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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1308111
審判番号 不服2014-14453  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-24 
確定日 2015-11-25 
事件の表示 特願2010-548154「受信器/デコーダの局所的な権限に従って可変な外乱を有してマルチメディアコンテンツを表示する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月17日国際公開、WO2009/112771、平成23年 6月 2日国内公表、特表2011-517381〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、2009年(平成21年)2月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年2月29日、フランス)を国際出願日とする出願であって、平成25年1月7日付けの最初の拒絶理由通知に応答して平成25年7月16日付けで手続補正がなされ、平成25年8月1日付けの最後の拒絶理由通知に応答して平成25年11月6日付けで手続補正がなされ、平成25年11月22日付けの最後の拒絶理由通知に応答して平成26年2月26日付けで手続補正がなされたが、平成26年3月14日付けで、平成26年2月26日付け手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成26年7月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2.平成26年7月24日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年7月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、平成25年11月6日付けの手続補正による特許請求の範囲を補正するものであり、請求項1に係る次の補正事項を含むものである(アンダーラインは補正箇所)。

(補正前の請求項1)
「マルチメディアコンテンツを表示する方法であって、
前記マルチメディアコンテンツを表すデータ及び前記マルチメディアコンテンツに関連する外乱データを受信器/デコーダで受け取るステップと、
前記受信器/デコーダが、前記マルチメディアコンテンツを表すデータを、関連する外乱データに従って且つ前記受信器/デコーダに局所的に記憶されている、局所的妨害権と呼ばれる妨害権に従って処理するステップと、
前記受信器/デコーダが、複数の徐々に高くなる透明度レベルの中の、局所的な妨害権に依存する一透明度レベルに従って、前記外乱データによって画定されるオーバーレイとともに前記マルチメディアコンテンツを表示するステップと
を有する方法」
とあるのを、
(補正後の請求項1)
「マルチメディアコンテンツを表示する方法であって、
前記マルチメディアコンテンツを表すデータ及び前記マルチメディアコンテンツに関連する外乱データを受信器/デコーダで受け取るステップと、
前記受信器/デコーダが、前記マルチメディアコンテンツを表すデータを、関連する外乱データに従って且つ前記受信器/デコーダに局所的に記憶されている、局所的妨害権と呼ばれる妨害権に従って処理するステップと、
前記受信器/デコーダが、オーバーレイの一透明度レベルに従って、前記外乱データによって画定されるオーバーレイとともに前記マルチメディアコンテンツを表示するステップであって、局所的妨害権は外乱を低減する権利であり、前記オーバーレイの一透明度レベルは、完全に不透明なレベルから完全に透明なレベルまで高くなる複数の透明度レベルの中から、局所的妨害権により画定されるステップと
を有する方法。」
と補正する。

2.補正の適否
この補正事項は、請求項1の「前記マルチメディアコンテンツを表示するステップ」において、補正前の請求項1の「複数の徐々に高くなる透明度レベルの中の、局所的な妨害権に依存する一透明度レベルに従って」という構成を「オーバーレイの一透明度レベルに従って」と補正するとともに、「局所的妨害権は外乱を低減する権利であり、前記オーバーレイの一透明度レベルは、完全に不透明なレベルから完全に透明なレベルまで高くなる複数の透明度レベルの中から、局所的妨害権により画定される」という構成を追加したものであり、要するに、「複数の徐々に高くなる透明度レベル」を「完全に不透明なレベルから完全に透明なレベルまで高くなる複数の透明度レベル」というように限定し、さらに局所的妨害権は「外乱を低減する権利」であるということを特定するものである。
このように、上記補正事項は「前記マルチメディアコンテンツを表示するステップ」の構成を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定された特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.の(補正後の請求項1)に記載した事項により特定される次のとおりのものである。なお、本願補正発明の各構成の符号は便宜的に当審で付したものである。

