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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B21D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B21D
管理番号 1307859
審判番号 不服2014-20284  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-07 
確定日 2015-11-18 
事件の表示 特願2009-136703「カム装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月16日出願公開、特開2010-279987〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成21年6月5日を出願日とする出願であって、
平成24年4月17日付けで審査請求がなされ、
平成25年4月25日付けで拒絶理由通知(同年5月14日発送)がなされ、
これに対して平成25年7月16日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされ、
平成25年12月25日付けで最後の拒絶理由通知(平成26年1月14日発送)がなされ、
これに対して平成26年3月17日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされたものの、
平成26年6月27日付けで、上記平成26年3月17日付けの手続補正書による補正の却下の決定(平成26年7月8日謄本発送・送達)がなされるとともに、同日付けで上記平成25年12月25日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1(特許法第17条の2第3項)及び2(同法第29条第2項)によって拒絶査定(平成26年7月8日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「原査定を取り消す、本願は特許をすべきものであるとの審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成26年10月7日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、
平成27年1月15日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告書)がなされ、
平成27年5月13日付けで上申書が提出されたものである。


第2 平成26年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年10月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成26年10月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成25年7月16日付けの手続補正により補正された、以下に示す特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載

「 【請求項1】
カムドライバと、このカムドライバに接触して移動されるようになっているカムスライドと、このカムスライドを移動自在に支持するカムスライド支持手段と、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構とを備えており、復帰機構は、一端部ではカムスライド支持手段の一方の突起部に、他端部ではカムスライド支持手段の他方の突起部に夫々固着されたロッドと、このロッドを取り巻いて配されたコイルばねと、ロッドの一端部側に配されていると共にコイルばねの一端部側からの弾性伸長力を受容する一方のばね受けと、この一方のばね受けと協働してコイルばねに初期圧縮力を与えると共にコイルばねの他端部側から受容する弾性伸長力をカムスライドに伝達する伝達手段とを具備しており、伝達手段は、コイルばねの他端部側からの弾性伸長力を受容すると共にロッドの軸心に沿う方向に可動に配された他のばね受けを具備しており、コイルばねの一端部が接触する一方のばね受けは、コイルばねの一端部をロッドの軸心に対して位置決めする一方の位置決め手段を具備しており、コイルばねの他端部が接触する他方のばね受けは、コイルばねの他端部をロッドの軸心に対して位置決めする他方の位置決め手段を具備しており、一方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの一端部が接触する受容面を有したばね受け本体を具備しており、一方の位置決め手段は、コイルばねの一端部により囲繞されるようにばね受け本体の受容面に一体的に突出して形成された円筒部を具備しており、コイルばねの一端部は、ばね受け本体の受容面に加えて、この受容面に連接する円筒部の外周面にも接触するカム装置。
【請求項2】
カムドライバと、このカムドライバに接触して移動されるようになっているカムスライドと、このカムスライドを移動自在に支持するカムスライド支持手段と、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構とを備えており、復帰機構は、一端部ではカムスライド支持手段の一方の突起部に、他端部ではカムスライド支持手段の他方の突起部に夫々固着されたロッドと、このロッドを取り巻いて配されたコイルばねと、ロッドの一端部側に配されていると共にコイルばねの一端部側からの弾性伸長力を受容する一方のばね受けと、この一方のばね受けと協働してコイルばねに初期圧縮力を与えると共にコイルばねの他端部側から受容する弾性伸長力をカムスライドに伝達する伝達手段とを具備しており、伝達手段は、コイルばねの他端部側からの弾性伸長力を受容すると共にロッドの軸心に沿う方向に可動に配された他のばね受けを具備しており、コイルばねの一端部が接触する一方のばね受けは、コイルばねの一端部をロッドの軸心に対して位置決めする一方の位置決め手段を具備しており、コイルばねの他端部が接触する他方のばね受けは、コイルばねの他端部をロッドの軸心に対して位置決めする他方の位置決め手段を具備しており、一方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの一端部が接触する受容面を有したばね受け本体を具備しており、一方の位置決め手段は、コイルばねの一端部を収容するようにばね受け本体の受容面を底面として形成された円筒凹部を具備しており、コイルばねの一端部は、ばね受け本体の受容面に加えて、この受容面に連接すると共に円筒凹部の外周面を規定する一方のばね受けの内周面にも接触するカム装置。
【請求項3】
他方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの他端部が接触する受容面を有したばね受け本体を具備しており、他方の位置決め手段は、コイルばねの他端部により囲繞されるように他方のばね受けのばね受け本体の受容面に一体的に突出して形成された円筒部を具備している請求項1又は2に記載のカム装置。
【請求項4】
他方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの他端部が接触する受容面を有したばね受け本体を具備しており、他方の位置決め手段は、コイルばねの他端部を収容するように他方のばね受けのばね受け本体の受容面を底面として形成された円筒凹部を具備している請求項1又は2に記載のカム装置。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)

