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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1307289
審判番号 不服2014-14919  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-30 
確定日 2015-11-06 
事件の表示 特願2012- 71676「インクジェット記録シート」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 7日出願公開、特開2013-202820〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年3月27日の出願であって、平成25年11月19日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月6日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月23日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として、同年7月30日に審判請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年7月30日に提出された手続補正書による補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年7月30日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成26年2月6日に提出された手続補正書によって補正された本件補正前(以下「本件補正前」という。)の特許請求の範囲についてするものであって、そのうち請求項5についての補正は、以下のとおりである。

(1)本件補正前の請求項5
「 支持体上の少なくとも一方の面に、一層以上のインク受理層を塗布してなるインクジェット記録シートにおいて、該インク受理層に少なくともBET比表面積が200?400m^(2)/gの合成非晶質シリカとアクリルアミド構造を有するカチオン性物質を含有し、
前記インク受理層に含有される比表面積200?400m^(2)/gの合成非晶質シリカの割合が、乾燥重量でインク受理層に占める無機顔料の内の87.5質量%以上であり、
前記インクジェット受理層の塗料液中にヒドロキシジカルボン酸、ヒドロキシトリカルボン酸又はその塩の少なくとも1種以上、及び塩化マグネシウムを含有することを特徴とするインクジェット記録シート。」

(2)本件補正により補正された請求項5(下線は補正箇所を示す。)
「 支持体上の少なくとも一方の面に、一層のインク受理層を塗布してなるインクジェット記録シートにおいて、該インク受理層に少なくともBET比表面積が200?400m^(2)/gの合成非晶質シリカとアクリルアミド構造を有するカチオン性物質を含有し、
前記インク受理層に含有される比表面積200?400m^(2)/gの合成非晶質シリカの割合が、乾燥重量でインク受理層に占める無機顔料の内の87.5質量%以上であり、
前記インクジェット受理層の塗料液中にヒドロキシジカルボン酸、ヒドロキシトリカルボン酸又はその塩の少なくとも1種以上、及び塩化マグネシウムを含有することを特徴とするインクジェット記録シート。」

2 補正の目的の適否及び新規事項の有無
上記請求項5に対する補正は、「一層以上のインク受理層」から「以上」を削除し、「インク受理層」を「一層」に限定するものである。よって、上記補正は、本件補正前の請求項5に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、本件補正の前後で請求項5に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、上記補正は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてした補正であって、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

そこで、本件補正後の請求項5に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について、以下検討する。

3 独立特許要件の検討
(1)引用例の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で「引用文献6」として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2005-271486号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

(ア)「【請求項1】
紙基材上に、少なくとも顔料および接着剤を含有するインク受理層を設けたインクジェット記録用紙において、前記紙基材のステキヒトサイズ度が110秒以上であり、該インク受理層がカチオン性インク定着剤と水溶性金属塩を含有することを特徴とするインクジェット記録用紙。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献に記載されたインクジェット記録用紙は、いずれも染料インクの発色性と保存性、顔料インクの発色性を同時に満足するとはいえず、染料インク、顔料インクのいずれを用いても優れた発色性を持ち、更に、塗膜強度を有し、白地部の保存性を満足するインクジェット記録用紙は得られていない状況である。もちろん古紙再生パルプを配合した基材を用いる場合でも同様の状況である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、染料インクおよび顔料インクのいずれに対しても発色性にも優れ、塗膜強度を有し、白地部の保存性に優れたインクジェット記録用紙を提供するものである。特に、古紙再生パルプを用いた紙基材を用いた場合でも、良好な白地部の保存性を維持するインクジェット記録用紙を提供するものである。とりわけ、塗工量の少ない60度鏡面光沢度が15%以下というマットタイプのインクジェット記録用紙において、上記品質を満足する記録用紙を提供するものである。」

