• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1308611
審判番号 無効2012-800199  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-11-30 
確定日 2015-12-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第4777471号「ポリイミドフィルムおよびそれを基材とした銅張積層体」の特許無効審判事件についてされた平成25年7月30日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成25年(行ケ)第10250号平成27年4月28日判決言渡)がされ,当該判決は確定したので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 特許第4777471号の請求項1ないし11に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 請求人の請求
上記結論と同旨。すなわち,特許第4777471号(設定登録時の請求項の数は11。以下「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする旨の審決を求める。



第2 主な手続の経緯等
1(1) 被請求人は,発明の名称を「ポリイミドフィルムおよびそれを基材とした銅張積層体」とする本件特許の特許権者である。
(2) 本件特許は,平成17年3月25日を出願日とする特許出願(特願2005-88334。先の出願に基づく優先権主張:平成16年3月30日。以下「本件原出願」という。)の一部を新たに特許出願したものに係り,平成23年7月8日,設定の登録を受けた。

2(1) 請求人は,平成24年11月30日,請求項1ないし11に係る発明についての特許を無効とする審決を求める本件審判を請求したところ,被請求人は,平成25年2月15日,答弁書を提出した。
(2) 審判長は,平成25年3月13日付けで両当事者に対し口頭審理における審理事項を通知し(審理事項通知書),これに対して,請求人及び被請求人は同年4月10日に口頭審理陳述要領書をそれぞれ提出した。また,被請求人は同月22日に上申書を提出した。
(3) 平成25年4月24日,請求人代理人,被請求人代理人の出頭のもと,第1回口頭審理が行われ,以後本件は書面審理とするとされた。
(4) 請求人及び被請求人は同年5月24日に上申書をそれぞれ提出した。

3 特許庁は,平成25年7月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決(以下,単に「一次審決」という。)をし,その謄本は8月8日,両当事者に送達された。

4 請求人は,平成25年9月4日,一次審決を不服として知的財産高等裁判所に訴えを提起した(平成25年(行ケ)第10250号)。同裁判所は,平成27年4月28日,一次審決を取り消す旨の判決を言渡し,この判決(以下「取消判決」という。)は確定した。

5 上記取消判決が確定したことから,特許法181条2項の規定により,さらに審理が行われることとなった。(なお,被請求人からは,特許法134条の3に基づく申立てはされなかった。)

6 特許庁は,平成27年7月21日付けで審決の予告をし,期間を指定して被請求人に訂正を請求する機会を与えたが,被請求人からは何ら応答がなかった。



第3 本件特許に係る発明
本件特許に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1?11に記載された以下のとおりのものである(以下,「本件特許発明1」?「本件特許発明11」といい,併せて「本件特許発明」ともいう。)。 また,本件発明に係る明細書を「本件特許明細書」という。

「【請求項1】
パラフェニレンジアミン(審決注:以下「PPD」ということがある。),4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(審決注:以下,「4,4’-ODA」ということがある。)および3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(審決注:以下,「3,4’-ODA」ということがある。)からなる群から選ばれる1以上の芳香族ジアミン成分と,ピロメリット酸二無水物(審決注:以下「PMDA」ということがある。)および3,3’-4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(審決注:以下「BPDA」ということがある。)からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分とを使用して製造されるポリイミドフィルムであって,該ポリイミドフィルムが,粒子径が0.07?2.0μmである微細シリカを含み,島津製作所製TMA-50を使用し,測定温度範囲:50?200℃,昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲にあり,前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲にあり,前記微細シリカがフィルムに均一に分散されているポリイミドフィルムを基材とし,この上に厚みが1?10μmの銅を形成させた銅張積層体を有することを特徴とするCOF用基板。
【請求項2】
島津製作所製TMA-50を使用し,測定温度範囲:50?200℃,昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数α_(MD)が14ppm/℃以上18ppm/℃以下,前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲にあることを特徴とする請求項1記載のCOF用基板。
【請求項3】
微細シリカがフィルム樹脂重量当たり0.03?0.30重量%の割合でフィルムに均一に分散され,かつ表面には微細な突起が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のCOF用基板。
【請求項4】
微細シリカの平均粒子径が,0.10μm以上0.90μm以下であることを特徴とする請求項3記載のCOF用基板。
【請求項5】
微細シリカの平均粒子径が,0.10μm以上0.30μm以下であることを特徴とする請求項3記載のCOF用基板。
【請求項6】
微細シリカにより形成される突起数が1mm^(2)当たり1×10^(3)?1×10^(8)個存在することを特徴とする請求項3?5のいずれかに記載のCOF用基板。
【請求項7】
パラフェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1以上の芳香族ジアミン成分と,ピロメリット酸二無水物および3,3’-4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分とを使用して製造されるポリイミドフィルムであって,該ポリイミドフィルムが,粒子径が0.07?2.0μmである微細シリカを含み,島津製作所製TMA-50を使用し,測定温度範囲:50?200℃,昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲にあり,前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲にあり,前記微細シリカがフィルムに均一に分散されているポリイミドフィルムを基材とし,この上に厚みが1?10μmの銅を形成させたことを特徴とする銅張積層体。
【請求項8】
島津製作所製TMA-50を使用し,測定温度範囲:50?200℃,昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数α_(MD)が14ppm/℃以上18ppm/℃以下,前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲にあることを特徴とする請求項7記載の銅張積層体。
【請求項9】
パラフェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1以上の芳香族ジアミン成分と,ピロメリット酸二無水物および3,3’-4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分とを使用して製造されるポリイミドフィルムであって,該ポリイミドフィルムが,粒子径が0.07?2.0μmである微細シリカを含み,島津製作所製TMA-50を使用し,測定温度範囲:50?200℃,昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲にあり,前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲にあり,前記微細シリカがフィルムに均一に分散されているポリイミドフィルム。
【請求項10】
パラフェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1以上の芳香族ジアミン成分と,ピロメリット酸二無水物および3,3’-4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分とを使用して得られるフィルムを,140℃以下の温度で1.05?1.6倍の延伸倍率(MDX)で機械搬送方向に延伸し,機械搬送方向の延伸倍率の1.1?1.5倍の延伸倍率(TDX)で幅方向に延伸処理する工程を含むことを特徴とする,請求項1?6のいずれかに記載されたCOF用基板の製造方法。
【請求項11】
パラフェニレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1以上の芳香族ジアミン成分と,ピロメリット酸二無水物および3,3’-4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分とを使用して得られるフィルムを,140℃以下の温度で1.05?1.6倍の延伸倍率(MDX)で機械搬送方向に延伸し,機械搬送方向の延伸倍率の1.1?1.5倍の延伸倍率(TDX)で幅方向に延伸処理する工程を含むことを特徴とする,請求項9に記載されたポリイミドフィルムの製造方法。」



第4 当事者の主張
1 無効理由に係る請求人の主張
本件特許発明には下記(1)?(2)のとおりの無効理由1?2があるから,本件の請求項1?11に係る発明についての特許は,特許法123条1項4号に該当し,無効とすべきものである(第1回口頭審理調書及び主張の全趣旨)。なお,請求人は,口頭審理において,特許法第17条の2第3項及び同法第29条第1項第3号に係る無効理由の主張を撤回している。
また,証拠方法として書証を申出,下記(3)のとおりの文書(甲1?甲18)を提出する。

(1) 無効理由1
本件特許明細書の発明の詳細な説明は,実施例で開示された4成分系以外のポリイミドフィルム,例えば2成分系のポリイミドフィルムに係る発明について,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,本件特許請求の範囲の記載にはかかる2成分系のポリイミドフィルムが包含されるものである。
よって,本件特許発明1ないし11に関し,発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず,併せて,本件特許発明1ないし11に係る特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合しておらず,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから,特許法第123条第1項第4号の規定によって無効とされるべきものである。

(2) 無効理由2
本件特許明細書の発明の詳細な説明は,本件特許発明10に係るCOF用基板の製造方法により本件特許発明1に係るCOF用基板が得られるか否か明らかでなく,同様に,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,本件特許発明11に係るポリイミドフィルムの製造方法により本件特許発明9に係るポリイミドフィルムが得られるか否か明らかでないから,本件特許発明10及び11を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって,本件特許明細書の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず,併せて,本件特許発明10及び11に係る特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号に適合しておらず,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから,特許法第123条第1項第4号の規定によって無効とされるべきものである。

(審決注:上記(1)及び(2)について,審決の便宜のため,以下,無効理由1及び2における特許法第36条第4項第1号違反(いわゆる実施可能要件違反)に係る理由を「無効理由A」といい,同法第36条第6項第1号違反(いわゆるサポート要件違反)に係る理由を「無効理由B」という。)

