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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A63C
管理番号 1308122
審判番号 無効2012-800200  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-12-05 
確定日 2015-08-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第4048178号発明「スノーボード用ビンディング」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4048178号に係る出願は、平成13年6月14日に出願した特願2001-179623号(以下「原出願」という。)の一部を平成16年1月29日に新たな特許出願としたものであって、平成19年11月30日に設定登録がなされたものである。
そして、本件無効審判請求に係る手続の経緯は、以下のとおりである。
平成24年12月5日 無効審判請求書提出
平成24年12月21日 上申書提出(請求人)
平成25年2月25日 答弁書提出
平成25年3月4日 手続中止通知書送付
平成26年6月4日 上申書提出(請求人)
平成26年7月3日 上申書提出(請求人)
平成26年9月26日 上申書提出(請求人)
平成26年10月31日 手続中止解除通知書送付
平成26年12月5日 弁駁書提出(請求人)
平成27年2月20日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成27年2月20日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成27年2月23日 口頭審理陳述要領書提出(補充)(請求人)
平成27年3月6日 口頭審理
平成27年3月9日 上申書提出(請求人)

第2 本件特許発明
本件特許第4048178号に係る別件の無効事件である無効2012-800137号の審決の「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との結論は、平成26年6月10日に確定したから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、上記別件の無効事件において、平成24年11月30日に提出された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明3」、及び「本件特許発明4」という。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
ベースプレート1と、このベースプレート1の一側にその一端を取り付けた一方のバンド9aと、上記ベースプレート1の他側にその一端を取り付けた他方のバンド9bと、ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなるバンド15と、バックル16とより成り、上記バンド15の一端が上記一方及び他方のバンドの一方に固定され上記バンド15の他端が上記バックルを介して上記一方及び他方のバンドの他方に固定されており、上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできることを特徴とするスノーボード用ビンディング。
【請求項2】
上記バンド15にパッドが固定されていることを特徴とする請求項1記載のスノーボード用ビンディング。
【請求項3】
上記バンド15に連結部材が固定されていることを特徴とする請求項1記載のスノーボード用ビンディング。
【請求項4】
上記パッドが上記ブーツの爪先の上部分を締付ける部分19とブーツの爪先の先端を締付ける部分20を有することを特徴とする請求項2記載のスノーボード用ビンディング。」

第3 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第4048178号の特許請求の欄に記載された請求項1?4についての特許を無効にする。審判請求費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、無効理由の概要は以下のとおりであって、本件特許は無効とすべきである旨主張している。
本件特許発明は、特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明及び周知慣用技術に基づいて、または刊行物に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて容易に発明することができたものであるから、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである(以下、それぞれ「無効理由1」、及び「無効理由2」という。また、これらを総称して「無効理由」という。)。
そして、請求人の主な主張は、以下のとおりである。
1.無効理由1について
ア.スノーボードビンディング・ドレーク(DRAKE)のMATRIX(以下「MTX」という。)の公知性について
甲第2号証の写真5には、中央に「00」、矢印が「7」を指し示していることから、甲第2号証の「MTX」の製造日は、2000年7月である。
2001年2月4日ないし7日に開催された「ISPOトレードショウ」、及び同年3月9日ないし13日に開催された「SIAトレードショウ」において、「MTX」が掲載されたカタログ(甲第6号証)を来場者に交付した。
スポーツ用品の小売店である「VAL SURF」は、2001年2月27日に、ノースウェーブに対して、「MTX」を発注した(甲第10、11号証)。
本件特許に係る別件の無効事件(無効2012-800137号)の審決取消訴訟の判決において、「甲2報告書(審決注:本件の「甲第2号証」)のMTXと、甲3カタログ(審決注:本件の「甲第6号証」)に掲載されているMTXとが同一の構造を有していると認めることはできない」と認定しているが、甲第23号証に掲載された両者の写真をみれば、両者の間に形状、構造上の差異は認められない。
上記判決において、引用発明1は、「販売用のサンプル」であると認定され、それが公知性を否定した理由の一つとなったが、甲第23号証に掲載された「MTX」の01/02モデルの製品と上記甲2報告書に示された販売用のサンプルの「MTX」とをみれば、両者の間に形状、構造上の差異は認められない。
「MTX」等の価格等が記載された価格表(甲第52号証)には、注文期間が示され、その注文期間の始期は、2001年1月1日であるから、「MTX」は、この時点で公然知られていた。

イ.本件特許発明の進歩性について
引用発明1(甲第2号証の「MTX」)は、トゥーストラップを斜めにかけることによって、上部分と先端部分を同時に締め付けるように使用することが技術常識(甲第12?21号証)であったこと、「MTX」の第3のバンドが斜め方向に締め付けることが可能な構造で、かつブーツの爪先の上部分と先端部分とを同時に締め付けるに足りる十分な幅を有することに鑑みれば、本件特許発明1の「ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなるバンド15」との発明特定事項を備えている。
また、引用発明1は、甲第30?32号証に示された「本件実験1」、及び甲第33?41号証に示された「本件実験2」の結果から、本件特許発明1の「ブーツの爪先の上部分と先端部分を同時に締付けることができる」との発明特定事項を備えている。
また、本件特許発明と引用発明1とを対比すると、本件特許発明は、「バンド15の他端がバックルを介して一方及び他方のバンドの他方に固定されて」いるのに対して、引用発明1は、第3のバンドの右側の部位がバックルを介して第2のバンドに固定されているものであって、バックルが「端」に固定されていない点で相違するが、この相違点は、単なる設計事項に過ぎず、周知慣用技術であるから、当業者が容易に想到し得るものである。

