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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1308584
審判番号 不服2014-7571  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-24 
確定日 2015-12-16 
事件の表示 特願2007-102290「患者特異的情報に基づいて超音波撮像面を自動的に取得するためのシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 8日出願公開、特開2007-289685〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年4月10日(パリ条約による優先権主張日 平成18年4月20日,同年5月15日,米国)を出願日とする出願であって,平成24年6月11日付けで拒絶理由が通知され,同年8月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成25年4月9日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年6月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,同年12月20日付けで上記同年6月14日付けの手続補正書による補正について補正の却下の決定がなされ,それと同日付で拒絶査定されたのに対し,平成26年4月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
関心対象ボリュームからの複数の面(304?306)を自動的に表示するための診断用超音波システム(100)であって、
胎児である標的物体を含む関心対象ボリュームに関連付けされた超音波データを収集するトランスジューサ(106)と、
前記関心対象ボリューム内部の基準面(302)を指定するためのユーザインタフェース(124)と、
前記標的物体の形状とサイズの少なくとも一方を表す患者特異的情報(506)を受け取るプロセッサ・モジュール(116)であって、前記基準面(302)及び前記超音波データを3D基準座標系にマッピングしており、該基準面(302)及び患者特異的情報(506)に基づいて3D基準座標系内の少なくとも1つの関心対象面(304?306)を自動的に計算しているプロセッサ・モジュール(116)と、
テーブル(図2)を保存するメモリ(114)と、
を備え、
前記テーブル(図2)において、前記平行移動及び回転値(206、208)の各組は前記患者特異的情報(506)に含まれる幾何学的パラメータと非幾何学的パラメータとの組み合わせと関連付けされており、
前記プロセッサ・モジュール(116)は3D基準座標系内における関心対象面(304?306)の位置及び方向を決定するために、予め記憶された前記テーブルを使用して、基準面(302)からの平行移動距離(310)及び回転距離(312)を計算しており、該平行移動及び回転距離(310、312)は前記胎児内部の選択された骨の長さを計測することによって自動的に決定される診断用超音波システム(100)。」(下線は補正箇所を示す)と補正された。

2 補正事項について
上記請求項1についての補正は,補正前の診断用超音波システムを「前記平行移動及び回転値(206、208)の各組は前記患者特異的情報(506)に含まれる幾何学的パラメータと非幾何学的パラメータとの組み合わせと関連付けされて」いる「テーブル(図2)を保存するメモリ(114)」を備えるものに限定し,そして,補正前の「基準面(302)からの平行移動距離(310)及び回転距離(312)を計算」することを「予め記憶された前記テーブルを使用して、基準面(302)からの平行移動距離(310)及び回転距離(312)を計算」することに限定するものであるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 特許法36条6項1号について
本件補正によって,請求項1に係る発明の発明特定事項として「テーブル(図2)」が追加されたところ,そこでの図2とは,以下の図面である。

また,本願発明の詳細な説明には,図2について以下のように記載されている。
「【0011】
図2は、患者特異的情報202と関心対象の所定の自動撮像面204との間の関係を保存しているテーブル200を表している。このテーブル200内において、各関心対象面204は一連の平行移動206と回転座標208のそれぞれに関連付けされている。図2の例では、3次元基準座標系はデカルト座標(例えば、XYZ)である。したがって、平行移動座標206は、X、Y及びZ軸に沿った平行移動距離を表している。回転座標208は、X、Y及びZ軸の周りの回転距離を表している。平行移動座標206及び回転座標208は基準面から延びている。」
そして,この記載の「患者特異的情報」とは,図2の「Fetus」すなわち胎児,及び「Wk」すなわち胎児年齢のことを意味するものであることから,補正発明の「予め記憶された前記テーブルを使用して、基準面(302)からの平行移動距離(310)及び回転距離(312)を計算」することは,この「患者特異的情報」から平行移動距離及び回転距離を決定していることを特定しているものと解される。
一方,補正発明には「平行移動及び回転距離(310、312)」は「前記胎児内部の選択された骨の長さを計測することによって自動的に決定される」との特定事項もあり,この特定事項は,本願発明の詳細な説明の以下の記載に基づくものである。
「【0021】
図7は、本発明の一実施形態に従って計測した解剖学的構造に基づいて超音波撮像面を取得するための処理シーケンスを表している。702で開始されて、システムは、関心対象ボリュームに対する3Dデータ組と関心対象ボリュームを通過する1つまたは複数の2次元スライスとのうちの一方を収集する。704では、ユーザが走査方向を調整し関心対象ボリュームを通過する選択基準面を取得する。706では、基準面と関心対象ボリュームの一方または両方の内部で解剖学的構造に関する計測値が取得される。例えば、解剖学的構造は胎児内部で選択された骨を表すことがある。選択骨の長さを計測することによって、胎児の年齢を自動的に決定することがある。
【0022】
708では、ボリュームの形状またはサイズを表す患者特異的情報が推定される。710では、3D基準座標系から関心対象撮像面が計算され、また712では3Dデータ組が収集される(既に完了している場合を除く)。714では、関心対象撮像面に対応して1つまたは複数の超音波画像が表示される。」(下線は当審において付与した。)
上記記載には,「選択骨の長さを計測することによって、胎児の年齢を自動的に決定することがある」との記載があるものの,ここでの実施形態においては「関心対象撮像面」を計算するための「ボリュームの形状またはサイズを表す患者特異的情報」が,骨の長さにより推定されるのであるから,「平行移動及び回転距離」が「胎児内部の選択された骨の長さを計測することによって自動的に決定される」場合には,その「患者特異的情報」は,「ボリュームの形状またはサイズを表す」情報であって,「患者特異的情報」として「胎児及び胎児年齢」,つまり,図2に記載の「予め記憶された前記テーブル」を用いるものではない。
してみれば,発明の詳細な説明には,患者特異的情報として胎児及び胎児年齢を用いて平行移動距離及び回転距離を決定すること,及び,患者特異的情報としてはボリュームの形状またはサイズを用いて平行移動距離及び回転距離を決定することの各々は記載されているが,両者を併合した実施例は記載されているとはいえず,また,それら両者を併合して平行移動距離及び回転距離を決定することが本願優先日前に技術常識であったとも認められない。
したがって,上記両者を併合した記載となっている補正発明は,発明な発明に記載されているものとはいえず,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしているとはいえない。

