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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  D21F
審判 全部無効 特123条1項5号  D21F
管理番号 1309354
審判番号 無効2014-800172  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-10-23 
確定日 2016-01-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第5607757号発明「シート形成用スクリーン」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.請求及び答弁の趣旨
審理の全趣旨から見て、請求人は、特許第5607757号の請求項1ないし11に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、被請求人は、上記結論と同旨の審決を求めている。


第2.手続の経緯
主な手続の経緯を示す。
平成23年 5月17日 本件国際特許出願(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年5月21日、ドイツ連邦共和国(DE))
平成26年 9月 5日 設定登録(特許第5607757号)
平成26年10月23日付け 審判請求書
平成27年 2月16日付け 答弁書
平成27年 4月16日付け 審理事項通知
平成27年 5月11日付け 被請求人・口頭審理陳述要領書
平成27年 5月13日付け 請求人・口頭審理陳述要領書
平成27年 5月15日付け 審理事項通知(2)
平成27年 5月25日付け 請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成27年 5月28日付け 被請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成27年 6月 2日 口頭審理
平成27年 6月16日 上申書(請求人)


第3.当事者の主張及び証拠方法
1.請求人の主張及び証拠方法
(1)主張の要旨
請求人は、本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、以下に示す理由により、無効とすべきものであると主張している。(第1回口頭審理調書の請求人及び被請求人欄1)

ア.無効理由1
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである

イ.無効理由2
本件特許の請求項9における「2以上:1」、請求項10における「3以上:2」は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には記載がないため、特許法第17条の2第3項の規定を満たさないから、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。

(2)証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
ここで、甲第1号証ないし甲第5号証は、審判請求時に、甲第6号証ないし甲第7号証は、その後提出されたものである。

甲第1号証:特開2007-231503号公報
甲第2号証:特開2007-92268号公報
甲第3号証:特表2006-520860号公報
甲第4号証:特表2006-520862号公報
甲第5号証:特表2010-511805号公報
甲第6号証:織機と綜絖枠について 、平成27年6月2日、請求人作成
甲第7号証:製品ハンドブック‘96(日本フイルコン株式会社)、平成8年6月25日、第50頁、第52頁の写し

(3)主張の要点
請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
なお、行数は、空行を含まない。

ア.無効理由1
(ア)審判請求書(以下、「請求書」という。)
a.本件特許の請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明との対比(請求書第11頁第12行ないし第12頁第9行)
「本件請求項1に係る特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、二層の工業用織物である点、上層部を形成する経糸と緯糸から形成されている点、上層部と下層部を接結する2組の機能的経糸ペアを使用する点、機能的経糸ペアを交互に織り合わせることで第1の織りを完成させる点において共通し、請求項1に係る特許発明は、16本の経糸を用いるのに対し、同号証は24本の経糸を用いる点で相違する。
・・・このような複数組の機能的経糸ペアは本件特許の出願時における周知技術である。例えば、甲第2号証(特開2007-92268号公報)の図4や、甲第3号証(特表2006-520860号公報)の図1や、甲第4号証(特表2006-520862号公報)の図1等に開示されている。
すなわち、本件特許の最も重要な構成と考えられる複数組の機能的経糸ペアの構成や、その他の経糸及び緯糸といった、織物を構成する全ての糸は、同号証と一致する。そのため、本件特許と同号証の相違点は、機能的経糸ペアの組数(2組と4組)、下部経糸の本数(本件特許は8本に対して、同号証は12本)の2点のみである。
このような機能的経糸ペアの組数や、下部経糸の本数の相違は、所望の織物を製造する際のシャフト数に依存して決まる経糸の本数の相違にすぎない。言い換えれば、機能的経糸ペアのペア数や、下部経糸の本数を変更することは、当業者が織物のシャフト数に適用させるために行う設計変更の範囲にすぎない。
少なくとも、このように経糸の本数を12本から8本に減らすことによって、本件特許の効果である「多層布帛で作られたシート形成用スクリーンを提供することであり、それは製造が容易であり、先に記載した要件、すなわち、例えば、高い繊維支持、高い機械的安定性、低いマーキング傾向、及び安定した層接続を満たす。」を、達成することはない。」

b.本件特許の請求項2ないし11に係る発明と甲第1号証に記載された発明との対比(請求書第12頁第10行ないし末行)
「又、同様に請求項2の構成は、同号証に記載されている如く、下側の網をボトム側 MDヤーンと接結ヤーンとで構成するものにすぎない。
又、請求項3の構成は、2組の機能的経糸ペアを裏面側の表面に出さないものであり、当業者であれば当然に行っている設計変更に過ぎない。機能的経糸の磨耗を防止するために、裏面側の表面に機能的経糸ペアが突出しないようにする構成を表している。
又、請求項4の構成は、2組の機能的経糸ペアを均等に配置した構成を現すものであり、当業者であれば当然に行う設計変更にすぎない。例えば、同号証も均等に機能的経糸ペアが配置されている。
又、請求項5の構成は、経糸の線径を同じにするものであり、当業者であれば当然に行う設計変更にすぎない。
又、請求項6の構成は、裏面側の経糸の糸径を上面側に比べて太くするものであり、織物の剛性を保持するために当業界で普通に行われる設計変更にすぎない。例えば、甲第5号証(特表2010-511805号公報)には、図1及び図2には、下部経糸の直径が上部経糸の直径より大きい織物が開示されている。
又、請求項7の構成は、経糸により接結することを表現したものであり、当然の構成を単に冗長に説明したものにすぎない。例えば、同号証の図1や図2でも全く同じ構成が採用されている。
又、請求項8?10の構成は、上部布帛層を形成する緯糸と、下部布帛層を形成する緯糸との比率が1超:1、2以上:1、又は3以上:2という構成が開示されているが、いずれも当業者であれば当然に行う設計変更にすぎない。例えば、甲第1号証の図3には、2:1のものが、甲第5号証の図1には、3:2のものが開示されている。請求項9及び10は、それぞれ「2以上:1」、「3以上:1」と補正されているが、「以上」は新規事項の追加に該当している。
更に、請求項11の構成も当業者であれば当然に行う設計変更にすぎない。」

(イ)口頭審理陳述要領書(平成27年5月13日付け)(以下、「請求人要領書(1)」という。)
a.経糸本数の相違について(請求人要領書(1)第2頁第16行ないし第3頁第13行)
「被請求人は本願の最も重要な構成を、「合計で16本からなる上部経糸、機能的経糸ペア、および下部経糸の組合せ」としている(答弁書第9頁ウ参照)。しかし、甲1号証に開示された、24本からなる上部経糸、機能的経糸ペア、および下部経糸の組合せから、適宜経糸の本数を間引くのは単なる設計変更にすぎない。
・・・
被請求人は「16本の軸と2本の縦糸ビームを備えた織機」を所有している事を前提としており、その織機を「再構築する必要がないこと」から、最も重要な構成を「合計で16本からなる上部経糸、機能的経糸ペア、および下部経糸の組合せ」としている。
その上で、甲1号証に開示されている機能的経糸ペアの構成と、上部経糸と下部経糸の構成をそのまま採用し、単に経糸を計8本間引くだけで、本件特許を発明している。
ようするに、織物の製造環境が「16本の軸と2本の縦糸ビームを備えた織機」だけを所有している当業者が、甲1号証に開示されている発明を見て、そこから機能的経糸ペアの構成を採用すれば、当業者であれば容易に本件特許発明に想到し得るのは至極当然の話である。
したがって、被請求人が認定した「合計で16本からなる上部経糸、機能的経糸ペア、および下部経糸の組合せ」は、進歩性を肯定できる重要な構成とはなり得ないのは明らかである。」

b.本件請求項1に係る特許発明の効果について(請求人要領書(1)第3頁第22行ないし第5頁第5行)
「本件特許の課題のうち「先に記載した要件、すなわち、例えば、高い繊維支持、高い機械的安定性、低いマーキング傾向、及び安定した層接続を満たす。」は、甲1号証に開示されている発明によって解決される。すなわち、2本の機能的経糸をペアにして、一の機能的経糸が上側緯糸の上を通るときは、他の機能的経糸がその緯糸の下を通るように構成する。そして、このような機能的経糸ペアの間に上面側経糸を配置すれば、本件特許の効果は達成される。
また、本件特許には「製造が容易であり」という効果も記載されている。かかる効果についても、本件特許によって達成された効果ではない。
・・・
つまり本件特許は、甲1号証に開示されている24本の経糸を用いた織物を、16本の軸と2本の経糸ビームを備えた織機で製造し得るようにしたものにすぎず、本件特許に係るシート形成用スクリーンによって「製造が容易」となったものではないことが明らかである。
・・・
したがって、甲1の記載のみと本件特許の請求項1の発明特定事項から、経糸ビームの本数を特定し、本件特許の技術思想を製造装置における経糸ビームの本数にまで拡大し、進歩性を肯定するための有利な効果と認識することは困難である。よって、本件特許によって「製造が容易」という特有の効果は生じることはない。」

