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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1307172
審判番号 不服2014-15175  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-01 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 特願2012-220409「偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月16日出願公開,特開2013- 92762〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,平成24年10月2日の特許出願(優先権主張 平成23年10月7日)であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成26年 1月21日:手続補正書
平成26年 2月21日:拒絶理由通知(同年同月25日発送)
平成26年 4月 4日:意見書
平成26年 4月 4日:手続補正書
平成26年 4月21日:拒絶査定(同年5月7日送達)
平成26年 8月 1日:手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成26年 8月 1日:審判請求

第2 補正の却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を「本願発明」という。)。
「 ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに,染色処理,ホウ酸処理および一軸延伸処理を施して偏光フィルムを作製する工程と,
透明フィルムの片面に活性エネルギー線硬化型で,粘度が10mPa・s以上である接着剤を塗布する工程と,
前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを前記接着剤が塗布された面を貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程と,
前記積層体に活性エネルギー線を照射し,偏光板を作製する工程とを含む偏光板の製造方法であって,
前記積層体を作製する工程において用いられる貼合ロールの直径が30?270mmの範囲内であり,
前記偏光フィルムと前記透明フィルムを貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程において,前記貼合ロールの押付け圧が0.2?2.0MPaであることを特徴とする偏光板の製造方法。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を「本件補正後発明」という。)。
「 ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに,染色処理,ホウ酸処理および一軸延伸処理を施して偏光フィルムを作製する工程と,
透明フィルムの片面に活性エネルギー線硬化型で,粘度が10mPa・s以上である接着剤を塗布する工程と,
前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを,前記接着剤を介して貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程と,
前記積層体に活性エネルギー線を照射し,偏光板を作製する工程とを含む偏光板の製造方法であって,
前記積層体を作製する工程において用いられる貼合ロールの直径が30?270mmの範囲内であり,
前記偏光フィルムと前記透明フィルムを貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程において,前記貼合ロールの押付け圧が0.2?2.0MPaであることを特徴とする偏光板の製造方法。」

2 新規事項違反
本件補正は,本件補正前の「前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを前記接着剤が塗布された面を貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程」という記載を,「前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを,前記接着剤を介して貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程」という記載に補正するものである。
ここで,本件出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0111】には,「上記透明フィルム2,3と同様にして連続的に繰り出された偏光フィルム1の両面にそれぞれ透明フィルム2,3が貼合ロール5a,5bによって前記接着剤を介して重ね合わされ積層体4が作製される。」と記載されている。
本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

3 目的要件違反
(1) 請求項の削除
本件補正は,請求項の削除を伴うものではないから,36条5項に規定する請求項の削除(17条の2第5項1号)を目的とするものであるということはできない。

(2) 特許請求の範囲の減縮
本件補正前の「積層体を作製する工程」は,「前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを前記接着剤が塗布された面を貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程」であるから,本件補正前の「積層体を作製する工程」は,「透明フィルムの片面に活性エネルギー線硬化型で,粘度が10mPa・s以上である接着剤を塗布する工程」による接着剤が塗布された面と偏光フィルムの面が接した状態で,透明フィルムと偏光フィルムが貼合せられるものであった。これに対して,本件補正後の「積層体を作製する工程」は,「前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを,前記接着剤を介して貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程」であるから,本件補正後の「積層体を作製する工程」は,「透明フィルムの片面に活性エネルギー線硬化型で,粘度が10mPa・s以上である接着剤を塗布する工程」による接着剤が塗布された面と偏光フィルムの面が接した状態とは限定されない状態で,透明フィルムと偏光フィルムが貼合せられるものである(接着剤を介して貼合すれば,透明フィルムと偏光フィルムの間に他の光学的機能層等が存在することを排除しないものである。)。
そうしてみると,本件補正は,本願発明の構成を拡張するものであるから,特許請求の範囲の減縮(同2号)を目的とするものであるということはできない。
あるいは,本願発明の「積層体を作製する工程」と本件補正後発明「積層体を作製する工程」は,表現ぶりが変わっただけで,発明の構成としては何ら変わっていないものと解することもできるから,やはり,特許請求の範囲の減縮(同2号)を目的とするものであるということはできない。

(3) 誤記の訂正
本件補正前の「前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを前記接着剤が塗布された面を貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程」との記載に誤記は存在しないから,本件補正は,誤記の訂正(同3号)を目的とするものであるということはできない。

(4) 明瞭でない記載の釈明
本件補正前の「前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを前記接着剤が塗布された面を貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程」との記載は明瞭でない記載であるとはいえず,当該記載に対して,記載が明確であるとはいえない旨の拒絶の理由は通知されていないから,本件補正は,明瞭でない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)(同4号)を目的とするものであるということはできない。

(5) 小括
本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

4 独立特許要件違反
なお,上記3(2)の点に関し本件出願の発明の詳細な説明には,透明フィルムと偏光フィルムの間に他の光学的機能層等が存在する具体的実施例がないことから,一応,本件補正後発明が,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについても,以下,検討する。
(1) 引用例1の記載
本件出願の優先権主張の日前に頒布された引用文献である,特開2010-125702号公報(【公開日】平成22年6月10日,【発明の名称】ラミネートフィルムの製造方法,【出願番号】特願2008-303019号,【出願日】平成20年11月27日,【出願人】日東電工株式会社,以下「引用例1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,湿潤フィルムの片面または両面に,プラスチックフィルムを接着剤層を介して貼り合わせるラミネートフィルムの製造方法に関する。
【0002】
本発明の製造方法は,各種ラミネートフィルムの製造に適用できるが,例えば,湿潤フィルムとして偏光子を用い,プラスチックフィルムとして偏光子用の透明保護フィルムを用いて,偏光板を製造する方法において用いることができる。その他,湿潤フィルムとしては,セロファンフィルム,ポリビニルアルコール系フィルム等を例示でき,本発明の製造方法は,食品,医療機器などの包装に用いられるラミネートフィルムの製造において適用できる。」

