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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G21G
管理番号 1307183
審判番号 不服2014-17541  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-03 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 特願2010- 12177「核種変換装置及び核種変換方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月 4日出願公開、特開2011-149863〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年1月22日の出願であって、平成25年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年8月5日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたが、平成26年5月26日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、平成26年9月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年9月3日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年9月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年9月3日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の平成25年8月5日付け手続補正の特許請求の範囲の請求項1である
「【請求項1】
水素吸蔵金属を含む構造体を重水素が透過する際に、核種変換を施される物質が核種変換させられる核種変換装置であって、
チャンバと、
該チャンバ内部に重水素を供給する重水素供給部と、
前記チャンバ内部に配置され、CaO層とパラジウム層とが交互に積層された混合層を有する前記構造体と、
前記チャンバ内に配置され、前記構造体の温度を変動させる温度調整部と、
を備え、
前記構造体の前記温度調整部が配置される側の表面に、重水素を透過させない物質を含む重水素バリア層が設けられ、
前記構造体の前記温度調整部が配置される側と反対側の表面に、核種変換を施される物質が添加させられる、
核種変換装置。」を
「【請求項1】
水素吸蔵金属を含む構造体を重水素が透過する際に、核種変換を施される物質が核種変換させられる核種変換装置であって、
チャンバと、
該チャンバ内部に重水素を供給する重水素供給部と、
前記チャンバ内部に配置され、CaO層とパラジウム層とが交互に積層された混合層を有する前記構造体と、
前記チャンバ内に配置され、前記構造体の温度を変動させる温度調整部と、
を備え、
前記構造体の前記温度調整部が配置される側の表面に、重水素を透過させない物質を含む重水素バリア層が設けられ、
前記構造体の前記温度調整部が配置される側と反対側の表面に、セシウム、炭素、ストロンチウム及びナトリウムのいずれかである核種変換を施される物質が添加させられる、
核種変換装置。」
と補正することを含むものである(下線は請求人が付与したものである。)。

2 本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1の「核種変換を施される物質」を「セシウム、炭素、ストロンチウム及びナトリウムのいずれかである核種変換を施される物質」とすることを含むものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものである。

3 独立特許要件
(1)そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)を、記載要件(特許法第36条第4項第1号)について以下に検討する。

(2)本願補正発明
本願補正発明は、上記「1」において、補正後のものとして記載したとおりのものと認める。

(3)本願明細書には、次のように記載されている。
ア「【0001】
本発明は、放射性廃棄物処理技術、自然界に豊富に存在する元素から希少な元素を生成する技術、凝集系核反応によるエネルギー発生技術などに係る核種変換装置及び核種変換方法において、核種変換を施される物質が添加される構造体を透過する重水素ガスの透過量を増大させる装置及び方法に関する。」

イ「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2の核種変換装置では、吸蔵室に重水素ガスを供給し放出室を排気することによって、構造体を挟んで吸蔵室と放出室との間に重水素の濃度勾配を与えている。濃度勾配を与えると、構造体を透過する重水素ガス量が増加して、構造体の吸蔵室側表面での重水素密度が増加し、反応量が増大する。
しかし、吸蔵室と放出室との間で十分な気密性を保つために構造体を挟む際にシールが必要である上、装置構成が煩雑となっている。さらに、吸蔵室と放出室との圧力差に耐えうるように、構造体を厚くする必要があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、構成が簡素であり、構造体表面の重水素密度を向上させることにより、核種変換反応の反応量を増大させることができる核種変換装置、及び、その装置を用いた核種変換方法を提供することを目的とする。」

ウ「【発明の効果】
【0019】
本発明は、簡素な構成の装置により、構造体内部へ重水素を透過させ、核種変換を施す物質が添加させられた構造体表面近傍での重水素濃度を高めることができる。その結果、核種変換反応を増大させることができる。」

