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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1309879
審判番号 不服2014-622  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-14 
確定日 2016-02-01 
事件の表示 特願2010-519912「光伝送システム向けレート適応型前方誤り訂正」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月12日国際公開,WO2009/020529,平成22年11月25日国内公表,特表2010-536240〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,2008年7月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年8月6日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成25年9月10日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成26年1月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
その請求項10に係る発明は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項10に記載された次のとおりのものと認める(以下,「本願発明」という。)。
「【請求項10】
光伝送システムを作動させる方法であって,
1以上の光リンクを介して接続されている複数の光トランスポンダ(OT)のうちの少なくとも第1のOTと第2のOTの間の光リンクに関する性能マージンを推定するステップであって,該第1のOT及び該第2のOTがレート適応型前方誤り訂正(FEC)符号を用いて互いに通信するように適合されている,ステップ,及び
前記推定された性能マージンに基づいて前記FEC符号のレートを変更するように前記第1及び第2のOTを構成するステップ
からなる方法。」


2 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-36607号公報(以下,「引用例」という。)には,「光通信システム」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0006】
このGE-PONシステムでは,伝送速度は上り下りとも,1.25Gbpsで一定であり,最小受信レベルは,送受信機のタイプ毎に一律に決められている。最小受信レベルは,たとえば,1000BASE-PX10規格であれば,局側装置OLT,宅側装置ONUともに,-24dBmと規定されている。また,1000BASE-PX20規格であれば,局側装置OLTが-27dBm,宅側装置ONUが-24dBm,と規定されている。そして,誤り訂正符号化方式として,Reed-Solomon(255,239,8)が指定されている。
【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,このGE-PONシステムでは,それぞれの宅側装置ONU毎に,局側装置OLTからの距離や,宅側装置ONUの受信器の感度が違っているなど,伝送条件が違っている。そして,宅側装置ONU毎の伝送条件が違うので,1台の局側装置OLTに収容された全ての宅側装置ONUを,伝送速度が高くするなどの質の高い条件で統一することができなかった。よって,PONシステムでは,限られた条件内の宅側装置ONUに速度を統一させ通信を行うしか方法がなかった。
【0008】
一方,GE-PONシステムの全ての宅側装置ONUに対して,伝送速度を高め,一定の伝送誤り率以下の通信を実現するために,送信側では光送信パワーを増加させ,受信側では最小受信レベルを低下させることが考えられる。このとき,たとえば,より効率の良いレーザダイオードやアバランシェフォトダイオードなどの高価な部材を採用することで,伝送速度を高めることが可能である。しかし,PONシステム全体のコストの増加を招いてしまい,伝送速度を高めるためのコストの増加は,必ずしも全ての加入者の要求とは合致しない。
【0009】
また,局側装置OLTと特定の宅側装置ONUとの間の伝送条件が良好で,光伝送部の性能に余裕がある場合でも,局側装置OLTとこの宅側装置ONUとの間の伝送条件は,PONシステム上の全ての宅側装置ONUに対して一定の誤り訂正符号化率および伝送速度に制限されていた。このように,従来のシステムでは,接続される端末に同一の性能を必要としたため,宅側装置ONU毎に応じたパフォーマンスの柔軟な組み合わせを実現することが困難であった。
【0010】
さらに,経過劣化にともなう機器や伝送路の機能低下に対して,事前に対処する術がなく,保守点検が容易ではなかった。
本発明は,このような背景のもとになされたもので,コストを抑えつつ,局側装置に収容され展開された複数ある宅側装置ONU毎に,良好な通信サービスを行うことができる光通信システムを提供することを主たる目的とする。」(3ページ)

