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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02C
審判 全部無効 2項進歩性  G02C
管理番号 1309588
審判番号 無効2014-800123  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-07-23 
確定日 2015-11-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5155182号発明「レンズを包装する方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正請求書に添付された明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。 特許第5155182号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 請求項2ないし27についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人が27分の26を、被請求人が27分の1を負担するものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5155182号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成18年12月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成17年12月14日、米国)を国際出願日として国際出願された特願2008-545823号であって、平成24年12月14日にその設定登録がされたものである。
そして、その後の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成26年 7月23日(受理) 審判請求
平成26年 8月12日(発送) 請求書副本の送達通知(答弁指令)(8月 8日付け)
平成26年 9月 1日(受理) 手続補正書(8月29日付け 請求人)
平成26年12月18日(発送) 書面審理通知書(12月15日付け)
平成26年12月25日(発送) 無効理由通知書(12月22日付け)
平成26年12月25日(発送) 職権審理結果通知書(12月22日付け)
平成27年 1月13日(受理) 訂正請求書(1月 9日付け)
第2 訂正の可否に対する判断
1 訂正請求の内容
平成27年 1月 9日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正事項は、特許請求の範囲の請求項2乃至27を削除するものである。
2 訂正の適否
上記訂正は、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、当該訂正事項は特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法134条の2第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。
第3 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、審判請求書において、「特許第5155182号は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。
2 請求の理由の概要
(1)請求書による請求の要約は、以下のとおり。
特許法第123条第1項第2号(同法第29条第2項違反)
特許法第123条第1項第4号(同法第36条第6項第1号違反)
特許法第123条第1項第4号(同法第36条第4項第1号違反)
特許法第123条第1項第4号(同法第36条第6項第2号違反)
(2)請求書による請求の根拠は、以下のとおり。
「I.本件請求項1乃至27に係る各特許発明は、甲第1号証乃至甲第17号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の記載により特許を受けることができない者(当審注:「もの」の誤記と認められる。)であり、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきものである。」(以下「無効理由1」という。)
「II.請求項1乃至請求項27に係る各特許発明は、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の発明特定事項「安定剤」を含む発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる根拠は何ら示されていない。また請求項7に係る特許発明は、実施例に記載された、しかも具体的に実験データが示された値をあらゆる安定剤にまで拡張ないし一般化できる根拠は何ら示されていない。したがって、この意味において本件発明17(当審注:「本件発明1,7」の誤記と認められる。)は、特許法第36条第6項第1号に違反してされたものでもあり、特許法第123条第1項第4号に該当する。」(以下「無効理由2」という。)
「III.本件特許の明細書は、いわゆる当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていない。
したがって、この意味において本件の特許明細書は、特許法第36条第4項第1号に違反してされたものでもあり、特許法第123条第1項第4号に該当する。」(以下「無効理由3」という。)
「IV.請求項14、請求項1及び請求項25乃至請求項27に係る各特許発明は、「特許を受けようとする発明が明確である」とはいえず、特許法第36条第6項第2号の要件に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効理由を有する。」(以下「無効理由4」という。)
また、請求書において下記甲第1号証?17号証が、補正書として、甲第4号証の訳文がそれぞれ提出された。
<甲号証>
(1)甲第1号証:特表2000-513665号公報
(2)甲第2号証:特表2002-504399号公報
(3)甲第3号証:特開平11-114028号公報
(4)甲第4号証:米国特許出願公開第2004/0186028号明細書
(5)甲第5号証:特表平10-511047号公報
(6)甲第6号証:国際公開第2005/018693号
(7)甲第7号証:特開2002-136578号公報
(8)甲第8号証:特表2003-502226号公報
(9)甲第9号証:特表2004-517653号公報
(10)甲第10号証:特開昭54-116947号公報
(11)甲第11号証:薬食発第0401034号および医薬審第645号
(12)甲第12号証:特表2002-516190号公報
(13)甲第13号証:国際公開第2003/066792号
(14)甲第14号証:特公平6-22542号公報
(15)甲第15号証:特表2001-525298号公報
(16)甲第16号証:特許第3145705号公報
(17)甲第17号証:平成24年 4月18日提出意見書
3 請求の理由
上記「第2 訂正の可否に対する判断」で判断したように、本件特許は、特許請求の範囲の請求項2乃至27を削除され、請求項1のみが訂正されずに残っているものであるから、以下請求項1に関する無効理由について確認する。
(1)無効理由1
請求人は、本件の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1という。)と甲第4号証に記載された発明との対比に関して以下の通り主張している。
「<一致点>・・(略)・・
したがって、甲第4号証と本件の請求項1に係る発明との一致点は、
A 滅菌溶液に浸漬されたコンタクトレンズが入っている密封容器を含むコンタクトレンズパッケージであって
B 該コンタクトレンズがシリコーンヒドロゲルコポリマー製であり
C かつ該溶液が該シリコーンヒドロゲルコポリマーのレンズ直径の変化を阻止するのに有効な量の「カチオン性高分子電解質」を含有している
D コンタクトレンズパッケージである点てあると認められる。
<相違点>
甲第4号証は、「モジュラス及び含水率の変化」に言及していない点。
<相違点に対する判断>
・・(略)・・「モジュラス」とは、応力に応じたひずみの変化率を意味することから、甲第1号証におけるヤング率の評価とはまさにモジュラスの変化を評価していることにほかならない。
・・(略)・・
従って、甲第4号証に開示されている溶液に対し、コンタクトレンズ製品の使用期限を評価するために、甲第1号証で開示されている試験方法、即ちオートクレーブや促進保存試験により、コンタクトレンズ直径およびモジュラスの評価を行ない、保存安定性を確認することは、当業者であるなら容易に考え得ることである。
・・(略)・・
さらに、パッケージと組み合わせて使用が可能な抗菌剤を含むレンズ溶液が、甲第2号証に開示されている。・・(略)・・これらは、本件特許発明において、安定剤の機能あるとして挙げられているものであるが、既にコンタクトレンズ溶液に使用されていることが記載されている。これらの薬剤は、安定剤として機能することが本件特許発明で主張されているが、本件発明は、既に一般的にコンタクトレンズ溶液として使用されている薬剤が、別の効果を有することを発見したに過ぎない。しかも、コンタクトレンズ承認基準に従い、物理特性の変化が基準以内であることを評価することが義務づけられているものである。
従って、本件発明1は、甲第4号証に甲第5号証、甲第1号証、甲第11号証を組み合わせることにより、シリコーン含有ヒドロゲルコンタクトレンズと抗菌剤を含有したコンタクトレンズ溶液とを入れた、パッケージシステムにおける保存安定性の評価を実施し、安定剤の存在を確認したに過ぎず、当業者が容易に想到し得た発明であり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものというべきである。」
第4 無効理由通知の概要
「1 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
・理由の1
・請求項1?13、15?27
・備考
(1)請求項1・・(略)・・任意の安定剤すべてにおいて、「シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性の変化を阻止するのに有効な量」が存在するとの上位概念化しうる根拠が不明である。
・・(略)・・
・理由の2
・請求項1?27
・備考
(1)「シリコーンヒドロゲルコポリマーのモジュラス、含水率及び/又はレンズ直径の変化を阻止する」は、明確でない。・・(略)・・
(2)「シリコーンヒドロゲルコポリマーのモジュラス、含水率及び/又はレンズ直径の変化を阻止するのに有効な量の安定剤」は明確でない。・・(略)・・」
以下、無効理由通知に挙げられた理由の1を「無効理由2’」、同じく理由の2を「無効理由4’」という。
第5 本件発明
上記「第2」で判断したように、本件訂正が認められたので、訂正された特許請求の範囲は設定登録時の請求項1のみであり、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
「【請求項1】
滅菌溶液に浸漬されたコンタクトレンズが入っている密封容器を含むコンタクトレンズパッケージであって、該コンタクトレンズがシリコーンヒドロゲルコポリマー製でありかつ該溶液が該シリコーンヒドロゲルコポリマーのモジュラス、含水率及び/又はレンズ直径の変化を阻止するのに有効な量の安定剤を含有しているコンタクトレンズパッケージ。」
なお、平成27年 1月 9日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書を、以下、「本件明細書」という。
第6 当審の判断
1 無効理由1について
(1)各甲号証の記載事項
ア 甲第4号証(米国特許出願公開第2004/0186028号明細書)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。また、日本語訳は、平成26年 8月29日付けの手続補正書によって追加された甲第4号証の訳文を参照した。)
(ア) [Claims] 1. A solution for absorption into and controlled release over time from hydrogel biomaterials comprising:one or more polyethers and one or more cationic polyelectrolytes in a solution.(日本語訳:ヒドロゲル生体材料への吸収および該ヒドロゲル生体材料からの長時間にわたる制御放出のための溶液であって、溶液中に1種以上のポリエーテルおよび1種以上のカチオン性高分子電解質を含む、溶液。)
(イ) [0002] Contact lenses in wide use today fall into two general categories.First,there are the hard or rigid type lenses that are formed from materials prepared by the polymerization of acrylic esters,such as poly(methyl methacrylate) (PMMA).Secondly,there are the gel,hydrogel or soft type lenses made by polymerizing such monomers as 2-hydroxyethyl methacrylate (HEMA) or,in the case of extended wear lenses,made by polymerizing silicon-containing monomers or macromonomers.・・(略)・・(日本語訳:今日広く使用されているコンタクトレンズは、2つの一般的な部類に分かれる。一つ目は、アクリル酸エステル(例えば、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA))の重合化により調製される材料から形成される硬質(hard)または硬性(rigid)な型のレンズが存在する。2つ目としては、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のようなモノマーを重合化することにより作製されるか、または長時間装用レンズの場合、シリコン含有モノマーもしくは高分子モノマーを重合化することにより作製されるゲル、ヒドロゲルもしくはソフト型レンズが存在する。・・(略)・・)
(ウ) [0022] The present invention relates to a solution and a method of using the solution for absorption and controlled release of comforting components of the solution by hydrogel biomaterials such as for example hydrogel biomaterials in the form of soft contact lenses.Ophthalmic solutions of the present invention preferably comprise greater than approximately 1 percent by weight of polyethers based upon poly(ethylene oxide)-poly(propylene oxide)-poly(ethylene oxide),i.e.,(PEO-PPO-PEO),or poly(propylene oxide)-poly(ethylene oxide)-poly(propylene oxide),i.e.,(PPO-PEO-PPO),or a combination thereof.・・(略)・・(日本語訳:本発明は、ヒドロゲル生体材料(例えば、ソフトコンタクトレンズの形態のヒドロゲル生体材料)による溶液の快適成分の吸収および制御放出のための溶液およびその溶液を使用する方法に関する。本発明の眼用溶液は、好ましくは、ポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)-ポリ(エチレンオキシド)(すなわち、(PEO-PPO-PEO))、もしくはポリ(プロピレンオキシド)-ポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)(すなわち、(PPO-PEO-PPO))、またはこれらの組み合わせに基づく、約1重量%より多いポリエーテルを含む。・・(略)・・)