を、

「 【請求項1】
カムドライバと、このカムドライバに接触して移動されるようになっているカムスライドと、このカムスライドを移動自在に支持するカムスライド支持手段と、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構とを備えており、復帰機構は、一端部ではカムスライド支持手段の一方の突起部に、他端部ではカムスライド支持手段の他方の突起部に夫々固着されたロッドと、このロッドを取り巻いて配されたコイルばねと、ロッドの一端部側に可動に配されていると共にコイルばねの一端部側からの弾性伸長力を受容する一方のばね受けと、この一方のばね受けと協働してコイルばねに初期圧縮力を与えると共にコイルばねの他端部側から受容する弾性伸長力をカムスライドに伝達する伝達手段とを具備しており、一方のばね受けは、カムスライド支持手段の一方の突起部に接触しており、伝達手段は、コイルばねの他端部側からの弾性伸長力を受容すると共にロッドの軸心に沿う方向に可動に配された他方のばね受けと、ロッドの軸心に沿う方向であってロッドの他端部に向かう方向の他方のばね受けの移動を禁止してコイルばねに初期圧縮力を与えるようにロッドに固着された禁止部材とを具備しており、コイルばねの一端部が接触する一方のばね受けは、コイルばねの一端部をロッドの軸心に対して位置決めする一方の位置決め手段を具備しており、コイルばねの他端部が接触する他方のばね受けは、コイルばねの他端部をロッドの軸心に対して位置決めする他方の位置決め手段を具備しており、一方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの一端部が接触する一方の受容面を有した一方のばね受け本体を具備しており、一方の位置決め手段は、コイルばねの一端部により囲繞されるように一方のばね受け本体の一方の受容面に一体的に突出して形成された円筒部を具備しており、一方のばね受け本体の一方の受容面に接触しているコイルばねの一端部は、一方の受容面に連接する円筒部の外周面にも接触してロッドの軸心に対して位置決めされるようになっており、他方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの他端部が接触する他方の受容面を有した他方のばね受け本体を具備しており、他方の位置決め手段は、コイルばねの他端部を収容するように他方のばね受け本体の他方の受容面を底面として形成された円筒凹部を具備しており、他方のばね受け本体の他方の受容面に接触しているコイルばねの他端部は、他方の受容面に連接すると共に円筒凹部の外周面を規定する他方のばね受けの内周面にも接触してロッドの軸心に対して位置決めされるようになっており、円筒部の外周面の径は、他方のばね受けの内周面の径よりも小さいカム装置。
【請求項2】
カムドライバと、このカムドライバに接触して移動されるようになっているカムスライドと、このカムスライドを移動自在に支持するカムスライド支持手段と、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構とを備えており、復帰機構は、一端部ではカムスライド支持手段の一方の突起部に、他端部ではカムスライド支持手段の他方の突起部に夫々固着されたロッドと、このロッドを取り巻いて配されたコイルばねと、ロッドの一端部側に可動に配されていると共にコイルばねの一端部側からの弾性伸長力を受容する一方のばね受けと、この一方のばね受けと協働してコイルばねに初期圧縮力を与えると共にコイルばねの他端部側から受容する弾性伸長力をカムスライドに伝達する伝達手段とを具備しており、一方のばね受けは、カムスライド支持手段の一方の突起部に接触しており、伝達手段は、コイルばねの他端部側からの弾性伸長力を受容すると共にロッドの軸心に沿う方向に可動に配された他方のばね受けと、ロッドの軸心に沿う方向であってロッドの他端部に向かう方向の他方のばね受けの移動を禁止してコイルばねに初期圧縮力を与えるようにロッドに固着された禁止部材とを具備しており、コイルばねの一端部が接触する一方のばね受けは、コイルばねの一端部をロッドの軸心に対して位置決めする一方の位置決め手段を具備しており、コイルばねの他端部が接触する他方のばね受けは、コイルばねの他端部をロッドの軸心に対して位置決めする他方の位置決め手段を具備しており、一方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの一端部が接触する一方の受容面を有した一方のばね受け本体を具備しており、一方の位置決め手段は、コイルばねの一端部を収容するように一方のばね受け本体の一方の受容面を底面として形成された円筒凹部を具備しており、一方のばね受け本体の一方の受容面に接触しているコイルばねの一端部は、一方の受容面に連接すると共に円筒凹部の外周面を規定する一方のばね受けの内周面にも接触してロッドの軸心に対して位置決めされるようになっており、他方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの他端部が接触する他方の受容面を有した他方のばね受け本体を具備しており、他方の位置決め手段は、コイルばねの他端部により囲繞されるように他方のばね受け本体の他方の受容面に一体的に突出して形成された円筒部を具備しており、他方のばね受け本体の他方の受容面に接触しているコイルばねの他端部は、他方の受容面に連接する円筒部の外周面にも接触してロッドの軸心に対して位置決めされるようになっており、一方のばね受けの内周面の径は、円筒部の外周面の径よりも大きいカム装置。」(下線は請求人が付したもの。以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)

に補正することを含むものである。

2.補正の適否

2-1 特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第5項(目的要件)に関する検討
補正前の請求項1?4に係る発明群のいずれにも、補正後の請求項1及び2の各々に加入された「禁止部材」は存在しない。よって、この補正は補正の目的として特許法第17条の2第5項各号で示されるうち、第2号でいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものと考えられる。
そこで、上記した補正により変更された下線部の内容が、各々補正の目的要件に適うか否かの確認を行うと共に、新たに加入された各事項が、各々特許法第17条の2第3項の規定を満足するか否かについて検討する。

(1)各補正箇所の変更内容と補正の目的要件に適うか否かの確認
補正後の請求項1及び2に加入された「禁止部材」については、補正前の各請求項に記載済みの「伝達部材」が「具備」するとされた特定事項に対して、「他方のばね受け」のみならず、当該「禁止部材」も「具備」の対象とする内容への変更である。よって補正前の「伝達部材」を当該補正により限定するものであり、限定的減縮に相当する。
引き続いて、補正後の特許請求の範囲に付された下線部の出現順に、他の補正箇所を検討する。
最初に登場する「可動に」は、補正前の「一方のばね受け」の配置に関して加入されたものであり、補正前には未定であった配置の状態を、当該補正により「可動」の状態で配置がなされるとしたものであり、同じく限定的減縮に相当する。
次に登場する「一方のばね受けは、カムスライド支持手段の一方の突起部に接触しており、」は、その記載通り、「一方のばね受け」について新たに「カムスライド支持手段の一方の突起部に接触して」いるとの条件を追加するものであるから、同じく限定的減縮に相当する。
その次の「他方のばね受け」は、補正前の「他のばね受け」なる記載に対して、その他の表現が“一方”、“他方”とされていたことに倣って統一したものと認められ、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに相当する。
その次の「コイルばねの一端部が接触する一方の受容面を有した一方のばね受け本体を具備しており」、及び、これに続く「一方のばね受け本体の一方の受容面に一体的に突出して形成された円筒部を具備しており」は、「ばね受け本体」という共通の記載が、別途補正前の請求項3にも存在した「他方のばね受け本体」との間で紛らわしいため、明りょう化を目的として「一方の」を付し、また、「受容面」との関係においても関連する箇所に同様の表記を改めて付すとした内容になっていることから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに相当する。
その次の「一方のばね受け本体の一方の受容面に接触しているコイルばねの一端部は、一方の受容面に連接する円筒部の外周面にも接触してロッドの軸心に対して位置決めされるようになっており」は、補正前の「コイルばね」と「円筒部」との接触関係及び接触に際して発生する作用を更に特定するものであり、限定的減縮に相当する。
その次の「他方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの他端部が接触する他方の受容面を有した他方のばね受け本体を具備しており、」、その次の「他方の位置決め手段は、コイルばねの他端部を収容するように他方のばね受け本体の他方の受容面を底面として形成された円筒凹部を具備しており」、その次の「他方のばね受け本体の他方の受容面に接触しているコイルばねの他端部は、他方の受容面に連接すると共に円筒凹部の外周面を規定する他方のばね受けの内周面にも接触してロッドの軸心に対して位置決めされるようになっており」、及び、補正後の請求項1における最後の「円筒部の外周面の径は、他方のばね受けの内周面の径よりも小さい」は、いずれも補正前に任意とされていたコイルばねの他端部を特定するものであるから、同じく限定的減縮に相当する。