(ウ)「【0024】
(インク受理層)
インク受理層は、顔料、接着剤、カチオン性インク定着剤および水溶性金属塩を少なくとも含有する。
【0025】
顔料としては、従来からインクジェット記録用シートの塗工層、インク受理層に用いられている顔料であれば特に限定されるものではなく、例えば、シリカ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、擬ベーマイト、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機顔料;アクリルあるいはメタクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、スチレン-イソプレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の樹脂からなる有機顔料が挙げられ、これらの顔料は真球状でも不定形でもよく、無孔質でも多孔質でもよい。これらの顔料は1種を用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
これらの顔料の中では、発色性、インク吸収性に優れることから、シリカ、アルミナ、擬べーマイト、軽質炭酸カルシウム、ゼオライトが好ましく選択され、なかでもシリカ、アルミナ、擬べーマイトが好ましく、シリカが最も好ましい。
【0027】
シリカとしては非晶質シリカが好ましい。シリカの製法は特に限定されるものではなく、電弧法、乾式法、湿式法(沈殿法、ゲル法)のいずれの方法で製造されたものでもよいが、湿式法シリカが、顔料インク用インクジェット記録用シート、染料インク用インクジェット記録用シートのいずれにも適しているので好ましい。」

(エ)「【0039】
一方、インク受理層に用いられるカチオン性インク定着剤としては、特に限定されるものではなく、
1)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミンなどのポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、2)第2級アミノ基、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体、3)ポリビニルアミン、ポリビニルアミジン、5員環アミジン類、4)ジシアンジアミド-ホルマリン共重合体に代表されるジシアン系カチオン樹脂、5)ジシアンジアミド-ポリエチレンアミン共重合物に代表されるポリアミン系カチオン樹脂、6)ジメチルアミン-エピクロルヒドリン共重合物、7)ジアリルジメチルアンモニウム-SO_(2)共重合物、8)ジアリルアミン塩-SO_(2)共重合物、9)ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、10)アリルアミン塩の重合物、11)ビニルベンジルトリアリルアンモニウム塩の単独重合体又は共重合体、12)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合物、13)アクリルアミド-ジアリルアミン塩共重合物、14)ポリ塩化アルミニウム、ポリ酢酸アルミニウムなどのアルミニウム塩等の一般市販されているものが挙げられ、単独あるいは数種類併用して用いられる。
【0040】
これらの中で、カチオン性インク定着剤として、アクリルアミド-ジアリルアミン共重合物と、ジシアンジアミド-ポリエチレンアミン共重合物を併用することが好ましい。アクリルアミド-ジアリルアミン共重合物と、ジシアンジアミド-ポリエチレンアミン共重合物を併用することにより、顔料インクで記録した際の発色性、染料インクで記録した際の発色性および印字部の保存性が優れるので好ましい。これらのインク定着剤を使用することにより、染料インクで印字した際の印字耐光性および印字耐ガス性(主にオゾンガス)が向上する。」

(オ)「【0047】
<実施例1>
[紙基材A]
軽質炭酸カルシウム20部を、広葉樹晒クラフトパルプ(ろ水度400mlCSF)100部のスラリー中に添加し、カチオン澱粉(王子コーンスターチ社製 商品名:エースK)1部、無水アルケニルコハク酸系中性サイズ剤(ナショナルスターチアンドケミカル社製 商品名:ファイブラン81K)0.2部を添加し、十分に混合して抄紙原料とし、長網多筒式抄紙機を用いて水分を10%まで乾燥させ、サイズプレスで酸化澱粉(王子コーンスターチ社製 商品名:エースA)100部とスチレン系の表面サイズ剤(荒川化学社製 商品名:ポリマロン360)3部からなるサイズプレス7%溶液を両面で4g/m^(2)塗布、乾燥し、水分7%まで乾燥させて米坪200g/m^(2)の紙基材Aを製造した。紙基材Aのステキヒトサイズ度は260秒であった。
【0048】
(インク受理層塗工液A)
顔料として湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX-60、二次粒子径6.2μm)100部と、接着剤としてシリル変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:R-1130)30部、インク定着剤としてアクリルアミド-ジアリルアミン共重合物(住友化学社製、商品名:SR1001)15部、およびジシアンジアミドーポリエチレンアミン共重合物(日華化学社製、商品名:ネオフィックスIJ-117)15部、塩化亜鉛水溶液(和光純薬社製:塩化亜鉛を水に溶かして5%として使用、分子量136.30)5部および水を混合分散してインク受理層塗工液Aを得た。
【0049】
(インクジェット記録体の作製)
紙基材A上に、インク受理層塗工液Aを塗工量が10g/m^(2)となるように塗工、乾燥し、インクジェット記録体を作製した。なお、得られたインクジェット記録体のインク受理層面白紙部のJIS-Z8741で規定される60度鏡面光沢度は3%であった。」