4 特許法29条2項について
(1)補正発明について
上記3で指摘したとおり,補正発明に直接対応する例が発明の詳細な説明に記載されているとはいえないが,補正発明の「各」特定事項の解釈に当たっては,発明の詳細な説明を参酌して行った。

(2)引用例及びその記載事項
ア 本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である米国特許出願公開第2005/0251036号明細書(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,日本語訳として引用例1に対応する特表2008-534082号公報を参照し,下記の引用発明の認定に関連する箇所等の日本語訳文に下線を付与した。
(1-ア)「It is a feature and advantage of the present invention to provide a system, method and medium that can be used to acquire and generate standardized operator independent ultrasound images of fetal, neonatal and/or adult organs.」([0012])
(訳:本発明の特徴及び利点は、胎児、新生児及び/又は成体の器官のオペレータに依存しない標準超音波画像を取得及び生成するのに使用されるシステム、方法及び媒体の少なくともいずれかを提供することである。)

(1-イ)「At least one embodiment of the present invention can utilize, for example, a computer program in conjunction with, for example, a general purpose computer and/or standard sonography equipment to obtain and optionally display 2D, 3D and/or 4D ultrasound images. In addition, at least one embodiment of the present invention can provide a medical evaluation or diagnosis of aspects of fetal, neonatal and adult organs (e.g., the fetal heart).
In an exemplary method in accordance with the present invention, a reference plane is obtained for a particular body organ, which can be used as a baseline from which to obtain other planes of interest, such as the four-chamber view plane of the fetal heart. The reference plane can optionally be a standard representative plane that is relatively easy to obtain on 2D ultrasonography, such as the four-chamber view plane of the fetal heart. Exemplary reference planes for the fetal head are the axial biparietal diameter, the axial posterior fossa, the axial lateral ventricles, and the coronal corpus callosum.」([0016]?[0017])
(訳:本発明の少なくとも1つの実施形態は、2D、3D及び/又は4D超音波画像を取得し且つオプションで表示するために、例えば汎用コンピュータ及び/又は標準ソノグラフィ機器と共に例えばコンピュータプログラムを利用できる。更に、本発明の少なくとも1つの実施形態は、胎児、新生児及び成体の器官(例えば、胎児心臓)の様子の医療評価又は診断を行なえる。
本発明による好適な方法において、基準面は、特定の体器官に対して取得され、胎児心臓の四腔断面等の他の関心断面を取得する際の基線として使用される。オプションとして、基準面は、胎児心臓の四腔断面等の2D超音波検査法において比較的容易に取得される標準代表断面である。児頭に対する基準面の例は、軸方向大横径、軸方向後頭蓋窩、軸方向側脳室及び冠状断脳梁である。」

(1-ウ)「I have discovered that it is therefore possible to obtain a volume of a specific organ, such as the fetal heart, and utilize an optionally automated software program to display from this volume, one or more 2D planes that facilitate evaluation of the organ. This aspect of the present invention is referred to as Automated Multiplanar Imaging (AMI)/Automated Sonography. I have further discovered ways to standardize the acquisition and display one or more standardized planes for a particular body organ.
FIG. 1 , generally at 100 , is a block diagram of an exemplary sonography system that can be used in conjunction with one or more embodiments of the present invention. Transducer 102 is used to scan a volume of a patient's body, to obtain an image of the scanned volume.」([0075]?[0076])
(訳:したがって、胎児心臓等の特定の器官のボリュームを取得し、そのボリュームから器官の評価を容易にする1つ以上の2D断面を表示するためにオプションで自動化されたソフトウェアプログラムを利用できることを発見した。本発明のこの面は、自動多断面撮像(AMI)/自動ソノグラフィと呼ばれる。更に、特定の体器官に対する1つ以上の標準断面の取得及び表示を標準化する方法を発見した。
図1は、一般に100において、本発明の1つ以上の実施形態と関連して使用される好適なソノグラフィシステムを示すブロック図である。トランスデューサ102は、患者の体のボリュームをスキャンするために使用され、スキャンしたボリュームの画像を取得する。)