エ「【0021】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る核種変換装置の概略図である。核種変換装置10は、内部が気密とされたチャンバ11と、チャンバ11に接続される重水素供給部12とを備える。重水素供給部12は、重水素ボンベ13と、チャンバ11と重水素ボンベ13との間に配置されたバルブ14A,14Bとされる。
チャンバ11の内部には、構造体15と温度調整部16とが配置される。また、チャンバ11には、チャンバ11内部を排気するためのチャンバ排気部17が接続される。チャンバ排気部17は、例えばターボ分子ポンプ18及びロータリーポンプ19と、チャンバ11とターボ分子ポンプ18との間に設けられるバルブ20とされる。
【0022】
図2に、構造体の一例の断面概略図を示す。構造体は、パラジウム(Pd)またはPd合金、あるいは、Pd以外の水素吸蔵金属(例えばTiなど)またはこれらの合金と、これらに対して相対的に仕事関数が低い物質とで構成される。具体的に、図2に示される平板状とされる構造体15Aは、Pd基板21の表面に、Pdに対して相対的に仕事関数が低い物質(例えばCaO)とPdとが交互に積層された混合層22が形成され、混合層22の表面にPd層23が形成される。混合層22は、例えばPd基板21側から順に、CaOとPdとが交互に計8層積層され、更に最上層にCaOが形成されたものとされる。
【0023】
Pd層23の表面に、核種変換を施される物質が添加させられ、核種変換部24が形成される。核種変換が施される物質の例として、セシウム(Cs)、炭素(C)、ストロンチウム(Sr)、ナトリウム(Na)などが挙げられる。Pd層23表面に核種変換を施される物質を添加させる方法として、Pd層23表面に核種変換を施される物質を積層させる方法と、Pd層23表面を核種変換が施される物質を含む重水素に曝す方法とが挙げられる。
【0024】
Pd基板21の混合層22が設けられた表面と反対側の面に、重水素を透過させない物質を含む重水素バリア層25が設けられる。重水素を透過させない物質の例として、銅(Cu)、金(Au)、シリコン(Si)、ステンレス鋼(SUS304、SUS316Lなど)、酸化処理した鉄(Fe)、SiO_(2)が挙げられる。重水素バリア層25は、Pd基板21の表面に公知の方法により成膜されたものでも良く、基板状のものをPd基板21と接着させたものでも良い。
【0025】
図3に、構造体の別の例の断面概略図を示す。図3の構造体15Bは、平板状とされる重水素バリア層25の表面に、PdとCaOとが交互に積層された混合層22が形成され、混合層22の表面にPd層23が形成される。Pd層23の表面に、上述のようにして、核種変換部24が形成される。
【0026】
構造体15A,15Bの核種変換部24及び重水素バリア層25が設けられない表面(側面)には、図2及び図3に示すように、被覆部材26を設けることができる。被覆部材26は冶具等とされ、上述した重水素を透過させない物質を含む。被覆部材26は、図2及び図3のように、核種変換部24及び重水素バリア層25の一部を覆っていても良い。
【0027】
構造体15は、重水素バリア層が温度調整部16に対向するように、チャンバ11内に配置される。構造体15と温度調整部16とは接触されても良いし、温度調整部16から構造体15に伝熱可能な距離で離間されて配置されても良い。
【0028】
温度調整部16は、例えばヒータ等の加熱装置とされる。あるいは、加熱装置と冷却装置とが組み合わされたものでも良い。
【0029】
第1実施形態の核種変換装置を用いて核種変換を行う方法を、図1を用いて説明する。
構造体15がチャンバ11内の温度調整部16上に配置された後、ポンプ18,19とチャンバ11とを連結する配管のバルブ20が開放される。こうすることで、チャンバ排気手段17によりチャンバ11内部が真空排気される。
【0030】
チャンバ内部が十分に排気される(例えば、0.1Pa以下、好ましくは1×10^(-4)Pa以下)と、ポンプ18.19とチャンバ11とを連結する配管のバルブ20が閉鎖される。次いで、温度調整部16は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金中の重水素密度が高くなる温度以下となるように構造体15の温度を制御し、保持する。
【0031】
構造体15の温度が制御された後、重水素ボンベ13とチャンバ11とを連結する配管のバルブ14A,14Bが開放され、ボンベ13からチャンバ11内に重水素が導入される。
図4に、各構造体圧力における、構造体の温度とPd中の水素密度との関係を表すグラフを示す。同図において、横軸は構造体の温度、縦軸はPd中の水素密度である。なお、図4の水素密度は、重水素密度と読み替えることが可能である。
図4によれば、同じ圧力では、温度が上昇するとPd中の重水素密度が上昇する傾向がある。また、各圧力において、Pd中の重水素密度が急激に変化する温度が存在する。
【0032】
構造体を保持する温度は、図4に例示されるグラフに基づいて、チャンバ11内部の圧力及びPd中の重水素密度が急激に変化する温度を考慮して、適宜設定される。すなわち、重水素を安定して透過させるためには、構造体の温度は、Pd中の重水素密度が急激に変化する温度より小さい値に設定される。例えば、0.5気圧の場合は120℃以下、1気圧の場合は140℃以下とされる。
【0033】
所定圧力において水素吸蔵金属または水素吸蔵合金中の重水素密度が高くなる温度以下に設定されていると、構造体15表面から内部に向かって重水素が透過する。重水素が核種変換部24を透過すると、核種変換反応が発生する。このとき、核種変換部24表面での重水素密度が構造体内部の重水素密度よりも高いため、核種変換反応が促進される。
なお、重水素バリア層25側からは、重水素は構造体15内部に侵入しない。また、図2及び図3のように被覆部材26を設けることにより、構造体15側面からの重水素侵入が防止される。このため、核種変換部24を介してのみ重水素を透過させることができるので、核種変換効率が向上する。
【0034】
構造体15内部の重水素量が飽和状態に達すると、構造体15内部への重水素の透過速度が低下するとともに、核種変換反応効率も低下する。
構造体15内部への重水素透過速度が所定値以下になると、温度調整部16は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金中の重水素密度が低い温度以上になるように、構造体15の温度を制御し、保持する。このときの温度は、図4に例示されるグラフに基づいて、チャンバ11内部の圧力により適宜設定される。例えば、0.5気圧の場合は130℃以上、1気圧の場合は155℃以上とされる。こうすると、構造体15中に吸蔵される重水素密度が低くなるために、構造体15から、重水素バリア層や被覆部材が設けられない部分を通過して重水素が放出される。
【0035】
構造体15内部の重水素量が十分に放出され、重水素放出速度が所定値以下となると、温度調整部16は、構造体15の温度を水素吸蔵金属または水素吸蔵合金中の重水素密度が高くなる温度以下となるように制御し、保持する。こうすることで、核種変換部を通過する際に核種変換反応が発生する。
上述の構造体温度制御を繰り返すことで、核種変換反応を高効率で継続させることができる。
【0036】
重水素透過速度及び重水素放出速度は、重水素の拡散速度、温度、及び構造体各層の膜厚に基づいて算出される。算出される重水素透過速度及び重水素放出速度に基づいて、構造体中の重水素密度が高い温度で保持される時間、及び、重水素密度が低い温度で保持される時間が設定される。
【0037】
<第2実施形態>
第2実施形態として、図1と同様の構成の核種変換装置を用いて核種変換を実施する方法を説明する。本実施形態では、図2及び図3と同様の構造体を使用可能である。
【0038】
構造体15がチャンバ11内の温度調整部16上に配置された後、ポンプ18,19とチャンバ11とを連結する配管のバルブ20が開放されて、チャンバ排気部17によりチャンバ11内部が真空排気される。
【0039】
チャンバ11内部が十分に排気される(例えば、0.1Pa以下、好ましくは1×10^(-4)Pa以下)と、ポンプ18,19とチャンバ11とを連結する配管のバルブ20が閉鎖される。次いで、構造体15が温度調整部16により所定温度に制御され、保持される

