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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1309549
審判番号 不服2014-24711  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-03 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 特願2012-103433「電動機の回転子、電動機、空気調和機、および電動機の回転子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日出願公開、特開2013-233035〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成24年4月27日を出願日とする出願であって、平成26年1月23日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成26年1月28日)、これに対し、平成26年3月28日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年9月29日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成26年10月7日)、これに対し平成26年12月3日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付の手続補正書が提出されたものである。


第2.平成26年12月3日付の手続補正書による補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年12月3日付の手続補正書による補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
平成26年12月3日付の手続補正書による補正(以下、「本件補正」と言う。)により、特許請求の範囲の請求項1は、

「【請求項1】
回転子のマグネットおよびシャフトが樹脂部により一体化され、前記シャフトに転がり軸受を配置する電動機の回転子であって、
前記転がり軸受は、負荷側転がり軸受および反負荷側転がり軸受で構成され、
前記シャフトは、前記負荷側転がり軸受に支持される負荷側軸部と、前記負荷側軸部の反負荷側端部に一体成形で形成されると共に前記反負荷側転がり軸受に支持される絶縁性の絶縁軸部と、から成り、
前記負荷側軸部の端面は、前記樹脂部の反負荷側軸方向端面よりも前記負荷側転がり軸受側に位置し、
前記絶縁軸部は、前記負荷側軸部と略同じ線膨張係数の樹脂材料であり、
前記負荷側軸部の反負荷側端部には、前記絶縁軸部が配置され、前記反負荷側端部と前記絶縁軸部とが嵌め合わされる部分に形成され前記負荷側軸部と前記絶縁軸部との回り止めおよび抜け止めとして機能するローレットが施されることを特徴とする電動機の回転子。」
(下線部は、補正による変更箇所を示したものである。)

と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である負荷側軸部と絶縁軸部に関して、「前記負荷側軸部の反負荷側端部には、前記絶縁軸部が配置され、前記反負荷側端部と前記絶縁軸部とが嵌め合わされる部分に形成され前記負荷側軸部と前記絶縁軸部との回り止めおよび抜け止めとして機能するローレットが施される」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正後の請求項1に記載された発明の独立特許要件
上記1.で示したように、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」と言う。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

(1)記載要件について
ア 本願補正発明は、「電動機の回転子」という物の発明であるが、「前記負荷側軸部の反負荷側端部に一体成形で形成される・・・絶縁性の絶縁軸部」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載であると言え、本願補正発明にはその物の製造方法が記載されていると言える。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
しかしながら、本願明細書等には、不可能・非実際的事情がある旨の直接的な記載も、また、そうした事情を伺わせる記載も見当たらない。また、当業者にとって不可能・非実際的事情があるとも理解できない。

イ 本願補正発明は、「前記負荷側軸部の端面は、前記樹脂部の反負荷側軸方向端面よりも前記負荷側転がり軸受側に位置し」との構成を有する。しかし、当該構成と明細書の段落0007に記載された「電動機の性能および品質を低下させることなく転がり軸受を流れる軸電流を防止し、電食を抑止すると共に異常音の発生を防止でき、また、シャフトと絶縁スリーブの空転を防止し同軸度を向上させることが可能な電動機の回転子、電動機、空気調和機、および電動機の回転子の製造方法を得る」という課題との因果関係が不明瞭であり、負荷側軸部の端面が、樹脂部の反負荷側軸方向端面よりも、どの程度、負荷側転がり軸受側に位置する必要があるのかが不明であって、例えば、ごくわずかに負荷側転がり軸受側に位置しているだけでも、上記課題を解決したものとなるのかが不明である。

ウ したがって、本願補正発明は、明確であるとは言えず、特許法第36条第6項2号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)進歩性について
上記(1)で示したとおり、本願補正発明は明確であるとは言えないが、本願発明が進歩性を有するか否かについても検討しておく。

