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審決分類 |
審判 判定 同一 属する(申立て成立) E04C |
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管理番号 | 1308358 |
判定請求番号 | 判定2015-600026 |
総通号数 | 193 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2016-01-29 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2015-08-10 |
確定日 | 2015-11-27 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4082709号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号図面及びイ号写真に示す「スペーサ」は、特許第4082709号の請求項1、2、3、6及び8に係る発明の技術的範囲に属する。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、イ号図面及びイ号写真に示す「スペーサ」(以下「イ号物件」という。)は、特許第4082709号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1、2、3、6、8に係る発明(以下「本件特許発明1」などといい、総称して「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。 第2 本件特許発明 特許第4082709号の特許請求の範囲の請求項1、2、3、6、8に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1、2、3、6、8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(当審において、構成要件ごとに分説し、記号AないしJを付した。以下「構成要件A」などという。)。 「【請求項1】 A 1つの鉄筋に回転可能に装着され前記鉄筋と型枠との間隔を保持する鉄筋用スペーサであって、 B 略U字状に形成され前記鉄筋に装着される鉄筋嵌合部と、 C 前記鉄筋嵌合部の外周に放射状に突設され先端を前記型枠の表面に当接させる複数の位置決め突起部と、を備え、 D 前記複数の位置決め突起部が、前記複数の位置決め突起部の中の任意の隣接する2本の前記位置決め突起部を前記型枠に当接させたときの前記鉄筋のかぶり厚が常に等しくなるように形成されていることを特徴とする E 鉄筋用スペーサ。 【請求項2】 F 前記鉄筋嵌合部に装着される前記鉄筋の中心から各々の前記位置決め突起部の先端までの距離が等しいことを特徴とする請求項1に記載の鉄筋用スペーサ。 【請求項3】 G 前記鉄筋嵌合部の外周に形成された嵌合補強部を有し、前記位置決め突起部が前記嵌合補強部の外周に等角度間隔で立設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄筋用スペーサ。 【請求項6】 H 前記位置決め突起部の先端が略円弧状若しくは略球面状や略円錐状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5の内いずれか1項に記載の鉄筋用スペーサ。 【請求項8】 I 前記位置決め突起部が、先端側の幅が細く根元側の幅が広い扁平状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至7の内いずれか1項に記載の鉄筋用スペーサ。」 第3 イ号物件 1 請求人の主張 請求人は、判定請求書において、イ号物件を本件特許発明1、2、3及び6に即して、以下のとおり特定している。 「a:1つの鉄筋に装着され鉄筋と型枠との間隔を保持する鉄筋用スペーサであって、 b:鉄筋に装着される鉄筋嵌合部(100)と、 c:鉄筋嵌合部(100)の外周に放射状に突設され先端を型枠の表面に当接させる6本の位置決め突起部(200)と、 d:鉄筋嵌合部(100)を取り囲むようにして鉄筋嵌合部(100)と位置決め突起部(200)との間に設けられる略C字形状の部材(150)と、を備え、 e:6本の位置決め突起部(200)が、6本の位置決め突起部(200)の中の任意の隣接する2本の位置決め突起部(200)を型枠に当接させたときの鉄筋のかぶり厚が常に等しくなるように形成されている鉄筋用スペーサ。」