(1-エ)「 Scan converter 114 is a standard device that, optionally in conjunction with central processing unit (CPU) 130 , changes the scan rate of the signals received from signal processor 120 to a scan rate, such as a standard raster scan rate, that is used by user interface/display 106 . Display 106 can optionally provide a user-controlled and operated selector, such as a standard mouse, that allows the user to select one or more planes of interest that can be displayed.・・・Control system 112 coordinates, for example, operation of transmit beamformer 104 , receive beamformer 118 , signal processor 120 , and related elements of system 100 . Memory 126 and storage 128 may be used to store, for example, the software that generates standardized planes of interest in accordance with the present invention, as well as control instructions for controller 112 . 」([0080]?[0081])
(訳:スキャンコンバータ114は、オプションで中央処理装置(CPU)130と共に、信号プロセッサ120から受信した信号の走査速度をユーザインタフェース/ディスプレイ106により使用される標準ラスタ走査速度等の走査速度に変更する標準装置である。ディスプレイ106は、ユーザが表示される1つ以上の関心断面を選択することを可能にする標準マウス等のユーザが制御し且つ動作させるセレクタをオプションとして提供できる。・・・。制御システム112は、例えばシステム100の送信ビームフォーマ104、受信ビームフォーマ118、信号プロセッサ120及び関連要素の動作を調整する。メモリ126及び記憶装置128は、例えば本発明に従って関心標準断面を生成するソフトウェア及び制御器112に対する制御命令を格納するために使用されてもよい。)

(1-オ)「At step 3 in FIG. 2 , the reference plane is fixed and standardized in its orientation within the volume by using standard 3D sonography equipment, such as shown in FIG. 1 , to rotate the reference plane into a preset orientation within the volume. For example, the plane of the four-chamber view of the fetal heart 302 can be rotated, using rotation about the Z-axis in a standard coordinate system to place the spine at approximately the 6 o'clock position, and the apex of the heart in the left upper quadrant. Standardization of volume acquisition and display of various organs is discussed in connection with FIGS. 12-27 .
At step 4 in FIG. 2 , the computerized program that contains the mathematical formulas that relate the reference plane to all the standardized planes for a particular organ (e.g., the fetal heart) is applied to automatically retrieve one or more of the standardized planes from the acquired 3D volume. In the case of the fetal heart, once the computerized program is applied to the 3D volume with the reference plane (e.g., 4 chamber view), any or all planes b-g identified above can be displayed from a single acquisition of the volume as shown in FIG. 3 .
Equations (1)-(9) below pertain to a regression model for various planes of interest of a fetal heart in mathematical relation to the four-chamber view plane that is between approximately 18 and 23 weeks of gestation.
Pulmonary artery=-0.0017+0.4393*weeks (1)
Three vessel view=-0.4407+0.532*weeks (2)
Axial stomach=-5.1499+0.9426*weeks (3)
Left ventricular outflow tract-ref=1.2402+0.1268*weeks (4)
Left ventricular outflow track-Y=29.772-0.1568*weeks (5)
Ductal arch=94.313-0.2151*weeks (6)
Venous connection-Y=94.313-0.2151*weeks (7)
Venous connection-ref=1.7577+0.2047*weeks (8)
Aortic arch=53.459+0.8727*weeks (9)
FIGS. 4 A-I shows various regression plots and variance data respectively associated with Equations (1)-(9). In the tables shown in FIGS. 4 A-I, the predicted value lower confidence level (lcl), upper confidence level (ucl), and standard error are shown for each regression.
Table 1 below describes additional formulas that can be used to generate standard planes of a fetal heart at approximately 20 weeks of gestation, when the reference plane is the four-chamber view. Transverse views without any rotations from the fetal abdomen to the neck may also be used to allow medical personnel to provide an evaluation of the fetal heart. In this case, the fetal heart can be evaluated when a volume is obtained by sliding transducer 102 from the fetal stomach up to the neck.

