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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C09D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C09D
管理番号 1307987
審判番号 無効2014-800117  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-07-07 
確定日 2015-06-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第4426564号発明「水消去性書画用墨汁組成物」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件審判に係る特許

本件審判は,保土谷化学工業株式会社及び株式会社呉竹が共有する特許番号第4426564号の特許権に係る特許を無効にすることについて請求されたものであって,その特許は,発明の名称を「水消去性書画用墨汁組成物」とし,平成18年12月27日に特願2006-353111号として出願され,その後審査を経て,平成21年12月18日に請求項数8として特許権の設定登録がなされたものである。

2 訂正審判

上記特許につき,平成25年5月29日に,訂正審判(訂正2013-390083号事件)の請求がなされ,同年7月3日付けで,「特許第4426564号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める。」との審決がなされ,同審決は同年7月11日に確定し,その後,請求項数12として確定登録された(以下,訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。

3 本件審判における手続の経緯

本件審判は,平成26年7月7日に請求人である株式会社サクラクレパスより請求されたものであって,その後,同年10月3日付けで被請求人である保土谷化学工業株式会社及び株式会社呉竹より審判事件答弁書が提出され,平成27年1月23日付けで両当事者より口頭審理陳述要領書が提出され,同年2月6日に口頭審理が行われたものである。

第2 訂正後の特許請求の範囲の記載

上記訂正審判において認容された,訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。

「【請求項1】
酸性染料および水媒体を含み,
前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む3種以上からなり,かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%,黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合されることを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項2】
酸性染料および水媒体を含み,
前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む3種からなり,かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%,黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合され,
前記酸性染料のスルホン酸塩基がナトリウム塩であり,
前記赤色系染料が下記構造式(D)で表され,前記黄色系染料が下記構造式(B)で表され,前記青色系染料が下記構造式(E)で表されることを特徴とする繊維集合体に対する水消去性を有する水消去性書画用墨汁組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項3】
前記黄色系染料はアゾ系の食用黄色4号(タートラジン,C.I.19140),食用黄色5号(サンセットイエローFCF,C.I.15985)から選ばれ,前記赤色系染料はアゾ系の食用赤色2号(アマランス,C.I.16185),食用赤色102号(ニューコクシン,C.I.16255)から選ばれ,前記青色系染料はトリフェニルメタン系の食用青色1号(ブリリアントブルーFCF,C.I.42090)であることを特徴とする請求項1記載の水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項4】
デンプン糖類および砂糖から選ばれる少なくとも1つの保湿剤および/または天然ガム類からなる滲み改善剤がさらに含有されることを特徴とする請求項1または3いずれか記載の水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項5】
前記デンプン糖類がマルチトール,ソルビトールおよび水飴の群から選択される1種または2種以上である請求項4記載の水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項6】
前記天然ガム類がキサンタンガム,アラビアガムおよびローカストビーンガムの群から選択される1種または2種以上である請求項4記載の水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項7】
アゾ系の食用赤色2号(アマランス,C.I.16185),食用赤色102号(ニューコクシン,C.I.16255)から選ばれる構造中にスルホン酸塩基を2個以上有する赤色染料29?60質量%と,アゾ系の食用黄色4号(タートラジン,C.I.19140),食用黄色5号(サンセットイエローFCF,C.I.15985)から選ばれる構造中にスルホン酸塩基を2個以上有する黄色系染料13?45質量%と,トリフェニルメタン系の食用青色1号(ブリリアントブルーFCF,C.I.42090)である構造中にスルホン酸塩基を2個以上有する青色系染料17?38質量%との割合で配合される酸性染料1?40質量%;
デンプン糖類または砂糖5?40質量%;
天然ガム類0.01?1質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有し,粘度が1?100mPa・s/20℃の範囲であることを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項8】
添加剤として防腐剤および泡消剤をさらに含有することを特徴とする請求項7記載の水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項9】
前記黄色系染料はアゾ系の食用黄色5号(サンセットイエローFCF,C.I.15985),前記赤色系染料はアゾ系の食用赤色102号(ニューコクシン,C.I.16255),前記青色系染料はトリフェニルメタン系の食用青色1号(ブリリアントブルーFCF,C.I.42090)であることを特徴とする請求項2記載の水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項10】
デンプン糖類および砂糖から選ばれる少なくとも1つの保湿剤および/または天然ガム類からなる滲み改善剤がさらに含有されることを特徴とする請求項2または9記載の水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項11】
前記デンプン糖類がマルチトール,ソルビトールおよび水飴の群から選択される1種または2種以上である請求項10記載の水消去性書画用墨汁組成物。
【請求項12】
前記天然ガム類がキサンタンガム,アラビアガムおよびローカストビーンガムの群から選択される1種または2種以上である請求項10記載の水消去性書画用墨汁組成物。」
(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応させて「本件発明1」などといい,これらの発明に対応する特許をそれぞれ「本件特許1」などという。また,これらを総称して,単に「本件発明」,「本件特許」ということがある。)

第3 本件審判の概要

1 請求人の主張の概要

請求の趣旨は,「特許第4426564号の特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」(審判請求書の2頁「6」参照)というものであって,請求人が主張する無効理由および証拠方法は,要するに以下のとおりである。

(1) 無効理由1(特許法29条1項3号所定の「新規性」に係る無効理由)

本件発明1,3は,甲第1号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当し,その特許である本件特許1,3は,同法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである(審判請求書の13頁(3-1)参照)。

(2) 無効理由2(特許法29条2項所定の「容易想到性」に係る無効理由)

本件発明1ないし12は,甲第1号証に記載された発明及び本件出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許である本件特許1ないし12は,同条同項の規定に違反してされたものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである(審判請求書の13頁(3-2)参照)。

(3) 証拠方法

証拠方法として提示されたものは,下記の書証である(このうち,甲第11号証及び甲第12号証は,平成27年1月23日付け口頭審理陳述要領書に添付されたものであり,それ以外の書証は,審判請求書に添付されたものである。)。

甲第1号証 実願昭52-133439(実開昭54-60531号 )のマイクロフィルム
甲第2号証 「三訂版染色」,近藤一夫監修,1993年3月20日 発行,38頁ないし43頁
甲第3号証 「現代筆記具読本」,文研社,昭和58年2月25日発 行,52頁ないし57頁,182頁ないし185頁
甲第4号証 「食用色素の化学」,有機合成化学第32巻第8号(1 974),620頁ないし631頁
甲第5号証 「筆記用品百科」,文研社,昭和 2年8月10日発行 ,220頁ないし227頁
甲第6号証 「新時代の筆記具 ライティングギアのメカとデザイン がわかる」,文研社,平成元年11月1日発行,182 頁ないし183頁
甲第7号証 特開平11-130906号公報
甲第8号証 特開昭55-155071号公報
甲第9号証 特開2005-089480号公報
甲第10号証 実験報告書
甲第11号証 「岩波 理化学事典 第5版」,株式会社岩波書店,1 998年12月25日発行,第327頁
甲第12号証 「広辞苑 第四版」,株式会社岩波書店,1991年1 1月15日発行,第2245頁

