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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1308013
審判番号 不服2014-14840  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-30 
確定日 2015-11-24 
事件の表示 特願2012-529081「下りリンク高次MIMOのための参照信号設計」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月28日国際公開、WO2011/047462、平成25年 2月14日国内公表、特表2013-505602〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,
平成22年(2010年)9月21日(優先権主張 2009年(平成21年)9月21日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成25年11月11日付けで拒絶理由が通知され,平成26年2月12日付けで意見書とともに手続補正書の提出がなされ,同年3月28日付けで拒絶査定され,同年7月30日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定

[結 論]
平成26年7月30日付け手続補正を却下する。

[理 由]
1.本件補正の概要
平成26年7月30日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成26年2月12日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項である「本件補正前の特許請求の範囲記載事項」を,次の「本件補正後の特許請求の範囲記載事項」のように補正しようとするものである。

<本件補正前の特許請求の範囲記載事項>(請求人の附した下線は省略。)
【請求項1】
レガシー移動端末および次世代移動端末の両方をサポートするセルラー・ネットワークにおいて、MIMO送信機の動作の方法であって、前記方法は、
前記セルラー・ネットワークの通信チャネル内の複数の資源ブロックを識別することであって、各資源ブロックは、所与の周波数バンドにおけるある送信時間スロットのサブキャリアの領域に対応する、ことと、
前記レガシー移動端末のための参照信号(RS)の第一のセットを、第一の周期を用いて、前記MIMO送信機によって、前記複数の資源ブロック内の時間および周波数資源の第一のセットにおいて周期的に送信することと、
前記次世代移動端末のためのRSの第二のセットを、第二の周期を用いて、前記MIMO送信機によって、前記複数の資源ブロック内の時間および周波数資源の第二のセットにおいて周期的に送信することであって、前記第二の周期は、前記第一の周期とは異なるように構成されている、ことと
を含む、方法。
【請求項2】
前記次世代移動端末のための専用RSのセットを送信することであって、前記専用RSは、物理的下りリンク共有チャネル(PDSCH)領域に存在する、こと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
選択された前置符号化マトリクスを用いて前記専用RSを前置符号化することであって、前記前置符号化マトリクスは、前記次世代移動端末と、前記次世代移動端末と通信している基地局との間のチャネル条件に少なくとも部分的に基づいて選択される、こと
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
時分割多重(TDM)ベースで前記レガシー移動端末および前記次世代移動端末のためのデータを多重化すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
周波数分割多重(FDM)ベースで前記レガシー移動端末および前記次世代移動端末のためのデータを多重化すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記RSの前記第二のセットは、前記複数の資源ブロック内の前記RSの前記第一のセットよりも低密度である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記RSの前記第二のセットは、前記周波数バンドの前記資源ブロックの一部分を占有し、前記RSの前記第一のセットは、前記周波数バンドの全資源ブロックを占有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