(3) 証拠方法
甲第1号証:特開2001-72781号公報
甲第2号証:特開2004-122372号公報
甲第3号証:特願2005-88334号(本件特許出願の親出願)の平成24年7月12日付け拒絶理由通知書
甲第4号証:特開2003-335874号公報
甲第5号証:本件特許の審査における平成22年12月10日付け早期審査に関する事情説明書
甲第6号証:特開2005-314669号公報(本件特許の親出願の公開公報)
甲第7号証:POLYMER,1989,Vol 30,June(Conference issue)1170?1173頁(抄訳は一部のみ)
甲第8号証:仙波恒太郎企画編集「一流企業実務者が明かす,最先端の”材料”と”技術” 最新エレクトロニクス実装大全集<上巻>」136頁(発行日 2007年6月29日,株式会社技術情報協会発行)
甲第9号証:Thin Solid Films 339(1999)68?73頁(抄訳は一部のみ)
甲第10号証:POLYMER,1987,Vol 28,December 2282?2288頁(抄訳は一部のみ)
甲第11号証:Macromolecules 1996,29,7897?7909頁(抄訳は一部のみ)
甲第12号証:Mat.Res.Soc.Symp.Proc.Vol.381 1995,19?29頁(抄訳は一部のみ)
甲第13号証:特開平5-237928号公報
甲第14号証:特開2004-255845号公報
甲第15号証:特開2003-109989号公報
甲第16号証:特開平11-80390号公報
甲第17号証:株式会社カネカ APICALカタログ(発行日不明)
甲第18号証:東レ・デュポン株式会社 「カプトン」のカタログ(発行日 1999年10月)

2 被請求人の主張
(1) 答弁の趣旨及び主張の概要
本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。請求人主張の無効理由1?2は,いずれも理由がない。
また,証拠方法として書証を申出,下記(2)のとおりの文書(乙1?乙11)を提出する。

(2) 証拠方法
乙第1号証:低熱膨張ポリイミドフィルムカプトン150EN-A(本件特許発明実施品である被請求人製品のカタログ)
乙第2号証:「躍進するポリイミドの最新動向II」表紙,目次,1?8頁,17?20頁,奥付(2000年12月 住ベテクノリサーチアブ式会社発行)
乙第3号証:宇部興産株式会社 ポリイミドフィルム「ユーピレックス-S」(ユーピレックスSを紹介した請求人ウエブサイトをプリントアウトしたもの,URL http:/www.ube-ind.co.jp/japanese/products/fine/_01_01.htm)
乙第4号証:東レ・デュポン株式会社 カプトン技術・開発部 製品技術課長 澤崎孔一が作成した2012年8月31日付け分析結果報告書(従来品ユーピレックスSシリーズの熱膨張係数の分析結果)
乙第5号証:東レ・デュポン株式会社 カプトン技術・開発部 製品技術課長 澤崎孔一が作成した2012年3月30日付け分析結果報告書(従来品ユーピレックス35SGV1の熱膨張係数の分析結果)
乙第6号証:岩波理化学事典第5版 表紙,405頁,944頁,奥付(1998年2月20日 株式会社岩波書店発行)
乙第7号証:旭硝子研究報告57(2007)37?44頁
乙第8号証:特許第3085529号公報
乙第9号証:特許第3994946号公報
乙第10号証:特許第3355986号公報
乙第11号証:特公平4-6213号公報