(エ) [0023] The subject ophthalmic solutions in addition to polyethers likewise include one or more,but at least one,cationic polyelectrolyte that functions to control lens swelling caused by the absorption of high concentrations of polyethers.By controlling lens swelling,visual acuity is maintained.Suitable cationic polyelectrolytes include for example but are not limited to polyquaternium 10,polyquaternium 11,polyquaternium 16,polyquaternium 44 and polyquaternium 46,but preferably polyquaternium 16 available under the trade name LuviquatTM FC 370 (BASF Wyandotte Corp.) or polyquaternium 10 available under the trade name Polymer JR (BASF Wyandotte Corp.).Preferably,the ophthalmic solution of the present invention comprises approximately 0.001 to 5 percent by weight and more preferably between approximately 0.01 to 0.5 percent by weight of one or more cationic polyelectrolytes for control of lens swelling.(日本語訳:本発明の眼用溶液は、ポリエーテルに加えて、高濃度のポリエーテルの吸収により引き起こされるレンズの膨潤を制御するように機能する、1種以上(しかし少なくとも1種)のカチオン性高分子電解質を含む。レンズ膨潤を制御することにより、視力が維持される。適切なカチオン性高分子電解質としては、例えば、ポリクオタニウム10、ポリクオタニウム11、ポリクオ タニウム16、ポリクオタニウム44およびポリクオタニウム46が挙げられるが、これらに限定されず、しかし商品名LuviquatTM FC370 (BASF WyandotteCorp.)で入手可能なポリクオタニウム16、または商品名ポリマーJR (BASF WyandotteCorp.)で入手可能なポリクオタニウム10が好ましい。好ましくは、本発明の眼用溶液は、レンズ膨潤の制御のために約0.001?5重量%の1種以上のカチオン性高分子電解質を含み、およびより好ましくは約0.01?0.5重量%の1種以上のカチオン性高分子電解質を含む。)
(オ) [0024] In accordance with the present invention,the subject ophthalmic solution is a multi-purpose solution effective in disinfecting contact lenses.The subject ophthalmic solution is used for treating contact lenses prior to placement in the eye or is used by administering in the form of drops in the eye,or is used for packaging contact lenses.For this purpose,solutions of the present invention may include one or more antimicrobial agents as a disinfectant or preservative.・・(略)・・(日本語訳:本発明に従って、本発明の眼用溶液は、コンタクトレンズを消毒するのに効果的な多目的溶液である。本発明の眼用溶液は、眼への装着の前にコンタクトレンズを処理するために使用されるか、または点眼剤の形態で眼へ投与することにより使用されるか、またはコンタクトレンズをパッケージングするために使用される。この目的のために、本発明の溶液は、消毒剤または防腐剤として1種以上の抗細菌剤を含み得る。・・(略)・・)
(カ) [0028] The subject solutions are sterilized by heat or sterile filtration and hermetically sealed.If used as a contact lens packaging solution,the solution is sterilized by heat and hermetically sealed in a blister pack with a contact lens.The subject solutions,if heat sterilized and hermetically sealed,may be used in the absence of an antimicrobial agent.(日本語訳:本発明の溶液は、加熱または滅菌濾過により滅菌され、そして密封される。コンタクトレンズパッケージング溶液として使用される場合、この溶液は、加熱により滅菌され、そしてブリスター包装でコンタクトレンズと一緒に密封される。加熱滅菌されて密封された場合、本発明の溶液は、抗細菌剤の非存在下で使用され得る。)
(キ) [0029] The solutions of the present invention are described in still greater detail in the examples that follow.
EXAMPLE 1
Use of Polyquaternium 16 to Control Polyether Induced Lens Swelling
[0030] SureVue^(TM) lenses (Johnson Johnson) were soaked in the base test solutions identified below in Table 1 for four hours with a specified amount of polyethers added thereto as identified in Column 1 of Table 2 below.The lenses were then placed under a microscope.While under the microscope,the lenses were submerged in the same solution they were previously soaked in for four hours.Using imaging software connected to the microscope,the length of the diameter of the lenses were measured and recorded as set forth below in Table 2.Before measuring and recording,the microscope was first calibrated with a round disc of known 9.6 mm diameter.SureVue^(TM) lenses are 14.0 mm in diameter in the original packaging solution.The Control 1 solutions containing various amount of polyethers were found to increase the lens diameter in a polyether concentration-dependent manner,which was effectively controlled when Luviquat FC550 and FC370 (Polyquaternium 16) were added into the solutions.・・(略)・・(日本語訳:本発明の溶液は、以下の実施例になおより詳細に記載される。
実施例1
ポリエーテル誘導性レンズ膨潤を制御するためのポリクオタニウム16の使用
シュアビュー(TM)レンズ(Johnson&Johnson)を、以下の表1で特定している基礎試験溶液に、4時間、以下の表2の縦列1で特定しているような、その溶液に添加された特定量のポリエーテルと一緒に浸漬した。次いで、このレンズを顕微鏡下に配置した。顕微鏡下にある間、このレンズを、事前に4時間浸漬した溶液と同じ溶液に浸漬した。この顕微鏡に連結された画像化ソフトウエアを使用して、レンズの直径の長さを、以下の表2に示すように測定および記録した。測定および記録の前に、顕微鏡を、既知の9.6mm直径の円盤を使用して最初に較正した。シュアビュー(TM)レンズは、元々のパッケージング溶液中では直径が14.0mmである。種々の量のポリエーテルを含むコントロール1溶液は、ポリエーテルの濃度に依存してレンズ直径が増大することが分かるが、Luviquat FC550 and FC370 (Polyquaternium 16)をこの溶液に添加した場合は、効果的に制御されている。・・(略)・・)
(ク)上記(オ)から、甲第4号証には、眼用溶液が、コンタクトレンズをパッケージングするために使用されることが記載されていおり、(カ)には、パッケージングの手段も記載されている。したがって、甲第4号証には、「コンタクトレンズパッケージ」が記載されていると認められる。
(ケ)上記(キ)から、甲第4号証には、レンズの膨潤の程度を確認するのに際して、試験溶液にレンズを浸漬し、レンズの直径の長さの変化を測定することが記載されている。
(コ)したがって、上記(ア)?(ク)から、甲第4号証には、以下の発明が記載されている。
「ヒドロゲル生体材料への吸収および該ヒドロゲル生体材料からの長時間にわたる制御放出のための溶液であって、溶液中に1種以上のポリエーテルおよび1種以上のカチオン性高分子電解質を含む、溶液を、
加熱により滅菌し、そしてブリスター包装でコンタクトレンズと一緒に密封した、
コンタクトレンズパッケージであって、
ヒドロゲル生体材料は、ソフトコンタクトレンズの形態であり、
溶液は、高濃度のポリエーテルの吸収により引き起こされるレンズの膨潤を制御するように機能する、0.001?5重量%の1種以上のカチオン性高分子電解質を含んでいる、
コンタクトレンズパッケージ。」(以下「甲4発明」という。)
イ 甲第2号証(特表2002?504399号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0014】(発明の詳細な説明)
本発明は、従来のハード、ソフト、剛性およびソフト気体透過性、およびシリコーン(ヒドロゲルおよび非ヒドロゲルの両方を含めて)レンズのような全てのコンタクトレンズに使用できるが、特に、ソフトレンズに有用である。「ソフトレンズ」との用語は、使用中のこのレンズの含水量が少なくとも20重量%であるような割合の親水性繰り返し単位を有するレンズを意味する。本明細書中で使用する「ソフトコンタクトレンズ」との用語は、一般に、少量の力で容易に曲がるコンタクトレンズを意味する。典型的には、ソフトコンタクトレンズは、メタクリル酸ヒドロキシエチルおよび/または他の親水性モノマー(これらは、典型的には、架橋剤で架橋されている)から誘導した繰り返し単位を一定割合で有する重合体から調合される。しかしながら、特に、広範な装着者用のさらに新しいソフトレンズは、高いDkシリコーン含有材料から製造されている。」
(イ)「【0061】(実施例3)本実施例は、シリコーンヒドロゲル(IV型レンズシリコーンヒドロゲル、35?36%含水量)からの脂質/タンパク質洗浄効力を説明している。・・(略)・・」
(2)対比
ア 甲4発明の「溶液中に1種以上のポリエーテルおよび1種以上のカチオン性高分子電解質を含む、溶液を、加熱により滅菌し、そしてブリスター包装でコンタクトレンズと一緒に密封した、コンタクトレンズパッケージ」は、本件発明の「滅菌溶液に浸漬されたコンタクトレンズが入っている密封容器を含むコンタクトレンズパッケージ」に相当する。
イ 甲4発明の「ヒドロゲル生体材料」は、ソフトコンタクトレンズの形態をとっているものであるから、本件発明の「コンタクトレンズがシリコーンヒドロゲルコポリマー製であり」と、「コンタクトレンズがヒドロゲル製である」点で一致する。
ウ 甲4発明のカチオン性高分子電解質はレンズの膨潤を制御するように機能するものであり、上記甲第4号証の記載事項(1)ア(ケ)で摘記した(1)ア(キ)に記載されているように、レンズの膨潤の程度は、具体的にはレンズの直径の変化により確認しており、ポリエーテルを含むコントロール溶液を用いた場合は、その濃度に依存してレンズ直径が増大しているのに対して、カチオン性高分子電解質である「Luviquat FC550 and FC370 (Polyquaternium 16)」を添加した場合には、これが制御されているのであるから、甲4発明の「カチオン性高分子電解質」は、本件発明の「安定剤」に相当する。そして、甲4発明において、レンズの膨潤が制御されていることから、カチオン性高分子電解質は「レンズ直径の変化を阻止するのに有効な量」添加されていることは明らかである。
したがって、甲4発明の「溶液は、高濃度のポリエーテルの吸収により引き起こされるレンズの膨潤を制御するように機能する、0.001?5重量%の1種以上のカチオン性高分子電解質を含んでいる」は、本件発明の「溶液が該ヒドロゲルポリマーのモジュラス、含水率及び/又はレンズ直径の変化を阻止するのに有効な量の安定剤を含有している」に相当する。
エ 上記ア?ウから、本件発明と、甲4発明とは、
「滅菌溶液に浸漬されたコンタクトレンズが入っている密封容器を含むコンタクトレンズパッケージであって、該コンタクトレンズがヒドロゲルポリマー製でありかつ該溶液が該ヒドロゲルポリマーのモジュラス、含水率及び/又はレンズ直径の変化を阻止するのに有効な量の安定剤を含有しているコンタクトレンズパッケージ。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点:本件発明では、コンタクトレンズが「シリコーンヒドロゲルコポリマー製である」のに対し、甲4発明では、コンタクトレンズがヒドロゲルであるが、シリコーンコポリマー製のヒドロゲルに限定されていない点
(3)判断
以下、相違点について検討する。
ア 甲第4号証の記載事項として摘記した上記(1)ア(ア)には、コンタクトレンズの一般的な部類として、シリコン含有モノマ-もしくは高分子モノマーを重合化することにより作製されるゲル、ヒドロゲルもしくはソフト型のレンズが存在することが記載されている。
イ 甲第2号証の記載事項として摘記した上記(1)イ(ア)に記載されているように、ソフトコンタクトレンズとして、シリコーンヒドロゲル製のレンズは、周知である。また、ソフトコンタクトレンズに用いるシリコーンヒドロゲルとして、少なくともシリコーン含有モノマーを含むモノマー混合物から形成された、コポリマーは、甲第12号証(【請求項1】、【請求項7】、【請求項9、】【請求項10】、【0011】、【0012】等)、特表平6-503103号公報(14頁左下欄21行?15頁左下欄7行等)、特開平7-64029号公報(【請求項1】、【0008】等)等に記載されているように、周知の事項にすぎない。(以下「周知事項」という。)
ウ したがって、甲4発明におけるヒドロゲル生体材料からなるコンタクトレンズとして、シリコーンヒドロゲルコポリマー製のコンタクトレンズを採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