イ 「【背景技術】
【0003】
従来より,湿潤フィルムの片面または両面にプラスチックフィルムを貼り合わせて,ラミネートフィルムを製造するにはあたっては,通常,水系接着剤が用いられている。前記貼り合わせる方法としては,例えば,一対の圧着ロール間に湿潤フィルムを搬送するとともにその両面にプラスチックフィルムを搬送してプラスチックフィルムを同時に貼り合わせる同時ラミネート法,一対の圧着ロール間に湿潤フィルムを搬送するとともにその片面にプラスチックフィルムを搬送して貼り合わせた後,次いで,湿潤フィルムの他の片面にプラスチックフィルムを貼り合わせる逐次ラミネート法が採用されている。
【0004】
しかし,上記のラミネート法により,湿潤フィルムとプラスチックフィルムの貼り合わせを行うと,得られるラミネートフィルムにおいて湿潤フィルムとプラスチックフィルムの間に,異物の噛み込みや気泡が発生する。特に,貼り合わせ速度の高速化に伴って,気泡の発生が顕著になっている。またシワが発生したり,スジ状の凹凸ムラが生じたりする。
【0005】
上記シワの発生等に関する課題に対しては,湿潤フィルム(含水率0.1?20重量%のポリビニルアルコール系フィルム)とプラスチックフィルム(セルロース系フィルム)を所定のニップ圧にて貼り合わせる方法が提案されている(特許文献1)。しかし,この方法によっても,ラミネートフィルムにおける湿潤フィルムとプラスチックフィルムの間に発生する気泡は十分に抑えることができていない。一方,湿潤フィルムとプラスチックフィルムを貼り合わせる際の,ニップロールの圧力を高めることにより,気泡を低減することはできるが,ニップロールの圧力を高くすると,フィルム蛇行,シワの発生,打痕の発生,キズの発生,ロール(ゴムロール)の早期磨耗等の問題がある。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,湿潤フィルムにプラスチックフィルムを貼り合わせてラミネートフィルムを製造する方法であって,得られるラミネートフィルムにおける湿潤フィルムとプラスチックフィルムの間に発生する気泡を抑えることができる前記製造方法を提供することを目的とする。」

エ 「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,前記課題を解決すべく鋭意検討したところ,以下に示すラミネートフィルムの製造方法により上記目的を達成できることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は,水分率10?60重量%の湿潤フィルムの片面または両面に,水分率0.1?5重量%のプラスチックフィルムを,当該プラスチックフィルム上に設けた接着剤層を介して,一対の圧着ロールにより貼り合わせるラミネートフィルムの製造方法において,
少なくとも,前記一対の圧着ロールによって湿潤フィルムとプラスチックフィルムを貼り合わせるフィルム合流部分から,各圧着ロールにおける各フィルムの導入部分までの各フィルム表面の同伴空気を,
水に対する溶解度が0.1cm^(3)/cm^(3)H_(2)O(20℃,1atm)以上の置換ガスによってパージして,
各フィルム表面が前記置換ガスで置換された状態で,前記貼り合わせを行うことを特徴とするラミネートフィルムの製造方法,に関する。
【0010】
前記ラミネートフィルムの製造方法において,置換ガスとしては,炭酸ガス,アンモニア,水蒸気またはこれらの混合気体が好適である。
【0011】
前記ラミネートフィルムの製造方法において,置換ガスによるパージを,置換ガスのレイノルズ数が,3000?20000の範囲になる条件下で行うことが好ましい。
【0012】
前記ラミネートフィルムの製造方法は,各フィルムの搬送速度が,2?50m/minである場合に有効である。
【0013】
前記ラミネートフィルムの製造方法は,湿潤フィルムが偏光子であり,プラスチックフィルムが偏光子用の透明保護フィルムであり,ラミネートフィルムとして偏光板を製造する場合に好適に適用される。」

オ 「【発明の効果】
【0014】
従来のラミネートフィルムの製造にあたっては,貼り合わせる際に,空気の粘性によってフィルム表層に付着して移動する同伴空気が原因で気泡が発生していた。一方,本発明のラミネートフィルムの製造方法では,貼り合わせ対象の各フィルム表面の同伴空気を,所定溶解度以上の置換ガスによってパージして強制的に置換して,各フィルムを貼り合わせていることで気泡の発生を抑えている。従来のように同伴空気によって貼り合わせ面に気泡が生じると,空気で構成された気泡を消滅させることは困難であるが,本発明では,前記置換ガスとして,水への溶解度が高いものを用いているため,貼り合わせ面に気泡が発生した場合でも,気泡を構成するガス(置換ガス)が速やかに湿潤フィルム中に吸収される。その結果,気泡内は真空化して,真空化した気泡は大気圧によって消滅する。そのため,本発明のラミネートフィルムの製造方法によれば,湿潤フィルムとプラスチックフィルムの間に発生する気泡を抑えたラミネートフィルムを製造することができる。かかる本発明の製造方法によれば,各フィルムの搬送速度(圧着ロールの速度)を高速化した場合にも,気泡を抑えたラミネートフィルムを製造することができ,ラミネートフィルムの製造ラインの高速度化に適用できる。」

カ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明のラミネートフィルムの製造方法を,図面を参照しながら説明する。図1は,本発明のラミネートフィルムの製造方法の一例を示すものであり,図1Aは,断面図,図1Bは斜視図である。
【図1A】

