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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1307216
審判番号 不服2014-2897  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-17 
確定日 2015-10-26 
事件の表示 特願2010-507569「マルウェア検出のための信頼できる動作環境」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日国際公開、WO2008/140977、平成22年 8月 5日国内公表、特表2010-527075〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2008年5月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理,2007年5月11日(以下,「優先日」という。),アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成21年11月6日付けで特許法第184条の5第1項に規定される書面が提出されるとともに,同日付けで特許法第184条の4第1項の規定による国際出願日における明細書,請求の範囲,図面(図面の中の説明に限る。)及び要約の翻訳文が提出され,平成23年3月24日付けで審査請求がなされ,平成24年12月18日付けで拒絶理由通知(同年12月28日発送)がなされ,平成25年3月28日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされ,同年6月7日付けで最後の拒絶理由通知(同年6月14日発送)がなされ,同年9月12日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされたが,同年10月2日付けで拒絶査定(同年10月15日謄本送達)がなされたものである。
これに対して,「原査定を取り消す、本願は特許をすべきものであるとの審決を求める」ことを請求の趣旨として,平成26年2月17日付けで本件審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,同年4月21日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされた。


第2 平成26年2月17日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成26年2月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容

ア 平成26年2月17日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)の内容は,平成25年9月12日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項19の記載,

「 【請求項1】
取り外し可能なデバイスが実行する方法であって、
コンピューティングデバイスの起動プロセスの一部として、前記取り外し可能なデバイスから前記コンピューティングデバイス上に信頼できるオペレーティングシステムをロードするステップであって、前記取り外し可能なデバイスは、コンピュータ読み取り可能なメモリおよびプロセッサを備え、前記コンピュータ読み取り可能なメモリは、前記信頼できるオペレーティングシステムと、更新エージェントと、信頼できるウィルス対策ツールとを含むステップと、
前記取り外し可能なデバイスから前記信頼できるウィルス対策ツールを起動するステップと、
前記信頼できるウィルス対策ツールを用いて前記コンピューティングデバイスをスキャンするステップであって、前記信頼できるウィルス対策ツールは前記取り外し可能なデバイスから動作する、ステップと、
前記更新エージェントが、1つまたは複数の取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新を検索するステップと、
任意の取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新が探し出される場合、前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新のうちの1つまたは複数を前記取り外し可能なデバイスに書き込むステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記取り外し可能なデバイスから前記信頼できるウィルス対策ツールを起動するステップは、前記取り外し可能なデバイスから1つまたは複数のウィルスシグネチャをロードするステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記取り外し可能なデバイスから前記信頼できるウィルス対策ツールを起動するステップは、
前記コンピューティングデバイス上で1つまたは複数のウィルスシグネチャの更新を検索するステップと、
任意のウィルスシグネチャの更新が探し出される場合、前記ウィルスシグネチャの更新を認証するステップと、
前記コンピューティングデバイスをスキャンするために任意の認証されたウィルスシグネチャの更新を使用するステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記信頼できるウィルス対策ツールを用いて前記コンピューティングデバイスをスキャンするステップは、検出される任意のウィルスを除去するステップと、前記コンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記コンピューティングデバイスを再起動するステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新は、ウィルスシグネチャの更新であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新は、ウィルス対策ツールの更新であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
1つまたは複数の取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新を前記検索するステップは、前記更新エージェントによって前記取り外し可能なデバイス上において実行されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新のうちの1つまたは複数を前記取り外し可能なデバイスに書き込むステップは、
前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新を認証するステップと、
前記認証された取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新だけを前記取り外し可能なデバイスに書き込むステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記認証は、前記取り外し可能なデバイス上で認証ツールによって実施されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ポータブルデバイスであって、
外部のコンピューティングデバイスを起動するための信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントと、
前記外部のコンピューティングデバイスをスキャンするための信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントであって、当該ポータブルデバイスから動作する、信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントと、
当該ポータブルデバイスの1つまたは複数のコンポーネントを更新するための更新エージェントコンポーネントと
を含むコンピュータ可読メモリと、
前記取り外し可能なデバイスの前記コンポーネントへのアクセスを制御するためのプロセッサと
を備えることを特徴とするポータブルデバイス。
【請求項11】
前記コンピュータ可読メモリは、前記信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントによって使用されるための1つまたは複数のウィルスシグネチャをさらに備えることを特徴とする請求項10に記載のポータブルデバイス。
【請求項12】
前記更新エージェントコンポーネントは、ポータブルデバイスコンポーネントの更新を検索するように構成されていることを特徴とする請求項10に記載のポータブルデバイス。
【請求項13】
前記更新エージェントコンポーネントは、前記外部のコンピューティングデバイスおよび前記外部のコンピューティングデバイスに対してリモートのリソースのうちの少なくとも1つ上で前記ポータブルデバイスコンポーネントの更新を検索するように構成されていることを特徴とする請求項12に記載のポータブルデバイス。
【請求項14】
前記コンポーネントの更新は、1つまたは複数のウィルスシグネチャの更新を含むことを特徴とする請求項12に記載のポータブルデバイス。
【請求項15】
前記コンポーネントの更新は、1つまたは複数のウィルス対策ツールの更新を含むことを特徴とする請求項12に記載のポータブルデバイス。
【請求項16】
前記コンピュータ可読メモリは、前記更新エージェントコンポーネントによって探し出された任意のポータブルデバイスコンポーネントの更新を認証するための認証ツールをさらに含むことを特徴とする請求項12に記載のポータブルデバイス。
【請求項17】
コンピュータ読み取り可能なメモリおよびプロセッサを備える取り外し可能なデバイスであって、前記コンピュータ読み取り可能なメモリが信頼できるオペレーティングシステムとエージェントと信頼できるウィルス対策ツールとを含む取り外し可能なデバイスが実行する方法であって、
前記取り外し可能なデバイスがコンピューティングデバイスとインターフェースし、前記コンピューティングデバイスの起動プロセスの一部として、前記取り外し可能なデバイスから前記コンピューティングデバイス上に前記信頼できるオペレーティングシステムをロードするステップと、
前記取り外し可能なデバイス上に保存されるべき1つまたは複数のデータファイルを前記コンピューティングデバイス上で探し出すステップと、
前記取り外し可能なデバイス上に存在する前記信頼できるウィルス対策ツールを用いて前記データファイルをスキャンするステップであって、前記信頼できるウィルス対策ツールは前記取り外し可能なデバイスから動作する、ステップと、
前記データファイルを前記取り外し可能なデバイスに書き込むステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項18】
前記スキャンするステップは、前記ファイル内で検出される任意のウィルスを除去するステップをさらに含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記取り外し可能なデバイスは、ユニバーサルシリアルバスデバイスであることを特徴とする請求項17に記載の方法。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項各項を「本件補正前の請求項」という。)