エ そして、本件発明の奏する効果は、甲4発明の奏する効果、甲第2号証及び周知事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(4)したがって、本件発明は、甲4発明、甲第2号証及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
2 無効理由2’について
(1)請求項1に記載された「シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性の変化を阻止するのに有効な量の安定剤」との発明特定事項において、「安定剤」自体は、具体的な物質が特定されておらず、任意の安定剤となっている。
(2)それに対し、本件明細書の実施例においては、特定の安定剤が用いられているのみであり、当該実施例のみで、任意の安定剤すべてにおいて、「シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性の変化を阻止するのに有効な量」が存在するとの上位概念化しうる根拠が不明である。
(3)したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件発明に係る特許は、特許法36条6項1号の要件を満たしてない特許出願に対してされたものである。
3 無効理由4’について
(1)「シリコーンヒドロゲルコポリマーのモジュラス、含水率及び/又はレンズ直径の変化を阻止する」は、明確でない。
ア 本件明細書には、「【0088】包装されて貯蔵されている間、シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性が変化するのを阻止するのに有効な量の安定剤が含有されている。好ましくは、安定剤は、室温(25℃)で貯蔵する場合、シリコーンヒドロゲルコポリマーのモジュラスの変化を阻止して、その変化を、少なくとも1年間、より好ましくは少なくとも2年間および最も好ましくは少なくとも3年間、ただ25%までにするのに有効である。安定剤は、前記期間にわたって室温で貯蔵する場合、含水量の変化を阻止して、その変化を、好ましくは1質量%未満まで、より好ましくは0.5質量%未満までにするのに有効である。安定剤は、前記期間にわたって室温で貯蔵する場合、レンズ直径の変化を阻止して、その変化を、好ましくは0.1μm未満までに、より好ましくは0.05μm未満までにするのに有効である。」
との記載があるものの、「変化を阻止」することについての具体的な限定をしているものではない。
イ 上記記載は、モジュラス、含水率及び/又はレンズ直径いずれの量に対しても、「好ましくは」とする記載であり、阻止すべき「変化」の程度を具体的に示す記載ではない。即ち「阻止する」との文言においては、どの程度の変化まで許容するのかについて、何ら特定されたものとはなっていない。
(2)「シリコーンヒドロゲルコポリマーのモジュラス、含水率及び/又はレンズ直径の変化を阻止するのに有効な量の安定剤」は明確でない。
ア 本件明細書に具体的に記載された溶液は、
「【0096】
表1に列挙した緩衝剤を調製した。そのホウ酸緩衝剤はホウ酸とホウ酸ナトリウムを含有し、これら成分の比率は所望のpH値が得られるように調節した。そのリン酸緩衝剤は一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムを含有し、これら成分の比率は所望のpH値が得られるように調節した。そのクエン酸緩衝剤はクエン酸ナトリウムを含有し、所望のpH値を得るために必要なHClを添加した。そのTrizma緩衝剤はTrizma(トロメタミン)を含有し、所望のpH値を得るために必要なHClを添加した。そのMOPS緩衝剤は3-(モルホリノ)プロパンスルホン酸を含有し、所望のpH値を得るために必要なNaOHを添加した。そのジグリシン緩衝剤はジグリシンを含有し、所望のpH値を得るために必要なNaOHを添加した。」
のみであり、安定剤の量は、記載されていない。
イ よって、「有効な量」が具体的にどの程度の量を含むのか明確でなく、また、上記アで指摘したように、「阻止する」との文言がどの程度の変化を許容し得るのか明確でないことから、「有効な量」の範囲も不明確であり、これを特定することができない。
(3)したがって、上記(1)及び(2)に記載した理由より、本件発明は、明確でないから、本件発明に係る特許は、特許法36条6項2号の要件を満たしてない特許出願に対してされたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本件発明に係る特許は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであって、同法123条1項2号に該当し、また、本件発明に係る特許は、特許法36条6項1号及び6項2号に規定する要件を満たしていないものに対してされたものであって、同法123条1項4号に該当するから、請求人が主張する他の無効理由について判断を示すまでもなく、無効とすべきものである。
また、上記「第3」のとおり、請求人は、本件特許の設定登録時の請求項1ないし27に係る発明についての特許を無効とすることを求めるところ、上記「第2」のとおり本件訂正が認められ、設定登録時の請求項2ないし27は削除されたから、特許無効審判の請求の対象のうち、請求項1を除く請求項2ないし27は存在しないものとなった。
したがって、請求項2ないし27に係る発明についての特許に対する無効審判の請求は、不適法な審判の請求であって、その補正をすることができないものであるから、特許法135条の規定によって、却下すべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が27分の26を、被請求人が27分の1を負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
レンズを包装する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定度と貯蔵寿命を改良されたシリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズを入れるコンタクトレンズ用パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンヒドロゲルは、コンタクトレンズの用途に使用される一クラスの材料である。ヒドロゲルは、水を平衡状態で含有する、水和され架橋されたポリマー系で構成されている。シリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズの場合、そのヒドロゲルコポリマーは、一般に、少なくとも一種のレンズ形成性シコーン含有モノマーおよび少なくとも一種のレンズ形成性親水性モノマーを含有するモノマー混合物を重合させることによって製造される。
【0003】
ヒドロゲル製コンタクトゲルは、一般に、コンタクトレンズと滅菌包装溶液を保持するガラス製バイアル内または容器部分を含むプラスチック製ブリスターパッケージ内に包装される。前記溶液に浸漬されたコンタクトレンズの入っているこのバイアルまたは容器は、例えば、その容器を覆うパッケージのリッドストック(lidstock)を密閉することによって密封される。そのパッケージは、レンズを安全に輸送しおよび貯蔵する手段として働く。コンタクトレンズは、かなりの期間、使用するためそのパッケージから取り出すことがないことがある。例えば、そのパッケージ内のレンズは、製造業者または販売業者が在庫品として保管することがあり、また、コンタクトレンズの着用者が購入して長期間備蓄することもある。したがって、包装されたレンズは、十分な貯蔵寿命を有することが大切である。事実、コンタクトレンズのパッケージにはレンズの貯蔵寿命の限界を示す期限日が表示されている。
【0004】
シリコーンヒドロゲルコポリマーは、シリコーンヒドロゲル製でない従来のレンズより、加水分解作用に対して不安定な傾向が大きい。換言すれば、シリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズは、それが包装されて貯蔵されている間に、そのヒドロゲルコポリマーの架橋密度が変化するため、時間の経過とともに、モジュラスなどの機械的特性が変化する傾向が大きい。機械的特性のこのような変化によって、貯蔵寿命が必要な貯蔵寿命より短くなってしまうことがある。このように、シリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズが、シリコーンヒドロゲル製でない従来のレンズより貯蔵寿命が短いことは、珍しいことではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を認識して、シリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズの包装と貯蔵に付随する各種問題点を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
各種側面によって、本発明は、滅菌溶液中に浸漬されたコンタクトレンズが入っている密封容器を含むコンタクトレンズパッケージであって、そのコンタクトレンズがシリコーンヒドロゲルコポリマー製であり、かつその溶液が、前記シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性の変化を阻止するのに有効な量の安定剤を含有しているコンタクトレンズパッケージを提供する。
【0007】
各種の好ましい実施態様によって、前記安定剤は、機械的特性の変化、例えばモジュラスの変化を阻止する。
【0008】
その安定剤は、前記シリコーンヒドロゲルコポリマーと、イオン複合体または水素結合複合体を形成できる。
【0009】
一例を挙げると、前記シリコーンヒドロゲルコポリマーがアニオンであり、そして前記安定剤は、カチオン電荷を有し、カチオン剤や双性イオン剤である。
【0010】
一例を挙げると、前記シリコーンヒドロゲルコポリマーがカチオンであり、そして前記安定剤は、アニオン電荷を有し、アニオン剤や双性イオン剤である。
【0011】
一例を挙げると、前記安定剤は、前記コポリマーのアニオン基と複合するアミンである。前記安定剤および/またはコポリマーのアミン部分は、第四級化アンモニウムでもよい。
【0012】
一例を挙げると、前記安定剤は、前記コポリマーの水素結合受容基と水素結合する基を有している。
【0013】
好ましい実施態様によれば、前記溶液とコンタクトレンズが入っている容器の上のリップストックを閉じ、次いでその密閉された容器内で、コンタクトレンズと溶液は、例えばオートクレーブ処理で滅菌される。
【0014】
また、本発明は、溶液とシリコーンヒドロゲルコポリマー製コンタクトレンズが入っている、コンタクトレンズパッケージの容器を密封し、次いで前記パッケージ中のコンタクトレンズを長時間貯蔵して、前記安定剤が、シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性が貯蔵中、変化するのを阻止するステップを含む方法も提供するものである。
【0015】
本発明は、安定剤を含有する滅菌溶液中に浸漬されたシリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズを、密閉パッケージ内に貯蔵し、その安定剤は、シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性が、貯蔵中、変化するのを阻止するステップを含むシリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズの加水分解作用に対する安定度を改善する方法を提供するものである。
【0016】
本発明は、シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性が、貯蔵中、変化するのを阻止する安定剤を含有する溶液中に浸漬されたシリコーンヒドロゲルコポリマー製コンタクトレンズを、密閉パッケージ内に貯蔵するステップを含む、密閉パッケージに入れたシリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズの貯蔵寿命を延長する方法を提供するものである。
【0017】
本発明には、シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性が、貯蔵中、変化するのを阻止する安定剤を含有する溶液中に浸漬されたシリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズを、密閉パッケージ内に貯蔵するステップを含む、シリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズに少なくとも2年、より好ましくは少なくとも3年の貯蔵寿命を付与する方法が含まれている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、シリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズを包装するのに有用である。ヒドロゲルは、水を平衡状態で含有する、水和された架橋ポリマー系で構成されている。したがって、ヒドロゲルは、親水性モノマーから製造されるコポリマーである。シリコーンヒドロゲルの場合、そのヒドロゲルコポリマーは、一般に、少なくとも一種のレンズ形成性シリコーン含有モノマーおよび少なくとも一種のレンズ形成性親水性モノマーを含む混合物を重合させることによって製造される。前記シリコーン含有モノマーまたは前記親水性モノマーは、架橋剤として働くことができ(架橋剤は多数の重合性官能基を有するモノマーと定義されている)、または別の架橋剤を、ヒドロゲルコポリマーが形成される初期のモノマー混合物に採用できる(用語「モノマー」もしくは「モノマーの」および類似の用語は、本明細書で使用する場合、「プレポリマー」、「マクロモノマー」および類縁用語で呼称される高分子量化合物のみならず、遊離ラジカル重合反応で重合可能な分子量の比較的低い化合物も意味する)。シリコーンヒドロゲルは、一般に、含水率が約10-約80質量%である。シリコーンヒドロゲルコポリマーがシリコーン含有架橋剤から製造される場合、初期のモノマー混合物はさらに、単官能シリコーン含有モノマーを含有していてもよい。
【0019】
有用なレンズ形成性の親水性モノマーの例としては、アミド類、例えばN,N-ジメチルアクリルアミドおよびN,N-ジメチルメタクリルアミド;環式ラクタム類、例えばN-ビニル-2-ピロリドン;(メタ)アクリレーテッドアルコール類、例えばメタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチルおよびメタクリル酸グリセリル;(メタ)アクリレーテッドポリエチレングリコール類;(メタ)アクリル酸類、例えばメタクリル酸とアクリル酸;ならびにアズラクトン含有モノマー類、例えば2-イソプロペニル-4,4-ジメチル-2-オキサゾリン-5-オンおよび2-ビニル-4,4-ジメチル-2-オキサゾリン-5-オンがある。なお、用語「(メタ)」は、本明細書で使用する場合、随意選択的なメチル置換体を意味する。したがって、用語「(メタ)アクリレート)」はメタクリレートまたはアクリレートを意味し、および用語「(メタ)アクリル酸」はメタクリル酸またはアクリル酸を意味する。さらに別の例は、米国特許第5,070,215号に開示されている親水性のビニル炭酸(vinyl carbonate)またはビニルカルバミン酸(vinyl carbamate)のモノマー、および米国特許第4,910,277号に開示されている親水性オキサゾロンのモノマーである。なお、これら特許の開示事項は本明細書に援用するものである。その外の適切な親水性モノマーは当業者には分かるであろう。
【0020】
シリコーンヒドロゲルを製造する際に使用する利用可能なシリコーン含有モノマーの材料は、当該技術分野でよく知られており、多数の例が、米国特許第4,136,250号、同第4,153,641号、同第4,740,533号、同第5,034,461号、同第5,070,215号、同第5,260,000号、同第5,310,779号および同第5,358,995号に提供されている。
【0021】
利用可能なシリコーン含有モノマーとしては、嵩高のポリシロキサニルアルキル(メタ)アクリルモノマーがある。かような一官能価で嵩高のポリシロキサニルアルキル(メタ)アクリルモノマーの例は、下記式I:
【0022】
【化1】

