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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 C22C |
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管理番号 | 1307596 |
審判番号 | 無効2013-800086 |
総通号数 | 193 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-01-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2013-05-17 |
確定日 | 2015-10-08 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3886785号発明「燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第3886785号(以下、「本件特許」という。)は、平成13年11月22日に特許出願されたものであって、平成18年12月1日にその設定登録がなされ、その後、当審において、以下の手続を経たものである。 審判請求 平成25年5月17日付け 審判事件答弁書 平成25年8月2日付け 訂正請求書 平成25年8月2日付け 審理事項通知書 平成25年9月6日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成25年10月29日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成25年11月12日付け 口頭審理 平成25年11月19日 審理終結通知書 平成25年11月22日付け 第2 訂正請求について 1.訂正請求の内容(下線部が訂正箇所) 訂正事項1:請求項1を以下のように訂正する。 「【請求項1】 Cr:8?35質量%,C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Mn:1.5質量%以下,S:0.008質量%以下,Si:0.8?2.5質量%及び/又はAl:0.6?6.0質量%を含み、更にNb:0.05?0.80質量%,Ti:0.03?0.50質量%,Mo:0.1?4.0質量%,Cu:0.1?4.0質量%の1種又は2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si及びAlの合計量が1.5質量%以上に調整された組成を有していることを特徴とする燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼。」 訂正事項2:請求項2を以下のように訂正する。 「【請求項2】 更にY:0.001?0.1質量%,REM(希土類元素):0.001?0.1質量%,Ca:0.001?0.01質量%の1種又は2種以上を含む請求項1記載の燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼。」 訂正事項3:【発明の名称】を以下のように訂正する。 「燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼」 訂正事項4:【0006】を以下のように訂正する。 「本発明は、従来のフェライト系ステンレス鋼をベースとし、高温水蒸気雰囲気に曝される燃料電池用石油系燃料改質器の環境を考慮して鋼組成に種々の検討を加えることにより完成されたものであり、加熱初期の酸化皮膜を強化すると共に、N,Mo,Nb等の添加によって中温?高温域での高温強度を改善し、改質器の要求特性を満足する燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。」 訂正事項5:【0007】を以下のように訂正する。 「本発明の燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼は、・・・」 訂正事項6:【0013】を以下のように訂正する。 「燃料電池用石油系燃料改質器は、・・・」 訂正事項7:【0014】を以下のように訂正する。 「以上の観点から、燃料電池用石油系燃料改質器に使用されるフェライト系ステンレス鋼の成分・組成を次のように定めた。・・・」 訂正事項8:【0022】を以下のように訂正する。 「・・・高温水蒸気酸化試験では、燃料電池用石油系燃料改質器が曝される雰囲気を想定し、・・・」 訂正事項9:【0026】を以下のように訂正する。 「・・・高温?常温の広い温度域にわたって加熱・冷却が繰り返される燃料電池用石油系燃料改質器に好適な材料として使用される。」 2.訂正の目的 訂正事項1、2の訂正は、本件発明の用途を燃料電池用に限定するものだから、特許請求の範囲の減縮にあたり(特許法第134条の2第1項第1号)、訂正事項3?9の訂正は、特許請求の範囲の記載と整合性をとるものだから、明瞭でない記載の釈明にあたる(特許法第134条の2第1項第3号)。 また、訂正前の本件特許明細書に「他方、石油系燃料から水素を回収する燃料電池用改質器では、都市ガス,アルコール系燃料に比較して改質温度が800℃以上の高温になる。しかも、水蒸気、CO_(2),SO_(2)等を含む酸化性の雰囲気に曝され、水素の需要に応じて加熱・冷却も頻繁に繰り返される。このような過酷な環境下で十分な耐久性を呈する実用的な材料は、これまでのところ報告されていない。」(【0005】)と記載されているから、訂正事項1?9の訂正は、新規事項の追加に該当せず(特許法第126条第5項、特許法第134条の2第9項)、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない(特許法第126条第6項、特許法第134条の2第9項)。 3.まとめ 以上のとおり、本件訂正請求は、認められる。 第3 本件訂正発明 本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、「本件訂正発明1、2」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の【請求項1】【請求項2】に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 Cr:8?35質量%,C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Mn:1.5質量%以下,S:0.008質量%以下,Si:0.8?2.5質量%及び/又はAl:0.6?6.0質量%を含み、更にNb:0.05?0.80質量%,Ti:0.03?0.50質量%,Mo:0.1?4.0質量%,Cu:0.1?4.0質量%の1種又は2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si及びAlの合計量が1.5質量%以上に調整された組成を有していることを特徴とする燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼。 【請求項2】 更にY:0.001?0.1質量%,REM(希土類元素):0.001?0.1質量%,Ca:0.001?0.01質量%の1種又は2種以上を含む請求項1記載の燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼。」 第4 当事者の主張および証拠方法 1.請求人の主張 請求人は、本件訂正発明1、2についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として以下の証拠を提出し、以下のとおり主張している。 (1)本件訂正発明1、2は、甲1号証に記載された発明を主引用発明として、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものであるから、特許法123条第1項第2号に該当し、本件特許を無効とすべきである。(以下、「無効理由1」という。)。 (2)本件訂正発明1、2は、甲2号証に記載された発明を主引用発明として、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものであるから、特許法123条第1項第2号に該当し、本件特許を無効とすべきである。(以下、「無効理由2」という。)。 2.請求人の証拠方法 甲1号証:特開平3-72053号公報 甲2号証:特表2001-514327号公報 甲3号証:特開平4-147944号公報 甲4号証:ステンレス鋼便覧、第3版、1995年1月24日発行、ステンレス協会編、第374?379頁、第382?385頁、第486?487頁 甲5号証:「自動車排ガス中におけるステンレス鋼の高温腐食挙動」(鉄と鋼第63年(1997)第5号736?747頁)、門智、山崎桓友、山中幹雄、吉田耕太郎、矢部克彦、小林尚 甲6号証:特開平2-82462号公報 甲7号証:特開平5-94833号公報 甲8号証:特開平5-239599号公報 甲9号証:特開2001-220106号公報 甲10号証:特開2001-316773号公報 甲11号証:特開平4-354850号公報 甲12号証:特開平3-53025号公報 甲13号証:ステンレス鋼便覧(1995)、1199?1207頁 甲14号証:HTTR水素製造システムの水蒸気改質器触媒管健全性試験(I)全体計画、試験装置の製作(受託研究)、1999年11月、日本原子力研究所、西原哲夫、高野栄 甲15号証:特開2000-169104号公報 甲16号証:特開2000-281308号公報 甲17号証:JIS使い方シリーズ ステンレス鋼の選び方、使い方、1994年3月20日、財団法人日本規格協会発行、田中良平編、第207頁 甲18号証:「大型化学プラントのプロセスエンジニアリング」、三菱重工技報Vol.33No.5(1996-9)、第310?313頁、唐崎睦範、三井直広、守田和裕 3.被請求人の主張 被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、以下のとおり主張している。 (1)本件訂正発明1、2は、甲1号証に記載された発明を主引用発明として、当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものでないから、特許法123条第1項第2号に該当せず、本件特許を無効とすべきでない。 (2)本件訂正発明1、2は、甲2号証に記載された発明を主引用発明として、当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものでないから、特許法123条第1項第2号に該当せず、本件特許を無効とすべきでない。 第5 当審の判断 1.無効理由1について (1)甲号証に記載された事項(審決注:「・・・」は記載の省略を示す。) ア.甲1号証に記載された事項 1-1 第5頁、第1表のNo.2には、C0.005重量%(以下、「重量」は省略する。)、Si0.49%、Mn0.52%、Ni0.05%未満、Cr13.27%、Al2.02%、Ti0.06%、Nb0.10%、残部Feと不可避不純物のフェライトステンレス鋼が記載されている。 1-2 第5頁、第1表のNo.13には、C0.003%、Si0.60%、Mn0.52%、Ni0.19%、Cr13.42%、Al3.96%、Ti0.05%、Nb0.10%、Y0.097%、残部Feと不可避不純物のフェライトステンレス鋼が記載されている。 1-3 「3.発明の詳細な説明 (産業上の利用分野) この発明は熱疲労特性のすぐれたフェライト系ステンレス鋼であって、例えば自動車エンジンのマニホールドなどの材料に適したフェライトステンレス鋼に関する。」(第1頁右欄第5?10行) イ.甲2号証に記載された事項 2-1 「【請求項1】 部分的にFe-Cr-Al合金の層、及び、部分的に荷重支持部材の層、さらに、適宜、他の層を複数含む複合管の製造において、重量%で、下記成分組成を有するフェライト構造のFe-Cr-Al合金を使用すること: C:0.3 %未満、 Cr:5 ?30%、 Ni:10%未満、 Mn:5 %未満、 Mo:5 %未満、 Al:3 ?20%、 Si:5 %未満、 N:0.3 %未満、 Ce+La+Hf+Y:1.0 %未満、 Ti:0 ?1.0 %、 Zr:0 ?1.0 %、 V:0 ?1.0 %、 Nb:0 ?1.0 %、及び、 残部Fe及び不可避的不純物。 ・・・ 【0001】 本発明は、水蒸気改質プラントに使用する差込み(bayonet)管、過熱器及び改質器用の管等への適用において、酸化、浸炭、及び、いわゆる“金属粉塵化(metal dusting)”に対する優れた耐性を求める要求を満たさなければならない多層複合管の製造に、フェライト系Fe-Cr-Al合金構造材料を使用することに関するものである。 【0002】 そのような外側構成部材または内側構成部材は、内側構成部材及び外側構成部材のどちらか一方が、良好な強度を有する鋼またはニッケル基合金からなる複合押出し加工管において、特に有益なものである。 また、本発明は、複合管自体にも関するものである。 複合管とは、構成部材間に、いわゆる冶金的結合を有する2層または2層以上からなる管の意味である。冶金的結合は、例えば、良好な熱伝導性を維持するために必要である。そして、複合管は、いわゆる複合押出加工により製造される。 【0003】 水蒸気改質は、いわゆる合成ガスの生成、即ち、例えば、アンモニア、メタノール及び水素ガスの生成のための一工程段階であり、そこでは、水蒸気が、水素ガスと一酸化炭素を生成するために炭化水素と混合される。 改質管とは、高温で、水蒸気と炭化水素が、完全にまたは部分的に水素ガスと一酸化炭素に転換される、触媒充填の管の意味である。」 2-2 「【0011】 実験室規模及び製造プラントでの試験は、フェライト系Fe-Cr-Al合金は、現在、水蒸気改質プラントで、通常使われている材料に比べ優れていることを示している。 本発明は、フェライト構造と下記成分組成(重量%)を有するFe-Cr-Al合金の使用を包含する。 【0012】 レベル(注1) 1 2 3 C <0.05 <0.10 <0.3 Cr 15?25 5?30 Ni <2 <5 <10 Mn <2 <5 Mo <2 <5 Al 3?7 3?12 3?20 Si <2 <5 N <0.05 <0.10 <0.3 Ce+La+ 0.00?0.5 0.000?1.0 Hf+Y(注2) Ti 0.005?0.3 0.005 ?1.0 0.000 ?1.0 Zr 0.005 ?0.5 0.005 ?1.0 0.000 ?1.0 V 0.0051?0.5 0.005 ?1.0 0.000 ?1.0 Nb 0.0051?0.5 0.005 ?1.0 0.000 ?1.0 Fe 残部(通常の不純物を除く) 注1;レベル3:適切な含有量 レベル2:好ましい含有量 レベル1:特に好ましい含有量 注2;1または1以上の元素を選択的に添加する。含有量は、これらの元素の 合計量である。 【0013】 上記合金は、複合押出加工で成形された複合管において、金属粉塵化(及び浸炭)による腐食に曝される部材を構成する。この複合管において、一方の部材は、荷重を支える部材(荷重支持部材)であり、低炭素鋼、いわゆる9-12%Cr鋼、通常のステンレス鋼、または、ニッケル基合金で構成される。どちらの部材が、外側部材を構成するか、内側部材を構成するかは、プロセスガスが、複合管の内側を流れるか、外側を流れるかによる。 【0014】 金属粉塵化と浸炭が起きる環境は、プロセスガスにおける高い炭素活量と比較的低い酸素分圧、及び、450 ?900 ℃の通常温度により特徴づけられる。 この種の腐食に対する耐性を付与するために、金属材料には、表面に保護酸化物を形成する良好な形成能を有することが求められる。主に、材料中における酸化物形成元素の含有量、及び、材料のミクロ組織が、上記形成能を決定づける要素である。 【0015】 ガス中の比較的低い酸素含有量により、3種の保護酸化物、Al酸化物、Cr酸化物及びシリカのみが、実際の雰囲気中で、実質的に形成され得る。この種の酸化物の形成を促進するArとSiを含有する鋼合金またはニッケル基合金は、延性が低いものとなり、製造が非常に困難となる。酸化物形成元素の表面への拡散は、臨界的であり、合金がフェライトを母相とするミクロ組織を有することは、実際の温度範囲において不可欠のことである。 【0016】 一方、本発明のフェライト系Fe-Cr-Al合金材料は、高温で強度が非常に低く、また、稼働中、いわゆる475 ℃脆性により脆化されてしまう。それ故、この合金材料は、機械的応力の下で稼働する機器への使用には適さない。 さらに、強度が低いことは、クリープにより容易に変形してしまうことを誘発する。そして、保護酸化物は容易に破壊されるものであるから、このことは、例えば、金属粉塵化の抑制に対し悪影響をなす。このことは、そのようなフェライト系Fe-Cr-Al合金材料は、水蒸気改質プラントにおける差込み管、過熱器及び改質器用の管として、使用され得ないことを意味する。 【0017】 複合管の形成において、耐蝕性を有するフェライト系Fe-Cr-Al合金は、通常、複合管の全肉厚の20?50%をなすが、該Fe-Cr-Al合金を、腐食性のプロセスガスに暴露するように、高強度合金へ結合することにより、金属粉塵化に対する耐性と機械的(高温)強度の両方に係る要求を満足する製品が得られる。上記複合管は、15?200 mmの外径及び 2?20 mm の全肉厚を有する。 【0018】 荷重支持部材、即ち、耐蝕性を有するフェライト系Fe-Cr-Al合金鋼が適用される部材の選択は、稼働温度と、部材の機械的応力に依存する。 荷重支持部材に対しては、強度に対する要求の他に、燃焼ガスまたは水蒸気中における酸化に対する耐性を備えることが求められる。 一般に、部材の稼動温度が高くなればなる程、酸化特性がより決定的な要因になるといわれている。 【0019】 耐酸化性は、一般に、Crを合金元素として添加することで得られる。それ故、荷重支持部材として適切な合金は、高温(≧550 ℃)では、オーステナイトステンレス鋼またはNi-Cr合金である。低温(≦550 ℃)では、低合金鋼、いわゆる 9-12%Cr鋼が、荷重支持部材として適切である。 600 ℃以上の温度で使用されるこの種の複合管に対し適切な荷重支持部材の例は、アロイ800H(Fe-30Ni-20Cr-0.4Al-0.4Ti)である。この合金は、良好なクリープ強度と構造安定性により特徴づけられ、圧力雰囲気下での使用に適している。さらに、この合金は、良好な耐酸化性を有しており、例えば、燃焼ガスに対する耐性が良好である。 【0020】 600℃以下の温度で使用されるこの種の複合管に対し適切な荷重支持部材の例は、SS142203(Fe-0.15C-9Cr-1Mo)合金である。この合金は、良好な高温強度により特徴づけられ、圧力雰囲気下での使用に適している。さらに、この合金は、良好な耐酸化性を有しており、例えば、実際の温度において、燃焼ガスに対する耐性が良好である。 【0021】 以下に、最終製品としての鋼合金における各元素の作用について説明する。各元素の作用は、含有量に係る前記レベルに従った望ましい下限値及び上限値を決めることは明らかである。 C:含有量が多すぎると、荷重支持部材に対し悪影響を及ぼす。稼動中に、該部材へCが拡散し、その結果、延性が低下する(脆化する)。・・・ 【0022】 N:含有量が多すぎると、荷重支持部材に対し悪影響を及ぼす。稼動中に、該部材へNが拡散し、その結果、延性が低下する(脆化する)。さらに、Nは、Alと窒化物を形成し、その結果、酸化物形成に必要なAlの量を低減する。 Cr:Cr含有量は、いわゆるAlの選択酸化に貢献し得るように、10%超とすべきである。含有量が多すぎると、加工性を大きく阻害する。 【0023】 Al:部材表面を覆うAl酸化物を形成するために、 3%以上のAlが必要である。 、Al含有量が多すぎると、加工上の大きな問題を生起する(脆化する結果)。 Ni:Niはオーステナイト安定化元素である。即ち、Ni含有量が多すぎると、マトリックスは、保護酸化物層を形成するのに不可欠のフェライト系マトリックスにならない。さらに、Niは、高価な合金元素であるので、含有量は低く抑制されるべきである。 【0024】 Mo:Moの含有量が高いと、高温で溶融酸化物を形成する。これは、部材の耐金属粉塵化性を低減する。また、Moは、高価な元素である。 Mn:Niと同様に、オーステナイト安定化元素である。即ち、Mn含有量が多すぎると、マトリックスは、保護酸化物層を形成するのに不可欠のフェライト系マトリックスにならない。 【0025】 Si:Si含有量が多すぎると、材質は脆くなり、その結果、加工上の大きな問題を生起する(脆化する結果)。 Ce、La、Hf、Y:これら希土類金属は、形成された酸化物層の金属表面への密着性を高めるのに寄与し、また、これにくわえ、目的とする酸化物の成長速度を低くする。含有量が多いと、高温延性(高温加工性)が阻害されるので、これら希土類金属は有害である。 