2.無効理由2について
甲第12号証は、本件の原出願の出願前である平成13年6月14日より前の平成9年秋冬から平成10年春シーズンに頒布された刊行物である。
また、本件特許発明と引用発明2(甲第12号証に掲載されている「アルバローザ」)とを対比すると、本件特許発明は、「バンド15の他端がバックルを介して一方及び他方のバンドの他方に固定されて」いるのに対して、引用発明2は、第3のバンドの右側の部位がバックルを介して第2のバンドに固定されているものであって、バックルが「端」に固定されていない点で相違するが、この相違点は、単なる設計事項に過ぎず、周知慣用技術であるから、当業者が容易に想到し得るものである。

また、上記無効理由を立証するための証拠方法は、以下のとおりである。
(証拠方法)
甲第1号証:特許第4048178号公報(本件特許公報)
甲第2号証:DRAKE MATRIXの写真撮影報告書
甲第3号証:「SIA Snow Sports Book」の8頁、及び 62頁
甲第4号証:「THE SIA SNOW SPORTS SHOW Ma rch 9-13,2001」の展示図
甲第5号証:SIAトレードショー出展時の写真
甲第6号証:DRAKEカタログ
甲第7号証:ISPO日本事務局ウェブサイト(http://www.i spo.jp/)
甲第8号証の1:「スポーツの世界 ワールドスポーツトレードメッセに関 する訪問者情報」と題するFAX
甲第8号証の2:ISPOの出展者情報・展示物に関するFAX
甲第9号証:Val Surfのウェブサイト(http://www.v alsurf.com/history.html、http ://www.valsurf.com/Bindings/ )
甲第10号証:Val Surfがノースウェーブに対して行ったオーダー フォーム
甲第11号証:ジョン P.マルコスキー氏の陳述書(2012年10月1 0日)
甲第12号証:「月刊スノースタイル9月号 スノーボーディングスーパー カタログ97→98」
甲第13号証:スノーボードに関するインターネット上のフォーラム(掲示 板)
甲第14号証:米国特許第5172924号明細書
甲第15号証:「Free run 4」(2001年4月1日発行)の表 紙
甲第16号証:ジャスティン ヘベル氏の陳述書
甲第17号証:「MOMENT OF TRUTH」、及び「Repres ent」の動画視聴報告書
甲第18号証の1:「TRANSWORLD Snowboarding MARCH.01」の74頁
甲第18号証の2:「TRANSWORLD Snowboarding MARCH.01」の74頁の写真を拡大したもの
甲第19号証:「Snowboarder SEPTEMBER 2000 」
甲第20号証:「TRANSWORLD Snowboarding AP RIL.01」の69頁、122頁
甲第21号証:「TRANSWORLD Snowboarding NO VEMBER.2001」の47頁
(以上、審判請求書に添付して提出された。)
甲第22号証の1:ジョン P.マルコスキー氏の陳述書(2013年6月 10日)
甲第22号証の2:ジョン P.マルコスキー氏の陳述書(2013年6月 10日)の訳文
甲第23号証:写真撮影報告書(2)
甲第24号証の1:マルティーノ・ファガッリ氏の陳述書
甲第24号証の2:マルティーノ・ファガッリ氏の陳述書の訳文
甲第25号証:SBJ12th出展時の写真
甲第26号証:06/07 SNOWBOARDING USER CAT ALOG
甲第27号証の1:佐川送り状
甲第27号証の2:佐川送り状
甲第28号証の1:「TRANSWORLD Snowboarding BUSINESS Volume12,Number4 ・January2001」の表紙、42頁、64頁
甲第28号証の2:「TRANSWORLD Snowboarding BUSINESS Volume12,Number4 ・January2001」の表紙、42頁、64頁の 訳文
甲第29号証:田中秀明氏の陳述書
(以上、平成26年7月3日の上申書に添付して提出された。)
甲第30号証:実験の様子を撮影した「DVD」
甲第31号証:実験に使用した「輪ゴム付き付箋」を撮影した写真
甲第32号証:甲第30号証に格納されている動画のビデオ視聴報告書
甲第33号証:SNOVA溝の口-R246のホームページ(http:/ /www.snova246.com/)
甲第34号証:追加実験に使用した「耐水布に輪ゴムを取り付けたもの」を 撮影した写真撮影報告書
甲第35号証:追加実験報告書
甲第36号証:追加実験の「ブーツ装着状態」の様子を撮影した「DVD」
甲第37号証:実験の「耐水布装着状態」の様子を撮影した「DVD」
甲第38号証:実験の「登坂・滑走1」の様子を撮影した「DVD」
甲第39号証:実験の「登坂・滑走2」の様子を撮影した「DVD」
甲第40号証:実験の「参考実験1」の様子を撮影した「DVD」
甲第41号証:実験の「参考実験2」の様子を撮影した「DVD」
甲第42号証:広辞苑第六版の1287頁
甲第43号証:写真撮影報告書(3)
甲第44号証:平成24年(ワ)第12716号損害賠償請求事件の「原告 第1準備書面」
甲第45号証:「TRANSWORLD Snowboarding NO VEMBER.00」の160頁
甲第46号証:「TRANSWORLD Snowboarding MA RCH.01」
甲第47号証:平成24年(ワ)第12716号損害賠償請求事件の「原告 第9準備書面」
甲第48号証:平成24年(ワ)第12716号損害賠償請求事件において 提出された甲第21号証
甲第49号証の1:東京消防庁ウェブサイト(http://www.tf d.metro.tokyo.jp/camp/201 2/201206/camp1.html)
甲第49号証の2:rhinoウェブサイト(http://rhino. ocnk.net/product/346)
甲第49号証の3:個人ウェブサイト(http://www.trao. com/choroq/nendai/nendai. htl)
甲第49号証の4:3M^(TM)全面形面体6000シリーズ製品に関するお知 らせ
甲第50号証:写真撮影報告書(4)
(以上、弁駁書に添付して提出された。)
甲第14号証(全訳文):米国特許第5172924号明細書の訳文
甲第51号証:Burton社プレスリリース
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出された。)
甲第52号証:NORTH AMERICAN PRICE GUIDE 2001/2002
(以上、口頭審理陳述要領書(補充)に添付して提出された。)
なお、被請求人は、甲第1ないし52号証の成立を認めている。

