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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1308828
審判番号 不服2014-12775  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-03 
確定日 2015-12-09 
事件の表示 特願2010-512440「ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂組成物およびこれらからなる成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月7日国際公開、WO2010/113736〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯

本願は、平成22年3月25日(優先権主張 平成21年3月30日)を国際出願日とする特許出願であって、平成26年3月6日付けで拒絶理由が通知され、同年4月21日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書が補正され、同年5月12日付けで拒絶査定がされたところ、これに対して、同年7月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲及び明細書が補正されたので、特許法162条所定の審査がされた結果、同年7月31日付けで同法164条3項の規定による報告がされたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成26年7月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年7月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容

本件補正は、特許請求の範囲の全文及び明細書の【0010】を変更するものであるところ、本件補正前後の特許請求の範囲の記載を掲記すると、それぞれ以下のとおりである。

・本件補正前(平成26年4月21日付け手続補正書)
「【請求項1】
2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.10重量%以下のペンタメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分とし、加熱重縮合することによって得られる、0.01g/mlの98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が1.8?4.5であるポリアミド樹脂であって、ポリアミド樹脂の硫酸相対粘度をX、融点+30℃で1時間溶融滞留させた後の硫酸相対粘度をYとしたとき、Y/Xが1.00以上1.30以下であるポリアミド樹脂。
【請求項2】
ペンタメチレンジアミンが酵素法または発酵法により得られる請求項1記載のポリアミド樹脂。
【請求項3】
融点が200℃以上である請求項1または2記載のポリアミド樹脂。
【請求項4】
炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸がアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、およびドデカン二酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1?3いずれかに記載のポリアミド樹脂。
【請求項5】
請求項1?4いずれかに記載のポリアミド樹脂100重量部に対し、繊維状充填材0.1?200重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
繊維状充填材がガラス繊維および/または炭素繊維である請求項5に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1?4いずれかに記載のポリアミド樹脂100重量部に対して、耐衝撃性改良剤1?100重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1?4いずれかに記載のポリアミド樹脂100重量部に対して、難燃剤1?50重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1?4いずれかに記載のポリアミド樹脂100重量部に対して、主要成分以外のポリアミド樹脂1?40重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1?4いずれかに記載のポリアミド樹脂または請求項5?9いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【請求項11】
成形品が長尺である請求項10に記載の成形品。
【請求項12】
2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.10重量%以下のペンタメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分とした原料を加熱重縮合することによって得られる請求項1?4いずれかに記載のポリアミド樹脂の製造方法。」

・本件補正後
「【請求項1】
2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.05重量%以下のペンタメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分とし、加熱重縮合することによって得られる、0.01g/mlの98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が1.8?4.5であり、融点が200℃以上であるポリアミド樹脂であって、ポリアミド樹脂の硫酸相対粘度をX、融点+30℃で1時間溶融滞留させた後の硫酸相対粘度をYとしたとき、Y/Xが1.00以上1.30以下であるポリアミド樹脂。
【請求項2】
ペンタメチレンジアミンが酵素法または発酵法により得られる請求項1記載のポリアミド樹脂。
【請求項3】
炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸がアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、およびドデカン二酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載のポリアミド樹脂。
【請求項4】
請求項1?3いずれかに記載のポリアミド樹脂100重量部に対し、繊維状充填材0.1?200重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
繊維状充填材がガラス繊維および/または炭素繊維である請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1?3いずれかに記載のポリアミド樹脂100重量部に対して、耐衝撃性改良剤1?100重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1?3いずれかに記載のポリアミド樹脂100重量部に対して、難燃剤1?50重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1?3いずれかに記載のポリアミド樹脂100重量部に対して、主要成分以外のポリアミド樹脂1?40重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1?3いずれかに記載のポリアミド樹脂または請求項4?8いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【請求項10】
成形品が長尺である請求項9に記載の成形品。
【請求項11】
2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.05重量%以下のペンタメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分とした原料を加熱重縮合することによって得られる請求項1?3いずれかに記載のポリアミド樹脂の製造方法。」