【0026】 Ti、Zr、Nb、V:安定な炭化物と窒化物の析出により、延性を高める。そして、その結果、より微細な結晶粒構造が得られ、より良好な延性が得られる。 含有量が多すぎると、これら元素は、部材を脆化させ、また、部材の酸化特性を低減する。 (実施例1) スクラップを電気アーク炉で溶解し、そして、AOD転炉で精製及び脱炭する通常の方法で、表1に示す成分組成の溶鋼Aを製造し、 265×365mm の鋳片に連続鋳造した。この連鋳片を熱間圧延し、φ87mmの丸棒とした。この丸棒から、長さ250mm の素材を切りだし、これに、φ60mmの貫通孔を穿孔した。 【0027】 溶鋼Aと同じ方法で、荷重支持部材として用いる予定の、表1に示す成分組成の溶鋼Bを製造し、連鋳片とし、熱間圧延で、φ60mmの丸棒とした。この丸棒から、長さ 250mmの素材を切りだし、これに、φ20mmの貫通孔を穿孔した。 二つの挿入物は、溶鋼Aの素材の中に、溶鋼Bの素材を配置して結合された。その後、二つの部材は、1100℃で、30mmの外径と5mm の肉厚を有する管に、複合押出加工された。このようにして製造された管は、いずれも 2.5mm厚の内側部材と外側部材から構成されていた。 【0028】 冶金的結合が達成されているかが、金属顕微鏡で調査された。冶金的結合帯の強度は、曲げによって試験され、良好であることが見いだされた。そして、このことは、冶金的結合が達成されていることを確証することである。 本発明に従って製造された複合管は、今まで達成されていない、金属粉塵化に対する耐性及び充分に長い寿命を有するものである。 【0029】 表1 チャージ: A B C 0.011 0.067 Si 0.14 0.59 Mn 0.37 0.55 Cr 20.55 20.70 Ni 0.24 30.77 Mo 0.02 0.03 Al 5.4 0.49 Ti 0.006 0.49 Zr 0.006 0.49 N 0.010 0.016 V 0.03 0.05 Nb 0.01 0.01 Ce 0.013 La 0.005」 ウ.甲3号証に記載された事項 3-1 「〔産業上の利用分野〕 本発明は自動車排ガス装置、暖房器具、その他耐熱用途に使用されるAl含有フェライト系ステンレス鋼に関する。」(第1頁右欄第13?16行) 3-2 「N:本系鋼の靭性を低下させ、また、AINを形成し、異常酸化の起点になるので、0.003%以下とする。」(第3頁左下欄第3?5行) 3-3 「S:希土類元素およびY、Caなどと結合し、介在物となって鋼の表面性状を悪くする原因となるほか、耐高温酸化特性に有効な希土類元素およびY、Caなどの有効量を低減させる。この弊害は0.001%以上であると顕著であり、0.001%未満とすることによって著しく耐高温酸化性が良好になる。したがって、本発明鋼においては0.001%未満とする。」(第3頁右上欄第9?16行) 3-4 第5頁、第3表には、供試材Gとして、「C:0.014%、Si:0.34%、Mn:0.02%、P:0.025%、S:0.0007%、Cr:20.05、N:0.014%、Al:5.07%、REM:0.10%、Nb:0.19%」の成分組成及び同供試材が冷熱試験による変形がないことが記載されている。 エ.甲4号証に記載された事項 4-1 「酸化性雰囲気に水蒸気が入ると、一般にステンレス鋼の酸化速度は大きくなる。・・・これにAlを4%添加すると水蒸気の影響が抑制される。」(第379頁左欄下から第12行?下から第5行) 4-2 第384頁、表2.8には、自動車用排気管の「排ガス組成」として、「NO_(x)49ppm、H_(m)C_(n)7139ppm、CO10.0%、CO_(2)7.4%、O_(2)0.37%、H_(2)O18.8%、N_(2)とその他62.8%」が記載されている。 4-3 「高温酸化、水蒸気酸化はいずれも金属が酸化物となって損耗する現象であり、緻密で成長速度の遅い酸化被膜を優先的に生成するCr、Al、Siが有効な合金元素とされている。」(第487頁左欄第13行?16行) オ.甲5号証に記載された事項 5-1 Table1.には、「F-2」として、「C:0.015%、Si:0.16%、Mn:0.19%、P:0.021%、S:0.007%、Cr:22.15、Al:2.72%、Ti:0.48%、N:0.0134%」の成分組成を有するCr-Al系耐熱鋼が記載されている。(第177頁) 5-2 Table3.には、「F-2」に対して、自動車排ガス中の断続加熱試験が行われた「R=9」の「before burning with air」及び「after burning with air」の雰囲気組成として、それぞれ「NO_(x)49ppm、T.HC7139ppm、CO10.0%、CO_(2)7.4%、O_(2)0.37%、H_(2)O18.8%、N_(2)&others62.8%」、「NO_(x)34ppm、T.HC0ppm、CO0%、CO_(2)12.5%、O_(2)3.21%、H_(2)O13.7%、N_(2)&others70.6%」が記載されている。(第178頁) 5-3 「F-2が排ガス中で全く重量変化がない」(第181頁左欄下から第12?11行) 5-4 「材料の酸化に対しては,雰囲気の影響は著しいものがある。」(第181頁左欄下から第2?1行) カ.甲6号証に記載された事項 6-1 「3.発明の詳細な説明 [発明の目的] (産業上の利用分野) 本発明は改質装置と燃料電池とインバータとを備えて構成される燃料電池発電システムに係わり、特に本システムの負荷変化時に改質装置各部の温度変動により生じる改質装置反応管の熱疲労を低減し、改質装置の長寿命化を達成させるようにした燃料電池発電システムに関する。」(第1頁左欄第16行?右欄第4行) 6-2 「(従来の技術) ・・・この主のプラントでは改質装置の反応管頂部温度を900℃以上の高温状態で運転することが要求され、負荷変化時等に伴なう上記頂部温度の変動を極力抑制し、反応管の熱疲労を低減することが要求されてきた。」(第1頁右欄第5?15行) 6-3 「(発明が解決しようとする課題) ・・・従来の燃料電池発電システムに於いては負荷変化時などにおける改質装置反応管温度の制御性が必ずしも十分では無く、温度変動により反応管に頴苦な熱疲労が生じたり、更には反応管損傷を招くなどの問題があった。」(第2頁右上欄第3行?左下欄第3行) キ.甲7号証に記載された事項 7-1 「【0009】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述したような従来の燃料電池発電システムの運転方法においては、以下に述べるような解決すべき課題があった。即ち、燃料電池発電システムの容量がMWクラス以上の大型容量になる程、燃料改質系に含まれる改質反応管の触媒層及び高温一酸化炭素変圧器,低温一酸化炭素変圧器の触媒層の量が大きくなるため、燃料改質系の容積及び熱容量も増大する。そこで、各機器の温度が適切なレベルになるまで昇温するのに相当長時間を要する上、改質開始後に燃料改質系内の不活性循環ガスを改質ガスで完全に置換するためにさらに時間を要するので、システムの発電運転が可能となるまでの起動時間が両者合わせて6?8時間程度にもなるのが通例であり、これを短縮化することが強く求められていた。特に、週間スケジュールで起動停止を繰返すことが要求される中間負荷需要対応用の発電所として燃料電池発電システムを運用する場合、短時間の起動は不可欠のものとなっている。 【0010】燃料改質系の昇温時間を短縮する一つの手段として、昇温時の加熱源である改質器のバーナ燃焼量のみを増加させることがあるが、この場合改質反応管の温度が過大になり管及び触媒層の破損を招くという問題があるため、限界があり、大きな昇温時間の短縮に結びつかない。このことを詳しく述べれば、例えば燃料電池発電プラントのように、通常改質運転時において改質負荷量の変動が大きいものでは、この負荷変動からもたらされる改質反応管温度の変動に耐えられるように改質器の改質反応管は比較的薄い肉厚で設計される。又、改質反応管内の触媒層は、改質運転中ある特定の触媒層温度範囲で用いられることを前提に設計されている。これらの理由から、昇温中に改質器のバーナを過大に燃焼させて改質反応管および触媒層を通常の改質運転時より高い温度にさらすことは、管及び触媒層の熱疲労を増し、破損に至らしめる危険がある。従って、改質器のバーナの燃焼量増加のみに頼って昇温時間を短縮させる方法には、上述したような限界があり、必ずしも有効な手段ではなかった。」 ク.甲8号証に記載された事項 8-1 「【請求項1】炭素を0.2?0.6重量%、ケイ素を0.6重量%以下、マンガンを2.0重量%以下、クロムを20?35重量%、ニッケルを15?50重量%、ニオブを0.2?2.0重量%、チタンを0.05?0.70重量%、ジルコニウムを0.05?0.70重量%および窒素を100ppm以下を含み、かつ残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とするCr-Ni系耐熱鋼。」 8-2 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、高温でのクリーブ破断強度が高く、かつ、内部酸化抵抗性に優れたCr-Ni系耐熱鋼に関する。 【0002】 【従来の技術】石油化学プラントにおいて石油精製用水素、アンモニア、メタノール、エチレンなどの製造に用いる改質器反応管や分解炉用反応管、また燃料電池プラントにおいて燃料電池用水素の製造に用いる改質器反応管等においては、ASTM規格HK40(JIS:SCH22に相当)の25Cr-20Ni鋼やASTM規格HP(JIS:SCH24に相当)の25Cr-35Ni鋼等の耐熱鋼が広く用いられている。これらの耐熱鋼は、特に耐熱性においてすぐれているという特徴がある。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】ところで、上述の反応管類は遠心鋳造によって製造されるが、これらの耐熱鋼はクリープ破断強度が低いため、通常厚肉構造とせざるを得ない。しかし、そうすると温度変化時の熱応力が増大して、上述の反応管の使用開始・停止時の熱疲労損傷が大きくなる。このため、上述の反応管は操業温度を高くすれば収率が向上するにも拘らず、温度を収率改善のできる程度まで上昇させることが困難になるという新たな問題が生じる。また、厚肉構造は熱効率の改善、すなわち操業温度の上昇に係る燃料消費量の節減という経済性の点でも好ましくない。」 (2)甲1号証に記載された発明 甲1号証には、「C0.005%、Si0.49%、Mn0.52%、Ni0.05%未満、Cr13.27%、Al2.02%、Ti0.06%、Nb0.10%、残部Feと不可避不純物のフェライトステンレス鋼」(1-1)の発明(以下、「甲1発明1」という。)及び「C0.003%、Si0.60%、Mn0.52%、Ni0.19%、Cr13.42%、Al3.96%、Ti0.05%、Nb0.10%、Y0.097%、残部Feと不可避不純物のフェライトステンレス鋼」(1-2)(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。 (3)本件訂正発明1と甲1発明1の対比 甲1発明1と本件訂正発明1とを対比すると、甲1発明1のC0.005%、Si0.49%、Mn0.52%、Cr13.27%、Al2.02%、Ti0.06%、Nb0.10%は、本件訂正発明1のC、Mn、Cr、Si及び/又はAl、Ti、Nbの組成、Si及びAlの合計量を充足し、甲1発明1のフェライトステンレス鋼は、本件訂正発明1のフェライト系ステンレス鋼に相当する。 また、甲1発明1のNi0.05%未満は、本件訂正発明1の不可避不純物(訂正明細書【0019】)に相当する。 よって、両者は、「Cr13.27%、C0.005%、Mn0.52%、Al2.02%、Nb0.10%、Ti0.06%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si及びAlの合計量が2.51%に調整された組成を有しているフェライト系ステンレス鋼」の点で一致する。 他方、本件訂正発明1がN:0.03%以下、S:0.008%以下と規定しているのに対して、甲1発明1がこれらを規定していない点(相違点1)、本件訂正発明1が燃料電池用石油系燃料改質器用と規定しているのに対して、甲1発明1がこれらを規定していない点(相違点2)で相違する。 (4)相違点についての判断 ア.相違点1について (ア)確かに、甲3号証には、「自動車排ガス装置、暖房器具、その他耐熱用途に使用されるAl含有フェライト系ステンレス鋼」(3-1)の供試材として、S:0.0007%、N:0.014%のものが記載されると共に(3-4)、Nは、「本系鋼の靭性を低下させ、また、AINを形成し、異常酸化の起点になる」という理由で(3-2)、Sは、「希土類元素およびY、Caなどと結合し、介在物となって鋼の表面性状を悪くする原因となるほか、耐高温酸化特性に有効な希土類元素およびY、Caなどの有効量を低減させる」という理由で(3-3)、これらの上限を限定することが記載されている。 また、確かに、フェライト系ステンレス鋼において、理由は異なるものの、N、Sの上限を限定することは周知である(甲10号証【0014】【0018】、甲11号証【0018】【0016】、甲12号証第4頁左上欄第6?10行)。 しかし、本件訂正発明1に係るN、Sの上限を限定する理由が周知であるとまではいえない。 すなわち、本件訂正発明1において、Nは、燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼において「高温強度,特にクリープ特性を改善する成分」であるものの、「フェライト系ステンレス鋼に過剰添加すると加工性,低温靭性を著しく低下させる。また、TiやNbとの反応によって炭窒化物を生成しやすく、高温強度の改善に有効な固溶Tiや固溶Nbを減少させる」から、その上限を限定するものであるところ(【0014】)、かかる技術的事項が周知であるとまではいえない。 また、同じく、Sは、燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼において「熱間加工性,耐溶接高温割れ性に悪影響を及ぼす成分であり、異常酸化の起点にもなる」から上限を限定するものであるところ(【0015】)、かかる技術的事項が周知であるとまではいえない。 したがって、N、Sを規定していない甲1発明1において、上記本件訂正発明1に係るN、Sの上限を限定する理由の観点から、N、Sを規定することが容易であるとまではいえない。 (イ)なお、仮に、N、Sが甲1発明1の不可避的不純物に含まれるとしても、フェライト系ステンレス鋼のN、Sが常に必ず本件訂正発明1に係るN、Sの含有量を充たすとはいえないから(甲10号証【表1】No.EのSは、0.011%であって、本件訂正発明1に係るSの上限の0.008%を超えている。)、甲1発明1に係るN、Sが本件訂正発明1に係るN、Sと同一であるとまではいえない。 イ.相違点2について (ア)本件訂正発明1の用途発明性について 用途発明とは、ある物の未知の特性を発見し、この属性により当該物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明である。 これを本件についてみるに、本件訂正発明1は、「燃料電池用改質器では、都市ガス,アルコール系燃料に比較して改質温度が800℃以上の高温になる。しかも、水蒸気、CO_(2),SO_(2)等を含む酸化性の雰囲気に曝され、水素の需要に応じて加熱・冷却も頻繁に繰り返される。このような過酷な環境下で十分な耐久性を呈する実用的な材料は、これまでのところ報告されていない」(【0005】)という課題(以下、「高温水蒸気耐酸化性及び耐熱疲労特性」という。)をふまえ、Cr:8?35質量%,C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Mn:1.5質量%以下,S:0.008質量%以下,Si:0.8?2.5質量%及び/又はAl:0.6?6.0質量%を含み、更にNb:0.05?0.80質量%,Ti:0.03?0.50質量%,Mo:0.1?4.0質量%,Cu:0.1?4.0質量%の1種又は2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si及びAlの合計量が1.5質量%以上に調整された組成を有するフェライト系ステンレス鋼の「Cr系酸化物が安定化した酸化皮膜が表面に形成され、高温雰囲気に長時間曝された状態でも酸化皮膜が優れた環境遮断機能を呈し、高温水蒸気雰囲気下での酸化や硫化が防止される。また、組織強化により優れた熱疲労特性が維持される。そのため、過酷な高温水蒸気雰囲気下で稼動され、高温?常温の広い温度域にわたって加熱・冷却が繰り返される燃料電池用石油系燃料改質器に好適」(【0026】)であるという未知の特性を発見し、この属性により上記フェライト系ステンレス鋼が燃料電池用石油系燃料改質器への使用に適することを見いだしたことに基づく発明であると解されるから、本件訂正発明1は、いわゆる用途発明にあたる。 (イ)用途発明としての新規性について 請求項に係る発明が用途発明といえる場合には、請求項に係る発明を用途限定の観点も含めて解することが適切であるから、この場合は、たとえその物自体が既知であったとしても、請求項に係る発明は、用途発明として新規性を有し得ると解する。 ただし、未知の属性を発見したとしても、その技術分野の出願時の技術常識を考慮し、その物の用途として新たな用途を提供したといえなければ、請求項に係る発明の新規性は否定される。また、請求項に係る発明と引用発明とが、表現上の用途限定の点で相違する物の発明であっても、その技術分野の出願時の技術常識を考慮して、両者の用途を区別することができない場合は、請求項に係る発明の新規性は否定される。 これを本件についてみるに、用途発明として新規性は、物自体が既知であることを前提として判断されるところ、本件訂正発明1に係るフェライト系ステンレス鋼は、上記第5、1.(4)ア.で検討したとおり、そもそも既知ではないから、用途発明としての新規性がないとはいえない。 仮に、本件訂正発明1に係るフェライト系ステンレス鋼が既知であったとしても、フェライト系ステンレス鋼の技術分野において、本件訂正発明1に係るフェライト系ステンレス鋼が、後述するように50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性及び耐熱疲労特性を有することが出願時の技術常識であることが立証されていない本件においては、本件訂正発明1に係るフェライト系ステンレス鋼の用途として燃料電池用石油系燃料改質器という新たな用途を提供したといえ、本件訂正発明1の新規性がないとはいえないし、また、燃料電池用石油系燃料改質器用と「自動車エンジンのマニホールドなどの材料」(1-3)用は、用途として区別できるから、本件訂正発明1の新規性がないとはいえない。 (ウ)用途発明としての進歩性について 請求項に係る発明が、その物の属性に基づく新たな用途を提供したといえるものである場合でも、当該発明の属する技術分野における公知技術や技術常識を基礎として、当業者において容易に想到し得たものか否かを判断するべきであると解する。 これを本件についてみるに、確かに、甲2号証には、請求人が平成25年10月29日付け口頭審理陳述要領書で(第14頁)主張するように、水蒸気改質反応によって炭化水素から水素を生成する改質器に使用される、酸化、浸炭、金属粉塵化に対する優れた材料として、フェライト系Fe-Cr-Al合金構造材料を使用する旨が開示されているし(2-1)、フェライト系ステンレス鋼へのAlの添加により、保護酸化物が形成され、450?900℃という高温下での、プロセスガスによる腐食に対する耐性が得られる旨が開示されている(2-2【0014】)。また、甲9号証には、水蒸気改質方式における高温雰囲気中では、ステンレス鋼材に炭素が侵入する浸炭が生じ、それにより、緻密なCr酸化物が表面に形成されず、耐酸化性の劣化をもたらす旨が開示されている(【0007】【0008】)。 しかし、甲2号証の「フェライト系Fe-Cr-Al合金材料は、高温で強度が非常に低く、また、稼働中、いわゆる475 ℃脆性により脆化されてしまう。それ故、この合金材料は、機械的応力の下で稼働する機器への使用には適さない。 さらに、強度が低いことは、クリープにより容易に変形してしまうことを誘発する。そして、保護酸化物は容易に破壊されるものであるから、このことは、例えば、金属粉塵化の抑制に対し悪影響をなす。このことは、そのようなフェライト系Fe-Cr-Al合金材料は、水蒸気改質プラントにおける差込み管、過熱器及び改質器用の管として、使用され得ないことを意味する。」との記載に照らせば(2-2【0016】)、フェライト系Fe-Cr-Al合金材料は、高温強度の点で、水蒸気改質器の部材として適さないと解するのが自然である。 この点、甲2号証に記載された複合管(フェライト系Fe-Cr-Al合金構造材料と荷重支持部材から構成される。)