また、補正後の請求項2は、コイルばねの両端部における受容面の構造として、請求項1における「一方のばね受け」に対して配された「一方の位置決め手段」が「円筒部」であったものを、「円筒凹部」に、「他方のばね受け」に対して配された「他方の位置決め手段」が「円筒凹部」であったものを、「円筒部」へと、相互に入れ替えた関係にあり、上述の補正箇所もそれに倣ってなされたもので請求項1に係る補正の目的と同じである。

(2)補正により加入された事項が新規事項とならないことの確認
前記(1)により変更された内容は、いずれもコイルばねの両端部を受容する部材の細部に関することとされ、一端に突出形成された円筒部、他端に円筒凹部を備えるとした特徴は、図8および図9の図示にて確認できることから、これらの事項は新規事項ではない。
なお、請求項1の「円筒部の外周面の径は、他方のばね受けの内周面の径よりも小さい」とされた箇所、及び、請求項2の「一方のばね受けの内周面の径は、円筒部の外周面の径よりも大きい」とされた箇所については、いずれも、直接対応する記載ないし図示内容が、当初明細書ないし図面に示されてはいないものの、コイルばねの径が一様であった場合には自然に成り立つ内容に過ぎない点から見て、直接記載が見られないながらも、自明な事項と扱うことができ、新規事項とはならないものと認められる。

以上(1)、(2)の検討結果より、この補正は、いずれの追加事項も、本件の当初明細書に記載済みないし記載されたに等しい事項であり、本件補正によって、補正前に現に存在していた発明を構成する部材のいずれかに対して何らかの限定を加える内容となることが確認されたことから、特許法第17条の2第3項の規定を満足し、かつ、同法同条第5項第2号でいう、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むと認められる。
また、これらの補正により、補正前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更がないのは明らかである。

2-2 独立特許要件について
上記2-1に示したとおり、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定を満たす本件補正後の請求項1ないし2に記載されている事項により特定される発明(以下、請求項1に係る発明を、「本件補正発明」という。)は、同法同条第6項の定めを満足するため、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-2-1 本件補正発明
本件補正発明は、上記1.の本件補正後の特許請求の範囲において【請求項1】として記載したものである。

2-2-2 先行技術

2-2-2-1 引用文献1及び引用発明
本願の出願日前に頒布され、原審の拒絶査定の理由である上記平成25年12月25日付けの拒絶理由通知において引用された、特開2004-314149号公報(平成16年11月11公開、以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(下線は、当審にて附加した。)

A 「【請求項1】
カムドライバと、このカムドライバに接触して移動されるようになっているカムスライドと、このカムスライドを移動自在に支持するカムスライド支持手段と、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構とを備えており、カムスライド支持手段は、型基部と、この型基部に一体的に突設された一対の突起部とを具備しており、復帰機構は、一端部ではカムスライド支持手段の一方の突起部に、他端部ではカムスライド支持手段の他方の突起部に夫々固着されたロッドと、このロッドを取り巻いて配されたコイルばねと、ロッドの一端部側に配されていると共にコイルばねの一端部側からの弾性伸長力を受容するばね受けと、このばね受けと協働してコイルばねに初期圧縮力を与えると共にコイルばねの他端部側から受容する弾性伸長力をカムスライドに伝達する伝達手段とを具備しているカム装置。
・・・(中略)・・・
【請求項5】
伝達手段は、コイルばねの他端部側からの弾性伸長力を受容すると共にロッドの軸心に沿う方向に可動に配された他のばね受けと、ロッドの軸心に沿う方向であってロッドの他端部に向かう方向の他のばね受けの移動を禁止してコイルばねに初期圧縮力を与えるようにロッドに固着された禁止部材と、一方では他のばね受けに係合し、他方ではカムスライドに固着されていると共にコイルばねの他端部側からの弾性伸長力を他のばね受けを介してカムスライドに伝達する伝達部材とを具備している請求項1から4のいずれか一項に記載のカム装置。」