Thus, a view of the left ventricular outflow tract can be obtained by shifting a plane 3.8 mm from (e.g., away from the stomach) and parallel with the four-chamber view. In addition, an axial view of the abdomen at the level of the stomach can be obtained by shifting the plane 13.7 mm from the four-chamber view. Note that since the three planes of Table 1 are each transverse planes (i.e., parallel to the four-chamber view), only distance (in mm) is utilized, and rotation about any plane is not required. FIG. 5 shows an exemplary multiplanar imaging volume obtained at the reference plane of the four-chamber view.
In FIGS. 6-11 , 3D multiplanar displays of the fetal heart are shown, with the A (top left), B (top right) and C (lower left) planes respectively representing the three orthogonal planes for the particular standardized plane (A, top left) at study. In each of FIGS. 6-11 , plane A represents a standardized fetal heart plane (b-g listed above), and each standardized plane (A) shown in FIGS. 6-11 is a plane that has been generated, using the mathematical relationships described in Equations (1)-(9) above, from the volume displayed in FIG. 5 .
FIG. 12 shows exemplary planes generated in accordance with the techniques described with regard to Table 1. In particular, FIG. 1202 represents an axial plane of the abdomen at level of the fetal stomach (shifted 13.7 mm from the four-chamber view), and FIG. 1204 shows the four-chamber view. FIG. 1206 shows the left ventricular outflow tract (shifted 3.8 mm from the four-chamber view), FIG. 1208 shows the right ventricular outflow tract (PA) (shifted 8.7 mm from the four-chamber view), and FIG. 1210 shows the three vessel view (shifted 10.2 mm from the four-chamber view). At step 5 in FIG. 2 , images can also be automatically displayed in real time (or near real time), or displayed in a cineloop of a cardiac cycle with appropriate equipment.
In at least one embodiment of the invention, each of the standardized planes can be displayed automatically subsequent to acquisition of a reference plane within a volume. Once the mathematical and spatial relationships of the standardized volumes for a particular organ are established, then any standardized plane can serve as a reference plane (e.g., the aortic arch of the fetal heart). This is useful in obstetrical ultrasonography, given that the fetus may be in an orientation within the uterus allowing for only the aortic arch to be imaged on 2D ultrasonography. One or more embodiments of the invention can then automatically display other standardized planes, such as the four-chamber view. Standardized planes can also be displayed for fetal organs other than the heart, as well as neonatal and adult organs. 」([0094]?[0102])
(訳:図2のステップ3において、ボリューム内の基準面の向きは図1に示すような標準3Dソノグラフィ機器を使用して固定及び標準化され、ボリューム内の事前設定済みの向きに基準面を回転させる。例えば、胎児心臓302の四腔像の断面は、標準座標系のZ軸を中心とする回転を使用して回転され、脊椎を約6時方向の位置に配置し且つ心尖を左上腹部に配置する。図12?27と関連して、種々の器官のボリューム取得及び表示の標準化を説明する。
図2のステップ4において、基準面を特定の器官(例えば、胎児心臓)に対する全ての標準断面に関連付ける数式を含むコンピュータプログラムは、取得した3Dボリュームから1つ以上の標準断面を自動的に検索するのに適用される。胎児心臓の場合、コンピュータプログラムが基準面(たとえば、四腔像)を含む3Dボリュームに適用されると、上記識別された任意の又は全ての断面b?gは図3に示すようにボリュームの1度の取得により表示される。
以下の式(1)?(9)は、妊娠約18?23週の四腔断面と数学的関係にある胎児心臓の種々の関心断面に対する回帰モデルに関する。
肺動脈=-0.0017+0.4393*週数 (1)
スリー ベッセル ビュー=0.4407+0.532*週数 (2)
軸方向胃=-5.1499+0.9426*週数 (3)
左室流出路-基準=1.2402+0.1268*週数 (4)
左室流出路-Y=29.772-0.1568*週数 (5)
ダクタル アーチ=94.313-0.2151*週数 (6)
静脈還流-Y=94.313-0.2151*週数 (7)
静脈還流-基準=1.7577+0.2047*週数 (8)
大動脈弓=53.459+0.8727*週数 (9)
図4A?図4Iは、式(1)?(9)とそれぞれ関連する種々の回帰グラフ及び種々のデータを示す。図4A?図4Iに示す表において、予想値、低信頼水準(lcl)、高信頼水準(ucl)及び標準エラーが各回帰に対して示される。
以下の表1は、基準面が四腔像である場合に、妊娠約20週における胎児心臓の標準断面を生成するために使用される追加の式を説明する。胎児腹部から頚部まで回転なしの横断面を使用することにより、医療担当者は胎児心臓の評価を提供できる。この場合、トランスデューサ102を胎児の胃から頚部までスライドさせることによりボリュームが取得されると、胎児心臓は評価される。

従って、左室流出路の像は、四腔像と平行に断面を四腔像から3.8mmシフトする(例えば、胃から3.8mm隔てる)ことにより取得される。更に、胃のレベルの腹部の軸方向像は、断面を四腔像から13.7mmシフトすることにより取得される。尚、表1の3つの断面がそれぞれ横断面である(すなわち、四腔像と平行である)ため、1つの距離(mm)が利用され、任意の断面を中心とする回転は必要とされない。図5は、四腔像の基準面において取得される多断面撮像ボリュームの例を示す。
図6?図11において、胎児心臓の3D多断面表示が示される。ここで、A断面(左上)、B断面(右上)及びC断面(左下)は、研究において特定の標準断面(A、左上)に対する3つの直交断面をそれぞれ表す。図6?図11の各々において、断面Aは標準化された胎児心臓の断面(先に一覧表示されたb?g)を表し、図6?図11に示す各標準断面(A)は、上記式(1)?(9)で説明される数学的関係を使用して図5に表示されるボリュームから生成された断面である。
図12は、表1に関して説明された技術に従って生成される断面の例を示す。特に、図1202は胎児の胃(四腔像から13.7mmシフトされた)のレベルの腹部の軸断面を表し、図1204は四腔像を示す。図1206は左室流出路(四腔像から3.8mmシフトされた)を示し、図1208は右室流出路(PA)(四腔像から8.7mmシフトされた)を示し、図1210はスリー ベッセル ビュー(四腔像から10.2mmシフトされた)を示す。図2のステップ5において、画像はリアルタイム(又は略リアルタイム)に自動的に表示されるか、または適切な機器により心臓周期のシネループで表示されることになる。
本発明の少なくとも1つの実施形態において、各標準断面は、ボリューム内の基準面の取得後に自動的に表示される。特定の器官に対する標準ボリュームの数学的及び空間的関係が確立されると、任意の標準断面が基準面(例えば、胎児心臓の大動脈弓)としての役割を果たすことができる。大動脈弓のみが2D超音波検査法で撮像されることを可能にする子宮内の向きに胎児がいると仮定すると、これは産科の超音波検査法において有用である。本発明の1つ以上の実施形態は、四腔像等の他の標準断面を自動的に表示できる。新生児及び成体の器官と共に心臓以外の胎児の器官に対して、標準断面が表示される。」