第5 判断
当合議体は,以下に述べるように,無効理由A及びBには理由があり,よって本件特許の請求項1ないし11に係る発明についての特許を無効とすべきと解する。

1 本件特許発明について
本件特許発明に係る特許請求の範囲は,前記第2に記載のとおりであるところ,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,概ね,次の内容の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,寸法安定性に優れ,ファインピッチ回路用基板,特にフィルム幅方向に狭ピッチに配線されるCOF(Chip on Film)用に好適なポリイミドフィルム及びそれを基材とした銅張積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板や半導体パッケージの高繊細化に伴い,それらに用いられるポリイミドフィルムへの要求事項も多くなっており,例えば金属との張り合わせによる寸法変化やカールを小さくすること,およびハンドリング性の高いことなどが挙げられ,ポリイミドフィルムの物性として金属並の熱膨張係数を有すること及び高弾性率であること,さらには吸水による寸法変化の小さいフィルムが要求され,それに応じたポリイミドフィルムが開発されてきた。
【0005】
ところで近年,配線の微細化への対応で,銅貼り積層体は接着剤を用いない2層タイプ(ポリイミドフィルム上に銅層が直接形成)が採用されている。これはフィルム上へのめっき法により銅層を形成させる方法,銅箔上にポリアミック酸をキャストした後イミド化させる方法があるが,いずれもラミネーション方式のような熱圧着工程ではなく,したがってフィルムのMDの熱膨張係数をTDより小さくする必要は無くなり,さらには2層タイプで主流をしめるCOF用途では,フィルムのTDに狭ピッチで配線されるパターンが一般的で,逆にTDの熱膨張係数が大きいとチップ実装ボンディング時等で配線間の寸法変化が大きくなり,ファインピッチ化要求への対応が困難であった。これに対応するにはフィルムの熱膨張係数をシリコンに近似させるほどに小さくさせるのが理想であるが,銅との熱膨張差異が生じるのでチップ実装のボンディング時をはじめとする加熱される工程によりひずみが生じるという問題がある。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果なされたものであり,金属に近似した熱膨張係数を保持しつつ,フィルムTDの寸法変化を低減させることができるCOF用などのファインピッチ回路用基板に好適なポリイミドフィルムおよびそれを基材とした銅張り積層体の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目標を達成するために,本発明のポリイミドフィルムは,フィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数α_(MD)が10?20ppm/℃,幅方向(TD)の熱膨張係数α_(TD)が3?10ppm/℃であり,好ましくはα_(MD)が14?18ppm/℃,α_(TD)が3?7ppm/℃であることを特徴とする。
【0010】
また,本発明銅張積層体は,上記いずれかを特徴とするポリイミドフィルムを基材とし,この上に厚みが1?10μmの銅を形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリイミドフィルムは,フィルムのTDへの配向を進ませることで,この方向の熱膨張係数を低く抑えることができ,かつMDの熱膨張係数は金属に近似した値を持ち,さらに加熱収縮率も低く,また高い引っ張り弾性率を保持している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリイミドフィルムを製造するに際しては,まず芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とを有機溶媒中で重合させることにより,ポリアミック酸溶液を得る。
【0013】
上記芳香族ジアミン類の具体例としては,パラフェニレンジアミン,メタフェニレンジアミン,ベンジジン,パラキシリレンジアミン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテル,3,4’-ジアミノジフェニルエーテル,4,4’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルスルホン,3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン,1,5-ジアミノナフタレン,3,3’-ジメトキシベンチジン,1,4-ビス(3メチル-5アミノフェニル)ベンゼンおよびこれらのアミド形成性誘導体が挙げられる。この中でフィルムの引っ張り弾性率を高くする効果のあるパラフェニレンジアミン,ベンジジン,3,4’-ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミンの量を調整し,最終的に得られるポリイミドフィルムの引っ張り弾性率が4.0GPa以上にすることが,ファインピッチ基板用として好ましい。
【0014】
上記酸無水物成分の具体例としては,ピロメリット酸,3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸,2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸,3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸,2,3,6,7-ナフタレンジカルボン酸,2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル,ピリジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸およびこれらのアミド形成性誘導体などの酸無水物が挙げられる。
【0022】
こうして得られるポリアミック酸溶液は,固形分を5?40重量%,好ましくは10?30重量%を含有しており,またその粘度はブルックフィールド粘度計による測定値で10?2000Pa・s,好ましくは,100?1000Pa・sのものが,安定した送液のために好ましく使用される。また,有機溶媒溶液中のポリアミック酸は部分的にイミド化されていてもよい。
【0023】
次に,本発明のポリイミドフィルムの製造方法について説明する。
【0024】
ポリイミドフィルムを製膜する方法としては,ポリアミック酸溶液をフィルム状にキャストし熱的に脱環化脱溶媒させてポリイミドフィルムを得る方法,およびポリアミック酸溶液に環化触媒及び脱水剤を混合し化学的に脱環化させてゲルフィルムを作成しこれを加熱脱溶媒することによりポリイミドフィルムを得る方法が挙げられるが,後者の方が得られるポリイミドフィルムの熱膨張係数を低く抑えることができるので好ましい。
【0025】
なお,このポリアミック酸溶液は,フィルムの易滑性を得るため必要に応じて,酸化チタン,微細シリカ,炭酸カルシウム,リン酸カルシウム,リン酸水素カルシウムおよびポリイミドフィラーなどの化学的に不活性な有機フィラーや無機フィラーを,含有することができる。この中では特に粒子径0.07?2.0μmである微細シリカをフィルム樹脂重量当たり0.03?0.30重量%の割合でフィルムに均一に分散されることによって微細な突起を形成させるのが好ましい。…
【0029】
ポリアミック酸溶液からポリイミドフィルムを製造する方法としては,環化触媒および脱水剤を含有せしめたポリアミック酸溶液をスリット付き口金から支持体上に流延してフィルム状に成形し,支持体上でイミド化を一部進行させて自己支持性を有するゲルフィルムとした後,支持体より剥離し,加熱乾燥/イミド化し,熱処理を行う。
【0030】
上記ポリアミック酸溶液は,スリット状口金を通ってフィルム状に成型され,加熱された支持体上に流延され,支持体上で熱閉環反応をし,自己支持性を有するゲルフィルムとなって支持体から剥離される。
【0031】
上記支持体とは,金属製の回転ドラムやエンドレスベルトであり,その温度は液体または気体の熱媒によりおよび/または電気ヒーターなどの輻射熱により液体または気体の熱媒によりおよび/または電気ヒーターなどの輻射熱により制御される。
【0032】
上記ゲルフィルムは,支持体からの受熱および/または熱風や電気ヒータなどの熱源からの受熱により30?200℃,好ましくは40?150℃に加熱されて閉環反応し,遊離した有機溶媒などの揮発分を乾燥させることにより自己支持性を有するようになり,支持体から剥離される。
【0033】
上記支持体から剥離されたゲルフィルムは,通常回転ロールにより走行速度を規制しながら走行方向に延伸される。機械搬送方向への延伸倍率(MDX)は,140℃以下の温度で1.01?1.9倍,好ましくは1.05?1.6倍,さらに好ましくは1.05?1.4倍で実施される。搬送方向に延伸されたゲルフィルムは,テンター装置に導入され,テンタークリップに幅方向両端部を把持されて,テンタークリップと共に走行しながら,幅方法へ延伸される。この時フィルムの機械搬送方向(MD)の延伸倍率に比べ幅方向(TD)の延伸倍率を高く設定すること,具体的には幅方向の延伸倍率を機械搬送方向の延伸倍率の1.1?1.5倍に設定することによってフィルムTDに配向勝ったフィルムすなわちフィルムMDには金属に近似した熱膨張係数を保持しつつ,フィルムTDの熱膨張係数を低く抑えたフィルムを得ることができる。これら範囲内にて両者の延伸倍率の調整を行い,フィルムのTDの熱膨張係数α_(TD)が3?10ppm/℃,フィルムのMDの熱膨張係数α_(MD)が10?20ppm/℃の範囲にするのが好ましく,α_(TD)が3?7ppm/℃,α_(MD)が14?18ppm/℃の範囲がより好ましい。
【0034】
上記の乾燥ゾーンで乾燥したフィルムは,熱風,赤外ヒーターなどで15秒から10分加熱される。次いで,熱風および/または電気ヒーターなどにより,250?500の温度で15秒から20分熱処理を行う。
【0035】
また走行速度を調整しポリイミドフィルムの厚みを調整するが,ポリイミドフィルムの厚みとしては3?250μmが好ましい。これより薄くても厚くてもフィルムの製膜性が著しく悪化するので好ましくない。
【0036】
このようにして得られたポリイミドフィルムをさらに200?500℃の温度でアニール処理を行うことが好ましい。そうすることによってフィルムの熱リラックスが起こり加熱収縮率を小さく抑えることができる。…
【0039】
このようにして得られるポリイミドフィルム及びそれを基材とした銅張積層体は,フィルムのTDへの配向を進ませることで,この方向の熱膨張係数を低く抑えることができ,かつMDの熱膨張係数は金属に近似した値を持ち,さらに加熱収縮率も低く,また高い引っ張り弾性率を保持しているので,ファインピッチ回路用基板,特にフィルムのTDに狭ピッチに配線されるCOF(Chip on Film)用に好適である。
【実施例】
【0040】
以下,実施例により本発明を具体的に説明する。
【0041】
なお,実施例中PPDはパラフェニレンジアミン,4,4’-ODAは4,4’-ジアミノジフェニルエーテル,3,4’-ODAは3,4’-ジアミノジフェニルエーテル,PMDAはピロメリット酸二無水物,BPDAは3,3’-4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物,DMAcはN,N-ジメチルアセトアミドをそれぞれ表す。
【0042】
また,実施例中の各特性は次の方法で評価した。
【0043】
(1)熱膨張係数
島津製作所製TMA-50を使用し,測定温度範囲:50?200℃,昇温速度:10℃/minの条件で測定した。
【0044】
(2)加熱収縮率
20cm×20cmのフィルムを用意し,25℃,60%RHに調整された部屋に2日間放置した後のフィルム寸法(L1)を測定し,続いて200℃60分間加熱した後再び25℃,60%RHに調整された部屋に2日間放置した後フィルム寸法(L2)を測定し,下記式計算により評価した。
加熱収縮率=-(L2-L1)/L1×100
【0045】
(3)引っ張り弾性率…
【0046】
(4)粒度分布…
【0047】
(5)突起数…
【0048】
(6)摩擦係数(静摩擦係数)…
【0049】
(7)銅配線形成したフィルムの,半田浴処理前後の寸法変化率,及びカール
(i)銅層形成…
【0050】
(ii)フォトレジストパターン形成…
【0053】
(iii)銅エッチング
配線状にフォトレジストを形成した後…エッチング処理し,銅層を100μmピッチ(配線幅50μm/配線間隔50μm)にパターニングした。銅エッチング後,25℃×5分×2回浸漬+揺動水洗し,その後自然乾燥した。
【0054】
(iv)フォトレジスト除去…
【0055】
(v)錫鍍金…
【0056】
(vi)寸法変化率,及びカール測定
錫鍍金後,TD方向の寸法を測定(L3)した。次に,250℃の半田浴に30秒浸漬し,浸漬後に再びTD方向の寸法を測定(L4)した。半田浴による処理前後の寸法変化率を下記式により求めた。
寸法変化率(%)=(L4-L3)/L3×100
【0057】
また,カールについては,半田浴による処理後に平坦な場所にサンプルを静置し,サンプルの端部の床からの反り上がり量を「カール」として評価した。
【0058】
[実施例1]
500mlのセパルブルフラスコにDMAc239.1gを入れ,ここにPPD4.53g(0.042モル),4,4’-ODA21.53g(0.108モル),BPDA8.79g(0.030モル),PMDA26.06g(0.119モル)を投入し,常温常圧中で1時間反応させ,均一になるまで撹拌してポリアミック酸溶液を得た。
【0059】
続いて粒径0.08μm未満及び2μm以上が排除された平均径0.30μmのシリカのN,N-ジメチルアセトアミドスラリーを前記ポリアミド酸溶液に樹脂重量当たり0.03重量%添加し,十分攪拌,分散させた。
【0060】
その後このポリアミック酸溶液をマイナス5℃で冷却した後,ポリアミック酸溶液100重量%に対して無水酢酸15重量%とβ-ピコリン15重量%を混合した。
【0061】
この混合液を,90℃の回転ドラムに30秒流延させた後,得られたゲルフィルムを100℃で5分間加熱しながら,走行方向に1.1倍延伸した。次いで幅方向両端部を把持して,270℃で2分間加熱しながら幅方向に1.5倍延伸した後,380℃にて5分間加熱し,38μm厚のポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムを220℃に設定された炉の中で20N/mの張力をかけて1分間アニール処理を行った後,各特性を評価した。
フィルムMDの熱膨張係数α_(MD):15.8ppm/℃
フィルムTDの熱膨張係数α_(TD):4.8ppm/℃
【0062】
[実施例2?15]
実施例1と同様の手順で,芳香族ジアミン成分および芳香族テトラカルボン酸成分の原料及び比率,シリカの添加量,平均粒子径を表1,2,3に示すように反応させ,それぞれポリアミック酸溶液を得た後,横方向・縦方向の延伸倍率を表1,2,3のように行い実施例1と同じ操作で得られたポリイミドフィルムの各特性評価を行い,表1,2,3にその結果を示した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
*表中のモル比は,全芳香族ジアミン成分中におけるモル%及び全芳香族テトラカルボン酸類成分中におけるモル%をそれぞれ示す。
【0067】
[比較例1?4]
実施例1と同様の手順で,芳香族ジアミン成分および芳香族テトラカルボン酸成分,シリカの添加量,平均粒子径を表4に示す割合でそれぞれポリアミック酸溶液を得た後,横方向・縦方向の延伸倍率を表4のよう行い実施例1と同じ操作で得られたポリイミドフィルムの各特性評価を行い,表4にその結果を示した。
【0068】
【表4】

【0069】
*表中のモル比は,全芳香族ジアミン成分中におけるモル%及び全芳香族テトラカルボン酸類成分中におけるモル%をそれぞれ示す。」

2 無効理由A(本件特許発明についての実施可能要件違反)について
(1) 特許法36条4項1号(実施可能要件)は,発明の詳細な説明の記載は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと規定している。そして,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(同法2条3項1号),物の発明については,明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を充足するということができる。
ところで,本件特許発明においては,請求項1(COF用基板),請求項7(銅張積層体)及び請求項9(ポリイミドフィルム)が独立請求項であるところ,請求項1及び7はいずれも請求項9に規定されたポリイミドフィルムの構成をそのまま含み,そのため,その余の請求項もいずれも請求項9に規定された発明特定事項を含むことになる。そこで,事案に鑑み,本件特許発明に共通して含まれる発明特定事項である本件特許発明9についての実施可能要件について検討する。

