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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01M
管理番号 1307653
審判番号 不服2014-20134  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-06 
確定日 2015-11-11 
事件の表示 特願2012-503951「往復動ピストンエンジンの構成要素の磨耗状態監視装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月14日国際公開、WO2010/115716、平成24年 9月27日国内公表、特表2012-522936〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年3月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年4月6日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成23年10月5日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面並びに同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成25年9月19日付けで拒絶理由が通知され、同年12月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年6月12日付けで拒絶査定がされ、同年10月6日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年10月6日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年10月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年10月6日付けの手続補正の内容
平成26年10月6日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年12月19日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
往復動ピストンエンジンの構成要素の磨耗状態を監視する監視装置であって、往復動ピストンエンジンは、シリンダカバー、及び、シリンダのシリンダ壁に設けられる走行表面を備えるシリンダを含み、前記シリンダにおいて、ピストンは、前記ピストン、前記シリンダカバー及び前記シリンダ壁が前記シリンダ内に混合気の燃焼用の燃焼スペースを形成するように、上死点と下死点の間で前記走行表面に沿って軸方向前後に移動可能に配置され、油収集デバイスが前記シリンダからの潤滑油の収集用に設けられて、所定の測定された量の潤滑油が前記シリンダから測定装置に供給可能である、監視装置において、
前記測定された量の潤滑油は、前記シリンダの走行表面から及び/又は前記燃焼スペースから及び/又は前記ピストンのピストンリングパッケージから前記油収集デバイスに直接供給可能であり、
少なくとも2つの油収集開口は、周方向及び/又は軸方向に互いに離間してシリンダに配置される、監視装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
往復動ピストンエンジンの構成要素の磨耗状態を監視する監視装置であって、往復動ピストンエンジンは、シリンダカバー、及び、シリンダのシリンダ壁に設けられる走行表面を備えるシリンダを含み、前記シリンダにおいて、ピストンは、前記ピストン、前記シリンダカバー及び前記シリンダ壁が前記シリンダ内に混合気の燃焼用の燃焼スペースを形成するように、上死点と下死点の間で前記走行表面に沿って軸方向前後に移動可能に配置され、油収集デバイスが前記シリンダからの潤滑油の収集用に設けられて、所定の測定された量の潤滑油が前記シリンダから測定装置に供給可能である、監視装置において、
前記測定された量の潤滑油は、前記シリンダの走行表面から及び/又は前記燃焼スペースから及び/又は前記ピストンのピストンリングパッケージから前記油収集デバイスに直接供給可能であり、
前記油収集デバイスは、周方向及び/又は軸方向に互いに離間してシリンダに配置される少なくとも2つの油収集開口を含み、前記少なくとも2つの油収集開口は、前記ピストンの下死点と前記シリンダカバーの間の前記シリンダ壁に設けられる油収集開口を含む、監視装置。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「少なくとも2つの油収集開口は、周方向及び/又は軸方向に互いに離間してシリンダに配置される」という記載を「前記油収集デバイスは、周方向及び/又は軸方向に互いに離間してシリンダに配置される少なくとも2つの油収集開口を含み、前記少なくとも2つの油収集開口は、前記ピストンの下死点と前記シリンダカバーの間の前記シリンダ壁に設けられる油収集開口を含む」という記載にするものであり、「少なくとも2つの油収集開口」をさらに限定したものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものといえ、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献の記載等
ア 引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-94188号公報(以下、「引用文献」という。)には、「シリンダ潤滑油注油制御方法及び制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、順に「記載1a」及び「記載1b」という。)。