2 被請求人の主張の概要

被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」とし,証拠方法として下記乙第1ないし7号証を提示し,請求人が主張する無効理由は理由がない旨主張している。

乙第1号証 特開平9-316379号公報
乙第2号証 特開平7-3197号公報
乙第3号証 特開平10-158567号公報
乙第4号証 特開2008-31240号公報
乙第5号証 試験報告書「筆記比較試験」
乙第6号証 本件特許実施品である被請求人(株式会社呉竹)の製品 パンフレット
乙第7号証 訂正2013-390083の審決

第4 当審の判断

当審は,本件特許1,3につき請求人が主張する無効理由1,及び,本件特許1ないし12につき請求人が主張する無効理由2のいずれの無効理由についても,理由がない,と判断する。
以下,その理由につき詳述する。
なお,はじめに,本件発明の技術上の意義(特に作用効果)を確認し,次に,請求人が提出する甲第1号証の記載事項及び甲第2ないし12号証の記載事項を精査した後,甲第1号証に記載された発明(甲1発明)及び甲第2ないし12号証に記載された技術的事項を整理の上,本件発明との対比・検討を行っていくが,事案にかんがみ,無効理由2(特許法29条2項所定の「容易想到性」に係る無効理由)から検討していくこととする。

1 本件発明の技術上の意義

(1) 本件明細書の記載

本件明細書には次の趣旨の記載がある。

ア 背景技術(段落【0002】?【0006】)
従来の墨汁はカーボンブラックを主体とした膠及び/又は合成樹脂からなる組成物であるため,一旦布や不織布などの繊維集合体に付着した場合,水洗又は洗剤を用いた洗濯では簡単に消去できない問題があり,また,市販品の消去性書道液でも,最も多用されている繊維である木綿に対しては容易に消去することが困難であった。
従来技術において,樹脂と染料や顔料を混練し微粉末に加工したり,水不溶性の無機物の微粒子の表面に水不溶性の染料や顔料を混合し機械的な衝撃力で付着したり,染料等と反応させ微粉末にしたりして,染料等の粒子の大きさを大きくすることにより,繊維集合体の繊維間に入り込むことを防止し,染料が有する繊維との反応基を封鎖して,洗濯などで色材を洗い落とす方法がある。しかし,このような方法は,樹脂と染料等を混練し,微粉末に加工する工程,樹脂表面に機械的衝撃力で染料などを付着させる工程,染料と樹脂とを反応させる工程等が必要となり,樹脂及び加工する設備,工程が必要であった。
さらに,洗濯により容易に消去できる,ヨウ素でんぷんを用いた墨汁も,半紙に書いた後の色が黒色から褐色に変化し,黒色を維持させることが必要な墨汁として満足するものではなかった。
イ 課題(段落【0007】)
従来のような煩雑な工程を必要とすることなく,誤って衣服に付着しても洗濯により容易に消去でき,さらに半紙に書いた後の色が黒色を維持させることが可能な水消去性書画用墨汁組成物を提供する。
ウ 課題を解決するための手段(段落【0009】)
上記課題を解決するための発明の第1態様は,請求項1に記載の水消去性書画用墨汁組成物である。
エ 発明の効果(段落【0011】)
従来のような煩雑な工程を必要とすることなく,誤って衣服に付着しても洗濯により容易に消去でき,さらに半紙に書いた後の色が黒色を維持させることが可能な水消去性書画用墨汁組成物を提供できる。
オ 発明を実施するための最良の形態(段落【0036】,【0053】?【0073】)
本発明者らは,酸性染料の中で,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,かつアゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)又はトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料及び青色系染料を含む3種以上からなる特定の酸性染料を選択し,さらに各色系染料を特定の配合割合で水媒体に含有させることによって,従来のような煩雑な工程を必要とすることなく,誤って衣服に付着しても,洗濯により容易に消去でき,さらに半紙に書いた後の色が黒色を維持することが可能な水消去性書画用墨汁組成物を見出した。
具体的には,実施例1ないし3,比較例1ないし4として,下記表1に示す墨汁組成物を調整し,その洗濯消去性,耐光性等に関する試験を行った結果,同表から明らかなように実施例1ないし3の墨汁組成物は,洗濯消去性,耐光性等が良好であり,総合評価結果は○(合格)であることが分かった。これに対し,同じ酸性染料に属し,2つのスルホン酸塩基を持つキサンテン系の食用赤色染料であるアシッドレッドを用いた比較例1の黒色の染料水溶液では,水消去性が良好であるものの,黒調色した場合の経日による色調退色が見られ,すなわち耐光性(彩度)の低下が生じ,総合評価が×(不合格)になり,また,同じ酸性染料に属し,キサンテン系の食用赤色染料であるエリスロシンを用いた比較例2およびキサンテン系の食用赤色染料であるローズベンガルを用いた比較例3の黒色の染料水溶液では,それらの赤色染料がいずれもスルホン酸塩基を持たないために水消去性が劣り,総合評価が×(不合格)になり,さらに,同じ酸性染料に属し,インジゴ系の青色染料であるインジゴカルミンは,水に対する溶解性が低く,析出し易いために墨汁の染料成分としては不適切で,総合評価が×(不合格)になった。
【表1】


(2) 本件発明の酸性染料について

本件明細書の上記摘記イ,ウによれば,本件発明に係る水消去性書画用墨汁組成物は,従来のような煩雑な工程を必要とすることなく,洗濯により容易に消去でき,かつ,半紙に書いた後の黒色を維持させることを可能にすることを課題とするものである。
そして,上記摘記オのとおり,種々の酸性染料を用いた試験が行われ,その優劣が確認されていることから,上記組成物の構成成分たる酸性染料として,どのようなものを選択するかが,上記課題を解決する上での重要な鍵となっていることが理解できる。
このように本件発明の重要な成分として位置づけられる酸性染料に着目して,本件発明1ないし12全体を俯瞰すると,これらの発明は,上記「第2」のとおり,
「構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,かつアゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む」酸性染料,
を構成成分とし,これらを特定の配合割合にて調合したものである点で実質的に共通するものであることが分かる(なお,独立形式請求項である本件の請求項7には,当該「」内の要件が直接記載されているわけではないが,本件発明7に係る酸性染料が当該要件を満足するものであることはいうまでもない。)。
以下,便宜上,本件発明の構成成分である「構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む」酸性染料を,単に「三原色の特定酸性染料」と呼称して検討を進めることとする。