ア 引用例
原査定の拒絶の理由に示された特開2011-239509号公報(以下、「引用例」と言う。)には、「電動機の回転子及び電動機及び電動機の回転子の製造方法及び空気調和機」と題する発明について、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与した。)。

a「【請求項1】
回転子のマグネット及びシャフトが樹脂部により一体化され、前記シャフトの外周に形成される前記樹脂部の軸方向両端面に転がり軸受けが配置される電動機の回転子において、
前記シャフトは、
該シャフトの本体を形成し、負荷側転がり軸受けを支持するシャフト本体部と、
前記シャフト本体部の反負荷側端部に設けられ、反負荷側転がり軸受けを支持するとともに、絶縁性を有する絶縁軸部と、を備え、
前記シャフト本体部の反負荷側端面は、前記樹脂部の反負荷側軸方向端面より内側に形成されることを特徴とする電動機の回転子。
【請求項2】
前記絶縁軸部は、前記反負荷側転がり軸受けを支持する軸受け嵌合部と、前記軸受け嵌合部から前記シャフト本体部側に突出する突出部と、を有し、前記シャフト本体部の反負荷側端部に形成された凹部に、前記絶縁軸部の前記突出部が嵌合し、
さらに前記絶縁軸部は、前記軸受け嵌合部の前記突出部側端面付近の外周面に、周方向に略等間隔に形成され、前記端面付近に頂点を有する複数の凸部と、を備えたことを特徴とする請求項1記載の電動機の回転子。」

b「【請求項8】
前記絶縁軸部の材料は、鉄とほぼ同じ線膨張係数の樹脂材料であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の電動機の回転子。
【請求項9】
前記絶縁軸部の材料は、熱硬化性樹脂のBMC(バルクモールディングコンパウンド)樹脂であることを特徴とする請求項8記載の電動機の回転子。」

c「【請求項13】
回転子のマグネット及びシャフトが樹脂部により一体化され、前記シャフトの外周に形成される前記樹脂部の軸方向両端面に転がり軸受けが配置される電動機の回転子の製造方法において、
前記シャフトと前記転がり軸受けとの間に、絶縁性を有する絶縁軸部を設け、前記絶縁軸部を前記樹脂部により一体化して固定することを特徴とする電動機の回転子の製造方法。」

d「【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る電動機の回転子は、回転子のマグネット及びシャフトが樹脂部により一体化され、前記シャフトの外周に形成される樹脂部の軸方向両端面に転がり軸受けが配置される電動機の回転子において、
シャフトは、
シャフトの本体を形成し、負荷側転がり軸受けを支持するシャフト本体部と、
シャフト本体部の反負荷側端部に設けられ、反負荷側転がり軸受けを支持するとともに、絶縁性を有する絶縁軸部と、を備え、
シャフト本体部の反負荷側端面は、樹脂部の反負荷側軸方向端面より内側に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る電動機の回転子は、シャフトは、シャフトの本体を形成し、負荷側転がり軸受けを支持するシャフト本体部と、シャフト本体部の反負荷側端部に設けられ、反負荷側転がり軸受けを支持するとともに、絶縁性を有する絶縁軸部と、を備え、シャフト本体部の反負荷側端面は、樹脂部の反負荷側軸方向端面より内側に形成される絶縁軸部の樹脂部に埋設される側の端面付近に周方向に略等間隔に形成され、端面付近に頂点を有する複数の凸部を備えたことにより、軸受けの電食を抑制するためにシャフトの反負荷側端部を構成する絶縁軸部を簡便な方法で確実に固定できる。」

e「【0012】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について、図面を参照しながら説明する。図1は実施の形態1を示す図で、電動機100の断面図である。図1に示す電動機100は、モールド固定子10と、回転子20(電動機の回転子と定義する)と、モールド固定子10の軸方向一端部に取り付けられる金属製のブラケット30とを備える。電動機100は、例えば、回転子20に永久磁石を有し、インバータで駆動されるブラシレスDCモータである。」

f「【0014】
図3は実施の形態1を示す図で、モールド固定子10に回転子20が挿入された状態を示す断面図である。モールド固定子10の軸方向一端部の開口部10b(図2参照)から挿入された回転子20は、負荷側のシャフト23がモールド固定子10の軸方向他端部の孔11a(図2参照)から外部(図3の左側)に出る。そして、回転子20の負荷側転がり軸受け21a(転がり軸受けの一例)が、モールド固定子10の反開口部10b側の軸方向端部の軸受け支持部11に当接するまで押し込まれる。このとき、負荷側転がり軸受け21aは、モールド固定子10の反開口部10b側の軸方向端部に形成された軸受け支持部11で支持される。
【0015】
回転子20は、反負荷側のシャフト23に後述する樹脂部24で一体化され、樹脂で構成され、絶縁性を有する絶縁軸部60(図1の右側)に反負荷側転がり軸受け21b(転がり軸受けの一例)が取り付けられる(一般的には、圧入による)。絶縁軸部60については、詳細は後述する。」