が、水蒸気改質器に使用されるのは、「金属粉塵化(及び浸炭)による腐食に曝される部材」をフェライト系Fe-Cr-Al合金構造材料に任せ、荷重を支える部材(荷重支持部材)を「低炭素鋼、いわゆる9-12%Cr鋼、通常のステンレス鋼、または、ニッケル基合金」に任せているからであって(2-2【0017】)、フェライト系Fe-Cr-Al合金構造材料と荷重支持部材という二個の材料により水蒸気改質器に使用されると解するのが相当である。 そうすると、甲2号証に記載された複合管は、本件訂正発明1のように、高温水蒸気耐酸化性をフェライト系ステンレス鋼に含まれるSi、Al、Crによって図りつつ、耐熱疲労特性をフェライト系ステンレス鋼に含まれるNb、Ti、Mo、Cuの固溶強化や析出強化によって図るという(訂正明細書【0006】【0012】?【0014】)、一個の材料において、50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性かつ耐熱疲労特性を図るものとは、明らかに技術思想を別異にするというべきである。 また、甲9号証に記載されたステンレス鋼は、Niを多量に含むオーステナイト系ステンレス鋼に関するものであって(【請求項1】【請求項2】)、本件訂正発明1に係るフェライト系ステンレス鋼と鋼の系統を別異にするものである。 また、確かに、甲4、5号証には、請求人が平成25年10月29日付け口頭審理陳述要領書で(第14頁)主張するように、それぞれ、Si、Alの添加によりステンレス鋼の耐酸化性が向上すること、フェライト系ステンレス鋼が熱疲労特性において優れていること(4-1、4-3)、「F-2」として、Cr-Al系耐熱鋼が自動車排ガス中の断続加熱試験において優れた耐酸化性を示したこと(5-1、5-3)が、開示されている。 しかし、甲4号証の「表2.8排ガス組成」の表には、自動車用排気管の「排ガス組成」として、「H_(2)O18.8%」と記載され(4-2)、また、甲5号証のTable3.には、雰囲気組成として、「H_(2)O18.8%」、「H_(2)O13.7%」と記載され(5-2)、水蒸気の割合が50体積%よりはるかに低いところ、材料の酸化に雰囲気の影響が著しいことも併せ考慮すれば(5-4)、甲4、5号証に記載された雰囲気は、本件訂正発明1の「高温水蒸気酸化試験では、燃料電池用石油系燃料改質器が曝される雰囲気を想定し、50体積%H_(2)O+20体積%CO_(2)及び50体積%H_(2)O+10ppmSO_(2)の2種類の雰囲気」(訂正明細書【0022】)のような、H_(2)Oが50体積%までも高い高温水蒸気酸化雰囲気とはいえない。 また、確かに、甲6?8号証には、請求人が平成25年10月29日付け口頭審理陳述要領書で(第14頁)主張するように、燃料電池における水蒸気改質器の材料について、熱疲労特性が課題である旨開示されている(6-1、6-2、6-3、7-1、8-2)。 しかし、甲6?8号証に記載されたものは、いずれもフェライト系ステンレス鋼に関するものでなく、甲8号証に記載されたものにいたっては、Niを多量に含むオーステナイト系ステンレス鋼に関するものあって(8-1)、本件訂正発明1に係るフェライト系ステンレス鋼と鋼の系統を別異にするものである。 また、甲13号証には、エチレンプラント分解炉の放射管に用いられるステンレス鋼の浸炭損傷の問題が記載され(第1206頁左欄下から第6行以下の「aエチレンプラント分解炉放射管の浸炭損傷」の項)、甲17号証には、エチレンプラントにおけるナフサの分解は、水蒸気を加えて行う熱分解反応である旨が記載され(第207頁第13?15行)、甲18号証には、第312頁右欄の「4.エチレンプラント」の中の「4. 1.1要素技術」として、同頁右欄下から第4行以下に「熱分解技術は,原料炭化水素を希釈スチームと共にふく射コイルに導き,無触媒下,高温,短滞留時間にて急迫加熱し,熱分解する技術であり,エチレンプラントの心臓部とも言える最重要技術である」と記載されている。 しかし、甲13号証には、ステンレス鋼をエチレンプラント分解炉の放射管に用いることが記載されているにとどまり、フェライト系ステンレス鋼が50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性及び耐熱疲労特性を有するがゆえに、当該鋼を燃料電池用石油系燃料改質器用に用いることの記載も示唆もない。また、甲17、18号証には、単にエチレンプラントにおいて、水蒸気が用いられることが記載されているだけで、水蒸気の体積%について何ら開示がない。 さらに、甲14号証に記載されたものは、高温工学試験研究炉(HTTR)を用いたメタンを主原料とする軽質炭化水素の水蒸気改質法であって、当該炉に用いられる「材料はハステロイXRのみである」(第1頁第19行)とし、フェライト系ステンレス鋼とは別異の材料であり、また、燃料電池用石油系燃料改質器とは何ら関係のないものである。甲15号証には、石油系燃料改質器の部材で耐硫化性が課題になっている旨の記載があるにとどまるし、甲16号証には、改質器の部材について熱疲労による破損の危険性がある旨の記載があるにとどまる。 なお、甲3号証には、フェライト系ステンレス鋼が耐高温酸化性に優れた旨の記載はあるが、50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性及び耐熱疲労特性を立証するものではない。 以上のように、請求人は、フェライト系ステンレス鋼の成分組成自体、高温耐酸化性自体、耐熱疲労特性自体が別個に公知技術、技術常識であるから、フェライト系ステンレス鋼を燃料電池用石油系燃料改質器用に用いることが容易である旨の主張をしているが、フェライト系ステンレス鋼が50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性及び耐熱疲労特性を有していることの証拠は提出しておらず、また、これが出願時の技術常識でもないから、請求人の主張は採用できない。 したがって、甲2?8号証に係る公知技術、甲9?18号証に記載された技術的事項及び出願時の技術常識を基礎としても、甲1発明1に係るフェライト系ステンレス鋼を燃料電池用石油系燃料改質器用に用いることが当業者において容易に想到し得たとはいえない。 (5)本件訂正発明2と甲1発明2の対比 甲1発明2と本件訂正発明2とを対比すると、甲1発明2のC0.003%、Si0.60%、Mn0.52%、Ni0.19%、Cr13.42%、Al3.96%、Ti0.05%、Nb0.10%、Y0.097%は、本件訂正発明2のC、Mn、Cr、Si及び/又はAl、Ti、Nb、Yの組成、Si及びAlの合計量を充足し、甲1発明2のフェライトステンレス鋼は、本件訂正発明2のフェライト系ステンレス鋼に相当する。 また、甲1発明2のNi0.19%は、本件訂正発明2の不可避不純物に相当する。 よって、両者は、「Cr13.42%、C0.003%、Mn0.52%、Al3.96%、Nb0.10%、Ti0.05%、Y0.097%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si及びAlの合計量が4.56%に調整された組成を有しているフェライト系ステンレス鋼」の点で一致する。 他方、本件訂正発明2がN:0.03%以下、S:0.008%以下と規定しているのに対して、甲1発明2がこれらを規定していない点(相違点1)、本件訂正発明2が燃料電池用石油系燃料改質器用と規定しているのに対して、甲1発明2がこれらを規定していない点(相違点2)で相違する。 (6)相違点についての判断 本件訂正発明2は、本件訂正発明1に更にY:0.001?0.1%,REM(希土類元素):0.001?0.1%,Ca:0.001?0.01%の1種又は2種以上を含むものであり、これに対応して、甲1発明2も、Y:0.097%を含むものであるから、上記第5、1.(4)で記載した理由が妥当する。 (7)小括 以上より、相違点1は、実質的に相違点でないとも、甲2?18号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たともいえない。また、相違点2は、甲2?18号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たともいえない。 2.無効理由2について (1)甲号証に記載された事項 上記第5、1.(1)と同様である。 (2)甲2号証に記載された発明 甲2号証には、「C0.011%、Si0.14%、Mn0.37%、Cr20.55%、Ni0.24%、Mo0.02%、Al5.4%、Ti0.006%、Zr0.006%、N0.010%、V0.03%、Nb0.01%、Ce0.013%、La0.005%のフェライト系Fe-Cr-Al合金」(2-2【0029】)が記載され、残部がFe及び不可避的不純物からなることは明らかであるから(2-1【請求項1】「残部Fe及び不可避的不純物」)、甲2号証には、「C0.011%、Si0.14%、Mn0.37%、Cr20.55%、Ni0.24%、Mo0.02%、Al5.4%、Ti0.006%、Zr0.006%、N0.010%、V0.03%、Nb0.01%、Ce0.013%、La0.005%、残部Fe及び不可避的不純物のフェライト系Fe-Cr-Al合金」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 (3)本件訂正発明1と甲2発明の対比 甲2発明と本件訂正発明1とを対比すると、甲2発明のC0.011%、Si0.14%、Mn0.37%、Cr20.55%、Mo0.02%、Al5.4%、N0.010%、Ce0.013%、La0.005%は、本件訂正発明1のC、Mn、Cr、Mo、Al、Nの組成、Si及びAlの合計量を充足し、甲2発明のフェライト系Fe-Cr-Al合金は、本件訂正発明1のフェライト系ステンレス鋼に相当する。 また、甲2発明のNi0.24%は、本件訂正発明1の不可避不純物に相当する。 よって、両者は、Cr20.55%、C0.011%、Mn0.37%、Al5.4%、N0.010%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si及びAlの合計量が5.54%に調整された組成を有しているフェライト系ステンレス鋼の点で一致する。 