(3) 本件発明の酸性染料に係る作用効果(属性)について

本件発明は,上記摘記エ,オのとおり,「三原色の特定酸性染料」を選択し,さらに各色系染料を特定の配合割合で水媒体に含有させることにより,従来のような煩雑な工程を必要とすることなく,誤って衣服に付着しても,洗濯により容易に消去でき,さらに半紙に書いた後の黒色を維持することが可能な水消去性書画用墨汁組成物を見出したものであって,このような作用効果,あるいは,墨汁組成物の属性というべき事項は,本件明細書の【表1】により確認することができる。
すなわち,当該【表1】には,上記「三原色の特定酸性染料」を用いた実施例1ないし3と対比される形で,比較例1ないし4が列記されているところ,これらの比較例は,「三原色の特定酸性染料」と同じ,「酸性染料」(さらには「食用酸性染料」)というカテゴリーに属するものであるが,当該「三原色の特定酸性染料」とは化学構造が異なる,キサンテン系あるいはインジゴ系の食用酸性染料を用いたものである。そして,その洗濯消去性あるいは耐光性の数値は,上記「三原色の特定酸性染料」を用いた実施例の数値に比し劣っていることから,上記した本件発明の作用効果(属性)が定量的なものとして裏付けられているということができる。
ここで重要なことは,当該比較例に係る染料は,本件発明の「三原色の特定酸性染料」と同じ「酸性染料」というカテゴリーに属するものでありながら上記数値が劣っていること,言い換えると,「酸性染料」というカテゴリーの中から任意に染料を選定しさえすれば良い数値が得られるという単純な図式ではなく,当該カテゴリーの中からさらに「三原色の特定酸性染料」を選択したことに技術上の意義を看取できることである。
以下,便宜上,本件発明において,「三原色の特定酸性染料」を選択し,これを特定の配合割合で水媒体に含有させることによって奏される上記墨汁組成物特有の定量的な作用効果(属性)を,「水消去性を発現させること」及び「半紙に書いた後の黒色を維持させること」と整理し,これらを単に「水消去性効果(属性)」及び「黒色維持効果(属性)」という。

2 甲第1号証の記載事項

本件出願日前に頒布された甲第1号証(実願昭52-133439号(実開昭54-60531号)のマイクロフィルム )には,以下の記載がある。

(1) 「色素たる食用青1号,食用赤102号,及び食用黄4号と,界面活性剤と,ポリエチレングリコールとを含有する黒色水溶液をインキとするサインペン」(実用新案登録請求の範囲)

(2) 「本考案は実用新案登録請求の範囲に記載する構成とすることにより,完全な水溶性のインキでありながら,疎水性を呈する合成樹脂面にも完全に彩色できるのみでなく,誤つて使用者たる幼児,小児が口に含んでもその毒性が全く無く,しかも水を含んだ雑巾で拭き取るだけで簡単に消去することのできる水溶性インキによるサインペン玩具を提供するものである。」(第2頁第13行?第3頁第4行)

(3) 「本考案においてインキとして使用される各色の水溶液中にポリエチレングリコールを添加するのは,インキ保溜材に含浸,貯留されているインキが蒸発するのを防ぐためであり,サインペンとしての保存性を得るものである。また,若干添加される界面活性剤は,インキの流れをよくするもので,インキが保溜材に滲み込むのを速進させ,インキ保溜材に含浸,貯留されるインキの量を多くするとともに,合成樹脂面等の撥水性の表面への筆記を可能とするものである。」(第6頁第5?15行)

(4) 「本考案においてインキとして使用される黒色,赤色,および青色水溶液の好ましい組成例を例示すると次のようである。
黒色水溶液
水 85(重量部)
ポリエチレングリコール 10( 〃 )
界面活性剤 5( 〃 )
色素 食用青 1号 4( 〃 )
食用赤102号 4( 〃 )
食用黄 4号 4( 〃 )」(第7頁第7行?最下行)

3 甲第2ないし12号証の記載事項

(1) 甲第2号証(三訂版染色)

ア 「〔2〕基本染法及び溶解性による分類」の項に,染料の水溶性に基づく分類において,「酸性染料」は「水に溶解」することが記載されている(39頁表3・4,表の摘記は省略)。
イ 「〔2〕酸性染料(acid dyes)」の項に,酸性染料の種類について「(1)種類 化学構造上からは,アゾ系又はアントラキノン系が大部分で,染料分子中にスルホン基(-SO_(3)H),ヒドロキシル基(-OH),カルボキシル基(-COOH)などの酸性基をもち,主にスルホン酸ナトリウム(D-SO_(3)Na)の形をしている」と記載されている(43頁)。

(2) 甲第3号証(現代筆記具読本)

ア 「万年筆用黒インキとして販売されているものは,染料を用いて黒色を出しているものや・・・(略)・・・などがある。」(53頁6?8行)
イ 「今までの万年筆用インキはどちらかというと,書いた文字が消えないという筆跡の証券性に重点を置き,それを最大の特徴としていた。・・・(略)・・・たとえ使用頻度が少なくても,スムーズにインキ出の味わえるインキが要求されてくるわけだ。以前のブルーブラックインキから,最近は染料系インキに主流が変わりつつあるのは,そんな理由からだ。
染料インキの中にも,その染料にアルカリ染料を用いたものと酸性染料を用いたものとがある。」(54頁10行?55頁2行)
ウ 「酸性染料の方はアルカリ性染料にくらべて粒子も非常に細かく,しかも乾燥して固まっても再び水に溶けやすい性質を持っている。・・・(略)・・・その点,混合型インキやアルカリ性染料を用いたインキのように,インキづまりを起こしたりすることが極端に少ない。
酸性染料インキはいろいろなカラーインキに多いが,最近は黒インキにも酸性染料が用いられるようになった。黒インキは混合型やアルカリ性染料を用いたものが一般的だったが,これは「黒」という性質上,筆跡の証券性に重点を置かれていたためだ。 ・・・(略)・・・酸性染料は・・・(略)・・・最近では良質の染料も出てきているので,通常の書類保管が保たれていれば自然に退色してしまうようなことは無くなった。
各種色インキには酸性染料を用いたものが多いが,黒インキでも外国製のものは以前からそれが用いられていた。・・・(略)・・・国産の黒インキは以前アルカリ性染料を用いていたが,現在徐々に酸性のものに切り替わりつつある。」(55頁10?56頁7行)
エ 「マーキングペンの構造は他の筆記具とくらべて比較的単純である。軸内にインキを含んだフェルトやフェルト状の中綿を内蔵し,その先端にペン体をセットしたホルダーがとりつけてある。・・・(略)・・・筆記時にはインキが毛細管作用によって中綿からペン体を伝わって書き記すことができるようにしてある。・・・(略)・・・つまり,中綿にしみ込ませたインキを毛細管の働きによってペン体を通し,紙または書かれる対象物に書き記すことができる筆記具を「マーキングペン」と呼んでもよいと思う。もっとも最近は軸内にインキが液体のまま入っており,バルブの開閉によってペン体にインキを送る機構のマーカーもあるが,一般にはそう考えてよいだろう。」(182頁11行?183頁2行)
オ 「これらのマーキングペンをわかりやすく分類するには「何にでも書ける」ものと「紙専用」のものとに区分するのがよいだろう。この何にでも書けるものは「油性インキ」を用いており,紙専用のものには「水性インキ」が内蔵されているからである。・・・(略)・・・この油性・水性の区分が使用目的や用途を決定づけるのであり,同じマーキングペンの中にあっても,その性格は著しく異なる。さて,それを理解しやすいように次頁の表にまとめてみたのでご覧いただきたい。」(183頁3?13行)
カ 184頁には表が掲載されており(摘記省略),この表の「衣類についた時洗濯で」の項には,水性インキは「落ちる」と記載されている。