(本願補正発明)
(A)マルチメディアコンテンツを表示する方法であって、
(B)前記マルチメディアコンテンツを表すデータ及び前記マルチメディアコンテンツに関連する外乱データを受信器/デコーダで受け取るステップと、
(C)前記受信器/デコーダが、前記マルチメディアコンテンツを表すデータを、関連する外乱データに従って且つ前記受信器/デコーダに局所的に記憶されている、局所的妨害権と呼ばれる妨害権に従って処理するステップと、
(D)前記受信器/デコーダが、オーバーレイの一透明度レベルに従って、前記外乱データによって画定されるオーバーレイとともに前記マルチメディアコンテンツを表示するステップであって、局所的妨害権は外乱を低減する権利であり、前記オーバーレイの一透明度レベルは、完全に不透明なレベルから完全に透明なレベルまで高くなる複数の透明度レベルの中から、局所的妨害権により画定されるステップと
(E)を有する方法。

(2)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1である特開2006-139622号公報(以下「引用例1」という)には、「コンテンツの再生装置、および再生方法」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。

「【0010】
<実施例1の構成> 図2に示すのは、本実施例における再生装置の機能ブロックの一例を表す図である。この図にあるように、本実施例の「再生装置」(0200)は、「再生部」(0201)と、「コンテンツ取得部」(0202)と、「マスク情報取得部」(0203)と、「判断情報取得部」(0204)と、「判断部」(0205)と、「マスキング制限済コンテンツ生成部」(0206)と、を有する。なお、以下に記載する本システムの機能ブロックは、ハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェア及びソフトウェアの両方として実現され得る。具体的には、コンピュータを利用するものであれば、CPUやメモリ、バス、ハードディスクドライブ、CD-ROMやDVD-ROMなどの読取ドライブ、各種通信用の送受信ポート、インターフェース、その他の周辺装置などのハードウェア構成部や、それらハードウェアを制御するためのドライバプログラムやその他アプリケーションプログラムなどが挙げられる。具体的には、メモリ上に展開されたプログラムを順次実行することで、メモリ上のデータや、インターフェースを介して入力されるデータの加工、蓄積、出力などにより各部の機能が実現される。また、この発明は装置またはシステムとして実現できるのみでなく、方法としても実現可能である。また、このような発明の一部をソフトウェアとして構成することができることもできる。さらに、そのようなソフトウェアをコンピュータに実行させるために用いるソフトウェア製品、及び同製品を記録媒体に固定した記録媒体も、当然にこの発明の技術的な範囲に含まれる(本明細書の全体を通じて同様である)。
【0011】
「再生部」(0201)は、コンテンツの再生をするための機能を有する。「コンテンツ」とは、例えば静止画、動画、音声、テキスト、又はアプリケーションやゲームなどのプログラム、あるいはそれらの組み合わせによって構成されるデータをいう。したがって、再生部とは、それらコンテンツのデータから、静止画や動画、テキストであればディスプレイに表示するために色や動きなどの情報を取得、実行するGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)やVPU(ヴィジュアル・プロセッシング・ユニット)やメモリ、VRAM(ビデオメモリ)により実現される。あるいはコンテンツが音声であるならば、マザーボードやサウンドボードに内蔵された音源を再生する機能により実現される。また、コンテンツデータが圧縮データであるならば、デコードするためのソフトウェアなども利用されても良い。
【0012】
この再生部において、後述するコンテンツ取得部で取得されたコンテンツ、あるいは同じく後述するマスキング制限済コンテンツ生成部で生成された、例えば黒点が描画されたクマのCGのようなマスキング制限済コンテンツが再生される。そして、コンテンツが動画や静止画、テキストなどであればディスプレイ、音声であればスピーカーなどの出力機器によって、これらコンテンツがユーザーに対して出力されることになる。また、コンテンツがゲームやアプリケーションなどのプログラムであればCPUやメモリなどの処理部に出力され処理される。
【0013】