【0040】
構造体15の温度が所定温度に保持されると、ボンベ13とチャンバ11とを連結する配管のバルブ14A,14Bが開放され、ボンベ13からチャンバ11内に重水素が導入される。重水素供給部12は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金中の重水素密度が高くなる圧力以上になるように、チャンバ11内の重水素圧力を制御して、保持する。
【0041】
図5に、各構造体温度における、チャンバ内部の圧力とPd中の水素密度との関係を表すグラフを示す。同図において、横軸はPd中の水素密度、縦軸は圧力である。なお、図5の水素密度は、重水素密度と読み替えることが可能である。
図5によれば、チャンバ内の圧力が低いとPd中の重水素密度は低く、チャンバ内の圧力が高いとPd中の重水素密度が高くなる傾向がある。また、各構造体温度において、Pd中の重水素密度が急激に変化する圧力が存在する。
【0042】
チャンバ11内部の保持圧力は、図5に例示されるグラフに基づいて、構造体15の保持温度及びPd中の重水素密度が急激に変化する圧力を考慮して、適宜設定される。すなわち、重水素を安定して透過させるためには、チャンバ11内部の圧力が、Pd中の重水素密度が急激に変化する圧力より大きい値に設定される。具体的に、例えば、構造体の温度が70℃の場合は0.1気圧以上、120℃の場合は1気圧以上とされる。
【0043】
チャンバ11内の重水素圧力がPd中の重水素が高くなる値に設定されると、構造体15表面から内部に向かって重水素が透過する。重水素が核種変換部24を透過すると、核種変換反応が発生する。このとき、核種変換部24表面での重水素密度が構造体内部の重水素密度よりも高いため、核種変換反応が促進される。
なお、重水素バリア層25側からは、重水素は構造体15内部に侵入しない。また、図2及び図3のように被覆部材26を設けることにより、構造体15側面からの重水素侵入が防止される。このため、核種変換部24を介してのみ重水素を透過させることができるので、核種変換効率が向上する。
【0044】
上述のように、構造体15内部の重水素量が飽和して、構造体15内部への重水素透過速度が所定値以下になると、重水素ボンベ13とチャンバ11とを連結する配管のバルブ14A,14Bが閉鎖される。次いで、ポンプ18,19とチャンバ11とを連結する配管のバルブ20が開放されて、チャンバ排気部17はチャンバ11内部の重水素を排出する。
チャンバ11内の圧力が、Pd中の重水素密度が低くなる圧力に到達すると、構造体15中に吸蔵された重水素が、重水素バリア層や被覆部材が設けられていない部分を通過して構造体の外部へと放出される。
【0045】
構造体15内部の重水素が十分に放出され、重水素放出速度が所定値以下となると、ボンベ18,19とチャンバ11とを連結する配管のバルブ20が閉鎖される。次いで、重水素ボンベ13とチャンバ11とを連結する配管のバルブ14A,14Bが開放されて、チャンバ11内に重水素が再び供給される。
【0046】
重水素透過速度及び重水素放出速度は、重水素の拡散速度、温度、重水素圧力、及び構造体各層の膜厚に基づいて算出される。算出される重水素透過速度及び重水素放出速度に基づいて、重水素を供給する時間、及び、重水素を排出する時間が設定される。
【0047】
<第3実施形態>
図6は、第3実施形態に係る核種変換装置の概略図である。核種変換装置30は、内部が気密とされたチャンバ31と、チャンバ31に接続される重水素供給部32と、チャンバ31の外側においてチャンバ31と一体となって接続される体積変動部41と、体積変動部41を収納するように設けられる容器42とを備える。重水素供給部32は、重水素ボンベ33と、チャンバ31とボンベ33との間に配置されたバルブ34A,34Bとされる。
【0048】
チャンバ31の内部には、構造体35及び温度調整部36が配置される。本実施形態では、図2及び図3と同様の構造体を使用可能である。また、チャンバ31には、チャンバ31内部を排気するために、チャンバ排気部37が接続される。チャンバ排気部37は、例えばターボ分子ポンプ38及びロータリーポンプ39と、チャンバ31とターボ分子ポンプ38との間に設けられるバルブ40とされる。
【0049】
容器42に、容器42内部に気体を供給する気体供給部43と、容器42内部の気体を排出する気体排気部46とが接続される。気体供給部43は、ボンベ44と、容器42とボンベ44との間に配置されたバルブ45A,45Bとされる。気体排気部46は、図6ではバルブとされているが、更にバルブの下流側にロータリーポンプやターボ分子ポンプなどのポンプが接続されていても良い。
【0050】
体積変動部41は、チャンバ31とともに内部が気密状態とされる。体積変動部41は内部の体積が変動可能となっている。具体的に、体積変動部41は、蛇腹状となっている。
【0051】
第3実施形態の核種変換装置を用いて核種変換を行う方法を、図6を用いて説明する。
構造体34がチャンバ31内の温度調整部36上に配置された後、ポンプ38,39とチャンバ31とを連結する配管のバルブ40が開放される。こうすることで、チャンバ排気部37によりチャンバ31内部が真空排気される。
【0052】
チャンバ31内部が十分に排気される(例えば、0.1Pa以下、好ましくは1×10^(-4)Pa以下)と、ポンプ38,39とチャンバ31とを連結する配管のバルブ40が閉鎖される。次いで、構造体35が温度調整部36により所定温度に制御され、保持される