(カ)引用発明
a 上記(1-オ)には,妊娠週数を変数とする数式で計算される距離だけ基準面を平行にシフトすることにより標準断面を求めることが記載されている。

b してみれば,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「胎児の器官のオペレータに依存しない標準超音波画像を取得及び生成するのに使用されるシステムであって,
ボリュームをスキャンするために使用され,スキャンしたボリュームの画像を取得するトランスデューサと,ユーザが表示される1つ以上の関心断面を選択することを提供するユーザインタフェース/ディスプレイと,中央処理装置(CPU)と,メモリ及び記憶装置と,を備え,
胎児心臓等の特定の器官のボリュームを取得し,
基準面を特定の器官(例えば、胎児心臓)に対する全ての標準断面に関連付ける数式を含むコンピュータプログラムは,取得した3Dボリュームから1つ以上の標準断面を自動的に検索するのに適用され,
妊娠週数を変数とする数式で計算される距離だけ基準面を平行にシフトすることにより標準断面を求め,
各標準断面は,ボリューム内の基準面の取得後に自動的に表示される,
システム。」(以下「引用発明」という。)

イ 本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平5-237100号公報(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。
(2-ア)「【0002】
【従来の技術】医療用超音波診断装置は、多くの場合、胎児の超音波断層像から体格の代表部位の長さを計測し、これから胎児の発育の正常/異常を診断するための胎児発育診断機能を具備している。ここで代表部位とは、頭部最大横径(以下、BPDと略す。)、頭でん長(以下、CRLと略す。)、大腿骨長(以下、FLと略す。)などがある。
【0003】胎児発育診断にはいくつかの方法があるが、代表的な方法として、青木嶺夫博士らの方法があり、「胎児発育の診断」と題する論文(「産婦人科治療」、Vol.47 NO.5)(1983年11月)に詳述されている。本診断法では、あらかじめ、数多くの胎児について代表部位を計測して胎児の年齢に当たる妊娠週数tと代表部位の長さdとの間の関係式fを統計学的手法を用いて求めておき、これを診断のためのデータとして用いる。即ち、
【数1】d=f(t)
【数2】σ_(d)=σ_(f)(t)
ここで、σ_(f)は、妊娠週数tにおける胎児の間の代表部位の計測長のばらつき即ち標準偏差を与える。」

(2)対比・判断
ア 対比
補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「胎児の器官のオペレータに依存しない標準超音波画像を取得及び生成するのに使用されるシステム」は,摘記(1-イ)に診断に用いることが記載されていることから,補正発明の「診断用超音波システム」に相当する。

(イ)引用発明の「ボリュームをスキャンするために使用され,スキャンしたボリュームの画像を取得するトランスデューサ」,「ユーザが表示される1つ以上の関心断面を選択すること」を提供する「ユーザインタフェース/ディスプレイ」,「中央処理装置(CPU)」及び「メモリ及び記憶装置」は,補正発明の「関心対象ボリュームに関連付けされた超音波データを収集するトランスジューサ」,「関心対象ボリューム内部の基準面(302)を指定するためのユーザインタフェース(124)」,「プロセッサ・モジュール(116)」及び「メモリ(114)」に相当する。

(ウ)引用発明の「基準面」は,補正発明の「基準面」に相当する。また,補正発明の「関心対象ボリュームからの複数の面(304?306)」,「3D基準座標系内の少なくとも1つの関心対象面(304?306)」及び「3D基準座標系内における関心対象面(304?306)」は,同じ番号が付与されていることから同じ面を表し,引用発明の「取得した3Dボリュームから1つ以上の標準断面」が,補正発明のこれら「関心対象ボリュームからの複数の面(304?306)」,「3D基準座標系内の少なくとも1つの関心対象面(304?306)」及び「3D基準座標系内における関心対象面(304?306)」に相当する。

(エ)補正発明の「胎児である標的物体を含む関心対象ボリューム」とは,発明の詳細な説明に「関心対象ボリュームは胎児の器官(例えば、心筋層、頭、四肢、肝臓、臓器、その他)を成すことがある。」(【0006】)と記載されていることから,引用発明の「胎児心臓等の特定の器官のボリューム」は,補正発明の「胎児である標的物体を含む関心対象ボリューム」に相当する。