「コンテンツ取得部」(0202)は、マスキング条件と関連付けてコンテンツを取得する機能を有する。「マスキング条件」とは、コンテンツの再生をマスキング制限する条件をいう。図3に示すのは、マスキング条件の一例を説明するための図である。この図にあるように、例えば、「11月30日」と言う具合に、コンテンツを取得した日に関係なく指定された日付(11月30日)になったらマスキング制限をコンテンツに施す、というマスキング条件が挙げられる。あるいは、コンテンツ取得時や初回のコンテンツ再生時を基準として、「3日後」、「6日後」という具合に経過時間によってマスキング制限を施す、というマスキング条件も挙げられる。あるいは、「1回目の再生」、「2回目の再生」と言う具合にコンテンツの再生回数にしたがってマスキング制限を施す、というマスキング条件が挙げられる。その他にも、例えばコンテンツ取得時から3日後、又は再生を3回行えばマスキング制限を施す、という具合に上記各マスキング条件を組み合わせた条件であっても良い。
【0014】
また、マスキング条件の一例として、さらにコンテンツが有料である場合にその料金の支払の有無、という条件も挙げられる。例えばコンテンツ取得時から6日後までにコンテンツに対する支払処理が行われたことを示す情報を取得した場合、コンテンツのマスキング条件を無しとしてマスキング制限を行わない、などである。あるいは、支払処理の行われた割合に応じたマスキング条件であっても良い。例えば料金のうち50%の支払処理が行われたことを示す情報を取得した場合、本来の施すべきマスキング制限のうち50%だけマスキング制限を行う、という具合の条件である。
【0015】
このようにマスキング制限のための条件であるマスキング条件とコンテンツとを、コンテンツ取得部において関連付けて取得することによって、どのような条件を満たした際にコンテンツに対してマスキング制限を行うかの判断をすることが可能になる。なお、コンテンツ取得部におけるコンテンツの取得は、上記のようにマスキング条件とともに取得する形態の他に、マスキング条件を識別する識別子とのみ関連付けられて取得する形態であっても良い。その場合、コンテンツの取得の前、あるいは後にその識別子と関連付けられたマスキング条件が別途取得されることになる。また、「取得」とは、外部から取得する他に、予め内部に蓄積されている情報などの取得、あるいは内部での新たな生成も含む概念である。なお、構成要件として記載はしていないが、このコンテンツ取得部で取得されたコンテンツやマスキング条件の長期的な保持場所として、ハードディスクなどの記憶装置や、あるいはネットワークでこの再生装置と接続されたサーバなどの外部の記憶装置が利用されても良い。
【0016】
「マスク情報取得部」(0203)は、マスク情報を取得する機能を有する。「マスク情報」とは、前記マスキング制限に用いるための情報をいう。また前述のようにマスキング制限とは元のコンテンツデータに別のデータを重ね合わせることで再生を制限することをいう。図4に示すのは、マスク情報の一例を説明するための図である。この図にあるように、マスク情報として、例えば(a)、(b)、(c)で示すように、黒点を表示するためのレイヤーの情報が挙げられる。また、マスキング制限される元の画像とそのレイヤーの画像サイズが異なる場合などは、そのレイヤーを重ね合わせる位置を示す指示情報などが含まれていても良い。そして、これら黒点のレイヤーは、後述するマスキング制限済コンテンツ生成部において、例えばコンテンツであるクマのCG上に指示情報に基づいて配置され、合成される。このようにマスク情報を用いて、コンテンツに対するマスキング制限が行われることになる。なお、ここで記載した「レイヤー」とは、グラフィック処理用の仮想的透明シートをいい、この黒点など所定の描画要素を含むレイヤーがコンテンツに重ねられることで、画像に要素を追加、あるいは変更を行うことができる。また上記図で示すような予め決められたレイヤーの他に、マスク情報として「レイヤーの所定の座標地点を中心として、半径αの黒点を描画する」プログラムによって生成されたレイヤーなどを挙げることもできる。あるいは部分的なカラーフィルターによるレイヤーなどであっても良い。また、コンテンツが動画であれば、各フレームに上記レイヤーを挿入するプログラムなどであっても良い。また、コンテンツが音声であるならば、マスク情報として別の音を重ね合わせる位置を指示する情報と、その別の音であるラッパ音などの情報が挙げられる。あるいはコンテンツである音声のデータを周波数解析し、その解析結果に応じた音声データを所定のルールに従って生成し、元のコンテンツのデータに重ね合わせても良い。コンテンツがテキストであれば、画像同様にカラーフィルターによってテキストの表示色をマスキング制限するための情報が挙げられる。あるいはコンテンツがプログラムであれば、同時に実行するプログラムを追加することでその実行処理を重くする、というマスキング処理が行われても良い。また、マスク情報は座標位置や速度に関する情報などの動きを示す情報を含み、動きを有するマスキング制限を行っても良い。」