(ウ)口頭審理陳述要領書(2)(平成27年5月25日付け)(以下、「請求人要領書(2)」という。)
a.甲1発明において「トップ側MDヤーンの数及び接結MDヤーン対の数を合計した数とボトム側MDヤーンの数の比が2:3であること」が必須であるとしても、本件発明1を容易に発明し得た理由(請求人要領書(2)第2頁第15行ないし第3頁第31行)
「・・・甲1号証の段落[0028]に記載されているように、トップ側のMDヤーンの総数を、ボトム側のMDヤーンの総数より、小さくすることで、高い排水能力をもたせるという効果は、特に数値を2:3に限定したことによる効果ではありません。・・・
本件特許の出願時には、24本と16本の軸を有する織機は周知技術でありました。
このような状況下において、24本を前提とした織物を見て、これを16本の軸を有する織機へ転用できないか考えるのは、織物の当業者であれば、至極当然のことであります。
そして、24本の軸を有する織機を前提とする甲1発明の発明特定事項である「上部経糸」と「機能的ペアの経糸」と「下部経糸」の3種類の経糸を、16本の軸を有する織機に適用することを考えた場合、経糸の本数の組み合わせは、結果的に本件発明1の組み合わせになります。
甲1発明には、上部布帛として、4対の接結MDヤーンと4本のトップ側MDヤーンの織物が実施形態の一つとして示されております。その実施形態におけるボトム側MDヤーンは12本になっています。
かかる実施形態を16本の軸を有する織機に適用する場合、当然、経糸の本数を間引かなればなりません。例えば、甲1発明における機能的ペアは合計8本使用されていますが、これを16本の軸に適用する場合は、6本(3対)、4本(2対)、2本(1対)の選択肢があります。・・・24本の軸を前提として甲1発明を、16本の軸の織機に適用することを考えた場合、機能的ペアとしては、4本(2対)が選択されることになります。
次に2対の機能的ペアを採用した場合、残り16-4=12本の経糸が残ります。これをトップ側MDヤーンとボトム側MDヤーンに振り分けることになります。
ここでトップ側MDヤーンとボトム側MDヤーンの組み合わせは、2本と10本、4本と8本、6本と6本、8本と4本、10本と2本が考えられます。・・・
以上より、トップ側MDヤーンとボトム側MDヤーンの組み合わせとしては、4本と8本が選択されることになります。」

b.本件特許の請求項1に係る発明の効果について(請求人要領書(2)第4頁第12行ないし第4頁第28行)
「仮に本件発明1の織物が2本のビームから製造可能であるならば、甲1号証に開示の織物も同様の方法で製造可能であるからです。
・・・
すなわち、3種類の経糸を使用する本件発明1が2本のビームで製造できるのであれば、甲1発明の織物も同様の装置で製造することができると考えるのが通常であります。
さらに、百歩譲って、本件発明1が2本のビームで製造可能であったとしても、本件発明1の効果として製造容易という効果は生じません。何故ならば本件発明1は、製造方法の発明ではなく、又、製造装置に関する発明でもないからです。3種類の経糸を2本のビームを使って製造するためには、経糸の径や、織り合わせる際に使用される経糸の長さ、どの経糸を組み合わせて1本のビームから繰り出すのか、等の限定が必要になるはずです。
従って、本件発明1の構成からは、甲1発明に比較して「製造容易」という効果は生じません。」

(エ)調書の請求人欄
2 甲第1号証記載の発明において2:3とした理由は明確では無いが甲第1号証の段落【0012】の記載から排水能力向上のためと考えられる。
3 製品用途に合わせてトップ側経糸数とボトム側経糸数の組み合わせを特定の比率とすることは無い。
4 8から24本の軸を備えた織機が広く用いられていた。
5 請求人の会社では16本が最も多い。
6 甲第1号証記載の発明を16本軸の織機で作る動機は16本軸を保有するユーザーから16本軸で作れないかとのニーズがある。
7 マーキング傾向の効果は請求項に基づかない主張である。

イ.無効理由2
(ア)請求書第10頁第33行ないし第11頁第7行
「請求項9における・・・審査段階で行われた「2以上」についての記載の補充は、当初明細書、特許請求の範囲及び図面には記載がないため、いわゆる新規事項追加違反(17条の2第3項)に該当するため、無効理由となる(123条1項1号)。
請求項10における・・・審査段階で行われた「3以上」についての記載の補充は、当初明細書、特許請求の範囲及び図面には記載がないため、いわゆる新規事項追加違反(17条の2第3項)に該当するため、無効理由となる(123条1項1号)。」

(イ)請求人要領書(1)第5頁第9行ないし第21行
「被請求人は、出願時の「少なくとも又はちょうど2:1」及び「少なくとも又はちょうど3:2」との表現を、「・・・2以上:1」及び「・・・3以上:2」に表現を明確にしたものである、と主張する。
しかし、「少なくとも又はちょうど」が日本語として「以上」という表現になると解釈することは不可能である。
また、図面中に2:1の実施態様が開示されている旨を主張するが、上部布帛中の緯糸の数が2を超えた実施態様についての開示はない。
したがって、平成25年12月9日付けの手続補正書の内容は新規事項の追加に該当する。
仮に百歩譲って、新規事項の追加に該当しない場合であっても、上部布帛中の緯糸の数の比率が、下部布帛中の緯糸の数に対して2を超えた実施態様についての開示が明細書にない以上、特許法第36条第6項第1号の無効理由に該当することは明らかである。」

2.被請求人の主張
(1)主張の要旨
被請求人は、本件特許の請求項1ないし11に係る発明には、無効理由はないと主張している。

(2)主張の要点
被請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
ア.無効理由1
(ア)答弁書
a.本件特許の請求項1に係る発明の最も重要な構成(答弁書第9頁第8行ないし第12行)
「ウ. すなわち、本件特許の出願人は、機能的経糸ペアが従来から用いられていることを認識し、それを開示した上で、本件特許において機能的経糸ペアを用いている。本件特許の最も重要な構成は、合計で16本からなる上部経糸、機能的経糸ペア、及び下部経糸の組合せであり、機能的経糸ペアの使用が、本件特許の最も重要な構成であるとの審判請求人の上記主張1は失当である。」

b.本件特許の請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明の相違点(答弁書第9頁第19行ないし第12頁第14行)
「イ. しかしながら、甲1発明は、トップ側MDヤーンと織り合わされるトップ側CMDヤーンから成る組合せ(本件第1発明における「上部布帛層」)と、ボトム側MDヤーンと織り合わされるボトム側CMDヤーンから成る組合せ(本件第1発明における「下部布帛層」)と、これらを結びつける接結ヤーン(本件第1発明における「機能的経糸ペア」)とを有する製紙用織物において、トップ側MDヤーンの数(第1の数)及び接結ヤーンの組数(第2の数)の合計数と、ボトム側MDヤーンの数(第3の数)との比を、2:3にすることに特徴を有するものである。
・・・
甲1発明の認定は、甲1号証の記載全体から把握される技術思想に基づいてなされるものであり、従ってそこに記載されている実施形態(4本のトップ側MDヤーン、4組の接結ヤーン、及び12本のボトム側MDヤーンという実施形態)のみに基づいて行っている審判請求人の甲1発明の認定には誤りがある。
・・・甲1発明と本件第1発明とは、少なくとも、機能的経糸ペアの組数及び下部経糸の本数の2点において相違し、さらに上部経糸の本数及び機能的経糸ペアの組数の合計数と、下部経糸の本数との比(本件第1発明での比を甲1発明でのように計算すると(4+2):(8)=3:4であるのに対し(本件特許明細書の段落0028)、甲1発明が2:3)においても相違する・・・
当業者は、甲1発明に基づいて、ボトム側MDヤーンの数等の設計を変更しようとすれば、トップ側MDヤーンの数及び接結ヤーンの組数の合計数と、ボトム側MDヤーンの数との比が2:3となるように、比を維持して設計変更するのが通常である。
すなわち、当業者は、甲1発明に基づくと、接結ヤーンの組数のみ又はボトム側MDヤーンの本数のみを変更しようとしないため、甲1発明の織物の接結ヤーンの組数及びボトム側MDヤーンの本数を、本件第1発明のスクリーンの機能的経糸ペアの組数及び下部経糸の本数のように変更する動機付けがない。
・・・当業者が、甲1発明の上記の比を変更して、その織物の接結ヤーンの組数及びボトム側MDヤーンの本数を独立して変更しようとしても、それらを本件第1発明のスクリーンの機能的経糸ペアの組数及び下部経糸の本数のように変更することは、単なる設計事項とは決していえないものである。
・・・
・・・本件第1発明の構成は、上記の甲1発明から単なる設計変更によって得られるものではなく、単なる設計変更によって得られると主張する審判請求人の主張は後知恵に基づくものである。」