(3) 甲第4号証(食用色素の化学)

ア 「19世紀中頃にいたって合成染料であるタール系色素が開発され,その染着力の強さ,色の鮮かさ,均質性,安定性の高いこと,安価であることなどの長所が大きくその用途を拡張したが,食用にも多種類のタール系色素が利用されるようになった。」(620頁左欄15?20行)
イ 「しかしタール系色素には発ガン性など毒性をもつおそれのあることが指摘され,アメリカ,その他でタール系色素の使用が制限されはじめたことから,日本においても・・・(略)・・・が使用禁止となり現在では,後述のような11種が残されるのみとなった。」(620頁左欄22行?右欄2行)
ウ 上記11種については,表1(摘記省略)に掲載されており,例えば,食用黄色は食用黄色4号と食用黄色5号の2種のみであるが示されている(621頁左欄表1)。
エ 「タール系色素は,その色調から赤色系,黄色系,青色系,緑色系に分類されるが,化学構造からみるとアゾ系,トリフェニルメタン系,キサンテン系,インジゴイド系の4種に区別することができる。以下後者の分類にしたがって説明する」(620頁右欄26?30行)
オ 「II.アゾ系食用色素
これに属する色素は,その分子構造内にアゾ結合をもつもので,赤色2号,赤色102号,黄色4号,黄色5号がある。赤色2号は,・・・(略)・・・図1の構造をもっている。
赤色2号は水やプロピレングリコールに易溶で,・・・(略)・・・光や熱にはかなり強く利用範囲も広い・・・(略)・・・。
赤色102号は図2の構造をもち,・・・(略)・・・この色素は光,酸,食塩等に対して強い・・・(略)・・・赤色色素のなかでもっとも使用量の多い色素・・・(略)・・・。
黄色4号は・・・(略)・・・構造を図3に示すが,・・・(略)・・・きわめて広範囲に利用される色素で,光,熱,酸に安定であり,その他の条件に対してもかなり強く,使用し易い色素である。
黄色5号は・・・(略)・・・図4の構造をもっている。この色素の使用量もかなり多く・・・(略)・・・光,熱,酸などに対する安定性は黄色4号とほぼ同じで,アルカリによる変色性も類似している。」(621頁左欄1行?右欄最下行,図の摘記省略)
カ 「III.トリフェニルメタン系食用色素
これに属する色素は分子構造内にトリフェニル骨格をもつもので,食用色素としては緑色3号と青色1号がこれに含まれる。・・・(略)・・・。
青色1号は・・・(略)・・・構造は図6のごとくで,この色素は,光,熱,食塩,酸化,還元などのいずれにも強く,アルカリに対してもかなり安定である。」(622頁左欄4?23行)
キ 「VII.タール系食用色素の配合
以上タール系色素全体について概説したが,実際にタール系色素を用いる際には,何種類かの色素を配合して必要とする色調をもつ着色剤を調製する。・・・(略)・・・予め十分な試験を行った後配合比を決定する。」(624頁左欄23?29行)
ク 「VIII.タール色素の性質と使用上の問題点」の「2.溶解度」の項に,「溶解性を高めるためにタール色素はナトリウム塩の形になっている・・・(略)・・・溶解性の高いことは,使用時の色素液の調製が容易であり,色の濃度の調整が広範囲に行える。」と記載されている(624頁左欄下から5行?右欄3行)。
ケ 「VIII.タール色素の性質と使用上の問題点」の「5.耐光性」の項に,「紫外線に対する抵抗性は,アゾ系が最も大で,トリフェニルメタン系・・・(略)・・・の順に小となる。」と記載されている(625頁左欄下から7行?下から6行)。

(4) 甲第5号証(筆記用品百科)

ア 「マーキングペンの種類」の項に,「用いているインキの性格から大別すると,油性マーキングペンと水性マーキングペンとに分けられる。前者は俗に「マジック」と呼ばれ,後者は「サインペン」というジャンルで区別されよう。」と記載されている(221頁4?6行)。
イ 「水性マーキングペン」の項に,「一般にサインペンと呼ばれているもので,油性マーキングペンと異なり水溶性インキを使用したものである。・・・(略)・・・用途は幅広く,一般筆記用のほか,色が鮮かに出せることから画材用(2色のかけ合わせでまったく別な色がでるペンも登場),または耐光性耐水性インキを使用した証券用,チェック用・・・(略)・・・最近のブームを作った筆ペン等もこの範ちゅうに入るだろう。ペン体の太さも用途により,極細から太字まである。だれでも手軽に使えること,万年筆のように書く時の方向性のないこと,またソフトタッチであることなどが,子供から大人に至るまで,幅広い使用層を持っている理由であろう。」と記載されている(222頁9行?223頁13行)。
ウ 「インキによる分類とその性質」の項に,「マーキングペンの性質分類は,筆跡の太さ以外はその使用インキによるところがほとんどである。それらが使用目的や用途を決定づけていると言ってもよいだろう。ここでは,油性インキと水性インキの性格および用途を分類整理する意味で,一覧表にまとめてみた。」(223頁15?18行)
エ 「インキによる分類とその性質」と題する表(摘記省略)には,水性インキは,「手や衣類についたインキ汚れは洗濯で落ちる」と記載されている(224頁)。
オ 「どんな用途に使われているか」の項に,水性マーキングペンの主な用途別に適したマーキングペンの一覧表(摘記省略)が掲載されており,この表には,水性インキに分類されるものとして,一般用,画材用,アンダーライン用,筆ペンが挙げられ,筆ペンの欄には,太さ「硬筆・軟筆・毛筆」,特長「筆文字が書ける」と記載されている(227頁)。

(5) 甲第6号証(新時代の筆記具)