【図1B】

図1では,湿潤フィルム1とプラスチックフィルム2を,一対の圧着ロールR1,R2のロール間を通過することにより圧着してラミネートフィルム3を製造している。プラスチックフィルム2上には接着剤層Aが設けられており,当該接着剤層Aを介して,プラスチックフィルム2と湿潤フィルム1は貼り合わされる。
【0018】
前記貼り合わせは,少なくとも,前記一対の圧着ロールR1,R2によって湿潤フィルム1とプラスチックフィルム2を貼り合わせるフィルム合流部分xから,各圧着ロールR1,R2における各フィルム(湿潤フィルム1,プラスチックフィルム2)の導入部分(フィルムがロールに最初に接触する部分)y1,y2までの各フィルム表面を,置換ガスGによってパージした状態で行う。前記パージした状態は,図1に示すように,例えば,圧着ロールR1,R2において,搬送される各フィルム(湿潤フィルム1,プラスチックフィルム2)の上部に,置換ガスGによりパージされる流路間隙z(z1,z2)を形成するように,パージフードFを設けることで行うことができる。流路間隙zは,通常,1?10mmであるのが好ましく,さらには1?5mmであるのが好ましい。」

キ 「【0026】
上記圧着ロールの材質,ロール径,ロール周速度(貼り合わせるときの搬送速度)等は適宜に調整される。
【0027】
圧着ロールとしては,例えば,金属製の芯部にゴム層または樹脂層でコーティングされた弾性ロールや,鉄,ステンレス,チタン,アルミニウム等の金属ロールを用いることができる。
【0028】
前記圧着ロールの直径としては,直径が小さいほど湿潤フィルム1とプラスチックフィルム2とが接触する面積が小さくなるため,相対的にフィルム面に加えられる圧力が高くなる。そのため,ロールの直径としては,250mm以下のものを用いることが好ましく,さらには200mm以下のものを用いることがより好ましい。ただし,この直径が小さくなりすぎると,ロールの剛性が弱くなるために,十分な力を加えられなくなるため,50mm以上のロールを用いることが好ましく,100mm以上のロールを用いることがより好ましい。ロール面長(ロールの長手方向の長さ)は,各フィルム(湿潤フィルム1,プラスチックフィルム2)の幅よりも同じ以上であればよい。
【0029】
また,フィルムの搬送速度(圧着ロールの周速度)は,特に制限されるものではなく,通常,2?50m/min程度で調整するのが好ましい。フィルムの搬送速度が10m/min以上の場合,さらには30?50m/minの高速の場合に,従来は気泡等が発生しやすかったため,フィルムの搬送速度がかかる高速度の場合に本発明は特に有効である。
【0030】
また,貼り合わせるときのロール間のラミネート圧力は,特に制限されず適宜設定される。ラミネート圧力は調整のしやすさやラミネートフィルムの生産性の点から,2MPa以上5MPa以下程度であるのが好ましく,3MPa以上4MPa以下がより好ましい。ラミネート圧力が2MPaより小さいと十分な押圧ができないためフィルム間に気泡が発生する。またラミネート圧力が5MPaより大きいとロールや装置への負荷がかかり過ぎるため破損の原因となる。ラミネート圧力の測定は,富士写真フイルム社製の感圧紙「プレスケール」を用いて,当該感圧紙の色変化をコンピュータ画像処理により二値化し,その発色面積と濃度について,作製された圧力標準線の近似式から求められる。」

ク 「【0036】
以下は,湿潤フィルムとしては,偏光子を用い,プラスチックフィルムとして偏光子用の透明保護フィルムを用いて,接着剤層を介してこれらを貼り合わせて,偏光板を製造する場合について述べる。
【0037】
前記偏光子としては,ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム等のポリマーフィルムに,ヨウ素や二色性染料等の二色性物質で染色して一軸延伸したものが通常用いられる。このような偏光子の厚さは特に限定されるものではないが,5?80μm程度,好ましくは40μm以下の場合のものが用いられる。」

ケ 「【0057】
本発明の透明保護フィルムとしては,セルロース樹脂(ポリマー),ポリカーボネート樹脂(ポリマー),環状ポリオレフィン樹脂(シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン)および(メタ)アクリル樹脂から選ばれるいずれか少なくとも1つを用いるのが好ましい。特にトリアセチルセルロースからなる保護フィルムを用いた場合に本発明の効果は顕著である。」

コ 「【0061】
環状ポリオレフィン樹脂の具体的としては,好ましくはノルボルネン系樹脂である。環状オレフィン系樹脂は,環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり,例えば,特開平1-240517号公報,特開平3-14882号公報,特開平3-122137号公報等に記載されている樹脂があげられる。具体例としては,環状オレフィンの開環(共)重合体,環状オレフィンの付加重合体,環状オレフィンとエチレン,プロピレン等のα-オレフィンとその共重合体(代表的にはランダム共重合体),および,これらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体,ならびに,それらの水素化物などがあげられる。環状オレフィンの具体例としては,ノルボルネン系モノマーがあげられる。
【0062】
環状ポリオレフィン樹脂としては,種々の製品が市販されている。具体例としては,日本ゼオン株式会社製の商品名「ゼオネックス」,「ゼオノア」,JSR株式会社製の商品名「アートン」,TICONA社製の商品名「トーパス」,三井化学株式会社製の商品名「APEL」があげられる。」

サ 「【0074】
前記偏光子と透明保護フィルムの貼り合わせに用いる接着剤層は光学的に透明であれば,特に制限されず水系,溶剤系,ホットメルト系,ラジカル硬化型の各種形態のものが用いられるが,水系接着剤が好適である。」