(2)「【0013】
また,前記局側装置の設定手段は,宅側装置に対する上記好適な伝送の仕方を,伝送信号の誤り訂正符号化率または誤り訂正符号化方式の変更によって,伝送誤り率が所定の値以下になるように設定するものでもよい(請求項2)。これにより,局側装置の設定により,伝送信号の誤り訂正符号化率を一律にすることがなくなり,個々の宅側装置に見合う,好適な誤り訂正符号化率を探索することができる。よって,宅側装置は,伝送路に見合う良好な伝送速度で,通信することができる。
(中略)
【0015】
また,前記局側装置の設定手段は,通信状態の監視が繰り返しなされ,監視された通信状態に基づいて,上記好適な伝送の仕方を設定することが好ましい(請求項4)。
この構成によれば,好適な伝送の仕方の設定は,一定時間毎に繰り返し実行されることができる。設定された伝送の仕方が,常に好適であるとは限らない。これは,通信の途中で,接続端末の増加により,また,なんらかの不具合により,所定の伝送信号のビット誤り率を超えることも十分予想されるからである。そこで,局側装置により探索された伝送の仕方による伝送信号のビット誤り率を,一定時間毎に繰り返し監視することで,時々刻々と変化する伝送路の状態に合わせて,宅側装置に好適な伝送の仕方の再設定をすることができる。また,通信サービスを開始してからも,伝送信号のビット誤り率を監視することができるので,光部品などの経過劣化が生じた場合にも,個々の宅側装置への伝送路に対して好適な伝送の仕方を探索することができる。さらに,伝送路に致命的な不具合が発生することにより伝送信号のビット誤り率が所定値を超える場合など,局側装置は検知することができる。これにより,たとえば,光通信システムを監視する人は,保守点検を速やかに実施することができる。」(4ページ)

(3)「【0033】
ところで,光ファイバを使った1Gbpsの仕様であるIEEE802.3ah(IEEE:Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子技術者協会)標準において,GE-PONシステムで使用されるスペクトル幅の仕様を含む,10kmまでの伝送を対象とした1000BASE-PX10規格と,20kmまでの伝送を対象とした1000BASE-PX20規格とが定められている。光ファイバの波長分散によって生じる波形歪みを考慮して,1000BASE-PX20のスペクトル幅は1000BASE-PX10のものより狭く規定されている。そして,IEEE802.3ahでは,伝送信号のビット誤り率BER(Bit Error Rate:以下,単に伝送誤り率という。)は,10^(-12)以下(^は,べき乗数を表す。以下,同じ。)の品質が要求されている。
【0034】
また,局側装置OLT10が収容する宅側装置ONU90毎で,光ファイバの距離が違っていたり,受光器92の受信感度が違っていることで,通信の状態が違っている。
そこで,本発明は,符号化率可変方式や伝送速度可変方式を適用することによって,宅側装置ONU90毎に実質的な通信速度を上げ,良好な通信を行えるようにできる。
以下では,GE-PONシステムにおいて,符号化率可変方式や伝送速度可変方式を適用したときの実施形態を説明する。」(7ページ)