【0053】
容器42とボンベ44とを連結する配管のバルブ45A,45Bが開放され、体積変動部41の体積が最小になるように、気体供給部43は気体を容器42内部に供給する。本実施形態に適用される気体は特に限定されないが、安全性及びコストを考慮すると、空気または窒素が好ましい。このとき、気体排気部46(バルブ)は閉鎖されている。
体積変動部41の体積が最小になり、容器42内部の圧力が所定値に到達すると、気体供給部43は気体の供給を停止する。容器42内部の圧力は、後段で重水素がチャンバ31内に供給されたときに到達する圧力より高く設定すると良い。あるいは、容器42内部の圧力がチャンバ31及び体積変動部41内部の圧力よりも常に高くなるように、後段の重水素供給時においても気体供給部43は気体の供給を継続していても良い。
【0054】
次いで、重水素ボンベ33とチャンバ31とを連結する配管のバルブ34A,34Bが開放され、ボンベ33からチャンバ31内に重水素が導入される。重水素供給部32は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金中の重水素密度が高くなる圧力以上になるように、チャンバ31及び体積変動部41内部の圧力を制御して、保持する。上記圧力は、第2実施形態と同様にして設定される。こうすることで、構造体35表面から内部に向かって重水素が透過する。重水素が構造体表面に設けられた核種変換部を透過すると、核種変換反応が発生する。
【0055】
構造体35内部の重水素量が飽和して、構造体35内部への重水素透過速度が所定値以下になると、重水素ボンベ33とチャンバ31とを連結する配管のバルブ34A,34Bが閉鎖される。気体供給部43が容器42に気体を供給し続けている場合は、ボンベ44と容器42とを連結する配管のバルブ45A,45Bが閉鎖される。
【0056】
次いで、気体排出部46(バルブ)が開放される。これにより、気体排出部46が容器42内部の気体を排出し、容器42内部の圧力が低下する。容器42内部の圧力がチャンバ31及び体積変動部41内部の圧力より低くなると、体積変動部41が膨張して、チャンバ31及び体積変動部41内の圧力が低下する。チャンバ31及び体積変動部41内の圧力が、Pd中の重水素密度が低くなる圧力に到達すると、構造体35中に吸蔵された重水素が、重水素バリア層や被覆部材が設けられていない部分を通過して、構造体35の外部へと放出される。
【0057】
構造体35内部の重水素が十分に放出されて重水素放出速度が所定値以下となると、気体排出部46(バルブ)が閉鎖される。次いで、ボンベ44と容器42とを連結する配管のバルブ45A,45Bが開放され、気体が容器42に供給される。これにより、体積変動部41が収縮し、チャンバ31及び体積変動部41内部の圧力が上昇して、構造体35内部への重水素の透過が再開される。なお、前回の核種変換反応により消費された重水素を補うために、重水素ボンベ33とチャンバ31とを連結する配管のバルブ34A,34Bを開放して、チャンバ31内に重水素が供給されても良い。
上述の制御を繰り返すことで、核種変換反応を高効率で継続される。なお、重水素を供給する時間、及び、容器から気体を排出する時間は、第2実施形態と同様に、それぞれ重水素透過速度及び重水素放出速度に基づいて設定される。」