シ 「【0085】
前記偏光板は,さらに少なくとも1層の各種光学機能層を積層した光学フィルムとして用いることができる。この光学機能層としては,例えば,ハードコート処理層や反射防止処理層,スティッキング防止処理層や,拡散層またはアンチグレア処理層等の表面処理層や,視角補償や光学補償等を目的とした配向液晶層があげられる。さらに,偏光変換素子,反射板や半透過板,位相差板(1/2や1/4等の波長板(λ板)を含む),視角補償フィルム,輝度向上フィルムなどの画像表示装置等の形成に用いられる光学フィルムを1層または2層以上積層したものもあげられる。特に前記偏光板に,反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板または半透過型偏光板,位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板,視角補償層または視角補償フィルムが積層されてなる広視野角偏光板,あるいは輝度向上フィルムが積層されてなる偏光板が好ましく用いられる。
【0086】
前記光学機能層を積層する場合には,一般に,前記表面処理層や配向液晶層は偏光板等のフィルム上に直接積層すれば良いが,各種フィルムからなる光学機能層は前記の接着剤層を介して積層する方法が好ましく用いられる。このときの接着剤層としては,特に粘着剤からなる粘着層が好ましく用いられる。
【0087】
粘着剤からなる粘着層としては,例えば,アクリル系,シリコーン系,ポリエステル系,ポリウレタン系,ポリエーテル系,ゴム系等の従来に準じた適宜な粘着剤にて形成することができる。この粘着剤としては,吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止,熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止,ひいては高品質で耐久性に優れる画像表示装置の形成性等の点により,吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着層であることが好ましく,さらには,偏光板等の光学特性の変化を防止する点より,硬化や乾燥の際に高温のプロセスを要しないものであり,長時間の硬化処理や乾燥時間を要しないものが好ましい。このような観点より,偏光板や光学フィルムにはアクリル系粘着剤が好ましく用いられる。また,前記粘着剤には微粒子を添加して光拡散性を示す粘着層などとすることもできる。
【0088】
前記粘着剤からなる粘着層が表面に露出する場合には,その粘着層を実用に供するまでの間の汚染防止等を目的としてセパレータにて仮着カバーすることが好ましい。セパレータは,前記の保護フィルム等に準じた適宜なフィルムに,必要に応じてシリコーン系や長鎖アルキル系,フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤による剥離コートを設けたものを用いることが好ましい。」

ス 「【実施例】
【0092】
以下に実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが,本発明はこれら実施例および比較例によって限定されるものではない。
【0093】
(偏光子の水分率測定方法)
得られた偏光子から,180mm×500mmのサンプルを切り出し,その初期重量(W(g))を測定した。そのサンプルを120℃の乾燥機内で2時間放置した後,乾燥後重量(D(g))を測定した。これらの測定値より,下記式により水分率を求めた。
水分率(%)={(W-D)/W}×100
【0094】
(偏光子の作製)
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製:VF-PS7500,幅1000mm)を用いて,30℃の純水中に60秒間浸漬しながら延伸倍率2.5倍まで延伸し,30℃のヨウ素水溶液(重量比:純水/ヨウ素(I)/ヨウ化カリウム(KI)=100/0.01/1)中で45秒間染色し,4重量%ホウ酸水溶液中で延伸倍率が5.8倍になるように延伸し,純水中に10秒間浸漬した後,フィルムの張力を保ったまま40℃で3分間乾燥して偏光子を得た。この偏光子の幅は520mm,厚さは25μm,水分率は30重量%であった。
【0095】
(接着剤層付の透明保護フィルムの作成)
PVA樹脂(日本合成化学工業(株)製:ゴセノール)100重量部と架橋剤(大日本インキ化学工業(株)製:ウォーターゾール)35重量部を純水3760重量部中に溶解して接着剤を調製した。この接着剤を,厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士写真フィルム社製:UZ-80T,水分率1.4重量%)の片面側にスロットダイにて塗布後,85℃で1分間乾燥して,厚さ0.1μmの接着剤層を有する,接着剤層付のTACフィルムを得た。」

セ 「【0096】
実施例1
(偏光板の作製)
図1に示す方法にて,偏光板を作製した。湿潤フィルム1には上記偏光子を用い,プラスチックフィルム2には上記接着剤層付のTACフィルムを用いた。
置換ガスとしては,炭酸ガス(水に対する溶解度が0.88cm^(3)/cm^(3)H_(2)O(20℃,1atm))を用いた。ガスの密度:ρ=1.842(kg・m^(3))(1atm,20℃)であり,ガスの粘度:μ=0.000015(Pa・s)である。
置換ガスの導入量は,50リットル/minとした。
圧着ロールは,直径200mm,ロール面長(長手方向の長さ)1000mmの金属ロールを用いた。
フィルム搬送速度(ロール周速度)は30m/minである。
パージフードは,ステンレス鋼板製のものを用いた。パージフードは,流路間隙z1,z2が,10mmになるように配置した。
これらから算出した,レイノルズ数(Re)=10700,であった。
【0097】
上記一対の圧着ロール間に,偏光子と接着剤層付のTACフィルムを搬送して,これらを圧着して,偏光子の片面にTACフィルムを貼り合わせて積層フィルム(図1のラミネートフィルム3)を得た。このとき,前記圧着ロール間のラミネート圧力は0.3MPaであった。得られた偏光板は,貼り合わせ後に,80℃で2分間乾燥した。」

ソ 「【0099】
実施例および比較例で作製した偏光板について下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(気泡の確認)
得られた偏光板について,偏光子とTACフィルムの間の気泡の数(個/m^(2))を確認した。
【0101】
【表1】