ア 「マーキングペンの種類」の項に,「マーキングペンの中には油性インクを用いたものと水性インクを用いたものがある。・・・(略)・・・水性インクは色鮮やかな点が特長の一つ。・・・そのような多種多様なマーキングペンの分類を別表にまとめてみた。」(同号証182頁2?8行)
イ 183頁の表には,水性インクに分類されるものとして,一般サインペン,画材用サインペン,筆ペン,ポスターマーカー等が記載されている。

(6) 甲第7号証(特開平11-130906号公報)

ア 「【発明の属する技術分野】本発明は,・・・(略)・・・絵の具,ポスターカラー,墨汁等の描画材,ボールペン,修正液等の筆記具,インキ内蔵方式スタンプ用インキ,スタンプパッド用インキ,印刷インキ,塗料等の液状の水性組成物に関し」(段落0001)
イ 「【課題を解決するための手段】本発明は,水と架橋型ポリN-ビニルカルボン酸アミドと水溶性多糖類とを少なくとも含み,水溶性多糖類の含有量が架橋型ポリN-ビニルカルボン酸アミドの含有量の1/4以下であることを特徴とした液状組成物を要旨とする。」(段落0005)
ウ 「着色剤は,・・・(略)・・・従来,インキや塗料,化粧料等の液状組成物に用いられている染料,顔料ともに限定無く使用可能であるが,その具体例を挙げると,染料としては・・・(略)・・・等の酸性染料・・・(略)・・・食品用黄色5号・・・(略)・・・等の食用染料・・・(略)・・・がある。」(段落0006)
エ 「溶媒又は分散媒は,必須要件である水の他に各種の水溶性有機溶剤が使用可能であり,これらは液状組成物としての種々の品質,例えば,液状組成物が空気に接触する部分での組成物の乾燥防止,低温時での組成物の凍結防止等の目的で使用するものである。具体的には,エチレングリコール,・・・(略)・・・ポリエチレングリコール・・・(略)・・・等のグリコール類・・・(略)・・・等が使用でき,これらは1種又は2種以上選択して併用できるものである。また,その使用量は,少ない場合は液状組成物中の各成分の溶解不足や分散不足により不溶・凝集物が発生し,多い場合は組成物中の各生物の濃度が小さくなってその効果が小さくなり,各種不具合が発生するため,液状組成物全量に対して5?40重量%が好ましい。」(段落0010)
オ 「また,水溶性多糖類は各成分の分散・溶解を安定化するために使用するものである。両者とも組成物中で水溶性増粘剤としても働くため,組成物全体の粘度を上昇させて,各成分を保持することによる分散安定化,組成物全体の流動性を低くすることによる液漏れ防止・・・(略)・・・することもできる。水溶性多糖類の具体例としては,デンプン,セルロース,グリコーゲン等のグルカン,・・・(略)・・・アラビアガム等のテトラヘテログリカン,グァーガム,キサンクンガム等の多糖類・・・(略)・・・が挙げられる。」(段落0011)
カ 「また,黴の発生による容器の液状組成物の流通路における流出阻害・・・(略)・・・黴と各成分との化学反応による組成物の粘度変化,チキソ性低下等を抑制するために・・・(略)・・・等の防腐防黴剤を適量加えることもできる。」(段落0013)

(7) 甲第8号証(特開昭55-155071号公報)

ア 「赤色色素,青色色素,黄色色素および水性媒体からなり,赤色色素および青色色素がともにアルカリ性にて発色するPH指示薬であり,黄色色素が酸性染料であり,且つ水性媒体がアルカリ性の媒体であることを特徴とする容易に消去可能なマーキング剤。」(1欄5?10行)
イ 「従来,筆記具や習字用に黒色のインキや墨汁が使用されているが,これらのマーキング剤が目的物以外に付着した場合・・・(略)・・・このマーキング剤は特に黒色の場合に安定性が不十分であった。本発明者は上記の如き欠点を解決すべく鋭意研究の結果,赤色および青色をPH指示薬とし,黄色を酸性染料として,これらを配合することにより安定性の高い黒色のマーキング剤が得られ,該マーキング剤は容易に消去または脱色し得るものであることを知見して本発明を完成した。」(2欄2?15行)
ウ 「黄色色素としては,その構造中にカルボキシル基および/またはスルホン酸基を有する酸性染料が好ましく・・・(略)・・・,特に好ましい染料としては,・・・(略)・・・サンセツトエローFCF,・・・(略)・・・タートラジン,・・・(略)・・・等があげられる。」(4欄14?21行)
エ 「またこのような媒体はその粘度を調節したり・・・(略)・・・乾燥速度等を調節するために,各種の有機溶剤や水溶性高分子材料を含有してもよい。代表的な材料としては低級アルコール,多価アルコール,ポリエチレングリコール,ポリビニルアルコール・・・(略)・・・あるいはその水溶性塩,カルボキシルメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。」(5欄9?17行)
オ 「以上の如くして得られる本発明のマーキング剤は黒色であって,その外観は通常の黒色のインキや墨汁と同様であり,且つ同様に各種の物品にマーキング可能であるが,マーキング後,その消去が非常に容易であって,例えば簡単な水洗や濡れた布等で軽く擦ることにより容易に消去することができる。」(6欄6?12行)
カ 「従って,本発明のマーキング剤は習字用の墨汁,マーキングペンのインキ等に有用であり」(7欄7,8行)

(8) 甲第9号証(特開2005-089480号公報)