(カ)「【0066】
[白紙部の保存性(熱黄変)]
インクジェット記録用紙を、80℃50%環境下で、1週間静置させた。静置前および静置後の、インク受理層側の白紙部の黄変の度合いを下記の基準にしたがい、目視で判断した。
○:殆ど黄変していない。
△:黄変している。
×:非常に黄変している。
【0067】
[白紙部の保存性(光黄変)]
インクジェット記録用紙を、60℃50%環境下で、キセノンランプ(10万lux)で3日間照射させた。照射前および照射後の、インク受理層側の白紙部の黄変の度合いを下記の基準にしたがい目視で判断した。
○:殆ど黄変していない。
△:黄変している。
×:非常に黄変している。」

イ 上記ア(ア)?(カ)から、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「 紙基材上に、少なくとも顔料および接着剤を含有するインク受理層を設けたインクジェット記録用紙において、
前記紙基材のステキヒトサイズ度が110秒以上であり、
前記インク受理層は、顔料、接着剤、カチオン性インク定着剤および水溶性金属塩を少なくとも含有し、
前記顔料としては、シリカが好ましく、シリカとしては非晶質シリカが好ましく、
前記カチオン性インク定着剤としては、アクリルアミド-ジアリルアミン共重合物と、ジシアンジアミド-ポリエチレンアミン共重合物を併用することが好ましく、
具体的には、顔料として湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX-60、二次粒子径6.2μm)100部と、接着剤としてシリル変性ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:R-1130)30部、インク定着剤としてアクリルアミド-ジアリルアミン共重合物(住友化学社製、商品名:SR1001)15部、およびジシアンジアミドーポリエチレンアミン共重合物(日華化学社製、商品名:ネオフィックスIJ-117)15部、塩化亜鉛水溶液(和光純薬社製:塩化亜鉛を水に溶かして5%として使用、分子量136.30)5部および水を混合分散してインク受理層塗工液を得、紙基材上に、前記インク受理層塗工液を塗工量が10g/m^(2)となるように塗工、乾燥して作製した、
白紙部の保存性(熱黄変耐性及び光黄変耐性)に優れた、
インクジェット記録用紙。」
(以下「引用発明1」という。)

ウ 原査定の拒絶の理由で「引用文献12」として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2011-212990号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
3層以上の多層抄きの基紙の片面側に顔料を主体として含有するインク受容層を設け、前記基紙の反対面側にはインク受容層を設けずに基紙を剥き出しの状態とし、かつ、前記基紙全体の古紙パルプの配合割合が40質量%以上である多層抄きインクジェット用はがき用紙において、
前記基紙の層のうち、前記インク受容層と接する層を表面層、反対側の層を裏面層、該表面層と該裏面層との中間に位置する層を中間層とそれぞれ表記したとき、
(1)前記中間層が1層以上で形成され、
(2)前記中間層の古紙パルプの配合割合が80質量%以上であり、
(3)前記裏面層の古紙パルプの配合割合が20質量%未満であり、
(4)前記基紙若しくは前記インク受容層のいずれか一方又は両方に、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種以上を含有し、
(5)前記有機酸は、ジカルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸のいずれか一方又は両方である、
ことを特徴とする多層抄きインクジェット用はがき用紙。