(オ)補正発明の「患者特異的情報」については,発明の詳細な説明には以下のとおりに記載されている。
「【0013】
基準面302及び胎児年齢を収集した後、プロセッサ・モジュール116は胎児の年齢などの患者特異的情報に基づいて追加的な関心対象撮像面を自動的に計算する。患者特異的情報は、幾何学的パラメータ、非幾何学的パラメータ、あるいはこれらの組み合わせを成すことがある。患者特異的情報は、標的器官に関する1次元情報、2次元情報または3次元情報を提供することがある。幾何学的パラメータの例は、器官タイプの特定、直径、周囲長、長さ、器官寸法、その他である。器官タイプは、心臓、頭、肝臓、腕、脚、あるいは別の臓器とすることがある。非幾何学的パラメータの例は、年齢、体重、性別、その他である。例えば、妊娠15週にある胎児を検査する際には、胎児の器官または関心エリアを、基準解剖構造324を基準として、画像325によって示した位置に位置決めすることがある。プロセッサ・モジュール116が胎児年齢を受け取ると、プロセッサ・モジュールはテーブル200にアクセスして平行移動座標X1、Y1及びZ1と回転座標A1、B1及びC1とを取得する。この平行移動及び回転座標から撮像面304の位置及び方向が決定される。
【0014】
別法として、胎児が17週にあるときは、胎児の器官または関心エリアを、基準解剖構造324を基準として、画像326及び327によって示した位置に位置決めすることがある。基準面302及び胎児年齢を収集した後に、プロセッサ・モジュール116は撮像面305及び306の位置及び方向を自動的に計算する。関心対象撮像面305?306は3D基準座標系300の内部に位置しているが、基準面302の位置からは所定の距離だけ平行移動及び回転させている。
【0015】
したがって、各撮像面304?306の位置は胎児年齢に基づいて基準面302を基準として規定される。例えば、撮像面306はZ方向に基準面302から距離310だけ平行移動させており、一方撮像面304はZ軸の周りに所定の角度の弧312だけ回転させている。撮像面305は、基準面302から複数の軸に対して平行移動と回転の両方を受けている。」(下線は当審おいて付与した。)
そして,上記3で摘記した図2には,「Fetus」すなわち胎児,及び,「Wk」すなわち胎児年齢が,患者特異的情報であることが記載されている。
補正発明がテーブル(図2)を使用するものであるから,補正発明の「幾何学的パラメータと非幾何学的パラメータとの組み合わせ」を「含む」「患者特異的情報」は,「幾何学的パラメータ」として胎児の器官タイプを,「非幾何学的パラメータ」として胎児年齢を選択したものであり,補正発明の「標的物体の形状とサイズの少なくとも一方を表す患者特異的情報」として,「標的物体の形状」すなわち胎児の器官タイプを選択したものといえる。
してみれば,引用発明の「胎児心臓」は補正発明の「幾何学的パラメータ」に相当し,引用発明の「妊娠週数」は,胎児年齢のことであり,補正発明の「非幾何学的パラメータ」に相当するから,引用発明の「胎児心臓」及び「妊娠週数」は,補正発明の「幾何学的パラメータと非幾何学的パラメータとの組み合わせ」を「含む」「患者特異的情報」に相当し,さらに,ここで引用発明の「胎児心臓」(胎児の器官タイプ)は,「標的物体の形状を表す患者特異的情報」ともいい得るものであることから,引用発明の「胎児心臓」と補正発明の「標的物体の形状とサイズの少なくとも一方を表す患者特異的情報」とは,「標的物体の形状を表す患者特異的情報」の点で共通する。

(カ)補正発明の「テーブル(図2)において、前記平行移動及び回転値(206、208)の各組」(平行移動及び回転値は前記されていないから,「前記」は誤記といえる。)について,上記の3で摘記した【0011】には「平行移動座標206は、X、Y及びZ軸に沿った平行移動距離を表している。回転座標208は、X、Y及びZ軸の周りの回転距離を表している。回転座標208は、X、Y及びZ軸の周りの回転距離を表している。平行移動座標206及び回転座標208は基準面から延びている。」と記載されていることから,補正発明の「基準面からの平行移動距離及び回転距離」を表すものといえる。
一方,引用発明では,「胎児心臓」において「標準断面を」「妊娠週数を変数とする数式で計算される距離だけ基準面を平行にシフトすることにより」「求め」ており,これは「標準断面」の位置及び方向を決定するために,「妊娠週数」から「数式」で「基準面を平行にシフトする」「距離」を「計算」しているといえ,「胎児心臓」において「妊娠週数」と「平行にシフトする」値とが関連づけられているといえる。
してみれば,引用発明の「胎児心臓」において「妊娠週数を変数とする数式で計算される距離だけ基準面を平行にシフトすることにより標準断面を求め」ることと,補正発明の「平行移動及び回転値(206、208)の各組は前記患者特異的情報(506)に含まれる幾何学的パラメータと非幾何学的パラメータとの組み合わせと関連付けされており、」「3D基準座標系内における関心対象面(304?306)の位置及び方向を決定するために」「基準面(302)からの平行移動距離(310)及び回転距離(312)を計算」することとは,「平行移動値(206)は前記患者特異的情報(506)に含まれる幾何学的パラメータと非幾何学的パラメータとの組み合わせと関連付けされており、」「3D基準座標系内における関心対象面(304?306)の位置及び方向を決定するために」「基準面(302)からの平行移動距離(310)を計算」することで共通している。

(キ)引用発明の「胎児心臓」において「妊娠週数を変数とする数式で計算される距離だけ基準面を平行にシフトすることにより標準断面を求め」ることは,「自動的」に行われるから,補正発明の「平行移動」「距離は」「自動的に決定される」こと,及び,補正発明の「基準面(302)及び患者特異的情報(506)に基づいて3D基準座標系内の少なくとも1つの関心対象面(304?306)を自動的に計算」することに相当する。
そして,引用発明の「各標準断面は、ボリューム内の基準面の取得後に自動的に表示される」ことは,補正発明の「複数の面(304?306)を自動的に表示」することに相当する。

(ク)引用発明は,「基準面を平行にシフトする」「距離」を「妊娠週数を変数とする数式で計算」する際に「コンピュータプログラム」を用いて行うものであり,「コンピュータプログラム」を用いた計算が「中央処理装置(CPU)」で行っているといえることから,その「中央処理装置(CPU)」が「妊娠週数」を受け取っていることになる。
してみれば,「コンピュータプログラム」を用いて「標準断面を求め」るために「基準面を平行にシフトする」「距離」を「妊娠週数を変数とする数式で計算」する「中央処理装置(CPU)」は,補正発明の「患者特異的情報(506)を受け取るプロセッサ・モジュール(116)」及び「関心対象面(304?306)を自動的に計算しているプロセッサ・モジュール(116)」に相当する。