ア 「【発明の属する技術分野】
本発明は水性筆記具用インキ組成物または当該インキを用いたマーキングペンに関するものである。更に詳しく言えば低温での経時安定性に優れている水性筆記具用インキ組成物または当該インキを用いたマーキングペンに関するものである。」(段落0001)
イ 「【課題を解決するための手段】
本発明は・・・(略)・・・,
1)酸性染料又は天然染料
2)水
3)二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤
を含有した水性筆記具用インキ組成物を採用する」(段落0005)
ウ 「酸性染料の中でも以下のような食用染料が安全性の点で好ましい。
C.I.No.19140(食用黄色4号),C.I.No.15985(食用黄色5号),・・・(略)・・・C.I.No.16185(食用赤色2号),C.I.No.16255(食用赤色102号),・・・(略)・・・C.I.No.42090(食用青色1号)」(段落0010)
エ 「(界面活性剤)
二重結合を有するノニオン系活性剤が使用でき,具体的にはポリグリセリンモノ脂肪酸エステルが好適である。さらに具体的にはモノオレイン酸デカグリセリル,モノリノール酸デガグリセリルが好適である。」(段落0013)
オ 「(湿潤剤)
キャップオフ剤として通常使用されるようなグリコール,グリセリンなどの他,D-ソルビットも使用できる。これらの湿潤剤は単独又は二種以上組み合わせ使用できる。」(段落0015)
カ 「(防腐剤)
食用添加剤として使用されるものを使うと,インキ組成物の全てを食用添加剤のみにすることが可能である。このような防腐剤としては安息香酸ソーダ,ソルビン酸カリウム,プロピオン酸ナトリウム,チアベンダゾールなどが挙げられる。これらの防腐剤は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。」(段落0017)
キ 「(マーキングペン)
本発明のインキ組成物は,水性筆記具であれば適用できるが,その中でもマーキングペンに適している。・・・(略)・・・即ち,マーキングペンには,インキ組成物をマーキングペン容器に直接充填する所謂フリーインキ式とインキ組成物をインキ吸蔵体である中芯に充填し,当該中芯をマーキングペン容器内に挿入する所謂中芯式があり,本発明のインキ組成物は,フリーインキ式,中芯式の双方に適用できる。」(段落0020)
ク 【実施例】の欄の表1(摘記省略)には,実施例3として,食用黄色5号,食用赤色102号,食用青色1号がそれぞれ0.50,6.00,4.00重量%であるものが記載されている。
ケ 「【発明の効果】
以上のように本発明の水性筆記具用インキ組成物は,1)酸性染料 2)水 3)二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤を含有しているので経時安定性に優れ,ペン先に染料が析出する欠点がなく,かつ書き味に優れている。特に当該インキ組成物を,中芯に充填またはインキ組成物をそのままペン本体に充填し,且つペン先が繊維束,焼結体またはプラスチックよりなるマーキングペンにすると,低温での経時安定性があり,ペン先に染料が析出せず,かつ書き味に優れたマーキングペンを得ることができる。」(段落0026)

(9) 甲第10号証(実験報告書)

甲第10号証には,次の点を目的として行われた実験の結果が報告されている。
(i)甲第1号証の黒色水溶液において,ポリエチレングリコールや界面活性剤を配合しなかったとしても,水消去性には,何ら影響がないという事実を確認すること。
(ii)甲第1号証の黒色水溶液において,ポリエチレングリコールと界面活性剤を配合しない黒色水溶液において,黄色4号から黄色5号に変更したとしても,両者は同程度の水消去性を有するという事実を確認すること。
(iii)本件発明における「水消去性」の意味を確認すること。

(10) 甲第11号証(理化学事典)

「酸性染料」の項に,「動物性繊維とくに羊毛をよく染める染料.化学構造的には一部の直接染料と似ているが,一般的に木綿には染着しない.この種の染料は,染色法も簡単で色相の種類も豊かであり,堅牢度も良好なものが多いが,水によく溶ける染料であるため,洗濯で落ちやす」いこと等が記載されている(第327頁)。

(11) 甲第12号証(広辞苑)

「襖」の項には,「建具の一種。木で骨を組み,両面から紙や布で貼ったもの。」等と記載されている(第2245頁)

4 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)

甲第1号証には,色素たる食用青1号,食用赤102号,及び食用黄4号と,界面活性剤と,ポリエチレングリコールとを含有するサインペンに用いられる黒色水溶液インキが記載され(摘記(1)),当該インキが,水を含んだ雑巾で拭き取るだけで簡単に消去することのできる水溶性のものであることが示されている(摘記(2))。
また,甲第1号証には,水を含有し,食用青1号,食用赤102号,食用黄4号をそれぞれ4重量部使用する例が記載されており(摘記(4)),これは,水を含有し,各色素を33.3重量%の割合で配合することを意味するものと解される。
よって,甲第1号証には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「水,色素たる食用青1号,食用赤102号,及び食用黄4号と,界面活性剤と,ポリエチレングリコールとを含有し,食用青1号33.3重量%,食用赤102号33.3重量%,食用黄4号33.3重量%の割合で配合された,水を含んだ雑巾で拭き取るだけで簡単に消去することのできるサインペンに用いられる黒色水溶液インキ。」

5 甲第2ないし12号証に記載された技術的事項(特に,サインペン用インキと墨汁組成物の互換性について)

請求人が提出する甲第2ないし12号証は,上記「第3 1(2)」の請求の理由などからみて,本件出願時の技術常識を立証するための証拠であると認められるところ,特に,サインペン用インキと墨汁組成物の互換性(墨汁への転用)につき,請求人は,「水性サインペン等に使用可能な水性インキ等を,同じ水性である墨汁等に転用可能であることは,以下に示すとおり,甲第5号証乃至甲第9号証等の周知技術からも明らかであり,当業者あれば転用を容易に想到し得たものである」と主張する(審判請求書47頁4?7行参照)。
そこで,これら甲第5ないし9号証の記載事項を中心に,甲第2ないし12号証に記載された,サインペン用インキと墨汁組成物の互換性(墨汁への転用)に関連する技術的事項について予め整理しておく。

(1) 甲第5ないし9号証に記載された,サインペン用インキと墨汁組成物の互換性(墨汁への転用)に関連する技術的事項

ア 甲第5号証
甲第5号証(上記「3(4)」参照)によれば,水性マーキングペンは,一般にサインペンと呼ばれ,水溶性インキ(水性インキ)を用いるものであり,一般筆記や画材用に用いられ,筆ペンを含む種々のものがこれに属することを把握することができる。
イ 甲第6号証
甲第6号証(上記「3(5)」参照)によれば,水性インクを用いたマーキングペンの種類として,一般サインペンに加え,筆ペンが挙げられ,当該筆ペンは,硬筆・軟筆・毛筆といった太さがあり,筆文字が書けるという特長があることを把握することができる。
ウ 甲第7号証
甲第7号証(上記「3(6)」参照)によれば,水と架橋型ポリN-ビニルカルボン酸アミドと水溶性多糖類とを少なくとも含む液状組成物に,酸性染料等の着色剤を配合したものが,墨汁やボールペン等に使用可能であることを把握することができる。
エ 甲第8号証
甲第8号証(上記「3(7)」参照)には,PH指示薬である赤色色素及び青色色素,酸性染料である黄色色素,並びに水性媒体からなるマーキング剤が,マーキングペン等に用いられる黒色のインキや習字用の墨汁等として有用であることを把握することができる。
オ 甲第9号証
甲第9号証(上記「3(8)」参照)には,酸性染料又は天然染料,水,二重結合を有する脂肪酸を含むノニオン系活性剤を含有した水性筆記具用インキ組成物において,食用黄色4号,食用黄色5号,食用赤色2号,食用赤色102号,食用青色1号といった食用染料を使用し得ること,及び,当該インキ組成物は,水性筆記具であれば適用できるが,その中でもマーキングペンに適していることを把握することができる。
カ なお,これら甲第5ないし9号証のうち,甲第8号証には唯一,墨汁組成物における「水消去性効果(属性)」に関連する記載が認められるが(上記「3(7)オ」参照),この水消去性に係る効果は,「三原色の特定酸性染料」の採用によるものではなく,PH指示薬などの採用によるものであり,その作用機序は本件発明とは異なる。