c.本件特許の請求項1に係る発明の効果
(a)製造が容易
「・・・甲1発明が少なくとも3本の縦糸ビームが必要であるのに対し、本件第1発明のスクリーンは、2本の経糸(縦糸)ビームから製造できる点で、容易に製造することができる。また、16本の軸と2本の縦糸ビームから成る軸パッケージを備えた織機によって製造できる本件第1発明のスクリーンについては、既存の織機の再構成を必要とすることがない点においても、製造が容易であるといえる。」(答弁書第14頁第2行ないし第7行)
(b)高い繊維支持
「例えば、本件特許明細書には下記の記載がある(下線は被請求人が付した):
「【0028】
・・・本発明によるスクリーンの第1の実施形態において、それぞれ2組の機能的ペアの4本の長軸糸のうちの2本は、これらの4本の長軸糸が下部及び上部布帛(織物)層の両方の層で布帛(織物)の形成に寄与し、そしてそれぞれ2本の複合長軸糸を形成する場合、下部及び上部織物層にそれぞれ割り当てられることができるので、6:10または3:5の総長軸糸比が得られる。・・・
【0064】
図7によっても示されるように、紙側におけるいわゆる横軸メッシュ(機械方向/長軸方向におけるその伸びは横軸方向より少ない)の形成は、(それぞれ6:10及び3:5の長軸糸比に由来する)比較的に少ない数の上部長軸糸と上部複合長軸糸によって助けられる。かかる横軸メッシュは、繊維懸濁液中に含まれる有利な繊維支持を可能にする。比較的に大きな数の下部長軸糸及び下部複合長軸糸は、紙側の強度の低下と機械方向におけるスクリーン伸長の増大のバランスをとり、横軸メッシュの形成に協力している。」
・・・本件第1発明のスクリーンでは、その上部縦糸と機能的ペアの配置によって、高い繊維支持を可能とする紙側クロスメッシュ(横軸メッシュ)の形成に有利となる。」(答弁書第14頁第12行ないし第15頁第22行)
(c)高い機械的安定性
「例えば、本件特許明細書には下記の記載がある(下線は被請求人が付した):
「・・・
【0009】
・・・平織は紙シートを形成するのに非常によく適していて、そのため紙側に非常によく適しているが、通常、機械側にはそれほど適していない。そのため、抄紙機スクリーンが平織の紙側を提供するのであれば、スクリーンの機械側を形成する第2の繊維層を平織の下に備えるのが賢明であり、それがスクリーンに十分な安定性と摩耗の可能性をもたらす。
【0028】
特許請求する、16本の長軸糸の分布/割り当てが、4:8又は1:2の上部長軸糸に対する下部長軸糸の比を結果としてもたらす。…比較的に多い下部長軸糸の数が、紙側の強度の低下と、クロスメッシュの形成に付随する機械方向のスクリーン伸長の増大のバランスをとっている、すなわち、紙側の長軸糸の減少によって引き起こされた重要な機械方向でのスクリーンの強度の低下と伸長の増大は、より多くの機械側の長軸糸の数によって相殺できる。」
・・・多層布帛として形成された本件第1発明のようなシート形成用スクリーンでは、そもそも高い機械的安定性を与えやすいが、本件第1発明のスクリーンでは、下部経糸8本であることによって、特に高い機械的安定性を与えることができる。」(答弁書第16頁第1行ないし第17頁第8行)
(d)低いマーキング傾向
「例えば、本件特許明細書及び本件特許の図5には下記の記載がある(下線は被請求人が付した):
「【0009】
・・・繊維支持に関して、だがスクリーンのマーキング傾向に関しても、最も単純な、そして同時に繊維工学の最も古い基本的な織り方、いわゆる平織が、上部織物、よって紙側のための価値が実証された。・・・
【0066】
・・・紙側の均一性は、2組の機能的ペアの4つの移行位置(A1)、(A2)、(B1)および(B2)のみによってわずかに影響を受ける。上部複合長軸糸又は上部長軸糸及び上部複合長軸糸だけが交互に提供される当該技術の現状の紙側の織りと比較して、紙側の織り方は、4本の上部長軸糸に対するそれぞれ2組の機能的ペアと2本の上部複合長軸糸の比によっては全くと言ってよいほど「妨げられ」なく、そして上部長軸糸と機能的ペア(機能的ペアの間の2本の上部長軸糸)の示した分布によって特に妨げられることはない。・・・
・・・本件第1発明のスクリーンでは、機能的ペアが上部布帛層と下部布帛層とを行き来する場所が2箇所の場合で考えると、1つの繰返し単位中に4つの移行位置(A1)、(A2)、(B1)及び(B2)のみが存在し、それによって、紙側の均一性がわずかに影響を受けるのみである。
それに対して、甲1発明の織物では、接結ヤーンとトップ側MDヤーンとが交互に並ぶ構成であるために、接結ヤーンが上下の層を行き来する場所が2箇所である場合を考えると、1つの繰返し単位中に8つの移行位置が存在する。そのため、甲1発明の織物では、接結ヤーンの移行位置が単位面積当りで本件第1発明のスクリーンよりも必然的に増え、紙側の均一性に影響を与えやすい。
したがって、本件第1発明のスクリーンでは、紙側の均一性に影響を与える機能的ペアの移行位置を単位面積当りで少なくすることができるため、低いマーキング傾向を与えることができる。」(答弁書第17頁第13行ないし第20頁第13行)
(e)安定した層接続
「例えば、本件特許明細書には下記の記載がある:
・・・
【0022】
本発明の第1の実施形態によれば、2組の機能的長軸糸ペアを形成する4本の長軸糸(経糸)のそれぞれは、上部布帛層の中と下部布帛層の中の両方に延在し、それによって上部布帛層は下部布帛層にしっかり接続される。」
・・・機能的ペアを用いて多層布帛を形成した本件第1発明のようなシート形成用スクリーンでは、そもそも安定した層接続を与えやすいが、本件第1発明のスクリーンでは、2組の機能的長軸糸ペアを形成する4本の長軸糸(経糸)の全てが上部布帛層と下部布帛層の両方に延在し、また上部経糸及び下部経糸の本数のバランスも良好であるため、特に安定した層接続を与えることができる。」(答弁書第20頁第19行ないし第22頁第25行)

d.本件特許の請求項2ないし11に係る発明について
本件第1発明が進歩性を有するため、これに従属している本件第2?第11発明も進歩性を有している。(答弁書第25頁第10ないし第11行、第28頁第16ないし第17行(なお、第28頁第16行の「本件第2発明も」は、その前後の文脈からみて、正しくは「本件第3発明も」であると認める。)、第29頁第12ないし第13行、第30頁第13ないし第14行、第31頁第19ないし第20行、第32頁第18ないし第19行、第33頁第15ないし第16行、第34頁第18ないし第19行)

(イ)口頭審理陳述要領書(平成27年5月11日付け)(以下、「被請求人要領書(1)」という。)
a.経糸本数の相違について(被請求人要領書(1)第3頁第5行ないし第4頁第13行)
「エ. すなわち、甲1発明は、トップ側MDヤーンと織り合わされるトップ側CMDヤーンから成る組合せ(本件第1発明における「上部布帛層」)と、ボトム側MDヤーンと織り合わされるボトム側CMDヤーンから成る組合せ(本件第1発明における「下部布帛層」)と、これらを結びつける接結ヤーン(本件第1発明における「機能的経糸ペア」)とを有する製紙用織物において、トップ側MDヤーンの数(第1の数=上記のA本)及び接結ヤーンの組数(第2の数=上記のC/2本)の合計数と、ボトム側MDヤーンの数(第3の数=上記のB本)との比を、2:3にすることに特徴を有するものです。
・・・
キ. すなわち、当業者が、甲1号証の記載に基づいて、経糸の本数を変更しようとする場合には、まず(A+C/2):B=2:3となるように変更します。」