B 「【0016】
【発明の実施の形態】
図1から図4において、本例の下置きタイプのカム装置1は、上下動自在な上型2に固着されていると共に傾斜面3を有したカムドライバ4と、カムドライバ4の傾斜面3に接触してB方向に移動されるようになっているカムスライド5と、カムスライド5をA及びB方向に移動自在に支持するカムスライド支持手段6と、カムスライド5を初期位置に復帰させる復帰機構7と、カムスライド5の初期位置への復帰においてカムスライド5のカムスライド支持手段6への激突を防止する弾性ストッパ部材8とを備えている。
【0017】
上型2は油圧ラム等に連結されており、カムドライバ4は油圧ラム等の作動で上型2を介して上下動されるようになっている。
【0018】
A及びB方向に可動なカムスライド5は、カムスライド本体11と、カムスライド本体11の傾斜面12に一方の面で固着された低摩擦板(ウェアプレート)13とを有しており、カムドライバ4の下降で低摩擦板13の他方の面14にカムドライバ4の傾斜面3が接触するようになっており、カムスライド本体11の前面15にパンチ等の工具が取り付けられるようになっている。
【0019】
カムスライド支持手段6は、型基部、本例では下型基部21と、下型基部21に一体的に突設された一対の突起部22及び23と、下型基部21に一体的に突設された前壁部24及び後壁部25と、後壁部25に固着されていると共にカムドライバ4の下降においてカムドライバ4の後面35に摺動自在に接触する低摩擦板(ウェアプレート)26と、前壁部24及び後壁部25を橋絡する一対の側壁部27及び28とを具備しており、一対の突起部22及び23は下型基部21の凹所29において下型基部21から一体的に突設されており、一対の側壁部27及び28の上面30及び31にカムスライド5の底面32がA及びB方向に摺動自在に接触してカムスライド5はA及びB方向に可動になっている。斯かるカムスライド5は、そのA及びB方向の移動において一対の側壁部27及び28の上面30及び31から浮き上がらないように、一対の側壁部27及び28にねじ等により取り付けられた低摩擦板(ウェアプレート)33及び34によりA及びB方向に摺動自在に保持されている。
【0020】
復帰機構7は、一端部41ではカムスライド支持手段6の一方の突起部22に、他端部42ではカムスライド支持手段6の他方の突起部23に夫々ねじ43を介して固着されたロッド44と、ロッド44を取り巻いてロッド44と同心に配されたコイルばね45と、ロッド44の一端部41側に配されていると共にコイルばね45の一端部46側からの弾性伸長力を受容するばね受け47と、ばね受け47と協働してコイルばね45に初期圧縮力を与えると共にコイルばね45の他端部48側から受容する弾性伸長力をカムスライド5に伝達する伝達手段49とを具備している。
【0021】
円柱状のロッド44の一端部41及び他端部42の夫々には平坦面61及び62が形成されており、一端部41及び他端部42は、その平坦面61及び62の夫々において突起部22及び23の夫々の平坦頂面に当接して突起部22及び23の夫々に固着されている。
【0022】
ばね受け47は、本例では、一端部41側においてロッド44にCリング63を介して固着されて配されているが、これに代えて、溶接等を介して又はロッド44の一端部41側に螺合してロッド44の一端部41側に固着されて配されていてもよく、更には、ロッド44の一端部41側に固着されることなしに、ロッド44の一端部41からの抜け出しが突起部22に当接して阻止されるようにして一端部41側に可動に配されていてもよい。
【0023】
伝達手段49は、コイルばね45の他端部48側からの弾性伸長力を受容すると共にロッド44の軸心に沿う方向、即ちA及びB方向に可動に配されたばね受け65と、ロッド44の軸心に沿う方向であってロッド44の他端部48に向かう方向のばね受け65の移動を禁止してコイルばね45に初期圧縮力を与えるようにロッド44に固着された禁止部材66と、一方ではばね受け65に係合し、他方ではカムスライド5に固着されていると共にコイルばね45の他端部48側からの弾性伸長力をばね受け65を介してカムスライド5に伝達する伝達部材67と、ばね受け65とロッド44との間に介在されたブッシュ68とを具備している。
【0024】
ロッド44を取り巻いて配された円環状のばね受け65には、コイルばね45の他端部48が当接するようになっており、ばね受け65の内周面に円筒状のブッシュ68が固着されており、ばね受け65は、ロッド44の外周面に摺動自在に接触するブッシュ68を介してA及びB方向に可動となっている。
【0025】
ばね受け65のA及びB方向の滑らかな移動を確保するために、ブッシュ68と共に又はブッシュ68に代えて、グリース又は固体潤滑剤等をブッシュ68とロッド44との間又はばね受け65とロッド44との間に介在させてもよく、グリース又は固体潤滑剤等を用いる場合には、ロッド44の外周面又はばね受け65の内周面にグリース溜め溝又は固体潤滑剤収容溝を設けるとよく、また、ブッシュ68、グリース又は固体潤滑剤等を用いないで、ばね受け65とロッド44とをその内外周面で互いに直接接触させるようにしてばね受け65をロッド44にA及びB方向に可動に配してもよい。
【0026】
禁止部材66は、ロッド44の他端部42側に螺合してロッド44に固着された一対のナット71を具備しており、一対のナット71でもってばね受け65がロッド44の他端部42に向かって移動しないようになっている。
【0027】
禁止部材66としては、斯かるロッド44に螺合するナット71に代えて、ロッド44に溶接により固着されたストッパ部材でもよい。
【0028】
概略L字状の伝達部材67は、ばね受け65に係合すると共にロッド44を跨ぐ二股部72と、カムスライド本体11の底面32の凹所73においてカムスライド本体11にねじ74を介して固定された固定部75とを有している。
【0029】
復帰機構7は、カムスライド5がB方向に移動されて伝達部材67の二股部72がばね受け65に当接して係合し、ばね受け65をB方向に移動させてコイルばね45を縮めた後に、ばね受け65が受容するコイルばね45のA方向の弾性伸長力を伝達部材67を介してカムスライド5に伝達してカムスライド5を初期位置に復帰させるようになっている。
【0030】
以上のカム装置1において、油圧ラム等の作動で上型2を介してカムドライバ4が下降されると、カムドライバ4の傾斜面3が低摩擦板13の面14に当接すると共にカムドライバ4の後面35が低摩擦板26に当接して、この当接後、カムドライバ4の下降と共にカムドライバ4の傾斜面3と低摩擦板13の面14との滑りを伴ってカムスライド5はB方向に移動され、この移動により伝達部材67の二股部72がばね受け65に当接して係合し、図5及び図6に示すようにばね受け65がB方向に移動されてコイルばね45が縮められると共にカムスライド本体11の前面15にねじ等により取り付けられたパンチ等の工具が前進され、この前進で薄板等の被加工物(ワーク)に孔あけ、折り曲げ等の加工がパンチ等の工具により施され、この加工後、油圧ラム等の作動で上型2を介してカムドライバ4が上昇されると、縮められたコイルばね45のA方向の弾性伸長力により伝達手段49を介してカムスライド5がA方向に移動され、この移動でカムスライド本体11の前面15に取り付けられたパンチ等の工具もまた後退され、最後に、図1及び図3に示すようにカムスライド5が初期位置に復帰され、この復帰にあたって、カムスライド本体11が弾性ストッパ部材8に先に当接してカムスライド本体11の後壁部25への激突が弾性ストッパ部材8により防止される。
【0031】
ところで、カム装置1によれば、コイルばね45に取り巻かれたロッド44の一端部41及び他端部42が下型基部21に一体的に突設された突起部22及び23の夫々に固着されているために、ロッド44を下型基部21に取り付けるための大きな設置空間を占める特別なアングル部材等を必要としなくなる結果、アングル部材等を設置するための大きな凹所を下型基部21に形成しなくてもよく、カムスライド5を移動自在に支持するカムスライド支持手段6の面である側壁部27及び28の上面30及び31を広くできて、カムスライド5の耐荷重性能を向上でき、しかも、より多くの復帰機構7をカムスライド5に対して設置できて強力な復帰力をカムスライド5に付与できる上に、部品点数の削減に加えて大幅なコスト削減を図り得、しかも、伝達部材67が二股部72を具備しているために、二股部72を介して伝達部材67を設置でき、カムスライド5の組立、分解を容易に行い得る。」