(2) サインペン用インキと墨汁組成物の互換性(墨汁への転用)について

上記(1)のとおり把握される技術的事項を斟酌しても,サインペン用のインキと墨汁用組成物とが一般(常態的)に互換性を有するという技術常識の存在を認めることはできない。その理由は以下のとおりである。
ア 甲第5号証及び甲第6号証から,水性インキを用いるサインペン(水性マーキングペン)の範疇に,毛筆の筆ペンが分類されることが理解できるものの,このようなサインペン(筆ペン)の分類などについての詳説は,当該サインペン用のインキと墨汁用組成物とが一般(常態的)に互換性があることを教示するものではない。
イ 甲第7号証及び甲第8号証に記載された液状組成物あるいはマーキング剤は,確かに,墨汁とそれ以外の用途(ボールペンやマーキングペン用のインキ)の両用について教示するものではあるが,このような両用は,
「水と架橋型ポリN-ビニルカルボン酸アミドと水溶性多糖類とを少なくとも含み,水溶性多糖類の含有量が架橋型ポリN-ビニルカルボン酸アミドの含有量の1/4以下であることを特徴とした液状組成物」,
あるいは,
「赤色色素,青色色素,黄色色素および水性媒体からなり,赤色色素および青色色素がともにアルカリ性にて発色するPH指示薬であり,黄色色素が酸性染料であり,且つ水性媒体がアルカリ性の媒体であることを特徴とする容易に消去可能なマーキング剤。」
という特定の組成物の使用を前提するものであって,サインペン用のインキと墨汁用組成物とが,その成分組成にさほど依存することなく一般(常態的)に互換性があることまでを教示するものではない。
ウ 甲第9号証に記載された水性筆記具用インキ組成物は,マーキングペンを主眼に置くものであり,サインペン用のインキと墨汁用組成物との一般的(常態的)な互換性を教示するものではない。
エ その他の証拠を精査しても,このような互換性の存在を示す記載は認められない。
オ このように,甲第2ないし12号証(特に甲第5ないし9号証)の記載事項から,サインペン用のインキと墨汁用組成物とが一般(常態的)に互換性を有するという技術常識の存在を認めるに足りる根拠を見出すことはできない。

6 無効理由2(特許法29条2項所定の「容易想到性」に係る無効理由)

(1) 本件発明1の容易想到性

ア 本件発明1
本件発明1は,上記「第2」のとおりのものであって,再掲すると以下のとおりである。
「【請求項1】
酸性染料および水媒体を含み,
前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む3種以上からなり,かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%,黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合されることを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。」
イ 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲1発明は,上記「4」のとおりのものであって,以下に再掲する。
「水,色素たる食用青1号,食用赤102号,及び食用黄4号と,界面活性剤と,ポリエチレングリコールとを含有し,食用青1号33.3重量%,食用赤102号33.3重量%,食用黄4号33.3重量%の割合で配合された,水を含んだ雑巾で拭き取るだけで簡単に消去することのできるサインペンに用いられる黒色水溶液インキ。」
ウ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「食用青1号」,「食用赤102号」,「食用黄4号」は,それぞれブリリアントブルーFCF,ニューコクシン,タートラジンと呼ばれる色素,染料であって,それらの構造式は,それぞれ本件明細書の段落【0020】の式(E),段落【0019】の式(D),段落【0016】の式(A)で表されるものであることは,当業者に周知のことである。そして,これら「食用青1号」,「食用赤102号」,「食用黄4号」が酸性染料であることは,それらの構造式からみて明らかである。
そうすると,甲1発明の「水」,「食用青1号」,「食用赤102号」及び「食用黄4号」は,それぞれ本件発明1の「水媒体」,「酸性染料・・・,前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,・・・トリフェニルメタン系の・・・青色系染料」,「酸性染料・・・,前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)・・・の赤色系染料」及び「酸性染料・・・,前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)・・・の・・・黄色系染料」に相当するものといえる。
また,引用発明1の「食用青1号33.3重量%,食用赤102号33.3重量%,食用黄4号33.3重量%の割合で配合された」は,本件発明1の「赤色系染料28?65質量%,黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合される」という各染料の配合割合の規定を満足するものである。
そして,引用発明1の「黒色水溶液インキ」が「組成物」であることは明らかである。
以上を総合すると,両者は,
「酸性染料および水媒体を含み,
前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む3種以上からなり,かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%,黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合される組成物。」
の点で一致し,次の点で相違するものと認められる。
(ア) 相違点1
組成物の用途が,本件発明1は「書画用墨汁組成物」であるのに対し,甲1発明は「サインペンに用いられる黒色水溶液インキ」である点。
(イ) 相違点2
甲1発明は界面活性剤とポリエチレングリコールとを含有するのに対し,本件発明1はこれらを必須成分とするものではない点。
(ウ) 相違点3
本件発明1は「水消去性」という性質を有しているのに対して,引用発明1は「水を含んだ雑巾で拭き取るだけで簡単に消去することのできる」ものである点。
エ 相違点1についての検討
当該相違点1は,「書画用墨汁組成物」と「サインペン用インキ」という用途の相違に係るものであるところ,一般に,これらの用途に使用される組成物は,使用方法(インキ保溜材にインキを含ませるか使用の都度筆に浸すか等)や筆記の対象(半紙のような吸水性の高い紙を用いるか否か等)が異なることから,当然,求められる性能(墨汁組成物においては半紙に書いた後の黒色を維持するという性能が求められる等)が異なることになるため,これに応じてそれぞれに適した染料や添加配合成分が選択され,最終的には異なる属性を有するものと解される。
そうすると,本件発明1に係る「書画用墨汁組成物」と,甲1発明に係る「サインペンに用いられる黒色水溶液インキ」とは,黒色の染料水溶液である点で共通するとしても,各々は,上記した求められる性能に応じてそれぞれに適した成分組成に調製され,結果,異なる属性を有するもの,すなわち,別異の組成物として区別し得ると考えるのが妥当である。事実,本件発明1には,上記「1(3)」のとおり,「水消去性効果(属性)」と「黒色維持効果(属性)」という2つの属性が見出されており,このような,甲1発明では見出されていない属性の併存はまさしく,これらを別異の組成物とする根拠(有意な用途限定とする根拠)となり得るものである。
そして,上記「5(2)」のとおり,甲第2ないし12号証をみても,一般に,サインペン用のインキと墨汁用組成物との間に常態的な互換性があるという技術常識の存在を認めるに足りる根拠は見当たらないから,甲1発明に係る「サインペンに用いられる黒色水溶液インキ」を「書画用墨汁組成物」に転用する動機付けは見出せない。
特に,これらの互換性に関し,請求人が提出する甲第5,6,9号証には,墨汁に関する記載はないことから,当該互換性を立証する程のものではないし,甲第7,8号証に記載された互換性は,特定成分組成の組成物を前提とするものであるところ,甲1発明がこのような前提を欠くものであることは明らかである。加えて,当該甲第8号証は,上記「5(1)カ」のとおり,甲第5ないし9号証の中では唯一,墨汁組成物の「水消去性効果(属性)」に関連する記載が認められるものであるが,その作用機序(技術的思想)は本件発明1とは異なっていることから,「水消去性効果(属性)」を有する組成物を前提として当該互換性を考えた場合にはなおのこと,上記転用は困難であるといわざるを得ない。
そして,本件発明1は,上記相違点1に係る発明特定事項を採用すること,すなわち,「三原色の特定酸性染料」を含む組成物を,「書画用墨汁組成物」という用途に適用することにより,「水消去性効果(属性)」と同時に,「黒色維持効果(属性)」という墨汁組成物特有の効果(属性)がもたらされたものと解される。
以上によれば,上記相違点1は実質的な相違点というべきところ,当業者が一般に書画用墨汁組成物とサインペンを含むマーキングペン用インキに常態的な互換性があると認識していたとは認められず,本件発明1について,甲1発明に技術常識を組み合わせて容易に発明することができたと認めることはできない。
オ 小括
以上のとおり,本件発明1は,上記相違点1に係る発明特定事項を具備することにより特有の効果を奏するものであって,当該発明特定事項は,当業者が容易に想到し得たものとはいえないから,上記相違点2,3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(2) 本件発明2の容易想到性