(イ)「【0019】
したがって、本発明は、このような従来の技術が解決するに至っていない問題を解決しようとするものであり、古紙パルプを配合した多層抄きインクジェット用はがき用紙に関し、古紙パルプの配合割合を高くしても、宛名面は、夾雑物が少なく、かつ、インクジェットプリンター印字後の滲みがなく、かつ、水性ペンでの筆記性に優れ、かつ、蛍光によるバーコード読み取りの問題を生じさせず、更には、郵便番号枠、切手貼り付け枠などを油性インキで印刷した場合に、通信面のうち印刷部と接する箇所の変色が少なく、印刷強度などの印刷適性が良好な多層抄きインクジェット用はがき用紙及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは鋭意検討の結果、基紙全体での古紙パルプの配合割合を40質量%以上とした場合において、基紙を表面層、中間層及び裏面層からなる多層抄きとし、片面側だけインク受容層を設け、中間層の古紙パルプの配合割合が80質量%以上であり、かつ、特定の有機酸又はそのマグネシウム塩を使用することで、宛名面の夾雑物が少なく、宛名面の水性ペンでの筆記性に優れ、古紙パルプの配合割合を高くしても蛍光によるバーコード読み取りの問題を生じさせず、更には油性インキによる変色度合いが小さく、印刷強度などの印刷適性が良好なインクジェット用はがき用紙を完成するに至った。具体的には、本発明に係る多層抄きインクジェット用はがき用紙は、3層以上の多層抄きの基紙の片面側に顔料を主体として含有するインク受容層を設け、前記基紙の反対面側にはインク受容層を設けずに基紙を剥き出しの状態とし、かつ、前記基紙全体の古紙パルプの配合割合が40質量%以上である多層抄きインクジェット用はがき用紙において、前記基紙の層のうち、前記インク受容層と接する層を表面層、反対側の層を裏面層、該表面層と該裏面層との中間に位置する層を中間層とそれぞれ表記したとき、(1)前記中間層が1層以上で形成され、(2)前記中間層の古紙パルプの配合割合が80質量%以上であり、(3)前記裏面層の古紙パルプの配合割合が20質量%未満であり、(4)前記基紙若しくは前記インク受容層のいずれか一方又は両方に、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種以上を含有し、(5)前記有機酸は、ジカルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸のいずれか一方又は両方である、ことを特徴とする。」

(ウ)「【0039】
本実施形態に係る多層抄きインクジェット用はがき用紙は、基紙若しくはインク受容層のいずれか一方又は両方に、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種以上を含有する。油性インキが接することによって通信面が変色する機構は、解明できていないが、おそらくは、油性インキには酸化防止剤としてBHT(ブチルヒドロキシトルエン)又はその2量体、ヒドロキノン、メチル化ヒドロキノンなどを使用しているため、これらの酸化防止剤が通信面のインク受容層に含有されている資材と何らかの反応、吸着などをすることによって変色するものと推測する。有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩を含有させることによって、変色を防止できる機構は不明だが、おそらくは、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩が、変色の原因となる成分に配位して、キレート的に作用し、酸化防止剤とインク受容層の資材とが反応、吸着などをするのを防止すると推測される。例えば、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩を基紙のインク受容層又は表面層に含有させる場合には、積み重ね保管時に油性インキの変色の原因となる成分が揮発して、インク受容層又は表面層に浸透したときに、当該成分を取り込んで低活性とし、変色を防止できると推測される。また、基紙の裏面層に含有させる場合には、印刷された油性インキの変色の原因となる成分を取り込んで低活性として、放出を防止し、又は放出しても、接触する通信面の変色を防止することができると推測される。
【0040】
また、BHTは、昇華しやすく環境中の窒素酸化物(NOx)などの作用によっていくつかの誘導体が生成される。この誘導体の一部には、酸性環境下では無色であるが、アルカリ性環境下では黄色となるものがあるため、紙面pHは酸性であることが好ましい。有機酸及びそのマグネシウム塩を含有することによって、紙面pHは酸性となるため、中間層だけでなく表面層及び裏面層にも古紙の配合割合を高くすることができる。
【0041】
本実施形態に係る多層抄きインクジェット用はがき用紙では、有機酸及び該有機酸のマグネシウム塩の合計含有量が、はがき用紙全体のうち10?1000ppm(0.001?0.100質量%)であることが好ましい。より好ましくは、20?700ppmであり、特に好ましくは、50?550ppmである。10ppm未満では、油性インキとの接触による通信面の変色を抑制する効果が劣る場合がある。1000ppmを超えると、基紙の表面又は塗工層の強度が弱くなり、粉落ちなどの弊害が発生する場合がある。
【0042】
前記有機酸は、ジカルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸のいずれか一方又は両方である。ジカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸には分子量の大きいものがあるが、水への溶解性、酸解離定数の観点から、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、マロン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、タルトロン酸、マレイン酸、フマル酸などが効果的である。この中で、有機酸は、前記ジカルボン酸として(1)マロン酸、前記ヒドロキシカルボン酸として(2)リンゴ酸、(3)クエン酸、(4)酒石酸、(5)タルトロン酸、の(1)?(5)のうち少なくとも1種以上であることがより好ましい。油性インキによる変色を抑制する効果を更に高めることができる。
【0043】
本実施形態に係る多層抄きインクジェット用はがき用紙では、基紙若しくはインク受容層のいずれか一方又は両方が、更に無機酸のマグネシウム塩若しくは強酸と弱塩基とからなる塩のいずれか一方又は両方を含有が好ましい。無機酸のマグネシウム塩を別途補助的に加えることで変色抑制効果を更に高めることができる。さらに、強酸と弱塩基とからなる塩を別途補助的に加えることで、酸性側安定となるため、変色抑制効果が更に高まる。紙面pHを酸性側に、更に安定とさせることができる点で、無機酸のマグネシウム塩及び強酸と弱塩基とからなる塩を併用することが特に好ましい。なお、無機酸のマグネシウム塩を補助的に添加する場合には、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩100質量部に対して、20?300質量部とすることが好ましい。より好ましくは、50?200質量部である。また、強酸と弱塩基とからなる塩を補助的に添加する場合には、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩100質量部に対して、20?300質量部とすることが好ましい。より好ましくは、50?200質量部である。無機酸のマグネシウム塩及び強酸と弱塩基とからなる塩を併用して添加する場合には、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩100質量部に対して、合計質量で、20?300質量部とすることが好ましい。より好ましくは、50?200質量部である。無機酸のマグネシウム塩は、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムが挙げられる。この中で、塩化マグネシウムがより好ましい。強酸と弱塩基とからなる塩は、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムが挙げられる。この中で、塩化アンモニウムがより好ましい。
【0044】
本実施形態に係る多層抄きインクジェット用はがき用紙の製造方法では、基紙又はインク受容層に有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩を含有させる方法として、(1)有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種以上を添加したサイズ液を塗布する工程、(2)有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種以上の水溶液を前記基紙のいずれかの層間に噴霧する工程、(3)有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種以上を添加したインク受容層を形成するための塗工液を用いて前記インク受容層を形成する工程、のうち少なくともいずれか一つの工程を有する。本実施形態に係る多層抄きインクジェット用はがき用紙の製造方法では、前記(1)の工程、(2)の工程又は(3)の工程のうち少なくともいずれか一つの工程を有する。すなわち、(1)の工程、(2)の工程又は(3)の工程のいずれか一つの工程だけを行う形態、(1)の工程、(2)の工程及び(3)の工程の全ての工程を行う形態、(1)の工程及び(2)の工程だけを行う形態、(2)の工程及び(3)の工程だけを行う形態、(1)の工程及び(3)の工程だけを行う形態を選択することができる。この中で、少なくとも(3)の工程を含むことが、特に好ましい。インク受容層中に有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種以上を含有させることによって、変色の原因となる成分を効率的に取り込むことができ、変色抑制効果を更に高めることができる。」