(2) ポリイミドを構成する成分と熱膨張係数との関係についての技術常識
ア 甲8には,次の記載がある。
「このような寸法安定性改善のため,ポリイミド層のCTE(線膨張係数。審決注:熱膨張係数を意味する。)の最適化が検討されている。図6にポリイミド骨格(酸無水物とジアミンの組み合あわせ)とCTEの関係の例を示す。銅箔のCTEは通常17?18ppm/℃程度であり,これに合わせたCTE設計が重要となるが,同じポリイミド骨格でもキャスト方式ではその乾燥法にCTEが依存することや,ラミネート方式ではCTEが40?60ppm/℃のTPIを使用するため,最終的な寸法安定性を良くするためにはそれを見込んだ設計が必要となる。


イ 甲10には,次の記載がある。
「ワニスをガラス板上に塗布し,1時間100℃で乾燥させた。次に,得られたフィルムを剥がし,窒素ガス中,200℃で1時間,400℃で1時間加熱した。これにより,ポリイミドフィルムを得た。メチル又はメチレン基を有するポリイミドの場合には,その最終的な加熱は,400℃の代わりに,350℃で1時間とした。ポリアミック酸フィルムをガラス板から剥離した後に加熱するとき,溶媒蒸発およびイミド化による収縮を防止するため,フィルムを鉄フレームにしっかり固定する。(二方向固定キュア)か,硬化収縮を妨げないようにバネで保持した(フリーキュア)。」(訳文1頁)
そして,前記アの甲8の図6の熱膨張係数のデータの元となったと認められる「芳香族ポリイミドの熱膨張係数 (10^(-5)×単位K^(-1))」との題名の表1(2284頁)には,PPD/BPDAのBifix(二方向固定キュア。審決注:収縮を防止するためにフィルムを固定した場合)が2.6ppm/℃,free(フリーキュア。審決注:フィルムをバネで保持して収縮を妨げなかった場合)が19.0ppm/℃と,ODA/BPDAのBifix が45.6ppm/℃,free が52.0ppm/℃と,ODA/PMDAのBifix が21.6ppm/℃,free が47.8ppm/℃と,それぞれ記載されている。
ウ 前記ア及びイによれば,ポリイミドフィルムの技術分野においては,ポリイミドフィルムを構成する成分として,直線構造を有する化合物(例えば,PPD)を用いると熱膨張係数が小さくなるのに対し,屈曲構造を有する化合物や回転の自由度がある化合物( 例えば,ODA)を用いると熱膨張係数が大きくなることが広く知られており,ポリイミドフィルムの熱膨張係数は,ポリイミドを構成するジアミン成分と酸無水物成分としてどのような化合物を組みあわせるかによって幅広く調節できることが上記技術分野における技術常識であったと認められる。

(3) 本件特許発明9のポリイミドフィルムの特徴等
ア 前記1の本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば,本件特許発明9は,寸法安定性に優れ,ファインピッチ回路基板,特にフィルム幅方向に狭ピッチに配線されるCOF用に好適なポリイミドフィルムに関する。
従来,フィルムのTDに狭ピッチで配線すると,TDの熱膨張係数が大きいとチップ実装ボンディング時等で配線間の寸法変化が大きくなり,これに対応するために,フィルムの熱膨張係数をシリコンに近似させるほどに小さくすると,銅との熱膨張差異のためチップ実装のボンディング時をはじめとする加熱される工程によりひずみが生じるという問題があった。この課題を解決するために,本件特許発明9は,金属に近似した熱膨張係数を保持しつつ,フィルムTDの寸法変化を低減させることができるCOF用等のファインピッチ回路用基板に好適なポリイミドフィルムを提供することを目的とするものである(段落【0002】,【0005】,【0007】)。
当該課題を解決する手段として,本件特許発明9は,フィルムのTDへの配向を進ませることで,この方向の熱膨張係数を低く抑えることができ,かつMDの熱膨張係数は金属に近似した値を持ち,「フィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「幅方向(TD)の熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とする構成を採用することにより,COF用等のファインピッチ回路用基板に好適なポリイミドフィルムとなるという効果を奏するものである(段落【0008】,【0011】,【0039】)。このように,本件特許発明9の特徴は,熱膨張係数α_(MD)と熱膨張係数α_(TD)をそれぞれ異なる特定の範囲とすることにあるということができる。
イ そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,ポリイミドフィルムを製造する方法について,芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とを有機溶媒中で重合したポリアミック酸溶液を,熱的に脱還化脱溶媒させてポリイミドフィルムを得る方法である「熱イミド化」,または環化触媒及び脱水剤を混合し化学的に脱還化させてゲルフィルムを作成しこれを加熱脱溶媒することによりポリイミドフィルムを得る方法である「化学イミド化」によって,ポリイミドフィルムを得ることができるが,化学イミド化の方が熱膨張係数を低く抑えることができるので好ましいと記載されている(段落【0012】,【0024】)。
また,「化学イミド化」によりフィルムを製造する場合には,環化触媒及び脱水剤を含むポリアミック酸溶液を,スリット状口金を通して加熱した支持体上に流延し,支持体上で熱閉環反応させて,自己支持性を有するゲルフィルムとして支持体から剥離した後,当該ゲルフィルムを,MDに,140℃以下の温度で1.01?1.9倍延伸した後,TDには,この時のMDの延伸倍率の1.1?1.5倍高く設定した延伸を行うことにより,MDには金属に近似した熱膨張係数を保持しつつ,TDには低い熱膨張係数を有するフィルムを製造することができることが記載されている(段落【0029】?【0036】)。
そして,実施例として,化学イミド化により,PPD/4,4’-ODAとBPDA/PMDAの4成分(実施例1?10),または,PPD/3,4’-ODAとBPDA/PMDAの4成分(実施例11?15)を含むゲルフィルムとし,MDに1.1倍,TDに1.5倍延伸してポリイミドフィルムを製造したところ,本件発明9の熱膨張係数を満たし,「フィルムTDの寸法変化率」と「カール(サンプルを平坦な場所に静置した際の,サンプルの端部の床からの反り上がり量)」が少ないポリイミドフィルムであったことが示されている(段落【0058】?【0066】)。
比較例1,2では,化学イミド化により,実施例1?10と同じ4成分を用いて,各成分の比率や延伸倍率を変えてポリイミドフィルムを製造したところ,本件発明9の熱膨張係数を満たさないものとなり,その結果,フィルムTDの寸法変化率とカールが大きいことが示されている(段落【0067】?【0069】)。
ウ 以上の記載からみると,本件特許発明9の効果を達成するためには,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」であるポリイミドフィルムを製造することを要し,上記熱膨張係数とするための原料として,実施例において用いられた5つの成分を選択肢とする「PPD,4,4’-ODAおよび3,4’-ODAからなる群から選ばれる1以上の芳香族ジアミン成分と,PMDAおよびBPDAからなる群から選ばれる1以上の酸無水物」が本件特許発明9において特定されたものであるということができる。
そうすると,本件特許発明9のポリイミドフィルムを当業者が製造することができるというためには,本件特許明細書の記載及び前記(2)ウの技術常識等に基づいて,本件特許発明9において特定された芳香族ジアミン成分から1以上,及び酸無水物成分から1以上を選択して組み合わせることにより,本件発明9所定の熱膨張係数を有するポリイミドフィルムを製造することができることを要するというべきである。

