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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C09D
管理番号 1307958
審判番号 無効2014-800106  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-06-20 
確定日 2015-06-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第4426564号発明「水消去性書画用墨汁組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件審判に係る特許

本件審判は、保土谷化学工業株式会社及び株式会社呉竹が共有する特許番号第4426564号の特許権に係る特許を無効にすることについて請求されたものであって、その特許は、発明の名称を「水消去性書画用墨汁組成物」とし、平成18年12月27日に特願2006-353111号として出願され、その後審査を経て、平成21年12月18日に請求項数8として特許権の設定登録がなされたものである。

2 訂正審判

上記特許につき、平成25年5月29日に、訂正審判(訂正2013-390083号事件)の請求がなされ、同年7月3日付けで、「特許第4426564号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める。」との審決がなされ、同審決は同年7月11日に確定し、その後、請求項数12として確定登録された(以下、訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。

3 本件審判における手続の経緯

本件審判は、平成26年6月20日に請求人である丸山博隆より請求されたものであって、その後、同年10月3日付けで被請求人である保土谷化学工業株式会社及び株式会社呉竹より審判事件答弁書が提出され、平成27年1月23日付けで両当事者より口頭審理陳述要領書が提出され、同年2月6日に口頭審理が行われ、同年2月13日付けで被請求人から上申書が提出されたものである。

第2 訂正後の特許請求の範囲の記載

上記訂正審判において認容された、訂正後の特許請求の範囲のうち、請求項1ないし3、9の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
酸性染料および水媒体を含み、
前記酸性染料は、構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、アゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料および青色系染料を含む3種以上からなり、かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%、黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合されることを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項2】
酸性染料および水媒体を含み、
前記酸性染料は、構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、アゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料および青色系染料を含む3種からなり、かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%、黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合され、
前記酸性染料のスルホン酸塩基がナトリウム塩であり、
前記赤色系染料が下記構造式(D)で表され、前記黄色系染料が下記構造式(B)で表され、前記青色系染料が下記構造式(E)で表されることを特徴とする繊維集合体に対する水消去性を有する水消去性書画用墨汁組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項3】
前記黄色系染料はアゾ系の食用黄色4号(タートラジン、C.I.19140)、食用黄色5号(サンセットイエローFCF、C.I.15985)から選ばれ、前記赤色系染料はアゾ系の食用赤色2号(アマランス、C.I.16185)、食用赤色102号(ニューコクシン、C.I.16255)から選ばれ、前記青色系染料はトリフェニルメタン系の食用青色1号(ブリリアントブルーFCF、C.I.42090)であることを特徴とする請求項1記載の水消去性書画用墨汁組成物。」
「【請求項9】
前記黄色系染料はアゾ系の食用黄色5号(サンセットイエローFCF、C.I.15985)、前記赤色系染料はアゾ系の食用赤色102号(ニューコクシン、C.I.16255)、前記青色系染料はトリフェニルメタン系の食用青色1号(ブリリアントブルーFCF、C.I.42090)であることを特徴とする請求項2記載の水消去性書画用墨汁組成物。」
(以下、これらの請求項に係る発明を項番号に対応させて「本件発明1」などといい、これらの発明に対応する特許をそれぞれ「本件特許1」などという。また、これらを総称して、単に「本件発明」、「本件特許」ということがある。)

第3 本件審判の概要

1 請求人の主張の概要

請求の趣旨は、「特許第4426564号発明の特許請求の範囲の請求項1から3及び9に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」(審判請求書の2頁「6.」参照)というものであって、請求人が主張する無効理由および証拠方法は、要するに以下のとおりである。

(1) 無効理由(特許法29条2項所定の「容易想到性」に係る無効理由)

本件発明1ないし3、9は、甲第1ないし4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許1ないし3、9は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである(審判請求書の7頁(3)参照)。

(2) 証拠方法

証拠方法として提示されたものは、下記の書証である(このうち、甲第7号証の2、甲第11号証の2ないし5、及び甲第15号証は、平成27年1月23日付け口頭審理陳述要領書に添付されたものであり、それ以外の書証は、審判請求書に添付されたものである。)。

甲第1号証 : 特開平9-316379号公報
甲第1号証の1 : 日本学術振興会染色加工第120委員会編「繊維 染色加工辞典」(昭和38年8月30日2版発行 )、日刊工業新聞社、330頁「直接性」の項
甲第2号証 : 特開平10-158567号公報
甲第3号証 : 特開2002-129085号公報
甲第4号証 : 特開2005-89480号公報
甲第5号証 : 特開平4-298577号公報
甲第6号証 : 有機合成化学、第32巻第8号(1974)、6 20-631頁
甲第7号証 : 再公表特許2005-108503号公報
甲第7号証の2 : 国際公開2005-108503号
甲第8号証 : 特開平7-100469号公報
甲第9号証 : 特開平7-299473号公報
甲第10号証 : 川上元郎ら編「色彩の事典」(1987年12月 10日初版第1刷発行)、朝倉書店、302-3 11頁
甲第11号証 : 京都市立芸術大学美術教育研究会日本文教出版編 集部編「東京の美術 美術資料」、秀学社、49 頁
甲第11号証の2 : 光村図書出版株式会社編集部編「平成5年度用 美術1」(平成4年2月29日文部省検定済)、 光村図書出版、24、25頁
甲第11号証の3 : 光村図書出版株式会社編集部編「平成14年度用 美術1」(平成13年3月30日文部省検定済) 、光村図書出版、38、39頁
甲第11号証の4 : 光村図書出版株式会社編集部編「平成9年度用 美術1」(平成8年2月29日文部省検定済)、 光村図書出版、22、23頁
甲第11号証の5 : 村田道紀文・絵「みんなで実験 楽しく科学あそ び ○2いろあわせ」(2006年3月改訂)、 12、13頁(ワープロの都合上、丸付き文字は ○・・と記載した。)
甲第12号証 : 「本発明の各色の配合比率通りに配合した墨汁の 筆跡例」
甲第13号証 : 特許第4426564号の特許公報
甲第14号証 : 訂正2013-390083の審決公報
甲第15号証 : 「甲第12号証の実験に関する証明」、株式会社 サクラクレパス栗原徳正により平成27年1月1 6日作成
なお、甲第13号証は本件特許の特許公報であり、甲第14号証は上記訂正審判の審決公報であって、上記無効理由に係る要証事実を立証するための証拠ではない。

(3) 無効理由と証拠方法の関係

審判請求書によると、請求人が主張する上記無効理由は、次のアないしウに大別することができる。
ア 無効理由1:甲第1号証を主引用例とした場合
(審判請求書38-46頁(7))
イ 無効理由2:甲第4号証を主引用例とした場合
(審判請求書46-50頁(8))
ウ 無効理由3:甲第2号証を主引用例とした場合
(審判請求書50-55頁(9))
このうち、無効理由1はさらに、一部の相違点に関する容易想到性につき、副引用例を、甲第3号証とした場合(審判請求書39-42頁(ウ))と甲第4号証とした場合(審判請求書42-45頁(エ))とに細分されている。

2 被請求人の主張の概要

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、証拠方法として下記乙第1ないし4号証(乙第1、2号証は平成26年10月3日付け審判事件答弁書に、乙第3、4号証は平成27年1月23日付け口頭審理陳述要領書に、乙第3号証の2、乙第4号証の2は同年2月13日付け上申書に、それぞれ添付されたもの)を提示し、請求人が主張する無効理由は理由がない旨主張している。

乙第1号証 : 特開平7-3197号公報
乙第2号証 : 特開2008-31240号公報
乙第3号証 : Milliken Chemical社ホームページの
「Versatint」製品のページ
乙第4号証 : Pure & Appl. Chem.、 Vol. 68、 No. 7、
pp.1423-1428、1996
乙第3号証の2 : 乙第3号証の部分訳
乙第4号証の2 : 乙第4号証の部分訳

第4 当審の判断

当審は、本件特許1ないし3、9につき請求人が主張する、上記無効理由1ないし3のいずれの無効理由についても、理由がない、と判断する。
以下、その理由につき詳述する。
なお、上記「第3 1(1)」のとおり、請求人は、甲第1ないし4号証(ただし、甲第1号証の1を除く。以下同じ。)に記載された発明に基いて本件発明の容易想到性を主張するものであるから、はじめに、本件発明の技術上の意義(特に作用効果)を確認した後、これら甲第1ないし4号証を中心に、甲各号証の記載事項、並びに、それらから把握し得る発明及び技術的事項(課題・作用効果等)を整理した上で、請求人が主張する上記無効理由1ないし3に係る容易想到性につき検討していくこととする。