(エ)「リンゴ酸、クエン酸、酒石酸及びタルトロン酸」は、いずれもヒドロキシジカルボン酸またはヒドロキシトリカルボン酸である。

エ 上記ウ(ア)ないし(エ)から、引用例2には、次の発明が記載されていると認められる。

「 3層以上の多層抄きの基紙の片面側に顔料を主体として含有するインク受容層を設けた多層抄きインクジェット用はがき用紙であり、油性インキで印刷した場合に、印刷部と接する箇所の変色が少ない、インクジェット用はがき用紙であって、
前記基紙若しくはインク受容層のいずれか一方又は両方に、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種以上を含有し、
前記有機酸は、ジカルボン酸若しくはヒドロキシカルボン酸のいずれか一方又は両方であり、
前記ヒドロキシカルボン酸として、ヒドロキシジカルボン酸またはヒドロキシトリカルボン酸である、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、タルトロン酸のうち少なくとも1種以上であることが、油性インキによる変色を抑制する効果を更に高めることができるので、より好ましく、
無機酸のマグネシウム塩を別途補助的に加えることで変色抑制効果を更に高めることができ、無機酸のマグネシウム塩は、塩化マグネシウムがより好ましく、
前記基紙又はインク受容層に有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩を含有させる方法として、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種以上を添加したインク受容層を形成するための塗工液を用いて前記インク受容層を形成する工程を含むことが、特に好ましく、
インク受容層中に有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種以上を含有させることによって、変色の原因となる成分を効率的に取り込むことができ、変色抑制効果を更に高めることができる、
インクジェット用はがき用紙。」
(以下「引用発明2」という。)