他方、本件訂正発明1がS:0.008%以下と規定しているのに対して、甲2発明がこれらを規定していない点(相違点1)、甲2発明が、本件訂正発明1に含まれないZrを0.006%、Vを0.03%を含んでいる点(相違点2)、本件訂正発明1がNb0.05?0.80%、Ti0.03?0.50%、Mo0.1?4.0%と規定しているのに対して、甲2発明がNb0.01%、Ti0.006%、Mo0.02%である点(相違点3)、本件訂正発明1がCe、Laを含まないのに対して、甲2発明がCe0.013%、La0.005%を含む点(相違点4)、本件訂正発明1が燃料電池用石油系燃料改質器用と規定しているのに対して、甲2発明がこれらを規定していない点(相違点5)で相違する。 (4)相違点についての判断 ア.相違点1について 仮に、Sが甲2発明の不可避的不純物に含まれるとしても、フェライト系ステンレス鋼のSが常に必ず本件訂正発明1に係るSの含有量を充たすとはいえないから(甲10号証【表1】No.EのSは、0.011%であって、本件訂正発明1に係るSの上限の0.008%を超えている。)、甲2発明に係るSが本件訂正発明1に係るSと同一であるとまではいえない。 また、甲2発明において、熱間加工性、耐溶接高温割れ性、異常酸化の観点から(【0015】)、Sの上限を常に必ず0.008%以下にするとは限らないから(甲10号証【表1】No.EのSは、0.011%であって、本件訂正発明1に係るSの上限の0.008%を超えている。)、Sを規定していない甲2発明において、Sの上限を0.008%以下にすることが容易であるとまではいえない。 イ.相違点2について 甲2発明は、「安定な炭化物と窒化物の析出により、延性を高める。そして、その結果、より微細な結晶粒構造が得られ、より良好な延性が得られる」との理由で(2-2【0026】)、有意な成分としてZrを0.006%、Vを0.03%を含んでいる。 そうすると、甲2発明から、有意な成分であるZr、Vをあえて排除することは不合理であるというべきである。 この点、請求人は、「訂正明細書【0019】には、Zr、Vを添加してよいと記載されており、相違点にならない」と主張するが(口頭審理陳述要領書第4頁)、本件訂正発明1は、必須の成分を限定した上、「残部がFe及び不可避的不純物」と規定しており、Zr、Vが含まれないことは、明らかであるから、上記主張は採用できない。 よって、相違点2は、実質的な相違点であって、これを解消することが容易であるとはいえない。 ウ.相違点3について 甲2発明は、Ti、Nbを「含有量が多すぎると、これら元素は、部材を脆化させ、また、部材の酸化特性を低減する」との理由で(2-2【0026】)、また、Moを「含有量が高いと、高温で溶融酸化物を形成する。これは、部材の耐金属粉塵化性を低減する」との理由で(2-2【0024】)、Nb0.01%、Ti0.006%、Mo0.02%とするものである。 他方、本件訂正発明1は、フェライト系ステンレス鋼に含まれるNb、Ti、Moの固溶強化や析出強化によって耐熱疲労特性を積極的に図るものであって(訂正明細書【0006】【0013】)、Nb、Ti、Moの限定理由が異なる。 よって、相違点3を解消することが容易であるとはいえない。 エ.相違点4について 甲2発明は、Ce、Laを「形成された酸化物層の金属表面への密着性を高めるのに寄与」との理由で(2-2【0025】)、有意な成分としてCe0.013%、La0.005%を含んでいる。 そうすると、甲2発明から、有意な成分であるCe、Laをあえて排除することは不合理であるというべきである。 よって、相違点4を解消することが容易であるとはいえない。 オ.相違点5について 請求項に係る発明が、その物の属性に基づく新たな用途を提供したといえるものである場合でも、当該発明の属する技術分野における公知技術や技術常識を基礎として、当業者において容易に想到し得たものか否かを判断するべきであると解する。 これを本件について検討する。 甲2号証の「フェライト系Fe-Cr-Al合金材料は、高温で強度が非常に低く、また、稼働中、いわゆる475 ℃脆性により脆化されてしまう。それ故、この合金材料は、機械的応力の下で稼働する機器への使用には適さない。 さらに、強度が低いことは、クリープにより容易に変形してしまうことを誘発する。そして、保護酸化物は容易に破壊されるものであるから、このことは、例えば、金属粉塵化の抑制に対し悪影響をなす。このことは、そのようなフェライト系Fe-Cr-Al合金材料は、水蒸気改質プラントにおける差込み管、過熱器及び改質器用の管として、使用され得ないことを意味する。」との記載に照らせば(2-2【0016】)、フェライト系Fe-Cr-Al合金材料は、高温強度の点で、水蒸気改質器の部材として適さないと解するのが自然である。 この点、甲2号証に記載された複合管(フェライト系Fe-Cr-Al合金構造材料と荷重支持部材から構成される。)が、水蒸気改質器に使用されるのは、「金属粉塵化(及び浸炭)による腐食に曝される部材」をフェライト系Fe-Cr-Al合金構造材料に任せ、荷重を支える部材(荷重支持部材)を「低炭素鋼、いわゆる9-12%Cr鋼、通常のステンレス鋼、または、ニッケル基合金」に任せているからであって(2-2【0017】)、フェライト系Fe-Cr-Al合金構造材料と荷重支持部材という二個の材料により水蒸気改質器に使用されると解するのが相当である。 そうすると、甲2号証に記載された複合管は、本件訂正発明1のように、高温水蒸気耐酸化性をフェライト系ステンレス鋼に含まれるSi、Al、Crによって図りつつ、耐熱疲労特性をフェライト系ステンレス鋼に含まれるNb、Ti、Mo、Cuの固溶強化や析出強化によって図るという(訂正明細書【0006】【0012】?【0014】)、一個の材料において、50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性かつ耐熱疲労特性を図るものとは、明らかに技術思想を別異にするというべきである。 また、甲2発明が50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性かつ耐熱疲労特性を有するとの証拠はない。 よって、甲2発明を50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性かつ耐熱疲労特性が必要な燃料電池用石油系燃料改質器に転用することが容易であるとはいえない。 また、甲4、5号証には、Si、Alの添加によりステンレス鋼の耐酸化性が向上すること、フェライト系ステンレス鋼が熱疲労特性において優れていること(4-1、4-3)、「F-2」として、Cr-Al系耐熱鋼が自動車排ガス中の断続加熱試験において優れた耐酸化性を示したこと(5-1、5-3)が、開示されている。 しかし、甲4号証の「表2.8排ガス組成」の表には、自動車用排気管の「排ガス組成」として、「H_(2)O18.8%」と記載され(4-2)、また、甲5号証のTable3.には、雰囲気組成として、「H_(2)O18.8%」、「H_(2)O13.7%」と記載され(5-2)、水蒸気の割合が50体積%よりはるかに低いところ、材料の酸化に雰囲気の影響が著しいことも併せ考慮すれば(5-4)、甲4、5号証に記載された雰囲気は、本件訂正発明1の「高温水蒸気酸化試験では、燃料電池用石油系燃料改質器が曝される雰囲気を想定し、50体積%H_(2)O+20体積%CO_(2)及び50体積%H_(2)O+10ppmSO_(2)の2種類の雰囲気」(本願明細書【0022】)のような、H_(2)Oが50体積%までも高い高温水蒸気酸化雰囲気とはいえない。 また、甲1、3号証には、フェライト系ステンレス鋼が熱疲労特性に優れていることが記載されてはいるが(1-3、3-4)、50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性については記載も示唆もない。 さらに、確かに、甲6?8号証には、燃料電池における水蒸気改質器の材料について、熱疲労特性が課題である旨開示されている(6-1、6-2、6-3、7-1、8-2)。 しかし、甲6?8号証に記載されたものは、いずれもフェライト系ステンレス鋼に関するものでなく、まして、50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性については記載も示唆もなく、甲8号証に記載されたものにいたっては、Niを多量に含むオーステナイト系ステンレス鋼に関するものあって(8-1)、本件訂正発明1に係るフェライト系ステンレス鋼と鋼の系統を別異にするものである。 なお、甲9号証に記載されたステンレス鋼は、Niを多量に含むオーステナイト系ステンレス鋼に関するものあって(【請求項1】【請求項2】)、本件訂正発明1に係るフェライト系ステンレス鋼と鋼の系統を別異にするものである。 また、甲13号証には、エチレンプラント分解炉の放射管に用いられるステンレス鋼の浸炭損傷の問題が記載され(第1206頁左欄下から第6行以下の「aエチレンプラント分解炉放射管の浸炭損傷」の項)、甲17号証には、エチレンプラントにおけるナフサの分解は、水蒸気を加えて行う熱分解反応である旨が記載され(第207頁第13?15行)、甲18号証には、第312頁右欄の「4.エチレンプラント」の中の「4. 1.1要素技術」として、同頁右欄下から第4行以下に「熱分解技術は,原料炭化水素を希釈スチームと共にふく射コイルに導き,無触媒下,高温,短滞留時間にて急迫加熱し,熱分解する技術であり,エチレンプラントの心臓部とも言える最重要技術である」と記載されている。 しかし、甲13号証には、ステンレス鋼をエチレンプラント分解炉の放射管に用いることが記載されているにとどまり、フェライト系ステンレス鋼が50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性及び耐熱疲労特性を有するがゆえに、当該鋼を燃料電池用石油系燃料改質器用に用いることの記載も示唆もない。また、甲17、18号証には、単にエチレンプラントにおいて、水蒸気が用いられることが記載されているだけで、水蒸気の体積%について何ら開示がない。 さらに、甲14号証に記載されたものは、高温工学試験研究炉(HTTR)を用いたメタンを主原料とする軽質炭化水素の水蒸気改質法であって、当該炉に用いられる「材料はハステロイXRのみである」(第1頁第19行)とし、フェライト系ステンレス鋼と別異の材料であり、また、燃料電池用石油系燃料改質器とは何ら関係のないものである。甲15号証には、石油系燃料改質器の部材で耐硫化性が課題になっている旨の記載があるにとどまるし、甲16号証には、改質器の部材について熱疲労による破損の危険性がある旨の記載があるにとどまる。 なお、甲3号証には、フェライト系ステンレス鋼が耐高温酸化性に優れた旨の記載はあるが、50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性及び耐熱疲労特性を立証するものではない。 