(4) PPD/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについて
ア 熱イミド化による製造方法について
(ア) 前記(2)ア及びイのとおり,甲8の図6及び甲10の表1には,熱イミド化により製造したPPD/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの熱膨張係数について,自己支持性フィルムを加熱する際に,収縮を防止するためにフィルムを固定した場合(Bifix)は2.6ppm/℃,フィルムをバネで保持して収縮を妨げなかった場合(Free)は19.0ppm/℃であったことが記載されている。
したがって,熱イミド化によるPPD/BPDAの2成分系フィルムは,自己支持性フィルムとした後の加熱時に固定するか,固定しないかによって,2.6?19.0ppm/℃の範囲で調節できることが理解できる。
(イ) 乙8?11及び職権で調査した文献の記載内容について
a 乙8には,概ね,次の記載があり,熱イミド化によるPPD/BPDAの2成分系フィルムの熱膨張係数として,11ppm/℃(実施例1)のポリイミドフィルムが得られたことが開示されている。
「【請求項1】 3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸,ピロメリット酸,3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸,3,3’,4,4’-ジフェニルエ-テルテトラカルボン酸またはこれらの酸の二無水物のいずれかの芳香族テトラカルボン酸成分とp-フェニレンジアミン,またはp-フェニレンジアミンとジアミノジフェニルエ-テル,ジアミノジフェニルメタン,あるいは2,2-ビス(アミノフェニル)プロパンとの混合系から選ばれる芳香族ジアミン成分とから得られる,30?300℃の線膨張係数が0.4×10^(-5)?2.0×10^(-5)cm/cm/℃であるポリイミドフィルムを加熱し,金属薄膜を形成するに際し,(イ)200?600℃に加熱して真空蒸着するか,あるいは(ロ)200?450℃に加熱してスパッタリングすることによって,厚さ200?20000オングストロ-ムの金属薄膜を形成することを特徴とするポリイミドフィルムに金属薄膜を形成する方法。」
「【0014】
【実施例】以下にこの発明の実施例を示す。
実施例1
3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物およびp-フェニレンジアミンを等モル使用して,N-メチル-2-ピロリドン中,30℃で2時間重合して,対数粘度(濃度:0.5g/100ml溶媒,溶媒:N-メチル-2-ピロリドン,測定温度:30℃)が3.5の芳香族ポリアミック酸を生成させた。その重合液は,ポリマ-濃度が25重量%であり,100℃の溶液粘度が約3000ポイズであった。このポリアミック酸溶液を使用して,溶液流延法(製膜温度:90℃)で,支持体上に前記の溶液の薄膜を形成し,約110℃の温度で溶媒を徐々に蒸発して除去して,溶媒が約15重量%含有されている芳香族ポリアミック酸の固化膜を形成し,その固化膜を支持体から剥離して,約200℃の温度で30分間,約300℃で15分間,約450℃で15分間加熱してイミド化を行って,厚さ約50μmの芳香族ポリイミドフィルムを形成
した。
【0015】この芳香族ポリイミドフィルムは,次の各物性値を有していた。
線膨張係数(30?300℃):1.1×10^(-5)cm/cm/℃」
b 乙9には,熱イミド化によるPPD/BPDAの2成分系フィルムの熱膨張係数として,22.5ppm/℃(実施例1),22.3ppm/℃(実施例2),15.4ppm/℃(比較例1)のポリイミドフィルムがそれぞれ得られたことが開示されている。
c 乙10には,熱イミド化によるPPD/BPDAの2成分系フィルムの熱膨張係数として,12.0ppm/℃(実施例1),11.4ppm/℃(実施例2),12.3ppm/℃(実施例3),21.0ppm/℃(実施例4),19.5ppm/℃(実施例5)のポリイミドフィルムがそれぞれ得られたことが開示されている。
d 乙11には,概ね,次の記載があり,熱イミド化によるPPD/BPDAの2成分系フィルムの熱膨張係数として,18ppm/℃(MD)及び20ppm/℃(TD)(実施例1),16ppm/℃(MD)及び17ppm/℃(TD)(実施例2),10ppm/℃(MD)及び18ppm/℃(TD)(実施例3),11ppm/℃(MD)及び13ppm/℃(TD)(実施例4),14ppm/℃(MD)及び12ppm/℃(TD)(実施例5)のポリイミドフィルムがそれぞれ得られたことが開示されている。
「特許請求の範囲
1 ビフエニルテトラカルボン酸類とフエニレンジアミン類とを重合して生成したポリマーの溶液から得られた芳香族ポリイミド製のフイルムであり,そのポリイミドフイルムは,約50℃から300℃までの温度範囲での平均線膨張係数が,約0.1×10^(-5)?2.5×10^(-5)cm/cm・℃であつて,しかもフイルムの長手方向(MD 方向)と横断方向(TD 方向)との線膨張係数の比(MD/TD)が,約1/5?4程度であり,さらに,常温から400℃まで昇温し,400℃の温度に2時間維持する加熱を行つた前後の常温でのフイルムの寸法の変化率で示す熱寸法安定性が,約0.3%以下であることを特徴とする寸法安定なポリイミドフイルム。
2 ビフエニルテトラカルボン酸類とフエニレンジアミン類とを有機極性溶媒中で重合して得られたポリマーの溶液を調製し,次いで,そのポリマー溶液を使用して,支持体表面に,前記溶液の薄膜を形成し,その薄膜を乾燥して,前記溶媒及び生成水分が約27?60 重量%残存している固化フイルム状体を形成し,さらに,その固化フイルム状体を前記支持体表面から剥離し,100g/mm^(2) 以下の低張力下および約80?250℃の範囲内の温度で乾燥して,前記溶媒及び生成水分が約5?25 重量%の範囲内で含有されている固化フイルムを形成し,最後に,前記固化フイルムを,前記乾燥温度より高い200?500℃の範囲内の温度で,少なくとも一対の両端縁を固定した状態で,乾燥・熱処理することを特徴とする寸法安定なポリイミドフイルムの製法。」(1頁1欄1行?2欄8行)
「[本発明の要件および作用効果]
…そのポリマー溶液から支持体表面に形成された薄膜などの乾燥を,支持体上と,支持体から剥離された後の固化フィルム状体の低張力下とで,二段階で行うことにより,特定の低線膨張係数,熱寸法安定性などを同時に有している優れた芳香族ポリイミドフィルムが得られることを見出し,この発明を完成した。」(2頁3欄20?35行)
「この発明の方法では,前述のドープ液の調製に続いて,
(a) 前記ドープ液を使用し,好ましくは連続的または断続的に,公知の溶液流延法などで,平滑な表面を有する金属製のドラムまたはベルトなどの支持体の表面に,均質な厚さの前記ドープ液の薄膜を形成し,
(i) 好ましくは約40?180℃,特に好ましくは50?150℃の乾燥温度で,薄膜の溶媒及び生成水分を徐々に蒸発させて,その薄膜を前記支持体上で乾燥して,前記溶媒及び生成水分が,約27?60 重量%,好ましくは30?50重量%残存している固化フイルム状体を形成し,
(b) 次いで,その固化フイルム状体を,前記支持体の表面から剥離し,
(i) 100g/mm^(2 )以下,好ましくは80g/mm^(2) 以下である『実質的にフリーな状態ないしは前記上限までの低張力下』,および
(ii) 約80?250℃,好ましくは100?230℃の範囲内の乾燥温度で,好ましくは約1?200 分間,特に2?100 分間乾燥して,
前記溶媒及び生成水分が,約5?25 重量%,好ましくは10?23重量%の範囲内で含有されている固化フイルムを,好ましくは連続的または断続的に,形成するのである。
前述の第1段階の乾燥温度から第2段階の乾燥温度に昇温する際には,比較的短時間に昇温することが好ましく,例えば,10℃/分以上の昇温速度であることが好適である。
この発明の方法においては,前記の固化フイルム状体を支持体から剥離した後に乾燥する際に固化フイルム状体に対して加えられる張力を増大することによつて,最終的に得られるポリイミドフイルムの平均線膨張係数を小さくすることができ,この平均線膨張係数を前述の範囲内において希望する値に調節することができる。」(4頁7欄28行?8欄24行)
「実施例1
(ドープ液の調製)
50lの内容積の筒型重合槽に,…3,3’,4,4’-ビフエニルテトラカルボン酸二無水物…パラフエニレンジアミン…を徐々に添加し,…両成分を重合させてポリアミツク酸を生成した。…
(製膜)
このポリアミツク酸溶液を製膜用のドープ液として使用し,そのド-プ液をTダイ金型のスリツト…から約30℃で薄膜状に押出して,平滑な金属ベルト上に連続的にそのドープ液の薄膜を載置し,…第1段階の乾燥をして,固化フイルム状体を形成した。次いで,その固化フイルム状体をベルトから剥離して,縦横の長さ200mmに切断して,その固化フイルム状体の正方形片の片側の1辺をピンシートで枠に固定し,その反対側の辺の全幅にわたつてダンサーで均一に約35gの荷重を加える低張力下…にして,その状態で約30秒で190℃まで昇温し190℃の温度で5分間,第2段階の乾燥をして固化フイルムとなし,最後にその固化フイルムの正方形の四辺をピンテンターで保持し固定して,その固化フイルムを約10℃/min の昇温速度で昇温し,450℃で30分間,乾燥・熱処理(イミド化)して,厚さ25μmの芳香族ポリイミドフイルムを製造した。」(5頁10欄16行?6頁11欄6行)
「実施例2
実施例1と同様の方法で製造したポリアミツク酸溶液を製膜用のドープ液として使用し,そのドープ液をTダイ金型のスリツト(リツプ間隔;0.5mm,リツプ巾;650mm)から約30℃で薄膜状に押出して,平滑な金属ベルト上に連続的にそのドープ液の薄膜を載置し,そのベルト上で約120℃の熱風で薄膜を第1段階の乾燥をして,固化フイルム状体を連続的に形成し,次いで,その固化フイルム状体をベルトから剥離して,その固化フイルム状体をダンサーによる低張力下(第1表に示す)に縦型炉内(乾燥温度180℃)へ供給し約4分間で通過させ,第2段階の乾燥をして固化フイルムを形成し,続いて,その固化フイルムを高温加熱炉内へ供給し,その炉内でフイルムの長手方向の両端縁を横型テンターで保持して移動させながら約250 から450℃までしだいに高くなる熱風で乾燥・熱処理およびイミド化して,芳香族ポリイミドフイルムを連続的に形成し,最後にそのフイルムを冷却しながらロール状に巻き取つた。」(6頁11欄19?38行)
「実施例3
製膜工程の第2段階の乾燥において,固化フイルム状体への張力を40g/mm^(2)としたほかは,実施例2と同様の方法で製膜して,厚さ25μmの芳香族ポリイミドフイルムを製造した。」(6頁12欄14?18行)
「実施例4
製膜工程の第2段階の乾燥において,固化フイルム状体の長手方向の両端縁を約80g/mm^(2)になるように一定間隔で保持しながら,乾燥したほかは,実施例2と同様の方法で製膜して,厚さ25μmの芳香族ポリイミドフイルムを製造した。」(6頁12欄33?38行)
「実施例5
高温熱処理炉内での横型ピンテンターの幅をしだいに広くし炉の最高温度ゾーンにおいて炉の入口の幅に対して約1.04 倍としたほかは,実施例2と同様にして,芳香族ポリイミドフイルムを製造した。」(7頁14欄1?6行)
そして,比較例1,2も,実施例1と同じポリアミック酸を用いて製膜条件を種々変更してフィルムを製造したものであるが,実施例1?5及び比較例1,2のフィルムの熱膨張係数が,第1表に記載されている。