(2)対比
ア 本願補正発明と、引用発明1とを対比する
(ア)引用発明1の「紙基材」、「インク受理層」、「インクジェット記録用紙」及び「インク受理層塗工液」は、それぞれ本願補正発明の「支持体」、「インク受理層」、「インクジェット記録シート」及び「インクジェット受理層の塗料液」に相当する。
(イ)引用発明1の「湿式シリカ(トクヤマ社製、商品名:ファインシールX-60」は、BET比表面積が290m^(2)/gの非晶質シリカであり(特開2000-71601号公報の【0028】、特開平10-44603号公報の【0018】参照。)、したがって、本願補正発明の「比表面積200?400m^(2)/gの合成非晶質シリカ」に相当する。また引用発明1のインク受理層塗工液中には他の無機顔料は含まれないから、「比表面積200?400m^(2)/gの合成非晶質シリカの割合が、乾燥重量でインク受理層に占める無機顔料の内の87.5質量%以上」である。
(ウ)引用発明1の「『カチオン性インク定着剤』である『アクリルアミド-ジアリルアミン共重合物』」は、本願補正発明の「アクリルアミド構造を有するカチオン性物質」に相当する。
(エ)引用発明1では、「紙基材上に、上記インク受理層塗工液を塗工量が10g/m^(2)となるように塗工、乾燥して」インクジェット記録用紙を作製しており、インク受理層は一層である。

イ したがって、本願補正発明と引用発明1とは、
「 支持体上の少なくとも一方の面に、一層のインク受理層を塗布してなるインクジェット記録シートにおいて、該インク受理層に少なくともBET比表面積が200?400m^(2)/gの合成非晶質シリカとアクリルアミド構造を有するカチオン性物質を含有し、
前記インク受理層に含有される比表面積200?400m^(2)/gの合成非晶質シリカの割合が、乾燥重量でインク受理層に占める無機顔料の内の87.5質量%以上である、
インクジェット記録シート。」
である点で一致し、次の点で相違している。

相違点:インク受理層の塗料液中に、
本願補正発明では、「ヒドロキシジカルボン酸、ヒドロキシトリカルボ
ン酸又はその塩の少なくとも1種以上、及び塩化マグネシウムを含有する」のに対し、
引用発明1では、インク受理層塗工液が、ヒドロキシジカルボン酸、ヒドロキシトリカルボン酸又はその塩の少なくとも1種以上、及び塩化マグネシウムを含有するか、明らかでない点。

(3)検討
上記相違点について検討する。
ア 上記(1)ア(イ)で摘記したように、引用発明1は、白地部の保存性に優れたインクジェット記録用紙を提供することをその課題としており、白地性は、上記(1)ア(カ)に摘記したように、黄変の度合いにより評価している。

イ 白地部の黄変の低減を課題とする引用発明1において、記録に用いられるインキによる変色も少なくすることが好ましいことは、当業者が当然考慮すべきことである。したがって、引用発明1において、引用発明2を適用し、インク受理層に、有機酸又は該有機酸のマグネシウム塩のうち少なくとも1種と、無機酸のマグネシウム塩とを含有させ、好ましくは有機酸をリンゴ酸、クエン酸、酒石酸及びタルトロン酸のうち少なくとも1種とし、無機酸のマグネシウム塩を塩化マグネシウムとして、もって上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ そして、本願補正発明の奏する効果は、引用発明1、引用例1の記載及び引用発明2から、当業者が予測し得た範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 上記ア?ウからみて、本願補正発明は、当業者が引用発明1、引用例1の記載及び引用発明2に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
上記「第2 補正の却下の決定」のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成26年2月6日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?9によって特定されるものであるところ、そのうち、請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(1)に本件補正前の請求項5として記載したとおりのものである。

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献6及び引用文献12の記事事項は、上記第2の[理由]3(1)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、上記第2[理由]2のとおり、「インク受理層」について、本願発明の発明特定事項を限定したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]3のとおり、当業者が引用発明1、引用例1の記載及び引用発明2に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が引用発明1、引用例1の記載及び引用発明2に基づいて、当容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-07 
結審通知日 2015-09-09 
審決日 2015-09-25 
出願番号 特願2012-71676(P2012-71676)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41M)
P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 山村 浩
大瀧 真理
発明の名称 インクジェット記録シート  
代理人 上西 克礼  
代理人 虎山 一郎  
代理人 江崎 光史  
代理人 鍛冶澤 實  

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