[式中、Xは-O-または-NR-を表し、
各R_(1)は、独立して水素またはメチルを表し、
各R_(2)は、独立して低級アルキル基、フェニル基または下記式:
【0023】
【化2】

(式中、R_(2)’は、独立して低級アルキル基またはフェニル基を表し、およびhは1-10である)で表される基を示す]で表される。一つの好ましい嵩高モノマーは、3-メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランまたはトリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレートである。
【0024】
別のクラスの代表的なシリコーン含有モノマーとしては、シリコーン含有の炭酸ビニルまたはカルバミン酸ビニルのモノマー、例えば、1,3-ビス[(4-ビニルオキシカルボニルオキシ)ブト-1-イル]テトラメチルジシロキサン;1,3-ビス[(4-ビニルオキシカルボニルオキシ)ブト-1-イル]ポリジメチルシロキサン;3-(トリメチルシリル)プロピルビニルカルボネート;3-(ビニルオキシカルボニルチオ)プロピル-[トリス(トリメチルシロキシ)シラン];3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルビニルカルバメート;3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルアリルカルバメート;3-[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルビニルカルボネート;t-ブチルジメチルシロキシエチルビニルカルボネート;トリメチルシリルエチルビニルカルボネート;およびトリメチルシリルメチルビニルカルボネートがある。
【0025】
シリコーンを含有するビニルカルボネートまたはビニルカルバメートのモノマーの例は、下記式II:
【0026】
【化3】