1 本件発明の技術上の意義

(1) 本件明細書の記載

本件明細書には次の趣旨の記載がある。

ア 背景技術(段落【0002】?【0006】)
従来の墨汁はカーボンブラックを主体とした膠及び/又は合成樹脂からなる組成物であるため、一旦布や不織布などの繊維集合体に付着した場合、水洗又は洗剤を用いた洗濯では簡単に消去できない問題があり、また、市販品の消去性書道液でも、最も多用されている繊維である木綿に対しては容易に消去することが困難であった。
従来技術において、樹脂と染料や顔料を混練し微粉末に加工したり、水不溶性の無機物の微粒子の表面に水不溶性の染料や顔料を混合し機械的な衝撃力で付着したり、染料等と反応させ微粉末にしたりして、染料等の粒子の大きさを大きくすることにより、繊維集合体の繊維間に入り込むことを防止し、染料が有する繊維との反応基を封鎖して、洗濯などで色材を洗い落とす方法がある。しかし、このような方法は、樹脂と染料等を混練し、微粉末に加工する工程、樹脂表面に機械的衝撃力で染料などを付着させる工程、染料と樹脂とを反応させる工程等が必要となり、樹脂及び加工する設備、工程が必要であった。
さらに、洗濯により容易に消去できる、ヨウ素でんぷんを用いた墨汁も、半紙に書いた後の色が黒色から褐色に変化し、黒色を維持させることが必要な墨汁として満足するものではなかった。
イ 課題(段落【0007】)
従来のような煩雑な工程を必要とすることなく、誤って衣服に付着しても洗濯により容易に消去でき、さらに半紙に書いた後の色が黒色を維持させることが可能な水消去性書画用墨汁組成物を提供する。
ウ 課題を解決するための手段(段落【0009】)
上記課題を解決するための発明の第1態様は、請求項1に記載の水消去性書画用墨汁組成物である。
エ 発明の効果(段落【0011】)
従来のような煩雑な工程を必要とすることなく、誤って衣服に付着しても洗濯により容易に消去でき、さらに半紙に書いた後の色が黒色を維持させることが可能な水消去性書画用墨汁組成物を提供できる。
オ 発明を実施するための最良の形態(段落【0036】、【0053】?【0073】)
本発明者らは、酸性染料の中で、構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、かつアゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)又はトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料及び青色系染料を含む3種以上からなる特定の酸性染料を選択し、さらに各色系染料を特定の配合割合で水媒体に含有させることによって、従来のような煩雑な工程を必要とすることなく、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、さらに半紙に書いた後の色が黒色を維持することが可能な水消去性書画用墨汁組成物を見出した。
具体的には、実施例1ないし3、比較例1ないし4として、下記表1に示す墨汁組成物を調整し、その洗濯消去性、耐光性等に関する試験を行った結果、同表から明らかなように実施例1ないし3の墨汁組成物は、洗濯消去性、耐光性等が良好であり、総合評価結果は○(合格)であることが分かった。これに対し、同じ酸性染料に属し、2つのスルホン酸塩基を持つキサンテン系の食用赤色染料であるアシッドレッドを用いた比較例1の黒色の染料水溶液では、水消去性が良好であるものの、黒調色した場合の経日による色調退色が見られ、すなわち耐光性(彩度)の低下が生じ、総合評価が×(不合格)になり、また、同じ酸性染料に属し、キサンテン系の食用赤色染料であるエリスロシンを用いた比較例2およびキサンテン系の食用赤色染料であるローズベンガルを用いた比較例3の黒色の染料水溶液では、それらの赤色染料がいずれもスルホン酸塩基を持たないために水消去性が劣り、総合評価が×(不合格)になり、さらに、同じ酸性染料に属し、インジゴ系の青色染料であるインジゴカルミンは、水に対する溶解性が低く、析出し易いために墨汁の染料成分としては不適切で、総合評価が×(不合格)になった。
【表1】


(2) 本件発明の酸性染料について

本件明細書の上記摘記イ、ウによれば、本件発明1係る水消去性書画用墨汁組成物は、従来のような煩雑な工程を必要とすることなく、洗濯により容易に消去でき、かつ、半紙に書いた後の黒色を維持させることを可能にすることを課題とするため、上記「第2」のとおり、本件発明1の成分は、酸性染料と水媒体という単純な構成成分により特定されるものとなっている。そして、上記摘記オのとおり、種々の酸性染料を用いた試験が行われていることから、当該構成成分たる酸性染料としてどのようなものを選択するかが、本件発明1(さらには本件発明全体)が上記課題を解決する上での重要な鍵となっていることが理解できる。
このように本件発明において重要視すべき酸性染料に着目して、本件発明1ないし3、9全体を俯瞰すると、これらの墨汁組成物は、上記「第2」のとおり、「構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、かつアゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料および青色系染料を含む」酸性染料を構成成分とし、これらを特定の配合割合にて調合したものである点で共通するものである。
以下、便宜上、本件発明の構成成分である「構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、アゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料および青色系染料を含む」酸性染料を、単に「三原色の特定酸性染料」と呼称して検討を進めることとする。

(3) 本件発明の酸性染料に係る作用効果について

本件発明は、上記摘記エ、オのとおり、「三原色の特定酸性染料」を選択し、さらに各色系染料を特定の配合割合で水媒体に含有させることによってはじめて、従来のような煩雑な工程を必要とすることなく、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去でき、さらに半紙に書いた後の黒色を維持することが可能となったものであり、この作用効果は、本件明細書の【表1】により確認することができる。
すなわち、当該【表1】には、「三原色の特定酸性染料」を用いた実施例1ないし3と対比される比較例1ないし4として、当該「三原色の特定酸性染料」と同じ酸性染料(さらには同じ「食用酸性染料」)に属するものの、これと化学構造が異なるキサンテン系あるいはインジゴ系の食用酸性染料を用いたものが列記されているところ、これらの比較例の洗濯消去性あるいは耐光性の数値は、「三原色の特定酸性染料」を用いた実施例の数値に比し劣っていることから、上記した本件発明の作用効果が定量的なものとして裏付けられているということができる。
ここで重要なことは、当該比較例に係る染料は、本件発明の「三原色の特定酸性染料」と同じ「酸性染料」というカテゴリーに属するものでありながら上記数値が劣っていること、言い換えると、「酸性染料」というカテゴリーに属する染料を選定しさえすれば良い数値が得られるという単純な図式上にあるのではなく、当該カテゴリーの中からさらに「三原色の特定酸性染料」を選択したことに技術上の意義を看取できることである。
以下、便宜上、本件発明において、「三原色の特定酸性染料」を選択し、これを特定の配合割合で水媒体に含有させることによって奏される上記墨汁組成物特有の定量的な作用効果を、「水消去性を発現させること」及び「半紙に書いた後の黒色を維持させること」と整理し、これらを単に、「水消去性・黒色維持に係る作用効果」という。
本件発明の容易想到性を検討するにあたっては、本件発明が有する当該「水消去性・黒色維持に係る作用効果」に十分配慮することが肝要である。