「【0018】
「判断情報取得部」(0204)は、判断情報を取得する機能を有する。「判断情報」とは、マスキング制限したコンテンツを生成すべきか判断するための情報をいう。判断情報の一例として、マスキング条件が基準時(例えばコンテンツ取得時やコンテンツの初回再生時、又は通常再生可能期日など)からの経過時間によって規定された条件であるならば、その基準時からの経過時間を示す情報が挙げられる。そしてこの判断情報である経過時間を示す情報は、例えば基準時に取得しハードディスクなどに保持していた基準時刻の情報と内蔵タイマーから計測し生成されると良い。あるいはマスキング条件がコンテンツの再生回数で規定されるのであれば、判断情報はコンテンツを再生するたびにカウントされハードディスクなどに保持される再生回数を示す情報である。その他にも、マスキング条件が指定日時であれば内蔵カレンダーから取得した現在日時情報や、コンテンツが有料の際に行われた料金の支払処理が行われたことを示す情報や、所定の広告を視聴した、あるいはしなかったことを示す情報やバナー広告などのクリック回数の情報、認証IDやパスワードなどの情報、あるいは天候情報やイベント情報などが挙げられる。
【0019】
この判断情報と、マスキング条件とを後述する判断部において比較、判断することでコンテンツに対してマスキング制限を行うか否かが決定されることになる。
【0020】
「判断部」は、前記マスキング条件と、前記判断情報と、に基づいて再生すべきコンテンツをマスキング制限すべきか判断する機能を有する。(以下、省略)」

「【0025】
「マスキング制限済コンテンツ生成部」(0206)は、判断部(0205)での判断結果に応じてマスキング制限済コンテンツを生成する機能を有する。「マスキング制限済コンテンツ」とは、マスク情報取得部にて取得したマスク情報に基づいてマスキング制限したコンテンツをいう。図6に示すのは、生成されたマスキング制限済コンテンツの一例を説明するための図である。この図の(a)にあるように、例えば画像上にマスキング制限として黒点Aが表示されているコンテンツが挙げられる。あるいは、(b)にあるようにテキストの文字に部分的にカラーフィルターが重ね合わされ読みにくくなったコンテンツや、(c)にあるように、音声の一部Cに別の音声データが重ね合わさられたコンテンツなどが挙げられる。」

「【0029】
<実施例1の処理の流れ> 図7に示すのは、本実施例の再生装置における処理の流れの一例を表すフローチャートである。この図にあるように、まず、マスキング制限と関連付けてコンテンツを取得する(ステップS0701)。また、マスク情報を取得する(ステップS0702)。さらに、判断情報を取得する(ステップS0703)。つづいて、マスキング条件と判断情報とに基づいて再生すべきコンテンツをマスキング制限すべきか判断する(ステップS0704)。ここで、マスキング制限すべきでないとの判断結果である場合、マスキング制限を行っていないコンテンツを再生する(ステップS0708)。また、このような場合、例えば次回以降にマスキング制限を行うべきかの判断を行うために判断情報の更新などを行っても良い。なお、この判断情報の更新は、マスキング情報の取得時やマスク情報の取得時、あるいはマスキング制限すべきかの判断時など状況に応じて様々な時点で更新されて良い。
【0030】
一方、マスキング制限すべきとの判断結果である場合、マスク情報に基づいてマスキング制限済コンテンツを生成する(ステップS0705)。そして生成されたマスキング制限済コンテンツを再生する(ステップS0706)。」

「【0062】
<実施例5の構成> 図17に示すのは、本実施例の再生装置における機能ブロックの一例を表す図である。この図にあるように、本実施例の「再生装置」(1700)は、実施例1を基本として、「再生部」(1701)と、「コンテンツ取得部」(1702)と、「マスク情報取得部」(1703)と、「判断情報取得部」(1704)と、「判断部」(1705)と、「マスキング制限済コンテンツ生成部」(1706)と、を有する。また、図示していないが、本実施例の再生装置は実施例2や実施例3、又は実施例4を基本として、その他の機能ブロックを有していても良い。なお、上記再生部と、コンテンツ取得部と、マスク情報取得部と、判断情報取得部と、判断部と、マスキング制限済コンテンツ生成部の各構成要件は実施例1での説明のものと同様であるので、改めての説明は省略する。
【0063】
そして本実施例の再生装置の特徴点は、「マスク情報取得部」(1703)にて取得するマスク情報が宣伝広告情報付マスク情報である点である。「宣伝広告情報付マスク情報」とは、マスキング制限済コンテンツ生成部(1706)が生成するマスキング処理済コンテンツに宣伝広告情報を含ませるためのマスク情報をいう。例えば、図16で示すような他事業者、あるいはコンテンツそのものの宣伝広告情報を含む文字列をマスキング制限として表示するためのマスク情報や、あるいは音声による宣伝広告情報を含むマスキング制限済コンテンツを生成するために、当該音声を含むマスク情報などが挙げられる。もちろん宣伝広告情報はテキストや音声のみならず動画像などによって宣伝広告を行うための情報であっても良い。」