、 「e:鉄筋嵌合部(100)に装着される鉄筋の中心から各々の位置決め突起部(200)の先端までの距離が等しい、 f:請求項1に記載の鉄筋用スペーサ。」、 「d:鉄筋嵌合部(100)を取り囲むようにして鉄筋嵌合部(100)と位置決め突起部(200)との間に形成されるC字形伏の部材(150)を有し、 g:位置決め突起部(200)が部材(150)の外周に等角度間隔で立設されている f1:請求項1又は2に記載の鉄筋用スペーサ」及び 「h:位置決め突起部(200)の先端が略円弧状に形成されている f2:請求項1?3のいずれか1項に記載の鉄筋用スペーサ」 2 被請求人の主張 被請求人は、判定請求答弁書において、イ号物件を以下のとおり特定し、 (1)鉄筋受止部(100’)における鉄筋の外周面の一部を受止する円弧状に湾曲した受止面は、この受止面を通る仮想円の径が受止面で受止される最大径の鉄筋の径と同等であってその中心を略C字形状の部材(150)の外周から放射状に突設されている6本の位置決め突起部(200)の先端を通る仮想円(104)(6本の位置決め突起部(200)の突端が内接する仮想円)の中心に対して下方に偏心させた位置に設けられてあり、前記6本の位置決め突起部(200)の中の任意の隣接する2本の位置決め突起部(200)を前記型枠に当接させたときの鉄筋のかぶり厚が常に異なるように形成しているものであって、本件特許発明1とはその技術構成を明らかに相違している旨、 (2)鉄筋受止部(100’)の受止面(100a)は、鉄筋を嵌合させることなく受止させるものである旨、 (3)本件特許発明1において、「鉄筋嵌合部の外周に位置決め突起部が突設されている」構造とは、本件特許発明1の作用効果を考慮すれば、鉄筋嵌合部の外周に直接、位置決め突起部が突設されている構造か、鉄筋嵌合部の外周にコンクリートの充填性を阻害しない形状の部材を介して位置決め突起部が突設されている構造かの何れかの構造を意図していると解釈すべきものであるところ、イ号物件の略C字形状の部材(150)は、コンクリートの流れが阻害され易いものであるから、本件特許発明でいう嵌合補強部に該当するものではない旨、 を主張している。 「a:1つの鉄筋に装着され前記鉄筋と型枠との間隔を保持する鉄筋用スペーサであって、 b:鉄筋の外周面の一部を受止する円弧状に湾曲した受止面を備え、この円弧状に湾曲した受止面を通る仮想円の径をこの受止面で受止される最大径の鉄筋の径と同等であって且つその中心を後述する6本の位置決め突起部の先端を通る仮想円(104)の中心に対して下方に偏心させた位置に設けている鉄筋受止部(100’)と、 d:前記鉄筋受止部(100’)の外周に外方に向かって突設された骨組み部(150-1)、前記骨組み部の先端同士を連結している外輪部(150-2)及びリブ(150-3)を含む略C字形状の部材(150)と、 c:前記略C宇形状の部材(150)の外周に放射状に突設され先端を前記型枠の表面に当接させる複数の位置決め突起部(200)と、を備え、 e:6本の位置決め突起部(200)が、6本の位置決め突起部(200)の中の任意の隣接する2本の位置決め突起部(200)を型枠に当接させたときの鉄筋のかぶり厚は常に異なるように形成されている鉄筋用スペーサ。」 3 イ号物件の特定 (1)提出書面及び証拠の記載 ア 甲第3号証(被請求人の商品カタログ)及び甲第4号証(被請求人のホームページに掲載された広告の写し)には、イ号物件の特長又は特徴として、以下の記載がある。 (ア)「鉄筋をキャッチするトリプルの爪が、鉄筋D10?16の3サイズの兼用を可能にしました。」、 (イ)「コンクリート充填効率を高める最大限シンプルな形状で、安定した最適なかぶりを保持します。」 (ウ)「コンクリート材料に含まれる、粗骨材が通りやすくなり、鉄筋への横使用が可能になりました。」 また、甲第3号証及び甲第4号証に記載された表から、イ号物件のサイズとして、「D10-16×40」、「D10-16×50」、「D10-16×60」及び「D10-16×70」の5種類があり、それぞれの「かぶり厚さ」が、40mm、50mm、60mm及び70mmであることが把握できる。 