(式中、Y’は-O-、-S-または-NH-を表し、
R^(Si)はシリコーン含有有機基を表し、
R_(3)は水素またはメチルを表し、
dは1、2、3または4であり、およびqは0または1である)で表される。
【0027】
適切なシリコーン含有有機基R^(Si)としては、下記諸式:
【0028】
【化4】

[上記諸式中、R_(4)は下記式:
【0029】
【化5】

(式中、p’は1-6である)で表され、
R_(5)は、1-6個の炭素原子を含有するアルキル基またはフルオロアルキル基を表し、
eは1-200であり、n’は1、2、3または4であり、およびm’は0、1、2、3、4または5である]で表される基がある。
【0030】
式IIに含まれる特定の種の例は、下記式III:
【0031】
【化6】

で表される。
【0032】
別のクラスのシリコーン含有モノマーとしては、ポリウレタン-ポリシロキサンのマクロモノマー(時には、プレポリマーと呼称される)があり、これは伝統的なウレタンエラストマーと同様に、ハード-ソフト-ハードのブロックを有していてもよい。シリコーンウレタンモノマーの例は、下記式IVおよびV:
【0033】
【化7】

[上記式中、Dは、6-30個の炭素原子を有するアルキルジラジカル、アルキルシクロアルキルジラジカル、シクロアルキルジラジカル、アリールジラジカルまたはアルキルアリールジラジカルを表し、
Gは、1-40個の炭素原子を有するアルキルジラジカル、シクロアルキルジラジカル、アルキルシクロアルキルジラジカル、アリールジラジカルまたはアルキルアリールジラジカルを表しかつその主鎖中にエーテル結合、チオ結合またはアミン結合を含んでいてもよい、
*はウレタン結合またはウレイド結合を表し、
aは少なくとも1であり、
Aは下記式VI:
【0034】
【化8】

{上記式中、各R_(S)は、独立して1-10個の炭素原子を有しかつ炭素原子間にエーテル結合を有していてもよいアルキル基もしくはフルオロ置換アルキル基を表し、
m’は少なくとも1であり、および
pは、400-10,000の部分質量を示す数値であり、
EとE’は、各々独立して下記式VII:
【0035】
【化9】

(上記式中、R_(6)は、水素またはメチルであり、
R_(7)は、水素、1-6個の炭素原子を有するアルキルラジカルまたは-CO-Y-R_(9)基(式中Yは-O-、-S-または-NH-である)であり、
R_(8)は、1-10個の炭素原子を有する二価のアルキレン基であり、
R_(9)は、1-12個の炭素原子を有するアルキル基であり、
Xは、-CO-または-OCO-を表し、
Zは、-O-または-NH-を表し、
Arは6-30個の炭素原子を有する芳香族基を表し、
wは0-6であり、xは0または1であり、yは0または1であり、およびzは0または1である)で表される重合性不飽和有機基を表す}で表される二価のポリマー基を表す]で表される。
【0036】
シリコーン含有ウレタンモノマーのより具体的な例は、下記式(VIII):
【0037】
【化10】

(上記式中、mは少なくとも1でありそして好ましくは3または4であり;aは少なくとも1でありそして好ましくは1であり;pは、部分質量400-10,000を提供しそして好ましくは少なくとも30である数値であり;R_(10)は、イソシアネート基を除いた後のジイソシアネートのジラジカル、例えばイソホロンジイソシアネートのジラジカルであり;および各E”は下記式:
【0038】
【化11】

で表される基である)で表される。
【0039】
代表的なシリコーンヒドロゲル材料は、共重合されてヒドロゲルのコポリマー材料を形成する初期モノマー混合物に対して、5-50質量%、好ましくは10-25質量%の一種もしくは二種以上のシリコーンマクロモノマー;5-75質量%、好ましくは30-60質量%の一種もしくは二種以上のポリシロキサニルアルキル(メタ)クリルモノマー;および10-50質量%、好ましくは20-40質量%の親水性モノマーを含有している。一般に、前記シリコーンマクロモノマーは、その分子の二つ以上の末端を、不飽和基でキャップされたポリオルガノシロキサンである。上記構造式中の末端基に加えて、Deichertらの米国特許第4,153,641号は、アクリルオキシまたはメタクリルオキシを含む追加の不飽和基を開示している。例えば、Laiの米国特許第5,512,205号、同第5,449,729号および同第5,310,779号に教示されているフマレート含有材料も、本発明の有用な基質である。好ましくは、前記シランマクロモノマーは、シリコーン含有のビニルカルボネートもしくはビニルカルバメート、または一つ以上のハード-ソフト-ハード-ブロックを有しかつ親水性モノマーで末端をキャップされたポリウレタン-ポリシロキサンである。
【0040】
本発明に有用なコンタクトレンズ材料の具体例は、米国特許第6.891,010号(Kunzlerら)、同第5,908,906号(Kunzlerら)、同第5,714,557号(Kunzlerら)、同第5,710,302号(Kunzlerら)、同第5,708,094号(Laiら)、同第5,616,757号(Bamburyら)、同第5,610,252号(Bamburyら)、同第5,512,205号(Lai)、同第5,449,729号(Lai)、同第5,387,662号(Kunzlerら)、同第5,310,779号(Lai)および同第5,260,000号(Nanduら)に教示されている。なおこれら特許の開示事項は本明細書に援用するものである。
【0041】
利用可能なカチオンのシリコーン含有モノマー単位の代表例としては、下記式IX
【0042】
【化12】