g「【0020】
次に、回転子20の構成を説明する。図6乃至図8は実施の形態1を示す図で、図6は回転子20の断面図、図7は負荷側転がり軸受け21a及び反負荷側転がり軸受け21bを取り外した回転子20-1の断面図、図8は負荷側から見た回転子20-1の側面図である。
【0021】
図6、図7に示すように、回転子20(もしくは回転子20-1)は、ローレット23aが施されたシャフト23、リング状の回転子の樹脂マグネット22(回転子のマグネットの一例)、リング状の位置検出用樹脂マグネット25(位置検出用マグネットの一例)、そしてこれらを一体成形する樹脂部24で構成される。
【0022】
回転子20-1に、負荷側転がり軸受け21a、反負荷側転がり軸受け21bを装着して、回転子20となる。
【0023】
リング状の回転子の樹脂マグネット22と、シャフト23と、位置検出用樹脂マグネット25とを、縦型成形機により射出された樹脂部24で一体化する。このとき、樹脂部24は、シャフト23の外周に形成される、後述する中央筒部24g(樹脂部、回転子の樹脂マグネット22の内側に形成される)と、回転子の樹脂マグネット22を中央筒部24gに連結する、シャフト23を中心として半径方向に放射状に形成された軸方向の複数のリブ24j(図8参照)を有する。リブ24j間には、軸方向に貫通した空洞24k(図8参照)が形成される。
【0024】
樹脂部24に使用される樹脂には、PBT (ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の熱可塑性樹脂が用いられる。これらの樹脂に、ガラス充填剤を配合したものも好適である。
【0025】
反負荷側のシャフト23の絶縁軸部60(図6で右側)に、反負荷側転がり軸受け21bが取り付けられる(一般的には、圧入による)。また、ファン等が取り付けられる負荷側のシャフト23(図6で左側)には、負荷側転がり軸受け21aが取り付けられる。」

h「【0029】
本実施の形態は、金属製(導電性を有する)のブラケット30で支持される反負荷側転がり軸受け21bをシャフト23の絶縁軸部60に圧入して、絶縁軸部60が絶縁となり軸電流を抑制することにより反負荷側転がり軸受け21bの電食の発生を抑制する点に特徴がある。
【0030】
シャフト23の絶縁軸部60は、後述するようにシャフト23のシャフト本体部23e(導電性を有する金属製)の凹部23h(図10参照)に、樹脂製の絶縁軸部60の小径部60b(突出部、図10参照)が挿入される。そして、シャフト本体部23e、リング状の回転子の樹脂マグネット22、リング状の位置検出用樹脂マグネット25を樹脂部24で一体化する際に、絶縁軸部60も一体化される(例えば、図13参照)。
【0031】
シャフト本体部23eと絶縁軸部60(大径部60a(図10参照))の外径は概略同一である。
【0032】
このように、シャフト23に挿入された絶縁軸部60が樹脂部24で一体化されて固定されるので、絶縁軸部60の固定が極めて簡便になり、且つ確実に固定されシャフト23から絶縁軸部60が外れる恐れが少なくなる。
【0033】
尚、本実施の形態は、リング状の位置検出用樹脂マグネット25を持たない回転子20も含む。
【0034】
負荷側転がり軸受け21aを流れる軸電流は、反負荷側転がり軸受け21bとシャフト本体部23eとの間に設ける絶縁軸部60により反負荷側転がり軸受け21bを流れる軸電流が小さくなることに伴って小さくなるため、シャフト23を絶縁しなくても良い。
【0035】
図9乃至図12は実施の形態1を示す図で、図9はシャフト23の斜視図、図10はシャフト本体部23eに絶縁軸部60を挿入する直前の状態を示す図、図11はシャフト本体部23eに絶縁軸部60を挿入する直前の状態を絶縁軸部60側から見た斜視図、図12はシャフト本体部23eに絶縁軸部60を挿入する直前の状態をシャフト本体部23e側から見た斜視図である。
【0036】
図9に示すように、シャフト23は、シャフト本体部23eと絶縁軸部60とからなる。シャフト本体部23eと絶縁軸部60の外径は、略同一になるように構成する。
【0037】
図10乃至図12に示すように、シャフト本体部23eと絶縁軸部60とは、シャフト本体部23eの反負荷側端部に形成された凹部23hに絶縁軸部60の小径部60bが挿入される。この段階では、挿入されただけで一体化されていない。回転子20-1が組み立てられるときに、シャフト本体部23eに挿入された絶縁軸部60が樹脂部24で一体化されて固定される。
【0038】
図13は実施の形態1を示す図で、回転子20-1の絶縁軸部60付近の拡大断面図である。図13に示すように、シャフト本体部23eの凹部23hに、小径部60bが挿入された絶縁軸部60は、樹脂部24によって一体化される。絶縁軸部60の回り止め及び抜け止めについては後述する。
【0039】
図13において、反負荷側転がり軸受け21bが保持されるシャフト23の絶縁軸部60の大径部60a(軸受け嵌合部、反負荷側転がり軸受け21bが圧入される部分)の直径d2は、シャフト23のシャフト本体部23eの直径d1と略同一である。
【0040】
また、絶縁軸部60の大径部60aに、反負荷側転がり軸受け21bが圧入されて保持されるので、樹脂部24の中央筒部24gの絶縁軸部60側(反負荷側)端面と絶縁軸部60の大径部60aの反負荷側(図13では右側)との距離L1は、反負荷側転がり軸受け21bの軸方向の長さよりも大きくしている。
【0041】
樹脂部24には、反負荷側転がり軸受け21bのシャフト23の絶縁軸部60への挿入時の軸方向の位置決めとなる軸受け当接面24dが、シャフト本体部23eのローレット23aを軸方向の中心とした外周に形成される樹脂部24の中央筒部24g(樹脂部)の反負荷側端部に形成されている。
【0042】
そして、シャフト23のローレット23aを軸方向の中心とした外周に形成される樹脂部24の中央筒部24gには、中央筒部24gの外周部と軸受け当接面24dとの間に段差部24eが設けられる。」