第5 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張に対し、本件特許を無効とすべき理由はない旨の主張をしている。
そして、被請求人の主な主張は、以下のとおりである。
1.無効理由1について
ア.MTXの公知性について
甲第2号証の写真5の示されている刻印は、部品(ベースプレート)の製造時期を特定したものであって、製品の組み立て完成時期や発売時期を特定できるものではない。
甲第2?11号証から、引用発明1が公知であった事実は認められない。
甲第23号証は上記審決取消訴訟において提出された甲第3号証のカタログに記載されているものである。

イ.本件特許発明の進歩性について
引用発明1の第3のバンドの前縁部分と後縁部分とは、互いにバンドの前後方向に離間しているが、両者は連結杆によって連結されており、これらは一体成型されているため、1枚の板状となっている。したがって、第3のバンドを前端部分をブーツに当接して締付けると後端部分がブーツから上方に離れて浮いた状態となり、ブーツの上部分を締付けることはできないし、逆に後端部分をブーツに当接して締付けると前端部分がブーツから水平方向に離れて浮いた状態となり、ブーツの爪先の先端を締付けることはできないから、引用発明1の第3のバンドによって、ブーツの先端と上部分を同時に締付けることはできない。
請求人は、「トゥーストラップを斜めにかけることによって、上部分と先端部分を同時に締め付けるように使用することが技術常識」と主張するが、甲第13号証からは認められない。
本件実験1、及び2において、第3のバンドとブーツの間に挟み込まれた付箋や耐水布の先端位置がどのように配置されているか明確でないから、「ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けることができる」との請求人の主張は認めることはできない。

2.無効理由2について
甲第12号証からは、そこに掲載されているアルバローザの詳細な構成を理解することはできないから、引用発明2(アルバローザ)を確認できないし、また請求人が主張する「第3のバンド」は、第2のバンドとバックルの下部に配置された「パット」に過ぎない。

また、上記無効理由に反論するための証拠方法は、以下のとおりである。
(証拠方法)
[書証]
乙第1号証:本件特許第4048178号に係る別件の無効事件である無効 2012-800137号において提出された訂正請求書
乙第2号証:回答書
(以上、答弁書に添付して提出された。)
なお、請求人は、乙第1、2号証の成立を認めている。

第6 本件無効理由についての当審の判断
1.無効理由1について
(1)「MTX」の公知性について
ア.認定事実について
以下の証拠には、次の事実が認められる。
甲第2号証には、MTXの右側、左側、前方、後方、上方及び裏側(底側)等を撮影した写真1ないし9が示されており、写真4及び5(2頁)から、MTXのベースプレートの裏側(底側)に、時計の文字盤のように1から12の数字が配列され、その中心部分には、数字の「00」が刻まされており、数字の「00」を挟むように下向きの矢印が数字の「7」を指して刻まれている(以下「刻印」という。)。
そして、甲第2号証には、これらの数字及び矢印(以下「これらの数字等」という。)の意味や定義を示す記載や示唆はないが、甲第49号証の1ないし甲第49号証の4によると、矢印の両側の数字が製造年の西暦の下二桁を表し、時計の文字盤のように配列された1から12の数字が、それぞれ1月から12月を表し、矢印の先に示された数字が製造月を表していることは明らかであるから、甲第2号証の上記刻印が、2000年7月の製造年月を示している。
また、甲第3号証には、アメリカスノースポーツ産業協会(SIA)が、ウィンタースポーツ産業界唯一の、全米会員制非営利業界団体であること(8頁)、「Northwave North America Inc」(以下「ノースウェーブ」という。)の欄に「BRANDS:・・・DRAKE・・・」と記載されていること(62頁)から、ノースウェーブが、ブランドとして「DRAKE」を取り扱っており、また、甲第4号証には、「THE SIA SNOW SPORTS SHOW March 9-13,2001」と記載され、その図には、「Northwave」と記載されていることから、2001年3月9?13日に開催された「THE SIA SNOW SPORTS SHOW」にDRAKEを取り扱っているノースウェーブが出展していたと一応認められる。
また、甲第6号証の1枚目の下側には、「DRAKE」、「DEALER CATALOG」、「01^(*)02」と記載され、6枚目の下側には、「MATRIX FEATURES」と記載されていることから、甲第6号証は、「DRAKE」ブランドの2001年ないし2002年シーズンのカタログであって、「MTX」が示されている。しかしながら、甲第6号証には、具体的な発行日や頒布日を示す記載や示唆はない。
また、甲第7号証には、「ISPO日本事務局ではISPO関連展示会へのご出展ならびにご来場の方々をサポートをさせて頂いております。」(3頁)と記載され、甲第8号証の1には、「スポーツの世界 ワールドスポーツトレードメッセに関する訪問者情報 ispo2001冬季 2001年2月4?7日 新メッセミュンヘン」と記載され、甲第8号証の2には、「展示物 出展者「ノースウェーブ」 ブランド ドレイク ispo2001」と記載されているから、2001年2月4?7日に開催された「スポーツの世界 ワールドスポーツトレードメッセ ispo2001冬季」にDRAKEを取り扱っているノースウェーブが出展していたと一応認められる。
また、甲第9号証には、「1962年に・・・当時において本当に国内初のサーフィンとスケートボードの店を開いた・・・バルサーフは世界最古のサーフィン・スケート・スノーショップであること・・・」と記載され、甲第10号証には、「Sold To:VAL SURF」、及び「Order Date 02/27/01」(1枚目)、並びに「Model」の欄に「Matrix-Large」、「Matrix-Medium」(2枚目)と記載されているから、2001年2月27日にバルサーフという小売店からノースウェーブに対して、「Matrix-Large」、及び「Matrix-Medium」の発注を行ったと一応認められる。
また、甲第11号証には、「私は、2001年2月27日に弊社の代表ダグ・コーガーより、バルサーフからの発注表を受け取りました。」と記載されているから、2001年2月27日にバルサーフという小売店からノースウェーブに対して、「Matrix-Large」、及び「Matrix-Medium」の発注を行ったと一応認められる。
また、甲第28号証の1は、2001年1月頃までに発行された雑誌であって、MTXが写真付きで紹介されている(42頁)。
また、甲第52号証は、北米向けのDRAKEブランド等の2001年ないし2002年モデルの価格表が記載されたガイドであって、MTXの価格が示され(5枚目)、また2001年1月1日から3月15日までが注文期間であり、同年8月15日から12月15日に出荷され、3月16日以降の注文については、9月16日以降の出荷となることが示されている(2枚目)。