【0102】
上記表1の結果から明らかなように,本発明の実施例によれば,湿潤フィルム(偏光子)とプラスチックフィルム(透明保護フィルム)の間に発生する気泡を抑えて,ラミネートフィルム(偏光板)を製造することができる。」

(2) 引用発明
引用例1には,実施例1として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,段落番号は,引用発明の認定に活用した引用例1の記載箇所を示すために併記したものである。
「 【0094】厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製:VF-PS7500,幅1000mm)を用いて,30℃の純水中に60秒間浸漬しながら延伸倍率2.5倍まで延伸し,30℃のヨウ素水溶液(重量比:純水/ヨウ素(I)/ヨウ化カリウム(KI)=100/0.01/1)中で45秒間染色し,4重量%ホウ酸水溶液中で延伸倍率が5.8倍になるように延伸し,純水中に10秒間浸漬した後,フィルムの張力を保ったまま40℃で3分間乾燥して偏光子を得て,
【0095】PVA樹脂(日本合成化学工業(株)製:ゴセノール)100重量部と架橋剤(大日本インキ化学工業(株)製:ウォーターゾール)35重量部を純水3760重量部中に溶解して接着剤を調製し,この接着剤を,厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士写真フィルム社製:UZ-80T,水分率1.4重量%)の片面側にスロットダイにて塗布後,85℃で1分間乾燥して,厚さ0.1μmの接着剤層を有する,接着剤層付のTACフィルムを得て,
【0096】湿潤フィルム1には上記偏光子を用い,プラスチックフィルム2には上記接着剤層付のTACフィルムを用い,置換ガスとしては,炭酸ガス(水に対する溶解度が0.88cm^(3)/cm^(3)H_(2)O(20℃,1atm))を用い,ガスの密度:ρ=1.842(kg・m^(3))(1atm,20℃)であり,ガスの粘度:μ=0.000015(Pa・s)であり,置換ガスの導入量は,50リットル/minであり,圧着ロールは,直径200mm,ロール面長(長手方向の長さ)1000mmの金属ロールを用い,フィルム搬送速度(ロール周速度)は30m/minであり,パージフードは,ステンレス鋼板製のものを用い,パージフードは,流路間隙z1,z2が,10mmになるように配置し,
【0097】上記一対の圧着ロール間に,偏光子と接着剤層付のTACフィルムを搬送して,これらを圧着して,偏光子の片面にTACフィルムを貼り合わせて積層フィルムを得て,前記圧着ロール間のラミネート圧力は0.3MPaであった,
【0002】偏光板を製造する方法。」

(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。
ア 偏光フィルムを作製する工程
引用発明は,「厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製:VF-PS7500,幅1000mm)を用いて,30℃の純水中に60秒間浸漬しながら延伸倍率2.5倍まで延伸し,30℃のヨウ素水溶液(重量比:純水/ヨウ素(I)/ヨウ化カリウム(KI)=100/0.01/1)中で45秒間染色し,4重量%ホウ酸水溶液中で延伸倍率が5.8倍になるように延伸し,純水中に10秒間浸漬した後,フィルムの張力を保ったまま40℃で3分間乾燥して偏光子を得て」いる。ここで,引用発明の「厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製:VF-PS7500,幅1000mm)」,「0℃のヨウ素水溶液(重量比:純水/ヨウ素(I)/ヨウ化カリウム(KI)=100/0.01/1)中で45秒間染色」,「4重量%ホウ酸水溶液中で延伸倍率が5.8倍になるように延伸」及び「偏光子」は,それぞれ,本件補正後発明の「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」,「染色処理」,「ホウ酸処理」及び「偏光フィルム」に相当する。また,引用発明の「30℃の純水中に60秒間浸漬しながら延伸倍率2.5倍まで延伸」と,本件補正後発明の「一軸延伸処理」は,「延伸処理」の点で共通する。また,引用発明の「4重量%ホウ酸水溶液中で延伸倍率が5.8倍になるように延伸」と本件補正後発明の「一軸延伸処理」も,「延伸処理」の点で共通する。
なお,本件出願の発明の詳細な説明の段落【0027】には,「偏光フィルムの製造に際し,通常,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは一軸延伸されるが,この一軸延伸は,染色処理工程の前に行ってもよいし,染色処理工程中に行ってもよいし,染色処理工程の後に行ってもよい。一軸延伸を染色処理工程の後に行う場合には,この一軸延伸は,ホウ酸処理工程の前に行ってもよいし,ホウ酸処理工程中に行ってもよい。勿論,これらの複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。」と記載されている。
したがって,引用発明の「厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製:VF-PS7500,幅1000mm)を用いて,30℃の純水中に60秒間浸漬しながら延伸倍率2.5倍まで延伸し,30℃のヨウ素水溶液(重量比:純水/ヨウ素(I)/ヨウ化カリウム(KI)=100/0.01/1)中で45秒間染色し,4重量%ホウ酸水溶液中で延伸倍率が5.8倍になるように延伸し,純水中に10秒間浸漬した後,フィルムの張力を保ったまま40℃で3分間乾燥して偏光子を得」る工程と,本件補正後発明の「ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに,染色処理,ホウ酸処理および一軸延伸処理を施して偏光フィルムを作製する工程」は,「ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに,染色処理,ホウ酸処理および」「延伸処理を施して偏光フィルムを作製する工程」の点で共通する。