を,

「 【請求項1】
取り外し可能なデバイスが実行する方法であって、
コンピューティングデバイスの起動プロセスの一部として、前記取り外し可能なデバイスから前記コンピューティングデバイス上に、信頼できるオペレーティングシステムをロードするステップであって、前記取り外し可能なデバイスは、コンピュータ読み取り可能なメモリおよびプロセッサを備え、前記コンピュータ読み取り可能なメモリは、前記信頼できるオペレーティングシステムと、更新エージェントと、信頼できるウィルス対策ツールとを含む、ステップと、
前記取り外し可能なデバイスから前記信頼できるウィルス対策ツールを起動するステップと、
前記信頼できるウィルス対策ツールを用いて、前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された前記コンピューティングデバイスをスキャンするステップであって、検出される任意のウィルスを除去するステップと、前記コンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記コンピューティングデバイスを再起動するステップとを含んでおり、前記信頼できるウィルス対策ツールは前記取り外し可能なデバイスから動作する、ステップと、
前記更新エージェントが、1つまたは複数の取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新を検索するステップと、
任意の前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新が探し出される場合、前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新のうちの1つまたは複数を前記取り外し可能なデバイスに書き込むステップと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記取り外し可能なデバイスから前記信頼できるウィルス対策ツールを起動するステップは、前記取り外し可能なデバイスから1つまたは複数のウィルスシグナチャをロードするステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記取り外し可能なデバイスから前記信頼できるウィルス対策ツールを起動するステップは、
前記コンピューティングデバイス上で1つまたは複数のウィルスシグナチャの更新を検索するステップと、
任意のウィルスシグナチャの更新が探し出される場合、前記ウィルスシグナチャの更新を認証するステップと、
前記コンピューティングデバイスをスキャンするために任意の認証されたウィルスシグナチャの更新を使用するステップと
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新は、ウィルスシグナチャの更新であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新は、ウィルス対策ツールの更新であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
1つまたは複数の取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新を検索する前記ステップは、前記更新エージェントによって前記取り外し可能なデバイス上に置いて実行されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新のうちの1つまたは複数を前記取り外し可能なデバイスに書き込むステップは、
前記取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新を認証するステップと、
前記認証された取り外し可能なデバイスのコンポーネントの更新だけを前記取り外し可能なデバイスに書き込むステップと
を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記認証は、前記取り外し可能なデバイス上で認証ツールによって実施されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ポータブルデバイスであって、
外部のコンピューティングデバイスを起動するための信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントと、
前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された前記外部のコンピューティングデバイスをスキャンするための信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントであって、当該ポータブルデバイスから動作する、信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントと、
当該ポータブルデバイスの1つまたは複数のコンポーネントを更新するための更新エージェントコンポーネントと、
を含むコンピュータ可読メモリと、
前記取り外し可能なデバイスの前記コンポーネントへのアクセスを制御するためのプロセッサと
を備え、
前記信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントは、検出される任意のウィルスを除去し、前記外部のコンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記外部のコンピューティングデバイスを再起動するよう動作する
ことを特徴とするポータブルデバイス。
【請求項10】
前記コンピュータ可読メモリは、前記信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントによって使用されるための1つまたは複数のウィルスシグナチャをさらに備えることを特徴とする請求項9に記載のポータブルデバイス。
【請求項11】
前記更新エージェントコンポーネントは、ポータブルデバイスコンポーネントの更新を検索するように構成されていることを特徴とする請求項9に記載のポータブルデバイス。
【請求項12】
前記更新エージェントコンポーネントは、前記外部のコンピューティングデバイスおよび前記外部のコンピューティングデバイスに対してリモートのリソースのうちの少なくとも1つ上で前記ポータブルデバイスコンポーネントの更新を検索するように構成されていることを特徴とする請求項11に記載のポータブルデバイス。
【請求項13】
前記コンポーネントの更新は、1つまたは複数のウィルスシグナチャの更新を含むことを特徴とする請求項11に記載のポータブルデバイス。
【請求項14】
前記コンポーネントの更新は、1つまたは複数のウィルス対策ツールの更新を含むことを特徴とする請求項11に記載のポータブルデバイス。
【請求項15】
前記コンピュータ可読メモリは、前記更新エージェントコンポーネントによって探し出された任意のポータブルデバイスコンポーネントの更新を認証するための認証ツールをさらに含むことを特徴とする請求項11に記載のポータブルデバイス。
【請求項16】
コンピュータ読み取り可能なメモリおよびプロセッサを備える取り外し可能なデバイスであって、前記コンピュータ読み取り可能なメモリが、信頼できるオペレーティングシステムとエージェントと信頼できるウィルス対策ツールとを含む取り外し可能なデバイスが実行する方法であって、
前記取り外し可能なデバイスがコンピューティングデバイスとインターフェースし、前記コンピューティングデバイスの起動プロセスの一部として、前記取り外し可能なデバイスから前記コンピューティングデバイス上に前記信頼できるオペレーティングシステムをロードするステップと、
前記取り外し可能なデバイス上に保存されるべき1つまたは複数のデータファイルを、前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された前記コンピューティングデバイス上で探し出すステップと、
前記取り外し可能なデバイス上に存在する前記信頼できるウィルス対策ツールを用いて前記データファイルをスキャンするステップであって、検出される任意のウィルスを除去するステップと、前記コンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記コンピューティングデバイスを再起動するステップとを含んでおり、前記信頼できるウィルス対策ツールは前記取り外し可能なデバイスから動作する、ステップと、
前記データファイルを前記取り外し可能なデバイスに書き込むステップと
を備えることを特徴とする方法。
【請求項17】
前記スキャンするステップは、前記ファイル内で検出される任意のウィルスを除去するステップをさらに含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記取り外し可能なデバイスは、ユニバーサルシリアルバスデバイスであることを特徴とする請求項16に記載の方法。」(以下,この特許請求の範囲に記載された請求項各項を「本件補正後の請求項」という。なお,下線は,補正箇所を示すものとして,出願人が付与したものである。)