4個の送信アンテナの最大数を用いて、レガシー移動端末および次世代移動端末のための物理的下りリンク制御チャネル(PDCCH)信号を同じサブフレームにおいて送信すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
レガシー移動端末および次世代移動端末のための前記物理的下りリンク制御チャネル信号は、送信ダイバーシチを用いて、複数のアンテナ上で送信される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記レガシー移動端末は、ロング・ターム・エボリューション(LTE)移動端末であり、前記次世代移動端末は、LTE-アドバンスド(LTE-A)移動端末である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第二の周期は、前記第一の周期よりも大きいように構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
レガシー移動端末および次世代移動端末の両方をサポートするセルラー・ネットワークにおいて動作する基地局であって、
前記基地局は、
前記セルラー・ネットワークの通信チャネル内の複数の資源ブロックを識別することであって、各資源ブロックは、所与の周波数バンドにおけるある送信時間スロットのサブキャリアの領域に対応する、ことと、
前記レガシー移動端末のための参照信号(RS)の第一のセットを、第一の周期を用いて、前記複数の資源ブロック内の時間および周波数資源の第一のセットにおいて周期的に送信することと、
前記次世代移動端末のためのRSの第二のセットを、第二の周期を用いて、前記複数の資源ブロック内の時間および周波数資源の第二のセットにおいて周期的に送信することであって、前記第二の周期は、前記第一の周期とは異なるように構成されている、ことと
を行うように構成されている、基地局。
【請求項13】
前記次世代移動端末のための専用RSのセットを送信することであって、前記専用RSは、物理的下りリンク共有チャネル(PDSCH)領域に存在する、こと
を行うようにさらに構成されている、請求項12に記載の基地局。
【請求項14】
選択された前置符号化マトリクスを用いて前記専用RSを前置符号化することであって、前記前置符号化マトリクスは、前記次世代移動端末と、前記基地局との間のチャネル条件に少なくとも部分的に基づいて選択される、こと
を行うようにさらに構成されている、請求項13に記載の基地局。
【請求項15】
時分割多重(TDM)ベースで前記レガシー移動端末および前記次世代移動端末のためのデータを多重化すること
を行うようにさらに構成されている、請求項12に記載の基地局。
【請求項16】
周波数分割多重(FDM)ベースで前記レガシー移動端末および前記次世代移動端末のためのデータを多重化すること
を行うようにさらに構成されている、請求項12に記載の基地局。
【請求項17】
前記RSの前記第二のセットは、前記複数の資源ブロック内の前記RSの前記第一のセットよりも低密度である、請求項12に記載の基地局。
【請求項18】
前記RSの前記第二のセットは、前記周波数バンドの前記資源ブロックの一部分を占有し、前記RSの前記第一のセットは、前記周波数バンドの全資源ブロックを占有する、請求項12に記載の基地局。
【請求項19】
4個の送信アンテナの最大数を用いて、レガシー移動端末および次世代移動端末のための物理的下りリンク制御チャネル信号を同じサブフレームにおいて送信すること
を行うようにさらに構成されている、請求項12に記載の基地局。
【請求項20】
レガシー移動端末および次世代移動端末のための前記物理的下りリンク制御チャネル信号は、送信ダイバーシチを用いて、複数のアンテナ上で送信される、請求項19に記載の基地局。
【請求項21】
前記レガシー移動端末は、ロング・ターム・エボリューション(LTE)移動端末であり、前記次世代移動端末は、LTE-アドバンスド(LTE-A)移動端末である、請求項12に記載の基地局。
【請求項22】
前記第二の周期は、前記第一の周期よりも大きいように構成されている、請求項12に記載の基地局。