イ.公知性についての検討
甲第2号証のMTXには、2000年7月の製造年月の刻印が示されているが、当該MTXは、ベースプレートを含む複数の部材を組み立てたものであるから、上記刻印が、甲第2号証のベースプレートの製造年月を示したものなのか、甲第2号証自身、すなわち完成したMTX自身の製造年月を示したものなのかは明らかでない。
また、甲第22号証の1は、ジョン・P・マルコスキーの陳述書であって、「01/02製品」の販売用サンプルは2000年夏頃に製造された旨記載されており(甲第22号証の2(甲第22号証の1の訳文)1枚目第12?13行)、甲第24号証の1は、2000年7月頃、ノースウェーブでMTXの担当者であったマルティーノ・ファガッリが作成した陳述書であって、甲第2号証のMTXが、2000年7月頃に作成された販売サンプルであった旨記載されており(甲第24号証の2(甲第24号証の1の訳文)第2頁第5?8行、第3頁第10?12行)、審判請求人も、甲第2号証のMTXが、量産前の試作品であり(平成26年6月4日付け上申書第3頁第13?17行)、スノーボード製品の一般的サイクルとして、2001年ないし2002年シーズン向け製品(新製品)は、2000年夏頃に開発がなされるのが一般的である(平成26年7月3日付け上申書第2頁第12行?第4頁第8行)旨主張しているが、これらによって甲第2号証のMTXの製造日を裏付けることは困難である。
さらに、甲第6号証の6枚目の下側には、後側方から撮影された「MATRIX FEATURES」、つまり「MTX」の写真が掲載され、また、その写真の横に「MTX」の各部位を撮影した複数の写真とその写真のそれぞれの左横に、「Delta Baseplate」、「Disc Cover」、「Omega Toe and Heel Accelerators with PLX2 and PLX3」、「Omega Highback」、「TFC Ankle Strap」、「TFC Toe Trap」、「Omega Ratchets」、及び「Tool-Less,Forward-Lean Adjuster with PLX2 Dampening」と記載され、同4枚目には、「FEATURES」(特徴)と記載され、例えば、「STRAPS」(ストラップ)と記載された欄には、上記6枚目に記載されている「TFC Toe Trap」について、写真(6枚目の写真とは異なる。)と共に、プラスチックの枠が設けられたEVAのパッドが快適性と応答性を増加させ、小調整をするためのダブル-ラッチを配置している等が示されているが、「TFC Toe Trap」の写真や上記の事項を踏まえても、「TFC Toe Trap」の詳細な構造は明らかでない。
また、甲第第23号証は、写真撮影報告書(2)であって、甲第2号証のMTXを、それぞれ甲第6号証のカタログに掲載された写真と同じアングル、位置にて撮影して比較できるようにしたものであり、両者に大きな差異を認めることはできないが、細部まで確認することはできないから、甲第23号証から両者が同一の構造を有しているとまで認めることはできない。
したがって、甲第2号証の「MTX」と甲第6号証の「MTX」とが同一の構造を有していると認めることはできない。
また、新製品の展示会において、来場者に製品カタログが頒布されることは一般的な取り扱いであり、上記の「THE SIA SNOW SPORTS SHOW」や「スポーツの世界 ワールドスポーツトレードメッセ ispo2001冬季」といった展示会において、DRAKEの製品カタログも配布された可能性は高いものの、甲第6号証のカタログが上記の展示会において配布されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。甲第22号証の1は、ジョン・P・マルコスキーの陳述書であって、甲第6号証を上記展示会で配布した旨記載されている(甲第22号証の2(甲第22号証の1の訳文)1枚目第22?27行)が、甲第22号証の1は、2013年6月10日付けで作成されたものであって、上記展示会から約12年後に作成されたものであること、及び作成者であるジョン・P・マルコスキーの勤務先であるスノーボード関連製品会社が本件特許の有効性に関し、利害関係を有している可能性を否定できないことから、甲第22号証の1の当該記載は採用できない。
また、甲第10号証は、バルサーフの発注書であるが、MTXの型番が記載されているにすぎず、甲第11号証には、2001年2月27日にバルサーフからノースウェーブに対して、MTXの発注を行ったことが記載されているにすぎないから、バルサーフが発注したMTXが、どのような形状、構造を有していたかは明らかでなく、甲第2号証のMTXとバルサーフが発注したMTXとが同一の形状、構造を有しているとまではいえない。
また、甲第28号証の1には、MTXの写真が掲載されているが、後側方から撮影された比較的小さな写真1枚にすぎず、その具体的な形状、構造は、当該写真及び「MTXがリミテッドと似ている、また、MTXの特徴がベースプレートにある」旨の紹介記事の内容からは明らかでないから、甲第2号証のMTXと甲第28号証の1の写真のMTXとが同一の形状、構造を有しているとまではいえない。
また、甲第50号証は、写真撮影報告書(4)であって、MTXの01/02モデルの市販品と審判請求人が主張する製品と甲第2号証のMTXとを同じアングル、位置にて撮影して比較できるようにしたものであり、両者に大きな差異を認めることはできないが、細部まで確認することはできないこと、及びMTXの01/02モデルの市販品と審判請求人が主張する製品には、2001年5月の製造年月の刻印がなされており、2001年5月以降に製造されたものであることは明らかであるが、当該製品が市販品であるという的確な証拠はないことから、甲第50号証から両者が同一の構造を有しているとまで認めることはできない。
また、甲第52号証は、MTX等の価格が記載されているにすぎず、当該MTXが、どのような形状、構造を有していたかは明らかでなく、甲第2号証のMTXと甲第52号証のMTXとが同一の形状、構造を有しているとはいえない。