に補正するものである。

イ そして,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされており,特許法第17条の2第3項の規定に適合している。また,特許法第17条の2第4項の規定にも適合している。

2 目的要件

本件補正が,特許法第17条の2第5項に規定する請求項の削除,特許請求の範囲の減縮(特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるもの(以下,単に「限定的減縮」という。)に限る。),誤記の訂正,あるいは,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれかを目的としたものであるかについて,以下に検討する。

(1)請求項1について

ア 本件補正前の請求項1を本件補正後の請求項1に変更する補正は,下記の補正事項よりなるものである。

【補正事項1】

本件補正前の請求項1の
「前記信頼できるウィルス対策ツールを用いて前記コンピューティングデバイスをスキャンするステップであって、前記信頼できるウィルス対策ツールは前記取り外し可能なデバイスから動作する、ステップ」との記載を,
本件補正後の請求項1の
「前記信頼できるウィルス対策ツールを用いて、前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された前記コンピューティングデバイスをスキャンするステップであって、検出される任意のウィルスを除去するステップと、前記コンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記コンピューティングデバイスを再起動するステップとを含んでおり、前記信頼できるウィルス対策ツールは前記取り外し可能なデバイスから動作する、ステップ」との記載に変更する補正。

イ 補正事項1の目的について検討する。

上記補正事項1は,本件補正前の請求項1が含む「コンピューティングデバイスをスキャンするステップ」に対して「前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された」及び「検出される任意のウィルスを除去するステップと、前記コンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記コンピューティングデバイスを再起動するステップとを含んでおり」との限定を加えたものであると認められる。そして,この補正によって当該発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が格別変更されるものではない。
従って,上記補正事項1の目的は,限定的減縮に該当する。

(2)請求項9について

ア 本件補正前の請求項10を本件補正後の請求項9に変更する補正は,下記の補正事項よりなるものである。

【補正事項2】

本件補正前の請求項10の
「前記外部のコンピューティングデバイスをスキャンするための信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントであって、当該ポータブルデバイスから動作する、信頼できるウィルス対策ツールコンポーネント」との記載を,
本件補正後の請求項9の
「前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された前記外部のコンピューティングデバイスをスキャンするための信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントであって、当該ポータブルデバイスから動作する、信頼できるウィルス対策ツールコンポーネント」との記載に変更する補正。

【補正事項3】

本件補正前の請求項10に記載されている「信頼できるウィルス対策ツールコンポーネント」に対して,
「前記信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントは、検出される任意のウィルスを除去し、前記外部のコンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記外部のコンピューティングデバイスを再起動するよう動作する」との限定を追加する補正。