(3)引用発明
a.再生方法
引用例1の段落【0010】ないし【0012】,【0029】,【0030】,【図2】,【図7】の記載によれば、引用例1には、「再生部」、「コンテンツ取得部」、「マスク情報取得部」、「判断情報取得部」、「判断部」、「マスキング制限済コンテンツ生成部」を機能ブロックとして有する「再生装置」が記載されており、この「再生装置」がコンテンツを再生する手順について記載されている。
そして、「コンテンツ」は、静止画、動画、音声、テキスト、プログラム、あるいはそれらの組み合わせによって構成されるデータであるから、「マルチメディアコンテンツのデータ」であるといえる。
また、これらの機能ブロックは、ハードウェア、ソフトウェア、及びそれらの両方で実現でき、さらに、コンテンツデータが圧縮データであればデコードするためのソフトウェアが利用されることが記載されている。
すなわち、引用例1には「再生装置によるマルチメディアコンテンツのデータをデコードし再生する方法」が記載されている。

b.コンテンツ及びマスク情報の取得
引用例1の段落【0013】,【0029】の記載によれば、引用例1の「再生装置」は、「コンテンツ取得部」によりマスキング条件とコンテンツを取得するステップを有している。
また、引用例1の段落【0016】,【0029】の記載によれば、引用例1の「再生装置」は、「マスク情報取得部」によりマスク情報を取得するステップを有している。
すなわち、引用例1記載の方法は、「マルチメディアコンテンツのデータ及びマスク情報を再生装置で取得するステップ」を有しているといえる。

c.マスキング処理
c-1.マスキング条件
引用例1の段落【0013】ないし【0015】の記載によれば、マスキング条件は、コンテンツの再生をマスキング制限する条件であり、また、マスキング条件の取得は、外部から取得する他に、予め内部に蓄積されている情報などの取得、内部での新たな生成であってもよく、さらに、取得されたマスキング条件はハードディスクなどの記憶装置に保持される。
マスキング条件の例としては、マスキング制限をコンテンツに施す日付、コンテンツの初回再生時からの経過時間、コンテンツの再生回数といった条件である他に、コンテンツが有料である場合の料金の支払の有無、例えば、料金のうち50%の支払処理が行われれば、本来の施すべきマスキング制限のうち50%だけマスキング制限を行うという条件である。
すなわち、マスキング条件が料金の支払の有無である場合には、支払が無ければマスキング制限は100%であり、支払が有ればマスキング制限が0%となることは自明であるから、マスキング条件は、料金の支払に応じてマスキング制限の割合を100%から、50%、0%と低減させる条件といえる。
以上のことから、引用例1の「マスキング条件」は、「再生装置に記憶されており、マスキング制限の割合を100%から、50%、0%と低減させる機能を有する」ものである。

c-2.マスク情報及びマスキング制限
引用例1の段落【0016】,【0029】の記載によれば、取得されるマスク情報は、黒点などの所定の描画要素を含むレイヤーの情報、あるいは部分的なカラーフィルターによるレイヤーの情報などであり、マスキング制限に用いるための情報である。
また、マスキング制限とは、元のコンテンツデータに別のデータを重ね合わることで再生を制限することである。
そして、上記a.において検討したように、「コンテンツ」は「マルチメディアコンテンツのデータ」であることから、引用例1の「マスク情報」は、「マスキング制限に用いられ、マルチメディアコンテンツのデータに重ね合わされるレイヤーデータ」である。
また、「マスキング制限」とは、「マルチメディアコンテンツのデータにマスク情報を重ね合わせることで再生を制限すること」である。