イ 甲第6号証(イ号の図面)には、「D10-16兼用」と記載されている。 ウ 上記ア及びイによれば、イ号物件は、鉄筋D10?16の3サイズに兼用され、40mm、50mm、60mm又は70mmの安定したかぶりを保持するものであると認められる。 エ 上記ア(ア)の記載を踏まえて、甲第5号証(イ号の試験成績表)の試験方法を示す図をみると、円弧状に湾曲した受止面と鉄筋をキャッチする爪により、鉄筋が支持されることがみてとれる。そして、当該鉄筋の支持構造からみて、鉄筋は回転可能に装着されるものと認められる。 オ 判定請求答弁書における被請求人の主張によると、イ号物件は、鉄筋受止部(100’)の円弧状に湾曲した受止面(100a)を通る仮想円の径をこの受止面(100a)で受止される最大径の鉄筋の径と同等とし、かつその中心を6本の位置決め突起部(200)の先端を通る仮想円(104)の中心に対して下方に偏心させた位置に設けたものである。 上記主張を踏まえると、鉄筋受止部(100’)に最大径の鉄筋を受止させた場合、鉄筋の中心は位置決め突起部の先端を通る仮想円(104)の中心に対して下方に偏心するものと認められる。 (2)イ号物件 上記(1)における認定事項を含め、判定請求書、判定請求書に添付された甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第6号証及び甲第7号証(イ号の写真)、並びに判定事件答弁書及び判定事件答弁書に添付された乙第1号証(イ号の図面)の記載を参酌すると、イ号物件は、次のaないしiの構成からなるものとするのが相当である(以下、分説した構成を「構成a」などという。)。なお、符号は判定事件答弁書に添付されたイ号の図面のものを採用した。 「a 1つの鉄筋に回転可能に装着され前記鉄筋と型枠との間隔を保持する鉄筋用スペーサであって、 b 鉄筋の外周面の一部を受止する円弧状に湾曲した受止面(100a)を備え、この円弧状に湾曲した受止面(100a)を通る仮想円の径をこの受止面(100a)で受止される最大径の鉄筋の径と同等であってかつその中心を後述する6本の位置決め突起部の先端を通る仮想円(104)の中心に対して下方に偏心させた位置に設けている鉄筋受止部(100’)と、 g1 前記鉄筋受止部(100’)の外周外方に向かって突設された骨組み部(150-1)、前記骨組み部の先端同士を連結している外輪部(150-2)及びリブ(150-3)を含む略C字形状の部材(150)と、 c 前記略C字形状の部材(150)の外周に放射状に突設され先端を前記型枠の表面に当接させる6本の位置決め突起部(200)と、を備え、 d 鉄筋D10?16の3サイズに兼用され、鉄筋受止部(100’)に最大径の鉄筋D16を受止させた場合、鉄筋の中心は位置決め突起部の先端を通る仮想円(104)の中心に対して下方に偏心し、6本の位置決め突起部(200)が、6本の位置決め突起部(200)の中の任意の隣接する2本の位置決め突起部(200)を型枠に当接させたとき、40mm、50mm、60mm又は70mmの安定したかぶりを保持するように形成されており、 g2 前記位置決め突起部(200)が前記略C字形状の部材(150)の外周に等角度間隔で立設され、 h 前記位置決め突起部(200)の先端が略円弧状に形成され、 i 前記位置決め突起部(200)が、先端側の幅が細く根元側の幅が広い扁平状に形成されている e 鉄筋用スペーサ。」 第4 属否の検討 1 構成要件A及びEについて イ号物件の構成a及びeは、本件特許発明の構成要件A及びEにそれぞれ相当することは明らかであるから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A及びEを充足する。 2 構成要件Bについて (1)まず、イ号物件の構成bにおける「鉄筋受止部(100’)」と本件特許発明の構成要件Bにおける「鉄筋嵌合部」について検討する。 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「嵌合」の用語の意味について特段の定義はなされていないところ、広辞苑(第六版)には、「嵌合(はめあい)」の意味について、「軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語。