イ 補正事項2及び補正事項3の目的について検討する。

上記補正事項2及び補正事項3は,本件補正前の請求項10が含む「信頼できるウィルス対策ツールコンポーネント」に対して,それぞれ,「前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された」及び「検出される任意のウィルスを除去し、前記外部のコンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記外部のコンピューティングデバイスを再起動するよう動作する」との限定を加えたものであると認められる。そして,これらの補正によって当該発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が格別変更されるものではない。
従って,上記補正事項2及び補正事項3の目的は,限定的減縮に該当する。

(3)請求項16について

ア 本件補正前の請求項17を本件補正後の請求項16に変更する補正は,下記の補正事項よりなるものである。

【補正事項4】

本件補正前の請求項17の
「前記取り外し可能なデバイス上に保存されるべき1つまたは複数のデータファイルを前記コンピューティングデバイス上で探し出すステップ」との記載を,
本件補正後の請求項16の
「前記取り外し可能なデバイス上に保存されるべき1つまたは複数のデータファイルを、前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された前記コンピューティングデバイス上で探し出すステップ」との記載に変更する補正。

【補正事項5】

本件補正前の請求項17の
「前記取り外し可能なデバイス上に存在する前記信頼できるウィルス対策ツールを用いて前記データファイルをスキャンするステップであって、前記信頼できるウィルス対策ツールは前記取り外し可能なデバイスから動作する、ステップ」との記載を,
本件補正後の請求項16の
「前記取り外し可能なデバイス上に存在する前記信頼できるウィルス対策ツールを用いて前記データファイルをスキャンするステップであって、検出される任意のウィルスを除去するステップと、前記コンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記コンピューティングデバイスを再起動するステップとを含んでおり、前記信頼できるウィルス対策ツールは前記取り外し可能なデバイスから動作する、ステップ」との記載に変更する補正。

イ 補正事項4及び補正事項5の目的について検討する。

上記補正事項4は,本件補正前の請求項17が含む「コンピューティングデバイス上で探し出すステップ」に対して「前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された」との限定を加えたものであり,上記補正事項5は,本件補正前の請求項17が含む「データファイルをスキャンするステップ」に対して「検出される任意のウィルスを除去するステップと、前記コンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記コンピューティングデバイスを再起動するステップとを含んでおり」との限定を加えたものであると認められる。そして,これらの補正によって当該発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が格別変更されるものではない。
従って,上記補正事項4及び補正事項5の目的は,限定的減縮に該当する。

(4)小括

したがって,本件補正の目的は,限定的減縮に該当し,特許法第17条の2第5項第2号に掲げられる事項を目的とするものであると解することができる。

3 独立特許要件

以上のように,本件補正後の請求項9に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)は,本件補正前の請求項10に対して,限定的減縮を行ったものと認められる。そこで,本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)以下に検討する。

(1)本件補正発明

本件補正発明に記載されている「前記取り外し可能なデバイス」は,「前記ポータブルデバイス」の誤記であるものと認められる。そこで,当該誤記を訂正した,次の記載のものを本件補正発明と認定して,以下の検討を行うこととする。

「ポータブルデバイスであって、
外部のコンピューティングデバイスを起動するための信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントと、
前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された前記外部のコンピューティングデバイスをスキャンするための信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントであって、当該ポータブルデバイスから動作する、信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントと、
当該ポータブルデバイスの1つまたは複数のコンポーネントを更新するための更新エージェントコンポーネントと、
を含むコンピュータ可読メモリと、
前記ポータブルデバイスの前記コンポーネントへのアクセスを制御するためのプロセッサと
を備え、
前記信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントは、検出される任意のウィルスを除去し、前記外部のコンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記外部のコンピューティングデバイスを再起動するよう動作する
ことを特徴とするポータブルデバイス。」

(2)引用文献

(2-1)引用文献1

ア 本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能とされ,原審の拒絶査定の理由である上記平成25年6月7日付けの拒絶理由通知において引用された文献である,米国特許出願公開第2007/0094654号明細書(2007年4月26日公開。以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

A 「[0023] Those skilled in and others will recognize that systems have been developed to allow diagnostics to be performed on the local computer 102 when an operating system is unable to boot or is infected with malware that is not identified by antivirus software. One way to diagnose and potentially recover from a failure or identify malware is to cause the computer to boot from a the secondary storage medium 112. For example, rescue disks have been developed and packaged with computers to assist users in diagnosing and recovering from a failure. In this regard, a user may insert a floppy disk, CD-ROM, DVD-ROM, or other storage medium into the local computer 102. In this instance, when the local computer 102 is powered on, a secondary operating system that is stored on the secondary storage medium 112 is booted and manages execution of programs on the local computer 102. As described in further detail below, the secondary operating system may cause utilities stored on the secondary storage medium 112 (e.g., rescue disks) to perform an analysis of the program code to identify a source that is corrupting the host operating system 108.」
(当審訳:[0023] 当業者等は,オペレーティングシステムが起動できない場合や,ウイルス対策ソフトウェアによって確認されないマルウェアに感染された場合に,診断ルーチンがローカルコンピュータ102上で実行されることを可能にするためのシステムが開発されていることを認識するであろう。障害を診断して回復させたり,マルウェアを特定するための一つの方法は,コンピュータを二次記憶媒体112から起動するようにさせることである。例えば,レスキューディスクは,障害からの診断と回復においてユーザを支援するために開発され,コンピュータにパッケージされた。その際,ユーザはフロッピーディスク,CD-ROM,DVD-ROM,または他の記憶媒体をローカルコンピュータ102に挿入することができる。この場合には,ローカルコンピュータ102の電源が投入されると,二次記憶媒体112上に格納されている第2オペレーティングシステムが起動され,ローカルコンピュータ102上でプログラムの実行を管理する。以下で詳細に説明するように,第2オペレーティングシステムは,二次記憶媒体112(例えば,レスキューディスク)に格納されたユーティリティに,ホスト・オペレーティングシステム108が破損されているソースを解析するためにプログラムコードの分析を行なわせることができる。)