1a 「【0008】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するための、本発明に係るシリンダ潤滑油注油制御方法は、シリンダ潤滑油を直接、シリンダ表面から抜き出し、溶剤で希釈しないで直接、pH計にて計測し、その指示値からシリンダ表面の潤滑状態を判定してシリンダ潤滑油の注油量を制御することを特徴とする。
【0009】また、本発明に係るシリンダ潤滑油注油制御装置は、シリンダ側面にシリンダ表面の潤滑油を抜き出すための孔を設けるとともに、前記シリンダ表面から採取した潤滑油の性状を調べるpH計と、そのpH計の指示値によりシリンダへ潤滑油を注入する電磁弁の開閉を制御する制御装置とを設けたことを特徴とする。
【0010】ここで、本発明でpH電極として、一般に使用されているガラス半透膜型pH電極を用いた場合には、溶剤での希釈が必要であるが、セラミックpH電極などを用いた場合には、溶剤を使用しないで計測することが可能である。また、複数のpH電極の信号を切りかえ式にすることによって少数のpH計で計測が可能である。
【0011】
【作用】シリンダ表面の潤滑油を直接抜き出すことにより、運転時のシリンダ潤滑状態が把握される。また、抜き出した潤滑油を有機溶剤で希釈せず、直接pH計にて計測することにより、重油燃焼により生成された硫酸の潤滑油による中和状態が判定される。また、セラミックpH電極などを用いることによって、溶剤で希釈しないで計測することが可能である。また、切りかえ式にすることによって、複数のシリンダについて計測する場合に少数のpH計ですみ、コストを下げると同時に、その設置スペースを減らすことができる。」(段落【0008】ないし【0011】)

1b 「【0013】(実施例1)本発明をディーゼル機関に適用した図1に示すように、機関本体1のシリンダ表面2にサンプリング孔3が開口形成され、マイクロコンピュータ等からなる制御ユニット4の信号により開閉制御される電磁弁5によってシリンダ表面2の潤滑油が抜き出される。
【0014】抜き出された潤滑油が配管6の途中に設けられたセラミックpH電極7に送られる。ここでセラミックpH電極7を介してpH計8によりpH値を計測するようになっている。
【0015】前記pH値は電気信号により制御ユニット4へ入力され、当該制御ユニット4では、pH値が6?10の間になるように、シリンダ潤滑油注油装置9を介してシリンダ注油量を制御する。すなわち、pH値が8以上の場合には、シリンダ注油量を少し減らし、pH値が6以下の場合には、シリンダ注油量を少し増やすようにするのである。
【0016】 前記シリンダ潤滑油注油装置9は、図示しない潤滑油タンクと注油ポンプと注油配管等からなり、シリンダ表面2に開口したシリンダ潤滑油注油孔10より潤滑油をシリンダ表面2に供給するものである。尚、pH測定が終了した潤滑油は配管6の一端に設けられた廃油タンク11内へ送られる。または、機関の潤滑油ラインへ送るようにしてもよい。
【0017】このようにして、本実施例では、機関の運転時に、シリンダ表面2の潤滑状態を検出してその必要とする量の潤滑油を自動的にシリンダ表面2に注油することができる。
【0018】特に、重油燃焼(硫黄を含む)のディーゼル機関では、硫酸による腐食を防ぐことがシリンダ潤滑油の主要な機能であるが、前記システムにより、潤滑状態の監視が可能となる。」(段落【0013】ないし【0018】)

イ 引用文献の記載事項
記載1a及び1b並びに図面の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていると認める(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2j」という。)。

2a 記載1aの「その指示値からシリンダ表面の潤滑状態を判定してシリンダ潤滑油の注油量を制御することを特徴とする。」(段落【0008】)及び「シリンダ表面の潤滑油を直接抜き出すことにより、運転時のシリンダ潤滑状態が把握される。」(段落【0011】)、記載1bの「本発明をディーゼル機関に適用した図1に示すように、機関本体1のシリンダ表面2にサンプリング孔3が開口形成され、マイクロコンピュータ等からなる制御ユニット4の信号により開閉制御される電磁弁5によってシリンダ表面2の潤滑油が抜き出される。」(段落【0013】)及び「前記システムにより、潤滑状態の監視が可能となる。」(段落【0018】)並びに図面によると、引用文献には、機関本体1のシリンダ表面2の潤滑状態を監視するシステムが記載されている。

2b 図1から、機関本体1は、往復動ピストンエンジンであることが看取される。

2c 図1から、機関本体1は、左上から右下へ向かうハッチングが施された部材(便宜上、「シリンダカバー部材」と表現する。)を含むことが記載されている。

2d 図1から、機関本体1は、シリンダカバー部材の下にシリンダ表面2を備える右上から左下に向かうハッチングが施された部材の内の筒状部分を含むことが看取され、記載1aの「また、本発明に係るシリンダ潤滑油注油制御装置は、シリンダ側面にシリンダ表面の潤滑油を抜き出すための孔を設けるとともに」(段落【0009】)をあわせてみると、該筒状部分はシリンダということができる。そして、シリンダがシリンダ壁を有することは明らかであるから、引用文献には、機関本体1は、シリンダのシリンダ壁に設けられるシリンダ表面2を備えるシリンダを含むことが看取される。