<本件補正後の特許請求の範囲記載事項>(下線は請求人が付与。)
【請求項1】
レガシー移動端末および次世代移動端末の両方をサポートするセルラー・ネットワークにおいて、MIMO送信機の動作の方法であって、
前記方法は、
前記セルラー・ネットワークの通信チャネル内の複数の資源ブロックを識別することであって、各資源ブロックは、所与の周波数バンドにおけるある送信時間スロットのサブキャリアの領域に対応する、ことと、
前記レガシー移動端末のための参照信号(RS)の第一のセットを、第一の周期を用いて、前記MIMO送信機によって、前記複数の資源ブロック内の時間および周波数資源の第一のセットにおいて周期的に送信することと、
前記次世代移動端末のためのRSの第二のセットを、第二の周期を用いて、前記MIMO送信機によって、前記複数の資源ブロック内の時間および周波数資源の第二のセットにおいて周期的に送信することであって、前記第二の周期は、前記第一の周期とは異なるように構成されている、ことと
を含む、方法。
【請求項2】
前記次世代移動端末のための専用RSのセットを送信することであって、前記専用RSは、物理的下りリンク共有チャネル(PDSCH)領域に存在する、こと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
選択された前置符号化マトリクスを用いて前記専用RSを前置符号化することであって、前記前置符号化マトリクスは、前記次世代移動端末と、前記次世代移動端末と通信している基地局との間のチャネル条件に少なくとも部分的に基づいて選択される、こと
をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
時分割多重(TDM)ベースで前記レガシー移動端末および前記次世代移動端末のためのデータを多重化すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
周波数分割多重(FDM)ベースで前記レガシー移動端末および前記次世代移動端末のためのデータを多重化すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記RSの前記第二のセットは、前記複数の資源ブロック内の前記RSの前記第一のセットよりも低密度である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記RSの前記第二のセットは、前記周波数バンドの前記資源ブロックの一部分を占有し、前記RSの前記第一のセットは、前記周波数バンドの全資源ブロックを占有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
4個の送信アンテナの最大数を用いて、レガシー移動端末および次世代移動端末のための物理的下りリンク制御チャネル(PDCCH)信号を同じサブフレームにおいて送信すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
レガシー移動端末および次世代移動端末のための前記物理的下りリンク制御チャネル信号は、送信ダイバーシチを用いて、複数のアンテナ上で送信される、請求項8に記載の方
法。
【請求項10】
前記レガシー移動端末は、ロング・ターム・エボリューション(LTE)移動端末であり、前記次世代移動端末は、LTE-アドバンスド(LTE-A)移動端末である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第二の周期は、前記第一の周期よりも大きいように構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
レガシー移動端末および次世代移動端末の両方をサポートするセルラー・ネットワークにおいて動作する基地局であって、
前記基地局は、
前記セルラー・ネットワークの通信チャネル内の複数の資源ブロックを識別することであって、各資源ブロックは、所与の周波数バンドにおけるある送信時間スロットのサブキャリアの領域に対応する、ことと、
前記レガシー移動端末のための参照信号(RS)の第一のセットを、第一の周期を用いて、前記複数の資源ブロック内の時間および周波数資源の第一のセットにおいて周期的に送信することと、
前記次世代移動端末のためのRSの第二のセットを、第二の周期を用いて、前記複数の資源ブロック内の時間および周波数資源の第二のセットにおいて周期的に送信することであって、前記第二の周期は、前記第一の周期とは異なるように構成されている、ことと
を行うように構成されている、基地局。
【請求項13】
前記次世代移動端末のための専用RSのセットを送信することであって、前記専用RSは、物理的下りリンク共有チャネル(PDSCH)領域に存在する、こと
を行うようにさらに構成されている、請求項12に記載の基地局。
【請求項14】
選択された前置符号化マトリクスを用いて前記専用RSを前置符号化することであって、前記前置符号化マトリクスは、前記次世代移動端末と、前記基地局との間のチャネル条件に少なくとも部分的に基づいて選択される、こと
を行うようにさらに構成されている、請求項13に記載の基地局。
【請求項15】
時分割多重(TDM)ベースで前記レガシー移動端末および前記次世代移動端末のためのデータを多重化すること
を行うようにさらに構成されている、請求項12に記載の基地局。
【請求項16】
周波数分割多重(FDM)ベースで前記レガシー移動端末および前記次世代移動端末のためのデータを多重化すること
を行うようにさらに構成されている、請求項12に記載の基地局。
【請求項17】
前記RSの前記第二のセットは、前記複数の資源ブロック内の前記RSの前記第一のセットよりも低密度である、請求項12に記載の基地局。
【請求項18】
前記RSの前記第二のセットは、前記周波数バンドの前記資源ブロックの一部分を占有し、前記RSの前記第一のセットは、前記周波数バンドの全資源ブロックを占有する、請求項12に記載の基地局。
【請求項19】
4個の送信アンテナの最大数を用いて、レガシー移動端末および次世代移動端末のための物理的下りリンク制御チャネル信号を同じサブフレームにおいて送信すること
を行うようにさらに構成されている、請求項12に記載の基地局。
【請求項20】
レガシー移動端末および次世代移動端末のための前記物理的下りリンク制御チャネル信号は、送信ダイバーシチを用いて、複数のアンテナ上で送信される、請求項19に記載の基地局。
【請求項21】
前記レガシー移動端末は、ロング・ターム・エボリューション(LTE)移動端末であり、前記次世代移動端末は、LTE-アドバンスド(LTE-A)移動端末である、請求項12に記載の基地局。
【請求項22】
前記第二の周期は、前記第一の周期よりも大きいように構成されている、請求項12に記載の基地局。