イ 接着剤を塗布する工程
引用発明は,「PVA樹脂(日本合成化学工業(株)製:ゴセノール)100重量部と架橋剤(大日本インキ化学工業(株)製:ウォーターゾール)35重量部を純水3760重量部中に溶解して接着剤を調製し,この接着剤を,厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士写真フィルム社製:UZ-80T,水分率1.4重量%)の片面側にスロットダイにて塗布後,85℃で1分間乾燥して,厚さ0.1μmの接着剤層を有する,接着剤層付のTACフィルムを得て」いる。ここで,引用発明の「厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士写真フィルム社製:UZ-80T,水分率1.4重量%)」は,本件補正後発明の「透明フィルム」に相当する。また,引用発明の「PVA樹脂(日本合成化学工業(株)製:ゴセノール)100重量部と架橋剤(大日本インキ化学工業(株)製:ウォーターゾール)35重量部を純水3760重量部中に溶解して」「調製」された「接着剤」と,本件補正後発明の「活性エネルギー線硬化型で,粘度が10mPa・s以上である接着剤」は,「接着剤」の点で共通する。
したがって,前記アの対比を考慮すると,引用発明の「PVA樹脂(日本合成化学工業(株)製:ゴセノール)100重量部と架橋剤(大日本インキ化学工業(株)製:ウォーターゾール)35重量部を純水3760重量部中に溶解して接着剤を調製し,この接着剤を,厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士写真フィルム社製:UZ-80T,水分率1.4重量%)の片面側にスロットダイにて塗布後,85℃で1分間乾燥して,厚さ0.1μmの接着剤層を有する,接着剤層付のTACフィルムを得」る工程と,本件補正後発明の「透明フィルムの片面に活性エネルギー線硬化型で,粘度が10mPa・s以上である接着剤を塗布する工程」は,「透明フィルムの片面に」「接着剤を塗布する工程」の点で共通する。

ウ 積層体を作製する工程
引用発明は,「湿潤フィルム1には上記偏光子を用い,プラスチックフィルム2には上記接着剤層付のTACフィルムを用い,置換ガスとしては,炭酸ガス(水に対する溶解度が0.88cm^(3)/cm^(3)H_(2)O(20℃,1atm))を用い,ガスの密度:ρ=1.842(kg・m^(3))(1atm,20℃)であり,ガスの粘度:μ=0.000015(Pa・s)であり,置換ガスの導入量は,50リットル/minであり,圧着ロールは,直径200mm,ロール面長(長手方向の長さ)1000mmの金属ロールを用い,フィルム搬送速度(ロール周速度)は30m/minであり,パージフードは,ステンレス鋼板製のものを用い,パージフードは,流路間隙z1,z2が,10mmになるように配置し,上記一対の圧着ロール間に,偏光子と接着剤層付のTACフィルムを搬送して,これらを圧着して,偏光子の片面にTACフィルムを貼り合わせて積層フィルムを得て」いる。ここで,引用発明の「圧着ロール」及び「積層フィルム」は,本件補正後発明の「貼合ロール」及び「積層体」に相当する。
したがって,前記ア及びイの対比を考慮すると,引用発明の「湿潤フィルム1には上記偏光子を用い,プラスチックフィルム2には上記接着剤層付のTACフィルムを用い,置換ガスとしては,炭酸ガス(水に対する溶解度が0.88cm^(3)/cm^(3)H_(2)O(20℃,1atm))を用い,ガスの密度:ρ=1.842(kg・m^(3))(1atm,20℃)であり,ガスの粘度:μ=0.000015(Pa・s)であり,置換ガスの導入量は,50リットル/minであり,圧着ロールは,直径200mm,ロール面長(長手方向の長さ)1000mmの金属ロールを用い,フィルム搬送速度(ロール周速度)は30m/minであり,パージフードは,ステンレス鋼板製のものを用い,パージフードは,流路間隙z1,z2が,10mmになるように配置し,上記一対の圧着ロール間に,偏光子と接着剤層付のTACフィルムを搬送して,これらを圧着して,偏光子の片面にTACフィルムを貼り合わせて積層フィルムを得」る工程は,本件補正後発明の「前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを,前記接着剤を介して貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程」に相当する。

エ 貼合ロールの直径
引用発明の積層フィルムを得る工程において,「圧着ロールは,直径200mm,ロール面長(長手方向の長さ)1000mmの金属ロールを用い」ている。
したがって,引用発明は,本件補正後発明の「前記積層体を作製する工程において用いられる貼合ロールの直径が30?270mmの範囲内であり」の要件を満たす。

オ 貼合ロールの押付け圧
引用発明の積層フィルムを得る工程において,「前記圧着ロール間のラミネート圧力は0.3MPaであった」。
したがって,引用発明は,本件補正後発明の「前記偏光フィルムと前記透明フィルムを貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程において,前記貼合ロールの押付け圧が0.2?2.0MPaである」の要件を満たす。

カ 偏光板の製造方法
上記ア?オの対比結果を考慮すると,引用発明の「偏光板を製造する方法」は,本件補正後発明の「偏光板の製造方法」に相当する。

(4) 一致点
本件補正後発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「 ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに,染色処理,ホウ酸処理および延伸処理を施して偏光フィルムを作製する工程と,
透明フィルムの片面に接着剤を塗布する工程と,
前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを,前記接着剤を介して貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程と,
を含む偏光板の製造方法であって,
前記積層体を作製する工程において用いられる貼合ロールの直径が30?270mmの範囲内であり,
前記偏光フィルムと前記透明フィルムを貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程において,前記貼合ロールの押付け圧が0.2?2.0MPaであることを特徴とする偏光板の製造方法。」

(5) 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点において,(一応)相違する。
ア 相違点1
本件補正後発明の「延伸処理」は,「一軸延伸処理」であるのに対し,引用発明の「延伸処理」は,一応,これが明らかではない点。