2e 図1から、機関本体1は、ピストンを有することが看取される。

2f 記載事項2aないし2e及び技術常識を踏まえると、図1から、シリンダにおいて、ピストンは、ピストン、シリンダカバー部材及びシリンダ壁がシリンダ内に混合気の燃焼用の燃焼スペースを形成するように、上死点と下死点の間でシリンダ表面2に沿って軸方向前後に移動可能に配置されていることが看取される。

2g 記載1aの「また、本発明に係るシリンダ潤滑油注油制御装置は、シリンダ側面にシリンダ表面の潤滑油を抜き出すための孔を設けるとともに、前記シリンダ表面から採取した潤滑油の性状を調べるpH計と、そのpH計の指示値によりシリンダへ潤滑油を注入する電磁弁の開閉を制御する制御装置とを設けたことを特徴とする。」(段落【0009】)、記載1bの「本発明をディーゼル機関に適用した図1に示すように、機関本体1のシリンダ表面2にサンプリング孔3が開口形成され、マイクロコンピュータ等からなる制御ユニット4の信号により開閉制御される電磁弁5によってシリンダ表面2の潤滑油が抜き出される。」(段落【0013】)及び「抜き出された潤滑油が配管6の途中に設けられたセラミックpH電極7に送られる。ここでセラミックpH電極7を介してpH計8によりpH値を計測するようになっている。」(段落【0014】)、記載事項2aないし2f並びに図面によると、引用文献には、サンプリング孔3、電磁弁5及び配管6がシリンダからの潤滑油を抜き出すために設けられて、潤滑油がシリンダからセラミックpH電極7に供給可能であることが記載されている。

2h 記載1aの「本発明に係るシリンダ潤滑油注油制御方法は、シリンダ潤滑油を直接、シリンダ表面から抜き出し」(段落【0008】)、記載1bの「本発明をディーゼル機関に適用した図1に示すように、機関本体1のシリンダ表面2にサンプリング孔3が開口形成され、マイクロコンピュータ等からなる制御ユニット4の信号により開閉制御される電磁弁5によってシリンダ表面2の潤滑油が抜き出される。」(段落【0013】)及び記載事項2aないし2g並びに図面によると、引用文献には、潤滑油は、シリンダ表面2からサンプリング孔3、電磁弁5及び配管6に直接供給可能であることが記載されている。

2i 記載1aの「また、本発明に係るシリンダ潤滑油注油制御装置は、シリンダ側面にシリンダ表面の潤滑油を抜き出すための孔を設けるとともに、前記シリンダ表面から採取した潤滑油の性状を調べるpH計と、そのpH計の指示値によりシリンダへ潤滑油を注入する電磁弁の開閉を制御する制御装置とを設けたことを特徴とする。」(段落【0009】)、記載1bの「本発明をディーゼル機関に適用した図1に示すように、機関本体1のシリンダ表面2にサンプリング孔3が開口形成され、マイクロコンピュータ等からなる制御ユニット4の信号により開閉制御される電磁弁5によってシリンダ表面2の潤滑油が抜き出される。」(段落【0013】)及び「抜き出された潤滑油が配管6の途中に設けられたセラミックpH電極7に送られる。ここでセラミックpH電極7を介してpH計8によりpH値を計測するようになっている。」(段落【0014】)、記載事項2aないし2h並びに図面によると、引用文献には、サンプリング孔3、電磁弁5及び配管6はシリンダに配置されるサンプリング孔3を含み、サンプリング孔3はシリンダ壁に設けられるサンプリング孔3を含むことが記載されている。