上記Bには、図1?図9を参照しつつ、より具体的な個別部材に関する事項として、図1中に47として図示されている「ばね受け47」が可動であること、及び可動とされたばね受け47が突起部22と当接すること(【0022】参照)が記載されている。

以上のことから、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「 カムドライバと、このカムドライバに接触して移動されるようになっているカムスライドと、このカムスライドを移動自在に支持するカムスライド支持手段と、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構とを備えており、
カムスライド支持手段は、型基部と、この型基部に一体的に突設された一対の突起部とを具備しており、
復帰機構は、一端部ではカムスライド支持手段の一方の突起部に、他端部ではカムスライド支持手段の他方の突起部に夫々固着されたロッドと、このロッドを取り巻いて配されたコイルばねと、ロッドの一端部側に可動に配され、当該カムスライド支持手段の突起部と当接していると共にコイルばねの一端部側からの弾性伸長力を受容するばね受けと、このばね受けと協働してコイルばねに初期圧縮力を与えると共にコイルばねの他端部側から受容する弾性伸長力をカムスライドに伝達する伝達手段とを具備し、
伝達手段は、コイルばねの他端部側からの弾性伸長力を受容すると共にロッドの軸心に沿う方向に可動に配された他のばね受けと、ロッドの軸心に沿う方向であってロッドの他端部に向かう方向の他のばね受けの移動を禁止してコイルばねに初期圧縮力を与えるようにロッドに固着された禁止部材と、一方では他のばね受けに係合し、他方ではカムスライドに固着されていると共にコイルばねの他端部側からの弾性伸長力を他のばね受けを介してカムスライドに伝達する伝達部材とを具備している
カム装置。」

2-2-2-2 引用文献2及びその技術的事項
本願の出願日前に頒布され、原審の上記平成26年6月27日付けの補正の却下の決定において引用された、特開平7-280022号公報(平成7年10月27日公開、以下、「引用文献2」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。

C 「【0019】一方、リバウンドスプリング10の上端部にも、中央部に貫通孔24を有する円板10Bが一体的に固着されている。ただし、この円板10Bの下面外周には切欠段部10Cが設けられており、ここにコイルバネで製作され、車両荷重を弾性的に支持するためのコイルスプリング22の上端部が当たっている。また、金属や硬質合成樹脂等により製作されたアッパサポートリテーナ20がリバウンドスプリング10の上端面に接するように配設されている。このアッパサポートリテーナ20は中心部に下向きの凸部を持っており、この凸部がリバウンドスプリング10の貫通孔24に圧入されている。
【0020】アッパサポートリテーナ20と同様に中心部に、しかし上方へ向けて凸部を持つ金属や硬質合成樹脂等により製作されたアッパサポートリテーナ26が、アッパサポートリテーナ20の上に配設されている。ここでは、アッパサポートリテーナ20とアッパサポートリテーナ26とは外周部が互いに溶接されている。さらに、アッパサポートリテーナ26の上には、車体の一部であり、金属や硬質合成樹脂等により製作された上面板56が配設されている。この上面板56には中央に貫通孔が設けられており、そこにアッパサポートリテーナ26の凸部が上方へ向けて突出している。また、アッパサポートリテーナ20の外周部付近には、ボルト32が複数個X軸と平行に上方へ向けて貫通した後に一部がアッパサポートリテーナ20へ溶接されている。これらのボルト32を、アッパサポートリテーナ26に設けられた取付孔及び上面板56に設けられた取付孔へ下方から挿入し、突出上端部へナット60をねじ込むことにより、ショックアブソーバ58が車体へ固定される。
【0021】また、アッパサポートリテーナ26の上向き凸部とアッパサポートリテーナ20の下向き凸部の間には、中央に金属製のリテーナ28が、そしてその周辺にゴム等の弾性体で製作されたアッパサポートゴム30が埋設されている。また、リテーナ28、アッパサポートリテーナ20の凸部、ならびにアッパサポートリテーナ26の凸部には、中心部に貫通孔が設けられて、ピストンロッド34の上端部挿入用となっている。
【0022】ピストンロッド34の上端部34Aは段部を介して小径とされ、雄ねじが形成されている。この先端部34Aは段部がリテーナ28の下端へ当たるまで挿入され、突出上端部にはナット36が螺合されてピストンロッド34がアッパサポートゴム30を介して上面板56へ支持されている。
【0023】アッパサポートリテーナ20の下方への凸部の下面には、ゴム等の弾性体で製作されたバウンドストッパ52が接着されており、その中央部にはピストンロッド34が貫通している。このバウンドストッパ52は、略円錐台状をしており、アッパサポートリテーナ20の下面から離間するにしたがって、外径が小さくなっている。また、バウンドストッパ52の貫通孔の内径は、軸X方向にみて中央部および下方部においては、ピストンロッド34の外径より少し大きくしている。これにより、バウンドストッパ52の内周面とピストンロッド34の外周面との間に隙間66を設けている。
【0024】このバウンドストッパ52の下方に配置される外筒14の中間部外周は、円板形で略ろうと状とされた金属製のロアシート40を同軸的に貫通すると共にこのロアシート40へ溶着されている。また、このロアシート40の外周部は、略水平方向に張り出しているばね受け部40Aとされてゴム、スポンジ等の弾性体で製作された薄板状のクッション38を介してコイルスプリング22の下端部を支持している。ばね受け部40Aの外周はコイルスプリング22の下端形状に沿って、断面が4分の1円周を描くようになだらかに垂直上方向へ屈曲した立上り部40Bが形成されている。」