b.本件請求項1に係る特許発明の効果について
(a)製造が容易(被請求人要領書(1)第6頁第5行ないし第16行)
「イ. 16本の軸と2本の経糸ビームからなる軸パッケージを備えた織機は、本分野において幅広く用いられています。・・・また、被請求人についていえば、このような織機を用いて、少なくとも8種類ものスクリーンを製造販売しています。
請求人を含む多くの事業者がこのような織機を保有していると考えられ、この場合既存の織機の再構成を必要としません。
・・・織機の綜絖枠の数は少なければ少ないほど織機のコスト及び大きさ、並びに製造の容易性において有利となるため、16本の軸を有する織機で製造可能な本件特許のスクリーンは、24本の軸数を有する織機が必要である甲1号証に開示の製紙用織物と比較して有利であるといえます。」
(b)高い繊維支持(被請求人要領書(1)第7頁第3行ないし第14行)
「・・・本件特許のスクリーンでは、上部布帛層中に4本の経糸が用いられますが、上部布帛層中に用いられる経糸が比較的少ないという点は、脱水性に悪影響を及ぼすことなく、横軸メッシュの形成を可能にします。・・・上部布帛層中に用いられる経糸が少ない場合には、脱水性に影響を与えない範囲で、より多くの緯糸を上部布帛層に導入することが可能となり、これは繊維支持性能の向上をもたらします。上部布帛層中に用いられる経糸が多い場合には、脱水性が悪化しないように、比較的少ない本数で緯糸を導入する必要があります。
・・・本件特許のスクリーンでは、他の有利な効果を維持しながら、この高い繊維支持という効果を、甲1号証に開示の製紙用織物と同等に有することができます。」
(c)高い機械的安定性(被請求人要領書(1)第10頁第12行ないし第18行)
「・・・多層布帛を結合する手段としては、別個の結合糸(段落0011)、機能的緯糸ペア(段落0012)、及び機能的経糸ペア(段落0013)が知られており、多層布帛であるシート形成用スクリーンにおいて機能的経糸ペアが有利であることも知られていました。
・・・本件特許のシート成形用スクリーンでは、機能的経糸ペアを用いているため、他の有利な効果を維持しながら、高い機械的安定性という効果を、甲1号証に開示の製紙用織物と同等に有することができます。」
(d)低いマーキング傾向(被請求人要領書(1)第11頁第4行ないし第3頁第8行)
「エ. 例えば、本件特許のシート成形用スクリーンは、本件特許の図5(以下の図)に示すような構成を有しています:
・・・
オ. それに対して、甲1号証に開示の製紙用織物は、甲1号証の図1(以下の図)に示されるような構成を有しています:
・・・
カ. これらの織り目を比較すると、本件特許のシート成形用スクリーンでは、緯糸(例えば、本件特許の図5の120)は、少なくとも1つの経糸(例えば、同図5の11、12)によって、下側から支持されているのに対し、甲1号証に開示の製紙用織物は、緯糸(例えば、甲1号証の図1の31)は、トップ側MDヤーン(例えば、同図1の11?14)によっては下側から全く支持されておらず、接結MDヤーン(例えば、同図1の21?28)のみによって、下側から支持されていることが分かります。このような構成の違いも、紙側のマーキング傾向に関して、良好な結果をもたらすことができます。」

(ウ)口頭審理陳述要領書(2)(平成27年5月28日付け)(以下、「被請求人要領書(2)」という。)
a.甲1発明の経糸本数を変更する動機付けがないこと及びその困難性について(被請求人要領書(2)第4頁第6行ないし第3頁第13行)
「・・・甲1号証には、甲1発明の織物の経糸を本件発明のスクリーンの経糸のように変更することについての示唆及び動機付けが全く開示されていません。
・・・
・・・当分野においては8本?24本の軸を備えた織機が広く知られており、例えば8本、10本、13本、17本、20本、22本等の様々な本数の軸を備えた織機で製造される織物を考慮することができます。
16本の軸と2本の縦糸ビームを備えた織機を保有している当業者にとって本件発明が特に有利である点は、被請求人による平成27年5月11日付の口頭陳述要領書において述べたとおりですが、だからといって当業者が新たな織物を製造しようと考える場合に、16本の軸と2本の縦糸ビームを備えた織機のみを念頭において製造しようと考える理由はありません。
・・・
軸数とビーム数とを変更することができる当業者が、16本の軸を備えた織機を使用するはずという審判請求人の主張は、本件発明の有用なスクリーンが16本の軸を有する織機で製造できるということを知った上での主張であり、典型的な後知恵に基づく主張です。
・・・甲1発明の織物を構成する24本の経糸は、それぞれ一本一本が重要な機能を有しています。このうち1本でも、経糸を減らそうとすれば、織物上にギャップ、不規則性、欠陥等が生じます。・・・これはボトムMDヤーンについても同様です。・・・
・・・仮に24本の経糸を減らすという動機付けが当業者に存在していたとしても、当業者が、24本の経糸からなるバランスの取れた甲1発明の織物の経糸の本数を、上部層の経糸、下部層の経糸、及び/又は機能的ペアの経糸から複数本減らした上で、バランスを取ったスクリーンを与えることは、非常に困難であるといえます。
・・・
これは、経糸の本数を(A+2/C):Bが2:3となるように、比を維持して変更することを前提としている甲1発明に基づけば、本件発明の構成に到達することはさらに困難であるといえます。
・・・経糸の総数及び経糸の配置については、その組合せ数は非常に膨大であり、この組合せの中から、製造が容易であり、かつ高い繊維支持、高い機械的安定性、低いマーキング傾向、及び安定した層接続を満たす、特定の構成を有する本件発明のスクリーンを与えることは容易ではありません。」

(エ)調書の被請求人欄
3 甲第1号証には2:3が最良とある以上、変更の動機は無い。
4 本件発明1の低いマーキング傾向は、上部経糸数、機能的ペア数、下部経糸数を4、2、8としたことによる効果である。

イ.無効理由2
(ア)答弁書第35頁第19行ないし第36頁第10行
「請求項9及び10については、・・・出願時の・・・との表現を、それぞれ『…2以上:1』及び『…3以上:2』に表現を明確にしたものである。
この補正前の表現は、本件特許の出願のような外国語特許出願においては逐語訳の翻訳文を作成する上で必然的に発生するものであり、これを補正後のような表現に変更することは、通常行われかつ認められているものである。
・・・
よって、当業者であれば、この補正前の表現と、補正後の表現とが事実上同じであることは明確である。」

(イ)被請求人要領書(2)第9頁第11行ないし第22行
「・・・外国語特許出願においての特許法第123条第1項第1号の適用については、その「外国語書面出願を除く」との規定の「外国語書面出願」が、特許法第184条の18において、「第百八十4条の4第1項の外国語特許出願」と読み替えて準用されています。
すなわち、新規事項の判断をするにあたっては、本件特許が基づいているPCT/EP2011/057978号の国際出願のドイツ語による明細書等の記載(例えば、上記国際出願の請求項9の「Blattbildungssieb nach einem der vorangehenden Anspruche, wobei das Verhaltnis von in der oberen Gewebelage verlaufenden Querfaden zu in der unteren Gewebelage verlaufenden Querfaden groser als 1 ist, z. B. mindestens oder genau 2:1 oder z. B. mindestens oder genau 3:2.」の記載)に基づいて、判断がなされる必要があります。」


第4.本件特許発明
1.本件発明1ないし本件発明11
本件特許の請求項1ないし請求項11に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、本件発明1は以下のように分説できる。
なお、本件発明1及びその分説について当事者間に争いはない。(第1回口頭審理調書の両当事者欄2)

《本件発明1》
A.第1の織りを含む上部布帛層(A)と第2の織りを含む下部織物層(B)を有する多層布帛として形成されたシート形成用スクリーンであって、 B.該多層布帛は、16本の経糸から成る経糸の繰り返しを有し、
C.該16本の経糸のうちの4本の経糸((11)、(12)、(13)、(14))は、該上部布帛層中にのみ延在し、かつ、該上部布帛層中に延在する緯糸((101)?(120)、(101)?(112))と織り合わされた上部経糸として形成され、それにより、該第1の織りを部分的に形成し、
D.該16本の経糸のうちの8本の経糸((31)、(32)、(33)、(34)、(35)、(36)、(37)、(38))は、該下部布帛層の中にのみ延在し、かつ、該下部布帛層の中に延在する緯糸((201)?(210)、(201)?(208))と織り合わされた下部経糸として形成され、
E.そして該16本の経糸のうちの残りの4本の経糸((21)、(22)、(23)、(24))は、互いに隣接してそれぞれ配置された2本の経糸から成る2組の機能的経糸ペア((21)と(22)の第1の機能的ペア;及び(23)と(24)の第2の機能的ペア)を形成し、
F1.該各経糸ペアの2本の経糸は、該第1の織りを交互に完成させ、
F2.そして該2組の機能的経糸ペアを形成する4本の経糸の全てが、該上部布帛層の中と該下部布帛層の中の両方に延在し、その結果、該下部布帛層が該上部布帛層に結合されること
F3.を特徴とする、前記シート形成用スクリーン。


第5.無効理由1についての判断
1.甲第1号証の記載事項及び甲1発明
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下が記載されている。