2j 図1から、サンプリング孔3は、ピストンの下死点とシリンダカバー部材の間のシリンダ壁に設けられることが看取される。

ウ 引用発明
記載1a及び1b、記載事項2aないし2j並びに図面の記載を整理すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「往復動ピストンエンジンである機関本体1のシリンダ表面2の潤滑状態を監視するシステムであって、往復動ピストンエンジンである機関本体1は、シリンダカバー部材、及び、シリンダのシリンダ壁に設けられるシリンダ表面2を備えるシリンダを含み、前記シリンダにおいて、ピストンは、前記ピストン、前記シリンダカバー部材及び前記シリンダ壁が前記シリンダ内に混合気の燃焼用の燃焼スペースを形成するように、上死点と下死点の間で前記シリンダ表面2に沿って軸方向前後に移動可能に配置され、サンプリング孔3、電磁弁5及び配管6が前記シリンダからの潤滑油を抜き出すために設けられて、潤滑油が前記シリンダからセラミックpH電極7に供給可能である、システムにおいて、
前記潤滑油は、前記シリンダ表面2からサンプリング孔3、電磁弁5及び配管6に直接供給可能であり、
前記サンプリング孔3、電磁弁5及び配管6はシリンダに配置されるサンプリング孔3を含み、前記サンプリング孔3は前記ピストンの下死点と前記シリンダカバー部材の間の前記シリンダ壁に設けられるサンプリング孔3を含む、システム。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明における「往復動ピストンエンジンである機関本体1」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「往復動ピストンエンジン」に相当し、以下、同様に、「シリンダ表面2」は「構成要素」及び「走行表面」に、「システム」は「監視装置」に、「シリンダカバー部材」は「シリンダカバー」に、「サンプリング孔3、電磁弁5及び配管6」は「油収集デバイス」に、「抜き出すため」は「収集用」に、「サンプリング孔3」は「油収集開口」に、それぞれ、相当する。
また、引用発明における「潤滑状態」は、記載1aによると、潤滑油のpHにより判定するものであり、本願補正発明における「摩耗状態」は、本願明細書の翻訳文の「図1に概略的に示すように、潤滑油9は、好ましくは、第1油収集開口81にて上側領域OBからと、シリンダ3の第2油収集開口82にて下側領域UBから別々に収集され、このようにして収集された潤滑油9の特性、例えばアルカリ度(BN値)、鉄含有率、水含有率等は、2つの測定装置M1,M2で別々に解析され、データ取得ユニットを備えるデータ処理設備DVに供給される。」(段落【0061】)によると、アルカリ度(BN値)、即ちpHにより判定するものであるから、引用発明における「潤滑状態」と本願補正発明における「摩耗状態」は、何れもpHにより判定される点において、同じものといえるから、引用発明における「潤滑状態」は、本願補正発明における「摩耗状態」に相当する。

したがって、両者は、
「往復動ピストンエンジンの構成要素の磨耗状態を監視する監視装置であって、往復動ピストンエンジンは、シリンダカバー、及び、シリンダのシリンダ壁に設けられる走行表面を備えるシリンダを含み、前記シリンダにおいて、ピストンは、前記ピストン、前記シリンダカバー及び前記シリンダ壁が前記シリンダ内に混合気の燃焼用の燃焼スペースを形成するように、上死点と下死点の間で前記走行表面に沿って軸方向前後に移動可能に配置され、油収集デバイスが前記シリンダからの潤滑油の収集用に設けられて、潤滑油が前記シリンダから測定装置に供給可能である、監視装置において、
前記潤滑油は、前記シリンダの走行表面から及び/又は前記燃焼スペースから及び/又は前記ピストンのピストンリングパッケージから前記油収集デバイスに直接供給可能であり、
前記油収集デバイスは、シリンダに配置される油収集開口を含み、前記油収集開口は、前記ピストンの下死点と前記シリンダカバーの間の前記シリンダ壁に設けられる油収集開口を含む、監視装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

ア 相違点1
本願補正発明においては、「所定の測定された量の潤滑油が前記シリンダから測定装置に供給可能である」のに対し、引用発明においては、「潤滑油が前記シリンダからセラミックpH電極7に供給可能である」であって、潤滑油が所定の測定された量であるか不明な点(以下、「相違点1」という。)。

イ 相違点2
本願補正発明においては、「前記油収集デバイスは、周方向及び/又は軸方向に互いに離間してシリンダに配置される少なくとも2つの油収集開口を含み、前記少なくとも2つの油収集開口は、前記ピストンの下死点と前記シリンダカバーの間の前記シリンダ壁に設けられる油収集開口を含む」のに対し、引用発明においては、「前記サンプリング孔3、電磁弁5及び配管6はシリンダに配置されるサンプリング孔3を含み、前記サンプリング孔3は前記ピストンの下死点と前記シリンダカバー部材の間の前記シリンダ壁に設けられるサンプリング孔3を含む」であって、サンプリング孔3が、少なくとも2つであり、周方向及び/又は軸方向に互いに離間してシリンダに配置されるものであるか不明な点(以下、「相違点2」という。)。