2-2-3 対比

本件補正発明と引用発明とを対比する。

両者の発明の対象が「カム装置」であり、発明を構成するものとして「カムドライバ」、「このカムドライバに接触して移動されるようになっているカムスライド」、「このカムスライドを移動自在に支持するカムスライド支持手段」、「カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構」を備える前提で両者の発明の対象は共通し、
更に前記共通する四つの構成のうち、「カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構」に関しても、両者は「一端部ではカムスライド支持手段の一方の突起部に、他端部ではカムスライド支持手段の他方の突起部に夫々固着されたロッド」、「このロッドを取り巻いて配されたコイルばね」、「ロッドの一端部側に可動に配されていると共にコイルばねの一端部側からの弾性伸長力を受容する一方のばね受け」、「この一方のばね受けと協働してコイルばねに初期圧縮力を与えると共にコイルばねの他端部側から受容する弾性伸長力をカムスライドに伝達する伝達手段」の四つの部材を「具備」する点で両者は共通する。
また更に、前記共通するとした「復帰機構」中の「伝達手段」に関しても、両者は、「コイルばねの他端部側からの弾性伸長力を受容すると共にロッドの軸心に沿う方向に可動に配された他(方)のばね受け」及び「ロッドの軸心に沿う方向であってロッドの他端部に向かう方向の他方のばね受けの移動を禁止してコイルばねに初期圧縮力を与えるようにロッドに固着された禁止部材」の二つの部材を具備している点でも共通する。
また、引用発明の「一方のばね受け」が「当該カムスライド支持手段の突起部と当接している」ことは、本願発明の「一方のばね受け」が「カムスライド支持手段の一方の突起部に接触して」いることに相当する。

以上から、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。

(一致点)
「カムドライバと、このカムドライバに接触して移動されるようになっているカムスライドと、このカムスライドを移動自在に支持するカムスライド支持手段と、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構とを備えており、復帰機構は、一端部ではカムスライド支持手段の一方の突起部に、他端部ではカムスライド支持手段の他方の突起部に夫々固着されたロッドと、このロッドを取り巻いて配されたコイルばねと、ロッドの一端部側に可動に配されていると共にコイルばねの一端部側からの弾性伸長力を受容する一方のばね受けと、この一方のばね受けと協働してコイルばねに初期圧縮力を与えると共にコイルばねの他端部側から受容する弾性伸長力をカムスライドに伝達する伝達手段とを具備しており、一方のばね受けは、カムスライド支持手段の一方の突起部に接触しており、伝達手段は、コイルばねの他端部側からの弾性伸長力を受容すると共にロッドの軸心に沿う方向に可動に配された他方のばね受けと、ロッドの軸心に沿う方向であってロッドの他端部に向かう方向の他方のばね受けの移動を禁止してコイルばねに初期圧縮力を与えるようにロッドに固着された禁止部材とを具備しており、コイルばねの一端部が接触する一方のばね受けは、コイルばねの一端部をロッドの軸心に対して位置決めする一方の位置決め手段を具備しており、コイルばねの他端部が接触する他方のばね受けは、コイルばねの他端部をロッドの軸心に対して位置決めする他方の位置決め手段を具備しており、一方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの一端部が接触する一方の受容面を有した一方のばね受け本体を具備している、カム装置。」

(相違点)
「コイルばね」の両端を「受容」する「一方のばね受け」及び「他方のばね受け」に関し、本件補正発明では、前者が「本体」の「受容面」に「一体的に突出して形成された円筒部」を備えることによりコイルばねが「円筒部の外周面にも接触してロッドの軸心に対して位置決めされる」とした「位置決め手段」を具備し、後者も「本体」の「受容面」に「コイルばねの他端部を収容するように他方のばね受け本体の他方の受容面を底面として形成された円筒凹部」を備えることにより「コイルばねの他端部は、他方の受容面に連接すると共に円筒凹部の外周面を規定する他方のばね受けの内周面にも接触してロッドの軸心に対して位置決めされる」とした「他方の位置決め手段」を具備しつつ、「円筒部の外周面の径は、他方のばね受けの内周面の径よりも小さい」とされているのに対して、引用発明のコイルばね両端にある「ばね受け」(47,65)にはそのような「円筒部」及び「円筒凹部」とみなせる位置決め手段を備えていない点。