B 「[0026] In one embodiment, aspects of the present invention provide a way to update software on "rescue disks" which may be contained on any type of medium, such as, but certainly not limited to, CD-ROM, DVD-ROM, floppy disks, USB hard drive, secondary hard disk partition and the like to recover from a failure or identify and clean a computer that is infected with malware. In this regard, when a computer is booted using a rescue disk that contains software routines implemented by the present invention, the software routines search for a source from which to obtain the most recently created software updates. For example, in the context of FIG. 1, software routines on the secondary storage medium 112 may be used to boot the computer 102 to a secondary operating system. Then utilities on the secondary storage medium 112 are used to connect the local computer 102 to the network 105 where one or more software updates may be accessed from the remote computer 104. In this instance, software updates provided by the software update system 114 that identify and clean recently identified malware is transmitted over the network 105 to the local computer 102. These software updates are used to identify the source of an infection and/or corruption on the local computer 102 and perform any corrective actions needed to boot the local computer 102 to the host operating system 108.」
(当審訳:[0026] 一実施形態において,本発明の態様は,障害から回復したり,マルウェアに感染しているコンピュータを識別して駆除するために,例えば,CD-ROM,DVD-ROM,フロッピーディスク,USBハードドライブ,第2ハードディスクパーティションといったものに限定されない,任意の種類の媒体に含むことができる「レスキューディスク」上のソフトウェアを更新するための方法を提供する。その際,本発明によって実装されたソフトウェア・ルーチンが含まれているレスキューディスクを使ってコンピュータが起動されたときに,ソフトウェアルーチンは,最後に作成したソフトウェアの更新プログラムを入手するためにソースを検索する。例えば,図1を参照すると,二次記憶媒体112上のソフトウェアルーチンは,第2オペレーティングシステムにコンピュータ102を起動するために使用することができる。その後,二次記憶媒体112上のユーティリティは,一つ以上のソフトウェアの更新をリモートコンピュータ104からアクセスできるネットワーク105にローカルコンピュータ102を接続するために使用される。この例では,最新認識されたマルウェアを識別して駆除するソフトウェア更新システムによって提供されるソフトウェアの更新は,ローカルコンピュータ104にネットワーク105を介して送信される。これらのソフトウェア更新は,ローカルコンピュータ102上の感染および/または破損の原因を特定し,ホストオペレーティングシステム108にローカルコンピュータ102をブートするために必要な任意の修正アクションを実行するために使用される。)

C 「[0028] Now with reference to FIG. 2 software components that may be included on the secondary storage medium 112 that is also depicted in FIG. 1 to identify the source of corruption and/or recover from a failure will be described. As illustrated in FIG. 2, the secondary storage medium 112 (hereinafter referred to as the "rescue disk") contains a number software components including antivirus software 200, an update routine 202, utilities 204, and a secondary operating system 206. Moreover, the antivirus software 200 depicted in FIG. 2 includes a malware cleaner 208, a scan engine 210, and a signature database 212.」
(当審訳:[0028] ここで,図2を参照すると,障害の原因を識別し,障害から回復するために,図1に示されている二次記憶媒体112に含むことができるソフトウェアコンポーネントが説明されている。図2には,二次記憶媒体112(以下,「レスキューディスク」と呼ぶ。)が,ウイルス対策ソフトウェア200,更新ルーチン202,ユーティリティ204,および第2オペレーティングシステム206等の多数のソフトウェアコンポーネントを含む態様が示されている。さらに,図2には,ウイルス対策ソフトウェア200が,マルウェア駆除208,スキャンエンジン210,および署名データベース212を含む態様が示されている。)

D 「[0029] Those skilled in the art and others will recognize that a rescue disk is typically implemented as a "bootable" image. In this regard, if a user turns on a computer when a rescue disk is inserted into a drive on the computer, the rescue disk causes the sequence of steps for "booting" the computer to be executed. During the boot process, program code that implements the secondary operating system 206 is loaded from the rescue disk into the memory of the computer. Then, control of a computer is transferred from the boot code to the secondary operating system 206 that is typically a scaled-down version of a host operating system. As such, the secondary operating system 206 manages resources of a computer for the purpose of executing application programs to identify the source and/or recover from a failure.」
(当審訳:[0029] 当業者等は,レスキューディスクが,通常,「起動可能な」イメージとして実装されていることを認識するであろう。この点に関して,ユーザがレスキューディスクをコンピュータのドライブに挿入してコンピュータの電源を投入する場合,レスキューディスクは,コンピュータの「起動」を実行するための一連のステップを実施する。起動プロセス中に,第2オペレーティングシステム206を実装するプログラムコードがコンピュータのメモリにレスキューディスクからロードされる。その後,コンピュータの制御は,一般的にホストオペレーティングシステムの縮小版である第2オペレーティングシステム206へのブートコードから伝達される。このように,第2オペレーティングシステム206は,ソースを識別し,障害から回復するために,アプリケーションプログラムを実行することを目的として,コンピュータのリソースを管理する。)