オ 図1


カ 図2


キ 図3

ク 図4


ケ 図5


コ 図6


(4)判断
ア 上記(3)アの【0001】、上記(3)イの【0006】、【0007】、上記(3)ウの【0019】の記載事項によると、本願補正発明は、「水素吸蔵金属を含む構造体を重水素が透過する際に、核種変換を施される物質が核種変換させられる核種変換装置」において、核種変換を施す物質が添加させられた構造体表面の重水素密度を向上させることにより、核種変換反応を増大させることができるものである。
そこで、発明の詳細な説明に、本願補正発明において、核種変換を施す物質が添加させられた構造体表面の重水素密度を向上させることにより、核種変換反応を増大させることが、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているかどうかについて、発明の詳細な説明に記載された第1ないし第3実施形態を以下に検討する。

イ まず、第1実施形態(上記(3)イの【0021】ないし【0036】、上記(3)ウないしカ)について検討する。
(ア)重水素の拡散速度は具体的には記載されていない。
(イ)【0032】に「例えば、0.5気圧の場合は120℃以下、1気圧の場合は140℃以下」、【0034】に「例えば0.5気圧の場合は130℃以上、1気圧の場合は155℃以上」と記載されているものの、具体的な重水素の温度は記載されていない。
(ウ)【0022】ないし【0026】、図2、3に構造体15A、Bが記載されているものの、構造体15A、Bの各層の膜厚は記載されていない。
(エ)【0023】に「核種変換が施される物質の例として、セシウム(Cs)、炭素(C)、ストロンチウム(Sr)、ナトリウムなどが挙げられる。」と記載されているものの、核種変換部24の物質は具体的には記載されておらず、どの核種がどの核種にどの程度変換されたのかも記載されていない。
(オ)【0036】に「重水素透過速度及び重水素放出速度は、重水素の拡散速度、温度、及び構造体各層の膜厚に基づいて算出される。算出される重水素透過速度及び重水素放出速度に基づいて、構造体中の重水素密度が高い温度で保持される時間、及び、重水素密度が低い温度で保持される時間が設定される。」と記載されているところ、上記(ア)ないし(ウ)より、重水素の拡散速度、温度、及び構造体各層の膜厚は具体的に記載されておらず、かつ、重水素透過速度、重水素放出速度の算出方法も記載されていない。さらに、重水素密度が高い温度で保持される時間、及び重水素密度が低い温度で保持される時間の設定方法も記載されていない。
(カ)【0033】の「所定圧力において水素吸蔵金属または水素吸蔵合金中の重水素密度が高くなる温度以下に設定されていると、構造体15表面から内部に向かって重水素が透過する。重水素が核種変換部24を透過すると、核種変換反応が発生する。このとき、核種変換部24表面での重水素密度が構造体内部の重水素密度よりも高いため、核種変換反応が促進される。」との記載事項と、【0034】、【0035】の記載事項も参酌すると、構造体15を透過する重水素ガスの透過量を増大させることによって核種変換反応を発生させるためには、重水素の温度を制御することが必要であることが読み取れる。
しかしながら、上記(オ)で示したように、重水素密度が高い温度で保持される時間、及び重水素密度が低い温度で保持される時間は、いずれも不明であるので核種変換反応をどのようにして発生させるのか不明である。また、上記(エ)で示したように、実際に、どの核種がどの核種にどの程度変換されたのかも記載されていないので、核種変換反応が発生したことも確認できない。そして、第1実施形態について、核種変換反応を発生するとの技術常識も示されていない。
したがって、第1実施形態について、そもそも核種変換反応が発生するか否かも不明であるから、核種変換を施す物質が添加させられた構造体表面の重水素密度を向上させることにより、核種変換反応を増大させることが、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