2 本件補正の目的

本件補正は、補正前の請求項1に記載された「2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量」について、「0.10重量%以下」を「0.05重量%以下」に限定し、「ポリアミド樹脂」について、「融点が200℃以上である」との特定を付加する補正を含むものである。
そして、請求項1についてする本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると判断される。

3 独立特許要件の有無について

本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、要するに、本件補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)についての検討がなされるべきところ、以下に述べるように、本件補正は当該要件に違反するといわざるを得ない。

すなわち、本願補正発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(なお、引用文献1は、原査定の理由で引用された「引用文献1」と同じである。)。

・引用文献1:特開2003-292614号公報

4 本願補正発明

本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。
「2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.05重量%以下のペンタメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分とし、加熱重縮合することによって得られる、0.01g/mlの98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が1.8?4.5であり、融点が200℃以上であるポリアミド樹脂であって、ポリアミド樹脂の硫酸相対粘度をX、融点+30℃で1時間溶融滞留させた後の硫酸相対粘度をYとしたとき、Y/Xが1.00以上1.30以下であるポリアミド樹脂。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由

(1)引用発明
ア 引用文献1には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】1,5-ジアミノペンタンと炭素数7以上のジカルボン酸を加熱重縮合して得られるポリアミド樹脂であって、前記ポリアミド樹脂の融点+20℃の温度で30分間溶融滞留処理した後の硫酸相対粘度保持率が95%以上であることを特徴とするポリアミド樹脂。
【請求項2】前記ポリアミド樹脂中に含まれる2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が1.5wt%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂。
【請求項3】1,5-ジアミノペンタンが、リジン脱炭酸酵素を有する微生物、リジン炭酸酵素活性の向上した組換え微生物またはその抽出物を用いて、リジンから産出されたものであることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド樹脂。
【請求項4】1,5-ジアミノペンタン中の2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.5wt%以下であることを特徴とする請求項1?3いずれか記載のポリアミド樹脂。」(特許請求の範囲)
(イ)「本発明のポリアミド樹脂は、1,5-ジアミノペンタンと炭素数7以上のジカルボン酸を加熱重縮合して得られる、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得ようとするものであるので、不活性ガス雰囲気下、ポリアミド樹脂の融点+20℃の温度で30分間溶融滞留させた場合の硫酸相対粘度の保持率が、95%以上である。ここで、硫酸相対粘度とは、98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定したときの粘度である。また、硫酸相対粘度保持率とは、溶融滞留させる前のポリアミド樹脂の硫酸相対粘度を100%とした場合に、溶融滞留させた後の硫酸相対粘度が何%保持されているかを表す。従って100%に近いほど、溶融滞留によるポリアミド樹脂の分解が少ないことを示し、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。