(1)第2頁第1行ないし第20行
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の繰返しユニットから構成される製紙用織物であって、各繰返しユニットが、
トップ側MDヤーンから成る組合せと、
該トップ側MDヤーンと織り合わされるトップ側CMDヤーンから成る組合せと、
ボトム側MDヤーンから成る組合せと、
該ボトム側MDヤーンと織り合わされるボトム側CMDヤーンから成る組合せと、
接結ヤーンから成る組合せと、を備えており、
該接結ヤーンは対になって配置され、それぞれの前記接結ヤーン対の少なくとも1本のヤーンは、前記トップ側CMDヤーン及び前記ボトム側CMDヤーンと織り合わされており、対のうち第1接結ヤーンが前記トップ側CMDヤーンと織り合わされる場合に該対のうち第2接結ヤーンが前記トップ側CMDヤーンの下側を通過し、前記対のうち該第2接結ヤーンが前記トップ側CMDヤーンと織り合わされる場合に前記対のうち前記第1接結ヤーンが前記トップ側CMDヤーンの下側を通過して、前記各接結ヤーン対が複合トップ側MDヤーンを形成しており、
前記トップ側MDヤーンから成る組合せは第1の数のトップ側MDヤーンを備え、前記接結ヤーンから成る組合せは第2の数の複合トップ側MDヤーンを構成し、前記ボトム側MDヤーンから成る組合せは第3の数のボトム側MDヤーンを備えており、
前記第1の数及び前記第2の数を合計した数と前記第3の数との比が2:3になっていることを特徴とする製紙用織物。」
(2)第5頁第13行ないし第26行
「【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には製紙に関するものであり、具体的には製紙に用いられる地合構成織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の長網式の製紙工程では、(紙の「原料」として知られる)セルロース繊維の水スラリーもしくは懸濁液が、2つ以上のローラの間を走行する織った金網及び/又は合成材料製エンドレスベルトの上側走行部の表面上に送り込まれている。「地合(じあい)構成織物」としばし呼ばれるこのベルトは、その上側走行部の上面に製紙表面を備え、この製紙表面は紙原料のセルロース繊維を水性媒体から分離して湿ったウェブ(web)を形成するフィルタとして機能している。この水性媒体は、重力により、又は織物の上側走行部の下面(即ち「マシン側」)に配置された真空装置により、水切り穴として知られる織物の網目から排水される。」
(3)第5頁第34行ないし第41行
「【0004】
本明細書で使用しているように、「マシン方向(MD=machine direction)」及び「マシン横断方向(CMD=cross machine direction)」という用語は、それぞれ、抄紙機上での製紙用織物の走行方向に倣う方向、及びに織物表面に平行であり且つ走行方向を横切る方向を指している。同様に、織物における糸もしくはヤーンの上下関係についての方向上の呼称(例えば、上側、下側、トップ側、ボトム側、直下等)は、織物の製紙表面が織物のトップ側であること、及び織物のマシン側の表面が織物のボトム側であることを前提としている。」
(4)第7頁第12行ないし第30行
「【0012】
第1の形態として、本発明の実施形態は、一連の繰返しユニットから構成される製紙用織物を指し示している。・・・前記トップ側MDヤーンから成る組合せは第1の数のトップ側MDヤーンを備え、前記接結ヤーンから成る組合せは第2の数の複合トップ側MDヤーンを構成し、前記ボトム側MDヤーンから成る組合せは第3の数のボトム側MDヤーンを備えている。前記第1の数及び前記第2の数を合計した数と前記第3の数との比は2:3になっている。このような組織の織物は、広いトップ側表面開口面積を備え、強固にトップ側CMDヤーンを支持し、向上した脱水能力を備え、優れた安定性及び表面組織分布を備え、性能面での優位性を有することとなる。」
(5)第9頁第17行ないし第10頁第32行
「【0022】
図面を参照すると、包括的に符号10で表された織物が図1に例示されている。図1?図3Fを参照すると、本発明の実施形態による織物の繰返しユニットが、包括的に符号10で表されて、例示されている。この繰返しユニット10は、4本のトップ側MDヤーン11?14と、4対の接結MDヤーン21?28と、16本のトップ側CMDヤーン31?46と、12本のボトム側MDヤーン51?62と、8本のボトム側CMDヤーン71?78とを備えている。これらのヤーンの織り合わせについて以下に記載する。
【0023】
図1及び図3Bに見られるように、トップ側MDヤーン11?14の各々は、「上側1本/下側1本」の順序で連続させてトップ側CMDヤーン31?46と織り合わせられており、この順序において、トップ側MDヤーン11?14は、奇数番号が付されたトップ側CMDヤーン31,33,35,37,39,41,43,45の上側を通過すると共に偶数番号が付されたトップ側CMDヤーン32,34,36,38,40,42,44,46の下側を通過している(例えば、図3Bにおけるトップ側MDヤーン11を参照のこと)。図1に示されるように、接結ヤーン対21?28の各々は、2本のトップ側MDヤーンの間に配置されている。図1、図3D及び図3Fに示されるように、接結ヤーン対21?28の各々は、組み合わせられて、織物10のトップ側表面側に平織りパターンを形成する際、単一の「複合」ヤーンとして機能することとなる。具体的には、接結ヤーンの各々は、奇数で表された接結ヤーン(例えば、接結ヤーン21又は23)が1組4本の偶数番号が付されたトップ側CMDヤーンの上側を通過すると共に、偶数で表された接結ヤーンの各々(例えば、接結ヤーン22又は24)が残りの1組4本の偶数番号が付されたトップ側CMDヤーンの上側を通過している状態で、4本の偶数番号が付されたトップ側CMDヤーンの上側を通過している。例えば、接結ヤーン21は、トップ側CMDヤーン33,35,37,39及び41の下側を通過しながら、トップ側CMDヤーン34,36,38及び40の上側を通過し、接結ヤーン22は、トップ側CMDヤーン41,43,45,31及び33の下側を通過しながらトップ側CMDヤーン42,44,46及び32の上側を通過している。従って、接結ヤーン21,22は共に、トップ側CMDヤーンに対して全体的に「上側1本/下側1本」の経路に沿う「複合」トップ側MDヤーンを形成している。このように形成された「複合」トップ側MDヤーンの各々が偶数番号を付されたトップ側CMDヤーンの上側を通過するため、トップ側MDヤーン11?14及びトップ側CMDヤーン31?46により、織物10のトップ側、即ち、製紙表面側に平織りパターンが形成されることとなる。
【0024】
接結ヤーンの各対は、その隣接する接結ヤーン対からオフセット、即ち、位置ずれしている。例示した実施形態において、接結ヤーン対21,22は隣接する接結ヤーン対23,24から12本のトップ側CMDヤーン分だけ位置ずれしており、接結ヤーン対23,24は隣接する接結ヤーン対25,26から2本のトップ側CMDヤーン分だけ位置ずれしており、接結ヤーン対25,26は隣接する接結ヤーン対27,28から4本のトップ側CMDヤーン分だけ位置ずれしている。
【0025】
織物10のボトム側層は図2に例示されている。このボトム側層は、12本のボトム側MDヤーン51?62と、接結ヤーン21?28と、8本のボトム側CMDヤーン71?78とを備えている。ボトム側MDヤーンは、「上側3本/下側1本」の順序で連続させてボトム側CMDヤーンと織り合わせられている。例えば、図2及び図3Cを参照すると、ボトム側MDヤーン52は、ボトム側CMDヤーン71の下側、ボトム側CMDヤーン72?74の上側、ボトム側CMDヤーン75の下側、そしてボトム側CMDヤーン76?78の上側を通過している。各ボトム側MDヤーンは、その隣接するボトム側MDヤーンから位置ずれし、ボトム側MDヤーンの節部によって織物10のボトム側表面に4枚綜絖の繻子織パターンが形成されることとなる。
【0026】
図2を参照すると、接結ヤーン21?28の各対は1本のボトム側MDヤーンを挟んでおり(例えば、接結ヤーン21?22はボトム側MDヤーン53を挟んでいる)、各接結ヤーンは1本のボトム側CMDヤーンの下側に1つの節部を形成している。ここで使用されている「節部(knuckle)」とは、1本のヤーンがその他のヤーンと織り合される際に単一の他のヤーンの上側又は下側を通過する該1本のヤーンの部分を指しており、これに対して「浮糸(float)」とは複数の隣接するヤーンの上側又は下側を通過する1本のヤーンの部分を指している。1本の接結ヤーンにより形成される各節部は、直近のボトム側MDヤーンにより形成された節部に並んで位置しているため、各接結ヤーン対及びそれらが挟まれたボトム側MDヤーンは対の節部を形成している。例えば、ボトム側MDヤーン53は、ボトム側CMDヤーン73及び77の下側に各節部を形成している(図3E参照)。接結ヤーン21はボトム側CMDヤーン77の下側に1つの節部を形成し(図3D参照)、接結ヤーン22はボトム側CMDヤーン73の下側に1つの節部を形成している(図3F参照)。従って、各接結ヤーン21?28は、4本のボトム側CMDヤーン分だけ対の他の接結ヤーンから位置ずれすることとなる。接結ヤーンの各対は、織物のボトム側表面上の4枚綜絖の繻子織パターンについての位置ずれに一致するように、その近隣の接結ヤーン対から位置ずれしている。」
(6)第10頁第33行ないし第42行
「【0027】
織物10の例示した繰返しユニットには、12本のボトム側MDヤーンと事実上8本のトップ側MDヤーン(即ち、4本の通常のトップ側MDヤーン、及び4つの接結ヤーン対により形成された4本の「複合」トップ側MDヤーン)とが存在することが分かる。現存のボトム側MDヤーンよりも多くのボトム側MDヤーンを備えることにより、トップ側表面の開口面積を増すと共に、トップ側CMDヤーンによる繊維支持を増すことが可能となる。MD接結ヤーンを備えることにより、透過度を増加させ、縫目強さを向上させ、そして層間磨耗を減少させるだけでなく、さらに、CMDヤーン(典型的には緯糸として織られる)の本数を減少させ、縫目での結合のためのヤーンの本数を減少させることで製造を簡略化させることが可能となる。」
(7)第10頁第43行ないし第11頁第4行
「【0028】
また、例示した実施形態におけるボトム側MDヤーンに対する効果的なトップ側MDヤーン(即ち、トップ側MDヤーンの数及び接結ヤーン対の数の合計)の比が2:3であることも理解できる。2:3のトップ側MDヤーン/ボトム側MDヤーン比は、織物に対して顕著な性能面での優位性をもたらし得ることが確認できた。例えば、トップ側層上のCMD節部の長さが典型的な平織物と比較して増大されることとなり、このことが、1:1の比で構成される織物と比較して高い排水能力をもたらすこととなり、特に織物が少ない網目数で構成される場合に、典型的なものでは1:2の比で構成される緯糸接結織物に対して大きな安定性及び良好な安定性を備えることとなる。加えて、より少ない数のトップ側MDヤーンが、織物の特定の実施形態において、より太いヤーンを使用することが可能となる。より太いヤーンを用いることは、シャワー抵抗(shower resistance)及びトップ側表面磨耗抵抗を改善をさせることを可能とする。」