2 甲第1ないし4号証の記載

甲第1ないし4号証にはそれぞれ、以下の記載がある。

(1) 甲第1号証(特開平9-316379号公報)の記載事項

ア 「【請求項1】 直染性の低い染料と水溶性樹脂を含有することを特徴とする消去性着色剤組成物。
・・・(中略)・・・
【請求項7】 直染性の低い染料が、反応性染料、酸性染料のいずれかである請求項1乃至6のいずれかに記載の消去性着色剤組成物。
・・・(中略)・・・
【請求項11】請求項1乃至10のいずれかに記載の消去性着色剤組成物を含有する墨汁。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、墨汁、絵具、マーキングペン用インキ等として用いることができ、布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に水洗などにより簡単に消去できる水溶性の消去性着色剤組成物に関する。」
ウ 「【0002】
【従来の技術】従来、例えば墨汁や絵具は、誤って衣服などの布、不織布などの繊維集合体に付着し定着した場合、洗っても簡単にはとれないという問題があった。
【0003】一方、墨汁と絵具だけでなく、マーキングペン用インキ等を被服等の繊維集合体に積極的に描いて、簡単に消去できれば、新たな着色剤としての利用に供することもできる。
【0004】従来、特開平7-3197号は、染料を水不溶性の樹脂等と反応させて水不溶性の複合物とし、繊維集合体に染着しないようにして消去性を付与するか、又は水不溶性樹脂で染料を覆い水不溶性の複合物の粒子径を大きくさせ、染料の繊維の目に引っかかるのを防止して消去性を付与している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前者の技術は、染料をわざわざ水不溶性の樹脂等と反応させる必要が生じる。また、後者の技術では、筆記面との定着が悪くなるため、これを防止するためにインキ成分に別途定着剤を添加する必要があった。
【0006】本発明の課題は、染料を水不溶性樹脂との複合物で消去性を実現することなく、衣服などに誤って着色剤が付着しても染色されることなく、水洗又は洗剤使用で洗濯等により簡単に消去できる消去性着色剤組成物を提供する点にある。」
エ 「【0013】本発明の着色剤組成物が消去性を持つ理由は、定かではないが、1つは直染性が低い染料、好ましくは酸性染料又は反応性染料の場合、混合物ではあるとはいうものの、その染料部が水溶性樹脂に包接されるような形で包み込まれるため、染料の見かけの大きさが大きくなり、繊維集合体の繊維の表面を通って繊維内に入り込むことができないためと考えられる。また、水溶性樹脂に直染性が低い染料が取り込まれているため染料の反応基が繊維と反応することを阻害しており、さらに、水溶性樹脂が洗浄液と繊維に付着した染料のあいだの表面張力を下げ、湿潤、浸透作用により染料が繊維の表面から引き離されるのを助け、消去性を向上させる作用を有するためであると考えられる。」
オ 「【0016】
【発明の実施の形態】直染性が低い染料としては、限定されるものではないが、例えば、・・・(中略)・・・C.I.番号A.Bk.2(商品名 Water Black R-455)、C.I.番号 A.Bk.119(商品名 Opal Black new conc 保土谷社製)、C.I.番号 A.R.87(商品名 エオシン)、C.I.番号 A.B.9(商品名 Water Blue #9)等の酸性染料を用いることができる。」
カ 「【0021】本発明の消去性着色剤組成物は、例えば必須成分として直染性の低い染料及び水溶性樹脂を含有し、これらを水と混合、撹拌により溶解させることによって得られる。」
キ 「【0040】(実施例12?15)次に、染料以外は実施例1と同条件下で黒色の着色剤組成物を得た。すなわち、イオン交換水50mlにポリエチレングリコール(平均分子量3000)を20gを溶解し、室温で撹拌しながら、商品名 C.I.番号 A.Bk.2(商品名 Water Black R-455)、C.I.番号 A.Bk.119(商品名 OpalBlack new conc 保土谷社製)、C.I.番号 A.R.87(商品名 エオシン)、C.I.番号 A.B.9(商品名 WaterBlue #9)の各酸性染料を2.0gを添加して十分撹拌し、完全に溶解させて実施例12?15の黒色の着色剤組成物を得た。」
ク 「【0045】
【発明の効果】以上の通り、本発明の消去性着色剤は、従来のように、染料を水不溶性樹脂との複合物で消去性を実現することなく、直染性の低い染料と水溶性樹脂を混合して含有するだけで、衣服などに誤って着色剤が付着しても染色されることなく、水洗又は洗剤使用で洗濯等により簡単に消去できる。従って、簡単な組成で、洗濯で消去できる墨汁、絵具、マーキングペン用インキ等として利用することができ、当該分野に資するところが大きい。」

(2) 甲第2号証(特開平10-158567号公報)の記載事項

ア 「【請求項1】 易消去性着色剤及び水を含有する墨汁組成物。
【請求項2】 易消去性着色剤が下記の一般式で表わされる化合物である請求項1記載の墨汁組成物。
【化1】

(但し、Rは染料基、nは15以上 、Xは1?16、nとXの積が30?200)」
イ 「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は墨汁組成物に関する。さらに詳しくは誤って衣服などに付着した場合でも水洗いにより簡単に消去することができる墨汁組成物に関するものである。」
ウ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】したがって、誤って衣服に付いた場合などは、カーボンブラック等の墨汁の着色剤の微粒子が繊維の目に引っかかりやすくなることから、きれいに消去できるものではなく、衣服にシミや汚れが付着してしまうという問題を有していた。また、この問題を解決するため原料、組成などを調整することも考えられるが、紙などへの滲みがひどくなるなどの問題を併発し、完全に解決されるには至っていなかった。
【0004】本発明の課題は従来の墨汁のかかる消去性の問題点を解決すると共に、紙などに書いてもにじむことのない墨汁を提供することにある。」
エ 「【0006】かかる墨汁組成物において好適に用いられる易消去性着色剤としては、特に下記の化学式の一般式で表わされる易消去性着色剤がある。
【化2】

(但し、Rは染料基、nは15以上 、Xは1?16、nとXの積が30?200)
【0007】すなわち、分子中に少なくとも15反復単位を有する水溶性の重合体界面活性剤であり、分子量は少なくとも1000であり、重合鎖に結合した染料基Rを有している化合物である。染料基Rは発色部に相当するが、例えば以下の化学式で表されるものが例示できる。
【0008】
【化3】

【0009】
【化4】

【0010】具体的な易消去性着色剤とは、元来繊維選別用染料として用いられていたMilliken Chemical社製、商品名「VERSATINT」や、同じくMilliken Chemical社製のマーカー用インキ 商品名「PALMER」をいい、これらの易消去性着色剤の使用が望ましいが、特に限定されるものではない。」
オ 「【0020】また染料は、単一の色彩を有するものを単独で用いる必要はなく、染料を調合して、各種の色を作り出してもよい。具体的には例えば、赤と黄色の染料を混ぜて用いれば、橙の墨汁を作ることができる。」
カ 「【0050】
【発明の効果】本発明にかかる墨汁組成物は消去性に優れ誤って衣服などに付いた場合でも洗濯により簡単に消去することができる。さらに滲み、転写、濃度などの各種因子に関しても優れており、筆文字特性に優れている。」

(3) 甲第3号証(特開2002-129085号公報)の記載事項

ア 「【請求項1】 インキ全量に対して、食用色素0.1?15重量%、水溶性樹脂0.1?15重量%、湿潤剤0?40重量%、及び水30?99.0重量%を含有する水消去性インキを内蔵してなる玩具用水消去性マーカー。
【請求項2】 前記食用色素は、水溶性アナトー、食用赤色2号(C.I.16185)、食用赤色3号(C.I.45430)、食用赤色40号(C.I.16035)、食用赤色102号(C.I.16255)、食用赤色104号(C.I.45410)、食用赤色105号(C.I.45440)、食用赤色106号(C.I.45100)、食用黄色4号(C.I.19140)、食用黄色5号(C.I.15985)、食用緑色3号(C.I.42053)、食用青色1号(C.I.42090)、食用青色2号(C.I.73015)、鉄クロロフィリンナトリウム、及び銅クロロフィリンナトリウムから選ばれる請求項1記載の玩具用水消去性マーカー。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、玩具用水消去性マーカー及びそれを用いた形象玩具セットに関する。詳細には、玩具表面に任意の着色像を自在に形成できると共に、前記着色像自体が水により容易に消去可能であり、且つ安全性に富む組成よりなるインキを内蔵させた玩具用水消去性マーカー、及び前記マーカーと人形又は動物玩具とをセットにした形象玩具セットに関する。」
ウ 「【0003】前記着色液が顔料系にあっては、梨地状の微細な凹凸が形成された人形の顔面に着色像を形成すると、顔料が前記微細な凹部に入り込み、顔料自体が水不溶性のため、水洗いにより顔料分を流し出すことができず、完全には消去でき難い。この際、顔料の粒子径が大きい系では、前記凹部への顔料の入り込みはないとしても、着色液の経時安定性に乏しく、経時により顔料が沈降して、マーカーのペン体からのインキ流出性不良を来し、実用性を満足させていなかった。一方、着色液が染料系にあっては、染料種によっては着色部分が経時により染着して痕跡を残すものがあった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本出願人は、前記した不具合を解消し、着色像が水により容易、且つ完全に消去でき、且つ安全性に富むインキ組成からなる水消去性インキを開発し、このインキを内蔵させた筆記に便宜なマーカー形態となし、幼児等が安心して使用でき、簡便に任意の筆記像を自由に形成して創作性と玩具性を満たす玩具用水消去性マーカー、更には、前記マーカーと人形又は動物玩具と組み合わせることにより、玩具性と商品性を更に高めた形象玩具セットを提供しようとするものである。」
エ 「【0010】前記水溶性樹脂の配合により、食用色素成分が当該樹脂を介して、基材表面に筆跡像を形成しており、樹脂分の水に対する溶解性に依存して、樹脂分の溶解と同時に前記色素分が一体となって水消去されることになり、効果的に水消去され、色素分の染着が抑制されるものと推察される。」
オ 「【0018】
【実施例】以下に実施例を示す。尚、実施例及び表中の部は重量部である。
【0019】実施例1(NO.1?NO.5インキ)
(1)水消去性インキの調製及び筆記具の作製
食用色素(食用赤色3号)2.5部、湿潤剤(グリセリン)10部、水溶性樹脂(ルビスコールK-17)5部、防腐・防黴剤(安息香酸ナトリウム)0.5部、及び水82.0部を常法により混合攪拌して水消去性インキ(NO.1)を調製した。又、食用色素の種類と添加量を変更して、前記と同様にして水消去性インキ(NO.2?NO.5)を調製した。表1に水消去性インキNO.1?NO.5の組成、色調及びインキ粘度を示す。
【0020】
【表1】