本件発明2は,上記「第2」のとおりのものであって,本件発明1の酸性染料をさらに限定し,酸性染料は,
「構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む3種からなり,かつこれらの染料が赤色系染料28?65質量%,黄色系染料13?46質量%および青色系染料15?38質量%の割合で配合され,
前記酸性染料のスルホン酸塩基がナトリウム塩であり,
前記赤色系染料が下記構造式(D)で表され,前記黄色系染料が下記構造式(B)で表され,前記青色系染料が下記構造式(E)で表される」もの
に特定するものであり,上記「1(2)」において説示したとおり,本件発明1とは,「三原色の特定酸性染料」を構成成分としている点で共通するものである。
さらに,本件発明2は,本件発明1の水消去性についてもさらに限定し,「繊維集合体に対する水消去性を有する」
と特定するものである。
そうすると,本件発明2は,本件発明1の発明特定事項をすべて具備し,これをさらに限定するものであって,上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項と同じ発明特定事項を具備するものといえるから,当該本件発明2についても,本件発明1と同様の理由(上記「6(1)エ」参照)により,甲1発明等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(3) 本件発明7の容易想到性

本件発明7は,上記「第2」のとおりのものであって,本件発明1の酸性染料及びその含有量をさらに限定し,
「アゾ系の食用赤色2号(アマランス,C.I.16185),食用赤色102号(ニューコクシン,C.I.16255)から選ばれる構造中にスルホン酸塩基を2個以上有する赤色染料29?60質量%と,アゾ系の食用黄色4号(タートラジン,C.I.19140),食用黄色5号(サンセットイエローFCF,C.I.15985)から選ばれる構造中にスルホン酸塩基を2個以上有する黄色系染料13?45質量%と,トリフェニルメタン系の食用青色1号(ブリリアントブルーFCF,C.I.42090)である構造中にスルホン酸塩基を2個以上有する青色系染料17?38質量%との割合で配合される酸性染料1?40質量%」
に特定するものであり,上記「1(2)」において説示したとおり,本件発明1とは,「三原色の特定酸性染料」を構成成分としている点で共通するものである。
さらに,本件発明7は,本件発明1の成分組成を,
「デンプン糖類または砂糖5?40質量%;
天然ガム類0.01?1質量%;および
残部が実質的に水媒体;
の組成を有し,粘度が1?100mPa・s/20℃の範囲である」
と特定するものである。
そうすると,本件発明7は,本件発明1の発明特定事項をすべて具備し,これをさらに限定するものであって,上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項と同じ発明特定事項を具備するものといえるから,当該本件発明7についても,本件発明1と同様の理由(上記「6(1)エ」参照)により,甲1発明等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(4) 本件発明3ないし6,9ないし12,及び8の容易想到性

本件発明3ないし6は,本件発明1を直接あるいは間接的に引用し,本件発明9ないし12は,本件発明2を直接あるいは間接的に引用し,本件発明8は,本件発明7を直接引用するものである。
したがって,これら本件発明3ないし6,9ないし12,及び8についても,上記した本件発明1,2,7と同様の理由により,甲1発明等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(5) 無効理由2についてのまとめ

以上検討のとおり,本件発明1ないし12は,甲1発明等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,上記した無効理由2には,理由がない。

7 無効理由1(特許法29条1項3号所定の「新規性」に係る無効理由)

(1) 本件発明1,3の新規性

本件発明1と甲1発明とは,上記「6(1)ウ」の検討のとおり,少なくとも上記相違点1に係る技術的事項において相違するところ,この相違点が実質的なものであることは,上記「6(1)エ」において既に説示したとおりである。
また,本件発明3は,本件発明1を引用し,本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから,同様に,甲1発明とは,上記相違点1に係る技術的事項において実質的に相違するものである。
そうすると,本件発明1,3と甲1発明とは,実質的な相違点を有することから,本件発明1,3が,甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(2) 無効理由1についてのまとめ

以上のとおり,本件発明1,3は,甲第1号証に記載された発明であるということはできず,特許法第29条第1項第3号に該当しないから,上記無効理由1には,理由がない。

第5 むすび

以上のとおりであるから,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件発明1ないし12の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-22 
結審通知日 2015-04-24 
審決日 2015-05-08 
出願番号 特願2006-353111(P2006-353111)
審決分類 P 1 113・ 113- Y (C09D)
P 1 113・ 121- Y (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 日比野 隆治
豊永 茂弘
登録日 2009-12-18 
登録番号 特許第4426564号(P4426564)
発明の名称 水消去性書画用墨汁組成物  
代理人 清水 義憲  
代理人 坂西 俊明  
代理人 清水 義憲  
代理人 稲葉 良幸  
復代理人 中塚 岳  
代理人 城戸 博兒  
代理人 岡崎 士朗  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 黒川 朋也  
代理人 鰺坂 和浩  
代理人 森▲崎▼ 博之  
代理人 城戸 博兒  
代理人 坂西 俊明  
代理人 黒川 朋也  
復代理人 中塚 岳  
代理人 岡崎 士朗  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 森田 秀彦  
代理人 鰺坂 和浩  

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