」(7頁第1表)
e また,職権で調査したところによれば,特許第3346228号公報(公開日:平成11年2月2日。以下,「特許公報e」という。)には,熱イミド化によるPPD/BPDAの2成分系フィルムの熱膨張係数として,9.8ppm/℃(実施例1),12.3ppm/℃(実施例3),13.1ppm/℃(実施例5)のポリイミドフィルムがそれぞれ得られたことが開示されている。
f 同じく,特許第2573595号公報(公開日:昭和63年9月14日。以下,「特許公報f」という。)には,概ね,次の記載があり,熱イミド化によるPPD/BPDAの2成分系フィルムの熱膨張係数として,23ppm/℃(比較例1)のポリイミドフィルムが得られたことが開示されている。
「比較例1 500ml 四つ口フラスコにパラフェニレンジアミン26.78g を採取し,245.00g のN,N-ジメチルアセトアミドを加え溶解した。他方,100ml ナスフラスコに3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物18.22g を採取し,前記パラフェニレンジアミン溶液中に固形状で添加した。さらに,このナスフラスコ内に付着残存する3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を10.00g のN,N-ジメチルアセトアミドで反応系(四つ口フラスコ)内へ流し入れた。引き続き3時間撹拌を続け,15 重量%のポリアミド酸溶液を得た。反応温度は,5-10℃に保った。但し以上の操作で3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の取り扱いおよび反応系内は乾燥窒素気流下に置いた。次にこのポリアミド酸溶液をガラス板状に流延塗布し,100℃で10分間乾燥後,ポリアミド酸塗膜をガラス板より剥し,その塗膜を支持枠に固定し,その後100℃で約30 分間,約200℃で約60 分間,約300℃で約60 分間加熱し,脱水閉環乾燥後約25 ミクロンのポリイミド膜を得た。この膜の特性を表1に示す。
比較例2 比較例1と同様にして得られたポリアミド酸溶液に,ポリアミド酸溶液のアミド結合1モルに対して,無水酢酸4モル,イソキノリン0.5 モルを加え,より撹拌した後,ガラス板状に流延塗布し約100℃で約10 分間,約250℃で約10 分間,約350℃で約5分間加熱し,その後ガラス板より剥離し,約25 ミクロンのポリイミド膜を得た。この膜の特性を表1に示す。」(4頁8欄4?31行)
そして,表1には,比較例1(熱イミド化)の線膨張係数が2.3×10^(-5)(23ppm/℃),比較例2(化学イミド化)の線膨張係数が2.0×10^(-5)(20ppm/℃)であることがそれぞれ記載されている。
(ウ) 前記(イ)によれば,熱イミド化によるPPD/BPDAの2成分系フィルムの熱膨張係数は,乙8?11及び特許公報eにはおおよそ10?20ppm/℃であることが,また,特許公報fの比較例1には23ppm/℃であることが記載されている。
特に,前記(イ)dのとおり,乙11には,乾燥する際に固化フィルム状体へかけるMDとTDの張力等を調節して,熱膨張係数を1?25ppm/℃の範囲とし,熱膨張係数の比(MD/TD)を約1/5?4程度に制御することが記載され(特許請求の範囲),実施例3において,10ppm/℃(MD)及び18ppm/℃(TD)の異方性の熱膨張係数を有するフィルムを製造している。また,実施例5では,高温熱処理炉内で横型ピンテンターの幅をしだいに広くし炉の最高温度ゾーンにおいて炉の入口の幅に対して約1.04倍としたほかは,実施例2と同様にして製造した結果,実施例2の16ppm/℃(MD)及び17ppm/℃(TD)が,実施例5では14ppm/℃(MD)及び12ppm/℃(TD)と,両方向とも小さくなったことが記載されている。
そうすると,熱イミド化によりPPD/BPDAの2成分系フィルムを製造するに当たり,甲8及び甲10に記載されているように加熱時に固定化(Bifix)するかバネで保持するか(Free)という「見掛けの延伸操作」による調節,又は,乙11に記載されているように乾燥時にフィルムにかける張力をMD,TDそれぞれに調節することや熱処理中に横側ピンテンターの幅を広くすること等により,熱膨張係数を2.6?20ppm/℃又は23ppm/℃程度の範囲とすることは,本件出願当時における周知の技術であったということができる。
したがって,PPD/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについて,熱膨張係数を2.6?20ppm/℃の範囲内の数値である,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができる。
イ 化学イミド化による製造方法について
前記ア(イ)fのとおり,特許公報fの比較例2には,化学イミド化によるPPD/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの熱膨張係数が20ppm/℃であることが記載されていることから,化学イミド化によるポリイミドフィルムも,熱イミド化によるものとおおよそ同程度の熱膨張係数を有するものを得ることができることが認められる。
そして,前記1のとおり,本件特許明細書には,化学イミド化によるフィルムは延伸を施すことにより熱膨張係数を小さくできることが具体的に記載されているから,PPD/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムを,化学イミド化により製造し,MD及びTDに適切な延伸を行うことにより本件特許発明9の熱膨張係数の範囲とすることは,当業者が実施可能であったというべきである。
ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人は,被請求人がPPD/BPDAの2成分系フィルムの熱膨張係数として10?20ppm/℃を実現できることが技術常識であることの根拠とする,乙2?5(請求人の販売製品),乙8?11は,請求人が独自に開発した熱イミド化法により製造され,その製造には,請求人のした特許出願に記載されない多くのノウハウを必要とするから,請求人の販売製品及び特許出願における熱膨張係数を,本件出願当時の技術常識の根拠とすることはできない旨主張する。
しかし,請求人は,乙8?11の記載からは,各証拠に記載された熱膨張係数を有するポリイミドフィルムを製造できないことの理由として,請求人のした特許出願に記載されない多くのノウハウを必要とすると主張するのみで,その具体的な内容について何らの主張立証もしない。そして,上記乙8?11の各公報には,熱膨張係数が10?20ppm/℃であるポリイミドフィルムを製造するための詳細な製造条件が記載されているから,これら公報の記載内容を本件出願当時の技術常識とすることについて問題があるとすることはできない。
したがって,請求人の上記主張は採用することができない。
(イ) 請求人は,甲13によれば,熱イミド化されたポリイミドフィルムは,化学イミド化されたポリイミドフィルムと比べて,延伸に適さない性質を有するとともに(段落【0018】,【0019】),熱イミド化によるゲルフィルムの乾燥が進んで固形分濃度が60重量%以上になると延伸が困難になり,走行方向に1.05倍延伸すると後続の幅方向の延伸はゲルフィルムの破断のため不可能であるとされているところ(段落【0026】),被請求人の引用する乙8?11は,いずれも熱イミド化法によってイミド化されたものであり,しかも,固形分濃度が60%以上であるから,本件特許明細書の実施例における,MDへの1.1?1.5倍という延伸倍率を適用して,本件特許発明9の熱膨張係数の範囲とすることはできない旨主張する。
そこで検討するに,甲13には,「【0018】熱閉環法は閉環触媒および脱水剤を含有せしめる設備を必要としない利点はあるが,自己支持性を有するゲルフィルムとするために支持体上で長時間加熱乾燥をする必要があり,支持体より剥離されたゲルフィルムの固形分の比率が大きくなりすぎ,安定した延伸ができないため,本発明に使用するには適当ではない。」,「【0019】一方化学閉環法はポリアミド酸の有機溶媒溶液に閉環触媒および脱水剤を含有せしめる設備を必要とするが,自己支持性を有するゲルフィルムが短時間で得られ,しかも支持体から剥離されたゲルフィルムの固形分の比率を小さく維持できることから高度の延伸ができ,本発明を実施するのに好適なポリイミドフィルムの製造方法である。閉環触媒および脱水剤の含有量を減少させた熱閉環法に近付いたポリイミドフィルムの製造方法は閉環触媒および脱水剤を含有せしめていることから化学閉環法といえる。」,との記載があり,これに続く記載はすべて化学閉環法に基づく製法が記載されているから,段落【0026】の「ゲルフィルムの延伸性はその固形分濃度に強く影響され,ゲルフィルムの乾燥が進んで固形分濃度が60重量%になると延伸が困難になり,走行方向に1.05倍延伸すると後続の幅方向の延伸はゲルフィルムの破断のため不可能であることから,成型されて支持体から剥離されたゲルフィルムの固形分濃度は50重量%以下にする必要があり,…。」との記載も,甲13の発明である化学イミド化によるポリイミドフィルムの製造方法に関する記載であることは明らかである。
したがって,この段落【0026】の記載は,前記ア(イ)で説示した熱イミド化によるポリイミドフィルムの製造方法に関する乙8?11の該当部分に適用されるものではない上,実際に乙8?11において,熱イミド化により,PPD/BPDAの2成分系フィルムの熱膨張係数として10?20ppm/℃を実現できているのであるから,請求人の上記主張は採用することができない。