カ 「【0032】
【発明の効果】本発明の玩具用水消去性マーカーの適用により、幼児等が任意の筆記像を玩具基材の表面に簡易に形成できると共に、水により容易、且つ完全に前記筆記像を消去でき、而も、食用色素等を用いた安全性に富むインキ組成が適用されており、幼児向け玩具用マーカーとして好適である。更には、前記玩具用水消去性マーカーと人形又は動物玩具とを組み合わせた、形象玩具セットは、実用上も便宜であり、玩具商品性を満たす。」

(4) 甲第4号証(特開2005-89480号公報)の記載事項

ア 「【請求項1】
1)酸性染料又は天然染料
2)水
3)二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤
を含有した水性筆記具用インキ組成物。」
・・・(中略)・・・
【請求項3】
前記の酸性染料が食用染料である請求項1?2記載の水性筆記具用インキ組成物。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は水性筆記具用インキ組成物または当該インキを用いたマーキングペンに関するものである。更に詳しく言えば低温での経時安定性に優れている水性筆記具用インキ組成物または当該インキを用いたマーキングペンに関するものである。」
ウ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、着色剤として溶解度の低い酸性染料及び界面活性剤を併用しても、低温での経時安定性があり、染料が析出することがないため、ペン先に染料が析出する欠点がなく、かつ書き味に優れた水性筆記具用インキ組成物または当該インキを用いたマーキングペンを提供することである。」
エ 「【0006】
すなわち、本発明の水性筆記具用インキ組成物は、染料溶解安定性および表面張力調整を目的として二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤を含有する。表面張力が高すぎると書き味が悪く、筆記した時に紙にインキが浸透しにくく筆跡の乾燥が遅くなるが、一般的な界面活性剤で表面張力を調整すると、特に低温での保存時、溶解度が低下して染料が析出し、ペン先で目詰まりを起こし筆記不能となる。本発明者が鋭意研究した結果、二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤を用いると染料の溶解安定性を向上させ、かつ書き味も良くなり、従って低温保存時でも筆記性を損なうことなく滑らかに筆記でき、筆跡の乾燥性も良くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
さらに本発明では、安全性を重視する場合には酸性染料として食用染料が使用されることが好ましい。また、二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤のうちポリグリセリン脂肪酸モノエステルが食品添加物であるため、これら構成要素に加えて他添加剤も食品添加物を選択すれば、子供が誤ってなめても安全なインキとなり得る。上記溶解性、安全性から本発明は、天然染料も好ましく用いることができる。」
オ 「【0010】
(着色剤)
本発明は、着色剤としては水溶性の染料であれば酸性染料、塩基性染料及び天然染料等が使用できるが、低温での溶解度を良くする効果を発揮する点で酸性染料を使用する場合に好適である。当該酸性染料の具体例としては、C.I.Acid Yellow 1、C.I.Acid Yellow 3、C.I.Acid Yellow 7:1、C.I.Acid Yellow 8
・・・(中略)・・・
等が挙げられ、市販品としては、Aizen Tartrazine conc.(Acid Yellow23:保土谷化学)、Aizen Acid RhodamineBH(Acid Red52:保土谷化学)、Brilliant Scarlet 3R(Acid Red 18:住友化学工業)などの商品名が挙げられる。また、酸性染料の中でも以下のような食用染料が安全性の点で好ましい。
C.I.No.19140(食用黄色4号)、C.I.No.15985(食用黄色5号)、C.I.No.16035(食用赤色40号)、C.I.No.16185(食用赤色2号)、C.I.No.16255(食用赤色102号)、C.I.No.45100(食用赤色106号)、C.I.No.45410(食用赤色104号)、C.I.No.45430(食用赤色3号)、C.I.No.45440(食用赤色105号)、C.I.No.42090(食用青色1号)、C.I.No.73015(食用青色2号)、C.I.No.42053(食用緑色3号)」
カ 「【0020】
(マーキングぺン)
本発明のインキ組成物は、水性筆記具であれば適用できるが、その中でもマーキングペンに適している。特に、中芯に充填またはインキ組成物をそのままペン本体に充填し、且つペン先が繊維束、焼結体またはプラスチックよりなるマーキングペンに適している。即ち、マーキンペンには、インキ組成物をマーキングペン容器に直接充填する所謂フリーインキ式とインキ組成物をインキ吸蔵体である中芯に充填し、当該中芯をマーキングペン容器内に挿入する所謂中芯式があり、本発明のインキ組成物は、フリーインキ式、中芯式の双方に適用できる。ここで、中芯にはアクリル繊維、ポリエステル繊維等の繊維束を樹脂被覆又はセロハン紙で巻いたもの等がある。またペン先に於いては、アクリル繊維、ポリエステル繊維等の繊維束に樹脂を含浸させペン先としたもの、樹脂粒子を焼結することでポーラス状としたもの、プラスチックの成型物の棒状体の断面にスリットを設けてペン先としたもの等がある。」
キ 「【0021】
【実施例】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、これらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0022】
実施例1?4及び比較例1?4
表1に示す組成のインキをそれぞれ調製した。調製法としては各成分を配合し、3枚プロペラの撹拌機で2時間撹拌してインキを得た。尚、表1組成は重量%を示す。
【0023】
【表1】


ク 「【0026】
【発明の効果】
以上のように本発明の水性筆記具用インキ組成物は、1)酸性染料 2)水 3)二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤を含有しているので経時安定性に優れ、ペン先に染料が析出する欠点がなく、かつ書き味に優れている。特に当該インキ組成物を、中芯に充填またはインキ組成物をそのままペン本体に充填し、且つペン先が繊維束、焼結体またはプラスチックよりなるマーキングペンにすると、低温での経時安定性があり、ペン先に染料が析出せず、かつ書き味に優れたマーキングペンを得ることができる。」

3 甲第1ないし4号証に記載された発明の認定及び技術的事項の整理

上記甲第1ないし4号証の記載事項を踏まえて、甲各号証に記載された発明を認定し、併せて、当該発明に関連する甲各号証に記載された技術的事項(課題・作用効果・技術分野・染料に関連する開示内容)を整理しておく。

(1) 甲第1号証

ア 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証の「【請求項1】直染性の低い染料と水溶性樹脂を含有することを特徴とする消去性着色剤組成物。・・・【請求項11】請求項1乃至10のいずれかに記載の消去性着色剤組成物を含有する墨汁。」(摘記ア)、「本発明は・・・布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に水洗などにより簡単に消去できる・・・」(摘記イ)、及び、「本発明の消去性着色剤組成物は、例えば必須成分として直染性の低い染料及び水溶性樹脂を含有し、これらを水と混合・・・させることによって得られる。」(摘記カ)との記載からみて、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「直染性の低い染料と水溶性樹脂と水とを含有する消去性着色剤組成物、を含有する、繊維集合体に付着した場合に水洗などにより簡単に消去できる墨汁。」
イ 技術分野・課題(作用効果)について
甲第1号証の摘記イ、クのとおり、甲1発明に係る「直染性の低い染料と水溶性樹脂と水とを含有する消去性着色剤組成物」は、墨汁に限らず、絵具、マーキングペン用インキ等としても利用することができるものであることが理解できる。
また、甲第1号証の摘記ウ、クより、甲1発明の課題は、従来のように染料と水不溶性樹脂との複合物を形成することで消去性を実現するのではなく、衣服などに誤って着色剤が付着しても染色されることなく、水洗又は洗剤使用で洗濯等により簡単に消去できる消去性着色剤組成物を提供することにあり、甲1発明の構成を具備することにより、直染性の低い染料と水溶性樹脂を混合して含有するだけで、衣服などに誤って着色剤が付着しても染色されることなく、水洗又は洗剤使用で洗濯等により簡単に消去できるという効果を奏するものであること、を理解することができ、摘記エより、甲1発明が当該消去性を奏する作用機序には、水溶性樹脂が大きく寄与していることが分かる。
このように、甲第1号証には、墨汁以外の技術分野への転用や水消去性という課題に関連する記載を認めることができる。
しかしながら、本件発明のような「三原色の特定酸性染料」を用いることにより「水消去性・黒色維持に係る作用効果」(水消去性を発現させること、及び、半紙に書いた後の黒色を維持させること)をもたらす作用機序についての言及はない。
ウ 染料について
甲1発明は、「直染性の低い染料」を用いるものであるところ、甲第1号証には、当該直染性の低い染料(とりわけ酸性染料)に関し、以下のような記載がある。
「【請求項7】 直染性の低い染料が、反応性染料、酸性染料のいずれかである請求項1乃至6のいずれかに記載の消去性着色剤組成物。」(摘記ア)、
「【0016】
【発明の実施の形態】直染性が低い染料としては、限定されるものではないが、例えば、・・・C.I.番号 A.Bk.2(商品名 Water Black R-455)、C.I.番号 A.Bk.119(商品名 Opal Black new conc 保土谷社製)、C.I.番号 A.R.87(商品名 エオシン)、C.I.番号 A.B.9(商品名 Water Blue #9)等の酸性染料を用いることができる。」(摘記オ)、
「【0040】(実施例12?15)次に、染料以外は実施例1と同条件下で黒色の着色剤組成物を得た。すなわち、イオン交換水50mlにポリエチレングリコール(平均分子量3000)を20gを溶解し、室温で撹拌しながら、商品名 C.I.番号 A.Bk.2(商品名 Water Black R-455)、C.I.番号 A.Bk.119(商品名 OpalBlack new conc 保土谷社製)、C.I.番号 A.R.87(商品名 エオシン)、C.I.番号 A.B.9(商品名 WaterBlue #9)の各酸性染料を2.0gを添加して十分撹拌し、完全に溶解させて実施例12?15の黒色の着色剤組成物を得た。」(摘記キ)。
ここで、上記「C.I.番号 A.Bk.2(商品名 Water Black R-455)」及び「C.I.番号 A.Bk.119(商品名 Opal Black new conc 保土谷社製)」はともに、黒色酸性染料であり、「C.I.番号 A.R.87(商品名 エオシン)」及び「C.I.番号 A.B.9(商品名 Water Blue #9)」はそれぞれ、キサンテン系の赤色酸性染料(赤色230号)及びトリフェニルメタン系の青色酸性染料(青色205号:スルホン酸塩基を2個以上有するもの)である。なお、上記段落【0040】には、「実施例12?15の黒色の着色剤組成物を得た」と記載されているが、実施例14及び実施例15はそれぞれ、上記赤色酸性染料(赤色230号)及び青色酸性染料(青色205号)を用いるものであるから、得られる着色剤組成物が「黒色」とならないことは明らかである。
そうすると、これらの記載から、甲1発明に係る「直染性の低い染料」は、酸性染料であってもよく、その具体例として「商品名 C.I.番号 A.Bk.2(商品名 Water Black R-455)、C.I.番号 A.Bk.119(商品名 OpalBlack new conc 保土谷社製)、C.I.番号 A.R.87(商品名 エオシン)、C.I.番号 A.B.9(商品名 WaterBlue #9)」を把握することができる。
しかしながら、甲第1号証を仔細にみても、本件発明の「三原色の特定酸性染料」については何ら記載ないし示唆されていないということができる。