以上のように、請求人は、フェライト系ステンレス鋼の成分組成自体、高温耐酸化性自体、耐熱疲労特性自体が別個に公知技術、技術常識であるから、フェライト系ステンレス鋼を燃料電池用石油系燃料改質器用に用いることが容易である旨の主張をしているが、フェライト系ステンレス鋼が50体積%H_(2)Oのような雰囲気下での高温水蒸気耐酸化性及び耐熱疲労特性を有することの証拠は提出しておらず、また、これが出願時の技術常識でもないから、請求人の主張は採用できない。 したがって、甲1、3?8号証に係る公知技術、甲9?18号証に記載された技術的事項及び出願時の技術常識を基礎としても、甲2発明に係るフェライト系ステンレス鋼を燃料電池用石油系燃料改質器用に用いることが当業者において容易に想到し得たとはいえない。 (5)本件訂正発明2と甲2発明の対比 甲2発明と本件訂正発明2とを対比すると、甲2発明のC0.011%、Si0.14%、Mn0.37%、Cr20.55%、Mo0.02%、Al5.4%、N0.010%、Ce0.013%、La0.005%は、本件訂正発明1のC、Mn、Cr、Mo、Al、N、REM(希土類元素)の組成、Si及びAlの合計量を充足し、甲2発明のフェライト系Fe-Cr-Al合金は、本件訂正発明1のフェライト系ステンレス鋼に相当する。 また、甲2発明のNi0.24%は、本件訂正発明2の不可避不純物に相当する。 よって、両者は、「Cr20.55%、C0.011%、Mn0.37%、Al5.4%、N0.010%、Ce0.013%、La0.005%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si及びAlの合計量が5.54%に調整された組成を有しているフェライト系ステンレス鋼」の点で一致する。 他方、本件訂正発明2がS:0.008%以下と規定しているのに対して、甲2発明がこれらを規定していない点(相違点1)、甲2発明が、本件訂正発明2に含まれないZrを0.006%、Vを0.03%を含んでいる点(相違点2)、本件訂正発明2がNb0.05?0.80%、Ti0.03?0.50%、Mo0.1?4.0%と規定しているのに対して、甲2発明がNb0.01%、Ti0.006%、Mo0.02%である点(相違点3)、本件訂正発明2が燃料電池用石油系燃料改質器用と規定しているのに対して、甲2発明がこれらを規定していない点(相違点4)で相違する。 (6)相違点についての判断 本件訂正発明2は、本件訂正発明1に更にY:0.001?0.1質量%,REM(希土類元素):0.001?0.1質量%,Ca:0.001?0.01質量%の1種又は2種以上を含むものであり、上記第5、2.(4)で記載した相違点1?3、5に係る理由が妥当する。 (7)小括 以上より、相違点1?4は、甲1、3?18号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たとはいえない。 第6 まとめ 以上のとおり、本件訂正発明1、2は、特許法第29条第2項により、特許を受けることができないものでないから、本件特許は、特許法123条第1項第2号に該当せず、無効とされるべきものではない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 Cr:8?35質量%,C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Mn:1.5質量%以下,S:0.008質量%以下,Si:0.8?2.5質量%及び/又はAl:0.6?6.0質量%を含み、更にNb:0.05?0.80質量%,Ti:0.03?0.50質量%,Mo:0.1?4.0質量%,Cu:0.1?4.0質量%の1種又は2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si及びAlの合計量が1.5質量%以上に調整された組成を有していることを特徴とする燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼。 【請求項2】 更にY:0.001?0.1質量%,REM(希土類元素):0.001?0.1質量%,Ca:0.001?0.01質量%の1種又は2種以上を含む請求項1記載の燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、ガソリン,ナフサ,灯油,LPG等の石油系燃料を水素に改質する際に使用される改質器の要求特性を満足するフェライト系ステンレス鋼に関する。 【0002】 【従来の技術】 各種化学工業分野における基礎原料,燃料電池用燃料,熱処理雰囲気用等、広範な用途に使用される水素は、石油,アルコール等の燃料を分解することにより製造している。たとえば、石油精製プラントでは、大型で連続運転される水素発生装置が使用されている。従来の水素発生装置は、ナフサや天然ガスを原料とし、水蒸気改質反応によって水素を製造している。 最近では、燃料電池用水素を得るために、各種改質器の開発が急ピッチで進められている。燃料電池用改質器としては、複数の反応管を容器に収容した多管式,大径の反応管をもつ単管式等が知られている。 【0003】 たとえば、単管式改質器では、内壁1a,外壁1bをもつ二重管からなる反応管1に触媒を充填し、適宜の仕切りによって第1触媒層2a,第2触媒層2bを形成している(図1)。第1触媒層2aと第2触媒層2bとの間に内側流路3a,外側流路3bをもつ改質ガス取出し管3を配置し、第1触媒層2aを内側流路3aに,第2触媒層2bを外側流路3bに連通させる。反応管1は全体がハウジング4で取り囲まれ、ハウジング4の一側壁に原料ガス供給管5が設けられ、外側流路3bに連通する合流管3cが他側壁から系外に延びている。ハウジング4の底部には、バーナ燃料f,燃焼空気oが供給され、反応管1の内壁1aで区画される内部空洞にフレームFを送り込むバーナ6が設けられている。 【0004】 原料ガスRGは、改質用水蒸気と共に反応管1内に送り込まれ、第1触媒層2a→内側流路3a→第2触媒層2b→外側流路3b→合流管3cの経路で流れる。フレームFで内側から加熱されている第1触媒層2a,第2触媒層2bを原料ガスRGが通過する際に、改質反応(たとえば、C_(3)H_(8)+3H_(2)O=3CO+7H_(2)),シフト反応(CO+H_(2)O=CO_(2)+H_(2))等により水素が生成する。水素は、改質取出し管から改質ガスとして直接回収され、或いはPd-Ag,Ta等の水素透過膜を用いた選択透過法で改質ガスPGから分離回収される。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 石油精製プラントの水素発生装置は、高温で連続運転されることから優れた高温クリープ強度が要求される。また、CO_(2),SO_(2)等を含む水蒸気雰囲気に曝される。そのため、HK40(25Cr-20Ni-0.4C)を始めとする耐熱合金製の遠心鋳造管が水素発生装置の構造材に使用されている。 他方、石油系燃料から水素を回収する燃料電池用改質器では、都市ガス,アルコール系燃料に比較して改質温度が800℃以上の高温になる。しかも、水蒸気、CO_(2),SO_(2)等を含む酸化性の雰囲気に曝され、水素の需要に応じて加熱・冷却も頻繁に繰り返される。このような過酷な環境下で十分な耐久性を呈する実用的な材料は、これまでのところ報告されていない。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明は、従来のフェライト系ステンレス鋼をベースとし、高温水蒸気雰囲気に曝される燃料電池用石油系燃料改質器の環境を考慮して鋼組成に種々の検討を加えることにより完成されたものであり、加熱初期の酸化皮膜を強化すると共に、N,Mo,Nb等の添加によって中温?高温域での高温強度を改善し、改質器の要求特性を満足する燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。 【0007】 本発明の燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼は、その目的を達成するため、Cr:8?35質量%,C:0.03質量%以下,N:0.03質量%以下,Mn:1.5質量%以下,S:0.008質量%以下,Si:0.8?2.5質量%及び/又はAl:0.6?6.0質量%を含み、更にNb:0.05?0.80質量%,Ti:0.03?0.50質量%,Mo:0.1?4.0質量%,Cu:0.1?4.0質量%の1種又は2種以上を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Si及びAlの合計量が1.5質量%以上に調整された組成を有していることを特徴とする。 【0008】 このフェライト系ステンレス鋼は、更にY:0.001?0.1質量%,REM(希土類元素):0.001?0.1質量%,Ca:0.001?0.01質量%の1種又は2種以上を含むことができる。 【0009】 【作用】 SUS430やSUH409Lに代表されるフェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼に比較すると熱疲労特性に優れているものの、多量の水蒸気を含む改質器の高温雰囲気に曝されると、水蒸気酸化が容易に進行する。また、加熱・冷却が頻繁に繰り返される改質器にあっては、より一層の優れた熱疲労特性が要求される。そこで、本発明者等は、水蒸気酸化及び熱疲労の発生メカニズムを材質面から検討し、SUS430をベースとして種々の合金成分を添加し、添加合金成分が水蒸気酸化及び熱疲労に及ぼす影響を調査した。 【0010】 高温雰囲気における水蒸気酸化は大気酸化よりも損傷が大きい。水蒸気酸化機構は必ずしも明らかでない。水蒸気酸化は水蒸気が酸素及び水素に解離して酸化反応を促進させ、水蒸気が鋼素地に直接到達して酸化を促進させること等によって生じる現象であり、結果としてスケール剥離に由来する配管系統の目詰りや鋼素地の減肉に起因する変形,穴開き等のトラブルが発生する。 【0011】 この水蒸気酸化は、ステンレス鋼表面に生成するCr系酸化物を主体とする酸化皮膜を安定化することによって抑制できる。加熱によりステンレス鋼表面に生成する酸化皮膜は、ステンレス鋼に耐酸化性を付与するものであり、800℃程度の高温雰囲気にあっては8質量%以上のCr含有量で耐酸化性の向上が顕著となる。