かんごう。」と記載されていることに照らせば、イ号物件の構成bにおける「鉄筋の外周面の一部を受止する」「円弧状に湾曲した受止面(100a)を通る仮想円の径をこの受止面(100a)で受止される最大径の鉄筋の径と同等」とした「鉄筋受止部(100’)」は、鉄筋と滑り動くようにゆるくはまり合っているといえるから、本件特許発明の構成要件Bにおける「前記鉄筋に装着される鉄筋嵌合部」に相当する。 (2)次にイ号物件の構成bにおける「受止面(100a)」の形状と本件特許発明の構成要件Bにおける「鉄筋嵌合部」の形状について検討すると、イ号物件の構成bにおける「受止面(100a)」の形状は「円弧状」であるのに対し、本件特許発明の構成要件Bにおける「鉄筋嵌合部」の形状は「略U字状」であり、円弧状の部分を有する点で類似するものの、両者の形状は一応異なるとも考えられる。 しかし、両者はともに、円弧状の部分によって、鉄筋を嵌合させるという技術的意義を有するものであって、「円弧状」も「略U字状」ともいえるから、形状は実質的に異ならない。 (3)してみると、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Bを充足する。 3 構成要件Cについて (1)イ号物件の構成cにおける「放射状に突設され先端を前記型枠の表面に当接させる6本の位置決め突起部(200)」は、本件特許発明の構成要件Cにおける「放射状に突設され先端を前記型枠の表面に当接させる複数の位置決め突起部」に相当する。 (2)次に、位置決め突起部の突設位置に関し、イ号物件の構成cにおける「前記略C字形状の部材(150)の外周」に「突設され」るが、本件特許発明の構成要件Cにおける「前記鉄筋嵌合部の外周」に「突設され」るに相当するといえるか否かについて検討する。 本件特許発明3は、「前記鉄筋嵌合部の外周に形成された嵌合補強部を有し、前記位置決め突起部が前記嵌合補強部の外周に等角度間隔で立設されている」ことを特定していること、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例は、いずれも鉄筋嵌合部の外周に嵌合補強部が形成され、嵌合補強部の外周に位置決め突起部が立設されたものであること、及び広辞苑(第六版)には、「外周」の意味について、「ものの外側をとり巻いている部分・区域」と記載されていることに照らせば、本件特許発明1の構成要件Cにおける「前記鉄筋嵌合部の外周」に「突設され」ることは、鉄筋嵌合部の外側に直接突設されることに加え、鉄筋嵌合部との間に他の部材を介して、鉄筋嵌合部の外側をとり巻くように突設されることをも含むものと解される。 そして、イ号物件の構成g1及び構成cによると、「突起部(200)」は、「前記鉄筋受止部(100’)の外周外方に向かって突設された骨組み部(150-1)、前記骨組み部の先端同士を連結している外輪部(150-2)及びリブ(150-3)を含む略C字形状の部材(150)」の「外周に」「突設され」るから、イ号物件の「突起部(200)」は、(「略C字形状の部材(150)」を介して)「鉄筋受止部(100’)の外周」に「突設され」るといえる。すなわち、イ号物件の構成cにおける「前記略C字形状の部材(150)の外周」に「突設され」るは、本件特許発明の構成要件Cにおける「前記鉄筋嵌合部の外周」に「突設され」るに相当する。 (3)したがって、イ号物件の構成cは、本件特許発明の構成要件Cを充足する。 4 構成要件Dについて (1)イ号物件の構成dにおける「6本の位置決め突起部(200)が、6本の位置決め突起部(200)の中の任意の隣接する2本の位置決め突起部(200)を型枠に当接させたとき」は、本件特許発明の構成要件Dにおける「放射状に突設され先端を前記型枠の表面に当接させる複数の位置決め突起部を前記型枠に当接させたとき」に相当する。 (2)次に、イ号物件の構成dにおける「鉄筋D10?16の3サイズに兼用され、鉄筋受止部(100’)に最大径の鉄筋D16を受止させた場合、鉄筋の中心は位置決め突起部の先端を通る仮想円(104)の中心に対して下方に偏心し」、「40mm、50mm、60mm又は70mmの安定したかぶりを保持するように形成されて」いるが、本件特許発明の構成要件Dにおける「前記鉄筋のかぶり厚が常に等しくなるように形成されている」を充足するか否かについて検討する。 