(2) 甲第2号証

ア 甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
甲第2号証の「【請求項1】 易消去性着色剤及び水を含有する墨汁組成物。」(摘記ア)、及び、「【0001】【発明が属する技術分野】本発明は墨汁組成物に関する。さらに詳しくは誤って衣服などに付着した場合でも水洗いにより簡単に消去することができる墨汁組成物に関するものである。」(摘記イ)との記載からみて、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「易消去性着色剤及び水を含有し、誤って衣服などに付着した場合でも水洗いにより簡単に消去することができる、墨汁組成物。」
イ 課題(作用効果)について
甲第2号証の摘記ウ、カより、甲2発明の課題は、従来の墨汁の消去性の問題点を解決するとともに、紙などに書いてもにじむことのない墨汁を提供することにあり、甲2発明の構成を具備することにより、消去性に優れ誤って衣服などに付いた場合でも洗濯により簡単に消去することができるという効果を奏するものであることが理解できる。
このように、甲第2号証には、水消去性に関する記載を認めることができる。
しかしながら、本件発明のような「三原色の特定酸性染料」を用いることにより「水消去性・黒色維持に係る作用効果」を奏する作用機序についての言及は見当たらない。
ウ 染料について
甲2発明は、「易消去性着色剤」というある種の染料を用いるものであるところ、甲第2号証には、当該易消去性着色剤(染料)に関し、以下のような記載がある。
「【請求項2】 易消去性着色剤が下記の一般式で表わされる化合物である請求項1記載の墨汁組成物。
【化1】

(但し、Rは染料基、nは15以上 、Xは1?16、nとXの積が30?200)」(摘記ア)、
「【0006】かかる墨汁組成物において好適に用いられる易消去性着色剤としては、特に下記の化学式の一般式で表わされる易消去性着色剤がある。
【化2】

(但し、Rは染料基、nは15以上 、Xは1?16、nとXの積が30?200)
【0007】すなわち、分子中に少なくとも15反復単位を有する水溶性の重合体界面活性剤であり、分子量は少なくとも1000であり、重合鎖に結合した染料基Rを有している化合物である。染料基Rは発色部に相当するが、例えば以下の化学式で表されるものが例示できる。
【0008】
【化3】

【0009】
【化4】

【0010】具体的な易消去性着色剤とは、元来繊維選別用染料として用いられていたMilliken Chemical社製、商品名「VERSATINT」や、同じくMilliken Chemical社製のマーカー用インキ 商品名「PALMER」をいい、これらの易消去性着色剤の使用が望ましいが、特に限定されるものではない。」(摘記エ)、
「【0020】また染料は、単一の色彩を有するものを単独で用いる必要はなく、染料を調合して、各種の色を作り出してもよい。具体的には例えば、赤と黄色の染料を混ぜて用いれば、橙の墨汁を作ることができる。」(摘記オ)。
そうすると、これらの記載から、甲2発明に係る「易消去性着色剤」は、特定の構造を有する化合物を想定したものであって、具体的には、Milliken Chemical社製の商品名「VERSATINT」、「PALMER」といった高分子着色剤を意図したものと解するのが妥当といえ、このことは、実際に、実施例として用いられている染料はすべて、これらの商品のいずれかであることからも理解できる。さらに、染料を調合して各種の色を作り出してもよいことも確認できる。
しかしながら、甲第2号証を仔細にみても、酸性染料に関する記載はもとより、本件発明の「三原色の特定酸性染料」に関連する言及はない。

(3) 甲第3号証

ア 甲第3号証に記載された発明(甲3発明)
甲第3号証の「【請求項1】 インキ全量に対して、食用色素0.1?15重量%、水溶性樹脂0.1?15重量%、湿潤剤0?40重量%、及び水30?99.0重量%を含有する水消去性インキを内蔵してなる玩具用水消去性マーカー。
【請求項2】 前記食用色素は、水溶性アナトー、食用赤色2号(C.I.16185)、食用赤色3号(C.I.45430)、食用赤色40号(C.I.16035)、食用赤色102号(C.I.16255)、食用赤色104号(C.I.45410)、食用赤色105号(C.I.45440)、食用赤色106号(C.I.45100)、食用黄色4号(C.I.19140)、食用黄色5号(C.I.15985)、食用緑色3号(C.I.42053)、食用青色1号(C.I.42090)、食用青色2号(C.I.73015)、鉄クロロフィリンナトリウム、及び銅クロロフィリンナトリウムから選ばれる請求項1記載の玩具用水消去性マーカー。」(摘記ア)との記載からみて、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「インキ全量に対して、食用色素0.1?15重量%、水溶性樹脂0.1?15重量%、湿潤剤0?40重量%、及び水30?99.0重量%を含有し、
前記食用色素は、水溶性アナトー、食用赤色2号(C.I.16185)、食用赤色3号(C.I.45430)、食用赤色40号(C.I.16035)、食用赤色102号(C.I.16255)、食用赤色104号(C.I.45410)、食用赤色105号(C.I.45440)、食用赤色106号(C.I.45100)、食用黄色4号(C.I.19140)、食用黄色5号(C.I.15985)、食用緑色3号(C.I.42053)、食用青色1号(C.I.42090)、食用青色2号(C.I.73015)、鉄クロロフィリンナトリウム、及び銅クロロフィリンナトリウムから選ばれる、
玩具用水消去性マーカーに内臓される水消去性インキ。」
イ 技術分野・課題(作用効果)について
甲第3号証の摘記イ、ウ、カより記載から、甲3発明に係るインキは、最終的に筆記に便宜なマーカー形態として使用されるものであって、その課題は、着色像が水により容易、且つ完全に消去でき、且つ安全性に富むインキ組成からなる水消去性インキを提供することにあることが理解できる。そして、甲3発明の構成を具備することにより、幼児等が任意の筆記像を玩具基材の表面に簡易に形成できるとともに、水により容易、且つ完全に筆記像を消去でき、しかも、食用色素等を用いた安全性に富むインキ組成を得ることができるという作用効果を奏するものであって、摘記エより、甲3発明が当該水消去性を奏する作用機序には、水溶性樹脂が大きく寄与していることが分かる。
しかしながら、甲第3号証を仔細にみても、甲3発明に係る水消去性インキを墨汁組成物として使用すること、及び、本件発明のような「三原色の特定酸性染料」を用いることにより「水消去性・黒色維持に係る作用効果」をもたらす作用機序については何ら記載ないし示唆されていないということができる。
ウ 染料について
甲3発明は、「食用赤色2号(C.I.16185)、食用赤色3号(C.I.45430)、食用赤色40号(C.I.16035)、食用赤色102号(C.I.16255)、食用赤色104号(C.I.45410)、食用赤色105号(C.I.45440)、食用赤色106号(C.I.45100)、食用黄色4号(C.I.19140)、食用黄色5号(C.I.15985)、食用緑色3号(C.I.42053)、食用青色1号(C.I.42090)、食用青色2号(C.I.73015)」(摘記ア)から選択される食用色素を用い得るものであるところ、甲第3号証には、さらに、当該食用色素(特に酸性染料)に関し、次のような記載がある。
「【0018】
【実施例】以下に実施例を示す。尚、実施例及び表中の部は重量部である。
【0019】実施例1(NO.1?NO.5インキ)
(1)水消去性インキの調製及び筆記具の作製
食用色素(食用赤色3号)2.5部、湿潤剤(グリセリン)10部、水溶性樹脂(ルビスコールK-17)5部、防腐・防黴剤(安息香酸ナトリウム)0.5部、及び水82.0部を常法により混合攪拌して水消去性インキ(NO.1)を調製した。又、食用色素の種類と添加量を変更して、前記と同様にして水消去性インキ(NO.2?NO.5)を調製した。表1に水消去性インキNO.1?NO.5の組成、色調及びインキ粘度を示す。
【0020】
【表1】