c-3.マスキング制限の判断
引用例1の段落【0018】ないし【0020】,【0029】の記載によれば、引用例1の「再生装置」は、「判断情報取得部」により、「マスキング条件」に対応する情報である、再生装置内で生成される基準時からの経過時間、ハードディスクなどに保持されるコンテンツの再生回数、その他、料金の支払情報などを判断情報として取得し、「判断部」により、マスキング条件と判断情報とに基づいて再生すべきコンテンツをマスキング制限すべきか判断するステップを有している。ここで、上記「判断情報」は、判断の際には再生装置に記憶されている情報であるといえる。

c-4.マスキング制限済コンテンツの生成及び再生
引用例1の段落【0025】,【0030】の記載によれば、引用例1の「再生装置」は、「判断部」での判断結果に応じて「マスキング制限済コンテンツ生成部」によりマスキング制限済コンテンツを生成するステップ、及びその生成されたマスキング制限済コンテンツを再生するステップを有している。
そして、上記c-1ないしc-3において検討した事項を合わせると、引用例1記載の方法は、「再生装置が、再生装置に記憶されているマスキング条件及び判断情報に基づいて、マルチメディアコンテンツのデータにレイヤーデータであるマスク情報を重ね合わせて再生を制限するマスキング制限をすべきか判断し、判断結果に応じてマスキング制限済コンテンツを生成するステップ」を有し、ここで、「マスキング条件及び判断情報は、マスク情報の重ね合わせの割合を100%から、50%、0%と低減させる」ものであり、さらに「再生装置が、生成されたマスキング制限済コンテンツを再生するステップ」を有しているといえる。

d.まとめ
以上によれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。

(引用発明)
(a)再生装置によるマルチメディアコンテンツのデータをデコードし再生する方法であって、
(b)マルチメディアコンテンツのデータ及びマスク情報を再生装置で取得するステップと、
(c)再生装置が、再生装置に記憶されているマスキング条件及び判断情報に基づいて、マルチメディアコンテンツのデータにレイヤーデータであるマスク情報を重ね合わせて再生を制限するマスキング制限をすべきか判断し、判断結果に応じてマスキング制限済コンテンツを生成するステップと、
(d)マスキング条件及び判断情報は、マスク情報の重ね合わせの割合を100%から、50%、0%と低減させるものであって、再生装置が、生成されたマスキング制限済コンテンツを再生するステップと
(e)を有する方法。

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

a.本願補正発明の構成(A)と、引用発明の構成(a)の対比
引用発明の構成(a)の「再生装置によるマルチメディアコンテンツのデータをデコードし再生する方法」について、コンテンツの再生はコンテンツを表示するために行われることであり、その再生されるコンテンツは当然表示されるといえるから、「マルチメディアコンテンツを表示する方法」である点で、本願補正発明の構成(A)と相違しない。

b.本願補正発明の構成(B)と、引用発明の構成(b)の対比
引用発明の構成(b)の「マルチメディアコンテンツのデータ」は、本願補正発明の「マルチメディアコンテンツを表すデータ」である。
引用発明の「マスク情報」は、マルチメディアコンテンツのデータに「重ね合わせて再生を制限」する「レイヤーデータ」であり、本願補正発明の「外乱データ」がマルチメディアコンテンツに対するオーバーレイを画定するデータであることを考慮すれば、引用発明の「マスク情報」も、マルチメディアコンテンツのデータに対する「オーバーレイを画定する」ものといえ、「外乱データ」といえる。
ただし、引用発明の「マスク情報」は、「マルチメディアコンテンツに関連する」外乱データであるという特定がない点で、本願補正発明の「外乱データ」と相違する。
また、引用発明の「再生装置」は、構成(b)にあるように、マルチメディアコンテンツのデータを取得し、構成(a)にあるように、それをデコードして再生するものであるから、本願補正発明の「受信器/デコーダ」に対応する。
以上のことから、引用発明の構成(b)の「マルチメディアコンテンツのデータ及びマスク情報を再生装置で取得するステップ」は、本願補正発明の構成(B)とは「前記マルチメディアコンテンツを表すデータ及び外乱データを受信器/デコーダで受け取るステップ」である点で一致し、「外乱データ」が、本願補正発明では「前記マルチメディアコンテンツに関連する外乱データ」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点で相違する。

