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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1307317
審判番号 不服2014-3794  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-28 
確定日 2015-11-02 
事件の表示 特願2011-139927「A群連鎖球菌およびB群連鎖球菌由来の核酸およびタンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 1日出願公開、特開2011-239783〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、2001年(平成13年)10月29日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年10月27日 英国、2000年11月24日 英国、2001年3月7日 英国)とする特願2004-571012号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願とする特願2008-317741号の一部を、さらに特許法第44条第1項の規定により平成23年6月23日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1?21に記載された発明は、平成26年2月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。

「配列番号6298のアミノ酸配列を含むタンパク質。」

第2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願の発明の詳細な説明には、本願請求項1?23に記載された発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、この出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないという理由、及び、本願請求項1?23に記載された発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという理由である。

第3 当審の判断
1.特許法第36条第4項について
(1)本願明細書の記載
本願明細書の【0078】には、「本発明は、実施例に開示されるS.agalactiaeアミノ酸配列を含むタンパク質、および実施例に開示されるS.pyogenesアミノ酸配列を含むタンパク質を提供する。これらのアミノ酸配列は、配列番号1と10960との間の偶数である。」と記載されており、本願発明のタンパク質が、S.agalactiae、または、S.pyogenes由来のタンパク質として提供された約5500個のタンパク質のうちの1つであると認められる。
また、本願明細書の【0112】における「アミノ酸配列を同定するためのプロセスが提供され、このプロセスは、S.agalactiaeのゲノム配列内の推定オープンリーディングフレームまたはタンパク質コード領域を検索する工程を包含する。これは代表的に、開始コドンおよびその下流配列中のインフレームの終止コドンについてインシリコで配列を検索する工程を包含する。これら開始コドンと終止コドンとの間の領域が、推定タンパク質コード配列である。代表的に、全ての6個の可能性のあるリーディングフレームが検索される。このような分析のための適切なソフトウェアとしては、ORFFINDER(NCBI)、GENEMARK[Borodovsky & McIninch(1993)Computers Chem.17:122-133)、GLIMMER[Salzbergら(1998)Nucleic Acids Res.26:544-548;Salzbergら(1999)Genomics 59:24-31;Delcherら(1999)Nucleic Acids Res.27:4636-4641]、またはMarkovモデルを使用する他のソフトウェア[例えば、Shmatkovら(1999)Bioinformatics 15:874-876]が挙げられる。」との記載や、【0287】における「(配列分析)ヌクレオチド配列内のオープンリーディングフレーム(ORF)を、GLIMMERプログラム[Salzbergら(1998)Nucleic Acids Res 26:544-8]を使用して推定した。必要な場合、開始コドンを、上流のDNA配列におけるリボソーム結合部位およびプロモーター領域の存在に基づいて、手動で修正および補正した。」との記載によれば、上記約5500個のタンパク質は、プログラムを用いて推定されたオープンリーディングフレームによりコードされるものに基づくものであると認められる。
さらに、【0008】、【0096】?【0100】には、本願明細書に開示された上記約5500個のタンパク質をワクチンの開発や診断、受動免疫に用い得ることについての一般的な記載がされている。
しかしながら、実施例においては、上記約5500個のタンパク質のうち、特定のいくつかのタンパク質について、GBS血清型III COH1株に対する受動保護アッセイの結果が記載されているのみであり(【1125】?【1135】)、本願発明のタンパク質に関しては、S.agalactiae、または、S.pyogenesのいずれに由来するものであるかも明らかにされておらず、しかも、受動免疫を提供するものであること、あるいは、ワクチンとして使用できること等を含むその具体的な機能については全く示されていない。

(2)判断
化学物質に係る発明を当業者が実施することができるよう本願明細書に記載されているとされるためには、当業者であればその物質を作ることができ、かつ、使用することができるよう、本願の発明の詳細な説明に記載されていなければならない。
化学物質としてのタンパク質についていえば、どのような機能、活性があるかが本願明細書に記載され、あるいは、本願出願時の技術常識を考慮して明細書の記載から推認できなければ、その化学物質をどのように使用できるかについて記載されていないことになり、その発明について当業者がその実施ができる程度に、明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されていないことになる。
上記、第3 1.(1)において述べたとおり、発明の詳細な説明には、ワクチンの開発や診断、受動免疫に用い得ることは記載されているものの、本願発明のタンパク質に関しては、S.agalactiae、または、S.pyogenesのいずれに由来するものであるかも明らかにされておらず、受動免疫を提供するものであること、あるいは、ワクチンとして使用できること等を含むその具体的な機能については全く示されていない。そもそも、本願発明のタンパク質は、プログラムを用いて推定されたORFによりコードされるものに基づくものであり、その推定アミノ酸配列が記載されているのみであるから、S.agalactiae、または、S.pyogenesにおいて実際に存在するタンパク質であるか否かも定かではないといえる。
ここで、ある特定の微生物由来のタンパク質が、ワクチンや受動免疫を提供するために使用できるといえるためには、該タンパク質を動物に投与した場合に、該動物の体内において、感染を防ぐことができる中和抗体を誘導することができるものでなければならず、微生物由来の任意のタンパク質にそのような中和抗体を誘導する作用があるとの技術常識も存在しない。
このような本願出願時の技術常識を勘案すれば、ワクチンや受動免疫を提供するために使用できることを裏付ける具体的な記載がなければ、本願発明のタンパク質を、ワクチンや受動免疫を提供するために使用できると推認することはできない。
したがって、発明の詳細な説明に、本願発明のタンパク質について使用することができる程度に記載されているとはいえない。

(3)審判請求人の主張
審判請求人は、回答書において、本願出願後の特許出願である甲第1号証(特表2010-538634号公報(2008年9月12日出願))は、本願発明のタンパク質の優れた防御効果を確認する実験結果を示していると主張している。
しかしながら、発明の詳細な説明の記載が、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない場合に、出願後に実験データ等を提出し、それによって、発明の詳細な説明の記載内容を補充ないし拡張し、実施可能要件に適合するようにすることは、先願主義の下、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度に趣旨に反し許されるものではないから、上記請求人の主張は採用できない。

2.特許法第36条第6項第1号について
本願明細書の【0007】、【0008】等の記載からみて、本願発明の解決しようとする課題は、S.agalactiae、または、S.pyogenes感染に対する有効なワクチンの開発に使用され得るタンパク質を提供することであるといえる。
しかしながら、第3 1.で述べた本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識からみて、本願発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものでない。

第4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に記載の発明について、本願は、特許法第36条第4項及び同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2015-06-11 
結審通知日 2015-06-12 
審決日 2015-06-23 
出願番号 特願2011-139927(P2011-139927)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 潤也  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 飯室 里美
郡山 順
発明の名称 A群連鎖球菌およびB群連鎖球菌由来の核酸およびタンパク質  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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