」(摘記オ)
そうすると、甲3発明に係る「食用色素」は、「食用赤色2号(C.I.16185)、食用赤色3号(C.I.45430)、食用赤色40号(C.I.16035)、食用赤色102号(C.I.16255)、食用赤色104号(C.I.45410)、食用赤色105号(C.I.45440)、食用赤色106号(C.I.45100)、食用黄色4号(C.I.19140)、食用黄色5号(C.I.15985)、食用緑色3号(C.I.42053)、食用青色1号(C.I.42090)、食用青色2号(C.I.73015)」といった酸性染料から選択することができ、その使用例として、上記【表1】には、「食用赤色3号」単独、「食用赤色102号」単独、「食用青色1号」単独、「食用赤色3号」と「食用青色1号」の併用、及び「食用青色1号」と「食用黄色4号」の併用の例を理解することができる。
しかしながら、甲第3号証を仔細にみても、本件発明の「三原色の特定酸性染料」を選択し、これを特定配合割合に調合することについての言及はない。

(4) 甲第4号証

ア 甲第4号証に記載された発明(甲4発明)
甲第4号証の「【請求項1】
1)酸性染料又は天然染料
2)水
3)二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤
を含有した水性筆記具用インキ組成物。」(摘記ア)との記載からみて、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「酸性染料又は天然染料、水、二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤、を含有した水性筆記具用インキ組成物。」
イ 技術分野・課題(作用効果)について
甲第4号証の摘記イ、カより、甲4発明に係る水性筆記具用インキ組成物は、最終的に水性筆記具において使用されるものであって、その中でもマーキングペン、特に、中芯に充填またはインキ組成物をそのままペン本体に充填し、且つペン先が繊維束、焼結体またはプラスチックよりなるマーキングペンに適したものであることが分かる。そして、摘記ウ、クより、甲4発明の課題は、着色剤として溶解度の低い酸性染料及び界面活性剤を併用しても、低温での経時安定性があり、染料が析出することがないため、ペン先に染料が析出する欠点がなく、かつ書き味に優れた水性筆記具用インキ組成物または当該インキを用いたマーキングペンを提供することであり、甲4発明の構成を具備することにより、経時安定性に優れ、ペン先に染料が析出する欠点がなく、かつ書き味に優れているという作用効果を奏するものであることが理解でき、摘記エより、甲4発明のこの作用効果には、二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤が大きく寄与していることが分かる。
しかしながら、甲第4号証を仔細にみても、甲4発明に係る水性筆記具用インキ組成物を墨汁組成物として使用すること、及び、水消去性等に関する課題について(当然のことながら、本件発明の「三原色の特定酸性染料」を用いることにより「水消去性・黒色維持に係る作用効果」をもたらす作用機序について)は何ら記載ないし示唆されていないということができる。
ウ 染料について
甲4発明は、「酸性染料」を用いるものであるところ、甲第4号証には、当該酸性染料に関し、以下のような記載がある。
「【請求項3】
前記の酸性染料が食用染料である請求項1?2記載の水性筆記具用インキ組成物。」(摘記ア)
「【0010】
(着色剤)
本発明は、着色剤としては水溶性の染料であれば酸性染料、塩基性染料及び天然染料等が使用できるが、低温での溶解度を良くする効果を発揮する点で酸性染料を使用する場合に好適である。当該酸性染料の具体例としては、C.I.Acid Yellow 1、C.I.Acid Yellow 3、C.I.Acid Yellow 7:1、C.I.Acid Yellow 8
・・・(中略)・・・
等が挙げられ、市販品としては、Aizen Tartrazine conc.(Acid Yellow23:保土谷化学)、Aizen Acid RhodamineBH(Acid Red52:保土谷化学)、Brilliant Scarlet 3R(Acid Red 18:住友化学工業)などの商品名が挙げられる。また、酸性染料の中でも以下のような食用染料が安全性の点で好ましい。
C.I.No.19140(食用黄色4号)、C.I.No.15985(食用黄色5号)、C.I.No.16035(食用赤色40号)、C.I.No.16185(食用赤色2号)、C.I.No.16255(食用赤色102号)、C.I.No.45100(食用赤色106号)、C.I.No.45410(食用赤色104号)、C.I.No.45430(食用赤色3号)、C.I.No.45440(食用赤色105号)、C.I.No.42090(食用青色1号)、C.I.No.73015(食用青色2号)、C.I.No.42053(食用緑色3号)」(摘記オ)
「【0021】
【実施例】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、これらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0022】
実施例1?4及び比較例1?4
表1に示す組成のインキをそれぞれ調製した。調製法としては各成分を配合し、3枚プロペラの撹拌機で2時間撹拌してインキを得た。尚、表1組成は重量%を示す。
【0023】
【表1】

」(摘記キ)
そうすると、これらの記載から、甲4発明に係る「酸性染料」としては、多種のものを使用することができること、及び、これらを併用して、具体的には、実施例3より「食用黄色5号」、「食用赤色102号」、「食用青色1号」の3種の酸性染料(本件発明の「三原色の特定酸性染料」)を組み合わせて使用し得ること、を理解することができる(ただし、当該実施例3における酸性染料の配合割合は本件発明とは異なっている。)。

4 甲第1ないし4号証以外の書証から把握できる技術的事項について

(1) 甲第1ないし4号証以外の書証の記載内容(概略)

ア 甲第1号証の1には、「直接性」という用語の意味について開示されている。
イ 甲第5号証には、食品添加物のみで調製した水溶性インキ組成物が記載され、これは幼児が嘗めても害がないこと、食品添加物以外の成分を含有するインキ組成物は人体に害があること、及び、具体例として赤色102号、黄色5号、青色1号を含有するインキ組成物について開示されている。
ウ 甲第6号証には、わが国において使用される11種の食用色素の諸特性について記載され、これらの11種の色素から複数種選択・混合して各色を得ること(例えば、赤色102号と黄色5号を含む色素の組合せ、赤色102号と青色1号を含む色素の組合せ、黄色5号と青色1号を含む色素の組合せなど)について開示されている。
エ 甲第7号証には、タール色素の退色抑制について記載され、食用赤色2号、食用赤色102号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用青色2号、食用青色1号の耐光性について開示されている。
オ 甲第8号証及び甲第9号証には、染料排水の処理について記載され、酸性染料等の染料は次亜塩素酸ナトリウム等によって分解される性質を備えることなどについて開示されている。
カ 甲第10号証ないし甲第11号証の5には、減法混色について開示されている。
キ 甲第12号証及び甲第15号証には、本件明細書の実施例に沿って作成された墨汁の筆跡の色に関する実験結果について開示されている。

(2) 甲第1ないし4号証以外の書証から把握される技術的事項(特に、本件発明の「三原色の特定酸性染料」に関連する事項の整理)

上記した甲第1ないし4号証以外の書証の記載内容のうち、本件発明の「三原色の特定酸性染料」に関連する開示内容に着目すると、甲第5号証には、赤色102号、黄色5号、青色1号などを組み合わせた黒色水溶性インキ組成物が開示され、甲第6号証には、食用酸性染料を組み合わせて使用し得る旨の開示が認められ、甲第10号証ないし甲第11号証の5には、周知の減法混色により三原色から黒色を調色し得る旨の開示を確認することができる。
しかしながら、これらは、水溶性インキにおける単なる調色例であるとか、一般的な食用酸性染料における組合せ例、あるいは単なる減法混色による調色手法を示すに留まり、本件発明の「三原色の特定酸性染料」のように、特定の化学構造を有する酸性染料に着目し、これを特定の割合で調合して墨汁組成物とすることをうかがわせるものではない。
そうすると、甲第1ないし4号証以外の書証にも、本件発明の「三原色の特定酸性染料」をあえて選択しこれを特定配合割合として墨汁組成物とすることについての教示はないといえ、もとより当該「三原色の特定酸性染料」を含む墨汁組成物によって「水消去性・黒色維持に係る作用効果」(水消去性を発現させること、及び、半紙に書いた後の黒色を維持させること)を発現する作用機序に関する記載ないし示唆も存在しない。