上記の記載事項(1)ないし(7)を、[図1]ないし[図3]を参照しつつ、本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証及には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
《甲1発明》
a.トップ側MDヤーンと該トップ側MDヤーンと織り合わされるトップ側CMDヤーンとを含むトップ側層と、ボトム側MDヤーンと該ボトム側MDヤーンと織り合わされるボトム側CMDヤーンとを含むボトム側層と、を有する製紙用織物であって、
b.前記製紙用織物の繰返しユニットが、4本のトップ側MDヤーン11?14と、4対の接結MDヤーン21?28と、12本のボトム側MDヤーン51?62とを備え、
c.前記4本のトップ側MDヤーン11?14は、前記トップ側層にのみ存在し、かつ、前記トップ側層中に延在する16本のトップ側CMDヤーン31?46と織り合わされ、
d.前記12本のボトム側MDヤーン51?62は、前記ボトム側層にのみ存在し、かつ、前記ボトム側層中に延在する8本のボトム側CMDヤーン71?78と織り合わされ、
e1.前記4対の接結MDヤーン21?28は、互いに隣接して配置され単一の複合ヤーンとして機能する2本の接結ヤーン対(21、22)、(23、24)、(25、26)、(27、28)を形成し、
e2.トップ側MDヤーンの数及び接結MDヤーン対の数を合計した数とボトム側MDヤーンの数の比が2:3であって、
f1.前記2本の接結ヤーン対(21、22)、(23、24)、(25、26)、(27、28)は、前記4本のトップ側MDヤーン11?14とともに16本のトップ側CMDヤーン31?46と織り合わせられることで平織りパターンを形成し、
f2.前記2本の接結ヤーン対(21、22)、(23、24)、(25、26)、(27、28)が、各々、前記トップ側層の中と前記ボトム側層の中に存在することで、前記トップ側層と前記ボトム側層とが共に結ばれる、
f3.前記製紙用織物

なお、甲1記載発明の認定について当事者間に争いはない。(第1回口頭審理調書の請求人及び被請求人欄3)

2.甲第2号証ないし甲第7号証の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証ないし甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(1)甲第2号証
製紙用の複数層の織物において、トップ側の織物層とボトム側の織物層とを、複数組のMD縫合ヤーンで経糸縫合する技術([要約]、[特許請求の範囲]、段落[0009]、[0012]ないし[0015]、[0022]、[0024]ないし[0035]、[図1]ないし[図6]を参照)

(2)甲第3号証
a.製紙用の複数層の織物において、トップ側の織物層とボトム側の織物層とを、複数組の縫合経糸で縫合する技術([要約]、[特許請求の範囲]、段落[0010]ないし[0012]、[0015]ないし[0022]、[0024]ないし[0047]、[図1]ないし[図6E]を参照)
b.上記a.の技術は、種々の異なる形態の織物に広げることができること。例えば、代表的な20及び25綜絖の実施形態の織物で示されているようなものとは異なる綜絖数で織った織物においても採用可能であること。また、種々のトップ側及びボトム側経糸比を有する織物でも採用可能であること。(段落[0058]を参照)

(3)甲第4号証
a.製紙用の複数層の織物において、トップ側の織物層とボトム側の織物層とを、複数組の縫合MDヤーンで経糸縫合する技術([要約]、[特許請求の範囲]、段落[0016]ないし[0082]、[図1]ないし[図27C]を参照)
b.上記a.の技術は、縫合箇所の頻度、及び/又はトップ側対ボトム側マシン方向ヤーン及び/又はマシン横断方向ヤーンの割合も変更し得ること。(段落[0090]を参照)

(4)甲第5号証
製紙用の複数層の織物において、第1の織り層の経糸OKの横断面寸法(径)を第2の織り層の経糸UKの横断面寸法(径)より小さくする技術([請求項26]、段落[0018]、[0024]、[0035]、[0051]、[0068]、[図1]、[図2]を参照)

甲第6号証ないし甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
(5)甲第6号証
a.織機の綜絖枠数はマシンセッティングによって変更可能であること(第2頁下側の枠内を参照)
b.織機の綜絖枠数の最大数が24枠ならば、マシンセッティングの変更によって、16シャフトも24シャフトも製織可能であること(第3頁上側の枠内を参照)
c.仮に、本件特許に係る織物を2ビームで製造可能であるならば、甲1号証に開示された織物も2ビームで製造可能であること(第6頁上側の枠内を参照)
d.24シャフトを16シャフトに変更する場合、実質的な上部経糸:下部経糸が2:3に最も近い6:8である、下部経糸8本を選択することになること(第6頁下側の枠内ないし第7頁下側の枠内を参照)
e.網の性能は完全組織、メッシュ(縦横糸密度)、線径などによって決定されること(第8頁上側の枠内を参照)

(6)甲第7号証
a.SSタイプ(8シャフト2重織) LLタイプと比較し耐摩耗性が良く、長寿命が期待できること。(第50頁を参照)
b.SS-Fタイプ(16シャフト2重織) SSタイプ(8シャフト)の改良型で撥水性・耐摩耗性に優れていること。(第50頁を参照)
c.LL-FEタイプ(14シャフト2.5重織) LL-Eタイプの改良型で、耐摩耗性に優れていること。(第52頁を参照)
d.SS-BEタイプ(16シャフト2.5重織) SS-Eタイプの改良型で、耐摩耗性に優れていること。(第52頁を参照)

3.本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「トップ側層」、「ボトム側層」、「製紙用織物」、「16本のトップ側CMDヤーン31?46」は、各々、本件発明1の「上部布帛層(A)」、「下部織物層(B)」、「シート形成用スクリーン」、「緯糸((101)?(120)、(101)?(112))」に相当する。
甲1発明の「製紙用織物」は、「トップ側層」と「ボトム側層」とを有する多層の布帛として形成されているということができる。
甲1発明において、「2本の接結ヤーン対(21、22)、(23、24)、(25、26)、(27、28)は、前記4本のトップ側MDヤーン11?14とともに16本のトップ側CMDヤーン31?46と織り合わせられることで平織りパターンを形成し」ていることから、「4本のトップ側MDヤーン11?14は、前記トップ側層にのみ存在し、かつ、前記トップ側層中に延在する16本のトップ側CMDヤーン31?46と織り合わされ」たものは、前記「平織りパターン」を部分的に形成するものであることが明らかである。
甲1発明の「前記製紙用織物の繰返しユニットが、4本のトップ側MDヤーン11?14と、4対の接結MDヤーン21?28と、12本のボトム側MDヤーン51?62とを備え」は、「多層布帛は、複数本の経糸から成る経糸の繰り返しを有し」という限りにおいて、本件発明1の「多層布帛は、16本の経糸から成る経糸の繰り返しを有し」に相当する。
甲1発明の「4本のトップ側MDヤーン11?14」は、「複数本の経糸のうちのA本の経糸」という限りにおいて、本件発明1の「16本の経糸のうちの4本の経糸((11)、(12)、(13)、(14))」に相当する。
甲1発明の「12本のボトム側MDヤーン51?62」は、「複数本の経糸のうちのB本の経糸」という限りにおいて、本件発明1の「16本の経糸のうちの8本の経糸((31)、(32)、(33)、(34)、(35)、(36)、(37)、(38))」に相当する。
甲1発明の「4対の接結MDヤーン21?28」は、「複数本の経糸のうちの残りのC本の経糸」という限りにおいて、本件発明1の「16本の経糸のうちの残りの4本の経糸((21)、(22)、(23)、(24))」に相当する。
甲1発明は「トップ側MDヤーンの数及び接結MDヤーン対の数を合計した数とボトム側MDヤーンの数の比が2:3であ」ることを要件としているから、上記A、B、Cは(式)(A+C/2):B=2:3を満たす必要がある。