(5) PPD/PMDA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについて
前記(2)ウのとおり,ポリイミドフィルムの熱膨張係数は,ポリイミドを構成するジアミン成分と酸無水物成分としてどのような化合物を組みあわせるかによって幅広く調節できることが上記技術分野における技術常識であったと認められるところ,前記(4)のとおり,PPD/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについて,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができるのであるから,酸無水物成分としてPMDAとBPDAとを併用してなるPPD/PMDA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについても,例えば,PMDAとBPDAとの配合割合を調整するなどして,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができる。

(6) PPD/4,4’-ODA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについて
ア 前記(2)ウのとおり,ポリイミドフィルムの熱膨張係数は,ポリイミドを構成するジアミン成分と酸無水物成分としてどのような化合物を組みあわせるかによって幅広く調節できることが上記技術分野における技術常識であったと認められ,直線構造を有する化合物(例えば,PPD)を用いると熱膨張係数が小さくなるのに対し,屈曲構造を有する化合物や回転の自由度がある化合物( 例えば,ODA)を用いると熱膨張係数が大きくなることが広く知られているところ,甲8及び甲10によれば,熱イミド化によるPPD/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの熱膨張係数が2.6ppm/℃であるものが記載されており,他方,熱イミド化による4,4’-ODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの熱膨張係数が45.6ppm/℃であるものが記載されている。
イ そうすると,ジアミン成分としてPPDと4,4’-ODAとを併用してなるPPD/4,4’-ODA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについても,例えば,PPDと4,4’-ODAとの配合割合を調整するなどして,熱膨張係数を2.6?45.6ppm/℃の範囲内の数値である,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができる。

(7) PPD/4,4’-ODA/PMDA/BPDAの4成分系ポリイミドフィルム,PPD/4,4’-ODA/3,4’-ODA/BPDAの4成分系ポリイミドフィルム及びPPD/4,4’-ODA/3,4’-ODA/PMDA/BPDAの5成分系ポリイミドフィルムについて
前記(2)ウのとおり,ポリイミドフィルムの熱膨張係数は,ポリイミドを構成するジアミン成分と酸無水物成分としてどのような化合物を組みあわせるかによって幅広く調節できることが上記技術分野における技術常識であったと認められるところ,前記(6)のとおり,PPD/4,4’-ODA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについて,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができるのであるから,さらに,酸無水物成分としてPMDAとBPDAとを併用してなるPPD/4,4’-ODA/PMDA/BPDAの4成分系ポリイミドフィルム,ジアミン成分としてPPDと4,4’-ODAと3,4’-ODAとを併用してなるPPD/4,4’-ODA/3,4’-ODA/BPDAの4成分系ポリイミドフィルム,あるいは酸無水物成分としてPMDAとBPDAとを併用しかつジアミン成分としてPPDと4,4’-ODAと3,4’-ODAとを併用してなるPPD/4,4’-ODA/3,4’-ODA/PMDA/BPDAの5成分系ポリイミドフィルムについても,例えば,PPDと4,4’-ODAとの配合割合を調整することに加えて,さらにPMDAとBPDAとの配合割合を調整したり,あるいは3,4’-ODAの配合割合を調整するなどして,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができる。
実際のところ,PPD/4,4’-ODA/PMDA/BPDAの4成分系ポリイミドフィルムについては,本件特許明細書の実施例1?10において,それらの原料割合や延伸倍率等の製造条件が具体的に記載されていることから,少なくとも,それら実施例の近傍の部分においては,当業者が実施可能であったということができる。

(8) PPD/3,4’-ODA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルム及びPPD/3,4’-ODA/PMDA/BPDAの4成分系ポリイミドフィルムについて
PPD/3,4’-ODA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについて検討すると,前記(4)のとおり,PPD/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについて,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができるのであるから,ジアミン成分としてPPDと3,4’-ODAとを併用してなるPPD/3,4’-ODA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについても,例えば,PPDと3,4’-ODAとの配合割合を調整するなどして,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができる。
そして,PPD/3,4’-ODA/PMDA/BPDAの4成分系ポリイミドフィルムについて検討すると,上記のとおり,PPD/3,4’-ODA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについて,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができるのであるから,さらに,酸無水物成分としてPMDAとBPDAとを併用してなるPPD/3,4’-ODA/PMDA/BPDAの4成分系ポリイミドフィルムについても,例えば,PPDと3,4’-ODAとの配合割合を調整することに加えて,さらにPMDAとBPDAとの配合割合を調整するなどして,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができる。また,前記(5)のとおり,PPD/PMDA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについて,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということができるのであるから,ジアミン成分としてPPDと3,4’-ODAとを併用してなるPPD/3,4’-ODA/PMDA/BPDAの4成分系ポリイミドフィルムについても,例えば,PMDAとBPDAとの配合割合を調整することに加えて,さらにPPDと3,4’-ODAとの配合割合を調整するなどして,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということもできる。
実際のところ,PPD/3,4’-ODA/PMDA/BPDAの4成分系ポリイミドフィルムについては,本件特許明細書の実施例11?15において,それらの原料割合や延伸倍率等の製造条件が具体的に記載されていることから,少なくとも,それら実施例の近傍の部分においては,当業者が実施可能であったということができる。

(9) 4,4’-ODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについて
ア 甲8及び甲10によれば,4,4’-ODA/BPDAから製造される熱イミド化によるポリイミドフィルムは,熱膨張係数が小さくなるBifix の条件においても,熱膨張係数の数値は,45.6ppm/℃であることが記載されている。
上記各文献に記載された熱膨張係数は,本件特許発明9の熱膨張係数の範囲と比べると相当程度大きい数値である。
イ 一般に,膜厚を薄くすると熱膨張係数が小さくなることが知られているから(甲9。訳文1頁),甲8及び甲10のような熱イミド化によるポリイミドフィルムにおいて,膜厚を薄くすることでさらに熱膨張係数を下げることが可能であるとはいえるものの,どの程度まで下げることができるのかについて,本件特許明細書には具体的な指摘がされていない。
また,熱イミド化によるポリイミドフィルムの場合には,固形分量が多くなり延伸することが困難とされている(甲13の段落【0018】)。そして,乙11の実施例5のように,約1.04倍程度の延伸が可能であるとしても,45.6ppm/℃の熱膨張係数を3?7ppm/℃という低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件特許明細書にも何ら具体的な指摘がない。
さらに,4,4’-ODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムを化学イミド化により製造して,膜厚や延伸倍率等を調節したとしても,3?7ppm/℃という低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件特許明細書にも何ら具体的な指摘がない。
被請求人は,この点について,ポリイミドフィルムについて最終的に得られる熱膨張係数は,延伸倍率に大きく影響されるほかに,延伸に際しての,溶媒含量,温度条件,延伸速度等多くの条件に影響され,またフィルムの厚さにも影響されることが甲9に記載されているから,4,4’-ODA/BPDAの2成分系について,甲8のデータのみに基づいて,本件特許発明9の熱膨張係数の数値範囲を実現することができないと断定することはできない旨主張する。
しかし,本件特許明細書は,具体的に溶媒含量,温度条件,延伸速度等をどのように制御すれば熱膨張係数が本件特許発明9の程度まで小さくできるのかについて具体的な指針を何ら示していない。
本来,実施可能要件の主張立証責任は出願人である被請求人にあるにもかかわらず,被請求人は,本件特許発明9の熱膨張係数の範囲を充足する4,4’-ODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの製造が可能であることについて何ら具体的な主張立証をしない。
したがって,本件特許明細書の記載及び本件出願当時の技術常識を考慮しても,4,4’-ODA/BPDAの2成分系フィルムについては,本件特許発明9の熱膨張係数の範囲とすることは,当業者が実施可能であったということはできない。(上記取消判決の拘束力)