イ 相違点2
本件補正後発明の接着剤は「活性エネルギー線硬化型で,粘度が10mPa・s以上である」接着剤であり,積層体を作製する工程の後に,「前記積層体に活性エネルギー線を照射し,偏光板を作製する工程」を伴うのに対して,引用発明の接着剤は,「活性エネルギー線硬化型で,粘度が10mPa・s以上である」接着剤ではなく,積層体を作製する工程の後に,「前記積層体に活性エネルギー線を照射し,偏光板を作製する工程」を伴わない点。

(6) 判断
相違点1及び2についての判断は,以下のとおりである。
ア 相違点1について
偏光子作成工程における延伸処理は,特殊な場合を除き,一軸延伸処理である。例えば,引用例1の段落【0037】には,「前記偏光子としては,ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム等のポリマーフィルムに,ヨウ素や二色性染料等の二色性物質で染色して一軸延伸したものが通常用いられる。」と記載されている。
引用例1の記載に接した当業者ならば,引用発明の延伸処理は,一軸延伸処理であると理解するから,相違点1は,事実上,相違点ではない。

イ 相違点2について
引用例1の段落【0074】には,「偏光子と透明保護フィルムの貼り合わせに用いる接着剤層は光学的に透明であれば,特に制限されず水系,溶剤系,ホットメルト系,ラジカル硬化型の各種形態のものが用いられるが,水系接着剤が好適である。」と記載されている。したがって,引用例1の記載に接した当業者ならば,引用発明の接着剤は,引用発明のものに限られるものではなく,引用発明の接着剤を,ラジカル硬化型の接着剤等の他の種類の接着剤に変更しても良いことを理解する。また,偏光子と透明保護フィルムとを接着するための接着剤として放射線硬化性接着剤(ラジカル硬化型接着剤)は周知技術であるところ,例えば,特開2009-227804号公報(以下「周知例1」という。)の段落【0045】には,「このようにして得られる接着剤用放射線硬化性組成物の粘度(25℃)は,好ましくは100mPa・s以下,より好ましくは80mPa・s以下,さらに好ましくは60mPa・s以下,特に好ましくは50mPa・s以下である。接着剤用放射線硬化性組成物の粘度(25℃)の下限値は,特に限定されないが,通常5mPa・s以上,好ましくは10mPa・s以上である。接着剤用放射線硬化性組成物の粘度を上記範囲内とすることによって,偏光板の製造時に良好な塗工性,作業性を得ることができる。」と記載され,特開2009-197116号公報(以下「周知例2」という。)の段落【0057】の【表1】には,実施例1?4として,粘度が,それぞれ,48mPa・s,60mPa・s,47mPa・s,39mPa・sである放射線硬化性接着剤が記載されている。
そうしてみると,引用発明の接着剤を,「活性エネルギー線硬化型で,粘度が10mPa・s以上である接着剤」に変更すること,また,「前記積層体に活性エネルギー線を照射し,偏光板を作製する工程」を設けること(必要ならば,周知例1の段落【0069】,周知例2の段落【0055】を参照。)は,引用例1の段落【0074】に記載された示唆に基づき,当業者が行う,通常の創意工夫にすぎない。

なお,接着剤の種類を変更すれば,圧着ロールの直径,ラミネート圧力,フィルムの搬送速度等の製造条件についても変更される可能性があるが,とりあえずは,引用発明の製造条件を採用するのが,通常の設計手法である。

また,周知例1及び2に開示された接着剤は,透明保護フィルムの材質が,シクロオレフィン系樹脂やノルボネン系樹脂フィルムであるものとの組合せが好適なものとも考えられる(周知例1の段落【0008】,周知例2の段落【0008】)が,引用例1の段落【0057】及び【0061】には,それぞれ,「本発明の透明保護フィルムとしては,セルロース樹脂(ポリマー),ポリカーボネート樹脂(ポリマー),環状ポリオレフィン樹脂(シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン)および(メタ)アクリル樹脂から選ばれるいずれか少なくとも1つを用いるのが好ましい。」及び「環状ポリオレフィン樹脂の具体的としては,好ましくはノルボルネン系樹脂である。」と記載されている。
したがって,仮に,周知例1及び2の具体的な記載まで考慮して検討したとしても,引用発明と周知技術を組み合わせることは,依然として容易である。

(7) 引用例1に記載された貼合ロールの押付け圧について
引用発明において,「前記圧着ロール間のラミネート圧力は0.3MPaであった」とされているところ,引用例1の段落【0030】には,「ラミネート圧力は調整のしやすさやラミネートフィルムの生産性の点から,2MPa以上5MPa以下程度であるのが好ましく,3MPa以上4MPa以下がより好ましい。ラミネート圧力が2MPaより小さいと十分な押圧ができないためフィルム間に気泡が発生する。またラミネート圧力が5MPaより大きいとロールや装置への負荷がかかり過ぎるため破損の原因となる。」と記載されている。すなわち,引用発明のラミネート圧力は,引用例1の段落【0030】に記載されたものに照らすと,好ましいとされる範囲よりも小さなものである。
しかしながら,引用例1の段落【0030】の記載は,引用例1の段落【0026】?【0029】の記載に続く記載であるから,圧着ロールの材質等を特定せず一般論を述べたにすぎないものと解される。これに対して,引用発明は,引用例1の実施例1であり,具体的なものであるから,引用例1の段落【0030】の記載を考慮してもなお,引用発明のラミネート圧力を不適切なものとすることはできない。むしろ,引用発明は,ラミネート圧力が相当程度低くても,気泡が混入しないことを確認した発明といえる。