してみると、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

《一致点》
「第1の織りを含む上部布帛層と第2の織りを含む下部織物層を有する多層布帛として形成されたシート形成用スクリーンであって、
該多層布帛は、複数本の経糸から成る経糸の繰り返しを有し、
該複数本の経糸のうちのA本の経糸は、該上部布帛層中にのみ延在し、かつ、該上部布帛層中に延在する緯糸と織り合わされた上部経糸として形成され、それにより、該第1の織りを部分的に形成し、
該複数本の経糸のうちのB本の経糸は、該下部布帛層の中にのみ延在し、かつ、該下部布帛層の中に延在する緯糸と織り合わされた下部経糸として形成され、
そして該複数本の経糸のうちの残りのC本の経糸は、互いに隣接してそれぞれ配置された2本の経糸から成る複数組の機能的経糸を形成し、
該各経糸ペアの2本の経糸は、該第1の織りを交互に完成させ、
そして該複数組の機能的経糸ペアを形成するC本の経糸の全てが、該上部布帛層の中と該下部布帛層の中の両方に延在し、その結果、該下部布帛層が該上部布帛層に結合される
前記シート形成用スクリーン。」

《相違点》
複数本の経糸の本数について、複数本、A本、B本、C本が、本件発明1では16本、4本、8本、4本であるのに対し、甲1発明では、24本、4本、12本、8本であって、(式)(A+C/2):B=2:3を満たす必要がある点。

なお、本件発明1と甲1発明との対比について当事者間に争いはない。(第1回口頭審理調書の請求人及び被請求人欄3)

4.本件発明1と甲1発明との相違点の検討
(1)甲1発明の経糸の本数を変更する動機等について
まず、上部経糸、下部経糸、機能的経糸ペアからなるシート形成用スクリーンにおいて、上部経糸、下部経糸、機能的経糸ペアを形成する経糸の数を変更し得ること自体は、甲第3号証の記載(上記第5.2.(2)b.を参照)や、甲第4号証の記載(上記第5.2.(3)b.を参照)からみて、公知ないし周知の技術であったと解される。
一方、甲1発明が、(式)(A+C/2):B=2:3を満たす必要があることの技術的な意義は、「広いトップ側表面開口面積を備え、強固にトップ側CMDヤーンを支持し、向上した脱水能力を備え、優れた安定性及び表面組織分布を備え」ること(上記第5.1.(4)を参照)及び「トップ側層上のCMD節部の長さが典型的な平織物と比較して増大されることとなり、このことが、1:1の比で構成される織物と比較して高い排水能力をもたらすこととなり、特に織物が少ない網目数で構成される場合に、典型的なものでは1:2の比で構成される緯糸接結織物に対して大きな安定性及び良好な安定性を備えることとなる。加えて、より少ない数のトップ側MDヤーンが、織物の特定の実施形態において、より太いヤーンを使用することが可能となる。より太いヤーンを用いることは、シャワー抵抗(shower resistance)及びトップ側表面磨耗抵抗を改善をさせることを可能とする」こと(上記第5.1.(7)を参照)にあると解される。
ここで、甲第1号証には、甲1発明の認定の基礎とした実施例(上記第5.1.(5)ないし(7)を参照)の他に、段落[0031]ないし[0037]及び[図4]ないし[図6]に示される実施例と段落[0038]ないし[0045]及び[図7]ないし[図9]に示される実施例とがあるが、いずれの実施例も上記「複数本の経糸の本数について、複数本、A本、B本、C本」が、24本、4本、12本、8本となっている。
また、甲第1号証の段落[0046]には、以下のように、上記「複数本の経糸の本数について、複数本、A本、B本、C本」の本数を「(式)(A+C/2):B=2:3を満たす」ことを条件に変更し得ることも記載されている。
「[0046]
この技術分野における当業者には分かるように、本発明の織物は異なる形態を取ることが可能である。例えば、繰返しユニット当たり異なる本数のトップ側及びボトム側MDヤーン(例えば、4本のトップ側MDヤーン及び6本のボトム側MDヤーン、又は16本のトップ側MDヤーン及び24本のボトム側MDヤーン)を用いて2:3というトップ側MDヤーン/ボトム側MDヤーンの好ましい比率を達成してもよい。別の実施形態として、トップ側MDヤーン当たり異なる数の接結ヤーン対を用いてもよい(例えば、2本又は3本のトップ側MDヤーン毎に1つの接結ヤーン対があっても、又はトップ側MDヤーン毎に2?3つの接結ヤーン対があってもよい)。・・・」
ゆえに、甲1発明において、上記「複数本の経糸の本数について、複数本、A本、B本、C本」の本数を変更する場合には、「当業者は、上記「(式)(A+C/2):B=2:3を満たす」ように、経糸の数を変更する」と解するのが自然である。
しかしながら、本件発明1において、上記「(A+C/2):B」を計算すると、その値は3:4であり、甲1発明の「2:3」とは明らかに異なる。
したがって、「2:3」とすることにより、優れた効果を発揮する(前記の技術的な意義を有する)甲1発明において、上記「複数本、A本、B本、C本」の本数を、前記「2:3」を満たすものではない「16本、4本、8本、4本」に変更することは、そもそも動機がなく、困難であるといわざるを得ない。

仮に、甲1発明において、上記「複数本、A本、B本、C本」の本数を「16本、4本、8本、4本」に変更するためには、上記「(式)(A+C/2):B=2:3を満たす」ことを凌駕する強い動機付けが必要であるが、そのような動機付けは、甲第1号証ないし甲第7号証からは見いだせない。

これに関し、請求人は、24本軸の織機と16本軸の織機のいずれもが周知であり、甲1号証に開示された、24本からなる上部経糸、機能的経糸ペア、および下部経糸の組合せから、適宜経糸の本数を間引くのは単なる設計変更にすぎず、織物の製造環境が「16本の軸と2本の縦糸ビームを備えた織機」だけを所有している当業者が、甲1号証に開示されている発明を見て、そこから機能的経糸ペアの構成を採用すれば、当業者であれば容易に本件特許発明に想到し得るのは至極当然である旨を主張している(上記第3.1.(3)ア.(イ)a.、(ウ)a.、(エ)を参照)。
しかしながら、甲1発明において、上記「(式)(A+C/2):B=2:3を満たす」ことを無視して、経糸の本数を間引いたり、機能的経糸ペアの構成のみを採用するには、相応の強い動機付けが必要であるところ、そのような強い動機付けの存在を示す証拠は示されていないから、この主張は失当であるといわざるを得ない。
また、請求人は、24本を前提とした織物を見て、これを16本の軸を有する織機へ転用できないか考えるのは、織物の当業者であれば、至極当然のことであり、24本の軸を有する織機を前提とする甲1発明の発明特定事項である「上部経糸」と「機能的ペアの経糸」と「下部経糸」の3種類の経糸を、16本の軸を有する織機に適用することを考えた場合、経糸の本数の組み合わせは、2対の機能的ペアを採用した場合、残り16-4=12本の経糸として、トップ側MDヤーン4本とボトム側MDヤーン8本という組み合わせが選択され、結果的に本件発明1の組み合わせになる旨(上記第3.1.(3)ア.(ウ)a.を参照)及び甲第1号証記載の発明を16本軸の織機で作る動機は16本軸を保有するユーザーから16本軸で作れないかとのニーズがある旨(上記第3.1.(3)ア.(エ)の6を参照)を主張している。
しかしながら、上記「24本を前提とした織物を見て、これを16本の軸を有する織機へ転用できないか考えるのは、織物の当業者であれば、至極当然のこと」であることを裏付ける客観的な証拠等は示されていない。
仮に、転用するとしても、織機には、軸本数の異なる多くの織機がある(調書の請求人欄4)から、軸本数の異なる多くの織機の中から16本軸の織機を選択し転用する動機がない。
そして、16本軸の織機に転用したとしても、請求人が主張するように、2対の機能的ペア(4本の機能的経糸)、トップ側MDヤーン4本、ボトム側MDヤーン8本という組み合わせを選択すると、上記「(A+C/2):B」は3:4となってしまい、2:3とはならないゆえに、当業者は、そのような選択はしないと解されるから、この主張も失当であるといわざるを得ない。