2.本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「(前省略)MIMO送信機の動作の方法であって、前記方法は、」とあった記載のうち「前記方法は、」を,次の行であって,「 前記セルラー・ネットワークの通信チャネル内の(後省略)」とある記載の前の行に移動し,「 前記方法は、」と本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を変更するものである。

そして,上記のような本件補正が,特許法第17条の2第5項に掲げる事項,「請求項の削除」(同項1号),「特許請求の範囲の減縮」(同項2号),「誤記の訂正」(同項3号),「明りょうでない記載の釈明」(同項4号)のいずれかに該当するということができないものであることは明らかである。

なお,請求人は,審判請求書の「3.本願特許が登録されるべき理由」の「3.1」において,「本願の特許請求の範囲は、審判請求書と同日付けで提出した手続補正書に示されるとおりです。この手続補正書に示される請求項1?22は、平成26年2月12日付けで提出した手続補正書に示される請求項1?22に実質的に同一です。」と述べている。

3.以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明

上記「第2」に述べたとおり,本件補正は却下された。
そうすると,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成26年2月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記「第2」の「1.」における[本件補正前の特許請求の範囲記載事項]の「請求項1」参照。)により特定されるとおりのものである。

第4 先願発明

1.原査定の理由に「先願1」として引用された「特願2008-279968号(特開2010-109714号)」(以下「先願」と表記。)は,平成20年(2008年)10月30日に出願され,平成22年(2010年)5月13日に出願公開されたものであって,本件出願の優先権主張の日(平成21年9月21日)前であって,国際出願日(平成22年9月21日)前のものである。
更に,先願に係る発明者と本件出願に係る発明者とが同一の者であるということも,また,本件出願の時の出願人と先願の出願人とが同一の者であるということもできない。

2.先願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)には次の事項が記載(下線は当審が付与。)されている。

(1) 【技術分野】
【0001】
本発明は移動通信の技術分野に関し、特に同一セル内に物理アンテナ数の異なるユーザ装置が混在している移動通信システムにおける基地局装置、ユーザ装置及び方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
移動通信の技術分野では、ワイドバンド符号分割多重接続(W-CDMA)方式の標準化団体3GPPにより、いわゆる第3世代の後継となる方式が検討されている。特に、W-CDMA方式、高速ダウンリンクパケットアクセス(HSDPA)方式及び高速アップリンクパケットアクセス(HSUPA)方式等の後継として、ロングタームエボリューション(LTE: Long Term Evolution)システムが挙げられる。更に、LTEシステムの後継として、LTEアドバンストシステム或いは第4世代移動通信システムのようなシステムも検討されている。LTEシステムにおける下りリンクの無線アクセス方式は、直交周波数分割多重接続(OFDMA: Orthogonal Frequency Division Multiple Access)方式である。上りリンクについてはシングルキャリア周波数分割多重接続(SC-FDMA: Single-Carrier Frequency Division Multiple Access)方式が使用される。
【0003】
LTEシステムでは、下りリンクでも上りリンクでもユーザ装置に1つ以上のリソースブロック(RB: Resource Block)を割り当てることで通信が行われる。リソースブロックは、無線リソース割当の周波数単位を示し、システム内の多数のユーザ装置で共有される。一例として1つのリソースブロックは、180kHzの帯域幅を有し、例えば12個のサブキャリアを含む。例えば、5MHzのシステム帯域には25個のリソースブロックが含まれている。基地局装置は、例えばLTEシステムでは1msであるサブフレーム(Sub-frame)毎に、複数のユーザ装置の内どのユーザ装置にリソースブロックを割り当てるかを決定する。サブフレームは送信時間間隔(TTI: Transmission Time Interval)と呼ばれてもよい。無線リソースの割り当ての決定はスケジューリングと呼ばれる。下りリンクの場合、スケジューリングで選択されたユーザ装置宛に、基地局装置は1以上のリソースブロックで共有チャネルを送信する。この共有チャネルは、下り物理共有チャネル(PDSCH: Physical Downlink Shared CHannel)と呼ばれる。上りリンクの場合、スケジューリングで選択されたユーザ装置が、1以上のリソースブロックで基地局装置に共有チャネルを送信する。この共有チャネルは、上り物理共有チャネル(PUSCH: Physical Uplink Shared CHannel)と呼ばれる。