硫酸相対粘度の保持率が95%未満の場合は、ポリアミド樹脂中に含まれる2,3,4,5-テトラヒドロピリジン、ピペリジンなどの塩基性化合物が多く、ポリアミド樹脂の分解が促進されているため好ましくない。本発明のポリアミドの融点とは、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、溶融状態から20℃/minの降温速度で、ガラス転移温度未満の温度まで降温した後、20℃/minの昇温速度で昇温したときに観測される吸熱ピークの温度と定義する。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークを融点とする。
本発明のポリアミド樹脂中に含まれる2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量は、1.5wt%以下であることが好ましく、さらには1.0wt%以下であることが好ましい。2,3,4,5-テトラヒドロピリジンやピペリジンは、1,5-ジアミノペンタンの分子内脱アンモニア反応によって生成する環状アミンであり、この反応では、アンモニアも生成する。これら3つの化合物は塩基性であるため、ポリアミド樹脂に含まれる量が多いほど、ポリアミド樹脂の分解が促進される。したがって、ポリアミド樹脂中の2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が1.5wt%以下の場合には、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得ることができ、また1.0wt%以下の場合には、さらに溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が、1.5wt%以上である場合には、溶融状態で、ポリアミド樹脂の分解反応が著しく進行するため好ましくない。本発明のポリアミド樹脂は加熱重縮合によって製造されるが、加熱重縮合とは、製造時の最高到達温度を100℃以上に上昇させる製造プロセスと定義する。」(段落0010、0011)
(ウ)「[相対粘度(ηr)]98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
[溶融滞留試験]試験管に試料約5gを仕込み、窒素雰囲気下、融点+20℃の温度のシリコンバスに浸漬し、試料が完全に溶融してから30分間放置した後、試料を回収して相対粘度測定を行った。」(段落0044、0045)
(エ)「参考例2(1,5-ジアミノペンタンの製造)
50mM リジン塩酸塩(和光純薬工業製)、0.1mM ピリドキサルリン酸(和光純薬工業製)、40mg/L-粗精製リジン脱炭酸酵素(参考例1で調製)となるように調製した水溶液1000mlを、0.1N塩酸水溶液でpHを5.5?6.5に維持しながら、45℃で48時間反応させ、1,5-ジアミノペンタン塩酸塩を得た。この水溶液に水酸化ナトリウムを添加することによって1,5-ジアミノペンタン塩酸塩を1,5-ジアミノペンタンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(10mmHg、60℃)することにより、1,5-ジアミノペンタンを得た。GC-MS分析により2,3,4,5-テトラヒドロピリジン、ピペリジンの含量を定量した結果、それぞれ0.20、0.012wt%であった。」(段落0049)
(オ)「参考例4(1,5-ジアミノペンタンと炭素数7以上のジカルボン酸の塩の調製)
参考例2の1,5-ジアミノペンタンの水溶液を、40℃のウォーターバスに浸して撹拌しているところに、炭素数7以上のジカルボン酸(東京化成工業製)を約1gずつ、中和点付近では約0.2gずつ添加していき、ジカルボン酸添加量に対する水溶液のpH変化から中和点を求めた。中和点のpHになるように、1,5-ジアミノペンタンと炭素数が7以上のジカルボン酸の等モル塩の40wt%水溶液を調製した。」(段落0051)
(カ)「実施例2
参考例4で調製した1,5-ジアミノペンタンと1,2-シクロヘキサンジカルボン酸の等モル塩の40wt%水溶液50.0gを試験管に仕込み、オートクレーブに入れて、密閉し、窒素置換した。ジャケット温度を240℃に設定し、加熱を開始した。缶内圧力が17.5kg/cm^(2)に到達した後、缶内圧力を17.5kg/cm^(2)で3時間保持した。その後、ジャケット温度を250℃に設定し、2時間かけて缶内圧力を常圧に放圧した。その後、缶内温度が210℃に到達した時点で、加熱を停止した。室温に放冷後、試験管をオートクレーブから取り出し、ポリアミド樹脂を得た。」(段落0054)
(キ)「【表1】