(ケ)してみれば,補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「関心対象ボリュームからの複数の面を自動的に表示するための診断用超音波システムであって,
胎児である標的物体を含む関心対象ボリュームに関連付けされた超音波データを収集するトランスジューサと,
前記関心対象ボリューム内部の基準面を指定するためのユーザインタフェースと,
前記標的物体の形状を表す患者特異的情報を受け取るプロセッサ・モジュールであって,該基準面及び患者特異的情報に基づいて3D基準座標系内の少なくとも1つの関心対象面を自動的に計算しているプロセッサ・モジュールと,
メモリと,
を備え,
平行移動値は前記患者特異的情報に含まれる幾何学的パラメータと非幾何学的パラメータとの組み合わせと関連付けされており,
前記プロセッサ・モジュールは3D基準座標系内における関心対象面の位置及び方向を決定するために,基準面からの平行移動距離を計算しており,該平行移動距離は自動的に決定される診断用超音波システム。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
関心対象面の位置及び方向を決定するために,補正発明では,平行移動値及び「回転値」が患者特異的情報と関連付けされ,平行移動距離及び「回転距離」を計算しているものであるのに対し,引用発明では,「回転値」が患者特異的情報と関連付けされておらず,「回転距離」を計算していない点。

(相違点2)
距離の計算を行う際に,補正発明では,メモリに「テーブル」を保存しておき,「予め記憶された前記テーブルを使用して」行うのに対して,引用発明では,「コンピュータプログラム」によって行われる点。

(相違点3)
関心対象面の位置及び方向を決定する距離を自動的に決定する際に,補正発明では「胎児内部の選択された骨の長さを計測」しているが,引用発明では,それを行っていない点。

(相違点4)
基準面及び超音波データについて,補正発明では3D基準座標系に「マッピング」しているのに対し,引用発明ではマッピングしているかどうか不明である点。

イ 当審の判断
(ア)相違点1について
引用例1の摘記(1-オ)には,基準面について予め回転させた上で,その回転した基準面について,シフトを施して標準断面を求めることが示されている。
一方,国際公開2004/093687号(第1の手続の経緯で記載した「補正却下の決定」で引用文献3として提示されている公報に対応する国際公開。)に,
「Table 1 below describes formulas that can be used to generate standard planes of a fetal heart at approximately 20 weeks of gestation, when the reference plane is the four-chamber view. In a volume, the X, Y, and Z axes represent the three orthogonal axes that are used to define spatial positions within a volume. Any point within a volume can be spatially defined by the X, Y, and Z axes. Furthermore, rotations of planes within a 3-D volume can be performed along the X, Y, and Z axes. The XYZ coordinate system is such that if standard X and Y axes define an XY plane that, for example, divides the front half of the body (or organ) and the back half of the body (or organ), then the Z axis is directed from the front of the body (or organ) to the back of the body (or organ). That is, in this case, a left-handed coordinate system is utilized. Positive rotation is clockwise about an axis.

In the case of Table 1, the reference plane is the four-chamber view. The views determined, and optionally displayed, from the four-chamber view, are shown in the Definition column. The Shift column indicates the shift distance, in millimeters, from (or with respect to) the reference plane. The resulting plane will be parallel to the reference plane, at the specified distance. The Rotation column indicates the number of degrees and the specific axis (X, Y, Z) of rotation. For the standardized plane of the aortic outflow tract for instance, from a four-chamber view reference plane at approximately 20 weeks' gestation, the shift is 3.9 mm in the direction of the fetal head followed by a rotation along the Y axis of 27 degrees, clockwise, when the fetus is in a cephalic presentation and along the Y axis of 27 degrees, counterclockwise, when the fetus is in the breech presentation.」(10頁19行?11頁9行)
(訳:以下の表1は、基準面が四腔像であるときに妊娠約20週の胎児の心臓の標準的な面を生成するのに用いることのできる公式を表している。ボリュームにおいて、X軸、Y軸、およびZ軸は、ボリューム内の空間位置を定めるのに用いられる3つの直交軸を表す。X軸、Y軸、およびZ軸によってボリューム内の任意の点を空間的に定義することができる。さらに、3-Dボリューム内の面の回転をX軸、Y軸、およびZ軸に沿って行うことができる。XYZ座標系は、標準的なX軸およびY軸が、たとえば、人体(または器官)の前半分と人体(または器官)の後半分とに分割するXY面を形成する場合に、Z軸が人体(または器官)の前部から人体(または器官)の後部に向かう軸となるような座標系である。すなわち、この場合、左手座標系が利用される。正の回転は軸を中心として時計回りである。

表1の場合、基準面は四腔像である。四腔像から求められ任意に表示されたビューは定義欄に示されている。ずれ欄は、基準面からの(または基準面に対する)ミリメートル単位のずれ距離を示している。結果として得られる面は、指定された距離において基準面に平行である。回転欄は、回転度数および特定の回転軸(X、Y、Z)を示している。たとえば、妊娠約20週の四腔像基準面からの大動脈流出路の標準化面の場合、ずれは、胎児の頭部の方向に3.9mmであり、その後Y軸に沿って時計回りに27°回転させると、胎児は頭位になり、Y軸に沿って反時計回りに27°回転させると、胎児は胎位になる。)
と記載されているように,基準面から標準的な面(引用発明における「標準断面」)を求める際に,ずれ(引用発明における「シフト」)と共に「回転」も行うことは,本願優先日前に周知のことである。
してみれば,引用発明において,標準断面を求める際に,基準面を予め回転させるのではなく,シフトと共に回転も行う,すなわち,基準面を平行にシフトする距離を計算することに加えて「回転距離」も計算することは,上記周知技術に鑑みれば当業者が容易になし得たことであり,その際,「回転値」は妊娠週数(患者特異的情報)に関連付けされることになる。