(2) 【0012】
LTEシステムについては、例えば、非特許文献1で説明されている。
【非特許文献1】3GPP,TS36.211 V8.4.0,2008年9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、LTEシステムでは、下りリンクにおいて最大で4つの送信アンテナによるMIMO伝送方式が用いられる。MIMO伝送方式の場合、通信に使用される複数の物理アンテナの各々は独立した無線伝搬路を形成するので、物理アンテナ毎にチャネル状態を測定する必要がある。このため、基地局の送信アンテナ数4に応じて、4種類のリファレンス信号が下りリンクで送信される。
【0014】
図1はLTEシステムにおけるリファレンス信号のマッピング例を示す。これについては、上記非特許文献の第6.10章"Reference Signals"等に示されている。なお、リファレンス信号は、送信側と受信側で既知の参照信号であり、パイロット信号、トレーニング信号、既知信号等と言及されてもよい。リファレンス信号の受信状況に基づいて、無線伝搬路の良否の推定や、チャネル推定等が行われる。図1の場合、1,5,8及び12番目のOFDMシンボルに、第1及び第2アンテナから送信されるリファレンス信号P#1,P#2が多重されている。そして、2及び9番目のOFDMシンボルに、第3及び第4アンテナから送信されるリファレンス信号P3,P4が多重されている。
【0015】
一方、IMTアドバンスト(IMT-A)又はLTEアドバンスト(LTE-A)システムのようなLTEよりも後継の無線アクセスでは、基地局で用いられる送信アンテナ数は、4本よりも増えるかもしれない(例えば、送信アンテナ数は8つになるかもしれない。)。この場合、基地局が8つの物理アンテナを使用する場合、LTE-A方式の移動局(LTE-A方式で要求される能力を有する移動局)も、基地局の各物理アンテナからのリファレンス信号をそれぞれ区別して受信し、各物理アンテナに対応するチャネル状態を測定することが望まれる。
【0016】
他方、LTEシステムからLET-Aシステムへのスムーズな移行を実現する観点からは、LTE-Aシステムにおいて、後方互換性又は下位互換性(backward compatibility)を十分に確保することが望まれる。上記の例の場合、4本より多い物理アンテナを区別することが必須でないLTEシステムと、8本の物理アンテナを区別しなければならないLTE-Aシステムとの間で、互換性を確保する必要がある。

(3) 【0021】
ところで、移動局は共有データチャネル用の無線リソースの割り当てを受けても受けなくても、無線伝搬状況の良否(CQI)を基地局に報告しなければならない。図4の例の場合、LTE移動局に割り当てられたリソースブロックには4種類のリファレンス信号が含まれ、LTE-A移動局に割り当てられたリソースブロックには8種類のリファレンス信号が含まれる。ということは、どのLTE-A移動局にも下りリンクで無線リソースが割り当てられていなかった場合、8種類総てのリファレンス信号は送信されず、8つのリファレンス信号を使ってチャネル状態を測定すること、及び測定値を基地局に適切に報告することは困難になってしまう。図2,3に示される例の場合、無線リソースAには必ずLTE-A用の8つのリファレンス信号が含まれているので、このような問題は生じないが、無線リソースの利用効率の悪化が懸念される。

(4) 【課題を解決するための手段】
【0025】
(1) 本発明で使用される基地局装置は、
第1グループのM本の物理アンテナ及び第2グループのM本の物理アンテナを含む複数の物理アンテナと、
少なくともM種類のリファレンス信号を下り信号のリソースブロックに多重するリファレンス信号多重部と、
前記下り信号を無線送信する送信部と、
を有する基地局装置である。
【0026】
前記M種類のリファレンス信号は、同じ配置パターンで第1及び第2のリソースブロックに多重される。
【0027】
前記第1のリソースブロック中のM種類のリファレンス信号は、前記第1グループの物理アンテナから送信される。
【0028】
前記第2のリソースブロック中のM種類のリファレンス信号は、前記第2グループの物理アンテナから送信される。