i「【0049】
図15乃至図19は実施の形態1を示す図で、図15は絶縁軸部60を示す図((a)は側面図、(b)は正面図)、図16は絶縁軸部60を示す斜視図、図17は図16のB部拡大図、図18は凸部60gを端面60d側から見た拡大側面図、図19は図15のA部拡大図である。
【0050】
図15乃至図19を参照しながら絶縁軸部60について説明する。図に示すように、絶縁軸部60は、略円柱状の大径部60aと、この大径部60aのシャフト本体部23e側の軸方向端面から軸方向に突出する略円柱状の小径部60bとを備える。大径部60aと小径部60bとは、略同心である。そして、小径部60bの径は、大径部60aの径よりも小さい。
【0051】
絶縁軸部60の大径部60aは、樹脂部24の中央筒部24g側の端部に、以下に示す構成の複数の凸部60gを備える。
(1)絶縁軸部60の大径部60aのシャフト23外周に形成される樹脂部24に埋設される側の端面60d付近に、先ず第1に、端面60dにおける形状が、外周から所定の距離離れた位置を頂点60g-1とし、頂点60g-1を通る半径(頂点60g-1と大径部60aの外周円の中心を結ぶ線)に対し、両側に等角度(α)に大径部60aの外周円との交点a,bで交わる略三角形状である(図18参照)。
(2)第2に、端面60dから軸方向の形状は、頂点60g-1より所定の角度(β)で軸方向に、大径部60aの外周面60a-1に向う凸部60gを形成している(図19参照)。
(3)複数の凸部60gは、図15(a)に示すように、周方向に略等間隔に形成される。図15(a)の例では、略45°間隔で、7個の凸部60gが形成されている。
【0052】
絶縁軸部60の大径部60aは、端面60d付近に樹脂成形時の、所定の巾で軸方向に伸び、且つ所定の高さ(径方向)の樹脂注入口のゲート切断部60cを有し、図15(a)に示すように、二つの凸部60gの夫々と略45°間隔をおいて、二つの凸部60gの略中央部に位置する。
【0053】
凸部60gの形状は、一言で云えば、「略三角錐」である。そして、三角錐の四個ある角部の一つが端面60dにおいて頂点となり、二つの角部が端面60dにおいて大径部60aの外周円と交わる交点a,bに位置し、残る一つの角部が端面60dより軸方向の内側の外周面60a-1に位置する。
【0054】
図15乃至図19に示した絶縁軸部60の大径部60aの凸部60gは、一例であって、その形状は、「略三角錐」に限定されるものではない。凸部60gは、大径部60aの端面60d付近に頂点があり、この頂点から周方向もしくは軸方向に、暫時外周面60a-1に向う構成であればよい。そして、凸部60gの外周面は、平面でなくてもよく、曲面でもよい。
【0055】
樹脂部24により絶縁軸部60がシャフト本体部23eと一体化されるときに、中央筒部24gが絶縁軸部60の大径部60aの端面60d付近の凸部60gを覆い一体化するので、絶縁軸部60の軸方向及び周方向の移動を抑制している(回り止め及び抜け止め)。
【0056】
絶縁軸部60の凸部60gがシャフト23外周に形成される樹脂部24の中央筒部24gに埋設される際に、絶縁軸部60の大径部60aの外周面60a-1に対して、凸部60gを所定(端面60d)の頂点60g-1から等角度(α)で外周面60a-1に到達させる(図18参照)。それにより、凸部60gの間が樹脂部24の中央筒部24gの一部となるので、絶縁軸部60の大径部60aの端面60d付近における樹脂部24の中央筒部24gの肉厚を確保できる。
【0057】
また、絶縁軸部60の凸部60gを、頂点60g-1から軸方向に対しても所定の角度(β)で絶縁軸部60の大径部60aの外周面60a-1に到達させることで(図19参照)、樹脂部24の中央筒部24gの軸方向端面付近における肉厚を確保できる。
【0058】
樹脂部24で一体成形される絶縁軸部60の回り止め及び抜け止めとなる凸部60gを、上記のように形成することで、凸部60g付近に樹脂部24の中央筒部24gが形成される。そのため、樹脂部24の中央筒部24gの肉厚を確保することができる。それにより、コスト低減と品質の確保が図れる。」

