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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1307177
審判番号 不服2014-16938  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-27 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 特願2013-237819「長大脆性き裂伝播停止性能を評価する方法および試験装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月20日出願公開、特開2014- 52385〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成24年2月7日(優先権主張日 平成23年2月8日)に出願した特願2012-23955号(以下、「本願の原出願」という。)の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成25年11月18日に新たな特許出願とした特願2013-237819号であって、平成26年3月7日付けで拒絶理由が通知され、同年5月16日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年6月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年8月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年8月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年8月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成26年5月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「き裂伝播長1m以上の長大脆性き裂に対する伝播停止性能を評価する方法において、大型試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離を6800mm超え確保して評価することを特徴とする長大脆性き裂伝播停止性能の評価方法。」が、

「き裂伝播長1m以上の長大脆性き裂に対する伝播停止性能を評価する方法において、大型試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離を10000mm以上確保して評価することを特徴とする長大脆性き裂伝播停止性能の評価方法。」と補正された。(下線は、補正箇所を示す。)

そして、上記の本件補正による請求項1の補正は、大型試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離を、本件補正前の「6800mm超え」から「10000mm以上」に数値範囲を狭くしたものである。
よって、上記の本件補正による請求項1の補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明のいわゆる限定的減縮を目的とするものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(1) 引用例に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である安藤翼,厚鋼板脆性き裂アレスト特性評価法に関する研究,平成20年度修士論文要旨,2009年(以下、「引用例」という。)には、つぎの事項が記載されている。(下線は当審において付加したものである。)

(摘記事項1)
「4. 標準ESSO試験片形状制限の検討
4.1. 目的と検討方針
標準ESSO試験片は一般的に,評価対象である試験板に,タブ板と呼ばれる試験機ピンを取り付けるための,通常試験板より厚い板を接合している。これまで,タブ板形状によってはき裂伝播中にタブ板で反射した応力波の影響で試験板の荷重が低下している可能性が指摘されてきたが,実際にその影響を評価したモデルや計算はなく,許容されるタブ板形状は明らかではない。そこで本研究では,タブ板と試験板を区別した,実試験片形状モデルの動的き裂伝播FEM 解析を実施し,算定したK_(d) と,荷重低下が無い場合として先の片側き裂平板モデルの結果とを比較して,き裂伝播中の荷重低下を調べる。さらに,タブ板での応力波反射を考慮したき裂線上の荷重低下を求める簡易計算プログラムを考案し,系統的計算を実施して具体的な試験片形状の許容範囲を求めていく。
4.2. 実試験片形状モデル解析条件
解析ソルバ,解法,使用要素,材料定数,基本的解析手法は,片側き裂平板モデルと同様とした。荷重負荷方法を,剛体定義したピンに荷重負荷方向強制変位を与え,タブ板との接触による方法とした。き裂伝播手法は先のモデルと同様である。Fig.6に対象とした標準ESSO 試験片と実試験片形状FEモデルを示す。ここで, W=500mm,L_(1)=500mm,L_(2)=2000mm,T_(1)=16mmに対して,T_(2)=16,24,50mm とし,各々V=1,000m/s,2,000m/s,V-change1の3条件について解析を実施した。初期き裂は0で最終き裂長さは全て400mmとした。
4.3. 実試験片形状モデル解析結果
Fig.7にT_(2)=50mmの結果を示す。何れのV においても,き裂進展に伴う荷重低下の影響でK_(d) は応力波反射のない場合に比べて低下しており,速度が小さいほど低下は顕著であった。V=1,000m/sの場合に,a/W=0.7でのK_(d) 低下率は約30%であり,試験誤差として許容される範囲ではない。また,T_(2)=16mmでは,K_(d) は片側き裂平板モデルの結果とほぼ一致し,タブ板以外(ピン等)の影響で荷重低下が生じていないことが確認された。」

(摘記事項2)
Fig.6(a)