c.本願補正発明の構成(C)と、引用発明の構成(c)の対比
引用発明の「マスキング条件及び判断情報」は、「再生装置」に「記憶」されている。
ここで、上記b.において検討したように「再生装置」は「受信器/デコーダ」に相当するから、引用発明の「マスキング条件及び判断情報」は、「受信器/デコーダに局所的に記憶されている」ものといえる。
また、上記b.において検討したように「マスク情報」は「外乱データ」に相当するから、引用発明の「マスキング条件及び判断情報」は、外乱データをマルチメディアコンテンツのデータに重ね合わせて再生を制限するために用いられる情報であり、再生の妨害を画定する情報といえ、本願補正発明の「局所的妨害権」に相当するものといえる。
さらに、引用発明の構成(c)の「判断結果に応じてマスキング制限済コンテンツを生成する」ことは、「マスク情報」すなわち「外乱データ」と、「マスキング条件及び判断情報」すなわち「局所的妨害権」に従って、マルチメディアコンテンツのデータを「処理する」ことといえる。
以上のことから、引用発明の構成(c)の「再生装置が、再生装置に記憶されているマスキング条件及び判断情報に基づいて、マルチメディアコンテンツのデータにレイヤーデータであるマスク情報を重ね合わせて再生を制限するマスキング制限をすべきか判断し、判断結果に応じてマスキング制限済コンテンツを生成するステップ」は、本願補正発明の構成(C)とは「受信器/デコーダが、前記マルチメディアコンテンツを表すデータを、外乱データに従って且つ前記受信器/デコーダに局所的に記憶されている、局所的妨害権と呼ばれる妨害権に従って処理するステップ」というものである点で一致する。
ただし、「外乱データ」については、上記b.において検討した相違がある。

d.本願補正発明の構成(D)と、引用発明の構成(d)の対比
上記b.において検討したように、引用発明の「マスク情報」は、「オーバーレイを画定する外乱データ」に相当する。
また、上記c.において検討したように、引用発明の「マスキング条件及び判断情報」は、「局所的妨害権」に相当する。
そして、引用発明の「マスキング条件及び判断情報」、すなわち「局所的妨害権」は、マスク情報の重ね合わせの割合を100%から、50%、0%と低減させるものであるから、「外乱データによって画定されるオーバーレイの重ね合わせの割合を画定する」ものといえ、また、「外乱を低減する」ものであるといえる。
本願補正発明の局所的妨害権により画定されるオーバーレイの「一透明度レベル」も、オーバーレイの重ね合わせの割合の一形態ということができる。
以上のことから、引用発明の構成(d)の「マスキング条件及び判断情報は、マスク情報の重ね合わせの割合を100%から、50%、0%と低減させるものであって、再生装置が、生成されたマスキング制限済コンテンツを再生するステップ」は、本願補正発明の構成(D)とは「前記受信器/デコーダが、オーバーレイの重ね合わせの割合に従って、前記外乱データによって画定されるオーバーレイとともに前記マルチメディアコンテンツを表示するステップであって、局所的妨害権は外乱を低減する権利であり、前記オーバーレイの重ね合わせの割合は、局所的妨害権により画定されるステップ」というものである点で一致する。
ただし、局所的妨害権により画定されるオーバーレイの「重ね合わせの割合」が、本願補正発明では「一透明度レベル」であって、「完全に不透明なレベルから完全に透明なレベルまで高くなる複数の透明度レベルの中から」画定されるものであるのに対し、引用発明では、「一透明度レベル」という特定は無く、「100%、50%、0%から」画定されるものと特定されているのみである点で相違する。

e.本願補正発明の構成(E)と、引用発明の構成(e)の対比
引用発明の方法は、前記aないしdにおいて検討したように、マルチメディアコンテンツを外乱データに従って画定されるオーバーレイとともに表示する方法である点において本願補正発明と一致する。