j「【0063】
絶縁軸部60の材料には、鉄(シャフト本体部23e)とほぼ同じ線膨張係数の樹脂材料を使用するのが好ましい。そのような樹脂材料として、例えば、熱硬化性樹脂のBMC樹脂が挙げられる。BMC(バルクモールディングコンパウンド )樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂に各種の添加剤が加えられた塊粘土状の熱硬化性樹脂である。BMC樹脂は、以下に示す特徴がある。
(1)エポキシ樹脂に比べ硬化時間が短い為生産性が良い;
(2)材料のコストと特性のバランスが良い;
(3)低圧での成形が可能;
(4)寸法の安定性が高い;
(5)表面硬さが高く、キズが付きにくい;
(6)金属に比べ軽く、複雑形状の成形性に優れ、且つ吸振性にも優れている。また、本実施の形態では、熱硬化性樹脂による絶縁軸部60を開示したが、セラミック等のその他の材料であっても構成が同じであれば、本発明が適用されることは言うまでもない。
【0064】
電動機の回転子において、熱の上昇、下降の熱履歴を受ける場合、鉄と樹脂の線膨張係数が異なる場合には、応力が発生する。そのため、樹脂にはクリープ現象(一定の荷重のもとで、材料の変形が時間とともに増加していく現象)が発生し、軸受け(ベアリング)が挿入される部分は、初期の寸法を維持できなくなることがある。その場合、軸受け(ベアリング)の内輪のクリープ(内輪と軸とに微小隙間が発生し1回転ごとに円周の差だけ接触位置がずれる現象)を引き起こす可能性があり、品質の低下が懸念される。これに対し、耐クリープ性の高い熱硬化性樹脂を使用することと、鉄と線膨張係数が近い熱硬化性樹脂のBMC樹脂を使用することで品質の向上を図れる。」

引用例において、上述した記載事項及び図面の記載内容を併せると、以下の事項を認めることができる。

・シャフト本体部23eの反負荷側の端面が、絶縁軸部60の端面60dに当接すると認められ、樹脂部24が、当該端面60d近傍の凸部60gを覆っていることから(特に段落0055、図13を参照。)、”シャフト本体部23eの反負荷側の端面は、樹脂部24の軸受け当接面24dよりも負荷側転がり軸受け21a側に位置している”。