(5) 【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の一形態によれば、基地局装置の複数の物理アンテナは、第1グループのM(=4)本(#1,#3,#5,#7)と、第2グループのM(=4)本(#2,#4,#6,#8)に分けられる。無線リソースもRBグループAのリソースブロック(第1のリソースブロック)と、RBグループBのリソースブロック(第2のリソースブロック)に分類される。M種類のリファレンス信号は、同じ配置パターンで第1及び第2のリソースブロックに多重される(図7)。そして、第1のリソースブロック中のM(=4)種類のリファレンス信号(P#1?P#4)は、第1グループの物理アンテナ(#1,#3,#5,#7)から送信される。第2のリソースブロック中のM(=4)種類のリファレンス信号(P#1?P#4)は、第2グループの物理アンテナ(#2,#4,#6,#8)から送信される。

(6) 【0051】
<LTE_UE の場合>
ステップS21では、下り信号中の制御信号が受信信号から抽出され、復調され、復号される。この制御信号は無線リンクの割当情報を含む信号であり、LTEシステムにおけるPDCCHに相当する。制御信号を復元する際、チャネル推定を行う必要がある。リファレンス信号がリソースブロック中のどこにマッピングされているか等に関する情報は、報知情報に含まれており、ユーザ装置LTE_UEは報知情報を既に取得している。ユーザ装置LTE_UEは、受信信号中のリファレンス信号(P#1?P#4)を抽出し、それらに基づいてチャネル推定を行う。チャネル推定結果を利用して、ユーザ装置LTE_UEは、制御信号のチャネル補償を行う。ユーザ装置LTE_UEは、チャネル補償後の制御信号から、下り及び/又は上りスケジューリンググラントを確認し、自装置に無線リソースが割り当てられているか否かを確認する。説明の便宜上、このユーザ装置LTE_UEは、下りリンクの無線リソースの割り当てを受けているものとする。

(7) 【0058】
<LTE-A_UE の場合>
次に、ユーザ装置がLTE-A_UEであった場合の動作を説明する。ステップS21の動作はLTE_UEの場合と同じである。LTE-A_UEの場合、8本の物理アンテナを使用するMIMO方式の通信に備えて、8つの物理アンテナそれぞれを区別し、各物理アンテナのチャネル状況を測定する必要がある。この点、LTE_UEと大きく異なる。