以上を踏まえれば、本件の原出願(平成13年6月14日)前において、MTXが掲載されたカタログが配布されていた事実、MTXの試作品が「THE SIA SNOW SPORTS SHOW」や「スポーツの世界 ワールドスポーツトレードメッセ ispo2001冬季」といった展示会において展示され、あるいは完成品が一般に市販されていた事実を推認することは可能である。
しかしながら、甲第2号証のMTXが、平成12年7月頃に試作されていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。また、上記展示会において展示されたり、甲第6号証に掲載されたMTXや一般に市販されたMTXが、具体的にどのような形状を有していたかについては、本件全証拠をもってしても不明である。さらに、上記各MTXと、甲第2号証のMTXとが同一の構成を有していることを認めるに足りる証拠もないから、甲第2号証のMTXが公然知られた状態に至った時期も、不明である。
したがって,本件展示会(平成13年2月4日ないし7日、同年3月9日ないし13日)時点において、公知となっていたMTXの具体的形状が不明である以上、その当時、甲第2号証のMTXが公然知られていたということはできない。

ウ.小括
よって、甲第2号証のMTXは、本件の原出願前に公然知られた状態であったものと認めることはできないから、本件特許発明についての特許は、無効理由1により無効とすることはできない。

(2)本件特許発明の進歩性について
上記(1)のとおり、甲第2号証のMTXは、本件の原出願前に公然知られた状態であったものと認めることはできないが、さらに本件特許発明の進歩性について検討する。
ア.甲第2号証発明について
甲第2号証に示されている写真1?9、審判請求書の第8?12頁に示されている写真及び甲第43号証に示されている写真によれば、以下の事実が認められる。
(ア)甲第2号証の写真1、及び審判請求書の第8頁の写真をみると、スノーボード用ビンディングであって、ベースプレートを備えている。
(イ)甲第2号証の写真2、3、及び審判請求書の第10頁の上側の写真をみると、ベースプレートの一側(正面から向かって右側)にその一端を取り付けた第1のバンド(甲第2号証の写真2に撮影された右側のバンド)を備えている。
(ウ)甲第2号証の写真1、2、及び審判請求書の第10頁の下側の写真をみると、ベースプレートの他側(正面から向かって左側)にその一端を取り付けた第2のバンド(甲第2号証の写真2に撮影された左側のバンド)を備えている。
(エ)甲第2号証の写真1?3、審判請求書の第12頁の左側の写真、及び甲第43号証の第2頁の写真をみると、第3のバンドの一端が、第1のバンドに固定され、第3のバンドの他端の近傍にバックルが設けられ、第3のバンドの他端側が、当該バックルを介して第2のバンドに固定されている。
(オ)甲第2号証の写真1?3、7?9、審判請求書第8?10頁の写真をみると、第3のバンド(青い部分)は、2本のバンド(一方のバンド、他方のバンド)からなり、その裏面(ブーツ側)には、パッドが固定されていると共に、一方のバンドと他方のバンドとは連結部材で連結されている。また、第3のバンド(青い部分)は、パッドを介して、ブーツの爪先の先端と爪先の上部分の間の丸みをおびた部分に掛けられており、一方のバンドは、ブーツの丸みをおびた部分の内の爪先の上部分側を通り、他方のバンドは、ブーツの丸みをおびた部分の内の爪先の先端側を通っている。
(カ)乙第2号証の別紙の2枚目の「第3のバンドの側面図」、「第3のバンドを上面から見た図」、2枚目の「第3のバンドを下面から見た図」をみると、パッドの上縁部分、及び下縁部分がブーツから密着せずに離れている。
上記(オ)及び(カ)から、第3のバンドは、ブーツの丸みをおびた部分の内の爪先の上部分側を通る一方のバンドと爪先の先端側を通る他方のバンドとから構成され、一方のバンドと他方のバンドとは連結部材で連結されると共に、その裏面(ブーツ側)には、パッドが固定されて、第3のバンド、連結部材、及びパッドにより、ブーツの爪先の先端と爪先の上部分の間の丸みをおびた部分を締付けていると認めることができる。しかしながら、一方のバンドがブーツの爪先の上部分を締付け、他方のバンドがブーツの爪先の先端を締付けていること、すなわち一方のバンドがブーツの爪先の上部分を締付ける部分となっており、他方のバンドがブーツの爪先の先端を締付ける部分となっており、第3のバンドがブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできるものであるとまで認定することはできない。