以上を踏まえ、本願補正発明の表現にならって整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」と言う。)が記載されていると認めることができる。

「回転子20の樹脂マグネット22及びシャフト23が樹脂部24により一体化され、前記シャフト23に転がり軸受けが配置される電動機100の回転子20であって、
前記転がり軸受けは、負荷側転がり軸受け21aおよび反負荷側転がり軸受け21bで構成され、
前記シャフト23は、前記負荷側転がり軸受け21aを支持するシャフト本体部23eと、前記シャフト本体部23eの反負荷側端部に設けられると共に前記反負荷側転がり軸受け21bを支持する絶縁性を有する絶縁軸部60と、から成り、
前記シャフト本体部23eの反負荷側端面は、前記樹脂部24の軸受け当接面24dより前記負荷側転がり軸受け21a側に位置し、
前記絶縁軸部60は、前記シャフト本体部23eとほぼ同じ線膨張係数の樹脂材料であり、
前記シャフト本体部23eの反負荷側端部には、前記絶縁軸部60が設けられ、前記反負荷側端部に形成された凹部23hに前記絶縁軸部60の小径部60bが挿入される、電動機100の回転子20。」

イ 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

(ア)引用発明における「樹脂マグネット22」、「転がり軸受け」、「負荷側転がり軸受け21a」、「反負荷側転がり軸受け21b」、「シャフト本体部23e」、「絶縁性を有する絶縁軸部60」、「前記シャフト本体部23eの反負荷側端面」、「前記樹脂部24の軸受け当接面24d」、「ほぼ同じ線膨張係数」及び「前記絶縁軸部60が設けられ」は、それぞれ、本願補正発明における「マグネット」、「転がり軸受」、「負荷側転がり軸受」、「反負荷側転がり軸受」、「負荷側軸部」、「絶縁性の絶縁軸部」、「前記負荷側軸部の端面」、「前記樹脂部の反負荷側軸方向端面」、「略同じ線膨張係数」及び「前記絶縁軸部が配置され」に相当する。

(イ)上記(ア)を踏まえると、引用発明における「前記負荷側転がり軸受け21aを支持するシャフト本体部23e」及び「前記反負荷側転がり軸受け21bを支持する絶縁性を有する絶縁軸部60」は、それぞれ、本願補正発明における「前記負荷側転がり軸受に支持される負荷側軸部」及び「前記反負荷側転がり軸受に支持される絶縁性の絶縁軸部」に相当する。

(ウ)上記(ア)、(イ)を踏まえると、引用発明における「前記シャフト本体部23eの反負荷側端部に設けられると共に前記反負荷側転がり軸受け21bを支持する絶縁性を有する絶縁軸部60」と、本願補正発明における「前記負荷側軸部の反負荷側端部に一体成形で形成されると共に前記反負荷側転がり軸受に支持される絶縁性の絶縁軸部」とは、「前記負荷側軸部の反負荷側端部に接合される共に前記反負荷側転がり軸受に支持される絶縁性の絶縁軸部」との概念で一致する。

(エ)上記(ア)を踏まえると、引用発明における「前記反負荷側端部に形成された凹部23hに前記絶縁軸部60の小径部60bが挿入される」と、本願補正発明における「前記反負荷側端部と前記絶縁軸部とが嵌め合わされる部分に形成され前記負荷側軸部と前記絶縁軸部との回り止めおよび抜け止めとして機能するローレットが施される」は、「前記反負荷側端部と前記絶縁軸部とが嵌め合わされる部分を有する」との概念で一致する。

したがって、両者は、
「回転子のマグネットおよびシャフトが樹脂部により一体化され、前記シャフトに転がり軸受を配置する電動機の回転子であって、
前記転がり軸受は、負荷側転がり軸受および反負荷側転がり軸受で構成され、
前記シャフトは、前記負荷側転がり軸受に支持される負荷側軸部と、前記負荷側軸部の反負荷側端部に接合される共に前記反負荷側転がり軸受に支持される絶縁性の絶縁軸部と、から成り、
前記負荷側軸部の端面は、前記樹脂部の反負荷側軸方向端面よりも前記負荷側転がり軸受側に位置し、
前記絶縁軸部は、前記負荷側軸部と略同じ線膨張係数の樹脂材料であり、
前記負荷側軸部の反負荷側端部には、前記絶縁軸部が配置され、前記反負荷側端部と前記絶縁軸部とが嵌め合わされる部分を有する電動機の回転子。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願補正発明は、負荷側軸部の反負荷側端部に絶縁性の絶縁軸部が一体成形で形成されるものであって、負荷側軸部の反負荷側端部には、絶縁軸部が配置され、反負荷側端部と絶縁軸部とが嵌め合わされるものであるが、引用発明は、負荷側軸部の反負荷側端部に絶縁性の絶縁軸部が設けられるものであって、負荷側軸部の反負荷側端部には、絶縁軸部が配置され、反負荷側端部に形成された凹部23hに絶縁軸部60の小径部60bが挿入されるものである点。