しかし、鋼素地が高温水蒸気雰囲気に曝されると、酸化皮膜中に生成するCr系酸化物が少量に留まり、Cr-Mn-Fe系のスピネル構造をもつ酸化物が多量に生成するため、酸化皮膜がポーラスになる。その結果、酸化皮膜を透過して下地鋼に到達する水蒸気,CO_(2),SO_(2)等の腐食性成分が多くなり、下地鋼の水蒸気酸化や硫化が進行する。 【0012】 そこで、Si,Al添加によってCr系酸化物を安定化させることにより、耐水蒸気酸化性,耐硫化性を改善する。Si,Alは、Cr系酸化物の内層にSi,Alの酸化物を形成し,酸化皮膜を強化する。また、Si添加によって鋼中のCr拡散が促進され、Cr系酸化物が生成しやすくなり、結果としてCr系酸化物が安定した酸化皮膜によって腐食性成分の透過が抑制されることに起因するものと推察される。 Y,REM,Caの添加も耐水蒸気酸化性,耐硫化性の改善に有効である。Y,REM,Caは、酸化皮膜のCr系酸化物に固溶し、酸化皮膜を強化することによって腐食性成分の透過を抑制するものと推察される。 【0013】 燃料電池用石油系燃料改質器は、稼動,非稼動に応じて常温から900℃前後の高温に至る温度域で加熱・冷却される。そのため、加熱・冷却の繰返しによって蓄積される熱疲労も大きくなる。この点、石油精製プラントの大型水素発生装置は高温で連続運転されることから、高温クリープ特性に優れた材料の使用によって問題が解決されるが、加熱・冷却が繰り返される改質器には同様な手段を適用できない。 熱疲労特性の改善には、ステンレス鋼の高温強度を高めることが有効な手段である。本発明では、Nb,Ti,Mo,Cuの1種又は2種以上を添加することによって高温強度,ひいては熱疲労特性を改善している。Mo,Cuは固溶強化、Nb,Tiは固溶強化や析出強化によって熱疲労特性を改善する。 【0014】 以上の観点から、燃料電池用石油系燃料改質器に使用されるフェライト系ステンレス鋼の成分・組成を次のように定めた。 Cr:8?35質量% ステンレス鋼に必要な耐食性,耐酸化性を付与する上で必要な合金成分である。800℃前後における高温耐酸化性を確保するためには、8質量%以上のCrが必要である。しかし、35質量%を超える過剰量のCrが含まれると、フェライト系ステンレス鋼の加工性,低温靭性が低下する。 C,N:0.03質量%以下 高温強度,特にクリープ特性を改善する成分であるが、フェライト系ステンレス鋼に過剰添加すると加工性,低温靭性を著しく低下させる。また、TiやNbとの反応によって炭窒化物を生成しやすく、高温強度の改善に有効な固溶Tiや固溶Nbを減少させる。したがって、本成分系ではC,N含有量は少ないほど好ましく、共に上限を0.03質量%に設定した。 【0015】 Mn:1.5質量%以下 フェライト系ステンレス鋼の耐スケール剥離性を向上させる成分であるが、1.5質量%を超える過剰量のMnが含まれると鋼材が硬質化し、加工性,低温靭性が低下する。高レベルの加工性,低温靭性を確保する上では、Mn含有量の上限を0.5質量%にすることが好ましい。 S:0.008質量%以下 熱間加工性,耐溶接高温割れ性に悪影響を及ぼす成分であり、異常酸化の起点にもなる。そのため、S含有量は可能な限り低くすることが好ましく、上限を0.008質量%に設定した。 【0016】 Si:0.8?2.5質量% Cr系酸化物の安定化に有効な合金成分であり、0.8質量%以上の含有量でSiの添加効果が顕著になる。しかし、2.5質量%を超える過剰量のSiが含まれると、加工性,特に延性を著しく低下させ、低温靭性も低下する。また、鋼表面に疵が生成しやすくなり、製造性も低下する。 Al:0.6?6.0質量% Siと同様にCr系酸化物の安定化に有効な合金成分であり、0.6質量%以上の含有量でAlの添加効果が顕著になる。しかし、6.0質量%を超える過剰量のAlが含まれると、加工性,低温靭性が著しく低下する。 Al及びSiの過剰添加に起因する欠陥を発生させることなく酸化皮膜を強化する上では、Si,Alの合計添加量を1.5質量%以上に設定することが重要である。合計添加量が1.5質量%に満たないと、Cr系酸化物を安定させるためにSi,Alの何れか一方を多量に添加する必要が生じ、加工性,低温靭性低下の原因になりやすい。 【0017】 Y:0.001?0.1質量%, REM(希土類元素):0.001?0.1質量%, Ca:0.001?0.01質量% 何れも必要に応じて添加される合金成分であり、酸化皮膜中に固溶し、酸化皮膜を強化する作用を呈する。このような効果は、Y:0.001質量%以上,REM:0.001質量%以上,Ca:0.001質量%以上で顕著になる。しかし、0.1質量%を超える過剰量のY,0.1質量%を超える過剰量のREM,0.01質量%を超える過剰量のCaを添加すると、鋼材が過度に硬質化するばかりでなく、製造時に表面疵が生じやすくなり製造コストの上昇を招く。 【0018】 Nb:0.05?0.80質量%, Ti:0.03?0.50質量% Mo:0.1?4.0質量%, Cu:0.1?4.0質量% 何れも必要に応じて添加される合金成分であり、Mo,Cuは固溶強化、Nb,Tiは析出強化によってフェライト系ステンレス鋼の高温強度を更に向上させる。それぞれMo:0.1質量%以上,Cu:0.1質量%以上,Nb:0.05質量%以上,Ti:0.03質量%以上で添加効果が顕著になる。しかし、過剰量のCuが含まれると熱間加工性が低下し、過剰量のMo,Nb,Tiが含まれると鋼材が過度に硬質化するので、それぞれの上限をMo:4.0質量%,Cu:4.0質量%,Nb:0.80質量%,Ti:0.50質量%に設定した。 【0019】 その他の成分について本発明では特に規定するものではないが、一般的な不純物元素でありP,O,Ni等は可能な限り低減することが好ましい。通常はP:0.04質量%以下,O:0.02質量%以下,Ni:0.6質量%以下に規制されるが、高レベルの加工性や溶接性を確保する場合にはP,O,Niを更に厳しく規制する。また、耐熱性の改善に有効なW,Ta,V,Zrや熱間加工性の改善に有効なB,Mg,Co等の元素も必要に応じて添加できる。 【0020】 【実施例】 表1の成分・組成をもつ各種フェライト系ステンレス鋼を30kg真空溶解炉で溶製し、インゴットに鋳造した。インゴットを粗圧延した後、熱延,焼鈍酸洗,冷延,仕上げ焼鈍を経て板厚2.0mmの冷延焼鈍材を製造した。 また、別のインゴットを熱間鍛造,焼鈍して外径30mmの丸棒を製造した。 【0021】 【0022】 各フェライト系ステンレス鋼から試験片を切り出し、冷延焼鈍板を高温水蒸気酸化試験に、焼鈍丸棒を熱疲労試験に供した。 高温水蒸気酸化試験では、燃料電池用石油系燃料改質器が曝される雰囲気を想定し、50体積%H_(2)O+20体積%CO_(2)及び50体積%H_(2)O+10ppmSO_(2)の2種類の雰囲気を用意した。当該雰囲気中で試験片を900℃に25分保持する加熱及び室温まで降温して5分保持する冷却を1サイクルとする加熱・冷却を500回繰り返した後、試験片の重量を測定した。測定結果を試験前の重量と比較し、重量変化が2.0mg/cm^(2)以下を○,2.0mg/cm^(2)を超える重量増加があったものを×として耐水蒸気酸化性を評価した。酸化,硫化が生じていないものほど、酸化皮膜の環境遮断機能が強く、耐水蒸気酸化性に優れているといえる。 【0023】 熱疲労試験では、自由熱膨張に対し50%の歪量を付加するように制御して200?900℃の温度域で試験片を繰返し加熱・冷却した。初期の最大引張り応力が3/4まで低下したときの繰返し数を破損繰返し数と定義し、加熱・冷却を500サイクル以上繰り返しても破損しなかった試験片を○,500サイクル未満の加熱・冷却で破損繰返し数に達した試験片を×として熱疲労特性を評価した。 表2の試験結果にみられるように、本発明に従った鋼種番号1?5のフェライト系ステンレス鋼は、何れも耐水蒸気酸化性,熱疲労特性に優れており、改質器材料としての要求特性を十分に満足していた。 【0024】 他方、鋼種番号6?8のフェライト系ステンレス鋼は、高温保持した後で試験片表面に酸化スケールの亀裂等、多数の損傷が発生しており、耐水蒸気酸化性に劣っていた。損傷の発生は、Si、Al含有量が不足するために酸化皮膜のCr系酸化物が不安定で、高温保持中に酸化皮膜を透過したH_(2)O,CO_(2),SO_(2)等が下地鋼をアタックしたことによるものと推察される。熱疲労特性にも劣っていた。熱疲労特性は0.31質量%のNbを添加した鋼種番号8で改善がみられたが、耐水蒸気酸化性は依然として不十分であった。 【0025】 【0026】 【発明の効果】 以上に説明したように、本発明のフェライト系ステンレス鋼は、Cr系酸化物が安定化した酸化皮膜が表面に形成され、高温雰囲気に長時間曝された状態でも酸化皮膜が優れた環境遮断機能を呈し、高温水蒸気雰囲気下での酸化や硫化が防止される。また、組織強化により優れた熱疲労特性が維持される。そのため、過酷な高温水蒸気雰囲気下で稼動され、高温?常温の広い温度域にわたって加熱・冷却が繰り返される燃料電池用石油系燃料改質器に好適な材料として使用される。 【図面の簡単な説明】 【図1】 単管式石油系燃料改質器の内部構造を示す概略図 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2013-11-22 |
結審通知日 | 2013-11-26 |
審決日 | 2013-12-18 |
出願番号 | 特願2001-357420(P2001-357420) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
YAA
(C22C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 河野 一夫 |
特許庁審判長 |
小柳 健悟 |
特許庁審判官 |
山田 靖 大橋 賢一 |
登録日 | 2006-12-01 |
登録番号 | 特許第3886785号(P3886785) |
発明の名称 | 燃料電池用石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼 |
代理人 | 赤堀 龍吾 |
代理人 | 赤堀 龍吾 |
代理人 | 増井 和夫 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 橋口 尚幸 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 福田 親男 |
代理人 | 齋藤 誠二郎 |
代理人 | 福田 親男 |
代理人 | 内藤 和彦 |