(摘記事項3)
「6. 超広幅混成ESSO試験の動的解析
6.1. 長大き裂の問題と検討指針
超広幅混成ESSO試験は,助走板で発生させた脆性き裂を溶接部に沿って伝播させ,狙いK_(ca)に対応する温度の試験板に突入させてき裂がアレストするか否かを評価する実船モデル試験である。標準型(W=500mm)温度勾配ESSO試験により得られるK_(ca)と,超広幅(W>2000mm)混成ESSO試験におけるK_(ca)が必ずしも一致しない問題がこれまで指摘されており,未だ解決に至っていない。本研究では,委員会で実施された超広幅混成ESSO試験の試験片形状を正確にモデル化して実測き裂伝播速度[3]による動的き裂伝播FEM 解析を実施し,タブ板及びピン周り形状での応力波反射による荷重低下の影響を評価することで,問題の解決を目指した。
6.2. 超広幅混成ESSO試験の動的き裂伝播解析
基本的な解法,き裂伝播手法,荷重負荷方法は先の実試験片形状モデルと同様とした。Fig.16 に超広幅混成ESSO 試験片形状とFE モデルを示す[3]。Fig.17 に解析によって得られたK_(d) と割戻して換算した静的K (= K_(d) / f (V) ),比較として半無限平板の内部き裂の静的解析K ,同式で,き裂を無限に内部においた場合のK を示す。換算静的K は試験板突入時,及び,アレスト時点で標準型温度勾配試験のK_(ca) より約2倍の値を示し,タブ板での応力波反射による荷重低下の K_(d) への影響は比較的小さいことが分かった。」

(摘記事項4)
Fig.16(a)


(2) 引用例に記載された発明
ア 上記摘記事項3には、「超広幅混成ESSO試験は,助走板で発生させた脆性き裂を溶接部に沿って伝播させ,狙いKcaに対応する温度の試験板に突入させてき裂がアレストするか否かを評価する実船モデル試験であ」ることが記載されており、また、上記摘記事項4のFig.16 (a)には、「委員会で実施された超広幅混成ESSO試験の試験片形状」(上記摘記事項3を参照。)と寸法が示されている。
そして、超広幅混成ESSO試験に関する本願の原出願の優先権主張時の技術常識を踏まえると、Fig.16 (a)の超広幅混成ESSO 試験片の助走板で発生させた脆性き裂の長さは1m以上であるといえる。

イ 上記摘記事項4のFig.16 (a)には、超広幅混成ESSO 試験片を取り付ける試験装置の板厚75mmのタブ板先端間距離が6800mmであることが示されている。

ウ 以上のことから、引用例の摘記事項を総合すると、引用例には、
「超広幅混成ESSO試験は、助走板で発生させた脆性き裂を溶接部に沿って伝播させ、試験板に突入させてき裂がアレストするか否かを評価する実船モデル試験であって、超広幅混成ESSO 試験片の助走板で発生させた脆性き裂の長さは1m以上であり、超広幅混成ESSO 試験片を取り付ける試験装置の板厚75mmのタブ板先端間距離が6800mmである、方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(3) 本願補正発明と引用発明との対比

ア 引用発明の「長さ」「1m以上」の「助走板で発生させた脆性き裂」は、本願補正発明の「き裂伝播長1m以上の長大脆性き裂」に相当し、また、引用発明の「き裂がアレストするか否か」は、本願補正発明の「伝播停止性能」に相当するところ、引用発明の「長さ」「1m以上」の「助走板で発生させた脆性き裂」「がアレストするか否かを評価する」「方法」は、本願補正発明の「き裂伝播長1m以上の長大脆性き裂に対する伝播停止性能を評価する方法」に相当する。

イ 引用発明の「超広幅混成ESSO試験片」は、本願補正発明の「大型試験片」に相当し、また、本願補正発明の「タブ板先端間距離」が、本願の図3(下記参照。)における板厚75mmのタブ板における先端間距離であることを踏まえると、引用発明の「板厚75mmのタブ板先端間距離」は、本願補正発明の「タブ板先端間距離」する。
【図3】

してみると、引用発明の「超広幅混成ESSO試験片を取り付ける試験装置の板厚75mmのタブ板先端間距離が6800mm」として「評価する」ことと、本願補正発明の「大型試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離を10000mm以上確保して評価すること」とは、「大型試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離を所定距離確保して評価すること」という点で共通する。