で表されるカチオンモノマーがあり、なお上記式中の各符号は以下のように定義される。
【0043】
各Lは、独立して、ウレタン基、カルボネート基、カルバメート基、カルボキシル基、ウレイド基、スルホニル基、直鎖もしくは分枝鎖のC_(1)-C_(30)アルキル基、直鎖もしくは分枝鎖のC_(1)-C_(30)フルオロアルキル基、エステル含有基、エーテル含有基、ポリエーテル含有基、ウレイド基、アミド基、アミン基、置換もしくは未置換のC_(1)-C_(30)アルコキシ基、置換もしくは未置換のC_(3)-C_(30)シクロアルキル基、置換もしくは未置換のC_(3)-C_(30)シクロアルキルアルキル基、置換もしくは未置換のC_(3)-C_(30)シクロアルケニル基、置換もしくは未置換のC_(5)-C_(30)アリール基、置換もしくは未置換のC_(5)-C_(30)アリールアルキル基、置換もしくは未置換のC_(5)-C_(30)ヘテロアリール基、置換もしくは未置換のC_(3)-C_(30)ヘテロ環式リング、置換もしくは未置換のC_(4)-C_(30)ヘテロシクロールアルキル基、置換もしくは未置換のC_(6)-C_(30)ヘテロアリールアルキル基、C_(5)-C_(30)フルオロアリール基、またはヒドロキシル置換アルキルエーテルおよびその組合せでよい。
【0044】
X^(-)は、少なくとも一電荷の対イオンである。一電荷の対イオンの例としては、Cl^(-)、Br^(-)、I^(-)、CF_(3)CO_(2)^(-)、CH_(3)CO_(2)^(-)、HCO_(3)^(-)、CH_(3)SO_(4)^(-)、p-トルエンスルホネート、HSO_(4)^(-)、H_(2)PO_(4)^(-)、NO_(3)^(-)およびCH_(3)CH(OH)CO_(2)^(-)からなる群がある。二重電荷の対イオンの例としては、SO_(4)^(2-)、CO_(3)^(2)-およびHPO_(4)^(2)-がある。その外の荷電対イオンは、当業者には明らかであろう。対イオンの残留量は水和された生成物中に存在すると解すべきである。したがって、有毒な対イオンは使用してはならない。同様に、単一電荷の対イオンの場合、対イオンと第四級シロキサニルの比率は1:1であると解すべきである。対イオンの負の電荷が大きくなると、対イオンの全電荷に対する比率が変化する。
【0045】
R_(1)とR_(2)は各々、独立して、水素、直鎖もしくは分枝鎖のC_(1)-C_(30)アルキル基、直鎖もしくは分枝鎖のC_(1)-C_(30)フルオロアルキル基、C_(1)-C_(20)エステル基、エーテル含有基、ポリエーテル含有基、ウレイド基、アミド基、アミン基、置換もしくは未置換のC_(1)-C_(30)アルコキシ基、置換もしくは未置換のC_(3)-C_(30)シクロアルキル基、置換もしくは未置換のC_(3)-C_(30)シクロアルキルアルキル基、置換もしくは未置換のC_(3)-C_(30)シクロアルケニル基、置換もしくは未置換のC_(5)-C_(30)アリール基、置換もしくは未置換のC_(5)-C_(30)アリールアルキル基、置換もしくは未置換のC_(5)-C_(30)ヘテロアリール基、置換もしくは未置換のC_(3)-C_(30)ヘテロ環式リング、置換もしくは未置換のC_(4)-C_(30)ヘテロシクロールアルキル基、置換もしくは未置換のC_(6)-C_(30)ヘテロアリールアルキル基、フッ素基、C_(5)-C_(30)フルオロアリール基、またはヒドロキシル基であり、およびVは独立して、重合性エチレン系不飽和有機ラジカルである。
【0046】
式IXで表されるモノマーには、下記式X
【0047】
【化13】

(式中、各R_(1)は同じであって-OSi(CH_(3))_(3)であり、R_(2)はメチルであり、L_(1)はアルキルアミドであり、L_(2)は、重合性ビニル基に結合している、2個もしくは3個の炭素原子を有するアルキルアミドもしくはアルキルエステルであり、R_(3)はメチルであり、R_(4)はHであり、およびX^(-)はBr^(-)もしくはCl^(-)である)で表されるモノマーが含まれている。
【0048】
別の構造体は下記構造式XI-XV:
【0049】
【化14】

を有している。
【0050】
先に開示したカチオンのシリコーン含有モノマーの合成方法の模式図を以下に示す。
【0051】
【化15】

【0052】
本発明で使用する、利用可能なカチオンのシリコーン含有モノマー単位の別のクラスの例としては、式XVI:
【0053】
【化16】

(上記式中、各Lは、同じでも異なっていてもよく、式IXにおいてLについて先に定義したのと同じであり;X-は、式IにおいてX-について先に定義したのと同じ少なくとも一電荷の対イオンであり;R_(5)、R_(6)、R_(7)、R_(8)、R_(9)、R_(10)、R_(11)およびR_(12)は、各々独立して、式IにおいてR_(1)について先に定義したのと同じであり;Vは、独立して、重合性エチレン系不飽和有機ラジカルであり;およびnは1-約300の整数である)で表されるカチオンモノマーがある。
【0054】
式XVIで表されるモノマーとしては、下記諸式XVII-XXI:
【0055】
【化17】

【0056】
【化18】

で表されるモノマーがある。
【0057】
式XVIで表されるカチオンのシリコーン含有モノマーの合成方法の模式図を以下に示す。
【0058】
【化19】

【化20】

【0059】
式XIXで表されるカチオンのシリコーン含有モノマーの合成方法の模式図を以下に示す。
【0060】
【化21】

【0061】
本発明で使用する、利用可能なカチオンのシリコーン含有モノマー単位の別のクラスの例としては、式XXII:
【0062】
【化22】

(式中、xは0-1000であり;yは1-300であり;各Lは、同じでも異なっていてもよく、式IにおいてLについて先に定義したのと同じであり;X^(-)は、式IにおいてX^(-)について先に定義したのと同じ少なくとも一電荷の対イオンであり;R_(1)、R_(13)およびR_(14)は、各々独立して、式IにおいてR_(1)について先に定義したのと同じであり、およびAは重合性ビニル部分である)で表されるカチオンモノマーがある。
【0063】
式XXIIで表される好ましいカチオンランダムコポリマーは、下記式XXIII
【0064】
【化23】

(式中、xは0-1000であり、およびyは1-300である)に示してある。
【0065】
式XXIIおよびXXIIIで表されるカチオンシリコーン含有ランダムコポリマーを製造する合成方法の模式図を以下に示す。
【0066】
【化24】

【0067】
本発明で使用する利用可能なカチオン材料の別のクラスの例としては、式XXIV
【0068】
【化25】

[式中、xは0-1000であり、yは1-300であり、R_(15)とR_(16)は同じまたは異なっていてもよくかつ式IにおいてR_(1)について先に定義したのと同じ基でもよく、ならびにR_(17)は、独立して、下記式:XXVとXXVI
【0069】
【化26】

(上記式中、Lは同じでも異なっていてもよくかつ式IにおいてLについて先に定義したのと同じであり;X-は、式IにおいてX-について先に定義したのと同じ少なくとも一電荷の対イオンであり;R_(18)は、同じでも異なっていてもよくかつ式IにおいてR_(1)について先に定義したのと同じ基でもよく;およびR_(19)は独立して水素またはメチルである)の一つ以上である]で表されるカチオンランダムコポリマーがある。
【0070】
カチオンシリコーン含有ランダムコポリマー、例えば本明細書に開示されている重合性カチオン側基を有するポリジメチルシロキサンを製造する合成方法の模式図を以下に示す。
【0071】
【化27】