5 無効理由1:甲第1号証を主引用例とした場合についての検討

(1) 本件発明1の容易想到性

ア 本件発明1
本件発明1は、上記「第2」のとおりのものであって、再掲すると以下のとおりである。
「【請求項1】
酸性染料および水媒体を含み、
前記酸性染料は、構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、アゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料および青色系染料を含む3種以上からなり、かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%、黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合されることを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。」

イ 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲1発明は、上記「3(1)ア」のとおりのものであって、以下に再掲する。
「直染性の低い染料と水溶性樹脂と水とを含有する消去性着色剤組成物、を含有する、繊維集合体に付着した場合に水洗などにより簡単に消去できる墨汁。」

ウ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「・・・染料と・・・水とを含有する」は、本件発明1の「・・・染料および水媒体を含み」に相当し、甲1発明の「消去性着色剤組成物、を含有する・・・墨汁」は、本件発明1の「水消去性書画用墨汁組成物」に相当するものであるから、両者は、
「染料および水媒体を含む、水消去性書画用墨汁組成物。」
である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。
(ア) 相違点1
本件発明1の染料は、「構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、アゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料および青色系染料を含む3種以上からなり、かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%、黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合される」酸性染料、すなわち、上記「三原色の特定酸性染料」を特定配合割合としたものであるのに対して、甲1発明は「直染性の低い染料」である点。
(イ) 相違点2
本件発明1は、水溶性樹脂を含有することを発明特定事項とするものでないのに対して、甲1発明は、水溶性樹脂を含有するものである点。

エ 判断
まず、上記相違点1について検討する。
上記「1(3) 本件発明の酸性染料に係る作用効果について」の項にて説示したとおり、本件発明の容易想到性を検討するにあたっては、本件発明において「三原色の特定酸性染料」を選択し、これを特定の配合割合で水媒体に含有させることによって奏される、「水消去性・黒色維持に係る作用効果」(水消去性を発現させること及び半紙に書いた後の黒色を維持させること)という墨汁組成物特有の作用効果に留意すべきである。
そこで、はじめに染料の選択につき、請求人の主張に沿って甲第1、3、4号証を中心に、甲各号証の記載を精査すると、上記「3(1)ウ 染料について」の項にて整理したとおり、甲第1号証には、甲1発明に係る「直染性の低い染料」は酸性染料であってもよく、その具体例として「商品名 C.I.番号 A.Bk.2(商品名 Water Black R-455)、C.I.番号 A.Bk.119(商品名 OpalBlack new conc 保土谷社製)、C.I.番号 A.R.87(商品名 エオシン)、C.I.番号 A.B.9(商品名 WaterBlue #9)」を把握することができるものの、本件発明1の「三原色の特定酸性染料」を用いることについて言及はない。
同様に、甲第3号証にも、上記「3(3)ウ」において整理したとおり、本件発明1の「三原色の特定酸性染料」を用いることについては開示がないといえる。
さらに、甲第4号証には、上記「3(4)ウ」のとおり、確かに、「食用黄色5号」、「食用赤色102号」、「食用青色1号」の3種の酸性染料(本件発明1の「三原色の特定酸性染料」に相当)を組み合わせて使用することが開示されているものの、上記「3(4)イ」のとおり、当該甲第4号証記載の甲4発明は、マーキングペンなどを想定した水性筆記具用インキ組成物であって、これを墨汁組成物として使用することにつき開示するものではなく、水消去性等の課題については示唆すらない。そして、マーキングペンなどを想定した水性筆記具用インキ組成物と書画用墨汁組成物とは、使用方法(インキ保溜材にインキを含ませるか使用の都度筆に浸すか)や筆記の対象(半紙のような吸収性の高い紙を用いるか否か)が異なることから、求められる性能(例えば、墨汁組成物においては半紙に書いた後の黒色を維持するという性能が求められるなど)が異なることになり、これに応じてそれぞれに適した染料等が選択されている状況に照らすと、甲第4号証に具体例として「三原色の特定酸性染料」が記載されていたとしても、これは、墨汁組成物とは求められる性能が異なるインキ組成物のものであって、そもそも水消去性や墨汁組成物に求められる性能を具備するか否かも定かでないことから、水消去性が期待される甲1発明に係る墨汁の直染性の低い染料として、当該甲第4号証記載の染料を用いる動機付けに乏しいといわざるを得ない。ましてや、甲1発明において、当該甲第4号証記載の染料を採用すれば、上記「水消去性・黒色維持に係る作用効果」を奏することまでを予測することは到底できない。
その他の証拠をみても、甲1発明に係る墨汁において、当該「三原色の特定酸性染料」を選択し、さらには、これを特定割合で配合することを導出し、「水消去性・黒色維持に係る作用効果」を奏することを予測するに足りる記載は見当たらない(上記「3(2)イ、ウ」、「4(2)」参照)。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る発明特定事項を具備することによってはじめて、「水消去性・黒色維持に係る作用効果」、すなわち、「水消去性を発現させること」及び「半紙に書いた後の黒色を維持させること」という墨汁組成物特有の作用効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明の「直染性の低い染料」として、本件発明1の「三原色の特定酸性染料」を選択し、これを特定の配合割合で水媒体に含有させたものを採用することは、甲各号証の記載を参酌しても、当業者が容易になし得たこととは認められない。

オ 小括
以上のとおり、本件発明1は、上記相違点1に係る発明特定事項を具備することにより顕著かつ有利な効果を奏するものであって、当該発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証を主引用例とし(さらに甲第3号証あるいは甲第4号証を副引用例とし)、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(2) 本件発明2の容易想到性

本件発明2は、上記「第2」のとおりのものであって、本件発明1の酸性染料をさらに限定し、酸性染料が、
「構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、アゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料および青色系染料を含む3種からなり、かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%、黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合され、
前記酸性染料のスルホン酸塩基がナトリウム塩であり、
前記赤色系染料が下記構造式(D)で表され、前記黄色系染料が下記構造式(B)で表され、前記青色系染料が下記構造式(E)で表される」もの
に特定するものであり、上記「1(2)」において説示したとおり、本件発明1とは、「三原色の特定酸性染料」を構成成分としている点で共通するものである。
さらに、本件発明2は、本件発明1の水消去性についてもさらに限定し、「繊維集合体に対する水消去性を有する」
と特定するものである。
そうすると、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備し、これをさらに限定するものであって、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項と同じ発明特定事項を具備するものといえるから、当該本件発明2についても、本件発明1と同様の理由(上記「5(1)エ」参照)により、甲第1号証を主引用例として、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(3) 本件発明3、9の容易想到性

本件発明3は本件発明1を引用するものであり、本件発明9は本件発明2を引用するものであるから、これらの発明についても、本件発明1、2と同様の理由により、甲第1号証を主引用例として、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(4) 無効理由1についてのまとめ

以上検討のとおり、本件特許発明1ないし3、9は、甲1発明等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、上記した無効理由1には、理由がない。

6 無効理由2:甲第4号証を主引用例とした場合についての検討

(1) 本件発明1の容易想到性

ア 甲第4号証に記載された発明(甲4発明)
甲4発明は、上記「3(4)ア」のとおりのものであって、以下に再掲する。
「酸性染料又は天然染料、水、二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤、を含有した水性筆記具用インキ組成物。」

イ 対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「酸性染料・・・、水、を含有した」は、本件発明1の「酸性染料および水媒体を含み」に相当するから、両者は、
「酸性染料および水媒体を含む、組成物。」
の点で一致し、次の点で相違する。
(ア) 相違点1
本件発明1は、水消去性書画用墨汁組成物であるのに対して、甲4発明は、水性筆記具用インキ組成物であって、水消去性という性状を有するものでもない点。
(イ) 相違点2
本件発明1の酸性染料は、「構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、アゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料および青色系染料を含む3種以上からなり、かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%、黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合される」酸性染料、すなわち、上記「三原色の特定酸性染料」を特定配合割合としたものであるのに対して、甲4発明の酸性染料はこの点の特定がない点。
(ウ) 相違点3
本件発明1は、二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤を含有することを発明特定事項とするものではないのに対して、甲4発明は、当該ノニオン系活性剤を含有するものである点。