(4)「【0035】
図3は,図2のPONシステム1に,符号化率可変方式を適用するときのフローチャートである。
この実施形態でのPONシステム1では,図2の局側装置OLT10の伝送制御部11と宅側装置ONUの伝送制御部93とは,相互に対応した符号化率可変方式を適用している。
【0036】
まず,宅側装置ONU90の電源投入時に,局側装置OLT10から既知のトレーニング信号が送出される(ステップS1)。このときの初期設定として,効率の良い伝送条件を探索するために,下り回線の通信は符号化率を最高に設定しておく。また,宅側装置ONU90における伝送誤り率の結果を局側装置OLT10に確実に伝送するため,上り回線の通信は符号化率を最低に設定しておく。
【0037】
次に,局側装置OLT10は,宅側装置ONU90での伝送誤り率が所定の値(BER10^(-12))以下であるかどうかを判定する(ステップS2)。伝送誤り率が所定の値を超えていたとき(ステップS2でNo),フローチャートはステップS3へ進む。
次に,局側装置OLT10で設定された符号化率が,局側装置OLT10で設定可能な下限であるかを判別する(ステップS3)。符号化率の設定範囲がまだ下限に達していなければ(ステップS3でNo),下り回線での通信の符号化率を下げて,再度,局側装置OLT10から既知のトレーニング信号を送出する(ステップS4)。そして,フローチャートはステップS2に戻る。
【0038】
一方,ステップS2で,宅側装置ONU90での伝送誤り率が所定の値以下であったとき(ステップS2でYes),この時点での符号化率の設定が好適であると判断されるので,下り回線での符号化率可変方式の伝送条件の探索は一旦終了し,次のステップS6に進む。
また,ステップS3で,所定の伝送誤り率を超えており,かつ,符号化率が設定可能な下限に達しているとき(ステップS3でNo),下り伝送が不可とされる(ステップS5)。
【0039】
次に,最低の符号化率に設定されていた上り回線は,下り回線の符号化率に対応した符号化率に設定される(ステップS6)。あるいは,下り回線と同様の手順によって,好適な符号化率に設定されてもよい。
このように,この符号化率の設定は,通信サービス開始に先だって,宅側装置ONU90の電源投入時に行われる。それに加え,通信サービス提供の間隙を縫って適当な時間間隔で随時,符号化率の設定を行い,通信中の伝送誤り率が所定の値以下かどうかの監視を行う(ステップS7)。もし,通信途中で,所定の伝送誤り率が所定の値を超えたと判断された場合(ステップS7でNo),フローチャートはS1に戻り,再度,好適な符号化率を求める。これにより,局側装置OLT10と宅側装置ONU90との間において,良好な伝送状態を維持することができる。
【0040】
以上のように,誤り訂正符号方式を繰り返し行うことで,局側装置OLT10と特定の宅側装置ONU90との通信状態を監視し,局側装置OLT10は,各宅側装置ONU90にとって,好適な符号化率を設定することができる。
なお,このフローチャートにより探索された符号化率により通信を行うことが好ましいが,より確実な通信を行うために,探索された符号化率をわずかに下げて通信を行ってもよい。これにより,局側装置OLTおよび宅側装置ONU間の通信は,より安定して行うことができる。」(7?8ページ)

(5)「【0047】
以上の実施形態において,このPONシステム1は,通信サービス開始後にも,伝送誤りの発生を監視して,伝送誤り率が所定値を超えたことを検出することができる。また,所定時間が経過したことを検出して,良好な伝送条件を探索しなおすことができる。これにより,光部品などの経時劣化が生じた場合にも,符号化率を落としながら,あるいは,通信速度を落としながら,通信を維持することができる。そして,常時,伝送誤り率を観測することができるので,致命的な劣化を予見し,局側装置OLT10に通知することができ,PONシステム1の保守・点検を容易にすることができる。」(9?10ページ)

上記各記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,
a 上記(1),(3),(5)の記載によれば,引用例にはGE-PONシステムに関する方法が記載されていると認められる。

b 上記(1)の【0009】,上記(2)の【0013】,上記(3)の【0034】,上記(4)の記載及び図3によれば,局側装置OLT及び宅側装置ONUが誤り訂正符号化方式を用いて互いに通信するように適合されていることは明らかである。
そして,上記(4)の【0037】の記載及び図3によれば,宅側装置ONU90での伝送誤り率(BER)が所定の値以下であるかどうかを判定しており,同【0036】の記載によれば宅側装置ONU90における伝送誤り率の結果が局側装置OLT10に伝送されるのであるから,宅側装置ONUでの伝送誤り率(BER)が得られていることは明らかである。そして,上記(1)の【0009】,【0010】の記載を考慮すれば,当該伝送誤り率は局側装置OLT及と特定の宅側装置ONUの間の光伝送路に関するものであることは明らかである。
したがって,引用例には「局側装置OLT及と特定の宅側装置ONUの間の光伝送路に関する宅側装置ONUでの伝送誤り率(BER)を得,ここで,該局側装置OLT及び該宅側装置ONUが誤り訂正符号化方式を用いて互いに通信するように適合されている」ことが記載されていると認められる。