(8) 【0069】
<2.変形例(時間方向)>
下り信号の構成例は、図6に示されるものに限定されず、様々な構成例が考えられる。図9は下り信号の構成がサブフレーム毎に変更される例を示す。この例の場合、リソースブロック中のリファレンス信号の配置パターン及び対応する基地局装置の物理アンテナの対応関係は、サブフレームが同じなら総て同じである。この点、信号処理の簡易化(特に、下り信号の作成負担の軽減)等の観点から好ましい。LTE-A用のユーザ装置は、或るサブフレームのリソースブロックと、前及び/又は後のサブフレームのリソースブロックとを利用してチャネル状態を測定する。測定に少なくとも2サブフレームの期間を費やしてしまうが、第1グループのアンテナ及び第2グループのアンテナに関し、同じ周波数帯域(図中、RB1及びRB2で示される)を測定できる点で好ましい。チャネル状態の時間変動が少ない場合、例えば低速でしか移動していないユーザの場合、図示の構成例は好ましい。
<3.変形例(時間及び周波数方向)>
図10は下り信号の構成がサブバンド及びサブフレーム毎に変更される例を示す。この例は、図6に示される例と図9に示される例の組合せなので、少なくとも説明済みの有利な効果が得られる点で好ましい。更に、RBグループの異なるリソースブロックは、同一サブフレームからも、前後のサブフレームからも得られる。従って、LTE-A用のユーザ装置UTE-A_UEにとって、RBグループの異なる適切なリソースブロックの選択肢が増える点で好ましい。例えば図10のRB1の場合、RBグループの異なる適切なリソースブロックはRB2のように同一サブフレーム中だけでなく、RB3のように先行するサブフレームにも存在する。
【0070】
RBグループの異なるリソースブロックが下り信号の中でどのように配置されるかは、図示のものに限定されず、適切な如何なる配置が使用されてもよい。例えば、図6や図10のようにRBグループは、サブバンド毎に変更されるだけでなく、複数のサブバンド毎に変更されてもよいし、サブバンドとは異なる別のリソースブロック数毎に変更されてもよい。同様に、RBグループは、サブフレーム毎に変更されるだけでなく、複数のサブフレーム毎に変更されてもよい。
【0071】
<4.変形例(個別リファレンス信号)>
上記の例では、RBグループA及びBの何れのリソースブロックでも同じリファレンス信号P#1?P#4が送信されていた。これにより、どのリソースブロックも、LTEユーザ装置に割り当て可能になる。その代わり、LTE-Aユーザ装置は、RBグループの異なる少なくとも2つのリソースブロックからリファレンス信号P#1?P#4を抽出し、8アンテナ分のチャネル状態を推定しなければならなかった。LET-Aユーザ装置に割り当てられたリソースブロックが、すべて同じRBグループに属していた場合、そのユーザ装置LTE-A_UEは、割り当てを受けていないリソースブロック(異なるRBグループに属するリソースブロック)を選択し、そこから抽出されたリファレンス信号を使って残りのアンテナに関するチャネル状態を推定しなければならない。実際に割り当てを受けたリソースブロックとは異なるリソースブロックが使用される点で、チャネル推定精度の劣化が懸念される。
【0072】
一方、基地局装置は無線リソースのスケジューリングを行う際、どのユーザ装置がLTEシステムに属するか及びどのユーザ装置がLTE-Aシステムに属するかを知ることができる。
【0073】
そこで、本変形例では、LTEユーザ装置に基地局装置がリソースブロックを割り当てる場合、基地局装置は、全ユーザに共通の4種類のリファレンス信号P#1?P#4をそのリソースブロックに含める。更に、LTE-Aユーザ装置に基地局装置がリソースブロックを割り当てる場合、基地局装置は、全ユーザに共通の4種類のリファレンス信号P#1?P#4だけでなく、LTE-Aユーザに固有のリファレンス信号P#5?P#8をもそのリソースブロックに含める。
【0074】
図11は、LTEユーザ装置に割り当てられるリソースブロック(左側)と、LTE-Aユーザ装置に割り当てられるリソースブロック(右側)とを示す。左側のリソースブロックは、図7左側に示されるものと同様である。LTE-Aシステムのユーザ装置に割り当てられるリソースブロック(図11右側)は、全ユーザに共通の4種類のリファレンス信号P#1?P#4だけでなく、LTE-Aシステムのユーザに固有のリファレンス信号P#5?P#8をも含んでいる。共通のリファレンス信号P#1?P#4の配置パターンは、図11の左右で同一に維持されることに留意を要する。
【0075】
図12は、リファレンス信号P#1?P#8と物理アンテナ#1?#8との対応関係の一例を示す。図示の例では、全ユーザに共通のリファレンス信号P#1,P#2,P#3,P#4は、第1グループの物理アンテナ#1,#3,#5,#7からそれぞれ送信される。LTE-Aユーザに固有のリファレンス信号P#5,P#6,P#7,P#8は、第2グループの物理アンテナ#2,#4,#6,#8からそれぞれ送信される。図12に示される対応関係は一例に過ぎず、適切な如何なる対応関係やアンテナのグループ化がなされてもよい。例えば第1グループが若番順に#1,#2,#3,#4で構成され、第2グループが#5,#6,#7,#8で構成されてもよい。これらの対応関係は、システムで不変に固定されてもよいし、定期的に又は非定期的に変更されてもよい。
【0076】
図11右側に示されるようなリソースブロックが、LTE-Aシステムのユーザ装置に割り当てられた場合、8アンテナ分のチャネル状態をそのリソースブロック中のリファレンス信号P#1?P#8から測定することができる。従って、本変形例は、チャネル状態の測定精度を高める等の観点から好ましい。

(9) 【請求項8】
第1グループのM本の物理アンテナ及び第2グループのM本の物理アンテナを含む複数の物理アンテナを有する基地局装置で使用される方法であって、
少なくともM種類のリファレンス信号を下り信号のリソースブロックに多重する多重ステップと、
前記下り信号を無線送信する送信ステップと、
を有し、前記M種類のリファレンス信号は、同じ配置パターンで前記第1及び第2のリソースブロックに多重され、
前記第1のリソースブロック中のM種類のリファレンス信号は、前記第1グループの物理アンテナから送信され、
前記第2のリソースブロック中のM種類のリファレンス信号は、前記第2グループの物理アンテナから送信される
ようにした基地局装置で使用される方法。

