記基体に対して固定する固定手段とを備え、
前記固定手段は、少なくとも1つの部品を有しており、その部品が前記挿入部材を解放しかつ前記挿入部材を異なる切断厚みを実現する位置に固定するために前記基体に対して移動することができるように取り付けられており、
前記部品は、前記挿入部材を固定し及び解放するために、偏向できるように取り付けられており、
前記刃の方向への前記挿入部材の変位が、同時に、前記挿入部材をそれに対して垂直な方向にオフセットさせるよう前記挿入部材の摺動要素が摺動する傾斜面ガイドが設けられている、キッチンスライサー。」

そして、本願補正発明は、引用発明と、次の点で相違する。

(相違点)
挿入部材を基体に対して固定する固定手段の少なくとも1つの部品であって、挿入部材を固定し及び解放するために偏向できるように取り付けられた部品について、前者は、基体(12)および挿入部材(18)と別体に製造されたレバー(24;40;62)を備え、前記レバー(24;40;62)は、ガイド面(16)に垂直に配置された軸(81)を中心に回転し若しくはヒンジ(43)を中心に取り付けられているのに対して、後者は、そのような特定がなされていない点。

そこで、上記相違点について検討する。

(相違点の判断)
一般に固定手段として、一の部材を他の部材に対して相対的に移動させて、前記一の部材を前記他の部材の異なる位置に固定する際に用いる手段として、前記各部材と別体に製造されたレバーを前記一の部材を固定し及び解放するために、軸を中心に回転できるように前記他の部材に取り付けられた構造は、本願優先日前周知の技術である(例えば、原査定の拒絶理由において示された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開昭62-148687号公報20図?23図参照、特開平6-62664号公報図10、実願昭55-69999号(実開昭56-171712号)のマイクロフィルム3図等参照。以下「周知技術」という。)。
そして、引用発明の「インサート」及び「本体部」は、それぞれ、上記周知技術における一の部材及び他の部材に相当するもので、引用発明は、インサートを本体部に対して相対的に移動させて固定するものであるので、周知技術が固定対象とする一の部材及び他の部材の動作と共通するものである。
さらに、引用発明のキャッチの片持ち部分が、実質的にヒンジ(軸)の機能を果たしていることから、キャッチを外側にたわませてインサートを解放するキャッチは、軸を中心に回転できるレバー様形状をなしているといえ、上記周知技術が、一の部材を他の部材の異なる位置に固定し及び解放するために、レバーを軸を中心に回転できるように他の部材に取り付けていることとも共通するものである。
そうすると、引用発明の「インサート」及び「本体部」の相対的な位置を固定する手段として、キャッチに代えて上記周知技術を採用することには動機付けがあるといえる。
また、引用発明に周知技術を採用することにより、当該レバーは、本体部およびインサートと別体に製造された部品となるといえ、また、レバーの回転軸がガイド面に垂直に配置された軸を中心に回転するように配置したものとなることも、インサート(88)の後方側部において長手方向に間隔をおいて設けられる多数の溝(110)と、長手ウェブ(82)の一方に設けられた弾性変形可能な片持ち部材であるキャッチ(112)との位置関係(上記記載事項(1h))及びキャッチ(112)の移動可能な方向(上記記載事項(1i))から明らかである。
そうすると、引用発明において、固定手段として、上記周知技術を適用して、上記相違点に係る本願補正発明のようになすことは、当業者が容易になし得たことである。
そして、上記相違点に係る本願補正発明の特定事項を採用することによる格別な効果も認められない。

したがって,本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、原査定に示した引用文献について、「引用文献2?6は、レバーによる位置調節が周知であることを示す文献であるが、本願発明と技術分野が異なり、キッチンスライサーにおいて、本願発明の目的である「切断厚みの調節操作の簡略化」(本願明細書の[0008]参照)を考えるときに、これらの引用文献2?6は、引用文献1と組み合わされるべき文献とは考え難い。また、仮に組み合わせたとしても、組み合わされた引用文献1?6は本願発明の構造を示唆するものではない。」(審判請求書5ページ9行?15行)と主張しているが、上記のとおり、周知技術として認定した技術は、「一の部材を他の部材に対して相対的に移動させて、前記一の部材を前記他の部材の異なる位置に固定する際に用いる手段として、前記各部材と別体に製造されたレバーを前記一の部材を固定し及び解放するために、軸を中心に回転できるように前記他の部材に取り付けられた構造」であって、当該周知技術が適用されている各種装置を前提とするものではなく、また、回転軸を有するレバーによる操作が調節操作を簡略化することも、回転軸を有するレバーが内在している当然の効果をいうものであるから、請求人の上記主張は採用できない。

3-4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年3月14日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年4月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記「第2 1 補正の内容」の補正前の請求項1参照。)により特定されるとおりのものと認める。

2 引用例
原査定の拒絶理由に引用された引用例、その記載事項及び引用発明は、前記「第2 3 3-2 引用例の記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、「挿入部材(18)」を「移動」させるための構成として、「前記刃(14)の方向への前記挿入部材(18)の変位が、同時に、前記挿入部材(18)をそれに対して垂直な方向にオフセットさせるよう前記挿入部材(18)の摺動要素(54、56)が摺動する傾斜面ガイド(50、52)が設けられている」ことの限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含むものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3 3-3 対比・判断」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-01 
結審通知日 2015-06-04 
審決日 2015-06-16 
出願番号 特願2010-515421(P2010-515421)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47J)
P 1 8・ 575- Z (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 礒部 賢  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 小野 孝朗
山崎 勝司
発明の名称 キッチンスライサー  
代理人 稲岡 耕作  
代理人 川崎 実夫  
代理人 丸山 温道  

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