(8) 効果について
本件出願の発明の詳細な説明の段落【0009】には,「本発明の製造方法によれば…偏光フィルムと透明フィルムとの間に気泡が発生しにくい偏光板を製造が提供される。」と記載されている。
しかしながら,引用例1の段落【0014】には,「本発明のラミネートフィルムの製造方法によれば,湿潤フィルムとプラスチックフィルムの間に発生する気泡を抑えたラミネートフィルムを製造することができる。」と記載されている。
本件補正後発明の効果は,引用発明が奏する効果である。あるいは,本件補正後発明の効果は,引用発明から予測し得ないような顕著な効果であるということはできない。
なお,気泡の混入について検討すると,接着剤の粘度が高くなれば気泡が混入しやすくなり,また,接着剤の塗布厚が厚くなれば気泡が混入しやすくなると考えられるところ,本件補正後発明は,接着剤の粘度について上限を有さず,また,接着剤の塗布厚についても上限を有さない。加えて,引用例1の段落【0029】の記載によると,気泡の混入は,フィルムの搬送速度(圧着ロールの周速度)にも依存すると考えられるところ,本件補正後発明は,フィルムの搬送速度(圧着ロールの周速度)について何ら特定されていない。
本件補正後発明の要旨には,「偏光フィルムと透明フィルムとの間に気泡が発生しにくい」もの以外の発明も含まれると考えられる。

(9) 請求人の主張について
請求人は,引用例1について「引用文献1には,気泡に関する記載は見出せません。また引用文献1には,ラジカル硬化型の接着剤層については,接着剤の粘度に関する記載もありません。」と主張する(審判請求書の6頁15?17行)。
しかしながら,引用例1の段落【0007】及び【0014】には,それぞれ,「本発明は,湿潤フィルムにプラスチックフィルムを貼り合わせてラミネートフィルムを製造する方法であって,得られるラミネートフィルムにおける湿潤フィルムとプラスチックフィルムの間に発生する気泡を抑えることができる前記製造方法を提供することを目的とする。」及び「本発明のラミネートフィルムの製造方法によれば,湿潤フィルムとプラスチックフィルムの間に発生する気泡を抑えたラミネートフィルムを製造することができる。」と記載されている。
また,引用例1には,接着剤としてラジカル硬化型を用いることが示唆されているところ(段落【0074】),接着剤の粘度については,周知例1及び2に開示されている。
引用例1には動機付けが記載され,引用例1に記載されていない構成は周知例1及び2に記載されているから,請求人の主張は採用できない。

請求人は,周知例1及び2について,「手作業によりスクイーズしながら貼合するのが一般的であり,そもそも貼合ロールを用いていないものと思量します。」と主張する(審判請求書の7頁10?11行及び22?24行)。
しかしながら,周知例1の段落【0006】には,「発明は,上述の背景に鑑みてなされたものであって,優れた塗工性(具体的には,液状での低い粘度)を有し,耐湿熱性,接着強度(剥離強度)等に優れた偏光板を,簡易な製造工程で短時間に製造することのできる接着剤用放射線硬化性組成物,該組成物を用いてなる偏光板,及び偏光板の製造方法を提供することを目的とする。」と記載され,周知例2の段落【0005】にも同様の記載がある。
周知例1及び2の目的に鑑みると,周知例1及び2に記載された技術は,大量生産を念頭にしたものであるから,引用発明と周知技術を組み合わせるに際しては,当然,引用発明の圧着ロールの構成が採用されるものである。

(10) 小括
本件補正後発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

5 補正却下のまとめ
本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
あるいは,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本件出願の請求項1に係る発明は,本件出願の優先権主張の日前に日本国又は外国において頒布された引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件出願の優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用例1に記載の事項及び引用発明について
引用例1に記載の事項及び引用発明については,前記「第2」4(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明の「前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを,前記接着剤を介して貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程」を,「前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを前記接着剤が塗布された面を貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程」に換えたものである。
しかしながら,前記「第2」4(3)ウでも述べたとおり,引用発明は,「湿潤フィルム1には上記偏光子を用い,プラスチックフィルム2には上記接着剤層付のTACフィルムを用い,置換ガスとしては,炭酸ガス(水に対する溶解度が0.88cm^(3)/cm^(3)H_(2)O(20℃,1atm))を用い,ガスの密度:ρ=1.842(kg・m^(3))(1atm,20℃)であり,ガスの粘度:μ=0.000015(Pa・s)であり,置換ガスの導入量は,50リットル/minであり,圧着ロールは,直径200mm,ロール面長(長手方向の長さ)1000mmの金属ロールを用い,フィルム搬送速度(ロール周速度)は30m/minであり,パージフードは,ステンレス鋼板製のものを用い,パージフードは,流路間隙z1,z2が,10mmになるように配置し,上記一対の圧着ロール間に,偏光子と接着剤層付のTACフィルムを搬送して,これらを圧着して,偏光子の片面にTACフィルムを貼り合わせて積層フィルムを得て」おり,この工程は,本願発明の「前記偏光フィルムの片面または両面に,前記透明フィルムを前記接着剤が塗布された面を貼合ロールで挟んで貼合し,積層体を作製する工程」に相当する。
そうしてみると,本件補正後発明が,前記「第2」4(3)?(10)で述べたとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,本件出願の優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様に,引用発明及び周知技術に基づいて,本件出願の優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,本件出願の優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-31 
結審通知日 2015-09-01 
審決日 2015-09-14 
出願番号 特願2012-220409(P2012-220409)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 最首 祐樹  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 樋口 信宏
本田 博幸
発明の名称 偏光板の製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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