(5)一致点・相違点
上記(4)のaないしeの対比結果をまとめると、本願補正発明と引用発明との[一致点]と[相違点]は以下のとおりである。

[一致点]
マルチメディアコンテンツを表示する方法であって、
前記マルチメディアコンテンツを表すデータ及び外乱データを受信器/デコーダで受け取るステップと、
前記受信器/デコーダが、前記マルチメディアコンテンツを表すデータを、外乱データに従って且つ前記受信器/デコーダに局所的に記憶されている、局所的妨害権と呼ばれる妨害権に従って処理するステップと、
前記受信器/デコーダが、オーバーレイの重ね合わせの割合に従って、前記外乱データによって画定されるオーバーレイとともに前記マルチメディアコンテンツを表示するステップであって、局所的妨害権は外乱を低減する権利であり、前記オーバーレイの重ね合わせの割合は、局所的妨害権により画定されるステップと
を有する方法。

[相違点1]
「外乱データ」が、本願補正発明では「前記マルチメディアコンテンツに関連する外乱データ」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。

[相違点2]
局所的妨害権により画定されるオーバーレイの「重ね合わせの割合」が、本願補正発明では「一透明度レベル」であって、「完全に不透明なレベルから完全に透明なレベルまで高くなる複数の透明度レベルの中から」画定されるものであるのに対し、引用発明では、「一透明度レベル」という特定は無く、「100%、50%、0%から」画定されるものと特定されているのみである点。

(6)相違点の判断
a.相違点1について
引用例1には、前記第2.2.(2)に摘示した段落【0062】ないし【0066】に、引用発明と認定した実施例1とは別の実施例5として、マスク情報を、宣伝広告情報付マスク情報、例えば、コンテンツそのものの宣伝広告情報を含む文字列をマスキング制限として表示するためのマスク情報とすることが記載されており、すなわち、マスク情報をコンテンツに関連する情報とすることが記載されている。
また、本願補正発明の「外乱データ」は、本願明細書の段落【0033】ないし【0040】を参照すると、灰色で塗りつぶされた長方形、パブリシティメッセージを含むバナー、著作権メッセージ、無関係な音響の付加、モノクロ画像への置換、コンテンツ画像の劣化など、様々の種類の外乱を想定した広い概念の外乱データである。
したがって、引用発明において、外乱データを、コンテンツの宣伝広告情報のようなマルチメディアコンテンツそのものに関連した情報とし、相違点1に係るような本願補正発明と同様の「前記マルチメディアコンテンツに関連する外乱データ」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

b.相違点2について
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物4である特開2004-48774号公報(以下「引用例2」という)には、「放送システムは、放送番組について視聴契約していない未契約者の受信装置のディスプレイに、その放送番組の再生画面を部分的に覆い隠すようにして隠蔽画像を表示する」(段落【0058】)ものであって、「時間とともに隠蔽画面の透明度を低くしていくことによって再生画面の隠蔽の程度を大きくする」(段落【0221】ないし【0225】)ことが記載されている。
すなわち、引用例2には、放送番組の再生画面に隠蔽画像を重ねるものであって、重ね合わせの程度を、透明度の変化とする技術が記載されている。
そして、この技術を引用発明に適用し、局所的妨害権により画定されるオーバーレイの「重ね合わせの割合」を、相違点2に係る「一透明度レベル」とすることは当業者が容易に想到し得ることであり、その際に、引用発明の「100%、50%、0%から」画定されるものを、相違点2に係る「完全に不透明なレベルから完全に透明なレベルまで高くなる複数の透明度レベルの中から」画定されるものとすることは、当業者が容易になし得る事項である。

(7)効果等について
本願補正発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願補正発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものではない。

(8)まとめ
以上のように、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について

1.本願発明
平成26年7月24日付けの手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成25年11月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載した事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、前記第2.1.の(補正前の請求項1)に記載した事項により特定されるとおりのものである。

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、及び、その記載事項は、前記第2.2.(2)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.2.で摘示した本願補正発明に追加された限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記第2.2.に記載したとおり、刊行物1及び刊行物4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1及び刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-26 
結審通知日 2015-06-30 
審決日 2015-07-13 
出願番号 特願2010-548154(P2010-548154)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松永 隆志  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 渡邊 聡
清水 正一
発明の名称 受信器/デコーダの局所的な権限に従って可変な外乱を有してマルチメディアコンテンツを表示する方法  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  

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