E 「[0030] In one embodiment, the secondary operating system 206 may cause the antivirus software 200 to be loaded into the memory of a computer and executed. Generally described, the antivirus software 200 searches for malware that is resident on a computer. In this regard, the antivirus software 200 includes a scan engine 210 designed to detect data that is characteristic of malware.・・・(後略)」
(当審訳:[0030] 一実施形態では,第2オペレーティングシステム206は,ウイルス対策ソフトウェア200をコンピュータのメモリにロードさせて実行してもよい。一般的に,ウイルス対策ソフトウェア200は,コンピュータ上に常駐するマルウェアを検索する。この点に関して,ウイルス対策ソフトウェア200は,マルウェアの特徴であるデータを検出するように設計されたスキャンエンジン210を含む。・・・(後略))

F 「[0037] As illustrated in FIG. 3, the update routine 202 begins at block 300 where a command to perform an update to rescue software is received. When decision block 300 is reached, an operating system associated with rescue software was booted and is available to execute programs. In one embodiment of the present invention, when the user causes a secondary operating system to boot, the user is presented with a menu that contains a plurality of selectable menu items. One of the available menu items requests input regarding whether updates to the rescue software should be obtained. In this instance, a command is generated, at block 300, when the user selects this available menu item.・・・(後略)」
(当審訳:[0037] 図3に示すように,更新ルーチン202は,レスキューソフトウェアの更新を実行するためのコマンドが受信されたブロック300で始まる。決定ブロック300に到達すると,レスキューソフトウェアと関連するオペレーティングシステムが起動され,プログラムを実行するために利用される。本発明の一実施形態では,ユーザが第2オペレーティングシステムを起動するとき,ユーザが選択可能な複数のメニュー項目を含むメニューが提示される。利用可能なメニュー項目の一つは,レスキューソフトウェアのアップデートが取得されるべきかどうかについての入力を要求する。この場合,ユーザがこの利用可能なメニュー項目を選択すると,コマンドがブロック300で生成される。・・・(後略))

イ ここで,上記引用文献1に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Cの「the secondary storage medium 112 (hereinafter referred to as the "rescue disk") contains a number software components including antivirus software 200, an update routine 202,・・・and a secondary operating system 206(二次記憶媒体112(以下,「レスキューディスク」と呼ぶ。)が,ウイルス対策ソフトウェア200,更新ルーチン202,・・・および第2オペレーティングシステム206等の多数のソフトウェアコンポーネントを含む)」との記載からすると,引用文献1には,
“第2オペレーティングシステムと,ウイルス対策ソフトウェアと,更新ルーチンと,を備えることを特徴とする二次記憶媒体”
が記載されている。

(イ)上記Aの「One way to diagnose and potentially recover from a failure or identify malware is to cause the computer to boot from a the secondary storage medium 112・・・when the local computer 102 is powered on, a secondary operating system that is stored on the secondary storage medium 112 is booted and manages execution of programs on the local computer 102(障害を診断して回復させたり,マルウェアを特定するための一つの方法は,コンピュータを二次記憶媒体112から起動するようにさせることである・・・ローカルコンピュータ102の電源が投入されると,二次記憶媒体112上に格納されている第2オペレーティングシステムが起動され,ローカルコンピュータ102上でプログラムの実行を管理する)」との記載からすると,上記(ア)で検討した「第2オペレーティングシステム」とは,
“ローカルコンピュータを起動するための第2オペレーティングシステム”
であると解される。

(ウ)上記Aの「when the local computer 102 is powered on, a secondary operating system that is stored on the secondary storage medium 112 is booted and manages execution of programs on the local computer 102(ローカルコンピュータ102の電源が投入されると,二次記憶媒体112上に格納されている第2オペレーティングシステムが起動され,ローカルコンピュータ102上でプログラムの実行を管理する)」との記載,上記Cの「the antivirus software 200・・・includes a malware cleaner 208, a scan engine 210(ウイルス対策ソフトウェア200が,マルウェア駆除208,スキャンエンジン210・・・を含む)」との記載,上記Eの「the secondary operating system 206 may cause the antivirus software 200 to be loaded into the memory of a computer and executed・・・the antivirus software 200 includes a scan engine 210 designed to detect data that is characteristic of malware(第2オペレーティングシステム206は,ウイルス対策ソフトウェア200をコンピュータのメモリにロードさせて実行してもよい・・・ウイルス対策ソフトウェア200は,マルウェアの特徴であるデータを検出するように設計されたスキャンエンジン210を含む)」との記載からすると,上記(ア)で検討した「ウイルス対策ソフトウェア」とは,
“第2オペレーティングシステムによって起動されたローカルコンピュータをスキャンするためのウイルス対策ソフトウェアであって,二次記憶媒体からロードされて実行される,ウイルス対策ソフトウェア”
であると解される。