したがって、甲第2号証に示される「MTX」は、以下のとおりのものと認められる。
「ベースプレートと、このベースプレートの一側にその一端を取り付けた第1のバンドと、上記ベースプレートの他側にその一端を取り付けた第2のバンドと、ブーツの丸みをおびた部分の内の爪先の上部分側を通る一方のバンドと爪先の先端側を通る他方のバンドとよりなる第3のバンドであって、一方のバントと他方のバントとは連結部材で連結されると共に、その裏面には、パッドが固定されている第3のバンドと、バックルとより成り、上記第3のバンドの一端が上記第1のバンドに固定され上記第3のバンドの他端の近傍にバックルが設けられ、第3のバンドの他端側が上記バックルを介して上記第2のバンドに固定されているスノーボード用ビンディング。」(以下「甲第2号証発明」という。)
なお、請求人は、「MTX」の第3のバンドがブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできること証明するために、輪ゴム付き付箋を第3のバンドとブーツの爪先の上部分、及び爪先の先端部分の間にそれぞれ挟み込んで、その状態で輪ゴムを引っ張り、付箋がバンドから抜けてしまうか否かの実験(甲第30?32号証参照。以下「本件実験1」という。)、及び輪ゴム付き耐水布を第3のバンドとブーツの爪先の上部分、及び爪先の先端部分の間にそれぞれ挟み込んで、その状態で輪ゴムを引っ張り、ボード、及びブーツに固定した状態で、滑走者による登坂、滑走を行い、耐水布が第3のバンドに装着された状態が維持されるか否かの実験(甲第33?41号証参照。以下「本件実験2」という。)を行い、本件実験1においては、輪ゴムを15cm以上引っ張っても、いずれの付箋も第3のバンドから抜けることなく挟み込まれた状態であったこと、及び本件実験2においては、耐水布に取り付けられた輪ゴムを引っ張った状態で、登坂、滑走後も、いずれの耐水布も第3のバンドから抜けることなく挟み込まれた状態であったことから、第3のバンドがブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる旨主張している(弁駁書第2頁第18行?第9頁第2行)。しかしながら、付箋、及び耐水布が、第3のバンド、連結部材、及びパッドによりなるもののどこの位置で固定されているのかは明らかでない。したがって、本件実験1、及び2の結果、いずれの付箋も第3のバンドから抜けることがないことをもって、第3のバンドがブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を(同時に)締付けできるとまで認定することはできない。

イ.本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲第2号証発明とを対比すると、
後者における「ベースプレート」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「ベースプレート1」に相当し、以下同様に、「第1のバンド」は「一方のバンド9a」に、「第2のバンド」は「他方のバンド9b」に、「第3のバンド」は「バンド15」に、「バックル」は「バックル16」に、それぞれ相当する。
また、後者の「第3のバンドの他端の近傍にバックルが設けられ、第3のバンドの他端側がバックルを介して第2のバンドに固定されている」との事項と前者の「バンド15の他端がバックルを介して一方及び他方のバンドの他方に固定されており」との事項とは、「バンド15の他端側がバックルを介して一方及び他方のバンドの他方に固定されており」との概念で共通する。
したがって、両者は、
「ベースプレート1と、このベースプレート1の一側にその一端を取り付けた一方のバンド9aと、上記ベースプレート1の他側にその一端を取り付けた他方のバンド9bと、バンド15と、バックル16とより成り、上記バンド15の一端が上記一方及び他方のバンドの一方に固定され上記バンド15の他端側が上記バックルを介して上記一方及び他方のバンドの他方に固定されているスノーボード用ビンディング。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1-1]
バンド15の他端の固定に関して、本件特許発明1は、「バンド15の他端がバックルを介して一方及び他方のバンドの他方に固定されて」いるのに対し、甲第2号証発明は、「第3のバンドの他端の近傍にバックルが設けられ、第3のバンドの他端側がバックルを介して第2のバンドに固定されている」点。
[相違点1-2]
バンドに関して、本件特許発明1は、「ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりな」り、「上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」のに対し、甲第2号証発明は、「ブーツの丸みをおびた部分の内の爪先の上部分側を通る一方のバンドと爪先の先端側を通る他方のバンドとよりなる」が、第3のバンドが、ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなり、上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできるか否か明らかでない点。

(イ)判断
上記相違点について以下検討する。
[相違点1-1]について
甲第2号証発明のバックルは、第3のバンドの他端側と第2のバンドに固定するためのものであるから、当該バックルは、第3のバンドの他端付近の近傍に設けられていれば、第3のバンドと第2のバンドに固定することができるものであるから、当該バックルを設ける位置を、第3のバンドの他端に設けることは、当業者が所望により適宜なし得る設計的事項である。
また、本件特許発明1において、上記相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることによって、格別の作用効果を奏するものではない。
したがって、甲第2号証発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
なお、請求人は、バックルの位置を「端」にするという構成は、本件の原出願前に周知慣用技術であり、その周知慣用例として、甲第45号証(第3枚目の写真)、及び甲第46号証(第2枚目の写真)を挙げているが、これらいずれの証拠の写真とも比較的小さいもので、バックルの位置は明らかでなく、これらの証拠から、バックルの位置を「端」にするという構成は周知慣用技術であるとはいえない。