ウ 次に第2実施形態(上記(3)イの【0037】ないし【0046】、上記(3)ウないしオ、キ)について検討する。
(ア)重水素の拡散速度は具体的には記載されていない。
(イ)【0043】に「具体的に、例えば、構造体の温度が70℃の場合は、0.1気圧以上、120℃の場合は1気圧以上とされる。」と記載されているものの、具体的な重水素の温度、重水素圧力は記載されていない。
(ウ)【0037】に「本実施形態では、図2及び図3と同様の構造体を使用可能である。」と記載されていて、第1実施形態と同様に、構造体15A、Bの各層の膜厚は記載されていない。
(エ)【0037】に「本実施形態では、図2及び図3と同様の構造体を使用可能である。」と記載されていて、第1実施形態と同様に、核種変換部24の物質は具体的には記載されておらず、どの核種がどの核種にどの程度変換されたのかも記載されていない。
(オ)【0036】に「重水素透過速度及び重水素放出速度は、重水素の拡散速度、温度、重水素圧力、及び構造体各層の膜厚に基づいて算出される。算出される重水素透過速度及び重水素放出速度に基づいて、の重水素を供給する時間、及び、重水素密度を排出する時間が設定される。」と記載されているところ、上記(ア)ないし(ウ)より、重水素の拡散速度、温度、及び構造体各層の膜厚は具体的に記載されておらず、かつ、重水素透過速度、重水素放出速度の算出方法も記載されていない。さらに、重水素を供給する時間、及び重水素を排出する時間の設定方法も記載されていない。
(カ)【0043】の「チャンバ11内部の重水素圧力がPd中の中水素が高くなる値に設定されると、構造体15表面から内部に向かって重水素が透過する。重水素が核種変換部24を透過すると、核種変換反応が発生する。」との記載事項と、【0044】、【0045】の記載事項も参酌すると、構造体15を透過する重水素ガスの透過量を増大させることによって核種変換反応を発生させるためには、重水素の圧力を制御することが必要であることが読み取れる。
しかしながら、上記(オ)で示したように、重水素を供給する時間、及び重水素を排出する時間は、いずれも不明であるので核種変換反応をどのようにして発生させるのか不明である。また、上記(エ)で示したように、実際に、どの核種がどの核種にどの程度変換されたのかも記載されていないので、核種変換反応が発生したことも確認できない。そして、第2実施形態について、核種変換反応を発生するとの技術常識も示されていない。
したがって、第2実施形態について、そもそも核種変換反応が発生するか否かも不明であるから、核種変換を施す物質が添加させられた構造体表面の重水素密度を向上させることにより、核種変換反応を増大させることが、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

エ 第3実施形態(上記(3)イの【0047】ないし【0057】、上記(3)エ、オ、キ、ク)について検討する。
(ア)重水素の拡散速度は具体的には記載されていない。
(イ)重水素の温度、重水素圧力は具体的には記載されていない。
(ウ)【0048】に「本実施形態では、図2及び図3と同様の構造体を使用可能である。」と記載されていて、第1、2実施形態と同様に、構造体15A、Bの各層の膜厚は記載されていない。
(エ)【0048】に「本実施形態では、図2及び図3と同様の構造体を使用可能である。」と記載されていて、第1、2実施形態と同様に、核種変換部24の物質は具体的には記載されておらず、どの核種がどの核種にどの程度変換されたのかも記載されていない。
(オ)【0057】に「重水素を供給する時間、及び、容器から気体を排出する時間は、第2実施形態と同様に、それぞれ重水素透過速度及び重水素放出速度に基づいて設定される。」と記載されているところ、上記アないしウより、重水素の拡散速度、温度、及び構造体各層の膜厚は具体的に記載されておらず、かつ、重水素透過速度、重水素放出速度の算出方法も記載されていない。さらに、重水素を供給する時間、及び重水素を排出する時間の設定方法も記載されていない。
(カ)【0054】の「上記圧力は、第2実施形態と同様にして設定される。こうすることで、構造体35表面から内部に向かって重水素が透過する。重水素が構造体表面に設けられた核種変換部を透過すると、核種変換反応が発生する。」との記載事項と、【0055】、【0056】の記載事項も参酌すると、構造体15を透過する重水素ガスの透過量を増大させることによって核種変換反応を発生させるためには、重水素の圧力を制御することが必要であることが読み取れる。
しかしながら、上記(オ)で示したように、重水素を供給する時間、及び容器から気体を排出する時間はいずれも不明であるので、核種変換反応をどのようにして発生させるのか不明である。また、上記(エ)で示したように、実際に、どの核種がどの核種にどの程度変換されたのかも記載されていないので、核種変換反応が発生したことも確認できない。そして、第3実施形態について、核種変換反応を発生するとの技術常識も示されていない。
したがって、第3実施形態について、そもそも核種変換反応が発生するか否かも不明であるから、核種変換を施す物質が添加させられた構造体表面の重水素密度を向上させることにより、核種変換反応を増大させることが、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