したがって、甲1発明において、上記「複数本、A本、B本、C本」の本数を「16本、4本、8本、4本」に変更することは、当業者にとって容易であるとはいえない。

(2)本件発明1の作用効果について
本件発明1は、被請求人が主張するとおり、(a)製造が容易、(b)高い繊維支持、(c)高い機械的安定性、(d)低いマーキング傾向、(e)安定した層接続という5つの作用効果(上記第3.2.(2)ア.(ア)c.及び(イ)b.を参照)を奏し得るものと認められる。
そして、この5つの作用効果のうち、(b)高い繊維支持、(c)高い機械的安定性、(e)安定した層接続の3つの作用効果については、上部経糸の本数よりも下部経糸の本数の方が多く、かつ、機能的経糸ペアを有する甲1発明も奏し得るものと解される。
しかしながら、上記5つの作用効果を両立して奏し得ることは当業者が十分予測し得たことであるというべき根拠は、甲1発明や甲第1号証ないし甲第7号証に記載された事項には見いだせない。
ゆえに、上記5つの作用効果を両立して奏し得ることは、本件発明1に特有かつ格別なことというべきである。

請求人は、上記(a)製造が容易との作用効果は、甲1号証に開示されている24本の経糸を用いた織物を、16本の軸と2本の経糸ビームを備えた織機で製造し得るようにしたものにすぎず、本件特許に係るシート形成用スクリーンによって「製造が容易」となったものではない旨を主張している(上記第3.1.(3)ア.(イ)b.を参照)。
しかしながら、本件特許明細書の段落[0027]には「織物には16本の長軸糸から成る長軸糸の繰り返しがあるという事実のため、そして4本の上部の長軸糸、8本の下部の長軸糸および2組の機能的ペアへの16本の長軸糸の特許請求する分布のため、本発明による紙形成用スクリーンは(長軸糸が縦糸によって形成されるとすると)16本の軸と2本の縦糸ビームから成る軸パッケージを備えた織機によって製造できる。・・・このことは、本発明によるスクリーンを製造するために別々の織機を使用するか、又は(例えば、軸を加えるか、もしくは引き抜くことによって)既存の織機を再構築する必要がないことを意味している。むしろ、本発明によるスクリーンは、別の16軸スクリーンの製造の合間に必要な機械を予め再構築せずに製造できる。」と記載されているように、上記(a)製造が容易との作用効果は、本件発明1によってもたらされることが明かであるから、この主張は失当であるといわざるを得ない。

また、請求人は、上記(a)製造が容易との作用効果について、3種類の経糸を使用する本件発明1が2本のビームで製造できるのであれば、甲1発明の織物も同様の装置で製造することができるから、本件発明1に特有の作用効果ではなく、さらに、本件発明1は、製造方法や製造装置に関する発明ではなく、3種類の経糸を2本のビームを使って製造するための、経糸の径や、織り合わせる際に使用される経糸の長さ、どの経糸を組み合わせて1本のビームから繰り出すのか等の限定がないから、製造容易とはいえない旨も主張している(上記第3.1.(3)ア.(ウ)b.を参照)。
しかしながら、上記(a)製造が容易とは、上記本件特許明細書の段落[0027]の記載からみて、「16本の軸と2本の縦糸ビームから成る軸パッケージを備えた織機によって製造できる」という程度の意味であると解されるところ、たとえ甲1発明が2本のビームで製造できると仮定しても、16本の軸で製造すること、すなわち、上記「複数本、A本、B本、C本」の本数を「16本、4本、8本、4本」に変更することは、上記したとおり、そもそも困難であるし、被請求人は、3種類の経糸を2本のビームを使って製造するための具体的な製造方法が容易と主張しているわけではないから、これらの請求人の主張も失当であるといわざるを得ない。

そして、仮に、請求人が主張するとおり、上記5つの作用効果が、特許発明1に特有ないし格別な作用効果ではないとしても、そのこと自体は、甲1発明において、上記「複数本、A本、B本、C本」の本数を「16本、4本、8本、4本」に変更することが容易とすべき根拠にはなり得ない。

5.本件発明1の容易想到性についてのまとめ
したがって、本件発明1は、甲各号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6.本件発明2ないし本件発明11の容易想到性の検討
本件発明2ないし本件発明11は、本件発明1の構成要件を全て備え、さらに他の構成要件を備える発明である。
そして、上記5.のとおり本件発明1は甲各号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の構成要件を全て備える本件発明2ないし本件発明11も、本件発明1について検討したのと同様な理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

7.無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし本件発明11のいずれについても無効理由1には、理由がない。


第6.無効理由2についての判断
無効理由2の対象である本件発明9及び10は、以下のとおりである。(下線は当審にて付与。)

《本件発明9》
前記上部布帛層の中に延在する緯糸の数対前記下部布帛層の中に延在する緯糸の数の比が、2以上:1である、請求項8に記載のシート形成用スクリーン。
《本件発明10》
前記上部布帛層の中に延在する緯糸の数対前記下部布帛層の中に延在する緯糸の数の比が、3以上:2である、請求項8に記載のシート形成用スクリーン。

上記において、下線部分は、平成25年12月9日付け手続補正により、補正された事項である。
一方、本件の願書(特許法第184条の6第1項の規定により、願書とみなされた、国際特許出願日における願書)に最初に添付した特許請求の範囲(特許法第184条の6第2項の規定により、願書に添付して提出した特許請求の範囲とみなされた、国際特許出願日における請求の範囲の翻訳文)の請求項9には、以下が記載されている。
「前記上部布帛層の中に延在する緯糸に対する前記下部布帛層の中に延在する緯糸の比が、1超であり、例えば、少なくとも又はちょうど2:1であるか、あるいは例えば、少なくとも又はちょうど3:2である、請求項1?8のいずれか1項に記載のシート形成用スクリーン。」
ここで、「前記上部布帛層の中に延在する緯糸に対する前記下部布帛層の中に延在する緯糸の比が、1超であり」との意味は、「前記上部布帛層の中に延在する緯糸」の数を1とした場合、「前記下部布帛層の中に延在する緯糸」の数が1を超えることであると解される。
そして、「例えば、少なくとも又はちょうど2:1であるか、あるいは例えば、少なくとも又はちょうど3:2である」との記載は、上記「前記上部布帛層の中に延在する緯糸に対する前記下部布帛層の中に延在する緯糸の比が、1超であり」の例示である。
ゆえに、上記「少なくとも又はちょうど2:1」は、「前記下部布帛層の中に延在する緯糸」の数:「前記上部布帛層の中に延在する緯糸」の数が、「少なくとも2:1」又は「2;1」であると解され、また、「少なくとも又はちょうど3:2」は、「前記下部布帛層の中に延在する緯糸」の数:「前記上部布帛層の中に延在する緯糸」の数が、「少なくとも3:2」又は「3;2」であると解される。
他方、「以上」とは、「数量・程度などを表す名詞の下に付けて,それより多いこと,また,優れていることを表す。数量を表す用法では,その基準点を含む。」(三省堂大辞林)という意味の語である。
ゆえに、「少なくとも又はちょうど2:1」は、「2以上:1」という表現に、また、「少なくとも又はちょうど3:2」は、「3以上2」という表現に、それぞれ書き換えが可能である。

してみると、本件発明9及び10は、本件の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項9に記載された「例えば、少なくとも又はちょうど2:1であるか、あるいは例えば、少なくとも又はちょうど3:2である」を、「例えば、少なくとも又はちょうど2:1である」場合と、「例えば、少なくとも又はちょうど3:2である」場合とに分け、それぞれの場合について、その表現を書き換えたものと解される。
したがって、上記手続補正は、本件の願書に最初に添付した明細書(特許法第184条の6第2項の規定により、願書に添付して提出した明細書とみなされた、国際特許出願日における明細書の翻訳文)、特許請求の範囲の記載から導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するもの、すなわち、新規事項の追加ではない。

なお、請求人は、「上部布帛中の緯糸の数の比率が、下部布帛中の緯糸の数に対して2を超えた実施態様についての開示が明細書にない以上、特許法第36条第6項第1号の無効理由に該当することは明らかである。」とも主張しているが、そもそもこれは、審判請求書に記載された本件特許を無効にすべき理由とはされていなかった主張である。
そして、対応する実施例の開示がないことのみをもって、請求項9に係る発明が明細書に記載された発明ではないとすべき理由もない。
ゆえに、上記請求人の主張は失当である。

以上のとおりであるから、無効理由2には、理由がない。


第7.むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし本件発明11に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-12 
結審通知日 2015-08-14 
審決日 2015-08-28 
出願番号 特願2012-548462(P2012-548462)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (D21F)
P 1 113・ 54- Y (D21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 尚之  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 渡邊 豊英
熊倉 強
登録日 2014-09-05 
登録番号 特許第5607757号(P5607757)
発明の名称 シート形成用スクリーン  
代理人 小松 純  
代理人 出野 知  
代理人 関根 宣夫  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 塩川 和哉  
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