ウ 判断
まず、上記相違点1、2につき併せて検討する。
ここでも、本件発明1において「三原色の特定酸性染料」の選択・調合によって奏される「水消去性・黒色維持に係る作用効果」に留意すべきところ、はじめに甲第4号証についてみると、既に上記「5(1)エ」にて詳述したとおり、甲第4号証によれば、確かに、「食用黄色5号」、「食用赤色102号」、「食用青色1号」の3種の酸性染料(本件発明1の「三原色の特定酸性染料」に相当)を組み合わせて使用することが確認できるものの(上記「3(4)ウ」参照)、特にマーキングペンなどを想定した水性筆記具用インキ組成物の発明である甲4発明を、墨汁組成物として使用することについての開示は見当たらず、もとより、水消去性等の課題・作用効果に関する開示もない(上記「3(4)イ」参照)。加えて、マーキングペンなどを想定した水性筆記具用インキ組成物と書画用墨汁組成物とは、使用方法や筆記の対象の違いなどから、求められる性能に応じてそれぞれに適した染料等が選択されている現状を考え合わせると、甲第4号証に具体例として「三原色の特定酸性染料」が記載されていたとしても、水消去性の有無すら不確かな状況においてこれを水消去性を技術課題とする書画用墨汁組成物に転用することは、当業者といえども困難なことといわざるを得ない。ましてや、甲4発明に係る酸性染料として、当該甲第4号証に具体例として記載された上記染料を採用し、これを書画用墨汁組成物に転用することにより、上記「水消去性・黒色維持に係る作用効果」がもたらされることについては、到底予測することができないというべきである。
次に、甲第1号証をみると、そこには確かに、上記「3(2)イ」において整理したとおり、墨汁に限らず、絵具やマーキングペン用インキ等としても利用することが可能な消去性着色剤組成物が開示されているものの、当該甲第1号証が、墨汁とマーキングペン用インキ等の両用を教示しているのは、あくまで甲1発明に係る「直染性の低い染料と水溶性樹脂と水とを含有する消去性着色剤組成物」を具備することが前提であって、書画用墨汁組成物とマーキングペン用インキとが、このような前提にかかわらず一般(常態的)に互換性があると当業者が認識していたとする論拠とはならないから、当業者といえども、当該甲第1号証の記載を参酌し、甲4発明を、水消去性を技術課題とする書画用墨汁組成物に転用することは容易に想到し得ないと解するのが相当である。加えて、甲1発明は、水消去性を発現する墨汁ではあるものの、上記「3(2)イ」のとおり、当該水消去性の発現は、水溶性樹脂の存在に依拠するのであってその作用機序は本件発明1とは異なることから(上記「1(1)イ、ウ」参照)、「三原色の特定酸性染料」という染料選択による当該水消去性の発現を予測することは不可能であるし、ましてやこれらの証拠に記載のない「半紙に書いた後の黒色を維持させること」という墨汁組成物特有の作用効果を予測することができないというほかないから、本件発明1が有する「水消去性・黒色維持に係る作用効果」は、先行技術に対する特有の効果として認識し得るものということができる。
その他の証拠をみても、甲4発明に係る水性筆記具用インキ組成物を水消去性墨汁組成物に転用することを導出し、「水消去性・黒色維持に係る作用効果」を奏することを予測するに足りる記載は見当たらない(上記「3(2)イ、ウ」、「3(3)イ、ウ」、「4(2)」参照)。
そして、本件発明1は、上記相違点1、2に係る発明特定事項を具備することによってはじめて、「水消去性・黒色維持に係る作用効果」、すなわち、「水消去性を発現させること」及び「半紙に書いた後の黒色を維持させること」という墨汁組成物特有の作用効果を奏するものである。
したがって、いずれの証拠を参酌しても、甲4発明に係る水性筆記具用インキ組成物を水消去性書画用墨汁組成物に転用するとともに、その酸性染料として、本件発明1の「三原色の特定酸性染料」を選択し、これを特定の配合割合で水媒体に含有させたものを採用することは、当業者が容易になし得たこととは認められない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、上記相違点1、2に係る発明特定事項を具備することにより顕著かつ有利な効果を奏するものであって、当該発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証を主引用例とし、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(2) 本件発明2、3、9の容易想到性

本件発明2は、上記「5(2)」のとおり、本件発明1の酸性染料をさらに限定するなど、実質的に本件発明1を引用するものと変わりなく、本件発明3及び本件発明9はそれぞれ、本件発明1及び本件発明2を直接引用するものである。
したがって、これら本件発明2、3、9についても、上記した本件発明1と同様の理由により、甲第4号証を主引用例として、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(3) 無効理由2についてのまとめ

以上検討のとおり、本件特許発明1ないし3、9は、甲4発明等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、上記無効理由2には、理由がない。

7 無効理由3:甲第2号証を主引用例とした場合についての検討

(1) 本件発明1の容易想到性

ア 甲第2号証に記載された発明
甲2発明は、上記「3(2)ア」のとおりのものであって、以下に再掲する。
「易消去性着色剤及び水を含有し、誤って衣服などに付着した場合でも水洗いにより簡単に消去することができる、墨汁組成物。」

イ 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「易消去性着色剤及び水を含有し」は、本件発明1の「・・・染料および水媒体を含み」に相当するし、甲2発明の「誤って衣服などに付着した場合でも水洗いにより簡単に消去することができる、墨汁組成物」は、本件発明1の「水消去性書画用墨汁組成物」に相当する。
そうすると、両者は、
「染料および水媒体を含む、水消去性書画用墨汁組成物。」
である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。
(ア) 相違点
本件発明1の染料は、「構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、アゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料および青色系染料を含む3種以上からなり、かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%、黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合される」酸性染料、すなわち、上記「三原色の特定酸性染料」を特定配合割合としたものであるのに対して、甲2発明は易消去性着色剤(染料)であって、この点の明示がない点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
この相違点は、既に上記「5 無効理由1:甲第1号証を主引用例とした場合についての検討」の項において、「(1)ウ(ア)」として挙げた相違点1と同じものであるところ、当該相違点に係る本件発明1の発明特定事項が、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、さらにはその他の証拠をみても、容易想到といえないことは、同項の上記「(1)エ」において説示したとおりである。
念のため、主引用例である甲第2号証の記載を仔細にみておくと、上記「3(2)ウ」にて整理したとおり、甲第2号証からは、甲2発明に係る易消去性着色剤は特定の構造を有する化合物を想定したものであって、具体的には、Milliken Chemical社製の商品名「VERSATINT」、「PALMER」といった高分子着色剤を意図したものであること、及び、染料を調合して各種の色を作り出してもよいこと、を確認することができるものの、酸性染料に関する記載はもとより、本件発明の「三原色の特定酸性染料」に関連する言及は何ら見当たらない。もとより、当該「三原色の特定酸性染料」を含む墨汁組成物によって「水消去性・黒色維持に係る作用効果」を発現する作用機序を教示する記載ないし示唆も存在しない。
そして、本件発明1は、上記相違点に係る発明特定事項を具備することによってはじめて、「水消去性・黒色維持に係る作用効果」という墨汁組成物特有の作用効果を奏するものであることは上記したとおりである。
してみると、甲2発明の易消去性着色剤(染料)として、「三原色の特定酸性染料」を選択し、これを特定の配合割合で水媒体に含有させたものを採用することは、甲各号証の記載を参酌しても、当業者が容易になし得たこととは認められない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、上記相違点に係る発明特定事項を具備することにより顕著かつ有利な効果を奏するものであって、当該発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明1は、甲第2号証を主引用例とし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(2) 本件発明2、3、9の容易想到性

本件発明2は、上記「5(2)」のとおり、本件発明1の酸性染料をさらに限定するなど、実質的に本件発明1を引用するものと変わりなく、本件発明3及び本件発明9はそれぞれ、本件発明1及び本件発明2を直接引用するものである。
したがって、これら本件発明2、3、9についても、上記した本件発明1と同様の理由により、甲第2号証を主引用例として、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(3) 無効理由3についてのまとめ

以上検討のとおり、本件特許発明1ないし3、9は、甲2発明等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、上記無効理由3には、理由がない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし3、9の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-21 
結審通知日 2015-04-23 
審決日 2015-05-08 
出願番号 特願2006-353111(P2006-353111)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 豊永 茂弘
日比野 隆治
登録日 2009-12-18 
登録番号 特許第4426564号(P4426564)
発明の名称 水消去性書画用墨汁組成物  
代理人 黒川 朋也  
代理人 城戸 博兒  
代理人 岡崎 士朗  
復代理人 中塚 岳  
復代理人 中塚 岳  
代理人 鰺坂 和浩  
代理人 黒川 朋也  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 坂西 俊明  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 岡崎 士朗  
代理人 山田 泰之  
代理人 城戸 博兒  
代理人 坂西 俊明  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 鰺坂 和浩  
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