(10) 4,4’-ODA/PMDAの2成分系ポリイミドフィルムについて
ア 甲8及び甲10によれば,4,4’-ODA/PMDAから製造される熱イミド化によるポリイミドフィルムは,熱膨張係数が小さくなるBifix の条件においても,熱膨張係数の数値は,21.6ppm/℃であることが記載されている。
また,甲13には,4,4’-ODA/PMDAから化学イミド化によるポリイミドフィルムを製造した際に,延伸倍率やニップロール使用の有無等の条件を変えることにより,実施例1?3及び比較例1?3について,甲13の表1のとおり,平均熱膨張係数として27.5?40.0ppm/℃であったことが記載されている(段落【0044】,【0047】?【0059】,【表1】)。
上記各文献に記載された熱膨張係数は,本件特許発明9の熱膨張係数の範囲と比べると相当程度大きい数値である。
イ 前記(9)のとおり,一般に,膜厚を薄くすると熱膨張係数が小さくなることが知られているから,熱イミド化によるポリイミドフィルムにおいて,膜厚を薄くすることでさらに熱膨張係数を下げることが可能であるとはいえるものの,どの程度まで下げることができるのかについて,本件特許明細書には具体的な指摘がされていない。
また,熱イミド化によるポリイミドフィルムの場合には,固形分量が多くなり延伸することが困難とされている。そして,21.6ppm/℃の熱膨張係数を3?7ppm/℃という低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件特許明細書にも何ら具体的な指摘がない。
さらに,4,4’-ODA/PMDAの2成分系ポリイミドフィルムを化学イミド化により製造して,膜厚や延伸倍率等を調節したとしても,3?7ppm/℃という低い数値まで下げることが可能であるとする根拠はなく,本件特許明細書にも何ら具体的な指摘がない。
本来,実施可能要件の主張立証責任は出願人である被請求人にあるにもかかわらず,被請求人は,本件特許発明9の熱膨張係数の範囲を充足する4,4’-ODA/PMDAの2成分系ポリイミドフィルムの製造が可能であることについて何ら具体的な主張立証をしない。
したがって,本件特許明細書の記載及び本件出願当時の技術常識を考慮しても,4,4’-ODA/PMDAの2成分系フィルムについては,本件特許発明9の熱膨張係数の範囲とすることは,当業者が実施可能であったということはできない。

(11) 4,4’-ODA/PMDA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについて
前記(9)?(10)のとおり,4,4’-ODA/BPDAの2成分系フィルム及び4,4’-ODA/PMDAの2成分系ポリイミドフィルムについて,共に,熱膨張係数の値が本件特許発明9の熱膨張係数の範囲と比べると相当程度大きい数値であることから,本件特許発明9の熱膨張係数の範囲とすることは,当業者が実施可能であったということはできない。そうすると,酸無水物成分としてPMDAとBPDAとを併用してなる4,4’-ODA/PMDA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムについても,PMDAとBPDAとの配合割合を如何に調整したとしても,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということはできない。

(12) その他のジアミン成分及び酸無水物成分の組み合わせのポリイミドフィルムについて
前記(4)?(11)以外のジアミン成分及び酸無水物成分の組み合わせのポリイミドフィルム(以下,単に「その他のポリイミドフィルム」という。)について検討すると,その他のポリイミドフィルム(例えば,PPD/PMDAの2成分系ポリイミドフィルム,3,4’-ODA/PMDAの2成分系ポリイミドフィルム,3,4’-ODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルム,PPD/4,4’-ODA/PMDAの3成分系ポリイミドフィルム,PPD/3,4’-ODA/PMDAの3成分系ポリイミドフィルム,4,4’-ODA/3,4’-ODA/PMDAの3成分系ポリイミドフィルムあるいは4,4’-ODA/3,4’-ODA/BPDAの3成分系ポリイミドフィルムなど)については,それらのポリイミドフィルムの熱膨張係数がどの程度の範囲の値であるのか,本件特許明細書には記載されていないし,そもそも,提示された証拠をもってしても,それらの値が不明である。
そうすると,斯かる熱膨張係数の値が不明であるポリイミドフィルムを如何に延伸したり,膜厚を薄くしたり,使用するジアミン成分と酸無水物成分との配合割合を調整したところで,「熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とすることは,当業者が実施可能であったということはできない。
本来,実施可能要件の主張立証責任は出願人である被請求人にあるにもかかわらず,被請求人は,本件特許発明9の熱膨張係数の範囲を充足するその他のポリイミドフィルムの製造が可能であることについて何ら具体的な主張立証をしない。
したがって,本件特許明細書の記載及び本件出願当時の技術常識を考慮しても,その他のポリイミドフィルムについては,本件特許発明9の熱膨張係数の範囲とすることは,当業者が実施可能であったということはできない。

(13) 小括
以上によれば,前記(9)?(12)のポリイミドフィルムについては,当業者が,本件特許明細書及び本件出願当時の技術常識に基づいて製造することができるということはできないから,本件特許発明9のポリイミドフィルムは,実施が可能ではないものを含むことになる。そうすると,本件特許発明1?8,10,11についても,実施が可能ではないものを含むこととなるから,本件特許発明について,当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されているということはできない。
したがって,本件特許発明は実施可能要件を充足するとはいえないから,請求人主張の無効理由Aは理由がある。

3 無効理由B(本件発明についてのサポート要件違反)について
(1) 特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載について,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを要件とし,発明の詳細な説明において開示された技術的事項と対比して広すぎる独占権の付与を排除しているのであるから,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

(2) そこで,特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比するに,本件特許発明9の特許請求の範囲の記載は前記第2の【請求項9】のとおりである。そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,前記2(3)のとおり,本件特許発明9は,金属に近似した熱膨張係数を保持しつつ,フィルムTDの寸法変化を低減させることができるCOF用等のファインピッチ回路用基板に好適なポリイミドフィルムを提供することを目的とするものであり(段落【0002】,【0005】,【0007】),当該課題を解決する手段として,フィルムのTDへの配向を進ませることで,この方向の熱膨張係数を低く抑えることができ,かつMDの熱膨張係数は金属に近似した値を持ち,「フィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数α_(MD)が10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲」かつ「幅方向(TD)の熱膨張係数α_(TD)が3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲」とする構成を採用することにより,COF用等のファインピッチ回路用基板に好適なポリイミドフィルムとなるという効果を奏するものであり(段落【0008】,【0011】,【0039】),実施例として,化学イミド化により,PPD/4,4’-ODAとBPDA/PMDAの4成分(実施例1?10),または,PPD/3,4’-ODAとBPDA/PMDAの4成分(実施例11?15)を含むゲルフィルムとし,MDに1.1倍,TDに1.5倍延伸してポリイミドフィルムを製造したところ,本件発明9の熱膨張係数を満たし,「フィルムTDの寸法変化率」と「カール」が少ないポリイミドフィルムであったことが示され(段落【0058】?【0066】),比較例1,2として,化学イミド化により,実施例1?10と同じ4成分を用いて,各成分の比率や延伸倍率を変えてポリイミドフィルムを製造したところ,本件発明9の熱膨張係数を満たさないものとなり,その結果,フィルムTDの寸法変化率とカールが大きいことが(段落【0067】?【0069】),それぞれ記載されている。
そして,前記2(4)?(8)のポリイミドフィルムについては,当業者が,本件特許明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づき,これを実施することができる。そうすると,前記2(4)?(8)のポリイミドフィルムの構成に係る本件特許発明9は,本件特許明細書の記載及び本件出願当時の技術常識により,当業者が本件特許発明9の上記課題を解決できると認識できる範囲のものということができ,サポート要件を充足するというべきである。
しかし,前記2(9)?(12)のポリイミドフィルムについては,当業者が,本件特許明細書の記載及び本件出願当時の技術常識に基づき,これを実施することができない。そうすると,前記2(9)?(12)のポリイミドフィルムの構成に係る本件特許発明9は,本件特許明細書の記載及び本件出願当時の技術常識によっては,当業者が本件特許発明9の上記課題を解決できると認識できる範囲のものということはできず,サポート要件を充足しないというべきである。

(3) 小括
以上によれば,前記2(9)?(12)のポリイミドフィルムの構成に係る本件特許発明9については,サポート要件を充足しないというべきであるから,本件特許発明9のポリイミドフィルムは,サポート要件を充足しないものを含むことになる。そうすると,本件特許発明1?8,10,11についても,サポート要件を充足しないものを含むこととなるから,本件特許発明については,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできない。
したがって,本件特許発明はサポート要件を充足するとはいえないから,請求人主張の無効理由Bは理由がある。



第6 むすび
以上の次第であるから,本件特許発明1ないし11を無効とすべきである。
審判に関する費用については,特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により,被請求人の負担とする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-21 
結審通知日 2015-10-23 
審決日 2015-11-04 
出願番号 特願2010-180128(P2010-180128)
審決分類 P 1 113・ 537- Z (C08J)
P 1 113・ 536- Z (C08J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠大熊 幸治  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 前田 寛之
小野寺 務
登録日 2011-07-08 
登録番号 特許第4777471号(P4777471)
発明の名称 ポリイミドフィルムおよびそれを基材とした銅張積層体  
代理人 齋藤 誠二郎  
代理人 伊藤 克博  
代理人 尾崎 英男  
代理人 今田 瞳  
代理人 増井 和夫  
代理人 日野 英一郎  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 上野 潤一  
代理人 小野 暁子  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