(エ)上記Fの「the update routine 202・・・perform an update to rescue software(更新ルーチン202は,レスキューソフトウェアの更新を実行する)」との記載からすると,上記(ア)で検討した「更新ルーチン」とは,
“二次記憶媒体の1つまたは複数のソフトウェアを更新するための更新ルーチン”
であると解される。

ウ 以上,(ア)ないし(エ)で検討した事項を踏まえると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「二次記憶媒体であって,
ローカルコンピュータを起動するための第2オペレーティングシステムと,
前記第2オペレーティングシステムによって起動された前記ローカルコンピュータをスキャンするためのウイルス対策ソフトウェアであって,前記二次記憶媒体からロードされて実行される,ウイルス対策ソフトウェアと,
前記二次記憶媒体の1つまたは複数のソフトウェアを更新するための更新ルーチンと,
を備えることを特徴とする二次記憶媒体。」

(2-2)引用文献2

本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能とされ,原審の拒絶査定の理由である上記平成25年6月7日付けの拒絶理由通知において引用された文献である,米国特許出願公開第2005/0176415号明細書(2005年8月11日公開。以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。

G 「[0052] After eliminating the viruses from the virus infected computer, the BIOS is reset to recognize the secondary storage of the computer as the master boot device by automatically or manually rebooting the computer.」
(当審訳:[0052] ウイルスに感染したコンピュータからウイルスを除去した後,BIOSが自動または手動でコンピュータを再起動して,マスターブートデバイスとしてのコンピュータの二次記憶装置を認識することがリセットされる。)

(3)対比

本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「二次記憶媒体」は,上記Bに「レスキューディスク」の具体例として,「USB hard drive(USBハードドライブ)」と記載されていることから,本件補正発明の「ポータブルデバイス」に相当する。


(ア)引用発明の「ローカルコンピュータ」は,本件補正発明の「外部のコンピューティングデバイス」に相当する。
(イ)そして,引用発明の「第2オペレーティングシステム」は,ローカルコンピュータに接続して該ローカルコンピュータのウイルスチェック等を行う二次記憶媒体上に格納されているものであることから,本件補正発明の「信頼できるオペレーティングシステムコンポーネント」に相当するといえる。
(ウ)してみると,引用発明の「ローカルコンピュータを起動するための第2オペレーティングシステム」は,本件補正発明の「外部のコンピューティングデバイスを起動するための信頼できるオペレーティングシステムコンポーネント」に相当する。


(ア)引用発明の「ウイルス対策ソフトウェア」は,二次記憶媒体上に格納されているものであることから,本件補正発明の「信頼できるウィルス対策ツールコンポーネント」に相当するといえる。
(イ)してみると,引用発明の「前記第2オペレーティングシステムによって起動された前記ローカルコンピュータをスキャンするためのウイルス対策ソフトウェアであって,前記二次記憶媒体からロードされて実行される,ウイルス対策ソフトウェア」は,本件補正発明の「前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された前記外部のコンピューティングデバイスをスキャンするための信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントであって、当該ポータブルデバイスから動作する、信頼できるウィルス対策ツールコンポーネント」に相当する。


(ア)引用発明の「ソフトウェア」及び「更新ルーチン」は,それぞれ,本件補正発明の「コンポーネント」及び「更新エージェントコンポーネント」に相当する。
(イ)してみると,引用発明の「前記二次記憶媒体の1つまたは複数のソフトウェアを更新するための更新ルーチン」は,本件補正発明の「当該ポータブルデバイスの1つまたは複数のコンポーネントを更新するための更新エージェントコンポーネント」に相当する。

オ 以上から,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

[一致点]

「ポータブルデバイスであって,
外部のコンピューティングデバイスを起動するための信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントと,
前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された前記外部のコンピューティングデバイスをスキャンするための信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントであって,当該ポータブルデバイスから動作する,信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントと,
当該ポータブルデバイスの1つまたは複数のコンポーネントを更新するための更新エージェントコンポーネントと,
を備えることを特徴とするポータブルデバイス。」

[相違点1]

本件補正発明の「ポータブルデバイス」が,「信頼できるオペレーティングシステムコンポーネント」と「信頼できる信頼できるウィルス対策ツールコンポーネント」と「更新エージェントコンポーネント」とを含む「コンピュータ可読メモリ」と,「前記ポータブルデバイスの前記コンポーネントへのアクセスを制御するためのプロセッサ」とを備えるものであるのに対して,引用発明の「二次記憶媒体」は,「第2オペレーティングシステム」と「ウイルス対策ソフトウェア」と「更新ルーチン」とを含むものであるが,どのように構成されているか明記されていない点。

[相違点2]

本件補正発明の「ポータブルデバイス」は,「前記信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントは、検出される任意のウィルスを除去し、前記外部のコンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記外部のコンピューティングデバイスを再起動するよう動作する」ものであるが,引用発明の「二次記憶媒体」は,そのようなものであるか不明である点。