[相違点1-2]について
甲第13号証には、「1999年、または2000年頃、爪先のカップ型ストラップを使い始めた」、及び「1997年頃、ホッケー用のチンストラップをボルトで留めた者がいた」旨記載されており、2000年頃までに、トウストラップとしてカップ型ストラップやホッケー用のチンストラップを使用したものと認めることができるが、これらのストラップを使用した目的は明らかでなく、またブーツの爪先部分において、これらのストラップをどのように掛け渡して固定していたのかということも明らかでない。
また、甲第51号証には、「2004年の3シーズン前の冬(2001年のシーズンの冬)に、トーストラップを足部に掛け渡す代わりに爪先の先端に掛け渡した」旨記載されているが、当該トーストラップを爪先の先端に掛け渡した目的は明らかでなく、またそれが本件特許発明1のようにブーツの爪先部分の上部分を締付けるものとはいえない。
甲第14号証には、「本発明の広い目的は、スノーボード用のビンディングを提供することにある。本発明の一目的は、ハードシェル・ブーツとともに使用されるようにされて、シュレディング中に最大限の足首および足の保護、強力な脚力、ならびに良好なエッジ制御性およびエッジ感を提供するようなビンディングを提供することである。本発明の別の目的は、ステップイン設計で容易かつ簡便なブーツ脱着を可能にするビンディングを提供することである。本発明の別の目的は、高い可撓性を備えて、シュレダーがフリースタイルの滑走遊戯の操作を行うことを可能とするビンディングを提供することである。本発明のさらなる目的は、シュレダーが異なる滑走遊戯や地形に合わせてビンディングの可撓性を選択的に変更できるようなビンディングを提供することである。本発明のさらなる目的は、シュレダーがスノーボードに取り付けられた2つのビンディングを異なる滑走遊戯に合わせて調節できるようなビンディング・システムを提供することである。」(甲第14号証訳文 第4頁第26?37行)、「半剛性トウ要素はまた、シュレダーが所望すればブーツの後側部分を横方向に動かし軸方向に回転させることができるように設計される。」(甲第14号証訳文 第5頁第20?21行)、「ビンディング24は、可撓性ヒール要素50、半剛性トウ要素35、およびヒールプレート65を備えるヒール保持手段を備える。可撓性ヒール要素はスノーボード20上でブーツの後側部分を柔軟に保持するように設計されており、半剛性トウ要素35はスノーボード20上でブーツのトウ部分を保持するように設計されている。」(甲第14号証訳文 第7頁第12?15行)、「図2?3に示すように、半剛性トウ要素35は、上向きに延出する留め具36、留め具支持部材41、およびウイング部材44を備える。」(甲第14号証訳文 第7頁第42?43行)、「留め具支持部材41は、留め具36の上にはめられてそれに追加の支持を提供する逆U字型の構造体である。」(甲第14号証訳文 第8頁第12?13行)、「ウイング部材44は前側表面39の外表面に位置を合わせて取り付けられて追加の支持を提供する。ウイング部材44の形状は前側表面39に対して相補的であり、下縁部45が前側表面39の下縁部40と揃えて位置合わせされている。半剛性トウ要素35の組立中、ウイング部材44は、前側表面39の垂直外表面に、等間隔に離間された3個の適当なコネクタ49で取り付けられる。」(甲第14号証訳文 第8頁第25?29行)、及び「図4に示すように、半剛性トウ要素35は、その中にブーツ23が配置されると、前側表面39の下縁部40およびウイング部材44の下縁部45が典型的なハードシェル・ブーツ23の前側外表面に見られるトウリップ構造28と係合するように設計されている。下縁部40および45はトウリップ構造28を押しつけ、そうすることでブーツ23が持ち上げられて半剛性トウ要素35から外れないように補助している。」(甲第14号証訳文 第8頁第41行?第9頁第1行)と記載されているように、半剛性トウ要素35(トウストラップ)は、上向きに延出する留め具36、逆U字型の留め具支持部材41、およびウイング部材44を備えており、留め具支持部材41は、留め具36の上にはめられて取り付けられ、ウイング部材44は、(留め具36の)前側表面39の外表面に位置を合わせて取り付けられており、半剛性トウ要素35は、その中にブーツ23が配置されると、前側表面39の下縁部40およびウイング部材44の下縁部45がハードシェル・ブーツ23の前側外表面に形成されたトウリップ構造28と係合してトウリップ構造28を押しつけ、そうすることでブーツ23が持ち上げられて半剛性トウ要素35から外れないようにして、スノーボード20上でブーツのトウ部分を保持するものであって、トウストラップが、本件特許発明1のように一方のバンド9a、他方のバンド9b、及びバンド15によって構成されるものではなく、また、バンド15をバックル16を介してブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けるものではない。
甲第12号証は、「月刊スノースタイル 1997 SEPTEMBER スノーボーディングスーパーカタログ97→98」という刊行物であって、「ALBA-1」との名称のスノーボード用ビンディングの後方、及び前側方から撮影された写真が掲載されている(第61頁)が、トウストラップに関して、ベースプレートに取り付けられたバンド、バックル、バンドの幅よりも広い部材が看取できるのみで、その具体的な形状や構造は明らかでない。
甲第15号証は、「Free run 4」(2001年4月1日発行)という刊行物の表紙であって、スノーボーダーがスノーボードを使用して滑走した写真が掲載されているが、トウストラップの具体的な形状や構造は明らかでない。
甲第16号証は、ジャスティン・ヘベルの陳述書であって、「1999年には、ブーツの爪先前方端と爪先上部の両方を留めるという「メリーランドスタイル」のトウストラップを使い始めた」旨(2枚目第8?10行)記載しているが、トウストラップの具体的な形状や構造は明らかでないし、当該記載の事実から約11年後に作成されたものであるから、甲第16号証の当該記載は採用できない。
甲第18号証の1、ないし甲第21号証は、それぞれ「TRANSWORLD Snowboarding MARCH.01」(2001年4月発行)、「Snowboarder SEPTEMBER 2000」(2000年10月発行)、「TRANSWORLD Snowboarding APRIL.01」(2001年4月発行)、「TRANSWORLD Snowboarding NOVEMBER.2001」(2001年11月発行)という刊行物であって、スノーボーダーがスノーボードを使用して滑走した写真が掲載されているが、トウストラップの具体的な形状や構造は明らかでない。
以上を踏まえると、トウストラップによって、ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けるように使用することが、本件の原出願前において技術常識であったとはいえない。
してみると、甲第2号証のMTXの第3のバンドが、ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなるものとはいえない。
そして、甲第2号証のMTXの第3のバンドを、ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とより成り、上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできるものとすること、すなわち相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、上記技術常識に照らして、本件の原出願前に当業者が容易に想到し得る程度ものではない。
そして、甲第2号証発明において、他に上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えるものとなすことを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。