オ 上記イないしエより、発明の詳細な説明において、核種変換反応が発生したことが確認できないので、発明の詳細な説明に、本願補正発明において、核種変換を施す物質が添加させられた構造体表面の重水素密度を向上させることにより、核種変換反応を増大させることが、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

(5)意見書及び審判請求書についての検討
ア 審判請求人は、平成25年8月5日付け意見書の【意見の内容】[2]<2>において次のように主張している。
「・・・前略・・・
本願明細書の記載及び本願明細書中で列挙した先行技術文献に依れば、本願明細書[0023]で列挙された核種変換が施される物質と重水素との間の反応により、核種変換が施される物質が核種変換されることを、当業者は十分に理解することが可能です。
・・・後略・・・」
また、審判請求人は、審判請求書の【請求の理由】[3]<3>において次のように主張している。
「・・・前略・・・
水素吸蔵金属を含む構造体を重水素が透過する際にこれらの核種変換を施される物質が変換される反応は参考文献1?5に開示されています。従って、当業者は、請求項1,2,6,7における『核種変換』が如何なる反応であるかを理解することが可能です。
・・・後略・・・」
そこで、本願明細書に記載された特許文献や審判請求書に記載された参考文献に、本願補正発明において、核種変換を施す物質が添加させられた構造体表面の重水素密度を向上させることにより、核種変換反応を増大させることが、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているかどうかについて、以下に検討する。

イ 特許文献1及び2、参考文献1ないし5について
(ア)本願明細書の【0005】に記載された特許第4347261号公報(以下「特許文献1」という。)、及び特許第4347262号公報(以下「特許文献2」という。)には、以下の事項が記載されていると認められる(特許文献1及び2ともに、【0029】ないし【0033】、【0040】、【0041】、図1ないし3を特に参照)。
「多層構造体32の吸蔵室31側を相対的に重水素ガスの圧力が高い状態とし、多層構造体32の放出側34を相対的に重水素ガスの圧力が低い状態として、吸蔵室31と放出側34との間に挟まれた多層構造体32の両面において重水素ガスの圧力差を形成することで、吸蔵室31から放出室34へ重水素ガスの流れを作り出し、重水素と核種変換物質とが反応することで核種変換が行われる核種変換装置。」

(イ)審判請求書に記載された参考文献1ないし5について、Iwamura, Y., et al. “Low Energy Nuclear Transmutation In Condensed Matter Induced By D_(2) Gas Permeation Through Pd Complexes: Correlation Between Deuterium Flux And Nuclear Products”, Tenth International Conference on Cold Fusion. 2003. Cambrige、(以下「参考文献1」という。)、Y. Iwamura, M. Sakano and T. Itoh, “Elemental Analysis of Pd Complexes: Effects of D_(2) Gas Permeation”, Jpn. J. Appl. Phys. Vol.41 (2002) pp. 4642-4650(以下「参考文献2」という。)、Y. Iwamura, T. Itoh, M. Sakano and S. Sakai, “Observation of Low Energy Nuclear Reactions Induced By D_(2) Gas Permeation Through Pd Complexes”, Proc. Of ICCF9 19-24 May 2002, Beijing (China); pp. 141-146(以下「参考文献3」という。)、Y. Iwamura, T. Itoh and M. Sakano, “Nuclear Products and Their Time Dependence Induced by Continuous Diffusions of Deuterium Through Multi-layer Palladium Containing Low Work Function”, Proc. Of ICCF8, 21-26 May 2000, Lerici (Italy), SIF Conf. Proc. Vol. 70, pp. 141-146(以下「参考文献4」という。)、T. Higashiyama, et al., “Replication Of MHI Transmutation Experiment By D_(2) Gas Permeation Through Pd Complex”, Proc. Of ICCF, in press(以下「参考文献5」という。)には、以下の事項が記載されていると認められる(参考文献1ないし5の実験の項目を特に参照。)。
「多層構造体の吸蔵室側を相対的に重水素ガスの圧力が高い状態とし、多層構造体の放出側を相対的に重水素ガスの圧力が低い状態として、吸蔵室と放出側との間に挟まれた多層構造体の両面において重水素ガスの圧力差を形成することで、吸蔵室から放出室へ重水素ガスの流れを作り出し、重水素と核種変換物質とが反応することで核種変換が行われる核種変換装置。」