【化28】

【0072】
カチオン側基および重合性カチオン側基を有するポリジメチルシロキサンを製造する別の合成模式図を以下に示す。
【0073】
【化29】

【0074】
重合性側基およびカチオン側基を有するポリジメチルシロキサンを製造するさらに別の合成模式図を以下に示す。
【0075】
【化30】

【0076】
シリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズは、コンタクトレンズと滅菌包装溶液を保持する容器部分を有するコンテナー内に包装される。そのコンテナーの例は、通常のコンタクトレンズブリスターパッケージである。その溶液中に浸漬されているコンタクトレンズの入っているこの容器は、例えば、その容器を覆うパッケージのリッドストックを密閉することによって密封される。例えば、前記リッドストックは、前記容器の周囲を密閉する。
【0077】
前記溶液およびコンタクトレンズは、パッケージの容器内に密封されている間に滅菌される。滅菌技術の例としては、前記容器とコンタクトレンズに、熱エネルギー、マイクロ波、γ線または紫外線を掛ける方法がある。具体例としては、前記溶液とコンタクトレンズを、パッケージコンテナー中に密封しながら、少なくとも100℃の温度に、より好ましくは少なくとも120℃に、例えば、オートクレーブ処理によって加熱する方法がある。
【0078】
本発明は、シリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズが、そのパッケージ内に貯蔵中、シリコーンヒドロゲル製でない通常のレンズより、その物理的特性が変化する傾向が大きいという問題点を認識した。シリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズの重要な物理的特性としては、機械的特性、例えばモジュラスおよび引裂き強さ;含水率;酸素透過係数;および表面特性、特にレンズが表面コーティングを有しているときの表面特性がある。その上に、本発明は、機械的特性の変化によって、さらに、レンズの寸法、例えばレンズの直径に望ましくない変化を生ずることがあることを認識した。
【0079】
一例として、シリコーンヒドロゲル製コンタクトレンズは、時間の経過とともに架橋密度が変化する傾向が大きい。これは、機械的特性、特にモジュラスを変化させて、包装されているレンズの貯蔵寿命を、所望の貯蔵寿命より短くすることがある。
【0080】
物理的特性の変化による問題は、イオンのレンズ形成性モノマーを含有するシリコーンヒドロゲルコポリマーの場合一層一般的である。アニオンのレンズ形成性モノマーの例は、酸類であり、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、スチレンカルボン酸およびN-ビニロキシカルボニル-β-アラニンなどのカルボン酸含有モノマーがある。カチオンのレンズ形成性モノマーの例は第四級アンモニウム含有モノマーである。双性イオンのレンズ形成性モノマーの例は、アニオン部分とカチオン部分の両者を含有するモノマーである。イオン官能基、特にカルボキシル基を含有するものは、時間の経過とともにシリコーン含有部分を部分的に加水分解する性質を有し、その結果、シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性を変化させると考えられる。イオンモノマーを含むシリコーンヒドロゲルコポリマーは、加水分解されやすいが、かようなイオンモノマーを欠くシリコーンヒドロゲルコポリマーでさえ、包装されて長期間貯蔵されると、特にシリコーン含有架橋剤を含有するシリコーンヒドロゲルコポリマーは、やはり加水分解されて物理的特性が変化することがある。
【0081】
レンズ形成性イオンモノマーを含有するシリコーンヒドロゲルコポリマーの場合、一クラスの安定剤としては、そのヒドロゲルコポリマーとイオン複合体を形成する安定剤がある。
【0082】
したがって、レンズ形成性アニオンモノマーを含有するシリコーンヒドロゲルコポリマーに対する安定剤としては、そのレンズ形成性アニオンモノマーとイオン複合体を形成するカチオン剤および双性イオン剤を含むカチオン電荷を有する安定剤がある。かようなカチオン安定剤の例としては、第四級アンモニウム含有材料、例えば、第四級アンモニウム置換基を含有するカチオンセルロース、カチオングア(cation guar)およびキトサン誘導体がある。
【0083】
レンズ形成性カチオンモノマーを含有するシリコーンヒドロゲルコポリマーに対する安定剤としては、そのレンズ形成性カチオンモノマーとイオン複合体を形成するアニオン剤および双性イオン剤を含むアニオン電荷を有する安定剤がある。かようなアニオン安定剤の例としては、(メタ)クリル酸、イタコン酸、リン酸ヒドロキシアルキルおよびエチレンジアミン四酢酸のポリマーがある。双性イオン剤の例としては、ジグリシンおよび3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)がある。
【0084】
レンズ形成性双性イオンモノマーを含有するシリコーンヒドロゲルコポリマーに対する安定剤は、カチオン電荷剤とアニオン電荷剤の混合物でもよい。
【0085】
一クラスの適切な安定剤としては、アミン含有剤、特にポリマーでないアミン含有剤、例えば、アミノ炭化水素類;アミノアルコール類、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン(Tris)、ビス-Trisおよびビス-Trisプロパン;N-モルホリノ含有剤類とアミノ酸類およびその誘導体がある。これらの薬剤は、各種のシリコーンヒドロゲルコポリマー特に酸含有モノマーなどのレンズ形成性アニオンモノマーを含有するコポリマーと複合体を形成し、かつそのコポリマーを安定化しまたはその加水分解を阻止するのに有効である。
【0086】
本発明のシリコーンヒドロゲルコポリマーは、安定剤とシリコーンヒドロゲルコポリマーとの水素結合による安定化などの、イオン複合体の形成以外の機構で安定化することができる。一例として、シリコーンヒドロゲルコポリマーのイオン基と水素結合複合体を形成する安定剤としては、ポリビニルピロリジノン類;ポリエチレングリコール類;ポリビニルアルコール類;ポリプロピレングリコール類;糖類(多糖類および非イオンのセルロースとグアル類を含む);多価アルコール類、例えばプロピレングリコールおよびグリセリン;ならびにエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーがある。
【0087】
別の例として、イオンとして電荷を有していないシリコーンヒドロゲルコポリマーは、各種イオン安定剤によって安定化することができる。例えば、ポリビニルピロリジノン;ポリエチレンオキシドまたはポリビニルアルコールを、特にその表面に含有しているシリコーンヒドロゲルコポリマーは、アクリル酸のポリマーなどのアニオン剤で安定化できる。例えば、結合されているかまたは閉じ込められているポリN-ビニル-2-ピロリドンを含有するレンズ表面は、(メタ)アクリル酸のポリマーと水素結合した複合体を形成できる。
【0088】
包装されて貯蔵されている間、シリコーンヒドロゲルコポリマーの物理的特性が変化するのを阻止するのに有効な量の安定剤が含有されている。好ましくは、安定剤は、室温(25℃)で貯蔵する場合、シリコーンヒドロゲルコポリマーのモジュラスの変化を阻止して、その変化を、少なくとも1年間、より好ましくは少なくとも2年間および最も好ましくは少なくとも3年間、ただ25%までにするのに有効である。安定剤は、前記期間にわたって室温で貯蔵する場合、含水量の変化を阻止して、その変化を、好ましくは1質量%未満まで、より好ましくは0.5質量%未満までにするのに有効である。安定剤は、前記期間にわたって室温で貯蔵する場合、レンズ直径の変化を阻止して、その変化を、好ましくは0.1μm未満までに、より好ましくは0.05μm未満までにするのに有効である。
【0089】
シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズの安定度は,その溶液とパッケージ内に貯蔵されたシリコーンヒドロゲルレンズの貯蔵寿命を試験する、当該技術分野で公知の方法を利用して試験できる。かような試験の一方法は、「実時間」ベースの方法であり、1ロットまたは2ロット以上のコンタクトレンズを、各種の時間間隔で試験される幾つかのレンズとともに室温で貯蔵する方法である。これらレンズが、試験される時間間隔でその物理的特性を維持している場合、そのレンズは、その時間間隔で、望ましい安定度を有している。このような試験の別の方法は、貯蔵寿命の加速試験に関するFDA(米国食品医薬品局)のガイドラインによる「加速」ベースの方法である。第一例として、複数ロットのコンタクトレンズを45℃で貯蔵し、その幾つかのレンズを各種の時間間隔で試験する。この場合、推定される安定な期間はその試験期間の4倍に相当する。第二例として、複数ロットのコンタクトレンズを60℃で貯蔵し、その幾つかのレンズを各種の時間間隔で試験する。この場合、推定される安定度はその試験期間の11.3倍に相当する。したがって、レンズが3年間安定であるかどうかを確認するための、この加速試験法での試験期間は97日であり、そしてレンズが1年間安全であるかどうかを確認するための、この加速試験法での試験期間は33日である。これらの試験は、一般に、相対湿度45%で実施する。
【0090】
その包装溶液は、好ましくは、包装溶液の全重量に対して0.02-5.0質量%の量の安定剤を含有する水溶液である。安定剤のこの特定量は、その安定剤およびコポリマーによって変化するが、一般に、安定剤は、この範囲内の量で存在している。
【0091】
包装溶液は、pHが好ましくは約6.0-8.0であり、より好ましくは約6.5-7.8であり、そして最も好ましくは6.7-7.7である。適切な緩衝剤としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、Tris)、Bis-Tris、Bis-Tris Propane、ホウ酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、重炭酸塩、アミノ酸類およびこれらの混合物がある。緩衝剤の具体例としては、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸、Bis-Tris、Bis-Tris Propaneおよび重炭酸ナトリウムがある。緩衝剤は、存在している場合、一般に、約0.05-2.5質量%の範囲内の量で、および好ましくは0.1-1.5質量%の範囲内の量で使用される。安定剤のいくつかは緩衝剤として働き、そして必要に応じて、補助緩衝剤を利用できる。安定化は、併記した実施例で例証したように、pHによって左右されることが分かったのである。
【0092】
包装溶液は、浸透圧質量モル濃度が約200-400mOsm/kg、より好ましくは約250-350mOms/kgである等張溶液または近等張溶液を提供するため、張性調節剤を、随意選択的に、緩衝剤の形で、さらに含んでいてもよい。適切な張性調節剤の例としては、塩化ナトリウムと塩化カリウム、デキストロース、グリセリン、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムがある。これら薬剤は、存在している場合、一般に約0.01-2.5質量%の範囲内の量で、および好ましくは約0.2-約1.5質量%の範囲内の量で使用される。
【0093】
包装溶液は、随意選択的に、抗菌剤を含有していてもよいが、かような薬剤は含有していない方がよい。
【実施例】
【0094】
以下の諸実施例は本発明の好ましい各種実施態様を例示する。
【0095】
以下の成分:M_(2)D_(39)すなわち式XIX(式中、nは約39である)で表されるモノマー;N-ビニル-2-ピロリドン(NVP);トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート(Tris);2-ヒドロキシエチルメタクリレート(Hema);希釈剤のプロピレングリコール;UVブロッカーの2-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-イル)-4-ヒドロキシフェニル)エチルメタクリレート;Vaso-64開始剤;および着色剤の1,4-ビス[4-(2-メタクリルオキシエチル)フェニルアミノ]アントラキノンを混合することによって、モノマー混合物を調製した。その混合物を、ポリプロピレン製の2パート型に注入した。なおこの型は、コンタクトレンズの裏面を形成する裏面半型とコンタクトレンズの前面を形成する前面半型からなっている。その混合物を、前記型に入れたまま熱で硬化させた。生成したコンタクトレンズを型から取り出し、抽出し次いで水和した。
【0096】
表1に列挙した緩衝剤を調製した。そのホウ酸緩衝剤はホウ酸とホウ酸ナトリウムを含有し、これら成分の比率は所望のpH値が得られるように調節した。そのリン酸緩衝剤は一塩基性リン酸ナトリウムと二塩基性リン酸ナトリウムを含有し、これら成分の比率は所望のpH値が得られるように調節した。そのクエン酸緩衝剤はクエン酸ナトリウムを含有し、所望のpH値を得るために必要なHClを添加した。そのTrizma緩衝剤はTrizma(トロメタミン)を含有し、所望のpH値を得るために必要なHClを添加した。そのMOPS緩衝剤は3-(モルホリノ)プロパンスルホン酸を含有し、所望のpH値を得るために必要なNaOHを添加した。そのジグリシン緩衝剤はジグリシンを含有し、所望のpH値を得るために必要なNaOHを添加した。
【0097】
【表1】