2-2-4 判断

上記相違点について検討する。

上記相違点に係る本件補正発明のばね受け構造は、コイルばねの端部を、一方では突出した円筒部によりばねの内周から固定保持し、他方では円筒凹部によりコイルばねの外周から固定保持することにより、ばねの内部に存在するロッドへの接触回避が図られる(本件明細書段落【0040】、審判請求書3.(d)参照)とするものであるが、元々ばねの端部の接触構造として、不用意に移動しないように、上記相違点と同じく、一方は端板からばね伸長方向へ突出する部材とばね内周面で嵌め合い、他端ではばね外周面に沿った円筒凹形状の部材で支持するとする工夫は、上記引用文献2の摘記事項Cないしその添付図面による図示が示すとおり、引用文献2にあるリバウンドスプリング10の貫通孔24に圧入される下向き凸部が設けられたアッパサポートリテーナ20が、上記相違点に係る本件補正発明の「一方のばね受け本体」が備えるとした「一体的に突出して形成された円筒部」であり、同じく引用文献2にあるばね受け部40Aに形成された立ち上がり部40Bが、上記相違点に係る本件補正発明の「他方のばね受け本体」が備えるとした「コイルばねの他端部を収容するように他方のばね受け本体の他方の受容面を底面として形成された円筒凹部」となると認められるので、本件出願前に公知の態様である。
とすれば、引用文献2に記載されたばね(=スプリング)の端部に関する公知の支持構造を、引用発明のカム装置の復帰機構部に存在するコイルばね両端部に単純に適用し、本件補正発明のごとき構成をなすことは、当業者が容易に果たし得る程度のものと言うことができ、なんら格別のものではない。
また、通常コイルばねはその外周の径が一定であることを考えると、ばね内周の径は、必ずばね外周の径より小径となるのが必定であり、上記相違点の「円筒部の外周面の径は、他方のばね受けの内周面の径よりも小さい」との特定事項は、公知の支持構造にも当然に該当するとみて差し支えない。

上記で検討したごとく、当該相違点は格別のものではなく、そして、本件補正発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び公知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び上記公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2-2-5 小結
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反し、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下すべきものである。

よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について

1. 本願発明の認定
平成26年10月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件補正後の請求項1に対応する本件補正前の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年7月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.原査定の理由1(特許法第17条の2第3項)の検討
原査定で新規事項の追加であるとされた「コイルばねの一端部は、ばね受け本体の受容面に加えて、この受容面に連接する円筒部の外周面にも接触する」の是非について検討すると、コイルばねの端部と、受容面に連接された円筒部との関係について説明ないし図示にて描写された箇所では、コイルばねが受容面に接触することとはされているものの、円筒部の外周面に接触することを開示したものであるかについては、段落【0040】にて円筒部がコイルばねの端部をロッドの軸心Oに対して位置決めするという機能・作用に関する記述は確認できるものの、位置決めの具体的態様を伴っていない以上、僅かな間隙(=クリアランス)を伴った位置決めの態様も、明細書の記述から明確に排除されないと言うべきであり、必ずしも接触関係にあるとまでは言い切れず、当初明細書等に記載済みの事項とは扱うことができない。
よって、原審がした理由1(特許法第17条の2第3項違反)は、相応の理由がある。

仮に、上記の新規事項が適法とされた場合であっても、原査定では別途理由2(特許法第29条第2項)に基づく拒絶理由もあるとしているので、以下、当該理由2についても予備的に判断する。

3. 原査定の理由2(特許法第29条第2項)の検討
3-1 先行技術・引用発明の認定
上記「第2 平成26年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定」の2-2-2-1で示したとおり、本件出願の出願日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、原審の拒絶の査定において引用された上記引用文献1には上記文献記載事項及び引用発明が記載されている。
また、本件出願の出願日前に頒布または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、原査定の理由2として、上記引用文献1とともに引用された、特開2002-155979号公報(平成14年5月31日公開、以下、「引用文献3」という。)には、図面と共に以下の技術的事項が記載されている。

D 「【0019】図3は、本発明の第2の実施形態である。この第2の実施形態と上述した第1の実施形態との差異は、リテーナ及び摺動部材にずれ抑制手段を設けた点であり、第1の実施形態と同一の要素については同一の符号を付している。
【0020】この第2の実施形態においては、第1の実施形態の摺動部材9,10の代わりの摺動部材12,13及び第1の実施形態のリテーナ4の代わりのリテーナ11が用いられている。この摺動部材12,13とリテーナ11には、ばね要素と当接する面に、ばね要素との当接位置の相対的ずれを防止するためのずれ抑制手段としての段差部が形成されている。
【0021】ロッド3のハウジング1内側の先端には、段差部11aを有するリテーナ11が固着されている。このリテーナ11にはこのリテーナ11と当接するばね要素8の巻き内径より小さい径の円でロッド3の中心軸を中心とした円の位置に、円の内側が高く外側が低く形成された段差部11aが設けられている。この段差部11aがばね要素8の内側に係合するようになっている。
【0022】又、摺動部材12には、ばね要素6,7との当接面に段差部12a、12bが設けられ、この段差部12a、12bも、当接するばね要素6又はばね要素7の巻き内径より小さい径の円でロッド3の中心軸を中心とした円の位置に、円の内側が高く外側が低く形成され、ばね要素6は段差部12aと係合し、ばね要素7は段差部12bと係合するようになっている。さらに、摺動部材13にも同様に段差部13a、13bが設けられ、ばね要素7が段差部13aと係合し、ばね要素8が段差部13bと係合するようになっている。
【0023】他の構成は第1の実施形態と同一であるので説明は省略する。この第2の実施形態においても、相対的に揺動運動する2つの要素の一方にハウジング支持部2を、他方にロッド支持部5を取り付け、2つの要素を相対的に揺動運動させたとき、各ばね要素6,7,8は伸縮すると共に、摺動部材12,13もロッド3に沿って摺動して移動する。又、バックリングが生じても、各ばね要素6,7,8の長さは短いことから、前述したようにバックリング量dは小さく、しかも、ずれ抑制手段としてリテーナ11,摺動部材12,13に段差部11a,12a,12b,13a、13bがそれぞれのばね要素6,7,8と係合しているから、ばね要素6,7,8とリテーナ11又は摺動部材12,13との当接位置のずれが発生することなく、略一定位置関係にばね要素6,7,8とリテーナ11又は摺動部材12,13は保持されるので、ずれにより発生するばね要素とハウジング内壁との接触、摩擦等を防止することができる。
【0024】図4は、本発明の第3の実施形態である。この第3の実施形態においては、第1の実施形態における摺動部材9,10及びリテーナ4の代わりに、ずれ抑制手段を有する摺動部材16,17、リテーナ15が用いられている点であり、他は第1の実施形態と同一である。この実施形態に対しても第1の実施形態と同一要素は同一符号を付している。
【0025】この第3の実施形態ではロッド3の先端に設けられたリテーナ15のばね要素8との当接面には、当接するばね要素8の巻の外径よりも僅か大きい位置でずれ抑制手段としての段差部15aが設けられ外側が高く形成されている。ばね要素8の外周がこの段差部15aの内側に係合するようになっている。又、摺動部材16には、ばね要素6と当接する面に、当接するばね要素6の巻の外径よりも僅か大きい位置で段差部16aが設けられ外側が高く形成され、ばね要素6の外周がこの段差部16aの内側に係合するようになっている。同様に、摺動部材16のばね要素7と当接する面にも同様な段差部16bが設けられ、ばね要素7の外周がこの段差部16bの内側に係合するようになっている。
【0026】摺動部材17についても、ばね要素7と当接する面、ばね要素8と当接する面には、それぞれ前述したものと同様な段差部17a、17bが設けられ、この段差部17a、17bにばね要素7,8が嵌合するように係合し、ばね要素7,8と摺動部材17との当接位置のずれ発生を抑制している。これら段差部15a,16a,16b,17a、17bによってずれ抑制手段を構成している。なお、他の作用効果は図3で説明した第2の実施形態と同様であるので説明を省略する。」