ウ 請求人の主張について
本願補正発明は、構造体が吸蔵室と放出側との間に挟まれた、特許文献1及び2、参考文献1ないし5に記載された核種変換装置とは異なるものである。
そして、参考文献2の第4649頁右欄第7行?第9行に「2、3の仮定なしでは得られた実験結果を説明する完全な理論はない。」と記載されているように、特許文献1及び2、参考文献1ないし5に記載された核種変換装置においてなぜ核種変換反応が発生するのか理論的には明らかになっていないと認められる。してみると、構造体が吸蔵室と放出側との間に挟まれているか否かによって、構造体に生じる圧力差や重水素の密度がどの程度の差を生じるのか不明であり、さらには、核種変換反応もどのような影響を受けるのかも不明である。
したがって、特許文献1及び2、参考文献1ないし5に記載された核種変換装置によって核種変換反応が発生したとしても、特許文献1及び2、参考文献1ないし5に記載された核種変換装置とは異なる本願補正発明によって、核種変換反応が発生することは、当業者が理解できるとはいえない。
よって、本願明細書に記載された特許文献や審判請求書に記載された参考文献に、本願補正発明において、核種変換を施す物質が添加させられた構造体表面の重水素密度を向上させることにより、核種変換反応を増大させることが、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

(6)結論
以上から、本願の発明の詳細な説明は、本願補正発明が、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。

4 補正の却下の決定のむすび
以上検討のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、拒絶すべきものであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明は、平成25年8月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2」[理由]「1」において、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1として示したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。

「この出願については、平成25年5月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
・・・中略・・・
理由2(2)について。
出願人は,意見書において,重水素濃度と,核種変換反応との関係について主張するが,本願において「核種変換」と称するものがどのようなものであるのか,また,核種変換反応を増大させることが出来るのかについて,発明の詳細な説明にはなんら開示されていない。
してみると,請求項1における「水素吸蔵金属を含む構造体を重水素が透過する際に、核種変換を施される物質が核種変換させられる核種変換装置」,「核種変換を施される物質が添加させられる、核種変換装置」との記載に関し,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
また,請求項1と同様の記載を有する請求項2,6,7についても,同様である。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が上記各請求項及びそれらを引用する請求項である請求項1-8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」

また、平成25年5月30日付け拒絶理由の理由2(2)には、以下のとおり記載されている。
「 理由2
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


・・・中略・・・
(2)上記理由1で(3),(4)として示したことに関連し,発明の詳細な説明において『核種変換』と称するものがどのようなものであるのか,また,核種変換反応を増大させることが出来るのか,発明の詳細な説明には記載されていない。【0002】-【0005】には,背景技術として,核種変換について記載のある文献を引用し,説明がなされているが,本願の発明の詳細な説明に開示された『核種変換装置及び核種変換方法』と称するものは,上記背景技術とは異なる構成を有するものであり,単に上記背景技術を参照して,本願において『核種変換』と称するものがどのようなものであるのか,また,核種変換反応を増大させることが出来るのかを主張することはできない。
してみると,請求項1における『核種変換を施される物質が添加させられる、核種変換装置』との記載に関し,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」

3 当審の判断
上記「第2」「2」「本件補正の目的」のとおり、本願発明は、本願補正発明の「セシウム、炭素、ストロンチウム及びナトリウムのいずれかである核種変換を施される物質」を「核種変換を施される物質」としたものであり、本件補正の前後で本願明細書の発明の詳細な説明の【0021】ないし【0057】(第1実施形態なし第3実施形態についての記載)に変更はないから、上記「第2」[理由]「3」での検討と同様の理由により、発明の詳細な説明において、核種変換反応が発生したことが確認できないので、発明の詳細な説明に、本願発明において、核種変換を施す物質が添加させられた構造体表面の重水素密度を向上させることにより、核種変換反応を増大させることが、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
したがって、原査定の理由で示したとおり、発明の詳細な説明は、本願発明が、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。


第4 結び
以上のとおり、本願発明は、原査定の理由で示したとおり、特許法第36条第4項第1項に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-20 
結審通知日 2015-08-25 
審決日 2015-09-08 
出願番号 特願2010-12177(P2010-12177)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G21G)
P 1 8・ 575- Z (G21G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田邉 英治  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 土屋 知久
井口 猶二
発明の名称 核種変換装置及び核種変換方法  
代理人 上田 邦生  
代理人 藤田 考晴  

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