c 上記(2)の【0013】,上記(3)の【0034】,上記(4)の【0036】?【0040】の記載及び図3によれば,下り回線の通信は符号化率を最高に設定しておき,局側装置OLT10は,宅側装置ONU90から伝送された宅側装置ONU90での伝送誤り率が所定の値以下であるかどうかを判定し,所定の値を超えていたときに,符号化率の設定範囲がまだ下限に達していなければ,下り回線での通信の符号化率を下げ,その時点での符号化率の設定が好適であったと判断される伝送誤り率(BER)が所定の値以下のときまで,当該動作が繰り返されるものである。そして,最低の符号化率に設定されていた上り回線は,下り回線の符号化率に対応した符号化率に設定されるものである。そして,設定された符号化率により互いに通信が行われることは明らかである。
したがって,得られた伝送誤り率(BER)に基づいて誤り訂正符号化方式の符号化率を変更するように局側装置OLT及び宅側装置ONUが構成されているといえる。

以上を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「GE-PONシステムに関する方法であって,
局側装置OLT及と特定の宅側装置ONUの間の光伝送路に関する宅側装置ONUでの伝送誤り率(BER)を得,ここで,該局側装置OLT及び該宅側装置ONUが誤り訂正符号化方式を用いて互いに通信するように適合されている,及び
前記得られた伝送誤り率(BER)に基づいて前記誤り訂正符号化方式の符号化率を変更するように前記局側装置OLT及び宅側装置ONUを構成する,方法。」


3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,
(1)引用発明の「GE-PONシステム」(Gigabit Ethernet-Passive Optical Networkシステム)は,光伝送路を介してデータを送受信するシステムであるから,明らかに「光伝送システム」といえる。そして,引用発明の「GE-PONシステムに関する方法」を「光伝送システムを作動させる方法」と称することは任意である。

(2)引用発明の「局側装置OLT」,「宅側装置ONU」は,光ファイバーからなる光伝送路を介してデータを送受信するものであるから,下記の相違点1は別として,「光受信機」である点で本願発明の「光トランスポンダ(OT)」と差異は無く,それぞれを「第1の光送受信機」と「第2の光送受信機」と称することは任意である。
また,引用発明の「光伝送路」は「光リンク」といえ,引用発明の「光伝送路に関する宅側装置ONUでの伝送誤り率(BER)」は「光リンクに関する性能」といえる。
したがって,本願発明の「1以上の光リンクを介して接続されている複数の光トランスポンダ(OT)のうちの少なくとも第1のOTと第2のOTの間の光リンクに関する性能マージンを推定するステップ」と,引用発明の「局側装置OLT及と特定の宅側装置ONUの間の光伝送路に関する宅側装置ONUでの伝送誤り率(BER)を得」とは,下記の相違点2は別として,「第1の光送受信機と第2の光送受信機の間の光リンクに関する性能を得るステップ」といえる点で一致している。

(3)引用発明の「誤り訂正符号化方式」は,Reed-Solomonが例示されており,符号化率が変更されるものであるから,引用発明は「レート適応型前方誤り訂正(FEC)符号を用いて互いに通信する」ものといえる。
したがって,両者は「前記得られた性能に基づいて前記FEC符号のレートを変更するように前記第1及び第2の光送受信機を構成するステップ」を有する点で一致している。

したがって,本願発明と引用発明とを対比すると,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「光伝送システムを作動させる方法であって,
第1の光送受信機と第2の光送受信機の間の光リンクに関する性能を得るステップであって,該第1の光送受信機び該第2の光送受信機がレート適応型前方誤り訂正(FEC)符号を用いて互いに通信するように適合されている,ステップ,及び
前記得られた性能に基づいて前記FEC符号のレートを変更するように前記第1及び第2の光送受信機を構成するステップ
からなる方法。」

(相違点1)
「光伝送システム」に関して,本願発明は,「1以上の光リンクを介して接続されている複数の光トランスポンダ(OT)」からなるものであり,「第1の光送受信機」,「第2の光送受信機」がそれぞれ「第1のOT」,「第2のOT」であるのに対し,引用発明は,「GE-PONシステム」であり,「局側装置OLT」,「宅側装置ONU」である点。

(相違点2)
「性能を得る」に関して,「性能」が,本願発明は「性能マージン」あるのに対し,引用発明は「伝送誤り率」であり,「得る」が,本願発明は「推定する」であるのに対し,引用発明はどのようにして得るのか明らかにしていない点。