3-2 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。

両者の発明の対象が「カム装置」であり、発明を構成するものとして「カムドライバ」、「このカムドライバに接触して移動されるようになっているカムスライド」、「このカムスライドを移動自在に支持するカムスライド支持手段」、「カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構」を備える前提で両者の発明の対象は共通し、
更に前記共通する四つの構成のうち、「カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構」に関しても、両者は「一端部ではカムスライド支持手段の一方の突起部に、他端部ではカムスライド支持手段の他方の突起部に夫々固着されたロッド」、「このロッドを取り巻いて配されたコイルばね」、「ロッドの一端部側に配されていると共にコイルばねの一端部側からの弾性伸長力を受容する一方のばね受け」、「この一方のばね受けと協働してコイルばねに初期圧縮力を与えると共にコイルばねの他端部側から受容する弾性伸長力をカムスライドに伝達する伝達手段」の四つの部材を「具備」する点で両者は共通する。
また更に、前記共通するとした「復帰機構」中の「伝達手段」に関しても、両者は、「コイルばねの他端部側からの弾性伸長力を受容すると共にロッドの軸心に沿う方向に可動に配された他のばね受け」を具備している点でも共通する。

以上から、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。

(一致点)
カムドライバと、このカムドライバに接触して移動されるようになっているカムスライドと、このカムスライドを移動自在に支持するカムスライド支持手段と、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構とを備えており、
復帰機構は、
一端部ではカムスライド支持手段の一方の突起部に、他端部ではカムスライド支持手段の他方の突起部に夫々固着されたロッドと、
このロッドを取り巻いて配されたコイルばねと、
ロッドの一端部側に配されていると共にコイルばねの一端部側からの弾性伸長力を受容する一方のばね受けと、
この一方のばね受けと協働してコイルばねに初期圧縮力を与えると共にコイルばねの他端部側から受容する弾性伸長力をカムスライドに伝達する伝達手段と
を具備しており、
伝達手段は、
コイルばねの他端部側からの弾性伸長力を受容すると共にロッドの軸心に沿う方向に可動に配された他のばね受けとを具備するカム装置。

(相違点)
本願発明では、「コイルばねの一端部が接触する一方のばね受けは、コイルばねの一端部をロッドの軸心に対して位置決めする一方の位置決め手段を具備しており、コイルばねの他端部が接触する他方のばね受けは、コイルばねの他端部をロッドの軸心に対して位置決めする他方の位置決め手段を具備しており、一方のばね受けは、コイルばねの弾性伸長力を受容するようにコイルばねの一端部が接触する受容面を有したばね受け本体を具備しており、一方の位置決め手段は、コイルばねの一端部により囲繞されるようにばね受け本体の受容面に一体的に突出して形成された円筒部を具備しており、コイルばねの一端部は、ばね受け本体の受容面に加えて、この受容面に連接する円筒部の外周面にも接触する」とされているのに対して、引用発明のコイルばね両端にある「ばね受け」(47,65)には、いずれの接触面にもそのような「位置決め手段」を備えず、かつその一方に「円筒部」を備えていない点

そこで、上記相違点について検討する。

前記相違点に係るばね受け面に備えるとされた「位置決め手段」及び「円筒部」相当の事項は、上記引用文献3の摘記事項D中の、リテーナ11及び摺動部12、13に設けられた段差部と同じであり、しかも当該段差部はばね要素のずれ抑制として設けるとされ(【0023】参照)、しかも当該段差部とばね要素とは互いに係合するとされている(【0022】参照)ことから見て、引用文献3のばね要素7、8の端部は、段差部とも接触することとなるから、本願発明における円筒部とばねとの接触関係、及び円筒部を設けたことによる作用効果の双方に一致し、公知の技術的事項そのものと言える。
したがって、本願発明も、引用発明及び引用文献3に記載の公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4. むすび
以上のとおり、本件に対して平成25年7月16日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないと認められる。更に当該手続補正が仮に適法であったとしても、本願発明は、その出願に係る出願日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び公知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、他の請求項についての検討をするまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-28 
結審通知日 2015-09-08 
審決日 2015-09-24 
出願番号 特願2009-136703(P2009-136703)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B21D)
P 1 8・ 121- Z (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢澤 周一郎八木 敬太  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 西村 泰英
刈間 宏信
発明の名称 カム装置  
代理人 高田 武志  

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