【0098】
対照として、実施例1のコンタクトレンズの含水量(水の質量%)、直径(mm)およびモジュラス(g/mm^(2))を含む各種特性を測定した。実施例1のコンタクトレンズを、コンタクトレンズ用ガラス製バイヤルパッケージ内の、表1に示す各緩衝剤中に浸漬した。そのパッケージをリッドストックで密封し、次いで、121℃で30分間、1サイクルまたは2サイクル(下記表にそれぞれ1Xまたは2Xで示してある)オートクレーブ処理した。試料のコンタクトレンズの特性を、単一もしくは複数のサイクルのオートクレーブ処理の後、再測定した。モジュラスの試験は、ヒドロゲル試料がホウ酸緩衝食塩水中に浸漬されているInstron(Model 4502)測定器を利用するASTM D-1708aに従って実施した。なおフィルム試料の適切な大きさは、ゲージ長22mmおよびゲージ幅4.75mmであり、この試料はさらに、末端が、Instron測定器のクランプで試料を把持するのに適しているドッグボーン(dogbone)形でありかつ厚さが200±50μmである。含水量は、その水和された状態と脱水された状態のヒドロゲルコンタクトレンズの重量を比較することによって測定した。以下の表には、平均値を報告してある。
【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
一回および二回のオートクレーブ処理サイクルを受けたレンズを比較することは、包装溶液をスクリ-ニングするのに有用である。すなわち、一回と二回のオートクレーブ処理サイクルの間に物理的特性が有意な変化を示すレンズをもたらす包装溶液では、長期間にわたって安定であるコンタクトレンズが得られそうにない。表2-4で分かるように、本発明の安定剤を含有していない包装溶液の多くは、その中に包装されたコンタクトレンズの安定度が許容できない安定度であった。
【0103】
各種の溶液とコンタクトレンズを、加速貯蔵寿命ベースで、加速貯蔵寿命試験に関するUSFDAのガイドラインに従って試験した。表1に示す包装溶液中に浸漬したコンタクトレンズを60℃で貯蔵し、幾つかのレンズを各種の時間間隔で試験した。この場合、推定される安定性は、その試験期間の11.3倍に相当する。
【0104】
【表5】

【0105】
【表6】

【0106】
【表7】

【0107】
表5-7に見られるように、本発明の安定剤を含有する包装溶液は、コンタクトレンズを安定化するのに、比較溶液(ホウ酸塩7.2)より有効であった。
【0108】
本発明の各種の好ましい実施態様について述べてきたが、当業者は、前掲の特許請求の範囲に記載された本発明の精神と範囲を逸脱することなく各種の変形、付加および変更を実施できることが分かるであろう。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌溶液に浸漬されたコンタクトレンズが入っている密封容器を含むコンタクトレンズパッケージであって、該コンタクトレンズがシリコーンヒドロゲルコポリマー製でありかつ該溶液が該シリコーンヒドロゲルコポリマーのモジュラス、含水率及び/又はレンズ直径の変化を阻止するのに有効な量の安定剤を含有しているコンタクトレンズパッケージ。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】 (削除)
【請求項6】 (削除)
【請求項7】 (削除)
【請求項8】 (削除)
【請求項9】 (削除)
【請求項10】 (削除)
【請求項11】 (削除)
【請求項12】 (削除)
【請求項13】 (削除)
【請求項14】 (削除)
【請求項15】 (削除)
【請求項16】 (削除)
【請求項17】 (削除)
【請求項18】 (削除)
【請求項19】 (削除)
【請求項20】 (削除)
【請求項21】 (削除)
【請求項22】 (削除)
【請求項23】 (削除)
【請求項24】 (削除)
【請求項25】 (削除)
【請求項26】 (削除)
【請求項27】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-06-18 
結審通知日 2015-06-22 
審決日 2015-07-07 
出願番号 特願2008-545823(P2008-545823)
審決分類 P 1 113・ 537- ZAA (G02C)
P 1 113・ 536- ZAA (G02C)
P 1 113・ 121- ZAA (G02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 邦久  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 大瀧 真理
清水 康司
登録日 2012-12-14 
登録番号 特許第5155182号(P5155182)
発明の名称 レンズを包装する方法  
代理人 佐久間 剛  
代理人 樋口 洋  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  
代理人 森脇 正志  
復代理人 樋口 洋  
代理人 森脇 康博  
代理人 柳田 征史  
代理人 繁 雅裕  

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