(段落0059)」

イ 上記(ウ)?(キ)からみて、引用文献1に記載されている実施例2の1,5-ジアミノペンタン中の2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量は、0.20wt%+0.012wt%=0.212wt%であるし、当該実施例2では、1,5-ジアミノペンタンと1,2-シクロヘキサンジカルボン酸の等モル塩の40wt%水溶液を加熱重縮合してポリアミド樹脂を得ているのであるから、得られたポリアミド樹脂の主要成分は1,5-ジアミノペンタンと1,2-シクロヘキサンジカルボン酸であると認められる。そうしてみると、引用文献1には次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.212wt%の1,5-ジアミノペンタンと1,2-シクロヘキサンジカルボン酸を主要成分とし、加熱重縮合することによって得られる、0.01g/mlの98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が2.05であり、融点が200℃であるポリアミド樹脂であって、ポリアミド樹脂の硫酸相対粘度をX、融点+20℃で30分間溶融滞留させた後の硫酸相対粘度をYとしたとき、Y/Xが0.96であるポリアミド樹脂。」

(2)対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「1,5-ジアミノペンタン」、「1,2-シクロヘキサンジカルボン酸」は、それぞれ本願補正発明の「ペンタメチレンジアミン」、「炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸」に相当する。
イ よって、本願補正発明と引用発明との一致点、相違点はそれぞれ次のとおりのものと認めることができる。
・一致点
「ペンタメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分とし、加熱重縮合することによって得られる、0.01g/mlの98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が2.05であり、融点が200℃であるポリアミド樹脂。」
・相違点1
ペンタメチレンジアミン中の2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量について、本願補正発明は「0.05重量%以下」と特定するのに対し、引用発明は「0.212wt%」である点。
・相違点2
相対粘度の比率について、本願補正発明は「ポリアミド樹脂の硫酸相対粘度をX、融点+30℃で1時間溶融滞留させた後の硫酸相対粘度をYとしたとき、Y/Xが1.00以上1.30以下である」と特定するのに対し、引用発明は「ポリアミド樹脂の硫酸相対粘度をX、融点+20℃で30分間溶融滞留させた後の硫酸相対粘度をYとしたとき、Y/Xが0.96である」点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点1について
上記(1)ア(イ)にあるように、2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンは、1,5-ジアミノペンタンの分子内脱アンモニア反応によって生成する環状アミンであり、また塩基性であるため、ポリアミド樹脂に含まれる量が多いほど、ポリアミド樹脂の分解が促進されることは技術常識である。そうすると、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得ようとする引用発明において、ポリアミド樹脂の分解を抑制するために、ペンタメチレンジアミン(1,5-ジアミノペンタン)に含まれる2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの量を可能な限り少なくすること、言い換えると、ペンタメチレンジアミン中の2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量を0.05重量%以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるし、それにより奏される溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂が得られるという効果も、当業者が予測し得たことにすぎない。
イ 相違点2について
溶融滞留安定性を評価するための相対粘度の測定条件は、当業者が必要に応じて適宜決定し得たものにすぎないところ、融点+20℃で30分間溶融滞留させた後の硫酸相対粘度を測定している引用発明において、融点+30℃で1時間溶融滞留させた後の硫酸相対粘度を測定することは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。
そして、上記アで述べたように、引用発明において、溶融滞留安定性に優れたポリアミド樹脂を得るために、ペンタメチレンジアミン(1,5-ジアミノペンタン)に含まれる2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの量を可能な限り少なくすることは、当業者が容易に想到し得たことであるところ、引用発明において、ペンタメチレンジアミン(1,5-ジアミノペンタン)に含まれる2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの量を可能な限り少なくすると、ポリアミド樹脂の分解が抑制され溶融滞留安定性が向上し、Y/Xは1.00に到達するものと認められる。
また、融点+30℃で1時間溶融滞留させる場合には、融点+20℃で30分間溶融滞留させる場合よりも、より高温でより長時間溶融滞留させているのであるから、2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの量を可能な限り少なくし、ポリアミド樹脂の分解が抑制された状態で、融点+30℃で1時間溶融滞留させる場合には、末端にカルボキシル基やアミノ基を有するポリアミド樹脂の縮合反応が進行して、融点+30℃で1時間溶融滞留させた後の硫酸相対粘度Yが増加し、Y/Xの値は1.00を超えることになる蓋然性が高いといえる。

(4)小括
よって、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

6 まとめ

以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?12に係る発明は、平成26年4月21日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量が0.10重量%以下のペンタメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分とし、加熱重縮合することによって得られる、0.01g/mlの98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が1.8?4.5であるポリアミド樹脂であって、ポリアミド樹脂の硫酸相対粘度をX、融点+30℃で1時間溶融滞留させた後の硫酸相対粘度をYとしたとき、Y/Xが1.00以上1.30以下であるポリアミド樹脂。」

2 原査定の理由

原査定の理由は、要するに、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用発明

引用発明は、上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。

4 対比・判断

本願発明は、本願補正発明との比較において、2,3,4,5-テトラヒドロピリジンとピペリジンの総含有量について、本願補正発明の「0.05重量%以下」との範囲を包含する「0.10重量%以下」と特定するものであり、また、本願補正発明の「融点が200℃以上である」との特定事項を削除したものである(上記第2_1参照)。
すなわち、本願補正発明は、本願発明の構成を包含するものであるといえる。
そして、本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が、上述のとおり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明も、同様の理由により、同法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断される。
原査定の理由は妥当なものである。
そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-29 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-19 
出願番号 特願2010-512440(P2010-512440)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08G)
P 1 8・ 575- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 小野寺 務
前田 寛之
発明の名称 ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂組成物およびこれらからなる成形品  

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