以下,上記各相違点についての検討する。
(相違点1について)
引用例の【0010】,【0015】,【0047】(上記2(1),(2),(5)参照。))の記載によれば,引用発明は,誤り訂正符号化方式の符号化率を変更することにより光部品などの経時劣化に対応することをも目的としていることは明らかである。そして,経時劣化は,光ファイバー,送信部,受信部等の経時劣化が考えられ,例えば拒絶査定時に周知例として挙げられた特開平11-230857号公報(【0002】,【0005】,図1参照。)にも示されるように,経年劣化はGE-PONシステム特有のものではなく,種々の光伝送システムにも当てはまるものであることは明らかである。
そして,例えば拒絶査定時に周知例として挙げられた特開2007-81782号公報(要約,【0014】,【0042】,図2?図6参照。),国際調査報告に引用されたY.Xie他,「Enhanced PMD mitigation using forward-error-correction coding and a first-order compensator」,OPTICAL FIBER COMMUNICATION CONFERENCE,vol.3,(2001.1.1),同じく国際調査報告に引用されたP.R.Morkel他,「Implementation of soliton transmission in long-haul submarine communication systems」,(1994.1.1),同じく国際調査報告に引用されたH.D.Kidorf他,「Forward error correction tecniques in long-haul optical transmission systems」,14TH ANNUAL MEETING OF THE IEEE LASERS & ELECTRO-OPTICS SOCIETY,Vol.2,(2001.11.14)にも示されるように,1以上の光リンクを介して接続された複数の光トランスポンダ(OT)の間で適応型前方誤り訂正(FEC)符号を用いて互いに通信する光伝送システムは周知であり,これらの光伝送システムにおいても同様の経時劣化が起こることは明らかである。
してみれば,光伝送システムを「1以上の光リンクを介して接続されている複数の光トランスポンダ(OT)」に限定し,光送受信機を「光トランスポンダ(OT)」に限定することに特段の困難性は見出せず,当業者が適宜なし得ることに過ぎない。

(相違点2について)
本願発明の「性能マージン」は,本件明細書の【0003】の記載によれば,実際の信号品質(Q係数)とシステムがどうにかかろうじて許容できる性能を有すると見なされる閾値Q係数との間のデシベル(dB)での差と定義されるものを含むと認められる。そして,本件特許請求の範囲の請求項2の記載を参酌すれば,本願発明の「光リンクに関する性能マージンを推定し」は,「(i)前記第1及び第2のOTの少なくとも1つに関してビット誤り率(BER)を求め,且つ(ii)前記求められたBERを目標BERと比較して」「推定する」ことを含んでいると解することができる。
一方,引用発明が伝送誤り率(BER)について判定する「所定の値」とは,システムが許容できないBERより大きいものであることは明らかであり,当該「所定の値」はある程度余裕をみて設定されていると解するのが自然である。また,しきい値処理に当たり,マージン(余裕度)をしきい値と比較することも普通に行われていることに過ぎない。そして,例えば国際調査報告に引用されたAlexei N. Pilipettskii 他,「Performance Fluctuation in Submarine WDM Systems」, IEEE,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, VOL.24, NO.11,(2006.11.1)の4208ページ右欄にも示されているように,当該技術分野において,性能の指標としてBERの代わりにQファクターを用いることは普通に行われていることである。
してみれば,引用発明において,BERが所定の値以下であるかどうかを判定することに代えて,BERから計算されるQ係数のマージンを判定するようにすることは,格別困難なことではなく,当業者が容易になし得ることである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得る範囲のものであり,格別なものではない。


4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-04 
結審通知日 2014-11-06 
審決日 2014-11-18 
出願番号 特願2010-519912(P2010-519912)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷岡 佳彦  
特許庁審判長 田中 庸介
特許庁審判官 菅原 道晴
萩原 義則
発明の名称 光伝送システム向けレート適応型前方誤り訂正  
代理人 岡部 讓  
代理人 吉澤 弘司  

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