イ号物件は、「鉄筋D10?16の3サイズ」、すなわちD10(直径10mm)、D13(直径13mm)及びD16(直径16mm)の鉄筋のそれぞれに対し、「安定したかぶりを保持するように形成されて」いることに照らせば、イ号物件は、中間サイズのD13の鉄筋を「受止面(100a)」に受止させた際に、鉄筋の中心と「仮想円(104)」の中心が一致するよう形成されていること、すなわち、中間サイズのD13の鉄筋に対して用いた場合は、6本の位置決め突起部(200)の中の任意の隣接する2本の位置決め突起部(200)を型枠に当接させたときのかぶり厚が常に等しくなるように形成されていることは、当業者にとって自明である。 また、上記検討を踏まえると、イ号物件は、D10又はD16の鉄筋に用いた場合、鉄筋の中心は「仮想円(104)」の中心に対して上方又は下方に1.5mm偏心することになるから、イ号物件は、6本の位置決め突起部(200)の中の任意の隣接する2本の位置決め突起部(200)を型枠に当接させたときに、かぶり厚さに最大1.5mmの差が生じることになるが、このかぶり厚さの差は、40mmないし70mmの鉄筋のかぶり厚さに対し十分に小さなものといえる。 してみると、イ号物件は、D10又はD16の鉄筋に対して用いた場合にも、6本の位置決め突起部(200)の中の任意の隣接する2本の位置決め突起部(200)を型枠に当接させたときのかぶり厚は、実質的に常に等しくなるように形成されているといえる。 (3)よって、イ号物件の構成dにおける「鉄筋D10?16の3サイズに兼用され、鉄筋受止部(100’)に最大径の鉄筋D16を受止させた場合、鉄筋の中心は位置決め突起部の先端を通る仮想円(104)の中心に対して下方に偏心し」、「40mm、50mm、60mm又は70mmの安定したかぶりを保持するように形成されて」いるは、実質的に、本件特許発明の構成要件Dにおける「前記鉄筋のかぶり厚が常に等しくなるように形成されている」に相当する。 (4)したがって、イ号物件の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足する。 (5)なお、被請求人は、判定請求答弁書において、イ号物件は、6本の位置決め突起部(200)の中の任意の隣接する2本の位置決め突起部(200)を前記型枠に当接させたときの鉄筋のかぶり厚が常に異なるように形成しているものであって、本件特許発明1とはその技術構成を明らかに相違している旨主張するが、上記検討のとおりであって、被請求人の主張は採用できない。 5 構成要件Fについて (1)本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明における構成要件Fの技術的意義に関し、以下の記載がある。 「【0014】本発明の請求項2に記載の鉄筋用スペーサは、請求項1に 記載の鉄筋用スペーサであって、前記鉄筋嵌合部に装着される前記鉄筋の 中心から各々の前記位置決め突起部の先端までの距離が等しい構成を有し ている。 この構成により、請求項1の作用に加え、以下のような作用を有する。 (1)複数の位置決め突起部を同一平面内に円周上に配置した場合、鉄筋 用スペーサを鉄筋の周りに回転させて容易に任意の位置決め突起部を選択 することができ、施工性に優れる。 (2)鉄筋を支点として2本の位置決め突起部が型枠と接し、支持三角形 を形成することができるので、固定安定性に優れる。」 (2)上記4において検討したとおり、イ号物件は、中間サイズのD13の鉄筋を用いた場合、鉄筋の中心と「仮想円(104)」の中心が一致するものと認められ、D10又はD16の鉄筋に用いた場合、鉄筋の中心は「仮想円(104)」の中心に対して上方又は下方に1.5mm偏心することになる。 しかし、「仮想円(104)」の中心に対する鉄筋の中心の偏心量は、イ号物件の鉄筋用スペーサ全体の寸法と比較すると十分に小さなものであって、上記(ア)において摘記した本件特許発明2における構成要件Fの作用を奏するに支障が生ずるものではない。 (3)してみると、イ号物件の構成dにおける「鉄筋D10?16の3サイズに兼用され、鉄筋受止部(100’)に鉄筋D16を受止させた場合、鉄筋の中心は位置決め突起部の先端を通る仮想円(104)の中心に対して下方に偏心し」、「40mm、50mm、60mm又は70mmの安定したかぶりを保持するように形成されて」いるは、実質的に、本件特許発明の構成要件Fにおける「前記鉄筋嵌合部に装着される前記鉄筋の中心から各々の前記位置決め突起部の先端までの距離が等しい」に相当する。 (4)よって、イ号物件の構成dは、本件特許発明の構成要件Fを充足する。 6 構成要件Gについて (1)イ号物件の構成g1における「前記鉄筋受止部(100’)の外周外方に向かって突設された骨組み部(150-1)、前記骨組み部の先端同士を連結している外輪部(150-2)及びリブ(150-3)を含む略C字形状の部材(150)」は、その構成からみて、「鉄筋受止部(100’)」の外周に形成され、「鉄筋受止部(100’)」を補強するものであることは明らかである。 (2)よって、イ号物件の構成g1及び構成g2における「前記鉄筋受止部(100’)の外周外方に向かって突設された骨組み部(150-1)、前記骨組み部の先端同士を連結している外輪部(150-2)及びリブ(150-3)を含む略C字形状の部材(150)」の「外周に」「前記位置決め突起部(200)が」「等角度間隔で立設され」るは、本件特許発明の構成要件Gにおける「前記鉄筋嵌合部の外周に形成された嵌合補強部を有し、前記位置決め突起部が前記嵌合補強部の外周に等角度間隔で立設されている」に相当する。 (3)したがって、イ号物件の構成g1及び構成g2は、本件特許発明の構成要件Gを充足する。 (4)なお、被請求人は、判定請求答弁書において、本件特許発明は、嵌合補強部がコンクリートの充填性を阻害しない形状であることが前提であり、そのような形状であることを前提として、嵌合補強部を鉄筋嵌合部の外周に設け、嵌合補強部の外周に位置決め突起部を設けてよいことを意図していると解釈すべきである旨主張する。 しかし、本件特許の明細書の「嵌合補強部の形状は、なるべく凹凸のない滑らかな平坦状に形成することが好ましい。」(段落【0015】)の記載は、嵌合補強部の形状として、イ号物件の構成g1における「略C字形状の部材(150)」のものを排除するものではないし、甲第3号証及び甲第4号証には、イ号物件の特長又は特徴として、「コンクリート材料に含まれる、粗骨材が通りやすくなり、縦筋への横使用が可能となりました。」と記載されていることに照らせば、イ号物件の「略C字形状の部材(150)」もコンクリートの充填性を阻害しない形状であると認められるから、被請求人の主張は採用できない。 7 構成要件H及びIについて イ号物件の構成h及び構成iは、本件特許発明の構成要件H及び構成要件Iに相当することは明らかであるから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件H及び構成要件Iを充足する。 8 小括 以上のことから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件AないしIを充足する。 第5 むすび 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件AないしIをすべて充足するから、イ号物件は、本件特許発明1、2、3、6及び8の技術的範囲に属する。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2015-11-16 |
出願番号 | 特願2006-209456(P2006-209456) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
YA
(E04C)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 渋谷 知子 |
特許庁審判長 |
赤木 啓二 |
特許庁審判官 |
中田 誠 小野 忠悦 |
登録日 | 2008-02-22 |
登録番号 | 特許第4082709号(P4082709) |
発明の名称 | 鉄筋用スペーサ |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 石坂 泰紀 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 山本 拓也 |