<相違点2>
反負荷側端部と絶縁軸部とが嵌め合わされる部分に関し、本願補正発明は、負荷側軸部と絶縁軸部との回り止めおよび抜け止めとして機能するローレットが施されるものであるが、引用発明は、そのような構成を有していない点。

ウ 判断
上記相違点1、2について検討する。

(ア)相違点1について
一方の部材に樹脂材料からなる他方の部材を接合するにあたり、樹脂材料の一体成形を利用することは、例えば特開2012-5184号公報(特に段落0084-0085、0088、0091を参照)に記載されているように周知の技術であって、引用発明のように凹凸の嵌め合わせを利用して接合を行うか、周知の技術のように樹脂材料の一体成形により接合を行うかは、当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎない。したがって、引用発明において一体成形を採用すること自体は、当業者が容易になし得たことである。
なお、すでに2.(1)アで指摘したように、本願補正発明は、「一体成形」なる用語により、製造に関しての技術的な特徴や条件が付された発明であるので、あくまで「電動機の回転子」という物に係る発明という観点で考えれば、相違点1は実質的なものではないとも言える。

(イ)相違点2について
一般的に、部品相互の嵌め合わせ部にローレット加工を施すことは特開2000-156952号公報(特に段落0032を参照)、特開2000-139056公報(特に段落0017を参照)に記載されているように周知の技術であって、回転軸を延長するために設けられる嵌め合わせ部にローレット加工を施すこともまた、特開2009-41387号公報(特に段落0017を参照)、特開昭63-51900号公報(特に第3頁左上欄第7?9行を参照)に記載されているように周知の技術である。そして、そもそもローレット加工は嵌め合いを強固にすることを目的に施されるものであって、回転部材を結合する際に、嵌め合いを強固にすることは一般的な課題であるから、引用発明の嵌め合い部分に、ローレット加工を施すとの周知技術を適用することは、当業者にとって容易である。

エ 小括
したがって、本願補正発明は、引用例及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年3月28日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである(以下、同請求項に係る発明を「本願発明」と言う。)

「【請求項1】
回転子のマグネットおよびシャフトが樹脂部により一体化され、前記シャフトに転がり軸受を配置する電動機の回転子であって、
前記転がり軸受は、負荷側転がり軸受および反負荷側転がり軸受で構成され、
前記シャフトは、前記負荷側転がり軸受に支持される負荷側軸部と、前記負荷側軸部の反負荷側端部に一体成形で形成されると共に前記反負荷側転がり軸受に支持される絶縁性の絶縁軸部と、から成り、
前記負荷側軸部の端面は、前記樹脂部の反負荷側軸方向端面よりも前記負荷側転がり軸受側に位置し、
前記絶縁軸部は、前記負荷側軸部と略同じ線膨張係数の樹脂材料であることを特徴とする電動機の回転子。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に示された引用例の記載事項、及び、引用例に記載された発明(引用発明)は、「第2.2.(2)ア」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、「第2.2.(2)」で検討した本願補正発明から、「前記負荷側軸部の反負荷側端部には、前記絶縁軸部が配置され、前記反負荷側端部と前記絶縁軸部とが嵌め合わされる部分に形成され前記負荷側軸部と前記絶縁軸部との回り止めおよび抜け止めとして機能するローレットが施される」という限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.2.(2)」に記載したとおり、引用例及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-30 
結審通知日 2015-11-04 
審決日 2015-11-17 
出願番号 特願2012-103433(P2012-103433)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 重幸永田 和彦  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 新海 岳
松永 謙一
発明の名称 電動機の回転子、電動機、空気調和機、および電動機の回転子の製造方法  
代理人 酒井 宏明  

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