(4)判断

上記相違点1及び相違点2について検討する。

ア 相違点1について

(ア)上記Bに「aspects of the present invention・・・"rescue disks" which may be contained on any type of medium, such as,・・・USB hard drive(本発明の態様・・・例えば,・・・USBハードドライブ・・・任意の種類の媒体に含むことができる「レスキューディスク」)」と記載されるように,引用発明の「二次記憶媒体」の具体例として,引用文献1には,「USBハードドライブ」を使用する態様が記載されている。
(イ)そして,「USBハードドライブ」が,「コンピュータ可読メモリ」及び「USBハードドライブ内のメモリへのアクセスを制御するためのプロセッサ」を備える構成であることは,引用文献等を提示するまでもなく,当該技術分野における技術常識的事項である。
(ウ)してみると,引用発明においても,「二次記憶媒体」として,「USBハードドライブ」を採用し,当該「USBハードドライブ」が,「第2オペレーティングシステム」と「ウイルス対策ソフトウェア」と「更新ルーチン」とを含む「コンピュータ可読メモリ」と,「USBハードドライブ内のメモリへのアクセスを制御するためのプロセッサ」とを備えるように構成すること,すなわち,上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について

(ア)引用文献2(上記G等参照)に記載されるように,“ウイルスに感染したコンピュータからウイルスを除去した後,BIOSが自動でコンピュータを再起動して,マスターブートデバイスとしてのコンピュータの二次記憶装置を認識することがリセットされるようにする”技術は,本願の優先日前において,周知技術であった。
(イ)そして,上記Dに「if a user turns on a computer when a rescue disk is inserted into a drive on the computer, the rescue disk causes the sequence of steps for "booting" the computer to be executed. During the boot process, program code that implements the secondary operating system 206 is loaded from the rescue disk into the memory of the computer. Then, control of a computer is transferred from the boot code to the secondary operating system 206 that is typically a scaled-down version of a host operating system(ユーザがレスキューディスクをコンピュータのドライブに挿入してコンピュータの電源を投入する場合,レスキューディスクは,コンピュータの「起動」を実行するための一連のステップを実施する。起動プロセス中に,第2オペレーティングシステム206を実装するプログラムコードがコンピュータのメモリにレスキューディスクからロードされる。その後,コンピュータの制御は,一般的にホストオペレーティングシステムの縮小版である第2オペレーティングシステム206へのブートコードから伝達される)」と記載されるように,第2オペレーティングシステムは,ホストオペレーティングシステムの縮小版であることから,引用文献1においても,マルウェアの駆除を行った後に,ローカルコンピュータを再起動して,通常のオペレーティングシステムに戻すようにすることは,当業者が普通に実施することであると認められる。
(ウ)してみると,引用発明においても,上記周知技術を適用し,ウイルス対策ソフトウェアを実行してマルウェアの駆除を除去し,ローカルコンピュータの内部にあるBIOSを使用して当該ローカルコンピュータを再起動するように構成すること,すなわち,上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 小括

上記で検討したごとく,相違点1及び相違点2に係る構成は,いずれも当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

したがって,本件補正発明は,上記引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび

以上のように,上記「3 独立特許要件」で指摘したとおり,補正後の請求項9に記載された発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 原審査定について

1 本願発明の認定

平成26年2月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項10に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成25年9月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項10に記載された事項により特定されるものであるところ,本件補正発明と同様,本願発明においても,「前記取り外し可能なデバイス」は,「前記ポータブルデバイス」の誤記であるものと認められる。そこで,当該誤記を訂正した,次の記載のものを本願発明と認定して,以下の検討を行うこととする。

「ポータブルデバイスであって、
外部のコンピューティングデバイスを起動するための信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントと、
前記外部のコンピューティングデバイスをスキャンするための信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントであって、当該ポータブルデバイスから動作する、信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントと、
当該ポータブルデバイスの1つまたは複数のコンポーネントを更新するための更新エージェントコンポーネントと
を含むコンピュータ可読メモリと、
前記ポータブルデバイスの前記コンポーネントへのアクセスを制御するためのプロセッサと
を備えることを特徴とするポータブルデバイス。」

2 引用文献

原査定の拒絶の理由に引用された,引用文献及びその記載事項は,前記「第2 平成26年2月17日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件」の「(2)引用文献」に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は,前記「第2 平成26年2月17日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件」で検討した本件補正発明から,「前記信頼できるオペレーティングシステムコンポーネントによって起動された」及び「前記信頼できるウィルス対策ツールコンポーネントは、検出される任意のウィルスを除去し、前記外部のコンピューティングデバイスの内部にあるオペレーティングシステムを使用して前記外部のコンピューティングデバイスを再起動するよう動作する」との限定を省いたものである。

そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が,前記「第2 平成26年2月17日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3 独立特許要件」の「(3)対比」及び「(4)判断」に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記特定の限定を省いた本願発明も同様の理由により,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおり,本願の請求項10に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-04 
結審通知日 2015-06-05 
審決日 2015-06-16 
出願番号 特願2010-507569(P2010-507569)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸島 弘詩  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 田中 秀人
木村 貴俊
発明の名称 マルウェア検出のための信頼できる動作環境  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小林 泰  
代理人 中村 彰吾  
代理人 鳥居 健一  
代理人 大牧 綾子  
代理人 山本 修  
代理人 上田 忠  
代理人 大房 直樹  
代理人 松尾 淳一  
代理人 末松 亮太  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中西 基晴  

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