(ウ)小括
よって、甲第2号証発明において、上記相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えるものとすることは当業者にとって容易に想到し得るものであるが、上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えるものとすることは当業者にとって容易に想到し得るものではないから、本件特許発明1についての特許は、無効理由1により無効とすることはできない。

ウ.本件特許発明2?4と甲第2号証発明との対比・判断
本件特許発明2?4は、何れも本件特許発明1を引用して本件特許発明1を更に限定したものであるから、本件特許発明2?4は、上記イ.と同様の理由により、甲第2号証発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)小括
よって、本件特許発明についての特許は、無効理由1により無効とすることはできない。

2.無効理由2について
(1)甲第12号証発明について
甲第12号証は、本件の原出願の出願前である平成9年9月1日発行の「月刊スノースタイル 1997 SEPTEMBER スノーボーディングスーパーカタログ97→98」という刊行物であって、「ALBA-1」との名称のスノーボード用ビンディングの後方、及び前側方から撮影された写真が掲載されている(第61頁)。
上記の写真から、以下の事項が看取できる。
・ベースプレートと、このベースプレートの外側にその一端を取り付けた第1のバントと、第1のバントの下側に第1のバンドの幅よりも広い部材と、バックルとを備えている。
なお、上記写真からは、ベースプレートの内側にその一端を取り付けた第2のバントが備えられているのか明らかでないし、また、第1のバンドの幅よりも広い部材がバンドであるのか、パッドであるのか明らかでないし、当該部材がブーツのどの部位にどのようにして配置されるのか明らかでない。

上記の看取事項から、甲第12号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「ベースプレートと、このベースプレートの一側にその一端を取り付けた第1のバンドと、第1のバントの下側に第1のバンドの幅よりも広い部材と、バックルとより成るスノーボード用ビンディング。」(以下「甲第12号証発明」という。)

(2)本件特許発明の進歩性について
ア.本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲第12号証発明とを対比すると、
後者における「ベースプレート」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「ベースプレート1」に相当し、以下同様に、「第1のバンド」は「一方のバンド9a」に、「バックル」は「バックル16」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は、
「ベースプレート1と、このベースプレート1の一側にその一端を取り付けた一方のバンド9aと、バックル16とより成るスノーボード用ビンディング。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点2-1]
本件特許発明1は、「ベースプレート1の他側にその一端を取り付けた他方のバンド9b」とから成るのに対し、甲第12号証発明は、その点につき、明らかでない点。
[相違点2-2]
本件特許発明1は、「ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなるバンド15とから成り」、及び「上記ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けできる」のに対し、甲第12号証発明は、その点につき、明らかでない点。
[相違点2-3]
本件特許発明1は、「バンド15の一端が一方及び他方のバンドの一方に固定され上記バンド15の他端がバックルを介して上記一方及び他方のバンドの他方に固定されて」いるのに対し、甲第12号証発明は、その点につき、明らかでない点。

(イ)判断
上記相違点について以下検討する。
[相違点2-2]について
上記(1)のとおり、甲第12号証発明において、第1のバントの下側に第1のバンドの幅よりも広い部材が、いかなるのものか(バンドであるのか、パッドであるのか)明らかでなく、またその使用目的や使用態様も明らかでない。
また、上記1.(2)イ.(イ)「[相違点1-2]について」のとおり、トウストラップによって、ブーツの爪先部分の上部分及び先端部分を同時に締付けるように使用することが、本件の原出願前において技術常識であったとはいえない。
してみると、仮に、甲第12号証発明の第1のバンドの幅よりも広い部材が、バンドであるとしても、ブーツの爪先の上部分を締付ける部分とブーツの爪先の先端を締付ける部分とよりなるものとすることが当業者にとって容易になし得たこととはいえない。
したがって、甲第12号証発明において、上記相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、上記技術常識に照らして、本件の原出願前に当業者が容易に想到し得る程度ものではない。
そして、甲第12号証発明において、他に上記相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えるものとなすことを、当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。

(ウ)小括
よって、甲第12号証発明において、上記相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えるものとすることが、当業者にとって容易に想到し得るものではないから、上記相違点2-1、及び2-3を検討するまでもなく、本件特許発明1についての特許は、無効理由2により無効とすることはできない。

イ.本件特許発明2?4と甲第12号証発明との対比・判断
本件特許発明2?4は、何れも本件特許発明1を引用して本件特許発明1を更に限定したものであるから、本件特許発明2?4は、上記ア.と同様の理由により、甲第12号証発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)小括
よって、本件特許発明についての特許は、無効理由2により無効とすることはできない。

3.まとめ
よって、本件特許発明は、本件の原出願の出願前に日本国内又は外国において、公然知られた発明等に基づいて、または頒布された刊行物に記載された発明等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明についての特許は、無効理由により無効とすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-25 
結審通知日 2015-06-29 
審決日 2015-07-13 
出願番号 特願2004-21212(P2004-21212)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A63C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大澤 元成鉄 豊郎  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
吉野 公夫
登録日 2007-11-30 
登録番号 特許第4048178号(P4048178)
発明の名称 スノーボード用ビンディング  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 澤木 紀一  
代理人 和田 祐造  
代理人 澤木 誠一  
復代理人 関 裕治朗  
代理人 伊藤 雅浩  

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