(イ)相違点2について
引用発明は,コンピュータプログラムによって妊娠週数(患者特異的情報)すなわちパラメータを数式に当てはめて計算するものであるが,予めパラメータとその計算結果とを関連付けて記憶しておき,パラメータに応じて計算結果を読み出して用いるようにすることは例示するまでもなく本願優先日前に周知のことであるから,妊娠週数とその計算結果を「テーブル」としてメモリ又は記憶装置に保存しておき,妊娠週数に応じてそのテーブルから計算結果を読み出す,すなわち「予め記憶された前記テーブルを使用して」行うようにすることは当業者が容易になし得たことである。

(ウ)相違点3について
上記摘記(2-ア)に記載されているように,胎児の大腿骨長(胎児内部のある選択された骨の長さ)により妊娠週数を推定することは本願優先日前に周知のことである。してみれば,引用発明において,妊娠週数を決める際に「胎児内部の選択された骨の長さを計測」して決めることは当業者が容易になし得ることであり,妊娠週数が決まれば,基準面を平行にシフトする距離が計算され,標準断面が自動的に決定することになる。

(エ)相違点4について
引用例1の摘記(1-イ)に「基準面は、特定の体器官に対して取得され、胎児心臓の四腔断面等の他の関心断面を取得する際の基線として使用される。」ことが記載されており,また,摘記(1-オ)に「特定の器官に対する標準ボリュームの数学的及び空間的関係が確立されると、任意の標準断面が基準面(例えば、胎児心臓の大動脈弓)としての役割を果たすことができる」と記載されていることから,基準面の基線としての位置がわかりやすく,さらに,特定の器官に対する標準ボリュームの空間的関係を確立するために,基準面及び超音波データについて,補正発明のように3D基準座標系に「マッピング」することは当業者が容易になしえたことである。。

(オ)補正発明の効果について
補正発明に基づく効果について,引用例1の記載及び周知技術を考慮するに,発明の詳細な説明の記載を参酌しても格別顕著なものとは認められない。

(カ)請求人の主張について
請求人は,審判請求書で,
「本願発明では、予め記憶されたテーブルであって、平行移動及び回転値(206、208)の各組を幾何学的パラメータと非幾何学的パラメータとの組み合わせに関連付けるテーブルを使用して、基準面(302)からの平行移動距離(310)及び回転距離(312)を計算するという特徴を備えます。
本願発明の上記特徴により、平行移動及び回転値を高速に特定することができ、3D基準座標系内の少なくとも1つの関心対象面を高速に決定することができます。
引用文献1-3は、本願発明のかかる特徴を開示しておらず、3D基準座標系内で関心対象面を高速に決定することができません。」(引用文献1及び2は,上記引用例1及び2,引用文献3は上記国際公開2004/093687号の対応の公表特許公報である。)
と,主に上記相違点1及び2について主張しているが,相違点1及び2については,上記(ア)及び(イ)のとおりであり,その効果として主張している「関心対象面を高速に決定する」ことができるという効果も当業者が予期しうる範囲のことである。

(3)小括
したがって,補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

4 まとめ
補正発明は,上記3のとおり,特許法36条6項1号に規定する要件を満たすものではなく,また,上記4のとおり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし7に係る発明は,平成24年8月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
関心対象ボリュームからの複数の面(304?306)を自動的に表示するための診断用超音波システム(100)であって、
胎児である標的物体を含む関心対象ボリュームに関連付けされた超音波データを収集するトランスジューサ(106)と、
前記関心対象ボリューム内部の基準面(302)を指定するためのユーザインタフェース(124)と、
前記標的物体の形状とサイズの少なくとも一方を表す患者特異的情報(506)を受け取るプロセッサ・モジュール(116)であって、前記基準面(302)及び前記超音波データを3D基準座標系にマッピングしており、該基準面(302)及び患者特異的情報(506)に基づいて3D基準座標系内の少なくとも1つの関心対象面(304?306)を自動的に計算しているプロセッサ・モジュール(116)と、
を備え、
前記プロセッサ・モジュール(116)は3D基準座標系内における関心対象面(304?306)の位置及び方向を決定するために基準面(302)からの平行移動距離(310)及び回転距離(312)を計算しており、該平行移動及び回転距離(310、312)は前記胎児内部の選択された骨の長さを計測することによって自動的に決定される診断用超音波システム(100)。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1及び2の記載事項は,上記第2の4(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記第2の2で記載したとおり,補正発明は,本願発明にさらに限定事項(上記第2の1の【請求項1】における下線部)を追加したものであるから,本願発明は,補正発明からその限定事項を省いた発明といえる。その補正発明が,前記第2の4(3)に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2015-07-15 
結審通知日 2015-07-21 
審決日 2015-08-04 
出願番号 特願2007-102290(P2007-102290)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五閑 統一郎  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 ▲高▼場 正光
三崎 仁
発明の名称 患者特異的情報に基づいて超音波撮像面を自動的に取得するためのシステム及び方法  
代理人 小倉 博  
代理人 田中 拓人  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  

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