ウ 上記アを踏まえると、引用発明の「長さ」「1m以上」の「助走板で発生させた脆性き裂」「がアレストするか否かを評価する」「方法」は、本願補正発明の「長大脆性き裂伝播停止性能の評価方法」に相当する。

(4) 本願補正発明と引用発明の一致点
してみると、本願補正発明と引用発明は、つぎの点で一致する。

(一致点)
「き裂伝播長1m以上の長大脆性き裂に対する伝播停止性能を評価する方法において、大型試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離を所定距離確保して評価する、長大脆性き裂伝播停止性能の評価方法。」

(5) 本願補正発明と引用発明の相違点
本願補正発明と引用発明は、つぎの点で相違する。

(相違点)
大型試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離を、本願補正発明では、「10000mm以上」確保したのに対し、引用発明では、「6800mm」とした点。

(6) 当審の判断
ア 相違点について
鋼板の脆性き裂伝播に対する材料抵抗力(K_(ca)値)の評価方法として、標準ESSO試験があり、次いで、大型コンテナ船等における厚鋼板の実用に伴い、超広幅混成ESSO試験が開発されたという経緯に照らせば、引用例において、厚さT_(1)=16mm、幅W=500mmの標準ESSO 試験片に対しては、試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離をL_(1)=500mm確保して試験を実施し(上記摘記事項1及び2を参照。)、厚さT_(1)=60mm、幅W=2400mmの厚鋼板超広幅混成ESSO試験片に対しては、前記タブ板先端間距離をL_(1)=6800mm確保して試験を実施している(上記摘記事項3及び4を参照。)ので、より厚い鋼板を評価する場合、より広幅の試験片に対してタブ板先端間距離をより広く確保して試験を実施してみようとすることは、当業者であれば容易に着想し得ることである。
また、引用例には、「これまで,タブ板形状によってはき裂伝播中にタブ板で反射した応力波の影響で試験板の荷重が低下している可能性が指摘されてきた」(上記摘記事項1を参照。)と記載されているように、標準ESSO試験におけるタブ板での応力反射波による影響は、本願の原出願の優先権主張日前において既に知られており、そのために、脆性き裂から生じる応力波がタブ板で反射して戻ってくるまでの距離を長くすれば、その影響を減らせるであろうことも、当業者であれば容易に着想し得ることである。
したがって、これらの上記事項を踏まえると、引用発明において、より大型試験片を取り付けるべく、より上記影響を抑えるべく試験装置のタブ板先端間距離を、「6800mm」から「10000mm以上」に変更し、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
本願補正発明の応力反射の少ない実船相当条件下での評価ができるという作用効果は、引用発明の実船モデル試験の妥当性を確認するために、引用例には、超広幅混成ESSO試験片の形状モデルを用いて「動的き裂伝播FEM 解析を実施し,タブ板及びピン周り形状での応力波反射による荷重低下の影響を評価」することが記載されていることからも、引用例に記載の事項に基づき当業者が予測し得ることである。
また、本願明細書の段落【0070】?【0072】及び図4には、タブ板先端間距離が「6800mm」も「10000mm」も実船相当条件とそれほど変わらず、「6800mm」以上であれば実船相当条件の評価が可能であることが記載されていることを踏まえると、本願補正発明の奏する作用効果は、タブ板先端間距離が「6800mm」である引用発明と比べて格別顕著ではない。

ウ まとめ
してみると、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(7) むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年5月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に示された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2」の「2」の「(1)」及び「(2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2」の「2」の「(3)」ないし「(5)」を踏まえると、本願発明は、上記「第2」の「2」の「(6) 当審の判断」で検討した本願補正発明の「大型試験片を取り付ける試験装置のタブ板先端間距離」を、「10000mm以上」から「6800mm超え」に数値範囲を広くしたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」の「2」の「(6) 当審の判断」に記載したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-31 
結審通知日 2015-09-01 
審決日 2015-09-15 
出願番号 特願2013-237819(P2013-237819)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 督史阿部 知  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
麻生 哲朗
発明の名称 長大脆性き裂伝播停止性能を評価する方法および試験装置  
代理人 井上 茂  

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