(3)相違点1及び2についての判断
そこで、相違点1及び2について、以下に検討する。

ア 相違点1について
引用発明において、潤滑油は、セラミックpH電極7に供給されるものであるから、供給される量が少なすぎると、正確な測定ができないし、供給される量が多すぎると、シリンダ内面の潤滑油が少なくなり、シリンダの潤滑に悪影響を与えてしまうことは、当業者に明らかである。
したがって、引用発明において、セラミックpH電極7に供給される潤滑油の量を所定の測定された量になるように設計するようにして、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
エンジンのシリンダの潤滑状態を測定するための潤滑油の収集を、1箇所で行うか複数箇所で行うか、また、どの位置で行うかは、必要に応じて適宜決めるべき設計的事項であるし、下記イ-1に記載されているように、エンジンのシリンダの潤滑状態を測定するための潤滑油の収集を、シリンダの周方向又は軸方向の互いに離間した複数箇所で行うことは周知(以下、「周知技術」という。)でもある。
したがって、引用発明において、周知技術を適用し、サンプリング孔3を、少なくとも2つとし、周方向及び/又は軸方向に互いに離間してシリンダに配置するようにして、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ-1 特開平5-203547号公報の記載
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平5-203547号公報には、「シリンダ表面油採取装置及び潤滑状態分析方法」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(なお、下線は当審で付したものである。)。

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関において、シリンダ潤滑油の潤滑状態を検知するため、シリンダ表面及びシリンダ表面付着スラッジを採取する装置、及び採取された表面油及びスラッジから潤滑状態を分析する方法に関する。
・・・(略)・・・
【0005】
【課題を解決するための手段】
(1)排気弁箱を抜いて、採取装置をセットする。
(2)採取装置は、高さ調節,回転が可能であり、濾紙等を先端にセットしたアームを持つ。アームは長さ調節が可能であり、濾紙等をシリンダ表面に押しつけることにより、シリンダ表面油及びシリンダ表面付着スラッジを採取する。
(3)微量のシリンダ表面油及びごく微量のシリンダ表面付着スラッジを溶剤(有機溶剤と水の混合)に溶解させ、pH計を用いて計測する。pH計の指示値より、シリンダ潤滑油の潤滑状態を判定する。
【0006】
【作用】(1)排気弁箱を抜いた穴に採取装置を設置することにより、シリンダカバーを開放せずに、シリンダ表面油及び付着スラッジを採取することができる。
(2)採取装置の高さ調節及び回転可能により、希望する位置のシリンダ表面油及び付着スラッジを採取できる。たとえば、シリンダ潤滑油の注油孔からの高さが自由に選択でき、また回転可能により注油孔上部及び注油孔中間位置の上部を採取することができる。
(3)濾紙に付着したシリンダ表面油及び付着スラッジを溶剤(有機溶剤と水の混合液)に溶解させ、pH計にて計測することにより、その指示値から潤滑状態を判定できる。最適の溶剤はトルエン50vol%、2-プロパノール45vol%、水5vol%とする。水の割合を微量としないことにより、pH計指示値が安定化する。」(段落【0001】ないし【0006】)

ウ 効果について
そして、本願補正発明を全体としてみても、本願補正発明は、引用発明及び周知技術からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。

(4)むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3 むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし60に係る発明は、平成23年10月5日に提出された明細書の翻訳文、平成25年12月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし60に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)のとおりである。

2 引用文献の記載等
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-94188号公報(以下、上記第2[理由]2 2-2(1)と同様に、「引用文献」という。)には、上記第2[理由]2 2-2(1)アのとおりの記載があり、該記載及び図面の記載から、上記第2[理由]2 2-2(1)イのとおりの記載事項が記載されていると認める。
そして、引用文献には、上記第2[理由]2 2-2(1)ウのとおりの発明(以下、上記第2[理由]2 2-2(1)ウと同様に「引用発明」という。)が記載されていると認める。

3 対比・判断
上記第2[理由]2 2-1で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明が上記第2[理由]2 2-2(2)ないし(4)のとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-10 
結審通知日 2015-06-16 
審決日 2015-06-29 
出願番号 特願2012-503951(P2012-503951)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F01M)
P 1 8・ 121- Z (F01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 真一  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 加藤 友也
金澤 俊郎
発明の名称 往復動ピストンエンジンの構成要素の磨耗状態監視装置及び方法  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  

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