(10) 図11として次の図面が添付されている。


先願明細書等の記載(上記「(8)」における【0073】,【0074】参照。)を踏まえると,該図11における「LTE-A_UEに割り当てられるRB」には,全ユーザに共通のリファレンス信号P#1?P#4を送信する周期と,LTE-Aユーザに固有のリファレンス信号P#5?P#8を送信する周期とが異なることが記載されているといえることは明らかである。

(11) 以上によれば,次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているといえる。

LTE-Aユーザ装置に基地局装置がリソースブロックを割り当てる場合,基地局装置は,全ユーザに共通の4種類のリファレンス信号P#1?P#4だけでなく,LTE-Aユーザに固有のリファレンス信号P#5?P#8をもそのリソースブロックに含め,
全ユーザに共通のリファレンス信号P#1?P#4を送信する周期と,LTE-Aユーザに固有のリファレンス信号P#5?P#8を送信する周期とが異なる
基地局装置で使用される方法。

第5 当審の判断

1.対比
本願発明と先願発明を比較すると次のことがいえる。

(1) 先願発明における「LTE-A」が,「MIMO伝送方式」を用いる「セルラー・ネットワーク」であることは例を示すまでもなく周知である。

(2) 先願発明における「基地局装置」は,「全ユーザに共通の4種類のリファレンス信号」と「LTE-Aユーザに固有のリファレンス信号」を送信するものである。
このことは,該「基地局装置」が「MIMO送信機」といえることを示している。
ここで,該「全ユーザ」が,「LTE-A」のユーザ装置つまり「移動端末」とともに「LTE」の「移動端末」を含むことは明らかであるので,該「基地局装置」は,「LTE」のユーザ装置と「LTE-A」のユーザ装置をサポートしているといえることを示している。
そして,該「LTE」が該「LTE-A」に対し「レガシー」の方式の方式であり,他方の「LTE-A」が「次世代」の方式であるといい得ることは当業者に周知である。
そうすると,上記「ア」を踏まえると,先願発明には,「レガシー移動端末及び次世代移動端末の両方をサポートするセルラー・ネットワークにおいて,MIMO送信機の動作」の方法が記載されているといえることを示している。

(3) 先願発明における「リソースブロック」は本願発明における「資源ブロック」に相当する。
そして,「LTE」,「LTE-A」に用いられる「リソースブロック」が,「周波数バンドにおける送信時間スロットのサブキャリアの領域に対応する」ものであることは例をあげるまでもなく周知である(上記「第4」の「2.」の「(1)」における【0003】等参照。)。
また,先願の図11(上記「第2」の「2.」の「10」参照。)の「LTE-Aに割り当てられるRB」の図11の「右側」からみて,先願発明も,本願発明と同様に,「セルラー・ネットワークの通信チャネル内の複数の資源ブロックを識別する」構成を有しているといえる。
同様に,該図11における「右側」の記載から,先願発明が,更に,本願発明における「レガシー移動端末のための参照信号(RS)の第一のセットを,第一の周期を用いて,MIMO送信機によって,複数の資源ブロック内の時間および周波数資源の第一のセットにおいて周期的に送信する」ことと,「次世代移動端末のためのRSの第二のセットを,第二の周期を用いて、MIMO送信機によって,複数の資源ブロック内の時間および周波数資源の第二のセットにおいて周期的に送信することであって、第二の周期は,第一の周期とは異なるように構成されている」ことを有しいるといえる。

2.まとめ
以上のとおりであり,先願発明は,本願発明の構成を全て含んでいるといえるものである。
よって,本願発明は,先願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されたものである。

第6 むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができないものである。
したがって,本願は,他の請求項について論及するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-29 
結審通知日 2015-06-30 
審決日 2015-07-13 
出願番号 特願2012-529081(P2012-529081)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04W)
P 1 8・ 537- Z (H04W)
P 1 8・ 16- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 浩兵  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 近藤 聡
吉田 隆之
発明の名称 下りリンク高次MIMOのための参照信号設計  
代理人 大塩 竹志  

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